論文式試験問題集[倒 - 1 - 産 法] [倒 産 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例について,以下の設問に答えなさい。 【事 例】 A株式会社(以下「A社」という。)は,B株式会社(以下「B社」という。)との間で,平成 21年4月1日,甲土地を,期間を30年として賃貸するとの土地賃貸借契約(以下「本件賃貸 借契約」という。)を締結し,B社は,賃借後に甲土地上に乙建物を建てて使用していた。 本件賃貸借契約においては, @ 賃料は,月額100万円とし,毎月末日限り翌月分を前払とする。 A 賃借人が賃料の支払を3か月分以上怠ったときは,賃貸人は,賃借人に対し7日以上の期間 を定めて催告の上,本件賃貸借契約を解除することができる。 との約定があった。 その後,B社は,経営状態が悪化したことから,平成23年3月16日に破産手続開始を申し 立て,同日,破産手続開始決定がされ,Xが破産管財人に選任された。 〔設 問〕 以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.上記事例において,B社が平成23年1月分から同年3月分まで3か月分の賃料の支払をし なかったため,A社は,B社に対し,平成23年3月3日にB社に到達した内容証明郵便によ り10日以内に賃料を支払うよう催告したが,B社からの賃料の支払はなかった。そこで,A 社は,同月17日,Xに対して本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。これに対して, Xは,「自分は,第三者的立場にあるので,A社の解除権の対抗を受けることはない。」と主張 した。 このA社による解除が認められるかについて,Xの主張に対するA社の反論も含めて,論じ なさい。 2.上記事例において,B社は,平成21年7月1日に,C株式会社(以下「C社」という。)か ら2億円を借り入れるのと同時に,乙建物について,C社のために前記2億円の貸金債権を被 担保債権とする抵当権を設定し,その設定の登記がされた。 そして,B社は,A社に対して賃料を約定どおり支払い続け,賃料不払等の債務不履行はな い状態で,破産手続開始決定に至った。 破産手続開始後において,C社は,Xに対し,賃料の支払を継続しつつ,乙建物を売却して 2億円の貸付金の一部を返済するよう求めた。乙建物及び甲土地についての借地権の時価は, 合計約1億円程度であり,Xとしても,時価が被担保債権額を大きく下回る状況であり,破産 財団にとって月々の賃料負担が生ずる乙建物をできるだけ早く処理したいと考えたが,借地権 付建物であることもあり,売却まで相当時間が掛かりそうであった。 この状況で,Xが,破産法第53条に基づき本件賃貸借契約を解除することの当否につい て論じなさい。 Xは,本件賃貸借契約を解除せず,乙建物の買受希望者を募ったところ,破産手続開始後 6か月を経過したところで,ようやくD株式会社(以下「D社」という。)が,乙建物及び甲 土地についての借地権を合計1億円で買い受けたいとの意向を表明し,A社も,D社に対し てであれば,賃借権の譲渡を認めてもよいと回答した。そこで,Xは,C社に対し,乙建物 及び甲土地についての借地権を1億円で売却したいが,破産財団から支払った賃料合計60 0万円を売却代金から差し引いた額をC社に支払うことで,抵当権の設定の登記の抹消に応 じてもらいたい旨を申し入れた。これに対して,C社は,賃料合計600万円を差し引くこ とは受け入れ難いと反発し,交渉は成立しなかった。 - 2 - この場合にXが採ることができる法的手段について論じなさい。また,それに対してC社 が採ることができる対抗手段について述べなさい。 - 3 - 〔第2問〕(配点:50) 次の事例について,以下の設問に答えなさい。 【事 例】 X株式会社(以下「X社」という。)は,甲建物をY株式会社(以下「Y社」という。)に賃貸 し,Y社は,甲建物において製造業を営んでいた。ところが,Y社が賃料の支払を怠ったため, X社は,賃料不払を理由に賃貸借契約を解除したと主張して,平成20年1月7日,Y社を被告 として,賃貸借契約の終了に基づき,甲建物の明渡し並びに未払賃料及び明渡し済みに至るまで の賃料相当損害金の支払を求める訴えを提起した(以下,提起された訴訟を 「本件訴訟」という。)。 その後,Y社は,同年2月1日,裁判所から再生手続開始決定を受けたが,同時に監督命令が 発せられ,監督委員として弁護士Aが選任された。Y社は,同年5月1日,再生計画案を作成し て裁判所に提出した。 Y社の再生計画案は,届出再生債権者の多数の賛成を得て可決され,同年8月1日に再生計画 の認可決定が確定した。 認可された再生計画(以下「本件再生計画」という。)の骨子は,次のとおりである。 ・ 再生の基本方針 Y社は,コストの削減に努めるとともに,売れ筋商品の製造に特化して収益を上げる。そ して,その収益でもって,確定再生債権額に対し,破産配当率3%を超える8%に相当する 額を平成21年から平成28年まで毎年4月末日限り均等分割で支払う。 ・ 再生債権の総額及び債権者数 再生債権の総額 10億円 債権者数 40名 再生計画の認可決定の確定後,Aは,Y社の本件再生計画の遂行を監督し,Y社は,本件再生 計画に基づき,平成21年4月末日に第1回目の,平成22年4月末日に第2回目の支払をした が,その後,コストの削減が思うようにいかず,販売不振も重なって収益が上がらず,全ての再 生債権に対する平成23年4月末日の第3回目の支払をしなかった。 本件再生計画の定めによって認められた確定再生債権の総額は,8000万円であり,同日時 点において履行された額は,2000万円である。 〔設 問〕 以下の1及び2については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.本件訴訟は,Y社についての再生手続開始決定によりどのような影響を受けるか論じなさ い。 2.上記事例において,確定した1億円の再生債権を有しており,本件再生計画の定めによって 200万円の弁済を受けているZは,このままの状態が続くと,Y社の損失はますます膨ら み,自己の債権の残額の回収が著しく困難になると考えた。Zは,民事再生法上,どのような 措置を採ることができるか論じなさい。 - 4 - 論文式試験問題集[租 - 5 - 税 法] [租 税 法] 〔第1問〕(配点:50) A(居住者)は,歯科医で昭和55年からQ歯科医院を営む事業者である。Aの息子B(居住 者)は,平成14年に歯科医師国家試験に合格し,5年間ほど大学病院で勤務医を務めた後,平成 19年4月から,Aと共にQ歯科医院で治療に従事するようになり,また,Q歯科医院に隣接する A所有の建物に,妻及び一人娘Cと共に両親と同居するようになった。Bは,Aに家賃を払ってお らず,生活費は,Aと分担しているものの,分担の範囲や割合は明確でなく,月によって異なるこ とが多い。また,家事は,Aの妻とBの妻が互いに助け合って行っている。 Aは,一般歯科治療のみを行ってきたが,勤務医時代に矯正歯科治療の経験を積んだBがQ歯科 医院で治療に従事することになったので,同医院の診療科目に矯正歯科を加え,同医院の看板にも 「一般歯科 矯正歯科」と併記するようになった。Aは,Q歯科医院のA所有の敷地内に矯正歯科 用の別棟を建て,Bがそこで矯正歯科治療に従事している。Aは,矯正歯科用の治療機器等の固定 資産について購入契約をA名義で締結し代金も支払ったが,機種等の選定はBが行った。そのほ か,矯正歯科治療用の矯正装置,医薬品等の棚卸資産は,Bが自分の名義で仕入代金も支払ってい る。また,Bの指示の下で矯正歯科治療に補助的に従事する歯科衛生士は,Bが自分の名義で雇い 入れ,その人件費を負担しているが,Q歯科医院に以前から勤務している事務員の人件費のほか, Q歯科医院単位で請求される光熱費等については,一般歯科と矯正歯科の患者数,診療時間,診療 スペース等に応じて,AとBが按分して負担することにしている。 矯正歯科用の別棟及び治療機器等のBによる使用に関しては,AとBとの間で,平成19年3月 に,Bは,使用料の支払に代えて,毎週月曜日,水曜日及び金曜日の午前中は,Aに代わって一般 歯科治療に従事する旨の取決めがされていた。この取決めは,当時,Bの自己資金に余裕がなく, Bが自己資金で矯正歯科用の建物を建て治療機器等の固定資産を購入することができなかったの で,Aが建てた建物や購入した治療機器等を使用することとし,その使用料をBによる一般歯科治 療に係る収入で代替的に負担することを目的として,交わされたものである。Bは,この取決めに 従い,矯正歯科の診療時間を上記以外の曜日(日曜日及び祝日を除く。)の9時から12時までと平 日の16時から19時までに設定している。なお,B名義の個人事業の開廃業等届出書は,平成1 9年5月に所轄税務署長に提出された。 ところで,矯正歯科治療は,基本的には,相談,検査,診断,調整施術(矯正装置の装着),その 後の処置(調整),観察等の経過を経て完了するのが一般的であり,通常3年以上の期間を要する。 Bは,検査や診断の際,その結果に基づいて矯正料金規程を示した上で,Bを契約当事者として明 記し,患者又はその保護者と矯正治療契約を交わすことにしている。矯正治療契約においては,B は,矯正装置を装着した時に矯正料を一括して請求し受領すること,治療が中断される場合には, 受領した矯正料のうち,いまだなされていない治療行為に係る部分に相当する金額を返還すること 等が定められ,契約年数は,患者の症状に応じて3年ないし6年とされている。Bが平成19年4 月から同22年3月までの3年間に矯正料を返還した実績は,患者総数及び矯正料総収入のいずれ についても1%程度にすぎず,しかも返還の理由も患者の転勤,転校等のやむを得ないものであっ た。Bは,矯正料のほか,矯正装置の装着の前後を問わず何らかの処置を行った場合には,その内 容に応じた対価を別途受領することにしている。 Bは,前記の一般の患者に対する治療とは別に,平成21年8月から,10歳になった一人娘C に矯正歯科治療を施し,既に矯正装置の装着を行っている。 BがQ歯科医院で治療に従事するようになって半年ほど経つと,Bは,矯正歯科治療だけでなく 一般歯科治療についても腕が良いと患者や地域住民の間で評判になった。Aも,Bの手腕を高く買 っており,矯正歯科に関して口出しすることは当初からほとんどなかった。Q歯科医院の収入は, 矯正歯科治療に係る収入が加わったほか,一般歯科治療に係る収入も増えたため,平成19年秋頃 - 6 - から飛躍的に増加しており,平成21年には,Aだけが歯科治療に従事していた平成18年分の収 入に比べて,2.5倍ほどになり,しかも一般歯科治療に係る収入と矯正歯科治療に係る収入はほ ぼ同額になった。Q歯科医院では,平成19年4月以降,総治療収入のうち一般歯科治療に係る 部分はAの収入,矯正歯科治療に係る部分はBの収入とする会計処理がされており,また,矯正 歯科治療に係る収入については,矯正治療契約に基づき矯正装置の装着時に一括して受領した矯正 料を治療の経過に応じて治療期間に係る各年分の収入とし,受領した矯正料のうち,いまだなされ ていない治療行為に係る部分を前受金とする会計処理がされている。AとBは,上記の会計処理に 基づき自己の収入とされた分を,平成19年以降の各年分の所得税について,事業所得として確定 申告している。 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.Q歯科医院の総治療収入のAとBへの配分に関するQ歯科医院の会計処理(前記の事案中の の会計処理)に基づく確定申告の適否について,所得税法に則して,所得の人的帰属の判定 基準を明らかにしながら検討しなさい。 2.矯正歯科治療に係る収入の計上時期に関するQ歯科医院の会計処理(前記の事案中のの会 計処理)に基づく確定申告の適否について,所得税法に則して,条文を摘示しつつ検討しなさ い。 3.娘Cに対するBの矯正歯科治療を,所得課税の観点から評価しなさい。 - 7 - 〔第2問〕(配点:50) 個人で建築業を営むAは,商品先物取引業者であるB社の営業員Cから「必ず儲かる。」と勧誘を 受けて,Cに言われるままに,商品先物取引を開始した。当該商品先物取引は,将来の一定の時期 に商品を受渡しすることを約束して,その価格を現時点で決める取引であり,約束の期日が来る前 にいつでも反対の売買をすることで「売り」と「買い」の契約を相殺し,その差額を清算して取引 を終了することができる取引(差金決済取引)である。Aは,数回の取引をして決済したところ, 平成21年中に,2000万円の売買差益を得たので取引を止め,B社に手数料合計500万円を 支払った。Aは,これ以上の取引を望まなかったが,Cから更に強く勧誘されて,平成22年も更 に数回の取引をしたところ,同年中に3000万円の売買差損を生じたことから,B社に手数料合 計500万円を支払って,B社を介した商品先物取引を終了した。Aは,平成23年に着手金30 万円を支払って弁護士Dに依頼し,B社に対し,不法行為に基づく損害賠償訴訟を提起したとこ ろ,裁判所は,同年中にCの勧誘につきB社の不法行為成立を認めた上で,弁護士費用を含む損害 賠償金200万円及び遅延損害金の支払をB社に命じる判決を下し,判決は確定した。B社は,判 決に従い,直ちに220万円(遅延損害金20万円を含む。)をAに支払った。また,Aは,あらか じめ約していた報酬40万円をDに支払った。なお,平成21年,同22年,同23年とも,Aは 建築業でそれぞれ3000万円の所得を得ていた。 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。なお,租税特別措置法については考えなくてよ い。 〔設問1〕 1.Aが商品先物取引によって平成21年中に得た売買差益2000万円の所得の種類はどのよ うになるか。 2.平成21年中にAが支払った手数料500万円の税法上の取扱いはどのようになるか。 3.Aの商品先物取引によって平成22年中に生じた売買差損3000万円は,Aの建築業での 所得金額3000万円と損益通算できるか。 〔設問2〕 Aが平成23年中に得た損害賠償金等220万円の税法上の取扱いはどのようになるか。ま た,同年中に弁護士Dに支払った着手金30万円及び報酬40万円の税法上の取扱いはどのよう になるか。 (参照条文)所得税法施行令 第30条 法第9条第1項第17号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び 損害賠償金(これらに類するものを含む。)は,次に掲げるものその他これらに類する もの(これらのものの額のうちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必 要経費に算入される金額を補てんするための金額が含まれている場合には,当該金額 を控除した金額に相当する部分)とする。 一 (略) 二 損害保険契約に基づく保険金及び損害保険契約に類する共済に係る契約に基づく 共済金(前号に該当するもの及び第184条第4項(満期返戻金等の意義)に規定 する満期返戻金等その他これに類するものを除く。)で資産の損害に基因して支払を 受けるもの並びに不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき 支払を受ける損害賠償金(これらのうち第94条(事業所得の収入金額とされる保 険金等)の規定に該当するものを除く。) 三 (略) - 8 - 論文式試験問題集[経 - 9 - 済 法] [経 済 法] 〔第1問〕(配点:50) A社とB社は,いずれも,化学メーカーである。A,B両社は,多くの競合する化学製品を製造 販売しているが,このうち,甲製品の需要が,近年,減退傾向にあり,収益が悪化していることか ら,共同新設分割の方法により,出資比率各50%の共同出資会社C社を設立し,それぞれが営む 甲製品の製造販売事業を全てC社に承継させることを計画している。A,B両社は,甲製品に不可 欠の原料である乙製品の製造販売も行っている。国内で製造されている乙製品の約40%が甲製品 の原料として使用され,乙製品の製造販売業者にとって甲製品の製造販売業者は重要な顧客であ る。そこで,C社には,A,B各社から,乙製品の開発及び営業に長年従事してきた従業員につい ても,数名ずつを,従業員として出向させることなどが予定されている。 甲製品の製造販売分野は,次のような状況にある。甲製品は,4種類のグレードに分かれ,それ ぞれ用途が異なっているが,甲製品の製造販売業者は,4種類全てのグレードの甲製品を製造販売 しており,設備,コスト,時間のいずれの面においても,それぞれ異なる種類のグレードに転換し て製造販売することが容易である。甲製品の製造販売業者の市場占有率(シェア)は,平成22年 度末現在,A社20%,B社20%,L社13%,M社10%,N社10%,O社7%,輸入20 %となっている。近年,甲製品の需要が減退傾向にあり,L社,M社,N社,O社は,いずれも, 甲製品の製造設備の稼働率は低く,製造設備に余裕がある。また,数年前までは,甲製品の輸入品 は,低価格であるものの,品質面で劣り,供給も不安定であったことから,ほとんどなかったが, 近年では,韓国,中国からの輸入品の品質が向上し,輸入品と国産品との間に品質の差がなくな り,安定的に輸入が増加している。甲製品の輸入についての法規制も存在しない。甲製品のユーザ ーは,全国的に所在しており,甲製品の製造販売業者は,これに対応して甲製品を供給している。 ほとんどのユーザーは,複数の取引先から購入しており,甲製品の品質に差がないことから,購入 先を変更することは容易であり,実際にも,購入先を変更することが珍しくない。 一方,乙製品の製造販売分野は,次のような状況にある。乙製品の製造販売業者のシェアは,平 成22年度末現在,A社35%,B社30%,S社10%,T社10%,U社7%,V社6%,輸 入2%となっている。乙製品の需要も減退気味であるが,S社,T社,U社,V社は,いずれも, 近年,乙製品の製造設備を縮小させてきており,製造設備に余裕がない。乙製品のユーザーは,甲 製品の製造販売業者を含め,安定調達を優先する傾向が強く,輸送時間が掛かる海外メーカーより も国内メーカーから購入しており,今後もこの傾向に大きな変化はないものと認められる。乙製品 の製造販売には,数百億円規模の巨額の投資が必要とされるところ,過去40年間,新たに乙製品 の製造販売事業に進出した事業者は存在しない。用途によっては,丙製品が乙製品に競合し得るこ ともあるが,現在のところ,その程度は,小さいものにとどまっている。乙製品の製造販売業者と そのユーザーとの取引は,甲製品の製造販売業者との取引の場合を含め,比較的固定的な関係にあ り,取引先が変更されることは少ない。 〔設 問〕 A,B両社によるC社の設立について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下 「独占禁止法」という。)上の問題を検討し,併せて独占禁止法上の問題を解消するための対策につ いても検討しなさい。 - 10 - 〔第2問〕(配点:50) X1〜X20の20社(以下「本件20社」という。)は,甲市において,道路運送法上の一般乗 用旅客自動車運送事業を営む事業者(以下「タクシー事業者」という。)である。甲市は,タクシー 事業について独立した市場(交通圏)を形成しており,同市における本件20社のタクシー保有台 数の合計は,全タクシー事業者の保有台数の約80%を占めている。 A社は,甲市におけるタクシーの「共通乗車券事業」を営む株式会社であり,その株主の大部分 は本件20社で占められている。なお,ここで, 「共通乗車券」とは,タクシー事業者の集金合理化 及びタクシーの乗客の利便を図るために発行されるもので,タクシーに乗車する客が,その券面に, タクシー事業者に支払うべき料金・運賃の額を記載して,当該タクシー事業者に手交することによ り,複数のタクシーの中から選択して乗車することができる乗車券である。そして, 「共通乗車券事 業」とは,特定のタクシー事業者のタクシーを乗車し得る対象とする共通乗車券を発行するととも に,あらかじめ共通乗車券の使用に関する契約を締結した官公庁・企業等から,当該タクシー事業 者に代わって,使用された共通乗車券の券面に記載された額に係る金銭を回収する事業である。ま た「共通乗車券事業に係る契約」とは,A社とタクシー事業者との間で締結される,共通乗車券の 発行方法や手数料等に関して定めた契約である。 共通乗車券が利用できるタクシーは,そうでないタクシーに比べて乗客の獲得上有利であること から,甲市のタクシー事業者の大部分が,A社と共通乗車券事業に係る契約を締結し,同事業を利 用している。なお,甲市におけるA社の共通乗車券の利用率は,全タクシー事業者の運賃・料金収 入の合計の約25%であり,他は,現金やクレジットカードによる支払である。また,甲市におい てA社以外に同様の共通乗車券事業を営む者は存在しない。 タクシー事業者は,タクシーの運賃・料金につき,道路運送法に基づく国土交通大臣の認可を受 けてこれを適用しているが,近年は,あらかじめ設定された上限額と下限額の範囲内であればほぼ 自動的に認可がなされる「自動認可運賃」制度が採用されている。そこで,かつては,認可された 運賃・料金が全てのタクシー事業者間で同一であった甲市においても,同制度を利用して,初乗り 運賃が他社より低い運賃(以下「低額運賃」という。)の認可を受ける事業者が現れた。 これに対し,かねてから,A社の共通乗車券を利用する乗客が低額運賃タクシーに奪われている ことに不満を持っていた本件20社は,低額運賃による客の奪い合いが,歩合制で働く乗務員に収 入減による過重労働を強いて,交通事故の増加につながる危険があることが問題にされるようにな ったことから,A社を交えて低額運賃タクシーに対する対策を話し合う会合を開催することにした。 そして,話合いの結果,本件20社は,タクシー事業の収益を維持し安全性を確保するためには, 低額運賃タクシーの抑制を図ることが必要であり,そのために,低額運賃のタクシー事業者には, A社の共通乗車券事業を利用させないようにするとの方針を採用することで一致し,会合の席上, A社に対して,今後は,低額運賃のタクシー事業者と共通乗車券事業に係る契約を締結しないよう 要請した。A社は,本件20社が共通乗車券事業の主要な利用者であり,かつ同社の株主の多数を 占めることから,この要請に従い,以下の具体的な措置を講じた。 従来から低額運賃を適用していたP,Q,Rの3社との共通乗車券事業に係る契約を解約し, 以後,新たな契約の申込みにも応じないことにした。 新たに甲市のタクシー事業に参入したS社とT社が,共通乗車券事業に係る契約の申込みを 行ったのに対し,低額運賃を適用しているS社については,これに対する回答を留保し,その 後,当該契約を締結していない。 〔設 問〕 上記の,X1〜X20の20社及びA社の行為について,独占禁止法上の問題点を分析して検討 しなさい。 - 11 - - 12 - 論文式試験問題集[知的財産法] - 13 - [知的財産法] 〔第1問〕(配点:50) Aは,物の発明αについて,日本の特許権(以下「本件特許権」という。)及び甲国の特許権(以 下「甲国特許権」という。)を有している。Aは,日本でも甲国でも,その有する特許権の実施料収 入を得るほかは,事業活動を全く行っていない。日本においては,Aは,本件特許権について,B に対して東日本地域における独占的通常実施権を許諾し,Cに対して西日本地域における独占的通 常実施権を許諾している。BとCは,いずれも発明αの実施品を製造販売している。他方,甲国に おいては,Aは,甲国特許権について,Dに対して発明αの実施を独占的に許諾している。AとD の間の実施許諾契約では,Dが発明αの実施品を販売する地域を甲国に限ること,その実施品には 「甲国外への輸出を禁止する」という表示を付すこと,直接の販売先には甲国外に輸出しないこと を同意させること,がいずれもDに義務付けられている。Dは,甲国内において,発明αの実施品 を製造し,これをEに販売している。 以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ。 〔設 問〕 1.Bは秋田県において発明αの実施品を製造販売し,Fがこれを購入して岡山県において販売 している。Aは,Fに対して差止請求をすることができるか。 2.Bは宮崎県において発明αの実施品を製造販売し,Gがこれを購入して鹿児島県において販 売している。AがGに対して差止請求をした場合,これに対するGの反論としていかなる主張 が考えられるか。 3.EはDから購入した発明αの実施品を日本に輸出し,Hがこれを購入して高知県において販 売している。 Dが,Aとの契約に違反して,その製造する発明αの実施品に「甲国外への輸出を禁止す る」という表示を付していなかった場合,Aは,Hに対して差止請求をすることができる か。 Dは,Aとの契約に従い,その製造する発明αの実施品に「甲国外への輸出を禁止する」 という表示を付していたが,Eがその表示を抹消した上でHに販売している場合,Aは,H に対して差止請求をすることができるか。 4.上記3.のHの行為が本件特許権の侵害となるとした場合,A及びCは,Hに対して,特許 法第102条第1項,第2項又は第3項を用いて損害額を算定してその賠償を請求することが できるか。 - 14 - 〔第2問〕(配点:50) コンピュータ用ゲームソフト製作会社であるAは,新しい恋愛シミュレーションゲームの開発プ ロジェクトを開始することを決定し,フリーのゲームクリエイターであるBにこのプロジェクトに 参加することを要請した。Bは,この要請を受け入れ,Aの施設内でこの開発作業に従事すること になった。そして,Bは,Aの従業員であるCと共同して,ゲームソフトαを作成した。αの内容 は,ゲームを行う主人公(プレイヤー)が架空の高等学校の生徒となって,設定された登場人物の 中から憧れの生徒を選択し,卒業式の当日に,この生徒から愛の告白を受けることを目指して,そ れにふさわしい能力を備えるための努力を積み重ねるというものである。αにおいては,プレイヤ ーの能力値として9種類のパラメータの初期値が設定されている。そして,プレイヤーが選択でき るコマンドがあらかじめ設定されるとともに,コマンドの選択により上昇するパラメータと下降す るパラメータとが連動するように設定されており,プレイヤーが到達したパラメータの数値いかん により,憧れの生徒から愛の告白を受けることができるか否かが決定される。αにおいては,初期 設定の主人公の能力値からスタートし,憧れの生徒から愛の告白を受けることを目標として主人公 自身の能力を向上させていくことが中核となるストーリーであり,その過程で主人公の能力値の達 成度等に応じて他の生徒との出会いがあるという設定となっており,そのストーリーは,一定の条 件下に一定の範囲内で展開されるものである。 Aは,αを収納したDVDを販売しており,αには,複製防止手段を施している。しかしなが ら,このDVDを購入したDは,αに施された複製防止手段を回避することにより,αを複製し, その複製物を収納したDVDを販売しており,また,αをインターネット上に開設された自己のウ ェブサイトに掲載した。 Dの販売するDVDを購入したEからこれを借り受けたその友人Fは,αを自己の有する空のD VDにダビングした。Gは,Dのウェブサイトにアクセスし,そこに掲載されたαを自己のパソコ ン内のハードディスクにダウンロードした。F及びGは,それぞれの自宅においてαをプレイして いる。 以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ。 〔設 問〕 1.Aは,F及びGに対して,著作権法に基づき,どのような請求をすることができるか。ま た,Bは,F及びGに対して,著作権法に基づき,どのような請求をすることができるか。 2.Hは,αで使用されるパラメータがデータとして収められているメモリーカードβを販売し ている。βのデータを使用すると,入学直後の時点でパラメータのほとんどが極めて高い数値 となり,これが憧れの生徒に合った達成度でプレイすることができるような数値である結果, 入学当初から本来は登場し得ない生徒が登場する。また,ゲームスタート時点が卒業間近の時 点に飛び,その時点でパラメータの数値が本来ならばあり得ない高数値に置き換えられ,必ず 憧れの生徒から愛の告白を受けることもできるようになっている。F及びGは,Hの販売する βを購入し,これを用いて自宅においてαをプレイしている。 この場合,Aは,F,G及びHに対して,どのような請求をすることができるか。 - 15 - - 16 - 論文式試験問題集[労 - 17 - 働 法] [労 働 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。 【事 例】 Y社は,トラック運送業を営む会社であり,期間の定めなく雇用されたトラック運転手15 名,総務担当2名,経理担当2名及び配車担当2名の社員計21名のほか,期間1年の労働契約 を締結して雇用されたトラック運転手5名及び事務職を補助するパートタイマー6名を擁する会 社である。Y社の就業規則には,別紙のとおり規定されている。 Xは,平成21年4月1日にY社にトラック運転手として雇用された者であり,これまで15 年のトラック運転歴を有していた。Xの賃金は,基本給15万円,乗務手当10万円,無事故手 当3万円,家族手当1万円及び通勤手当1万円の合計30万円であった。 Xは,給料が入ると暴飲暴食をするなどの不摂生な生活を送っていたことから,Y社に入社す る前から内臓疾患及び糖尿病を患い,投薬治療を受けていた。Xは,Y社に入社後も同様の生活 状態が続き,乗車前の飲酒検査で乗車不適とされたことが数度あり,同年10月30日に厳重注 意を受け,反省文を提出した。Xは,それからしばらくは問題なく就労していたが,平成22年 6月18日に無断欠勤をした上,その翌日の乗車前の飲酒検査で乗車不適とされたことについ て,懲戒処分としてけん責処分を受けた。 Xは,同年10月20日,トラックを運転し,高速道路を走行中に軽い意識もうろう状態に陥 り,中央分離帯のガードレールに自車を接触させ,自車右前部を破損させ,その場で立ち往生す るという事故を起こしたことがあった。上記意識もうろう状態は,その前日に暴飲暴食をした 上,十分な睡眠を取らなかったことによるものであった。Y社は,Xに対し,生活習慣を改め, 安全運転に支障を生じさせるような暴飲暴食をやめるように注意し,Xは,Y社に対し,二度と 暴飲暴食をしない旨の誓約書を提出した。 Xは,その後約1か月の間,誓約を守り,支障なく運転業務を行っていたが,再び暴飲暴食を 繰り返す生活に陥った。その結果,Xは,疲れると運転中に意識もうろう状態になることがあ り,平成23年1月15日には,乗務開始直前に意識を消失して病院に運ばれ,1週間入院し た。Xは,退院後,7日分の有給休暇を取得したところ,Y社は,Xが出社してきた同月31 日,Xを同日限りで解雇し,Xに対して基本給30日分相当額の解雇予告手当を支払った。その 後,Xに交付された解雇理由証明書には,解雇事由として, 「Xは,糖尿病や内臓疾患を患ってい て,疲労等を引き金に意識障害に陥ることがあり,その結果,重大な交通事故を発生させる危険 性を常に有しているため」と記載されていた。 なお,内臓疾患と糖尿病を併発している場合,アンモニア高値になると,多幸感,記銘力低下 が生じ,更に悪化すると意識の混濁が生じる可能性があり,血糖値が高くなると,糖尿病性昏睡 に至ることがあるとされている一方,これらの疾病は,適正な食生活と投薬治療により,通常の 運転業務に支障は生じない程度のコントロールができるとされている。 [設 問] Xが期間の定めなく雇用された者である場合,Xに対する解雇の効力について,あなたの見 解を述べなさい。 Xが平成21年4月1日に期間1年の労働契約を締結して雇用され,平成22年4月1日に 同じ期間で労働契約を更新された者である場合,Xに対する解雇の効力について,あなたの見 解を述べなさい。 - 18 - 別 紙 【就業規則(抜粋)】 (賃金の構成) 第27条 社員の賃金は,別に定める賃金規程により支給する。 (普通解雇) 第37条 @ 社員が次のいずれかに該当するときは,解雇することができる。 勤務成績又は業務能率が著しく不良で,向上の見込みがなく,他の職務にも転換できない など,就業に適さないと認められたとき。 A 勤務状況が著しく不良で,改善の見込みがなく,社員としての職責を果たし得ないと認め られたとき。 B 精神若しくは身体の障害により,又は適性を欠くため,業務に堪えられないと認められた とき。 C〜G H 2 省略 その他前各号に準ずるやむを得ない事情があったとき。 前項の規定により社員を解雇する場合は,少なくとも30日前に予告をするか,予告に代え て平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。 3 第1項の規定による社員の解雇に際し,当該社員から請求のあった場合は,解雇の理由を記 載した証明書を交付する。 (懲戒の種類等) 第58条 懲戒の種類は次の各号に定めるものとし,処分書を交付して原則として公示する。 @ けん責 始末書を提出させ,将来を戒める。 A 減給 減額は,1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えず,その総額が賃金支払期 間における賃金総額の10分の1を超えない範囲で行う。 B 出勤停止 7日以内の期間を定めて出勤停止を命ずる。出勤停止期間中の賃金・賞与は支 給しない。 C 降格 従事する職種の階級を引き下げる。 D 懲戒解雇 予告期間を置かないで即日解雇し,退職金を支給しない。この場合,行政官庁 の認定を受けたときは,解雇予告手当を支給しない。 - 19 - 〔第2問〕(配点:50) 次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。 【事 1 例】 Y社は,A県に本店を置く信用金庫であり,店舗数は44店,従業員数は920名である。 X1は昭和45年に,X2は昭和46年に,それぞれY社に入社した者である。 Y社には,従業員で組織するM労働組合(以下「M組合」という。)とN労働組合(以下「N 組合」という。)が併存しており,M組合は,本店及び全ての支店において,従業員の80パー セント以上を組織している。X1は,Y社の従業員の9パーセント弱を組織する少数組合である N組合の組合員であり,顧客開拓と営業活動に従事している。X2は,Y社B支店に勤務する営 業担当調査役である。営業担当調査役は,Y社,M組合間及びY社,N組合間の各労働協約で 非組合員とされている地位であるが,通常の管理職のような人事権や責任は有しておらず, X2は,一般の組合員と同様に,上司であるB支店長の業務命令に従って通常の営業活動に従事 している。 2 Y社は,就業規則において,定年制及び定年後の嘱託社員制度について次のとおり規定して いた。 第74条 従業員の定年は満60歳とし,定年に達した日が属する年度末をもって退職する。 第75条 満60歳で定年に達した従業員が希望し,会社が必要と認めた者については,1 年ごとの契約によって再雇用し,満63歳に達した日が属する年度末まで嘱託社員として 勤務させる。 2 嘱託社員の月額給は,定年に達した年度の月額給から5パーセントを減じて支給する。 定期昇給は実施しない。 3 嘱託社員の勤続年数は,退職金の算定期間に算入しない。 嘱託社員制度の運用実績としては,平成10年から平成15年までの定年退職者68名のう ち,病弱者5名を除く63名が嘱託社員として再雇用されており,従業員間では,本人が希望 すれば再雇用されるとの認識が定着していた。嘱託社員の所定労働時間は,定年到達直前と同 一(1日8時間)であり,職務内容もほぼ同一であった。 3 Y社は,平成14年ころから,M組合及びN組合から65歳定年制の導入に関する要求を受 け,これら労働組合との間で団体交渉を開始した。当時,Y社は,多額の不良債権を抱え,預 金金利及び経費が貸出金利を上回る「逆ざや現象」が生ずるなど,資産内容が悪化し,A県を 管轄する財務局から経営内容の改善指導を受けていた。そこで,Y社は,M組合及びN組合に 対し,定年年齢を65歳としつつ,定年延長後の賃金水準を満60歳到達年度より大幅に引き 下げることを内容とする定年延長制度の提案を行った。これに対して,M組合は,同制度によ って雇用の安定が図られることを積極的に評価し,Y社の提案に基本的に賛成した。そして, Y社とM組合は,5回の交渉を経て合意に達し,平成15年6月,後記4記載の就業規則第7 4条ないし第77条と同一内容の定年延長制度を定める労働協約(定年延長協定)を締結し た。 一方,N組合は,Y社の提案に対して,定年延長には賛成したものの,賃金水準の引下げに ついては,現行嘱託社員制度上の賃金水準の維持を強く主張して反対した。そこで,Y社は, 平成14年から平成16年にわたって合計18回,N組合との間で団体交渉を行ったものの, 合意に至らなかった。この間,Y社は,賃金水準引下げの必要性を示す最近5か年分の貸借対 照表,損益計算書,営業報告書等の資料を開示するなど,N組合との間で誠実に交渉を行っ た。 - 20 - 4 同年3月20日,Y社は,以下のとおり就業規則を改訂して定年延長制度を導入し,労働基 準法第106条第1項の手続に従って従業員に周知させた。また,労働基準監督署への届出に 際しては,同法第90条に従い,事業所ごとにM組合から意見を聴取し,賛成する旨の意見書 を得て添付した。 第74条 従業員の定年は満65歳とし,定年に達した日が属する年度末をもって退職する。 第75条 従業員が満60歳に達した日が属する年度の翌年度初日をもって嘱託社員とする。 第76条 嘱託社員の月額給は,次のとおりとする。 基本給 従業員が満60歳に達した日が属する年度の月額給の54パーセントを支 給する。 勤務手当 第77条 1万円から3万円の範囲内で,各社員の勤務内容に応じて支給する。 退職金は,嘱託社員としての勤務を終了した年度末に支給する。ただし,本人の 申出により,退職金の50パーセントを限度として,満60歳から65歳の期間中に分割 支給することができる。なお,嘱託社員の勤続年数は,退職金の算定期間に算入しない。 5 上記定年延長制度及び賃金体系の導入に伴い,Y社従業員は,満60歳到達後は,嘱託社員 となり,所定労働時間は,1日8時間から7時間と短縮されるものの,職務内容は,満60歳 到達以前と比較して,ほぼ同じ内容で就業することになる。改訂後の就業規則第76条第2号 所定の勤務手当及び第77条所定の退職金の分割支給規定は,Y社の当初提案にはなかった が,このような労働条件変更及び職務内容に不満を抱いたM組合が団体交渉において要求し, これに応じて追加されたものである。 上記定年延長制度及び賃金体系の導入後の給与水準は,同様の制度導入を行った他の信用金 庫と比較すると,下位の部類に属するが,極端に低いわけではない。 X1は平成19年に,X2は平成20年に,それぞれ満60歳に達し,それぞれの翌年度の初 6 日から嘱託社員となった。その結果,X1の基本給は,満60歳到達直前の月額給と比較して4 6パーセント減額となり(月額30万円から16万2000円に減額),X1が改訂前の就業規 則に基づいて満60歳から63歳までの間に得ることを期待できた給与額が1026万円であ ったのに対し,満60歳から65歳までの間に得る給与額は,勤務手当(X1の場合は月額1万 円)を合わせて1032万円となる。また,X2の基本給も,満60歳到達直前の月額給と比較 して46パーセント減額となり(月額35万円から18万9000円に減額),X2が改訂前の 就業規則に基づいて満60歳から63歳までの間に得ることを期待できた給与額が1197万 円であったのに対し,満60歳から65歳までの間に得る給与額は,勤務手当(X2の場合も月 額1万円)を合わせて1194万円となる。 なお,X1及びX2がY社から受給する退職金の額は,本件勤務延長制度及び賃金体系の導入 前後で変化はない。また,X1及びX2は,一定の資産を保有していたため,退職金の分割支給 (改訂後の就業規則第77条)を申請していない。 [設 問] 改訂後の就業規則がX1及びX2をそれぞれ拘束するか否かについて,法的な論点を指摘しつ つ論じなさい。 Y社とM組合が締結した定年延長協定がX1及びX2をそれぞれ拘束するか否かについて,法 的な論点を指摘しつつ論じなさい。 なお,,を通して,高齢者等の雇用の安定等に関する法律及び同法上の論点に触れる必要は ない。 - 21 - - 22 - 論文式試験問題集[環 - 23 - 境 法] [環 境 法] 〔第1問〕(配点:50) 以下の文章を読んで,各設問に答えよ。 A県は,平成10年に, 「産業廃棄物処理施設の設置に係る手続に関する条例」を制定し,これを 施行した。その中では,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)の下 で許可対象になる産業廃棄物最終処分場に関し,これを計画する事業者に対して,同法に基づく申 請の前に,次の諸事項が義務付けられていた。 @ 事業計画書の地元市町村への送付 A 地元住民を対象とする説明会の開催 B 地元市町村及び地元住民から提出される意見書の受領 C 意見書に対する見解書の公表 D 見解書に対する再意見書の受領と再見解書の公表 E これらを踏まえた事業者主催の討論会の開催 F 以上の手続の状況の知事への報告 A県B町において産業廃棄物最終処分場(安定型)を計画しているC社(A県知事から産業廃棄 物処理業の許可を得ている。)は,廃棄物処理法に基づく許可申請を目指し,前記A県条例に基づい て,B町や地元住民に対して真摯に対応した。その結果,地下水汚染を懸念する一部の地元住民か らは,合意を得られなかったものの,やり取りを通じて,B町及び大多数の地元住民の了解を取り 付けることができた。そこで,廃棄物処理法に基づいて許可申請をしたところ,平成11年にA県 知事から産業廃棄物最終処分場の設置許可を取得できた。 〔設問1〕 廃棄物処理法の平成9年改正においては,「住民参加を取り入れた」と評される規定が導入さ れている。その背景事情と必要性については,改正法案の前提となった審議会の報告書におい て, 【資料】のように説明されていた。それにもかかわらず,改正法制定後の平成10年にA県が 上記条例を制定したことには,どのような事情があると考えられるか。A県の立場に立って,複 数の視点から,@改正法の限界,A条例手続の必要性について論ぜよ。なお,いわゆる地方分権 改革及び条例の適法性については,考慮しないこととする。 【資 料】厚生省生活環境審議会廃棄物処理部会産業廃棄物専門委員会『今後の産業廃棄物対策の基 本的方向について』(平成8年9月) 「最終処分場等産業廃棄物処理施設の設置に当たっては都道府県知事の許可を受けることとなっ ているが,現行の廃棄物処理法上,技術上の基準に適合していることと最終処分場について災害防 止のための計画が定められていることが要件となっているものの,直接,住民等とのかかわり合い に係る規定は設けられていないことから,要綱等においてこれを補完する対応がなされているとこ ろである。施設の円滑な設置を進めていくためには,施設の設置に伴う地域の生活環境への影響に 十分に配慮し,悪影響を及ぼさないものであることについて住民の十分な理解を得ていくことは重 要であり,法律上,施設の設置の許可に至る手続の中に,住民等の理解を得ていくための仕組みを 設けることが必要である。このため,施設を設置しようとする者は施設の立地に伴う生活環境への 影響を調査し,その結果を都道府県が事業計画と併せて公告・縦覧に付すとともに,関係住民や市 町村の意見を聴取する等の手続を法令で明確に定めるべきである。 - 24 - その際,専門家により審査する機関を設けるなどにより,事業の内容や生活環境への影響を客観 的に審査できる仕組みを導入すべきである。」 〔設問2〕 C社が建設に取り掛かろうとしたところ,最後まで反対をした一部住民から,処分場の操業に より有害物質を含む汚水が漏出し,それによって日常的に飲用している井戸水が汚染される可能 性が高いことを理由に,C社に対して,建設の差止めを求める訴訟が提起された。C社は,「A 県知事の許可を得ているし,廃棄物処理法の諸基準を遵守して操業するから問題はない。」,「有 害物質を含む汚水漏出,被害発生,因果関係の存在は,住民側で立証すべきだ。」と主張してい る。この主張に対して,住民の代理人として,どのような主張を展開することができるか。 - 25 - 〔第2問〕(配点:50) Aは,B県内にある自ら所有する土地(以下「本件土地」という。)で工場(以下「本件工場」と いう。)を操業し,トリクロロエチレンを用いてきたが,平成11年12月に本件工場の使用を廃止 し,遊休地とした。平成13年12月,Aは,本件土地をCに売却した。平成22年6月,Cは, 本件土地にマンションを建設するために大規模な土地開発工事をする際,B県知事の処分に基づく 義務により,指定調査機関Dに委託して調査をしたところ,トリクロロエチレンに関して,汚染状 態についての環境省令で定める基準値を超過していた。そして,その汚染土壌を掘削し除去するに は40億円,封じ込めるには5億円の費用が掛かることが見積もられた。 その後,同年8月,B県知事は,本件土地を要措置区域に指定し,Cに対して封じ込め措置を採 るよう指示したところ,Cはマンションの分譲を円滑に行うために,40億円掛けて掘削除去をし, 平成23年1月に除去工事を完了した。 なお,平成3年には土壌汚染の環境基準が策定され,平成6年に告示改正によって環境基準項目 にトリクロロエチレンが追加されていた。 現在は平成23年5月であることを前提とし,以下の各設問に答えよ。なお,水質汚濁防止法及 び商法上の問題については考慮しないこととする。 〔設問1〕 Cが本件土地の開発工事の際,調査をしなければならなかった理由を説明せよ。 大規模な開発工事の場合を土壌汚染の調査の契機とする制度は,最近になって導入されたも のである。その必要性について説明せよ。 〔設問2〕 Cは,Aに対して,どのような根拠に基づいて,どのような請求ができるか。 - 26 - 論文式試験問題集[国際関係法(公法系)] - 27 - [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕(配点:50) 1980年に入国が認められて以来,X国人甲は,Y国内で乙社(有限責任法人)の名義で適法 に貿易業を営んでいた。ところが,2000年5月20日夜にY国官憲が甲の自宅を訪れ,突如理 由も示さず甲を逮捕し連行した。その後,現在まで甲について裁判も開かれないままY国政府によ る拘禁が続いている。乙社は,甲が一人で切り回していたために,甲の長期間にわたる拘禁によっ て立ち行かなくなり,2001年6月に倒産し,その後の破産手続を経て,2004年末までに乙 社の資産は,全て債権者に分配された。 X国,Y国は,共に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下「自由権規約」という。) 及び自由権規約第1選択議定書の当事国であるが,いずれも欧州人権条約などの地域的人権条約に は加入していない。また2000年1月1日以降,Y国内で緊急事態が宣言されたことはない。 以上の事実関係を前提に,以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.甲の代理人は,Y国の裁判所に甲の釈放を求めることを考えた。そこで,国際法上の主張を するためにはどのような議論をする必要があるかについて説明しなさい。なお,従来Y国国内 裁判所において自由権規約が援用されたことはない。 2.X国は,甲の家族からの訴えを受けて,Y国に甲の救済を求めようとした。X国は,Y国に 対して国際法上どのような請求をすることが可能か。Y国に要求できる全ての請求をその根拠 を示して論じなさい。 3.甲の家族は,個人として利用できる国際法上の手続によって甲の救済を求めようと考えた。 甲の家族が,甲を救済するために個人として利用可能な国際法上の手続は何か。当該手続によ ってどのようなことが可能になるか,またどのような限界があるかを含めて説明しなさい。 - 28 - 〔第2問〕(配点:50) A国は,海洋法に関する国際連合条約第76条第1項に従って,基線から200海里までの海底 の区域を自国の大陸棚として設定する大陸棚宣言を,国際社会に向けて公式に行った。以下のよう にB国との間で紛争がある海底の区域を除いて,それ以外の海底の区域については,A国の大陸棚 宣言は,他国から抗議を受けてはいない。 A国とB国とは向かい合う位置関係にあるが,両国の沿岸間の距離が400海里に満たないため に,両国のそれぞれの大陸棚に対する権利の主張が,重複する海底の区域がある。それゆえに,両 国の間には,大陸棚の境界画定に関する紛争がある。 海洋法に関する国際連合条約第83条は,大陸棚の境界画定について規定する。A国は同条約の 当事国であるが,B国は当事国ではない。海洋法に関する国際連合条約第83条第1項の採択に際 しては,複数の見解が対立したため,その妥協として同条項が採択された。1994年に同条約が 発効して以来,大陸棚の境界画定について,交渉による実践や裁判実践が集積してきている。同条 約第83条第1項の解釈はほぼ定着しており,衡平な解決を達成するためには,まず中間線を引い て,関連ある事情を考慮して必要な修正を加えるべきと解されている。 ところで,A国とB国の大陸棚に対する権利主張が重複している海底の区域には,一体をなす海 底油田が広がっていて,資源が豊かに存在している。現在,両国の間で大陸棚境界画定交渉は断絶 している。最近になってB国は,一方的にこの海底油田の資源開発に着手した。A国は,B国の開 発行為に対して,強く抗議している。というのも,B国が開発を行っている海底の区域は,将来, 境界画定が行われればA国の大陸棚となる可能性があり資源開発を見込めるが,B国が資源開発行 為を即時に中止しないと,この海底の区域からの資源がB国の資源開発行為により奪われてしま い,資源回復は不可能であり,A国による資源開発の見込みがなくなるおそれがあるからである。 両国間では対立が深まり,著しく緊張が高まっている。 A国もB国も,国際司法裁判所規程第36条第2項に基づき選択条項受諾宣言を行っている。そ こでA国は,国際司法裁判所にこの大陸棚境界画定紛争を付託してこの紛争に適用のある国際法の 宣言を求めるとともに,B国の資源開発行為を中止させるために暫定措置請求を行った。 以上の事実関係を前提に,以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.B国との紛争がある海底の区域に関する部分を除いて,A国の大陸棚宣言が国際法上の効力 を持ち得るかについて論じなさい。 2.国際司法裁判所が暫定措置を指示するための要件について論じなさい。 3.国際司法裁判所が,A国とB国間の紛争に適用のある国際法として,海洋法に関する国際連 合条約第83条第1項の規定を宣言するとすれば,その理由について論じなさい。 - 29 - - 30 - 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)] - 31 - [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕(配点:60) 共に甲国人である夫Aと妻Bは,出生以来甲国のP地域に居住していたが,観光のために来日し た。来日した翌日,滞在しているホテルの前の横断歩道を横断中,日 本 に 居 住 す る 日 本 人 Y の 運 転 す る 自 動 車が ,信 号 が 赤 で あ る に も か かわ ら ず 交 差 点 に 進 入 し,A と B は Y の 車 に は ねら れて 死 亡 し た。両 者 の 死 亡 の 先 後は 明 ら か で な い。後 日 ,事 故 当 時 甲国のP地域に居住してい たAの父Xが来日し,Yに対して損害賠償を求める訴えを日本の裁判所に提起した。 AとBの婚姻及びXとAの父子関係は有効に成立しているものとし,かつ,甲国は法を異にする P地域,Q地域及びR地域から成る国であるが,これらの地域の間で生ずる法の抵触を解決するた めの規則は同国にはないものとして,以下の設問に答えなさい。 なお,P地域の法(以下「P法」という。)は次の趣旨の規定を有している。 @ 債権の法定相続については,死亡当時における被相続人の常居所地法による。 A 夫婦のうちの一人がその配偶者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは,夫 婦は双方とも同時に死亡したものと推定する。 B 他人の生命を侵害した者は,被害者の近親者に対しては,その財産権が侵害されなかった場 合においても,その損害の賠償をしなければならない。 C 慰謝料請求権を譲渡又は相続することはできない。 D 配偶者,子及び直系尊属が第1順位の相続人になる。 〔設 問〕 1.Xは,AがYに対して有する損害賠償請求権を相続により取得したとして,Yに対して損害 賠償を求めている。 X の相続権の有無を判断するための準拠法を裁判所はP法とした。裁判所がP法を準拠法 とするに至った推論の過程を示しなさい。 Xは, 「逸失利益の算定方法には,日本法が適用されるので,Aの逸失利益は,甲国におけ るAの現実の収入の多寡に関わりなく,日本の賃金センサス(賃金構造基本統計調査)に基 づいて算定されるべきである。」と主張している。この主張の当否を論じなさい。 Xは,「AがYに対して有する慰謝料請求権を相続により取得した。」と主張している。X は,当該慰謝料請求権を相続できるか。 2.Xは,Aの死亡により自ら精神的苦痛を負ったことを理由に,Aの近親者としてYに対して 慰謝料を請求することができるか。 3.Xは,「BがYに対して有する損害賠償請求権を,Aは,Bの配偶者として相続により取得 し,かくしてAに帰属した当該請求権を自分はAの直系尊属として相続により取得した。」と主 張している。この主張に理由はあるか。Bの本国法は,P法であるとして答えなさい。 - 32 - 〔第2問〕(配点:40) XとYは,共に日本法に基づいて設立され,日本に主たる営業所を有する会社であり,Xは銀行 業を,Yはリース業を営んでいる。Aは,甲国法に基づいて設立され,甲国に主たる営業所を有 し,その地で代表者を定めて登録されたパートナーシップである。Aは,甲国においてマンション の建築・分譲事業をするための資金を得るために,Xとの間で,日本の裁判所を管轄裁判所とし, 乙国法を準拠法とする消費貸借契約(以下「本件ローン契約」という。)を締結した。XとYは,X がAに貸し付けた金額の返済につき債務不履行があった場合に備えて,Yを保証人とする保証契約 (以下「本件保証契約」という。)を締結した。マンションは完成したものの,その後甲国の不動産 市場が不況となったために分譲は進まず,Aは,Xに対する利息の支払を怠り,本件ローン契約に 従い期限の利益を失うこととなった。 〔設 問〕 1.Xは,管轄合意に基づき,Aに対して,本件ローン契約に基づく残債務の支払を求めて日本 の裁判所に訴えを提起した。Aは,日本の裁判所で訴訟当事者になることはできるか。甲国法 上,パートナーシップには法人格はないが,当事者能力は認められているものとして答えなさ い。 2.Xは,Yに対して,本件保証契約に基づき,AがXに支払うべき残債務の支払を求めて日本 の裁判所に訴えを提起した。XとYは,本件保証契約を締結した当時には,明示的にも黙示的 にも準拠法を選択していなかった。訴え提起の当時において日本法が準拠法となる可能性及び 乙国法が準拠法となる可能性について論じなさい。 3.Yが本件保証契約に基づく保証債務を履行したとする。Xが本件ローン契約の準拠法上Aに 対して有する権利をYが法定代位により行使しようとした場合,代位行使の可否を決定するの はいずれの国の法か。本件保証契約を締結した当時,XとYは日本法を準拠法として選択して いたと仮定して,法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)第23条に言及しなが ら論じなさい。 - 33 -