論文式試験問題集[民事系科目第1問] - 1 - [民事系科目] 〔第1問〕(配点:100〔設問1と設問2の配点の割合は,2:8〕) 次の文章を読んで,後記の設問1及び設問2に答えよ。 1.Aは,自己の所有する土地建物(以下「本件不動産」という。)を活用して,株式会社を設立し てスーパーマーケット事業を営もうと考えた。しかし,Aは,本件不動産をスーパーマーケット の店舗に改装する資金を有していなかったので,友人Bに対し,同事業を共同して行うことを提 案した。Bは,Aからの提案を了承し,両者の間に,株式会社を設立してスーパーマーケット事 業を営む旨の合意が成立した。 2.そこで,A及びBは,いずれも発起人となって,発起設立の方法により,会社法上の公開会社 であり,かつ,株券発行会社である甲株式会社(以下「甲社」という。)を設立することとした。 A及びBは,発起人として,Aが金銭以外の財産として本件不動産を出資すること,その価額 は5億円であること及びAに対し割り当てる設立時発行株式の数は5000株であることを定 め,これらの事項を,書面によって作成する定款に記載した。そして,Aは,設立時発行株式の 引受け後遅滞なく,その引き受けた設立時発行株式につき,本件不動産を給付した(以下Aによ る本件不動産の出資を「本件現物出資」という。)。 他方,A及びBは,発起人として,Bが割当てを受ける設立時発行株式の数は1000株であ り,その株式と引換えに払い込む金銭の額は1億円であると定めた。そして,Bは,設立時発行 株式の引受け後遅滞なく,その引き受けた設立時発行株式につき,その出資に係る金銭の全額1 億円を払い込んだ。 なお,A及びBは,本件不動産の評価額を5億円とする不動産鑑定士の鑑定評価及び本件不動 産について定款に記載された5億円の価額が相当であることについての公認会計士の証明を受け た。そして,A及びBは,裁判所に対し,定款に記載のある本件現物出資に関する事項を調査さ せるための検査役の選任の申立てをしなかった。 設立中の甲社においては,A,B及びCが設立時取締役として選任され,Aが設立時代表取締 役として選定された。A,B及びCは,その選任後遅滞なく,本件不動産に係る不動産鑑定士の 鑑定評価及び公認会計士の証明が相当であること並びにA及びBによる設立時発行株式に係る出 資の履行が完了していることにつき調査をした。その後,甲社は,本店の所在地において設立の 登記をしたことにより成立し,Aが甲社の代表取締役に,B及びCが甲社の取締役にそれぞれ就 任した。そして,甲社は,本件不動産をスーパーマーケットの店舗(以下「甲店」という。)に改 装し,スーパーマーケット事業を開始した。 3.甲社は,成立後数年の間は,甲店におけるスーパーマーケット事業を順調に行い,好業績を上 げていた。そして,Bは,甲社の取引先に対し,自己の所有していた甲社の株式の一部を譲渡し た。 ところが,その後,大手ディスカウントストアが甲店の近隣に出店したことにより,甲社のス ーパーマーケット事業には,急速に陰りが出始めた。そこで,甲社は,運転資金が必要となった ため,乙銀行株式会社(以下「乙銀行」という。)に甲店の大規模改装に必要な資金の名目で2億 円の融資を申し入れた。これに対し,乙銀行の担当者は,甲社の近時における業績の低迷等を見 て懸念を感じ,甲社に対し, 「甲店の大規模改装に必要な資金2億円のうち,半分の1億円を増資 等により自ら調達するなどすれば,残りの1億円につき融資することも考えられないことはな い。」と返答した。 そこで,甲社は,Aの提案により,丙株式会社(以下「丙社」という。)を割当先とする募集株 式の発行を行うこととした。甲社の取締役会は,募集株式の数1000株,募集株式1株と引換 えに払い込む金銭を10万円とするなどと定めた。丙社は,当該募集株式の割当てを受けて,甲 社の取締役会が定めた募集株式の払込みの期日に,募集株式の払込金額の全額1億円を払い込ん - 2 - だ。そこで,甲社は,募集株式の発行による変更の登記をし,また,その払込み後遅滞なく甲社 の株式1000株に係る株券を発行し,丙社に同株券を交付した(以下甲社による当該募集株式 の発行を「本件募集株式発行」という。)。 4.その後,甲社は,乙銀行に対し,増資が完了し,現金1億円を確保したことを伝え,大手ディ スカウントストアに対抗するため,改めて,甲店の大規模改装に必要となる資金の残額として1 億円の融資を申し入れた。これに対し,乙銀行は,甲社に対し,甲社の計算書類及び登記事項証 明書等を提示するよう求めた。そこで,Aは,乙銀行に対し,本件募集株式発行がされたこと及 び本件募集株式発行に際し払い込まれた現金1億円が甲社にあることを表示している甲社の貸借 対照表(資料@は,その概要)等の計算書類及び登記事項証明書(資料A)を提示した。乙銀行 は,これらの内容を確認した上で,甲社に対する1億円の融資を決定し,甲社に対し,1億円を 貸し付けた。 なお,これに先立ち,甲社の取締役会は,A,B及びCの全員一致で,乙銀行から1億円の融 資を受けることを決定していた。 5.ところが,甲社は,乙銀行からの上記融資後も甲店の改装を行わず,甲社の顧客の多くが引き 続き大手ディスカウントストアに流れたため,業績を回復させることができなかった。乙銀行は, 程なく,甲社が破綻したこと,そのため,乙銀行の甲社に対する貸付債権のほぼ全額が回収不能 となったことを知った。 6.その後,乙銀行が甲社の破綻及び乙銀行の甲社に対する貸付債権がほぼ全額回収不能となるに 至った経緯を調査した結果,以下の事実が判明した。 本件不動産は,本件現物出資の当時,土地に土壌汚染が存在し,甲社の定款作成の時及び成 立の時における客観的価値は,いずれも1億円にすぎなかった。また,甲社の設立当時,Aは, 当該土壌汚染の存在を認識していたが,Bは,当該土壌汚染の存在を認識しておらず,本件不 動産に係る鑑定評価や証明を行った不動産鑑定士及び公認会計士は,その当時,当該土壌汚染 の存在や,これにより定款に記載された本件不動産の価額が相当でないことを認識していなか った。 丙社は,Aが実質的に発行済株式の全部を所有していた。本件募集株式発行に際し,丙社の 代表取締役Dは,Aの指示を受けて,丁銀行株式会社(以下「丁銀行」という。)から払込金相 当額の9割に相当する9000万円を借り入れ,それを丙社がねん出することができた資金1 000万円と併せて,本件募集株式発行の払込みに充てた上,Aが,当該払込みがされた日の 翌日,募集株式の発行による変更の登記の申請に必要な手続をすると直ちに,当該払込みに係 る資金のうち9000万円を甲社の口座から引き出して,丙社の代表取締役Dに交付し,Dが, 丙社の代表取締役として,直ちに,この資金をもって,丁銀行に対し,9000万円の借入金 債務を弁済した。その後,Aは,甲社の貸借対照表(資料@は,その概要)等の計算書類を作 成し,乙銀行に対し,同計算書類や登記事項証明書(資料A)を示していた。 Bは,Aに本件募集株式発行に関する手続を実質的に一任しており,その当時,本件募集株 式発行に係る払込みやAのDに対する9000万円の交付等に関する上記一連の事情を認識し ていなかった。 なお,本件募集株式発行の払込金額は,丙社に特に有利な金額であるとはいえなかった。 〔設問1〕 本件現物出資に関し,会社法上,A及びBが甲社に対して負担する責任について,説 明しなさい。 〔設問2〕 本件募集株式発行に関し,@払込みの効力及び発行された株式の効力について論じた 上,会社法上,AA,B及び丙社が甲社に対して負担する責任並びにBA及びBが乙銀行に対し て負担する責任について,説明しなさい。 - 3 - 【資料@】 貸借対照表の概要 (平成〇〇年〇月〇日現在) (単位:千円) (資産の部) 流動資産 現 金 (略) (負債の部) (略) 120,000 80,000 固定資産 建物及び土地 (略) 負債合計 (純資産の部) 50,000 株主資本 500,000 資本金 350,000 50,000 資本準備金 350,000 純資産合計 700,000 資産合計 750,000 負債・純資産合計 750,000 (注) 現金1億2000万円のうち,1億円は,本件募集株式発行の払込みに係るものであ る。また,建物につき減価償却は考慮しない。 - 4 - 【資料A】 履歴事項全部証明書 〇〇県〇〇市〇〇〇〇一丁目1番1号 甲株式会社 会社法人等番号 (略) 商 号 甲株式会社 本 店 公告をする方法 〇〇県〇〇市〇〇〇〇一丁目1番1号 (略) 会社成立の年月日 目 的 平成〇〇年〇月〇〇日 1.スーパーマーケットの経営 2.〇〇〇 3.前各号に附帯する事業 発行可能株式総数 発行済株式の総数 並びに種類及び数 〇万株 発行済株式の総数 6000株 発行済株式の総数 7000株 平成〇〇年〇〇月〇〇日変更 平成〇〇年〇〇月〇〇日登記 資本金の額 金3億円 金3億5000万円 平成〇〇年〇〇月〇〇日変更 平成〇〇年〇〇月〇〇日登記 役員に関する事項 取締役 取締役 A B 取締役 C 〇〇県〇〇市〇〇〇〇二丁目2番2号 代表取締役 A 取締役会設置会社 に関する事項 監査役 〇〇〇〇 取締役会設置会社 監査役設置会社に 関する事項 監査役設置会社 登記記録に関する 事項 設立 平成〇〇年〇〇月〇〇日登記 これは登記簿に記録されている閉鎖されていない事項の全部であることを証明 した書面である。 平成〇〇年 〇月 〇日 〇〇地方法務局 登記官 法 務 太 * 下線のあるものは抹消事項であることを示す。 - 5 - 郎 1/1 論文式試験問題集[民事系科目第2問] - 1 - [民事系科目] 〔第2問〕(配点:200〔 〔設問1〕から〔設問5〕までの配点の割合は,3.5:4:3.5:6.5:2.5〕) 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問5〕までに答えなさい。 T 【事実】 1.印刷や製版の工場を個人で営むAとその妻であるBとの間には,昭和58年8月20日にC 男が生まれた。やがて平成5年にBが病没すると,Aは,平成6年2月にDと婚姻した。この時, Dには子としてE女があり,Eは,昭和60年2月6日生まれである。 Aには,主な資産として,工場とその敷地のほかに,当面は使用する予定がない甲土地があ り,また,甲土地の近くにある乙土地とその上に所在する丙建物も所有しており,丙建物は,事 務所を兼ねた商品の一時保管の場所として用いられてきた。これら甲,乙及び丙の各不動産は, いずれもAを所有権登記名義人とする登記がされている。 2.Cは,大学卒業後,いったんは大手の食品メーカーに就職したが,やがて,小さくてもよい から年来の希望であった出版の仕事を自ら手がけたいと考え,就職先を辞め,雑誌出版の事業を 始めた。そして,事業が軌道に乗るまで,出版する雑誌の印刷はAの工場で安価に引き受けても らうことになった。 3.そのころ,Aは,事業を拡張することを考えていた。そこで,Aは,金融の事業を営むFに 資金の融資を要請し,両者間で折衝が持たれた結果,平成19年3月1日に,AとFが面談の上, FがAに1500万円を融資することとし,その担保として甲,乙及び丙の各不動産に抵当権を 設定するという交渉がほぼまとまり,同月15日に正式な書類を調えることになった。なお, このころになって,Cの出版の事業も本格的に動き出し,そのための資金が不足になりがちで あった。 4.ところが,平成19年3月15日にAに所用ができたことから,前日である14日にAはF に電話をし, 「自分が行けないことはお詫びするが,息子のCを赴かせる。先日の交渉の経過を 話してあり,息子も理解しているから,後は息子との間でよろしく進めてほしい。」と述べ,こ れをFも了解した。 5.平成19年3月15日午前にFと会ったCは,Fに対し, 「父の方で資金の需要が急にできた ことから,融資額を2000万円に増やしてほしい。」と述べた。そこで,Fは,一応Aの携帯 電話に電話をして確認をしようとしたが,Aの携帯電話がつながらなかったことから,Aの自宅 に電話をしたところ,Aは不在であり,電話に出たDは,Fの照会に対し「融資のことはCに任 せてあると聞いている。」と答えた。これを受けFは,同日に,融資額を2000万円とし,最 終の弁済期を平成22年3月15日として融資をする旨の金銭消費貸借の証書を作成し,また, 2000万円を被担保債権の額とし,甲,乙及び丙の各不動産に抵当権を設定する旨の抵当権設 定契約の証書が作成され,Cが,これらにAの名を記してAの印鑑を押捺した。 6.この2000万円の貸付けの融資条件は,返済を3度に分けてすることとされ,第1回は平 成20年3月15日に500万円を,次いで第2回は平成21年3月15日に1000万円を, そして第3回は平成22年3月15日に500万円を支払うべきものとされた。また,利息は, 年365日の日割計算で年1割2分とし,借入日にその翌日から1年分の前払をし,以後も平成 20年3月15日及び平成21年3月15日にそれぞれの翌日から1年分の前払をすることと した。なお,遅延損害金については,同じく年365日の日割計算で年2割と定められた。 7.同じ3月15日の午後にAの銀行口座にFから2000万円が振り込まれた。これを受けC - 2 - は,同日中に,日ごろから銀行口座の管理を任されているAの従業員を促し500万円を引き出 させた上で,それを同従業員から受け取った。 また,甲,乙及び丙の各不動産に係る抵当権の設定の登記も,同日中に申請された。これら の抵当権の設定の登記は,甲土地については,数日後に申請のとおりFを抵当権登記名義人とす る登記がされた。しかし,乙及び丙の各不動産については,添付書面に不備があるため登記官か ら補正を求められたが,その補正はされなかった。その後, 【事実】9に記すとおり,AF間に 被担保債権をめぐり争いが生じたことから,乙及び丙の各不動産について抵当権の設定の登記 の再度の申請がされるには至らなかった。 8.翌4月になって,甲,乙及び丙の各不動産の登記事項証明書を調べて不審を感じたAは,C を問いただした。Cは,乙及び丙の各不動産について手続の手違いがあって登記の手続が遅れて いると説明し,また,自分の判断で2000万円の借入れを決めたことを認めた。 9.借入れの経過に納得しないAは,弁護士Pに相談した。そして,Aは弁護士Pを訴訟代理人 に選任した上で,平成19年6月1日,Fに対し,平成19年3月15日付けの消費貸借契約 (以 下「本件消費貸借契約」という。)に基づきAがFに対して負う元本返還債務が1500万円を 超えては存在しないことの確認を求める訴え(以下「第1訴訟」という。)をJ地方裁判所に提 起した。 〔設問1〕 【事実】1から9までを前提として,Fが,第1訴訟において,AがCに借入れの代 理権でその金額に限度のないものを授与したとする主張,及びAがCに借入れの代理権でその金 額の限度を1500万円とするものを授与したとする主張とを選択的にしたとする場合,それぞ れの主張にとって,次に掲げる事実@及び事実Aは法律上の意義を有するか,また,それを有す ると考えられるときに,どのような法律上の意義を有するか,それぞれ理由を付して解答しなさ い。 @ 【事実】4に記す事実のうち,AがFに電話をして,3月15日に赴かせるCには交渉の経 過を話してあり,それをCが理解しているから,後はCとの間でよろしく進めてほしい,と述べ たこと。 A 【事実】5に記す事実のうち,Fが,Aの携帯電話に電話をして融資額の変更を確認しよう としたが,Aの電話がつながらなかったこと。 U 【事実】1から9までに加え,以下の【事実】10から14までの経緯があった。 【事実】 10.Eは,AとDが婚姻して以来,A,D及びCと同居しており,その後は,Cと年齢が近かっ たこともあって,お互いに様々な悩みについて相談し合ったり,進路についてアドバイスをし合 ったりしていたが,平成19年6月中旬ころ,Cの勧めもあって,Eは,Aらとの同居をやめて 独立し,幼なじみのG女を誘って一緒に事業を始めることを決意した。そして,Eは,同月,ア パートを借りてGと同居生活を始めた。 11.平成19年7月,Aは,乙土地及び丙建物につきFを抵当権者とする抵当権の設定の登記が されていないことに乗じて,Eに対し, 「いつもCの相談相手になり,励ましてくれてありがと う。私としては,今後もCにとって信頼できる友人として付き合ってほしいと願っている。また, 独立して自分の道を歩もうとする君を大いに支援したいので,乙土地及び丙建物を君に贈与し たい。」と述べた。 12.Eは,AがFから金銭を借り入れた事情や,その担保として甲土地,乙土地及び丙建物にF のための抵当権を設定する契約が結ばれたものの,乙土地及び丙建物については抵当権の設定 - 3 - の登記がされていないことなどについて,平成19年4月ころにAとCが話しているのを耳に しており,同年7月の時点でも,乙土地及び丙建物については抵当権の設定の登記がされてい ないことを知っていた。 13.しかし,Eは,Aから乙土地及び丙建物の贈与を受けることができれば,丙建物を取り壊し て自分の住居を建築することができると算段し,乙土地及び丙建物にFのための抵当権の設定 の登記がされていない事情を十分に認識した上で,Aによる乙土地及び丙建物の贈与の申出を 受け入れ,平成19年7月27日,乙土地及び丙建物につき,贈与を登記原因としてAからE への所有権移転登記がされた。 14.平成19年8月19日,Eは,乙土地上に自己の居住用建物を建築するため,同土地上にあ った丙建物を取り壊した。これを知ったFは,弁護士Qを訴訟代理人に選任した上で,Eに対し, 抵当権の侵害による不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起することとした。 〔設問2〕 【事実】1から14までを前提として,以下の及びに答えなさい。 【事実】14に記す訴えに係る訴訟においてFの損害をどのようにとらえるべきかを検討する に当たり,留意すべき事項を挙げ,それらの事項についてどのように考えるべきか,想定され る反論も考慮しつつ論じなさい。 弁護士Qは, 【事実】14に記す訴えに係る訴訟において,Eから, 「丙建物については,Fのた めに抵当権の設定の登記がされていなかったので,Fは,Eに対し,Eの不法行為を理由とする 損害賠償を請求することができない。」と反論されることを想定した。この反論の当否について, どのような再反論をすることができるかを含め,論じなさい。 V 【事実】1から14までに加え,以下の【事実】15から17までの経緯があった。 【事実】 15.平成19年9月10日,Fは「被告E」と訴状に記載して, 【事実】14に記す訴え(以下「第 2訴訟」という。)をJ地方裁判所に提起した。第2訴訟は,被告側に訴訟代理人が選任されな いまま進行した。第1回口頭弁論期日が開かれた後,口頭弁論が続行され,第3回口頭弁論期日 までの間に,双方から事実に関する主張及びそれに対する認否が行われた。 16.弁護士Qは,第4回口頭弁論期日にこれまでどおり出頭し,J地方裁判所の法廷入口に用意 された期日の出頭票の原告訴訟代理人氏名欄に自らの名前をボールペンで書き入れようとした 際,これまでの口頭弁論期日にEとして出頭していた人物が,同じく出頭票の被告氏名欄にボー ルペンで「G」という氏名を記載した後に,慌ててその名前を塗りつぶして, 「E」と記載した ところを目撃した。 そこで,弁護士Qは,不審に思い,第4回口頭弁論期日の冒頭において,Eとして出頭した 人物に対し, 「あなたは,先ほど,出頭票に「G」という今まで見たことがない名前を書いてい ませんでしたか。訴状には, 「被告E」と記載されています。あなたは,本当にEさんですか。」 と問いただした。すると,Eとして出頭した人物は, 「実は,私は,Eと同居しているGです。」 と述べ,次回期日には,Eを連れてくる旨を確約した。裁判所は,口頭弁論を続行することとし, 第5回口頭弁論期日が指定された。 17.その後,第2訴訟に係る経緯をGから聞いたEは,訴訟代理人として弁護士Rを選任した。 そして,第5回口頭弁論期日には,弁護士Q並びにE,G及び弁護士Rが出頭した。 第5回口頭弁論期日においては,E本人が訴状の送達を受け,Gに対応を相談したところ,G が, 「この裁判は,あなたの身代わりとして私がするから任せてほしい。」と申し出たので,Eが Gに対し「任せる。」とこたえた,という事実が確認された。 そして,弁護士Rは,「これまでにGがした訴訟行為は,すべて無効である。」と主張し,裁 - 4 - 判所に対し,これを前提として手続を進めることを求めた。 これに対し,弁護士Qは, 「弁護士Rの主張は認められない。Gがした訴訟行為の効力はEに 及ぶ。」と主張した。 〔設問3〕 【事実】1から17までを前提として,第2訴訟において,訴状の送達後,Gが第3回 口頭弁論期日までの間にした訴訟行為の効力がEに及ぶかどうかについて,理由を付して論じな さい。 W 【事実】1から9までに加え,以下の【事実】18から20までの経緯があった。 【事実】 18.第1訴訟の第1回口頭弁論期日は,平成19年7月27日に開かれ,訴状の陳述などが行わ れた。その後数回の期日を経て,平成20年4月11日に口頭弁論が終結し,同年6月2日にA の請求を全部認容する旨の終局判決が言い渡され,この判決が確定した。 19.平成21年4月23日に,Aは,弁護士Pを訴訟代理人に選任した上で,Fに対し,被担保 債権(被担保債権は, 【事実】9に記した本件消費貸借契約上の貸金返還請求権のみであるとす る。)の全額が弁済により消滅したことを理由として,J地方裁判所に,甲土地の所有権に基づ き甲土地に係る抵当権の設定の登記の抹消登記手続を求める訴え(以下「第3訴訟」という。) を提起した。 20.第3訴訟の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは,被担保債権に関し, 「本件消費貸借契 約に基づきAがFに対して負う元本返還債務の金額は1500万円であるところ,AはFに対 し,平成20年3月15日に500万円,平成21年3月15日に1000万円をそれぞれ弁済 した。」と主張した。 この期日において,弁護士Pは,裁判長の釈明に対し, 「平成20年3月15日にされた弁済 が第1訴訟において主張されなかったのは,Aが,同弁済が第1訴訟において意味がある事実だ とは思わなかったので,私に連絡を怠ったためである。」と陳述した。 これに対し,Fの訴訟代理人である弁護士Qは,弁護士Pの被担保債権に関する主張のうち, 平成20年3月15日の弁済については次回の口頭弁論期日まで認否を留保し,その余は認め る旨の陳述をした。 〔設問4〕 【事実】1から9まで及び18から20までを前提として,第3訴訟に関する次の及び に答えなさい。 第3訴訟の第1回口頭弁論期日後数日してされた次の弁護士Qと司法修習生Sの会話を読ん だ上で,あなたが司法修習生Sであるとして,弁護士Qが示した課題(会話中の下線を引いた部 分)を検討した結果を理由を付して述べなさい。 ただし,信義則違反については論ずる必要がない。 なお,貸金返還請求権については,利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。 Q: 第1訴訟の確定判決の既判力が第3訴訟で作用することは理解できますか。 S: 第3訴訟の訴訟物は,所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消 登記請求権ですから,抵当権が消滅したかどうかが争点になります。そして,抵当権 が消滅したかどうかを判断するためには,抵当権の付従性から,被担保債権が消滅し たかどうかを判断しなければなりません。つまり,被担保債権である本件消費貸借契 約上の貸金返還請求権の存否が,訴訟物である抵当権設定登記抹消登記請求権の存否 にとって,いわゆる先決関係にあるということになります。 - 5 - Q: そのとおりです。ですから,第1訴訟の確定判決の既判力の作用によって,私たち は,第3訴訟で,第1訴訟の口頭弁論が終結した平成20年4月11日の時点で,本 件消費貸借契約上の元本返還請求権の金額が1500万円を超えていたことを主張で きなくなります。この点は分かりますか。 S: はい。 Q: ところが,Aは,第3訴訟で,第1訴訟の口頭弁論終結前の平成20年3月15日 にされた弁済を主張してきましたね。このような主張は許されてよいものでしょうか。 S: 確かにそうですね。信義則に反すると思います。 Q: いきなり信義則違反に飛び付くのは,いかがなものでしょうか。最終的には,信義 則違反の主張をすることになるかもしれませんが,その前に,Aの弁済の主張が第1 訴訟で生じた既判力によって遮断されるかどうかを検討すべきではないでしょうか。 S: すみません。先走り過ぎました。 Q: 第1回口頭弁論期日が終わってから,私なりに既判力について考えてみました。そ の結果,二つの法律構成が残ったのですが,そこから先の検討がまだ済んでいないの です。第2回口頭弁論期日のための準備書面をそろそろ書き始めなければなりません ので,あなたにも協力してほしいのです。 S: 分かりました。 Q: では,二つの法律構成を説明します。 第1の法律構成(法律構成@)は,第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体であっ て,Aの「1500万円を超えては存在しない」ことの確認を求めるという請求の趣 旨は,例えば「1200万円を超えては存在しない」というような,より原告に有利 な判決を求めないという意味において,原告が自ら,請求の認容の範囲を限定したも のにすぎない,というものです。このように考えると,既判力の対象はあくまでも, 元本返還債務の全体ですから,第1訴訟の確定判決の既判力によって,「平成20年 4月11日の時点で元本債務は1500万円であった」ということが確定されること になります。 第2の法律構成(法律構成A)も,やはり第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体 であるとするのですが,同債務のうち1500万円についてはAが請求を放棄したた めに,実際に審判対象となったのは1500万円を超える部分だというものです。こ のように考える場合には,第1訴訟の確定判決の既判力の客観的範囲は元本返還債務 のうち1500万円を超える部分だけになりますが,請求の放棄,正確には請求の一 部放棄の既判力により,元本債務の金額が1500万円であったことが確定されるこ とになります。 理解できましたか。 S: はい。 Q: それでは,これから,あなたにお願いする課題を説明します。法律構成@と法律構 成Aのそれぞれについて,長所と短所を検討してください。ただし,最高裁判所の判 例に適合的であるから良い,あるいは,最高裁判所の判例に反するから駄目だ,とい うような紋切り型の答えでは困ります。 S: 分かりました。頑張ってみます。 審理の結果,被担保債権の元本が500万円残っているとの結論に至った場合,裁判所は, Fに対し,AがFに500万円を支払うことを条件として,抵当権の設定の登記の抹消登記手続 をすることを命ずる判決をすることができるか,Aの請求を全部棄却することと比較しながら, 論じなさい。 - 6 - なお,貸金返還請求権については,利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。 X 【事実】1から9までに加え,以下の【事実】21から25までの経緯があった。 【事実】 21.Dは平成20年2月16日に病没した。 22.Aは,外国に住んでいる親族の結婚式に出席するため,5日間の外国旅行に出ることとなっ た。Aは,出発前夜である平成22年1月12日に,CとEを呼び, 「今まで隠していたが,実 はEは私とDとの間にできた子で,私はEを認知することにした。認知届の書類にもすべて私が 必要な項目を埋めて署名押印しておいたから,Eは,私が旅行に出ている間に,認知届の日付を 埋めた上で必ず市役所に提出しておいてほしい。」と告げた。突然の話にEは驚いたものの,了 解し,認知届の提出に必要な書類一式をAから受け取った。 23.翌朝,Aは旅行に出発した。同月14日,Aは事故に巻き込まれ,死亡した。Eは,この件 の事後処理に忙殺され,認知届を提出しないままになっている。 24.Aの遺品を整理していたCは,同年2月3日に,Aの愛用していた机の引出しの奥に, 「遺言」 と表面に書かれた1通の封書を見つけた。この封書には自筆証書遺言として適式な証書が入っ ていて,そこには, 「私が死亡したときは,私の遺産はCを2,Eを1とする割合で分けること。」 とAの筆跡で記されていた。遺言の日付は平成20年4月6日となっていた。 25.Hは生前のAに対し600万円を貸し付けており,平成22年4月現在,この貸金債権の弁 済期は既に到来している。平成22年5月になって,Hが,前記貸金債権に係る元本の返済をC 及びEに対し請求してきた。 〔設問5〕 【事実】1から9まで及び21から25までを前提として,C及びEはHに対し元本の支 払義務を負うか,支払義務を負うとした場合,いくらの支払義務を負うか,これらについて,E がAの子であるかどうかにも言及しつつ論じなさい。 - 7 -