論文式試験問題集[公法系科目第1問] - 1 - [公法系科目] 〔第1問〕(配点:100) インターネット上で地図を提供している複数の会社は,公道から当該地域の風景を撮影した画像 をインターネットで見ることができる機能に基づくサービスを提供している。ユーザーが地図上の 任意の地点を選びクリックすると,路上風景のパノラマ画像(以下「Z機能画像」という。)に切り 替わる。 Z機能画像は,どの会社の場合もほぼ共通した方法で撮影されている。公道を走る自動車の屋根 に高さ2メートル80センチ前後(地上約4メートル)の位置にカメラを取付け,3次元方向のほ ぼ全周(水平方向360度,上下方向290度)を撮影している。そのために,Z機能画像では, 路上にいる人の顔,通行している車のナンバーや家の表札も映し出される。さらに,各家の塀を越 えた高さから撮影するので,庭にいる人や庭にある物ばかりでなく,家の中の様子までもが映し出 される場合がある。また,上下方向290度を撮影していることから,マンションの上の方の階の ベランダにいる人やそこに置いてある物も映し出される場合がある。これにより個人が特定され得 るばかりでなく,庭,ベランダ,室内等に置いてある物から,そこに住む人の家族構成や生活ぶり が推測され得る。さらに,このような情報は,犯罪を企む者に悪用されるおそれもあり得る。しか しながら,会社側は,事前にZ機能画像の撮影日時や場所を住民に周知する措置を採っていなかっ た。 インターネット上で提供されるZ機能画像が惹起するプライバシーの問題に関して,会社側は, 基本的には,公道から見えているものを映しているだけであり,言わば誰もが見ることのできるも のなので,プライバシー侵害とはいえない,と主張している。特にX社は,以下のように,より積 極的にZ機能画像が提供する情報の価値を主張している。まず,その情報は,ユーザー自身がそこ を実際に歩いている感覚で画像を見ることができるので,ユーザーの利便性の向上に役立つ。ま た,それは,不動産広告が誇大広告であるか否かを画像を見て確かめることによって詐欺被害を未 然に防止できるなど,社会的意義を有する。 ところで,Z機能画像をめぐっては,個人を特定されないことや生活ぶりをのぞかれないことを めぐる問題ばかりでなく,次のような問題も生じている。Z機能画像には,公道上であっても,そ の場所にいることやそこでの行動を知られたくない人にとっては,公開されたくない画像が大量に 含まれている。また,ドメスティック・バイオレンスからの保護施設など,公開されては困る施設 も映されている。加えて,路上や公園で遊ぶ子供が映されていることで,誘拐等の誘因になるので はないかと案ずる親もいる。さらに,インターネット上に公開されたZ機能画像の第三者による二 次的利用が,頻繁に見られるようになっている。 こういう中,Z機能画像をインターネット上に提供することの中止を求める声が高まってきた。 20**年に,国会は, 「特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回 復に関する法律」 (以下「法」という。)を制定した【参考資料】。法は,システム提供者に対し,Z 機能画像をインターネット上に掲載する前に,A大臣に届け出ることを求めている(法第6条参 照)。また,法は,システム提供者が遵守すべき事項を規定している(法第7条参照)。A大臣は, Z機能画像の提供によって被害を受けた者からの申立てがあったときは,法に定める手続に従って 被害の回復のための措置を講じることとされている(法第8条参照)。 法が制定されてから,多くの会社は,法の定める遵守事項を守り,また個別の苦情に応じて必要 な修正を施している。X社も,人の顔や表札など特定個人を識別することのできる情報と車のナン バープレートについてはマスキングを施し,車載カメラの高さも法が定める高さに改めた。しか し,X社は,家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像については,法で具体的に明記さ れていないとして,修正しなかった。数件の申立てに応じて,X社に対して,そのような画像に必 要な修正をすることを求める改善勧告がなされた。しかし,X社は,それらの修正を行わなかっ - 2 - た。その結果,X社は,A大臣から,行政手続法の定める手続に従って,特定地図検索システムの 提供の中止命令を受けた。 〔設問1〕 あなたがX社から依頼を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして,そ の訴訟において,どのような憲法上の主張を行うか。憲法上の問題ごとに,その主張内容を書き なさい。 〔設問2〕 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べ なさい。 - 3 - 【参考資料】特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律 第1章 総則 (目的) 第1条 この法律は,特定地図検索システムによる情報の提供が,インターネットの普及その他社会 経済情勢の変化に伴うコンテンツに対する需要の高度化及び多様化に対応した利用者の利便の増進 に寄与するものであることに留意しつつ,当該情報の提供に伴い個人に関する情報が公にされるこ とによる被害から適確に国民を保護することの緊要性に鑑み,当該被害の防止及び回復に関し,基 本理念を定め,国及びシステム提供者の責務を明らかにするとともに,システム提供者の遵守事 項,被害回復のための措置,被害回復委員会の設置その他必要な事項を定めることにより,国民生 活の安全と平穏の確保に資することを目的とする。 (定義) 第2条 一 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。 特定地図検索システム インターネットを通じて不特定又は多数の者に提供される地図に関す る情報の検索システムであって,文字,記号その他の符号又は航空写真を用いて表現される情報 提供の機能を補完するための機能として,画像の情報を提供するZ機能を有するものをいう。 二 Z機能 地図に対応する道路,建築物,工作物等及びその周辺の状況を路上等を移動する車両 に設置した水平方向に360度回転するカメラにより撮影した画像の情報を,電磁的方式(電子 的方式,磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式をいう。)によりイ ンターネットを通じて不特定又は多数の者に提供するための機能をいう。 三 システム提供者 インターネットを通じて特定地図検索システムを提供する事業を営む者をい う。 四 個人識別情報 個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもの(他の情 報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるもの を含む。)をいう。 五 個人自動車登録番号等 個人の所有する自動車に係る道路運送車両法(昭和26年法律第18 5号)の規定による自動車登録番号又は車両番号をいう。 六 個人権利利益侵害情報 個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であ って,公にすることにより,個人の権利利益を害するおそれのあるものをいう。 (基本理念) 第3条 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために講ずべき 措置は,Z機能の特性に鑑み,当該情報の提供が国民の生活の安全と平穏に重大な被害を及ぼすお それがあり,かつ,国民自らその被害を回復することが著しく困難であることを踏まえ,国の関与 により,その被害を適確に防止するとともに,現に発生している被害を迅速に回復することが極め て重要であるという基本的認識の下に,行われなければならない。 (国の責務) 第4条 国は,前条に定める基本理念にのっとり,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国 民の被害の防止及び回復に関する施策を総合的に策定し,及び実施する責務を有する。 (システム提供者の責務) 第5条 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回 復について第一義的責任を有していることを認識し,その提供すべき画像の撮影及び編集,インタ ーネットによる当該情報の公開及び管理その他の各段階において,自らその被害の防止及び回復の ために必要な措置を講じる責務を有する。 第2章 被害の防止及び回復に関する措置 (提供開始の届出) - 4 - 第6条 システム提供者は,インターネットにより特定地図検索システムを提供しようとするとき は,あらかじめ,その旨及びその内容をA大臣に届け出なければならない。その内容を変更しよう とするときも,同様とする。 (遵守すべき事項) 第7条 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回 復のために必要な次に掲げる事項を遵守しなければならない。 一 提供すべき画像の撮影に当たっては,これに用いるカメラを地上から1メートル60センチメ ートルの高さを超える位置に設置してはならないこと。 二 提供すべき画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権利利益侵害情報が含 まれている場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番号等を識別することができないよ う,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の修正その他の改善のために必要な 措置をとらなければならないこと。 三 インターネットにより提供した画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権 利利益侵害情報が含まれていたことが判明した場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番 号等を識別することができないよう,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の 修正その他の改善のために必要な措置をとらなければならないこと。この場合において,改善の ために必要な措置をとることができないときは,インターネットによる特定地図検索システムの 提供を中止しなければならないこと。 四 提供すべき画像の撮影又はインターネットにより画像を提供するに当たっては,適時かつ適切 な方法で,対象となる地域の住民に対する周知の措置を講じるよう努めること。 五 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う被害に関し,苦情等の申出があった場合には, 当該申出に対し適切な措置を講じるよう努めること。 六 前各号に掲げるもののほか,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止 及び回復のために必要な事項として政令で定めるもの (被害回復措置) 第8条 A大臣は,特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者から申立てがあっ たときは,措置を講じる必要が明らかにないと認める場合を除き,当該申立てに係る被害及びこれ と同種の被害を回復するために必要な措置について,被害回復委員会に諮問しなければならない。 2 A大臣は,前項の規定による諮問に対する答申があった場合において,同項の申立てに係る被害 及びこれと同種の被害を回復するため必要があると認めるときは,システム提供者に対し,画像の 修正その他の提供に係る情報の改善のために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。 3 A大臣は,前項の規定による勧告を受けた者が,正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとら なかった場合において,第1項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため特に必要 があると認めるときは,その者に対し,その勧告に係る措置の実施又はインターネットによる特定 地図検索システムの提供の中止を命ずることができる。 4 A大臣は,前項の規定による命令をしたときは,その旨を公表しなければならない。 第3章 被害回復委員会 (委員会の設置) 第9条 A省に,被害回復委員会(以下「委員会」という。)を置く。 (所掌事務) 第10条 一 委員会は,次に掲げる事務をつかさどる。 第8条第1項の規定による諮問に応じて,調査審議し,A大臣に対し,必要な答申をするこ と。 二 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために国が講ずべ き施策について,A大臣に意見を述べること。 - 5 - 2 委員会は,その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは,A大臣に対し,資料の提 出,説明その他必要な協力を求めることができる。 3 A大臣は,第1項第一号の答申に基づき講じた措置について,委員会に報告しなければならな い。 (組織等) 第11条 委員会は,委員10人をもって組織する。 2 委員は,優れた識見を有する者のうちから,A大臣が任命する。 3 委員の任期は,3年とする。 4 その他委員会の組織及び運営に関し必要な事項は,政令で定める。 - 6 - 論文式試験問題集[公法系科目第2問] - 1 - [公法系科目] 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕(1),〔設問2〕(2),〔設問3〕の配点の割合は, 3.5:1.5:3.5:1.5〕) 社団法人Aは,モーターボート競走の勝舟投票券の場外発売場(以下「本件施設」という。)をP 市Q地に設置する計画を立て,平成22年に,モーターボート競走法(以下「法」という。)第5条 第1項により国土交通大臣の許可(以下「本件許可」という。)を受けた。Aは,本件許可の申請書 を国土交通大臣に提出する際に,国土交通省の関係部局が発出した通達(「場外発売場の設置等の運 用について」及び「場外発売場の設置等の許可の取扱いについて」)に従い,Q地の所在する地区の 自治会Rの同意書(以下「本件同意書」という。)を添付していた。本件許可がなされた直後に,Q 地の近隣に法科大学院Sを設置している学校法人X1,及び自治会Rの構成員でありQ地の近隣に 居住しているX2は,国に対し本件許可の取消しを求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を提起 した。本件訴訟が提起されたため,Aは,本件施設の工事にいまだ着手していない。 Aの計画によれば,本件施設は,敷地面積約3万平方メートル,建物の延べ床面積約1万平方メ ートルで,舟券投票所,映像設備,観覧スペース,食堂,売店等から構成され,700台を収容す る駐車場が設置される。本件施設が場外発売場として営業を行うのは,1年間に350日であり, そのうち300日はナイターが開催される。本件施設の開場は午前10時であり,ナイターが開催 されない場合は午後4時頃,開催される場合は午後9時頃に,退場者が集中することになる。 また,本件施設の設置を計画されているQ地,X2の住居,法科大学院S,及びこれらに共通の 最寄り駅であるP駅の間の位置関係は,次のとおりである。Q地,X2の住居,法科大学院Sは, いずれも,P駅からまっすぐに南下する県道(以下「県道」という。)に面している。P駅の周辺に は商店や飲食店が立ち並び,住民,通勤者,通学者などが利用している。P駅から県道を通って南 下した場合,P駅から近い順に,法科大学院S,X2の住居,Q地が所在し,P駅からの距離は, 法科大学院Sまでは約400メートル,X2の住居までは約600メートル,Q地までは約800 メートルである。逆にQ地からの距離は,X2の住居までは約200メートル,法科大学院Sまで は約400メートルとなる。 平成23年になって,本件訴訟の過程で,本件同意書について次のような疑いが生じた。自治会 Rでは,X2も含めて,本件施設の設置に反対する住民が相当な数に上る。それにもかかわらず, Aによる本件施設の設置に同意することを決議した自治会Rの総会において,同意に賛成する者が 123名であったのに対し,反対する者は,10名しかいなかった。これは,自治会Rの役員が, 本件施設の設置に反対する住民に総会の開催日時を通知しなかったために,大部分の反対派の住民 が総会に出席できなかったためではないか,という疑いである。 国土交通大臣は,この疑いが事実であると判明した場合,次の措置を執ることを検討している。 まず,Aに対し,自治会Rの構成員の意思を真に反映した再度の決議に基づく自治会Rの同意を改 めて取得し,国土交通大臣に自治会Rの同意書を改めて提出するように求める(以下「要求措置」 という。)。そして,Aが自治会Rの同意及び同意書を改めて取得することができない場合には,本 件許可を取り消す(以下「取消措置」という。)。 以上の事案について,P市に隣接するT市の職員は,将来T市でも同様の事態が生じる可能性が あることから,弁護士に調査検討を依頼することにした。 【資料1 会議録】を読んだ上で,T市の 職員から依頼を受けた弁護士の立場に立って,以下の設問に答えなさい。 なお,法及びモーターボート競走法施行規則(以下「施行規則」という。)の抜粋を【資料2 係法令】に,関係する通達の抜粋を【資料3 関 関係通達】に,それぞれ掲げるので,適宜参照しな さい。 - 2 - 〔設問1〕 本件訴訟は適法か。X1及びX2それぞれの原告適格の有無に絞って論じなさい。 〔設問2〕 国土交通大臣が検討している要求措置及び取消措置について,以下の小問に答えなさい。 Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明しているにもかかわらず, 国土交通大臣がAに対し,取消措置を執る可能性を示しながら要求措置を執り続けた場合,A は,取消措置を受けるおそれを除去するには,どのような訴えを提起するべきか。最も適法と される見込みが高く,かつ,実効的な訴えを,具体的に二つ候補を挙げて比較検討した上で答 えなさい。仮の救済は,考慮しなくてよい。 Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明したため,国土交通大臣が Aに対し取消措置を執った場合,当該取消措置は適法か。解答に当たっては,関係する法令の 定め,自治会の同意を要求する通達,及び国土交通大臣がAに対し執り得る措置の範囲ないし 限界を丁寧に検討しなさい。 〔設問3〕 T市は,新たに条例を定めて,次のような規定を置くことを検討している。@T市の区域に勝 舟投票券の場外発売場を設置しようとする事業者は,T市長に申請してT市長の許可を受けなけ ればならない。AT市長は,場外発売場の施設が周辺環境と調和する場合に限り,その設置を許 可する。 このような条例による許可の制度が,事業者に対して実効性を持ち,また,住民及び事業者の 利害を適切に調整できるようにするためには,上記@Aの規定以外に,どのような規定を条例に 置くことが考えられるか。また,このような条例を制定する場合に,条例の適法性に関してどの ような点が問題になるか。考えられる規定の骨子及び条例の問題点を,簡潔に示しなさい。 - 3 - 【資料1 職 会議録】 員:P市は,場外舟券売場の件で大騒ぎになっていますが,我がT市にとっても他人事ではあ りません。公営ギャンブルの場外券売場の設置が計画される可能性は,T市にもあります。 そこで,P市の事案を様々な角度から先生に検討していただいて,T市としても課題を見付 け出し,将来のための備えをしたいと考えています。そのような趣旨ですから,P市の事案 のいずれかの当事者や利害関係者の立場に立たずに,第三者の視点から御検討をお願いいた します。 弁護士:公営ギャンブルの場外券売場の設置許可は,刑法第187条の富くじに当たるものの発売 等を適法にする法制度である点が,通常の事業の許認可とは違うところですね。私もこれま で余り調査したことがない分野ですが,検討した上で文書を作成してみましょう。 職 員:早速,まず本件訴訟についてですが,これは,適法な訴えなのでしょうか。法,施行規則, それから関係する通達を読みますと,それぞれに関係しそうな規定があるのですが,これら の規定のそれぞれが,本件訴訟の適法性を判断する上でどのような意味を持つのか,どうも うまく整理できないのです。 弁護士:問題になるのは,原告適格ですね。私の方で,法,施行規則,それから通達の関係する規 定と,それらの規定が原告適格を判断する上で持つ意味を明らかにしながら,X1とX2そ れぞれの原告適格の有無を考えてみましょう。 職 員:お願いします。仮に本件訴訟が適法とされた場合に,本件許可が適法と判決されそうかど うかも問題ですが,今年になって,状況が大きく変わりましたので,差し当たりその問題ま では検討していただかなくて結構です。 弁護士:状況が変わったとは,どういうことですか。 職 員:地元の同意書の作成プロセスについて重大な疑惑が持ち上がり,今度は,紛争が国土交通 大臣とAとの間で生じる可能性が出てきたのです。Aは,裁判になって対立が激化してから もう一度地元の同意書を取ることなど無理だというので,同意を取り直すつもりがないよう ですが,国土交通大臣の方も,地元を軽んじる姿勢は取れないので,Aに同意書を取り直す ように求め続けることが予想されます。この場合,今度は,Aが何らかの訴えを起こすこと はできるのでしょうか。 弁護士:最も可能性のある訴えを検討して,具体的に挙げてみましょう。 職 員:それから,やや極端なケースを想定するのですが,地元の同意のプロセスに重大な瑕疵が あった場合,国土交通大臣は,本件許可を取り消すことができるのでしょうか。この問題に ついては,どうも私の頭が混乱しているので,いろいろ質問させてください。まず,施行規 則第12条は,許可の基準として地元の同意とは規定していないのですが,そもそも,この 条文に定められた基準以外の理由で,許可を拒否できるのですか。 弁護士:関係法令をよく検討して,お答えすることにします。 職 員:よろしくお願いします。付け加えますと,地元の同意と定めているのは,国土交通省の通 達の方であり,これもそもそもの話になるのですが,このような通達に定められたことを理 由にして,許可を拒否してよいのですか。この点も教えていただければと思います。 弁護士:問題となっている通達の法的な性格をはっきりと説明するように,文書にまとめてみま す。 職 員:通達の中身について言いますと,地元の同意を重視している点は,自治体の職員としては とてもよく理解できます。ただ,許可の取消しという措置まで執ることができるのかと問わ れると,自信を持って答えられないのです。 弁護士:法律家から見ますと,地元の同意を重視する行政手法には,問題点もありますね。国土交 通大臣が本件許可の申請に際して地元自治会の同意を得ておくように求める行政手法の意義 と問題点を,まとめておきましょう。その上で,疑惑が事実であると仮定して,国土交通大 - 4 - 臣は,Aに対してどこまでの指導,処分といった措置を執ることができるのか,執り得る措 置の範囲ないし限界についても綿密に検討しておきます。 職 員:今言われた「処分」について詳しく伺いたいのですが,仮に,地元自治会の同意がない場 合に,国土交通大臣が申請に対して不許可処分をする余地が多かれ少なかれあるという考え 方を採ると,一度許可をした後で許可を取り消す処分もできることになるのでしょうか。 弁護士:そこまで考えて,ようやく答えが出ますね。全体を順序立てて文書にまとめてみます。 職 員:助かります。それでやっと,我がT市の話になるのですが,T市の区域で場外舟券売場を 設置しようとする事業者が現れた場合,国が定めた法令や通達の基準だけで設置を認めるの では,不十分であると考えています。T市としては,調和のとれた街づくりをするために, 場外舟券売場が周辺環境と調和するかをしっかりと審査して,市長が調和しないと判断した 場合には,設置をやめていただく制度を作りたいと考えています。このような制度を条例で 定める場合に,配慮すべき点を教えていただければ幸いです。 弁護士:解釈論だけでなく,立法論も大事ですからね。簡潔にまとめておきましょう。 - 5 - 【資料2 ○ 関係法令】 モーターボート競走法(昭和26年6月18日法律第242号)(抜粋) (趣旨) 第1条 この法律は,モーターボートその他の船舶,船舶用機関及び船舶用品の改良及び輸出の振 興並びにこれらの製造に関する事業及び海難防止に関する事業その他の海事に関する事業の振興 に寄与することにより海に囲まれた我が国の発展に資し,あわせて観光に関する事業及び体育事 業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に資するとともに,地方財政の改善を図るために 行うモーターボート競走に関し規定するものとする。 (競走の施行) 第2条 都道府県及び人口,財政等を考慮して総務大臣が指定する市町村(以下「施行者」とい う。)は,その議会の議決を経て,この法律の規定により,モーターボート競走(以下「競走」と いう。)を行うことができる。 2〜4 5 (略) 施行者以外の者は,勝舟投票券(以下「舟券」という。)その他これに類似するものを発売し て,競走を行つてはならない。 (競走場の設置) 第4条 競走の用に供するモーターボート競走場を設置し又は移転しようとする者は,国土交通省 令で定めるところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。 2〜4 5 (略) 国土交通大臣は,必要があると認めるときは,第1項の許可に期限又は条件を附することがで きる。 6 国土交通大臣は,第1項の許可を受けた者(以下「競走場設置者」という。)が1年以上引き続 き同項の許可を受けて設置され若しくは移転されたモーターボート競走場(以下「競走場」とい う。)を競走の用に供しなかつたとき,又は競走場の位置,構造及び設備がその許可の基準に適合 しなくなつたと認めるときは,同項の許可を取り消すことができる。 7,8 (略) (場外発売場の設置) 第5条 舟券の発売等の用に供する施設を競走場外に設置しようとする者は,国土交通省令で定め るところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。当該許可を受けて設置された施 設を移転しようとするときも,同様とする。 2 国土交通大臣は,前項の許可の申請があつたときは,申請に係る施設の位置,構造及び設備が 国土交通省令で定める基準に適合する場合に限り,その許可をすることができる。 3 競走場外における舟券の発売等は,第1項の許可を受けて設置され又は移転された施設(以下 「場外発売場」という。)でしなければならない。 4 前条第5項及び第6項の規定は第1項の許可について,同条第7項及び第8項の規定は場外発 売場及び場外発売場設置者(第1項の許可を受けた者をいう。以下同じ。)について,それぞれ準 用する。 (競走場内等の取締り) 第22条 施行者は,競走場内の秩序(場外発売場において舟券の発売等が行われる場合にあつて は,当該場外発売場内の秩序を含む。)を維持し,かつ,競走の公正及び安全を確保するため,入 場者の整理,選手の出場に関する適正な条件の確保,競走に関する犯罪及び不正の防止並びに競 走場内における品位及び衛生の保持について必要な措置を講じなければならない。 (競走場及び場外発売場の維持) - 6 - 第24条 2 (略) 場外発売場設置者は,その場外発売場の位置,構造及び設備を第5条第2項の国土交通省令で 定める基準に適合するように維持しなければならない。 (秩序維持等に関する命令) 第57条 国土交通大臣は,競走場内又は場外発売場内の秩序を維持し,競走の公正又は安全を確 保し,その他この法律の施行を確保するため必要があると認めるときは,施行者,競走場設置者 又は場外発売場設置者に対し,選手の出場又は競走場若しくは場外発売場の貸借に関する条件を 適正にすべき旨の命令,競走場若しくは場外発売場を修理し,改造し,又は移転すべき旨の命令 その他必要な命令をすることができる。 (競走の開催の停止等) 第58条 2 (略) 国土交通大臣は,競走場設置者若しくは場外発売場設置者又はその役員が,この法律若しくは この法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反し,又はその関係する競走につき公益 に反し,若しくは公益に反するおそれのある行為をしたときは,当該競走場設置者又は当該場外 発売場設置者に対し,その業務を停止し,若しくは制限し,又は当該役員を解任すべき旨を命ず ることができる。 3 (略) (競走場等の設置等の許可の取消し) 第59条 国土交通大臣は,競走場設置者又は場外発売場設置者が前条第2項の規定による命令に 違反したときは,当該競走場又は当該場外発売場の設置又は移転の許可を取り消すことができ る。 ○ モーターボート競走法施行規則(昭和26年7月9日運輸省令第59号)(抜粋) (場外発売場の設置等の許可の申請) 第11条 法第5条第1項の規定により場外発売場の設置又は移転の許可を受けようとする者は, 次に掲げる事項を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならない。 一 申請者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては代表者の氏名 二 場外発売場の設置又は移転を必要とする事由 三 場外発売場の所在地 四 場外発売場の構造及び設備の概要 五 場外発売場を中心とする交通機関の状況 六 場外発売場の建設費の見積額及びその調達方法 七 場外発売場の建設工事の開始及び完了の予定年月日 八 その他必要な事項 2 前項の申請書には,次に掲げる書類を添付しなければならない。 一 場外発売場付近の見取図(場外発売場の周辺から1000メートルの区域内にある文教施設 及び医療施設については,その位置及び名称を明記すること。) 二 場外発売場の設備の構造図及び配置図(1000分の1以上の縮尺による。) 三 申請者が当該施設を使用する権原を有するか,又はこれを確実に取得することができること を証明する書類 四 場外発売場の経営に関する収支見積書 五 施行者の委託を受けて舟券の発売等を行う予定であることを証明する書類 (場外発売場の設置等の許可の基準) 第12条 法第5条第2項の国土交通省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供す - 7 - る施設及び設備の基準を除く。)は,次のとおりとする。 一 位置は,文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれのない場所であること。 二 構造及び設備が入場者を整理するため適当なものであること。 三 競走の公正かつ円滑な運営に必要な次に掲げる施設及び設備を有していること。 四 2 イ 舟券の発売等の用に供する施設及び設備 ロ 入場者の用に供する施設及び設備 ハ その他管理運営に必要な施設及び設備 (略) (略) - 8 - 【資料3 ○ 関係通達】 場外発売場の設置等の運用について(平成20年2月15日付け国海総第136号海事局長か ら各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋) 7 場外発売場設置予定者は,設置許可申請書に省令第2条の7(注1)第2項に定める書類のほ か,地元との調整がとれていることを証明する書類及び管轄警察の指導の内容が反映されている ことを証明する書類並びに建築確認申請書の写しを添付すること。 (注1) 【資料2 関係法令】に掲げる現行のモーターボート競走法施行規則第11条を指す。以 下「省令」とは現行のモーターボート競走法施行規則を指す。 ○ 場外発売場の位置,構造及び設備の基準の運用について(平成20年2月15日付け国海総第 139号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋) 1 場外発売場の基準 場外発売場の基準の運用については,次のとおりとする。 位置(省令第12条第1項第1号) @ 「文教上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,文教施設から適当な距離を 有している,当該設置場所が主たる通学路(学校長が児童又は生徒の登下校の交通安全の確 保のために指定した小学校又は中学校の通学路をいう。)に面していないなど総合的に判断し て行う。 A 「衛生上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,医療施設から適当な距離を 有している,救急病院又は救急診療所(都道府県知事が救急隊により搬送する医療機関とし て認定したものをいう。)への救急車の主たる経路に面していないなど総合的に判断して行 う。 B 文教施設とは,学問又は教育を行う施設であり,学校教育法第1条の学校(小学校,中学 校,高等学校,中等教育学校,大学,高等専門学校,盲学校,聾学校,養護学校及び幼稚園) 及び同法第82条の2の専修学校をいう。 C 医療施設とは,医療法第1条の5第1項の病院及び同条第2項の診療所(入院施設を有す るものに限る。)をいう。 D 「適当な距離」とは,著しい影響を及ぼさない距離をいい,場外発売場の規模,位置,道 路状況,周囲の地理的要因等により大きく異なる。 〜 ○ (略) 場外発売場の設置等の許可の取扱いについて(平成20年3月28日付け国海総第513号海 事局総務課長から各地方運輸局海事振興部長,北陸信越運輸局海事部長,神戸運輸監理部海事振 興部長あて通達)(抜粋) 7 局長通達(注2)7の「地元との調整がとれていること」とは,当該場外発売場の所在する自 治会等の同意,市町村の長の同意及び市町村の議会が反対を議決していないことをいう。 (注2)前記の平成20年2月15日付け国海総第136号「場外発売場の設置等の運用につい て」を指す。 - 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