論文式試験問題集[刑事系科目] - 1 - [刑事系科目] 〔第1問〕(配点:100) 以下の事例に基づき,甲,乙及び丙の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特 別法違反の点を除く。)。 1 V(78歳)は,数年前から自力で食事や排せつを行うことができない,いわゆる寝たきりの 要介護状態にあり,自宅で,妻甲(68歳)の介護を受けていたが,風邪をこじらせて肺炎とな り,A病院の一般病棟の個室に入院して主治医Bの治療を受け,容体は快方に向かっていた。 A病院に勤務し,Vを担当する看護師乙は,Vの容体が快方に向かってからは,Bの指示によ り,2時間ないし3時間に1回程度の割合でVの病室を巡回し,検温をするほか,容体の確認, 投薬や食事・排せつの世話などをしていた。 一方,甲は,Vが入院した時から,連日,Vの病室を訪れ,数時間にわたってVの身の回りの 世話をしていた。このため,乙は,Vの病状に何か異状があれば甲が気付いて看護師等に知らせ るだろうと考え,甲がVの病室に来ている間の巡回を控えめにしていた。その際,乙は,甲に対 し, 「何か異状があったら,すぐに教えてください。」と依頼しており,甲も,その旨了承し, 「私 がいる間はゆっくりしていてください。」などと乙に話し,実際に,甲は,病室を訪れている間, Vの検温,食事・排せつの世話などをしていた。 2 Vは,入院開始から約3週間経過後のある日,午前11時過ぎに発熱し,正午ころには39度 を超える高熱となった(以下,時刻の記載は同日の時刻をいう。)。Bは,発熱の原因が必ずしも はっきりしなかったものの,このような場合に通常行われる処置である解熱消炎剤の投与をする ことにした。ところが,Vは,一般的な解熱消炎剤の「D薬」に対する強いアレルギー体質で, D薬による急性のアレルギー反応でショック死する危険があったため,Bは,D薬に代えて使用 されることの多い別の解熱消炎剤の「E薬」を点滴で投与することにし,午後0時30分ころ, その旨の処方せんを作成して乙に手渡し,「Vさんに解熱消炎剤のE薬を点滴してください。」と 指示した。そして,高齢のVの発熱の原因がはっきりせず,E薬の点滴投与後もVの熱が下がら なかったり容体の急変等が起こる可能性があったため,Bは,看護師によるVの慎重な経過観察 が必要であると判断し,乙に, 「Vさんの発熱の原因がはっきりしない上,Vさんは高齢なので, 熱が下がらなかったり容体が急変しないか心配です。容体をよく観察してください。半日くらい は,約30分ごとにVさんの様子を確認してください。」と指示した。 3 Bの指示を受けた乙は,A病院の薬剤部に行き,Bから受け取った前記処方せんを,同部に勤 務する薬剤師丙に渡した。 A病院では,医師作成の処方せんに従って薬剤部の薬剤師が薬を準備することとなっていたが, 薬の誤投与は,患者の病状や体質によってはその生命を危険にさらしかねないため,薬剤師にお いて,医師の処方が患者の病状や体質に適合するかどうかをチェックする態勢が取られており, かかるチェックを必ずした上で薬を医師・看護師らに提供することとされていた。仮に,医師の 処方に疑問があれば,薬剤師は,医師に確認した上で薬を提供することになっていた。 ところが,乙から前記処方せんを受け取った丙は,Bの処方に間違いはないものと思い,処方 された薬の適否やVのアレルギー体質等の確認も行わずに,E薬の薬液入りガラス製容器(アン プル)が多数保管されているE薬用の引き出しからアンプルを1本取り出した。その引き出しに は,本来E薬しか保管されていないはずであったが,たまたまD薬のアンプルが数本混入してい て,丙が取り出したのは,そのうちの1本であった。しかし,丙は,それをE薬と思い込んだま ま,アンプルの薬名を確認せず,それを点滴に必要な点滴容器や注射針などの器具と一緒にVの 名前を記載した袋に入れ,前記処方せんの写しとともに乙に渡した。 なお,D薬のアンプルとE薬のアンプルの外観はほぼ同じであったが,貼付されたラベルには - 2 - 各薬名が明記されていた。 また,D薬に対するアレルギー体質の患者に対し,D薬に代えてE薬が処方される例は多く, 丙もその旨の知識を有していた。 4 A病院では,看護師が点滴その他の投薬をする場合,薬の誤投与を防ぐため,看護師において, 薬が医師の処方どおりであるかを処方せんの写しと対照してチェックし,処方や薬に疑問がある 場合には,医師や薬剤師に確認すべきこととなっており,その際,患者のアレルギー体質等につ いては,その生命にかかわることから十分に注意することとされ,乙もA病院の看護師としてこ れらの点を熟知していた。 しかし,丙から前記のとおりアンプルや点滴に必要な器具等を受け取った乙は,丙がこれまで 間違いを犯したことがなく,丙の仕事ぶりを信頼していたことから,丙が,処方やVの体質等の 確認をしなかったり,処方せんと異なる薬を渡したりすることを全く予想していなかったため, 受け取った薬が処方されたものに間違いないかどうかを確認せず,丙から受け取ったアンプルが 処方されたE薬ではないことに気付かなかった。また,乙は,VがD薬に対するアレルギー体質 を有することを,Vの入院当初に確認してVの看護記録にも記入していたが,そのことも失念し ていた。 そして,乙は,丙から受け取ったD薬のアンプル内の薬液を点滴容器に注入し,午後1時ころ からVに対し,それがE薬ではないことに気付かないままD薬の点滴を開始した。その際,Vの 検温をしたところ,体温は39度2分であったため,乙は,Vのベッド脇に置かれた検温表にそ の旨記載して病室を出た。 乙は,Bの前記指示に従って,点滴を開始した午後1時ころから約30分おきにVの病室を巡 回することとし,1回目の巡回を午後1時30分ころに行い,Vの容体を観察したが,その時点 では異状はなかった。この時のVの体温は39度で,乙はその旨検温表に記載した。 5 午後1時35分ころ,甲が来院し,Vの病室に行く前に看護師詰所(ナースステーション)に 立ち寄ったので,乙は,甲に, 「Vさんが発熱したので,午後1時ころから,解熱消炎剤の点滴を 始めました。そのうち熱は下がると思いますが,何かあったら声を掛けてください。私も30分 おきに病室に顔を出します。」などと言い,甲は, 「分かりました。」と答えてVの病室に行った。 甲は,Vが眠っていたため病室を片付けるなどしていたところ,午後1時50分ころ,Vが呼 吸の際ゼイゼイと音を立てて息苦しそうにし,顔や手足に赤い発しんが出ていたので,慌ててV に声を掛けて体を揺すったが,明りょうな返事はなかった。 Vは,数年前に,薬によるアレルギー反応で赤い発しんが出て呼吸困難に陥って次第に容体が 悪化し,やがてチアノーゼ(血液中の酸素濃度低下により皮膚が青紫色になること)が現れるに 至ったが,医師の救命処置により一命を取り留めたことがあった。甲は,その経過を直接見てお り,後に医師から, 「薬に対するアレルギーでショック状態になっていたので,もう少し救命処置 が遅れていれば助からなかったかもしれない。」と聞かされた。 このような経験から,甲は,Vが再び薬によるアレルギー反応を起こして呼吸困難等に陥って いることが分かり,放置すると手遅れになるおそれがあると思った。 しかし,甲は,他に身寄りのないVを,Vが要介護状態になった数年前から一人で介護する生 活を続け,肉体的にも精神的にも疲れ切っており,退院後も将来にわたってVの介護を続けなけ ればならないことに悲観していたため,このままVが死亡すれば,先の見えない介護生活から解 放されるのではないかと思った。また,甲は,時折Vが「こんな生活もう嫌だ。」などと嘆いてい たことから,介護を受けながら寝たきりの生活を続けるより,このまま死んだ方がVにとっても 幸せなのではないかとも思った。 他方,甲は,長年連れ添ったVを失いたくない気持ちもあった上,Vが死亡すると,これまで 受け取っていた甲とVの2名分の年金受給額が減少するのも嫌だとの思いもあった。 このように,甲が,これまでの人生を振り返り,かつ今後の人生を考えて,これからどうする - 3 - のが甲やVにとって良いことなのか思い悩んでいた午後2時ころ,乙が,巡回のため,Vの病室 の閉じられていた出入口ドアをノックした。しかし,心を決めかねていた甲は,もうしばらく考 えてからでもVの救命は間に合うだろうと思い,時間を稼ぐため,ドア越しに, 「今,体を拭いて あげているので20分ほど待ってください。夫に変わりはありません。」と嘘を言った。 乙は,その言葉を全く疑わずに信じ込み,Vに付き添って体を拭いているのだから,Vに異状 があれば甲が必ず気付くはずだと思い,Vの容体に異状がないことの確認はできたものと判断し, 約30分後の午後2時30分ころに再び巡回すれば足りると考え, 「分かりました。30分ほどし たらまた来ます。」とドア越しに甲に言って立ち去った。 6 乙が立ち去った後,甲がVの様子を見ると,顔にチアノーゼが現れ,呼吸も更に苦しそうに見 えたことなどから,甲は,Vの容体が更に悪化していることが分かった。 甲は,しばらく悩んだ末,数年前にVが同様の症状に陥って助かった時の前記経験から,現時 点のVの症状ならば,速やかに救命処置が開始されればVはまだ助かるだろうと思いながらも, 事態を事の成り行きに任せ,Vの生死を,医師等の医療従事者の手にではなく,運命にゆだねる ことに決め,その結果がどうなろうとその運命に従うことにした。 その後,甲は,乙の次の巡回が午後2時30分ころに予定されていたので,午後2時15分こ ろ,検温もしていないのに,検温表に午後2時20分の検温結果として38度5分と記入した上, 午後2時30分ころ,更に容体が悪化しているVを病室に残して看護師詰所に行き,乙に検温表 を示しながら, 「体を拭いたら気持ち良さそうに眠りました。しばらくそっとしておいてもらえま せんか。熱は下がり始めているようです。何かあればすぐにお知らせしますから。」と嘘を言って Vの病室に戻った。 7 乙は,他の患者の看護に追われて多忙であった上,甲の話と検温表の記載から,Vの容体に異 状はなく,熱も下がり始めて容体が安定してきたものと信じ込み,甲が付き添っているのだから 眠っているVの様子をわざわざ見に行く必要はなく,午後2時30分ころに予定していた巡回は 行わずに午後3時ころVの容体を確認すれば足りると判断した。 午後2時50分ころ,甲は,Vの呼吸が止まっていることに気付き,Vは助からない運命だと 思って帰宅した。 午後3時ころ,Vの病室に入った乙が,意識がなく呼吸が停止しているVを発見し,直ちに, Bらによる救命処置が講じられたが,午後3時50分にVの死亡が確認された。 8 その後の司法解剖や甲,乙,丙及び他のA病院関係者らに対する事情聴取等の捜査の結果,次 の各事実が判明した。 Vの死因は,肺炎によるものではなく,D薬を投与されたことに基づく急性アレルギー反応 による呼吸困難を伴うショック死であった。 遅くとも午後2時20分までに,医師,看護師等がVの異変に気付けば,当時のA病院の態 勢では直ちに医師等による救命処置が開始可能であって,それによりVは救命されたものと認 められたが,Vの異変に気付くのが,それより後になると,Vが救命されたかどうかは明らか でなく,午後2時50分を過ぎると,Vが救命される可能性はほとんどなかったものと認めら れた。 なお,本件において,Vに施された救命処置は適切であった。 VにE薬に対するアレルギーはなく,VにE薬を投与してもこれによって死亡することはな かった。 なお,BのVに対する治療方針やE薬の処方及び乙への指示は適切であった。 E薬用の引き出しには数本のD薬のアンプルが混入していたが,その原因は,A病院関係者 の何者かが,D薬のアンプルを保管場所にしまう際,D薬用の引き出しにしまわず,間違って, E薬用の引き出しに入れてしまったことにあると推測された。しかし,それ以上の具体的な事 実関係は明らかにならなかった。 - 4 - 〔第2問〕(配点:100) 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事 1 例】 暴力団A組は,けん銃を組織的に密売することによって多額の利益を得ていたが,同組では, 発覚を恐れ一般人には販売せず,暴力団に属する者に対してのみ,電話連絡等を通じて取引の交 渉をし,取引成立後,宅配等によりけん銃を引き渡すという慎重な方法が採られていた。司法警 察員Pらは,A組による組織的な密売ルートを解明すべく内偵捜査を続けていたが,A組幹部の 甲がけん銃密売の責任者であるとの情報や,甲からの指示を受けた組員らが,取引成立後,組事 務所とは別の場所に保管するけん銃を顧客に発送するなどの方法によりけん銃を譲渡していると の情報を把握したものの,顧客が暴力団関係者のみであることから,甲らを検挙する証拠を入手 できずにいた。 平成21年6月1日,Pらは,甲らによるけん銃密売に関する証拠を入手するため,A組の組 事務所であるアパート前路上で張り込んでいたところ,甲が同アパート前公道上にあったごみ集 積所にごみ袋を置いたのを現認した。そこで,Pらは,同ごみ袋を警察署に持ち帰り,その内容 物を確認したところ, 「5/20 1丁→N.H 150」などと日付,アルファベットのイニシャ ル及び数字が記載された複数のメモ片を発見したため,この裁断されていたメモ片を復元した [捜 査@]。 さらに,同月2日,Pらは,甲が入居しているマンション前路上で張り込んでいたところ,甲 が同マンション専用のごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。なお,同ごみ集積所は,同マ ンション敷地内にあるが,居住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,その出入口は 施錠されておらず,誰でも出入りすることが可能な場所にあった。そこで,Pらは,同集積所に 立ち入り,同所において,同ごみ袋内を確認したところ,「5/22 1丁→T.K 150」な どと記載された同様のメモ片を発見したため,このメモ片を持ち帰り復元した[捜査A]。 Pらが復元した各メモ片の内容を確認したところ,甲らが,同年5月中に,10名に対して, 代金総額2250万円で合計15丁のけん銃を密売したのではないかとの嫌疑が濃厚となった。 2 その後,Pらは,更なる内偵捜査により,A組とは対立する暴力団B組に属する乙が,以前に 甲からけん銃を入手しようとしたものの,その代金額について折り合いがつかずにけん銃を入手 できなかったため,B組内で処分を受け,甲及びA組に対して強い敵意を抱いているとの情報を 入手した。 そこで,Pは,同年6月5日,乙と接触し,同人に対し,もう一度甲と連絡を取ってけん銃を 譲り受け,甲を検挙することを手伝ってほしい旨依頼したところ,乙の協力が得られることとな った。この際,Pは,乙に対し,電話で甲に連絡をした際や直接会って話をした際には,甲との 会話内容をICレコーダーに録音したいこと,さらに会話終了後には,引き続き,乙にその会話 内容を説明してもらい,それも併せて録音したい旨を依頼し,乙の了解を得た。 同月7日午前11時ころ,乙は,乙方近くのE公園において,自らの携帯電話から甲の携帯電 話に電話をかけ,甲に対し, 「前には金額で折り合わなかったが,やはり物を購入したい。もう一 度話し合いたいんだ。」などと言い,甲から,「分かった。値段が張るのはやむを得ない。よく考 えてくれよ。」などとの話を引き出した。乙の近くにいたPは,この会話を乙の携帯電話に接続し たICレコーダーに録音し,さらに,同会話終了後にされた「自分は,平成21年6月7日午前 11時ころ,E公園において,甲と電話で話したが,甲は自分にけん銃を売ることについての話 合いに応じてくれた。明日午後1時ころ,F喫茶店で直接会って更に詳しい話合いをすることに なった。」という乙による説明も録音した[録音@]。 翌8日午後1時ころ,待ち合わせ場所のF喫茶店において,甲と乙は,けん銃の譲渡について 話合いをした。その際,甲と乙は,代金総額300万円でけん銃2丁を譲渡すること,けん銃は 後日乙の指定したマンションへ宅配便で配送すること,けん銃の受取後,代金を直接甲に支払う - 5 - ことなどを合意するに至った。隣のテーブルにいたPは,このけん銃譲渡に関する会話をICレ コーダーに録音し,さらに,甲が同店を立ち去った後にされた「自分は,平成21年6月8日午 後1時ころ,F喫茶店で甲と直接話合いをした。甲が自分にけん銃2丁を300万円で売ってく れることになった。けん銃2丁は宅配便で,りんごと一緒に自分のマンションに配送される。代 金300万円は後で連絡を取り合って場所を決め,その時渡すことになった。」という乙による説 明も録音した[録音A]。 3 翌9日以降,Pらは,乙がけん銃を受け取ったことを確認し次第,甲をけん銃の譲渡罪で逮捕 し,関係箇所を捜索しようと考え,度々乙と電話で連絡を取り,甲からけん銃2丁が配送されて きたか否か確認を続けた。しかし,同月14日午後9時ころ,Pらは,乙が電話に出なくなった ことから不審に思い,乙の生命又は身体に危険な事態が発生した可能性があることからその安全 を確認するため,乙方マンション管理人立会いの下,乙方に立ち入ると,乙が居間において,頭 部右こめかみ付近から出血した状態で死亡しているのを発見した。乙の死体付近にはけん銃2丁 が落ちており,その近くには開封された宅配便の箱があり,その中を確認するとりんごが数個入 っていた。また,机上には乙の物とみられる携帯電話1台があった。Pらは,甲によるけん銃譲 渡の被疑事実について,裁判官から捜索差押許可状の発付を得た上で,発見したけん銃2丁及び 携帯電話1台を押収した。さらに,Pらは,押収した乙の携帯電話の発信歴や着信歴を確認した が,すべて消去されていたため,直ちに科学捜査研究所で,消去されたデータの復元・分析を図 った[捜査B]。その結果,頻繁に発着信歴のある電話番号「090−7274−△△△△」が確 認され,さらにこの契約者を捜査すると丙女であることが明らかとなった。なお,Pらは,乙方 では遺書等を発見できず,押収したけん銃2丁には乙の右手指紋が付着していたものの,乙が死 亡した原因を自殺か他殺か特定できなかった上,捜査の必要から,乙死亡についてマスコミ発表 をしなかった。また,宅配便の箱に貼付されていた発送伝票の発送者欄には,住所,人名及び電 話番号が記載されていたが,捜査の結果,それらはすべて架空のものであることが明らかとなっ た。 4 翌15日午後7時ころ,Pらが乙の携帯電話を持参して丙女方を訪ねると,丙女は,当初は乙 を知らないと供述したものの,Pらが乙の携帯電話の電源を入れ,丙女の携帯電話番号の発着信 歴が頻繁にあったことを告げると,ようやく,乙と約2年前から交際していたことを認め,乙か ら,今回警察の捜査に協力していることやそのためにA組の甲からけん銃を譲り受けることを打 ち明けられていたなどと供述した。そのような事情聴取を継続中に,突然,乙の携帯電話の着信 音が鳴った。Pらは,着信の表示番号が以前に乙から教わっていた甲の携帯電話番号であったの で,甲からの電話であると分かり,とっさに,丙女から,電話に出ること及び会話の録音につい ての同意を得た上で,丙女に電話に出てもらうとともに,乙の携帯電話の録音機能を使用して録 音を開始した。すると,甲と思われる男の声で, 「もしもし,甲だ。物届いただろう。約束どおり りんごと一緒に届いただろう。300を早く支払ってくれよ。」との話があり,丙女が,乙が死亡 してしまったこと,自分は乙の婚約者であることを告げると,甲と思われる男は, 「婚約者なら乙 の代わりに代金300万円を用意して持ってこい。物は約束どおり届いたはずだろう。」などと強 く言ってきた。Pがメモ紙に代金は警察が用意するので待ち合わせ場所を決めるようにと記載し て示すと,丙女は,その記載に従って, 「分かりました。代金は,乙に代わって私が用意します。 待ち合わせ場所を指定してください。」などと言い,同月17日に甲とF喫茶店で待ち合わせるこ とになった。Pは,電話終了後,乙の携帯電話の録音機能を停止して再生し,丙女と甲と思われ る男の会話内容が録音されていることを確認した[録音B]。 5 同月17日午後3時ころ,丙女がF喫茶店に赴いたところ,甲が現れたので,Pらは,甲をけ ん銃2丁の譲渡罪で緊急逮捕した。 甲は勾留後,否認を続けたが,検察官は,本件けん銃2丁,甲乙間及び甲丙女間の本件けん銃 譲渡に関する[録音@], [録音A]及び[録音B]を反訳した捜査報告書【資料】,丙女の供述等 - 6 - を証拠に,同年7月8日,甲をけん銃2丁の譲渡罪で起訴した。 被告人甲は,第一回公判期日において, 「自分は,乙に対してけん銃2丁を譲り渡したことはな い。」旨述べた。その後の証拠調べ手続において,検察官は,「甲乙間の本件けん銃譲渡に関する 甲乙間及び甲丙女間の会話の存在と内容」を立証趣旨として,前記捜査報告書を証拠調べ請求し たところ,弁護人は,不同意とした。 〔設問1〕 下線部の[捜査@]から[捜査B]の適法性について,具体的事実を摘示しつつ論じ なさい。 〔設問2〕 【事例】中の捜査報告書の証拠能力について,前提となる捜査の適法性を含めて論じ なさい。 - 7 - 【資料】 捜 査 報 告 書 平成21年6月18日 ○○県□□警察署 司法警察員 警視 P 殿 ○○県□□警察署 司法警察員 巡査部長 K 被疑者 , 甲 (本籍,住居,職業,生年月日省略) 上記の者,平成21年6月17日,銃砲刀剣類所持等取締法違反被疑事件の被疑者として 緊急逮捕したものであるが,被疑者は,乙及び丙女との間で電話等による会話をしており, その状況を録音したICレコーダー及び携帯電話を本職が再生して反訳したところ,下記 のとおり判明したので報告する。 記 1 平成21年6月7日午前11時ころ〜午前11時5分ころ,電話による通話等 乙 「もしもし,乙ですが,この間は申し訳なかったね。」 「やはり,物必要なんだ。前には金額で折り合わなかったが,やはり物を購入し たい。もう一度話し合いたいんだ。」 甲 「今更何言ってるの。物って何のことよ。」 乙 「とぼけないでくださいよ。×××のことですよ。」 甲 「前は,高過ぎるとか,ほんとに良い物なのかとか,うるさかったじゃない。う ちのは××××とは違うんだよ。」 乙 「悪かったね。やはりどうしても欲しいんだ。助けてほしい。」 甲 「分かった。うちの回転×××の×××は物が良いので,値段が張るのはやむを 得ない。よく考えてくれよ。」 乙 「よく分かったよ。明日1時に前回と同じF喫茶店でどうだい。」 甲 「分かった。明日会おう。」 ここで,甲乙間の会話が終了し(なお×××部分は聞き取れず),引き続き,乙の声で, 乙 「自分は,平成21年6月7日午前11時ころ,E公園において,甲と電話で話 したが,甲は自分にけん銃を売ることについての話合いに応じてくれた。明日午後 1時ころ,F喫茶店で直接会って更に詳しい話合いをすることになった。」との話が 録音されていた。 2 同月8日午後1時ころ,F喫茶店における会話等 乙 甲 「お久しぶり。この前は悪かったね。」 「だから,この間の条件で買っておけばよかったんだよ。うちの条件は前回と同 - 8 - じ,1丁150万円,2丁なら×××××,物がいいんだからびた一文負けられな いよ。」 乙 「分かったよ。それでいいよ。物どうやって受け取るんだい。」 甲 「うちのやり方は,直接渡したりはしないんだ。そこでパクられたら,所持で逃 げようないからね。あんたのマンションへ宅配便で送るよ。りんごの箱に入れて, 一緒に送るから。受け取ったら,×××渡してくれよ。場所はまた連絡する。」 乙 「それでいこう。頼むね。」 ここで,甲乙間の会話が終了し(なお×××部分は聞き取れず),引き続き,乙の声で, 乙 「自分は,平成21年6月8日午後1時ころ,F喫茶店で甲と直接話合いをした。 甲が自分にけん銃2丁を300万円で売ってくれることになった。けん銃2丁は宅 配便で,りんごと一緒に自分のマンションに配送される。代金300万円は後で連 絡を取り合って場所を決め,その時渡すことになった。」との話が録音されていた。 3 同月15日午後7時15分ころ〜午後7時20分ころ,電話による通話 甲 「もしもし,甲だ。物届いただろう。約束どおりりんごと一緒に届いただろう。3 00を早く支払ってくれよ。」 丙女「私は,乙の婚約者の丙女です。乙は死んでしまいました。」 甲 「ええ。死んだ。本当かよ。どうして死んだんだ。××か。」 丙女「分かりません。でも,遺書はありませんし,近くにけん銃が落ちていました。」 甲 「それはお気の毒だ。でも物は届いたんだろう。それなら,あんたが代わりに30 0万円払ってくれ。」 丙女「そんなお金は持っていません。」 甲 「婚約者なんだろ。婚約者なら乙の代わりに代金300万円を用意して持ってこい。 物は約束どおり届いたはずだろう。」 丙女「分かりました。代金は,乙に代わって私が用意します。待ち合わせ場所を指定し てください。」 甲 「本当に用意できるのか。それじゃあ。明後日の17日午後3時,F喫茶店に金を 持ってきてくれ。××には言うなよ。」 丙女「分かりました。必ず行きます。」 ここで甲丙女間の会話が終了した(なお××部分は聞き取れず)。 - 9 -