平成27年司法試験論文式試験問題出題趣旨 【公法系科目】 〔第1問〕 本年は,平等の問題と表現の自由の問題を問うこととした。本年の問題も,憲法上の基本的 な問題の理解や,その上での応用力を見ようとするものである。しかし,問題の構成について は,次の点で従来のものを変更した。 まず,従来は, 「被告の反論」を「あなた自身の見解」を中心とする設問2に置いていたが,そ れを「原告の主張」と対比する形で設問1に置き,さらに,各設問の配点も明記することにした。 これまで出題側としては, 「被告の反論」の要点を簡潔に記述した上で, 「あなた自身の見解」を手 厚く論じることを期待して,その旨を採点実感等に関する意見においても指摘してきたが,依然と して「被告の反論」を必要以上に長く論述する答案が多く,そのことが本来であれば手厚く論じて もらいたい「あなた自身の見解」の論述が不十分なものとなる一つの原因になっているのではない かと考えたからである。そこで,本年は, 「原告の主張」と「被告の反論」の両者を設問1の小問 として論じさせることとし,かつ,配点を明記することによって, 「被告の反論」について簡にし て要を得た記述を促し,ひいては「あなた自身の見解」の論述が充実したものとなることを期待し た。 また,論文式試験においては,設問の具体的事案のどこに,どのような憲法上の問題があるのか を的確に読み取って発見する能力自体も重視される。しかし,本年は,論述の出発点である原告と なるBが憲法との関係で主張したい点を問題文中に記載することとした。これは,後述するように, 本問には平等に関してこれまで論じられてきた典型的な問題とは異なる問題も含まれており,この 点も含めてひとまず平等に着目した論述を期待する見地からである。また,平等の問題と表現の自 由の問題は,いずれも多くの論点を含む憲法上の基本的な問題であるため,着眼点を具体的に示す ことで,その分,論述内容の充実を求めたいとの考えもあった。そこで,本年は,原告となるBが 主張したい点につき問題文中で明記するとともに,設問1において, 「Bの主張にできる限り沿っ た訴訟活動を行うという観点から」との条件を付した。 本年の問題の一つは平等である。憲法第14条第1項の「法の下の平等」について,判例・ 多数説は,絶対的平等ではなく,相対的平等を意味するとしている。この平等に関し,原告と なるBは,Dらとの比較において,これまで論じられてきた問題を提起しているほか,Cとの 比較において,「違う」のに「同じ」に扱われたという観点からの問題も提起している。平等 が問題となる具体的事例においては,何が「同じ」で,何が「違う」のかを見分けることが議 論の出発点となることから,本問でも,まずは,Bの主張を踏まえ,「同じ」点と「違う」点 についての具体的な指摘とその憲法上の評価が求められることとなる。その上で,憲法が要請 する平等の本質等にも立ち返りつつ,自由権侵害とは異なる場面としての平等違反に関する判 断枠組みをどのように構成するかが問われることになる。 そして,典型的な問題であるDらとの比較については,判定期間中のBの勤務実績は,正式採用 された「Dらと比較してほぼ同程度ないし上回るものであった」にもかかわらず,A市は,Dらを 正式採用する一方で, 「Y採掘事業に関する・・・考えを踏まえると,Y対策課の設置目的や業務 内容に照らしてふさわしい能力・資質等を有しているとは認められなかった」として,Bを正式採 用しなかったことについての検討が必要となる。すなわち,Bは, 「Yが有力な代替エネルギーで あると考えているが,その採掘には・・・危険性があることから,この点に関する安全確保の徹底 が必要不可欠であると考えて」おり,Y採掘事業の必要性や有益性を認めているが,その採掘にお いては種々の危険があるので,安全性が最重要と考えている者である。この場合,天然資源開発に 伴う危険性を踏まえ,その安全性の確保を最重要視する考え自体が不当な考えであるとは言えない -1- はずである。それにもかかわらず,A市が上述のような考えを持つBを正式採用せず,ほぼ同程度 ないし下回る勤務実績のDらを正式採用したことは,天然資源開発における安全性の確保という言 わば当然とも言うべき基本的な考え自体を否定的に評価するもので,憲法第14条第1項で例示さ れている「信条」に基づく不合理な差別となるのではないかという検討が必要である。 また,本年の問題で,原告となるBは,Cと「違う」にもかかわらずCと「同じ」に扱われ て正式採用されなかったという点からも問題提起をしている。ここで問題となるのは,BとC はいずれも正式採用されなかったところ,Y採掘事業に関する両者の意見は,結論としては反 対意見の表明という共通性があるとしても,その具体的な内容が違うことに加え,BとCがそ れぞれの意見表明に当たってとった手法・行動等も違うことである。したがって,ここでは, こうしたBとCとの具体的な「違い」を憲法上どのように評価するかを踏まえた論述が求めら れる。 本年のもう一つの問題は,表現の自由である。すなわち,Bは,自分の意見・評価を甲市シ ンポジウムで「述べたこと」が正式採用されなかった理由の一つとされたことを問題視してい るので,そこでは,内面的精神活動の自由である思想の自由の問題よりも,外面的精神活動の 自由である表現の自由の問題として論じることが期待される。その際には,意見・評価を述べ ること自体が直接制約されているものではないことを踏まえつつ,「意見・評価を甲市シンポ ジウムで述べたこと」が正式採用されなかった理由の一つであることについて,どのような意 味で表現の自由の問題となるのかを論じる必要がある。そのような観点からは,上述のような 理由により正式採用されないことは,Bのみならず,一般に当該問題について意見等を述べる ことを萎縮させかねないこと(表現の自由に対する萎縮効果)をも踏まえた検討が必要となる。 その上で,この点に関しては,正式採用の直前においてもBが反対意見を述べていることな どから惹起される「業務に支障を来すおそれ」の有無についての検討も必要となる。その検討 に当たっては,外面的精神活動の自由である表現の自由の制約に関する判断枠組みをどのよう に構成するかが問われることとなるところ,例えば,内容規制と評価し,表現の自由が問題と なった様々な判例を踏まえた判断枠組みも考えられるであろう。どのように判断枠組みを構成 するかは人それぞれであるが,いずれにしても,一定の判断枠組みを用いる場合には,学説・ 判例上で議論されている当該判断枠組みがどのような内容であるかを正確に理解していること が必要である。その上で,本問においてなぜその判断枠組みを用いるのかについての説得的な 理由付けも必要であるし,判例を踏まえた論述をする際には,単に判例を引用するのではなく, 当該判例の事案と本問との違いも意識した論述が必要となる。 〔第2問〕 本問は,Xが消防法及び危険物の規制に関する政令(以下「危険物政令」という。)上の一 般取扱所(以下「本件取扱所」という。)を設置していたところ,近隣に葬祭場(以下「本件 葬祭場」という。)が建築されたことから,Y市長がXに対して移転命令(以下「本件命令」 という。)を発しようとしている事案における法的問題について論じさせるものである。論じ させる問題は,本件命令に対する事前の抗告訴訟の適法性(設問1),本件命令が発せられた 場合における本件命令の適法性(設問2),Xが本件命令に従った場合における損失補償の要 否(設問3)である。問題文と資料から基本的な事実関係を把握し,消防法及び関係法令の 関係規定の趣旨を読み解いた上で,行政処分の適法性,抗告訴訟の訴訟要件,及び損失補償 の要否を論じる力を試すものである。 設問1は,処分の差止め訴訟の訴訟要件に関する基本的な理解を問う問題である。考えら れるXの訴えとして本件命令の差止め訴訟を挙げた上で,本件の事実関係の下で,当該訴え が行政事件訴訟法第3条第7項及び第37条の4に規定された「一定の処分…がされようと -2- している」,「重大な損害を生ずるおそれ」,「損害を避けるため他に適当な方法がある」とは いえない等の訴訟要件を満たすか否かについて検討することが求められる。特に,「重大な損 害を生ずるおそれ」の要件については,最高裁平成24年2月9日第一小法廷判決(民集6 6巻2号183頁)を踏まえて判断基準を述べた上で,本件命令後直ちにウェブサイトで公 表されて顧客の信用を失うおそれがあることが,同要件に該当するかを検討することが求め られる。 設問2は,保安距離の短縮に関するY市の内部基準(以下「本件基準」という。)に従って 行われる本件命令の適法性の検討を求めるものである。まず,本件命令の根拠規定である消 防法第12条第2項及び危険物政令第9条第1項第1号の趣旨,内容及び要件・効果の定め 方から,Y市長が本件命令を発するに当たり,裁量が認められるか,そして,距離制限によ る保安物件の安全の確保と,保安物件が新設された場合に既存の一般取扱所の所有者等が負 う可能性のある負担とを,どのように考慮して調整することが求められるかを検討しなけれ ばならない。次いで,危険物政令第9条第1項第1号ただし書及び第23条のそれぞれの趣 旨,要件・効果及び適用範囲を比較して両者の相互関係を論じ,後者の規定を本件に適用す る余地があるかを検討することが求められる。そして,本件基準の法的性質について,それ が上記の裁量を前提にすると裁量基準(行政手続法上の処分基準)に当たることを示し,本 件基準@,Aそれぞれについて,法令の関係規定の趣旨に照らし裁量基準として合理的かど うか,基準としては合理的であっても,本件における個別事情を考慮して例外を認める余地 がないか,検討することが求められる。すなわち,本件基準@の短縮条件として,工業地域 につき倍数(取扱所で取り扱われる危険物の分量)の上限が定められていることは合理的か, 本件基準Aの短縮限界距離が,本件基準B所定の防火塀の高さを前提に諸事情を考慮して設 けられていることは合理的か,そして,本件基準@及びAを僅かに満たさない場合に,水準 以上の防火塀や消火設備の設置を理由に同基準の例外を認めるべきか等の論点を指摘しなけ ればならない。 設問3は,損失補償の定めが法律になくても,憲法第29条第3項に基づき損失補償を請 求できるという解釈を前提にした上で,本件の事実関係の下でXがY市に損失補償を請求す ることができるかについて論じることを求めている。まず,消防法第12条1項の維持義務 の性質についての検討が求められる。その際,地下道新設に伴う石油貯蔵タンクの移転に対 する道路法第70条第1項に基づく損失補償の要否が問題となった最高裁昭和58年2月1 8日第二小法廷判決(民集37巻1号59頁)の趣旨も踏まえなければならない。この維持 義務が公共の安全のための警察規制であって,取扱所の所有者等は許可を受けた時点以降も 継続的に基準適合状態を維持しなければならないという趣旨であるとすれば,事後的な事情 変更があっても,少なくとも本件取扱所の所有者等が当該事情の発生を本件取扱所の設置時 にあらかじめ計画的に回避することが可能であった場合については,損失補償は不要といえ ないか,検討しなければならない。その上で,第一種中高層住居専用地域から第二種中高層 住居専用地域への用途地域の指定替えによる本件葬祭場の新設は,計画的に回避することが 不可能な事情といえるか,そもそも指定替え前の第一種中高層住居専用地域においても学校, 病院等が建築可能であることをどう考えるかなどを論じることが求められる。 なお,受験者が出題の趣旨を理解して実力を発揮できるように,本年も各設問の配点割合 を明示することとした。 【民事系科目】 〔第1問〕 本問は,AがBとの間で丸太について所有権留保付き売買契約を締結していたにもかかわら ず,BがAに無断でその丸太を製材し,製材後の材木をCに売却した後,Cがその材木の一部 -3- をDから請け負った乙建物のリフォーム工事に使用した事例(設問1),Aがその所有する甲 土地上の立木をEに売却し,Eがその立木の半分に明認方法を施した後,Aから甲土地を買い 受けたFが全ての立木を切り出し,その切り出した丸太をGに預けた事例(設問2),Cの子 である15歳のHが夕刻に自宅前の道路に角材を置いたことにより,その道路を通り掛かった Kの運転する自転車が転倒し,その自転車の幼児用シートに乗っていたKの子である3歳のL が傷害を負った事例(設問3)に関して,民法上の問題についての基礎的な理解とともに,そ の応用を問う問題である。当事者の利害関係を法的な観点から分析し構成する能力,その前提 として,様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解し,それに即して論旨を 展開する能力などが試される。 設問1は,添付と即時取得という物権法の基本的事項に対する理解を問うとともに,これと 関連する形で不当利得についても検討させることにより,法律問題相互の関係の正確な理解と それに基づく法的構成力を問うものである。 では,Aは,Cに対して,材木@の所有権がAに帰属すると主張してその引渡しを請求し ていることから,材木@の所有権の所在について検討することが求められる。その際,AB間 における丸太の売買契約では,Bが売買代金を支払うまで丸太の所有権はAに留保されている こと,Bがまだ売買代金を支払っていないこと,丸太の製材は加工に当たり,民法第246条 第1項本文及びただし書によると,材木@の所有権は丸太の所有者であるAに帰属することを 的確に分析することが期待されている。 これに対し,Cの反論としては,即時取得(民法第192条)を主張することが考えられる。 Cは,Bとの売買契約,つまり取引行為に基づき,材木@の引渡しを受けているからである。 しかし,【事実】2によれば,Bが材木@の所有者であると信じたことにつき,Cには過失が 認められる。ここでは,事実を的確に評価する能力が問われる。 では,Aは,Dに対して,材木Aの価額の償還を求めていることから,その根拠が確認さ れなければならない。まず,材木Aは,材木@と同様の理由からAの所有物であるが,Dの所 有する乙建物に組み込まれて一体化されている。これは付合に当たり,民法第242条本文に よると,乙建物の所有者であるDが材木Aの所有権を取得する。その結果,材木Aの所有権を 失ったAは,民法第248条に従い,Dに対し,その償金を請求することができる。このAの 請求を基礎付けるに当たっては,付合の意義が正確に説明され,本問に示された事実関係に即 して適切な当てはめをすることが求められる。 また,民法第248条は「第703条及び第704条の規定に従い」としていることから, AのDに対する請求の具体的な内容を確定するためには,不当利得の成立要件について,本問 に示された事実関係に即して検討する必要がある。ただし,要件を単に羅列することは求めら れておらず,付合に関する当てはめをする中で,これらの要件を実質的に検討することでも足 りる。 さらに,AがDに対して請求することができる額について,AB間の関係を考慮に入れた分 析をすることも期待されている。材木Aの価額は200万円であるから,材木Aの所有者であ るAは,Dに対して,200万円を請求することができるはずである。他方,材木Aの材料に 当たる丸太の価額は150万円であるため,Aが受けた損失を勘案するならば,AがDに対し て請求できる額は150万円にとどまると考える余地もある。 これに対して,Aの償金請求に対するDの反論として考えられるのは,例えば,DがCに請 負代金を支払済みであることから,その限度でDの利得は消滅したという主張である。この反 論を基礎付けるためには,Aが受益をした時点,つまり材木Aが乙建物に付合した時点におい て,Dが善意であり(材木Aの所有権をCが有しないことを知らなかった),かつ,悪意に転 じる前に,Cに請負代金を支払ったことが指摘されなければならない。 しかし,仮にDが自分で乙建物のリフォーム工事をするためにCから材木Aを購入し,まだ -4- 材木Aが乙建物に付合していないとすると,Dについて即時取得が成立しない限り,DがCに 材木Aの売買代金を支払ったとしても,AはDに対して材木Aの返還を請求することができる はずである。このような観点からすると,DがCに請負代金を支払っていることを理由として, Dの利得の消滅を認めることは適切でなく,むしろ,Dにおいて材木Aの価値に相当するもの を即時取得したと評価することができる場合に,Dの利得について法律上の原因が認められ, DはAの償金請求を拒絶することができると考える可能性もある。その際には,引渡し時にお ける善意無過失という即時取得の要件について,Dは,乙建物の鍵のうちの1本をCに交付し て仮住まいの家に移っただけであるから,Cを通じて乙建物を間接的に占有していると評価す ることができ,材木Aが乙建物に付合した時に材木Aの引渡しを受けたのと同じ状況となるか ら,Dの善意無過失について判断すべき基準時は付合が生じた時点であること等が問題となる。 設問2は,立木が二重に譲渡された後に切り出された場合においてその切り出された丸太に ついて返還請求がされた事例を素材として,所有権に基づく物権的返還請求権の主張に対する 典型的な抗弁の1つである対抗要件具備による所有権喪失の抗弁について正確な理解を有して いるかどうか及び民事留置権の成否に関して事案に即した適切な検討ができるかどうかを問う ものである。 では,対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の構造を正確に理解した上で,それを本問の 事例に即して展開し応用する能力が問われている。 Gが「丸太BをEが所有することを争うことによって」Eの請求を拒否する旨主張する根拠 は,Fが対抗要件を具備することにより丸太Bの所有権を確定的に取得した結果,Eがその所 有権を喪失したことに求められる。そのため,ここではまず,Gの主張の根拠が,この意味で の対抗要件具備による所有権喪失の抗弁に求められることを説明し,Gが主張・立証すべき事 実を的確に示すことが求められる。 その前提として,EのGに対する請求は,丸太Bの所有権がEに属することを理由とする。 これは,丸太Bが,甲土地から切り出される前は,甲土地に生育していた立木であること,こ の本件立木は,甲土地の定着物(民法第86条第1項)ないし甲土地と付合して一体となるも の(民法第242条)であることから,甲土地の所有者であるAに帰属すること,EはAから 売買により本件立木の所有権を取得したこと,その後本件立木が甲土地から切り出されても, Eの所有権は切り出された丸太に及び続けることによって基礎付けられる。 その上で,Gの主張は,Aが甲土地及び甲土地上の本件立木をFに売却する旨の契約が締結 され,それに基づき甲土地についてAからFへの所有権移転登記がされたことによって,民法 第177条により,Fが本件立木の所有権を確定的に取得したこと,したがってEは本件立木 の所有権を喪失したことによって基礎付けられる。本件立木は甲土地の定着物ないし甲土地と 付合して一体となるものであることから,厳密に言うと,Fは,甲土地の売買により本件立木 の所有権を取得し,甲土地の所有権移転登記により本件立木についても対抗要件を具備するこ とになる。 このほか,Gの主張の根拠としては,対抗要件の抗弁を考える余地もある。これは,Aから Eへの本件立木の売買に基づく物権変動について,Fから丸太Bの寄託を受けたGが民法第1 77条の第三者に当たること,あるいは民法第177条の第三者に当たるFの地位をGが援用 することにより,丸太Bに対応する立木について明認方法を具備していないEはその所有権の 取得をGに対抗することができないという構成による。その際には,受寄者が民法第177条 の第三者に当たるか否かが問題となることなどを踏まえて,対抗要件の抗弁が認められる理由 を適切に論じることが求められる。 では,寄託契約に基づく保管料債権を被担保債権とする民事留置権の成否について正確に 検討することができるかどうかが問われている。 ここでは,まず,Gの主張が民事留置権(民法第295条)に基づくものであることを示す -5- 必要がある。商事留置権の成否について検討する必要はない(【事実】9を参照)。 このGの主張が認められるためには,民事留置権の要件の全て,すなわち,(i)他人の物を 占有していること,(ii)その物に関して生じた債権を有すること,(iii)被担保債権の弁済期 が到来していること,(iv)占有が不法行為によって始まったものでないことについて,主張・ 立証責任の所在にも留意しつつ,それぞれの要件の意味を示し,それに該当する事実の有無を 判断することが求められる。 本問では,民事留置権の目的物である丸太Cは,切り出される前の立木についてEが明認方 法を具備していたことから,Eの所有に属する。それに対して,被担保債権である丸太Cの保 管料債権の債務者はFであるため,このような場合に単純に民事留置権の成立を認めると,E の所有物がEとは無関係のFの債務の担保に供される事態を認めることになり,民事留置権の 成立を認めることが適当かどうかという問題が生じる。そこで,(i)の要件について,被担保 債権の債務者以外の者が所有する物も「他人の物」といえるか否か,あるいは,(ii)の要件に ついて,このような場合に被担保債権と物との間に牽連性が認められるか否かについて,留置 権の制度趣旨に遡った検討をすることが期待される。 また,本問では,Fが丸太Cを甲土地から切り出してGに寄託した行為はEに対する不法行 為に該当すると考えられることから,Gが丸太Cを預かった行為もEに対する不法行為に該当 し,(iv)の要件が充足されないことになるか否かも問題となる。この点については,【事実】 9の事情を適切に評価して,Gの不法行為の成否を判断することが求められる。 なお,民事留置権の主張を認めるためには,その全ての要件が充足されていることを確認す る必要があるのに対し,例えば,(i)や(ii)の要件について必要十分な検討を経てその充足が 否定される場合には,民事留置権の成立を否定する結論を出すために,他の要件について検討 する必要はない。そのような場合,他の要件について検討していないことを理由に不利に扱わ れることはない。 設問3は,未成年者であるHの不法行為を素材として,不法行為法についての基本的な知識 とその理解を問うものである。責任能力がある未成年者の不法行為についての監督義務者の責 任と被害者側の過失についてはいずれも確立した判例があることから,それを踏まえて検討す ることが期待されている。 で問われているのは,Hの親であるCの責任であるが,Cの責任については,Hに不法行 為責任が認められるか否かによって,その法律構成が異なる。Hが本件角材を路上に置く行為 は,客観的に不法行為に当たると考えられるが,Hに責任能力が認められない場合,Hの不法 行為責任は否定される(民法第712条)。その場合には,Hの親権者であり,法定監督義務 者となるCについて,民法第714条に基づく責任が認められる可能性がある。他方で,同条 は,直接の加害者に責任能力が認められない場合の補充的責任を定めたものであり,Hに責任 能力が認められる場合には,適用されない。しかし,このように直接の加害者である未成年者 に責任能力が認められる場合でも,判例は,その監督義務者が民法第709条によって責任を 負う可能性を認めている。本問では,これらの全体的な相互関係を踏まえて,Cの不法行為責 任の成否を適切に論じることが求められる。 まず,Hの責任能力については,民法には明確な年齢基準が定められていないものの,従来 の判例では,12歳前後がその基準とされていることから,既に満15歳に達し中学3年生で あるHについては,特段の事情がない限り,責任能力が肯定されると考えられる。したがって, これを前提とする限り,Cについて,民法第714条に基づく責任を追及することはできない。 しかし,判例は,未成年者の責任能力が肯定される場合でも,監督義務者に監督義務違反と しての故意又は過失が認められ,それと結果との間に相当因果関係があれば,監督義務者自身 の不法行為として,民法第709条の責任を負うことを認めている。これによると,Cについ て監督義務違反が認められるか否か,認められるとした場合,その監督義務違反とLの権利侵 -6- 害との間に相当因果関係が認められるか否かについて,本問に示された事実関係に即して,的 確に検討することが求められる。もっとも,このように判例に依拠して検討することが唯一の 解答ではなく,適切な理由付けによってこれと異なる論じ方をすることも排除されていない。 は,賠償額について,Cはどのような反論をすることが考えられるかを検討させるもので ある。ここでは,過失相殺について論じることが期待される。 【事実】16及び17によると,既に付近がかなり暗くなっていたにもかかわらず,Kが前照灯 の故障した自転車を,携帯電話を使用していたため,片手で運転していたことから,Kについ て過失と評価されるような事情が認められるが,Lについては,過失と評価されるような事情 は認められない。本問の損害賠償請求はLによるものであるため,L自身には過失がないにも かかわらず,こうしたKの過失が,Lの損害賠償請求において過失相殺の対象として考慮され るかどうかが問題となる。この点について,判例は,被害者自身の過失でなくても,被害者と 身分上・生活関係上の一体性が認められる者に過失があった場合については,その者の過失を 過失相殺の対象として考慮することを認めている。判例に即して論じる場合には,以上の点を 的確に示し,本問に示された事実関係に即して,その要件が満たされている否かを的確に検討 することが求められる。 もっとも,判例による被害者側の過失法理に依拠して検討することが唯一の解答ではない。 特に,被害者側の過失法理については,その妥当性を疑問視する見解も有力であり,判例と異 なる構成を採る場合であっても,適切な理由付けが行われ,その要件等が的確に検討されてい れば,それに相応した評価がされることになる。 〔第2問〕 本問は,会社法上の公開会社でない取締役会設置会社(甲社)において,取締役の競業行為 等についての競業避止義務違反又は忠実義務違反の成否とその違反が成立する場合における 取締役の損害賠償責任(設問1),会社の重要な事業の一部を二つの資産売買に分けて第三者 に売却する取引についての会社法上の規律とそのような取引の効力(設問2),株主総会の決 議により新株予約権の行使条件の決定を取締役会に委任すること及び取締役会の決議により 当該行使条件を廃止することについての法的瑕疵の有無とそのような新株予約権の行使によ り発行された株式の効力(設問3)に関し,会社法上の規律の基礎的な理解とともに,その 応用を問う問題である。 設問1では,まず,首都圏で洋菓子の製造販売業を営む甲社の取締役Bが,関西地方におい て同種の事業を営む乙社の事業に関連して行った競業行為に関し,競業避止義務違反(会社 法第356条第1項第1号,第365条第1項)が成立するかどうかについて,事案に即し て丁寧に論ずることが求められる。 会社法第356条第1項第1号所定の「自己又は第三者のために・・・取引をしようとす るとき」については,その「取引」が個々の取引行為をいうものとされていること,「自己又 は第三者のために」の解釈につき計算説と名義説とがあることを意識しつつ,取締役Bが自 己又は第三者のために取引をしたかどうかを検討する必要がある。その際,個々の取引は乙 社名義で行われ,Bは乙社の代表取締役ではないことを踏まえながら,Bは,乙社の発行済 株式の90%を取得し保有していること,Bは,連日,乙社の洋菓子事業の陣頭指揮を執っ ていたこと,Bは,乙社の顧問として,毎月100万円の顧問料の支払を受け,洋菓子工場 の工場長Eの引き抜きやQ商標の取得に関与したことなどの事情(事実上の主宰者性)に着 目すべきである。 甲社と乙社の市場は,設問1の時点では,地理的に競合しているとはいえない。そこで, 甲社が乙社の市場(関西地方)への進出を具体的に企図していた場合に,Bによる乙社の取 引が甲社の「事業の部類に属する取引」(会社法第356条第1項第1号)に該当するかどう -7- かについても論ずるべきであり,乙社が,甲社と同様に,洋菓子の製造販売業を営み,著名 な商標を付したチョコレートをデパートに販売していることのほか,甲社は,既にマーケテ ィング調査会社に関西地方の市場調査を委託し,委託料500万円を支払済みであることを 具体的に指摘する必要がある。 取締役会設置会社において取締役が競業取引をしようとする場合には,取締役会において当 該取引につき重要な事実を開示し,その承認を受けることを要する(会社法第356条第1 項,第365条第1項)。Bが,A及びCに対し,「乙社の発行済株式の90%を取得するの で,今後は乙社の事業にも携わる。」と述べたところ,A及びCは特段の異議を述べなかった という事実関係の下で,このような手続的要件が満たされるかどうかを論じなければならな い。 会社法第356条第1項違反が成立する場合には,その取引によって取締役又は第三者が得 た利益の額が,甲社の損害の額と推定される(同法第423条第2項)。本件では,このよう に推定される損害の額は幾らなのか,すなわち,第三者である乙社の得た利益の額とみるべ きか,又は取締役Bが得た利益の額とみるべきかについて,「自己又は第三者のために・・・ 取引をしようとするとき」という要件の当てはめとの論理的な整合性も意識しつつ,論ずる ことが求められる。そして,具体的な損害の額に関しては,乙社が得た利益としては,平成 22事業年度における営業利益の増額分800万円を,Bが得た利益としては,上記800 万円にBの持株比率である90%を乗じた額(720万円)ないしBが乙社から受領した顧 問料(100万円に月数を乗じた額)を挙げることなどが考えられ,これらと本件競業取引 との間の相当因果関係について検討する必要がある。 本件では,甲社の取締役Bの競業行為の結果,会社法第423条第2項により推定される 損害の額とは別に,現に甲社に損害が生じているとして,同条第1項に基づく損害賠償請求 が可能かどうかについても,検討する必要がある。具体的には,甲社がマーケティング調査 会社に支払った500万円の委託料について,Bの任務懈怠との間に相当因果関係があるか どうかなどを論ずることとなる。仮に,Bについて同法第356条第1項違反が成立しない との結論を採った場合においても,甲社に生じた損害について,別途,同法第423条第1 項に基づく損害賠償請求の可否を論ずることとなる。 次に,Bによる洋菓子工場の工場長Eの引き抜きについては,引き抜き行為自体を「競業取 引」と評価することは困難であるが,会社法第355条所定の忠実義務違反を原因とする同 法第423条第1項に基づく損害賠償請求の可否が検討されるべきである。Eが甲社におい て重要な地位にあったこと,Eの突然の退職により甲社の洋菓子工場は操業停止を余儀なく され,3日間受注ができず,1日当たり100万円相当の売上げを失ったこと,Bは甲社の 洋菓子事業部門の業務執行担当取締役であり,当該事業部門の利益を守るべき立場にあった ことなどを踏まえると,Bには任務懈怠が認められるであろう。この場合には,損害の額に 関する推定規定はなく,損害賠償責任の有無及びその額について丁寧に論ずる必要がある。 設問2では,まず,甲社が,会社の事業の一部(洋菓子事業部門)を二つの資産売買に分け て丙社に売却した取引に関し,これらを全体として事業譲渡と評価すべきかどうか,株主総 会の特別決議が必要となる「事業の重要な一部の譲渡」(会社法第467条第1項第2号)に 該当するかどうかについて,事案に即して論ずることが求められる。 甲社の洋菓子事業部門が二つの資産売買に分けて丙社に譲渡されたことに関しては,洋菓子 工場に係る不動産とP商標に係る商標権とにつき,各別の売買契約が締結され,それぞれ各 別に債務が履行されたという形式を重視すれば,二つの「重要な財産の処分」(会社法第36 2条第4項第1号)がされたものと評価することとなる。これに対し,当初,甲社と丙社と の間では,甲社の洋菓子事業部門の全体を代金2億5000万円で売却する旨の交渉がされ ていたという経緯,上記の各売買契約及びそれぞれの取締役会決議の時間的近接性,甲社の -8- 洋菓子事業部門に従事する従業員の全員が引き続き丙社に雇用されたこと,甲社の取引先に ついても実質的にその全部が丙社に引き継がれたこと,甲社の代表取締役Aは,株主である S社が洋菓子事業部門の売却に反対する可能性が高いため,株主総会の特別決議を潜脱する 意図で本件の取引を行ったと推測されることなどの事情を重視すれば,実質的に全体として 「事業の重要な一部の譲渡」(会社法第467条第1項第2号)がされたものと評価すること となる。この点についての問題意識が明らかにされる必要がある。 会社法第467条(旧商法第245条)により株主総会の特別決議による承認を必要とする 事業譲渡の意義について,判例(最高裁昭和40年9月22日大法廷判決・民集19巻6号 1600頁参照)は,会社法第21条(旧商法第24条)以下と同一の意義であって,@一 定の営業目的のために組織化され,有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的 価値のある事実関係を含む。)の全部又は重要な一部を譲渡し,Aこれによって,譲渡会社が その財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ,B譲 渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいう旨判 示している。この点について,@の要件が不可欠であることにほぼ争いはないが,A及びB の要件が不可欠であるかどうかについては解釈上の争いがあるところ,事業譲渡に株主総会 の特別決議が要求される趣旨を踏まえ,いずれかの立場に立った上で,本件の事案に当ては めて,会社法第467条所定の事業譲渡に該当するかどうかを論ずることが求められる。特 に,本件では,当事者間の特約により,競業避止義務が明示的に排除されていることに留意 すべきである。 事業譲渡に該当するとした場合には,更に,事業の「重要な」一部の譲渡に当たるかについ ても,論ずる必要がある。その際には,重要性の判断基準を示した上で,質的・量的な側面 から問題文の事実を具体的に当てはめるとともに,貸借対照表等の資料を分析して,株主総 会の特別決議を要しないこととなる形式基準(会社法第467条第1項第2号括弧書き,同 法施行規則第134条第1項)を満たすかどうかについても,検討することが求められる。 この資料によれば,譲り渡す資産の帳簿価額は2億5000万円であり,甲社の総資産額は 7億円であって,前者が後者の5分の1を上回るから,上記の形式基準を満たさない。 次に,本件では,会社法上の必要な手続を欠く場合の事業譲渡の効力について,論ずる必要 がある。この点について,会社法上特別の規定はないところ,判例(最高裁昭和61年9月 11日第一小法廷判決・集民148号445頁参照)は,事業譲渡契約は,株主総会の特別 決議によって承認する手続を経由していなければ,無効であり,その無効は,広く株主・債 権者等の会社の利害関係人の保護を目的とするものであるから,何人との関係においても常 に無効である旨判示している。このような考え方のほかに,善意無過失の譲受人を保護する ために相対的無効とみる考え方などもあり得るが,甲社の株主であるS社の保護,譲受人で ある丙社の保護の観点等を考慮しつつ,説得的な論述をすることが求められる。 仮に,本件について事業譲渡に該当しないとした場合には,本件の取引が「重要な財産の 処分」(会社法第362条第4項第1号)に該当するかどうかを検討することとなる。その際 には,重要性の判断基準について,判例(最高裁平成6年1月20日第一小法廷判決・民集 48巻1号1頁参照)は,当該財産の価額,その会社の総資産に占める割合,当該財産の保 有目的,処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断す べきものと判示しているところ,本件でも,事案に即して論ずる必要がある。結論として, 第1取引及び第2取引のいずれも「重要な財産の処分」に該当すると評価することになろう が,その場合には,いずれについても取締役会の決議を経ているので,会社法上の手続的要 件は満たされていることとなる。 設問3では,会社法上の公開会社でない会社における新株予約権の発行に関する規律を念 頭に置きつつ,@株主総会の決議により新株予約権の行使条件(上場条件)の決定を取締役 -9- 会に委任することの可否,A仮に,このような委任ができるとした場合に,当該行使条件を 取締役会の決議により廃止することの可否を論じた上で,B瑕疵のある手続により発行され た新株予約権の行使により発行された株式の効力,又は行使条件に反した新株予約権の行使 により発行された株式の効力について,論理的に整合した論述をすることが求められる。 まず,会社法上の公開会社でない会社においては,同法第238条第1項第1号所定の「募 集新株予約権の内容」の決定は,株主総会の特別決議を要し,取締役会に委任することがで きない(同法第238条第2項,第239条第1項第1号)ところ,新株予約権の行使条件 は「募集新株予約権の内容」に含まれ,その決定を取締役会に委任することができないとい う考え方と,取締役会への委任を許容する考え方とがあるが,いずれの考え方によるかを明 らかにしつつ,新株予約権の発行手続における瑕疵の有無を論ずることが求められる。そし て,仮に,新株予約権の行使条件の決定を取締役会に委任することが可能であるとした場合 でも,取締役会において当該行使条件の廃止を決議することができるかどうかについては, 株主総会による委任の趣旨を検討しつつ,論ずる必要がある。本件では,経営コンサルタン トGに対する新株予約権の発行が,甲社株式が上場した場合の成功報酬とする趣旨であった ことから,取締役会における上場条件の廃止の決議は,株主総会による授権の範囲を超えて 無効であると解することもできるであろう。 新株予約権の発行手続に瑕疵があるとした場合には,そのような発行手続の法令違反が新 株予約権の発行の無効原因となるか(なお,新株予約権の発行の無効の訴えの出訴期間であ る1年は既に経過している(会社法第828条第1項第4号)。),そのような新株予約権の行 使により発行された株式が無効となるかについて,検討する必要がある。これに対し,新株 予約権の発行は適法であるが,上場条件の廃止が無効であるとした場合には,甲社において 上場条件は新株予約権の重要な内容を構成しており,上場条件に反した新株予約権の行使に よる株式の発行については,既存株主の持株比率がその意思に反して影響を受けるため,重 大な瑕疵があるものとして,当該株式が無効となるのではないかという点について,検討す る必要がある。 設問3については,旧商法の下における判例 (最高裁平成24年4月24日第三小法廷判決・ 民集66巻6号2908頁参照)を参考にしながら,会社法上の公開会社でない会社におけ る新株予約権の発行等について,会社法の条文及び制度趣旨を踏まえた検討が望まれる。 〔第3問〕 本問は,リフォーム工事を内容とする請負契約に係る瑕疵修補に代わる損害賠償請求事件(本 訴)を基本的な題材として,反訴で訴求されている債権を自働債権とする相殺の抗弁を本訴に おいて提出することの適法性(〔設問1〕),相殺の抗弁を認めた第一審判決に対する控訴と不 利益変更禁止の原則との関係(〔設問2〕),民事訴訟法第114条第2項が規定する既判力の 内容とその具体的な作用の仕方( 〔設問3〕)について検討することを求めている。 これらの課題に含まれる論点には基礎的なものが含まれており,それだけに,受験者には, その基礎的な論点に係る正確な知識をもとにして,問題文に示された事実関係及び関連判例を 踏まえ,結論を導き出す論述を行うことが期待されている。 〔設問1〕は,XがYに対して提起した上記損害賠償請求事件(本訴)でYがXに対して反 訴を提起した場合において,反訴で訴求されている債権を自働債権とする相殺の抗弁を本訴に おいて提出することの適法性を検討することを求めている。その検討に当たっては,重複起訴 を禁止する民事訴訟法第142条の趣旨は,別訴で訴求されている債権を自働債権とする相殺 の抗弁を本訴において提出する場合にも妥当する,とした判例(最高裁判所平成3年12月1 7日第三小法廷判決・民集45巻9号1435頁。以下「平成3年判決」という。)と,反訴 で訴求されている債権を自働債権とする相殺の抗弁を本訴において提出する場合には重複起訴 - 10 - の問題は生じない,とした判例(最高裁判所平成18年4月14日第二小法廷判決・民集60 巻4号1497頁。以下「平成18年判決」という。)との相互関係を正しく理解しているこ とが必要である。 より具体的にいうと,第一に,反訴で訴求されている債権を自働債権とする相殺の抗弁を本 訴において提出すると,訴えの変更の手続を経由せずに,既に提起されていた反訴が予備的反 訴として扱われる,というのが平成18年判決の考え方であるが,平成3年判決は,重複起訴 の禁止を定める民事訴訟法第142条の趣旨を類推する主な根拠を,たとえ本訴と別訴とが併 合審理されていてもなお既判力の矛盾抵触のおそれがあることに求めているところ,平成18 年判決のように考えるとなぜそのおそれが生じないこととなるのかについて説明することが求 められている。第二に,平成3年判決は,相殺の担保的機能という利益と反対債権について債 務名義を取得するという利益とを二重に享受することは許さないとする趣旨と解されるが,平 成18年判決の考え方ではなぜ二重の利益を享受する結果にならないのかについて,説明する ことが求められている。 〔設問2〕は,XがYに対して提起した上記損害賠償請求事件(本訴)において提出された 相殺の抗弁を認めて本訴請求を棄却した第一審判決に対し,Xのみが控訴した場合において, 控訴審における審理の結果,本訴の訴求債権の不存在が明らかとなったとき,控訴審が第一審 判決を取り消し,上記訴求債権の不存在を理由として改めて請求棄却の判決をすることが許さ れるかどうかを問うものである。より具体的にいうと,控訴審が第一審判決を取り消し請求棄 却の判決をすることが,控訴したXにとって原判決の不利益変更となるか,なると考える場合 のその理由について,説明を求めるものである。上記第一審判決が確定すると,本訴の訴求債 権の不存在の判断(民事訴訟法第114条第1項)及び反対債権の不存在の判断(同条第2項) の双方に既判力が生じるが,第一審判決を取り消し,訴求債権の不存在を理由として請求を棄 却した判決が確定すると,反対債権の不存在という,Xに有利に作用する既判力が生じないこ ととなる。こうした理由から控訴棄却にとどめるべきであるとするのが,判例(最高裁判所昭 和61年9月4日第一小法廷判決・判例時報1215号47頁)の考え方であるが,本問では, この二つの判決が確定したと仮定した場合に生ずる既判力の内容の相違に注目して,不利益変 更禁止の原則に抵触するかどうかを説明することが求められている。 〔設問3〕は,XがYに対して提起した上記損害賠償請求事件に係る第一審判決(その内容 は,Yの相殺の抗弁が認められ,Xの本訴請求が棄却されたというもの)が確定した後に,新 たに,Yが不当利得の返還を求める文書を送付してきたという事案を題材に,当該第一審判決 の既判力の作用について具体的に説明することを求めるものである。また,本問は,問題文に おけるL2の発言(問題文5頁19行目から27行目のもの)において具体的に示唆するとお り,民事訴訟法第114条第2項が規定する既判力の内容は,基準時における反対債権の不存 在の判断であるとの考え方に依拠したとしても,相殺の抗弁が認められて勝訴したYが,訴求 債権は本来存在しなかったから相殺はその効力を生じていないとの理由に基づき,反対債権の 金額に相当する不当利得の返還を請求した場合,その既判力によって棄却することが可能であ ることを説明することを求めている。より具体的にいうと,不当利得返還請求権の要件,すな わち利得,損失,両者の因果関係及び利得に法律上の原因がないことのうち,どの要件に関す る主張がその既判力と抵触するのかを,Yがその言い分において主張する事実関係に則して, 受験者自らの言葉で具体的に説明することが求められている。こうした観点からは,既判力は 訴訟物同一,先決関係又は矛盾関係において作用するところ,不当利得返還請求権の主張は反 対債権の不存在の判断と矛盾関係にあるから,確定した第一審判決の既判力に抵触する,と述 べるにとどまる答案は,本問の題意を的確に捉えたものとは評価し難い。 【刑事系科目】 - 11 - 〔第1問〕 本問は,A社の新薬開発部の部長であった甲が,乙から持ち掛けられて,自ら管理していた 新薬の製造方法が記載された書類(以下「新薬の書類」という。)を密かに会社外に持ち出し て乙に渡すことを決心し,他部に異動となったにもかかわらず,新薬の書類を金庫から持ち 出し,これを自己のかばん(以下「甲のかばん」という。)の中に入れて乙方に向かう途中, 立ち寄った駅待合室で丙から甲のかばんを持ち去られたところ,その直後に,甲のかばんと 同種,同形状のかばん(以下「Cのかばん」という。)を持って駅改札口を通過するCを見て, Cが甲のかばんを持ち去ろうとしているものと誤解し,Cが持っていたCのかばんの持ち手 をつかんでそのかばんを奪い取るとともに,Cに加療1週間の傷害を負わせたという具体的 事例について,甲乙丙それぞれの罪責を検討させることにより,刑事実体法及びその解釈論 の知識と理解を問うとともに,具体的な事実関係を分析してそれに法規範を適用する能力及 び論理的な思考力・論述力を試すものである。特に,甲の罪責を論ずるに当たっては,犯罪 事実の認識の問題と,錯誤の問題を明確に区別して論ずることができるかが問われており, 刑法の体系的理解を試すものといえる。 甲の罪責について 甲は,A社の新薬開発部の部長であった某年12月1日,大学時代の後輩であり,A社の ライバル会社の社員であった乙から300万円の報酬等を提示された上,当時,甲が管理 していた新薬の書類を金庫から持ち出して乙に渡すように持ち掛けられ,これを了承した。 そして,甲は,同月15日,新薬開発部の部屋にある金庫内に保管されていた新薬の書類 を甲のかばんの中に入れてA社外に持ち出したが,この時点で,甲は,新薬開発部の部長 を解任され,他部に異動していた。この新薬の書類を金庫から持ち出した点に関しての甲 の罪責を論ずるに当たって,上記のとおり甲の立場に変更が生じていたことから,新薬の 書類の占有の帰属を的確に論ずることが求められる。すなわち,甲は,新薬開発部部長と して,新薬の書類を管理していたと認められるところ,同部長職を解かれ,後任部長に事 務の引継ぎを行った際,金庫内に保管されていた新薬の書類も引き継ぎ,これを保管して いる金庫の暗証番号も後任部長に引き継いだが,金庫の暗証番号自体に変更がなく,甲は, 金庫から新薬の書類を持ち出すことが事実上可能であったという事実関係を前提として, 新薬の書類に対する甲の占有は喪失したものといえるのかを論じる必要がある。仮に,新 薬の書類に対する甲の占有が失われていないとしても,後任部長にも新薬の書類に対する 管理権が存在するとすれば,新薬の書類を持ち去る甲の行為は,共同占有者の占有を侵害 することとなる点に注意が必要である。 また,甲は,有給休暇を取った上,金庫内の新薬の書類を持ち出す目的で,誰もいなく なった新薬開発部の部屋に入っており,A社における各部の部屋の状況等を踏まえ,建造 物侵入罪の成否について簡潔に論じる必要がある。 甲は,新薬の書類を入れた甲のかばんを駅待合室に置いて切符を買いに行った際,丙に よって甲のかばんを持ち去られてしまった。その直後,待合室に戻ろうとした甲は,甲の かばんと同種,同形状のかばんをCが持っているのを見て,Cが甲のかばんを駅待合室か ら持ち出して立ち去ろうとしていると誤解し,Cが持っているCのかばんの持ち手部分を つかんで強引に引っ張り,Cのかばんを奪い取るとともに,その弾みで通路に手を付かせ, Cに加療1週間を要する傷害を負わせた。 まず,Cのかばんを奪い取るという甲の行為がいかなる構成要件に該当することとなる のかを確定する必要がある。具体的には,甲は,Cに対して有形力を行使(暴行)してい ることから,甲の行為が強盗罪に該当するか窃盗罪に該当するかを論ずる必要がある。そ の際には,いわゆる「ひったくり」に関する判例・学説を理解していることが期待されてい る。 - 12 - 次に,甲が,Cのかばんを甲のかばんと誤解している点をどのように考えるかを検討す る必要がある。そして,Cのかばんを甲のかばんと誤解しているその甲の認識は,「他人の 財物」性に係る問題であること,すなわち構成要件該当事実の認識の問題であることを的 確に把握することが求められる(違法性阻却事由に関する錯誤の問題ではない。)。そして, 窃盗罪あるいは強盗罪における「他人の財物」(甲のかばんに関していえば,「他人の占有 する自己の財物」)の概念をいかに解釈すべきかについては,これらの罪の保護法益との関 係で種々の考え方があり得るところであるので,窃盗罪あるいは強盗罪の保護法益に関す る自らの考え方を端的に論じ,各自の保護法益論との関係で,甲の認識が窃盗罪ないし強 盗罪の故意の成否にどのように影響するのかを論じなければならない。 また,Cに怪我を負わせた点について,構成要件の問題としては傷害罪が成立すること を論ずる必要がある。この傷害罪については,窃盗罪の場合と異なり,暴行の認識に欠け るところはないが,甲は,甲のかばんをCが盗んだと認識していることから,このように 認識している点が傷害罪の成否にどのように影響するかを論ずる必要がある(窃盗の故意 を認める場合には,窃盗罪と傷害罪の双方についての成否が問題となろう。また,甲のC に対する暴行を強盗罪における暴行と認定する場合には,強盗罪の故意を肯定するのであ れば強盗致傷罪の成否を問題とすることになろうし,強盗罪の故意を否定するのであれば 致傷の点を傷害罪の成否として論ずることになろう。)。甲の意図は,甲のかばんの取り返 しであるから,仮に,甲の認識のとおりの事態であった場合,甲の行為が正当化されるか どうかを検討する必要がある。これが肯定されれば,甲は違法性阻却事由に関する事実を 認識していたことになるし,否定されれば,その認識は違法性阻却事由に関する事実を認 識していたということにはならない。そして,本件で問題となる違法性阻却事由は,正当 防衛ないし自救行為であるところ,そのいずれであるかは,甲の認識どおりの事態,すな わち,Cが甲のかばんを駅待合室から持ち去ったという事態が存在すると仮定した場合, その事態が急迫不正の侵害に当たるかどうかという点を検討することになる。そして,侵 害の急迫性に関しては,窃盗罪の既遂時期との関係を意識する必要がある。すなわち,本 件において,Cが駅待合室にあった甲のかばんを持ち去ったと仮定した場合,Cは駅待合 室を出て駅改札口を通過するところであったから,窃盗は既遂に至っていると考えられる が,窃盗の既遂時期と侵害の急迫性の終了時期は必ずしも一致しないことを意識して急迫 性の有無を論じることが期待されている。その結果,急迫性を肯定した場合は誤想防衛の 問題となり,急迫性を否定した場合には誤解によって自救行為と認識していた場合(以下, 便宜上「誤想自救行為」という。)の問題となる。これらの問題として処理する場合,違法 性阻却事由に関する錯誤の刑法上の位置付けについて,論拠を示して論ずることとなる。 具体的には,故意責任が認められる理由を示し,誤想防衛ないし誤想自救行為が故意責任 にどのように影響するのかを論ずることとなろう。その上で,甲の認識していた事態が正 当防衛ないし自救行為の要件に該当するかを個別具体的に検討する必要がある。特に,甲 の行為が過剰性を有する場合,誤想過剰防衛ないし誤想過剰自救行為となることから,甲 の行為が,相当性,必要性を有する行為といえるかを,問題文にある具体的な事実を挙げ て検討することが求められる。これらの検討の結果,過剰性が認められる場合には甲に傷 害罪が成立することとなろうが,誤想防衛ないし誤想自救行為として,傷害罪の故意を否 定する場合,さらに,侵害について誤信した点についての過失を検討する必要がある。こ れに過失があるとすれば,過失傷害罪が成立することとなろう。 そして,最後に,罪数について処理する必要がある。 乙の罪責 乙は,新薬開発部の部長であり,新薬の書類の管理者である甲に対して,新薬の書類を持 ち出して自己に渡すよう持ち掛けた。乙は,甲に持ち掛けただけで自ら実行行為を行って - 13 - いないことから,乙の罪責について,共同正犯,教唆犯の成否を検討する必要がある。そ の前提として,乙は,一部の実行行為さえしていないから,いわゆる共謀共同正犯の肯否 が問題となり得るが,これは判例の立場を踏まえて,簡潔に論ずれば足りる。その上で, 共謀共同正犯と教唆犯の区別について,自らの区別基準を踏まえて,その基準に事実関係 を的確に当てはめることが求められる。具体的には,共謀共同正犯の成立根拠について触 れた上,成立するための要件を示すことによって共同正犯と教唆犯の区別基準を明示した 上,その要件に具体的な事実を当てはめることが必要である。なお,乙について教唆犯と する場合でも,共同正犯と教唆犯の区別基準を踏まえた論述によって共同正犯を否定した 上で,教唆犯の要件に事実を当てはめることが求められている。 また,甲が新薬の書類を持ち出した当時,甲は新薬開発部を異動しており,新薬の書類に 対する管理権を失っていたことから,「甲自身が管理する新薬の書類を持ち出す。」という 乙の持ち掛けに対して,甲は,「後任部長が管理する新薬の書類を持ち出す。」行為をした ことになる。そこで,甲の同行為が甲乙間の共謀ないし乙の教唆行為によるものかどうか が問題となるが,この点は,乙の持ち掛けと甲の行為との間に因果性が認められることを 簡潔に述べれば足りると思われる。 次に,甲乙間の共謀ないし乙の教唆行為の際には,甲は実際に新薬の書類を業務上管理し ており,乙の認識(故意)は,業務上横領罪のそれであったところ,甲の行為が業務上横 領ではなく,窃盗罪であるとした場合,乙の認識と甲の行為との間に齟齬が生じているこ とから,錯誤の問題を論じる必要がある。本件の錯誤は,構成要件を異にするいわゆる抽 象的事実の錯誤であるから,このような錯誤の場合にどのように処理するか,故意責任の 本質について触れて一般論を簡潔に示した上,業務上横領罪と窃盗罪との関係を論じるこ とになる。その際,両罪の構成要件の重なり合いがどのような基準で判断されるのかを論 ずることになろう。 そして,業務上横領罪と窃盗罪との間に重なり合いが認められた場合には軽い罪の限度で の重なり合いを認めることとなろうが,業務上横領罪と窃盗罪とは懲役刑については同一 の法定刑が定められているものの,窃盗罪には罰金刑が選択刑として規定されていること を踏まえ,そのいずれが軽い罪に当たるのか述べることが求められる。甲が業務上横領罪 を犯した場合,刑法65条の規定によって,乙には単純横領罪が成立するか,少なくとも 同罪で科刑されることとなるので,異なる構成要件間の重なり合いを論ずるに当たって, 業務上横領罪と窃盗罪の比較ではなく,単純横領罪と窃盗罪を比較するという考え方もあ り得るであろう。いずれにしても,自己が取る結論を筋立てて論ずることが求められる。 丙の罪責 丙は,甲が甲のかばんを駅待合室に置いたまま同室を出たのを見て,甲のかばんを持って 駅待合室から出た。丙の罪責を論ずるに当たっては,駅待合室内の甲のかばんに甲の占有 が及んでいるかどうかを検討する必要がある。問題文には,甲の占有に関する事実が挙げ られているが,これらの事実を単に羅列するのではなく,占有の要件(占有の事実及び占 有の意思)に即して,必要かつ十分な事実を整理して論ずることが求められる。そして, 甲の占有を肯定した場合には窃盗罪の成否を,否定した場合には占有離脱物横領罪の成否 を,それぞれ客観的構成要件を踏まえて論ずることとなる。 次に,丙が甲のかばんを持ち去った理由は,これを交番に持ち込んで逮捕してもらおうと いうものであり,丙には,甲のかばんをその本来の用法に使用する意思はおろか,何らか の用途に使用する意思もなかった。窃盗罪については,判例上,故意とは別個の書かれざ る主観的構成要件要素として,不法領得の意思が必要とされている。そして,判例(大判 大4・5・21刑録21輯663頁)は,不法領得の意思の内容につき,「権利者を排除し て,他人の物を自己の所有物として,その経済的用法に従い,利用し処分する意思」と解 - 14 - しているところ(近時の判例として最決平16・11・30刑集58巻8号1005頁があ る。),この不法領得の意思の内容をどのように解するのかによって丙の窃盗罪あるいは占 有離脱物横領罪の成否が異なることとなるから,不法領得の意思について,その概念を述 べるだけでなく,その内容にも踏み込んで論述し,これに丙の意思を当てはめて,丙に不 法領得の意思を認めることができるのかを論ずることが肝要である。本件のようないわゆ る刑務所志願の事案については,下級審の裁判例でも結論が分かれているところであり, いずれの結論を採るにしても,自らが提示した不法領得の意思の概念を踏まえて事実を当 てはめて結論することが求められている。仮に,丙について不法領得の意思を否定した場 合には,毀棄罪,具体的には器物損壊罪の成否を論ずることが必要である。 なお,丙に窃盗罪あるいは器物損壊罪が成立するとした場合,丙は,その事実を直ちに 交番の警察官に申告していることから,自首の成否が問題となり得るところである。 〔第2問〕 本問は,いわゆる「振り込め詐欺」グループによる詐欺未遂事件の捜査及び公判に関する事 例を素材に,そこに生じる刑事手続法上の問題点,その解決に必要な法解釈,法適用に当たっ て重要な具体的事実の分析及び評価並びに結論に至る思考過程を論述させることにより,刑 事訴訟法に関する基本的学識,法適用能力及び論理的思考力を試すものである。 〔設問1〕は,被害者との現金受渡し場所に現れて現行犯人として逮捕された甲と携帯電話 で頻繁に通話していた乙について,本件の共犯者ではないかとの疑いを強めた司法警察員P が,空室となっていた乙方隣室のマンション居室を賃借し,同室において乙の動静を探って いたところ,同室ベランダに出た際,乙方ベランダに出て携帯電話で通話する乙の声が聞こ えてきたことから,ICレコーダを使用して,約3分間にわたり,この乙の会話を録音した 【捜査@】,その後,隣室において,壁の振動を増幅させて音声を聞き取り可能にする本件機 器を用いたところ,壁に耳を当てても聞こえなかった乙方居室内の音声を鮮明に聞き取るこ とができたことから,約10時間にわたり,本件機器を介して乙方の音声を聞き取りつつ, 本件機器に接続したICレコーダにその音声を録音した【捜査A】の各捜査に関し,その適 法性を検討させる問題である。いわゆる強制処分と任意処分の区別,任意処分の限界につい て,その法的判断枠組みの理解と,具体的事実への適用能力を試すことを狙いとする。 刑事訴訟法第197条第1項は,「捜査については,その目的を達するため必要な取調をす ることができる。但し,強制の処分は,この法律に特別の定のある場合でなければ,これを することができない。」と規定する。したがって,ある捜査活動がいわゆる強制処分に該当す る場合,同法にそれを許す特別の根拠規定がある場合に限って許されることになり(強制処 分法定主義),当該捜査活動が強制処分と位置付けられるか,任意処分と位置付けられるかに よって,その法的規律の在り方が異なることになるため,両者の区別が問題となる。 この点については,同条項ただし書の「強制の処分」の定義が法律上示されていないこと から,その意義をどのように解するかが問題となるところ,旧来は,物理的な有形力の行使, 法的義務付けの有無がメルクマールとされていたのに対し,現在では,権利・利益の侵害・ 制約に着目する見解が一般的である。最高裁判所は,警察官が,任意同行した被疑者に対し 呼気検査に応じるように説得していた際に,退室しようとした被疑者の左手首を掴んで引き 止めた行為の適否が問題となった事案において,「強制手段とは,有形力の行使を伴う手段を 意味するものではなく,個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等に制約を加えて強制的に 捜査目的を実現する行為など,特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を 意味する」と判示した(最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁)。同決定の上記 判示から抽出するならば,強制処分のメルクマールは,「個人の意思の制圧」と「身体・住 居・財産等への制約」(代表的な権利・利益を例示したものと理解すれば,「権利・利益の制 - 15 - 約」と言い替えることもできる。)とに求められることになる。本設問を検討するに当たっ ては,このような最高裁決定の判示にも留意しつつ,刑事訴訟法第197条第1項の 解釈として,強制処分と任意処分の区別に関する基準を明確化しておくことが求めら れる。 また,強制処分に至らない任意処分であっても,当然に適法とされるわけではなく,一定 の許容される限界があり,その許容性の判断に当たっては,いわゆる「比例原則」から,具 体的事案において,特定の捜査手段により対象者に生じる法益侵害の内容・程度と,捜査目 的を達成するため当該捜査手段を用いる必要性との間の合理的権衡を吟味することになる。 前記昭和51年最決も,強制手段に当たらない有形力の行使について,「何らかの法益を侵 害し又は侵害するおそれがあるのであるから,状況のいかんを問わず常に許容されるものと 解するのは相当でなく,必 要 性 , 緊 急 性な ど も 考 慮 し たう え , 具 体 的状 況の も とで 相当 と認められる限度において許容される」と判示している。 以上のとおり,本設問の解答に当たっては,強制処分法定主義,任意処分に対する法的規 制の趣旨を踏まえつつ,前記昭和51年最決の判示内容にも留意して,強制処分と任意処分 の区別の基準や任意処分の限界の判断枠組みが検討・提示された上で,【捜査@】及び【捜 査A】の各適法性について,設問の事例に現れた具体的事実がその判断枠組みにおいてどの ような意味を持つのかを意識しながら,論理的に一貫した検討がなされる必要がある。 【捜査@】の適法性については,対象者が自室のベランダで行った会話を捜査機関が隣室の ベランダで聴取・録音したという捜査について,強制処分に当たるか任意処分に当たるかを 明らかにした上で,その区別を前提に,現行法の法的規律の在り方に従って適否を検討し, その結論を導く思考過程を論述することが求められる。 強制処分か任意処分かの区別については,前記最決の枠組みに従えば,まず,「個人の意思 の制圧」の側面に関し,乙に認識されることなく秘密裏に聴取・録音したものであり,現実 に乙の明示の意思に反し又はその意思を制圧した事実は認められない点をどのように考える かが問題となるが,例えば,対象者が認識していないことから直ちに「意思の制圧」を否定 し,強制処分に当たらず任意捜査だと結論付けることは,現行の刑事訴訟法において通信傍 受が強制処分と位置付けられていること(同法第222条の2)に照らしても,短絡的であ り,強制処分のメルクマールとしての「意思の制圧」の位置付けやその具体的内容の吟味を 踏まえた検討が求められる。 次に,「権利・利益の制約」の側面に関しては,Pらが適法に賃借・引渡しを受けた居室の ベランダにおいて聴取・録音がなされ,乙の「身体,住居,財産」そのものに対する侵害・ 制約は認められないことから,被制約利益の内容をどのように捉え,その重要性をどのよう に評価するのかについて,具体的検討を行うことが求められる。 そして,前記の区別につき,【捜査@】は任意処分であるとの結論に至った場合には,次の 段階として,当該捜査が任意捜査として許容される限度のものか否かについて検討すること になり,前記最決の判示も踏まえ,当該捜査手段により対象者に生じる法益侵害の内容・程 度と,捜査目的を達成するため当該捜査手段を用いる必要性との間の合理的権衡を吟味しな ければならない。当該捜査手段を用いる必要性を検討するに当たっては,対象となる犯罪の 性質・重大性,捜査対象者に対する嫌疑の程度,当該捜査によって証拠を保全する必要性・ 緊急性に関わる具体的事情を適切に抽出・評価する必要がある。 他方,【捜査@】が強制処分であるとの結論に至った場合には,刑事訴訟法上の根拠規定が 存在し,かつ,その定める要件を満たしていなければ,違法となる。【捜査@】のような捜査 手段を直接定めた明文規定は存在しないことから,法定された既存の強制処分の類型に該当 するか否かを検討した上で,適法性についての結論を導く必要があるが,この点では,電話 傍受を「通信の秘密を侵害し,ひいては,個人のプライバシーを侵害する強制処分である」 - 16 - とした最決平成11年12月16日(刑集53巻9号1327頁)が,「電話傍受は,通話内 容を聴覚により認識し,それを記録するという点で,五官の作用によって対象の存否,性質, 状態,内容等を認識,保全する検証としての性質をも有するということができる」と判示し たことも踏まえた検討が求められよう。 【捜査A】の適法性についても,【捜査@】と同様の判断枠組みに従って,その適法性を検 討すべきであるが,両者は,対象となった会話の行われた場所や聴取・録音の態様が異なっ ているから,この点を意識して論じる必要がある。 すなわち,【捜査A】は,通常の人の聴覚では室外から聞き取ることのできない乙方居室内 の音声を,本件機器を用いて増幅することにより隣室から聞き取り可能とした上で,これを 約10時間にわたり聴取・録音するというものであり,外部から聞き取られることのない個 人の私生活領域内における会話等の音声を乙の承諾なくして聴取・録音しているものである ことから,乙の「住居」に対する捜索から保護されるべき個人のプライバシーと基本的に同 様の権利の侵害が認められ,その侵害の程度も重いと評価できる。【捜査A】が強制処分か任 意処分かの区別を検討するに当たっては,この点に関する具体的事実を考慮しつつ,丁寧な 検討と説得的な論述をなすことが求められる。 次に,【捜査A】が強制処分であるとした場合,【捜査A】は,室外からは聞き取ることので きない居室内の会話を本件機器を用いて増幅することにより隣室から聞き取り可能とした上 で聴取・録音するというものであるが,電話傍受についての前記平成11年最決や,宅配便 荷物に外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察するという検査方法を検証として の性質を有する強制処分に当たるものとした最決平成21年9月28日(刑集63巻7号8 68頁)などに鑑みると,【捜査A】についても,「検証」としての性質を有するものと見る 余地があろう。他方,室内の会話を一定期間継続して無差別的に聴取・録音する点,事後通 知や準抗告による不服申立ての手続が不可欠というべき性格の処分である点で,検証の枠を 超えているとの見方もあり得よう(電話傍受に関する前記平成11年最決の反対意見参照)。 いずれの結論をとるにせよ,「検証」の強制処分としての意義・性質についての正確な理解を 前提とした検討が必要となる。 〔設問2〕前段は,否認し続ける甲につき検察官Rから「自白すれば起訴猶予にしてもよい。」 旨言われていた司法警察員Qが,甲の取調べにおいて,甲に対し,検察官の前記不起訴約束 を伝えた上,自白を勧告した結果,甲が,不起訴処分となることを期待して,乙の関与も含 めて自白し,この甲の供述(自白)を疎明資料として乙の逮捕状が発付されて乙が逮捕され, 逮捕後の乙の取調べにおいて乙が任意になした自白を疎明資料として発付された捜索差押許 可状による捜索差押えの結果,本件文書及び本件メモが押収されたという事実関係において, 本件文書及び本件メモについて,その証拠収集上の問題点から,証拠能力の検討を求めるも のである。不起訴約束による甲の供述(自白)の獲得手続の問題点と,そこから派生して得 られた証拠の証拠能力を問うことにより,自白法則,違法収集証拠排除法則等の刑事訴訟法 の基本原則に対する理解と,これらを踏まえて具体的検討を行う法的思考力を試すものであ る。 本問では,不起訴約束によってなされた甲の供述を基にその後の捜査手続が進行し,本件文 書及び本件メモの押収に至ったものであることから,まず,起点となる甲の供述の獲得上の 問題点について検討する必要がある。 本問の事案において,甲の供述は,甲の自白として用いる場合には,典型的な不任意自白 として,証拠能力が否定されると解される(最判昭和41年7月1日刑集20巻6号537 頁参照)。不任意自白の証拠能力が否定される根拠については,見解が分かれており,従来か らの伝統的な通説・実務の見解であるいわゆる任意性説(虚偽排除説ないし同説と人権擁護 説との併用説)と,いわゆる違法排除説とが説かれている。不起訴約束による甲供述(自白) - 17 - の獲得手続の問題点については,このような自白の証拠能力に関する見解が指摘する問題を 意識しつつ,さらに,それが甲自身ではなく,乙に対する逮捕状請求の疎明資料として用い られることにも留意した検討・論述が求められる。 甲供述(自白)の獲得手続に派生証拠の証拠能力に影響を及ぼしうるような違法が見いだ された場合(違法収集証拠である第1次証拠から派生して得られた第2次証拠について,い わゆる「毒樹の果実」として,その証拠能力が否定されることがあるのは,第1次証拠排除 の趣旨を徹底するためであるとすれば,仮に,甲供述の獲得手続に甲供述自体の証拠能力を 失わせるような違法・瑕疵が見いだされる場合であっても,甲供述の証拠能力が否定される 趣旨いかんにより,それが当然に,派生証拠の証拠能力にまで影響を及ぼすとは限らない。 例えば,虚偽排除の観点から証拠能力が否定される不任意自白の場合,自白を排除する趣旨 が派生証拠の証拠能力にまで影響を及ぼすかについては議論の余地がある。),次に,派生証 拠の証拠能力をどのような判断枠組みで考えるかが問題になる。この点については,最判昭 和53年9月7日(刑集32巻6号1672頁)が一般論として採用する違法収集証拠排除 法則を前提に,最高裁及び下級審による多数の裁判例が蓄積されているところ(代表的な判 例としては,最判昭和61年4月25日刑集40巻3号215頁,最判平成15年2月14 日刑集57巻2号121頁等が存在する。),本設問の解答に当たっても,それらを踏まえつ つ,本問の具体的事例に即した検討・論述がなされることが望ましい。派生証拠の証拠能力 の判断枠組みとしては,大別すると,先行手続の違法の後行手続への承継という枠組みのも と,先行手続と後行手続との間に一定の関係(前記昭和61年最判によれば,同一目的,直 接利用関係)が認められる場合には,先行手続の違法の有無,程度も考慮して後行手続の適 法・違法を判断するという考え方と,そのような違法の承継というステップを踏むことなく, 先行手続の違法の内容・程度と,先行手続と証拠(証拠収集手続)との関連性の程度とを総 合して判断するという考え方とが見られる。前記昭和61年最判は,前者の考え方によるも のといえるのに対し,前記平成15年最判については,後者の考え方に親和的であるとの見 方もある。いずれの判断枠組みに従うにせよ,本問の具体的事例に即して,前記不起訴約束 による甲の供述(自白)獲得手続の問題点についての検討を踏まえ,先行手続の違法性評価 を行うことに加えて,その後介在する乙の任意性のある自白とこれを疎明資料とする裁判官 による令状審査・発付が,違法手続と証拠との関連性の程度に与える影響をそれぞれ検討す る必要があり,それらを踏まえ,また,前記昭和53年最判の示す証拠排除の基準にも留意 しつつ,結論を導くに至った思考過程を説得的に論述することが求められる。 〔設問2〕後段は,本件文書及び本件メモのそれぞれについて,伝聞法則の適用の有無を問 うものである。伝聞と非伝聞の区別の理解と,その具体的事実への適用能力を試すことを狙 いとする。 一般に,書面は,その記載内容の意味が問題となる供述証拠として用いられる場合と,そ の書面の存在・記載自体が証拠としての価値を持つ非供述証拠として用いられる場合との2 つの場合があり,その証拠能力を考えるに当たっては,伝聞法則の適用の有無,すなわち, 当該証拠が供述証拠に当たるのか否かを検討する必要があるところ,伝聞法則の適用を受け る供述証拠か否かについては,それによって何を証明しようとするのかという,要証事実な いし立証事項が何であるのかが問題となる。そこで,本件文書及び本件メモのそれぞれにつ いて,丙の関与(丙と乙の共謀)を証明するというその証拠調べ請求の狙いに留意した上で, 具体的な要証事実を正確に見定めるとともに,それをもとに伝聞・非伝聞の別,伝聞に当た る場合の伝聞例外該当の有無について的確な検討が求められる。 本件文書は,パソコンで作成されたものであり,その記載と実際になされた本件犯行態様と が一致し,右上には乙のものと認められる筆跡でV方の電話番号と一致する手書き文字が記 載されている上,本件文書から丙の指紋が検出された。他方,本件メモは,すべての記載が - 18 - 乙のものと認められる筆跡による手書き文字で,その記載内容は,丙からの電話で通話した 内容をメモしたことがうかがわれ,本件犯行態様とも整合するものであった。このような本 件文書及び本件メモの具体的差異を意識しつつ,それぞれの書面について,想定される具体 的な要証事実との関係で,そこに記載されている内容・事項の真実性を立証するために用い られるものか,それとも書面の存在や記載自体から内容の真実性とは別の事実を立証するた めに用いられるものかを検討し,伝聞証拠かどうかを判断することが必要となる。 前記検討の結果,伝聞証拠に当たる場合は,伝聞例外の要件を満たすかどうかを検討すべき ことになる。その場合,想定される具体的な要証事実との関係で,当該書面に誰の意思内容 が表示されていると見るのかを考えつつ,刑事訴訟法第321条第1項各号のいずれの書面 に当たるかを検討した上で,結論を導くことが求められる。 【選択科目】 [倒 産 法] 〔第1問〕 本問は,破産管財人の換価業務に関する具体的事例を通じて,破産手続における否認権行使 の要件・効果,所有権留保の法的性質やその対抗要件等に関する正確な理解と問題解決能力 を問うものである。 設問1において,Xが返還を求めようとしている本件売掛金に係る債権は,Y社に譲渡され, Y社は,当該債権譲渡につき,第三者対抗要件である通知(民法第467条第2項)を具備 しているため,Xが本件売掛金の返還を求めるためには,当該債権譲渡又は対抗要件具備を 否認する必要がある。本設問において考えられる否認の構成としては,偏頗行為否認(破産 法第162条第1項第1号)及び対抗要件否認(同法第164条第1項)がある。 偏頗行為否認との関係では,まず,「破産者の行為」として捉え得るのは,Y社との債権譲 渡契約であるが,当該契約締結自体は, 「支払不能になった後」にされたものではなく,また, 停止条件の成就そのものを「破産者の行為」と見ることも文言上困難であるから,形式的に は偏頗行為否認の要件を満たさない点を指摘する必要がある。その上で,偏頗行為否認が, 債務者に支払停止等があった時以降の時期を債務者の危機時期とし,危機時期の到来後に行 われた債務者による担保供与等を否認の対象とすることにより,債権者間の平等及び破産財 団の充実を図ろうとするものであることを踏まえ,その要件該当性を論ずることとなる。こ の点を検討するに際しては,最高裁判例(平成16年7月16日第二小法廷判決・民集58 巻5号1744頁)を踏まえ,本件債権譲渡契約は,A社の危機時期において初めてY社に 譲渡担保権者としての優越的地位を取得させる結果となることから,それまで一般債権者の 責任財産であった財産をそこから逸出させることをあらかじめ意図・目的とするものであり, 破産法上の否認の趣旨を潜脱するものではないかという問題意識に触れる必要がある。 対抗要件否認との関係では,「権利の設定,移転又は変更があった日」(15日の起算日)を いつと考えるかが問題となる。この点,本件売掛金債権について,譲渡契約がされたのは平 成24年5月30日であり,これを起算日とすれば,Y社の対抗要件具備(平成26年12 月12日)は,それから15日を経過した後になされたものということになり,否認の要件 を満たすことになる。これに対して,同条項の権利変更があった日とは,権利移転の原因行 為がされた日ではなく,当事者間における権利移転の効果を生じた日をいうと解すれば,Y 社の対抗要件具備は,債権譲渡の効果が生じた同月10日から起算して15日を経過してお らず,したがって,これを否認することは困難ということになる。この点については,15 日の期間は,権利移転の原因たる行為がなされた日ではなく,当事者間における権利移転の 効果が生じた日から起算すべきであるとする最高裁判例(昭和48年4月6日第二小法廷判 決・民集27巻3号483頁)等を踏まえて論ずる必要がある。 - 19 - 設問2については,前提として,所有権留保が,破産手続においては別除権として扱われ ること,登記・登録が必要な物権変動については,破産手続開始前に登記・登録を具備して いなければ,破産手続との関係では,破産管財人に対してはその効力を主張することができ ないこと(破産管財人の第三者性)を指摘する必要がある。 その上で,Z社が当該留保所有権を第三者であるXに主張するためには,対抗要件を必要 とするかを論ずることとなるが,これを検討するに当たっては,所有権留保の法的性質に加 えて,当該留保所有権の被担保債権をどのように考えるかが問題となる。Xとしては,本件 留保所有権はZ社の本件立替払金等債務に係る債権を直接担保するものである(Z社による 立替払いにより,本件車両の所有権がC社からZ社にいったん移転し,その上で,A社との 関係で,本件立替払金等債務に係る債権を被担保債権として所有権留保が改めて設定される ものである。)として,Z社は対抗要件の具備なくしてはXに本件車両の引渡を求めることが できない旨主張することが考えられる。これに対して,Z社としては,Z社は弁済による代 位によって原債権(本件残代金債権)とともにC社の担保権(留保所有権)を取得したもの であり(民法第501条),留保所有権の被担保債権はこの原債権であるから,C社の担保権 (留保所有権)が対抗できる限り,対抗要件の具備がなくとも,Xに留保所有権(別除権) を対抗することができる旨主張することが考えられる。 このようなX及びZ社の各主張の当否については,本事例における契約条項の合理的解釈 を踏まえて論ずる必要がある(なお,民事再生手続の事案であるが,参照すべき最高裁判例 として,平成22年6月4日第二小法廷判決・民集64巻4号1107頁)。 〔第2問〕 本問は,具体的な事例を通じて,民事再生手続における担保権消滅許可制度及び届出がされ なかった再生債権の取扱いについての理解と問題解決能力を問うものである。 設問1は,民事再生手続における担保権消滅許可制度の理解を問うものであり,民事再生 法第148条第1項に定められた担保権消滅許可の申立てができる要件を本事例が満たして いるかを論ずべきである。本事例では,再生計画を履行するには対象財産に係る担保権の消 滅が必要であるものの,対象財産が売却予定財産であるので,「当該財産が再生債務者の事業 の継続に欠くことのできないものであるとき」という要件(以下「不可欠性要件」という。) を文字どおりには満たしていないように見える。そこで,不可欠性要件の意義につき検討を 加えることとなるが,その際には,民事再生手続における担保権の原則的扱いを念頭に置き つつ,民事再生手続において担保権消滅許可制度が設けられた趣旨や不可欠性要件が定めら れている趣旨を踏まえた上で,こうした趣旨との関連性や整合性を意識しながら丁寧な分析・ 検討を行い,担保権消滅許可の申立てが認められるべきかどうかを説得的に論じることが期 待される。 設問2については,前提として,E及びFの債権は再生債権であるから(同法第84条第1 項),「再生計画の定め又はこの法律の規定によって認められた権利」という例外に当たらな い限り,再生計画認可の決定が確定したときは,免責の対象となること(同法第178条第1 項)が指摘されなければならない。E及びFの債権について再生計画に特段の定めが見られな い本設問においては,「この法律の規定によって認められた権利」であるかが問題となり,E 及びFの各事情に照らして,同法第181条第1項各号のいずれかに該当するかどうかを論 ずべきことになる。 まず,Eの有する本件売掛金債権については, 「第101条第3項に規定する場合において, 再生債務者が同項の規定による記載をしなかった再生債権」(同法第181条第1項第3号) に当たるかが問題となる。具体的には,A社がEの債権を「知っている」(同法第101条第 3項)といえるかどうかについて,自認債権制度の趣旨に則して「知っている」という要件の - 20 - 意義を明らかにした上で,本事例の事実関係なども指摘しつつ,説得的に論述することが求 められる。その上で,Eの債権について,同法第156条の一般的基準に従った変更がされ ること(同法第181条第1項柱書)及び弁済期間満了時(平成31年3月末)まで弁済を受け られないこと(同条第2項)を,条文を指摘しつつ,本事例に則して正確に当てはめを行う必 要がある。特に,弁済時期については,後述のFの債権への弁済との対比を明確にすべきで ある。 次に,Fの有する本件損害賠償請求権については,「その責めに帰することができない事由 により債権届出期間内に届出をすることができなかった再生債権で,その事由が第95条第 4項に規定する決定前に消滅しなかったもの」(同法第181条第1項第1号)に当たるかが 問題となる。具体的には,「責めに帰することができない事由」の解釈に関わるのであり,再 生債権の届出の時的限界を付議決定時とした(同法第95条第1項,第4項)趣旨に照らし, その時点以降の権利主張をなお許すべき場合をどのように画するかが重要な視点となろう。 [租 税 法] 〔第1問〕 本問は,いわゆる企業内弁護士として5年間の勤務期間を定めてB株式会社(以下「B社」 という。)に勤務していた弁護士Aが,当初の勤務期間終了後更に1年間勤務を継続したとい う事案において,Aが当初の勤務期間終了時にB社から支払を受けた一時金(本件約定金) 及び最終的にB社を退職する際にB社から支払を受けた一時金(本件報奨金)につき,所得 税法上の所得の種類を問う問題である。なお,Aは,弁護士であるが,雇用契約に基づいて B社に勤務していたので,本件約定金及び本件報奨金(以下,併せて「本件各金員」という。) の所得の種類を考えるに当たっては,一般の従業員の場合と特段異なる考慮をする必要はな い。 本問においては,本件各金員が退職所得(所得税法第30条第1項)に当たるかどうかが主 として問題となる。従業員が退職に際し支払を受ける金員が退職所得に当たるかどうかにつ いては,最高裁昭和58年9月9日第二小法廷判決(民集37巻7号962頁〔5年退職金 事件〕)及び最高裁昭和58年12月6日第三小法廷判決(判例タイムズ517号112頁〔1 0年退職金事件〕)がその判断基準を明快に説示しており,これらは,上記論点に関する基本 的な判例であるので,その判旨をしっかりと押さえた上で,本件各金員の退職所得該当性に ついて論述する必要がある。 本件各金員のうち,本件約定金については,上記最高裁判例に照らし,AのB社における 勤務関係が平成25年3月31日をもって一旦終了したとみることができるのかどうかがま ず問題となる。そして,仮にこの点を消極に解する場合には,本件約定金が所得税法第30 条第1項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるかどうかという点で,AのB社にお ける同年4月1日以降の勤務関係が実質的には従前の勤務関係の延長とはみられないほどの 特別な事実関係があるのかどうかが問題となる。本件約定金については,これらの論点を中 心に,本問の事実関係に即して説得力のある論述を展開することが求められる。 また,本件報奨金については,退職に際し支払われた金員ではあるが,各事業年度におい て功績の特に顕著であった従業員に対して報奨金を支払うというB社の報奨金制度に基づい て支払われたものであるため,それが退職によってはじめて給付される性質のものであるか どうかが問題となるので,この点を的確に論じる必要がある。 〔第2問〕 本問は,会社が代表取締役,従業員,顧問弁護士及び業務委託をした外注先に金銭を支払 う場合の源泉徴収の要否と,法人税法上の収益の帰属年度に関する原則的基準及びソフトウ - 21 - ェア開発のような長期請負契約に適用される例外的基準について問う問題である。 本問において検討すべき論点は多く,その1つ1つはどれも重要な問題点を含んでいるが, 特定の論点だけに比重を置いて解答するだけでは必ずしも高得点は望めない。全体のバラン スを見ながら,時間内に,必要な情報を的確かつ簡潔に説明することが大切である。 設問1は,「給与所得」と「事業所得」の区分が源泉徴収制度との関係で問題となることが 多いことを踏まえた出題である。 まず,源泉徴収制度に関する基本的理解を問うている。 次に,「給与所得」と「事業所得」の区分に関して,最高裁昭和56年4月24日第二小法 廷判決(民集35巻3号672頁)を踏まえて,所得税法第28条第1項の「給与所得」の 概念及び同法第27条第1項の「事業所得」の概念を明らかにしつつ,両者の区分について どのような基準を定立するのか,その基準に則して具体的な事案について矛盾なく判断でき るのかを問うている。 出題において法律関係に留意することとしたのは,課税関係が私法上の法律関係を基礎と していることを踏まえたものであり,私法上の法律関係を基礎にして課税関係をどのように 判断するのかを試すものである。 設問2は,設問1で定立した基準を比較的複雑な事案に適用する能力を試すものである。 問題文に現れたDを取り巻く諸事実は,A,B,Cとそれぞれ共通する部分があり,給与 所得の要件に親和する側面がある一方で事業所得の要件に親和する側面もある。そのため, 自分の導いた結論に説得力を持たせるためには,自分の主張に有利な事実だけを抽出して評 価するだけでは不十分であり,不利な事実についても評価することが求められる。 設問3は,開発着手の日の属する事業年度中にその目的物の引渡しが行われない請負契約 に係る法人税法上の収益の帰属年度に関する基本的理解を問うものである。工事完成基準(権 利確定主義)とその例外である工事進行基準について,法人税法第22条第4項や「別段の 定め」(同条第2項)である同法第64条第2項を示しつつ,最高裁平成5年11月25日第 一小法廷判決(民集47巻9号5278頁)などにも言及しながら,簡潔に説明することが 求められている。 なお,工事進行基準に関する法人税法第64条第2項の適用要件について当該条文の内容 を説明することは要求していない。 [経 済 法] 〔第1問〕 本問は,「甲の会」の幹部会において,内装建材甲に係る法令上の基準を超える安全基準を 自主基準として設定することを決定し,当該団体に加入する20社は全てこれを遵守してい るものの,当該団体に未加入のX社が当該安全基準を遵守しないため,20社の取引先事業 者である建材専門商社に対し,当該安全基準を遵守しないX社との取引の中止を要請し,当 該要請を受けた建材専門商社が協議の上,この要請に応じたことから,X社が取引先を容易 に見つけ出すことができなくなっているというものであり,私的独占の禁止及び公正取引の 確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第8条第5号において禁止する事業者団体 が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすることに該当しないかを問う ものである。 そこで,まず,「甲の会」の幹部会による本件要請の決定が事業者団体の決定であるかが問 題となる。事業者団体は,事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2 以上の事業者の結合体(独占禁止法第2条第2項)であるところ,20社各社の担当営業部 長という個人によって組織される「甲の会」のメンバーが事業者である当該20社各社であ ると法的に評価することが求められる(同条第1項後段)。そして,「甲の会」の活動内容か - 22 - ら「甲の会」が事業者団体であると評価することが求められる。さらに,「甲の会」の幹部会 決定が「甲の会」という事業者団体としての決定であることを根拠付けることが求められる。 次に,「甲の会」の幹部会決定に基づく会長の要請に従った建材専門商社の行為が,独占禁 止法第19条が禁止するいずれかの不公正な取引方法に該当する行為であることを説明する ことが求められる。本件で建材専門商社が協議の上行った行為は,上記安全基準を遵守しな いX社からの甲の購入中止であり,競争関係にある事業者と共同して供給を受けることを拒 絶したものであって,不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指定」という。)第1項第1 号の行為要件を満たすことを説明の上,「正当な理由がないのに」の要件を満たすことの説明 が求められる。「正当な理由がないのに」がどのような意味における公正競争阻害性であるの か,そして,市場の画定を前提として競争者の排除効果(競争の排除ないし他者排除)が認 められるか否かが問われる。 最後に,「甲の会」の幹部会決定に基づく建材専門商社に対する要請は,内装建材に対する 一般消費者の健康への意識の著しい高まりに対応して,自主基準として設定した法令上の基 準を超える安全基準を遵守しないX社に遵守させるために行われたものであり,独占禁止法 第1条の目的に照らして,当該行為に正当化事由,すなわち目的の合理性とその目的達成方 法の相当性が認められるか否かの評価が求められる。 なお,事業者団体の行為としても,独占禁止法第8条第5号ではなく,同条第3号又は第1 号の問題として捉えることや,事業者団体の行為ではなく20社が共同して取引先の建材専 門商社にX社から供給を受けることを拒絶させる行為として一般指定第1項第2号に該当す ると捉えることもあり得るが,事案に即してそれぞれの要件該当性につき説明することが求 められる。 〔第2問〕 本問は,A社の計画するH社の株式取得(以下「本件株式取得」という。)が独占禁止法第 10条第1項に違反するか否かを問うものである。具体的には,主として同項の「一定の取 引分野」における「競争を実質的に制限する」,「こととなる」というそれぞれの要件につい て,その意義・解釈,判断基準といった規範定立を行い,その規範に照らして本件株式取得 の適否について結論を述べることが求められる。 一定の取引分野,つまり市場の画定は,一般に商品の範囲と地理的範囲についてなされると ころ,商品の範囲については,乙が甲と同一の市場で競争していると見ることができるかど うかの検討を要する。地理的範囲については,丙のメーカーが世界中に分布し,それに対し て世界各国に分布する甲のメーカーが甲を供給していることから,いわゆる世界市場が認め られるかどうかについて検討する必要がある。その際,甲の規格,価格の動向,コスト構造 や関税,丙のメーカーの購買の特性等についても言及する必要がある。 「競争を実質的に制限する」,「こととなる」については,その意義・解釈について自らの見 解を論じた上,水平的企業結合であることを意識して,単独行動,協調行動それぞれの観点 から具体的事実に即して競争の実質的制限の有無を論じることとなろう。ただし,本問では, ハーフィンダール指数(HHI)やいわゆるセーフハーバーについては問うていない。 本問における競争を実質的に制限することとなるか否かの判断に際しては,問題文に提示さ れた製品の特性,市場の特性及び過去の市場シェアの推移に関するデータを読み解き,本件 株式取得が実現するとどのような状況になるのか解答者なりに予測することを要する。 特に,本問では,甲についての技術革新や新製品の開発が活発に行われ,かつそのサイクル が短いこと,丙のメーカーが非常時における調達経路の確保等のために複数の甲のメーカー から甲を購入していること,これまでの甲のメーカーの市場シェアが激しく変動しているこ と,過去に他の甲のメーカーを買収した企業が必ずしも買収の対象となる企業の市場シェア - 23 - と合算した市場シェアを獲得するという傾向は見られないこと等を踏まえ,単独行動による 競争の実質的制限に関しては,A社は,本件株式取得後A社,H社それぞれの市場シェアの 合算である40%を獲得,維持することが可能なのか,さらにその市場シェアを失うことな く単独で甲の価格を引き上げることが可能なのか,また,協調行動による競争の実質的制限 に関しては,甲のメーカーが,技術や価格の面で他の甲のメーカーと競争するよりも,協調 して技術開発を遅らせ,あるいは価格を引き上げる蓋然性があるのかについて分析する必要 がある。 そのような競争を実質的に制限することとなるか否かの分析においては,本件株式取得の目 的の合理性,丙のメーカーから甲のメーカーに対する価格引下げ要求,本件株式取得前後の 甲のメーカーの数や地位,乙の甲に対する競争圧力等の要素も併せて考慮する必要がある。 [知的財産法] 〔第1問〕 設問1は,特許要件である新規性要件及び先願主義に関する理解を問う問題である。設問2 のは,上位概念の発明の特許権と下位概念の発明の特許権が同日出願に係るものである場合 の両特許権の関係に関する理解を問う問題であり,は,補償金請求権の発生要件及び消滅時 効に関する理解を問う問題である。設問3は,特許法(以下「法」という。)第102条第2項 の適用要件に関する理解を問う問題である。 設問1において,まず,α発明の実施品の試験的販売については,α発明は,β発明を上位 概念とする下位概念の発明であることから,これが公然実施(法第29条第1項第2号)に当 たり,甲特許権は新規性欠如の無効理由(法第123条第1項第2号)を有するかどうかが問 題となる。発明の実施品が存在すれば必ずその発明の新規性が失われるというわけではなく, また,α発明の実施品は一般の顧客に対してその構造を明らかにすることなく販売されたもの であった。この点に関しては,当業者が利用可能な分析技術を用いて発明の実施品を分析する ことにより,その発明の構成を知り得る場合には,公然実施に当たり,他方,その発明の構成 を知ることが極めて困難である場合には,公然実施に当たらないと解することができよう(東 京地判平成17年2月10日判例時報1906号144頁【ブラニュート顆粒事件】参照)。こ のような公然実施の当否について明確に論述することが求められる。 また,公然実施があっても,新規性喪失の例外規定(法第30条第2項)が適用されれば, 新規性が失われなかったものとされるが,α発明の実施品の試験的販売については,甲出願が 当該販売から6月以内に行われておらず,法第30条第3項所定の手続も履行されていないこ とから,新規性喪失の例外規定の適用は認められないのであり,この点にも言及することが求 められる。 次に,乙が行った乙出願については,その出願日は甲出願の出願日と同じであることから, 甲特許権は法第39条第2項違反の無効理由(法第123条第1項第2号)を有するかどうか が問題となる。法第39条第2項違反となるのは,乙出願の対象であるγ発明と甲出願の対象 であるβ発明が「同一の発明」である場合であり,γ発明は,β発明を上位概念とする下位概 念の発明であった。そこで,同日に行われた2つの出願の対象が下位概念の発明と上位概念の 発明の関係にある場合に,両発明が「同一の発明」に当たるかどうかを検討することが必要と なる。仮に乙出願が平成21年2月4日に行われたとした場合,すなわち,下位概念の発明に ついての出願が先願であった場合に,両発明が法第39条第1項の「同一の発明」に当たるか どうかと対比しつつ,同日出願の場合も同様に取り扱うことができるのか,あるいは異なる取 扱いをすべきであるのかについて,合理的な論拠を示して論述をすることが求められる。 ところで,α発明の実施品の試験的販売又は乙が行った乙出願により甲特許権が無効理由を 有することになるとしても,訂正により無効理由を解消することができる場合があろう。この - 24 - 点に的確に言及していれば,積極的な評価が与えられよう。 設問2のについては,まず,γ発明の実施品がβ発明の技術的範囲に属するかどうかが問 題となる。次に,β発明の技術的範囲に属することが肯定されるとしても,乙は,γ発明につ いて特許権を有しているので,γ発明の実施品を製造販売する行為は自己の特許発明の実施で あり,この点に関する検討が行われなければならない。特許権者によるその特許発明の実施が 他の特許権の侵害となるかどうかは,特許権の本質が何であるかが関係するのであり,この問 題については,いわゆる専用権説と排他権説の対立がある。そして,利用発明に関する法第7 2条の意義について,専用権説によれば例外規定,排他権説によれば確認規定と解されること となろう。乙の行為については,γ発明がβ発明の利用発明であると捉えることができるとし ても,乙出願の出願日と甲出願の出願日は同じであるから,同条は適用されない。そこで,特 許権の本質や同条の意義等に関する検討を踏まえて,特許権者がその特許発明である下位概念 の発明の実施をすることが同日出願に係る上位概念の発明の特許権の侵害となるかどうかにつ いて,合理的な論拠を持って自説を展開することが求められる。 設問2のにおいては,まず,甲が乙の行為を知ったのは平成27年5月になってからであ るから,甲は,甲特許権の設定登録前に乙に対して警告を行っていないこととなる。しかしな がら,補償金請求権は,警告が行われない場合においても,特許出願に係る発明であることを 知ってその発明を実施した者に対して請求することができる(法第65条第1項後段)。そのた め,乙が甲出願に係るβ発明を実施していることを知っていた場合には,甲は補償金請求を行 うことができると解されよう。次に,甲が,乙の行為を平成23年6月に知ったが,乙に対し て何らの措置も講じなかった場合には,補償金請求権の消滅時効が問題となる。法第65条第 6項により,補償金請求権は,補償金請求権を有する者が特許権の設定登録前に当該特許出願 に係る発明の実施の事実及びその実施をした者を知った場合は,特許権の設定登録日から3年 間行使しないときは,時効により消滅することになる。甲特許権の設定登録日は平成23年8 月15日であるから,甲の補償金請求権は時効消滅したことになろう。 設問3においては,甲はβ発明の技術的範囲に属する製品を製造販売していないことから, 特許権者がその特許発明の実施をしていない場合に,法第102条第2項を用いて損害額を算 定してその賠償を請求することができるかどうかが問題となる。この点に関し,知的財産高等 裁判所の大合議判決(知財高判平成25年2月1日判例時報2179号36頁【ごみ貯蔵機器 事件】)は,「特許権者に,侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであ ろうという事情が存在する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきであ り,特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は,推定された損害額を覆 滅する事情として考慮されるとするのが相当である。そして,……特許法102条2項の適用 に当たり,特許権者において,当該特許発明を実施していることを要件とするものではないと いうべきである。」と判示している。甲は,β発明の技術的範囲に属する製品と同様の作用効果 を奏する製品を製造販売しており,このような場合に同項の適用が認められるかどうかについ て,上記判決を念頭に置きつつ,自説を展開することが求められる。 〔第2問〕 設問1は,本件映像フィルムが著作物であることを前提として,その著作者は誰か,あるい は著作権は誰に帰属すると考えるべきかにつき,著作権法(以下「法」という。)第15条(職 務著作),法第16条(映画の著作物の著作者)及び法第29条(映画の著作物の著作権の帰属) の適用の可否及びそれらの規定の相互関係等に関する理解を問う問題であり,設問2は,Yが 本件能映像を本件映画の1シーンに使用したことが,Zの著作権又は著作者人格権の侵害にな るかについて,いわゆる「写り込み」の問題として,「複製」の成否及び法第30条の2の適用 の可否等に関する理解を問う問題である。 - 25 - 設問1については,まず,Xとしては次のような主張をすることが考えられる。本件映像フ ィルムは,Xが対象となる渓谷と橋を選定し,一番美しく撮れる撮影箇所と時間帯を決定し, 構図,カメラアングル,光量,絞りなどを決めて定点撮影したものであるから,それ自体著作 物(法第2条第1項第1号)に当たり,それが「映画の著作物」(法第10条第1項第7号)で ある場合,その「全体的形成に創作的に寄与した者」(法第16条)はXであるから,著作者は Xである。そうである以上,Xは本件映像フィルムについて著作権と著作者人格権を有すると ころ(法第17条第1項),本件映画の製作及び上映は,翻案権(法第27条),複製権(法第 21条),上映権(法第22条の2)の侵害に当たり,また,本件映像フィルムは未公表である から公表権(法第18条第1項後段)の侵害に当たり,本件映画のクレジット・タイトルには 単に「風景撮影 X」と表示されているにすぎず,著作者名の表示ではないから氏名表示権(法 第19条第1項後段)の侵害に当たり,さらに,俳優の映像を合成しているから同一性保持権 (法第20条第1項)の侵害に当たる。 これに対し,Yとしては,まず,本件映像フィルムが何の著作物であれ,本件映像フィルム の作成は職務著作(法第15条第1項)に当たるから,その著作者はYであると主張すること が考えられる。職務著作の成否に関しては,最判平成15年4月11日判例時報1822号1 33頁【RGBアドベンチャー事件】が判示していることを念頭に置いた上で,「法人等の業務 に従事する者」の判断基準を検討し,本設問では,Xはもともとフリーの映像作家であって, 本件映像フィルムの撮影場所,撮影対象,撮影方法も全て単独で決定しており,何らYの指示 を受けていないこと,他方で,本件映像フィルムの制作費用は全てYが支出したものであり, Xは毎週2,3回Yに出社し,報酬も月払いで支払われていたという事実関係に当てはめて論 じることが求められる。 また,Yの主張としては,仮に本件映像フィルムが職務著作に当たらないとしても,本件映 像フィルムは「映画の著作物」に当たるところ,Yは映画の著作物の製作に発意と責任を有す る映画製作者(法第2条第1項第10号)であり,Xは本件ドキュメンタリーの製作に参加す ることを約束しているから,法第29条第1項により,本件映像フィルムの著作権は映画製作 者であるYに帰属すること,そうすると,法第18条第2項第3号により,Xは,Yに対し, 公表権侵害を主張できないこと,また,氏名表示権については,仮に「風景撮影 X」との表 示では足りないとしても,法第19条第3項が適用されるべきであり,さらに,同一性保持権 侵害については,改変されたものを上映すること自体は同一性保持権侵害に当たらないこと, 仮に法第20条第1項の改変に当たるとしても,同条第2項第4号の「やむを得ないと認めら れる改変」に当たること,が考えられる。 これに対し,Xとしては,本件映像フィルムは,いまだ未編集のフィルムであるから,法第 29条所定の「映画の著作物」には当たらず,同条の適用はないと主張することが考えられる。 この点に関しては,東京高判平成5年9月9日判例時報1477号27頁【三沢市勢映画製作 事件】が「著作権法29条1項により映画製作者が映画の著作物の著作権を取得するためには, いうまでもなく著作物と認められるに足りる映画が完成することが必要であるから,参加約束 のみによって未だ完成していない映画について製作者が著作権を取得することはない。」と判示 していることを念頭に置きつつ,法第29条第1項の趣旨に触れながら,未編集のフィルムが 「映画の著作物」に当たるか否かについて自説を展開し,本設問に当てはめて論じることが求 められる。 設問2については,まず,Zの振り付けによる本件能は著作物といえるか,それを肯定する 場合その著作者は誰かが問題となる。この点について,Zとしては,本件能の振り付けは,法 第10条第1項第3号所定の「舞踊」の著作物に当たり,その著作者は振付師であるZである, したがって,Zは本件能につき著作権及び著作者人格権を有しているところ,本件能を映像に 収めることは,本件能の複製に当たるから,本件能映像を使用した本件映画は,本件能の複製 - 26 - 権,上映権及び氏名表示権等を侵害するものであると主張することが考えられる。 これに対し,Yとしては,「舞踊」とは,舞踊家(舞踊を実行する者)による舞踊行為を指す ものであって,舞踊の振付師による振り付けは「舞踊」の著作物とはいえないし,本件能の振 り付けには,台本や踊り方を説明した書類も振り付けの映像なども存在しないから,著作物と して物に固定されておらず,著作権法で保護される著作物には当たらないと主張することが考 えられる。この点に関しては,一般的には,「舞踊」の著作物とは,踊りの振り付けのことであ り,踊る行為や演ずる行為そのものはそれらを行う実演家の権利として著作隣接権の保護の対 象とされることはあっても,「舞踊」の著作物には当たらないと考えられていること,また,「映 画の著作物」のような明文の規定がない以上,固定は要件ではないと解されていることに言及 することが求められる。 また,Yとしては,仮にZが本件能の著作者であるとしても,本件能映像に映っている本件 能は,時間にしてわずか約3分間,それを演じる能役者の動作が辛うじて感得できる程度に写っ ていたにすぎないから,そもそも本件能映像は本件能の「複製」とはいえないと主張すること が考えられる。この点に関しては,東京高判平成14年2月18日判例時報1786号136 頁【雪月花事件】が「書を写真により再製した場合に,その行為が美術の著作物としての書の 再製に当たるといえるためには,一般人の通常の注意力を基準とした上,当該書の写真におい て,上記表現形式を通じ,単に字体や書体が再現されているにとどまらず,文字の形の独創性, 線の美しさと微妙さ,文字群と余白の構成美,運筆の緩急と抑揚,墨色の冴えと変化,筆の勢 いといった上記の美的要素を直接感得することができる程度に再現されていることを要する」 と判示していることを念頭に置きつつ,本設問において,「複製」といえるか否かを論じること が求められる。 さらに,Yとしては,仮に「複製」に当たるとしても,本件能映像は法第2条第1項第14 号の「録画」されたものであるから,法第30条の2第1項所定の「写真等著作物」に当たる ところ,本件能は渓谷と橋を定点撮影された映像にたまたま映っているにすぎず,能舞台は橋 のそばにあるのであるから,本件映像フィルムを創作するに当たり「分離することは困難であ り」,しかもその映像部分も時間にしてわずか3分,それを演じる能役者の動作が辛うじて感得 できる程度にすぎないから「軽微な構成部分」であるといえ,同項所定の「付随対象著作物」 に当たり,同条第2項により,これを本件映画に利用することができると主張することが考え られる。 これに対して,Zとしては,Yは,本件能映像が夜の渓谷と橋が薪能の灯りに浮かび上がる 中で能役者が能を舞うという幻想的な描写になっていたという独創的な表現映像である点を捉 えて,あえて本件映画の1シーンに上記映像部分を使用したものであるから, 「付随対象著作物」 とはいえず,仮にそうでないとしても,そのような利用の態様は「付随対象著作物の種類及び 用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害する」ことになるものであり, したがって,同項ただし書により,Yは,本件能を本件映画に利用することはできないと主張 することが考えられる。これらの点について,本設問の事案に当てはめて論じることが求めら れる。 そして,Zが著作者人格権を主張することができるか否かについて論じれば,さらに,積極 的な評価の対象となろう。 [労 働 法] 〔第1問〕 本問は,偽装請負(違法な労働者派遣)により派遣された労働者と注文者(派遣先)との間 の黙示の労働契約の成立,適法な労働者派遣の下における派遣元事業主による有期労働契約 の中途解除及び雇止めに関する規範の正確な理解を問うものである。本問の事実関係は労働 - 27 - 者派遣を基礎として構成されているが,各設問はいずれも労働法における基本的な論点であ り,関係条文・判例に即した規範の定立,当該規範の具体的事実への当てはめの的確さが問 われている。 まず,設問1において,Xは労働者派遣法違反を理由にY1社との労働契約が無効であり, Y2社との間の労働契約の成立を主張しているが,こうした主張の当否については,パナソ ニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件判決(最判平成21年12月18日)の判断枠 組みを踏まえて,労働契約の黙示的な成立の可能性を論じることが求められる。その際,予 想されるY2社からの反論を踏まえつつ,本問で挙げている諸事情のうち,労働契約の黙示 的な成立の有無を判断するに当たって考慮すべき事情として,何を具体的に挙げるかが重要 である。 設問2は,期間を定めた労働契約に基づき派遣先で就業している派遣労働者が,Y2社から の労働者派遣契約の解約を理由に,Y1社により労働契約の期間満了前に解雇されたことか ら,この解雇の有効性を問題とするものである。これについては,労働契約法第17条第1 項が,期間を定めた労働契約につき「やむを得ない事由がある場合」に限り解雇できると規 定していることから,期間の定めのない労働契約における整理解雇の場合と比較して「やむ を得ない事由がある場合」とはいかなる場合を指すかを示す必要がある。その上で,本問に おいて,派遣先からの労働者派遣契約の解約による就業場所の喪失等の諸々の事情をどう評 価するかが問われることになろう。 設問3は,いわゆる雇止めの事例であるが,労働契約法第19条に照らして,申込みを承諾 したものとみなすことが認められる規範の定立が求められる。その上で,同条第1号又は第 2号のいずれに該当するか,仮に第2号に該当するとした場合には,契約更新を期待する合 理的な理由の有無を判断することが必要となるが,その際,伊予銀行・いよぎんスタッフサー ビス事件判決(高松高判平成18年5月18日)が示すような,派遣労働契約の特殊性を考 慮して判断することが求められる。 〔第2問〕 本問は,労働協約の規範的効力の根拠と限界,及び労働組合の組合活動についてその法的 な意義と効果を問うものである。いずれも労働法におけるスタンダードな論点であるが,基 本的な法令の規範を明示した上で,主要な裁判例による判例法理を踏まえ,提示された具体 的事案に対して的確な検討を行うことが求められている。 まず,本問の事例では,5%の基本給カットを定めた労働協約の規定が規範的効力を有する か否かにつき,協約締結権限の成否と,不利益変更の可否という両面から検討することが必 要である。前者については,組合規約に定められた手続を履践せずに締結された労働協約の 効力につき,組合規約の定めの趣旨及び意義,労働協約締結の折に実際に行われてきた手続 とその法的評価などを,判例法理(中根製作所事件(東京高判平成12年7月26日))を踏 まえた上で,具体的な事情を点検しつつ論じなければならない。また,後者については,不 利益に変更された労働協約規定に規範的効力が認められるか否かに関する最高裁の判例法理 (朝日火災海上保険(石堂本訴)事件(最一小判平成9年3月27日))を前提として,本件 における変更の具体的内容,協約締結手続,締結の経緯などを総合して,規範的効力の有無 を決することとなる。本件の事例においては,基本給の5%カットという事実のみならず, 賞与の増額を始め他の事情を捕捉しながら総合的な検討を行うことが求められる。また,結 論を明示することも忘れてはならない。 次に,組合活動をめぐる設問2については,救済機関として不当労働行為を審査し,救済命 令を発する労働委員会と,民事紛争を解決する裁判所とが明示されることが不可欠である。 また,本件の事例では労働組合の執行部に反対するグループが行った活動であることを踏ま - 28 - え,そのようなグループの行動が組合活動と認められるか否かを検討した上で,リボン着用 による就労の法的意義,これに対する懲戒処分の適法性について,不当労働行為の成否と懲 戒処分の有効性という観点から,それぞれ要件を摘示し,的確に当てはめを行う必要がある。 当然ながら,懲戒処分の有効性については,対象となった行為の懲戒規定該当性,労働契約 法第15条を明示した上での懲戒権濫用の有無を整理して論じることが求められる。 いずれの設問も,規範の明示と本件事例への当てはめを基軸とし,説得力のある論理が展開 されていることが前提となることは言うまでもない。 [環 境 法] 〔第1問〕 第1問は,「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「法」という。)のもとで,産業廃 棄物の排出事業者が,法により課される適正処理に関する義務を懈怠した場合に発生する法的 責任についての理解を問う問題である。 〔設問1〕では,法第12条の3が規定する産業廃棄物管理票(以下「マニフェスト」とい う。)制度に関する正確な理解が試される。中間処理に関するマニフェストの写しは,交付後 90日以内に送付されることが求められているところ(法第12条の3第4項,法施行規則第 8条の28第1号),本事案においては,半年以上が経過している。そうした場合には,マニ フェスト交付者であるA社は,委託に係る産業廃棄物の処分に係る状況の把握が義務付けられ る(法第12条の3第8項)。A社は,その義務を懈怠している。A社の委託に係る産業廃棄 物に関しては,Dの土地において不法投棄がなされ,環境基準値をはるかに超過する濃度の鉛 が周辺の畑に流入し,生活環境の保全上支障が発生している状況にある。そこで,B県知事は, A社に対して,支障の除去等の措置を求めて措置命令を発することができると指摘する(法第 19条の5第1項第3号へ)。 Dに関しては,不法投棄がされていることに気付いているにもかかわらずこれを黙認してい る。これは,不法投棄を「助けた」と評価されることから,B県知事は,Dに対しても,支障 の除去等を求める措置命令を発することができると指摘する(法第19条の5第1項第5号)。 〔設問2〕では,著しく安価な委託料金による委託がもたらす不適切な結果を踏まえて法第 19条の6が一部改正により規定されたことの理解を問うとともに,事例に示される具体的状 況に対して同条を正しく適用できるかどうかが試される。法第11条第1項に規定される産業 廃棄物排出事業者の責任は,自らが処理する以外にも,適正な委託によっても果たされるが, その前提には,適正な処理ができる委託料金が支払われていることがある。料金をいくらにす るかは,委託者と受託者の自由契約によっており,法は何ら規定していない。一般的には,委 託者が契約交渉上優位な立場にあるため,安価な料金での契約締結がされているといわれてい た。その料金では適正処理は困難であることから,この点が不法投棄の温床のひとつとなって いた。もちろん,不法投棄をした受託者の責任が追及されるべきではあるが,生活環境保全上 の支障除去等をする資力がない場合が少なくなく,そうなれば,投棄された産業廃棄物がその ままになってしまう。そこで,法第19条の6は,処分者の資力その他の事情からみて除去等 の対応が困難なとき(第1項第1号),委託者である排出事業者が適正な対価を負担していな いとき(第1項第2号)などの要件を満たせば,当該排出事業者を,生活環境保全上の支障除 去等を求める命令の名宛人とすることができると規定した。民事上有効な契約に関して,法の 制度趣旨を踏まえ,契約の一方当事者に行政法的責任を課したのである。汚染者支払原則(汚 染者負担原則,原因者負担原則)の徹底といえる。本事案においては,Fは事実上倒産してお り,また,平均的料金の40%での委託であるため,添付【資料】「行政処分の指針について (通知)」(抜粋)が示す基準に照らせば,要件を満たす。堆積された廃棄物の一部が遊歩道に 崩落し始めている状況は,生活環境保全上の支障があると考えられることから,B県知事は, - 29 - A社に対して支障除去等を求める措置命令を発することができると指摘する。 〔第2問〕 第2問は,土壌汚染及び地下水汚染に関する問題について,関連法を横断的に理解している か,どのような訴訟を提起できるかについて把握しているかを確認する問題である。 〔設問1〕では,B県知事としては,本件土地の砒素による汚染の程度が土壌汚染対策法第 6条第1項第1号の環境省令で定める基準を超過していたことから,まず,同条第1項により 要措置区域を指定する。次に,同法第7条第1項の汚染の除去等の措置を講ずるよう指示する。 その際,同条同項ただし書の要件を全て満たせばC社に対して指示することになるが,本問で はC社は「汚染のおそれを認識していたため,A社の本件土地の購入価格はその市場価格より も著しく低かった」とされているため,同条同項ただし書にいうC社に「汚染の除去等の措置 を講じさせることが相当である」とはいい難い。そこで,同条同項ただし書の要件を満たさな いことから,C社に対して措置を講じるよう指示することはできず,A社に対して指示するの である。 また,特定事業場を設置する工場若しくは事業場において有害物質に該当する物質を含む水 の地下への浸透があったことにより,現に人の健康に係る被害が生じ,又は生ずるおそれがあ るため,B県知事は,C社に対して地下水浄化の措置命令を発出できる(水質汚濁防止法第1 4条の3第1項,第2項)。 〔設問2〕では,Eの健康被害,Fの平穏生活権・平穏生活利益の侵害が問題となる。 E,Fは,C社に対して,民法第709条に基づく損害賠償を請求することが考えられる。 ただし,平穏生活権・平穏生活利益の侵害については,従来の裁判例では,損害賠償を認めた ものはない。Eは,工場又は事業場における事業活動に伴う有害物質の汚水又は廃液に含まれ た状態での排出又は地下への浸透により,身体を害されたといえるから,水質汚濁防止法第1 9条を根拠としてC社の無過失責任を追及することもできる。 また,E,Fは,A社に対して,人格権(ないし平穏生活権・平穏生活利益)の侵害に基づく 妨害排除(D井戸の水の汚染の差止め)を請求することができる。 さらに,E,Fは,B県に対して国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償請求を請求する ことが考えられる。B県が原因究明のための調査を行わなかったのは,常時監視(水質汚濁防 止法第15条)及び公表(同法第17条)についての都道府県知事の権限を定めた水質汚濁防 止法の趣旨,目的やその権限の性質等に照らし,B県知事の裁量を逸脱して著しく合理性を欠 くといえるか,そして,これにより被害を受けた者との関係で,国家賠償法第1条第1項の適 用上違法となるといえるかについて論じる。 なお,E,Fは,B県に対して,C社に対する地下水浄化措置命令(水質汚濁防止法第14 条の3)の義務付け訴訟(行政事件訴訟法第3条第6項第1号)を提起することも考えられる。 [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕 本問は,「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(以下「モントリオール 条約」という。)の関連条文の解釈と条約義務違反がある場合の法的効果,国際連合憲章(以 下「国連憲章」という。)第7章に基づく安全保障理事会(以下「安保理」という。)の決議の 拘束力及び国連憲章に基づく義務と他の条約上の義務とが抵触した場合の権利義務の優劣,並 びに,条約に定める義務が条約締約国全体に対して負う義務であることが国際司法裁判所(以 下「ICJ」という。)における原告適格に及ぼす法的効果,について問う問題である。 設問1は,@本問の事実関係の下でX国はY国に対してモントリオール条約第7条に定める 義務に継続的に違反しているといえるか否か,A違反しているとすればX国は甲を直ちにY国 - 30 - に引き渡すことによって国際違法行為を停止する義務を負うか否か,を尋ねている。 @の問題では,モントリオール条約第7条の規定が,容疑者が領域内で発見されたX国にど のような義務を課しているかを条約の解釈規則に基づいて導き出すこと,並びに,本問におい てX国がとった行為が当該義務によりX国に要求されていることに合致しているか否か(国家 責任条文第12条を参照)を論理的に説明することが求められている。 モントリオール条約第7条を文脈によりかつその目的に照らして与えられる用語の通常の意 味に従って誠実に解釈すれば,同条は,容疑者が領域内で発見された締約国に対して,その容 疑者を引き渡さない場合には,いかなる例外もなしに,訴追のため自国の権限のある当局に事 件を付託する(起訴ではない)ことを義務付けていることが理解できよう。モントリオール条 約第6条第2項が同締約国に対して「事実について直ちに予備調査を行う」ことを求め,同条 約第7条が,同国に「自国の法令に規定する通常の重大な犯罪と同様の方法で決定を行う」こ とを求めていることを考慮すれば,事件を権限のある当局に付託する義務を合理的期間内に履 行しなければならないことも推察できよう。これを本問の事実に当てはめると,どのような結 果になるか。 本問では,X国はモントリオール条約第5条に基づく裁判権を国内法上設定しており,Y国 (爆破された航空機の登録国として甲の引渡しを請求する資格を有する。)からの要請に応じ て甲の仮拘禁と事実に関する予備調査を既に行ったが,Y国による甲の引渡しの請求について は拒否することを選択した。それにもかかわらずX国は,その後3年を経過しても,財政事情 を口実に訴追のため事件を権限のあるX国当局に付託することを怠っているから,モントリ オール条約第7条の義務を履行していない。財政事情が事件付託の義務の不履行を正当化する 事由とならないことは,モントリオール条約第7条が「いかなる例外もなしに」と定めている ことや本問のような財政事情が国家責任法上の違法性阻却事由に該当しないことに照らしても 明らかであろう。 X国によるモントリオール条約第7条の義務違反の行為が継続している場合には,X国は国 家責任法上,当該国際違法行為を中止する義務を負う(国家責任条文第30条(a)を参照) ことにまず気付かなければならない。ただし,ここでは,X国に,Y国が請求するように, 「甲 を直ちにY国に引き渡すことによって」国際違法行為を中止する義務があるといえるか否かが 問われており,X国が犯した義務違反の内容を正確に理解することが求められる。 すなわち,モントリオール条約第7条は,「容疑者を引き渡さない場合には」と定めるだけ で,容疑者を引き渡すか否かについては容疑者が領域内で発見された締約国の選択に委ねてい る。モントリオール条約第8条第3項(X国は条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない国に 該当する。)も,X国に「国の法令に定める条件に従い・・・犯罪行為を引渡犯罪と認める」 よう義務付けるにとどまるから,X国は自国民である甲をY国に引き渡す義務までは負ってい ない。モントリオール条約の下では,容疑者を引き渡すか否かは,容疑者が発見された国の選 択権の問題であるのに対して,訴追のため事件を権限のある当局に付託する義務は条約上の義 務だと解釈される。したがって,X国は第7条の義務違反を中止すべき義務を負うが,その義 務違反とは飽くまで,訴追のため事件を自国の権限のある当局に付託すべき義務に違反してい ることであり,ICJがX国に求めることができるのは,甲をY国に引き渡さないのであれば, 訴追のため事件をX国の権限のある当局に付託せよということにとどまる。 設問2は,X国のモントリオール条約第7条に基づく義務と同国の国連憲章に基づく義務と が抵触するときに,X国はいずれの義務に従わなければなければならないかを問う基本的な問 題である。 問題文によれば,安保理はX国による甲の引渡し及び訴追の拒否が国際の平和と安全に対す る脅威を構成すると認定し,「国連憲章第7章の下に行動して」X国に対して甲をY国に引き 渡すよう決定している。安保理がこのような表現によって国連憲章第7章に基づく措置を決定 - 31 - する場合,同決定は国連憲章第39条及び第41条に従って行われていることを理解しなけれ ばならない。国連憲章第25条により,国連加盟国は,安保理の決定を「受諾し且つ履行する」 義務を負うが,国連憲章第39条及び第41条に基づき採択された安保理の決定が法的拘束力 を有し,全ての国連加盟国に義務を課すことは,国連憲章第25条の解釈として確立している。 したがって,上記安保理決定によって,X国は「甲をY国に引き渡す」義務を負った。 しかし,設問1で見たように,モントリオール条約の下では,X国は甲をY国に引き渡さな い場合には,例外なしに,訴追のため事件をX国の権限のある当局に付託する義務を負うにと どまり,甲をY国に引き渡す義務までは負わない。そこで,X国が安保理決定によってY国に 対して負った義務と,モントリオール条約第7条に基づきY国に負っている義務との間には内 容的に抵触が認められる。このような義務の抵触は,後法は前法を破るとか特別法は一般法を 破るといった一般原則によってではなく,国連憲章第103条に従って解決が図られなければ ならないことを想起すべきである。同条によれば,国連加盟国の国連憲章に基づく義務と他の いずれかの国際協定に基づく義務とが抵触するときは,国連憲章に基づく義務が優先すると定 められている。甲をY国に引き渡すことを求めた安保理決定の義務は,「憲章に基づく義務」 に該当するから,ロッカビー事件暫定措置命令に示されたICJの見解も参照すれば,X国は 甲をY国に引き渡す義務を優先しなければならないという反論を導くことは容易かと思われ る。 設問3で,Z国は,モントリオール条約の当事国であることのみを根拠に原告適格を主張し ている。したがって,この設問では,モントリオール条約第7条に定める義務が締約国全体に 対して負う義務であり,X国による当該義務の違反に対しては,Z国を含むすべての条約締約 国が,X国の責任を援用する原告適格を認められるといえるか否かが,問題になろう。 ICJのバルセロナトラクション事件判決が認めたように,国際義務には,国家相互間にお いて個別的に負う義務だけでなく,義務の履行について全ての関係国が共通の利益を有するよ うな対世的な義務が存在することを,まず指摘する必要があろう。国家責任条文第48条第1 項によれば,対世的義務には,国際社会全体に対して負う義務(obligation erga omnes)の ほかに,諸国家の集団的利益を保護するために当該集団に対して負う義務(obligation erga omnes partes)が認められるが,本設問は後者の義務に関係する。 次に,多数国間条約上の義務が対世的義務に該当する場合の,当該義務の法的効果について 明らかにする必要がある。対世的義務は,その遵守について全ての国が共通の利益を有するか ら,いずれかの締約国による義務の不履行について,他の全ての条約締約国が当事者適格を有 することが導かれる。国家責任条文第48条第1項及び第2項も,このような義務の違反があっ た場合には,直接侵害を受けていないいずれの締約国も,違法行為国の責任を援用する権利を 有し,責任国に対して国際違法行為を中止するよう求めることができると定める。もっとも, 従来ICJは,南西アフリカ事件第2段階判決で示したように,国が同裁判所において当事者 適格を有するためには,同国が国際法により具体的な法的権利又は利益を明確に付与され,か つ他の国の国際違法行為によって当該法益を侵害されていることが必要であり,国際法は一般 利益を根拠とした民衆訴訟を認めていないとされてきた。しかし,最近の訴追又は引渡し義務 事件判決で,ICJは,訴追又は引渡し義務について定めた拷問及び他の残虐な,非人道的な 又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(以下「拷問等禁止条約」という。)第7条 第1項の義務を対世的義務と認めるとともに,上記国家責任条文第48条と同様に,全ての条 約締約国が対世的義務の不履行を確認し,それを中止させる目的で責任を援用することができ ると判示して,条約の締約国という地位のみに基づき原告適格が認められることを確認した。 こうした先例等に依拠することもできよう。 最後に,モントリオール条約第7条に定める義務が対世的義務を定めたものか否かについて 言及する必要がある。モントリオール条約の目的は,拷問等禁止条約と同様に,犯罪行為を防 - 32 - 止し,もし犯された場合には実行者が処罰を免れないことを確保することにあり,締約国はこ の点に共通の利益を有する。モントリオール条約が,容疑者が領域内で発見された締約国に対 して課す義務は,拷問等禁止条約のそれとほぼ同一である。この点を踏まえれば,モントリオー ル条約第7条も,この義務の履行について全ての条約締約国が共通の利益を有するような対世 的義務を課したものと考えられよう。 〔第2問〕 本問は,国家管轄権のうち,立法管轄権と執行管轄権の域外適用とそれが国際法上で許され 得る根拠,領域使用の管理責任原則とそれが規定する領域国の義務,国際司法裁判所が暫定措 置を指示する際の要件とそれに際して予防原則が持ち得る意義を問う問題である。 設問1は,国家管轄権の域外適用の国際法上の根拠の有無や本件における域外適用の法的評 価を問う問題である。 設問1前段は,Y国内で事業を行うY国法人である甲社及び乙社に,X国の国内法を適用す るのであるから,立法管轄権の域外適用の問題である。法の適用ということから司法管轄権の 域外適用という理解の可能性もあるが,問題文には,「X国の独占禁止法に違反するとして… 制裁金を科すための審査を開始すると決定した」とあり,審査手続を開始した段階であること が明示されている。また,設問の後段では「執行管轄権」について問うているのであるから, 設問前段は,その行使の前提として立法管轄権の域外適用を問うていることが理解されなけれ ばならない。 立法管轄権の域外適用については,国際法上で明確に定まった原則はないが,米国の国内裁 判例において,効果理論に基づく立法管轄権の域外適用が認められている。それは,属地主義 の拡大である客観的属地主義が,犯罪の構成要件に該当する行為や結果が自国領域で行われ, 又は発生していることを要件とするのに対して,より緩やかに,「影響・効果」が自国領域で 発生することを根拠として立法管轄権を行使する考え方といってよい。 本件に当てはめると,X国はガソリンをY国法人の甲社及び乙社からの輸入に全面的に頼っ ている小国であり,甲社と乙社が談合して供給量を減少させた結果としてX国におけるガソリ ンの価格が2倍になったという事実関係が示されているのであるから,効果理論に基づくX国 の独占禁止法の域外適用の可能性が考えられることに気付かなければならない。 ただし,効果理論は,米国の国内裁判でも揺らぎがあり,また,学説や国家実践で一貫して 肯定的評価を受けているとはいえず,国際法上で確立した理論とはいえない。 設問1後段は,執行管轄権の域外適用の国際法上の評価を問うている。X国の公正取引委員 会の担当官が,Y国領域内に所在する甲社及び乙社に赴き,本件談合に係る可能性のある資料 を提出するように命ずる書面を手交したことは,提出命令を拒否した場合には制裁金が科され るという,強制力をもつ執行管轄権の行使であることを認識する必要がある。 その上で,国際法上,執行管轄権については,その行使を属地主義に基づき領域内において のみ許されており,他国領域内における執行管轄権の行使は,当該他国の領域主権への侵害に なることから許されないことが明らかにされなければならない。 設問2は,自国領域内の非国家実体の行為が,他国や他国民に対して損害を発生させたとき に,領域主権を持つ国が国際法上の責任を負う場合の根拠やその要件を問うものである。 まず,Y国の国際法上の責任を追及する根拠については,領域使用の管理責任原則が確立し ていること,そして,同原則は,非国家実体が領域内で行う行為により他国に損害を発生させ 得る場合に,当該領域国に対し,相当の注意を払って損害を防止する義務を課すものであるこ との理解が求められる。 その上で,領域使用の管理責任原則に基づく責任の有無につき,相当の注意義務の履行とい う観点から,本件の事実に当てはめて結論を導くことが求められる。すなわち,工場を操業す - 33 - るのはY国自身ではなく非国家実体である甲社であること,Y国政府は甲社に工場の建設及び 稼働を許可していること,及びY国政府はこの許可に際し,工場からの排水に含まれ得る有害 物質について,Y国の国内法に定める環境基準に照らし十分な対策がとられていることを事前 に確認していることを考慮して結論を導く必要がある。 設問3は,暫定措置が命令される要件,本件では特徴的に,国際司法裁判所が,工場の操業 の差止めを指示するための要件が問われている。 暫定措置の要件については,国際司法裁判所規程第41条が「裁判所は,事情によって必要 と認めるときは,各当事者のそれぞれの権利を保全するためにとられるべき暫定措置を指示す る権限を有する。」と規定しているのみであり,判例によりこの要件が具体化されてきた。具 体的には,本案審理の一応の管轄権があること,暫定措置を必要とする緊急な事態があること, 不可逆の損害発生の可能性があること,保全される権利・利益と本案で争点となる権利・利益 が一致していること,紛争の悪化の防止が必要であることなどが要件として考えられる。これ らの要件に照らし,本件の事実の下で,暫定措置を命令する根拠があるといえるかを明らかに する必要がある。 本件への当てはめに際しては,X国とY国がともに選択条項受諾宣言を行っていること,争 われているのはX国との国境付近におけるY国領域内での甲社による工場の操業を許可したこ との是非であること,発生し得るのは健康被害であることが考慮されなければならない。 X国が暫定措置として差止め命令を要請する根拠としては,本件では甲社の工場の操業によ り健康被害が発生するか否かにつき,科学的知見について争いがある(すなわち,科学的不確 実性が残る)中で,また,本案で操業の許可が国際法上違法であるという認定がされる前に, 当該工場の操業を差し止めるという,Y国の領域主権の行使に対する制限が肯定されるかが問 われることになる。そこで,環境保護の分野で発展してきた予防原則の意義をいかに捉えるか を論じることが求められる。 [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕 本問は,夫婦財産制につき,準拠法の決定と適用を問うものである。 設問1は,法定財産制につき,法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第25 条を準用する通則法第26条第1項の解釈と適用を問うている。通則法第41条の規定の適用 いかんに留意しつつ,連結点となる国籍が変更した場合の考え方を明らかにした上で,準拠法 を特定しなければならない。 設問2は,夫婦財産契約もまた通則法第26条第1項の「夫婦財産制」に包摂されることを 示した後に,設問1と同様,準拠法を特定して,これを適用しなければならない。夫婦財産契 約という法律行為の方式については,通則法第34条が適用されなければならない。 設問3は,夫婦による準拠法選択に関する問題であり,通則法第26条第2項の解釈・適用 が求められている。 設問3については,同項第1号に従い甲国法の適用を導かなければならない。 設問3については,B土地を同項第3号の「不動産」であると性質決定しつつ,「分割指 定」の可否を論述して日本法を適用しなければならない。 〔第2問〕 本問は,外国法人から製品の供給を受ける日本法人が当該外国法人の代理人である状況と当 該日本法人が自己の名において当該製品を日本において販売する状況とを区別し,前者の状況 との関連では,代理に関する準拠法の決定を求め,後者との関連では,当該外国法人と当該日 本法人との間で生ずる紛争につき国際裁判管轄権の有無と不法行為の準拠法の特定を問うてい - 34 - る。 設問1は,任意代理のいわゆる内部関係と外部関係を区別しながら,解釈により,各々の関 係に適用される法を問うている。 設問1では,代理権が委任契約に基づき授与されているときには,当該委任契約につき通 則法第7条が指定する法が内部関係に適用されることを示さなければならない。 設問1では,本人,代理人及び相手方の予見可能性等に配慮しつつ,外部関係の準拠法を 論述することが求められている。 設問2は,日本において,外国法人の提供する製品を特定の日本法人が自己の名において独 占的販売権を有する状況を想定している。 設問2は,国際裁判管轄権の有無に関する問題である。アでは,民事訴訟法第3条の3第 1号の「債務の履行地」が日本国内にあるか否か等についての論述が,そのイでは,同法第3 条の7に従い外国裁判所に管轄権を付与する合意が専属的な管轄合意か否か等についての論述 が,求められている。 設問2は,契約上の債務不履行が不法行為責任の問題として構成された場合に,通則法第 17条の指定する地の法にかかわらず,当事者の指定した契約準拠法が通則法第20条の下で 適用されうるか否かを論述しなければならない。 - 35 -