論文式試験問題集[民事系科目第1問] - 1 - [民事系科目] 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 4:3:3〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 なお, 解答に当たって は, 利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。 【事実】 1.AとBは, 共に不動産賃貸業を営んでいる。 Bは, 地下1階, 地上4階, 各階の床面積が8 0平方メートルの事務所・店舗用の中古建物一棟(以下「甲建物」という。 )及びその敷地2 00平方メートル(以下「乙土地」という。 )を所有していた。 甲建物の内装は剥がれ, エレ ベーターは老朽化して使用することができず, 賃借人もいない状況であったが, Bは, 資金面 で余裕があったにもかかわらず, 貸ビルの需要が低迷し, 今後当分は賃借人が現れる見込みが ないと考え, 甲建物を改修せず, 放置していた。 Bは, 平成21年7月上旬, 現状のまま売却 する場合の甲建物及び乙土地の市場価値を査定してもらったところ, 甲建物は1億円, 乙土地 は4億円であるとの査定額が出た。 2.平成21年8月上旬, Bは, Aから, 「甲建物の地下1階及び地上1階を店舗用に, 地上2 階から4階までを事務所用に, それぞれ内装を更新し, エレベーターも最新のものに入れ替え た建物に改修する工事を自らの費用で行うので, 甲建物を賃貸してほしい。 」との申出を受け た。 この申出があった当時, 甲建物を改修して賃貸に出せる状態にした前提で, これを一棟全 体として賃貸する場合における賃料の相場は, 少なくとも月額400万円であり, A及びB は, そのことを知っていた。 3.そこで, AとBは, 平成21年10月30日, 甲建物の使用収益のために必要なエレベータ ー設置及び内装工事費用等は全てAが負担すること, 設置されたエレベーター及び更新された 内装の所有権はBに帰属すること, 甲建物の賃料は平成22年2月1日から月額200万円で 発生し, その支払は毎月分を当月末日払いとすること, 賃貸期間は同日から3年とすることを 内容として, 甲建物の賃貸借契約を締結した。 その際, 賃貸借契約終了による甲建物の返還時 にAはBに対して上記工事に関連して名目のいかんを問わず金銭的請求をしないこと, Aが賃 料の支払を3か月間怠った場合, Bは催告なしに賃貸借契約を解除することができること, A は甲建物の全部又は一部を転貸することができること, 契約終了の6か月前までに一方当事者 から異議の申出がされない限り, 同一条件で契約期間を自動更新することという特約が, AB 間で交わされた。 また, AB間での賃貸借契約の締結に際し, 敷金として2500万円がAか らBに支払われた。 4.平成21年11月10日, Aは, Bから甲建物の引渡しを受け, Bの承諾の下, Cとの間 で, 甲建物の地下1階から地上4階までの内装工事をCに5000万円で請け負わせる契約を 締結し, また, Dとの間で, エレベーター設備の更新工事をDに2000万円で請け負わせる 契約を締結した。 いずれの契約においても, 工事完成引渡日は平成22年1月31日限り, 工 事代金は着工時に上記金額の半額, 完成引渡後の1週間以内に残金全部を支払うこととされ た。 そして, Aは, 同日, Cに2500万円, Dに1000万円を支払った。 5.Cは, 大部分の工事を, 下請業者Eに請け負わせた。 CE間の下請負契約における工事代金 は4000万円であり, Cは, Eに前金として2000万円を支払った。 6.C及びDは, 平成22年1月31日, 全内装工事及びエレベーター設備の更新工事を完成 し, 同日, Aは, エレベーターを含む甲建物全体の引渡しを受けた。 7.Aは, Dに対しては, 平成22年2月7日に請負工事残代金1000万円を支払ったが, C に対しては, 内装工事が自分の描いていたイメージと違うことを理由として, 残代金の支払を 拒否している。 また, Cは, Eから下請負工事残代金の請求を受けているが, これを支払って - 2 - いない。 8.Aは, Bとの賃貸借契約締結直後から, 平成22年2月1日より甲建物を一棟全体として, 月額賃料400万円で転貸しようと考え, 借り手を探していたが, なかなか見付からなかっ た。 そのため, Aは, Bに対し賃料の支払を同月分からしていない。 9.Bは, Aに対し再三にわたり賃料支払の督促をしたが, Aがこれを支払わないまま, 3か月 以上経過した。 しかし, Bは, Aに対し賃貸借契約の解除通知をしなかった。 その後, Bは, Aの未払賃料総額が6か月分の1200万円となった平成22年8月1日に, 甲建物及び乙土 地を, 5億6000万円でFに売却した。 代金の内訳は, 甲建物が1億6000万円で, 乙土 地が4億円であった。 甲建物の代金は, 内装やエレベーターの状態など建物全体の価値を査定 して得られた甲建物の市場価値が2億円であったことを踏まえ, FがBから承継する敷金返還 債務の額が1300万円であることその他の事情を考慮に入れ, 査定額から若干値引きするこ とにより決定したものである。 Fは, 同日, Bに代金全額を支払い, 甲建物及び乙土地の引渡 しを受けた。 そして, 同年8月2日付けで, 上記売買を原因とするBからFへの甲建物及び乙 土地の所有権移転登記がされた。 なお, 上記売買契約に際して, B及びFは, FがBの敷金返 還債務を承継する旨の合意をした。 10.Fは, Bから甲建物及び乙土地を譲り受けるに際し, Aを呼び出してAから事情を聞いたと ころ, 遅くとも平成22年中には転貸借契約を締結することができそうだと説明を受けた。 そ のため, Fは, 早晩, Aが転借人を見付けることができ, Aの賃料の支払も可能になるだろう と考えた。 また, Fは, 甲建物及び乙土地の購入のために金融機関から資金を借り入れてお り, その利息負担の軽減のため, その借入元本債務を期限前に弁済しようと考えた。 そこで, Fは, 同年9月1日, FがAに対して有する平成23年1月分から同年12月分までの合計2 400万円の賃料債権を, その額面から若干割り引いて, 代金2000万円でGに譲渡する旨 の契約をGとの間で締結し(以下「本件債権売買契約」という。 ), 同日, 代金全額がGからF に対して支払われた。 そして, 同日, FとGは, 連名で, Aに対して, 上記債権譲渡につき, 配達証明付内容証明郵便によって通知を行い, 翌日, 同通知は, Aに到達した。 11.ところが, 平成22年9月末頃, Aが売掛金債権を有している取引先が突然倒産し, 売掛金 の回収が見込めなくなり, Aは, この売掛金債権を自らの運転資金の当てにしていたため, 資 金繰りに窮する状態に陥るとともに無資力となった。 そのため, Aは, Fとの間で協議の場を 設け, 今となっては事実上の倒産状態にあること及び甲建物の内装工事をしたCに対する請負 残代金2500万円が未払であることを含め, 自らの置かれた現在の状況を説明するととも に, 甲建物の転借を希望する者が現れないこと, 今後も賃料を支払うことのできる見込みが全 くないことを告げ, Fに対し, この際, Fとの間の甲建物の賃貸借契約を終了させたいと申し 入れた。 Fは, Aに対する賃料債権をGに譲渡していることが気になったが, いずれにせよ, Aから賃料が支払われる可能性は乏しく, Gによる賃料債権回収の可能性はないと考え, Aの 申入れを受けて, 同年10月3日, A及びFは, 甲建物の賃貸借契約を同月31日付けで解除 する旨の合意をした。 この合意に当たり, AF間では何らの金銭支払がなく, また, A及びF は, Fに対する敷金返還請求権をAが放棄することを相互に確認した。 そして, 同月31日, Aは, Fに甲建物を引き渡した。 12.Fは, Aとの間で甲建物の賃貸借契約を解除する旨の合意をした平成22年10月3日以 降, 直ちに, Aに代わる借り手の募集を開始した。 Hは, 満70歳であり, 衣料品販売業を営 んでいる。 Hは, 事業拡張に伴う営業所新設のための建物を探していたが, 甲建物をその有力 な候補とし, Fに対し, 甲建物の内覧を申し出た。 Hは, 同月12日, Fを通じてAの同意を も得た上で, 甲建物の内部を見て歩き, エレベーターに乗ったところ, このエレベーターが下 降中に突然大きく揺れたため, Hは, 転倒して右足を骨折し, 3か月の入院加療が必要となっ た。 このエレベーターの不具合は, 設置工事を行ったDが, 設置工程において必要とされてい - 3 - た数か所のボルトを十分に締めていなかったことに起因するものであった。 13.Hは, この事故に遭う1年ほど前から, 時々, 歩いていてバランスを崩したり, つまずいた りするなどの身体機能の低下があり, 平成22年4月に総合病院で検査を受けていた。 その検 査の結果は, Hの身体機能の低下は加齢によるものであって, 無理をしなければ日常生活を送 る上での支障はないが, 定期的に病院で検査を受けるよう勧める, というものであった。 14.Hは, この勧めに従って, 上記総合病院で, 平成22年5月から毎月1回の検査を受けてい たが, 特段の疾患はないと診断されていた。 一方, この間, Hの妻が病気で入院したため, H は, 毎日のように病院と自宅とを往復し, 時として徹夜で妻に付き添っていた。 そのため, H は, 同年7月下旬頃から, かなりの疲労の蓄積を感じていた。 Hが同年10月12日に甲建物 のエレベーターの揺れによって転倒し, 右足を骨折するほどの重傷を負ったのは, Hのここ1 年ほどの身体機能の低下と妻の看病による疲労の蓄積も原因となっていた。 15.なお, 甲建物の市場価値は, 平成22年1月31日の工事完成による引渡し以降, 現在に至 るまで, 大きな変化なく2億円ほどで推移している。 乙土地の市場価値も, この間, 大きな変 化なく4億円ほどで推移している。 〔設問1〕 【事実】1から11まで及び【事実】15を前提として, 以下の及びに答えなさい。 なお, 解答に当たっては, 敷金返還債務はGに承継されていないものとして, また, 【事実】7 に示したAのCに対する支払拒絶には合理的理由がないものとして考えなさい。 民法第248条 に基づく請求については, 検討する必要がない。 Cは, 不当利得返還請求の方法によって, Bから, AC間の請負契約に基づく請負残代金に 相当する額を回収することを考えた。 Cが請求する場合の論拠及び請求額について, Bからの 予想される反論も踏まえて検討しなさい。 Cは, 不当利得返還請求以外の方法によって, Fから, AC間の請負契約に基づく請負残代 金に相当する額を回収することを考えた。 Cが請求する場合の論拠及び請求額について, Fか らの予想される反論も踏まえて検討しなさい。 〔設問2〕 Gは, 平成23年4月1日, Aに対して, 同年1月分から同年3月分までの未払賃料 総額計600万円の支払を求めた。 しかし, Aは, そもそも当該期間に対応する賃料債務が発生 していないことを理由に, これを拒絶した。 そこで, Gは, Fの債務不履行を理由として, 本件 債権売買契約を解除し, Fに対し代金相当額の返還を求めることにした。 【事実】1から11までを前提として, Gの上記解除の主張を支える法的根拠を1つ選び, それ について検討しなさい。 その際, Fのどのような債務についての不履行を理由とすることができ るか, また, 解除の各要件は充足されているかを検討しなさい。 なお, 検討に当たって, 本件債権売買契約は有効であること及びAF間の賃貸借契約の合意解 除は有効であることを前提とするとともに, 敷金については考慮に入れないものとする。 また, GからFに対する損害賠償請求については, 検討する必要がない。 〔設問3〕 【事実】1から14までを前提として, 以下の及びに答えなさい。 Hは, 【事実】12に示したエレベーター内での転倒により被った損害の賠償を請求しようと 考えた。 Hが損害賠償を請求する相手方として検討すべき者を挙げ, そのそれぞれに対して損 害賠償を請求するための論拠について, 予想される反論も踏まえて論じなさい。 Hの損害賠償請求が認められる場合に, Hの身体機能の低下及び疲労の蓄積が損害の発生又 は拡大を招いたことを理由として, 賠償額が減額されるべきか, 理由を明らかにしつつ結論を 示しなさい。 - 4 - 論文式試験問題集[民事系科目第2問] - 1 - [民事系科目] 〔第2問〕(配点:100) 次の文章を読んで, 後記の設問に答えよ。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。 )は, 携帯電話の販売を目的とする会社法上の公開会社であ り, その株式をP証券取引所の新興企業向けの市場に上場している。 Aは, 甲社の創業者として, その発行済株式総数1000万株のうち250万株の株式を有し ていたが, 平成21年12月に死亡した。 そのため, Aの唯一の相続人であるBは, その株式を 相続した。 なお, 甲社は, 種類株式発行会社ではない大会社である。 2.甲社は, 携帯電話を低価格で販売する手法により急成長を遂げたが, スマートフォン市場の拡 大という事業環境の変化への対応が遅れ, 平成22年に入り, その経営に陰りが見え始めた。 そ こで, 甲社の代表取締役であるCは, 甲社の経営を立て直すため, 大手電気通信事業者であり, 甲社株式30万株を有する乙株式会社(以下「乙社」という。 )との間で資本関係を強化して, 甲 社の販売力を高めたいと考えた。 そこで, Cは, 乙社に対し資本関係の強化を求め交渉したところ, 乙社から, 「市場価格を下回 る価格であれば, 更に甲社株式を取得してよい。 ただし, Bに甲社株式を手放させ, 創業家の影 響力を一掃してほしい。 」との回答を受けた。 3.これを受けて, CがBと交渉したところ, Bは, 相続税の支払資金を捻出する必要があったた め, Cに対し, 「創業以来のAの多大な貢献を考慮した価格であれば, 甲社株式の全てを手放して も構わない。 」と述べた。 そこで, 甲社は, Bとの間で, Bの有する甲社株式250万株の全てを 相対での取引により一括で取得することとし, その価格については, 市場価格を25%上回る価 格とすることで合意した。 4.そこで, 甲社は, 乙社と再交渉の結果, 乙社との間で, 甲社が, 乙社に対し, Bから取得する 甲社株式250万株を市場価格の80%で処分することに合意した。 5.甲社は, 平成22年6月1日に取締役会を開催し, 同月29日に開催する予定の定時株主総会 において, (ア)Bから甲社株式250万株を取得すること及び(イ)乙社にその自己株式を処分 することを議案とすることを決定した。 なお, 甲社の定款には, 定時株主総会における議決権の基準日は, 事業年度の末日である毎年 3月31日とすると定められていた。 6.5の(ア)を第1号議案とし, 5の(イ)を第2号議案とする平成22年6月29日開催の定 時株主総会の招集通知並びに株主総会参考書類及び貸借対照表(【資料@】及び【資料A】は, そ れぞれその概要を示したものである。 )等が同月10日に発送された。 なお, 甲社は, B以外の甲社の株主に対し, 第1号議案の「取得する相手方」の株主に自己を も加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができる旨を通知しなかった。 7.甲社は, 同月29日, 定時株主総会を開催した。 第1号議案の審議に入り, 甲社の株主である Dが, 「私も, 値段によっては買ってもらいたいが, どのような値段で取得するつもりなのか。 」 と質問したところ, Cは, Bから甲社株式を取得する際の価格の算定方法やその理由を丁寧に説 明した。 採決の結果, 多くの株主が反対したものの, Bが賛成したため, 議長であるCは, 出席 した株主の議決権の3分の2をかろうじて上回る賛成が得られたと判断して, 第1号議案が可決 されたと宣言した。 8.続いて第2号議案の審議に入り, Cは, 株主総会参考書類の記載に即して, 乙社に特に有利な 金額で自己株式の処分をすることを必要とする理由を説明したが, 再びDが, 「処分価格を市場価 格の80%と定めた根拠を明らかにされたい。 」と質問したのに対し, Cが「企業秘密に関わるた - 2 - め, その根拠を示すことはできない。 」と述べて説明を拒絶したことから, 審議が紛糾した。 その 結果, 多くの株主が反対したものの, 乙社が賛成したため, Cは, 出席した株主の議決権の3分 の2をかろうじて上回る賛成が得られたと判断して, 第2号議案が可決されたと宣言した。 9.甲社は, 定時株主総会の終了後引き続き, 同日, 取締役会を開催し, Bの有する甲社株式25 0万株の全てを同月30日に取得すること, 同月28日のP証券取引所における甲社株式の最終 の価格が1株800円であったため, この価格を25%上回る1株当たり1000円をその取得 価格とすることなどを決定した。 これに基づき, 甲社は, Bから, 同月30日, 甲社株式250 万株を総額25億円で取得した(以下「本件自己株式取得」という。 )。 なお, 同年3月31日から同年6月30日までの間, 甲社は, B以外の甲社の株主から甲社株 式を取得しておらず, また, 甲社には, 分配可能額に変動をもたらすその他の事象も生じていな かった。 10.また, 甲社は, 同年7月20日, 乙社に対し, 250万株の自己株式の処分を行い, その対価 として合計16億円を得た(以下「本件自己株式処分」という。 )。 その後, 乙社は, 同年8月31日までに, 50万株の甲社株式を市場にて売却した。 11.ところが, 甲社において, 同年9月1日, 従業員の内部告発によって, 西日本事業部が平成2 1年度に架空売上げの計上を行っていたことが発覚した。 そこで, 甲社は, 弁護士及び公認会計 士をメンバーとする調査委員会を設けて, 徹底的な調査を行った上で, 平成22年3月31日時 点における正しい貸借対照表( 【資料B】は, その概要を示したものである。 )を作り直した。 調査委員会の調査結果によれば, 今回の架空売上げの計上による粉飾決算は, 西日本事業部の 従業員が会計監査人ですら見抜けないような巧妙な手口で行ったもので, 甲社の内部統制の体制 には問題がなく, Cが架空売上げの計上を見抜けなかったことに過失はなかったとされた。 12.その後, 甲社では, その業績が急激に悪化した結果, 甲社の平成23年3月31日時点におけ る貸借対照表を取締役会で承認した時点で, 30億円の欠損が生じた。 〔設 問〕 @本件自己株式取得の効力及び本件自己株式取得に関する甲社とBとの間の法律関 係, A本件自己株式処分の効力並びにB本件自己株式取得及び本件自己株式処分に関するCの甲 社に対する会社法上の責任について, それぞれ説明しなさい。 - 3 - 【資料@】 株主総会参考書類 議案及び参考事項 第1号議案 特定の株主からの自己の株式の取得の件 当社は, 今般, 当社創業者A氏の唯一の相続人であるB氏から, 同氏の有す る当社株式全てについて市場価格を上回る額での売却の打診を受けました。 そ こで, キャッシュフローの状況及び取得価格等を総合的に検討し, 以下の要領 にて, 市場価格を上回る額で自己の株式の取得を行うことにつき, ご承認をお 願いするものであります。 (1) 取得する相手方 B氏 (2) 取得する株式の数 当社株式2,500,000株(発行済株式総数に対する割合25%)を上 限とする。 (3) 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額 金銭とし, 25億円を上限とする。 (4) 株式を取得することができる期間 本株主総会終結の日の翌日から平成22年7月19日まで 第2号議案 自己株式処分の件 以下の要領にて, 乙株式会社に対し, 自己株式を処分することにつき, ご承 認をお願いするものであります。 (1) 処分する相手方 乙株式会社 (2) 処分する株式の数 当社株式2,500,000株 (3) 処分する株式の払込金額 1株当たり640円(平成21年12月1日から平成22年5月31日ま での6か月間のP証券取引所における当社株式の最終の価格の平均値(80 0円)に0.8を乗じた価格) (4) 払込期日及び処分の日 平成22年7月20日 (5) 乙株式会社に特に有利な金額で自己株式の処分をすることを必要とする 理由 当社は, ……(略)。 - 4 - 【資料A】 貸借対照表 (平成22年3月31日現在) (単位:百万円) 科目 (資産の部) 流動資産 (略) 固定資産 (略) 資産合計 (注) 金額 科目 (負債の部) 金額 9,000 ( 略 ) 負債合計 (純資産の部) 株主資本 資本金 資本剰余金 資本準備金 1,000 その他資本剰余金 利益剰余金 利益準備金 その他利益剰余金 純資産合計 負債・純資産合計 10,000 3,000 7,000 1,500 1,500 1,500 − 4,000 500 3,500 7,000 10,000 「−」は金額が0円であることを示す。 【資料B】 貸借対照表 (平成22年3月31日現在) (単位:百万円) 科目 (資産の部) 流動資産 (略) 固定資産 (略) 資産合計 (注) 金額 科目 (負債の部) 金額 6,000 ( 略 ) 負債合計 (純資産の部) 株主資本 資本金 資本剰余金 資本準備金 1,000 その他資本剰余金 利益剰余金 利益準備金 その他利益剰余金 純資産合計 負債・純資産合計 7,000 「−」は金額が0円であることを示す。 - 5 - 3,000 4,000 1,500 1,500 1,500 − 1,000 500 500 4,000 7,000 論文式試験問題集[民事系科目第3問] - 1 - [民事系科目] 〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 3:4:3〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 【事例1】 Aは, 医師であり, 個人医院を開設しているが, 将来の値上がりを期待して, 近隣の土地を購 入してきた。 しかし, 同じ市内に開設された総合病院に対抗するために, 平成19年5月に借入 れをして高価な医療機器を購入したにもかかわらず, Aの医院の患者数は伸び悩み, Aは, 平成 21年夏頃から資金繰りに窮している。 Bは, Aの友人であり, Aが土地を購入するに際して, 購入資金を貸与するなどの付き合いが ある。 Bは, かねてAから, 甲土地は実はAの所有地である, と聞かされてきた。 Cは, Aの弟D(故人)の子であり, Dの唯一の相続人である。 甲土地の所有権登記名義は, 平成14年3月26日に売買を原因としてEからDに移転してい る。 Bは, 弁護士Pに依頼し, Dの単独相続人であるCを被告として, Aの甲土地の所有権に基づ き, 甲土地についてDからAへの所有権移転登記手続を請求して, 平成22年12月8日に訴え を提起した(以下, この訴訟を「訴訟1」という。 )。 平成23年1月25日に開かれた第1回口頭弁論期日において, Pは, 次のような主張をし た。 @ Bは, 平成17年6月12日に, Aに対して, 平成22年6月12日に元本1200万 円に利息200万円を付して返済を受ける約束で, 1200万円を貸し渡した。 A 平成22年6月12日は経過した。 B Aは, 甲土地を現に所有している。 C 甲土地の所有権登記名義はDにある。 D Aは, 無資力である。 E CはDの子であるところ, Dは, 平成18年5月28日に死亡した。 これに対して, Cは, 同期日において, 「ABCEは認めるが, @Dは知らない。 」旨の陳述を した。 裁判官が, Pに対して, @の消費貸借契約について契約書があるかどうか質問したところ, P は, 「作成されていない。 」と返答した。 裁判官は, Pに対して, 次回の口頭弁論期日に@とDの 事実を立証するよう促した。 第1回口頭弁論期日が終了した後, Cは, 弁護士Qに訴訟1について相談し, Qを訴訟代理人 に選任した。 平成23年3月8日に開かれた第2回口頭弁論期日において, Qは, 次のような陳述をした。 F 甲土地は, Eがもと所有していた。 G 平成14年2月26日, Aは, Eとの間で, 甲土地を2200万円で購入する旨の契約 を締結した。 H Aは, Gの契約を締結するに際して, Dのためにすることを示した。 I 同年2月18日, Dは, Aに対して, 甲土地の購入について代理権を授与した。 裁判官がQに対して, 新たな陳述をした理由をただしたところ, Qは, 次のように述べた。 Dが死亡した後, Cは, 事あるごとに, Aから, 「甲土地は, Dのものではなく, Aのもの - 2 - だ。 」と聞かされてきたので, それを鵜呑みにしてきました。 しかし, 私が改めてEから事情 を聴取したところ, 新たな事実が判明したので, 甲土地の所有権がEからDへ, DからCへ と移転したと主張する次第です。 Pは, @とDの事実を証明するための文書を提出したが, FGHIに対する認否は, 次回の口 頭弁論期日まで留保した。 以下は, 第2回口頭弁論期日の数日後のPと司法修習生Rとの会話である。 P:第2回口頭弁論期日でのQの陳述について検討してみましょう。 Qが, 甲土地の所有権がEからDへ, DからCへと移転したと主張したので, Aに問い合 わせてみました。 すると, Aからは, Dから代理権の授与を受けたことはないし, Aが甲土 地の購入資金を出した, という説明を受けました。 Aによると, EはDの知人で, AはDの 紹介でEから甲土地を購入したが, 後になって思うと, DとEは共謀してAをだまして, 甲 土地の所有権登記名義をDに移したようだ, とのことでした。 しかし, Aは, 弟や甥を相手 に事を荒立てるのはどうかと思い, Cに対して所有者がAであることを告げるにとどめ, 登 記は今までそのままにしていたそうです。 以上のAの説明を前提にすると, 次回の口頭弁論期日では, HとIを争うことが考えられ ます。 しかし, そもそもQのHとIの陳述は, Cが第1回口頭弁論期日でBを認めたことと矛盾 しています。 そこが気になっているのです。 R:第1回口頭弁論期日で「甲土地は, Aが現に所有している。 」という点に権利自白が成立し ているにもかかわらず, 第2回口頭弁論期日でのQの陳述は, 甲土地をAが現に所有してい ることを否定する趣旨ですから, 権利自白の撤回に当たるということでしょうか。 P:そのとおりです。 もしそのような権利自白の撤回が許されないとすると, HとIについて の認否が要らないことになります。 ですから, 私としては, 被告側の権利自白の撤回は許さ れない, と次回の口頭弁論期日で主張してみようかと思っています。 そこで, あなたにお願 いなのですが, このような私の主張を理論的に基礎付けることができるかどうか, 検討して いただきたいのです。 R:はい。 しかし, 考えたことのない問題ですので, うまくできるかどうか・・・。 P:確かに難しそうな問題ですね。 事実の自白の撤回制限効の根拠にまで遡った検討が必要か もしれません。 「理論的基礎付けは難しい。 」という結論になってもやむを得ませんが, ギリ ギリのところまで「被告側の権利自白の撤回は許されない。 」という方向で検討してみてくだ さい。 では, 頑張ってください。 〔設問1〕 あなたが司法修習生Rであるとして, 弁護士Pから与えられた課題に答えなさい。 【事例1(続き)】 F銀行は, Aの言わばメインバンクであり, Aに対して医療機器の購入資金や医院の運転資金 などを貸し付けてきた。 現在, Fは, Aに対して2500万円の貸付金残高を有している。 訴訟 1が第一審に係属していることを知ったFがその進行状況を調査したところ, BがBA間の消費 貸借契約締結の事実(@の事実)やAの無資力の事実(Dの事実)の立証に難渋している, との 情報が得られた。 そこで, Fは, Aに甲土地の所有権登記名義を得させるために, 自らも訴訟1 に関与することはできないかと, 弁護士Sに相談した。 Sは, Bの原告適格が否定される可能性 があることを考慮すると, 補助参加ではなく当事者として参加することを検討しなければならな いと考えたが, どのような参加の方法が適当であるかについては, 結論に至らなかった。 - 3 - 〔設問2〕 Fが訴訟1に参加する方法として, 独立当事者参加と共同訴訟参加のそれぞれについ て, 認められるかどうかを検討しなさい。 ただし, 民事訴訟法第47条第1項前段の詐害防止参 加を検討する必要はない。 【事例2】 Kは, 乙土地上の丙建物に居住している。 Kの配偶者は既に死亡しているが, KにはLとMの 2人の嫡出子があり, 共に成人している。 このうち, Lは, Kと同居しているが, 遠く離れた地 方に居住するMは, 進路についてKと対立したため, KやLとほとんど没交渉となっている。 乙土地の所有権登記名義はKの旧友であるNにあり, 丙建物の所有権登記名義はKにある。 Nは, Kを被告として, 平成22年9月2日, 乙土地の所有権に基づき, 丙建物を収去して, 乙土地をNに明け渡すことを請求して, 訴えを提起した(以下, この訴訟を「訴訟2」という。 )。 なお, 訴訟2において, NにもKにも訴訟代理人はいない。 平成22年10月12日に開かれた第1回口頭弁論期日において, 次の事項については, Nと Kとの間で争いがなかった。 ・ 乙土地をNがもと所有していたこと。 ・ Kが, 丙建物を所有して, 乙土地を占有していること。 ・ 平成10年5月頃, Nが, Kに対して, 期間を定めないで, 乙土地を, 資材置場とし て, 無償で貸し渡したこと。 ・ 平成22年9月8日, Nが, Kに対して, 乙土地の使用貸借契約を解除する旨の意思表 示をしたこと。 同期日において, Kは, 平成17年12月頃, NとKとの間で乙土地の贈与契約が締結された と主張し, Nは, これを否認した。 さらに, Kは, KとNとの間で乙土地をKが所有することの 確認を求める中間確認の訴えを提起した。 平成22年10月16日, Kは交通事故により死亡し, LとMがKを共同相続し, それぞれに ついて相続放棄をすることができる期間が経過した。 平成23年3月7日, NがLとMを相手方 として受継の申立てをし, 同年4月11日, 受継の決定がされた。 平成23年5月10日に開かれた第2回口頭弁論期日において, Lは争う意思を明確にした が, Mは「本訴請求を認諾し, 中間確認請求を放棄する。 」旨の陳述をした。 以下は, 第2回口頭弁論期日終了後の裁判官Tと司法修習生Uとの会話である。 T:今日の期日で, Mは本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄をしましたね。 U:はい。 しかし, Lは認諾も放棄もせず, Nと争うつもりのようですね。 T:Lがそのような態度をとっている場合に, Mのした認諾と放棄がどのように扱われるべき かは, 一考を要する問題です。 この問題をあなたに考えてもらうことにしましょう。 なお, LとMが本訴被告の地位と中間確認の訴えの原告の地位を相続により承継したこと によって, 本訴請求と中間確認請求がどうなるかについては議論のあるところですが, 当然 承継の効果として当事者の訴訟行為を経ずに, 本訴請求の趣旨は「L及びMは, 丙建物を収 去して, 乙土地をNに明け渡せ。 」に, 中間確認請求の趣旨は「L及びMとNとの間で, 乙土 地をL及びMが共有することを確認する。 」に, それぞれ変更される, という見解を前提とし てください。 このような本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄の陳述をMだけがした場合に, この陳述 がどのように扱われるべきか, 考えてみてください。 その際には, 判例がある場合にはそれ - 4 - を踏まえる必要がありますが, それに無批判に従うことはせずに, 本件での結果の妥当性な どを考えて, あなたの意見をまとめてください。 〔設問3〕 あなたが司法修習生Uであるとして, 裁判官Tから与えられた課題に答えなさい。 - 5 -