論文式試験問題集 [法律実務基礎科目(民事・刑事)] - 1 - [民 事] 司法試験予備試験用法文及び本問末尾添付の資料を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。 なお,以下の〔設問1〕から〔設問3〕では,甲建物の賃貸借契約に関する平成23年5月分以降 の賃料及び賃料相当損害金については考慮する必要はない。 〔設問1〕 別紙【Xの相談内容】を前提に,弁護士Pは,平成23年11月1日,Xの訴訟代理人として, Yに対し,賃貸借契約の終了に基づく目的物返還請求権としての建物明渡請求権を訴訟物として, 甲建物の明渡しを求める訴え(以下「本件訴え」という。)を提起した。そして,弁護士Pは,そ の訴状において,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として,次の各事実を主 張した(なお,これらの事実は,請求を理由づける事実として適切なものであると考えてよい。)。 @ Xは,Yに対し,平成20年6月25日,甲建物を次の約定で賃貸し,同年7月1日,これ に基づいて甲建物を引き渡したとの事実 賃貸期間 平成20年7月1日から5年間 賃料 月額20万円 賃料支払方法 毎月末日に翌月分を支払う A 平成22年10月から平成23年3月の各末日は経過したとの事実 B Xは,Yに対し,平成23年4月14日,平成22年11月分から平成23年4月分の賃料 の支払を催告し,同月28日は経過したとの事実 C Xは,Yに対し,平成23年7月1日,@の契約を解除するとの意思表示をしたとの事実 上記各事実が記載された訴状の副本の送達を受けたYは,弁護士Qに相談をし,同弁護士はYの 訴訟代理人として本件を受任することになった。別紙【Yの相談内容】は,弁護士QがYから受け た相談の内容を記載したものである。これを前提に,以下の各問いに答えなさい。なお,別紙【X の言い分】を考慮する必要はない。 (1) 別紙【Yの相談内容】の第3段落目の主張を前提とした場合,弁護士Qは,適切な抗弁事実と して,次の各事実を主張することになると考えられる。 D Yは,平成22年10月頃,甲建物の屋根の雨漏りを修理したとの事実 E Yは,同月20日,Dの費用として150万円を支出したとの事実 F Yは,Xに対し,平成23年6月2日頃,D及びEに基づく債権と本件未払賃料債権とを相 殺するとの意思表示をしたとの事実 上記DからFまでの各事実について,抗弁事実としてそれらの事実を主張する必要があり,か つ,これで足りると考えられる理由を,実体法の定める要件や当該要件についての主張・立証責 任の所在に留意しつつ説明しなさい。 (2) 別紙【Yの相談内容】を前提とした場合,弁護士Qは,上記(1)の抗弁以外に,どのような抗 弁を主張することになると考えられるか。当該抗弁の内容を端的に記載しなさい(なお,当該抗 弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。)。 〔設問2〕 本件訴えにおいて,弁護士Qは,別紙【Yの相談内容】を前提として,〔設問1〕のとおりの各 抗弁を適切に主張するとともに,甲建物の屋根修理工事に要した費用についての証拠として,次の ような本件領収証(斜体部分はすべて手書きである。)を,丙川三郎作成にかかるものとして裁判 所に提出した。これを受けて弁護士PがXと打合せを行ったところ,Xは,別紙【Xの言い分】に - 2 - 記載したとおりの言い分を述べた。そこで,弁護士Pは,本件領収証の成立の真正について「否認 する」との陳述をした。 この場合,裁判所は,本件領収証の成立の真正についての判断を行う前提として,弁護士Pに対 して,更にどのような事項を確認すべきか。結論とその理由を説明しなさい。 平成22 年10 月20 日 領 金 但し 収 証 150万 円 屋根修理代金として ○○建装 丙川三郎 〔設問3〕 本件訴えでは,〔設問1〕のとおりの請求を理由づける事実と各抗弁に係る抗弁事実が適切に主 張されたのに加えて,Xから,別紙【Xの言い分】に記載された事実が主張された。これに対して, Yは,Xが30万円を修理費用として支払ったとの事実(G)を否認した。そこで,EからGの各 事実の有無に関する証拠調べが行われたところ,裁判所は,Eの事実については,Yが甲建物の屋 根の修理費用として実際に150万円を支払い,その金額は相当なものである,Fの事実について は,相殺の意思表示はXによる本件契約の解除の意思表示の後に行われた,Gの事実については, XはYに屋根の修理費用の一部として30万円を支払ったとの心証を形成するに至った。 以上の主張及び裁判所の判断を前提とした場合,裁判所は,判決主文において,どのような内容 の判断をすることになるか。結論とその理由を簡潔に記載しなさい。 以下の設問では, 〔設問1〕から〔設問3〕までの事例とは関係がないものとして解答しなさい。 〔設問4〕 弁護士Aは,弁護士Bを含む4名の弁護士とともに共同法律事務所で執務をしているが,弁護士 Bから,その顧問先であり経営状況が厳しいR株式会社について,複数の倒産手続に関する意見を 求められ,その際に資金繰りの状況からR株式会社の倒産は避けられない情勢であることを知った。 これを前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Aは,義父Sから,その経営するT株式会社がR株式会社と共同で事業を行うに当たり, R株式会社が事業資金を借り入れることについてT株式会社が保証することに関する契約書の検 討を依頼された。この場合において,弁護士Aが,義父SにR株式会社の経営状況を説明して保 証契約を回避するよう助言することに弁護士倫理上の問題はあるか。結論とその理由を簡潔に記 載しなさい。 (2) Aは,義父Sの跡を継ぎ,会社経営に専念するため弁護士登録を取り消してT株式会社の代表 取締役に就任したが,その後,R株式会社から共同事業を行うことを求められるとともに,R株 式会社が事業資金を借り入れることについてT株式会社が保証することを求められた。この場合 において,Aが,R株式会社の経営状況と倒産が避けられない情勢であることをT株式会社の取 締役会において発言することに弁護士倫理上の問題はあるか。結論とその理由を簡潔に記載しな さい。 - 3 - (別 紙) 【Xの相談内容】 私は,平成20年6月25日,Yに対し,私所有の甲建物を,賃料月額20万円,毎月末日に翌 月分払い,期間は同年7月1日から5年間の約束で賃貸し(以下「本件契約」といいます。),同日, 甲建物を引き渡しました。 Yは,平成22年10月分の賃料までは,月によっては遅れることもあったものの,一応,順調 に支払っていたのですが,同年11月分以降は,お金がないなどと言って,賃料を支払わなくなり ました。 私は,Yの亡父が私の古くからの友人であったこともあって,あまり厳しく請求することは控え ていたのですが,平成23年3月末日になっても支払がなかったことから,しびれを切らし,同年 4月14日,Yに対し,平成22年11月分から平成23年4月分までの未払賃料合計120万円 (以下「本件未払賃料」といいます。)を2週間以内に支払うよう求めましたが,Yは一向に支払 おうとしません。 そこで,私は,本件未払賃料の支払等に関してYと話し合うことを諦め,Yに対し,平成23年 7月1日,賃料不払を理由に,本件契約を解除して,甲建物の明渡しを求めました。このように, 本件契約は終わっているのですから,Yには,一日も早く甲建物を明け渡してほしいと思います。 なお,Yは,甲建物を修理したので,その修理費用と本件未払賃料とを対当額で相殺したとか,甲 建物の修理費用を支払うまでは甲建物を明け渡さない等と言って,明渡しを拒否しています。Yが 甲建物の屋根を修理していたこと自体は認めますが,甲建物はそれほど古いものではありませんの で,Yが言うほどの高額の費用が掛かったとは到底思えません。また,Yは,私に対して相殺の意 思表示をしたなどと言っていますが,Yから相殺の話が出たのは,同年7月1日に私が解除の意思 表示をした後のことです。 【Yの相談内容】 X所有の甲建物に関する本件契約の内容や,賃料の未払状況及び賃料支払の催告や解除の意思表 示があったことは,Xの言うとおりです。 しかし,私は甲建物を明け渡すつもりはありませんし,そのような義務もないと思います。 甲建物は,昭和50年代の後半に建てられたもののようですが,屋根が傷んできていたようで, 平成22年8月に大雨が降った際に,かなりひどい雨漏りがありました。それ以降も,雨が降るた びに雨漏りがひどいので,Xに対して修理の依頼をしたのですが,Xは,そちらで何とかしてほし いと言うばかりで,修理をしてくれませんでした。そこで,私は,同年10月頃,仕方なく,自分 で150万円の費用を負担して,業者の丙川三郎さんに修理をしてもらったのです。この費用は, 同月20日に私が丙川さんに支払い,その場で丙川さんに領収証(以下「本件領収証」といいます。) を書いてもらいました。しかし,これは,本来,私が支払わなければならないものではないので, その分を回収するために,私は平成22年11月分以降の賃料の支払をしなかっただけなのです。 ところが,Xは,図図しくも,平成23年4月になって未払分の賃料の支払を求めてきたものです から,しばらく無視していたものの,余りにもうるさいので,最終的には,知人のアドバイスを受 けて,同年6月2日頃,Xに対し,甲建物の修理費用と本件未払賃料とを相殺すると言ってやりま した。 また,万が一相殺が認められなかったとしても,私は,Xが甲建物の修理費用を払ってくれるま では,甲建物を明け渡すつもりはありません。 - 4 - 【Xの言い分】 甲建物はそれほど老朽化しているというわけでもないのですから,雨漏りの修理に150万円も 掛かったとは考えられません。Yは修理をしたと言いながら,本件訴えの提起までの間に,私に対 し,修理に関する資料を見せたこともありませんでした。そこで,実際に,知り合いの業者に尋ね てみたところ,雨漏りの修理程度であれば,せいぜい,30万円くらいのものだと言っていました。 そこで,私は,Yとの紛争を早く解決させたいとの思いから,平成23年8月10日,Yに対して, 修理費用として30万円を支払っています。 本件訴訟に至って初めて本件領収証の存在を知りましたが,丙川さんは評判の良い業者さんで, 30万円程度の工事をして150万円もの請求をするような人ではありません。したがって,本件 領収証は,Yが勝手に作成したものだと思います。 いずれにせよ,Yの主張には理由がないと思います。 - 5 - 頼関係に基づくと認められるもの 三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件 四 社員等又は使用人である外国法事務弁護士が相手方から受任 している事件 五 社員が第二十七条、第二十八条又は第六十三条第一号若しく は第二号のいずれかの規定により職務を行い得ない事件 (同前) 第六十六条 弁護士法人は、前条に規定するもののほか、次の各号 のいずれかに該当する事件については、その業務を行ってはなら ない。ただし、第一号に掲げる事件についてその依頼者及び相手 方が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び 他の依頼者のいずれもが同意した場合並びに第三号に掲げる事件 についてその依頼者が同意した場合は、この限りでない。 一 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供 を約している者を相手方とする事件 二 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件 三 依頼者の利益とその弁護士法人の経済的利益が相反する事件 (同前ー受任後) 第六十七条 社員等は、事件を受任した後に第六十三条第三号の規 定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、依頼者 にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとら なければならない。 2 弁護士法人は、事件を受任した後に第六十五条第四号又は第五 号の規定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、 依頼者にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置 をとらなければならない。 (事件情報の記録等) 第六十八条 弁護士法人は、その業務が制限されている事件を受任 すること及びその社員等若しくは使用人である外国法事務弁護士 が職務を行い得ない事件を受任することを防止するため、その弁 護士法人、社員等及び使用人である外国法事務弁護士の取扱い事 件の依頼者、相手方及び事件名の記録その他の措置をとるように 努める。 (準用) 第六十九条 第一章から第三章まで(第十六条、第十九条、第二十 三条及び第三章中第二節を除く。 ) 、第六章及び第九章から第十二 章までの規定は弁護士法人に準用する。 第九章 他の弁護士との関係における規律 (名誉の尊重) 第七十条 弁護士は、他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護 士(以下「弁護士等」という。 )との関係において、相互に名誉 と信義を重んじる。 (弁護士に対する不利益行為) 第七十一条 弁護士は、信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れ てはならない。 (他の事件への不当介入) 第七十二条 弁護士は、他の弁護士等が受任している事件に不当に 介入してはならない。 (弁護士間の紛議) 第七十三条 弁護士は、他の弁護士等との間の紛議については、協 議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努める。 第十章 裁判の関係における規律 (裁判の公正と適正手続) 第七十四条 弁護士は、裁判の公正及び適正手続の実現に努める。 (偽証のそそのかし) 第七十五条 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又 は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。 (裁判手続の遅延) 第七十六条 弁護士は、怠慢により又は不当な目的のため、裁判手 続を遅延させてはならない。 (裁判官等との私的関係の不当利用) 第七十七条 弁護士は、その職務を行うに当たり、裁判官、検察官 その他裁判手続に関わる公職にある者との縁故その他の私的関係 があることを不当に利用してはならない。 第十一章 弁護士会との関係における規律 (弁護士法等の遵守) 第七十八条 弁護士は、弁護士法並びに本会及び所属弁護士会の会 則を遵守しなければならない。 (委嘱事項の不当拒絶) 第七十九条 弁護士は、正当な理由なく、会則の定めるところによ り、本会、所属弁護士会及び所属弁護士会が弁護士法第四十四条 の規定により設けた弁護士会連合会から委嘱された事項を行うこ とを拒絶してはならない。 第十二章 官公署との関係における規律 (委嘱事項の不当拒絶) 第八十条 弁護士は、正当な理由なく、法令により官公署から委嘱 された事項を行うことを拒絶してはならない。 (受託の制限) 第八十一条 弁護士は、法令により官公署から委嘱された事項につ いて、職務の公正を保ち得ない事由があるときは、その委嘱を受 けてはならない。 第十三章 解釈適用指針 (解釈適用指針) 第八十二条 この規程は、弁護士の職務の多様性と個別性にかんが み、その自由と独立を不当に侵すことのないよう、実質的に解釈 し適用しなければならない。第五条の解釈適用に当たって、刑事 弁護においては、被疑者及び被告人の防御権並びに弁護人の弁護 権を侵害することのないように留意しなければならない。 2 第一章並びに第二十条から第二十二条まで、第二十六条、第三 十三条、第三十七条第二項、第四十六条から第四十八条まで、第 五十条、第五十五条、第五十九条、第六十一条、第六十八条、第 七十条、第七十三条及び第七十四条の規定は、弁護士の職務の行 動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用しなければな らない。 附 則 この規程は、平成十七年四月一日から施行する。 - 6 - について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努 める。 (防御権の説明等) 第四十八条 弁護士は、被疑者及び被告人に対し、黙秘権その他の 防御権について適切な説明及び助言を行い、防御権及び弁護権に 対する違法又は不当な制限に対し、必要な対抗措置をとるように 努める。 (国選弁護における対価受領等) 第四十九条 弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名 目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対 価を受領してはならない。 2 弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し、 その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。 ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある 場合は、この限りでない。 第五章 組織内弁護士における規律 (自由と独立) 第五十条 官公署又は公私の団体(弁護士法人を除く。以下これら を合わせて「組織」という。 )において職員若しくは使用人とな り、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士(以下「組 織内弁護士」という。 )は、弁護士の使命及び弁護士の本質であ る自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。 (違法行為に対する措置) 第五十一条 組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織 に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとし ていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又 はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対 する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとら なければならない。 第六章 事件の相手方との関係における規律 (相手方本人との直接交渉) 第五十二条 弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選 任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで 直接相手方と交渉してはならない。 (相手方からの利益の供与) 第五十三条 弁護士は、受任している事件に関し、相手方から利益 の供与若しくは供応を受け、又はこれを要求し、若しくは約束を してはならない。 (相手方に対する利益の供与) 第五十四条 弁護士は、受任している事件に関し、相手方に対し、 利益の供与若しくは供応をし、又は申込みをしてはならない。 第七章 共同事務所における規律 (遵守のための措置) 第五十五条 複数の弁護士が法律事務所(弁護士法人の法律事務所 である場合を除く。 )を共にする場合(以下この法律事務所を「共 同事務所」という。 )において、その共同事務所に所属する弁護 士(以下「所属弁護士」という。 )を監督する権限のある弁護士 は、所属弁護士がこの規程を遵守するための必要な措置をとるよ うに努める。 (秘密の保持) 第五十六条 所属弁護士は、他の所属弁護士の依頼者について執務 上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は利用してはな らない。その共同事務所の所属弁護士でなくなった後も、同様と する。 (職務を行い得ない事件) 第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった 場合を含む。 )が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務 を行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。 (同前ー受任後) 第五十八条 所属弁護士は、事件を受任した後に前条に該当する事 由があることを知ったときは、速やかに、依頼者にその事情を告 げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければなら ない。 (事件情報の記録等) 第五十九条 所属弁護士は、職務を行い得ない事件の受任を防止す るため、他の所属弁護士と共同して、取扱い事件の依頼者、相手 方及び事件名の記録その他の措置をとるように努める。 (準用) 第六十条 この章の規定は、弁護士が外国法事務弁護士と事務所を 共にする場合に準用する。この場合において、第五十五条中「複 数の弁護士が」とあるのは「弁護士及び外国法事務弁護士が」と、 「共同事務所に所属する弁護士(以下「所属弁護士」という。 ) 」 とあるのは「共同事務所に所属する外国法事務弁護士(以下「所 属外国法事務弁護士」という。 ) 」と、 「所属弁護士が」とあるの は「所属外国法事務弁護士が」と、第五十六条から第五十九条ま での規定中「他の所属弁護士」とあるのは「所属外国法事務弁護 士」と、第五十七条中「第二十七条又は第二十八条」とあるのは 「外国特別会員基本規程第三十条の二において準用する第二十七 条又は第二十八条」と読み替えるものとする。 第八章 弁護士法人における規律 (遵守のための措置) 第六十一条 弁護士法人の社員である弁護士は、その弁護士法人の 社員又は使用人である弁護士(以下「社員等」という。 )及び使 用人である外国法事務弁護士がこの規程を遵守するための必要な 措置をとるように努める。 (秘密の保持) 第六十二条 社員等は、その弁護士法人、他の社員等又は使用人で ある外国法事務弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を正 当な理由なく他に漏らし、又は利用してはならない。社員等でな くなった後も、同様とする。 (職務を行い得ない事件) 第六十三条 社員等(第一号及び第二号の場合においては、社員等 であった者を含む。 )は、次に掲げる事件については、職務を行 ってはならない。ただし、第四号に掲げる事件については、その 弁護士法人が受任している事件の依頼者の同意がある場合は、こ の限りでない。 一 社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を 受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であって、自らこ れに関与したもの 二 社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を 受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと 認められるものであって、自らこれに関与したもの 三 その弁護士法人が相手方から受任している事件 四 その弁護士法人が受任している事件(当該社員等が自ら関与 しているものに限る。 )の相手方からの依頼による他の事件 (他の社員等との関係で職務を行い得ない事件) 第六十四条 社員等は、他の社員等が第二十七条、第二十八条又は 第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を 行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。 2 社員等は、使用人である外国法事務弁護士が外国特別会員基本 規程第三十条の二において準用する第二十七条、第二十八条又は 第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を 行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。 (業務を行い得ない事件) 第六十五条 弁護士法人は、次の各号のいずれかに該当する事件に ついては、その業務を行ってはならない。ただし、第三号に規定 する事件については受任している事件の依頼者の同意がある場合 及び第五号に規定する事件についてはその職務を行い得ない社員 がその弁護士法人の社員の総数の半数未満であり、かつ、その弁 護士法人に業務の公正を保ち得る事由がある場合は、この限りで ない。 一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件 二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信 - 7 - (依頼者との金銭貸借等) 第二十五条 弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸 借をし、又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し、若しく は依頼者の債務について保証をしてはならない。 (依頼者との紛議) 第二十六条 弁護士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じな いように努め、紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で 解決するように努める。 第二節 職務を行い得ない事件の規律 (職務を行い得ない事件) 第二十七条 弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件につい ては、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に掲げる事 件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、こ の限りでない。 一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件 二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信 頼関係に基づくと認められるもの 三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件 四 公務員として職務上取り扱った事件 五 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手 続実施者として取り扱った事件 (同前) 第二十八条 弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のい ずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。 ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同 意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方 が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及 び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。 一 相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である 事件 二 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供 を約している者を相手方とする事件 三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件 四 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件 第三節 事件の受任時における規律 (受任の際の説明等) 第二十九条 弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た 情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び 費用について、適切な説明をしなければならない。 2 弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請 け合い、又は保証してはならない。 3 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにも かかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはな らない。 (委任契約書の作成) 第三十条 弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関す る事項を含む委任契約書を作成しなければならない。ただし、委 任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由が 止んだ後、これを作成する。 2 前項の規定にかかわらず、受任する事件が、法律相談、簡易な 書面の作成又は顧問契約その他継続的な契約に基づくものである ときその他合理的な理由があるときは、委任契約書の作成を要し ない。 (不当な事件の受任) 第三十一条 弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに 不当な事件を受任してはならない。 (不利益事項の説明) 第三十二条 弁護士は、同一の事件について複数の依頼者があって その相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、事件を受 任するに当たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の 不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない。 (法律扶助制度等の説明) 第三十三条 弁護士は、依頼者に対し、事案に応じ、法律扶助制度、 訴訟救助制度その他の資力の乏しい者の権利保護のための制度を 説明し、裁判を受ける権利が保障されるように努める。 (受任の諾否の通知) 第三十四条 弁護士は、事件の依頼があったときは、速やかに、そ の諾否を依頼者に通知しなければならない。 第四節 事件の処理における規律 (事件の処理) 第三十五条 弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、 遅滞なく処理しなければならない。 (事件処理の報告及び協議) 第三十六条 弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過 及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しな がら事件の処理を進めなければならない。 (法令等の調査) 第三十七条 弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を 怠ってはならない。 2 弁護士は、事件の処理に当たり、必要かつ可能な事実関係の調 査を行うように努める。 (預り金の保管) 第三十八条 弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関 係人から金員を預かったときは、自己の金員と区別し、預り金で あることを明確にする方法で保管し、その状況を記録しなければ ならない。 (預り品の保管) 第三十九条 弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関 係人から書類その他の物品を預かったときは、善良な管理者の注 意をもって保管しなければならない。 (他の弁護士の参加) 第四十条 弁護士は、受任している事件について、依頼者が他の弁 護士又は弁護士法人に依頼をしようとするときは、正当な理由な く、これを妨げてはならない。 (受任弁護士間の意見不一致) 第四十一条 弁護士は、同一の事件を受任している他の弁護士又は 弁護士法人との間に事件の処理について意見が一致せず、これに より、依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対 し、その事情を説明しなければならない。 (受任後の利害対立) 第四十二条 弁護士は、複数の依頼者があって、その相互間に利害 の対立が生じるおそれのある事件を受任した後、依頼者相互間に 現実に利害の対立が生じたときは、依頼者それぞれに対し、速や かに、その事情を告げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置 をとらなければならない。 (信頼関係の喪失) 第四十三条 弁護士は、受任した事件について、依頼者との間に信 頼関係が失われ、かつ、その回復が困難なときは、その旨を説明 し、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければならな い。 第五節 事件の終了時における規律 (処理結果の説明) 第四十四条 弁護士は、委任の終了に当たり、事件処理の状況又は その結果に関し、必要に応じ法的助言を付して、依頼者に説明し なければならない。 (預り金等の返還) 第四十五条 弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金 銭を清算したうえ、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければ ならない。 第四章 刑事弁護における規律 (刑事弁護の心構え) 第四十六条 弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されてい ることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁 護活動に努める。 (接見の確保と身体拘束からの解放) 第四十七条 弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人 - 8 - 弁護士職務基本規程(平成十六年十一月十日会規第七十号) 目次 第一章 基本倫理(第一条ー第八条) 第二章 一般規律(第九条ー第十九条) 第三章 依頼者との関係における規律 第一節 通則(第二十条ー第二十六条) 第二節 職務を行い得ない事件の規律(第二十七条・第二十八 条) 第三節 事件の受任時における規律(第二十九条ー第三十四条) 第四節 事件の処理における規律(第三十五条ー第四十三条) 第五節 事件の終了時における規律(第四十四条・第四十五条) 第四章 刑事弁護における規律(第四十六条―第四十九条) 第五章 組織内弁護士における規律(第五十条・第五十一条) 第六章 事件の相手方との関係における規律(第五十二条ー第五 十四条) 第七章 共同事務所における規律(第五十五条―第六十条) 第八章 弁護士法人における規律(第六十一条―第六十九条) 第九章 他の弁護士との関係における規律(第七十条ー第七十三 条) 第十章 裁判の関係における規律(第七十四条―第七十七条) 第十一章 弁護士会との関係における規律(第七十八条・第七十 九条) 第十二章 官公署との関係における規律(第八十条・第八十一条) 第十三章 解釈適用指針(第八十二条) 附則 弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする。 その使命達成のために、弁護士には職務の自由と独立が要請され、 高度の自治が保障されている。 弁護士は、その使命を自覚し、自らの行動を規律する社会的責任 を負う。 よって、ここに弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかに するため、弁護士職務基本規程を制定する。 第一章 基本倫理 (使命の自覚) 第一条 弁護士は、その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現 にあることを自覚し、その使命の達成に努める。 (自由と独立) 第二条 弁護士は、職務の自由と独立を重んじる。 (弁護士自治) 第三条 弁護士は、弁護士自治の意義を自覚し、その維持発展に努 める。 (司法独立の擁護) 第四条 弁護士は、司法の独立を擁護し、司法制度の健全な発展に 寄与するように努める。 (信義誠実) 第五条 弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職 務を行うものとする。 (名誉と信用) 第六条 弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔 を保持し、常に品位を高めるように努める。 (研鑽) 第七条 弁護士は、教養を深め、法令及び法律事務に精通するため、 研鑽に努める。 (公益活動の実践) 第八条 弁護士は、その使命にふさわしい公益活動に参加し、実践 するように努める。 第二章 一般規律 (広告及び宣伝) 第九条 弁護士は、広告又は宣伝をするときは、虚偽又は誤導にわ たる情報を提供してはならない。 2 弁護士は、品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない。 (依頼の勧誘等) 第十条 弁護士は、不当な目的のため、又は品位を損なう方法によ り、事件の依頼を勧誘し、又は事件を誘発してはならない。 (非弁護士との提携) 第十一条 弁護士は、弁護士法第七十二条から第七十四条までの規 定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当 な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、 又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。 (報酬分配の制限) 第十二条 弁護士は、その職務に関する報酬を弁護士又は弁護士法 人でない者との間で分配してはならない。ただし、法令又は本会 若しくは所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合その 他正当な理由がある場合は、この限りでない。 (依頼者紹介の対価) 第十三条 弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その 他の対価を支払ってはならない。 2 弁護士は、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価 を受け取ってはならない。 (違法行為の助長) 第十四条 弁護士は、詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な 行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。 (品位を損なう事業への参加) 第十五条 弁護士は、公序良俗に反する事業その他品位を損なう事 業を営み、若しくはこれに加わり、又はこれらの事業に自己の名 義を利用させてはならない。 (営利業務従事における品位保持) 第十六条 弁護士は、自ら営利を目的とする業務を営むとき、又は 営利を目的とする業務を営む者の取締役、執行役その他業務を執 行する役員若しくは使用人となったときは、営利を求めることに とらわれて、品位を損なう行為をしてはならない。 (係争目的物の譲受け) 第十七条 弁護士は、係争の目的物を譲り受けてはならない。 (事件記録の保管等) 第十八条 弁護士は、事件記録を保管又は廃棄するに際しては、秘 密及びプライバシーに関する情報が漏れないように注意しなけれ ばならない。 (事務職員等の指導監督) 第十九条 弁護士は、事務職員、司法修習生その他の自らの職務に 関与させた者が、その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に 及び、又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし、 若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければな らない。 第三章 依頼者との関係における規律 第一節 通則 (依頼者との関係における自由と独立) 第二十条 弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立 の立場を保持するように努める。 (正当な利益の実現) 第二十一条 弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益 を実現するように努める。 (依頼者の意思の尊重) 第二十二条 弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重し て職務を行うものとする。 2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に 表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に 努める。 (秘密の保持) 第二十三条 弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知 り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。 (弁護士報酬) 第二十四条 弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力そ の他の事情に照らして、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなけ ればならない。 - 9 - [刑 事] 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事 1 例】 V(男性,28歳)は,平成24年4月2日午前11時頃,H県I市内のTマンション30 4号室のV宅に1人でいた際,インターホンを通じて宅配便荷物を届けに来た旨を言われたこ とから,自ら玄関ドアを開けたところ,@男(以下「犯人」という。)に,突然,右腕をつか まれた。そして,Vは,犯人から刃物を突き付けられながら,「金はどこだ。言わないと殺す ぞ。 」と言われたので恐ろしくなり, 「居間のテーブルに財布があります。」と答えた。すると, 犯人は,着用していたジャンパーの右ポケットから,ひもを取り出し,これでVの手首,足首 を縛った上,さらにジャンパーの左ポケットからガムテープを取り出して,これをVの口を塞 ぐようにして巻き,Vを玄関の上がり口に放置した。その後,Vが犯人の様子を観察している と,犯人は居間に行き,テーブルの上に財布があるのを確認するなどした後,最終的に,Vの 財布を右手に持って玄関から出て行った。 同日午前11時30分頃,Vの妻Wが外出先から帰宅し,縛られたVを発見してひもやガム テープを外した。Vは,すぐに居間などの犯人が出入りした部屋に行き,被害の有無を確認し たところ,タンスを開けられるなど金品を物色された跡があったものの,財産的被害について は,居間のテーブルにあった財布1個を奪われただけであることを確認した。その上で,Vは, 110番通報をし,強盗の被害に遭ったことを訴えるとともに,財布に入っていたクレジット カードを利用できないようにするために,発行会社に連絡した。 2 同日午前11時45分頃,I警察署の司法警察員Kら司法警察職員4名はV宅に臨場し,外 されたガムテープとひもを領置した後,玄関の上がり口にレシートが1枚落ちているのを発見 した。このレシートは,同日午前10時45分にTマンションから約200メートル離れたコ ンビニエンスストアZにおいて,ガムテープとひもを購入したことを示すものであった。この レシートについて,Vは,「私が受け取ったものではない。今日は,被害に遭うまでの間,自 宅に誰も入っていないので,犯人が落とした物だと思う。」旨説明し,Wも,「私が受け取った ものではない。」旨説明した。これを受けて,司法警察員Kは,このレシートを遺留物として 領置した。なお,臨場した司法警察職員4名の中に,前記Zを利用したことがある者はいなか った。 また,臨場した司法警察職員の一部が鑑識作業に従事し,外側の玄関ドアノブから2種類の 指紋を採取したが,物色されたタンスからは指紋を採取できなかった。 さらに,Vは,司法警察員Kに対し,被害状況について,前記の状況や財布に現金2万円, V名義のクレジットカード1枚が入っていたことなどを供述したが,犯人については,「会っ たことも見たこともない男である。身長約180センチメートル,がっちりとした体格,20 歳代くらい,緑色のジャンパーとサングラスを着用していたことくらいしか分からない。手袋 をはめていたかどうかも覚えていない。」旨を供述した。 3 同日午後3時頃,赤色のジャンパーを着用していた甲が,H県I市内所在の家電量販店Sの 電気製品売場において,V名義のクレジットカードを使用してパソコンを購入しようとした。 しかし,店員は,V名義のクレジットカードの利用が停止されていることに気付き,警察に通 報するとともに,何かと理由を付けて甲を店内に引き止めていた。その後,司法警察員Kが同 売場に到着し,甲にVかどうかを確認したところ,「Vではなく,甲である。」と答えた。しか し,甲は,同クレジットカードを所持していた理由については,黙秘した。そこで,司法警察 員Kは,甲を詐欺未遂により緊急逮捕した。そして,この際,司法警察員Kは,同クレジット - 10 - カードを差し押さえた。 甲は,I警察署に引致された後,「宅配便荷物を取り扱う会社Uに配送員として勤務してい る。ひったくりによる窃盗の前科が2犯ある。」などと自らの身上関係については供述し,供 述調書の作成にも応じるものの,その他については,一切黙秘した。なお,甲の年齢について は,27歳であること,甲の体格については,身長182センチメートル,体重95キログラ ムであること,甲の前科については,甲の供述どおり,窃盗の前科2犯があることが判明した。 また,司法警察員Kが会社Uの担当者に甲の勤務状況について確認したところ,甲は,同年 3月31日にV宅に宅配便荷物を届けていたこと,同年4月2日は休みであったことが判明し た。そこで,司法警察員Kが,Vに対し,電話で,同年3月31日に会社Uから宅配便荷物が 届けられたか否かを確認したところ,Vは,「その日,確かに私が会社Uが取り扱う宅配便荷 物を受領した。ただ,これを届けてきた人物については,男であったことしか覚えていない。」 旨供述した。 4 同年4月2日午後6時30分頃,司法警察員Kは,部下を連れて甲の自宅に行き,同所にお いて,捜索差押許可状に基づき,甲の妻Aを立会人として捜索差押えを実施し,財布1個,緑 色のジャンパー1着,サングラス1個,果物ナイフ2本及び包丁2本を差し押さえた。その後, Aは,同日午後8時頃からI警察署において実施された取調べにおいて,以下のとおり,供述 した。 (1) 同日午後零時頃の甲の言動について 甲は,今日の午前9時30分頃,外出した。その際,甲がどのような着衣で外出したのか 見ていないので分からない。その後,今日の午後零時頃,甲が自宅に戻り,甲の部屋に入っ て出てくると,財布を渡してきた。そのとき,甲は,赤色のジャンパーを着用していたが, サングラスは着用していなかった。私が,「どうしたの。」と聞くと,「友達にもらった。」と 言ってきた。しかし,甲に財布をあげる知人などいるはずがなく,過去にひったくりで捕ま った前科もあったので,犯罪で得たものではないかと思い,「違うでしょ。まさか,また悪 いことしていないよね。」と言った。すると,甲は,「そんなことない。ただ,お前がそのよ うに疑うなら,警察も同じように疑うかもしれない。もし,警察が訪ねてきたら,今日は朝 から午後零時まで家に俺とお前の2人でいたと言ってくれ。警察に疑われたくないからね。」 と言ってきた。その後,すぐに,甲は,財布を置いて出て行った。 (2) 差し押さえた財布1個,緑色のジャンパー1着及びサングラス1個について 財布は,甲が今日の午後零時頃,自宅に置いていったものであるが,何も入っていなかっ た。緑色のジャンパーとサングラスは,甲の部屋にあったものだが,今日,着用していたか どうかは分からない。 (3) 差し押さえた果物ナイフ2本及び包丁2本について 2本の果物ナイフのうち,1本は古くなって切れ味が悪くなったので,捨てようと思い, 新聞紙にくるんで台所に置いていた。残りの1本は,私が甲に頼んで,昨日,甲に買ってき てもらったものである。使えなくなった1本を除く,3本の刃物については,今日の午前 11時30分頃,昼食を作る際には台所にあった。いずれも,今日,甲が持ち出したことは ない。 5 司法警察員Kは,財布を強取した犯人が甲に間違いないと判断するとともに,これについて も,前記詐欺未遂と併せてH地方検察庁検察官に送致した方が良いと判断し,同月3日,H地 方裁判所裁判官から逮捕状の発付を受けた上で,甲を住居侵入・強盗の被疑事実により逮捕し た。その後,同月4日,甲は,詐欺未遂,住居侵入・強盗の送致事実によりH地方検察庁検察 官に送致された後,所要の手続を経て同日中に勾留された。 6 (1) その後,甲が被疑者として勾留されている間,以下の捜査結果が得られた。 指紋に関する捜査 - 11 - V宅で領置したレシートからは,甲の指紋が検出された。また,玄関ドアノブから採取し た2種類の指紋については,甲の指紋とWの指紋と一致することが判明した。なお,甲宅で 差し押さえた財布からは指紋が検出されなかった。 (2) Vに対する事情聴取 司法警察員KがVに,差し押さえた前記証拠物について確認したところ,Vは,クレジッ トカードについては,「私名義ですし,奪われた財布の中に入っていたものに間違いありま せん。」と供述したが,財布については,「私が奪われた財布の形,色とよく似ていますが, 私のものかはっきりしません。」と供述し,緑色のジャンパーとサングラスについては,「犯 人が着用していたものと同じものかよく分かりません。」と供述した。また,Vは,果物ナ イフ2本及び包丁2本については,「包丁2本については,明らかに今回の犯行に使用され たものではありません。形が違います。果物ナイフの2本のうち,古い方についても,明ら かに今回の犯行に使用されたものではありません。古すぎます。残りの果物ナイフ1本は, 今回の犯行に使用されたものとよく似ています。今回の犯行に使われたものであると断言は できませんが,今回の犯行に使われた可能性はあると思います。」と供述した。 さらに,Vは,司法警察員Kから透視鏡を通じて取調室の甲の容貌を見せられ,犯人と同 一か否か及び同年3月31日に宅配便荷物を届けに来た人物と同一か否かの確認を求められ たものの,「犯人はサングラスを掛けており,人相がよく分からなかったので,確認を求め られている人物が犯人と同一か分かりません。また,宅配便荷物を届けに来た人物をしっか り見ていたわけではないので,その人と確認を求められている人物が同一かも分かりませ ん。」旨供述した。 (3) コンビニエンスストアZにおける捜査 司法警察員Kが,コンビニエンスストアZの店員に対し,V宅で領置したガムテープとひ もを示すとともに,領置されたレシートが発行された経緯について確認したところ,同人は, 「レシートを発行した経緯については,全く覚えていない。示されたガムテープとひもにつ いては,当方で販売しているものと同一のものか分からないが,同じ種類のものは販売して いる。」旨供述した。 また,司法警察員Kは,同店で保管されていた防犯ビデオを確認したところ,同年4月2 日午前10時45分頃,緑色のジャンパーを着用した大柄の男がガムテープとひもを購入し ていることは確認できたものの,同人がサングラスを着用していたこともあって人相は確認 できなかった。また,甲宅で差し押さえた緑色のジャンパーも防犯ビデオに写っている緑色 のジャンパーもいずれも特徴がなく,同一のものであるとは確認できなかったことなどから, 甲と防犯ビデオに写っている男とが同一人物か否かは判然としなかった。 7 同月13日,H地方検察庁検察官Pは,甲を住居侵入・強盗の公訴事実によりH地方裁判所 に起訴し,詐欺未遂については,被害者であるS店の代表者が,実害もなく,特に処罰を求め ない旨を述べたことなどを考慮し,不起訴(起訴猶予)とした。なお,甲は,同月2日から同 月13日までの間の捜査において,供述調書の作成に応じた身上関係以外については,一切を 黙秘していた。 8 本件は公判前整理手続に付されたところ,同手続において,検察官Pは,所要の証拠調べ請 求の一つとして,Aの検察官調書につき,「犯行直後の甲の言動」を立証趣旨とする証拠調べ 請求をしたが,甲の弁護人Bはこれを不同意とした。このため,検察官PがAの証人尋問を請 求したところ,裁判所はAの証人尋問を行うことを決定した。 Aの証人尋問は同年6月5日の第1回公判期日に実施されたが,その主尋問の中で,検察官 Pが,「平成24年4月2日午後零時頃,外出していた甲が自宅に戻った際,あなたに何と言 いましたか。」と質問したのに対し,Aは,「甲は,『もし,警察が訪ねてきたら,今日は朝か ら午後零時まで家に俺とお前の2人でいたと言ってくれ。』と言ってきました。」と証言した。 - 12 - これに対し,弁護人Bは,「ただいまの証言は,伝聞証拠を含むものであるから,排除された い。」旨述べて異議を申し立てた。これに対する意見を裁判所から聴かれた検察官Pは,異議 に理由がない旨を陳述した。これを受けて,A裁判所は,この異議の申立てについて決定した [決定]。 甲に対する審理は,同年6月8日に結審したが,甲は,終始一貫して黙秘していた。 〔設問1〕 【事例】の事実を前提として,甲が下線部@の犯人であると認定できるか否かについて,具体 的な事実を摘示しつつ論じなさい。 〔設問2〕 下線部Aの[決定]の結論及びその理由について,条文を挙げつつ論じなさい。 - 13 -