論文式試験問題集[民事系科目第1問] - 1 - [民事系科目] 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕, 〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は, 4:3:3〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 T 【事実】 1.平成23年4月1日, Aは, 山林である自己所有の甲土地から切り出した20本の丸太を相 場価格に従い1本当たり15万円の価格で製材業者Bに売却する旨の契約を締結し, 同日, B の工場に上記20本の丸太を搬入した。 その際, 代金の支払時期は, 同年8月1日とされた。 また, Aの代金債権を担保するため, 丸太の所有権移転の時期は, 代金の支払時とし, 代金の 支払がされるまでBは丸太の処分や製材をしないことが合意された。 2.平成23年4月15日, 建築業者Cは, Bが【事実】1に記した20本の丸太を購入したと いう噂を聞き, 甲土地が高品質の材木の原料となる丸太を産出することで有名であったことか ら, Bに対して, 上記20本の丸太を製材した上, 自分に売ってほしいと申し入れた。 Bは, Aとの間で【事実】1に記した合意をしていたことに加え, つい最近も, 当該合意と同様の合 意をしてAから別の丸太を買い入れたにもかかわらず, その代金の支払前にその丸太を第三者 に転売したことがAに発覚してトラブルが生じていたこともあり, Cの申入れに応じることは 難しいと考え, Cに対し, 少し事情があるので, もうしばらく待ってほしい, と答えた。 しかし, Cがそれでもなお強く申し入れるので, Cが古くからのBの得意先であることもあ り, 同月18日, Bは, Aに無断で, Cとの間で, 上記20本の丸太を製材して20本の材木 に仕上げ, これらの材木を相場価格に従い1本当たり20万円の価格でCに売却する旨の契約 を締結した。 その際, Cは, それまでの取引の経験から, Aが丸太を売却するときにはその所 有権移転の時期を代金の支払時とするのが通常であり, 最近もAB間で上記のトラブルが生じ ていたことを知っていたが, 上記20本の丸太についてはAB間で代金の支払が既にされてい るものと即断し, 特にA及びBに対する照会はしなかった。 Bは, 上記20本の丸太を製材した上, 同月25日, Cから代金400万円の支払を受ける と同時に, 20本の材木をCの倉庫に搬入した。 3.その後, Cは, DからDが所有する乙建物のリフォーム工事を依頼され, 平成23年5月2 日, Dとの間で報酬額を600万円として請負契約を締結した。 その際, Dは, Cから, 乙建 物の柱を初めとする主要な部分については, 甲土地から切り出され, Bが製材した質の高い材 木を10本使用する予定であり, 既に10本の在庫がある旨の説明を受けていた。 4.Cは, 【事実】2に記した20本の材木のうち, 10本は, そのまま自分の倉庫に保管し(倉 庫に保管した10本の材木を, 以下「材木@」という。 ), 残りの10本は, 乙建物のリフォー ム工事のために使用することにした(リフォーム工事のために使用した10本の材木を, 以下 「材木A」という。 )。 5.平成23年5月15日, Dは乙建物から仮住まいの家に移り, Dが有していた乙建物の鍵の うちの1本をCに交付した。 その翌日, Cは, 乙建物のリフォーム工事を開始し, 材木Aを用 いて乙建物の柱を取り替えるなどして, 同年7月25日, リフォーム工事を完成させた。 同日, Dが内覧をした結果, 乙建物のリフォーム工事はDの依頼のとおりにされたことが確 認され, DはCに請負の報酬額600万円を支払ったが, 乙建物の鍵の返還は建物内の通気の 状況などを確認してからされることになり, 鍵の返還日は同年8月10日とされた。 6.平成23年8月1日, 【事実】1に記した20本の丸太に係る代金の支払時期が到来したの で, Aは, Bの工場に丸太の代金を受け取りに行った。 ところが, Bは, 【事実】2に記した トラブルに関して, この頃, Aから高額の解決金の請求をされていたことから, Aがその請求 - 2 - を取り下げない限り, 丸太の代金を支払うことはできない旨を述べ, その支払を拒絶した。 A は, そのようなBの対応に抗議をするとともに, Bの工場内に丸太が見当たらなかったことを 不審に思い, 調査をしたところ, 【事実】2から5までの事情が判明した。 そこで, Aは, 同 月5日, C及びDに対してこれらの事情を伝えた。 驚いたDがCに問い合わせたところ, Cは, 自分もAから同じ事情を聞かされて困っている と答えたが, いずれにしても乙建物のリフォーム工事は既に完成していることから, 同月10 日, CはDに乙建物の鍵を予定どおり返還した。 〔設問1〕 【事実】1から6までを前提として, 以下の及びに答えなさい。 Aは, Cに対して, 材木@の所有権がAに帰属すると主張して, その引渡しを請求すること ができるか。 Aの主張の根拠を説明し, そのAの主張が認められるかどうかを検討した上で, これに対して考えられるCの反論を挙げ, その反論が認められるかどうかを検討しなさい。 Aは, Dに対して, 材木Aの価額の償還を請求することができるか。 Aの請求の根拠及び内 容を説明し, それに関するAの主張が認められるかどうかを検討した上で, これに対して考え られるDの反論を挙げ, その反論が認められるかどうかを検討しなさい。 U 【事実】1から6までに加え, 以下の【事実】7から13までの経緯があった。 【事実】 7.平成23年12月28日, Aは, 甲土地上に生育している全ての立木(以下「本件立木」と いう。 )を製材業者Eに売却する旨の契約を締結し, その代金全額の支払を受けた。 そこで, Eは, 平成24年1月5日から, 本件立木の表皮を削ってEの所有である旨を墨書する作業を 始め, 同月7日までに, 甲土地の東半分に生育する立木につき, 明認方法を施し終えた。 8.ところが, 資金繰りに窮していたAは, 平成24年1月17日, 甲土地及び甲土地上の本件 立木をFに売却する旨の契約を締結し, 同日, その代金全額の支払と引換えに, 甲土地につい てAからFへの所有権移転登記がされた。 これに先立ち, Fは, 同月4日に甲土地を訪れ, 本 件立木の生育状況を確認していたが, その時点ではEが本件立木への墨書を開始していなかっ たことから, 上記契約を締結する際には, 既にAからEに対し本件立木が売却されていたこと をFは知らなかった。 9.平成24年1月25日, Fは, 甲土地を訪れたところ, 本件立木の一部にEの墨書があるこ とに気付いた。 Fは, 本件立木がEに奪われるのではないかと不安になったため, 本件立木を 全て切り出した上で, それまでの事情を伏せて, 近くに住む年金暮らしの叔父Gに, 切り出し た丸太を預かってもらうよう依頼した。 これに対し, Gが自己の所有する休耕中の丙土地であ れば丸太を預かることができると答えたことから, 同年2月2日, Fは, Gとの間で, 保管料 を30万円とし, その支払の時期を同月9日として, 切り出した丸太を預かってもらう旨の合 意をし, 切り出した丸太を丙土地にトラックで搬入した。 10.平成24年2月10日, Eは, 甲土地の西半分に生育する立木に墨書をするために甲土地に 行ったところ, 本件立木が全て切り出されていることを発見した。 Eは, 驚いて甲土地の近隣 を尋ね歩いた結果, しばらく前にFが甲土地から切り出した丸太をトラックで搬出していたこ とが分かった。 11.平成24年2月13日, Eは, Fの所在を突き止め, 本件立木の行方について事情を問いた だしたところ, Fは, 本件立木はAから購入したものであり, 既に切り出してGに預けてある と答えるのみで, それ以上Eの抗議について取り合おうとしなかった。 12.そこで, Eは, 平成24年2月15日, Gの所在を突き止め, 確認したところ, Gが確かに Fから【事実】9に記した丸太を預かっていると言うので, 事情を話し, 丸太を全てEに引き 渡すよう求めた。 Gは, Eとともに丙土地に行き, 丸太を点検したところ, その一部にはEの - 3 - 墨書があることが分かったが, Eの墨書がないものもあったほか, 丸太は全てFから預かった ものであり, Fから保管料の支払もまだ受けていないことから, Eの求めに応じることはでき ないと答えた(これらの丸太のうち, Eの墨書がないものを, 以下「丸太B」といい, Eの墨 書があるものを, 以下「丸太C」という。 なお, Eの墨書は現在まで消えていない。 )。 13.平成24年4月2日, Eは, Gに対し, 丸太B及び丸太Cの所有権は全てEに属し, これら をGが占有しているとして, その引渡しを求める訴えを提起した。 〔設問2〕 【事実】1から13までを前提として, 以下の及びに答えなさい。 なお, 本件において, 立木ニ関スル法律による登記は行われておらず, 同法の適用については 考慮しなくてよい。 丸太Bに関し, Gは, 丸太BをEが所有することを争うことによって, Eの請求を拒否する 旨主張した。 このGの主張の根拠を説明した上で, Gは, どのような事実を主張・立証すべき であるか, 理由を付して解答しなさい。 丸太Cに関し, Gは, 丸太CをEが所有すること及びこれをGが占有していることは争わな いが, 丸太の保管料のうち丸太Cの保管料に相当する金額の支払を受けるまでは, Eの請求を 拒否する旨主張した。 このGの主張の根拠を説明した上で, その主張が認められるかどうかを 検討しなさい。 V 【事実】1から13までに加え, 以下の【事実】14から18までの経緯があった。 【事実】 14.Cと同居しているCの長男Hは, 満15歳の中学3年生である。 平成24年11月15日, Hは, Cの自宅前を通行する者を驚かせようとして, Cの倉庫から, 15センチメートル角で 長さ2メートルの角材(以下「本件角材」という。 )を持ち出し, Cの自宅前の道路の一部を 横切るように置いた。 Hが本件角材を置いたのは夕方であったが, その付近は, 街路灯から離 れていたために, 夜間になると, 歩行者でも, かなりの程度の注意を払っていなければ, 本件 角材に気付かない程度の暗さになり, Hもそのことを認識していた。 15.Hは, 中学2年生の終わり頃から急に言動が粗暴になり, 喧嘩で同級生に怪我をさせたり, 同級生の自転車のブレーキワイヤーを切るといった悪質ないたずらをしたりしたことなどか ら, Cが学校から呼び出しを受けるという事態が何度も生じていた。 Cは, Hに対し, 他人に 迷惑を掛けてはいけないといった一般的な注意をするものの, 反抗的なHにどのような対応を してよいのか分からず, それ以上の対策を講ずることはなかった。 16.HがCの自宅前に本件角材を置いてから1時間後, 既にその付近がかなり暗くなってから, 近所に住む女性Kの運転する自転車がCの自宅前の道路に差し掛かった。 Kは, Kの子で3歳 になるLを保育所に迎えに行き, 荷台に設置した幼児用シートにLを乗せて自宅に戻る途中で あったが, 自転車の車輪が本件角材に乗り上げたため, ハンドルを取られて転倒し, Kは無事 だったものの, Lは右腕を骨折した。 17.【事実】16の事故の際, Kは, 携帯電話で通話をしていたため, 片手で自転車を運転してい た。 また, 自転車の前照灯が故障していたが, 保育所からKの自宅までの道路はKが普段よく 使う道路であったため, Kは, 前照灯の故障を気にせず, 事故のあった場所を走行していた。 これらの事情も, 【事実】16の事故の原因となったことが確認されている。 なお, 本件におい て, KがLを幼児用シートに乗せていたことは, 法的に問題がないものとする。 18.Lには, 【事実】16の事故により, 右腕の骨折の治療費等として30万円相当の損害が生じ た。 - 4 - 〔設問3〕 【事実】1から18までを前提として, 以下の及びに答えなさい。 Lが【事実】18に記した損害の賠償をCに対して請求するための根拠を説明した上で, それ に関するLの主張が認められるかどうかを検討しなさい。 の請求に対し, その賠償額について, Cはどのような反論をすることが考えられるか。 そ の根拠を説明した上で, その反論が認められるかどうかを検討しなさい。 - 5 - 論文式試験問題集[民事系科目第2問] - 1 - [民事系科目] 〔第2問〕(配点:100〔 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 4:4:2〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。 )は, A, B及びS株式会社(以下「S社」という。 )の出 資により平成19年に設立された取締役会設置会社である。 甲社では, 設立以来, Aが代表取締 役を, B及びCが取締役をそれぞれ務めている。 甲社の発行済株式の総数は8万株であり, Aが4万株を, Bが1万株を, S社が3万株をそれ ぞれ有している。 甲社は, 種類株式発行会社ではなく, その定款には, 譲渡による甲社株式の取 得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがある。 2.甲社は, 乳製品及び洋菓子の製造販売業を営んでおり, その組織は, 乳製品事業部門と洋菓子 事業部門とに分かれている。 乳製品事業部門については, Aが業務の執行を担当しており, 甲社の工場で製造した乳製品を 首都圏のコンビニエンスストアに販売している。 また, 洋菓子事業部門については, Bが業務の執行を担当しており, 甲社の別の工場(以下「洋 菓子工場」という。 )で製造した洋菓子を首都圏のデパートに販売している。 甲社は, 世界的に 著名なP社ブランドの日本における商標権をP社から取得し, その商標(以下「P商標」という。 ) を付したチョコレートが甲社の洋菓子事業部門の主力商品となっている。 3.S社は, 洋菓子の原材料の輸入販売業を営んでおり, S社にとって重要な取引先は, 甲社であ る。 4.平成22年1月, 甲社は, 関西地方への進出を企図して, マーケティング調査会社に市場調査 を委託し, 委託料として500万円を支払った。 5.Bは, 関西地方において洋菓子の製造販売業を営む乙株式会社(以下「乙社」という。 )の監 査役を長年務めていた。 Bの友人Dが乙社の発行済株式の全部を有し, その代表取締役を務めて いる。 平成22年3月, Bは, Dから乙社株式の取得を打診され, 代金9000万円を支払って乙社 の発行済株式の90%を取得した。 Bは, この乙社株式の取得に際して, A及びCに対し, 「乙 社の発行済株式の90%を取得するので, 今後は乙社の事業にも携わる。 」と述べたが, A及び Cは, 特段の異議を述べなかった。 Bは, この乙社株式の取得と同時に, 乙社の監査役を辞任し て, その顧問に就任し, その後, 連日, 乙社の洋菓子事業の陣頭指揮を執った。 また, Bは, 同 年4月以後, 月100万円の顧問料の支払を受けている。 平成22年4月, 乙社は, 業界に知人の多いBの紹介により, チョコレートで著名なQ社ブラ ンドの商標(以下「Q商標」という。 )を日本において独占的に使用する権利の設定を受けた。 6.平成22年5月, Bは, 甲社におけるノウハウを活用するため, 洋菓子工場の工場長を務める Eを甲社から引き抜き, 乙社に転職させた。 Eの突然の退職により, 甲社の洋菓子工場は操業停 止を余儀なくされ, 3日間受注ができず, 甲社は, その間, 1日当たり100万円相当の売上げ を失った。 7.その後, 乙社は, 関西地方のデパートへの販路拡大に成功し, 平成21事業年度(平成21年 4月から平成22年3月まで)に200万円であった乙社の営業利益は, 翌事業年度には100 0万円に達した。 8.平成23年4月, 甲社は, 乙社が関西地方においてQ商標を付したチョコレートの販路拡大に 成功したことを知り, 関西地方への進出を断念した。 - 2 - 〔設問1〕 上記1から8までを前提として, Bの甲社に対する会社法上の損害賠償責任について, 論じなさい。 9.平成23年7月, Bは, 甲社の取締役を辞任した。 Bに代わり, Fが甲社の取締役に就任し, 洋菓子事業部門の業務の執行を担当するようになったが, Bの退任による影響は大きく, 同部門 の売上げは低迷した。 10.平成24年5月, 甲社は, 洋菓子事業部門の売却に向けた検討を始め, 丙株式会社(以下「丙 社」という。 )との交渉の結果, 同部門を代金2億5000万円で丙社に売却することとなった。 その際, 甲社の洋菓子事業部門の従業員については, 一旦甲社との間の雇用関係を終了させた上 で, その全員につき新たに丙社が雇用し, 甲社の取引先については, 一旦甲社との間の債権債務 関係を清算した上で, その全部につき新たに丙社との間で取引を開始することとされた。 その当 時, 甲社が依頼した専門家の評価によれば, 甲社の洋菓子事業部門の時価は, 3億円であった。 11.上記の洋菓子事業部門の売却については, その代金額が時価評価額より安価である上, 株主で あるS社が得意先を失うことになりかねず, S社の反対が予想された。 平成24年7月2日, Aは, 洋菓子事業部門の売却をS社に知らせないまま, 甲社の取締役会 を開催して, 取締役の全員一致により, 洋菓子工場に係る土地及び建物を丙社に代金1億500 0万円で売却することを決議した上で, 丙社と不動産売買契約を締結し, 丙社は, 甲社に対し, 直ちに代金を支払った(以下「第1取引」という。 )。 また, その10日後の平成24年7月12日, Aは, 甲社の取締役会を開催して, 取締役の全 員一致により, P商標に係る商標権を丙社に代金1億円で売却することを決議した上で, 丙社と 商標権売買契約を締結し, 丙社は, 甲社に対し, 直ちに代金を支払った(以下「第2取引」とい う。 )。 第1取引及び第2取引に係る売買契約においては, 甲社が洋菓子事業を将来再開する可能性を 考慮して, 甲社の競業が禁止されない旨の特約が明記された。 なお, 甲社の平成24年3月31日時点の貸借対照表の概要は, 資料@のとおりであり, その 後, 同年7月においても財務状況に大きな変動はなかった。 また, 同月2日時点の洋菓子事業部 門の資産及び負債の状況は, 資料Aのとおりであり, 資産として, 洋菓子工場に係る土地及び建 物(帳簿価額は1億5000万円)並びにP商標(帳簿価額は1億円)があるが, 負債はなかっ た。 12.平成24年7月下旬, 第1取引及び第2取引に基づき, 洋菓子工場に係る不動産の所有権移転 登記及びP商標に係る商標権移転登録がされた。 13.平成24年8月, 甲社が第1取引及び第2取引をしたことを伝え聞いたS社は, Aに対し, 甲 社において株主総会の決議を経なかったことにつき強く抗議し, 翻意を促した。 〔設問2〕 第1取引及び第2取引の効力に関する会社法上の問題点について, 論じなさい。 14.平成25年6月, 甲社は, 将来の株式上場を目指して, コンビニエンスストア市場に精通した 経営コンサルタントであるGとアドバイザリー契約を締結した。 その際, 甲社は, このアドバイ ザリー契約に基づく報酬とは別に, 甲社株式が上場した場合の成功報酬とする趣旨で, Gに対し, 新株予約権を発行することとした。 15.上記の新株予約権(以下「本件新株予約権」という。 )については, @Gに対して払込みをさ せないで募集新株予約権1000個を割り当てること, A募集新株予約権1個当たりの目的であ る株式の数を1株とすること, B各募集新株予約権の行使に際して出資される財産の価額を50 00円とすること, C募集新株予約権の行使期間を平成25年7月2日から2年間とすること, D募集新株予約権のその他の行使条件は甲社の取締役会に一任すること, E募集新株予約権の割 - 3 - 当日を同月1日とすること等が定められた。 平成25年6月27日, 甲社の株主総会において, Gに特に有利な条件で本件新株予約権を発 行することを必要とする理由が説明されたところ, Bは, 募集新株予約権のその他の行使条件を 取締役会に一任することはできないのではないかと主張し, これに反対したが, A及びS社の賛 成により, 上記の内容を含む募集事項が決定された。 これを受けて, 甲社の取締役会が開催され, 取締役の全員一致により, 「甲社株式が国内の金融商品取引所に上場された後6か月が経過する までは, 本件新株予約権を行使することができない。 」とする行使条件(以下「上場条件」とい う。 )が定められた。 平成25年7月1日, 甲社は, Gとの間で新株予約権割当契約を締結し, Gに対し, 本件新株 予約権1000個を発行した。 16.その後, Gは, 上記のアドバイザリー契約に基づき, 甲社に様々な施策を提言し, Gのアドバ イスにより製造した低カロリーのヨーグルトが好評を博するなど, 甲社の業績は向上したが, 本 件新株予約権の行使期間内に上場条件を満たすには至らない見込みとなった。 平成26年12月上旬, Aは, Gから, 「上場すると思っていたのに, これでは割に合わない。 せめて株式を取得したいので, 上場条件を廃止してほしい。 」との強い要請を受けた。 Aは, 取 締役会で上場条件を廃止することができるのか疑問を持ったが, Gの態度に押され, 同月11日, C及びFを呼んで甲社の取締役会を開催し, 取締役の全員一致により上場条件を廃止する旨の決 議をした。 同日, 甲社は, Gとの間で, 上場条件を廃止する旨の新株予約権割当契約の変更契約 を締結した。 平成26年12月12日, Gは, 行使価額である500万円の払込みをして本件新株予約権を 行使し, Gに対し, 甲社株式1000株が発行された。 〔設問3〕 上記16で発行された甲社株式の効力に関する会社法上の問題点について, 論じなさい。 - 4 - 【資料@】 貸借対照表の概要 (平成24年3月31日現在) (単位:円) 科目 金額 科目 (資産の部) 金額 (負債の部) 流動資産 (略) (略) (略) (略) 負債合計 200,000,000 (純資産の部) 固定資産 有形固定資産 (略) 建物 100,000,000 土地 400,000,000 (略) 500,000,000 資本金 400,000,000 資本剰余金 100,000,000 資本準備金 (略) 無形固定資産 (略) 資産合計 − 利益剰余金 100,000,000 (略) 100,000,000 その他資本剰余金 (略) 商標権 (注) 株主資本 − 利益準備金 − その他利益剰余金 − 700,000,000 純資産合計 500,000,000 負債・純資産合計 700,000,000 「−」は, 金額が0円であることを示す。 【資料A】 洋菓子事業部門の資産及び負債の状況 (平成24年7月2日現在) (単位:円) 資産 項目 負債 帳簿価額 建物 50,000,000 土地 100,000,000 商標権 100,000,000 資産合計 (注) 250,000,000 「−」は, 金額が0円であることを示す。 - 5 - 項目 負債合計 帳簿価額 − 論文式試験問題集[民事系科目第3問] - 1 - [民事系科目] 〔第3問〕(配点:100〔 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 4:3:3〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 【事 例】 X(注文主)は, Y(請負人)との間で, 自宅(一戸建て住宅)をバリアフリーとするため, リフォーム工事を内容とする請負契約を, 代金総額600万円, 頭金を契約時に300万円支払 い, 残代金は工事完了引渡後1か月以内に支払う約定で締結した。 Xは, 工事を完了したYから工事箇所の引渡しを受けたが, Yの工事に瑕疵が存すると主張し て, 残代金300万円の支払を拒否した。 その後, XY間で交渉したが, 解決には至らなかった。 そのため, Xは, Yに対し, 瑕疵修補に代わる損害賠償として300万円を請求する訴え(本 訴)を提起した。 これを受けて, Yは, Xに対し, 未払の請負残代金である300万円の支払を請求する反訴を 提起した。 以下は, 弁論準備手続期日の終了後に, Yの訴訟代理人弁護士L1と司法修習生P1との間で された会話である。 L1:今回の裁判については, 争点整理もかなり進行していますが, P1さん, 現時点で裁判 所はどんな心証を持っていると感じていますか。 P1:裁判所にどうも瑕疵の存在を認めるような気配があることが気掛かりです。 でも, 残代 金が未払であることはXも認めていますから, 反訴も認容されるので, まあ仕方ないのでは ないでしょうか。 L1:XとYとがそれぞれ債務名義を取得するのは, 面倒なことになりませんか。 もっと簡便 で有効な対応策はありませんか。 P1:すみませんでした。 そう言われれば, 本訴請求債権が存在すると判断される場合に備え て, 反訴で請求している債権を自働債権とし, 本訴請求債権を受働債権とする訴訟上の相殺 の抗弁を提出しておくことが考えられます。 ただ, 既にその債権について反訴が係属してい る以上, 相殺の抗弁を提出すると, それに民事訴訟法第142条の法理が妥当するのではな いかという疑いがあります。 L1:そうですね。 関係する判例(最高裁判所平成3年12月17日第三小法廷判決・民集 45巻9号1435頁。 以下「平成3年判決」という。 )の事案と判旨を教えてください。 P1:平成3年判決の事案は, 被告が別訴の第一審で一部認容され, 現在控訴審で審理されて いる売買代金支払請求権を自働債権として本訴請求債権と対当額において相殺する旨の抗弁 を本訴の控訴審で提出した, というものです。 判旨は, 次のとおりです。 (判旨) 「係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺 の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である。 すなわち, 民訴法231条(現 142条)が重複起訴を禁止する理由は, 審理の重複による無駄を避けるためと複数の判決 において互いに矛盾した既判力ある判断がされるのを防止するためであるが, 相殺の抗弁が 提出された自働債権の存在又は不存在の判断が相殺をもって対抗した額について既判力を有 するとされていること(同法199条2項:現114条2項), 相殺の抗弁の場合にも自働 債権の存否について矛盾する判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があるけれど も理論上も実際上もこれを防止することが困難であること, 等の点を考えると, 同法231 - 2 - 条の趣旨は, 同一債権について重複して訴えが係属した場合のみならず, 既に係属中の別訴 において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する 場合にも同様に妥当する(以下省略)。 」 L1:本件では, 初めから本訴と反訴は併合審理されているのだから, 平成3年判決の趣旨は 当てはまらないのではないでしょうか。 P1:平成3年判決の事案では, 本訴, 別訴とも控訴審で併合審理されており, その段階で相 殺の抗弁が提出されたのですが, 平成3年判決は, 相殺の抗弁に民事訴訟法第142条の法 理が妥当することは, 「右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され, 両事件が併合審理された 場合についても同様である。 」と判示しています。 L1:そうでしたか。 平成3年判決は, 弁論が併合されている場合にも当てはまるのですね。 そうすると, 反訴請求を維持しつつ同一債権を相殺の抗弁に供したいという我々の希望を実 現するためには, この判例との抵触を避ける必要がありますが, 何かヒントとなる判例はあ りませんか。 P1:最高裁判所平成18年4月14日第二小法廷判決・民集60巻4号1497頁 (以下「平 成18年判決」という。 )は, 本訴被告(反訴原告)が反訴請求債権を自働債権として本訴 請求債権と相殺する旨の抗弁を提出したという事案で, そのような場合は訴え変更の手続を 要することなく, 反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が 示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴として扱われる以 上, 相殺の抗弁と反訴請求とが重なる部分については既判力の矛盾抵触が生じない旨判示し ています。 L1:予備的反訴として扱われると, なぜ既判力の矛盾抵触が生じないことになるのでしょう か。 また, 平成3年判決は, 相殺による簡易, 迅速かつ確実な債権回収への期待と, 相殺に 供した債権について債務名義を得るという2つの利益を自働債権の債権者である被告が享受 することは許されないとする趣旨だと思いますが, 平成18年判決は, その点について, ど のように考えているのでしょうか。 P1:実は, 勉強不足で, それらの点がよく理解できないのです。 L1:判例を丸暗記するだけでは, 良い法曹にはなれませんよ。 では, 良い機会ですから, 平 成3年判決の趣旨に照らし, 本件において反訴請求債権を自働債権として本訴請求債権と相 殺する旨の抗弁を適法と解しても, 平成3年判決と抵触しない理由をまとめてください。 検 討に当たっては, 一旦提起された反訴が予備的反訴として扱われると, 第一に, なぜ既判力 の矛盾抵触が生じないことになるのか, 第二に, 反訴原告は, 相殺による簡易, 迅速かつ確 実な債権回収への期待と, 相殺に供した自働債権について債務名義を得るという2つの利益 を享受することにはならないのはなぜか, を論じてください。 さらに, これは平成18年判 決についての疑問ですが, 第三に, 訴え変更の手続を要せずに予備的反訴として扱われるこ とが処分権主義に反しない理由はどのように説明したらよいか, また, 訴え変更の手続を要 せずに予備的反訴とされると反訴請求について本案判決を得られなくなる可能性があります が, それでも反訴被告(本訴原告)の利益を害することにならないのはなぜか, を論じてく ださい。 もちろん, 第三の点は, 我々の立場を積極的に理由付けることには役立ちませんが, 平成18年判決を理解する上で確認しておく必要があります。 〔設問1〕 あなたが司法修習生P1であるとして, L1が指摘した問題点を踏まえつつ, L1から与えら れた課題に答えなさい。 なお, 設問の解答に当たっては, 遅延損害金及び相殺の要件については, 考慮しなくてよい(設 - 3 - 問2及び設問3についても同じ。 )。 以下は, 第一審判決の言渡し後に, 担当裁判官Jと司法修習生P2との間でされた会話である。 J:この前, 訴訟記録を見てもらい, 意見交換をしたXY間の損害賠償請求訴訟ですが, その 時に述べたように, XのYに対する損害賠償請求権は認められるが, YのXに対する請負代 金請求権も認められるということで, 本訴におけるYの相殺の抗弁を認めた上で, 受働債権 と自働債権の額が同額だったので本訴請求を棄却するという判決をしました。 控訴もなく確 定しましたが, せっかくですから, ここで, 控訴審について, 少し勉強することにしましょ う。 Xが控訴した場合, その控訴について何か問題はありますか。 P2:Xの控訴自体は, 自らの請求が棄却されているのですから, 不服の利益もあると思うの で, 特に問題はないと思います。 J:確かに, Xの控訴自体は問題なさそうですね。 それでは, 仮に, 控訴審が審理の結果, そ もそもXが主張するような瑕疵はなく, Xの本訴請求債権である損害賠償請求権がないとの 心証を得た場合, 控訴審はどのような判決をすべきでしょうか。 P2:理由の重要な部分について, 原審と控訴審とで判断が異なっているわけですから, 控訴 審としては, 控訴を棄却するのではなく, 第一審判決を取り消して, 改めて請求を棄却すべ きではないかと考えます。 J:では, 控訴審はどのような判決をすべきかについて, あなたの言う第一審判決取消し・請 求棄却という結論の控訴審判決が確定した場合と, 相殺の抗弁を認めて請求を棄却した第一 審判決が控訴棄却によりそのまま確定した場合とを比較して検討してください。 〔設問2〕 あなたが司法修習生P2であるとして, Jから与えられた課題に答えなさい。 なお, Yによる控訴及び附帯控訴の可能性については考えなくてよい。 また, Yが控訴又は附 帯控訴をしない場合には, Xの本訴請求債権は控訴審の審判対象とならないとの見解もあるが, ここでは, Xの本訴請求債権の存否が控訴審の審判対象となるとの前提に立って検討しなさい。 以下は, 第一審判決の確定後に, Xの訴訟代理人弁護士L2と司法修習生P3との間でされた 会話である。 L2:本件では, いろいろと努力をした結果, Xの損害賠償請求権は認められたのですが, 一 方で, Yの相殺の抗弁も認められて, Xの本訴請求は棄却されました。 Yも控訴することな く, 第一審判決が確定したので, ほっとしていたところでしたが, 先ほどXから連絡があり, Yが不当利得の返還を求める文書を送付してきたというのです。 P3:Yの言い分は, どのようなものでしょうか。 L2:Yは, 弁護士に相談していないようで, あまり法律的でない内容の文書だったのですが, これを私なりにまとめ直してみました。 (Yの言い分) @ XのYに対する損害賠償請求権は, 工事に瑕疵がないので, そもそも存在していなかった。 A それなのに, 裁判所は, XのYに対する損害賠償請求権を認めた。 B 請負代金請求権に対立する債権は存在していなかったのだから, 相殺の要件を欠いている。 C そこで, YとしてはXに対し請負代金の請求をしたいが, それは既判力によって制限されて いる。 D したがって, Xは, 請負代金請求を受けないことによって利益を受けており, 一方, Yは, 請負代金を請求できないことにより損失を被っているので, 不当利得返還請求をする。 - 4 - P3:仮に, Yが訴えを提起した場合, 我々はどのように対応したらいいのでしょうか。 L2:本訴の判決は確定しているので, Yの主張は, 本訴の確定判決の既判力によって認めら れないという反論を考えてみましょう。 まず, 仮に, YがXに対し請負代金請求訴訟を提起 したとしたらどうでしょうか。 P3:この場合, Yは, 本訴で相殺の抗弁として主張した請負代金請求権と同じ権利を主張し ていることになります。 そうすると, 民事訴訟法第114条第2項により, 請負代金請求権 が存在するとの主張が既判力によって遮断されることは, Yの言い分のとおりだと思います。 L2:そうなりそうですね。 では, 本件はどうですか。 P3:Yは, 不当利得返還請求権という請負代金請求権とは別の訴訟物を立てているので, 既 判力は作用しないと思います。 しかし, 本件でYが主張している内容は, 本訴で争いになっ た損害賠償請求権は存在しないということを理由としており, 明らかにおかしいので, 信義 則を使うことができるのではないでしょうか。 L2:いきなり一般条項に頼るのではなく, 民事訴訟法第114条第2項の既判力で解決する ことができないかを, よく考えてみるべきではないですか。 P3:すみません。 法科大学院の授業で, 民事訴訟法第114条第2項の解釈として, 相殺の 時点において, 受働債権と自働債権の双方が存在し, それらが相殺により消滅した, という 内容の既判力が生じると解する説を聞いたことがあります。 この説によれば, 同項の既判力 により, Yの主張が遮断されることを容易に説明することができます。 L2:確かに, その説によれば, YがXに不当利得返還請求をしても, 相殺の時点で損害賠償 請求権が存在していたことに既判力が生じている以上, 利得に法律上の原因がないと主張す ることができない, と言いやすいですね。 しかし, 債権が消滅した理由についての判断にも 既判力が生じるというのは, 既判力の一般的な考え方にそぐわないと言われており, この説 は現在の学説上は支持を失っているので, これに依拠して立論するわけにはいきません。 民 事訴訟法第114条第2項をその説のように理解しなくても, 同項によりYの請求が認めら れないことを説明できないか検討すべきです。 その前提として, 今一度, Yの言い分を不当 利得返還請求権の要件に当てはめて整理した上で, それに対する既判力の作用を検討してく ださい。 P3:分かりました。 難しいですがやってみます。 〔設問3〕 あなたが司法修習生P3であるとして, L2から与えられた課題について検討した上, Yの請 求が既判力によって認められないことを説明しなさい。 - 5 -