論文式試験問題集 [法律実務基礎科目(民事・刑事)] - 1 - [民 事](〔設問1〕から〔設問5〕までの配点の割合は,12:5:8:17:8) 司法試験予備試験用法文及び本問末尾添付の資料を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。 〔設問1〕 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。 【Xの相談内容】 「私は,平成17年12月1日から「マンション甲」の301号室(以下「本件建物」といい ます。)を所有していたAから,平成24年9月3日,本件建物を代金500万円で買い受け(以 下「本件売買契約」といいます。),同日,Aに代金500万円を支払い,本件建物の所有権移転 登記を具備しました。 本件建物には現在Yが居住していますが,Aの話によれば,Yが本件建物に居住するようにな った経緯は次のとおりです。 Aは,平成23年4月1日,Bに対し,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円と する賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」といいます。)を締結し,これに基づき,本件建物を 引き渡しました。ところが,Bは,平成24年4月2日,Bの息子であるYに対し,Aの承諾を 得ずに,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1か月5万円とする賃貸借契約(以下「本件転貸 借契約」といいます。)を締結し,これに基づき,本件建物を引き渡しました。こうして,Yが 本件建物に居住するようになりました。 そこで,Aは,同年7月16日,Bに対し,Aに無断で本件転貸借契約を締結したことを理由 に,本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をし,数日後,Yに対し,本件建物の明渡しを求め ました。しかし,Yは,本件建物の明渡しを拒否し,本件建物に居住し続けています。 このような次第ですので,私は,Yに対し,本件建物の明渡しを求めます。」 弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,所有権に基づく返 還請求権としての建物明渡請求権を訴訟物として,本件建物の明渡しを求める訴えを提起した。そ して,弁護士Pは,その訴状において,請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)と して,次の各事実を主張した(なお,以下では,これらの事実が請求を理由づける事実となること を前提に考えてよい。)。 @ Aは,平成23年4月1日当時,本件建物を所有していたところ,Xに対し,平成24年9 月3日,本件建物を代金500万円で売ったとの事実 A Yは,本件建物を占有しているとの事実 上記各事実が記載された訴状の副本を受け取ったYは,弁護士Qに相談をした。Yの相談内容は 次のとおりである。 【Yの相談内容】 「Aが平成23年4月1日当時本件建物を所有していたこと,AがXに対して平成24年9月 3日に本件建物を代金500万円で売ったことは,Xの主張するとおりです。 しかし,Aは,私の父であるBとの間で,平成23年4月1日,本件建物を,賃貸期間を定め ずに賃料1か月5万円で賃貸し(本件賃貸借契約),同日,Bに対し,本件賃貸借契約に基づき, 本件建物を引き渡しました。そして,本件賃貸借契約を締結する際,Aは,Bに対し,本件建物 を転貸することを承諾すると約したところ(以下,この約定を「本件特約」といいます。),Bは, 本件特約に基づき,私との間で,平成24年4月2日,本件建物を,賃貸期間を定めずに賃料1 - 2 - か月5万円で賃貸し(本件転貸借契約),同日,私に対し,本件転貸借契約に基づき,本件建物 を引き渡しました。その後,私は,本件建物に居住しています。 このような次第ですので,私にはXに本件建物を明け渡す義務はないと思います。」 そこで,弁護士Qは,答弁書において,Xの主張する請求を理由づける事実を認めた上で,占有 権原の抗弁の抗弁事実として次の各事実を主張した。 B Aは,Bに対し,平成23年4月1日,本件建物を,期間の定めなく,賃料1か月5万円で 賃貸したとの事実。 C Aは,Bに対し,同日,Bの賃貸借契約に基づき,本件建物を引き渡したとの事実。 D Bは,Yに対し,平成24年4月2日,本件建物を,期間の定めなく,賃料1か月5万円で 賃貸したとの事実。 E Bは,Yに対し,同日,Dの賃貸借契約に基づき,本件建物を引き渡したとの事実。 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) 本件において上記Cの事実が占有権原の抗弁の抗弁事実として必要になる理由を説明しなさ い。 (2) 弁護士Qが主張する必要がある占有権原の抗弁の抗弁事実は,上記BからEまでの各事実だ けで足りるか。結論とその理由を説明しなさい。ただし,本設問においては,本件転貸借契約 締結の背信性の有無に関する事実を検討する必要はない。 〔設問2〕 平成24年11月1日の本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Qは,本件特約があった事 実を立証するための証拠として,次のような賃貸借契約書(斜体部分は全て手書きである。以下「本 件契約書」という。)を提出した。 賃貸借契約書 1 AはBに対し,本日から,Aが所有する「マンション甲」301号室を賃貸し,Bは これを賃借する。 2 賃料は1か月金5万円とし,Bは,毎月末日限り翌月分をAに支払うものとする。 3 本契約書に定めがない事項は,誠意をもって協議し,解決するものとする。 4 Aは,Bが上記建物を転貸することを承諾する。 以上のとおり,契約が成立したので,本書を2通作成し,AB各1通を保有する。 平成23年4月1日 A A印 賃借人 B B印 賃貸人 本件契約書について,弁護士PがXに第1回口頭弁論期日の前に確認したところ,Xの言い分は 次のとおりであった。 - 3 - 【Xの言い分】 「Aに本件契約書を見せたところ,Aは次のとおり述べていました。 『本件契約書末尾の私の署名押印は,私がしたものです。しかし,本件契約書に記載されてい る本件特約は,私が記載したものではありません。本件特約は,B又はYが,後で書き加えたも のだと思います。』」 そこで,弁護士Pは,第1回口頭弁論期日において,本件契約書の成立の真正を否認したが,そ れに加え,本件特約がなかった事実を立証するための証拠の申出をすることを考えている。次回期 日までに,弁護士Pが申出を検討すべき証拠には,どのようなものが考えられるか。その内容を簡 潔に説明しなさい。なお,本設問に解答するに当たっては,次の〔設問3〕のFの事実を前提にす ること。 〔設問3〕 本件の第1回口頭弁論期日の1週間後,弁護士Qは,Yから次の事実を聞かされた。 F 本件の第1回口頭弁論期日の翌日にBが死亡し,Yの母も半年前に死亡しており,Bの相続 人は息子のYだけであるとの事実 これを前提に,次の各問いに答えなさい。 (1) 上記Fの事実を踏まえると,弁護士Qが主張すべき占有権原の抗弁の内容はどのようなもの になるか説明しなさい。なお,当該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。 (2) 弁護士Pは,(1)の占有権原の抗弁に対して,どのような再抗弁を主張することになるか。そ の再抗弁の内容を端的に記載しなさい。なお,当該再抗弁を構成する具体的事実を記載する必 要はない。 〔設問4〕 本件においては,〔設問3〕の(1)の占有権原の抗弁及び(2)の再抗弁がいずれも適切に主張され るとともに,〔設問1〕の@からEまでの各事実及び〔設問3〕のFの事実は,全て当事者間に争 いがなかった。そして,証拠調べの結果,裁判所は,次の事実があったとの心証を形成した。 【事実】 本件建物は,乙市内に存在するマンションの一室で,間取りは1DKである。Aは,平成17 年12月1日,本件建物を当時の所有者から賃貸目的で代金600万円で買い受け,その後,第 三者に賃料1か月8万円で賃貸していたが,平成22年4月1日から本件建物は空き家になって いた。 平成23年3月,Aは,長年の友人であるBから,転勤で乙市に単身赴任することになったと の連絡を受けた。AがBに転居先を確認したところ,まだ決まっていないとのことであったため, Aは,Bに本件建物を紹介し,本件賃貸借契約が締結された。なお,賃料は,友人としてのAの 計らいで,相場より安い1か月5万円とされた。 平成24年3月,Bの長男であるY(当時25歳)が乙市内の丙会社に就職し,乙市内に居住 することになった。Yは,22歳で大学を卒業後,就職もせずに遊んでおり,平成24年3月当 時,貸金業者から約150万円の借金をしていた。そこで,Bは,Yが借金を少しでも返済しや すくするため,Aから安い賃料で借りていた本件建物をYに転貸し,自分は乙市内の別のマンシ ョンを借りて引っ越すことにした。こうして,本件転貸借契約が締結された。 本件転貸借契約後も,BはAに対し,約定どおり毎月の賃料を支払ってきたが,同年7月5日, 本件転貸借契約の締結を知ったAは,同月16日,Bに対し,本件転貸借契約を締結したことに ついて異議を述べた。これに対し,Bは,転貸借契約を締結するのに賃貸人の承諾が必要である - 4 - ことは知らなかった,しかし,賃料は自分がAにきちんと支払っており,Aに迷惑はかけていな いのだから,いいではないかと述べた。Aは,Bの開き直った態度に腹を立て,貸金業者から借 金をしているYは信用できない,Yに本件建物を無断で転貸したことを理由に本件賃貸借契約を 解除すると述べた。しかし,Bは,解除は納得できない,せっかくYが就職して真面目に生活す るようになったのに,解除は不当であると述べた。 その後,Bは,無断転貸ではなかったことにするため,本件契約書に本件特約を書き加えた。 そして,Bは,Yに対し,本件転貸借契約の締結についてはAの承諾を得ていると嘘をつき,Y は,これを信じて本件建物に居住し続けた。 この場合,裁判所は,平成24年7月16日にAがした本件賃貸借契約の解除の効力について, どのような判断をすることになると考えられるか。結論とその理由を説明しなさい。なお,上記事 実は全て当事者が口頭弁論期日において主張しているものとする。 〔設問5〕 弁護士Pは,平成15年頃から継続的にAの法律相談を受けてきた経緯があり,本件についても, Aが本件転貸借契約の締結を知った翌日の平成24年7月6日,Aから相談を受けていた。その際, 弁護士Pは,Aに対し,本件建物を売却するのであれば,無断転貸を理由に本件賃貸借契約を解除 してYから本件建物の明渡しを受けた後の方が本件建物を売却しやすいとアドバイスした。 その後,Aは,無断転貸を理由に本件賃貸借契約を解除したが,Yから本件建物の明渡しを受け る前に本件建物をXに売却した。その際,Aは,Xから,本件建物の明渡しをYに求めようと思う ので弁護士を紹介してほしいと頼まれ,本件の経緯を知っている弁護士PをXに紹介した。 弁護士Pは,Aとの関係から,Xの依頼を受けざるを得ない立場にあるが,受任するとした場合, 受任するに当たってXに何を説明すべきか(弁護士報酬及び費用は除く。)について述べなさい。 - 5 - 頼関係に基づくと認められるもの 三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件 四 社員等又は使用人である外国法事務弁護士が相手方から受任 している事件 五 社員が第二十七条、第二十八条又は第六十三条第一号若しく は第二号のいずれかの規定により職務を行い得ない事件 (同前) 第六十六条 弁護士法人は、前条に規定するもののほか、次の各号 のいずれかに該当する事件については、その業務を行ってはなら ない。ただし、第一号に掲げる事件についてその依頼者及び相手 方が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び 他の依頼者のいずれもが同意した場合並びに第三号に掲げる事件 についてその依頼者が同意した場合は、この限りでない。 一 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供 を約している者を相手方とする事件 二 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件 三 依頼者の利益とその弁護士法人の経済的利益が相反する事件 (同前ー受任後) 第六十七条 社員等は、事件を受任した後に第六十三条第三号の規 定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、依頼者 にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとら なければならない。 2 弁護士法人は、事件を受任した後に第六十五条第四号又は第五 号の規定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、 依頼者にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置 をとらなければならない。 (事件情報の記録等) 第六十八条 弁護士法人は、その業務が制限されている事件を受任 すること及びその社員等若しくは使用人である外国法事務弁護士 が職務を行い得ない事件を受任することを防止するため、その弁 護士法人、社員等及び使用人である外国法事務弁護士の取扱い事 件の依頼者、相手方及び事件名の記録その他の措置をとるように 努める。 (準用) 第六十九条 第一章から第三章まで(第十六条、第十九条、第二十 三条及び第三章中第二節を除く。 ) 、第六章及び第九章から第十二 章までの規定は弁護士法人に準用する。 第九章 他の弁護士との関係における規律 (名誉の尊重) 第七十条 弁護士は、他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護 士(以下「弁護士等」という。 )との関係において、相互に名誉 と信義を重んじる。 (弁護士に対する不利益行為) 第七十一条 弁護士は、信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れ てはならない。 (他の事件への不当介入) 第七十二条 弁護士は、他の弁護士等が受任している事件に不当に 介入してはならない。 (弁護士間の紛議) 第七十三条 弁護士は、他の弁護士等との間の紛議については、協 議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努める。 第十章 裁判の関係における規律 (裁判の公正と適正手続) 第七十四条 弁護士は、裁判の公正及び適正手続の実現に努める。 (偽証のそそのかし) 第七十五条 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又 は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。 (裁判手続の遅延) 第七十六条 弁護士は、怠慢により又は不当な目的のため、裁判手 続を遅延させてはならない。 (裁判官等との私的関係の不当利用) 第七十七条 弁護士は、その職務を行うに当たり、裁判官、検察官 その他裁判手続に関わる公職にある者との縁故その他の私的関係 があることを不当に利用してはならない。 第十一章 弁護士会との関係における規律 (弁護士法等の遵守) 第七十八条 弁護士は、弁護士法並びに本会及び所属弁護士会の会 則を遵守しなければならない。 (委嘱事項の不当拒絶) 第七十九条 弁護士は、正当な理由なく、会則の定めるところによ り、本会、所属弁護士会及び所属弁護士会が弁護士法第四十四条 の規定により設けた弁護士会連合会から委嘱された事項を行うこ とを拒絶してはならない。 第十二章 官公署との関係における規律 (委嘱事項の不当拒絶) 第八十条 弁護士は、正当な理由なく、法令により官公署から委嘱 された事項を行うことを拒絶してはならない。 (受託の制限) 第八十一条 弁護士は、法令により官公署から委嘱された事項につ いて、職務の公正を保ち得ない事由があるときは、その委嘱を受 けてはならない。 第十三章 解釈適用指針 (解釈適用指針) 第八十二条 この規程は、弁護士の職務の多様性と個別性にかんが み、その自由と独立を不当に侵すことのないよう、実質的に解釈 し適用しなければならない。第五条の解釈適用に当たって、刑事 弁護においては、被疑者及び被告人の防御権並びに弁護人の弁護 権を侵害することのないように留意しなければならない。 2 第一章並びに第二十条から第二十二条まで、第二十六条、第三 十三条、第三十七条第二項、第四十六条から第四十八条まで、第 五十条、第五十五条、第五十九条、第六十一条、第六十八条、第 七十条、第七十三条及び第七十四条の規定は、弁護士の職務の行 動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用しなければな らない。 附 則 この規程は、平成十七年四月一日から施行する。 - 6 - について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努 める。 (防御権の説明等) 第四十八条 弁護士は、被疑者及び被告人に対し、黙秘権その他の 防御権について適切な説明及び助言を行い、防御権及び弁護権に 対する違法又は不当な制限に対し、必要な対抗措置をとるように 努める。 (国選弁護における対価受領等) 第四十九条 弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名 目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対 価を受領してはならない。 2 弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し、 その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。 ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある 場合は、この限りでない。 第五章 組織内弁護士における規律 (自由と独立) 第五十条 官公署又は公私の団体(弁護士法人を除く。以下これら を合わせて「組織」という。 )において職員若しくは使用人とな り、又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士(以下「組 織内弁護士」という。 )は、弁護士の使命及び弁護士の本質であ る自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。 (違法行為に対する措置) 第五十一条 組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織 に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとし ていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又 はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対 する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとら なければならない。 第六章 事件の相手方との関係における規律 (相手方本人との直接交渉) 第五十二条 弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選 任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで 直接相手方と交渉してはならない。 (相手方からの利益の供与) 第五十三条 弁護士は、受任している事件に関し、相手方から利益 の供与若しくは供応を受け、又はこれを要求し、若しくは約束を してはならない。 (相手方に対する利益の供与) 第五十四条 弁護士は、受任している事件に関し、相手方に対し、 利益の供与若しくは供応をし、又は申込みをしてはならない。 第七章 共同事務所における規律 (遵守のための措置) 第五十五条 複数の弁護士が法律事務所(弁護士法人の法律事務所 である場合を除く。 )を共にする場合(以下この法律事務所を「共 同事務所」という。 )において、その共同事務所に所属する弁護 士(以下「所属弁護士」という。 )を監督する権限のある弁護士 は、所属弁護士がこの規程を遵守するための必要な措置をとるよ うに努める。 (秘密の保持) 第五十六条 所属弁護士は、他の所属弁護士の依頼者について執務 上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は利用してはな らない。その共同事務所の所属弁護士でなくなった後も、同様と する。 (職務を行い得ない事件) 第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった 場合を含む。 )が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務 を行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。 (同前ー受任後) 第五十八条 所属弁護士は、事件を受任した後に前条に該当する事 由があることを知ったときは、速やかに、依頼者にその事情を告 げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければなら ない。 (事件情報の記録等) 第五十九条 所属弁護士は、職務を行い得ない事件の受任を防止す るため、他の所属弁護士と共同して、取扱い事件の依頼者、相手 方及び事件名の記録その他の措置をとるように努める。 (準用) 第六十条 この章の規定は、弁護士が外国法事務弁護士と事務所を 共にする場合に準用する。この場合において、第五十五条中「複 数の弁護士が」とあるのは「弁護士及び外国法事務弁護士が」と、 「共同事務所に所属する弁護士(以下「所属弁護士」という。 ) 」 とあるのは「共同事務所に所属する外国法事務弁護士(以下「所 属外国法事務弁護士」という。 ) 」と、 「所属弁護士が」とあるの は「所属外国法事務弁護士が」と、第五十六条から第五十九条ま での規定中「他の所属弁護士」とあるのは「所属外国法事務弁護 士」と、第五十七条中「第二十七条又は第二十八条」とあるのは 「外国特別会員基本規程第三十条の二において準用する第二十七 条又は第二十八条」と読み替えるものとする。 第八章 弁護士法人における規律 (遵守のための措置) 第六十一条 弁護士法人の社員である弁護士は、その弁護士法人の 社員又は使用人である弁護士(以下「社員等」という。 )及び使 用人である外国法事務弁護士がこの規程を遵守するための必要な 措置をとるように努める。 (秘密の保持) 第六十二条 社員等は、その弁護士法人、他の社員等又は使用人で ある外国法事務弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を正 当な理由なく他に漏らし、又は利用してはならない。社員等でな くなった後も、同様とする。 (職務を行い得ない事件) 第六十三条 社員等(第一号及び第二号の場合においては、社員等 であった者を含む。 )は、次に掲げる事件については、職務を行 ってはならない。ただし、第四号に掲げる事件については、その 弁護士法人が受任している事件の依頼者の同意がある場合は、こ の限りでない。 一 社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を 受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であって、自らこ れに関与したもの 二 社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を 受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと 認められるものであって、自らこれに関与したもの 三 その弁護士法人が相手方から受任している事件 四 その弁護士法人が受任している事件(当該社員等が自ら関与 しているものに限る。 )の相手方からの依頼による他の事件 (他の社員等との関係で職務を行い得ない事件) 第六十四条 社員等は、他の社員等が第二十七条、第二十八条又は 第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を 行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。 2 社員等は、使用人である外国法事務弁護士が外国特別会員基本 規程第三十条の二において準用する第二十七条、第二十八条又は 第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を 行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。 (業務を行い得ない事件) 第六十五条 弁護士法人は、次の各号のいずれかに該当する事件に ついては、その業務を行ってはならない。ただし、第三号に規定 する事件については受任している事件の依頼者の同意がある場合 及び第五号に規定する事件についてはその職務を行い得ない社員 がその弁護士法人の社員の総数の半数未満であり、かつ、その弁 護士法人に業務の公正を保ち得る事由がある場合は、この限りで ない。 一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件 二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信 - 7 - (依頼者との金銭貸借等) 第二十五条 弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸 借をし、又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し、若しく は依頼者の債務について保証をしてはならない。 (依頼者との紛議) 第二十六条 弁護士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じな いように努め、紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で 解決するように努める。 第二節 職務を行い得ない事件の規律 (職務を行い得ない事件) 第二十七条 弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件につい ては、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に掲げる事 件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、こ の限りでない。 一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件 二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信 頼関係に基づくと認められるもの 三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件 四 公務員として職務上取り扱った事件 五 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手 続実施者として取り扱った事件 (同前) 第二十八条 弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のい ずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。 ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同 意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方 が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及 び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。 一 相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である 事件 二 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供 を約している者を相手方とする事件 三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件 四 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件 第三節 事件の受任時における規律 (受任の際の説明等) 第二十九条 弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た 情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び 費用について、適切な説明をしなければならない。 2 弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請 け合い、又は保証してはならない。 3 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにも かかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはな らない。 (委任契約書の作成) 第三十条 弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関す る事項を含む委任契約書を作成しなければならない。ただし、委 任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由が 止んだ後、これを作成する。 2 前項の規定にかかわらず、受任する事件が、法律相談、簡易な 書面の作成又は顧問契約その他継続的な契約に基づくものである ときその他合理的な理由があるときは、委任契約書の作成を要し ない。 (不当な事件の受任) 第三十一条 弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに 不当な事件を受任してはならない。 (不利益事項の説明) 第三十二条 弁護士は、同一の事件について複数の依頼者があって その相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、事件を受 任するに当たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の 不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない。 (法律扶助制度等の説明) 第三十三条 弁護士は、依頼者に対し、事案に応じ、法律扶助制度、 訴訟救助制度その他の資力の乏しい者の権利保護のための制度を 説明し、裁判を受ける権利が保障されるように努める。 (受任の諾否の通知) 第三十四条 弁護士は、事件の依頼があったときは、速やかに、そ の諾否を依頼者に通知しなければならない。 第四節 事件の処理における規律 (事件の処理) 第三十五条 弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、 遅滞なく処理しなければならない。 (事件処理の報告及び協議) 第三十六条 弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過 及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しな がら事件の処理を進めなければならない。 (法令等の調査) 第三十七条 弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を 怠ってはならない。 2 弁護士は、事件の処理に当たり、必要かつ可能な事実関係の調 査を行うように努める。 (預り金の保管) 第三十八条 弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関 係人から金員を預かったときは、自己の金員と区別し、預り金で あることを明確にする方法で保管し、その状況を記録しなければ ならない。 (預り品の保管) 第三十九条 弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関 係人から書類その他の物品を預かったときは、善良な管理者の注 意をもって保管しなければならない。 (他の弁護士の参加) 第四十条 弁護士は、受任している事件について、依頼者が他の弁 護士又は弁護士法人に依頼をしようとするときは、正当な理由な く、これを妨げてはならない。 (受任弁護士間の意見不一致) 第四十一条 弁護士は、同一の事件を受任している他の弁護士又は 弁護士法人との間に事件の処理について意見が一致せず、これに より、依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対 し、その事情を説明しなければならない。 (受任後の利害対立) 第四十二条 弁護士は、複数の依頼者があって、その相互間に利害 の対立が生じるおそれのある事件を受任した後、依頼者相互間に 現実に利害の対立が生じたときは、依頼者それぞれに対し、速や かに、その事情を告げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置 をとらなければならない。 (信頼関係の喪失) 第四十三条 弁護士は、受任した事件について、依頼者との間に信 頼関係が失われ、かつ、その回復が困難なときは、その旨を説明 し、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければならな い。 第五節 事件の終了時における規律 (処理結果の説明) 第四十四条 弁護士は、委任の終了に当たり、事件処理の状況又は その結果に関し、必要に応じ法的助言を付して、依頼者に説明し なければならない。 (預り金等の返還) 第四十五条 弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金 銭を清算したうえ、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければ ならない。 第四章 刑事弁護における規律 (刑事弁護の心構え) 第四十六条 弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されてい ることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁 護活動に努める。 (接見の確保と身体拘束からの解放) 第四十七条 弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人 - 8 - 弁護士職務基本規程(平成十六年十一月十日会規第七十号) 目次 第一章 基本倫理(第一条ー第八条) 第二章 一般規律(第九条ー第十九条) 第三章 依頼者との関係における規律 第一節 通則(第二十条ー第二十六条) 第二節 職務を行い得ない事件の規律(第二十七条・第二十八 条) 第三節 事件の受任時における規律(第二十九条ー第三十四条) 第四節 事件の処理における規律(第三十五条ー第四十三条) 第五節 事件の終了時における規律(第四十四条・第四十五条) 第四章 刑事弁護における規律(第四十六条―第四十九条) 第五章 組織内弁護士における規律(第五十条・第五十一条) 第六章 事件の相手方との関係における規律(第五十二条ー第五 十四条) 第七章 共同事務所における規律(第五十五条―第六十条) 第八章 弁護士法人における規律(第六十一条―第六十九条) 第九章 他の弁護士との関係における規律(第七十条ー第七十三 条) 第十章 裁判の関係における規律(第七十四条―第七十七条) 第十一章 弁護士会との関係における規律(第七十八条・第七十 九条) 第十二章 官公署との関係における規律(第八十条・第八十一条) 第十三章 解釈適用指針(第八十二条) 附則 弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする。 その使命達成のために、弁護士には職務の自由と独立が要請され、 高度の自治が保障されている。 弁護士は、その使命を自覚し、自らの行動を規律する社会的責任 を負う。 よって、ここに弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかに するため、弁護士職務基本規程を制定する。 第一章 基本倫理 (使命の自覚) 第一条 弁護士は、その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現 にあることを自覚し、その使命の達成に努める。 (自由と独立) 第二条 弁護士は、職務の自由と独立を重んじる。 (弁護士自治) 第三条 弁護士は、弁護士自治の意義を自覚し、その維持発展に努 める。 (司法独立の擁護) 第四条 弁護士は、司法の独立を擁護し、司法制度の健全な発展に 寄与するように努める。 (信義誠実) 第五条 弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職 務を行うものとする。 (名誉と信用) 第六条 弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔 を保持し、常に品位を高めるように努める。 (研鑽) 第七条 弁護士は、教養を深め、法令及び法律事務に精通するため、 研鑽に努める。 (公益活動の実践) 第八条 弁護士は、その使命にふさわしい公益活動に参加し、実践 するように努める。 第二章 一般規律 (広告及び宣伝) 第九条 弁護士は、広告又は宣伝をするときは、虚偽又は誤導にわ たる情報を提供してはならない。 2 弁護士は、品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない。 (依頼の勧誘等) 第十条 弁護士は、不当な目的のため、又は品位を損なう方法によ り、事件の依頼を勧誘し、又は事件を誘発してはならない。 (非弁護士との提携) 第十一条 弁護士は、弁護士法第七十二条から第七十四条までの規 定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当 な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、 又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。 (報酬分配の制限) 第十二条 弁護士は、その職務に関する報酬を弁護士又は弁護士法 人でない者との間で分配してはならない。ただし、法令又は本会 若しくは所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合その 他正当な理由がある場合は、この限りでない。 (依頼者紹介の対価) 第十三条 弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その 他の対価を支払ってはならない。 2 弁護士は、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価 を受け取ってはならない。 (違法行為の助長) 第十四条 弁護士は、詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な 行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。 (品位を損なう事業への参加) 第十五条 弁護士は、公序良俗に反する事業その他品位を損なう事 業を営み、若しくはこれに加わり、又はこれらの事業に自己の名 義を利用させてはならない。 (営利業務従事における品位保持) 第十六条 弁護士は、自ら営利を目的とする業務を営むとき、又は 営利を目的とする業務を営む者の取締役、執行役その他業務を執 行する役員若しくは使用人となったときは、営利を求めることに とらわれて、品位を損なう行為をしてはならない。 (係争目的物の譲受け) 第十七条 弁護士は、係争の目的物を譲り受けてはならない。 (事件記録の保管等) 第十八条 弁護士は、事件記録を保管又は廃棄するに際しては、秘 密及びプライバシーに関する情報が漏れないように注意しなけれ ばならない。 (事務職員等の指導監督) 第十九条 弁護士は、事務職員、司法修習生その他の自らの職務に 関与させた者が、その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に 及び、又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし、 若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければな らない。 第三章 依頼者との関係における規律 第一節 通則 (依頼者との関係における自由と独立) 第二十条 弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立 の立場を保持するように努める。 (正当な利益の実現) 第二十一条 弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益 を実現するように努める。 (依頼者の意思の尊重) 第二十二条 弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重し て職務を行うものとする。 2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に 表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に 努める。 (秘密の保持) 第二十三条 弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知 り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。 (弁護士報酬) 第二十四条 弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力そ の他の事情に照らして、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなけ ればならない。 - 9 - [刑 事] 次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。 【事 1 例】 V(男性,27歳)は,平成25年2月12日,カメラ量販店で,大手メーカーであるC社 製のデジタルカメラ(商品名「X」)を30万円で購入した。同デジタルカメラは,ヒット商 品で飛ぶように売れていたため,販売店では在庫が不足気味であり,なかなか手に入りにくい ものであった。 2 Vは,同月26日午後10時頃から,S県T市内のQマンション405号室のV方居室で, テーブルを囲んで友人のA(男性,25歳)とその友人の甲(男性,26歳)と共に酒を飲ん だが,その際,上記「X」を同人らに見せた。Vは,その後同デジタルカメラを箱に戻して同 室の机の引き出しにしまい,引き続きAや甲と酒を飲んだが,Vは途中で眠ってしまい,翌27 日午前7時頃,Vが同所で目を覚ますと,既に甲もAも帰っていた。Vは,その後外出するこ となく同室内でテレビを見るなどしていたが,同日午後1時頃,机の引き出しにしまっていた 同デジタルカメラを取り出そうとしたところ,これが収納していた箱ごと無くなっていること に気付いた。Vは,前夜V方で一緒に飲んだAや甲が何か知っているかもしれないと考え,A に電話をして同デジタルカメラのことを聞いたが,Aは, 「知らない。」と答えた。また,Vは, Aの友人である甲については連絡先を知らなかったため,Aに聞いたところ,Aは,「自分の 方から甲に聞いておく。」と答えた。 VがV方の窓や玄関ドアを確認したところ,窓は施錠されていたが,玄関ドアは閉まってい たものの施錠はされていなかった。Vは,同デジタルカメラは何者かに盗まれたと判断し,同 日午後3時頃,警察に盗難被害に遭った旨届け出た。 3 同日午後3時40分頃,通報を受けたL警察署の司法警察員Kら司法警察職員3名がV方に 臨場し,Vは上記2の被害状況を司法警察員Kらに説明した。なお,司法警察員KがVに被害 に遭ったデジタルカメラの製造番号を確認したところ,Vは,「製造番号は保証書に書いてあ ったが,それを入れた箱ごと被害に遭ったため分からない。」と答えた。 司法警察員Kらは,引き続き同室の実況見分を行った。V方居室はQマンションの4階にあ り,間取りは広さ約6畳のワンルームであり,テーブル,机及びベッドは全て一室に置かれて いた。同室の窓はベランダに面した掃き出し窓一つのみであり,同窓にはこじ開けられたよう な形跡はなく,Vに確認したところ,Vは,「窓はふだんから施錠しており,昨日の夜も施錠 していた。」と申し立てた。また,鑑識活動の結果,盗難に遭ったデジタルカメラをしまって いた机やその近くのテーブルから対照可能な指紋3個を採取した。 さらに,司法警察員KらがVと共にQマンションに設置されている防犯ビデオの画像を確認 したところ,同月26日午後9時55分にV,甲及びAの3人が連れ立って同マンション内に 入ってきた様子,同日午後11時50分にAが一人で同マンションから出て行く様子,その後 約5分遅れて甲が一人で同マンションから出て行く様子がそれぞれ撮影されていた。Aや甲が 同マンションから出て行った際の所持品の有無については,画像が不鮮明なため判然としなか った。なお,甲が一人で同マンションを出て行って以降,同月27日午前7時20分まで,同 マンションに人が出入りする状況は撮影されていなかった。また,同マンションの出入口は防 犯ビデオが設置されているエントランス1か所のみであり,それ以外の場所からは出入りでき ない構造になっていた。 司法警察員Kは,同日,盗難に遭ったデジタルカメラの商品名を基に,L警察署管内の質屋 やリサイクルショップ等に取扱いの有無を照会した。また,司法警察員Kは,A及び甲の前歴 - 10 - を確認したところ,Aには前歴はなかったが,甲には窃盗の前科前歴があることが判明した。 4 同年3月1日,L警察署に対し,T市内のリサイクルショップRから,「甲という男からC 社の『X』1台の買取りを行った。」旨の回答があった。そこで,司法警察員Kがリサイクル ショップRに赴き,同店店員Wから事情を聴取したところ,店員Wは,「一昨日の2月27日 午前10時頃,甲が来店したので応対に当たった。甲の身元は自動車運転免許証で確認した。 甲から『X』1台を箱付きで27万円で買い取った。甲には現金27万円と買取票の写しを渡 した。」旨供述した。そのときの買取票を店員Wが呈示したため,司法警察員Kがこれを確認 したところ,2月27日の日付,甲の氏名,製造番号SV10008643番の「X」1台を 買い取った旨の記載があった。司法警察員Kは甲の写真を含む男性20名の写真を貼付した写 真台帳を店員Wに示したところ,店員Wは甲の写真を選んで「その『X』を持ち込んできたの はこの男に間違いない。」と申し立てた。 司法警察員Kは,同店店長から,甲から買い取った「X」1台の任意提出を受け,L警察署 に持ち帰って調べたところ,内蔵時計は正確な時刻を示していたが,撮影した画像のデータを 保存するためのメモリーカードが同デジタルカメラには入っておらず,抜かれたままになって いた。司法警察員Kは,同デジタルカメラを鑑識係員に渡して,指紋の採取を依頼し,同デジ タルカメラの裏面から指紋1個を採取した。この指紋及び同年2月27日にV方から採取した 指紋をV及び甲の指紋と照合したところ,同デジタルカメラから採取された指紋及びV方のテ ーブルから採取された指紋1個が甲の指紋と合致し,V方の机から採取された指紋1個がVの 指紋と合致し,それ以外の指紋は甲,Vいずれの指紋とも合致しなかった。 5 司法警察員Kは,甲を尾行するなどしてその行動を確認したところ,甲が消費者金融会社O に出入りしている様子を目撃したことから,甲の借金の有無をO社に照会したところ,限度額 一杯の30万円を借り,その返済が滞っていたこと,同月27日に27万円が返済されている ことが判明した。 さらに,司法警察員Kは,同年3月4日,AをL警察署に呼び出して事情を聞いたところ, Aは以下のとおり供述した。 (1) Vは前にアルバイト先で知り合った友人で,月に1,2回は一緒に飲んだり遊んだりして いる。甲は高校時代の同級生であり,2か月くらい前に偶然再会し,それ以降,毎週のよう に一緒に遊んでいる。甲とVは直接の面識はなかったが,先月の初め頃,自分が紹介して3 人で一緒に飲んだことがあった。 (2) 今年の2月26日は,Vに誘われて甲と共にV方に行って3人で酒を飲んだ。その際,V からデジタルカメラを見せられた記憶がある。しかし,Vが先に眠ってしまい,自分も終電 があるので甲を誘って午後11時50分頃V方を出て帰った。その後,Vから「カメラが無 くなった。」と聞かされたが,自分は知らない。甲にも聞いてみたが,甲も知らないと言っ ていた。ただ,思い出してみると,あの日帰るとき,甲が「たばこを一本吸ってから帰る。」 と言うので,Vの部屋の前で甲と別れて一人で帰った。その後甲がいつ帰ったかは知らない。 6 司法警察員Kは,裁判官から甲を被疑者とする後記【被疑事実】での逮捕状の発付を得て, 同年3月5日午前8時頃,甲方に赴いた。すると,甲が自宅前で普通乗用自動車(白色ワゴン 車,登録番号「T550よ6789」)に乗り込み発進しようとするところであったことから, 司法警察員Kは甲を呼び止めて降車を促し,その場で甲を通常逮捕するとともに同車内の捜索 を行った。その際,司法警察員Kは同車内のダッシュボードからちり紙にくるまれたメモリー カード1枚を発見したので,これを押収した。なお,同車は甲が勤務するZ社所有の物であっ た。 7 その後,同日午前9時からL警察署内で行われた弁解録取手続及びその後の取調べにおいて, 甲は以下のとおり供述した。 (1) 結婚歴はなく,T市内のアパートに一人で住んでいる。兄弟はおらず,隣のU市に今年65 - 11 - 歳になる母が一人で住んでいる。高校卒業後,しばらくアルバイトで生活していたが,平成 23年8月からZ社で正社員として働くようになり,今に至っている。仕事の内容は営業回 りである。収入は手取りで月17万円くらいだが,借金が120万円ほどあり,月々3万円 を返済に回しているので生活は苦しい。警察に捕まったことがこれまで2回あり,最初は平 成19年5月,友人方で友人の財布を盗み,そのことがばれて捕まったが,弁償し謝罪して 被害届を取り下げてもらったので,処分は受けなかった。2回目は,平成22年10月に換 金目的でゲーム機やDVDを万引き窃取して捕まり,同事件で同年12月に懲役1年,3年 間執行猶予の有罪判決を受け,今も執行猶予期間中である。 (2) 今年の2月26日夜,AとV方に行った時にVからカメラを見せられた。そのカメラを盗 んだと疑われているらしいが,私はそんなことはしていない。私はその日はAと一緒に帰っ たから,Aに聞いてもらえれば自分が盗みをしていないことが分かるはずだ。 8 司法警察員Kは,甲が乗っていた自動車内から押収したメモリーカードを精査したところ, 同カードはデジタルカメラで広く使われている規格のもので「X」にも適合するものであった。 そこで,その内容を解析したところ,写真画像6枚のデータが記録されており,撮影時期はい ずれも同年2月12日から同月25日の間,撮影したデジタルカメラの機種はいずれも「X」 であることが明らかとなった。司法警察員Kは,同年3月5日午後6時頃,VをL警察署に呼 んで上記データの画像をVに示したところ,Vは,「写っている写真は全て自分が新しく買っ た『X』で撮影したものに間違いないので,そのメモリーカードは『X』と一緒に盗まれたも のに間違いない。」旨供述した。さらに,Vがその写真の一部は自分がインターネット上で公 開していると申し立てたので,司法警察員Kがインターネットで調べたところ,メモリーカー ド内の画像のうち3枚が,実際にVによって公開された画像と同一であることが判明した。 また,司法警察員Kは,同月6日午前9時頃,甲の勤務するZ社に電話をして,代表者から 同社が所有する車両の管理状況について聴取したところ,同人は, 「会社所有の車は4台あり, うち1台は私が常時使っている。残りの3台は3人の営業員に使わせているが,誰がどの車両 を使っているかは車の鍵の管理簿を付けているのでそれを見れば分かる。登録番号『T550 よ6789』のワゴン車については,今年の2月24日から甲が使っている。」旨供述した。 9 司法警察員Kは,同年3月6日午前9時30分頃から再度甲の取調べを行ったところ,甲は 以下のとおり供述した。 (1) Vのデジタルカメラは盗んでいない。 (2) 自分が今年の2月27日にリサイクルショップにデジタルカメラを持ち込んだことはある が,それは名前を言えない知り合いからもらった物だ。 (3) 車の中にあったメモリーカードのことは知らない。 (4) 自分が疑われて不愉快だからこれ以上話したくない。 10 司法警察員Kは,同年3月6日午前11時頃,後記【被疑事実】で甲をS地方検察庁検察官 に送致した。甲は,同日午後1時頃,検察官Pによる弁解録取手続において,「事件のことに ついては何も話すつもりはない。」と供述した。 11 検察官Pは,同日午後2時30分頃,S地方裁判所裁判官に対して,甲につき後記【被疑事 実】で勾留請求した。S地方裁判所裁判官Jは,同日午後4時頃,甲に対する勾留質問を行っ たところ,甲は被疑事実について「検察官に対して話したとおり,事件のことについて話すつ もりはない。」と供述した。 【被疑事実】 被疑者は,平成25年2月26日午後11時55分頃,S県T市内所在のQマンション405 号室V方において,同人が所有するデジタルカメラ1台(時価30万円相当)を窃取したもので ある。 - 12 - 〔設 問〕 上記【事例】の事実を前提として,本件勾留請求を受けた裁判官Jは,甲を勾留すべきか。関 連条文を挙げながら,上記事例に即して具体的に論じなさい。ただし,勾留請求に係る時間的制 限,逮捕前置の遵守及び先行する逮捕の適法性については論じる必要はない。 なお,甲が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由について論じるに当たっては,具体的な 事実を摘示するのみならず,上記理由の有無の判断に際してそれらの事実がどのような意味を持 つかについても説明しなさい。 - 13 -