論文式試験問題集[民事系科目第1問] - 1 - [民事系科目] 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点は, 4:6〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 T 【事実】 1.不動産賃貸業を営むAは, その亡妻Bとの間に長男Cをもうけていた。 Cは, 平成23年3 月に高校を卒業した後, 他県の自動車販売店に整備士として雇用されたことから, Aの家を出 て自分でアパートを借り, 恋人のDと同棲を始めた。 平成24年2月の時点で, Cは満18歳, Dは満20歳であった。 2.Cは, Bの所有していた甲土地及び乙土地をBからの相続により取得していた。 甲土地及び 乙土地は, 更地で, Cの登記名義とされていたが, Cの親権者であるAが公租公課の支払を含 め両土地の管理を行っていた。 3.平成24年2月1日, Aは, 自らの遊興を原因とする1000万円を超える借金の返済に窮 していたことから, C所有の甲土地及び乙土地を自らが管理していることを奇貨として, 甲土 地及び乙土地をCの承諾を得ずに売却し, その代金を自己の借金の返済に充てようと考えた。 4.平成24年2月10日, Aは, Cの代理人として, 個人で飲食店を営む知人Eとの間で, 甲 土地を450万円, 乙土地を600万円で売却する契約を締結した。 ところが, Eはその時点 で600万円しか現金を有していなかったことから, AとEは, 甲土地についてはEが450 万円の現金を調達できた時点でCからEへの所有権移転登記手続をすることとし, さしあたり, 乙土地についてのみCからEへの所有権移転登記手続をすることで合意した。 5.平成24年2月15日, Eは, Aに対し乙土地の代金として600万円を支払い, CからE への乙土地の所有権移転登記がされた。 Aは, Eから受領した代金600万円を自らの借金の 返済に充当した。 これらの事実について, AはCに何も知らせなかった。 6.Eは, 【事実】4の売買契約を締結した時点で, Aが遊興を原因として多額の借金を抱えて おり, Aが乙土地の代金600万円をAの借金に充当するつもりであることを知っていた。 7.平成24年3月1日, CはAの同意を得てDと婚姻し, 新婚旅行に出発したが, 同月5日, Cは, 新婚旅行先で海水浴中の事故により死亡した。 Cの相続人はA及びDの2人である。 8.平成24年3月15日, Eは, 450万円の現金を調達できたことから, Aにその旨連絡し, 代金の支払と引換えに甲土地の所有権移転登記手続をするよう求めた。 ところが, Aは, 甲土 地の地価が急騰したことから, 甲土地を売却するのが惜しくなり, Eの請求に応じなかった。 9.平成24年3月20日, Eは, 乙土地の地価も急騰したことから, 乙土地を売却しようと考 え, 乙土地の売却の媒介を仲介業者に依頼した。 その頃, Fは, 自宅建物を建設するための敷 地を探していたが, 購読している新聞の折り込みチラシに乙土地が紹介されていたことから, 仲介業者に問い合わせた。 その後, 現地を見たFは, 乙土地を気に入り, Eと面識はなかった ものの, Eから乙土地を購入することを決めた。 10.平成24年3月30日, Eは, Fとの間で, 乙土地の売買契約を締結し, FはEに乙土地の 代金として750万円を支払い, EからFへの乙土地の所有権移転登記がされた。 11.その後, Fは, 乙土地上に丙建物を建築し, 平成24年10月10日から丙建物での居住を 開始した。 12.平成25年3月5日, Dは, Cの一周忌の法要の席上において, Aに対し, Cの遺産につい て尋ねたが, AはDの質問を無視した。 その後も, AはDからの電話の着信や郵便物の受領を 全て無視している。 13.平成25年4月15日, Dは, Cの遺産に関する自らの疑問を解消したいと考え, 弁護士に - 2 - 調査を依頼した。 14.平成25年5月25日, Dは, 【事実】13の調査を依頼した弁護士の報告により, 【事実】2 から11までを知った。 15.平成25年6月30日, Eは, 弁護士を通じて, A及びDに対し, 代金を支払うので甲土地 の所有権移転登記手続をするよう求めたが, 拒絶された。 そこで, Eは, 甲土地の売買代金全 額を供託した。 〔設問1〕 【事実】1から15までを前提として, 以下の及びに答えなさい。 Eは, A及びDに対し, 甲土地の所有権移転登記手続の請求をすることができるか。 Eの請求 の根拠を説明し, その請求の当否を論じなさい。 Dは, Fに対し, 乙土地及び丙建物に関しどのような請求をすることができるか。 Dの請求の 根拠及び内容を説明し, その請求の当否を論じなさい。 なお, DのFに対する金銭請求について は, 検討を要しない。 U 【事実】1から15までに加え, 以下の【事実】16から27までの経緯があった。 【事実】 16.Eは, その飲食業に関し借金を負っていたところ, 平成26年に入ってから, 事業の借金の 返済に充てる資金をGの主宰する賭博で得ようと考え, 懇意にしている仕入先のHに頼み込ん で, 賭博に使うつもりであることを打ち明けて, 500万円を借り受けることにした。 17.Eは, さらに, 同様の目的を有しつつも, 賭博に使うつもりであることを打ち明けずに, 知 人Kから500万円を借り受けようと考えた。 18.平成26年3月1日, Eは, 叔父Lに, 「事業の建て直しに必要な資金の融資をHとKから 受けるに当たって保証人が必要だが, 叔父さん以外に頼れる人がいない。 」と述べて, HとK に対する貸金債務の連帯保証人になってもらうことの同意を得た。 Lは, Eの事業がうまくい っていないことを知っていたが, Eが借りた金を賭博に使うつもりであることは知らなかった。 19.平成26年4月1日, Eは, Hから, 返済期日を平成27年3月31日, 利息を年15%, 遅延損害金を年21.9%として, 500万円を借り受け, LがEの債務を連帯保証する旨の 契約書がE, H及びLの3人の間で作成され, 同日, HからEに500万円が交付された。 20.平成26年4月15日, Eは, Kから, 返済期日を平成27年5月30日, 利息を年15%, 遅延損害金を年21.9%として, 500万円を借り受け, LがEの債務を連帯保証する旨の 契約書がE, K及びLの3人の間で作成された。 当該契約書では, 500万円は, 平成26年 5月31日に, KからEに交付されることになっていた。 21.しかし, Kは, Eによる借金の使途に疑問を抱き, 平成26年5月31日の経過後も, 50 0万円をEに交付しなかった。 また, そのことは, Lには知らされなかった。 22.平成26年8月1日, 急に資金繰りが悪化したHは, 平成26年4月1日付消費貸借契約に 関する債権を, 既発生の利息債権も含めて, 400万円でMに売却した。 その際, HはMに対 して, 「この債権はEの事業のための融資金債権であり, Eの事業の経営はやや苦しいが, L は弁済に足る資産を有している。 」と説明し, Mもその説明を信じた。 23.平成26年8月5日, EはHから, 「あなたに対する債権をMに譲渡しました。 承諾書を同 封したのでそれに署名押印して返送してください。 」と書かれた手紙を受け取ったので, Eは Hの指示に従い, 「私は, 平成26年4月1日付消費貸借契約に基づくHの私に対する債権を, 平成26年8月1日付譲渡契約によってHがMに対して譲渡したことを承諾します。 」とだけ 記載された書面に署名押印し, 内容証明郵便でそれをHに返送した。 その書面は, 同月7日に Hに配達された後, 同月10日, HからMに交付され, MからHに代金400万円が支払われ た。 Lは, この債権譲渡について, E及びHから何も知らされていなかった。 - 3 - 24.平成26年10月頃, Hは, 更に資金繰りが悪化し資産も尽きたので, 多額の債務を抱えた まま夜逃げをした。 それ以降, Hの所在は不明である。 25.平成27年6月1日, Kは, Lに対し, Eに500万円を交付していなかったが, 平成26 年4月15日付契約書があることを奇貨として, Lに連帯保証債務の履行を請求した。 Lが直 ちにEに照会したところ, Eは, 間違えて, 「事業はうまくいっておらず, Kに対する債務は 利息を含め1円も支払っていない。 」と説明した。 LはEに対し, 「仕方がないので連帯保証債 務を履行する。 」と述べた。 26.平成27年6月29日, Lは, Kに対し, 連帯保証債務の履行として, 合計584万円を支 払った。 584万円の内訳は, 元本が500万円, 利息が75万円, 遅延損害金が9万円であ る(利息75万円=元本500万円×利率年15%×1年, 遅延損害金9万円=元本500万 円×利率年21.9%×30日/365日)。 27.平成27年7月末になったが, Eは, Hに対しても, Mに対しても, 利息を含め1円も支払 っていない。 〔設問2〕 【事実】1から27までを前提として, 以下のからまでに答えなさい。 Mは, Eに対して, 契約上の債権に基づき, 500万円とそれに対する利息や遅延損害金の支 払を請求することができるか。 Mの請求の根拠及び内容を説明し, その請求の当否を論じなさい。 Mは, Eに対して, 法定債権に基づき, 500万円とそれに対する利息や遅延損害金の支払を 請求することができるか。 Mの請求の根拠及び内容を説明し, その請求の当否を論じなさい。 Lは, Eに対して584万円の支払を請求することができるか。 Lの請求の根拠を説明し, そ の請求の当否を論じなさい。 なお, 不法行為に基づく請求については, 検討を要しない。 - 4 - 論文式試験問題集[民事系科目第2問] - 1 - [民事系科目] 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 3.5:3:3.5〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。 )は, 取締役会及び監査役を置いている。 甲社の定款には 取締役は3名以上とする旨の定めがあるところ, A, Bほか4名の計6名が取締役として選任 され, Aが代表取締役社長として, Bが代表取締役専務として, それぞれ選定されている。 ま た, 甲社の定款には, 取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のもの に関する定時株主総会の終結の時までとする旨の定めがある。 甲社の監査役は, 1名である。 甲社は種類株式発行会社ではなく, その定款には, 譲渡による甲社の株式の取得について取締 役会の承認を要する旨の定めがある。 甲社の発行済株式及び総株主の議決権のいずれも, 25 %はAが, 20%はBが, それぞれ保有している。 2.甲社は建設業を営んでいたが, 甲社においては, Aが事業の拡大のために海外展開を行う旨 を主張する一方で, Bが事業の海外展開を行うリスクを懸念し, Aの主張に反対しており, A とBが次第に対立を深めていった。 Aは, 事業の海外展開を行うために必要かつ十分な調査を 行い, その調査結果に基づき, 事業の海外展開を行うリスクも適切に評価して, 取締役会にお いて, 事業の拡大のために海外展開を行う旨の議案を提出した。 この議案については, Bが反 対したものの, 賛成多数により可決された。 甲社はこの取締役会の決定に基づき事業の海外展開をしたが, この海外事業は売上げが伸びず に低迷し, 甲社は3年余りでこの海外事業から撤退した。 3.この間にAと更に対立を深めていたBは, 取締役会においてAを代表取締役から解職するこ とを企て, Aには内密に, Aの解職に賛成するように他の取締役に根回しをし, Bを含めてA の解職に賛成する取締役を3名確保することができた。 甲社の取締役会を招集する取締役につ いては定款及び取締役会のいずれでも定められていなかったことから, Bは, Aの海外出張中 を見計らって臨時取締役会を開催し, Aを代表取締役から解職する旨の議案を提出することと した。 4.Bは, Aが海外出張に出発したことから, 臨時取締役会の日の1週間前にAを除く各取締役 及び監査役に対して取締役会の招集通知を発した。 この招集通知には, 取締役会の日時及び場 所については記載されていたが, 取締役会の目的である事項については記載されていなかった。 Aの海外出張中に, Aを除く各取締役及び監査役が出席し, 臨時取締役会が開催された。 Bは, この臨時取締役会において, 議長に選任され, Aを代表取締役から解職する旨の議案を提出し た。 この議案については, 賛成3名, 反対2名の賛成多数により可決された。 5.Aが, 海外出張から帰国し, Aを代表取締役から解職する旨の臨時取締役会の決議の効力を 強硬に争っていたところ, 臨時取締役会の決議においてAの解職に反対した取締役のうちの一 人が, 甲社の内紛に嫌気がさし, 取締役を辞任した。 そこで, Bは, 各取締役及び監査役の全 員が出席する定例取締役会であっても, Aの解職の決議をすることができる状況にあると考え, 解職を争っていたAを含む各取締役及び監査役の全員が出席した定例取締役会において, 念の ため, 再度, Aを代表取締役から解職する旨の議案を提出した。 この議案については, 賛成多 数により可決された。 また, 甲社においては, 取締役の報酬等の額について, 株主総会の決議 によって定められた報酬等の総額の最高限度額の範囲内で, 取締役会の決議によって役職ごと に一定額が定められ, これに従った運用がされていた。 この運用に従えば, Aの報酬の額は, 月額50万円となるところ, Bは, この定例取締役会において, Aの解職に関する議案に続け て, 解職されたAの報酬の額を従前の代表取締役としての月額150万円から月額20万円に 減額する旨の議案も提出した。 この議案についても, 賛成多数により可決された。 この定例取 - 2 - 締役会において, BがAの後任の代表取締役社長として選定された。 〔設問1〕 Aを代表取締役から解職する旨の上記4の臨時取締役会の決議の効力について, 論じなさい。 Aの報酬の額を減額する旨の上記5の定例取締役会の決議の後, Aは, 甲社に対し, 月額幾 らの報酬を請求することができるかについて, 論じなさい。 なお, Aが代表取締役から解職 されたことを前提とする。 6.代表取締役から解職されたAは, 甲社の株主として, 定時株主総会において, Aの解職に賛 成したBら3名を取締役から解任しようと考え, Bら3名の取締役の解任及びその後任の取締 役の選任をいずれも株主総会の目的とすることを請求するとともに, これらに関する議案の要 領をいずれも定時株主総会の招集通知に記載するように請求した。 甲社の定時株主総会の招集通知には, 会社提案として, 海外事業の失敗を理由とするAの取締 役の解任に関する議案が, Aの株主提案として, 上記Bら3名の取締役の解任に関する議案及 びその後任の取締役の選任に関する議案が, それぞれ記載されていた。 7.甲社の定時株主総会においては, Aの取締役の解任に関する議案は可決され, 上記Bら3名 の取締役の解任に関する議案及びその後任の取締役の選任に関する議案はいずれも否決された。 なお, Aの取締役としての任期は, 8年残っていた。 〔設問2〕 上記7の定時株主総会において取締役から解任されたAが, 甲社に対し, 解任が不当である と主張し, 損害賠償請求をした場合における甲社のAに対する会社法上の損害賠償責任につ いて, 論じなさい。 仮に, 上記6の定時株主総会の招集通知が発せられた後, Aが多額の会社資金を流用してい たことが明らかとなったことから, Aが, Aの取締役の解任に関する議案が可決されること を恐れ, 旧知の仲である甲社の株主数名に対し, 定時株主総会を欠席するように要請し, そ の結果, 定時株主総会が, 定足数を満たさず, 流会となったとする。 この場合において, @ Bが, 甲社の株主として, 訴えをもってAの取締役の解任を請求する際の手続について, 説 明した上で, Aこの訴えに関して考えられる会社法上の問題点について, 論じなさい。 8.甲社は, 内紛が解決した後, 順調に業績が伸び, 複数回の組織再編を経て, 会社法上の公開 会社となり, 金融商品取引所にその発行する株式を上場した。 現在, 甲社の資本金の額は20 億円で, 従業員数は3000名を超え, 甲社は監査役会及び会計監査人を置いており, Cが代 表取締役社長を, Dが取締役副社長を, それぞれ務めている。 9.甲社の取締役会は「内部統制システム構築の基本方針」を決定しており, 甲社は, これに従 い, 法務・コンプライアンス部門を設け, Dが同部門を担当している。 また, 甲社は, 内部通 報制度を設けたり, 役員及び従業員向けのコンプライアンス研修を定期的に実施するなどして, 法令遵守に向けた取組を実施している。 さらに, 甲社は, 現在, 総合建設業を営んでいるとこ ろ, 下請業者との癒着を防止するため, 同規模かつ同業種の上場会社と同等の社内規則を制定 しており, これに従った体制を整備し, 運用している。 10.甲社の内部通報制度の担当者は, 平成27年3月末に, 甲社の営業部長を務めるEが下請業 者である乙株式会社(以下「乙社」という。 )の代表取締役を務めるFと謀り, 甲社が乙社に対 して発注した下請工事(以下「本件下請工事」という。 )の代金を水増しした上で, 本件下請工 事の代金の一部を着服しようとしているとの甲社の従業員の実名による通報(以下「本件通報」 という。 )があった旨をDに報告した。 ところが, その報告を受けたDは, これまで, 甲社にお - 3 - いて, そのような不正行為が生じたことがなかったこと, 会計監査人からもそのような不正行 為をうかがわせる指摘を受けたことがなかったこと, EがDの後任の営業部長であり, かつて 直属の部下であったEに信頼を置いていたことから, 本件通報には信ぴょう性がないと考え, 本件下請工事や本件通報については, 法務・コンプライアンス部門に対して調査を指示せず, Cを含む他の取締役及び監査役にも知らせなかった。 11.甲社の内部通報制度の担当者は, その後, Dから, 法務・コンプライアンス部門に対し, 本 件下請工事や本件通報についての調査の指示がなかったことから, 平成27年5月に, 本件通 報があった旨をCにも報告した。 その報告を受けたCは, 直ちに, 本件下請工事や本件通報に ついて, 法務・コンプライアンス部門に対して調査を指示した。 12.甲社の法務・コンプライアンス部門が調査をした結果, 2週間程度で, 以下のとおり, Eと Fが謀り, 本件下請工事について不正行為をしていたことが判明した。 EとFは, 本件下請工事について, 合理的な代金が1億5000万円であることを理解して いたにもかかわらず, 代金を5000万円水増しして, 2億円と偽り, 水増しした5000 万円を後に二人で着服することをあらかじめ合意していた。 甲社の社内規則上, 甲社が発注する下請工事の代金が1億円以上となると, 複数社から見積 りを取得する必要が生じることから, Eが, Fに対し, 本件下請工事について, 形式上, 工 事を三つに分割して見積書を3通作成することを指示し, 乙社は, @第一工事の代金を80 00万円, A第二工事の代金を5000万円, B第三工事の代金を7000万円として, 本 件下請工事について代金が合計2億円となるように3通の見積書を作成し, 甲社に提出した。 Eは, 甲社の関係部署を巧妙に欺き, 3通の見積書がそれぞれ別工事に関わるものであると 誤信させた。 これにより, 甲社は, 平成26年9月に, 乙社との間で, 上記の各見積書に基 づき3通の注文書と注文請書を取り交わした上で, 以後, 乙社に対し, 毎月末の出来高に応 じて翌月末に本件下請工事の代金を支払っていった。 甲社は, 本件下請工事が完成したことから, 乙社に対し, 平成27年4月末に残金合計30 00万円を支払い, その後, EとFが, 甲社が乙社に対して支払った本件下請工事の代金か ら5000万円を着服した。 甲社の会計監査人は, 平成27年1月に, 乙社に対し, 甲社の平成26年12月期の事業年 度の計算書類及びその附属明細書等の監査のために, 本件下請工事の代金の残高についての 照会書面を直接郵送し, 回答書面の直接返送を求める方法で監査を行ったが, Eは, Fに対 し, 回答書面にEが指定した金額を記載して返送するように指示をするなど, 不正が発覚す ることを防止するための偽装工作を行っていた。 〔設問3〕 上記8から12までを前提として, @Cの甲社に対する会社法上の損害賠償責任及び ADの甲社に対する会社法上の損害賠償責任について, それぞれ論じなさい。 - 4 - 論文式試験問題集[民事系科目第3問] - 1 - [民事系科目] 〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 3:3:4〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 【事 例】 Xは, 設立後約30年が経つ「甲街振興会」という名称の法人格を取得していない団体であり, その代表者である会長は甲街の有力者であるZが務めていた。 Xには規約が定められており, 甲 街で事業を営む者が, Xに書面で加入申請をすれば, Xの会員となるとされている。 会員数は近 年は100名程度で推移しており, 会員名簿は毎年作成されているが, 団体の運営に実質的な関 心のない者も少なくない。 総会員で構成する総会(定足数は総会員の過半数)があるほか, 役員 として, 会長1名, 副会長1名, 監事2名が置かれている。 役員は総会で選任され, 会長がXを 代表する権限を有するが, 不動産など重要な財産の処分については総会の承認決議が必要とされ, 出席者の3分の2以上の賛成が必要となる。 Xには, 唯一の不動産として, Xの事務所として使用されている建物及びその敷地である土地 (以下「本件不動産」という。 )があるとされていた。 これは, Xの活動が軌道に乗った頃, 会 長であるZがAとの間で売買契約を締結して購入したものであるが, Zは, 「これはXのために 購入したものであり, 以後, 本件不動産はXの事務所として使用する。 」と公言していた。 実際 に, 本件不動産はXの資産としてXの財産目録には計上されていたが, 登記は代表者であるZの 名義とされていた。 本件不動産の固定資産税はZが納付していたが, Xは納税相当額をZに償還 していた。 近年になり, 長らくXの会長を務めていたZが高齢になってきたため, Xの内部においては, そろそろ会長を副会長であるBに交代すべきであると主張する勢力が台頭しつつあった。 そのような中, 本件不動産についてYを抵当権者とする抵当権設定登記がされていることが判 明した。 Bが調査をしたところによると, この抵当権は, Zの子であるCに対する貸金3000 万円を被担保債権とするものであり, Cは貸金債務の返済をしばしば遅滞していて, なお200 0万円以上の債務が残存していることが分かった。 そこで, Bは, Zに対して経緯の説明を求め た。 これに対し, Zは, 本件不動産はXの事務所として使用するために購入したものではあるが, 飽くまでも, 事務所として利用させることだけが目的であり, その所有権はZ個人にあると主張 した。 さらに, 一時期Cが貸金債務の返済を滞らせていたことがあるが, もう心配はないし, 今 後とも本件不動産をXに使用させるつもりであると説明した。 しかし, Bの調査によれば, Zの説明とは異なって, Cはその事業が行き詰まっているため, 倒産しかねない状況にあるとの風評が立っており, ZがCを経済的に支えることも困難であろう と見込まれていた。 また, Bとしては, Zから何度となく本件不動産はXのために購入したものであると聞かされ ていたし, そのようなZの貢献が会員に評価されていたからこそ, Zは長年にわたり会長を務め ることになったのであるから, 本件不動産はXがAから購入したものであって, Zの所有であっ たと認めることはできないし, 今後の活動資金の確保の観点からも, 本件不動産はXにとって極 めて重要な財産であり, 何としても, Yの抵当権設定登記を抹消しなければならないと考えた。 そこで, Bは, Xの規約によれば, 会長は「職務上の義務に違反し, 又は職務を怠ったとき」 には総会の決議によって解任することができるとされていることを確認した上で, 規約に基づき 臨時総会を開催し, Zの解任議案及びBの会長選任議案を提出した。 臨時総会の開催や運営に当たっては, Zやその支援者らの強い抵抗があったものの, 両議案は いずれも賛成多数で可決された。 そこで, 新たに会長に選任されたBは, 本件不動産の問題を解決するため, 知り合いの弁護士 - 2 - であるL1に相談した。 以下は, Bから依頼を受けた弁護士L1と司法修習生P1との間の会話である。 L1:Bから事情を聞きましたが, Yに対しては, 抵当権設定登記の抹消登記手続請求と総有 権確認請求をすることになりそうですね。 Zに対しても訴えを提起する必要があるかどうか は, もう少しZの動向を見てから決めたいというのがBの意向のようですから, まずは, Y を被告として, どのような訴え提起の方法が考えられるかを検討してみましょう。 P1:Xは, 権利能力のない社団とされる要件を満たしているといえそうですから, 民事訴訟 法第29条が適用され, 当事者能力が認められるので, X自身が原告となってYに対する訴 えを提起することができると思います。 その先は, 登記手続請求訴訟になると, 十分に勉強 が進んでいませんので, よく分からないのですが。 L1:差し当たり, 議論を単純化するために登記請求については考えることとせず, 総有権確 認請求訴訟を前提として議論しましょう。 P1:総有権確認請求訴訟の提起ということになると, 最高裁判所平成6年5月31日第三小 法廷判決・民集48巻4号1065頁によれば, 権利能力のない社団が原告となり, その代 表者が不動産についての総有権確認請求訴訟を追行するには, その規約等において当該不動 産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要するとされています。 し たがって, 本件不動産の総有権の確認を求めるためには, 少なくとも, 重要な財産の処分に ついての承認決議に必要な総会の出席者の3分の2以上の賛成に基づく授権が必要というこ とになりそうです。 L1:そうですね。 ただ, Zの立場を支持する勢力もなお有力のようで, 今後の動向によって は, 3分の2以上の賛成を得ることは簡単ではないかもしれません。 3分の2以上の賛成を 得ることができないことも想定すると, 他にどのような方法が考えられますか。 P1:その場合には, 一般的には, 構成員全員が原告となって訴えを提起することになるので はないでしょうか。 L1:しかし, 本件では, 構成員の中にはZやその支持勢力がおり, 彼らは訴えの提起に反対 するかもしれません。 そういった場合には, どのような対応策が考えられるか, 検討する必 要がありますね。 そこで, まずは, X自体を当事者とせずXの構成員がYに対して総有権の確認を求めるに は, 原則としてその全員が原告とならなければならないとされる理由について整理してくだ さい。 その上で, 構成員の中に訴えの提起に反対する者がいた場合の対応策について検討してく ださい。 さらに, 訴訟係属後に甲街で事業を開始して新たに構成員となる者が現れる可能性があり ます。 そこで, この場合の訴訟上の問題点について, まとめてみてください。 その際は, そ の者がBに同調する場合としない場合とが考えられることを考慮してください。 〔設問1〕 あなたが司法修習生P1であるとして, L1から与えられた課題に答えなさい。 【事 例(続き)】 BとL1は, 検討を重ねた結果, Xを原告, YとZを被告として総有権確認請求の訴えを提起 することとし, それと併せて登記手続請求の訴えも提起するとの結論に至った。 そこで, 本件不 動産はXの構成員の総有に属するとして, Xを原告とし, YとZとを共同被告として, 本件不動 産の総有権確認請求の訴えを提起し, 併せてYに対しては抵当権設定登記の抹消登記手続請求の - 3 - 訴えを, Zに対してはZから現在の代表者であるBへの所有権移転登記手続請求の訴えを提起し た。 なお, Bは, 他の会員を説得し, 事前にこれらの訴え(以下, これらの訴えに係る訴訟を「第 1訴訟」という。 )の提起のために必要となる総会の承認決議を得た。 以下は, このような経緯で訴えを提起されたZから訴訟委任を受けた弁護士L2と司法修習生 P2との間でされた会話である。 なお, Xが原告となって登記手続請求の訴えを提起することの 当否について検討する必要はない。 L2:Zは, そもそも, Z自身がXの会長の地位にあるのに, Bが会長であるかのように行動 していることに不満があるようです。 自らがXの会長の地位にあることを裁判で認めてもら いたいという要望は何とかして受け止めてあげたいですね。 第1訴訟において, Bを代表者 として提起された訴えの適法性自体を争い, 却下判決を求めることは当然ですが, それに加 えて, 第1訴訟の中で, 自らが会長の地位にあることや解任決議が無効であることを確定さ せる判決を得ることができないかも検討した方がいいでしょう。 もっとも, X内部での会長の選解任がいかなる場合に無効となるのかという実体的な問題 については, ひとまず, 解任事由が存在しないというZの言い分どおりの事実が認められれ ば, 解任決議は無効となり, そうであるとすれば, 規約上1名に限られる会長が既に存在す る状況でされた新会長の選任決議も無効となる, という前提で検討を進めてみてください。 P2:分かりました。 Zとしては, Zの解任決議が無効であること, 及びZがXの会長の地位 にあることの確認を求める訴えを提起することが考えられ, その場合, Xを被告とすること が適当であると思います。 そして, 第1訴訟の中で, Zが会長の地位にあり, 自らの解任決 議は無効であることを主張するわけですから, 反訴として提起することが簡便だと思います。 L2:そうですね。 Zが, 第1訴訟においてXを被告として反訴を提起するという前提で検討 しましょうか。 それから, Zの提起する反訴において, 会長としての地位が争われることに なるBがXの代表者として訴訟を追行することを認めてよいかという問題もありそうです が, 差し当たり, この点は検討の対象から除外します。 P2:分かりました。 L2:検討をするに当たって1点確認をしておきたいのですが, 本案の前提として判断される 手続的事項については, 独自の訴えの利益は認められないという考え方を聞いたことはあり ませんか。 P2:はい。 そう言えば, 最高裁判所昭和28年12月24日第一小法廷判決・民集7巻13 号1644頁も, 訴訟代理人の代理権の存否の確認を求める訴えを不適法としていたと思い ます。 本件では, 会長の地位にあるかどうかが争われているので, 利益状況は似ているよう にも思います。 Zが提起する反訴も却下されてしまう可能性があるのでしょうか。 L2:少なくとも, そういう反論に備えておく必要はあるでしょうね。 以上のことを踏まえた 上で, Zが解任決議が無効であることやZがXの会長の地位にあることを確認する訴えを提 起することについて訴えの利益が認められるという理由付けを具体的にまとめてみてくださ い。 それから, 反訴として提起するということですから, 民事訴訟法第146条第1項所定 の要件についての検討も念のために行っておいてください。 〔設問2〕 あなたが司法修習生P2であるとして, L2から与えられた課題に答えなさい。 【事 例(続き)】 第1訴訟について審理がされた結果, XのYとZに対する請求はいずれも認容され, 判決(以 下「前訴判決」という。 )は確定した。 前訴判決の確定を受け, Yは, 本件不動産について設定 - 4 - を受けていた抵当権は無効であり, 損害を被ったなどとして, Zに対して, 債務不履行に基づく 損害賠償を求める訴えを提起した。 この訴訟(以下「第2訴訟」という。 )において, Zは, 「A から本件不動産を買い受けたのは自分であり, 抵当権設定契約時にも本件不動産を所有していた からYに対しても抵当権を有効に設定していて, 登記も具備させたのであるから, 債務不履行は ない。 」と主張した。 これに対し, Yは, 「前訴判決において本件不動産がXの構成員の総有に属することが確認さ れた以上, Zは, 本件不動産はXの構成員の総有に属さず, Zの個人財産に属したと主張して損 害賠償責任を免れることはできない, そうでなければ, Yは, 第1訴訟においては本件不動産は Xの構成員の総有に属するという理由で敗訴し, 他方, 第2訴訟においては本件不動産はZの個 人財産に属するという相矛盾する理由によって二重に敗訴する危険を負うことになってしまい, 不当である。 」と主張した。 以下は, 第2訴訟の審理を担当する裁判官Jと司法修習生P3との間でされた会話である。 J:本件はいろいろと問題がありそうですね。 本件では, YはZに対して不法行為ではなく, 債務不履行に基づいて損害賠償請求をしていますね。 そもそも, 本件のような事案において, 債務不履行に基づく損害賠償請求が実体法上可能か否か等についても学説は分かれているよ うですが, 私としては, 抵当権設定契約の時において設定者が抵当権の目的物の所有権を有 していなければ有効な抵当権を設定できず, その場合には, 設定者は抵当権設定契約に基づ く債務不履行責任を負うと理解したいと考えています。 以下では, この理解を前提に民事訴 訟法上の問題について検討してもらいます。 相矛盾する理由によって二重に敗訴する危険を 負わされるのは不当であるというYの主張は, 既判力と関係しそうですから, 裁判所の方で よく検討をしておかないといけませんね。 前訴判決の既判力によってこの問題を解決するこ とができるかどうかについては, どう考えますか。 P3:本件の事実関係を前提とすると, 前訴判決のうちXのYに対する総有権確認請求につい てされた部分の効力がXの構成員の一人であるZにも及んでいると解する余地があるのでは ないでしょうか。 J:なるほど。 @権利能力のない社団が当事者として受けた判決の効力は, 当該社団の構成員 全員に対して及ぶと述べる最高裁判所平成6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号 1065頁があることは承知していますが, それを本件において援用することが適切かとい う点については, 具体的に検討してみる必要があると思います。 P3:他方で, 仮に前訴判決の既判力がZに及ぶことになるとしても, それが第2訴訟におい てどのような意味を持つのか, 今一つはっきりしないような気がします。 J:A確かに, 本件不動産がXの構成員の総有に属していればZの所有には属しないというこ とは, 一物一権主義から当然にいえそうではありますが, しかし, 前訴判決の既判力がいつ の時点における権利関係の存否について生じているのかということとの関係で, 第2訴訟に おけるYとZの主張の対立点に関して前訴判決の既判力が作用し得るのかは, 私も少し引っ かかっているところなので, 具体的に検討してみてください。 P3:既判力に基づく説明以外の説明によってYの主張を根拠付ける余地もあるかもしれませ んが, そういった検討も必要でしょうか。 J:Bそれも検討していただきたいですね。 ただ, 既判力以外の根拠を用いようとする場合に は, 第1訴訟の段階でYとして採るべき何らかの手段があったのであれば, それをしなかっ たYが不利益を被ってもやむを得ないという反論も出てくるかもしれません。 結論を限定す るわけではありませんが, 第1訴訟の段階でYとして採るべき手段があったかどうかという 点にも触れながら, 検討してみてください。 P3:なかなか大変な検討になりそうです。 - 5 - J:前訴判決が存在するにもかかわらず, 第2訴訟において本件不動産の帰属に関して改めて 審理・判断をすることができるのかを検討することが今回の課題です。 なお, 検討事項も多 いので, 差し当たり, 前訴判決のうち登記手続請求についてされた部分を考慮に入れる必要 はありません。 では, 頑張ってください。 〔設問3〕 あなたが司法修習生P3であるとして, 下線部分@からBまでに現れたJの問題意識についての 検討結果を示しつつ, Jから与えられた課題に答えなさい。 - 6 -