[司法試験予備試験サンプル問題(法律実務基礎科目(刑事))] [論文式試験問題] 〔問〕 下記【事案の概要】を読んで,後記の各設問に答えなさい。 【事案の概要】 1 A(男性)とC(女性)は,同じ県立○○高校の同級生同士として交際しており,平成18 年3月に高校卒業後,Aは東京の大学に,Cは地元の大学にそれぞれ進学した後も交際を続け ていた。他方,AとCの高校の同級生であるV(男性)は,以前からCに好意を抱いていたと ころ,平成21年5月に開かれた高校の同窓会で再会したCに対し,しつこく交際を迫るよう になった。困ったCは,同年8月上旬にそのことをAに相談し,AがVに話をつけることにし た。Aは,Vに電話で「Cが困っているから,彼女に付きまとうのをやめろよ。」と言ったとこ ろ,逆にVから「お前何様のつもりだ。お前には関係ないだろ。」と一方的に言われたため,そ の言動に立腹し,「何だ,その言い方は。覚えておけよ。」と言って電話を切った。 2 Aは,平成21年8月13日に夏休みで地元に戻った際,Vに対する腹立ちが収まらなかっ たため,高校の先輩であったB(男性)にVのことを相談することにした。Bは,他の高校の 生徒や暴走族などとすぐにけんかをする有名な暴れん坊であったが,同じ中学出身であった後 輩のAのことはかわいがり,Aにとっては頼りになる兄貴分のような存在であった。そこで, Aは,高校時代から名うての暴れん坊であったBが出てくれば,さすがのVも,Bを怖がって 言うことをきくだろうと考えた。Bは高校卒業後,地元の会社に就職したが,まじめに働かな かったためクビになり,そのうち覚せい剤を使用するようになった。そのため,Bは,平成1 9年7月に,覚せい剤を自己使用した覚せい剤取締法違反の罪により,懲役1年6月,執行猶 予3年の有罪判決を受けた(なお,判決は確定済み)。その後,Bは,日雇のアルバイトで生計 を立てながら,アパートで一人暮らしをしていた。 Aは,前同日,自宅で,Bに「CがVから付きまとわれて嫌がっているんです。俺も直接V に付きまとうのをやめるようVに言ったのですが,逆にVから言い返されてしまいました。B さんからもCに付きまとうのをやめるようVに言ってくれませんか。Bさんから言われればV もすぐにやめると思いますから。」と言ったところ,Bは, 「わかった。おれが話をつけてやる。 それでも聞き入れなければ痛い目に合わせてやる。お前は見張りだけでいい。」と言った。その 後,AとBで相談し,AからCに,詳しいことを知らせずに,Vを夜間,人気のない港町公園 に呼び出すよう依頼すること,Aがレンタカーを借りてBを乗せて港町公園まで運転すること, BとVが公園にいる間,Aは車の中で待機しながら見張りをすることなどを決めた。 3 8月23日夜,AとBは,Aが借りて運転するレンタカーで港町公園まで行き,午後9時前 ころから,公園入口の近くにとめた車両内で待機していた。午後9時ころ,Cからの呼び出し に応じてやって来たVが公園に入って行ったのを見て,Bが車から降り,Vの方に近づいてい った。Aは,車の運転席から,公園に入って来る人がいないかを見張っていた。Vは,公園内 をきょろきょろしながら,Cの姿を捜していたが,Bが近づいて来たのを見て,一瞬ぎょっと した様子をしたものの,すぐに平静を装い「あれ,Bさんお久しぶりです。お元気でしたか。 こんな時間にどうしたのですか。」と言って,わざと親しげに話しかけてきた。Bは,「お前, Cに付きまとうのやめろよ。」と言ったところ,Vは,平然とした様子で「何を言い出すかと思 えばそんなことですか。恋愛ざたに口を出すとBさんの株が下がりますよ。」と言い返してきた。 それを聞いたBは,Vに対し「お前,だれに向かって口をきいてるんだ。」と言いながら,いき なりVの顔面を平手で2回殴った。Vは,Bが高校のときから有名な暴れん坊であることを知 - 1 - っていたので,これ以上逆らうと何をされるかわからないと思い, 「わかりました。もうCには 連絡しません。」と言った。Bはそれを聞いて「二度と連絡するなよ。」と念を押して,Vに背 を向け公園の出口に向かおうとした。Vは,Bが立ち去ろうとしたので一安心し,小声で「格 好つけやがって。前科持ちの癖に。」とつぶやくように言った。それを聞いたBは憤激し,「お 前,今何て言った。」と怒鳴りながら,腰に隠し持っていた三段伸縮式の特殊警棒を取り出し, Vの頭部,両上腕部,腹部等を多数回にわたり殴打した。 4 公園の入口近くにとめた車の中で見張りをしていたAは,公園の中でのBとVのやり取りは 見えなかったものの,犬を連れて散歩する男が公園に入ろうとするのを見て,車から降りて, Bに向かって「人が行ったから。」と伝えた。Bは,公園から駆け足で戻って車の助手席に乗り 込み,すぐにAが車両を発進させてその場から離れた。特殊警棒を手に持って車に戻ったBは, Aに「あいつ,ふざけたことを言うから,やきを入れてやった。」と言ったところ,Aは「あれ, そんなの持っていたのですか。Vは本当に生意気なやつだったでしょう。」と返答した。 公園を散歩していたWは,うずくまりけがをしているVを発見し,警察と救急隊に連絡した。 Vは,救急車で病院に搬送され,入院加療約3か月を要するろっ骨骨折,左上腕部複雑骨折, 頭部打撲と診断された。 5 警察官は,Vの事情聴取から犯人がBであることが判明したため,8月27日,Vの供述な どを疎明資料として,傷害の被疑事実でBの逮捕状を請求し,同日その発付を受けた。しかし, Bは,事件後,友人宅を転々と泊まり歩く生活を送るようになっており,Bのアパートに赴い た警察官は,Bの身柄を確保することができなかった。Bの所在捜査を続けていたところ,9 月1日,Bの友人宅の近くのパチンコ店でBを発見し,Bを逮捕したが,犯行に使用した特殊 警棒については押収することができなかった。その後,V・B・Cの各供述からAの関与も判 明したため,同月4日,Aも逮捕され,所要の捜査を遂げた後,A及びBは,以下の【公訴事 実】で公判請求された。 第1回公判期日において,被告人Aは,公訴事実記載の「共謀」を争い,被告人Bは公訴事 実を認めたため,裁判所は,AとBの審理を分離した。 【公訴事実】 被告人両名は,共謀の上,平成21年8月23日午後9時ころ,○○県○○市○○町1丁目2 番3号港町公園において,V(当時21歳)に対し,平手でその顔面を殴打し,特殊警棒で頭部, 両上腕部,腹部等を多数回殴打するなどの暴行を加え,よって,同人に入院加療約3か月を要す るろっ骨骨折,左上腕部複雑骨折,頭部打撲の傷害を負わせたものである。 〔設問1〕 検察官は,逮捕されたBの送致を受け,Bを勾留請求するかどうかを検討することと した。そこで,その検討に際し,勾留請求の実体的要件が認められるかどうかにつき,それぞれ 具体的事実を指摘しつつ論じなさい。ただし,勾留の理由(罪を犯したことを疑うに足りる相当 な理由)と必要性については論じる必要はない。 〔設問2〕 上記【事案の概要】の4までの事実が,裁判所において証拠上認定できることを前提 に,Aが本件傷害の共同正犯の罪責を負うかどうか検討するに当たり, 「共謀」を肯定する方向に 働く事実と否定する方向に働く事実を挙げて,それぞれの事実がなぜ共謀を肯定し,又は否定す る方向に働くかの理由とともに示しなさい。 〔設問3〕 仮に,以下の【手続】がなされたとした場合,弁護人はどのような対応を取ることが できるか,条文上の根拠とともに論じなさい。 - 2 - 【手続】 Bは,捜査段階において, 「私が港町公園に行くとき,特殊警棒を隠し持っていたことをAは 知っていました。というのも,Aの自宅でAから相談されたとき, 『そんな生意気なやつはこれ でボコボコにしてやる。』と言って,Aにこの特殊警棒を見せたということがあったからです。」 という供述をし,その旨の検察官面前調書が作成された。他方,Aは「Bが特殊警棒を持って いることは知りませんでした。」と供述したため,Aの弁護人は,検察官が証拠請求したBの上 記供述が記載された検察官面前調書を不同意にした。Aの公判期日において,Bの証人尋問を 実施したところ,Bは,上記の点について, 「よく考えてみるとAは知らなかったと思います。」 と証言した。そこで,検察官はその証言と相反する記載のあるBの検察官面前調書を,前の供 述と相反し,前の供述を信用すべき特別の情況があるとして,刑事訴訟法第321条第1項第 2号により証拠請求した。裁判所は,その調書の証拠採用を決定したが,弁護人は,検察官面 前調書中の供述には信用すべき特別の情況が欠けていると考えた。 〔設問4〕 ABの高校時代の教師が,AB両名が逮捕勾留されたことを知り,AB両名に対し, 知人の弁護士Dを紹介した。弁護士Dが,AB両名の弁護人として事件を受任することの問題点 を論じなさい。 【出題趣旨】 本問は,具体的な事例を前提として,捜査から判決に至る刑事手続及び事実認定についての基 本的理解並びに法曹倫理(刑事)に関する基礎的素養が身についているかどうかを試すとともに, それらを適切に表現する能力をも問う問題である。 設問1は,捜査段階における勾留について,その実体的要件(ただし,勾留の理由と必要性を 除く)の理解及びその検討に当たって考慮すべき具体的事実を問題文から指摘できるかどうかを 試す問題である。 設問2は,本件事例の争点である「共謀」の事実認定について,問題文の中から,共謀を認定 する積極的事実と消極的事実とを抽出するとともに,各事実の評価の理由をも問う問題である。 答案としては,共謀共同正犯の実体法上の解釈に関する論述が求められているのではなく,共 謀共同正犯の成否が問題となった最高裁判例の判決文において摘示されている事情等を参考に, 間接事実による事実認定の基本的枠組みを理解した上で,事案に即して重要な具体的事実を分析 ・評価することが求められる。 設問3は,公判中の証拠調べ手続における弁護人の対応について,条文上の根拠に基づいた理 解ができているかどうかを問う問題である。証拠調べ手続については,刑事訴訟法上の規定のみ ならず,刑事訴訟規則において詳細なルールが定められていることから,このような規則につい ての理解も必要とされるところである。 設問4は,刑事弁護の受任に関する弁護士倫理を問う問題である。刑事弁護倫理については, 刑事訴訟法,刑事訴訟規則はもとより,弁護士法,弁護士職務基本規程上の関連する規定の理解 も求められる。 【問題数について】 試験時間が1時間30分程度とした場合,上記4つの設問すべての解答を求めることは分量的 に多すぎると思われる。仮に,設問2を含めるとすると,他には,設問1のみ,あるいは設問3, 4のみとすることが考えられる。 - 3 - また,配点比率については,設問1,2を問う場合であれば,設問1:設問2=1:2程度,設 問2から4を問う場合であれば,設問2:設問3:設問4=4:1:1程度とすることが考えら れる。 - 4 - [口述試験のイメージ] (前提事実1) 警察官Pは,暴力団員Aの知人Bから,Aが覚せい剤の売人をしているらしいとの情報を入 手した。 (前提事実2) 警察官Pは,A方を捜索した結果,微量の覚せい剤を発見し,Aを,その場で,覚せい剤取 締法違反(所持)で現行犯逮捕した。 (前提事実3) 弁護人Qは,Aの内妻から,Aが逮捕されたことで相談を受けた。そこで,弁護人Qは,A が逮捕された警察署を訪れ,接見を申し入れたところ,警察官Pは, 「取調中なので,接見でき ない。」と言った。 (前提事実4) Aは,警察官Pに対し,自宅から発見された覚せい剤について, 「覚せい剤ではなく,コカイ ンであると思っていた。」と供述した。 (前提事実5) Aの逮捕勾留中,Aの尿から覚せい剤が検出されたが,Aは,覚せい剤を使用した事実はな いと供述した。検察官Rは,所要の捜査を遂げた結果,Aの覚せい剤使用の嫌疑は十分である と判断した。 (前提事実6) S裁判所は,Aの覚せい剤使用事件の公判審理を行うこととなった。第1回公判期日におい て,A及び弁護人Qは,覚せい剤使用事実を否認した。また,弁護人Qは,検察官が証拠請求 したAの知人Bの「Aが覚せい剤を使用しているのを見たことがある。」旨の検察官面前調書を 不同意とした。 - 5 -