論文式試験問題集[民事系科目第1問] - 1 - [民事系科目] 〔第1問〕(配点:100〔設問1と設問2の配点の割合は, 4:6〕) 次の文章を読んで, 以下の1と2の設問に答えよ(なお, 本問における賃貸借契約については借 地法(大正10年法律第49号)の規定が適用されることを前提とする。 )。 1 Xは, 父Aの唯一の子であったが, Aが平成19年2月に他界したため, Aの所有する土地(以 下「本件土地」という。 )を単独で相続した。 本件土地上にはAの知り合いであるYの所有する建 物(以下「本件建物」という。 )が存在しているが, Yは, 現在, 家族とともに他県に居住してお り, 2か月に一度程度, 維持管理のため, 本件建物を訪れている。 Xは, 以前, Aから, Yが不 法に本件土地を占拠していると聞いたことがあったため, Aの他界後, Yに対し, 本件建物を取 り壊し, 本件土地を明け渡すように求めた。 すると, Yは, Aの相続人が明らかになったことか ら地代を支払いたいとして, 30万円をX方に持参したが, Xは, 本件土地をYに貸した覚えは ないとして, Yの持参した金銭の受領を拒絶した。 Yが本件土地の明渡しに応じなかったことから, Xは, 同年12月25日, Yを被告として, T地方裁判所に建物収去土地明渡しを求める訴え(以下「第1訴訟」という。 )を提起した。 平成 20年1月29日に開かれた第1回口頭弁論の期日において, Xは訴状を陳述し, Xが本件土地 を現在所有していること, Yが本件土地上に本件建物を所有して本件土地を占有していることを 主張し, 本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めた。 これに対し, Yは, 同期日において, 答弁書を陳述し, Xの主張する事実はいずれも認めるが, Yは, 昭和53年3月8日, Aとの間 において, 本件土地につき, 賃料を年額30万円, 存続期間を30年とし, 建物の所有を目的と する賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。 )を締結しており, 本件賃貸借契約の効力はな お継続しているから, Xの請求には理由がないと反論した。 第1回口頭弁論の期日において, 裁判所は, 当事者の意見を聴いて, 事件を弁論準備手続に付 した。 平成20年2月26日に開かれた第1回弁論準備手続の期日において, Xは, YからAに 対し賃料の支払がされた形跡はなく, AがYとの間に本件賃貸借契約を締結したことはないと反 論した。 これに対し, Yは, 本件賃貸借契約の成立や賃料の支払に関する書証を提出し, その取 調べが行われた。 第1回弁論準備手続の期日の結果を踏まえ, Xは, 本件賃貸借契約の成立を前提とする訴訟活 動を行うことも必要であると考えるに至り, 同年3月28日に開かれた第2回弁論準備手続の期 日において, Yが主張する本件賃貸借契約の内容に基づき, 仮に本件賃貸借契約の成立の事実が 認められる場合であっても, その契約は訴え提起後に30年の存続期間(昭和53年3月8日か ら平成20年3月7日まで)が満了したので終了したと主張した。 また, Xは, 同期日において, 平成20年3月1日にYから本件賃貸借契約の更新を請求されたが, その翌日, その更新を拒絶 したと主張した。 同年4月25日に開かれた第3回弁論準備手続の期日において, Xは, 本件賃貸借契約の更新 を拒絶する正当事由として, Yは他県に自宅を構えて家族とともに居住しており, 今後, 本件土 地を使用する必要性に乏しいこと, 他方, Xは, 現在, 築45年の木造賃貸アパートに居住して いるが, 老朽化に伴う危険性から建て替え工事が必要であり, 家主からも強く立ち退きを求めら れていることから, 本件土地を使用する必要性が高いことなどを主張したが, Yは, 正当事由の 存在を争った。 その後, 同年5月28日に開かれた第4回弁論準備手続の期日において, Xは, 以下の事実を 主張した。 「第3回弁論準備手続の期日の2日後である平成20年4月27日, Yから突然電話があり, 本件訴訟の件で話合いをしたいと言われたので, Xの自宅近くの喫茶店でYと会った。 Yは, 訴 - 2 - えを提起されている以上, Xの主張に対しては必要な反論をせざるを得ないが, Aの長男である Xと長期間にわたり訴訟で争うことは必ずしも自らの本意ではないと述べて, 本件建物をその時 価である500万円で買い取ってほしいと依頼してきた。 自分としては, 弁護士から, 建物買取 請求権という制度があるとの説明を受けたことがあり, 知り合いの不動産鑑定士から, 本件建物 の時価は500万円程度ではないかと聞いていたことから, 本来は, Yの費用で本件建物を収去 してほしいところではあるが, Yが本件建物から早期に退去してくれるのであれば, 500万円 で本件建物を買い取ることもやむを得ないと考えた。 そこで, Yに対し, 本件賃貸借契約が存続 期間の満了により終了したことを認めた上で, 本件建物を500万円で買い取ることを請求する のですかと確認したところ, Yは, そのとおりであると回答した。 このようにして, Yは, 本件 建物の買取請求権の行使の意思表示を行った。 」 以下は, 第4回弁論準備手続の期日が終了した直後に, 裁判長と傍聴を許された司法修習生と の間で交わされた会話である。 裁判長:本期日におけるXの主張についてはどのように理解すればよいでしょうか。 修習生:Xの主張は, Yが, Xに対し, 平成20年4月27日, 本件建物の買取請求権を行使 する旨意思表示をしたという主張であると理解できます。 裁判長:そうですね。 この主張は, 本件訴訟の主張立証責任との関係ではどのような意味を有 するのでしょうか。 修習生:本件訴訟において, Xは, 所有権に基づく建物収去土地明渡しを請求しています。 こ れに対し, Yは, 本件土地の占有権原に関する主張として, 建物の所有を目的とする本 件賃貸借契約をYとの間で締結し, それに基づき本件土地の引渡しを受けたと主張して いますが, Xは, 更に本件賃貸借契約が存続期間の満了により終了し, その更新拒絶に ついて正当事由があると主張しています。 Yによる建物買取請求権の行使は, 本件賃貸 借契約の存続期間が満了し, 契約の更新がないことを前提として, 借地権者であるYが, 借地権設定者であるXに対し, 本件建物を時価である500万円で買い取ることを請求 するものです。 裁判長:建物買取請求権の行使は, 本件訴訟のように建物収去土地明渡請求がされている場合 には, いずれの当事者が主張すべきものですか。 修習生:建物買取請求権の行使の事実を主張するのは, 本来, 借地権者であるYのはずです・ ・・。 しかし, 本件訴訟ではXが主張しています。 裁判長:Xとしては, 本件賃貸借契約が認められるのであれば, とにかくYに建物から早期に 退去してもらい, 土地を明け渡してほしいと望むことも考えられますが, Yによる建物 買取請求権の行使の事実が認められると, 本件建物の所有権は建物買取請求権の行使と 同時にXに移転することになりますから, 少なくとも, XはYに対し建物収去を求める ことはできなくなりますね。 ところで, 仮に, 裁判所が, Yに対し, 本件建物の買取請 求権の行使について釈明を求めた場合, Yとしては, どのような対応をすることが考え られるでしょうか。 修習生:Yの対応としては, @Yが本件建物の買取請求権を行使したというXの主張する事実 を争う場合, AXの主張する事実を自ら援用する場合, B裁判所が釈明を求めたにもか かわらず, Xの主張する事実を争うことを明らかにしない場合, の3通りが考えられる のではないでしょうか。 裁判長:そうですね。 本件賃貸借契約の終了が認められる場合において, Yが本件建物の買取 請求権を行使したというXの主張する事実を, 証拠調べをすることなく, 判決の基礎と することはできますか。 あなたが考えた3通りの各場合について検討してください。 修習生:はい。 わかりました。 - 3 - 〔設問1〕 前記会話を踏まえた上で, 本件賃貸借契約の終了が認められる場合において, 「YはXに対して 本件建物を時価である500万円で買い取るべきことを請求した」というXの主張する事実を, (i)Yが否認したとき, (ii)Yが援用したとき, (iii)Yが争うことを明らかにしなかったときに ついて, それぞれ, 証拠調べをすることなく, 判決の基礎とすることができるかどうかについて 論じなさい。 2 第1訴訟のその後の審理において, Yは, Xの主張する建物買取請求権の行使の事実を援用す るとともに, 本件建物の時価相当額である500万円の支払があるまでは本件建物の引渡しを拒 むと申し立てたことから, 裁判所は, 結局, Yに対し, 本件建物の代金500万円の支払を受け るのと引換えに本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命ずる旨の判決を言い渡し, その判 決は平成20年11月21日の経過により確定した。 Xは, 平成21年1月ころ, 親戚の集う新年会の席上, 親戚Bから, 「数年前にAと会った際, 本件土地をめぐってYとトラブルになっており, その件で, 今は亡き兄Cと相談していると言っ ていた。 」と聞いた。 そこで, Xは, すぐにAの亡兄Cの家族を訪ねて事情を聞いたところ, 確か に, 数年前にAが書類を封筒に入れて持参し, Cと2人で相談していたことがあったとのことで あり, AがC方に持参した書類は, 封筒に入れたまま保管しているとのことであった。 そこで, Xは, Cの家族からその封筒を受け取って自宅に戻り, 封筒内の書類を整理したところ, Aから Yにあてた平成18年4月3日付け内容証明郵便が見付かった。 同内容証明郵便には, Aが, Y に賃料支払の催告を行い, 2週間以内に未払賃料の支払がないときは本件賃貸借契約を解除する との意思表示を行った旨の記載があり, Yが同内容証明郵便を同月6日に受領したことを示す郵 便物配達証明書も同封されていた。 そこで, Xは, Yを被告として, 平成21年4月13日, 別紙の訴状をT地方裁判所に提出し て, 新たな訴え(以下「第2訴訟」という。 )を提起した。 これに対し, Yは, 弁護士に委任して 答弁書を裁判所に提出し, Xの提起した訴えは, 訴えの利益が認められないので却下されるべき であると主張するとともに, 第2訴訟におけるXの請求には, 第1訴訟の確定判決の効力が及ぶ ので, 第2訴訟の請求は, 少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきであると 主張した。 この答弁書の送達を受けたXは不安になり, 自分も弁護士に相談した方がよいと考え, 第2訴訟の第1回口頭弁論の期日の前に, D弁護士を訪れた。 以下は, Xから相談を受けたD弁護士と同弁護士の下で修習中の司法修習生との会話である。 弁護士:Xは, 第1訴訟の判決確定後に新たな事実が判明したとの理由から, Yに対して第2 の訴えを提起したのですね。 修習生:はい。 第2訴訟は, 賃料不払による賃貸借契約の解除の場合には建物買取請求権の行 使ができないことを前提とする訴訟です。 建物買取請求権は, 誠実な借地人の保護のた めの規定ですので, 借地人の債務不履行による賃貸借契約の解除の場合には, 借地人に は建物買取請求権は認められないとする最高裁判所の判例があります。 弁護士:よく勉強していますね。 次に, 第2訴訟の訴訟物について考えてみましょう。 第2訴 訟において, Xは, Yに対し, 本件土地の所有権に基づき, 本件建物の収去と本件土地 の明渡しを求めていますが, 土地所有者が, 土地上に建物を所有してその土地を占有す る者に対して, 所有権に基づき建物収去土地明渡しを請求する場合の訴訟物については, どのように考えられますか。 修習生:はい。 この場合の訴訟物については, 考え方が分かれていますが, 一般的な考え方に よれば, この場合の訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権1個で - 4 - あり, 判決主文に建物収去が加えられるのは, 土地明渡しの債務名義だけでは別個の不 動産である地上建物の収去執行ができないという執行法上の制約から, 執行方法を明示 するためであるにすぎないとされています。 したがって, 建物収去は, 土地明渡しの手 段ないし履行態様であって, 土地明渡しと別個の実体法上の請求権の発現ではないとい うことになります。 弁護士:その考え方に立つと, 第2訴訟の訴訟物と第1訴訟の訴訟物とが同一かどうかについ ては, どのように考えるべきでしょうか。 修習生:第1訴訟の判決は, Yに対し, 本件建物の代金500万円の支払を受けるのと引換え に, 本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命ずるものです。 建物収去土地明渡訴 訟の訴訟物について先ほどお話しした一般的な考え方に立つとすれば, 建物退去土地明 渡訴訟についても, 訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であり, 「建物退去」の点については「建物収去」の点と同様に, 土地明渡しの手段ないし履行 態様にすぎないと考えることができますので, その訴訟物は同一であるといえるかと思 います。 弁護士:そうですね。 ここでは, 第1訴訟と第2訴訟の訴訟物は同一であるという考え方を前 提として考えてみましょう。 ところで, Yは, 第2訴訟において, どのような主張をし ていますか。 修習生:Xの提起した訴えは, 訴えの利益が認められないので却下されるべきであると主張す るとともに, 第2訴訟におけるXの請求には, Yに対し, 本件建物の代金500万円の 支払を受けるのと引換えに本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命じた第1訴訟 の確定判決の効力が及ぶので, 第2訴訟の請求は, 少なくとも建物収去を求める部分に ついては棄却されるべきであると主張しています。 弁護士:Yの主張を理解するには, 建物収去土地明渡請求と, 建物代金の支払を受けるのと引 換えに建物退去土地明渡しを命ずる判決との関係をどのように考えるかが問題となりそ うですね。 まず, Yのそれぞれの主張について, その論拠をまとめてみた方がよいかも しれません。 その上で, それぞれの主張について, どのような反論をすべきか, 検討し てください。 修習生:はい。 わかりました。 〔設問2〕 前記会話を踏まえた上で, Xには第2訴訟について訴えの利益が認められないので, その訴 えは却下されるべきであるとするYの主張につき, その考えられる論拠を説明しなさい。 前記会話を踏まえた上で, 第2訴訟におけるXの請求には第1訴訟の確定判決の効力が及ぶ ので, 第2訴訟の請求は, 少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきである とのYの主張につき, その考えられる論拠を説明しなさい。 上記及びの論拠を踏まえた上で, 第2訴訟におけるYの主張に対し, Xとしてはいかな る反論をすべきかについて論じなさい。 - 5 - 【別 紙】 訴 状 平成21年4月13日 T地方裁判所 原 当事者の表示 告 X 印 (省略) 建物収去土地明渡請求事件 訴訟物の価額 (省略) 貼用印紙額 (省略) 第1 1 請求の趣旨 被告は, 原告に対し, 別紙物件目録1(省略)記載の建物を収去して同目録2(省略)記載 の土地を明け渡せ 2 訴訟費用は被告の負担とする との判決を求める。 第2 1 請求の原因 別紙物件目録2記載の土地(以下「本件土地」という。 )は, もと原告の父である訴外亡A(以 下「亡A」という。 )が所有していたところ, 平成19年2月3日, 亡Aが死亡した。 原告は, 亡Aの唯一の相続人であったことから, 本件土地を相続した。 2 被告は, 昭和53年8月10日から本件土地上に別紙物件目録1記載の建物(以下「本件建 物」という。 )を所有して, 本件土地を占有し続けている。 3 よって, 原告は, 被告に対し, 本件土地の所有権に基づき, 本件建物の収去及び本件土地の 明渡しを求める。 第3 1 事情 原告は, 被告に対し, かつて本件土地につき建物収去土地明渡しを求める訴えを提起したが (T地方裁判所(ワ)第○○号事件), 裁判所は, 亡Aと被告間の昭和53年3月8日付け土地 賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。 )の存在と被告の建物買取請求権の行使を前提に, 建物代金500万円の支払を受けるのと引換えに, 建物退去土地明渡しを命ずる旨の判決を言 い渡し, この判決は確定した。 2 しかし, もともと被告は, 平成16年分及び平成17年分の賃料の支払を怠り, 平成18年 4月6日配達の内容証明郵便によって, 亡Aから賃料不払を理由とする解除の意思表示を受け ていた。 したがって, 被告が建物買取請求権を行使した時点で, 本件賃貸借契約は消滅してい たのであって, 本件賃貸借契約の存続を前提にYが行った建物買取請求権の行使は無効な行為 というほかない。 被告は, 原告に対し, 本件建物を収去して本件土地を明け渡すべきである。 証 拠 方 法 (省略) 附 属 書 類 (省略) - 6 - 【資 ○ 料】 借地法(大正10年法律第49号) 第2条 借地権ノ存続期間ハ石造, 土造, @瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモ ノニ付テハ60年, 其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ30年トス但シ建物カ此ノ期 間満了前朽廃シタルトキハ借地権ハ之ニ因リテ消滅ス 2 契約ヲ以テ堅固ノ建物ニ付30年以上, 其ノ他ノ建物ニ付20年以上ノ存続期間ヲ定メタルト キハ借地権ハ前項ノ規定ニ拘ラス其ノ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス 第3条 契約ヲ以テ借地権ヲ設定スル場合ニ於テ建物ノ種類及構造ヲ定メサルトキハ借地権ハ堅固 ノ建物以外ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノト看做ス 第4条 借地権消滅ノ場合ニ於テ借地権者カ契約ノ更新ヲ請求シタルトキハ建物アル場合ニ限リ前 契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス但シ土地所有者カ自ラ土地ヲ使用 スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ於テ遅滞ナク異議ヲ述ヘタルトキハ此ノ 限ニ在ラス 2 借地権者ハ契約ノ更新ナキ場合ニ於テハ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ 附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得 3 第5条第1項ノ規定ハ第1項ノ場合ニ之ヲ準用ス 第5条 当事者カ契約ヲ更新スル場合ニ於テハ借地権ノ存続期間ハ更新ノ時ヨリ起算シ堅固ノ建物 ニ付テハ30年, 其ノ他ノ建物ニ付テハ20年トス此ノ場合ニ於テハ第2条第1項但書ノ規定ヲ 準用ス 2 当事者カ前項ニ規定スル期間ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ定ニ従フ - 7 - 論文式試験問題集[民事系科目第2問] - 1 - [民事系科目] 〔第2問〕(配点:200〔〔設問1〕から〔設問6〕までの配点の割合は, 1.4:4.8:3.8:3:4: 3〕) 以下の【事実】1から9までを読んで〔設問1〕から〔設問3〕までに, 【事実】10から14までを 読んで〔設問4〕に, 【事実】15から20までを読んで〔設問5〕及び〔設問6〕にそれぞれ答えよ。 【事実】 1.X株式会社(以下「X社」という。 )は, 機械を製造して販売する事業を営む会社である。 X 社が製造する機械のうち, 金属加工機械は, 25の機種があり, それぞれの機種に1つの型番 が付されていて, その型番はPS101からPS125までである。 Y株式会社(以下「Y社」という。 )は, ナイフやフォークなど金属製の食器を製造する事業 を営む会社である。 Y社が製造する商品の中でも, 合金を素材とするコップは, 特徴的なデザ インと独特の触感が好評を得ていて, 人気の商品である。 A株式会社(以下「A社」という。 )は, 物品を販売する事業を営む会社である。 A社は, 従 来, Y社に物品を納入してきた実績がある。 2.Y社は, 数年ぶりに, 主力商品のコップを製造するために使用する金属加工機械を更新する ことを決定し, これをA社から調達する方針を固め, Y社の役員であるBが, その実行に携わ ることとなった。 Bは, これまでA社との折衝に当たってきた従業員のCに対し, A社との交 渉においては, Y社の主力商品の製造に使用する高額の機械の調達であるから, 諸事について 慎重を期するよう指示した。 3.Cは, A社の担当者と相談したところ, X社製の型番PS112という番号で特定される機 種の金属加工機械を調達することが適切であると考えるに至った。 Cの意向を知ったA社の担 当者は, X社に問い合わせをし, 型番PS112の機械の在庫があることを確認した。 4.このようにして, YAの両社間で交渉が進められた結果, Y社は, 平成20年2月1日, A 社との間で, X社製の型番PS112の金属加工機械1台(新品)を代金1050万円(消費 税相当額を含む。 )で買い受ける旨の契約を締結した。 売買代金は, まず, そのうち200万円 を契約締結時に, また, 残金の850万円は目的物の引渡しを受ける際に, それぞれ支払うこ ととされた。 そして, Y社は, 同日, A社に代金の一部として200万円を支払った。 なお, A社は, 前記の売買契約を締結する際, 型番PS112の機械をX社から近日中に売 買により調達することをY社に伝えていた。 5.A社の担当者は, Y社との売買契約が締結された平成20年2月1日の夕刻, 改めてX社の 担当者に電話をし, Y社に転売する予定であることを告げた上, X社から同社製の型番PS 112の金属加工機械1台(新品)を購入するに当たっての契約条件を協議した。 この契約条 件の中には, AX間の売買代金額(消費税相当額を含む。 )を840万円とすること, 内金100 万円は銀行振込みとし, 残金740万円についてはA社が支払のために約束手形1通を振り出 して交付すること, 引渡しの時期及び場所のほか, 次に示す注文書の備考欄@Aの内容の条件 が含まれていた。 契約条件の協議が整った後, A社の担当者はX社の担当者に対し, 「後ほど発 注権限のある上司の決裁を得て, 正式に注文書をお送りしますのでよろしくお願いします。 」と 述べた。 A社の担当者は, 発注権限のある上司に対し, Y社に売り渡す型番PS112の機械 をX社から調達するための協議が整ったことの報告をし, その上司の決裁を得た上, 次の注文 書を作成し, これをX社の担当者に送付した。 この注文書の記載は, 担当者間の前記の協議内 容を反映するものであるが, 品名欄には, 型番の誤記があった。 - 2 - No.0751 平成20年2月4日 注 文 書 X株式会社 御中 ○県○市○区○町3−5−1 A株式会社 代表取締役 ○○○○ 印 下記のとおりご注文いたします。 (1) 品 名 貴社製の金属加工機械(型番PS122) (2) 数 量 1台 (3) 金 額 840万円(消費税を含む) (4) 支払方法 内金100万円は平成20年2月12日に貴社銀行預金口座に振込み。 残金は, 引渡完了の際に, 弊社振出の約束手形1通を交付(額面額74 0万円, 支払期日平成20年4月30日)。 (5) 引渡時期 平成20年2月15日 (6) 引渡場所 Y株式会社工場(○県○市○町1−4−12)に貴社から直接納品。 〔備考〕 @ 本件機械の所有権は, 弊社が上記(4)記載の代金を完済するまで貴社が留保し, 代 金完済時に移転するものとします。 A 弊社が上記(4)記載の代金の一部でも支払わない場合, 貴社は, 催告をすることな く直ちに契約を解除することができるものとします。 6.この注文書を受け取ったX社の担当者は, 受注を決定する権限のある上司に対し, A社の担 当者と協議した契約条件で型番PS112の機械の販売を受注したいと説明し, その決裁を得 た上, 平成20年2月7日, 【事実】5記載の注文書と同一内容である注文請書をA社に送付し た。 なお, この注文請書においても, 「(1) 品 名 弊社製の金属加工機械(型番PS122)」 と記載されていた。 同月8日, これを受け取ったA社の担当者は, 確かに注文請書を受け取っ た旨をX社に連絡した(以下このXA間の売買契約を「本件売買契約」という。 )。 そして, A 社は, X社に対し, 同月12日, 代金の一部として100万円をX社の銀行預金口座に振り込 んだ。 7.X社の納品作業を担当する従業員は, 注文請書の写しを参照しながら納品の準備を進め, 平 成20年2月15日の午前に, A社との約定により直接にY社の工場に, 型番PS122の機 械1台を搬入しようとした。 しかし, Y社の側から, 調達しようとしたのは型番PS112の 機械であることが指摘されたため, X社の前記従業員は, X社の受注事務担当者と連絡を取っ たところ, Y社の指摘のとおりであることが確認された。 そこで, いったん搬入を取りやめ, 改めて同日午後に型番PS112の機械1台をY社の工場に運んだ(以下この1台の機械を「動 産甲」という。 )。 Y社の担当者が, 間違いなく動産甲が型番PS112の機械であることを確 認し, 動産甲は, 滞りなく同日中にY社の工場に搬入された。 そこで, 同日, Y社は, A社に対し, 両社間の売買の残代金850万円を支払った。 また, - 3 - A社は, X社に対し, 支払期日を平成20年4月30日とするA社振出しの額面額740万円 の約束手形を交付した。 8.動産甲の取引を担当したA社の担当者は, 平成20年2月20日, Y社を訪ね, 搬入の過程 で機種の取り違いがあった不手際を詫び, それにもかかわらず一連の取引が無事に終了したこ とへの謝辞を述べた。 応接に当たったCは, 取引を慎重に進めるように求めた【事実】2記載 のBの指示を踏まえ, XAの両社間の代金決済について特にトラブルが起きていないか, とい うことを質した。 これに対し, A社の担当者は, 代金の一部が既に支払われていること, 及び 残代金の支払のため平成20年4月30日を支払期日とするA社振出しの約束手形を交付した ことを説明したが, 代金が完済されるまでX社が動産甲の所有権を留保していることは告げな かった。 Cは, この説明を受けたことで一応納得し, 直接にX社に対し取引経過を照会するこ とはしなかった。 9.その後, A社は, 平成20年4月30日に前記約束手形に係る手形金の支払をせず, そのこ ろに事実上倒産した。 そこで, X社は, A社に対し, 【事実】5記載の注文書の備考欄Aの特約 に基づき, 同年5月2日到達の書面により, 本件売買契約を解除する旨の意思表示をし, また, Y社に対し, 同年5月7日到達の書面により, 動産甲の返還を請求した。 しかし, Y社がこれ に応じないので, X社は, Y社に対し, 所有権に基づき動産甲の返還を請求する訴訟を提起し た(以下この訴訟を「本件訴訟」という。 )。 〔設問1〕 本件売買契約は, 何を目的物として成立したものであると考えられるか, 理由を付し て結論を述べなさい。 その際, 【事実】5記載の注文書及び【事実】6記載の注文請書にあった型 番誤記が本件売買契約の効力に影響を与えるか, 錯誤の成否にも言及しつつ述べなさい。 〔設問2〕 X社のY社に対する本件訴訟において, Y社が, 自己の即時取得によりX社が動産甲の所有 権を喪失したことを主張しようとするときに, 「A社が, 平成20年2月1日, Y社との間で, 【事実】4記載の売買契約を締結したこと」のほか, 次に掲げる事実@及び事実Aを主張立証 する必要があると考えられるか。 それぞれ理由を付して説明しなさい。 @ A社が, Y社に対し, 平成20年2月15日, 【事実】4記載の売買契約に基づき動産甲を 引き渡したこと。 A Y社が, @の引渡しを受ける際, A社がX社に対し代金全額を弁済していない事実を知ら なかったこと。 本件訴訟においてY社のする即時取得の主張に対し, X社から, それへの反論として「Y社 は, A社に動産甲の所有権があると信じたことについて過失がある。 」との主張がされた場合に おいて, Y社の過失の有無を認定判断する上で, 次に掲げる事実B及び事実Cは, どのように 評価されるか。 それぞれ理由を付して説明しなさい。 B 【事実】4記載のとおり, Y社が, A社がX社との売買により目的物を調達することを知 っていたこと。 C 【事実】8記載のとおり, Y社が, 本件売買契約の残代金が平成20年4月30日を支払 期日とする約束手形で支払われることを知っていたこと。 〔設問3〕 X社は, 本件訴訟において, Y社に対し, 動産甲の使用料相当額の支払も併せて請求 したいと考えた。 X社は, どのような法的根拠に基づいて, いつからの使用料相当額の請求をす ることができるか, 考えられる法的根拠を一つ示し, その法的根拠が成り立つ理由及びいつから の請求をすることができるかの理由を付して説明しなさい。 - 4 - 【事実】 以下の10から14までは, 【事実】1から9までのX社に関するものである。 10.X社は, 監査役会設置会社であり, 発行済株式総数(普通株式のみ)10万株, 株主数50 00人の上場企業である(単元株制度は採用していない。 )。 X社は, 財務状況が悪化したため, 同じ機械メーカーであり, X社の発行済株式の5%を長年保有して友好関係にあるZ株式会社 (以下「Z社」という。 )に対し, 事業の柱の一つである精密機械製造事業を譲渡するとともに, 同社との間に研究, 開発, 販売等の面における協同関係を築くことにより, この苦境を乗り切 ろうと考えた。 そして, X社は, 平成20年6月2日, Z社との間で, 事業の譲渡及び協同関 係の構築に向けた交渉を始めるための基本合意を締結した(以下この合意を「本件基本合意」 という。 )。 11.ところが, 本件基本合意の締結後, X社は, 財務状況の悪化が急速に進み, キャッシュフロ ーの確保も難しくなったため, 本件基本合意に基づくZ社への事業の譲渡によって得ることが できる対価による収入や, 同社との協同関係の構築だけでは, 企業としての存続が危うくなっ てきた。 12.そのような折, Z社のライバル企業である機械メーカーのD株式会社(以下「D社」とい う。 )がX社に対して合併を申し入れてきた。 合併の条件は, X社の普通株式4株にD社の普通 株式1株を交付するという合併比率によって, D社を吸収合併存続株式会社とし, X社を吸収 合併消滅株式会社とする吸収合併を行うというものであり, D社は, X社の精密機械製造事業 に魅力を感じ, 同事業を含めてX社の事業全部を吸収合併により取得することを申し入れてき たものであった。 13.X社の取締役会は, Z社よりも企業体力に優るD社に吸収合併されれば, X社は独立した企 業ではなくなるものの, 同社の財務状況の悪化やキャッシュフロー不足の問題が解決され, 事 業全体の存続や従業員の雇用の確保につながると考え, 平成20年10月8日, Z社との本件 基本合意を白紙撤回した上, D社から申入れのあったとおりの合併条件により, X社がD社に 吸収合併されることを受け入れることを決めた。 14.これに対し, Z社は, X社の精密機械製造事業を何としても手に入れたいと考え, X社に対 し, 本件基本合意に基づく事業の譲渡及び協同関係の構築の実現を迫り, D社との合併に反対 した。 Z社は, 本件基本合意に基づき, X社を債務者として, D社との合併の交渉の差止めの 仮処分命令の申立てを行ったが, 当該申立てが却下されたため, X社に対する本件基本合意違 反を理由とする損害賠償請求の訴えの提起を準備している。 また, Z社は, X社とD社の合併 は, 両社の企業規模や1株当たり純資産の比較, X社の培ってきた取引関係や評判等からすれ ば, その合併比率がX社の株主にとって不当に不利益なものとなっており, また, 私的独占の 禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。 )第15条第1項第1号に規定 する「当該合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に 当たり, 同法に違反するものであると主張し(独禁法違反の点は, 実際に認定され得るもので あった。 ), 合併に反対している。 〔設問4〕 Z社は, X社の株主としての権利を行使し, 合併契約の締結や当該合併契約の承認を 目的とする株主総会の招集を阻止したいと考えている。 Z社は, X社の株主として, どのような 会社法上の手段を採ることができるか。 理由を付して説明しなさい。 【事実】 【事実】10から14までのX社については, その後, 以下の15から20までの経過があった。 15.X社は, Z社の反対にもかかわらず, D社との間で合併契約を平成20年10月15日に締 結し, X社取締役会は, 当該合併契約の承認を目的とする臨時株主総会を同年12月1日に開 催することを決定したことから, 同社取締役は, その招集通知を発するとともに, 株主総会参 考書類及び次の議決権行使書面を株主に交付した。 - 5 - 議 決 権 行 使 書 株主番号 議決権行使個数 X株式会社 御中 私は, 平成20年12月1日開催の 貴社臨時株主総会(継続会又は延会を 含む。 )における議案につき, 右記の とおり(賛否を○印で表示)議決権を 行使します。 平成20年 月 日 議案につき賛否の表示 をされない場合は, 賛成 の表示があったものとし て取り扱います。 X株式会社 議案 個 第1号議案 (略) 賛 否 表 示 欄 株主 賛 否 住所 氏名 届出印 16.これに対し, Z社は, 合併条件がX社の株主にとって不利益であるとして, X社の株主に対 し, 合併契約の承認に反対する内容の委任状勧誘を行った。 このZ社による委任状勧誘は, 次 の委任状用紙に基づいて行われており, 金融商品取引法に従って行われたものであった。 委 私は, 1 任 状 を代理人と定め, 下記の権限を委任します。 平成20年12月1日開催予定のX株式会社臨時株主総会並びにその延会及び継続総 会に出席し, 下記議案につき, 私の指示(○印で表示)に従って議決権を行使すること。 ただし, 賛否を明示しない場合, 代理人名を記載しない場合及び原案に対し修正案が提 出された場合は, いずれも白紙委任します。 2 復代理人の選任の件 記 X株式会社とD株式会 社が平成20年10月 15日に締結した合併 契約の承認についての 議案 平成20年 月 原案に対し 賛 否 日 議決権行使個数 株主 個 住所 氏名 届出印 17.X社に議決権行使書面を提出して行使された議決権の数は, 合計3万6000個であった。 そのうち, 合併契約の承認議案に賛成と記載されていた数は5000個で, 同議案に反対と記 載されていた数は2000個, さらに, 同議案に対する賛否の記載がされていない数は2万 9000個であった。 これに対し, Z社に委任状を交付した株主の議決権の数は, 合計1万 2050個であった。 そのうち, 会社提案の合併契約の承認議案に反対と記載されている委任 - 6 - 状の議決権の数は2000個で, 同議案に賛成と記載されている委任状の議決権の数は50個, さらに, 同議案に対する賛否の記載がされていない委任状の議決権の数は1万個であった。 18.平成20年12月1日, X社の臨時株主総会が開催された。 この臨時株主総会において議決 権を行使することができる者を定める基準日現在において, X社は自己株式を保有しておらず, また, 相互保有株式も存在しなかった。 19.Z社は, X社の臨時株主総会の議場に1万2050株分のすべての委任状を持参し, 自ら保 有する5000株分と合わせて, 特に留保なしに, 合併契約の承認議案につき, 議決権を行使 して反対の意思表示を行った。 当該臨時株主総会におけるZ社以外のX社株主による議決権行 使(議決権行使書面によるものを除く。 )は, 合併契約の承認議案への賛成が6000個で, 反 対が1000個であった。 議場においては, X社とZ社が議案の当否及び投票内容の賛否への 算入方法をめぐって激しく対立し, 混乱したが, 定款の定めにより議長とされているX社の代 表取締役社長Eは, Z社の提出した議長不信任動議や, 投票数の算入方法に対する抗議を無視 し, 合併契約の承認決議の成立を宣言した。 20.その後, X社は, 平成21年4月1日を合併の効力発生日とする合併の登記を行うこととし ている。 〔設問5〕 X社の臨時株主総会において, 合併契約の承認議案に対し, 賛否それぞれどれだけの 数の議決権の行使があったと考えるべきか。 次の@及びAの場合に分け, それぞれ理由を付して 説明しなさい。 @ X社株主には, X社に議決権行使書面を提出しつつ, Z社に委任状を交付した者はいなかっ た場合 A X社株主には, X社に議決権行使書面を提出するとともに, Z社に委任状も交付し, いずれ においても合併契約の承認議案に対する賛否の欄に賛否を記載しなかったFがおり, 同人の有 する議決権が100個含まれていた場合 〔設問6〕 X社の臨時株主総会の終了後, Z社が合併の実現を阻止するためには, 会社法に基づ き, どのような手段を採ることができるか(〔設問4〕で解答した手段を除く。 )。 合併の効力が発 生する前と後とで分け, それぞれ理由を付して説明しなさい。 - 7 -