平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)(補足) 1 補足説明の趣旨 平成23年公法系科目第1問の採点実感等に関する意見は,受験者や法科大学院生 に何が求められているのか,何は求められていないのかを,採点に当たった各委員の 実感として率直に伝えることによって,憲法をよりきちんと勉強して欲しいという「願 い」を込めて作成しているが,ある一部のみを読んだ場合に意図が誤解されるおそれ があるとすると,採点実感等に関する意見公表の目的にもとることにもなりかねない。 そこで,先に公表済みの公法系科目第1問の意見に関して補足説明を行い,求めてい ることをより明確に伝えることにした。 2 事案の内容に即した個別的・具体的検討の必要性について(原告の主張における違 憲審査基準への言及について) 「事案の内容に即した個別的・具体的検討の必要性」の項目中に違憲審査基準に関 する記述(4頁)があるが,同記述は,「原告の主張」のところで審査基準に言及し てはいけないという趣旨ではない。 「原告の主張」のところで審査基準に言及すること自体は,問題ない。望ましくな いのは,表現の自由の制約−内容規制−「厳格審査の基準」を,事案に即して慎重に 検討することなく,パターンとして記憶しているものを書く答案である。 表現の自由の保障は,そもそもどのような行為を保障しているのか,本問で問題と なった行為も表現の自由で保障されると主張するためには,どのように表現の自由論 を理論構成するのか,本問で問題となった行為は,原則として規制することができな いものなのか等を踏まえた上で,審査基準を論じることが求められる。そうでなけれ ば,審査基準の実際の機能を理解していないと評価されることになる。 司法試験の問題は,「考える」ことを求めて出題されている。求めているのは,上 記のようなことをきちんと検討する答案である。 3 合憲性の検討について (1) 立法目的の審査と政府利益について 「合憲性の検討」の項目中に立法目的の正当性の肯定に関する記述(5頁)があ るが,同記述は,表現の自由などの憲法上の権利と対立する個人のプライバシーを 国が保護することを「政府利益」あるいは「公益」とすることは誤りであるという 趣旨ではない。 本問の争点は,「特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防 止及び回復に関する法律」に基づきA大臣が行う中止命令の合憲性である。このよ うな場合には,「国がプライバシー等の個人的法益の保護を図ること」は,「政府利 益」であり,「公益」といえる。 しかし,合憲性の検討に当たり,上記2の第3段落で述べているような検討に基 づいて一定の審査基準を定立したとしても,それだけで結論が自動的に導かれるわ けではない。きちんとした検討の上で審査基準を立てたとしても,結論を導き出す ためには,事例に即した具体的な検討が必要である。求めているのは,「やむにや -1- まれぬ政府利益」,「必要不可欠な公益」等の言葉を観念的に覚え,その言葉だけを 安易に用いて述べる答案ではない。 (2) 目的手段審査について 「合憲性の検討」の項目中に目的手段に関する記述(5頁)があるが,それは, きちんと審査基準論を定立した上で,目的をめぐる審査,目的と手段の関連性をめ ぐる審査(手段ー手段の関係をめぐる審査も含めて。)を行うことを否定する趣旨 ではない。 ここで伝えたいことも,仮に厳格度が高められた審査基準の下で目的手段審査を 行う場合でも,事例に即した具体的な分析を欠いたまま,観念的・抽象的で,画一 的な判断が行われることの問題性である。 毎年度の採点実感に通底していることであるが,求めているのは,パターン化し た観念的・抽象的な記述ではない。「平成20年新司法試験の採点実感等に関する 意見」(4頁)にも記載があるように,「必要不可欠の(重要な,あるいは正当な) 目的といえるのか,厳密に定められた手段といえるか,目的と手段の実質的(ある いは合理的)関連性の有無,規制手段の相当性,規制手段の実効性等はどうなのか について,事案の内容に即して個別的・具体的に検討すること」を求めている。 -2-