論文式試験問題集[倒 - 1 - 産 法] [倒 産 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例について, 以下の設問に答えなさい。 【事 例】 Aは, 先物取引に失敗したことを原因として, 消費者金融からの借入れも含め約1億円の負債 を負うに至り, 債務の支払が不能となったことから, 平成24年9月14日, 破産手続開始及び 免責許可の申立てをし, 同月21日, 破産手続開始の決定を受け(以下, 同開始決定に基づく破 産手続を「本件破産手続」という。 ), 破産管財人Xが選任された。 Aの友人であるBは, 本件破産手続開始の申立て前の平成22年10月20日, Aに対し, 金 銭消費貸借契約書を作成することなく, 現金で1000万円を貸し付けた。 Bは, その当時, 自 宅において, 内縁関係にあったCと同居していたが, その後, Cとの関係が悪化したことから自 宅を出て, 本件破産手続の開始時点においては外国に長期滞在していたため, 同手続が開始され たことを知らなかった。 他方, Cは, 本件破産手続開始の通知をBの自宅において受け取ったが, 同手続が開始された事実をBに知らせることなく, 自らがAに上記1000万円を貸し付けたも のとして破産債権の届出をした。 破産管財人Xは, Cから届出のあった破産債権の存否及び額等についてAに確認をしたところ, Aは, B及びCは経済的に一体の関係にあり, いずれにしても1000万円を借り受けたことは 事実である上, Cが資金を拠出した可能性もあると考えたことから, Cによる破産債権の届出を 否定するほどのことはないと考え, 破産管財人Xに対し, Cの届出内容に間違いはないと説明し た。 破産管財人Xは, Aの預金通帳の取引履歴についても確認したところ, 平成22年10月2 0日に現金で1000万円の預入れがされたとの事実を確認することができ, Cの届け出た破産 債権の債権者がBであることを示す資料も見当たらなかった。 そこで, 破産管財人Xは, 平成24年12月10日の一般調査期日において, Cの届け出た破 産債権を認め, これに対して他の破産債権者も異議を述べなかったため, 当該破産債権は確定し た。 〔設 問〕 以下の1から3までについては, それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.上記事例において, Bは, Cの届け出た破産債権が確定した後に帰国し, 本件破産手続が係 属している事実及びAに対する上記貸付けについてCが自らの債権であるとして破産債権の届 出をした事実を知った。 Bは, Aに対して当該貸付けをしたのは自らであるとして, 最後配当 に関する除斥期間の経過前に, 裁判所に対して破産債権の届出をすることができるかについて, 論じなさい。 また, Bが当該破産債権の届出ができるとした場合, 破産管財人Xは, この届け出られた破 産債権についていかなる認否をすべきかについて, 論じなさい(なお, Bの破産債権届出の際 に上記貸付けがBによるものであることを示す証拠が裁判所に提出されたことを前提とす る。 )。 2.上記事例において, Bは, 最後配当の実施後に帰国し, Cが10%の最後配当(100万円) を受けたことを知った。 そこで, Bは, Cに対し, 不当利得返還請求権に基づき, Cが受領し た配当金100万円の返還を求める訴えを提起し, Aに対する上記貸付けをしたのは自らであ るから, Cが届け出た破産債権は, CではなくBに帰属すると主張した。 BがCに対して当該 主張をすることが許されるかについて, 論じなさい。 3.上記事例において, Aは, 本件破産手続開始の申立て前の平成24年8月初旬, Dから共同 投資のための資金として500万円を現金で預かったが, 自己の借入金の返済資金が不足した ため, Dの承諾を得ることなく, 当該預り金の全額を流用して自己の借入金の返済に充てた。 - 2 - Aとしては, 保有していた投資商品Mについて同月中旬に1200万円の償還が予定されてい たことから, その一部を流用した預り金に充てる心積りであり, そうすれば共同投資に支障が 生じることはなく, Dに損害を与えることもないと考えていた。 ところが, 投資商品Mの投資 先は, 償還期日直前に突然倒産し, Aは1200万円の償還金を受け取ることができなくなっ た。 その結果, Aは, 上記預り金を投資資金に充てることも, Dに返還することもできなくな り, Dに対してその損害を賠償すべき債務を負うこととなった。 Aは, 本件破産手続開始及び免責許可の申立てをする際, Dに迷惑をかけたくないとの思い から, Dに対する損害賠償債務については, 本件破産手続の結果にかかわらず支払おうと考え, 債権者一覧表及び債権者名簿に記載しなかった。 Dは, 本件破産手続が開始したことを知って いたが, 同手続外でAから支払を受けようと考え, Aに対する破産債権の届出をしなかった。 その後, 本件破産手続は終結し, 平成25年2月, Aに対する免責許可の決定が確定した。 Aは, 本件破産手続中に転職したこともあり, 生活は楽ではなかったものの, Dに対する上記 の思いから, 同年3月, Dとの間で, AのDに対する500万円の損害賠償債務を目的とし, 同債務を1年以内に返済することを内容とする準消費貸借契約を締結した。 Dは, 平成26年4月, Aに対し, 上記準消費貸借契約に基づく債務の履行を求めたが, A は, その当時, 新しい職場での仕事がようやく軌道に乗り始めたところであり, Dに対する上 記債務を返済すると経済的に困窮するおそれがあったことから, Dの請求に応じなかった。 Dが, Aに対し, 上記準消費貸借契約に基づき500万円の支払を求める訴えを提起し, A が同契約上の義務を争った場合, Dの請求が認められるかについて, 予想されるA及びDの主 張を踏まえて, 論じなさい。 - 3 - 〔第2問〕(配点:50) 次の事例について, 以下の設問に答えなさい。 【事 例】 A株式会社(以下「A社」という。 )は, 不動産賃貸業を営む会社であり, Bはその代表者で ある。 A社は, 平成15年, 同社の所有する敷地上に甲ビルを建築し, Cに対し, 賃貸期間を1 5年, 賃料を月額100万円, 敷金を1000万円と定め, 同ビルを貸し渡した(以下「本件賃 貸借契約」という。 )。 また, 本件賃貸借契約の締結に当たり, Cは, A社に対し, 3000万円 を貸し付け, A社は, 平成20年3月から毎月末日限り50万円ずつ分割して同債務を弁済する 旨約した。 なお, A社は, 甲ビルを建築するに当たって, D銀行から5億円を借り入れ, その際, 甲ビル及びその敷地に同行を抵当権者とする抵当権を設定し, その登記もされたが, 本件賃貸借 契約は, 上記抵当権設定登記を備える以前に締結され, Cは同ビルの引渡しも受けていた。 また, A社は, そのころ, A社の関連会社がE銀行に対して負う借入債務を連帯保証した。 A社は, 平成20年頃から, 株式取引の失敗等により経営が次第に悪化し, 平成22年12月 以降, 甲ビル及びその敷地についてD銀行による担保権実行が避けられない状況にあった。 そこで, A社は, 平成23年3月9日, 再生手続開始の申立てをし, 同日, 監督委員が選任さ れ, 同月14日, 再生手続開始の決定がされた。 同手続の開始当時の債権者は, C(Cの債権の 内訳は, 上記敷金の返還請求権が1000万円, 上記貸金の返還請求権が1200万円であり, A社は当該貸金債権について期限の利益を喪失していない。 ), D銀行及びE銀行であった。 A社は, D銀行の有する抵当権について担保権消滅の許可の申立てをすることを前提として事 業を継続するとともに, スポンサーから資金提供を受けて弁済を行う旨の再生計画案の作成を予 定し, 各債権者にその概要を説明したところ, 本件賃貸借契約の継続を希望するCは, その計画 案であれば破産手続の方が貸金債権及び敷金返還請求権の回収にとって有利な事情があると考 え, また, D銀行も破産手続の方が甲ビル及びその敷地を高額で任意売却できると見込んだこと から, 当該再生計画案に賛意を表明しなかった。 このため, 当該再生計画案が提出された場合に は, C及びD銀行がこれに反対することが予測された。 そこで, Bは, 再生手続開始の決定後, 平成23年4月15日までと定められた再生債権の届 出期間の経過前に, E銀行のA社関連会社に対する上記債権の回収可能性が極めて低いことを知 りながら, 実価を超える価額でE銀行から同債権を譲り受け, これによってA社に対する保証債 務履行請求権を取得し, 更にその一部をBの親族であり, A社の取締役であるF及びGに分割譲 渡した。 その後, B, F及びGは, A社に対して有する債権の届出をそれぞれ行い, A社は, B, C, D銀行, F及びGの届け出た債権の全額をいずれも認め, 再生債権者は届出債権について異 議を述べなかった。 最終的にA社が提出した再生計画案は, 債権者にその概要を説明したものと同様の内容であ り, 再生会社がスポンサーとなる企業から融資を受けて, 再生債権者に対し, 再生計画の認可決 定の確定後3か月以内に再生債権額の3%を一括で支払うというものであり, Cの有する敷金返 還請求権については, 民事再生法の規律に従った内容の条項が定められていた。 なお, A社の予 想清算配当率は1%未満であった。 〔設 問〕 1.Cが, 下線 を引いた部分に示されているように, 破産手続の方が貸金債権及び敷金返還 請求権の回収にとって有利な事情があると考えた理由は何か。 Cの有する上記敷金返還請求権 に関する再生計画案の条項の内容がいかなるものであったかについても検討の上, 敷金の取扱 いや相殺権に関する破産法の規律と民事再生法の規律の違いを踏まえ, 論じなさい。 なお, 本件賃貸借契約の終了後, Cが行うべき原状回復の費用としては100万円を要する 見込みであり, また, 同契約に基づく賃料の不払や遅滞がないことを前提とする。 - 4 - 2.上記事例において, A社の提出した再生計画案は, 平成23年12月5日に開催された債権 者集会において, C及びD銀行の反対にもかかわらず, 届出再生債権者の過半数であり, 議決 権総額の2分の1以上の議決権を有するB, F及びGの同意を得て可決された。 上記再生計画を裁判所が認可すべきかどうかについて, 論じなさい。 - 5 - - 6 - 論文式試験問題集[租 - 7 - 税 法] [租 税 法] 〔第1問〕(配点:50) 1 Aは, 昭和58年10月に司法試験に合格し, 司法修習生を経て, 昭和61年4月に, 不動産 業者であるBから, 甲県乙市内のビルの一階の一室を3年の期間で賃借し, Aの名前を冠した 法律事務所を開設して, 弁護士業務を始めた。 Aは, 同室を賃借するに当たり, Bに対して, 乙市の不動産取引の慣行に従い, 3か月分の家賃相当額の敷金のほか, 権利金として200万 円を支払った。 Aは, 同事務所の営業時間を平日の午前9時から午後6時までとし, 乙市を管 轄している税務署から青色申告の承認を得て, その後, 毎年, 納税申告を青色申告で行ってき た。 Aは, 事務所開設と同時に, 事務員として, 法学部を卒業したCを採用し, 裁判所等に提出 する書面のワープロによる浄書や経理等の仕事をさせた。 近隣の法律事務所の事務員への給料 は, おおむね月額15万円及び賞与年額80万円の年合計260万円であったが, Cが法学部 卒であることを考慮して, 月額20万円及び賞与年額100万円の年合計340万円を支払っ た。 Aは, 昭和62年4月頃, 司法試験受験生であったDと知り合い, 同年結婚し, 乙市内のマ ンションで同居し, 生計を一にした。 Dは, 結婚後も受験勉強を続けていたが, Aの事務所の 繁忙期やCの休暇時に, 無給で, 事務所内で, 電話応対やAが作成する書面のワープロによる 浄書等の仕事をしていたところ, 平成2年1月, Aの事務所の顧問先が増え, 依頼案件も増加 したことから, 正規の事務員としてフルタイム(午前9時から午後6時まで)で働くようにな った。 そこで, Aは, Dに対して, 毎月給料を支払うこととし, その金額として, Dの勤務時 間及び内容は, Cとは異ならなかったが, Dが妻であることから, Cの給料の1.5倍の年額 510万円を支払った。 Aは, Dをフルタイムで稼働させるに当たって, 税務署長に対し, D の氏名, 職務内容及び給与の金額等の法令が要求する事項を記載した書面を提出した。 なお, 乙市内にある法律事務所のうち, 経営者である弁護士がその妻をフルタイムの事務員として雇 っている事務所は7事務所あり, 支払っている給料の年額の最低額は300万円, 最高額は4 50万円であり, 7事務所平均では400万円であった。 もっとも, 妻が司法試験受験生であ る弁護士はいなかった。 Dは, 平成4年10月に司法試験に合格し, 司法修習生を経て, 平成7年4月に乙市内のビ ルの一室を借りて, Dの名前を冠した法律事務所を開設し, Aと同じ弁護士会に所属して弁護 士業務を始めた。 AとDの両事務所の経費は別であり, それぞれの事務所において記帳がなさ れ, Dも税務署から青色申告の承認を得て, その後, 毎年, 納税申告を青色申告で行った。 も っとも, Aは, Dが弁護士登録した直後から, Dに対して, Aが行っていた弁護士業務の一部 を依頼し, その対価として, 毎年定額の報酬をDに支払った。 その金額は, Dが営む弁護士業 務の総収入金額のうち3分の1程度を占めていた。 2 Aは, Bに対して, 事務所の賃貸借期間満了の都度, 更新料を支払うとともに賃料を増額して, 契約を継続してきた。 その後, Bは, 平成24年1月, 同業者であるEに対して, Aの事務所 (以下「旧事務所」という。 )が入居していたビルを売却しようと考えたが, Eから, Aが旧事 務所を明け渡さなければ買うことはできない旨言われたため, Aに対して, 旧事務所の明渡し を求めた。 Aは, 移転先としては乙市に所在する地方裁判所の近くにあるビルが望ましく, 旧事務所と 同様にビルの一階を借りるとすれば, 権利金として300万円を要するだけでなく, 新賃料は 旧事務所の賃料より高額となる可能性があり, さらに, 引越費用, 電話工事等の内装工事費用 の支払が必要となると考えた。 そこで, Aは, Bとの間で, 事務所明渡しに当たって必要とな る支出の保証を求めて交渉し, それと並行して, 移転先のビルを探した結果, 不動産業者Fが - 8 - 所有する地方裁判所前新築ビル一階の一室(以下「新事務所」という。 )を借りることとなった。 そして, AとBは, 同年4月10日, 旧事務所の明渡しに関して, 以下の事項を合意し, A は, その合意に従って, 旧事務所を明け渡した。 AとBとの賃貸借契約は, 平成24年4月30日限りで終了する。 Bは, 同日, Aに対して, Aが賃借権を放棄する代償として300万円を支払い, 旧事務所の明渡しを受けるものとす る。 Bは, Aに対して, 旧事務所からの引越費用及び新事務所の電話工事等の内装工事費用の一 部補填として, 旧事務所明渡し時に400万円を支払う。 以上の事案について, 以下の設問に答えなさい。 〔設 1 問〕 Dが司法試験に合格する前のA法律事務所で事務員としてフルタイムで勤務していた際に, A がDに支払った給料は, Aの所得の金額の計算上, どのように扱われるか, 関係する所得税法の 規定の趣旨に言及しつつ, その金額が相当であったかも含めて検討せよ。 2 Dが弁護士となった後に, AがDに支払った報酬は, Aの所得の金額の計算上, どのように扱 われるか, 異なる見解にも言及しつつ自説を述べよ。 3 AがBから支払を受けた問題文2及びの金銭は, Aの所得の金額の計算上, それぞれどの ように扱われるか, 異なる見解にも言及しつつ自説を述べよ。 - 9 - 〔第2問〕(配点:50) A(居住者)は, 住所地の市内に甲, 乙及び丙の3棟の建物を建てることにし, 建築施工をH株 式会社(以下「H社」という。 )に請け負わせた。 3棟はいずれも昭和49年中に竣工した。 Aは 甲を自身及び家族の住居として使用し, 乙を自身が営む小売業の店舗の1つとして使用してきたが, 丙は竣工の直後, 自身が代表取締役社長を務めるB株式会社(暦年を事業年度とする内国法人。 以 下「B社」という。 )に売却し, B社は丙を本店の建物として使用してきた。 Aは, 平成24年に, 甲にはまだ十分に資産価値があったものの手狭になったことから, 甲を建 て替えることにし, P社に解体工事を請け負わせた。 P社は, 解体工事の過程で, 甲の建築部材の 一部にアスベストと思われる物質が使用されていることが判明したため, Q社にアスベストの使用 の有無に関する事前調査を実施させたところ, アスベストの使用が確認されたので, Q社にアスベ スト除去作業をも実施させ, Aから解体費用の一部として当該事前調査及び除去作業に要した費用 (以下「甲費用」という。 )の支払を受けた。 Aは, 甲, 乙及び丙の建築に当たりH社に対し, アスベストの使用の可否に関する指示を全くし ていなかったことから, H社に乙及び丙に関するアスベストの使用の有無を照会したところ, 「弊 社では, 昭和50年4月1日から開始した事業年度以降はアスベストは全面的に使用しておりませ んが, それ以前は建築施工を請け負った建物の全てにアスベストを使用しておりましたので, 御照 会のありました乙及び丙にもアスベストが使用されております。 」との回答があった。 Aは, この 回答を受けて両建物の扱いについて検討したが, 両建物はまだ十分に使用可能であり減価償却に係 る未償却残高も少なくなかったので, あれこれ迷った末に, 乙については, 同店舗での売上げがず っと不振であったことや乙の敷地は更地にした方が高く売却することができると前々から聞いてい たことから, 乙を取り壊した上で, その敷地を更地にして売却することにし, 他方, 丙については, B社の取締役会に諮ることにした。 B社の取締役会では, 「当社の業績が好調な今のうちに建て替 えておくべきだ。 」との意見が多数を占めたため, 丙は建て替えられることになった。 乙及び丙についても解体工事はP社が請け負ったが, P社は, アスベスト除去作業をQ社に実施 させ, 平成24年末に, A及びB社からそれぞれ解体費用の一部として当該除去作業に要した費用 (以下「乙費用」, 「丙費用」という。 )の支払を受けた。 乙の解体工事は乙費用の支払の10日前 に完了したが, 床面積が乙の10倍ほどあった丙については, Q社によるアスベスト除去作業は丙 費用の支払の10日前に完了したものの, 解体工事は平成25年3月末までかかった。 P社は, そ の翌月, A及びB社から解体費用の残額の支払を受けた。 Aは, 乙の敷地であった土地を, 乙の取壊しの前よりもかなり高い額で売却する契約を, 乙の解 体工事完了の翌日に締結することができ, 平成24年中に当該土地の引渡しを行い, その売却代金 を小売業の借入金の返済に充てた。 アスベストは, 甲, 乙及び丙の建築当時は, 法的規制の対象とはされておらず, これを建築部材 として使用することは何ら違法ではなく一般に行われていたが, その後アスベストに対する法的規 制が段階的に強化され, 平成16年には製造, 使用等が法令上原則的に禁止され, 平成17年には, 建築物等の解体等の作業を行う事業者に対して, 作業員の健康被害を防ぐために、 アスベストの使 用の有無に関する事前調査, アスベストが使用された建築物等の解体等の作業を行う場合における アスベストの除去等の作業などが, 法令上義務付けられた。 以上の事案について, 以下の設問に答えなさい。 〔設 1 問〕 Aは甲費用について雑損控除の適用を受けることができるか。 雑損控除制度の趣旨に言及しつ つ, 検討しなさい。 2 乙費用は, Aに対する所得税の課税上, どのように取り扱われるか。 - 10 - 3 丙費用は, B社に対する法人税の課税上, どのように取り扱われるか。 (参照条文)所得税法施行令 (災害の範囲) 第9条 法第2条第1項第27号(災害の意義)に規定する政令で定める災害は, 冷害, 雪害, 干害, 落雷, 噴火その他の自然現象の異変による災害及び鉱害, 火薬類の爆発その他の人為による異常な 災害並びに害虫, 害獣その他の生物による異常な災害とする。 (雑損控除の対象となる雑損失の範囲等) 第206条 法第72条第1項(雑損控除)に規定する政令で定めるやむを得ない支出は, 次に掲げ る支出とする。 一 災害により法第72条第1項に規定する資産(以下この項において「住宅家財等」という。 ) が滅失し, 損壊し又はその価値が減少したことによる当該住宅家財等の取壊し又は除去のための 支出その他の付随する支出 二 災害により住宅家財等が損壊し又はその価値が減少した場合その他災害により当該住宅家財等 を使用することが困難となつた場合において, その災害のやんだ日の翌日から1年を経過した日 (大規模な災害の場合その他やむを得ない事情がある場合には, 3年を経過した日)の前日まで にした次に掲げる支出その他これらに類する支出 イ 災害により生じた土砂その他の障害物を除去するための支出 ロ 当該住宅家財等の原状回復のための支出(当該災害により生じた当該住宅家財等の第3項に 規定する損失の金額に相当する部分の支出を除く。 第4号において同じ。 ) ハ 三 当該住宅家財等の損壊又はその価値の減少を防止するための支出 災害により住宅家財等につき現に被害が生じ, 又はまさに被害が生ずるおそれがあると見込ま れる場合において, 当該住宅家財等に係る被害の拡大又は発生を防止するため緊急に必要な措置 を講ずるための支出 四 2 盗難又は横領による損失が生じた住宅家財等の原状回復のための支出その他これに類する支出 法第72条第1項第1号に規定する政令で定める金額は, その年においてした前項第1号から第 3号までに掲げる支出の金額(保険金, 損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる 部分の金額を除く。 )とする。 3 法第72条第1項の規定を適用する場合には, 同項に規定する資産について受けた損失の金額は, 当該損失を生じた時の直前におけるその資産の価額を基礎として計算するものとする。 - 11 - - 12 - 論文式試験問題集[経 - 13 - 済 法] [経 済 法] 〔第1問〕(配点:50) A社は, 消費財甲製品のメーカーである。 甲製品の用途には, 乙製品を用いることもできるが, 乙製品は甲製品に比べて品質が大きく劣る ことから, 甲製品の代わりに乙製品が用いられることはほとんどない。 甲製品のメーカーは, 日本 国内には, A社のほか3社存在している。 甲製品は, 外国でも製造・販売されているが, 外国製の 甲製品は日本へほとんど輸入されていない。 日本国内では, 甲製品の最終利用者には大口の利用者と小口の利用者とが存在するが, 大口利用 者向けと小口利用者向けとでは, 甲製品の取引数量や取引価格などに大きな差が存在している。 日 本における甲製品の販売全体に占める割合では, 数量, 金額とも大口利用者向けが圧倒的割合を占 めている。 甲製品は, 大口利用者向けには, 甲製品のメーカーが大口利用者向け販売業者に対して販売し, 大口利用者向け販売業者が大口利用者に対して販売している。 小口利用者向けには, 甲製品のメー カーがホームセンター等の量販店に対して甲製品を販売し, 量販店がその甲製品を小口利用者に対 して販売している。 甲製品を小口利用者向けに販売するほとんどの量販店では, A社を含め全ての メーカーの甲製品が販売されている。 大口利用者向け販売業者の中には, 自らの判断でA社の甲製 品のみを取り扱う販売業者も存在するが, 多くの大口利用者向け販売業者は複数のメーカーの甲製 品を取り扱っている。 A社の甲製品は, 特に大口利用者の間で広く認知され, 強いブランド力を有 しており, 大口利用者向け販売業者においては, 甲製品の品揃えの中にA社の甲製品を相当割合確 保しておくことが重要となっている。 国内の甲製品の販売シェアは, 甲製品全体, 大口利用者向け, 小口利用者向けのいずれにおいて も, 長期にわたり変化がなく, A社は, 1位でおおむね70パーセントのシェアを占め, 高水準の 価格を維持してきた。 甲製品の国内需要は, 長期にわたり低迷していたが, 一昨年の終わり頃以降, 経済をめぐる大き な環境の変化に伴い, その需要が急速に高まってきたことから, これまで甲製品を製造・販売した ことのない複数のメーカーが, 国内で新規に甲製品を製造・販売することを計画するに至った。 ま た, 既存の甲製品のメーカーも, 従来, 需要低迷のため遊休状態であった製造設備を利用し, 甲製 品の製造を増大し始めている。 A社は, このような大きな環境の変化に直面して, 従来安定的に維 持してきた自社の甲製品の販売シェアや販売収益に大きな影響が出てくるという危機感を抱くに至 った。 また, A社は, 自社製品の販売先を確保することにより, 自社の遊休製造設備をフル稼働さ せ, 甲製品の製造コストを大幅に削減したいと考えた。 そこで, A社は, 甲製品の大口利用者向け販売業者のうち, A社以外のメーカーの甲製品も併せ 取り扱ってきた取引先販売業者の過半を占める販売業者との間において, 当該販売業者の甲製品の 購入全体に占めるA社の甲製品の割合の多寡に応じて販売価格からの割戻金を支払うこととし, そ の割合が高くなるにつれて高額の割戻金を支払い, 割合が100パーセントとなる場合には最高額 の割戻金を支払うことを約束するに至った。 また, A社は, 従来A社の甲製品のみを取り扱ってき た者との間で, 今後も継続してA社の甲製品のみを取り扱う約束を取り付け, 上記最高額の割戻金 を支払うこととした。 その後, 国内で新規に甲製品を製造・販売することを計画していたメーカーは, その計画を取り やめた。 また, A社以外の甲製品の既存メーカーでは, 取引先販売業者の数が減少し, 取引数量も 減少している。 〔設 問〕 上記のA社の行為について, 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止 - 14 - 法」という。 )上の問題点を分析して検討しなさい。 なお, 課徴金の賦課につき言及する必要はな い。 - 15 - 〔第2問〕(配点:50) X市は, X市内の道路舗装工事のうち, 特定の条件を満たしたものについて, 指名競争入札によ り発注していた。 この指名競争入札に参加できるのは, X市の資格審査に合格したA等級の建設業者(以下「A等 級業者」という。 )のみであり, A等級業者としては, AないしOの15社(以下, 併せて「15 社」という。 )のほか5社(以下「5社」という。 )が存在し, いずれも, X市又はX市に隣接する 地域に本拠を置いていた。 X市は, 工事の内容, 場所等を考慮して, 工事ごとに15社及び5社の 計20社の中から10社を指名していた。 X市は, 平成24年4月1日から平成25年3月31日までの間に, 上記の特定の条件を満たし た道路舗装工事(以下「X市発注の特定舗装工事」という。 )を50件(以下「50物件」という。 ) 発注した。 50物件のそれぞれにおいて指名された10社の中には, いずれも,15社及び5社に 属する業者が含まれていた。 X市は, X市発注の特定舗装工事において, 予定価格(注)を入札前に公表していたが, 入札に 指名した業者名は落札者との契約締結後に公表していた。 50物件中40物件(以下「40物件」という。 )において, 15社の中でX市から指名を受け た業者のうち当該工事の受注を希望する者は, 他の14社に電話をするなどして, 14社のうちど の社が相指名業者になったのか, 他に受注希望者がいるかを確認の上, 自社が当該工事の受注を希 望する旨を告げていた。 40物件のうち, 35物件(以下「35物件」という。 )については, 1 5社のうち受注希望を表明した業者が1社のみであったので, その業者が受注予定者とされた。 40物件のうち, 5物件(以下「5物件」という。 )については, 15社の中に受注希望者が複 数存在したため, 当該受注希望者間の話合いで受注予定者が決定された。 この受注希望者間の話合 いにおいては, 発注される工事の施工場所が自社に近い等の「地域性」, 過去受注した工事の継続 工事である等の「継続性」, その他の条件が考慮された。 40物件の全てにおいて, 15社の中の受注予定者は, X市が公表する予定価格を参考にして自 社の入札価格を決定した。 受注予定者は, 自社の入札価格が最低価格となるように15社の中の相 指名業者の入札すべき価格をも決定し, 当該相指名業者に対し, 入札前までに, この価格を電話等 で連絡した。 35物件のうち33物件, 5物件のうち4物件は, 受注予定者が落札したが, これら以外の3物 件については, 5社のいずれかが受注予定者より低価格で応札したため, 受注予定者は落札できな かった。 15社のうち, A, B, C, Dの4社は, 50物件をいずれも落札しなかったが, 40物 件中の複数の入札において, 15社の中の他の業者から, 指名の有無や受注希望の有無を確認され, 受注予定者から連絡を受けた価格で応札した。 50物件中, 40物件以外の10物件(以下「10物件」という。 )については, 入札前に指名 業者の確認, 受注希望の表明及び価格の連絡が行われたことは, いずれも確認されていない。 10 物件中, 15社のうちのいずれかの業者が落札した物件は7物件であった。 50物件について, 落札価格が予定価格に占める割合(以下「落札率」という。 )は, 最高が9 9パーセント, 最低が90パーセント, 平均が97パーセントで, 40物件の落札率と10物件の 落札率に顕著な差はなかった。 〔設 問〕 15社の行為について独占禁止法上の問題点を分析して検討しなさい。 なお, 課徴金の賦課につ き言及する必要はない。 (注)予定価格は, 競争入札を執行する者が, 仕様書, 設計書等に基づき入札に付する事項の総額に ついて作成するものであり, 予定価格の制限の範囲内で最低の価格による入札を行った者が落札 - 16 - 者となる。 - 17 - - 18 - 論文式試験問題集[知的財産法] - 19 - [知的財産法] 〔第1問〕(配点:50) 製薬会社甲は, 認知症に効く新薬の開発を進め, 数々の実験を重ねた結果, 製法Aによって, 認 知症治療に優れた効能を発揮する化合物αを製造することに成功した。 そこで, 甲は, 特許請求の 範囲を「化合物αを有効成分とする認知症治療剤」とする特許出願をした。 ところが, その出願前 に既に頒布されていた創薬に関する公知文献に化合物αの構造が記載されていることを理由とし て, 特許庁から拒絶理由通知が発せられたため, 甲は, 特許請求の範囲を「製法Aによって生産さ れる化合物αを有効成分とする認知症治療剤」(以下「本件発明」という。 )に補正したところ, 特 許査定がされ, 特許権の設定登録を受けた(以下, その特許権を「本件特許権」という。 )。 その後, 甲は, 医薬品を製造・販売するために必要な薬事法所定の承認を得た上で, 本件発明の実施品とし て「製法Aによって生産される化合物αを有効成分とする認知症治療カプセル」(以下「Aカプセ ル」という。 )を製造・販売している。 以上の事実関係を前提として, 以下の設問に答えよ。 なお, 薬事法固有の問題を考慮する必要は ない。 〔設 問〕 1.製薬会社乙は, 製法Aによって生産される化合物αを有効成分とする医薬品が所定の効能を 有するか疑問を抱き, これを確かめる目的で, 甲に無断で, 本件発明の技術的範囲に属する医 薬品を製造して実験をした結果, 所定の効能を有することを確認した(以下「乙行為1」とい う。 )。 そこで, 乙は, 化合物αを有効成分としつつも, 薬剤の有効成分が体内で徐々に放出される ようにして, より少ない服用回数で薬効を生ずるようにした新たな医薬品を開発するために, 甲に無断で, 本件発明の技術的範囲に属する医薬品を製造し実験を重ねた(以下「乙行為2」 という。 )。 乙は, 上記実験によっても所望の医薬品の開発に至らなかったが, 実験中, 偶然にも化合物 αを製法Bによって生産することに成功した。 そこで, 乙は, 「製法Bによって生産される化 合物αを有効成分とする認知症治療カプセル」(これを「Bカプセル」という。 )を開発し, 薬 事法所定の承認を得た上で, 甲に無断で, これを製造・販売している(以下「乙行為3」とい う。 )。 甲は, 乙に対し, 上記乙行為1ないし3は, いずれも本件特許権を侵害するものであるとし て, 乙行為3の差止め及び乙行為1ないし3に基づく損害賠償を求める訴訟を提起した。 同訴訟において, 甲及び乙は, それぞれどのような主張をすることができるか。 2.製薬会社丙は, 本件特許権の存続期間が満了した後にAカプセルと同一の製法により同一の 有効成分を有する後発医薬品(以下「Cカプセル」という。 )を製造・販売する計画を立て, Cカプセルにつき薬事法所定の承認申請を行う際に必要な資料を揃えるために, 甲に無断で, Cカプセルを実際に製造して承認申請に必要な試験を行い, その結果, Cカプセルにつき薬事 法所定の承認を得た(以下「丙行為1」という。 )。 そこで, 丙は, Cカプセルの将来の販売に備え, 化合物αを有効成分とする医薬品が今なお 市場においてどの程度の需要があるかを調査するために, Cカプセルを少量製造してサンプル として提供し, 市場調査を実施した(以下「丙行為2」という。 )。 丙は, 上記調査で満足のいく結果を得たため, 本件特許権の存続期間満了前に, Cカプセル を将来の販売に備えて大量に製造している(以下「丙行為3」という。 )。 甲は, 丙に対し, 上記丙行為1ないし3は, いずれも本件特許権を侵害するものであるとし て, 丙行為3の差止め及び丙行為1ないし3に基づく損害賠償を求める訴訟を提起した。 - 20 - 同訴訟において, 甲及び丙は, それぞれどのような主張をすることができるか。 3.製薬会社丁は, Aカプセルと同一の効能を有する錠剤の医薬品(以下「D錠」という。 )を 開発し, 薬事法所定の承認を得た上で, Aカプセルを市場において大量に購入した上, 甲に無 断で, Aカプセルから化合物αを含む薬剤を取り出し, 化合物αに化学反応を生じさせないよ うに, 上記薬剤に精製水を加えて溶かし, 化合物αを再精製し, これを固めて錠剤とし, この 錠剤に特殊な皮膜を施すことによって, D錠を製造し, これを販売している。 甲は, 丁に対し, D錠の製造・販売行為は, 本件特許権を侵害するものであるとして, D錠 の製造・販売の差止めを求める訴訟を提起した。 同訴訟において, 甲及び丁は, それぞれどのような主張をすることができるか。 - 21 - 〔第2問〕(配点:50) Aは, 見た人が住居とは思えないような, 奇抜な家に住みたいと考え, Bとの間で設計請負契約 を締結し, Bは, 同契約に基づいて, 斬新なデザインを考えつき, これを記した設計図αを作成し た。 しかしながら, 請負代金をめぐってAとBの関係がうまくいかなくなったため, 当該契約は解 除された。 その際, Aは, Bから渡された設計図αをBに返却したが, 返却前にBに無断でそのコ ピーを取っていた。 また, Bは, 設計図αに設計者としてBの氏名を記載していたが, 設計図αは AとB以外には知られていなかったため, Aは, そのコピー上のBの氏名を抹消して自分の氏名を 記載した。 その後, Aは, 複数の建築業者に対して, Aがコピーした設計図αを, 自分が作成したものと偽 って見せた。 その上で, Aは, それらの建築業者の中からCを選んでその建築を依頼し, Cは, こ れに従ってAの住居(以下「A住居」という。 )を建築した。 A住居は, そのデザインの斬新さが 評判となって, 路上から見物する人が絶えなかった。 Aは, A住居に住み始めてから数年後に別の 土地に転居しなければならなくなったため, 不動産業者を介して, これをDに売却した。 Dは, 自分の住居であるA住居が注目されることには満足していたが, その玄関が余りに派手過 ぎると感じたため, これをやや地味な印象を与えるように改築した。 以上の事実関係を前提として, 以下の設問に答えよ。 〔設 問〕 1.Bは, Aに対してどのような請求をすることができるか。 2.Bは, Dに対してどのような請求をすることができるか。 3.Eは, A住居に興味を持ち, Dに無断で写真撮影した。 そして, その写真に基づいて, A住 居のミニチュアを多数製作し, これを販売している。 Bは, Eに対して, 著作権に基づき, A住居のミニチュアの製作販売の差止めを請求するた めに, どのような主張をすることができるか。 これに対して, Eは, どのような主張をすることができるか。 - 22 - 論文式試験問題集[労 - 23 - 働 法] [労 働 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例について, 弁護士であるあなたが, X1, X2及びX3から, Y社に対し, 訴えの提起 を行いたいとの相談を受けた場合に検討すべき法律上の問題点を指摘し, それについてのあなたの 見解を述べなさい。 なお, Y社の就業規則(抜粋)は, 後記のとおりである。 【事 例】 Y社は, 自動車製造等を業とする株式会社である。 X1ら50名は, いずれも機械工としてY社に採用され, その後一貫して甲工場にあるスポー ツカー部門においてエンジンの組立て作業に従事しており, 短い者でも十数年間, 長い者は二十 数年間の経験を持つ, 熟練機械工であった。 X2及びX3の両名は, いずれも, 平成元年3月に工学修士の学位を取得し, 同年4月, Y社 にスポーツカー用エンジンの開発設計の研究者として採用され, その後一貫して同スポーツカー 部門において新型エンジンの開発設計を担当してきた。 Y社は, 自動車製造業界全体が不況にあえいでいた時期に, あえて大規模な設備投資と事業拡 大を推し進めたことが災いし, 平成24年期には累積赤字が50億円を超える事態に陥ったため, 採算のとれていない同スポーツカー部門の閉鎖を決定した。 そこで, Y社は, 平成25年6月6日, X1ら50名の熟練機械工に対し, 甲工場で生産中の 小型乗用車の塗装等他職種への異動を命じたが, X1は, 機械工としての勤務を希望し, 当該命 令に応じていない。 なお, Y社は, 当該命令を行うに当たり, X1ら50名の意向を一切聴取し なかった。 また, Y社は, 同年6月20日, X2及びX3に対し, 早期退職募集と再雇用の提案を行い, 通常の退職金に加えてその1割を増額した割増退職金の支給を提示した。 Y社が提案した再雇用 の内容は, 甲工場内の営業事務所の営業職として採用することと, エンジン開発設計の研究者の みを支給対象とする研究特別手当(月額2万円)がなくなることを除き, 従来と同様の労働条件 であった。 早期退職募集の応募期限は同年8月30日であったところ, X2は, 同日, Y社に対し, 前記 再雇用の提案の内容につき, 後に裁判で争うことを伝えた上で, 早期退職募集及び再雇用に応ず る旨を申し出たが, Y社はこれを拒否した。 また, X3は, 前記応募期限までに早期退職募集に 応募せず, Y社に対し従前の労働条件で雇用を継続するよう求めた。 そこで, Y社は, 同年10月31日付けでX2及びX3を解雇する旨の意思表示を行った。 【就業規則(抜粋)】 (人事異動) 第8条 会社は, 業務上必要がある場合には, 従業員に対し, あらかじめその意向を聴取した上で, 就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。 2 前項の場合, 従業員は正当な理由なくこれを拒むことはできない。 - 24 - 〔第2問〕(配点:50) 労働組合法における「労働者」の概念につき, 労働基準法におけるそれとの異同に言及しつつ概 説した上, 次の事例の甲が, 労働組合法における「労働者」に該当するかについて論じなさい。 なお, A社による団体交渉拒否の適法性について論じる必要はない。 【事 例】 1 A社は, コピー機等ビジネス事務設備機器の販売及び修理補修等を業とする株式会社であ る。 甲は, A社と業務委託契約を締結してビジネス事務機器の修理補修等の業務に従事する 「カスタマーサポーター」(以下「CS」という。 )であり, CSを構成員とするB労働組合 に加入している。 A社とCSは, A社が作成した「業務委託に関する覚書」と題する文書に記載した内容で 業務委託契約を締結しており, 同覚書には, A社とCSとがそれぞれ独立した事業者である ことを認識した上で契約を遂行する旨の条項がある。 A社における修理補修等の業務の大部 分は, 総勢約600名のCSによって行われている。 2 A社は, 顧客からの修理補修等の発注を修理受付センターで受け付けた後, 顧客の所在場 所を担当するCSに割り振って業務を依頼する。 CSは, 原則として, 業務日の午前8時半 から午後7時までの間にA社から発注依頼連絡を受ける。 依頼を受けたCSがこれを応諾し た場合には, 当該CSが修理補修等を遂行するが, 当該CSが依頼を断った場合には, A社 は他のCSに依頼している。 CSが応諾を拒否する割合は1%に過ぎないが, 一方, CSが 応諾を拒否した理由が, 業務の遂行とは無関係の事情によるものであったとしても, A社が それを理由に業務委託契約の債務不履行であると判断することはない。 また, CSが独自に 営業活動を行って修理補修等を行うことも認められている。 A社とCSとの間の業務委託契約は, 前記覚書によって規律され, その内容をCSの側で 変更した事例はない。 また, A社は, 全国で一定水準以上の技術による確実な事務の遂行に 資するため, CSに対し, 修理補修等の作業手順, CSとしての心構えや役割, 接客態度等 を記載した各種マニュアルを配布し, これに基づく業務の遂行を求めている。 一方, 委託さ れた業務をどの時間帯に, いかなる方法で行うかについては, CSの裁量に委ねられている。 A社は, ランキング制度を設け, 毎年1回, CSを能力, 実績及び経験を基に評価し, 5 段階ある級の昇格, 更新及び降格の判定を行っている。 また, A社は, CSを全国の担当地 域に配置して修理補修等の業務に対応させ, CSと調整しつつその業務日や休日を指定し, 日曜日や祝日についても交替で業務を担当するよう要請している。 3 CSは, 修理補修等の業務が終了した後, 顧客から代金を回収し, 週1回程度の割合でA社 に振込送金するほか, 業務日ごとに行動予定, 経過, 結果等をA社に報告している。 顧客に対する請求金額は, A社が, 商品や修理内容に従ってあらかじめ全国一律で決定す るが, CSは, 修理補修等の難易度や別のCSを補助者として使用したことなどを理由に, その裁量によって, ある程度割増しして顧客に請求することが認められている。 A社がCSに支払う業務委託手数料は, CSが顧客に請求する金額に, A社の前記ランキ ング制度における当該CSの属する級ごとに定められた一定率を乗ずる方法で支払われてい る。 過去1年間のCSの作業時間は, 1件平均約70分, 1日平均計3.7時間であり, A社 からの平均依頼件数は月113件, 平均休日取得日数は月5.8日であった。 4 B労働組合が, A社に対して, 業務委託条件を変更する場合にはB労働組合と協議すること や, 最低年収額の保障を求めて団体交渉を申し入れたところ, A社は, 甲らCSは労働組合法 上の労働者に当たらないとして団体交渉を拒否した。 - 25 - - 26 - 論文式試験問題集[環 - 27 - 境 法] [環 境 法] 〔第1問〕(配点:50) A社は, B県C村内にある自社敷地において, 水質汚濁防止法に基づき, テトラクロロエチレン を液体状態で貯蔵する地下タンク(以下「本件地下タンク」という。 )を設置しようとしている。 この場合において, 【資料】を参照しつつ, 以下の問いに答えよ。 〔設問1〕 水質汚濁防止法は, 2011年改正によって, 本件地下タンクの設置のように, 公共用水域に 排水をしない行為を規制した。 このような行為を規制することの妥当性について, 環境法の基本 的考え方を2つ挙げ, その観点から説明せよ。 〔設問2〕 A社の担当者Dは, 2013年1月9日に, 事前相談のためにB県の担当課に協議に出向いた ところ, 同課は, かねてより, E内水面漁業協同組合(以下「E組合」という。 )からの設置反 対陳情を受けていたために, Dに対して, E組合の同意書を取得の上, これを添付して届け出る ように指導した。 A社は, 何度も同意書の取得を試みたが, 成功しなかった。 同意書の取得は不可能と判断したA社は, 2013年10月9日に, B県担当課宛てに, 配達 証明付郵便で, 水質汚濁防止法上必要とされる届出書及び関係書類一式を送付し, 同郵便は, 同 月10日に配達された。 しかし, 3日後, 「水質汚濁防止法上必要とされる届出書及び関係書類 一式は配達されたが, なおE組合の同意書が添付されていない。 このため, 届出はまだ完了して いない。 同意書の取得についてさらなる努力を期待する。 」という趣旨の手紙と一緒に, 送付し たものがそのままA社に返送されてきた。 A社はどのように対応しようかと思案していたが, 結 局本件地下タンクを設置することを決意した。 ただ, A社の代表取締役Fは, 水質汚濁防止法のもとで刑事責任を問われることを懸念し, 2 013年12月1日に弁護士Gのもとを訪れ, 2014年1月以降に設置することについて意見 を求めた。 Gは, 「設置に問題はない。 」旨を述べた。 Gがこのように答えた理由について論ぜよ。 〔設問3〕 その後, 本件地下タンクは, 適法に設置された。 ところが, テトラクロロエチレンを含む水の 受入れをしている際に, A社従業員のバルブ操作のミスが原因で, 本件地下タンクから, テトラ クロロエチレンを含む水が大量にあふれ出し, 事業場の地下に浸透した。 B県の調査によって, 敷地境界において, 地下水環境基準を大幅に超過する地下水汚染が確認された。 事業場の隣地に は, 飲用井戸があり, 現在も利用されている。 B県知事は, 本件地下タンクの使用, 及び地下水 の汚染に関して, A社に対し, 水質汚濁防止法上, どのような措置を講ずることができるかを説 明せよ。 【資 料】 水質汚濁防止法施行令(昭和46年6月17日政令第188号)(抜粋) (カドミウム等の物質) 第2条 法第2条第2項第1号の政令で定める物質は, 次に掲げる物質とする。 一 カドミウム及びその化合物 二 シアン化合物 三 有機燐化合物(ジエチルパラニトロフエニルチオホスフエイト(別名パラチオン), ジメチル パラニトロフエニルチオホスフエイト(別名メチルパラチオン), ジメチルエチルメルカプトエ - 28 - チルチオホスフエイト(別名メチルジメトン)及びエチルパラニトロフエニルチオノベンゼンホ スホネイト(別名EPN)に限る。 ) 四 鉛及びその化合物 五 六価クロム化合物 六 砒素及びその化合物 七 水銀及びアルキル水銀その他の水銀化合物 八 ポリ塩化ビフェニル 九 トリクロロエチレン 十 テトラクロロエチレン 十一 ジクロロメタン 十二 四塩化炭素 十三 一・二―ジクロロエタン 十四 一・一―ジクロロエチレン 十五 一・二―ジクロロエチレン 十六 一・一・一―トリクロロエタン 十七 一・一・二―トリクロロエタン 十八 一・三―ジクロロプロペン 十九 テトラメチルチウラムジスルフイド(別名チウラム) 二十 二―クロロ―四・六―ビス(エチルアミノ)―s―トリアジン(別名シマジン) 二十一 S―四―クロロベンジル=N・N―ジエチルチオカルバマート(別名チオベンカルブ) 二十二 ベンゼン 二十三 セレン及びその化合物 二十四 ほう素及びその化合物 二十五 ふつ素及びその化合物 二十六 アンモニア, アンモニウム化合物, 亜硝酸化合物及び硝酸化合物 二十七 塩化ビニルモノマー 二十八 一・四―ジオキサン (有害物質貯蔵指定施設) 第4条の4 法第5条第3項の政令で定める指定施設は, 第2条に規定する物質を含む液状の物を貯 蔵する指定施設とする。 水質汚濁防止法施行規則(昭和46年6月19日総理府・通商産業省令第2号)(抜粋) (有害物質使用特定施設等に係る構造基準等) 第8条の2 法第12条の4の環境省令で定める基準は, 次条から第8条の7までに定めるとおりと する。 (使用の方法) 第8条の7 有害物質使用特定施設又は有害物質貯蔵指定施設の使用の方法は, 次の各号のいずれに も適合することとする。 一 次のいずれにも適合すること。 イ 有害物質を含む水の受入れ, 移替え及び分配その他の有害物質を含む水を扱う作業は, 有害 物質を含む水が飛散し, 流出し, 又は地下に浸透しない方法で行うこと。 ロ 有害物質を含む水の補給状況及び設備の作動状況の確認その他の施設の運転を適切に行うた めに必要な措置を講ずること。 ハ 有害物質を含む水が漏えいした場合には, 直ちに漏えいを防止する措置を講ずるとともに, 当該漏えいした有害物質を含む水を回収し, 再利用するか, 又は生活環境保全上支障のないよ - 29 - う適切に処理すること。 二 前号に掲げる使用の方法並びに使用の方法に関する点検の方法及び回数を定めた管理要領が明 確に定められていること。 - 30 - 〔第2問〕(配点:50) 甲県乙市は, 青い海とサンゴ礁が美しく観光業が盛んである。 乙市在住のAは, 同市においてホ テル(以下「本件ホテル」という。 )を経営し, また, 同市を訪れる観光客に対し, 業として, 体 験ダイビングや同市近海のクルージングを実施している。 本件ホテルの部屋の海側の窓から見える 景色は絶景であると評判であり, 多くの観光客をひきつけてきた。 乙市には国定公園(以下「本件 国定公園」という。 )が存在し, 同公園内には特別地域のほか, サンゴ礁が多数見られる海域に海 域公園地区の区域が存在する。 Aは乙市内での環境保護活動を行うためにNPO法人Bを設立し, Bは公園管理団体の指定を受けている。 その後, 観光業を営むCが, 本件国定公園の特別地域内に, 適法な許可を得て新たに5階建ての リゾート施設の建設工事を開始した。 甲県知事の許可に際し, 工事の施工に当たって汚濁防止膜を 設置する等の措置を講じて周辺水域に赤土を流出させないことが条件とされていた。 しかし, Cの 工事の施工は上記許可条件に反するずさんな対応にとどまり, その結果, 工事に伴う赤土の流出に よりサンゴが既に一部死滅したほか, 残るサンゴについても今後の更なる工事の進行により死滅が 懸念される状況にある。 Cの工事開始に伴い本件国定公園を訪れる観光客の減少が見られ, Aの売 上げも減少している。 また, Aは, 同施設の建設により本件ホテルの部屋の海側の窓から景色が全 く見えなくなることも心配している。 〔設問1〕 Aは, C及び甲県に対してどのような法的手段をとることが考えられるか。 〔設問2〕 本件国定公園内に風景が美しい土地を所有しているDは, 自己の土地の風景を長く保存したい と考え, NPO法人Bに相談に来た。 Dの要望に応えるために, Bは法律上のどのような制度を 活用できるか。 その制度が法律上規定されていることの意味はどこにあるか。 〔設問3〕 乙市の対岸にある甲県丙町には国立公園が存在し, その中のサンゴ礁が美しい海域は海域公園 地区に指定されているが, そこでは, 乙市とは逆に観光客が増大し, 観光船の無秩序なクルージ ング, 水上バイクの頻繁な走行, 一部のマナーの悪いダイバーの行為により, サンゴの損傷その 他野生生物への影響が問題となっている。 かかる行為を規制するために, 環境大臣は行政上の措 置を講ずることを検討している。 どのような措置が考えられるか。 制度の趣旨を踏まえて論ぜよ。 - 31 - - 32 - 論文式試験問題集[国際関係法(公法系)] - 33 - [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕(配点:50) 甲国と乙国は隣国であるが政治的に対立していた。 乙国は産油国で丙国等に原油を輸出してきた が, 乙国の港に出入りする船舶は乙国領海と甲国排他的経済水域の一部との間にあるA海峡の甲国 領海内に位置する航路を通過しなければならなかった。 後に乙国と丙国は安全保障条約を締結し, 乙国が丙国の軍隊に乙国施設・区域の使用を許可し, 丙国が乙国に武器を供与することを定めると ともに, 第5条に「各締約国は, 乙国領域における, いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和 及び安全を危うくするものと認め共通の危険に対処するように行動する」という規定を置いた。 こ れに反発した甲国政府は, 「いかなる外国の軍艦及び乙国向け武器積載船によるA海峡の甲国領海 内航路の通航も甲国の平和と安全を脅かすものであり, 甲国は, 許可なく同航路を通航するこれら の船舶に対して必要な措置を採る」との声明を発表した。 その後, 乙国では専制的なX大統領の退陣を求める全国的な民主化運動が起こったが, X大統領 が政府軍を使って容赦ない弾圧をしたために国民に多数の犠牲者が出た。 甲国に避難した乙国民主 化運動の各派指導者たちは甲国政府から会議場等の便宜提供や対立意見の調整などのあっせんを受 けて, Y連盟という反政府政治組織とその軍事部門であるZ軍の創設に合意した。 乙国に拠点を戻 したY連盟とZ軍は, X大統領政府に対する武力闘争を開始し, 乙国は内戦状態になった。 X大統 領政府と対立する甲国政府は, Y連盟に対して財政支援, 訓練及び武器供与を行った。 Z軍の作戦 行動はY連盟の政治的決定に基づきZ軍幹部が指揮しているが, 甲国政府から供与される資金, 訓 練, 武器及び情報がなければ, X大統領の政府軍と効果的にゲリラ戦を続けることはできなかった。 2013年秋, Y連盟指導部の決定に基づきZ軍幹部は乙国国営原油生産施設(以下「原油生産施 設」という。 )の破壊作戦を立案・指揮した。 同作戦は, 甲国で訓練を受けたZ軍戦闘員が甲国か ら供与された武器・装備を動員して電撃的に実行し, Z軍は原油生産施設の基幹部分を破壊した後 撤収した。 X大統領は, Y連盟及びZ軍による原油生産施設の破壊行為を甲国自身に帰属する国際 違法行為であると非難した。 Z軍が原油生産施設を破壊・撤収した1か月後, 丙国の空軍部隊は, 甲国の武器貯蔵庫, 軍事基 地, 港湾の集荷場など数か所を爆撃し, これらを破壊した。 丙国政府は国際連合安全保障理事会(以 下「国連安保理」という。 )議長に宛てた書簡で, 「第1に, 原油生産施設の破壊行為の後も, 乙国 で軍事行動を続けているY連盟及びZ軍に対して, 甲国政府は, 財政支援, 訓練及び武器供与とい う形態の援助を継続していた。 第2に, 甲国からのこれらの援助を利用して, Y連盟及びZ軍が乙 国化学工場施設に対する新たな軍事作戦を決定し, そのためにZ軍部隊が行動を開始したという情 報を乙国から入手した。 Z軍による同施設の武力攻撃は, 甲国による武力攻撃とみなし得る。 した がって丙国は, 安全保障条約第5条の義務に基づいて独自の決定により甲国に対する軍事行動を実 施した。 この行動は, 国際連合憲章第51条の集団的自衛権の行使に該当する」と述べた。 乙国内の内戦又は甲国, 乙国, 丙国間に生じた一連の事態について, 国連安保理は, 有効な行動 がとれていないものとする。 また, 甲国, 乙国及び丙国は, 全て国際連合加盟国であり, 海洋法に 関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。 )の締約国である。 以上を踏まえて, 下記の設問に答えなさい。 問1.A海峡に国連海洋法条約第45条の規定が適用されるとした場合, 「いかなる外国の軍艦及び 乙国向け武器積載船によるA海峡の甲国領海内航路の通航も甲国の平和と安全を脅かすものであ り, 甲国は, 許可なく同航路を通航するこれらの船舶に対して必要な措置を採る」という甲国政 府の声明は国際法上どのように評価できるかを論じなさい。 問2.Z軍による原油生産施設の破壊行為は, 甲国に帰属する国際違法行為だといえるか検討しなさ い。 - 34 - 問3.丙国空軍による甲国の爆撃に対して, 甲国は, 丙国政府が国連安保理議長に宛てた書簡におい て述べた主張に対して, どのような反論を行うことができるかを論じなさい。 - 35 - 〔第2問〕(配点:50) 甲国と乙国は, 共にヘーグ陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(以下「ヘーグ陸戦条約」という。 )の 当事国であり, かつ, 同条約批准後に交戦状態となった。 甲国の上級軍人Aは, 乙国との交戦中に 捕虜となり, 乙国の捕虜収容所に送られ, 過酷な強制労働等の虐待を受けた。 交戦状態の終了後, 甲国は, 事実上分裂し, それまで唯一の政府であったX政府が支配する地域 と新しく生まれたY政府が支配する地域に分裂したまま, 膠着状態が続いている。 Aは, 帰国後Y 政府の支配地域に居住している。 甲国の分裂後, しばらくの間, Y政府の支配地域には, Y政府の 要請に基づき, 隣国丙の軍隊が駐屯し, 治安と防衛を担っていた。 Y政府は, 政府樹立当時, 兵員, 治安要員共に人員数が不足し, 丙国の軍隊派遣なくしては, 単独では政権を十分に維持することが できなかった。 XY両政府とも甲国の正統政府であると主張して譲らず, 他方を否認し, 現在に至るまで, 他方 と国交を結んだ国とは外交関係を断絶するとの政策を維持している。 丙国は, 自らの軍隊をY政府の支配地域に駐屯させて治安と防衛の役割を担わせた直後, 直ちに 丙国の外交使節団をX政府の所在地から退去させるとともに, Y政府を甲国の正統政府として承認 し, Y政府の所在地に外交使節団を派遣した。 これに対してX政府は厳重な抗議を行った。 乙国は, 終戦直後から, X政府を引き続き甲国の正統政府として扱っていたが, 丙国の軍隊がY 政府支配地域から完全に撤収後, Y政府が自らの支配地域において十分に治安と防衛の役割を果た すようになってから, X政府に派遣していた外交使節団を引き揚げ, Y政府を甲国の正統政府とし て承認し, Y政府の所在地に外交使節団を派遣した。 その際, Y政府は, 甲乙両国間の戦争に起因 する賠償請求権は一切放棄することを一方的に宣言した。 上記の乙国によるY政府への政府承認切替え後, Aは, 乙国の裁判所において, ヘーグ陸戦条約 第3条(「前記規則(陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則)ノ条項ニ違反シタル交戦当事者ハ, 損害アル トキハ, 之カ賠償ノ責ヲ負フヘキモノトス。 交戦当事者ハ, 其ノ軍隊ヲ組成スル人員ノ一切ノ行為 ニ付責任ヲ負フ」)に基づき, 虐待への賠償を求めて, 乙国を提訴した。 ヘーグ陸戦条約の附属書 である陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則(以下「ヘーグ陸戦規則」という。 )は, 第2章「俘虜」を置 き, 捕虜の保護を規定しているが, 特に第4条では, 「俘虜ハ人道ヲ以テ取扱ハルヘシ」と規定し ている。 以上を踏まえて, 下記の設問に答えなさい。 問1.Aが, 乙国裁判所において賠償請求をする場合に, ヘーグ陸戦条約及びヘーグ陸戦規則は根拠 となり得るか論じなさい。 問2.Aの賠償請求に関して, 乙国は, Y政府が行った請求権放棄の一方的宣言をその反論の根拠と することができるかを論じなさい(請求権の放棄の範囲については論じなくてよい。 ) 問3.丙国のY政府承認に対して, X政府が, 引き続き甲国を代表しているとの立場から, どのよう な抗議を行い得るか, 乙国のY政府承認との比較において論じなさい。 - 36 - 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)] - 37 - [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕(配点:50) 日本の大学に留学していた甲国人男Pは日本人女Qと知り合い, 日本において婚姻を挙行した後, 直ちに甲国において婚姻生活を営み始めた。 しかし, 両者の関係は当初から必ずしも円満ではなく, 甲国における婚姻生活が5年余に及んだ時にPとQは熟談し, 婚姻関係の解消が双方にとり最善で あるとの結論に達した。 そこで, 甲国において, 下記の@からBまでの甲国の法規に従い離婚した。 なお, 法の適用に関する通則法(平成18年法律第78号)(以下「通則法」という。 )第41条 の適用はなく, 甲国においては次の法規が通用しているものとする。 @ 夫は, その意思表示により妻と離婚をすることができる。 A 妻は, 離婚を請求することができない。 B 妻の面前で夫の離婚の意思を口授された公証人は, 公正証書を作成し, その謄本を妻に与え なければならない。 C 〔設 子は, 常に父の親権に服する。 問〕 1.日本に帰国したQは, 戸籍法に従い, 甲国の公証人が作成した離婚証書の謄本を添付して日本 の戸籍管掌者に対してPとの離婚を報告する届出をした。 この謄本を見た戸籍管掌者は, 「Pと Qの離婚は夫の一方的な意思表示によって成立した離婚であり, このような離婚を認めることは 日本の公序良俗に反するから, 当該離婚は日本においては効力を有しないのではないか」との疑 念を抱いた。 PとQの離婚が日本において効力を有するか, 論じなさい。 2.他方, Pは, Qと離婚した後に再来日し日本において就労していたところ, 乙国人女Rと知り 合い, 日本の戸籍管掌者に婚姻の届出をし, 受理された。 そして, 婚姻の約1年後に両者の間に 甲国人子Cが出生した。 しかし, Cが満6歳に達した時に, Pは, 無免許で自動車を運転してい た際に交通事故を起こして被害者を死亡させてしまい, 実刑判決の確定により日本において服役 することになった。 未成年者Cは, 現在Rが養育しており, 日本の小学校に通学している。 PとRは離婚することに合意しているとする。 通則法第42条の適用はないとした場合に, 次の問題にはいずれの国の法が適用されるか。 ア.PとRは, 協議離婚という離婚の方法を採ることができるか。 イ.Pは, 出所後において, Cと面会交流をすることができるか。 Rは, 日本の裁判所に離婚の訴えを提起し, 同時に自らをCの親権者とするよう求めている とする。 親権者の指定につき日本の裁判所が国際裁判管轄権を有するとした場合に, 日本の裁 判所はRを親権者として指定することができるか。 - 38 - 〔第2問〕(配点:50) Xは, 日本に居住する日本人であり, 甲国には営業所や財産を一切有していない。 他方, Yは, 甲国法に基づき設立され甲国に主たる営業所を有する, 医療機器の製造販売を業とする会社である。 Yは, 日本においては事業を行っておらず, 営業所や子会社も有していない。 Yは, 自社製品を日本で販売するために, 日本において子会社(以下「本件子会社」という。 ) を設立する計画(以下「本件計画」という。 )を有している。 Yは, 本件計画のために, 本件子会 社の設立に関する事務をXに委任することとし, その対価としてXに対して報酬の支払を約束した (以下, この契約を「本件契約」という。 )。 本件契約には管轄に関する合意や当該報酬の支払地についての合意はなかったものとし, 以下の 1から3までの設問は各々独立しているものとして答えなさい。 〔設 問〕 1.Xは, 本件子会社が設立された後にYが自社製品を本件子会社に販売する場合に備えて, Yと 本件子会社との間で締結される売買契約の契約書の作成を検討し始めた。 甲国は, 国際物品売買 契約に関する国際連合条約(平成20年7月7日条約第8号)(以下「条約」という。 )の締約国 である。 Yは, Yと本件子会社との売買契約には, 条約ではなく専ら甲国の国内法源である同国の実質 法の適用を欲している。 日本が法廷地国となった場合, 「この売買契約は甲国法による」との条 項を契約書に設けるだけで, 当該売買契約を確実にYの意向に沿ったものとすることができるか。 「隔地者間の契約は, 承諾の通知を発した時に成立する」と定めている甲国民法P条の規定に言 及しながら答えなさい。 なお, 条約第1条第1項(b)の規定の適用はないものとする。 2.本件契約には, 準拠法が明示的にも黙示的にも定められていなかったとする。 本件契約の準拠 法として推定されるのはいずれの国の法か。 3. 本件計画が本件子会社の設立登記を待つだけの段階に至った時, 経営状態が急速に悪化したY は, 日本への進出計画を断念し, このことをXに通知した。 そこで, Xは, 未払のままになって いる報酬の支払をYに要求した。 これに対して, Yは, 未払の報酬はないと主張し, Xに対する 債務不存在確認の訴えを甲国裁判所において提起したところ, 当該裁判所はYの請求を認容する 判決をし, この判決は確定した。 Xが応訴しなかったとすると, 当該判決が日本で効力を有するために必要な甲国裁判所の国際 裁判管轄権を基礎付ける事由は存在するか。 XとYは本件契約の締結時に契約準拠法として甲国 法を明示的に指定し, かつ, 甲国民法Q条は「金銭債務の弁済は債務者の現在の住所においてし なければならない」と定めているものとして答えなさい。 - 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