平成18年新司法試験論文式試験問題出題趣旨 【公法系科目】 〔第1問〕 本問は, 製造たばこの包装容器に警告文の表示を義務付ける立法措置が講じられたことによ って特定販売業者に生じた損害について, その回復のために考えられる二つの訴えを挙げさせ, 各訴えに関する憲法上の主張について, 原告側, 国側, それぞれの立場から論じさせることに より, 憲法上の争点を浮き彫りにさせた上で, 各争点についての解答者の見解と論拠を述べさ せるものである。 本問の出題意図は, 法科大学院で行われている(行われるべき)授業に対応した設問という 点にある。 憲法理論について, 判例と学説の対立の中でそれぞれを正確に理解した上で, 自ら の眼で事例を分析し, 問題点を発見し, それを多面的・複眼的に検討し, 説得力のある理由を 付した一つの結論を導き出すことを求めている。 検討に当たっては, 理論的問題, すなわち憲 法規範の意味の問題と, 事実の問題, すなわち当該事案に関する事実や立法事実をどのように とらえるかという問題があり, 両者を踏まえた考察が必要不可欠である。 もとより, 解答に当 たっては, 分析と検討の道筋や論拠を的確に述べる必要がある。 本問における核心的な問題は, 他者の意見を記載することを強制されること(消極的表現の 自由=強制からの自由), 及び, 商品回収や包装変更の点も含め, その強制が自社の経費負担 の下で義務付けられること(憲法第29条第3項の損失補償における「特別の犠牲」の可能性) に関わる憲法上の問題である。 設問1では, まず, 損害を回復するための訴えとして, 国家賠償法に基づく国家賠償請求と, 憲法第29条第3項に基づく損失補償請求とを挙げることになる。 本問では損害を回復するた めの訴えを尋ねており, 法律関係の確認訴訟は解答として不十分である。 次に, 原告訴訟代理人の主張として, 国家賠償請求に関しては, 本法律の違憲性, 具体的に は, 消極的表現の自由, 営業の自由, 財産権等との関係を論ずることになろう。 また, 損失補 償請求に関しては, 憲法第29条第3項による直接請求の可否, 補償の要否等が問題となろう。 ここでいう消極的表現の自由とは, 他者の意見を記載することを「強制されない自由」であ り, 本法律では警告文の「発信者」名が表示されず, 記載内容が特定販売業者の意見であると 思われる可能性があることから, その制約の是非が問題となる。 消極的表現の自由が, 単なる 「言わない自由」や「沈黙の自由」ではないことを理解した上で論述することが期待される。 なお, 自己のスペースであるにもかかわらず, 包装のデザイン等を自分ですべて決めること ができない点も, 表現の自由の制約として問題となろう。 また, 警告表示義務が実質上販売活動を制約するものであり, また, 実際にたばこの販売に マイナスの影響を与えていることから, 営業の自由の制約の是非が問題となる。 同様に, 本法 律による警告表示義務については, 財産権の制約の観点からもその制約の是非が問題となるし, さらに, 経過措置の定めがない点も, 同様の観点から問題となる。 本法律による規制目的の正当性については原告も争っていないので, 本問においては, 規制 目的と手段の関連性や手段自体の相当性が主たる争点となる。 したがって, 原告側としては, 問題とする権利の根拠・内容や性格を明らかにし, 上記のような権利の制約が問題となること を事実に基づいて的確に述べた上で, 国側からの予想される反論等をも念頭に置きつつ, 自己 の主張を説得的に述べることが期待されている。 他方, 損失補償請求に関しては, 他者の経費でたばこの包装に警告表示をさせること, ある いは, 経過措置を定めなかったことにより包装変更のため流通在庫の回収を余儀なくされたこ とは, 憲法第29条第3項の「公共のために用ひる」に該当し, 正当な補償が与えられなけれ -1- ば同項に違反すると主張することになろう。 設問1と設問2の主張は, 規制を受ける私人と国は対抗的関係にあるから, 対応する主張が なされるべきである。 その際, 憲法違反の主張においては, あらゆる違反の可能性を主張する というよりも, 違憲となる可能性の高い問題は何かを事例に照らして十分に検討した上で, 説 得的に主張することが期待される。 設問2の国側の主張においては, 原告側の主張に反論するための議論を行うことになるが, その場合にも, 単なる理論的な反論だけではなく, 事例に依拠した主張が望まれる。 具体的に は, @健康の危害への警告は国家の任務に属すること, A警告表示は喫煙者に喫煙による健康 被害を明確に認識させるため必要不可欠な措置であること, B医学上の知識を伝えるものであ り, 喫煙自体を禁止するものではないこと, C他の措置(広告の禁止や税率の引上げ等)に比 べて, 警告表示義務はより緩やかな手段であること, などを述べることが想定できよう。 なお, このほか, 国家賠償法の下で請求を退けるための主張をすることも考えられる。 最後に, 設問3では, 以上を踏まえて, 解答者自身の見解を示すことが求められる。 そこで は, 判例に基づく結論を示すことではなく, 多面的・複眼的な検討・考察の上で, 一つの筋の 通った帰結を導くことが必要である。 したがって, 設問3では, 設問1と設問2とは異なる「第 3の道」もあり得る。 〔第2問〕 本問は, 新司法試験の理念に基づき, 第一に, 時間内に問題文と資料から具体的事実関係及 び法令の趣旨を的確に読み取って把握する能力が備わっているか否かを試すことに主眼を置い た。 そして, 第二に, 行政法総論及び行政訴訟に関する知識を踏まえ, 具体の事案に含まれた 法的問題の所在を把握した上で適切な訴訟方法を選択し, 及びそれと結び付いた本案の主張を 整合的に展開することができるか, 第三に, 国家賠償法上の基礎的な知識を踏まえ, 具体の事 案において的確な主張を組み立てる力があるか, を試そうとしたものである。 設問1は, 判例の動向及び行政事件訴訟法の改正を踏まえて, 市長の規則制定行為と, 規則 を前提とした2項道路該当性とについて, 抗告訴訟及び当事者訴訟等の可能性を検討し, また, 各訴訟形態にふさわしい本案の主張の可能性を検討して, それぞれ解答することを求めたもの である。 まず, 訴訟方法に関しては, 2項道路の一括指定について処分性は認められるが, 出訴期間 が経過していること(この点は資料に明示されている。 )を前提として, いかなる形態の抗告訴 訟が考えられるか(一括指定の無効確認訴訟等), 及びセットバック義務不存在確認等の公法 上の当事者訴訟は可能か, などを検討していることが求められる。 次に, 本案の主張に関しては, @規則自体が, 財産権ないし既得の権利を侵害するものでな いか, 建築基準法における2項道路制度の趣旨に照らし同法の委任の範囲を超えるものでない か, 合併後の新規則制定に当たって旧市町それぞれの特殊事情につき公正な考慮が尽くされた か等々の論点が考えられ, 資料の記載を用いながらそれらの違法性の主張を一定程度理由付け ることができているか否かが問われる。 また, A2項道路該当性に関する職員の回答の中で, 独立した二つの通路を一体ととらえて2項道路該当性を判断していること, 及び建築基準法に 規定された「立ち並んでいる」という要件を充足していると判断していることの適否が論点と なることを, 資料から読み取ることができるかが問われる。 以上のほか, 2項道路該当性に関する職員の上記の判断が誤りであるとの本案の主張は, 一 括指定処分の無効確認訴訟においては失当であることに気付いていること, 行政事件訴訟法第 36条の原告適格要件を本件に当てはめることができていることなども含めて, 総合的に評価 される。 なお, 本問は, 問題文に引用された2項道路の処分性に関する最高裁判決そのものについて -2- 詳しく知っていることを, 不可欠のものとして要求する趣旨ではない。 設問2は, 国家賠償法第1条の「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が, その職務 を行うについて, 故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき」という諸要件の意義 を正確にとらえ, それを本問の事案(市長の規則制定行為と, 2項道路該当性についての照会 に対する職員の回答)に具体的に当てはめることを求めたものであり, 上記諸要件の本件への 当てはめがどの程度できているかが, 採点の対象となる。 例えば, 職員による回答行為の「公 権力の行使」該当性, 故意過失・違法性等について, 資料の記載から一定程度具体的に理由付 けることができているかなどは, 評価に差が生ずるポイントとなる。 【民事系科目】 〔第1問〕 本問は, 株式会社(P社)が事業部門の一つを大株主(Q社)に譲渡する場合に, 当該譲渡 が株主総会の特別決議を要する事業譲渡に当たるかどうか, 及び事業譲渡となる場合において, 対価が不相当に少額であると見られるときに, 会社法上どのような問題が生じるかを問うもの である。 具体的には, 主に次の各論点について, 制度の趣旨及び判例・学説の状況を理解した 上で整合的に論じることが求められる。 〔設問1〕では, Q社がスポーツ施設の運営事業を承継するかどうか, 又はP社の競業避止 義務を特約で排除するかどうかがまだ明らかでない段階で, P社における会社法上の手続の進 め方が問われている。 株主総会の特別決議を要する「事業譲渡」(会社法第467条第1項第 2号)の要素として, 一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産の移 転が不可欠であることにほぼ争いはないが, 譲受人による事業活動の承継, 及び譲渡会社によ る競業避止義務の負担を不可欠の要素と解すべきかについては, 判例・学説上争いがある。 事 業譲渡に株主総会決議が要求される趣旨に照らし, 丁寧に検討することが期待される。 本問の譲渡が総会決議を要する事業譲渡に当たる場合には, 更に事業の「重要な一部」(会 社法第467条第1項第2号)の譲渡に当たるかどうかの検討が必要となる。 なお, P社がQ社にスポーツ事業部門を移転する方法としては, 吸収分割の方法も考えられ るが, この方法は株式買取請求権の行使を懸念するQ社の意向に沿わない。 〔設問2〕では, 総会決議を要する事業譲渡が既に行われた段階で(別紙契約書参照), 会 社法上の次のような問題を中心に検討することが求められる。 P社の事業譲渡の相手方である Q社は, 同時にP社の議決権総数の40%を有する大株主であり(特別利害関係人), P社の 株主総会において議決権を行使したと考えられる。 譲渡価額が, Q社との関係の継続等を考え 合わせてもなお, 事業価値・資産価値に照らして著しくP社にとって不利であり, P社の株主 総会決議に取消原因(会社法第831条第1項第3号)があることとなるか。 株主総会決議が 取り消されると決議は遡って無効となるが(会社法第839条・第834条第17号), 株主 総会決議を欠く事業譲渡契約の効力はどう解すべきか。 P社取締役は, P社に対して損害賠償 責任(会社法第423条第1項)を負うか。 なお, 本問の事業譲渡は, Q社取締役Aの利益相反取引となるが(会社法第356条第1項 第2号・第365条), Q社取締役会の承認があり, 問題はない。 〔第2問〕 本問は, 債権譲渡を巡る多少複雑な事例について, 要件事実, 民法を中心とする民事実体法 上の処理の在り方及び民事訴訟法上の幾つかの論点についての事例に則した理解を問う融合問 題である。 事例分析力(法的問題点の発見能力), 論理的思考力, 法の解釈・適用能力, 文章 構成力や表現力等の基本的な能力が備わっているかを試したものであるが, 特に, 本問の事例 の特殊性を考慮しつつ, 当該事例に含まれる法的問題点を自分の頭で論理的かつ合理的に検討 -3- し, それを文章として的確に表現する能力が備わっているかに重点を置いて出題したものであ る。 設問1は, 要件事実論についての理解の程度を試すものであり, これまで議論があまりされ ていない将来債権譲渡担保を巡る要件事実の問題をあえて取り上げることにより, 単なる知識 だけではなく, 証明責任の分配についての基本的理論と民事実体法の理論とを結合させつつ要 件事実を思考する能力を備えているかを試したものである。 したがって, 本問の事例における 将来債権譲渡担保の法的構成をどのように考えたか, また, @からCまでの各事実を請求原因 事実と解したか否かという結論よりも, むしろ, 当該各結論を導いた理由を論理的に分かりや すく精緻に展開しているかを重視している。 設問2の前半は, 共同訴訟人独立の原則と共同訴訟人間の証拠共通の原則について, 共同訴 訟の基本構造に遡って理解しているかを試す問題である。 また, 後半は, 弁論の併合によって 共同訴訟人間の証拠共通の原則が働くと, Zが全く関与せずに実施された証拠調べで得られた 証拠資料が, XZ間の不当利得返還請求訴訟においても使用されることになることから, これ によってZが被る不利益を, その主張との関係において具体的に把握できるかを試すとともに, 民事訴訟法第152条第2項の趣旨及び共同訴訟における上記各原則を踏まえた上で, 弁論主 義及び手続保障という民事訴訟法の基本原則をも考慮しつつ, 上記Zの不利益を解消する方策 を具体的に説明することを求めたものである。 設問3は, 民法, いわゆる動産・債権譲渡特例法及び商法の基本的知識を備えているかと, 本問の事例の特殊性を勘案しつつ, 論理的思考力を答案上で展開することができるかを試した ものである。 本問の事例における将来債権譲渡担保が有効なものであること, XZ間では債権 譲渡登記を先に備えたXが優先すること, しかし, XがBに対して登記事項証明書を交付して する通知を行うことによって債務者対抗要件を具備する前にBがZに対してした弁済は有効な ものであること, Bが商品の瑕疵を理由に行った解除は有効であって, BがZに対してした異 議をとどめない承諾をXが援用して解除の効果を否定することはできないことを正確に説明す ることをまず求めている。 その上で, Xが譲渡担保として取得する可能性のある第2回と第3 回の各売買契約に基づく代金債権の保証債務履行請求権の合計額が2700万円であって, X の被担保債権の残元本額2000万円を超えていることを踏まえて, XA間, XY間の関係を どのように解釈すべきか, また, Xが被担保債権の満額を保証人Yに請求し得ることや, Zが 500万円の債権を譲り受けるに当たって450万円の代金を支払っていることを踏まえて, XがZに請求することができる不当利得返還請求の額をどのように解釈すべきか, 当該不当利 得返還請求権と当該保証債務履行請求権との関係をどのように解釈すべきかについて, それぞ れ自説を展開することを求めたものである。 設問4は, 判決の効力についての民事訴訟法の理解を試すものであって, 反射効肯定説と否 定説のそれぞれの見解の根拠と, 口頭弁論終結前に生じた解除事由に基づく口頭弁論終結後の 解除権の行使に関する既判力の時的限界を巡る議論についての各見解の根拠を正確に説明する ことをまず求めている。 その上で, 後者の問題については, XB間の訴訟におけるBの勝訴の 理由のうち, 売買契約の解除はXY間の訴訟の口頭弁論終結後にされたものであり, 当該解除 は買主であるBにしかすることができないものであることを踏まえ, この場合における保証人 の地位についての民法上の解釈をも考慮しつつ, Y側・X側, それぞれの主張の根拠を展開す ることを求めたものである。 【刑事系科目】 〔第1問〕 本問は, 捜査経過及び各被疑者ら事件関係者の供述内容等を素材として, これらの証拠関係 から認定すべき具体的事実に基づき甲乙両名の罪責を問うことにより, 刑事実体法に関する正 -4- 確な知識と理解, 具体的事実への法適用能力及び論理的思考力を試すものである。 まず, 甲乙両名の罪責を検討する上で必要な刑事実体法上の問題点を的確に抽出した上, 各 問題点を解決するに当たって, 問題文に明記されているとおり, 具体的な事実を示して論じる ことが要請される。 一例を挙げると, 甲が丁の左腕をバットで殴打した行為につき, 正当防衛 ないし過剰防衛の成否を論じる際には, 甲は, 自分が寮2階の自室から丙及び丁のいる寮の外 まで降りて行かない限り, 丙及び丁の方から押しかけて来ることはなく, 逆に, 自分が降りて 行けば丙及び丁とけんかになるに違いないと思っていながら, 丙及び丁の態度に怒りを抑える ことができず, あえて降りて行ったこと, その際, 甲は, 丙及び丁が凶器になるような物を持 っている様子はないことを認識しながら, 素手では丙及び丁に負けてしまうと考え, バット及 びカッターナイフを持ち出していること, 甲は, かねてから丙と不仲であり, 丙の親友である 丁ともほとんど口をきかない間柄であった上, 事件直前にも丙とけんかをして顔面を殴られる などしたため, 丙に対し強い憤りを覚えていたという経緯があること, 等の具体的事実を示し た上で, 本件において甲が丙及び丁に対してどのような意思をもって対応したかを論じること が必要である。 また, 甲乙両名の罪責を検討する上で解決が必要となる複数の問題点について, 相互の論理 的な関係を正確に把握し, ある問題点について認定すべき事実関係に基づいて導かれる結論が, 別の問題点の検討の要否にどのように影響するかを意識した, 整合性のある論述が要請される。 一例を挙げると, 甲乙間に丙に対する暴行についての共謀の成立を認めた場合, たとえ丙の死 亡が甲乙いずれのカッターナイフによる切り付け行為によって生じたか不明であっても, 甲に ついては, 自己の行為か乙との共謀による乙の行為のいずれかによって丙を死亡させたと言う ことができるのであるから, 刑法第207条の適用について検討するまでもなく丙の死亡につ いて責任を負うことを, 明確に論じる必要がある。 このように, 本問は, 実務法曹を志す者として必要と考えられる, 具体的事実に基づく分析 と問題点相互の論理的構成について基本的な能力を試すことを中心としたものである。 〔第2問〕 本問は, 捜査・公判に関する具体的事例を素材として, そこに生起する刑事手続上の問題点 を抽出・分析させ, その解決に必要な法解釈と, 法適用にとって重要な具体的事実の分析・評 価や具体的帰結に至る過程を論述させることにより, 刑事訴訟法及び関係法令の解釈に関する 学識とその適用能力及び論理的思考力を試すものである。 設問1では, いわゆる職務質問・所持品検査等の可否, これに伴う有形力行使の限界, 逮捕 に伴う無令状捜索・差押えの可否などについて, 刑事訴訟法等が定める手続・制度の趣旨に関 する正確な理解を踏まえて, その要件解釈と該当事実を検討する必要がある。 設問2では, 刑事証拠法上最も基本的な準則の一つである「伝聞法則」の正確な理解を踏ま えた上で, 本件メモがどのような状況で作成され, その記載にはどのような法的意味があるの かに留意しつつ, 「共謀」を立証するために考えられる要証事実(立証事項)の選定及び要証 事実との関係における伝聞法則の適用の有無などについて検討する必要がある。 なお, 設問1 において本件メモの押収手続を違法と評価する場合には, いわゆる「違法収集証拠排除法則」 適用の当否についても検討が必要である。 いずれの問題点についても, 法解釈論や要件の存否を抽象的に論じるにとどまることなく, 事例中に現れた具体的な事実関係を指摘しつつ, それらの事実関係がどの要件の存否を基礎付 けているのかを的確に論じることが要請されている。 【選択科目】 [倒 産 法] -5- 〔第1問〕 賃貸人につき破産手続が開始された場合の賃貸借契約の帰趨及び賃借人の敷金返還請求権の 回収方法並びに賃貸人につき再生手続が開始された場合の敷金返還請求権の保護の在り方につ いて, それぞれ問うものである。 1.は, 破産管財人の解除権(破産法第53条第1項)の破産法第56条第1項による制限 に言及すべきである。 2.は, 敷金返還請求権を有するBが, 賃借物件の明渡し前にA社の破産管財人に賃料債務 を弁済する際の弁済金の寄託請求の可能性(破産法第70条後段)に言及すべきであり, その 際, 寄託についての法律関係と明渡し後のBの請求の具体的内容とについて明らかにする必要 がある。 3.は, 上記2.の寄託請求を通じて回収できない部分の敷金返還請求権の破産手続におけ る行使方法を問うており, いわゆる打切主義(破産法第198条第2項)を含めた停止条件付 債権である破産債権の行使方法を明らかにする必要がある。 4.は, 賃借人が, 再生手続の開始後に賃料債務を弁済した場合の敷金返還請求権の共益債 権化(民事再生法第92条第3項)及び共益債権の再生手続上の取扱い並びに共益債権化され ない敷金返還請求権の再生債権としての行使方法について言及すべきである。 〔第2問〕 保証行為及び物上保証行為が無償否認の対象になるか否かを問うものである。 設問1では否認を肯定する立場から, 設問2では否認を否定する立場から, それぞれ反対説 の論拠も踏まえて論理的かつ説得的な論述を展開する必要がある。 最判昭和62年7月3日民 集41巻5号1068頁(以下「昭和62年判決」という。 )の反対意見も含めた判旨及びそ れを巡る議論の正確な理解が要求される。 設問1では, 一般的な場面における無償否認の成否が問題となる。 昭和62年判決における 多数意見のような立場に基づき論じることになるが, それに対する相手方の反論として, 同判 決における島谷裁判官の反対意見のような議論を指摘し, 無償否認の趣旨・根拠に遡った形で 論旨を展開する必要がある。 設問2においては, 上記設問1とは異なり, 否認を否定する立場からの論述が求められる。 「CがA社の代表者であるという点を考慮に入れて」論じるものとされているため, いわゆる 同族会社に関する特別の考慮が問題となる。 昭和62年判決の林裁判官の反対意見のような立 場に基づき論じることになるが, それに対する反対論(同判決の多数意見のような見解等)を も踏まえて, 議論を組み立てていく必要がある。 [租 税 法] 第1問, 第2問とも, 法科大学院における租税法の基本的知識の習得を前提として, 具体的 事案に即して, その基礎的な理解を問い, 併せて, 事案を分析し, 主張を整理する力を試すも のである。 〔第1問〕 本問は, 譲渡所得の理解を問うものである。 設問1については, 個人の居住の用に供される 不動産を取得するための借入金の利息が, 所得税法第38条第1項の取得費に当たるかどうか の検討を通じて, 譲渡所得の課税の本質, 法が譲渡所得につき取得費等のみを控除項目として いることの意味の理解を問うとともに, 借入金利息の性質から自説を論理一貫して論述するこ とができるかどうかについて試している。 設問2については, 前段は, 租税法律主義の下にお いて, 課税庁が, 私法上の契約を利用した租税回避行為について, その実質を根拠とする否認 をどこまで行うことができるのか, すなわち, 事実認定や法解釈として何が可能であるのかを -6- 問うものである。 後段は, 売買と交換の場合の違いを通じて, 譲渡所得の算定における収入金 額の理解を問うとともに, 取得の際の時価について事実をどのように評価するのかを問うもの である。 〔第2問〕 本問は, 役員賞与の認定について問うものである。 税務署長がいかなる法律構成によって本 件更正及び本件納税告知をしたかを分析し, それに対応する形で主張を組み立てる能力を試し ている。 すなわち, 役員賞与であると認定した場合には, 役員の給与所得(所得税法第28条) として源泉徴収の対象となること(所得税法第183条), 法人側で損金不算入(法人税法第 35条)になり, 寄附金(法人税法第37条)にはならないことを理解した上で, 指示された 「本件寄付行為の主体がY社である」との主張を組み立てるために必要な間接事実をいかに事 案から抽出できるのか, 予想される税務署長の主張を念頭に置いて, 当該事実につきどれほど 多角的な見地から評価を加え, どのように整合性のある立論ができるのかを問うている。 [経 済 法] 〔第1問〕 設問1は, メーカーによる流通支配の典型的事例を基にして, 再販売価格維持, 取引拒絶な どに関して独占禁止法の基本的な解釈を問うものである。 小問(1)では, 一般指定12項に おける「拘束」の意義, 小問(2)では, さらに, 再販売価格維持と一般指定2項の取引拒絶 の関係, これらの公正競争阻害性について説くことが求められている。 設問2は, 供給停止を受けた事業者が採り得る民事裁判手続を問うもので, 経済法と民事法 の接点領域の問題である。 化粧品等についての過去の裁判例でも, 契約上の地位の確認訴訟, 商品引渡請求訴訟などがあった。 ここでは, 契約上の地位確認訴訟・商品引渡請求訴訟のほか, 損害賠償請求訴訟, 差止請求訴訟をも論ずることとなろう。 本問の事実関係を基にして, これ らの訴えを構成し得ること, また, 請求の趣旨及び請求の原因となる事実について簡潔に摘示 することが求められており, 個々の詳しい法律論を展開することまでは要求されない。 〔第2問〕 設問1は, 事業者団体の主要な構成事業者が行った価格協定と生産設備制限に関連して, 法 3条後段等の主要な要件の基本的な理解を問うものである。 具体的には, これらの行為が事業 者団体の行為として評価されるのか, 事業者の行為なのかという法3条後段と法8条の関係(本 問では事業者の行為と評価される。 ), 追随した事業者も独禁法違反とされるのか, 何が競争の 実質的制限に当たるのか, 当たらないのかなどについて論じることが求められる。 設問2は, 設問1と類似の行為が, 全事業者が参加した事業者団体の決議という形式によっ て行われた場合において, その行為が, 事業者団体の行為として法8条に違反するか, 事業者 間の競争制限行為として法3条後段に違反するか, あるいは, 両方の違反が同時に問われるの かなどについて, 法3条後段と法8条の要件と効果を踏まえて簡潔に答えることを求め, 法3 条後段と法8条についての基本的な理解を問うものである。 なお, 設問1, 設問2ともに, 種々の見解があり得るが, それらの解答は互いに矛盾がない ものであることが必要である。 [知的財産法] 〔第1問〕 1.は, 均等論(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁〔ボールスプライン事 件〕参照)及び間接侵害(特許法第101条第3号・第4号)に関する理解を問うものである。 -7- X発明は注射液の調整方法に関する方法の発明であるが, Y注射器を用いた注射液の調整方 法はX発明の構成要件のすべてを充足せず, また, 方法の発明の「実施」の点から, Y注射器 を製造販売するYの行為は直接侵害を構成するものではない。 そのため, Yの行為がX特許権 の侵害となる場合として, X発明と均等な方法の使用に用いる物の製造販売による間接侵害の 成否が問題となり, 本問の事実関係においてこの問題を論じることが求められる。 2.は, 補正と均等論の適用との関係に関する理解を問うものである。 前掲最高裁判決にお ける均等論の第5要件(「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から 意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき」)が充足されるか否かにつき, 補正が拒絶理由を回避するためになされた場合とそうでない場合とで差異を生じるかどうかに ついて論じることが求められる。 3.は, 間接侵害の成立に直接侵害の存在が前提とされるか否かという点を問題とするもの である。 Y注射器を使用するのが専ら患者本人である場合には, その使用は「業として」の実 施(特許法第68条)に当たらないため, 直接侵害が存在しないこととなるが, この場合に間 接侵害が成立するかどうかについて論じることが求められる。 〔第2問〕 本問は, 美術雑誌に掲載された文楽人形αを撮影した写真βを一部削除した上でカレンダー に掲載した丙に対する甲及び乙の著作権法上の法的主張を問うものであり, 以下の点について 論述した上で, 結論として, 甲及び乙が丙に対してどのような権利に基づいていかなる請求を することが可能であるかを明示することが求められる。 まず, 甲及び乙が文楽人形α及び写真βについて著作権・著作者人格権を有するかどうかを 明らかにしなければならず, そのために, 文楽人形α及び写真βのそれぞれについて, 著作物 性の有無, 著作物である場合の著作者・著作権者につき論じなければならない。 写真βに関し ては, 特に, その著作物性を判断する際に考慮すべき要素との関連において写真被写体の作出 に関与した乙の行為を検討することにより, 甲の単独著作物であるか又は甲と乙の共同著作物 であるかという点を論じることが求められる。 次に, 甲及び乙が有するどのような権利が, 丙の行為によって侵害されるかを論じなければ ならない。 甲に関しては, 写真βについての複製権, 譲渡権, 同一性保持権及び氏名表示権の 侵害の有無につき論述することが求められる。 乙に関しては, 文楽人形α及び写真βについて の複製権, 譲渡権, 同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無につき論述することが求められ る。 [労 働 法] 〔第1問〕 本問において, Xの代理人として請求するのは, 平成18年3月分賃金27万円と退職金1 18万円(退職金規程(規程)により算出される。 )の支払いであることは明らかであろう。 これらの請求につき, Yの言い分から考えられる主な争点としては, @Xに対する懲戒解雇 と規程第8条第2号該当性, A規程第9条第3号による退職金支給制限の効力と同号該当性, B誓約書における退職金債権全額放棄約束の効力, CYによる賃金・退職金を受働債権とする 相殺の可否が挙げられる。 これらの争点につき主として論ずべき事項としては, @については, Xの辞職の意思表示の効力発生時期と懲戒解雇の意思表示の時期との先後関係からみた規程第 8条第2号該当性, Aについては, 退職金の賃金(労働基準法第11条)該当性及び法的性質, 退職金支給制限規定が同法第24条等に違反して無効となるか否か, 退職後の競業行為を理由 とする退職金支給制限の可否など, Bについては, 規程第9条第3号との関係での同法第93 条の適用, 退職金債権放棄の可否など, Cについては, 同法第24条第1項の全額払原則が使 -8- 用者のなす相殺に及ぶかなどの点が挙げられ, それぞれにつき本問の事実関係を踏まえた検討 が必要となる。 〔第2問〕 本問は, 不当労働行為の成立要件及び法的救済手段に関する理解を問うものである。 成立要件に関しては, Y社が団体交渉を拒否した行為, 及び, Y社の総務課長であるCの発 言が, それぞれ不当労働行為を成立させるか否かが問題となる。 この判断のためには, Y社が 労働組合法第7条における「使用者」と言えるのか, 要求された交渉事項のうちどの事項につ いて団交拒否の不当労働行為が成立するのか(労働組合法第7条第2号), 総務課長であるC の発言がY社の不当労働行為と言えるのか, 使用者側の発言がいかなる場合に不当労働行為を 成立させるのか(労働組合法第7条第3号)等の問題を検討する必要がある。 法的救済手段に関しては, 労働委員会に対する不当労働行為救済申立て(労働組合法第27 条第1項)と裁判所に対する訴えの提起等が考えられるが, 労働組合が前者の申立てをするた めには, 労働組合法に定められた要件を満たしている必要がある(労働組合法第5条第1項)。 また, 裁判所での手続については, 団交拒否に対してどのような訴訟や仮処分が考えられるの かという点や, 不当労働行為に関する損害賠償請求の可能性とそのための要件等を検討する必 要がある。 [環 境 法] 〔第1問〕 設問1は, 適法な処理委託を受けた産業廃棄物処理業者が不法投棄をした場合に, 委託をし た排出事業者が廃棄物処理法上どのような責任を負うかについての新旧条文の違いを読み取る 能力を試している。 措置命令に関しては, [資料]に示されている旧規定(第19条の4)し かなかった改正前法とは異なり, 2000年改正では, 適法な処理委託をした排出事業者も措 置命令の対象となることを定めた現行法第19条の6が新設されたことを指摘できるか, 同条 の命令発動要件の具体的内容について, 条文を引用しつつ, 正確にまとめることができるかが, 問われている。 設問2は, 現行法第19条の6の背景にある法政策を, 更に深く問うものである。 問題中に 「排出事業者処理責任」と記されているが, これが, 環境法の基本原則の一つである「汚染者 負担原則」に基づいておりそれが排出事業者の責任規定にどのように反映されているかの理解 が, 問われている。 旧規定をその観点から評価した上で, 排出事業者側が契約上優位に立って 安価な料金設定を求めていたことが不法投棄の一因となっていたことなどを指摘し, 現規定が それをどのように修正しているかを整理できるか, その修正をどのように評価すべきかが, 問 われている。 法律条文の正確な理解はもちろん, それ以上に, 個別規定の法政策及びその発展を, 環境法 の基本原則という大きな枠組みの中で把握することが, 求められている。 〔第2問〕 設問1は, DらのAに対する訴訟について問うものであり, 私権としての環境権・人格権に 基づく訴訟についての裁判例の立場の理解と, それについての学説の議論の理解を確かめるも のである。 自然享有権や自然の権利について触れると, より望ましい。 設問2は, 環境紛争の未然防止のためにどのような法政策があるかを考える力を試している。 ゾーニング, 環境影響評価, その他のもの(種としての指定, 協定, 買上げ, 環境管理計画, 団体訴訟・市民訴訟についての法律上の規定の導入, 住民参加手続など)が挙げられる。 ゾー ニングと環境影響評価は, 最も重要な法政策として, 記述することが期待される。 また, 環境 -9- 法の理念としての「環境権」は, 憲法第13条, 第25条を根拠とする学説が有力であるが, 環境基本法第3条, 第19条とも一定の関連をもっている。 この点に触れつつ, 参加権の側面 を含めた環境権の意義に触れ, 上記の法政策はこれを実現するための方策であるとの理解を示 して欲しい。 このように, 本問は, 環境権を中心とし, 環境法全体について総合的な理解をしていること を問うものである。 [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕 本問は, @国内規制の外国人財産の収用該当性, A署名後・効力発生前の条約の効力, B外 国人財産収用に関する慣習国際法上の要件に関する理解を問うものである。 @については, 国家が外国人財産を直接に取り上げるのではなく, 国家規制によって外国人 投資家が事業を継続できない状態に陥り, その結果, 投資財産が無価値になったことが外国人 財産の「収用」に当たるかどうかを検討して欲しい。 次に, 国家の規制が財産「収用」に該当すると仮定して, A及びBの問題を検討する必要が ある。 まずAについては, 条約法に関するウィーン条約第18条は, 条約の批准等を条件とし て条約に署名した国は, 署名時から条約の当事国とならない意図を明らかにする時までの間, 条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務を負うと規定 する。 本問では, B国内で多額の投資を行っている唯一の企業を, 署名のみを済ませたA・B 両国間の投資保護協定第10条に反した形で「収用」すれば, 投資保護条約について, 条約法 に関するウィーン条約第18条にいう条約の趣旨及び目的を失わせる行為を行ったことになる かどうかの検討が要求される。 Aの検討と並んで, Bについては, 慣習国際法上, 国家が外国人財産を収用する際には, (a) 公共目的で実施する, (b)差別的に実施しない, (c)金銭補償を行うという義務を負うこと を示し, 本問の事実関係においてこれらの要件が充足されているかどうか, 特にどの程度の金 銭補償が要求できるかを検討することが要求される。 なお, 本問では, Y社救済のためにA国外務省が乗り出すことは, 通常「外交保護」と呼ば れるが, 本文ではA国が外交保護権を行使できることが問題の中で前提として示されており, 特に問われていない。 〔第2問〕 本問は, 国際法の法源(慣習国際法の成立要件)・国際法平面における国内法の援用禁止原 則・主権国家に対する不干渉原則という, 国際法の基本構造に関する三つの論点を柱としてお り, 何よりもまずその正確で過不足のない理解を問う。 それに加えて, 事例の中に現れている 国際社会の「現代的な」特徴がその基本構造にどのような影響を与えるかについて, 必ずしも 一致してはいない学説や実践を踏まえながら, 自己の見解を問うものである。 論点は特定されており, 各々につき, 基本的事項や要素の過不足のない正確な記述が求めら れる。 さらに, 事例に現れる国際社会の現代的特徴―国連総会決議及びそこでの諸国の主張が 慣習国際法の成立に対して持ち得る効果・慣習国際法の実効性の担保(総会決議や総会での議 論だけで慣習国際法の成立を認めてよいか)・一国のODA政策が国際的関心事足り得る状況 (慣習国際法による当該事象への規律の成立や国連総会による討議や決議などの意義)・経済 的圧力が強制的関与の効果を持ち得る状況(現代における経済関係の重みや国内法の改廃要請 の影響)といった諸要因―を事例から注意深く読み取って, これらを国際法の基本構造にいか に反映させるかについて, 自己の見解を論証することが求められている。 - 10 - [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕 本問は, 渉外的な離婚に伴う夫婦間及び親子間の扶養義務並びに親権に関する国際私法上の 諸問題について問うものである。 設問1は, 扶養料の支払いを命ずる外国判決について, 我が国におけるその承認要件の一つ である間接裁判管轄の有無について問うものである。 我が国の国際民事訴訟法による間接裁判 管轄の有無を判断する基準を示した上で, 扶養料請求事件における扶養権利者の住所地に管轄 を認めるべき事情等に配慮した論述が求められる。 設問2は, 我が国で承認される扶養料の支払いを命ずる外国判決がある場合の扶養料減額請 求の準拠法を問うものである。 扶養義務の準拠法に関する法律第4条第1項の「離婚について 適用された法律」についての正確な理解が求められる。 設問3は, 離婚に伴う子の親権に関する準拠法を問うものである。 この点は, 子を基準とす る法例第21条の親子関係の準拠法によるとする見解が多数説であり, その論拠を示した上で, 二重国籍を有する子の本国法を同法第28条第1項ただし書によって特定し(日本法), 同法 第21条の同一本国法を決定する処理を行う必要がある。 〔第2問〕 本問は, 企業間における国際的な動産売買の目的物(特定物であるワイン)に瑕疵があった 場合の国際私法上の諸問題及び動産に関する物権の得喪の準拠法について問うものである。 設問1は, 瑕疵担保責任としての損害賠償請求の国際裁判管轄について問うものである。 財 産関係事件の国際裁判管轄の有無の判断基準を示した上, 我が国に義務履行地国(民事訴訟法 第5条第1号)としての管轄が認められるか否かを検討する必要がある。 本件の契約準拠法で ある日本法によれば, 金銭債務の履行地は債権者の住所地である日本ということになるが(民 法第484条, 商法第516条第1項), 本来の債務であるワインの引渡しの履行地としては 甲国が合意されており(FOB), 国際民事訴訟法の観点から, 本来の引渡債務が損害賠償債 務に転化した場合の義務履行地をどのように解するかを示す必要がある。 設問2は, 買主がワインの瑕疵を陸揚げから1年後に発見した場合の処理を問うものである。 契約準拠法である日本法を前提とし, 瑕疵担保責任の除斥期間を定める商法第526条につ き, その要件該当性(当事者の商人性, 同条第2項前段が適用されるのか, 後段が適用される のかなど)を論ずる必要がある。 設問3は, ワインの所有権の帰属(得喪)の準拠法及びその適用結果を問うものである。 法 例第10条第1項及び第2項のそれぞれの適用範囲の理解を前提に単位法律関係を示し, 同条 第2項の「原因タル事実ノ完成シタル当時ニ於ケル目的物の所在地法」を特定(甲国法)して, 甲国法の本件への当てはめを丁寧に行う必要がある。 - 11 -