論文式試験問題集[民事系科目第1問] - 1 - [民事系科目] 〔第1問〕(配点:100〔 〔設問1〕, 〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は, 3:4:3〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 T 【事実】 1.平成20年8月頃, Aは, 妻であるBと一緒にフラワーショップを開くため, 賃貸物件を探 していたところ, Cの所有する建物(以下「甲建物」という。 )の1階部分が空いていること を知った。 2.甲建物は10階建ての新築建物で, 1階及び2階は店舗用の賃貸物件として, 3階以上は居 住用の賃貸物件として, それぞれ利用されることになっていた。 また, 甲建物は最新の免震構 造を備えているものとして, 賃料は周辺の物件に比べ, 25パーセント高く設定されていた。 3.Aは, 建物の安全性に強い関心を持っていたことから, Cに問い合わせたところ, 【事実】 2の事情について説明を受けたので, 賃料が高くても仕方がないと考え, 甲建物の1階部分を 借りることを決め, 平成20年9月30日, Cとの間で甲建物の1階部分について賃貸借契約 を締結した。 AC間の約定では, 期間は同年10月1日から3年, 賃料は月額25万円, 各月 の賃料は前月末日までに支払うこととされ, 同年9月30日, AはCに同年10月分の賃料を 支払った。 この賃貸借契約に基づき, 同年10月1日, CはAに甲建物の1階部分を引き渡し た。 4.その後, 甲建物の1階部分でAがBと一緒に始めたフラワーショップは繁盛し, Cに対する 賃料の支払も約定どおり行われた。 ところが, 平成22年8月頃, 甲建物を建築した建設業者 が手抜き工事をしていたことが判明した。 この事実を知らなかったCが慌てて調査したところ, 甲建物は, 法令上の耐震基準は満たしているものの, 免震構造を備えておらず, 予定していた とおりの免震構造にするためには, 甲建物を取り壊して建て直すしかないことが明らかになっ た。 5.Cから【事実】4の事情について説明を受けたAは, フラワーショップを移転することも考 えたが, 既に常連客もおり, 付近に適当な賃貸物件もなかったため, そのまま甲建物の1階部 分を借り続けることにした。 しかし, Aは, 甲建物が免震構造を備えていなかった以上, 賃料 は月額20万円に減額されるべきであると考え, 平成22年9月10日, Cにその旨を申し入 れた。 これに対し, Cは, 【事実】2の事情は認めつつも, 自分も被害者であること, また, 甲建物は法令上の耐震基準を満たしており, Aの使用にも支障がないことを理由に, 賃料減額 には応じられない, と回答した。 6.Aは, Cのこのような態度に腹を立て, 平成22年9月30日, Cに対して, 今後6か月間, 賃料は一切支払わない, と告げた。 Cがその理由を問いただしたのに対し, Aは, 甲建物の1 階部分の賃料は, 本来, 月額20万円であるはずなのに, Aは, 既に2年間, 毎月25万円を Cに支払ってきたため, 120万円を支払い過ぎた状態にあり, 少なくとも今後6か月分の賃 料は支払わなくてもよいはずである, と答えた。 これに対して, Cは, そのような一方的な行為は認められないと抗議し, Aに対して従来ど おり賃料を支払うように催促したが, その翌月以降もCの再三にわたる催促を無視してAが賃 料を支払わない状態が続いた。 そこで, 平成23年3月1日, Cは, Aに対して, 賃料の不払 を理由としてAとの賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。 〔設問1〕 【事実】1から6までを前提として, 次の問いに答えなさい。 AがCによる賃貸借契約の解除は認められないと主張するためには, 【事実】6の下線を付し - 2 - た部分の法律上の意義をどのように説明すればよいかを検討しなさい。 U 【事実】1から6までに加え, 以下の【事実】7から11までの経緯があった。 【事実】 7.平成23年5月28日, Aは, 種苗の仕入れをするために市場に出かけた際に, 市場の近く で建設業者Dが建築しているビルの工事現場に面した道路を歩いていたところ, 道路に駐車し ていたトラックからクレーンでつり上げられていた建築資材が落下し, その直撃を受けたAは 死亡した。 このAの死亡時に, Bは妊娠2か月目であった(Bが妊娠中の胎児を, 以下「本件 胎児」という。 )。 8.【事実】7の建築資材が落下したのは, Dの従業員であるEがクレーンの操作を誤ったため である。 9.Bは, B及び本件胎児がAの相続人であるとして, Dに対し, Aの死亡による損害賠償とし て, 1億円の支払を求めた。 Dは, Eの使用者として不法行為責任を負うことについては争わ なかったが, 損害賠償の額について争った。 その後, BD間で協議が重ねられたが, Bは, A が死亡し, フラワーショップの維持に資金が必要であることもあり, 早期の和解の成立を望ん だ。 そこで, 平成23年7月25日, Dは, Aの死亡による損害賠償について, Bと本件胎児 がAの相続人であり, 両者の相続分は各2分の1であることを前提として, 「Dは, B及び本 件胎児に対し, 和解金として各4000万円の支払義務があることを認め, 平成23年8月3 1日限り, これらの金員をBに支払う。 B及び本件胎児並びにDは, BとDとの間及び本件胎 児とDとの間には, 本件に関し, 本和解条項に定めるもののほか, 何らの債権債務がないこと を相互に確認する。 」という内容の和解案をBに提示し, Bもそれに同意した結果, 和解(以 下「本件和解」という。 )が成立した。 Dは, 同年8月31日, 本件和解に基づき, 8000 万円をBに支払った。 10.Bは, 平成23年9月13日, 流産をした。 Aには, 本件胎児のほかに子はなく, 両親と祖 父母も既に死亡しており, 相続人となるのは, BのほかはAの兄であるFのみであった。 11.Fは, 平成23年11月25日, Aの相続人として, Dに対して損害賠償を求めた。 Dは, 【事実】9の本件和解があるものの, このFの請求を拒むことは困難であると考え, これに応 じることとした。 〔設問2〕 【事実】1から11までを前提として, 以下のからまでについて, 本件和解の趣旨 を踏まえて検討し, 理由を付して解答しなさい。 なお, 損害賠償に関しては, Aの死亡による損 害賠償の額は1億円であることを前提とし, 遺族固有の損害賠償は考慮しないものとする。 FのDに対する請求の根拠を説明した上で, その請求が認められる額は幾らであるかを検討 しなさい。 Dは, Bに対して, 本件和解に基づいて支払った金銭の返還を求めた。 このDの請求の根拠 として, どのようなものが考えられるか, また, 仮にその請求が認められる場合, その額は幾 らであるかを検討しなさい。 のDの請求が認められる場合, Bは, Dに対して, 何らかの請求をすることができるか, また, 仮にそれができる場合, どのような請求をすることができるかを検討しなさい。 V 【事実】1から11までに加え, 以下の【事実】12から18までの経緯があった。 【事実】 12.乙土地は, 甲建物の敷地であり, 平成24年初頭当時, Cが所有しており, Cを所有権登記 名義人とする登記がされていた。 また, この当時, 甲建物の近くには, Cが所有する丙建物が 存在していた。 丙建物は, Cが甲建物の管理業務のために使用しており, Cを所有権登記名義 - 3 - 人とする登記がされていた。 13.丁土地は, 乙土地に隣接する土地であり, 同じ頃, Gが所有しており, Gを所有権登記名義 人とする登記がされていた。 丁土地には, 当時Gが個人で行っていた木工品製造のための工場 が存在していた。 14.Gは, 平成24年夏頃, 木工品製造の事業を会社組織にして営むこととし, 株式会社Hを設 立して, その代表取締役となった。 Hの設立の際, @Gは, 丁土地の持分3分の1を出資し, 同年9月12日, AHへの所有権の一部移転の登記をした。 15.Gは, 平成25年9月30日, 高齢となったことから, Hの代表取締役を退任し, Hの経営 から退いた。 これに伴い, 同日, BGは, 代金を780万円として, 丁土地に係るGの持分3 分の2をHに売却し, Hは, この代金として780万円をGに支払った。 しかし, CこのGの 持分を移転する旨の登記はされていない。 16.Cは, 平成26年2月7日, 甲建物及びD丙建物をCの子Kに贈与した。 しかし, E丙建物 についてKへの所有権の移転の登記はされていない。 丙建物は, 乙土地に存在しているという のがC及びKの認識であったが, 実際は, 丁土地に存在していた。 17.その後, 丙建物が丁土地に存在していることが明らかになったため, 平成26年4月15日, Hは, Cに対し, 丙建物の収去及びその敷地(丁土地のうち丙建物の敷地である部分)の明渡 しを求めた。 これに対し, Cは, 丙建物は既にKに贈与しているという事実を告げて, Hの請 求には応じられない, と答えた。 そこで, 同月20日, Hは, Kに対し, 丙建物の収去及びそ の敷地の明渡しを求めた。 18. Kは, この請求を受けて, 丁土地の登記簿を調べたところ, Hは丁土地について3分の1し か持分を有しておらず, Gが3分の2の持分を有している旨が記されていたことから, Hに対 し, Hが丙建物の収去及びその敷地の明渡しを求めることができる立場にあるか疑問である, と述べた。 〔設問3〕 【事実】1から18までを前提として, 次の問いに答えなさい。 Hは, Kに対し, 丙建物の収去及びその敷地の明渡しを請求することができるか。 【事実】14 から16までの下線を付した@からEまでの事実がそれぞれ法律上の意義を有するかどうかを検討 した上で, 理由を付して解答しなさい。 - 4 - 論文式試験問題集[民事系科目第2問] - 1 - [民事系科目] 〔第2問〕(配点:100〔 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 3:4:3〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。 )は, 食品の製造及び販売等を業とする取締役会設置会社 である。 平成26年4月の時点における甲社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)は, 別紙 のとおりである。 2.甲社の創業者であるAには, 妻Bとの間に子Cがあり, Bの死亡後に再婚した妻Dとの間に子 Eがある。 甲社の株主構成としては, Aが300株, Cが50株, Dが100株, Eが50株を それぞれ有していた。 甲社では, 設立当初から, Aが代表取締役として対外的な事業活動を行い, CはAを手伝って 事業活動に従事し, Dは資金管理・人事管理等を担当していた。 3.Eは, Cと性格が合わなかったため, 甲社で就労することはなく, 不動産の販売等を業とする 乙株式会社(以下「乙社」という。 )の取締役を務めていた。 乙社の取締役は, Eのほか, Eの 妻Fと乙社の創業者Gの合計3人であり, その代表取締役はGであった。 4.甲社は, 平成21年6月, その店舗に隣接してFが所有する狭小な土地(以下「本件土地」と いう。 )があったことから, これを駐車場の用地として取得することとし, Fとの間で, 本件土 地の売買契約を締結した。 その際, 売買代金は, 本件土地に関する不動産鑑定士の鑑定評価に従 い, 250万円と定められた。 Fは, 上記の売買代金を受領し, 甲社に対し本件土地を引き渡したが, 本件土地の所有権移転 登記手続に必要な書類を交付せず, 甲社も, Fに対してその所有権移転登記手続を督促しなかっ たため, 本件土地の登記名義人は, Fのままであった。 5.甲社の売上げは順調に推移し, 平成22年頃には, その年商は2億円程度に達した。 これに対し, 乙社は, 不動産開発のための資金調達に苦労し, 不動産販売等の事業展開が低迷 した。 Eは, 乙社の将来に不安を覚えて転身を考え, Dに相談したところ, Dは, Eに対し, 甲社に 入社した上でCと接触の少ない部門において勤務することを勧めた。 そこで, Eは, 平成22年 2月, 乙社の取締役を辞任し, 甲社の総務・企画部長として勤務を開始したが, 間もなくして, 新規出店の計画立案, 店舗用地の調達, 金融機関からの資金調達等につき経営手腕を発揮し, 頭 角を現した。 6.その後, Dは, 自らの存命中にEの甲社における地位を強固にすることを望み, Aと相談の上 で, 平成24年5月20日, 自らの取締役の任期が満了する機会に, その後任としてEを取締役 の地位に就かせ, さらに, Aのほか, Eも代表取締役の地位に就かせることとした。 Aは, 必要な書類を準備して甲社の役員の変更の登記を申請し, その旨の登記がされた。 Aは, Eが甲社の代表取締役に就任することにつき, あらかじめCの了解を得る予定であった が, Cの反発を恐れ, Cに説明をすることができず, また, 上記の登記がされた後も, Cに何ら の説明をしなかった。 A及びDは, 当面, 引き続きAが代表取締役として活動しつつ, Eに副社 長という肩書で対外的に活動することを認めることとした。 7.Eは, 将来のAの相続の在り方によっては, その保有株式数に照らして甲社における地位が安 定的でないことを懸念していた。 そこで, Dは, 平成24年6月, Eが甲社の支配株主となることを目的として, 甲社が400 株の募集株式を発行し, その全部をEに割り当てることを計画した。 Eは, 甲社株式の1株当た りの直近の純資産額が10万円である旨の専門家の鑑定評価があったことから, 自ら所有する4 000万円相当の賃貸用の建物を出資の目的とすることとした。 この建物は, 必要経費を控除し - 2 - ても, 毎年100万円の収益が見込まれるものであった。 Dは, A, C及びEに対し, 甲社の将来の運営について相談したい旨を伝え, これらの者が集 まった席上で, EをAの後継者としたいこと, 及び甲社が400株の募集株式を発行してその全 部をEに割り当てたいことを説明し, 賛同を求めた。 Cは, この提案に反発して直ちに退席し, Aは, 時期尚早であるとして態度を保留した。 しかし, Eは, 上記の甲社の募集株式の発行(以下「本件株式発行」という。 )につき, 株主 全員の賛成があった旨の株主総会議事録を作成し, 甲社に対し上記の出資の履行をした。 なお, 出資の目的とされた建物に関しては, 価額が相当であることについての弁護士の証明及び不動産 鑑定士の鑑定評価を受けており, 検査役の調査を経ていない。 Eは, 必要な書類を準備して甲社の募集株式の発行による変更の登記を申請し, その旨の登記 がされた。 そして, Dは, A及びCに対し, 本件株式発行の計画を断念したなどと, 虚偽の事実 を述べた。 8.その後, Fは, Eが甲社を代表して金融機関との折衝を行っていたことから, 甲社から乙社に 対する貸付けにより乙社の不動産開発計画を推進することを計画し, 開発した不動産の分譲後に 借入金を甲社に返済する旨を説明して, この計画をEに提案した。 Eが甲社の運転資金から貸付 金を捻出することは難しい旨を述べると, Fは, 知人のHが甲社に資金を貸し付けた上で, 甲社 がその資金を乙社に貸し付けるという方法を提案した。 Eは, 平成24年12月, 上記のFの提案についてDに相談したところ, Dは, 「既に取締役 を退任して資金管理をEに委ねているので, 自分が判断すべき事柄ではないが, 甲社にはリスク があるだけでメリットがないので, やめた方がよいのではないか。 」と述べた。 Eは, Dの助言に戸惑いつつも, Fの要請に抗し難く, その提案を受け入れることとし, 独断 で, 甲社を代表して, Hから2億円を年10%の利息の約定で借り入れた(以下「本件借入れ」 という。 )。 本件借入れに先立ち, Eは, Hに対し, 甲社の店舗建設のための資金として必要であ る旨を説明したが, その説明が曖昧であったため, Hから, 甲社の事業計画に関する資料等を交 付するよう求められていた。 もっとも, 本件借入れは, Eがこれらの資料等を交付しないまま実 行された。 そして, Eは, 平成25年1月, 独断で, 甲社を代表して, 乙社に対し上記の2億円を年10 %の利息の約定で貸し付けた(以下「本件貸付け」という。 )。 9.Fは, 平成26年3月に死亡し, その全財産をEが相続した。 これに伴い, 本件土地につき, 相続を原因とするEへの所有権移転登記がされた。 10.A及びCは, 平成26年4月, 本件借入れ及び本件貸付けの事実を知り, その調査を進める中 で, 上記の一連の経緯が明らかになった。 また, 乙社は, 不動産開発計画が行き詰まって財務状態が悪化し, その結果, 甲社は, 本件貸 付けに係る金員の返済を受けられないことが確実になった。 〔設問1〕 平成26年4月の時点で, 本件株式発行の効力を争うためにCの立場において考えら れる主張及びその主張の当否並びに本件株式発行に係る法律関係について, 論じなさい。 〔設問2〕 本件借入れの効果が甲社に帰属するかどうかに関し, これを肯定するHの立場とこれ を否定する甲社の立場において考えられる主張及びその主張の当否について, 論じなさい。 〔設問3〕 CがD及びEに対し株主代表訴訟を提起する場合に, Cの立場において考えられる主 張及びその主張の当否について, 論じなさい。 - 3 - 別 紙 履歴事項全部証明書 ○○県○○市○○一丁目2番3号 甲株式会社 会社法人等番号 0123−01−123456 商 号 甲株式会社 本 店 ○○県○○市○○一丁目2番3号 公告をする方法 官報に掲載してする。 会社成立の年月日 平成20年6月2日 目 1.食品の製造及び販売 2.不動産の賃貸 3.前各号に附帯する事業 的 発行可能株式総数 2000株 発行済株式の総数 並びに種類及び数 発行済株式の総数 500株 発行済株式の総数 900株 資本金の額 平成24年 6月10日変更 平成24年 6月20日登記 平成24年 6月10日変更 平成24年 6月20日登記 金2000万円 金4000万円 株式の譲渡制限に 関する規定 当会社の株式を譲渡により取得するには、 取締役会の承認を要する。 役員に関する事項 取締役 取締役 取締役 A C D - 4 - 平成24年 5月20日重任 平成24年 6月 平成24年 5月20日重任 平成24年 6月 平成24年 5月20日退任 平成24年 6月 1日登記 1日登記 1日登記 取締役 E ○○県○○市○○一丁目2番4号 代表取締役 A ○○県○○市○○五丁目6番7号 代表取締役 E 監査役 ○○○○ 取締役会設置会社 に関する事項 取締役会設置会社 監査役設置会社に 関する事項 監査役設置会社 登記記録に関する 事項 設立 平成24年 5月20日就任 平成24年 6月 平成24年 5月20日重任 平成24年 6月 平成24年 5月20日就任 平成24年 6月 平成24年 5月20日重任 平成24年 6月 1日登記 平成20年 6月 2日登記 1日登記 1日登記 1日登記 これは登記簿に記録されている閉鎖されていない事項の全部であることを証明 した書面である。 平成26年 ○○地方法務局 4月21日 法 登記官 整理番号 あ987654 * 務 太 郎 下線のあるものは抹消事項であることを示す。 - 5 - 公 印 論文式試験問題集[民事系科目第3問] - 1 - [民事系科目] 〔第3問〕(配点:100〔 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 4:2:4〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 【事例】 Xは, 横断歩道を歩行中, 車道を直進してきたAの運転する車両に衝突されそうになったので, Aの運転態度を注意したところ, 激高し降車してきたAにいきなり突き飛ばされた。 路上に背中 から倒れ込んだXは, 路面に頭を打ち付けて意識を失い, 救急車で病院に搬送された。 幸い頭部 には目立った外傷もなく, その他の異状も認められなかったが, 腰部及び頸部の脊椎を痛めたた め, 検査等の目的で2日間入院した後, 腰椎及び頸椎に受けた傷害の治療のため, 約半年間通院 して加療を受けた。 上記車両は, 運送業を営むB株式会社(以下「B社」という。 )の所有する車 両であり, Aは, 配送業務を実施中であった。 Xは, 上記の通院治療が終了した後に, A及び同人を雇用するB社に対し, 上記傷害に関して, 治療費や交通費などの実費のほか, 入通院による休業損害及び傷害慰謝料を請求したものの, い ずれからも誠意ある対応はなかった。 Xから相談を受けた弁護士L1は, この事件を受任し, 損 害賠償金の支払を求める内容証明郵便をA及びB社に送付したところ, Aからは返事がなく, B 社からは, 従業員の起こした暴力事件のことであり会社としては関知しない旨の書面が返送され てきた。 そこで, L1は, A及びB社を被告とし, 上記の損害に係る賠償金に弁護士費用を加え た合計330万円を連帯して支払うよう求める訴えを提起することとした。 B社に対する訴えについては, L1が同社の登記事項証明書を入手した上, 代表取締役として 登記されていたCを代表者と記載した訴状を裁判所に提出したところ, 訴状副本及び第1回口頭 弁論期日への呼出状等がB社の本店所在地の住所に宛てて送達され, 同社の従業員がこれらを受 領した旨の送達報告書が裁判所に送付された。 第1回口頭弁論期日において, Aは, 口頭で請求棄却を求める答弁をし, その余は弁護士を頼 んでから対応したい旨を述べ, 一方, B社の代表者として出頭したCは, Aの暴行はB社の業務 とは無関係に行われたものであると答弁しつつ, 道義的責任は感じるので和解による解決を希望 する旨を述べたことから, 裁判所は和解を勧試した。 その後, Aは弁護士L2に事件を依頼し, L2はAの訴訟代理人となった。 その際, Aは, 本 件の内容を詳しく説明するほか, 第1回口頭弁論期日に裁判所が和解を勧試するに至った経緯を 説明し, 和解のため指定された次回期日までに原告及び被告らがそれぞれ和解条件について検討 してくるよう指示されたことを報告した。 和解期日において, X及びL1, L2並びにCが出頭し, XとA及びB社との間で訴訟上の和 解が成立し, 次のとおりの条項が調書に記載された。 (和解条項) 1 被告Aは, 本件における傷害行為について深く反省し, 原告に対し, 心から謝罪の意を表し, 今後二度と本件のような事件を起こさないことを誓約する。 2 被告らは, 原告に対し, 損害賠償債務として150万円を連帯して支払う義務があることを 認める。 3 被告らは, 原告に対し, 連帯して, 前項の金員を, 平成〇〇年〇月〇日限り, 〇〇銀行〇〇 支店の原告名義の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法で支払う。 4 原告はその余の請求をいずれも放棄する。 5 原告及び被告らは, 原告と被告らとの間には, この和解条項に定めるもののほかに何らの債 権債務のないことを相互に確認する。 6 訴訟費用は各自の負担とする。 - 2 - 以下は, Xの訴訟代理人である弁護士L1と司法修習生Pとの間でされた会話である。 L1:P君にも検討してもらったXさんの事件ですが, 被告であるA及びB社との間で成立し た訴訟上の和解について, 賠償金の支払期日を前にしてB社から代表取締役D名義の書面が 送付されてきました。 それによれば, B社の内部には紛争があったようで, Cは訴状が送達される1年近く前に 解任されていて代表者の地位になく, したがって, Cを代表者として成立した訴訟上の和解 はB社に対して効力を有しないとのことです。 書面に添付されていた同社の登記事項証明書 を見ると, 確かにCはDが主張する時期に解任され, その同じ日にDが新しい代表者として 選定されて就任したようですが, ただこうした解任と就任の登記がされたのは和解が成立し た期日の数週間後になっています。 このように代表者に異動があったにもかかわらず, なぜ, 登記がされないまま放置され, それが今になって登記されたのか, そもそもB社にどのよう な内紛があったのか, 真の代表者は誰なのか, その経緯は我々には分かりません。 しかし, いずれにしても早急に対応を考えなければなりません。 仮にDの主張することが事実だとす ると, 訴訟上の和解の効力はB社には及ばないと言わざるを得ないでしょうか。 P:先生, 最高裁判所昭和45年12月15日第三小法廷判決(民集24巻13号2072頁) があります。 L1:どのような事案においてどのような判示をした判例ですか。 P:はい。 やはり登記上代表取締役であったが実際には代表取締役ではなかった者を被告会社 の代表者として提起された訴えについて, 請求を認容した第一審の本案判決を取り消し, 訴 状の送達からやり直すべし, として事件を第一審に差し戻したものです。 一般論としては, 「民法一〇九条および商法二六二条の規定は, いずれも取引の相手方を保 護し, 取引の安全を図るために設けられた規定であるから, 取引行為と異なる訴訟手続にお いて会社を代表する権限を有する者を定めるにあたつては適用されないものと解するを相当 とする。 この理は, 同様に取引の相手方保護を図った規定である商法四二条一項が, その本 文において表見支配人のした取引行為について一定の効果を認めながらも, その但書におい て表見支配人のした訴訟上の行為について右本文の規定の適用を除外していることから考え ても明らかである。 」と述べています。 訴訟手続において会社の代表者を定めるに当たって 表見法理の適用はないという判例法理があるということになりそうです。 この判例法理の当否については議論があり, 判旨が言及している点のほか, 代表権の存否 は職権調査事項であり, その欠缺は絶対的上告理由・再審事由であることや, 手続の安定な どが問題にされていたと思います。 L1:確かにこの判例の一般論については議論があるところですが, ここでは訴訟上の和解に 表見法理を適用することの可否に絞って考えることにしましょう。 本件のように訴訟上の和 解が成立した事案においては, 民法や商法の表見法理を適用することを否定する理由として, 判旨が挙げるような取引行為と訴訟手続の違いや, P君が言うような手続の不安定を招くと いった点を持ち出すことに果たして説得力があるかということを踏まえ, 本件和解の訴訟法 上の効力を維持する方向で立論してみてください。 P:訴訟上の和解には, 私法上の契約とそれを裁判所に対して陳述するという両面があります から, 仮に訴訟行為としての和解の効力が否定されるとして, では私法上何の効果も生じな いことになるのか, といった辺りも考えてみる必要がありそうです。 L1:頼もしいですね。 それでは, 和解が無効だとするDの主張を退け, 無事に和解の履行期 限を迎えられるよう, 我々の側として用意できる法律論をまとめてみてください。 実体法上 の表見法理のうちどの条文の適用を主張すべきか, という問題もありますが, そこはひとま ずおいて, まずは訴訟法の問題について検討してください。 よろしくお願いします。 - 3 - 〔設問1〕 あなたが司法修習生Pであるとして, 弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。 なお, 引用した判決文中の「商法二六二条」は現行会社法の第354条に相当する規定であり, 「商法四二条」は現行商法の第24条に相当する規定であり, その内容は次のとおりである。 「第四十二条 本店又ハ支店ノ営業ノ主任者タルコトヲ示スベキ名称ヲ附シタル使用人ハ之ヲ其 ノ本店又ハ支店ノ支配人ト同一ノ権限ヲ有スルモノト看做ス但シ裁判上ノ行為ニ付テハ此ノ 限ニ在ラズ A 前項ノ規定ハ相手方ガ悪意ナリシ場合ニハ之ヲ適用セズ」 以下は, 後日, L1とPとの間でされた会話である。 L1:例の事件ですが, 和解無効を主張するDに対して私の進めてきた説得がなんとかうまく 運び, ようやくDも折れ, 改めて賠償金の支払を約束してくれ, 安堵していたところ, 今度 は, 被告のA本人から書面で申入れがありました。 そこに書かれた内容を法律的に整理してみると, Aが訴訟代理人のL2弁護士に与えた訴 訟代理権の範囲には, 和解条項第1項にあるように「被告Aは, 本件における傷害行為につ いて深く反省し, 原告に対し, 心から謝罪の意を表し, 今後二度と本件のような事件を起こ さないことを誓約する。 」という謝罪や誓約の文言を設けることまでは含まれておらず, これ はL2弁護士が和解期日当日に出頭していなかったAに無断でしたことなので, この条項は 無権代理として無効であり, 和解全体も無効となるというのです。 P:先生, 和解条項第1項が設けられた経過はどのようなものだったのですか。 L1:和解が成立した期日には, 私のほかにXさんも出頭しましたが, Aは欠席し, 代理人の L2弁護士だけが出頭していました。 Xさんは, 被告らが要望する賠償金の減額に応じても よいが, その代わりAが事件のことを反省して謝罪をし, 二度と同じような事件を起こさな いことを約束してほしい, そのことを和解条項にしっかり書き残してほしいと要請しました。 欠席していたAの意思を直接確認することはできませんでしたが, L2弁護士が言うには, 「A はかねてから事件のことを真摯に反省していたので, そうした条項を設けることに異存はな いはずだ。 」ということでした。 その結果, 第1項としてあのような条項が加えられ, 他方, 損害賠償の金額については150万円とすることで原告と被告らとの間で合意ができたので す。 P:よく分かりました。 これに関連した判例があったと記憶しています。 最高裁判所昭和38 年2月21日第一小法廷判決(民集17巻1号182頁)がそれです。 L1:どのような事案においてどのような判示をした判例ですか。 P:単純化すると, 貸金返還請求訴訟において, 証拠調べが終わった段階で和解が勧められ, 裁判所から和解案が示されていたところ, 借主である被告本人がそれを拒んで帰宅してしま った後, 被告の訴訟代理人弁護士はそのまま話合いを続行し, 最終的に被告本人が同席しな い中で, 請求されていた貸金債務の弁済期を延期して分割払とする代わりに, その担保とし て被告が所有する不動産に抵当権を設定するという内容の和解を成立させたという事情の下, 後日その被告がこの和解の無効確認等を求めたという訴訟において, 最高裁は, 被告訴訟代 理人が授権された和解の代理権限のうちに抵当権設定契約をする権限も包含されていたと解 するのが相当である, と判示したものです。 L1:なるほど。 念のため, 裁判所に確認したところ, 本件でAがL2弁護士に訴訟委任をし た際, 民事訴訟法第55条第2項第2号の和解に関する特別授権はされていましたから, そ のことを前提として, この最高裁判決の内容を踏まえ, AはXさんとの間で本件和解の効力 を争うことはできない, と立論してみてください。 - 4 - 〔設問2〕 あなたが司法修習生Pであるとして, 弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。 なお, AとL2との間の訴訟委任契約に関連して生じ得る弁護士倫理の問題や契約違反を理由 とした損害賠償の問題について論ずる必要はない。 以下は, Pが司法修習を終えて弁護士登録をし, L1の法律事務所に勤務弁護士として就職し た後に, L1との間でされた会話である。 L1:P君が司法修習生だった頃に扱っていたXさんの和解の件を覚えていますか。 いろいろ ありましたけれども, P君が奮闘して判例等を研究してくれたおかげで, いずれも事なきを 得, 和解の効力には問題がないということで, 賠償金の支払も無事に約束どおり履行されま した。 ところが, あの和解期日から半年以上も経過したつい先日のこと, Xさんから相談があり ました。 近ごろめまいや吐き気などを覚えるようになったので, 事故後に入通院していた病 院で診察を受けたところ, 本件事故により腰椎及び頸椎に受けた傷害が原因で発症したもの で, 後遺障害として残存するだろうと診断されたそうです。 一般に, 事故から相当期間が経 過した後に初めて発症した症状については, 当該事故による傷害に起因するものであっても 法的にみて因果関係を有する後遺障害と評価できるかどうかが争われることが多いので, 本 件でもそのことは綿密に調査・検討する必要があります。 しかし, その点はしばらくおき, この後遺障害に基づく新たな損害賠償を求める訴えをAとB社に対して提起することも視野 に入れ, ひとまずAの代理人であったL2弁護士に連絡したところ, 既に委任関係は終了し ているということでしたので, 直接Aに文書で連絡しました。 これに対してAから送られてきた回答書では, 和解条項では, 第2項で損害賠償債務は1 50万円であるとされ, 第5項では「原告と被告らとの間には, この和解条項に定めるもの のほかに何らの債権債務のないことを相互に確認する。 」となっており, かつその損害賠償金 は全額既に支払が完了しているので, もはやこれ以上の賠償責任は負うことはないとされて います。 P:先生, 今後, Aが弁護士に相談すれば, 訴訟上の和解には既判力があるから, Xさんから の賠償請求はその既判力に触れるとの主張をしてくることが考えられます。 判例にも, 裁判 上の和解について「既判力を有する」という一般論を述べたものがあります(最高裁判所昭 和33年3月5日大法廷判決・民集12巻3号381頁) 。 L1:そうですね。 訴訟上の和解調書の記載に既判力が生じるとの前提に立つとして, 何か反 論が考えられますか。 P:訴訟上の和解が成立した後に別の新たな損害が生じたから, これには既判力は及ばないと の議論はいかがでしょうか。 L1:しかし, 不法行為に基づく損害賠償請求権は当該不法行為時に確定額の請求権としてい まだ現実化していなかった損害も含めて損害全体について成立しているはずであり, 後に生 じた後遺障害はたまたま請求時に認識できなかっただけのことですから, 和解成立後に生じ た事由とはいえないと考えられます。 また, 本件では, 和解条項第5項によって, 「原告及び被告らは, 原告と被告らとの間には, この和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務のないことを相互に確認する。 」とされて いますから, 一部請求後の残部請求の議論を応用することも困難ではないでしょうか。 P:そうしますと, 既判力肯定説に立ちつつ, 我々に有利な結論を導くには, 和解条項第2項 及び第5項について生じる既判力を本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の主張を遮断しな い限度にまで縮小させる, あるいは, 本件和解契約は同請求権を対象として締結されたもの - 5 - ではないから, 訴訟上の和解につき既判力肯定説を採るとしても, 本件の和解条項第2項及 び第5項につき同請求権を不存在とする趣旨の既判力は生じない, というような議論を考え ればよいわけですね。 L1:そうだと思います。 一つヒントですが, 定期金方式による損害賠償判決の基礎となった 事情に事後的な変動が生じたときには損害額の再調整をすることができるという民事訴訟法 第117条を参考にしてはどうでしょうか。 この条文を単純に類推適用するというのではな く, 人身損害の損害賠償を主として念頭に置いてそのような規定が作られた趣旨を参考にし てほしいということです。 難問ですが, 諦めないで頑張ってください。 〔設問3〕 あなたが弁護士Pであるとして, 弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。 なお, 訴訟上の和解に既判力が認められるかについての一般論には触れなくてよい。 - 6 -