平成19年新司法試験論文式試験問題出題趣旨 【公法系科目】 〔第1問〕 本問は人権と統治を組み合わせた問題となっており,仮想的な事案をめぐって3つのテーマ が問われている。それは,法律と条例の関係,人権の保障と民主主義の関係,そして人権の保 障と安全・安心の確保の関係である。 本事案で問題となっている「まちづくり」条例は,市の処分に関して,いわば2段階構造を 採っている。第1段階では,住民自治を具体化するものとして,「周辺住民の過半数の同意」 による開発事業協定の締結等の条件が課せられている。このような条件が満たされていない場 合,第2段階として,市は,条例第18条第2項各号のいずれかに該当すると認めるときには, 当該開発事業を許可しないことができる。 本事案では,こういった条例の仕組みをきちんと理解した上で,条例自体の合憲性と不許可 処分の合憲性について論ずることが求められている。 条例自体の合憲性に関する主要な問題は,「法律と条例の関係」である。徳島市公安事件上 告審判決がポイントとなるが,まず,当該判決を正確に理解していることが求められる。その 上で,法律と条例の目的・趣旨・効果をどのように比較するのか,どのような点で法律の範囲 内である/ない,という結論を導くのかについて論じることが,必要である。 さらに,人権の保障と民主主義の関係というテーマにかかわるが,第 1 段階での「周辺住民 の過半数の同意」要件が,実際上,いわゆる禁忌施設への拒否として機能することも,問題と なる。つまり,このような要件を置くことの合憲性である。 不許可処分の違憲性に関しては,安全・安心の確保と人権の保障との兼ね合いが問題となる。 ここでは,B教団の「危険性」に関する評価が焦点となるが,資料に掲げられた事実の一面だ けをとらえて,危険だから不許可は合憲,危険でないから不許可は違憲といった資料の読み方 では不十分である。本問で前提となっているのは,教団の「危険性」への懸念にも一定の理由 があるが,その有無・程度等には不確実な面もあるといった状況である。この文脈で,審査基 準論が意味を持つ。審査基準論が用いられる文脈,意義・内容を正確に把握した上で検討する ことが求められる。 条例自体の違憲性及び不許可処分の違憲性に関しては,どの人権が侵害されているのかが問 題となる。本事案において専ら問題になるのは,宗教的行為の自由である。ここでも,熟慮し た主張と検討が求められる。本事案の条例や不許可処分において,居住の自由そのものが制限 されているわけではない。都市計画法や「まちづくり条例」一般が示しているように,自己の 所有する土地に関してその利用形態が制限されることはあり得る。居住・移転の自由や財産権 への侵害であるゆえに違憲であると主張するためには,更に広く深い説得力のある論述が必要 となる。 まず設問1においては,これらの問題に関して,判例・学説を正確に理解した上検討し,適 切な結論を導くとともに,説得力のある理由を示すことが求められている。法律との抵触や, 宗教的行為の自由の侵害を抽象的に指摘しただけで,直ちに審査基準論を展開するというので は,不十分である。まず,どのような点で,どのような抵触や侵害が生じているのかを,B教 団の立場から具体的に論じることが必要である。 設問2におけるC市側の主張では,設問1におけるほど詳細な論述までを求めているわけで はない。その主張の理由付けの詳細が設問2での自説の検討において述べられていれば,それ でもよい。 その上で,設問2では,設問1でのB教団側の主張と設問2でのC市側の主張を踏まえた上 -1- で,「あなた」の見解を展開することが求められている。「あなた」の見解は,必ずしも,B教 団側の主張かC市側の主張か,という二者択一であるとは限らない。「あなた」の見解は,そ れらとは異なる「第3の道」となることもあり得る。例えば,徳島市公安事件上告審判決の判 断には問題もある。同判決の判断が公安条例の場合を超えて,他の条例の場合にどこまで妥当 するのかは,必ずしも明確ではない。ここで,この問題が論じられ,判例とは異なる「あなた」 の見解が主張されることもあり得よう。また,B教団側の主張あるいはC市側の主張と「同じ である」という答えでは,不十分である。なぜ,一方の主張に賛成するのかについての説得力 のある理由が述べられていなければならない。 〔第2問〕 本問は,留学の在留資格に基づいて日本の大学に在学する外国人に対し風営店でのアルバイ トを理由として退去強制令書が発付され,収容されたことについて,当該外国人の弁護士とい う立場から論じさせるものである。問題文と資料から基本的な事実関係,法令の趣旨を読み解 き,説得力ある理由とともに,適切な結論を導くことが問われている。法科大学院における基 礎的な学習を前提として,具体的な事例で,適切な救済手段や訴訟方法を選択し,それと結び ついた本案の主張を展開する力を試すものである。 設問 1 の(1)は,収容やその後に予定される送還を停止するための法的手段に関する基本 的理解を問うものである。例えば,退去強制令書の発付が処分に当たることを説明した上で, その執行停止を解答する場合には,発付処分の取消訴訟を提起することに加えて,行政事件訴 訟法第25条所定の要件に即して検討する必要があろう。同条第2項の「重大な損害」という 要件については,学業継続の支障,事後的な損害賠償による損害回復の困難性,人格の尊厳へ の侵害など,具体的根拠を伴った解釈論が望まれる。収容の継続と送還とを区別した上でそれ ぞれの部分についての執行停止の要否,可否を論ずるといった配慮も期待されるところである。 以上のような発付処分の取消訴訟と執行停止の組合せではなく,それ以外の方法を選んで解 答する場合には,その方法が現行法上可能かつ適切であり,その方法によって確実に収容や送 還が停止できることを示すことが重要である。例えば,差止訴訟及び仮の差止めの方法を選択 するのであれば,取消訴訟及び執行停止の可能性との関係をどう考えるかの検討は不可欠であ ろう。 設問1の(2)は,退去強制事由に該当するという行政判断を争うための訴訟選択に関する 問題である。ここでは,取消訴訟の対象を認定と裁決のどちらとすべきかが,問われている。 入管法所定の審理の仕組みに関しては,資料に示されているように,様々な見解が存在すると ころであるが,本問では,2つの行為の関係を原処分と裁決の関係として解釈することを前提 とした上で,原処分主義と解釈して認定の取消訴訟を提起すべきか,それとも裁決主義と理解 して裁決の取消訴訟を提起すべきかという点について,解答者の立場を示すことが求められて いる。 設問2は,実体法の問題として,入管法所定の退去強制事由に該当するという行政判断の当 否を問うものである。これは,留学の在留資格に係る退去強制事由の解釈とその具体的適用に 関するものであり,行政庁の広汎な裁量権が問題となるいわゆる在留特別許可に関するもので はない。解答に当たっては,関係する条文の構造,問題文や資料で示された入管政策や入管実 務における解釈を正確に把握した上で,検討を進めることが期待される。 入管は,就労しつつ勉学するという留学の形態を原則として認めない基本政策を前提に,資 格外活動を限定的に捉えている。その上で,在留目的を変更したと認められるような態様で資 格外活動がなされていれば,第24条の「専ら行つている」という要件に該当すると解釈する のである。これによると,量の面では,滞在費の大半がアルバイトで賄われていれば上記要件 に該当し,質の面では,風営店でのアルバイトは一律該当と解釈される。 -2- こうした行政判断について実体法上の検討を行うにあたっては,まず,本件のアルバイトが 第19条に違反するものであるのかを,問題文,資料に示された事実関係に即して検討するこ とが必要である。その上で,第24条の「専ら行つている」の要件該当性を検討することとな ろう。その際には,第19条と第24条の関係に言及することが望まれる。論じ方としては, 第24条で退去強制について第19条違反だけでなく報酬活動を「専ら行つている」という 要件を加えており,また,単なる第19条違反には軽い刑罰を規定する一方で同条違反の活動 を「専ら行つている」場合には重い刑罰を定めているなど,入管法が2つの要件を書き分けて いる点に着目することが考えられよう。また,法律には存在しない「在留目的」といった語を 用いてその実質的な変更を問題とする入管実務の解釈方法について検討したり,風営店でのア ルバイトを一律禁止とする入管の見解に対し,本件の事実関係に即して,アルバイトに至った 経緯,学業成績,出席状況,アルバイトの継続性,アルバイトの具体的内容などを取り込んだ 解釈論を展開することも考えられる。 以上のように,具体の法制度の趣旨を分析した上で,行政判断を多角的かつ柔軟に検討する ことが求められているのである。 【民事系科目】 〔第1問〕 本問は,甲会社において,A派とB派の対立が生じている場面で,A派主導で乙会社に対す る第三者割当てによる募集株式の発行が行われた事例を基に,甲会社及び乙会社における法律 問題を問うものである。 〔設問1〕は,甲会社において,第三者割当て実施後に,B派が執り得る対抗手段を解答さ せる問題である。甲会社の募集株式の発行の手続等の瑕疵を見付け出し,それに基づき,いか なる法的手段が可能かを検討させるものである。具体的には,新株発行無効の訴えの提起が許 されるかどうかの検討が必要である。会社法は,新株発行無効の訴えの制度を定めているが(会 社法第828条第1項第2号),無効原因については規定されておらず,どのような瑕疵を基 に,新株発行無効の訴えが認められるかが問題となる。本件では,発行直前の市場価格を大き く下回る価額での発行が行われているが,募集株式の発行に当たって株主総会の決議を経てい ないため,有利発行規制に違反するかどうかが論じられなければならない。また,本件では, 募集株式の発行に関する取締役会決議はB派の取締役が海外出張中に行われたので,かかる取 締役会決議の効力が問題となり得る。さらに,本件の第三者割当てがA派の支配権を維持する ための不公正発行であったといえるかどうかも問題である。これらの募集株式の発行に関する 瑕疵が認められるとするならば,続いて,それらが募集株式の発行の無効原因となるかが論じ られなければならない。募集株式の発行に瑕疵があった場合における募集株式の発行の効力に 関する判例及び学説を踏まえつつ,本件特有の事情を考慮して,自己の見解を述べる必要があ る。なお,不公正な払込金額で株式を引き受けた者の責任(会社法第212条第1項)を乙会 社に問うことができるかどうかも問題となる。 〔設問2〕は,第三者割当てにより甲会社株式を引き受けた乙会社の取締役の会社に対する 責任の有無を解答させる問題である。甲会社の株式を引き受けたものの,その後保有する株式 の価値が大きく下落した場合に,どのような責任が乙会社の取締役に発生するか(若しくは発 生しないか)を検討させるものである。具体的には,会社法第423条が定める任務懈怠の責 任の有無が判断されなければならない。任務懈怠の責任と善良なる管理者の注意義務との関係, さらに,注意義務違反の判断基準を理解しているかが問われている。その際に,経営判断の原 則の意義についての的確な記述が求められる。その上で,経営判断の原則を本件にどのように 適用するかが論じられる必要があるが,弁護士事務所の意見書と監査法人の報告書はそれぞれ 異なる視点から作成されており,これらの資料を読み解き,乙会社の取締役の責任の有無につ -3- きどのように考えるのかについて,説得力のある解答が期待されている。取締役の責任がある とする場合には,賠償すべき損害額についても検討する必要がある。 〔第2問〕 本問は,売買契約締結後・引渡し前にその目的物(特定物)に瑕疵が生じた場面において, 民法上の様々な法的構成と争点,民事訴訟における訴訟行為をめぐる諸問題についての基本的 な理解を問う総合問題である。本問は,比較的長文の事実及び当事者の主張から法的な問題点 を発見する能力,当事者の望むところを的確に法的に構成する能力,そうした法的構成にとっ て意味のある事実を過不足なく拾い出す能力,相手方の主張の問題点や中心的な争点を明らか にする能力,具体的な事実に即して抽象的な法原則や法制度を正確に理解し法規定を解釈・適 用する能力などを多面的に問うている。これらに加えて,論じるべきことを論理的かつ明快に 構成した文章で表現する能力が備わっているかについても評価の対象としている。 設問1は,課題(a)として,買主Xが支払済みの代金200万円の返還と18万円の損害 賠償を請求するために,どのような法的構成で主張してくるかを検討するよう求めている。代 金返還を主張する法的構成として中心となるのは,履行遅滞を理由とする解除に基づく原状回 復請求(民法第541条)であるが,定期行為の履行遅滞による解除(民法第542条)や瑕 疵担保を理由とする解除(民法第570条)の構成も考えられる。損害賠償については,一般 の債務不履行に基づく損害賠償(民法第415条)と瑕疵担保を理由とする損害賠償(民法第 570条)が考えられる。このうち解除に関しては,解除の対象となる売買契約の締結・解除 権を発生させる要件・解除権行使について,損害賠償に関しては,損害の発生とその数額につ いて,【弁護士間で確認された事実】から,過不足なく事実を指摘して主張を構成することが 求められる。 Yの側からの反論を考えるよう求める課題(b)では,解除の主張に対し,定期行為性の否 定,制度の趣旨による瑕疵担保規定の不適用・契約目的不達成要件の不充足,12月7日の適 法な提供,履行期の延期合意の成立あるいは相当期間内の履行による履行遅滞自体の否定,履 行補助者性の否定と選任・監督上の無過失・不可抗力,解除の意思表示の否定などが,反論と して考えられる。なお,解除権の行使について権利濫用・信義則違反という反論を評価しない わけではないが,一般条項に頼る前に検討すべきことが少なくない。損害賠償請求に対しては, 特別事情の予見不能(民法第416条第2項),信頼利益と履行利益の同時請求の矛盾,債権 者の損害軽減義務違反等による過失相殺などが反論として考えられる。答案では,これらの反 論をXの主張と対比させ,やはり事実を的確に指摘しつつ,説得力をもって論じることが求め られる。 設問2は,自白,擬制自白及び自白の撤回についての民事訴訟法の理解を主として試すもの である。陳述@については,署名はあるが押印のない私文書を題材に,書証の成立に関する事 実についての擬制自白の成否を論じた上で,擬制自白が成立しない場合における書証の成立の 真正の証明について,民事訴訟法第228条第4項の規律を踏まえて説明することを求めたも のである。陳述A及び陳述Bについては,Xの従前の発言が主要事実に該当するのか否か等, その法的位置付けを本件事案に即して具体的に検討した上で,自白ないし擬制自白の成否及び 従前の陳述の撤回可能性を,その法的位置付けと論理的に整合するように導くこと,また,併 せて,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるものか否かについて,具体的な手続の進行 状況に即して,当該攻撃防御方法を許容すると新たにどのような審理が必要となるかを踏まえ つつ,論じることを求めたものである。 設問3は,訴訟を終了させる当事者の行為,すなわち,訴えの取下げの合意,請求の放棄及 び訴訟上の和解の三つの方法について,紛争の解決を希望する被告の視点から,具体的事案に 即して,その長短を比較検討するというものである。具体的には,この三つの方法について, -4- それぞれの法的性質,既判力の有無や範囲等の法的効果の検討を踏まえ,意思表示の瑕疵の主 張等による紛争の蒸し返しや再訴による新たな紛争の発生の可能性等を本件具体的事案に即し て検討した上で,それを横断的に比較しながら三つの方法の長短を論じることが求められる。 【刑事系科目】 〔第1問〕 本問は,具体的事例を素材として,そこに現れた具体的事実に基づいて甲乙の罪責を問うこ とにより,刑事実体法の正確な理解,具体的事実に法規範を適用する能力及び論理的思考力を 試すものである。小問1及び2は,甲乙の罪責を論じる上でポイントとなる問題点であり,こ れらの点について十分な検討をした上で,甲乙の罪責を罪数評価を含めて論述することが求め られている。 小問1においては,詐欺罪及び恐喝罪の成否を検討するに当たり,構成要件該当性等犯罪の 成立に必要な要件を念頭において具体的事実を抽出し,要件への当てはめをすることが求めら れている。その際,「錯誤に基づく財産的処分行為」ないし「畏怖に基づく財産的処分行為」 という構成要件要素への該当性を判断するに当たっては,Aが現金を交付しようと考えるに至 った理由に関し,Aが,Bから120万円の損害賠償を求められた際,事故の全責任が自らに あることは認めながら,損害金の支払には応じなかったこと,Aが甲乙両名と面談し,甲から 「Bは現在も仕事を休んで治療を続けており,追加の治療費と休業補償分を加えると,未払分 は120万円にとどまらず,既に200万円になっている。」と言われた時にも,Aは,20 0万円の支払要求には応じなかったこと,甲が,「あんたにも家族がいるだろう。家族が事故 に遭えば,被害に遭った者の気持ちが分かるかもしれんな。家族が事故に遭ってから,あの時 200万円払っておけば良かったと悔やんでも遅いぞ。」と申し向けて,200万円の支払を 強く要求したところ,Aは,200万円支払わなければならないと考え,とりあえず,手持ち の現金20万円を甲乙に手渡したこと等の具体的事実を示した上で,これらの事実が持つ意味 を的確に評価し,要件への当てはめという思考過程を論述することが必要である。 また,甲がBから損害金120万円の取立を委任されていることと恐喝罪等の成否との関係 についても,甲が自己の取り分を上乗せして120万円を大きく超える200万円を請求して いること,Aの家族の生命・身体に危害を加えることをほのめかして脅迫するという手段を用 いていること等の具体的事実を示した上で論述することが必要である。 小問2においては,最高裁判所決定理由の中で,共犯関係の解消が認められないとの帰結に 至る過程で着目された事実及びこれらの事実の評価から結論が導かれた過程を検討した上で, 本事例を分析することが求められている。その際,最高裁判所決定の事案と本事例との類似点, 相違点に留意しつつ,甲乙の人的関係,甲乙間に共犯関係が成立した経緯,甲乙の共謀の内容, Aから20万円の交付を受ける際に甲乙それぞれが果たした役割,甲乙の行為がAに与えた影 響,乙がこれ以上の支払要求をやめようとした際の甲に対する乙の言動,これに対する甲の対 応,その後の甲の行動とこれに対する乙の予測可能性等に関する具体的事実を示し,これらの 事実を評価して結論を導く思考過程を論述することが必要である。 さらに,甲の罪責として,50万円の費消行為をどう考えるかについては,成立が考えられ る犯罪についての構成要件該当性を具体的事実に基づいて論述する必要がある。 いずれの問題点についても,論点に関する法解釈論を抽象的に論じるにとどまることなく, 事例に示された具体的な事実関係を分析した上,論点の解決にとって必要な事実を抽出し,的 確に法的評価をすることが求められている。 〔第2問〕 本問は,捜査・公判に関する具体的事例を示して,そこに生起する刑事手続上の問題点の解 -5- 決に必要な法解釈,法適用にとって重要な具体的事実の分析・評価及び具体的帰結に至る過程 を論述させることにより,刑事訴訟法等の解釈に関する学識と適用能力及び論理的思考力を試 すものである。 設問1は,連続的に発生した放火事件を素材として,将来,同一犯人による同種手口の放火 事件が発生する蓋然性が高いと認められる駐車場と,犯人である嫌疑が高い被疑者の自宅前公 道上におけるビデオ撮影・録画の適法性を問うことにより,「捜査」の意義,任意捜査と強制 捜査の区別基準,その区別に即したビデオ撮影・録画の適法性判断基準など捜査に対する法規 制に係る最も基本的な事項の理解と具体的事実への法適用能力を試すものである。 法解釈の部分では,刑事訴訟法等の関連規定の構造と,これを解釈した最高裁判所の判例の 示す「強制」手段の定義や判断基準の背後にある基本的な考え方,―例えば,なぜ「強制」の 処分には特別の根拠規定が要請されているのか,また,「強制」に当たらない任意処分であっ ても常に許容されるわけではなく,具体的状況において一定の限界があり得ると解されている 理由や趣旨―を論じた上で,そこから強制捜査と任意捜査の区別基準や,任意手段の必要性・ 緊急性や相当性等の具体的な適法性判断基準を導き出すことが求められている。基準の結論部 分を記述しただけでは法解釈とは言えず,不十分である。 また,事例への法適用の部分では,自らが論じた判断基準等に従って,本問の事例中に現れ た具体的事実関係を的確に抽出,分析して,その該当性を判断することが要求されている。例 えば,駐車場におけるビデオ撮影・録画と,被疑者方前公道上におけるそれとは,同じ判断基 準を適用しても,その該当性判断において論じるべき具体的事実関係は異なっているので,こ うした違いに即して丁寧に分析・検討すべきである。また,事実を事例中からただ書き写して 羅列すれば足りるものではなく,それぞれの事実が持つ意味を的確に分析して論じることが必 要である。例えば,被疑者方前公道上におけるビデオ撮影・録画の必要性を検討する過程で, 被疑者に対する犯罪の嫌疑の程度を論じる際には,3件の放火事件が,発生時期,発生場所, 放火対象物,放火の態様等において類似していることを示す具体的事実関係を指摘して,これ らが同一犯人による連続放火事件である可能性が高いことを的確に論証した上で,各放火事件 と被疑者を結びつける個々の事実関係に言及して,その嫌疑の程度を論じることができていれ ば,極めて優れた分析といえよう。 設問2は,被告人の前科に関する事実を,被告人が被告事件の犯人であることの認定に用い ることが許されるかを問うものであり,前科に関する事実を公訴事実の認定に用いる場合に生 じ得る問題点や弊害についての基本的な理解を踏まえて,事例中に現れた被告人の前科に関す る事実を犯人であることの認定に用いる際の推認の過程を具体的に検討し,この事実を認定に 用いることの可否を論じる必要がある。すなわち,被告人に前科があるという事実から,被告 人が犯罪を犯すような悪性格をもっていることを立証し,こうした悪性格の立証を介して,被 告人が被告事件の犯人であることを推認させようとする推認過程と,特殊な犯行方法・態様等 の共通性に着目し,そこから被告人が被告事件の犯人であることを推認させようとする推認過 程の違いを明確に意識して論じることが必要である。 いずれの問題点についても,法解釈論や要件の存否を抽象的に論じるにとどまることなく, 事例中に現れた具体的な事実関係を指摘しつつ,それらの事実関係がどの要件の存否を基礎付 けているのかを的確に論じることが要請されている。 【選択科目】 [倒 産 法] 〔第1問〕 設問1は,破産手続における法人の役員の責任追及について問うものである。(1)では, 役員の責任の査定手続及び役員の財産に対する保全処分について説明する必要がある。(2) -6- は,株主代表訴訟が係属している場合に破産手続の開始が当該訴訟に対して与える影響につい て問うものであり,当該訴訟の中断及び受継(破産法第45条の類推適用の可否)について被 告からの受継申立てを含めて検討する必要があるほか,当該訴訟とは別個に査定の申立てをす ることができるか等についても問題となる。 設問2は,破綻の原因を作った代表取締役による破産債権の行使に対する破産管財人の対応 について問うものである。本問では,破産管財人が破産債権者に対する損害賠償請求権を自働 債権として相殺をすることができるか(破産法第102条)について検討する必要がある。ま た,明文の規定はないが,このような破産債権者が届け出た債権について衡平の観点から劣後 化を図ることができるか等が問題となる。 設問3は,保証人が保証債務を全額弁済した場合に,(1)弁済による代位によって取得し た原債権及び(2)求償権を自働債権とし,破産者に対する債務に係る債権を受働債権とする 相殺の可否について問うものである。弁済による代位や求償権の性質を踏まえ,破産手続開始 後の債権取得による相殺制限の規律(破産法第72条第1項第1号)の適用及び停止条件付の 破産債権である求償権による停止条件成就後の相殺の可否等について検討することが必要であ る。 〔第2問〕 本問は,個人破産事件の具体的な事例を基に,破産手続と小規模個人再生手続の手続選択上 の考慮要素,破産手続開始後の破産者に対する弁済の効力,自由財産の範囲拡張の裁判制度及 び免責不許可事由について,その理解を問うとともに,適切に事案を分析できるか否かを試す 出題である。 設問1では,小規模個人再生手続の利点として,資格制限を回避することができ,債務者に 財産の管理処分権が保持されるため従前の生活が維持され,再生計画に住宅資金特別条項(民 事再生法第198条以下)を定めることによって住宅の確保を図り得ることを指摘した上で, 再生計画の認可のために必要な最低弁済額要件(同法第231条第2項第4号)を充たす収入 を確保し難いことが手続を利用する障害となることを論述する必要がある。 設問2は,破産手続開始後の破産者に対する弁済の効力(破産法第50条)について,弁済 者が破産手続の開始を認識していたか否かという場合分けを踏まえ,推定規定(同法第51条) の存在を含めて的確な分析ができるか否かを問うものである。 設問3では,破産財団を構成する中古自動車について,自由財産の範囲拡張の裁判の申立て (同法第34条第4項)ができることを指摘した上で,設問からうかがわれる破産者の事情か ら許可の可能性について検討することが必要となる。 設問4では,具体的な事例から,検討すべき免責不許可事由(同法第252条第1項第2号, 第4号及び第5号)を適切に抽出し,要件の分析を加えるとともに,裁量免責の可能性(同条 第2項)についても言及することが求められている。 [租 税 法] いずれの設問も,法科大学院における租税法の基本的な事項に関する学習を前提として, 具体的な事案について,租税法規の解釈論をどのように展開することができるか,どのよう に事実関係を認定し,どのように法規に当てはめて判断すべきかを考える能力を試すもので ある。 〔第1問〕 第1問は,保証人としての債務を履行した場合の譲渡所得の課税関係に関する理解を問う 問題である。1においては,譲渡所得の該当性及び譲渡所得の課税の基本的な仕組みについ ての理解を問うている。所得税法第33条の規定とともに,同法第22条に留意する必要が -7- ある。2においては,所得税法第64条第2項の特例の適用要件についての基本的な理解を 問うた上で,本問の事案に現れた諸事実の中から,その適用要件に関わる事実を指摘し,当 該要件を満たすか否かを論じる能力を試している。3においては,Xが連帯保証をした時点 で既にB社が債務超過に陥っており,辛うじて営業を続けている状態にあって,Aにも返済 資金が全くなかった場合を想定して,所得税法第64条第2項の特例の適用要件の法解釈を 論じた上で,Xがそれらの事実を認識していたかどうかを含めて,その適用要件を満たすか 否かを論じる能力を試している。 〔第2問〕 第2問は,事案に現れた三者間の法律関係を把握した上で,所得税法及び法人税法の規定 の法解釈論を展開するとともに,問題文に現れた事実関係を整理して法規範を適用する能力 を試す問題である。1については,参照条文を参考にしながら,必要経費に関する所得税法 第37条及び第45条の関連規定の要件を正確に読み取り,それらの規定の趣旨がいかなる ものか,当該趣旨や条文の文言に照らして,甲のした支払の所得税法上の取扱いがどうなる のかを,問題文に現れた諸事実を踏まえつつ,分かりやすく論述できるかどうかを試してい る。2については,民事上の法律関係を踏まえ,甲が求償しない旨を乙に告げ,乙が甲から 求償権の行使を受けなくなったことに関して,それが所得税法第36条所定の収入金額に当 たるか,当たるとすればいかなる理由に基づくのか,また,その所得区分はどのように考え るべきか,さらに,源泉徴収がいかなる場合にどのようにして行われるのか,を論じること ができるかどうかを問うている。3については,法人税の課税標準となる各事業年度の所得 の金額の計算構造の基本的な理解を問うとともに,損害賠償請求権の額が益金の額に算入さ れるか,備品の損壊が損失として損金の額に算入されるかに関する理解を問うている。 [経 済 法] 〔第1問〕 本問は,不公正な取引方法に関して比較的詳細な事案を設定した上で,独占禁止法の基礎的 な理解を問うとともに,抽象的な議論に陥いることなく具体的な事実関係に基づいた論述の展 開ができるかを試すものである。 設問1では,X社が,甲社製の駐車場装置の構成部品の販売に際し,乙社の取替工事を条件 とするという販売方針について,これが不公正な取引方法に該当して違法か否かを論じること を求めた。 一般指定の各項を踏まえて,本事例の行為に対する適用項とその要件該当性を具体的に論述 することとなる。 さらに,独立系保守業者の事業活動に対する影響と,構成部品の転用防止というX社の主張 に関して,公正競争阻害性,正当化事由に係る一般的判断枠組みを論じた上で,弁護士として X社及び乙社の担当者に尋ねて得られた回答を踏まえて,X社の意図に関する事実認定を行い, あるいは営業計画の合理性を判断して,公正競争阻害性の有無について論じることが求められ る。 設問2は,X社が,構成部品の在庫費用を削減するために,計画在庫数量を設定した上で, 一定の場合に独立系保守業者からの発注について引渡時期の条件を付すという販売方針につい て,これが不公正な取引方法に該当するか否かの検討を求めるものである。 この方針について,一般指定の各項を踏まえて,本事例の行為に対する適用項とその要件該 当性を具体的に論述することが求められる。 さらに,在庫費用の削減という目的,独立系保守業者に与える影響等の具体的事実関係に基 づいて,公正競争阻害性の有無を論じることとなる。計画在庫数量を算出している基準の妥当 -8- 性等を踏まえて,かかる方針の相当性を論じることになろう。その際,乙社とX社の資本関係, 保守業者による自社在庫の可能性なども考慮され得よう。 なお,X社からの依頼を受けた弁護士として回答することを求めており,乙社の行為に関す る回答は不要であるが,X社の行為・販売方針については合理的に考え得る独占禁止法上の問 題点を幅広く回答することが望ましい。 〔第2問〕 本問は,入札談合事案を素材として独占禁止法の基本概念の正確な理解と的確な条文解釈能 力を試すものである。 設問1は,いわゆる基本合意とそれに基づく個別調整行為という典型的な入札談合に係る事 実関係をもとに,不当な取引制限の構成要件という独占禁止法の基礎を正確に理解し,使いこ なすことができるか否かを問う基本的問題である。小問(1)では,本問において,毎年1回 の会合における話合いから実際の入札に至るまでの行為のうち,いかなる行為が不当な取引制 限の違反行為となり得るかを特定し,かつ,甲省の入札制度を踏まえた上で,具体的事実を摘 示して構成要件該当性を論述することが求められる。小問(2)では,不当な取引制限に関す る法律解釈又は事実認定に関する議論を問うたものであり,事実認定に関する議論にあたって は,個々の事案に即して経験則に従って事実認定を行うという事実認定の基本を踏まえた論述 が望まれる。 なお,公正取引委員会の立入検査等の審査の結果を踏まえた論述を求めており,刑事事件と しての議論までを求めたものではない。 設問2は,課徴金納付命令に関して,その算定に関する条文を踏まえながら本問での当ては めを行わせるものであり,法文を読んだ上で内容を理解し,文理に忠実に条文の操作を行って 事案の解決を図るという法律家に必要な能力を試したものである。 設問3は,課徴金納付命令に係る審判における被審人の主張の当否を論じさせるものであり, 課徴金の算定に当たって違約金相当額を控除すべきか否かについて,課徴金の算定又は控除に 関する条文の文理を踏まえた上で,課徴金の制度趣旨,各規定の趣旨に基づいて説得的に論述 することが求められる。 [知的財産法] 〔第1問〕 設問1では,問題文から読み取れる事実関係を条文に当てはめて,甲の訴訟上の請求として, 物の発明である本件発明の特許権に基づく差止請求,特許権侵害の不法行為による損害賠償請 求,不当利得返還請求,出願公開の効果としての補償金請求が考えられることを簡潔に論述し, 設問2では,甲の各請求に対する抗弁(消滅時効の抗弁,権利行使の制限の抗弁,先使用の抗 弁)及びその成否をそれぞれ検討した上で,各請求がいかなる範囲で認められるかについて論 述する必要がある。抗弁の成否の検討のポイントは,以下のとおりである。 まず,消滅時効の抗弁については,不法行為による損害賠償請求権の消滅時効の時効期間は 3年であり(民法第724条),補償金請求権につき不法行為の規定が準用されていることか ら(特許法第65条第5項),甲の損害賠償請求権(一部)及び補償金請求権(全部)につい て消滅時効が完成していることを論じることが求められる。なお,消滅時効の抗弁により損害 賠償請求ができない期間に係る部分についても,不当利得返還請求権を行使できることを明示 することが望まれる。 次に,権利行使の制限の抗弁(特許法第104条の3第1項)については,本件発明の特許 の無効理由(特許法第29条違反)の存否について論じることが求められ,主として,本件論 文がAによって各会員に交付されたこと及びその後乙がAからそのコピーを入手したことによ -9- り,本件発明が出願前に「公然知られた発明」(特許法第29条第1項第1号)となったかど うか,また,本件発明が出願前に「頒布された刊行物に記載された発明」(特許法第29条第 1項第3号)に該当するかどうかについて論述する必要がある。その際には,Aが本件論文の 内容について守秘義務を課した場合とそうでない場合とで差異が生じるかについて論述するこ とが望まれる。 さらに,先使用の抗弁については,発明の実施である「事業の準備」(特許法第79条)の 意義及び先使用権の効力の及ぶ範囲(最判昭和61年10月3日民集40巻6号1068頁〔ウ ォーキングビーム式加熱炉事件〕参照)の理解を問うものである。具体的には,製造販売され ている現製品(携帯電話β)が出願前に製造された試作品(携帯電話α)の「一部改良品」で ある点の分析評価が重要であり,試作品の製造及び現製品の設計図面の作成をもって,試作品 又は現製品につき「事業の準備」があったといえるかどうか,仮に試作品につき先使用権が成 立するとした場合,その効力が現製品に及ぶかどうかといった点を論述する必要がある。 権利行使の制限の抗弁及び先使用の抗弁の成否については,事実関係の分析評価を的確に行 い,論理一貫した説得力ある論述がされていれば,結論はいずれでもよい。そして,上記抗弁 のいずれかが成立するという立場をとれば,甲の各請求はいずれも認められず,一方で,いず れも成立しないという立場をとれば,甲の各請求は,消滅時効の抗弁により請求できない部分 を除き,認められることとなる。 〔第2問〕 本問は,主として,他人の著作物に基づいて作成された作品の利用が著作権の侵害となる場 合に関する理解を問うものであり,とりわけ,作品がどのような場合に他人の著作物を原著作 物とする二次的著作物となるか,また,作品の利用が著作権を侵害するとすれば,いかなる支 分権を侵害するかについて,問題文から読み取れる事実関係に即して具体的に論述することが 求められる。 設問1では,脚本Bが,小説Aを原著作物とする二次的著作物であり,乙と丙を著作者とす る共同著作物であること,それゆえに,その利用について甲の承諾(著作権法第28条)及び 丙の承諾(著作権法第65条第2項)を得ることが必要となることを論じた上で,@脚本Bに 基づいて演劇Eを演じさせること,Aその録音録画,B録音録画したDVDの販売につき,い かなる支分権が働くかを論述しなければならない。@については上演権(著作権法第22条), Aについては複製権(著作権法第21条,第2条第1項第15号イ),Bについては譲渡権(著 作権法第26条の2第1項)等が問題となる。 設問2では,まず,小説Cが小説Aを原著作物とする二次的著作物となるかを検討する必要 がある。次に,小説Cが二次的著作物となる場合に,その朗読に口述権(著作権法第24条, 第28条)が働くこと,その朗読が私的使用目的で作成された二次的著作物の複製物(著作権 法第30条第1項,第43条第1号)の目的外使用としての「公衆に提示」(著作権法第49 条第2項第1号)に該当し,小説Aにつき翻案を行ったものとみなされること,及び著作権法 第38条第1項の適用の有無について論じた上で,口述権及び翻案権(著作権法第27条)の 侵害が成立するか否か,そして,侵害が成立する場合に,甲は丁に対して具体的にどのような 請求をすることができるかを論述しなければならない。 設問3では,まず,小説Dがどのような場合に小説Aを原著作物とする二次的著作物となり, あるいは独立の著作物となるかを検討し,次に,小説Dが二次的著作物となる場合に,そのホ ームページへの掲載がいかなる支分権を侵害するかについて論じた上で,甲は戊に対して具体 的にどのような請求をすることができるかを論述しなければならない。侵害される支分権とし ては,複製権,公衆送信権(著作権法第23条第1項)とともに,設問2と同様に,目的外使 用としての公衆への提示により,翻案権が問題となる。 - 10 - [労 働 法] 〔第1問〕 本問は,在籍出向中の労働者に関して,出向先会社による懲戒処分の可否と内容を問うとと もに,時間外労働義務の問題についての理解を問うものである。 まず,問題となるのが,出向先会社は出向労働者に対して懲戒権を持つのか,持つとすれば いかなる種類の懲戒処分が可能かという点である。 次に,問題文では,出向労働者2名が登場しているが,うち1名については,時間外労働命 令に対する拒否を理由とする懲戒処分が検討対象となるため,時間外労働義務がいかなる場合 に発生するか(日立製作所武蔵工場事件・平成3年11月28日最高裁判決参照),本件では 義務が発生しているか,義務違反が(どの範囲で)成立するか,義務違反が成立するとした場 合,懲戒権行使に当たり考慮すべき事項は何かなどが問題となる。 また,もう1名の労働者については,業務上の指示違反を理由とする懲戒処分が検討される ことになるが,同人の所属する子会社の事業場(常時就労する労働者は10人未満)では就業 規則の周知がなされていなかったことをどう考えるか(フジ興産事件・平成15年10月10 日最高裁判決参照)などが問題となる。 〔第2問〕 本問は,主としてユニオン・ショップ協定の効力の限界,及び労働協約改定による労働条件 の不利益変更の効力に関する理解を問うものである。 前者については,三井倉庫港運事件・平成元年12月14日最高裁判決によれば,本件では 新組合を結成していることから解雇義務が生じないために解雇は権利濫用として無効となり, 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求,及び解雇期間中の賃金の支払請求を行 うことが考えられる。賃金請求に当たっては,民法第536条第2項によりつつ,賃金額の算 定根拠についてどのような法的構成を用いるのか,その際,新協定発効後については,労働組 合の組織範囲次第で,新協定の一般的拘束力が及ぶか否かも検討すべき対象となる。 後者については,新賃金協定の効力がないと主張して差額賃金請求を行うことが考えられる が,組合規約に違反して締結されたことが労働協約の有効性に影響を及ぼすのか,組合員は不 利益に変更された協約条項に拘束されるのか,といった問題を検討する必要がある。判例(朝 日火災海上保険事件・平成9年3月27日最高裁判決参照)・通説は不利益変更を原則として 承認するが,例外的に拘束力を否定すべき事情があるか否かの検討も行う必要がある。 [環 境 法] 〔第1問〕 本問は,環境アセスメントという考え方が,環境法政策の歴史的展開の中でどのように制度 化されてきたか,どのように進化してきたか,どのような課題があるかについての基本的理解 を問う問題である。 設問1においては,閣議決定要綱から環境影響評価法へと法形式が変わったこと,スクリー ニング制度やスコーピング制度の導入により対象事業の選定方法やアセスメント内容の決定方 法が明確にされたこと,住民参画の手続が整備・充実されたこと,代替案の検討を進めるよう になったこと,横断条項を通じて個別法の処分に法的影響を与え得るようになったことなどの 点について,要綱と法律との相違を説明することが,求められている。 設問2においては,事業アセスメントになっていること,代替案の考慮が義務的でないこと, スクリーニング手続に住民参画がないこと,スコーピング時期が特定されていないこと,事後 評価手続が義務付けられていないことなどについて,現行法の限界を指摘することが求められ - 11 - ている。その上で,計画アセスメントの導入など,適宜,改善策にまで論及することが,期待 される。 〔第2問〕 設問1は,水質汚濁防止法(以下「水濁法」という。)及び土壌汚染対策法(以下「土対法」 という。)の基本的理解を問うものである。 工場の製造工程中で使用されたカドミウム及び鉛を含む水が工場敷地の地下に浸透していた という事実関係から,付近一帯の地下水が汚濁し,土壌が汚染されたこと,カドミウム及び鉛 は水濁法及び土対法の規制対象となる有害物質に当たることに気付き,A県知事としては,水 濁法及び土対法に基づく対応を行うことができることを説明することが求められている。少な くとも,水濁法の関係では,第13条の2第1項の改善命令等,第14条の3の地下水の水質 の浄化に係る措置命令等を,土対法の関係では,第4条の調査命令,第5条の指定地域の指定, 第7条の汚染の除去等の措置命令を指摘してほしい。 設問2は,BのC及びDに対する訴訟について問うものである。 Cに対する関係では,不法行為に基づく損害賠償請求が考えられることを指摘し,受忍限度 論,因果関係論,損害論(人身損害,物的損害)などを,本問の解決に当たって必要な限度で まとめ,さらに,人身損害の賠償を求める場合には,水濁法第19条第1項により無過失責任 を追求できることなどを説明することが求められる。Dに対する関係では,工場の稼働差止め 請求等が考えられることを指摘し,その法的根拠を的確に説明することなどが求められる。 [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕 本問は,国際法上の難民問題と,それを素材とした関係国際法の理解を問う問題である。設 問1.では,「難民の地位に関する条約」及び「難民の地位に関する議定書」(以下両条約をま とめて「難民条約」と呼ぶ。)を題材にして,条約の国内法上の効力が問われている。@条約 自身が国内法上の効力をもつ国内法制かどうか,A条約が国内法上の効力をもつ国内法制の場 合に,問題の条約の関係規定が裁判所で援用し得る内容をもつかどうか,B裁判所で援用し得 るとして,条約が国内法制においてどのような効力序列にあるかが解答の要点となる。 設問2.は,難民資格と個人の庇護権の関係を問う問題である。一般国際法上,個人の庇護 権は認められておらず,その上で国家の庇護権を前提にした難民条約上の難民資格が個人の庇 護権とは異なることの基本的な理解が求められている。 設問3.は,難民条約を題材に国家の条約解釈権の在り方を問う問題である。条約は通常は 締約国に対して特定の結果達成を義務付けるにとどまるために,当該結果達成のための方法は 締約国にゆだねられる。B国政府の主張は,難民条約の解釈が締約国に広い裁量を認めること を前提にしたものである。それに対して,難民条約上の「難民」該当性の有無は裁判所が直接 的に判断でき,「難民」としての資格を国内法上持たなくても,締約国である以上,難民条約 上の「難民」として取り扱わなければならないという解釈が可能であることを尋ねている。条 約について種々の解釈可能性があることに思いを致してほしいというのが設問の趣旨である。 設問4.は,本件への難民条約の当てはめを問うている。難民条約第1条Aが難民条約上の 「難民」を定義するが,その中の「政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分 に理由のある恐怖を有する」の部分が甲の難民該当性を考える場合にポイントになる。「食糧 も事欠く状況になったため」A国を脱出してB国に密入国し,その後にB国においてA国の「現 政権打倒運動に参加した」甲は,A国に強制送還されると「死刑を含む厳罰」に処せられるこ とが予想される。このことが「政治的意見」を理由とした「迫害を受けるおそれがあるという 十分に理由のある恐怖を有する」ことと解釈できるのか。@元来は政治的意見のゆえに出国し - 12 - たのではないこと,A現政権打倒運動を行ったことが強制送還後の厳罰に結び付くと理解でき るかどうか等の考慮点を押さえた,条約の解釈適用能力が問われている。 本問では,国内裁判所において法曹として国際法の解釈適用作業を行える能力が,我が国裁 判所で頻繁に扱われる難民問題によって試されている。 〔第2問〕 本問は,国際紛争の平和的解決に関する主権国家の義務に係る基本的な概念や原則の理解を 問い,かつ,論点及び関連事実の抽出能力・判断力・論理構成力を問う問題である。 基本的な概念や原則とは,@国際紛争の平和的解決義務の意義と内容,A裁判に付託する紛 争という観点からの,法律的紛争・非法律的(政治的)紛争の概念のとらえ方,B紛争解決手 段の選択の自由の原則である。 紛争の平和的解決義務が,国家の基本的な義務であり,本件A国とB国のいずれもこの義務 を負うことには争いがない。紛争の平和的解決義務との関係では,A国が,地域的政治的機構 による解決に協力的であったことが関連をもつ。 本件の紛争につき,裁判に付託することが適当か,B国の主張するようにA国は裁判に付託 する義務を負うかが問われており,特に,本件の紛争のとらえ方が重要となる。紛争解決手段 の選択の自由の原則も関連する。問題文では,長期にわたりA国とB国の対立関係の背景にあ る歴史的・社会的・宗教的な要因などとともに,地域的政治機構が関与してきたことについて, 説明が与えられている。そこに示された事実状況を注意深く読んで,紛争の解決という目的に 照らして,紛争をどの時点でとらえ,どのような争点で構成し,どのような性質でとらえるこ とが適当であるかの判断に基づいて,A国の反論を構成することになる。 本問では,基本的な事項についての正確で過不足のない記述とともに,関連事実を踏まえて 紛争をいかにとらえるかの十分な説明が要求される。さらに,以下の点などに触れることで, 厚みのある論証が求められる。国際社会における紛争解決の特徴として,主権国家の並存体制 において国際裁判管轄の合意原則が維持されており,政治的機構による解決も含めて非裁判的 解決も活発に行われていることである。また,紛争の特徴や性質と,解決手続の選択との関連 の在り方を,いかに考えるかである。 [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕 本問は,法の適用に関する通則法第6条の失踪宣告の国際裁判管轄,準拠法及び失踪宣告の 効果についての理解を問うことを中心として,死亡による婚姻解消及び相続の準拠法並びに反 致についても基本的な理解を問うものである。 設問1(1)では,失踪宣告について日本の裁判所が通則法第6条第2項の例外的国際裁判 管轄を有するか否かが問われている。まず前提として同条第1項の原則的国際裁判管轄の有無 を検討し,それがないときは,Xが解消を望むAとの婚姻関係が,「日本法によるべきときそ の他法律関係の性質,当事者の住所又は国籍その他の事情に照らして日本に関係がある」法律 関係と言えるか否かが検討されなければならない。法例第6条によれば,本件のような事案(婚 姻の効力の準拠法が日本法とならない事案)については国際裁判管轄が認められず,そのよう な不都合の是正が通則法第6条の改正趣旨であることを踏まえた上,本件の婚姻関係が日本に 関係がある法律関係であるか否かを検討することになる。 設問1(2)は,当事者の死亡による婚姻解消の準拠法について問うものである。法例第6 条の解釈と異なり,通則法第6条においては,例外的管轄に基く場合も失踪宣告の効力は死亡 の擬制という直接的効果にとどまるものと整理されている。まずこの点を踏まえた上で,婚姻 の解消を婚姻の効力(第25条)又は離婚(第27条)のいずれかの問題と性質決定し,準拠 - 13 - 法を導く論述が求められる。 設問2(1)は,反致についての基本的な考え方を問うものである。反致を否定する甲国国 際私法第P条のような規定の有無は,反致の成否に影響しないという意味において,通則法第 41条の適用には直接の関係はない。他方で,P条の規定の存在は,本件について,日本にお いても甲国においても同一の準拠法(日本法)が適用される結果を導くから,判決の国際的調 和という要請を満足させる。従来からの反致制度を維持した通則法第41条の基本的な理解を 示すことが求められる。 設問2(2)は,相続の準拠法を問うものである。失踪宣告の効力の直接的効果を踏まえた 上で,通則法第36条及び第41条を適用して,準拠法を決定することとなる。 〔第2問〕 本問は,生産物責任訴訟の国際裁判管轄及び準拠法の理解を問うものである。 設問1は,日本に常居所を有する個人であるXが,外国で医薬品を購入して日本で副作用が 発現した場合の事例である。小問(1)は,日本の裁判所が生産物責任訴訟の国際裁判管轄を 有するか否かを問うており,財産関係事件に関する国際裁判管轄についての最高裁判例を踏ま えて,国際裁判管轄を決する一般的な基準(条理及びその内容)を論じた上で,本件事例への 当てはめを行うことが必要になる。具体的には,民事訴訟法第5条第9号の「不法行為があっ た地」の概念を明らかにして本事案にあてはめた上,結果発生地である日本に管轄を認めるこ とが当事者間の公平,適正迅速な裁判の実現という理念に反することとなる特段の事情がある かどうかをXとYの利益状況に照らして具体的に論ずる必要がある。 小問(2)は,生産物責任の準拠法を問うものである。法の適用に関する通則法第18条の 要件の当てはめを丁寧に行い,Yに対する損害賠償請求の準拠法を導き出すことになる。 設問2は,Xがインターネットを通じて医薬品を購入した事例についての生産物責任の準拠 法を問うものである。まず,本事例のような生産物の送付地と受領地が異なる場合の生産物の 引渡地がどこになるのかを通則法第18条の趣旨から論じた上で,同条ただし書の「その地に おける生産物の引渡しが通常予見できない」との意義について説明し,示された事実関係から どのように判断するかを述べることが求められている。 - 14 -