論文式試験問題集[刑事系科目] - 1 - [刑事系科目] 〔第1問〕(配点:100) 以下の【捜査の端緒及び経過】, 【逮捕後の甲の供述要旨】, 【逮捕後の乙の供述要旨】に基づき, 甲及び乙の刑事責任を論じなさい(ただし, 特別法違反を除く。 )。 なお, 各供述要旨の内容は信用 できるものとする。 【捜査の端緒及び経過】 1 捜査の端緒 平成17年2月10日(木)午前1時ころ, J県K町のM警察署に, J県警察本部通信司令 室から, 「K町内の居酒屋Tに強盗が侵入したとの通報あり。 同店の経営者丙が刺された模様。 現場に急行せよ。 」との指令があった。 2 捜査の経過 M警察署は, 直ちに警察官数名を現場に臨場させ捜査を開始したところ, 以下の事実関係が 明らかになった。 (1) @ 店内の状況等 Tは県道に面する一階平屋造りの建物であり, 周囲に駐車場がある。 建物内部は店舗と 事務室に分かれている。 出入口は店舗表口ガラス引き戸だけであり, 臨場時, 表口は施錠 されていなかった。 A Tの経営者は丙である。 丙は, T以外に, K町に隣接するL市内で飲食店2店を経営し ている。 Tの店長は甲である。 Tでは, 甲以外に従業員4名が稼働している。 同店の営業 時間は午後4時から午後11時までであり, 2月9日も通常どおり営業を行い, 午後11 時ころ閉店した。 B Tは現金払だけの店だが, 伝票を集計したところ, 2月9日の売上げが18万円だった ことが判明した。 しかし, 表口脇にあるカウンター上のレジスター及び事務室の金庫内に 現金はなかった。 なお, 臨場時, レジスターの引き出しが床に転がっており, 事務室の金 庫の扉が開いていた。 (2) @ 丙の死因等 丙は55歳の男性で, 健康状態に全く異常はなかった。 2月10日午前1時5分ころ, 救急車がTに到着し, 店舗内の床に倒れていた丙を直ちにK町総合病院に搬送したが, 同 日午前1時35分ころ, 同病院内で死亡した。 なお, 丙が倒れていた床付近に凶器と認め られる刃渡り約10センチメートルの果物ナイフが落ちており, 警察官が押収した。 A 司法解剖の結果, 丙の死因が腹部刺創による失血死であり, 刺創は, 左腹部に刺入口を 有し, 胃壁, 十二指腸及び動脈等を切断して深さ11.5センチメートルに達するもので あることが判明した。 B 2月10日午前4時ころ, Tから約2キロメートル離れたL市内の道路上に放置されて いた丙所有の普通乗用自動車(時価約200万円相当)が発見された。 (3) @ 甲及び乙の逮捕 Tの店長甲は, 現場に臨場した警察官に対し, 「忘れ物を取りに帰ったら, Tの店内が荒 らされ, 腹部から血を流している丙さんが床に倒れていたので, 直ちに119番通報した。 なお, 最近, 閉店後店の前をウロウロしている挙動不審の五十代の男を何度か見掛けた。 」 旨の供述をした。 A その後, M警察署に設置された捜査本部では, 現場に落ちていた果物ナイフから乙の指 紋を採取し, 同人に対する嫌疑を深めたため, 同年2月12日, 同人を任意同行して取り 調べたところ, 犯行を自供したことから, 同日, 乙を通常逮捕した。 さらに, 乙の供述に - 2 - より甲が共犯であることが判明したことから, 同月14日, 甲を通常逮捕した。 【逮捕後の甲の供述要旨】 1 K町出身で, 年齢は32歳, 独身である。 前科はない。 K町に隣接するL市内の高校を卒業 し, 職を転々とした後, 平成13年夏ころから居酒屋Tで働き, 同15年1月から店長をして いる。 乙は高校の先輩であり, 時々一緒に酒を飲む遊び仲間である。 乙は何度かTに来たこと がある。 2 Tの経営者は丙である。 Tは会社組織になっておらず, 丙の個人事業である。 丙は, T以外 に, L市内に飲食店2軒を経営している。 Tの店舗等はすべて丙の所有であり, 営業許可の届 出・税務申告等も丙名義で行われていた。 丙は, L市内の飲食店の切り盛りをした後, 毎日閉店間際の午後11時ころ, Tに来店し, 事務室で伝票のチェックや帳簿整理等の経理の仕事をするのが日課だった。 Tの売上金は, 営 業時間中は表口脇のカウンターに置かれたレジスターで管理し, 閉店後, 私が集計して伝票と ともに丙に渡していた。 丙は伝票と売上金を確認し, それを事務室内のダイヤル式金庫に入れ ていた。 なお, L市内の飲食店が忙しいために丙がTに寄らない時もあるが, このような場合 は, 私が売上金と伝票を確認した上で金庫に入れていた。 なお, 金庫のダイヤルの番号は私と 丙しか知らなかった。 売上金の管理以外のTの営業は私に任されていた。 具体的には, 接客, 酒・食材の仕入れ, 従業員の採用等はすべて私の判断で行っていた。 給与等の経費の支払は, 事前に丙に必要額を 申告して丙から受け取り, 私が支払っていた。 ただし, 丙が不在の折に急な支払が必要になっ たときなどは, 私の判断で売上金の中から支払を行い, その後, 丙に報告していた。 なお, 日 ごろ, 丙から「もっと売上げを伸ばせ。 」などと言われることはあるが, 営業内容に関する具体 的な指示を受けることはなかった。 そして, 毎月末, 私は丙から定額の給与を支給されていた。 給料が安いことに加え, 売上げが伸びないことを丙に怒られることが多く, 同人に腹を立て ていたので, 近いうちにTを辞めようと考えていた。 飲んだ席で, このような私の気持ちを乙 に漏らしたことがある。 3 平成17年2月9日午後10時ころ, 丙から「今日は別の店が忙しいので, Tに寄れない。 明日確認するから, 売上金と伝票を金庫に入れておいてくれ。 」との電話があった。 それで, 私 は, 営業時間終了後, 従業員を全員帰宅させた後, 売上金を確認し, 伝票とともに事務室の金 庫に入れた。 この日の売上げは合計18万円だった。 そして, 帰り支度をしていた午後11時50分ころ, 突然, 乙がTに来た。 私は, ちょうど 丙が不在だったので, 表口の鍵を開けて乙を店内に入れてやり, 再び, 鍵を閉めた。 乙がビールを飲みたいと言うので, 私はビールを出してやり, しばらく店内のいす席で雑談 をしていた。 そのうち, 少し酒が回ってきたこともあり, 私は気が大きくなって, 仕事の愚痴 をこぼしたり, 丙の悪口を言ったりした。 すると, 乙が「実は金がなくて困っている。 泥棒が 入ったようにして店の売上金を頂こう。 一緒にやろう。 」と言い出した。 最初は断ったが, 乙か ら「どうせ店を辞めるつもりだろう。 うまくやれば警察にばれない。 」などと言われ, 私もその 誘いに乗る気になり, 「分かった。 店を辞めるつもりなので, この際, 店の金を頂こう。 二人で 山分けにしよう。 」と答えた。 私は乙を残して事務室に行き, ダイヤル式の金庫を開けて2月9日の売上金である現金合計 18万円を取り出し, 自分のズボンのポケットに入れて店内に戻り掛けたが, その際, 取り分 をごまかそうと思い付いた。 それで, 店舗に戻った後, 乙に分からないように, 自分のポケッ トの中から現金5万円だけを出して乙に差し出し, 「今日の売上げは10万だったので, 山分け して5万ずつだ。 」と言った。 乙は「たった5万か。 売上げが10万しかないのか。 」などと不 服そうだったが, 私が「今日は客が少なかった。 いつもは15万くらい売上げがあるが, 今日 - 3 - は10万しかない。 」と言うと, 乙もあきらめた様子で, 「仕方がないな。 」と言いながら, 私が 差し出した現金5万円を受け取って自分の上着の内ポケットに入れた。 4 私はビール瓶やグラスを片付けた後, 乙に「店に忘れ物を取りに戻ったらガラスが割られ, 店内が荒らされていたことにしよう。 レジをひっくり返し, 表口のガラスを割って逃げよう。 」 と言うと, 乙も「いい考えだ。 」と言った。 私と乙は, 泥棒が金を探したように見せかけるため に, カウンター上のレジスターの引き出しを取り出して床に転がしたり, 事務室にある金庫の 扉を開けたりした上, 店舗と事務室の電気をすべて消した。 そして, 店の外から石を投げて表口のガラスを割ってから逃げようとした時, 店の前の駐車 場に車が入る音が聞こえたので, 私と乙は慌てて奥の事務室に入り, 事務室入り口横に置いて ある大型ロッカーの陰に隠れて様子をうかがっていた。 すると, 店の駐車場に車が止まり, 表 口の鍵を開けて人が入ってくる様子が分かった。 私は, 今日は店に来ないと思っていた丙が, 何かの都合でTに寄ったのだと分かり, 乙に「丙だ。 今日は来ないはずだったのに。 」と耳打ち した。 乙は小声で「このままだと二人とも警察に突き出される。 俺は執行猶予中なのでやばい。 顔を見られないように, 二人で殴り付けて気絶させて逃げよう。 」と言ったので, 私は「分かっ た。 」と答えた。 丙は店内を通り, 事務室の方に歩いてきた。 私は, 事務室の金庫を調べに来るのではないか と思った。 それで, 丙が事務室に入り掛けたところ, 丙に姿を見られないように, ロッカーの 陰から飛び出し, 背後から丙を羽交い締めにした。 丙は「だれだ。 泥棒。 」などと大声を出して 暴れ出した。 次の瞬間, 乙がやや前かがみになって身体ごと丙の腹付近にぶつかってきた。 丙 は「ギャ」と叫び声を上げて, その場に倒れた。 その時, 乙が右手にナイフを持っていることに気が付き, 乙がナイフで丙の腹を突き刺した ことが分かった。 私は乙がナイフを持っていることを全然知らなかったので, その予想外の行 動にびっくりした。 私が「殴るだけだと言ったじゃないか。 何で刺すんだ。 死んだらどうする。 」 と乙をなじったら, 乙は「顔を見られたと思った。 刺すしかなかった。 」と言った。 丙の様子を見ると, 床にうつ伏せに倒れ, 息も絶え絶えで, ぐったりしていた。 そして, 腹 部から流れ出た血が床に広がっていた。 私は丙が死んだら大変なので救急車を呼ぼうと思い, 店内の電話の方に向かい掛けたが, その時, 丙が倒れているそばの床に自動車のキーが落ちて いるのを見付けた。 この時, 私は, 私一人であれば警察をごまかせるが, 乙が捕まると私が共 犯であることがバレてしまうと思い, 乙だけでも早く逃がした方がいいと考えた。 それで, 乙 に「丙の車のキーだ。 表の駐車場に車が止まっているから, それに乗って逃げろ。 」と言ってキ ーを渡した。 乙は黙ってキーを受け取って表口から外に出て, 自動車で逃げた。 5 私は一人で店に残り, 助かってほしいとの思いから, 店内の電話で119番通報し, 「居酒屋 Tの店長甲です。 経営者丙さんが刺されて血を流している。 」などと説明した。 しばらくすると 救急車とパトカー数台が到着し, 救急車が丙を搬送していった。 そして, 臨場した警察官に事 情を聞かれたので, 私は「忘れ物を取りに帰ったら, 店内が荒らされていて丙が倒れていたの で, 119番通報した。 事務室の金庫に入れておいた売上金18万円がなくなっている。 強盗 ではないだろうか。 最近, 閉店後, 店の前をウロウロしている五十代の男を何度か見掛けた。 だれだか知らないが, あの男が怪しい。 」と作り話をした。 6 その後, 現場に落ちていたナイフの指紋から乙の犯行であることが分かったらしく, 2月1 2日, 乙が逮捕された。 そして, 乙の供述から私が共犯であることが分かってしまい, 2月1 4日, 私も逮捕された。 なお, 現金13万円には手を付けておらず, 全額押収された。 【逮捕後の乙の供述要旨】 1 L市の出身で, 年齢は34歳。 別居中の妻がいる。 窃盗罪で有罪判決を受け, 現在執行猶予 中である。 L市内の短大を卒業して同市内の会社に勤めたものの, 給料が安いので約3年で退 - 4 - 職し, その後職を転々としたが, 2年前に窃盗事件で逮捕され, 執行猶予付の有罪判決を受け た。 その後は仕事をしておらず, L市内の実家で居候をしている。 サラ金等から借りた合計約 200万円の借金があり, 返済を迫られて困っていた。 なお, 甲は高校の後輩であり, 時々一 緒に酒を飲む遊び仲間である。 甲は居酒屋Tの店長をしており, Tにも何度か飲みに行ったこ とがある。 甲は「経営者丙がうるさいので, 店を辞めるつもりだ。 」と言っていた。 2 2月9日は実家で父と飲んでいたが, 父が私の生活態度に不満を言い始めた。 借金の返済期 限が迫っていて約10万円の金が必要だったので, 父に無心しようと思っていたが, 口げんか になり, 午後10時ころ, 実家を飛び出した。 そして, L市内の行きつけのスナックに行き, つけでビールを飲みながら, 借金の返済の算段をしていた。 そのうち, 甲が, 最近, Tの店長を辞めたがっていたことを思い出し, 甲を誘い込んでTの 売上金をちょろまかし, 泥棒が入ったように見せかけようと考え付いた。 Tは客が入っている 様子なので, 少なくとも十数万円の金はあるだろうと思った。 Tの経営者は丙だと聞いていた が, 同人と面識はなかった。 私は, 甲と一緒にTの売上金を横取りしようと思ったが, 甲が協力しないと困るので, その 場合は, 甲をナイフで脅し付けて言うことを聞かせようと思い, スナックを出て実家に戻り, 台所にあった刃渡り約10センチメートルの果物ナイフを持ち出し, 外から見えないように上 着のポケット内に入れた上, K町のTに行った。 3 午後11時50分ころ, Tに着いた。 既に閉店時間を過ぎたらしく表口も閉まっていたが, ガラス戸を通して店内にいる甲が見えたので, ガラス戸をドンドンとたたくと, 甲が気が付い て鍵を開け, 店内に入れてくれた。 従業員は全員帰宅していた。 私は「ビールを一杯飲ませて くれ。 」と頼み, 店内のいす席で, 甲が出してくれたビールを飲みながら, 同人と雑談していた。 私は金の話を言い出す切っ掛けを考えていたが, そのうち酒が回ってきたのか, 甲が「先輩, 何かいいことないかな。 もう店長はやってられないよ。 丙はうるさい。 」などと仕事や丙に対す る愚痴をこぼし始めたので, いいタイミングだと思い, 「どうせなら店の金を横取りして辞めた らどうだ。 俺は金がなくてすごく困っている。 助けてくれ。 」などと言った。 最初, 甲は「すぐ にばれるよ。 」と渋っていたが, 私が「泥棒が入ったことにすればいい。 うまくやれば警察にば れない。 どうせ店を辞めるなら, 腹をくくれ。 」と何度も言うと, 甲も誘いに乗ってきて, 「分 かったよ。 一緒にやろう。 金は山分けだよ。 」と言った。 ところで, 私は甲が店長だと聞いていた上, 何度かTに来た時も甲が一人で店の切り盛りを していたので, 経営者は丙だとしても, 丙はTに来ることはなく, 甲が店長として売上金の管 理を含めたTの営業全般を任されているのだと思っていた。 4 私の誘いに乗った甲は「金を取ってくるので待っていてくれ。 」と言って, 奥の事務室に行き, しばらくして戻ってきた。 そして, 現金5万円を私の方に差し出し, 「今日は客が少なかった。 」 と言った。 私は期待していた金額よりも少なかったので, 「たった5万か。 売上げが10万しか ないのか。 」と言ったが, 甲が「いつもは15万くらい売上げがあるが, 今日は10万だけだ。 」 と答えたので, 私もあきらめ, 「仕方がないな。 」と言って現金5万円を甲から受け取り, 上着 の内ポケットに入れた。 なお, 逮捕された後, 取調べの際に刑事さんから, 実際の売上金は合 計18万円だったと聞かされたが, 私は甲の言葉を信じて10万円だと思っていた。 差額がど うなったのか全く分からない。 そして, 甲が「店に忘れ物を取りに戻ったら, 表口のガラスが割られ, 店内が荒らされてい たことにしよう。 」と言うので, いい考えだと思い, 二人で, 飲んだビール瓶やグラスを片付け た上, 泥棒が入ったように見せかけるために, カウンター上のレジスターの引き出しを取り出 して床に転がしたり, 事務室の金庫の扉を開けたりした上, 店舗及び事務室の電気をすべて消 した。 そして, 店内の偽装が終わったので, 外から石を投げて表口のガラスを割ってから逃げよう - 5 - と思っていた時, Tの駐車場に車が入る音が聞こえてきたので, 私と甲は, 慌てて事務室に逃 げ込み, 事務室入り口横にある大型ロッカーの陰に隠れた。 様子をうかがっていると, 駐車場 に車が止まり, 表口の鍵を開けて人が入ってくる様子が分かった。 甲が「丙だ。 都合で店に来 たらしい。 今日は来ないはずだったのに。 まずい。 」と耳打ちした。 私は丙に見つかってしまう と思い, 「このままだと二人とも警察に突き出される。 俺は執行猶予中なのでやばい。 二人で丙 を殴って気絶させよう。 そのすきに逃げよう。 」と言うと, 甲も覚悟を決めた様子で, 「分かっ た。 」と答えた。 二人でロッカーの陰に隠れていたら, 丙は店内を通って事務室の方に歩いてき て, 事務室内に入り掛けたが, その時, 甲がロッカーの陰から飛び出して, 背後から丙を羽交 い締めにした。 丙は「だれだ。 泥棒。 」と声を出して暴れ出した。 私は, 殴り付けて丙を気絶させようと考えていたが, 丙に顔を見られたらおしまいだと思う と気が動転してしまった。 それで, ポケットに隠してあった果物ナイフを出して利き腕の右手 に構え, 刃を前に向けながら, 無我夢中で丙の腹部を目掛けて力任せに突き刺したところ, 深 く刺さった感触があった。 丙は「ギャ」と叫び声を上げてその場に倒れた。 甲は驚いた様子で, 「殴るだけだと言ったじゃないか。 何で刺すんだ。 死んだらどうする。 」 と強い口調で怒ったが, 私は「顔を見られたらまずい。 刺すしかなかった。 」と言い返した。 丙 を見ると, 床にうつ伏せに倒れ, 息も絶え絶えでぐったりしており, 腹部から流れ出した血が 床に広がっていたので, 助からないと思った。 なお, 甲は私が果物ナイフを持っていることを 事前に知らなかったはずだ。 取調べの際に, 押収された果物ナイフを見せてもらったが, 私が丙を刺す時に使ったナイフ に間違いない。 5 丙を刺した後, 私は甲に「早く逃げよう。 」と言ったが, 甲は「二人で逃げたらまずい。 あん ただけ早く逃げろ。 」と言い, 自動車のキーを私に差し出しながら, 「丙の車のキーが落ちてい た。 表に車が止まっているから, それに乗って早く逃げろ。 」と言った。 私は, 丙が落とした車 のキーを甲が拾ったのだと思い, そのキーを受け取って外に出て, 止まっていた乗用車に乗り 込み, その場から逃げた。 私はしばらく車に乗った後に乗り捨てるつもりだった。 6 Tを出発して走っていたが, 救急車やパトカーのサイレンが聞こえてきたので怖くなり, L 市内の道路で車を乗り捨て, 歩いて実家に帰った。 そして, 2月10日及び2月11日は実家 で隠れていたが, 2月12日, 刑事さん達が実家に来て同行を求められたので, それに応じて K警察署に来た。 刑事さんの取調べを受けた際, 最初はとぼけていたが, 現場に落ちていたナ イフに私の指紋が付いていたことを告げられたので, 観念して犯行を自供したところ, 間もな く逮捕された。 逮捕後, 甲のことも含めて正直に供述したが, 数日後, 甲も逮捕されたようだ。 なお, 現金5万円は使っておらず, 全額押収された。 - 6 - 〔第2問〕(配点:100) 以下の事例を読んで, 後記の設問1から3に答えなさい。 【事例】 1 平成16年7月29日午後9時30分ころ, I警察署に, Aコンビニエンスストア(以下「A コンビニ店」という。 )店長Wから, 「店の横の路地でけんかがあり, 男の人が頭から血を出し て倒れているのですぐに来てください。 」という110番通報があった。 2 I警察署から連絡を受けたI警察署J交番の警察官X及びYの両名が, 同日午後9時45分 ころ, Aコンビニ店横の路地に臨場すると, 頭から血を流した40歳代の男性Vが倒れており, そのそばで, Wが倒れているVの頭を支えるようにしていた。 警察官Xが「どうしました, 大丈夫ですか。 」と声を掛けると, Vは, 「Aコンビニ店を出て 右横の路地に入ったところ, 後ろからいきなり固いもので殴られました。 殴られた弾みで前に うつ伏せに倒れたら, 今度は背中や腰などを数回足げにされました。 このとき, 『この野郎, な めたことをするからだ。 』などという声がしたので, 犯人は見ず知らずの者ではないと思います。 しかし, 私には犯人として思い当たる者はいません。 なお, けられた感じからして犯人は二人 組だと思います。 」と述べた。 Wは, 「店にいた二人組の男が, だれかを襲うようなことを話していたので, その様子を見て いると, 二人組の男は, 店にいた客のVが出ていった後を追い掛けるようにして店を出ていっ た。 私も気に掛かって店の外に出たところ, 怒鳴るような声が聞こえた。 そこで, その声がし た右横の路地に入ってみると, Vが倒れており, 二人組が逃げていくのが見えた。 Vのところ に駆け寄るとVが頭から血を出して倒れていた。 二人組のうち, 若い男は時々店に来ていた男 で, 駅前のCビルにあるB興産という名称の暴力団事務所に出入りしている男だと思う。 その 男は年齢20歳くらいで, 坊主頭だが, 今日は野球帽をかぶり, 白いTシャツを着ていた。 」と 述べた。 警察官X及びYは, 傷害事件と認め, 警察官Xが引き続き現場でVから事情聴取を行った。 警察官Yは, Wが供述した暴力団事務所の場所を確認するため, 同日午後10時15分ころ, 駅前のB興産という暴力団の事務所があるCビルに赴いた。 Cビルは, Aコンビニ店から約8 00メートル離れた雑居ビルで, 同ビル1階の郵便受けを見たところ, 同ビル3階にB興産の 事務所がある旨の表示があった。 そのとき, 甲が一人で同ビルの階段から1階に下りてきて, 警察官Yの前を通り過ぎようした。 警察官Yは, 甲が年齢20歳くらいの男性で, 野球帽をか ぶり, 白いTシャツを着ていたことから, この男が傷害事件の犯人の一人ではないかと考え, 甲に「君はこのビルの3階の人ですか。 」と尋ねたところ, 返事をしないで通り過ぎようとした ので, さらに, 「聞きたいことがあるのだけれど。 」と言って呼び止めた。 しかし, 甲は, 「関係 ねえだろう。 」と言って立ち去ろうとしたので, 警察官Yが右手で甲の右腕を押さえ, 「聞きた いことがあると言っているだろう。 」と言ったところ, 甲は, 警察官Yの手を振り払い, いきな りその場から走り出した。 そのため, 警察官Yは, 甲を追い掛けて約200メートル走ったと ころで追い付き, その右肩に手を掛けて甲を停止させ, 「お前は, Aコンビニ店横の路地で人を けがさせただろう。 」と言ったところ, 甲は, 観念したように「はい。 」と言って犯行を認めた。 警察官Yは, 「お前を逮捕するからな。 」と言って, 同日午後10時25分, その場で, 甲を現 行犯人として逮捕した。 そして, 警察官Yは, I警察署に連絡し, 10分後に到着したパトカ ーに甲を乗せてI警察署に連行し, パトカーは, 同日午後11時10分, I警察署に到着した。 I警察署到着後, Wに甲の顔を見せたところ, Wは, 甲がAコンビニ店にいた二人組の一人に 間違いない旨供述した。 3 その後, 甲は, 同月30日の取調べにおいて, 乙に指示されてVに暴行を加えた旨を供述し たので, I警察署においては, 直ちに乙に対する逮捕状を得て, 同日午後3時, B興産事務所 内にいた乙を逮捕状に基づいて逮捕した。 - 7 - 4 同月31日午前10時, 甲は, 乙と共謀して, Vに対して全治約1か月を要する頭部挫傷等 の傷害を負わせたという傷害罪の事実でK地方検察庁に送致された。 送致を受けたK地方検察庁の担当検察官Pは, 同日午前11時, 甲に対して弁解の機会を与 えたところ, 甲は逮捕事実をすべて認めた。 その後, 検察官Pは, 同日午前11時40分, 甲 を釈放した上, 同日午前11時41分, 同一事実で甲を緊急逮捕した。 検察官Pが甲に対して 弁解の機会を与えたところ, 甲は, 逮捕事実を認めた。 検察官Pは, 同日午後1時, K地方裁 判所裁判官に対して, 甲に対する逮捕状を請求し, 同日午後2時, K地方裁判所裁判官から甲 の逮捕状が発付された。 その後, 甲は, 検察官Pに対して, 次のような供述を行い, 供述録取 書が作成された。 ア 甲の供述要旨 私の年齢は21歳で, 父親が経営している飲食店で働き, 両親と同居しているが, 2か 月くらい前から, 暴力団であるB興産に出入りするようになった。 しかし, B興産の正式 な組員ではなく, B興産の組員である乙(30歳)の使い走りをし, 実家に帰らないとき はB興産の事務所又は乙の住んでいるアパートで寝起きをしている。 そのため, 実家に帰 るのは週に1, 2回であり, 家の仕事の手伝いもしなくなった。 私がVの後頭部を木製の丸こん棒で殴って倒し, その後, 私と乙の二人で, Vの背中や 腰を足げにした。 私がVに暴行を加えた理由は, 乙から指示されたからで, 私には, なぜVを襲うことに したのかは分からない。 また, Vを襲うまで, Vとは面識がなかった。 Vに暴行を加えたとき使用した木製の丸こん棒は乙から渡されたものである。 警察や検察庁で取調べを受けるのは, 今回が初めてで, 前科前歴はない。 検察官Pは, 同日午後5時, K地方裁判所裁判官に対し, 甲の勾留を請求した。 5 同月30日に逮捕された乙は, 逮捕後の取調べにおいて, Vに対する傷害について, 乙自身 の暴行及び甲との共謀のいずれについても否認しており, 同年8月1日に検察官に送致される 予定である。 〔設問1〕 K地方裁判所裁判官は, 甲を勾留することができるか。 前記事例中の事実を摘示して 論じなさい。 【事例(続き)】 6 甲及び乙に対して, それぞれ勾留状が発付され, 執行された。 甲は勾留された後, 犯行の経緯及び犯行状況について, 警察官及び検察官に対して, 後記イ のような供述を行い, 各供述録取書が作成された。 また, 乙は, 自己の関与を否認し, 警察官及び検察官に対して, 後記ウのような供述を行い, 各供述録取書が作成された。 イ 甲の供述要旨 私が犯行当日B興産の事務所にいたところ, 午後9時ころ乙から電話があり, 『今すぐ駅 前のAコンビニ店に来い。 』と言われたので出掛けた。 Aコンビニ店内には乙がおり, 乙は, 書籍棚で週刊誌を立ち読みしていたVの方を指して, 私に『あいつには痛い目に遭っても らわないかん。 店を出たらお前が後ろからまずやれ。 顔を見られないようにしろ。 』と言い ながら, 棒のようなものが入った紙袋を手渡してきた。 紙袋の中を見たところ木製の丸こ ん棒が入っていたので, 私は, これでVを殴れと言われたのだと分かった。 私は, Vとは 面識がなく, Vにけがをさせたくないと思ったが, ここで断ったら, 乙を怒らせてしまい, 二度とB興産に出入りすることができなくなると思った。 それに, 乙が後ろからやれと言 ったので, 最初に後ろからVの後頭部を殴ってしまえば顔を見られることはないし, 仮に - 8 - 見られても面識はないから, 私のことがばれることはないだろうと思い, 乙に言われたと おりやるしかないと決意した。 Aコンビニ店を出て右横の路地で, 私が木製の丸こん棒でVの後頭部を1回殴った後, 乙がVの背中をけ飛ばし始めたので, 私もVの背中や腰辺りをけ飛ばした。 乙は, 4, 5 回, 私も3, 4回Vの背中や腰辺りをけ飛ばした。 木製の丸こん棒は, 長さ約30センチメートル, 直径約3センチメートルである。 今後は暴力団との付き合いは絶ち, 父親の仕事の手伝いをしたいが, 父の飲食店は, B 興産の事務所の近くにあるので, 正直言うと, 乙に指示されたことや乙が暴行を加えたこ とを警察官や検察官に供述したことで, 乙やB興産の者にお礼参りされるのではないかと 心配だ。 できれば法廷では乙のことについて言いたくない。 ウ 乙の供述要旨 私は, 当日(7月29日), 甲と一緒にAコンビニ店にいたことは間違いないが, 甲に対 して, 「Vを痛めつけろ。 」というようなことを指示したことはない。 Vとは面識がある。 B興産の関係者が, 強制競売でマンションビルを競落したが, その マンションに居住しているVが立ち退きを拒否していたので, 私は, 競落した関係者と一 緒に, 立ち退きをお願いするためにVに一度会ったことがある。 私が会ったときも立ち退 きを拒否されたが, 今後も交渉を続けるつもりでいた。 立ち退きを拒否されたからといっ て, 私がVに暴力を加えようと思ったことはない。 当日は, 私がAコンビニ店で甲と一緒にいたところ, 甲は, Vの方に目をやり, Vが店 を出た後, Vを追い掛けるようにして店を出た。 私は, 甲がVに対して何かまずいことを するのではないかと心配になり, 甲を追い掛けて店を出たところ, 店の右横の路地にVが うつ伏せに倒れており, その背中を甲がけ飛ばしていたので, 私は, 甲の暴力をやめさせ, そのまま甲とともに逃げた。 私は一切Vに暴行を加えていない。 丸こん棒は, 私のもので あるが, なぜ, 甲がそのとき持っていたか分からない。 7 また, Vは被害状況について, 警察官及び検察官に対し, 次のような供述を行い, 各供述録 取書が作成された。 エ Vの供述要旨 私の住んでいるマンションが半年前に競売にかかり, 新しい所有者から, 部屋を出るよ うに言われるようになった。 しかし, 知人に相談したところ, 私の賃貸借契約はマンショ ンの差押え前に契約したもので, まだその期間が残っており, 直ちに退去する必要はなく, 退去する場合は, 立ち退き料がもらえるはずだと言われたので, 新しい所有者に対してそ のように言った。 すると, B興産の名刺を持った乙がマンションを訪ねてきたので, 乙に も同じことを言った。 今回私に暴行を加えたのが乙らであると, 後で警察官から聞いて分 かったが, その原因は, 私がマンションの立ち退きを断ったこと以外考えられない。 暴行 を加えられたとき, 背中の左右を同時にけられたこともあったので, 足げにしてきたのは 少なくとも二人だったと思う。 暴行を受けたとき, 犯人のうちの一人が, 「なめたことをす るからこういう目にあうんだ。 」と言っていた。 犯人の顔は見ていない。 8 甲, 乙両名は, 傷害罪の共同正犯として公判請求され, 併合して審理されることになった。 第1回公判期日において, 甲は, 公訴事実について, 甲が一人で行ったもので乙は関係ないと 主張し, 乙は, 捜査段階の供述のとおり, 公訴事実について, 自己の関与を否認した。 9 第2回公判期日において, 証人Wは, 次のような供述をした。 オ Wの供述要旨 Aコンビニ店の中で私が商品の整理をしているときに二人組が話をしていた。 二人組の 一人が30歳くらいの男で, もう一人が20歳くらいの男だった。 法廷にいる甲がその2 0歳くらいの男, 乙がその30歳くらいの男である。 甲は, 2, 3か月前から時々店に買 - 9 - い物に来ており, B興産の事務所に出入りしているのを見掛けたことがあったので, 暴力 団であるB興産の組員かその関係者かなと思っていた。 商品棚の整理をしながら二人組に 近づいたところ, 乙が, 甲に向かって, 「あいつには痛い目に遭ってもらわないかん。 店を 出たらお前が後ろからまずやれ。 顔を見られないようにしろ。 」などと話しているのが聞こ えた。 乙は, 話しながら甲に紙袋のようなものを渡していた。 甲と乙は, 雑誌棚で立ち読 みをしているVの方に時々目をやっていたので, Vを襲う相談をしているのではないかと 思った。 そして, Vが店を出た後, 甲と乙の二人が, Vの後を追うようにして出ていった。 それで, 私は, 気に掛かって店の外に出たところ, 店の右横の路地の方から, 怒鳴り声が 聞こえてきた。 しかし, 怖かったので, 私は, すぐにはその路地に入ることができず, 声 がやんでから恐る恐る路地に入ってみたところ, Vがうつ伏せに倒れており, 甲と乙の二 人が, 路地の奥の方に走って逃げていくのが見えた。 すぐに私がVの倒れていたところに 行くと, Vが後頭部から血を流していたので, 所持していた携帯電話で110番通報した。 10 第3回公判期日において, 被告人甲は, 次のような供述をした。 カ 公判廷における被告人甲の供述要旨 私がVに対し, 木製の丸こん棒で後頭部を殴打したこと, 背中を3, 4回足げにしたこ とは認める。 しかし, このことは, 乙から指示されたわけではない。 また, 乙は, Vに暴 行を加えていない。 木製の丸こん棒は, 私がB興産の事務所から持ち出した。 これ以外のことについては, 供述したくない。 供述したくない理由についても言いたく ない。 私の捜査段階における検察官に対する供述が法廷における供述と異なっていること は認めるが, なぜ異なっているか分からない。 〔設問2〕 第2回公判期日におけるWの前記オの供述の証拠能力について, 問題点を挙げて論じ なさい。 〔設問3〕 第3回公判期日における甲の前記カの供述を前提に, 捜査段階における甲の前記アの 検察官に対する供述録取書並びに前記イの警察官及び検察官に対する各供述録取書の証拠能力に ついて, 問題点を挙げて論じなさい。 - 10 -