論文式試験問題集[倒 - 1 - 産 法] [倒 産 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例について, 以下の設問に答えなさい。 【事 例】 A商事株式会社(以下「A社」という。 )は, 長年, 食品製造機械メーカーであるB社及びC 社から機械を仕入れ, 得意先の食品製造会社であるD社やE社らに販売していた。 A社は, 市場の縮小傾向により, 徐々に経営が苦しくなり, ここ数年は赤字決算を繰り返して いたが, 平成28年3月末日の資金繰りに窮し, 同月25日, 取締役会において破産手続開始の 申立てを行う旨決議し, 支払を停止した。 その後, A社は, 同年4月1日, 破産手続開始の申立 てを行い, 同月5日, 破産手続開始の決定を受け, 破産管財人Xが選任された。 〔設 問〕 以下の1及び2については, それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.A社は, 平成27年12月10日, B社から機械αを代金1000万円で購入し, 同日, そ の引渡しを受けたが, 代金の支払期日は平成28年3月末日とされていた。 A社は, この機械 αの売却先を探していたところ, 同月15日, D社との間で, 機械αを1500万円で売却す る売買契約(以下「本件売買契約」という。 )を締結することができた。 なお, 機械αの引渡 し及び代金の支払期日は, D社の買取り資金の調達の都合により, いずれも1か月後の同年4 月15日とされ, 所有権の移転時期も同日とされていた。 A社の破産手続開始時において, 本件売買契約に基づくA社及びD社の各債務は, 双方とも 履行されておらず, 機械αはA社の自社倉庫内に保管されていた。 破産管財人Xは, 選任され た直後, B社からは, 機械αの代金1000万円を支払うか, それができないとすれば機械α を返還するよう求められ, D社からは, 本件売買契約に従い機械αを引き渡すよう求められた。 B社は, 機械αの代金1000万円を回収したいと考えている。 この債権の回収につき, 考えられる法的根拠及び権利行使の方法を論じなさい。 なお, B社は, 本件売買契約の存在 を知らないこととする。 Xは, 機械αの代金1500万円をD社から回収し, 破産財団を増殖したいと考えている。 Xがこの代金を回収する場合に, 破産手続上必要とされる手続及び効果について, その制度 趣旨を踏まえて, 論じなさい。 Xは, の手続を経て, D社から機械αの代金1500万円を回収した。 その後, この事 実を知ったB社は, 破産財団から優先的に機械αの代金相当額である1000万円の弁済を 受けたいと考えた。 B社は, 破産財団から優先的に弁済を受けることができるか。 予想され るXからの反論を踏まえて, 論じなさい。 2.A社は, かねてからC社に運転資金の融通を求めていたところ, C社は, これに応じ, 平成 27年9月25日, A社に対し, 弁済期を平成28年9月末日として, 2500万円を貸し付 けた(以下, この貸付に係る債権を「本件貸付金債権」という。 )。 A社は, 平成28年1月20日, C社から機械βを代金2000万円で購入し, 同日, その 引渡しを受けたが, 代金の支払期日は同年3月末日とされていた。 そこで, A社は, C社の要 請に応え, この売買契約の締結と同時に, C社との間で, C社のA社に対する売買代金債権2 000万円を担保するため, 機械βにつき譲渡担保権を設定する内容の譲渡担保契約(以下「本 件譲渡担保契約」という。 )を締結した。 本件譲渡担保契約には, A社が支払を停止したとき は当然に期限の利益を喪失し, C社は譲渡担保権の実行として, 自ら機械βを売却し, 清算を するとの約定があった。 A社の支払停止時, 機械βはA社の自社倉庫内に保管されていたが, A社の支払停止を知っ たC社は, 本件譲渡担保契約に基づき, 直ちにA社の同意を得て機械βを引き揚げた(なお, - 2 - この引揚げは適法なものとする。 )。 A社の破産手続開始後, 得意先であったE社は, C社が機械βを引き揚げたとの情報を得, C社に対し, 是非購入したいと申し入れた。 そこで, C社は, E社に機械βを売却することと したが, 一旦商品として出荷された機械の価値は中古市場においては半減することが通常であ るため, その売却価格は, A社の通常販売価格である3000万円の半額程度とされてもやむ を得ないと考えていた。 ところが, 交渉の結果, E社への売却価格は, 通常販売価格の8割に 相当する2400万円となり, これによって, C社は, A社に対する売買代金債権2000万 円を全額回収できた上, 期待していなかった剰余金400万円が生じた。 本件譲渡担保契約は, 前記の約定のとおりいわゆる処分清算型とされており, C社はこの剰余金400万円をA社に 返還する債務を負うこととなった。 そこで, C社としては, A社のC社に対する剰余金返還債権400万円と本件貸付金債権2 500万円との相殺をしたいと考えている。 C社の相殺は認められるか。 破産法の条文の構造 と予想されるXの反論を踏まえて, 論じなさい。 - 3 - 〔第2問〕(配点:50) 次の事例について, 以下の設問に答えなさい。 【事 例】 X社は, 平成9年に設立された建設資材の輸入・販売を業とする株式会社である。 Aは, X社 の代表取締役であり, 同社に自己資金を貸し付け, これを運転資金に充てていた。 Y社は, X社 の発行済株式の70パーセントを有するいわゆる支配株主であり, 同社に運転資金も融通してい た。 Bは, Y社の代表取締役であり, 同社の発行済株式の全てを有している。 Z社は, 同じくB が代表取締役を務める建設会社であり, X社の得意先である。 X社とZ社との取引は, Bの主導 によって開始されたものであり, X社のZ社に対する平成25年3月末期の売上は, X社の総売 上高の30パーセント余りを占めていた。 X社は, 平成25年末頃から始まった円安の影響を受けて業績不振に陥っていたところ, 平成 26年3月に入ると, Z社がBの放漫経営により破綻したため, 同社に対する売掛金の回収がで きなくなった。 その結果, X社は, 同月末日の資金繰りに窮することとなった。 X社は, 以上のような経緯から, 破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとして, 平成26年3月20日に再生手続開始の申立てをした。 同日, X社について監督命令が発せられ, 弁護士Kが監督委員に選任された。 平成26年3月28日, X社について再生手続開始の決定がされた。 〔設 問〕 1.X社は, Z社に代わる新たな得意先を獲得する見込みの下で事業計画を作成し, この事業計 画が実現可能であり, 計画弁済の履行が可能であると見込まれたことから, 平成26年7月7 日, 裁判所に対し, 再生債権者の権利の変更に関する定めとして下記の条項のある再生計画案 (以下「本件再生計画案」という。 )を提出した。 記 1 確定再生債権額 元本並びに再生手続開始決定日の前日までの利息及び遅延損害金 合計2億0121万7591円 再生手続開始決定日以降の利息及び遅延損害金 合計32万6055円及び額未定 なお, 未確定の再生債権及び不足額が確定していない別除権付債権はない。 2 権利変更の一般的基準 @ 全 て の 確 定 再 生 債 権 に つ き, 再 生 手 続 開 始 決 定 日 以 降 の 利 息 及 び 遅 延 損 害 金 は , 再 生 計 画 の 認 可 の 決 定 が 確 定 し た 時 ( 以 下 「 認 可 決 定 確 定 時 」 と い う 。 ) に 全 額 の免除を受ける。 A 確定再生債権の元本並びに再生手続開始決定日の前日までの利息及び遅延損害 金の合計額は, 次のB及びCの確定再生債権を除き, 10万円までの部分は免除 を受けず, 10万円を超える部分は認可決定確定時にその80パーセントの免除 を受ける。 B Aの確定再生債権のうち, 元本並びに再生手続開始決定日の前日までの利息及 び遅延損害金の合計額は, 認可決定確定時にその全額の免除を受ける。 C Y社の確定再生債権のうち, 元本並びに再生手続開始決定日の前日までの利息 及び遅延損害金の合計額は, 10万円までの部分は免除を受けず, 10万円を超 える部分は認可決定確定時にその85パーセントの免除を受ける。 - 4 - 3 弁済方法 権利変更後の金額のうち, 10万円までの部分は, 再生計画の認可の決定が確定 した日から1か月を経過した日の属する月の末日までに支払い, その余の部分は, 10回に均等分割して平成27年から平成36年まで毎年4月末日限り支払う。 4 個別条項 (略) 本件再生計画案の提出を受けた裁判所は, これを決議に付する旨の決定をすることができる か。 本件再生計画案2@からCまでの各条項について, 民事再生法上の問題点を踏まえて, 論 じなさい。 なお, 各条項はいずれも民事再生法第174条第2項第4号には該当しないこと, Aは2B の免除に同意していること, Y社は2Cの免除には同意していないことを前提とする。 2.本件再生計画案は, 平成26年7月14日, 決議に付する旨の決定がされ, 同年9月3日に 開催された債権者集会において可決された(以下, 可決された本件再生計画案を「本件再生計 画」という。 )。 同日, 本件再生計画について認可決定がされ, 同月29日に確定した。 X社は, 本件再生計画の認可決定が確定した後も, 事業計画で見込んでいたZ社に代わる新 たな得意先の獲得ができなかったことなどから, 事業計画どおりには業績を上げることができ なかった。 そのため, X社は, 平成27年4月末日までの本件再生計画に基づく弁済は何とか 行ったものの(総額520万4000円), 平成28年1月末日現在, 同年4月末日の弁済の 見込みは立たなかった。 とりわけ, 最も大口の債権を有するG銀行(確定再生債権額8000 万円)に対する弁済資金の確保は困難であることが判明した。 再生計画認可後の再生手続においてX社及びKが果たすべき役割について述べた上で, X 社として採り得る方策を論じなさい。 G銀行は, 本件再生計画に基づき, 平成27年4月末日までに合計169万8000円の 弁済を受けたものの, 結局, 平成28年4月末日に支払われるべき159万8000円の弁 済は受けられなかった。 この場合にG銀行として採り得る方策を論じなさい。 - 5 - - 6 - 論文式試験問題集[租 - 7 - 税 法] [租 税 法] 〔第1問〕(配点:50) 【注】 本問は, 問題文中において特許法上の規定を引用しているが, 同法の解釈を問うものでは ない。 なお, 特許法については, 平成二十八年一月二十二日政令第十七号「特許法等の一部を改 正する法律の施行期日を定める政令」に基づいて, 平成二十八年四月一日付けで「特許法等 の一部を改正する法律(平成二十七年法律第五十五号)」が施行されているが, 問題文中で 引用しているものは, 同改正前の規定である。 Aは, 平成2年4月に食品メーカーであるB株式会社(以下「B社」という。 )に入社し, 平成 3年4月からB社のC研究所に研究員として勤務し, 食品の研究開発に従事していた。 Aは, C研究所にいた平成17年に健康食品に関する甲という発明を行った。 甲は, その性質上 B社の業務範囲に属し, その発明をするに至ったAの行為はその現在の職務に属するものであった (特許法(司法試験用法文を参照。 )第35条第1項参照。 )。 B社は, 平成5年6月1日付けで, 同日以降に従業員がした職務発明について, 職務発明取扱規 程(以下「本件規程」という。 )を定めており, その主要な条項は下記のとおりであった(その後 の改訂はなかった。 )。 第1条 職務発明に関する特許を受ける権利(以下「特許を受ける権利」という。 )は, 会社が これを承継する。 ただし, 会社がその権利を承継する必要がないと認めたときは, この限 りでない。 第2条 会社は, 従業員がした発明が職務発明であるか否かの認定をし, 職務発明であると認定 した場合は, その発明について特許を受ける権利を会社が承継するか否かの決定をするこ ととする。 第3条 発明を完成した従業員(以下「発明者」という。 )は, 前条の規定によりその発明者の 発明について特許を受ける権利を会社が承継すると決定したときは, その権利を会社に譲 渡することとする。 第4条 会社は, 発明者から特許を受ける権利を承継したときは, 速やかに出願することとする。 第5条 特許を受ける権利の承継につき, 会社が発明者に対して支払う報償金の時期及び額は以 下のとおりとする。 1 出願したとき 出願報償金 2 1万円 特許権を第三者に実施許諾し又は譲渡して収入を得たとき 実績報償金 第三者から受領した額の5パーセント B社は, 平成18年3月, 本件規程第1条本文及び第3条に基づき, Aから, 甲に係る特許を受 ける権利を承継し, 同月中に特許の出願をしたため, 本件規程第5条第1号に基づき, 同月中にA に対し, 出願報償金1万円(以下「本件出願報償金」という。 )を支払った。 平成22年8月, 甲に係る特許の設定登録がされた。 B社は, 平成24年10月, 食品メーカー であるD株式会社(以下「D社」という。 )との間で甲に係る特許権の譲渡契約を締結し, 同月中 に代金1億円の支払を受けたため, 本件規程第5条第2号に基づき, 同年12月, Aに対し実績報 償金として500万円(以下「本件実績報償金」といい, 本件出願報償金と併せて「本件各報償金」 - 8 - という。 )を支払った。 Aは, 平成25年7月にB社を退社した。 Aは, 平成26年4月, B社を被告として, 本件規程 第5条により特許を受ける権利の対価を支払うことは不合理である旨主張し, 特許法第35条第3 項及び第5項に基づき, 「相当の対価」から既に支払を受けた本件各報償金合計501万円を差し 引いた残額として4000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴えを提起した。 B社 は, 同訴訟において, 本件規程第5条により特許を受ける権利の対価を支払うことは不合理とは認 められず, また, 仮に不合理と認められるとしても「相当の対価」の額は既払い額501万円を上 回ることはない旨主張し, 全面的に争った。 その後の平成27年12月1日, 裁判所の和解勧告に 基づき, AとB社との間で, 「相当の対価」の残額として2000万円(以下「本件和解金」とい う。 )を支払う旨の訴訟上の和解が成立し, 平成28年1月20日, B社はAに対し同額を支払っ た。 他方, D社は, B社から取得した甲に係る特許権を利用して乙という健康食品を製造し, 平成2 6年3月から1箱1万円での販売を開始した。 D社の創業者であり, その発行済株式総数の70パー セントを所有し, いわゆるワンマン社長として同社の実権を掌握していた代表取締役社長Eは, 同 年4月, 自ら及び家族が使用する目的で, 部下に命じて乙50箱(以下「本件食品」という。 )を 無償で入手し, これを自宅に持ち帰って, その後家族とともに費消した。 以上の事案について, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1 本件出願報償金は, 所得税法上, いかなる所得に分類されるか, 異なる見解にも言及しつつ 自説を述べなさい。 また, 本件実績報償金が本件出願報償金とは別の所得に分類されるかにつ いても, 理由を付して述べなさい。 2 本件和解金は, 所得税法上, いつの年分のいかなる所得に分類されるか, 自説を述べなさい。 D社は, 本件食品の価額(50万円)を損金の額に算入することができるか, 根拠条文と理由 を付して述べなさい。 ただし, 同族会社等の行為又は計算の否認の規定の適用はないものとする。 - 9 - 〔第2問〕(配点:50) P市に居住するAは, 将来, 海の近くに別荘を建てる予定で, 平成元年1月10日, Q市のR海 岸線沿いにある100坪の甲土地を2000万円で購入し, 同日, 所有権移転登記も行った。 とこ ろが, その直後にAは病に倒れ, 別荘計画は実行に移されることなく, 平成2年11月20日にA はこの世を去った。 その時点における甲土地の時価は2500万円であった。 Aと同居していた一 人息子Bが, 甲土地を含むAの全財産を相続により取得した。 S市に居住するCは, 平成元年3月1日から, 甲土地に隣接する乙土地に事務所用建物と艇庫を 建築し, そこでサーフショップを個人で営んでいた。 Cは, 甲土地の所有者が一度もR海岸にやっ て来ないのをよいことに, 悪いとは思いながらも, 平成2年1月5日から, 甲土地を上記サーフシ ョップの駐車場として使用することにした。 Bは, 海沿いの別荘に全く興味がなかったので, 相続 後も甲土地を訪れることはなく, Cが自分の土地を勝手に使用していることにも気付かないままで あった。 Cは, 平成23年1月20日, Bに対して甲土地に関する取得時効を援用して甲土地の所有権の 取得を主張し, Bに対して甲土地の所有権移転登記を求めたが, Bはこれを拒否した。 時効援用時 における甲土地の時価は5000万円であった。 そこで, Cは, 同年3月1日, Bを被告として, 甲土地の所有権確認及び平成2年1月5日時効取得を原因とする所有権移転登記手続を請求する訴 訟をP地方裁判所に提起した。 この訴訟の中で, Bは時効の完成を争ったが, P地方裁判所は平成 23年11月30日にCの請求を全面的に認容する判決を言い渡し, 同年12月20日に同判決は 確定した。 この時点における甲土地の時価も5000万円であった。 その後, Cは, 甲土地につい て所有権移転登記を経由した上で, 平成27年12月1日, Dに対して甲土地を当時の時価である 5500万円で譲渡した。 以上の事案について, 以下の設問に答えなさい。 〔設問1〕 甲土地を時効取得したことによるCの利益は, 所得税法上, いかなる所得に分類されるか述べな さい。 〔設問2〕 甲土地については, Aが取得してからBが時効により所有権を喪失するまでの間に含み益が生じ ている。 最高裁判例が示した清算課税説を前提とするならば, この含み益に対する所得税法上の取 扱いには, どのような問題点があるか述べなさい。 その際には, 時効取得した者の取得費について も, 相続による資産の取得の場合と対比した上で, 言及しなさい。 - 10 - 論文式試験問題集[経 - 11 - 済 法] [経 済 法] 〔第1問〕(配点:50) A社は, 日本で一般消費者向け電子機器甲(以下「甲」という。 )の製造販売に従事する事業者 である。 甲は, 平成21年に初めて販売された画期的な製品であり, 世界全体で甲を製造販売して いる事業者は, 現時点で, A社以外には, やはり日本に拠点を置くB社しか存在しない。 A社とB 社は激しくシェアを争っており, 各社のシェアの年による変動は大きい。 C社及びD社は, いずれ も, 日本で電子機器等に使用される部品の製造販売に従事する事業者である。 平成24年に, A社 は, 甲の新しいバージョンを開発するに際し, C社に対して, 甲の主要な部品乙(以下「乙」とい う。 )の開発・製造を依頼し, そのために必要な技術情報を開示することを申し出た。 C社は, こ の依頼を受け, A社が製造する新しいバージョンの甲向けに乙を開発・製造した上で, 平成25年 度から1四半期当たり約200万個から300万個の乙をA社に納入するようになった。 平成25 年には, A社は, D社に対しても, 同様の依頼と申出を行い, D社は, この依頼を受けて, 平成2 6年度から1四半期当たり約150万個から200万個の乙をA社に納入するようになった。 A社 が製造する甲に用いられる乙は, 固有の仕様と性能を求められるため, A社が製造する甲以外の電 子機器に転用することは不可能である。 C社及びD社以外に, 世界で乙の製造販売に従事する事業 者としては, 中国に拠点を置くE社が存在し, E社は, B社が製造する甲向けに乙を製造し, B社 に納入していた。 平成26年12月頃, 取引先の拡大を図ろうとしたE社は, A社に接近し, 従来品と性能は同じ だがより安価な乙を, A社が製造する甲向けにも開発できると持ち掛けた。 その結果, A社は, E 社に対しても乙の開発・製造を依頼し, 必要な技術情報をE社に提供した。 E社のA社に対する乙 の納入開始は, 平成27年12月頃に予定されている。 E社がA社から乙の開発・製造の依頼を受 けたことは, A社の調達担当者からの情報として, 平成26年の年末までにはC社及びD社の取締 役会において紹介されていた。 平成27年1月初旬, C社の営業担当取締役rとD社の営業担当取締役sは, C社とD社が共に 参加する商品展示会に赴いた際の雑談の中で, 従来のA社による乙の価格引下げ要求は極めて理不 尽であり, 原材料費が高騰している中でそのような要求がまかり通れば, 乙の生産基盤が日本から 失われかねないので, 両社が一致協力してA社との交渉に当たるべきであるとの認識で一致した。 そして, 両社の協力の具体化のため, 平成27年4月〜6月期(以下「本期」という。 )における 乙の納入に関してA社と商談をする前に, 互いにA社に提示する乙の価格について意見を交換し, かつ, A社との商談の内容について情報を交換する仕組みを構築することで一致した。 なお, rと sは, それぞれC社とD社において, 乙の価格を決定する権限を有していた。 これを受けて, 平成27年2月初旬から, C社の営業課長tとD社の営業課長uは, それぞれ, 上司であるrとsの指示を受けて, A社に提示する乙の価格及びA社との商談の様子について, 電 子メール(以下「メール」という。 )による情報交換を始めた。 その後tとuとの間でやり取りさ れたメールの宛名には常にrとsのメールアドレスも含まれており, rとsは, tとuとの間で交 わされたメールの内容を把握していたが, 自ら情報交換に加わることはなかった。 uは, 同月15 日にtに送信したメールの中で, 乙の単価(1個当たりの納入価格)について, 従来は2800円 とされてきたが, 原材料費の高騰に鑑みて, 本期分は3000円を提示したいと考えている旨を伝 えた。 tは, 同日, これに対する返信メールの中で, 乙の単価が2950円であっても, 受注数量 が200万個以上であれば採算が取れることから, A社との交渉では, 2950円を下回らない範 囲であれば許容範囲であると答えた。 uは, 同日, これに対する返信メールの中で, 自分も同意見 である旨を伝えた。 この意見交換の後, 本期分の乙の単価として, C社は2990円を, D社は3000円をA社に 提示した。 A社は, C社及びD社との交渉の中で, B社との競争の厳しさを強調し, C社及びD社 - 12 - に対する発注数量の配分を大幅に見直す可能性にも言及しつつ, 当該単価を2930円以下とする よう強く求めたが, C社及びD社の両社とも, 原材料費高騰のため, その水準では採算が取れない として, これに激しく抵抗した。 それぞれA社と交渉した結果, 平成27年3月初旬に, 本期分の 乙の単価について, C社は2960円で, D社は2970円でA社と妥結した。 tとuは, C社と D社がA社との間で交渉妥結に至るまでの状況を, 逐一, メールで知らせ合い, その内容は上司の rとsにも伝わっていた。 C社とD社は, それぞれA社と妥結した単価で本期分の乙を受注し, そ の受注数量は, C社が270万個, D社が200万個であった。 〔設 問〕 C社及びD社の上記行為について, 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独 占禁止法」という。 )上の問題点を分析して検討しなさい。 - 13 - 〔第2問〕(配点:50) 【前 提】 A社, B社及びC社は,それぞれ健康維持のための消耗品である甲(以下「甲」という。 )の製造 業者である。 日本には, これら3社のほか甲の製造業者が数社ある。 各社の甲の販売金額が日本に おける甲全体の販売金額に占める割合(シェア)は, A社が55パーセント程度, B社とC社はい ずれもおよそ10パーセントから15パーセント程度である。 A社, B社及びC社以外の甲の製造 業者のシェアはいずれも10パーセント未満である。 日本において, 甲の輸入品はほとんど流通し ていない。 過去において各社の順位やシェアに大きな変動はない。 甲の製造業者は, 自社の製造した甲を小売業者に販売し, 小売業者は, 甲を一般消費者に対して 販売している。 小売業者は, 小売業者の店舗に来店する一般消費者に対して販売する方法をとって いる。 A社は, 製造した甲を小売業者に対して出荷するに際して, 甲に書面(以下「納品書」とい う。 )を添付し, 小売業者に納入する製品の名称(甲)やその数量, 出荷する製品(甲)の小売業 者に対する販売価格, 支払期限等を通知している。 一度A社製の甲を購入して使用したほとんどの一般消費者は, A社製の甲を店頭で指定し, 継続 的に購入することが通常である。 このようにA社製の甲は一般消費者に高い評価を得ており, 甲を 販売する小売業者にとって, A社製の甲を取り扱うことは, その営業上不可欠となっている。 〔設 問〕下記及びの設問に答えなさい。 上記の【前提】に加え, 以下の事情がある場合に, A社の行為について, 独占禁止法上の問題 点を分析して検討しなさい。 A社は, 自社製の甲を取り扱う小売業者を全国的な範囲で相当数確保し, 維持するために, A社 の取引先である小売業者の全てがある程度の利益を確保できることが, 必須であると考えていた。 ところが, ある時期から, 小売業者のうち, 特に規模の大きい小売業者(以下「大規模小売業者」 という。 )が, 甲の1個当たりの利益を少なくして一般消費者に対する販売価格(以下「小売価格」 という。 )を低くする一方, 数量を多く販売することによってある程度の利益を確保する戦略によ り甲を販売し, A社製の甲もその対象とするとともに, そのように低めに設定した甲の小売価格に ついて, 一般消費者に対して大々的に広告を行って一般消費者に訴求することが常態化した。 A社は, 小売業者による甲の小売価格の自由な広告は, 規模の小さい小売業者をも全国的な範囲 で相当数確保し, 維持することが自社にとって利益になるというA社の考えに反する結果をもたら すと考え, 自社の取引先小売業者が広告において一般消費者に対しA社製の甲の小売価格の表示を 行った場合には, 当該小売業者に対してそのような表示を行わないことを求め, これに従わない場 合には, 当該小売業者に対して甲の出荷を停止することを決定した。 かかる決定に基づき, A社は, 納品書にあらかじめ「広告に小売価格を記載しないでください。 」 との文言を記載し, 甲の出荷の度ごとに小売業者に通知した。 また, A社の営業担当者は, 取引先 である大規模小売業者を度々訪問し, 一般消費者に対する広告においてA社製の甲の小売価格の表 示を行わないように要請するとともに, 表示を継続する場合には出荷を停止する旨を説明した。 このようなA社の納品書の記載と営業担当者の説明により, A社の取引先である大規模小売業者 は, おおむね, A社製の甲の小売価格を広告において表示しなくなった。 上記の【前提】に加え, 以下の事情がある場合(記載の事情はない)に, A社の行為につい て, 独占禁止法上の問題点を分析して検討しなさい。 - 14 - A社は, 自社の甲の機能を改良し, 現行の甲と比較して健康維持機能を20パーセント以上向上 させ, 他社製の甲に比べて高い顧客満足度を見込む甲の新製品(以下, A社製の甲の新製品を「新 製品甲」という。 )を開発した。 A社は, 新製品甲の販売開始に当たり, 小売業者に対し, 一般消 費者に新製品甲の機能を説明することを求めることとし, 具体的には小売業者の販売員がA社の定 める研修を受講すること, そのように研修を受講した小売業者の販売員が一般消費者に対して新製 品甲の機能や取扱方法の説明を行うこと, 小売業者の販売員が新製品甲の機能の説明を行うために 必要な機材を購入することを, 全ての取引先小売業者に義務付け, これに応じない小売業者とは新 製品甲の取引を行わないことを決定した(以下「本決定」という。 )。 これ以前にA社が, 取引先小売業者に対し, A社製の甲の販売に際して甲の健康維持機能や取扱 方法の説明を消費者に行うことを求めたり, 義務付けたりすることはなかった。 A社が本決定を行うに至ったのは, 第一に, 近時B社及びC社も, それぞれ自社の従来の甲の機 能を改良した新製品を発売し, 一般消費者を引き付け始めており, このまま放置しておくと, 近い 将来, 現在のA社のシェアを維持できなくなるおそれが生じていること, 第二に, 新製品甲の健康 維持機能の向上を強く打ち出し, 販売に当たって一般消費者に対して丁寧に説明することが, A社 製の甲の一般消費者に対する訴求力を向上させ, A社製の甲を指定して購入する一般消費者を一層 増加させると考えたことによる。 もっともA社の取引先小売業者の中には, 本決定に従うと, 販売コストが上昇し, それを小売価 格に転嫁すると新製品甲の小売価格を引き上げざるを得ないことに懸念を有する者もいた。 このようなA社の取引先小売業者の懸念にもかかわらず, A社が本決定を小売業者に対して実施 したところ, これに従ったA社の取引先小売業者の新製品甲の販売コストが上昇し, 本決定がなかっ た場合に想定していた小売価格よりも高い小売価格で新製品甲を販売する小売業者も少なくなかっ た。 - 15 - - 16 - 論文式試験問題集[知的財産法] - 17 - [知的財産法] 〔第1問〕(配点:50) X1とX2(以下, 併せて「Xら」という。 )は, 使用されている貸コインロッカーに顧客が誤っ て硬貨を入れないようにする装置を共同で開発し, その発明について共同で特許出願し, 特許権と しての登録を得た(以下, この登録された特許を「本件特許」という。 )。 本件特許の特許請求の範 囲は, 「鍵を抜き取った状態において硬貨の投入行為を妨げる手段を設けたことを特徴とする貸ロ ッカーの硬貨誤投入防止装置」という文言からなる。 本件特許の明細書の記載及び図面(以下「明 細書等」という。 )には, 鍵の抜き差しに伴って金属製の遮蔽板を回転させ, もって硬貨投入口の 開閉を行う旨の具体的な実施例が記載されているが, 他には具体的な実施例の記載はない。 同実施 例では, 鍵が抜かれた状態では回転してきた金属製の遮蔽板が硬貨投入口を全体的に塞ぎ, 硬貨が 入らない構成となっている。 Zは, Xらから許諾を受けて本件特許権について通常実施権を有して いる。 Yは, 貸コインロッカーの製造販売をしているが, いずれの貸コインロッカーにも鍵が抜かれた 状態では硬貨が投入されないようにした装置が実装されている。 その製品には製品Aと製品Bの2 種類があり, 製品Aは本件特許の実施例とほぼ同じ構成を有しているが, 遮蔽板は樹脂製であり, 回転するようにはなっておらず, 遮蔽板が上下することにより硬貨投入口を開閉する構成となって いる。 製品Bは, 遮蔽板を使うことはなく, 鍵が抜かれた状態で硬貨を投入しようとすると警告音 が鳴るように構成されている。 なお, かかる製品Bの構成は, 本件特許の実施例を含む明細書等を 読んだだけでは, 当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に 想到し得ないものである。 以上の事実関係を前提として, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.Xらは, Yに対して, 本件特許権に基づき, 製品Aと製品Bの製造販売の差止め及び損害賠 償を求める訴訟を共同で提起した。 Xらの請求に対するYの考えられる反論とその妥当性に ついて論じなさい。 2. Yは, 前記訴訟が提起された後, 本件特許に対する無効審判を請求した。 Xらはこれを争っ たが, 同時に特許請求の範囲を減縮すれば無効理由がなくなるので, これを減縮したいと 考えた。 Xらは, 当該無効審判において, どのような手続をとればよいか論じなさい。 ま た, 同様の無効理由についてYが前記訴訟において特許法第104条の3の抗弁を主張し ている場合, Xらはどのように対抗できるかについて論じなさい。 の無効審判請求について, 仮に特許庁が本件特許を無効とする旨の審決を行ったとして, この審決に対してX1のみが単独で審決取消訴訟を提起する場合の問題点について論じな さい。 3.前記訴訟において, Yの製品が本件特許を侵害したとして, Xらの差止請求及び損害賠償請 求が認められ, その判決が確定したため, Yは侵害行為を中止し, Xらに対して損害賠償を 行った。 その後, Yが請求した無効審判により, 本件特許を無効とする旨の審決が確定した。 この場合, Yは, Xらに対して支払った損害賠償金を取り戻せるか否かについて論じなさい。 また差止めの効力について論じなさい。 - 18 - 〔第2問〕(配点:50) 作家Xは, 米国の作家Aが創作した「Days of the full-scale sprint like a tornado」という 題号(以下「題号a」という。 )の英語の世界的ベストセラー小説(以下「小説a」という。 )につ き, Aから日本語に翻訳する権利を得た。 小説aは, 恵まれない環境に育った少年が苦学を重ね, 大企業に入社し, 持ち前の馬力と攻撃的性格で並み居るライバルに競り勝ちついに大企業のトップ となるというサクセスストーリーである。 Xは小説aを翻訳するに当たり, その大部分は直訳であ るものの, 日本人には分かりにくい英語の表現や各場面設定につき, 独特の意訳をするなど創意工 夫を凝らし, その結果, 日本語の小説として原作にも負けない流ちょうで生き生きとした表現の小 説(以下「小説b」という。 )を完成させた。 小説bは, 題号aを直訳した「竜巻のごとく全力疾 走した日々」との日本語の題号(以下「題号b」という。 )を付した上, 出版された。 小説bのブ ックカバー(以下「ブックカバーb」という。 )はXが自ら独自にデザインしたもので, 青と白を 基調とし, 左下から右上に風が吹き抜けるようなしま模様とともに, 金色の題号が中央で大きく渦 を巻きながら天に昇るように描かれているものであった。 以上の事実関係を前提として, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.作家Yは, 小説a及び小説bに描かれた内容を批評するとともに同小説の描く世界観を揶揄 することを通じて, 競争社会のゆがみを風刺する趣旨で, 小説a及び小説bの全体の構成, 各場面設定及び物語の展開の特色を一見して分かるように残しながら, 主人公がライバルと の競争に競り負け最後には挫折するという内容の日本語の小説(以下「小説c」という。 )を 書き, これに「つむじ風のごとく疾走して転んだ日々」という題号(以下「題号c」という。 ) を付した上, これを自費出版した。 ただし, 小説cは, 小説aの直訳としての日本語の表現 において小説bと類似する部分があるものの, 小説bでXが創意工夫を凝らした日本語の表 現は使用していない。 また, 小説cのブックカバー(以下「ブックカバーc」という。 )はY が自らデザインしたもので, ブックカバーbの色合い, 構図及び文字の配置の特色が一見し て分かるように残されており, 左下から右上に風が吹き抜けるようなしま模様とともに, 灰 色の題号が中央で小さく渦を巻きながら徐々に消滅するように描かれていた。 Xは, Yに対し, 小説c, 題号c及びブックカバーcはXの著作権及び著作者人格権を侵 害するものであるとして, 小説c, 題号c及びブックカバーcの複製・頒布の差止め及び損 害賠償を求める訴訟を提起した。 Xはどのような主張をすることができるか。 これに対するYの反論としてどのような主張 が考えられるか。 双方の主張の妥当性についても論じなさい。 2. 事業者Z1は, 書籍の購入者の依頼により, 同書籍をその購入者のタブレット端末で読 めるように電子ファイル化するという有償のサービスを業とする者である。 そのサービス の手順は次のとおりである。 すなわち, まず, 書籍を購入した利用者がZ1に書籍の電子 ファイル化を申し込み, 自ら購入した書籍をZ1に送付する, 次に, Z1はその書籍を裁 断して自ら管理するスキャナーで読み込んで電子ファイル化する, そして, Z1は, 完成 した電子ファイルを記録した電子記憶媒体を裁断した書籍とともに利用者に送付する, と いうものである。 Z1は, 上記の手順により, 小説bの不特定多数の購入者の依頼に応じ て小説bの電子ファイル化を続けている。 事業者Z2は, 小説bを自ら複数冊購入してそれらを裁断した上で, それを読み込む専 用スキャナーが設置されている自社の店舗内の書棚に並べ, 小説bを電子ファイル化した い不特定多数の利用者に, 店舗外への持ち出しを禁止した上で裁断済みの小説bを貸し出 し, それを利用者に上記店舗内のスキャナーで自ら電子ファイル化させ, その電子ファイ ルを利用者に取得させるという有償のサービスを業として提供している。 - 19 - Xは, Z1及びZ2に対し, 上記及びの行為はそれぞれXの著作権を侵害するもので あるとして, それらの行為の差止め及び損害賠償を求める訴訟をそれぞれ提起した。 これら の訴訟において, Xはどのような主張をすることができるか。 これに対するZ1及びZ2の 反論としてどのような主張が考えられるか。 それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。 - 20 - 論文式試験問題集[労 - 21 - 働 法] [労 働 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで, 後記の設問に答えなさい。 【事 例】 Xは, 平成20年3月に大学の理工学部を卒業後, 同年4月, Y社と, 職種を限定せずに, 期間 の定めのない労働契約を締結して入社し, 本社の研究開発部門に配属された。 Xは, 平成25年4 月にY社のA工場に異動となり, 液晶生産事業部(以下「本件配属部」という。 )の技術部門を担 当する課に配属となった。 Y社は電気機器製造を業とする株式会社であり, 東京本社のほか, 全国に複数の工場, 支社を配 置し, 5000人以上の従業員を擁していた。 Y社は, 平成25年11月, A工場において, 当時 世界最大のサイズの液晶ディスプレイの製造ラインを構築するプロジェクト(以下「本件プロジェ クト」という。 )を立ち上げた。 本件プロジェクトにおけるXを含む技術担当者の主な業務は, 製 品の製造装置の効率性を高める運転条件を調整する作業であった。 Xは, 本件プロジェクトの一つ の工程において初めてプロジェクトのリーダーになった。 本件プロジェクトのリーダーは, 常時, 複雑な担当業務を多く抱え, 時間外労働(法定労働時間 を超える時間の労働をいう。 以下同じ。 )を余儀なくされており, Xは, 本件プロジェクトが立ち 上がってから平成26年4月までの間に, 休日出勤を繰り返し, 帰宅が午後11時を過ぎることも あった。 Xは, 平成25年12月から平成26年4月までの間, 毎月80時間から100時間, 月 平均90時間程度の時間外労働を行っていた。 Xは, 平成25年12月から, 頭痛, めまい, 不眠の症状が現れ, 平成26年3月のY社の定期 健康診断で不眠を訴え, 同年4月2日, A工場の診療所で産業医から不眠症と診断されて薬を処方 された。 また, Xは, 同月30日, 自宅近くの心療内科の医院(以下「本件医院」という。 )でう つ的症状と診断され, 抑うつ及び睡眠障害に適応のある薬を処方された。 ただし, うつ病に罹患し ているとの確定的な診断はなされなかった。 なお, Xには精神疾患の既往歴はなかった。 Xは, 未 婚で両親と同居しており, 私生活上のトラブルはなかった。 平成26年4月1日, 本件プロジェクトの要員削減が行われ, 同年5月9日, Xは, これまでの 業務に加え, 別の製品の開発業務も担当するよう上司Bから打診された。 これに対して, Xは, 体 調不良を理由に難色を示したが, 上司Bに受け入れられず, 結局, その業務についても担当となっ た。 一方, その頃, Xは, 担当業務に遅延が生じていることにつき, 上司Bから, 本件配属部の会 議で度々厳しい叱責を受けた。 Xは, 平成26年5月中旬から, 頭痛のために眠ることができず, 頭痛薬を連日服用するように なった。 Xは, その頃, 同僚の技術担当者から, 元気がなく席に座って放心したような状態である など, 普段とは違う様子であると認識され, 「大丈夫か。 」と声を掛けられたことがあった。 Xは, 同年6月下旬, 体調不良のため, 上司Bに対し, 別の製品の開発業務の担当から外してもらうよう 求めたが, 了解を得ることができなかった。 Xは, その頃, 本件医院の主治医から, しばらく休ん で療養するようにと助言されたのを受けて, 同年7月3日, 約1か月間の休養を要する旨の本件医 院の診断書を提出し, 同月31日まで欠勤した。 その後, Xは, 平成26年8月1日から1週間にわたり出勤したが, 頭痛が生じたため再び療養 することとし, 同月以降, 同年11月までの毎月初旬に, 抑うつ状態で約1か月間の休養を要する 旨の本件医院の診断書を提出して, 欠勤を続けた。 上司Bは, Xの欠勤中, 度々, Xに対し, 職場復帰するか, 又は休職申請するかを問い合わせて いたが, Xは, 現状では勤務を再開する状況にない旨の本件医院の診断書を提出したのみで職場復 帰する意思を示さず, 休職の申請も行わなかった。 - 22 - なお, Y社の就業規則(抜粋)は, 後記のとおりである。 〔設 問〕 1.Y社は, 平成26年11月10日, Xに対し, 同年12月15日をもって解雇する旨を通知し た上, 同日, 就業規則第27条第4号の規定に基づき, Xを解雇した。 Xは, この解雇が無効であるとして, Y社に対して労働契約上の地位の確認を請求して訴えを 提起した。 検討すべき法律上の論点を挙げて, Xの請求の当否を論じなさい。 2.設問1とは異なり, Y社は, 平成26年11月10日, Xを解雇せずに, 就業規則第24条第 1項の規定に基づき, Xに対して傷病休職を発令した。 Xは, 定期的な上司Bとの面談等を続け たが, Y社は, 平成27年10月6日, Xに対し, 同年11月11日をもって休職期間の満了に より退職扱いとする旨を通知した。 一方, Xは, 平成27年10月9日, 本件医院の主治医が作成した同月7日付けの診断書(以 下「本件診断書」という。 )をY社に提出して, 休職前に従事した職場以外の部署への配置換え を申請した。 本件診断書には, 「気分, 意欲とも改善して, 通常の勤務は可能である。 ただし, 当初は時間外労働は避ける必要がある。 」との所見が記載されていた。 Y社は, 平成27年10月20日, Xに対し, 休職前の職場以外の部署への配置換えを拒否す る旨を口頭で伝えた。 そして, Y社は, 同年11月11日, Xに対し, 同日をもって退職になっ た旨を記載した書面を交付した。 Xは, 退職扱いは不当であって, 雇用関係は終了していないとして, Y社に対して労働契約上 の地位の確認を請求して訴えを提起した。 検討すべき法律上の論点を挙げて, Xの請求の当否を 論じなさい。 【就業規則(抜粋)】 第24条 傷病休職 1.傷病により勤務に堪え得ない場合には, 休職を命ずることができる。 2.休職期間は1年を超えることはできない。 3.第1項の規定により休職を命ぜられた者は, その休職期間が満了した時点をもって退職とする。 第25条 復職 1.前条第1項の規定により休職を命ぜられた者につき, 休職期間中において休職事由が消滅し就業 が可能であると認められたときは, 復職を命ずる。 2.(略) 第27条 解雇 以下の事由に該当する場合は, 解雇することができる。 一〜三 四 (略) 傷病等により勤務に堪え得ず, 復職の見込みがない場合 五〜八 (略) - 23 - 〔第2問〕(配点:50) 次の事例を読んで, 後記の設問に答えなさい。 【事 例】 Y社は, バス車両100台により, 路線バス事業を営む株式会社である。 Y社の従業員は, 300名であり, うち200名の従業員により組織されるX労働組合(以下「X 組合」という。 )があり, 近年においても, 毎年, Y社に新規採用される従業員は, 採用後1年以 内にその3分の2程度の者がX組合に加入していた。 Y社の従業員の賃金は, 基本給と諸手当で構成されている。 Y社では, 新規採用者の基本給の額 は, バス車両の運転をする「運転職」, バス車両の点検・整備をする「整備職」, 本社における管理 業務, 営業所の窓口業務, 営業活動等を担当する「事務職」という各職種別に定められていた。 そ して, 従業員の新規採用年度後の基本給は, 新規採用時の基本給の額を基に, 毎年度の定期昇給分 とベースアップ分を加算して決定されていた。 X組合は, 上記のとおりY社の新規採用者の3分の2程度の者が採用後間もなくX組合に加入し て組合員となっており, また, 従業員の基本給は, 新規採用時の基本給の額を基に決定されている ことから, 毎年度の春闘における団体交渉の際, Y社に対し, 当年度の新規採用者の基本給の額は 前年度の新規採用者の基本給に当年度のベースアップ分を上乗せした金額とするよう求め, これま で, Y社は, これに応じてきた。 Y社は, 近年, 自動車の普及, 営業区域における住民の高齢化・減少等に伴い, 旅客数が減少し て旅客運賃収入が落ち込み, 厳しい経営状態となってきていることから, 運賃の値上げ, 各種経費 の削減等の経営合理化を進めてきたが, その一環として, 今般, 人件費を削減することとした。 た だ, Y社としては, 現在の従業員の賃金を減額することは困難であると思われたので, 新規採用者 の基本給の額を引き下げることによって対応しようと考えた。 そこで, Y社は, 平成28年2月1日, X組合に対し, 平成28年度の新規採用者の基本給につ いて, 平成27年度の新規採用者の基本給の額に比して各職種一律にその10パーセントを減額し た額とすること(以下「本件基本給引下げ」という。 )を通知した。 X組合は, 本件基本給引下げ の実施後に採用された従業員がX組合に加入した場合, それより前に採用された組合員との間で賃 金格差が生じ, 同一職種内で異なる賃金水準の集団が併存することになる上, 本件基本給引下げよ り前に採用された組合員が退職するに従って組合員全体の賃金水準が低下していくことになるなど として, 本件基本給引下げに反対することを決定し, 同月10日, Y社に対し, 本件基本給引下げ について団体交渉を開催するよう要求した。 Y社は, 平成28年2月15日, X組合に対し, 新規採用者の基本給の額の決定は, 使用者であ るY社の裁量に委ねられている上, 本件基本給引下げはX組合の組合員を含む在職者の賃金に影響 を与えるものではなく, これから採用する者については, いまだX組合の組合員ともなっていない のであるから, 本件基本給引下げは団体交渉の対象事項とはならない旨回答して, 団体交渉を拒否 した。 その後も, X組合は, Y社に対し, 繰り返し, 本件基本給引下げについて団体交渉を開催す るよう要求したが, Y社は, 一貫して, 同様の回答をして団体交渉を拒否した。 そこで, X組合は, 本件基本給引下げの撤回とこれについての団体交渉を求めて平成28年3月 8日の終日, 更には, Y社の回答がX組合の要求を全く受け入れないものであるときは同月15日 の終日, ストライキを予定することとし, 同月2日, Y社に対し, その旨を通知した。 ストライキ は, 「運転職」の組合員についてのみ行うものであった。 これに対し, Y社は, 引き続き, 本件基本給引下げについての団体交渉を拒否するとともに, 平 成28年3月7日, 社長名で, 「我が社が厳しい経営状態にある中, X組合の皆さんになるべく迷 惑を掛けないよう, 組合員の皆さんの基本給は引き下げずに, 新規採用者の基本給を引き下げると いう決断をしたものです。 これ以外にY社の存続はあり得ないと考えています。 ところが, X組合 - 24 - の幹部の皆さんは, 会社の誠意をどう評価されたのか分かりませんが, これを団体交渉の対象とし なければならない事柄であると強弁し, 会社が団体交渉を拒否したとして, ストライキに入ると宣 言しました。 これは, ストのためのストであって, 甚だ遺憾なことであり, 会社としては, 重大な 決意をせざるを得ません。 」と記載した声明文を, Y社の全事業所に一斉に掲示した。 X組合の組合員の間では, 上記声明文に対して, 先行きに不安を感ずるという意見を述べる者は いたが, X組合の執行部を批判したり, ストライキの実施に反対したりする者はいなかった。 そし て, X組合は, 平成28年3月8日の終日, 予定どおり, ストライキを行った。 このストライキ後 も, Y社は, 本件基本給引下げについての団体交渉を拒否したことから, X組合は, 同月15日に も, 終日ストライキを行った。 Y社は, 同月8日のストライキの際, バス車両の3分の1について, 「運転職」の非組合員により運行したが, その余のバス車両の運行はできず, 運行できなかったバ ス車両の所属する営業所においてはバス車両の点検・整備をする必要がなくなるという状態となっ た。 そのため, Y社は, 同月15日のストライキに際し, 同月14日, X組合の組合員であるZら を含む, これらの営業所に所属する「整備職」の従業員に対し, 同月15日の終日ストライキの間, 休業することを命じた。 これに対して, Zらは, Y社に抗議をしたが, Y社は, 同日終日, 就業を 認めず, Zらに対し, 同日分の賃金を支払わなかった。 〔設 問〕 1.X組合は, Y社の団体交渉拒否や社長名の声明文の掲示がいずれも不当であると考えている。 X組合として救済を求めるには, どのような機関にどのような救済を求めることが考えられるか。 検討すべき法律上の論点を挙げて論じなさい。 なお, X組合が労働組合法上の労働組合に該当す ることを前提に論じてよい。 2.休業することを命じられたZらは, 平成28年3月15日分の賃金が支払われなかったのは不 当であると考え, Y社に対し, 賃金及び休業手当を請求する訴えを提起した。 検討すべき法律上 の論点を挙げて, Zらの請求の当否を論じなさい。 - 25 - - 26 - 論文式試験問題集[環 - 27 - 境 法] [環 境 法] 〔第1問〕(配点:50) A社は, 電力事業の規制緩和に伴い, B県C市において, D発電所(石炭火力, 出力17万キロ ワット)の設置を計画した。 これに対して, 同計画予定地付近の住民Eは, D発電所が稼働すれば, その居住地の窒素酸化物 濃度について, 近隣に所在するF社のG発電所からのばい煙と複合して, 環境基準を超えることが 予想され, 健康被害が発生すると危惧している。 この場合において, 以下の設問に答えよ。 〔設問1〕 D発電所の設置工事の事業は, 環境影響評価法が定める第一種事業に当たり, A社は, 同法に 基づく環境影響評価手続を開始した。 B県知事とEは, 環境影響評価手続において, 意見書を提 出したいと考えているが, それぞれどのような機会があるかを述べよ。 なお, 電気事業法が定める環境影響評価に関する特例については, 考慮しなくてよい。 〔設問2〕 その後, D発電所の工事計画は経済産業大臣の認可を受け, D発電所が操業を開始したところ, Eの居住地において, 窒素酸化物の濃度が, 常時環境基準を25%超えていることが確認される ようになった。 健康被害が発生すると危惧するEは, A社及びF社に対してどのような訴訟上の 請求をすることが考えられるか。 また, その場合の法律上の問題点について論ぜよ。 〔設問3〕 F社は, 地球温暖化対策の推進に関する法律第21条の2に規定する特定排出者として, G発 電所の温室効果ガス算定排出量の報告義務を負っている。 当該報告に係る事項を集計した結果は 公表され, 当該報告に係る事項は開示請求の対象となっている。 この仕組みは, 環境法政策の手 法としてどのように説明され, 規制的手法と比較してどのような特質があるか述べよ。 - 28 - 〔第2問〕(配点:50) 環境基本法第4条は, 持続的に発展することができる社会が構築されるための環境の保全の在り 方について, 社会経済活動その他の活動による環境への負荷をできる限り低減することその他の環 境の保全に関する行動がすべての者の公平な役割分担の下に自主的かつ積極的に行われるようにな るべき旨の基本理念を規定している。 環境法の分野の各法において, 環境への負荷のできる限りの低減とすべての者の公平な役割分担 とを柱とする上記の基本理念はどのように表れているかという観点から, 以下の各設問に答えよ。 〔設問1〕 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(以下「容器包装リサイクル法」 という。 )第4条が事業者及び消費者の責務を定めている趣旨を, 地球温暖化対策の推進に関 する法律第20条の6第1項が定める責務との異同及びその理由に言及しつつ, 説明せよ。 容器包装リサイクル法第10条の2が指定法人又は認定特定事業者から市町村への金銭の支 払義務を定めている趣旨を, 同法が定める特定事業者の義務並びに同法及び他の関連法が定め る市町村の役割を踏まえつつ, 説明せよ。 〔設問2〕 自然公園法が, 国立公園内の特別地域及び海域公園地区における一定の行為について, 環境 大臣の許可を受けなければ行ってはならないものとしている趣旨を, 許可を受けられない場合 における制度的手当にも触れつつ, 説明せよ。 地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律が, 地域 自然環境保全等事業を実施する区域内に立ち入る者から「入域料」を収受することができるも のとしている趣旨を, 【資料】を参照しつつ, 説明せよ。 【資 ○ 料】 地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律(平成26年 法律第85号)(抜粋) (目的) 第1条 この法律は, 入域料をその経費に充てて実施する事業又は自然環境トラスト活動を促進する 事業を通じて自然環境を保全し, 及びその持続可能な利用を推進することの重要性に鑑み, 地域 自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関し, 基本方針の策定, 地域 計画の作成等について定めるところにより, 地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続 可能な利用の推進を図り, もって地域社会の健全な発展に資することを目的とする。 (定義) 第2条 この法律において「地域自然環境保全等事業」とは, 都道府県又は市町村が, 自然公園法(昭 和32年法律第161号)第2条第2号に規定する国立公園(以下「国立公園」という。 ), 同条 第3号に規定する国定公園(以下「国定公園」という。 )等の自然の風景地, 文化財保護法(昭和 25年法律第214号)第2条第1項第4号に規定する記念物に係る名勝地その他の自然環境の 保全及び持続可能な利用の推進を図る上で重要な地域において, 当該地域の自然環境を地域住民 の資産として保全し, 及びその持続可能な利用を推進するために実施する事業であって, 当該事 業を実施する区域内への立入りについて, 当該区域内に立ち入る者から収受する料金(次条第2 項第1号及び第4条第2項第1号ハにおいて「入域料」という。 )をその経費に充てるものをいう。 2 この法律において「自然環境トラスト活動」とは, 自然環境の保全及び持続可能な利用の推進を 図ることを目的とする一般社団法人若しくは一般財団法人若しくは特定非営利活動促進法(平成 10年法律第7号)第2条第2項に規定する特定非営利活動法人若しくはこれらに準ずる者とし - 29 - て環境省令・文部科学省令で定めるもの(以下「一般社団法人等」という。 )又は都道府県若しく は市町村が行う次に掲げる活動をいう。 一 自然環境の保全及び持続可能な利用の推進を目的として前項に規定する地域内の土地(その 土地の定着物を含む。 次号において同じ。 )を取得すること。 二 前号に掲げるもののほか, 前項に規定する地域内の土地に係る活動であって自然環境の保全 及び持続可能な利用の推進を目的とするものとして環境省令・文部科学省令で定めるもの 3 この法律において「自然環境トラスト活動促進事業」とは, 都道府県又は市町村が, 当該都道府 県又は市町村の区域における自然環境を地域住民の資産として保全し, 及びその持続可能な利用 を推進するため, 自然環境トラスト活動を促進する事業をいう。 4 この法律において「地域自然資産区域」とは, 地域自然環境保全等事業が実施される区域及び自 然環境トラスト活動促進事業に係る自然環境トラスト活動が行われる区域をいう。 - 30 - 論文式試験問題集[国際関係法(公法系)] - 31 - [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕(配点:50) A国とB国は同じ海洋に面して陸で隣接する二つの国である。 いずれも1960年代に独立し, 直ちに国際連合(以下「国連」という。 )に加盟した。 独立以来両国間には国境をめぐる紛争は発 生してこなかったが, 2000年代に入って, A国の沿岸の一番近い地点から約50キロメートル, B国の沿岸の一番近い地点から約30キロメートルの位置にある小島X島の帰属をめぐって紛争が 生じた。 X島は古くからA国の漁業者が漁業活動の拠点として使用してきた。 A国は独立の際X島 を自国の領域に編入する措置をとり, 以来X島周辺での漁業活動に関する規制や数百人のX島住民 に対する住民登録, 徴税等の行政権を行使してきた。 このA国の行動についてB国からは特段の抗 議等はなかった。 しかし, B国は2002年頃からX島が地理的にA国よりもB国に近接している ことを理由にX島に対して領有権を主張するようになり, 2006年にはB国の国内法に基づいて 領域編入を行った。 A国は直ちにこれに抗議した。 その後X島の帰属をめぐって両国間で外交交渉 が断続的に持たれたが進展はみられなかった。 2015年6月22日, B国の軍隊がX島に上陸して島を占拠し, A国の漁業者及び住民を島か ら強制的に退去させ軍の一部を常駐させた。 翌23日, A国は国連の安全保障理事会(以下「安保 理」という。 )の開催を要請した。 同月24日に開催された安保理では, 上記の事態を議題として 取り上げ, その中で, B国の軍事行動を非難し, 直ちに軍をX島から撤退させ, A国の漁業者及び 住民の帰島を可能にするようB国に要求する決定を内容とする決議案が, 複数の理事国によって共 同提案された。 以上の事実を基に, 以下の設問に答えなさい。 なお, A国及びB国は, いずれも安保理の理事国 ではない。 また, 両国とも国連以外の安全保障や紛争解決に関する条約には参加していない。 〔設 問〕 1.前記の安保理決議案について, 投票の結果が仮に賛成10, 反対3, 棄権2であり, 5つの 常任理事国のうち4か国は決議案に賛成したが, B国と友好関係にあるC国は棄権した場合, 同決議案は採択されるか, それとも否決されるか, 理由を付して答えなさい。 2.前記の安保理決議案においてB国の軍事行動を非難する国際法上の根拠について, 論じなさ い。 3.前記の安保理決議案が仮に全会一致で採択された場合, B国はX島から軍を直ちに撤退さ せ, A国の漁業者及び住民の帰島を可能にする措置をとるべき国際法上の義務が生ずるかどう か, また, B国が決議を無視して軍を駐留させ続け漁業者等の帰島を可能にしなかった場合, 安保理は国際連合憲章上どのような行動をとることができるかについて, 答えなさい。 4.前記の安保理決議案が仮に必要な賛成票が得られず否決された場合, 国連総会がこの事態を 議題として取り上げ, 同様の内容の決議を採択することができるか, 論じなさい。 - 32 - 〔第2問〕(配点:50) A国に所在するB国大使館(以下「B国大使館」という。 )に勤務するB国の外交官Xが, A国 内の首都近郊の道路で自動車を運転中, 制限速度を大幅に超過していたためカーブを曲がり切れず に歩道に突っ込み, 歩道を歩いていたA国籍の小学生十数名を死傷させるという重大な交通事故を 起こし, 事故現場からそのまま逃走した。 A国の警察当局は, Xが自宅には戻らずB国大使館の館内にとどまっていることが判明したため, A国外務省を通じて, A国に駐在するB国大使Yに対し, Xの身柄の引渡しと本件事故の捜査への 協力を要求した。 これに対し, Y大使は, 上記の事故はXが引き起こしたものであることは認めな がら, 「Xは外交官の身分を有する者であり, 外交関係に関するウィーン条約によれば, 我が国は Xの身柄をA国政府に引き渡す義務を負わない」と述べ, 警察当局の要求を拒否した。 これを受け, 上記交通事故で死亡した小学生の遺族数名が抗議のためB国大使館を訪れたところ, B国大使館側 は面会を拒否して上記遺族を門前で追い返した。 これがマスコミによって大きく報じられると, A 国国内ではB国政府に対する反発が強まった。 その後, B国大使館がXをB国に帰国させたところ, これを知ったA国国民の間では, B国政府 に対する反感が一層激化し, B国大使館の周辺で, B国政府の本件対応に抗議する大規模なデモが 連日行われるようになった。 A国の警察当局は, 多数の警察官を動員してB国大使館の警備に当た り, 抗議集団がB国大使館に侵入することを阻止した。 しかし, 抗議集団により, B国大使館には 多くの石や卵が投げ付けられて, 建物の窓が割れ, また, その敷地の外壁にはスプレーでB国を非 難するスローガンが大きく落書きされた。 さらに, 抗議集団の一部は, B国大使館の正門前の路上 で, 持参したB国国旗を燃やして気勢を上げたが, 警備に当たるA国の警察官はこれを阻止しよう としなかった。 B国大使館に対する大規模デモは数週間継続し, その間B国大使館では, 館員が自由に出入りす ることができず, 大使館としての業務を行うことが困難な状態が続いた。 一方, Xは, A国からB国に帰国した直後にB国外務省を退職した。 その約1年後, Xが私用で 海外渡航中にA国領域内を通過したところ, Xは, A国領域内で, A国警察当局によって上記死傷 事故を発生させた容疑で身柄を拘束され, A国検察当局によって同容疑でA国の裁判所に訴追され た。 なお, A国とB国は, いずれも国際連合加盟国であり, 外交関係に関するウィーン条約の当事国 である。 〔設 問〕 1.「Xは外交官の身分を有する者であり, 外交関係に関するウィーン条約によれば, 我が国は Xの身柄をA国政府に引き渡す義務を負わない」というY大使の見解に対して, A国政府とし て国際法上どのような主張が可能であるかについて, 論じなさい。 2.B国大使館に対する抗議活動の結果生じた損害に関連して, B国政府はA国政府に対して国 際法上どのような請求を行うことが可能であるかについて, A国政府側からの予想され得る反 論も踏まえながら, 論じなさい。 3.A国の当局によってXが身柄を拘束され, A国裁判所に訴追されたことは, 国際法上どのよ うに評価できるか。 Xが引き起こした交通事故が, @休暇中に私的な旅行のため自動車を運転 中の事故であった場合, A緊急の公務のため自宅からB国大使館に駆けつける途中の事故で あった場合のそれぞれについて論じなさい。 - 33 - - 34 - 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)] - 35 - [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕(配点:50) 甲国人A男は, 甲国人B女と甲国で適法に婚姻した。 その後, AとBの間に子C(甲国籍)が生 まれ, 翌年, A, B及びCの3人は, 生活の拠点を日本に移し, その後日本でずっと暮らしている。 Cは, 現在15歳である。 以上の事実に加え, 日本国際私法の観点からみて, A及びBの婚姻は有効に成立し, CがAB夫 婦の嫡出子であることを前提として, 以下の設問に答えなさい。 なお, 甲国国際私法からの反致は成立せず, 甲国民法は次の趣旨の規定を有している。 【甲国民法】 @ 年齢18歳をもって, 成年とする。 A 父母は, 未成年の子を監護し教育する。 B 父母は, 未成年の子がある場合には, 子の最善の利益のために, 子の財産を管理し, かつ, そ の財産に関する法律行為についてその子を代表する。 ただし, 父又は母から譲渡を受けた財産以 外に子が財産を有するときは, 父又は母は, その財産の管理処分のために, 財産後見人の選任を 検認裁判所に請求しなければならない。 C 検認裁判所は, Bただし書の規定に基づき, 父又は母が財産後見人の選任を請求したときは, 子の最善の利益を考慮して, 財産後見人を選任する。 D 財産後見人は, 子の最善の利益のために, 父母が管理権を有しない財産を管理処分する権利を 有し, 義務を負う。 〔設 問〕 1.Bは, 日本において, D家電店で洗濯機を分割払いで購入する契約を締結した。 ところが, Bの支払が次第に滞るようになった。 Dは, AとBは婚姻関係にあり, 洗濯機の購入代金の支 払はAB間の日常家事債務であり, 夫婦であることから当然にAも連帯債務を負うとして, A に対してその支払を求めた。 甲国法上, 日本民法第761条に該当する規定はなく, 夫婦の一方による日常の家事に関す る法律行為によって他方が当然に債務を負うことはない。 Aが甲国法に基づきDからの請求を拒否することができるかについて, 準拠法決定プロセス を踏まえて答えなさい。 2. Cは, A及びB以外の者から日本に所在する不動産Pの贈与を受けた。 A及びBは, Cのた めに, 不動産PをEに売却したいと考えている。 Cが不動産Pを所有していることを前提とし て, 以下の小問に答えなさい。 A及びBは, 甲国法によると不動産Pについて父母が管理権を有しないことからA及びB がCのために不動産Pを売却することはできないのではないか, と考えている。 A及びBの このような考えは正しいか。 準拠法決定プロセスを踏まえて答えなさい。 において, A及びBには不動産Pを売却するための管理権がないと仮定する。 その場合, Cのために不動産Pを売却するのに必要な法的措置に関する準拠法については, 法の適用に 関する通則法第32条によるべきとする見解と同法第35条によるべきとする見解との対立 が見られる。 いずれの見解によるべきかの立場を明らかにした上で, どのような法的措置が 必要であるかを答えなさい。 なお, 日本の裁判所で手続をとることを前提とし, 手続上の問題点がある場合には, それ についても言及しなさい。 - 36 - 〔第2問〕(配点:50) 旅行業を営む日本法人Y1会社は, 甲国への旅行者が現地で必要とする各種サービスを円滑に提 供するため, Y1会社全額出資の乙国法人Y2会社を甲国に隣接する乙国に設立した。 Y2会社代 表者はY1会社代表者と同一人である。 Y2会社は乙国内にあるビルの一室を賃借して本店兼事務 所としているが, さしたる資産はなく, 事務を処理する日本人従業員1名がY1会社から出向し常 駐するのみである。 Y1会社が日本で募集した甲国への旅行者が甲国内で必要とするサービスを手 配するため, Y2会社は甲国法人X会社と包括的業務委託契約(以下「本件契約」という。 )を締 結した。 本件契約では, @Y1会社が募集した旅行者のためにX会社が甲国内での各種サービス(交 通, 食事, 宿泊等)を手配し, かつ, X会社が現地(甲国)のサービス提供者に現地通貨で立替払 すること, AX会社及びY2会社の了解のもとにX会社のY2会社に対する請求書をX会社がY1 会社に直接送付すること, B毎月末を支払期限とするY2会社の債務(立替金及びX会社の報酬の 甲国通貨による支払)の履行地をX会社の主たる営業所(甲国)とすること, C本件契約の準拠法 を日本法とすること等が定められていたが, 国際裁判管轄権に関する合意はなかった。 Y2会社が本件契約に基づく立替金及び報酬のX会社への支払を怠ったため, X会社は, Y2会 社に対して本件契約に基づく金員の支払を求めるとともに, Y1会社に対しても, Y1会社とY2 会社とは実質的に同一会社であり, Y2会社の法人格はY1会社との関係で否認されるべきである として, 本件契約に基づく金員の支払を求める訴えを日本の裁判所に提起した。 〔設 問〕 1.日本の裁判所はY1会社及びY2会社に対するX会社の訴えにつき, 国際裁判管轄権を有す るか。 ただし, 民事訴訟法第3条の9の規定の適用はないものとする。 2.Y1会社がX会社に対して本件契約に基づく債務を負うか否かについては, いずれの国の法 が適用されるか。 3.X会社がY1会社に対して本件契約に基づく金員の支払を甲国通貨で求めた場合において, Y1会社が日本円で弁済する権利を有するか否かについては, いずれの国の法が適用されるか。 - 37 -