論文式試験問題集[倒 - 1 - 産 法] [倒 産 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例について, 以下の設問に答えなさい。 【事 例】 建設業を営むA株式会社(以下「A社」という。 )は, 区分所有建物(以下「本件建物」という。 ) を所有していたところ, 金融業を営むB株式会社(以下「B社」という。 )から弁済期を2年後と して3000万円を借り入れ(以下, この貸付金の返還請求権を「本件貸付債権」という。 ), 本 件貸付債権を被担保債権として, B社のために, 本件建物に1番抵当権(以下「本件抵当権」と いう。 )を設定し, その登記がされた。 その直後, A社は, C株式会社(以下「C社」という。 ) に対し, 本件建物を賃料月30万円で賃貸し, C社は, ここで店舗の営業を始めた。 ところがその半年後, A社は, 経営不振から急速に資金繰りに窮してきた。 そこで, A社の内 情を知ったB社は, A社との間で, A社が所有していた中古トラック(以下「本件トラック」と いい, 道路運送車両法第5条第1項の適用を受けるものとする。 )を, 本件貸付債権のうちの10 0万円の弁済に代えて譲り受ける旨の合意をし, その引渡しを受けて登録名義もA社からB社に 移転した(この代物弁済契約を, 以下「本件代物弁済」という。 )。 そして, B社は, 直ちにこれ を100万円で第三者に売却して, 引き渡した。 それから20日後, A社は, とうとう資金繰りがつかずに, 手形の不渡りを出した。 そして, その翌日, A社は, 自己破産を申し立て, 直ちに破産手続開始決定がされて, 破産管財人Kが選 任された。 Kは, 本件トラックについて調査をしたところ, 現在の所在は不明で, 現物を取り戻すことは 不可能であるが, 時価は150万円と算定することができることが明らかとなった。 また, Kは, 本件建物についても調査したところ, C社がそこで店舗の営業を続けており, 本件建物の時価は 約1500万円であった。 〔設 問〕 1 以下の1及び2については, それぞれ独立したものとして解答しなさい。 本件代物弁済に関して, KはB社に対してどのような請求をすることができるかを論じな さい。 設問の事実関係で, 仮に本件代物弁済がされた際に本件トラックの登録名義の移転がされ ず, 登録名義がA社に残ったままであったとしたならば, 本件代物弁済に関して, KはB社 に対してどのような請求をすることができるか, 上記と比較しながら論じなさい。 2 B社は, A社の破産手続開始決定後に, 本件貸付債権の残額をどのように回収することがで きるか, その場合の手続はどのようになるかについて, 本件貸付債権の破産手続の中での行使 と, 本件抵当権の行使との両方を踏まえて, 説明しなさい。 (参照条文)道路運送車両法 第5条 登録を受けた自動車の所有権の得喪は, 登録を受けなければ, 第三者に対抗することが できない。 2 (省略) - 2 - 〔第2問〕(配点:50) 次の事例について, 以下の設問に答えなさい。 【事 例】 精密機械の製造業を営むA株式会社(以下「A社」という。 )は, 不況による売上高の低迷によ って資金繰りに窮し, これから満期を迎える約束手形の決済資金の確保が困難な状況となった。 そのため, A社は, 平成22年4月1日に民事再生手続開始申立てを行い, 同月8日に民事再 生手続開始決定を受けた。 〔設 問〕 以下の1及び2については, それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.A社の再建のためには, 部品の継続的供給契約(以下「本件契約」という。 )を締結している B株式会社(以下「B社」という。 )が従前どおりに取引に応じることが不可欠であった。 本件 契約では, B社がA社に対して部品の供給を反復継続的に行い, 代金については, 毎月末日締 めで翌月末日に支払う約定であった。 そのため, B社は, 民事再生手続開始申立ての時点にお いて平成22年3月末日締めの売掛金1000万円を有していた。 また, 本件契約には「A社が民事再生手続開始の申立てを行ったときには, B社は本件契約 を解除することができる。 」との条項が定められていた。 B社は, 高い品質の部品を製造していることから, 他社からの引き合いも多い会社であった ため, 今後の取引継続についての態度は強硬であり, 民事再生手続開始決定直後の協議におい て, 次のとおり主張した。 「A社が民事再生手続開始申立てを行った以上, 本件契約を解除する。 ただし, 4月末日ま でに売掛金全額を支払った場合には, 解除せず今後の取引を継続してもよい。 」 この場合, A社は, B社との取引を継続するため, どのような主張を行うべきか, B社の主 張に対する反論も含めて, 検討しなさい。 2.C銀行は, A社に対し, 5000万円の貸付債権(以下「本件貸付債権」という。 )を有して いたところ, A社の財務状況の悪化に伴い, 追加担保の差入れを要求していた。 そこで, 平成22年3月1日, A社は, C銀行との間で, D株式会社が売掛金の支払のため にA社に対して振り出した額面金1000万円の約束手形2通(以下「甲手形」及び「乙手形」 という。 )につき, 取立委任契約を締結し, C銀行に甲手形と乙手形を裏書譲渡した。 A社とC 銀行は, 銀行取引約定書に基づき銀行取引約定を締結していたが, これらの取立委任契約は, この取引約定の規定に基づくものであった。 その後, 同年4月5日に甲手形の満期が到来したため, C銀行は, 甲手形につき1000万 円の手形金を取り立てた。 次に, A社の民事再生手続開始決定後に, 乙手形の満期が到来したため, C銀行は, 乙手形 につき1000万円の手形金を取り立てた。 A社は, その後, C銀行に対し, 甲手形及び乙手形の取立金である2000万円の返還を求 めたところ, C銀行は, その返還債務と本件貸付債権を対当額で相殺する旨の意思表示をし, 返還を拒絶した。 なお, C銀行は, 同年4月2日には, A社の民事再生手続開始申立ての事実を認識しており, この申立てにより, A社は, 本件貸付債権の期限の利益を喪失していた。 本件で, 甲手形及び乙手形について, それぞれC銀行の相殺の主張が認められるか否かを, 相殺権に関する民事再生法の規律と破産法の規律の違いを踏まえて検討しなさい。 - 3 - - 4 - 論文式試験問題集[租 - 5 - 税 法] [租 税 法] 〔第1問〕(配点:50) 1 Aは, 生計を一にする妻B及び子Cと同居し, 飲食店を営む青色申告者である。 Aは, 毎日夕方の開店から閉店までの間は, Cに調理の手伝いをさせる一方, Cに調理師の資 格を得させてAの飲食店で調理師として働かせるため, 昼間は, 調理師専門学校に通わせていた。 Aは, Cに対し, 調理の手伝いに見合う給与のほか, 調理師専門学校の授業料相当額を, 学資金 だと伝えて支払っていた。 Cは, 学資金名目の金員を調理師専門学校の授業料に充てていた。 また, Bは, ピアノの演奏や教授を業としていたが, 週末等時間に余裕があるときに, Aの飲 食店で, ピアノの演奏を行い, その都度, Aから演奏料を受け取っていた。 2 Aが雇い入れた従業員甲は, 自分の借金の返済などに窮したため, 飲食店の売上金200万円 を持ち逃げして, すべて使い果たした。 以上の事案について, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1 Cが支払を受けた調理師専門学校の授業料相当額の学資金名目の金員は, Cの課税上, ど のように取り扱われるか。 2 AがBに支払った演奏料は, A及びBの課税上, どのように取り扱われるか。 甲の窃盗によりAが失った飲食店の売上金200万円は, Aの課税上, どのように取り扱 われるか。 飲食店がAの経営する法人であり, 甲がその役員であったとして, 甲が飲食店の売上金2 00万円を横領して, すべて使い果たした場合, 法人税の課税関係はどうなるか。 - 6 - 〔第2問〕(配点:50) イタリア料理のレストランを経営する個人事業者であるXは, 所轄のY税務署長から青色申告の 承認を受け, 青色申告書により所得税の確定申告を行っていた。 平成21年分の事業所得につき, Xが確定申告書を提出したところ, 所轄税務署の担当職員Aは, 経費の過大計上を疑い, Xのレストランにおいて臨場調査を行った。 Aが平成19年分から同21 年分まで(以下「本件各年分」という。 )の帳簿書類の提示を求めたところ, Xは, 机上に帳簿書類 を積み上げ, 「このとおり, 帳簿書類はきちんと記録して保存してあるが, 今は忙しいので見せられ ない。 」と述べて, その提示をせず, その後の調査日程の調整にも言を左右にして応じなかった。 そ の後, Aは, 再びXのレストランに出向いて本件各年分の帳簿書類の提示を求めたが, Xは, 前回 と同様に, 多忙などを理由に帳簿書類の提示をしなかった。 他方, Xは, その後, 繰り返しAに電 話をして, 顧問税理士を探しているところであるから待ってほしい旨を述べた。 Aは, そのいずれ の際にも, Xに対し, 税理士の選任は別として, 帳簿書類を提示するよう求めたが, Xは, 「税理士 が決まるまで待ってほしい。 」あるいは「準備中でありもう少し待ってほしい。 」などと答えた。 そ の後, AがXのレストランに出向いて尋ねたところ, Xは, 「良い税理士がいないので, 税理士に依 頼するのはやめた。 」と述べた。 その際, Aは, 繰り返し本件各年分の帳簿書類の提示を求めたが, Xがやはり言を左右にしてこれに応じなかったので, Xの帳簿書類の内容を確認することはできな かった。 そこで, 所轄のY税務署長は, Xに対し, 青色申告承認取消処分を行うとともに, 本件各年分の 所得税の更正処分を行った。 所轄のY税務署長は, 上記更正処分において, Xが経費として計上していた金額は虚偽のもので あるとした上で, 経費の額について推計により算定した金額を用いて処分を行っている。 その推計 の方法は, Xのレストランの所在地と同市内でイタリア料理のレストランを経営している個人事業 者で青色申告書を提出している者の中から, 従業員数とテーブル数を基準にXと同規模のレストラ ンを経営していると認められる者4人を抽出して, その収入金額に対する経費の額の割合の平均値 を採って, Xの申告した収入金額に乗じて経費の額を算出するというものであった。 以上の事案について, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1 青色申告制度の趣旨と概要について, 簡潔に説明しなさい。 2 Xに対する青色申告承認取消処分の適否について, 根拠となる所得税法の規定に言及しつつ, 具体的に論じなさい。 3 推計課税が認められている実質的な根拠とそれが認められる要件について, 簡潔に説明しな さい。 4 Xに対する推計課税の適否について論じなさい。 - 7 - - 8 - 論文式試験問題集[経 - 9 - 済 法] [経 済 法] 〔第1問〕(配点:50) A社は, 若手デザイナーの手作りアクセサリーを販売する携帯電話専用のウェブサイトα(以下 「サイトα」という。 )を運営する事業者である。 同様のウェブサイト(以下「アクセサリーサイト」 という。 )を運営している事業者としては, ほかにBないしDの3社があるが, これらのアクセサリ ーサイトで販売されるアクセサリー(以下「本件アクセサリー」という。 )は, @若手デザイナーに よるざん新なデザインであること, A手作りであるため同じものが2つとないオリジナル商品であ ること, B価格が5000円前後と比較的低廉であることなどから, 高校生を中心に人気を博して いる。 アクセサリーサイトに出品するデザイナーは, 専ら本件アクセサリーの製作と販売のみを行って いるが, これらのデザイナーには一定レベル以上のデザインセンスや製作技術が求められ, そのよ うなデザイナーの数は限られている現状にある。 ちなみに, このようなアクセサリーは, A社等が 運営するアクセサリーサイトでのみ販売されており, それ以外のデパート, 宝飾店, ブティック等 で入手することは困難である。 A社は, サイトαに出品するデザイナーを登録制とし, 以下の態様でサイトαを運営している。 A社に登録したデザイナーは, 出品するアクセサリーの写真, 材質等の商品情報及び自らが設 定した販売価格を電子データでA社に送付し, A社は, これをサイトαに掲載する。 A社は, サイトαに出品されるアクセサリーの更新情報を消費者に対して電子メールで提供し, 登録デザイナーに対しては本件アクセサリーの売れ筋情報(以下「売筋情報」という。 )を提供す る。 なお, 売筋情報は, 登録デザイナーにとって消費者の嗜好を把握する上で貴重な情報源にな っている。 本件アクセサリーの購入希望者は, サイトαの画面を通じて商品を注文し, A社は, その注文 を出品者である登録デザイナーに取り次ぎ, 商品は, 当該デザイナーが購入者に直接宅配便で納 品する。 また, 商品代金は, 携帯電話会社の料金課金システムを通じてA社に支払われ, A社は, その販売価格に一定率を乗じた手数料相当額を差し引いて出品者である登録デザイナーに送金す る。 なお, 購入された本件アクセサリーの売買契約は, 当該デザイナーと購入者間で成立し, 商 品のクレーム等の責任は, 当該デザイナーの負担とすることがサイトα上に明記されている。 AないしD社のアクセサリーサイトにおける売上高の比率は, A社が40%, B社が25%, C 社が20%, D社が15%となっており, A社の手数料率は25%, BないしD社のそれは21% である。 しかし, サイトαは, アクセサリーサイトの先駆的存在で知名度が高く, そのアクセス数 も最多で, 携帯電話のディスプレイ上, 最上段に表示されることなどから, 消費者へのアピールが 強く, デザイナーにとって最も重要な出品先と認識されており, 有力な国内若手デザイナーのほと んどは, A社に登録している。 以上の状況下, E社は, AないしD社と同様の事業を始めた。 E社は, AないしD社と異なり, 消費者への更新情報や登録デザイナーへの売筋情報の提供を行わないが, その手数料を15%に抑 えているため, 近時, E社のアクセサリーサイトにおける売上高が急速に伸びてきている。 そこで, A社が調査した結果, A社のみならずE社にも登録したデザイナー(以下「A・E登録 者」という。 )が相当数存在することが判明した。 A社としては, A・E登録者がA社の提供する売 筋情報を利用して本件アクセサリーを製作し, その販売は, より手数料の安価なE社のサイトを利 用するというのでは, 自社が提供した売筋情報を無償で利用される結果となるので容認できないと の考えから, 今後, A・E登録者に対し, A及びE社の双方に登録することは認めない旨申し入れ, 仮にA社に登録しているにもかかわらずE社のアクセサリーサイトに出品した場合は, 以後, 当該 デザイナーのアクセサリーの商品情報等をサイトαに掲載しないこととし, そのことをE社に登録 していないA社の登録デザイナーにも周知するとの対策を考えている。 - 10 - 〔設 問〕 弁護士甲は, A社から, 前記対策が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独 占禁止法」という。 )に違反しないかどうかを相談された。 甲は弁護士としていかなる回答をすべ きか述べなさい。 - 11 - 〔第2問〕(配点:50) Y市では, 昭和30年代に下水道を整備したが, 近時, 下水道管が老朽化し水漏れ事故が急増し ている。 このような状況は各自治体で起きているが, 多くの自治体では, 下水道管の取替えよりも 大幅な経費の節約となることから, 下水道管の内部を補修する下水道管更生工事を行うようになり, その発注件数が増えている。 下水道管更生工事には, 甲工法及び乙工法の2つの工法がある。 甲工 法が従来採用されていた工法であるが, この数年, 甲工法より高い技術を求められるものの, 甲工 法より約20%費用を節約できる乙工法が普及しつつあり, 大規模及び中規模の建設会社は乙工法 を施工できるようになっている。 Y市内には, 甲工法を施工できる建設業者がA, B, C, D, E 及びFの6社あり, 乙工法を施工できる建設業者は, そのうちのA, B, C及びD(以下「4社」 という。 )である。 Y市は, 下水道管更生工事の契約者を市内業者の中から指名競争入札の方法によ って決定しており, 工法については甲工法又は乙工法のいずれを採用してもよいこととしている。 Aの営業部長rは, B, C及びDの営業部長s, t及びuに呼び掛けて交渉した結果, 平成21 年2月1日, Aの会議室で開かれた会合において, これらの間で, 同年4月1日以降入札が行わ れるY市発注に係る下水道管更生工事については, あらかじめr, s, t及びuの間で話合いによ り4社のうち各入札で指名された者の中から受注予定者を決定すること, 4社の間でその受注金 額ができる限り均等になるようにすること, 受注予定者の落札金額については, その者におおむ ね20%程度の粗利が確保できる水準とし, 受注予定者とrの協議により受注予定者を含めた4社 のうち各入札で指名された者の入札金額を決定し, rにおいて事前にその金額を当該入札参加者に 連絡することを合意した。 rが, E及びFの担当者に参加を呼び掛けなかったのは, E及びFの担 当者はそれらの従来の入札態度からいずれにせよ談合に協力すると予想されたし, 協力しなくても 甲工法はコストが高いことから大部分の談合は成功すると考えたからである。 ところが, AがY市内において労働災害を起こしたことから, Y市は, 平成21年3月1日から 1年6か月の間, Aを指名停止とした。 そこで, rは, 同月5日, Aの会議室においてs, t及び uと再度会合を開き, B, C及びDの受注する下水道管更正工事の半分についてAが下請に回り, 受注者からその利益の50%を受け取るよう求めたところ, s, t及びuはこれに同意した。 Y市の下水道管更生工事の入札は, 平成21年4月1日から平成22年5月9日まで25件が行 われ, rが上記の方法で受注調整を行った結果, B, C及びDがそれぞれ8件を落札し, そのうち 12件についてAは下請となった。 E及びFの担当者は, これに先立つ平成21年1月20日, Dの営業部長uと偶然会った際に, uから, 談合を行うべくr, s及びtと交渉中である旨を聞いた。 E及びFの担当者は, それぞれ, 近い将来, 自ら乙工法の技術を取得できる見込みであることから, 談合に協力しておけば, その後 は談合に参加させてもらい談合により落札できるようになると考えて, 自らは落札できないと考え られる価格で入札してきた。 しかし, 1件については, Fが想定落札価格の計算を誤り, 落札した。 公正取引委員会は, 平成22年5月10日, 関係各社に立入検査を行った。 〔設問1〕 A, B, C, D, E及びFの行為は独占禁止法に違反するといえるか検討しなさい。 〔設問2〕 上記の事案で, 仮に, 平成21年3月15日に公正取引委員会が立入検査を行ったこ とにより, 同年4月1日からの入札につき1件も受注調整をすることができなかった場合, A, B, C, D, E及びFの行為は独占禁止法に違反するといえるか検討しなさい。 - 12 - 論文式試験問題集[知的財産法] - 13 - [知的財産法] 〔第1問〕(配点:50) 甲及び乙は, 物の発明であるα発明について, 2005年2月3日に特許出願を行い, 2007 年5月14日に特許権の設定登録を受け, 現在, 同特許権を共有している。 α発明は, 構成要件A, B及びCから成るものである。 丙は, 2008年8月20日から, a, b’及びcの構成を有する 製品(以下「イ号製品」という。 )と, a, b及びc’の構成を有する製品(以下「ロ号製品」とい う。 )を製造販売している。 aは構成要件Aを充足し, bは構成要件Bを充足し, cは構成要件Cを 充足するが, b’は構成要件Bを充足せず, c’は構成要件Cを充足しない。 もっとも, イ号製品 及びロ号製品のいずれにおいても, α発明の目的を達することができ, 同一の作用効果を奏する。 丁は, 2009年10月1日から, ロ号製品と同一の製品(以下「ハ号製品」という。 )を製造販売 している。 以上の事実関係を前提として, 以下の設問に答えよ。 〔設 問〕 1.a, b’及びcの構成は, 2005年2月3日の時点における公知技術と同一ではなく, α 発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。 )が同日の時 点において公知技術から容易に推考できたものでもなかったが, 戊により2003年10月6 日に行われ, 2005年4月6日に出願公開された特許出願の願書に最初に添付した明細書に 記載されていた。 丙のイ号製品の製造販売に対する, 甲の差止請求は認められるか。 2.α発明における構成要件Cをc’に置き換えることは, 2008年8月20日の時点では当 業者が容易に想到することができるものではなかった。 しかしながら, ロ号製品を解析すれば, それがa, b及びc’の構成を有するものであることは格別の困難なく知ることができた。 丙 のロ号製品の製造販売及び丁のハ号製品の製造販売に対する, 甲の差止請求は認められるか。 3.丁のハ号製品の製造は乙の依頼によるもので, 丁はその製造したハ号製品すべてを乙に納入 しているとする。 丁のハ号製品の製造販売に対する, 甲の差止請求は認められるか。 甲と乙が, 甲のみがα発明の実施をすることを合意していた場合は, どうか。 - 14 - 〔第2問〕(配点:50) Aは, Bとの間で, Bの製造する物質分析器に組み込むプログラムの開発に関し, Aが開発する プログラムについてのすべての著作権をBが有し, 当該プログラムにその著作者名としてBを表示 することを内容とする契約(以下「本件契約」という。 )を締結した。 そして, Aは, その従業員で あるCに物質分析器に組み込むプログラム(以下「αプログラム」という。 )を作成させ, これをB に納入した。 αプログラムには, 本件契約に従い, Bがその著作者として表示されていた。 Bは, αプログラムを組み込んだ物質分析器(以下「α製品」という。 )を製造し販売した。 Dは, α製品 を購入し, これを物質分析器を使用することを欲する者に賃貸する営業を行っている。 その後, Bは, α製品の機能向上のために, Aに無断で, Bの従業員であるEにαプログラムを 改変したプログラム(以下「βプログラム」という。 )を作成させて, βプログラムを組み込んだ物 質分析器(以下「β製品」という。 )を製造し販売している。 Bの子会社であるFは, Bからβ製品 を購入し, 新製品の開発のためにこれを使用している。 以上の事実関係を前提として, 以下の設問に答えよ。 〔設 問〕 1.AはBに対して, 著作権法に基づき, どのような請求をすることができるか。 2.Aは, 著作権法に基づき, Fに対して差止請求をするために, どのような主張をすべきか。 3.BはDに対して, 著作権法に基づき, どのような請求をすることができるか。 - 15 - - 16 - 論文式試験問題集[労 - 17 - 働 法] [労 働 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで, 後記の設問に答えなさい。 【事 例】 A社は, 加工食品の小売販売を主たる業務として設立された株式会社であり, 甲市内に本社を 置き, 数店の小売店舗を構えている。 A社は, 平成16年に業務内容を拡大するために自社ブラ ンド製品を製造して販売することを決め, 平成17年4月, 乙市内に工場を建て, 工場部門で働 く従業員(管理職を除く。 )を新たに50人採用し, 自社ブランド製品の製造を始めた。 しかし, 工場部門の事業は開始直後から不振が続き, その赤字によってA社全体の利益を押し下げ, この まま工場部門を存続させると, A社の経営に深刻な影響を及ぼす状況になった。 そこで, A社は, 平成19年12月, 工場部門を廃止することを事実上決めたところ, A社と は資本関係のない同業他社のB社から, 工場部門の事業を引き継ぎたいとの申入れを受け, 平成 20年6月, 工場の敷地, 建物及び設備を含めて工場部門の事業全部をB社に譲渡することを決 め, 同年8月, A社の従業員に対して工場部門の廃止を説明し, 同年12月, B社との間で, 事 業譲渡日を平成21年4月1日とする事業譲渡契約を締結した。 同事業譲渡契約の契約書には, A社工場部門の従業員の労働契約関係の処理に関する条項はなく, 同事業譲渡契約時に取り交わ された覚書には, B社はA社工場部門の従業員をできる限り引き受けるよう努力する旨の条項が ある。 X1及びX2は, いずれも, 平成17年4月にA社の工場部門で働く従業員として期間の定めな く雇用された者であり, 雇用時に, A社から, 業務内容は食品加工工程における技術職であり, 工場勤務以外の勤務はない旨の説明を受け, 以後, その業務にのみ就いていた。 なお, X1は, 工 場部門の従業員14人で組織されたC労働組合(以下「C組合」という。 )の組合員であり, 委員 長を務めていた。 A社及びB社は, 上記事業譲渡契約後の平成21年1月, X1及びX2を含むA社工場部門の全 従業員に対し, 同年3月をもってA社工場部門を廃止し, 同部門の事業をB社に譲渡する契約を 締結したこと及び上記覚書の内容を説明した上, さらに, A社からは, A社を退職してB社に就 職するよう勧め, B社からは, B社への就職を希望する者については書類選考のみで優先的に採 用する旨説明した。 その後, A社は, 同月31日を退職日とする希望退職を募り, その結果, A 社工場部門の従業員50人のうちC組合の組合員14人全員を含むX1ら45人が退職に応じた が, X2ら5人は退職に応じなかった。 また, A社は, 会社再建のため, 本社部門及び小売店舗部 門の全従業員40人にも希望退職を募り, 10人の退職者を得て, 同年4月以降, 従業員30人 体制で業務を続けた。 B社は, 同月1日, B社に採用申込みをしたX1ら45人のA社工場部門退職者及び外部からの 応募者15人の中から50人を採用した。 不採用となったのは, A社工場部門退職者のうちX1ら 5人(そのうちC組合の組合員は3人)と外部からの応募者5人であった。 希望退職に応じなかったX2ら5人は, 同年2月28日, A社から, 工場部門の廃止を理由とし て, 同年3月末日付けで解雇する旨通告された。 〔設 問〕 X1及びX2は, 下記の点について相談をしたいと考えている。 この相談に対し, あなたが弁護 士として回答する場合に検討すべき法律上の問題点を指摘し, それについてのあなたの見解を述 べなさい。 X1は, B社に対し, 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに賃金支払及び損 - 18 - 害賠償を求めたいと考えている。 X2は, A社に対し, 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び賃金支払を求めた いと考えている。 - 19 - 〔第2問〕(配点:50) 次の事例を読んで, 後記の設問に答えなさい。 【事 1 例】 Y社は, 従業員200人の会社であるが, そのうち110人の従業員で組織されたX1労働組 合(以下「X1組合」という。 )と, 70人の従業員で組織されたA労働組合(以下「A組合」と 「組合費の納入はチェック・オ いう。 )の二つの労働組合が存在していた。 X1組合の規約には, 「会社は, 組合員の賃金から組合 フによる。 」との規定があり, また, X1組合とY社との間で, 費相当分を控除し, これを組合に交付する。 」との協定が労働協約として締結されていた。 X1 組合とY社は, 当該チェック・オフ協定を毎年4月1日に更新することとし, 更新に際しては, その都度, X1組合がY社に対し, 3月1日にその時点における組合員名簿を提出した上, 3月 中に協議の場を設けて双方で更新するか否かを確認する手続を行っていた。 Y社は, 10年間 にわたって, このような手続に従い, X1組合の組合員の毎月の賃金から組合費相当分を控除し, X1組合に交付してきた。 2 ところで, Y社では昨今の景気後退と競争激化を背景に, 人員削減を含む合理化方針を強化 し, 従業員に退職勧奨を行う一方, 時間外労働も恒常化していったことから, 退職者がX1組合 の組合員を含めて50人にも上り, そのため, 従業員の業務負担は更に過重になっていった。 X1組合は, Y社のこうした経営方針や人事管理に強く反発し, Y社の経営方針等を批判し, 役 員の退陣を求めるビラを従業員食堂等で配布するなど, Y社との対決姿勢を鮮明にした。 Y社 は, X1組合に対し, そうした行為の中止を求めるとともに, これに関与した組合員らに対して 警告書を発した。 これに対し, X1組合は, 抗議活動を強め, 社屋前の集会を無許可で行うなど したため, Y社はX1組合の委員長を戒告処分とした。 このような経緯で, Y社とX1組合との 対立は激化し, Y社は, X1組合に対する不快感をより強めていった。 一方, X1組合の組合員には, Y社に対して闘争的な活動方針を採る執行部の姿勢に疑問を持 つ組合員も少なからず存在し, その多くがX1組合を脱退し, Y社に対する協調的関係を重視し, 穏健な活動方針を採るA組合に加入した。 その結果, 平成20年10月1日時点で, 全従業員 150人中, X1組合の組合員数は40人にまで減少し, 逆にA組合は組合員90人を組織する までになった。 3 Y社は, 平成21年1月20日, 新たにA組合との間でもチェック・オフ協定を労働協約の 形式で締結し, 同年2月1日からA組合の組合員についても賃金からの組合費相当分の控除を 行うこととし, A組合でもチェック・オフによって組合費を徴収する旨をその組合規約に定め た。 4 X1組合は, 同年3月1日, 例年どおり, 同日時点の組合員名簿をY社に提出したところ, Y 社は, 同月5日, X1組合に対し, X1組合の組合員数が全従業員の過半数を大幅に下回ったこ と及び平成20年度のX1組合とのチェック・オフ協定の期間が満了することの二つの理由に より, チェック・オフ協定を更新しないこととする旨通知した。 なお, その際, Y社は, X1組 合に対し, 「本来は, X1組合の組合員数が全従業員の過半数に満たないことが判明した時点で チェック・オフ協定を解約すべきところ, 労使関係の安定を考慮し, 期間満了まで待って, 終 了させることとした。 」旨付言した。 X1組合は, これに強く反対し, チェック・オフ協定の継 続を求めてY社に団体交渉を申し入れ, 平成21年3月15日, 団体交渉が行われた。 同交渉 において, Y社は, 同月5日にX1組合に通知した二つの理由を繰り返し説明し, その後のX1 組合との団体交渉を拒絶した。 5 一方, X1組合を脱退してA組合に加入した組合員X2は, A組合の執行部がY社との友好的 ・協調的関係を重視する余り, Y社の言いなりになっている状況を見て, その姿勢を改めるよ う同執行部に要求した。 しかし, 同執行部がこれを全く無視したことから, X2は大いに失望し, - 20 - 同年6月15日, A組合に対し脱退届を提出し, X1組合への復帰を願い出た。 そこで, X1組 合は, 直ちに, X2の加入を認めた上, Y社に対し, 書面により, チェック・オフ協定の締結を 再度求めるとともに, X2との連名で, X2の賃金から控除する組合費相当分の交付先をA組合 からX1組合に変更するよう要求した。 しかし, Y社は, X1組合の組合員数が現在も40人にとどまっており, 全従業員の過半数に およそ満たないことを理由にX1組合とのチェック・オフ協定の締結を拒絶するとともに, 「組 合員が脱退するには, 組合に届け出て, その承認を得なければならない。 」と定めた組合規約に 基づきA組合がX2の脱退を認めておらず, A組合からY社に対してX2の脱退につき通告がな いことを理由に, X2の賃金から控除する組合費相当分の交付先の変更を拒否し, 依然として X2の賃金から控除した組合費相当分をA組合に交付し続けた。 〔設 1 問〕 X1組合及びX2は, それぞれ, Y社を相手方として, どのような機関に対していかなる法的 救済を求めることができるか, 説明しなさい。 2 1の法的手段において考えられる法律上の問題点を挙げ, 各問題点に対するあなたの見解を 述べなさい。 - 21 - - 22 - 論文式試験問題集[環 - 23 - 境 法] [環 境 法] 〔第1問〕(配点:50) 使用済み物品については, 循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)の下に, 容 器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(平成7年法律第112号。 以下「容器 包装リサイクル法」という。 )等の個別リサイクル法が制定されている。 これに関して, 以下の各設 問に答えよ。 〔設問1〕 循環型社会形成推進基本法第11条, 第18条では, 使用済み物品に関する共通の「考え方」 が示されている。 この「考え方」は容器包装リサイクル法のどのような仕組みに反映されているか。 上記で述べた容器包装リサイクル法の仕組みは, 循環型社会形成推進基本法に照らして十 分なものとなっているか。 上記の「考え方」を簡潔に示した上, 理由を付して答えよ。 〔設問2〕 デパートを経営するA法人は, 自ら販売する商品について用いる包装(容器包装リサイクル法 第2条第3項の「特定包装」に当たる。 )に関して, 循環的利用について何らの対応も採っていな い。 この場合において, 主務大臣は, どのような措置を講ずることができるか。 A法人は, 自らが容器包装リサイクル法第2条第13項, 同条第11項第4号に該当するな どと主張して, 循環的利用について何らの対応も採る必要がないと考えている。 この場合, A 法人は, 主務大臣との関係で, どのような訴訟を提起することができるか。 - 24 - 〔第2問〕(配点:50) A市に居住しているB(45歳)は, 数年前にぜん息を発症し, その後症状が悪化してきている。 Bの居宅から10メートル離れたところにはC鉄鋼会社(以下「C社」という。 )の工場があり, このC社の操業に伴うばいじん, 窒素酸化物(政令により, 大気汚染防止法第2条第1項第3号の 「ばい煙」に指定されている。 )等の排出が認められる。 Bの居宅及びC社の工場は, 同法に基づく 窒素酸化物に係る総量規制の「指定地域」内にあり, C社の工場は「特定工場等」に当たる(同法 第5条の2第1項)。 また, Bの居宅から30メートル離れたところには, 高架式で設置されているD高速道路株式会 社(以下「D社」という。 )の高速道路があり, この高速道路を走行する自動車から窒素酸化物, 粒 子状物質(共に, 政令により, 同法第2条第14項の「自動車排出ガス」に指定されている。 )が排 出されている。 Bの居宅を含む地域では, 現在も二酸化窒素, 浮遊粒子状物質は, 環境基準値を超えており, こ の地域には, B以外にも, 多くの呼吸器系疾患に罹患した人々がいる。 〔設問1〕 Bは, 自分がぜん息にかかったのは, 居宅周辺の工場, 道路からの大気汚染物質の排出が原因 であると考え, C社及びD社を被告として損害賠償を求めて訴訟を提起した。 この場合における 法律上の問題点について論ぜよ。 なお, 問題文中に記載した以外の政令については, 考慮する必 要はない。 〔設問2〕 二酸化窒素の環境基準値については, 厳しすぎるという科学的知見が蓄積されてきたことから, 基準値が緩和されたとする。 この措置に不満なBは, その直後に取消訴訟を提起できるか。 原告 Bの主張と被告の反論について論ぜよ。 なお, 原告適格については触れなくてよい。 - 25 - - 26 - 論文式試験問題集[国際関係法(公法系)] - 27 - [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕(配点:50) X国の一部を構成するセント州は, X国内で独自の言語と文化を持ち古くから大幅な自治権が与 えられていた。 しかし, セント州で大きな勢力を持つセント独立党は自治権だけでは満足せず, 長 年にわたってX国からの独立を主張してきた。 2002年3月5日のセント州議会議員選挙でセン ト独立党が過半数の議席を占めることが確定し, 同年4月10日にセント州議会は, セント州全域 を国土とする「セント国」の独立と「セント国政府」の樹立を宣言した。 セント州議会は, この独 立宣言と同時に州内に駐留していたX国軍隊の撤退を要求した。 X国は, 同日に独立宣言が一部分 離主義者の策動だという声明を発表して「セント国」の独立に反対し, また, 軍隊の撤退要求を拒 否しただけでなく, セント州内を制圧するために同地域内へ軍隊を増派した。 セント州地域内各所 でセント独立党によって組織された「セント国軍」とX国軍の武力衝突が起こり, 戦闘はその後も 続いた。 時間の経過とともに徐々に「セント国軍」の支配地域が拡大し, 2004年1月ころには, 「セント国政府」は山岳地域を中心に従来のセント州の約半分の地域を実効支配する状態になった。 ただし, このころでも従来のセント州の他の地域はX国軍の支配下にあり, また, いずれの支配下 にあるか定かでない地域も各所に存在した。 2002年4月の「セント国独立宣言」直後には, 「セント国」の独立に対して特別な意思表明を 行う国は少なかった。 その中で, X国と対立関係にあったY国は, 独立宣言の公表と同時に「セン ト国の独立を祝する」旨の声明を公表し, 時を置かず大使を長とする外交使節団の「セント国」へ の派遣と「セント国」からの外交使節団の受入れを行った。 独立宣言採択当初は, Y国にならって 外交使節団の交換を「セント国」と行った国は数か国にとどまった。 しかし, 前記のとおり「セン ト国政府」の支配地域が従来のセント州の約半分になった2004年1月には, 「セント国」と外交 使節団を交換する国は50か国になっていた。 2004年4月に, X国政府は「セント国」情勢について軍事的に巻き返そうと考えてX国と友 好関係にあるZ国政府に軍事支援を求め, Z国政府は求めに応じて軍隊を派遣し, 従来のセント州 でのX国軍の軍事活動を支援した。 Z国政府は, 「セント国」独立以降に「セント国」に対して何ら の意思表明も行っていない国の一つであった。 以上の事実関係を前提に, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.国際法の観点からY国の行為を評価しなさい。 2. 「国際法上『セント国』は国家である」という命題を, 2004年4月を基準年として論評し なさい。 3.国際法の観点からZ国の行為を評価しなさい。 - 28 - 〔第2問〕(配点:50) A国とB国は国境を接しているが, 国境地帯でA国の国営化学工場が操業しており, そこから排 出される有害化学物質を含むばい煙は, B国領域内の農地に及んで農地を汚染したり農作物の生産 を阻害するなどの損害を引き起こした。 A国とB国が共に当事国となっている条約で, 当該化学物質を含むばい煙の排出を規制する条約 は存在しない。 甲はB国籍を有する私人であるが, 20数年にわたりB国内で農場を経営しており, A国の工場 からのばい煙により, 農地や農作物に損害を受けた。 一方, 私人乙がB国内に所有する農場の農地 や農作物も, A国の工場からのばい煙による損害を受けた。 乙はC国籍を有していた私人であるが, B国の国籍法は, 一定の金額を納入すれば国籍取得を認めていることから, 金銭を納入して, この 損害が発生する2か月前にB国の国籍を取得していた。 乙は, B国内に所有する農場の運営を使用 人に任せており, 時折B国を訪れるが, 生活の本拠はC国に置いていた。 甲は, B国政府が外交保護権を行使してA国の国家責任を追及することで, 救済が得られること を望んだ。 しかし, B国は, A国との友好関係を維持するという外交上の考慮から, 甲の受けた損 害について, 外交保護権の行使はしないと判断した。 他方, 乙の受けた損害について, B国は, 乙 のB国籍は国内法上有効であるが, 乙のB国籍を理由とした外交保護権の行使は, 外交上の考慮と は別に, 国際法上, 認められないと判断して, 外交保護権の行使を断念した。 以上の事実関係を前提に, 以下の設問に答えなさい。 なお, 国内救済については, 論ずる必要は ない。 〔設 問〕 1.A国が, 上記事実関係にあるような領域使用を領域主権の絶対性を根拠として正当化するこ とは許されるか。 許されないとすればそれはなぜか。 国際法上の根拠に基づいて説明しなさい。 2.甲の受けた損害に関して, 外交保護権の行使はしないとしたB国の判断が国際法上許される かについて説明しなさい。 3.乙の受けた損害に関するB国の外交保護権について, 次の小問に答えなさい。 なぜB国は, 国際法上この外交保護権の行使は認められないと判断したと考えられるか説 明しなさい。 B国は, 一方で, 「乙のB国籍を理由とした外交保護権の行使は, 国際法上, 認められない」 という判断をしたが, 他方で, 国内法上, 引き続き乙のB国籍は有効としていることの法的 な意味を説明しなさい。 - 29 - - 30 - 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)] - 31 - [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕(配点:50) Aは現在15歳であり, 日本と甲国の国籍を有している。 日本国籍を有する母Mは甲国籍を有す る父Fと20年前に日本において婚姻し, 両者の間にAが出生した。 Aの出生後に勤務地が甲国と なったFは, A及びMと共に甲国において家族生活を開始したが, しばらくしてFは急死した。 甲 国において生計を立てることができなかったMはAを伴い日本に帰国し, 日本においてAを養育し ていたところ, Aが13歳の時, Mもまた死亡した。 現在, Mの母Xが日本においてAを監護養育 している。 甲国国際私法からの反致はないものとして, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.現在, XはAの後見人となることを望んでいる。 日本の裁判所は, Aの後見人としてXを選任するための国際裁判管轄権を有しているか。 日本の裁判所が国際裁判管轄権を有すると仮定した場合に, XをAの後見人に選任するため に日本の裁判所はいかなる国の法を適用すべきか。 2.日本の裁判所がXをAの後見人に選任したとする。 Mが甲国において生前親しくしていた甲国人Bは現在日本に居住している。 Aを幼児のころ から知っていたBは, Xが高齢であることもあり, Aを日本において自己の養子にしたいと望 んでいる。 AとBとの間の養子縁組についてXの承諾は必要か。 なお, 甲国法によると, 「養子となる者が16歳未満の未成年者であるときは, その法定代理 人が縁組に承諾しなければならない。 」とされている。 AとBとの間の養子縁組が日本において有効に成立した場合, Xの後見は終了するか。 - 32 - 〔第2問〕(配点:50) 日本のA会社は甲国のG会社との間で, 甲国の港湾都市K市の湾岸部において化学プラントを建 設する契約を締結した。 K市に所在するAのK支店は, 日本のB会社との間で, Aが建設する化学 プラント用の機械(以下「本件機械」という。 )をBが製造し販売する製作物供給契約(以下「本件 契約」という。 )を締結した。 本件機械はK港にてAのK支店に引き渡された。 この事例について, 以下の設問に答えなさい。 なお, この事例における日本のA会社及び甲国のG会社は, それぞれ, 日本及び甲国で設立され, 日本及び甲国に主たる営業所を有するものとし, 日本のB会社は, 日本で設立され, 日本以外に営 業所等を有しないものとする。 〔設 問〕 1.AのK支店とBとの本件契約には, 乙国法を準拠法とし, かつ, 日本の裁判所を管轄裁判所 とする合意がある。 なお, 甲国は国際物品売買契約に関する国際連合条約(平成20年7月7日条約第8号) (以 下「条約」という。 )の締約国であるが, 乙国は条約の締約国ではない。 本件機械の瑕疵によりAが建設中の化学プラントの完成が遅れ, このためAはGに損害賠 償金を支払った。 この場合におけるBのAに対する本件契約上の責任の存否について, 日本 の裁判所は条約を適用すべきか(なお, 条約第2条及び第4条から第6条までの規定は, こ の設問には関係しないものとする。 )。 甲国のH会社がBの発行済株式のすべてを取得したことから, Bは本件契約の準拠法を甲 国法に変更することを希望している。 このような準拠法の変更は可能か。 2.Aの建設した化学プラントは無事Gに引き渡され, 稼働し始めた。 ところが, 本件機械の欠 陥が原因となり化学プラントが損傷してGに多大な損害が生じた。 そこで, Gは, Aに対して はAとの化学プラント建設契約中の仲裁条項に従い仲裁による解決を目指すこととし, Bに対 しては日本の裁判所において損害賠償請求訴訟を提起することとした。 日本の裁判所がBの責任を判断するために適用すべき法は, いかなる国の法か。 訴えが提起された後にGとBとが日本法を明示的に選択したとすれば, 裁判所は日本法を 適用することができるか。 - 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