平成28年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨 [憲 法] 次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。 A市は,10年前に,少子化による人口減少に歯止めをかけるためA市少子化対策条例(以下 「本件条例」という。)を制定し,それ以降,様々な施策を講じてきた。その一つに,結婚を希望 する独身男女に出会いの場を提供したり,結婚相談に応じたりする事業(以下これらを「結婚支援 事業」という。)を行うNPO法人等に対する助成があった。しかし,A市では,近年,他市町村 に比べ少子化が急速に進行したため,本件条例の在り方が見直されることになった。その結果,本 件条例は,未婚化・晩婚化の克服と,安心して家庭や子どもを持つことができる社会の実現を目指 す内容に改正され,結婚支援事業を行うNPO法人等に対する助成についても,これまで十分な効 果を上げてこなかったことを踏まえ,成婚数を上げることを重視する方向で改められた。これに伴 い,助成の実施について定めるA市結婚支援事業推進補助金交付要綱も改正され,助成に際し, 「申請者は,法律婚が,経済的安定をもたらし,子どもを生みやすく,育てやすい環境の形成に資 することに鑑み,自らの活動を通じ,法律婚を積極的に推進し,成婚数を上げるよう力を尽くしま す。」という書面(以下「本件誓約書」という。)を提出することが新たに義務付けられた。 結婚支援事業を行っているNPO法人Xは,本件条例の制定当初から助成を受けており,助成は 活動資金の大部分を占めていた。しかし,Xは,結婚に関する価値観は個人の自由な選択に委ねる べきであるから,結婚の形にはこだわらない活動方針を採用しており,法律婚だけでなく,事実婚 を望む者に対しても,広く男女の出会いの場を提供し,相談に応じる事業を行っていた。このため, Xは,改正後の本件条例に基づく助成の申請に際し,本件誓約書を提出できず,申請を断念したの で,A市からの助成は受けられなくなった。 そこで,Xは,A市が助成の要件として本件誓約書を提出させることは,自らの方針に沿わない 見解を表明させるものであり,また,助成が受けられなくなる結果を招き,Xの活動を著しく困難 にさせるため,いずれも憲法上問題があるとして,訴訟を提起しようとしている。 〔設問〕 Xの立場からの憲法上の主張とこれに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ,あな た自身の見解を述べなさい。なお,条例と要綱の関係及び訴訟形態の問題については論じなくて よい。 (出題の趣旨) 本問は,消極的表現の自由(憲法第21条第1項)及び結社の活動の自由(同) に対する制約の合憲性に関する出題である。ただし,ここでは,私的団体の活動に 対する政府による助成の条件付けが論点となっており,これを踏まえた検討が求め られる。現代国家において,国や地方自治体は様々な給付活動を行うが,その際, 一定の条件を付すことがあり,その条件付けが,私人の憲法上の権利への制約とな る場合があることに注意する必要がある。 Xとしては,まず,@結婚に関する価値観は個人の自由な選択に委ねるべきであ るとして,結婚という形にはこだわらない活動方針を採用しているところ,本件誓 約書により法律婚の推進を積極的に支持するよう求められることについては,その 法人・団体の基本方針に沿わない見解を表明させるものであって,Xの消極的表現 の自由を侵害する,との意見主張が考えられる。他の議論も考えられないではない が,そうした主張が最も直裁であり,的を得たものとなろう。次に,A本件誓約書 を提出することができず,その結果助成が受けられなかったことについては,Xの 活動の自由を著しく困難にさせ,結社としての活動の自由を侵害する,との違憲主 張が考えられる。 これに対し,解答者としては,A市の側から想定される反論を,助成の性質を踏 まえつつ明確にした上で,基本的な判例・学説の知識を前提にしながら,説得力の ある形で自身の見解を述べることが求められる。 [行政法] 株式会社X(代表取締役はA)は,Y県で飲食店Bを経営しているところ,平成28年3月1日, B店において,Xの従業員Cが未成年者(20歳未満の者)であるDら4名(以下「Dら」とい う。)にビールやワイン等の酒類を提供するという事件が起きた。 Y県公安委員会は,Xに対し,風 俗 営 業 等 の 規 制 及 び 業 務 の 適 正 化 等 に 関 す る 法 律 (以 下「法」という。【資料1】参照。)第34条第2項に基づく営業停止処分をするに当たり,法第 41条及び行政手続法所定の聴聞手続を実施した。聴聞手続においては,以下のとおりの事実が明 らかになった。 @ 未成年者の飲酒に起因する事故等が社会的な問題となり,飲食店業界においても,未成年者 の飲酒防止のために積極的な取組が行われているところ,B店では,未成年者に酒類を提供し ないよう,客に自動車運転免許証等を提示させて厳格に年齢確認を実施していた。 A 事件当日には,未成年者であるDらとその友人の成年者であるEら4名(以下「Eら」とい う。)が一緒に来店したために,Cは,Dらが未成年者であることを確認した上で,Dらのグ ループとEらのグループを分けて,それぞれ別のテーブルに案内した。 B Cは,Dらのテーブルには酒類を運ばないようにしたが,二つのテーブルが隣接していた上 に,Cの監視が行き届かなかったこともあって,DらはEらから酒類を回してもらい,飲酒に 及んだ。 C その後,B店では,このような酒類の回し飲みを防ぐために,未成年者と成年者とでフロア を分けるといった対策を実施した。 聴聞手続に出頭したAも,これらの事実について,特に争うところはないと陳述した。その後, 聴聞手続の結果を受けて,Y県公安委員会は,法第34条第2項に基づき,Xに対し,B店に係る 飲食店営業の全部を3か月間停止することを命じる行政処分(以下「本件処分」という。)をした。 その際,本件処分に係る処分決定通知書には,「根拠法令等」として「法第32条第3項,第2 2条第6号違反により,法第34条第2項を適用」,「処分の内容」として「平成28年5月1日 から同年7月31日までの間(3か月間),B店に係る飲食店営業の全部の停止を命ずる。」, 「処分の理由」として,「Xは,平成28年3月1日,B店において,同店従業員Cをして,Dら に対し,同人らが未成年者であることを知りながら,酒類であるビール及びワイン等を提供したも のである。」と記されてあった。 Y県公安委員会は,「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく営業停止命令 等の基準」(以下「本件基準」という。【資料2】参照)を定めて公表しているところ,本件基準 によれば,未成年者に対する酒類提供禁止違反(法第32条第3項,第22条第6号)の量定は 「Bランク」であり,「40日以上6月以下の営業停止命令。基準期間は,3月。」と定められて いた(本件基準1,別表[飲食店営業]〈法(中略)の規定に違反する行為〉(10))。 Aは,処分決定通知書を本件基準と照らし合わせてみても,どうしてこのように重い処分になる のか分からないとして,本件処分に強い不満を覚えるとともに,仮に,B店で再び未成年者に酒類 が提供されて再度の営業停止処分を受ける事態になった場合には,本件基準2の定める加重規定で ある「最近3年間に営業停止命令を受けた者に対し営業停止命令を行う場合の量定は,(中略)当 該営業停止命令の処分事由について1に定める量定の長期及び短期にそれぞれ最近3年間に営業停 止命令を受けた回数の2倍の数を乗じた期間を長期及び短期とする。」が適用され,Xの経営に深 刻な影響が及ぶおそれがあるかもしれないことを危惧した。 そこで,Xは,直ちに,Y県を被告として本件処分の取消訴訟を提起するとともに,執行停止の 申立てをしたが,裁判所は「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」とは認められないとして, この申立てを却下した。 Xの立場に立って,以下の設問に答えなさい。 なお,法の抜粋を【資料1】,本件基準の抜粋を【資料2】として掲げるので,適宜参照しなさ い。 〔設問1〕 本件処分の取消訴訟の係属中に営業停止期間が満了した後には,いかなる訴訟要件が問題とな り得るか。また,当該訴訟要件が満たされるためにXはどのような主張をすべきか,想定される Y県の反論を踏まえつつ検討しなさい。 〔設問2〕 本件処分の取消訴訟につき,本案の違法事由としてXはどのような主張をすべきか,手続上の 違法性と実体上の違法性に分けて,想定されるY県の反論を踏まえつつ検討しなさい。なお,本 件処分について行政手続法が適用されること,問題文中の@からCまでの各事実については当事 者間に争いがないことをそれぞれ前提にすること。 【資料1】 ○ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号) (抜粋) (禁止行為) 第22条 風俗営業を営む者は,次に掲げる行為をしてはならない。 一〜五 六 (略) 営業所で二十歳未満の者に酒類又はたばこを提供すること。 (深夜における飲食店営業の規制等) 第32条 1・2 3 (略) 第22条(第3号を除く。)の規定は,飲食店営業を営む者について準用する。(以下略) (指示等) 第34条 1 (略) 2 公安委員会は,飲食店営業者〔(注)「飲食店営業者」とは,「飲食店営業を営む者」をいう。〕 若しくはその代理人等が当該営業に関し法令(中略)の規定に違反した場合において,(中略)少 年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき(中略)は,当該飲食店営業者に対し, 当該施設を用いて営む飲食店営業について,6月を超えない範囲内で期間を定めて営業の全部又は 一部の停止を命ずることができる。 (聴聞の特例) 第41条 公安委員会は,(中略)第34条第2項,(中略)の規定により営業の停止を(中略)命 じようとするときは,行政手続法 (平成5年法律第88号)第13条第1項の規定による意見陳 述のための手続の区分にかかわらず,聴聞を行わなければならない。 2〜4(略) 【資料2】 ○ 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく営業停止命令等の基準(抜粋) [飲食店営業] (量定) 1 営業停止命令の量定の区分は,次のとおりとし,各処分事由に係る量定は,別表に定めるところ によるものとする。 Aランク 6月の営業停止命令。 Bランク 40日以上6月以下の営業停止命令。基準期間は3月。 Cランク〜H3ランク (略) (常習違反加重) 2 最近3年間に営業停止命令を受けた者に対し営業停止命令を行う場合の量定は,その処分事由に 係る量定がAランクに相当するときを除き,当該営業停止命令の処分事由について1に定める量定 の長期及び短期にそれぞれ最近3年間に営業停止命令を受けた回数の2倍の数を乗じた期間を長期 及び短期とする。ただし,その長期は,法定の期間を超えることができない。 (営業停止命令に係る期間の決定) 3 営業停止命令により営業の停止を命ずる期間は,次のとおりとする。 (1) 原則として,量定がAランクに相当するもの以外のものについて営業停止命令を行う場合は, 1に定める基準期間(2に規定する場合は当該処分事由について定められた基準期間の2倍の期 間を基準期間とする。)によることとする。 (2) 量定がAランクに相当するもの以外のものについて営業停止命令を行う場合において次に掲げ るような処分を加重し,又は軽減すべき事由があるときは,(1)にかかわらず,情状により,1 に定める量定の範囲内において加重し,又は軽減するものとする。 ア 処分を加重すべき事由とは,例えば,次のようなものである。 (ア) 最近3年間に同一の処分事由により行政処分に処せられたこと。 (イ) 指示処分の期間中にその処分事由に係る法令違反行為と同種の法令違反行為を行ったこと。 (ウ) 処分事由に係る行為の態様が著しく悪質であること。 (エ) 従業者の大多数が法令違反行為に加担していること。 (オ) 悔悛の情が見られないこと。 (カ) 付近の住民からの苦情が多数あること。 (キ) 結果が重大であり,社会的反響が著しく大きいこと。 (ク) 16歳未満の者の福祉を害する法令違反行為であること。 イ 処分を軽減すべき事由とは,例えば,次のようなものである。 (ア) 他人に強いられて法令違反行為を行ったこと。 (イ) 営業者(法人にあっては役員)の関与がほとんどなく,かつ,処分事由に係る法令違反行 為を防止できなかったことについて過失がないと認められること。 (ウ) 最近3年間に処分事由に係る法令違反行為を行ったことがなく,悔悛の情が著しいこと。 (エ) 具体的な営業の改善措置を自主的に行っていること。 (3) 量定がAランクに相当するもの以外のものについて,処分を軽減すべき事由が複数あり,営業 停止処分を行うことが著しく不合理であると認められるときは,(1)(2)にかかわらず,営業停止 処分を行わないこととする。 別表(抜粋) [飲食店営業] <法若しくは法に基づく命令又は法に基づく条例の規定に違反する行為> (10) 未成年者に対する酒類・たばこ提供禁止違反(第32条第3項,第22条第6号)の量定 B ランク (出題の趣旨) 本問は,公安委員会が,未成年者に酒類を提供した飲食店に対して行った風俗営 業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)に基づく 営業停止処分に関する法的争点について検討させるものである。 設問1は,営業停止期間の経過により狭義の訴えの利益(行政事件訴訟法第9条 第1項括弧書き)が消滅するか否かを問うものである。狭義の訴えの利益に関する 一般論を展開した上で,過去の一定期間内に処分を受けたことを理由として処分を 加重する旨の加重規定が法令ではなく,処分基準に定められている場合において, 処分の直接的効果が営業停止期間の経過によりなくなった後においても,なお当該 処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有するものといえるかを検討する ことが求められている。 この論点に関する近時の重要判例として最高裁判所平成27年3月3日第三小法 廷判決・民集69巻2号143頁がある。同判決は,本問と同様に,処分の加重規 定が処分基準に定められている事案であり,行政手続法第12条第1項により定め られ公にされている処分基準に一種の拘束力を認めて,処分の直接的効果が期間の 経過によりなくなった後においても,なお一定の期間,狭義の訴えの利益が存続す ることを明らかにしたものである。同判決の正しい理解を前提として,処分基準の 内容及び性質を踏まえた検討を加えていることは加点事由となる。 設問2は,営業停止処分の適法性について問うものであるが,手続的瑕疵と実体 的瑕疵の二つに分けて検討することが求められている。 手続的瑕疵については,不利益処分の理由提示に関する重要判例である最高裁判 所平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁を踏まえて,行 政手続法第14条第1項本文に基づき要求される理由提示の程度に関する一般論を 展開した上で,営業停止処分につき処分基準の適用関係が示されていない本件の事 情の下,理由提示の瑕疵が認められるか否かや,理由提示の瑕疵を肯定する場合に はこれが処分の取消事由となるかを検討することが求められている。上記平成23 年判決の事例との相違について検討を加えていることは加点事由となる。 また,実体的瑕疵については,公安委員会がした営業停止処分が処分基準に即し ているか否かを検討した上で,処分基準からの逸脱が裁量の逸脱・濫用を導くか否 かについて検討することが求められている。 処分基準は行政規則にすぎないとはいえ,合理的な理由なく処分基準から逸脱す ることは,信義則や平等原則の観点から処分の違法をもたらすとも考えられる。こ のような観点から,Xに有利となる事情とXに不利となる事情をそれぞれ踏まえた 上で,処分基準に即して裁量権の逸脱・濫用の有無を検討することが求められてい る。 [民 法] 次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。 【事実】 1.Aは,自宅の一部を作業場として印刷業を営んでいたが,疾病により約3年間休業を余儀なく され,平成27年1月11日に死亡した。Aには,自宅で同居している妻B及び商社に勤務して いて海外に赴任中の子Cがいた。Aの財産に関しては,遺贈により,Aの印刷機械一式(以下「甲 機械」という。)は,学生の頃にAの作業をよく手伝っていたCが取得し,自宅及びその他の財 産は,Bが取得することとなった。 2.その後,Bが甲機械の状況を確認したところ,休業中に数箇所の故障が発生していることが判 明した。Bは,現在海外に赴任しているCとしても甲機械を使用するつもりはないだろうと考え, 型落ち等による減価が生じないうちに処分をすることにした。 そこで,Bは,平成27年5月22日,近隣で印刷業を営む知人のDに対し,甲機械を500 万円で売却した(以下では,この売買契約を「本件売買契約」という。)。この際,Bは,Dに対 し,甲機械の故障箇所を示した上で,これを稼働させるためには修理が必要であることを説明し たほか,甲機械の所有者はCであること,甲機械の売却について,Cの許諾はまだ得ていないも のの,確実に許諾を得られるはずなので特に問題はないことを説明した。同日,本件売買契約に 基づき,甲機械の引渡しと代金全額の支払がされた。 3.Dは,甲機械の引渡しを受けた後,30万円をかけて甲機械を修理し,Dが営む印刷工場内で 甲機械を稼働させた。 4.Cは,平成27年8月に海外赴任を終えて帰国したが,同年9月22日,Bの住む実家に立ち 寄った際に,甲機械がBによって無断でDに譲渡されていたことに気が付いた。そこで,Cは, Dに対し,甲機械を直ちに返還するように求めた。 Dは,甲機械を取得できる見込みはないと考え,同月30日,Cに甲機械を返還した上で,B に対し,本件売買契約を解除すると伝えた。 その後,Dは,甲機械に代替する機械設備として,Eから,甲機械の同等品で稼働可能な中古 の印刷機械一式(以下「乙機械」という。)を540万円で購入した。 5.Dは,Bに対し,支払済みの代金500万円について返還を請求するとともに,甲機械に代え て乙機械を購入するために要した増加代金分の費用(40万円)について支払を求めた。さらに, Dは,B及びCに対し,甲機械の修理をしたことに関し,修理による甲機械の価値増加分(50 万円)について支払を求めた。 これに対し,Bは,本件売買契約の代金500万円の返還義務があることは認めるが,その余 の請求は理由がないと主張し,Cは,Dの請求は理由がないと主張している。さらに,B及びC は,甲機械の使用期間に応じた使用料相当額(25万円)を支払うようDに求めることができる はずであるとして,Dに対し,仮にDの請求が認められるとしても,Dの請求が認められる額か らこの分を控除すべきであると主張している。 〔設問〕 【事実】5におけるDのBに対する請求及びDのCに対する請求のそれぞれについて,その法 的構成を明らかにした上で,それぞれの請求並びに【事実】5におけるB及びCの主張が認めら れるかどうかを検討しなさい。 (出題の趣旨) 本設問は,@他人物売買において売主が権利を買主に移転することができなかっ たことを理由に買主が契約を解除した場合に,買主は,売主に対してどのような請 求をすることができるか(特に,他人物売買であることについて買主が悪意である が,売主から確実に権利を移転することができると説明されていた点をどのように 評価するか,),A他人物売買が解除された場合に,買主と目的物の所有者との間で は,どのような清算をするのが相当か,さらには,Bこれらの検討を通じて,他人 物売買の売主,買主,目的物の所有者の三者間の利害調整をいかにして図るのが相 当かを問うものであり,これにより,幅広い法的知識や,事案に即した分析能力, 論理的な思考力があるかどうかを試すものである。 [商 法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,3:7) 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,平成18年9月に設立された株式会社であり,太陽 光発電システムの販売・施工業を営んでいる。甲社の発行済株式の総数は1000株であり,そ のうちAが800株,Bが200株を有している。甲社は,設立以来,AとBを取締役とし,A を代表取締役としてきた。なお,甲社は,取締役会設置会社ではない。 2.Aは,前妻と死別していたが,平成20年末に,甲社の経理事務員であるCと再婚した。甲社 は,ここ数年,乙株式会社(以下「乙社」という。)が新規に開発した太陽光パネルを主たる取 扱商品とすることで,その業績を大きく伸ばしていた。ところが,平成27年12月20日,A は,心筋梗塞の発作を起こし,意識不明のまま病院に救急搬送され,そのまま入院することとな ったが,甲社は,Aの入院を取引先等に伏せていた。 3.平成27年12月25日は,甲社が乙社から仕入れた太陽光パネルの代金2000万円の支払 日であった。かねてより,Aの指示に従って,手形を作成して取引先に交付することもあったC は,当該代金の支払のため,日頃から保管していた手形用紙及び甲社の代表者印等を独断で用い て,手形金額欄に2000万円,振出日欄に平成27年12月25日,満期欄に平成28年4月 25日,受取人欄に乙社と記載するなど必要な事項を記載し,振出人欄に「甲株式会社代表取締 役A」の記名捺印をして,約束手形(以下「本件手形」という。)を作成し,集金に来た乙社の 従業員に交付した。 乙社は,平成28年1月15日,自社の原材料の仕入先である丙株式会社(以下「丙社」とい う。)に,その代金支払のために本件手形を裏書して譲渡した。 4.Aは,意識を回復することのないまま,平成28年1月18日に死亡した。これにより,Bが 適法に甲社の代表権を有することとなったが,甲社の業績は,Aの急死により,急速に悪化し始 めた。 Bは,Cと相談の上,丁株式会社(以下「丁社」という。)に甲社を吸収合併してもらうこと によって窮地を脱しようと考え,丁社と交渉したところ,平成28年4月下旬には,丁社を吸収 合併存続会社,甲社を吸収合併消滅会社とし,合併対価を丁社株式,効力発生日を同年6月1日 とする吸収合併契約(以下「本件吸収合併契約」という。)を締結するに至った。 5.Aには前妻との間に生まれたD及びEの2人の子がおり,Aの法定相続人は,C,D及びEの 3人である。Aが遺言をせずに急死したため,Aの遺産分割協議は紛糾した。そして,平成28 年4月下旬頃には,C,D及びEの3人は,何の合意にも達しないまま,互いに口もきかなくな っていた。 6.Bは,本件吸収合併契約について,C,D及びEの各人にそれぞれ詳しく説明し,賛否の意向 を打診したところ,Cからは直ちに賛成の意向を示してもらったが,DとEからは賛成の意向を 示してもらうことができなかった。 7.甲社は,本件吸収合併契約の承認を得るために,平成28年5月15日に株主総会(以下「本 件株主総会」という。)を開催した。Bは,甲社の代表者として,本件株主総会の招集通知をB とCのみに送付し,本件株主総会には,これを受領したBとCのみが出席した。A名義の株式に ついて権利行使者の指定及び通知はされていなかったが,Cは,議決権行使に関する甲社の同意 を得て,A名義の全株式につき賛成する旨の議決権行使をした。甲社は,B及びCの賛成の議決 権行使により本件吸収合併契約の承認決議が成立したものとして,丁社との吸収合併の手続を進 めている。なお,甲社の定款には,株主総会の定足数及び決議要件について,別段の定めはない。 〔設問1〕 丙社が本件手形の満期に適法な支払呈示をした場合に,甲社は,本件手形に係る手形金支払請求 を拒むことができるか。 〔設問2〕 このような吸収合併が行われることに不服があるDが会社法に基づき採ることができる手段につ いて,吸収合併の効力発生の前と後に分けて論じなさい。なお,これを論ずるに当たっては,本件 株主総会の招集手続の瑕疵の有無についても,言及しなさい。 (出題の趣旨) 本問は,他人による手形振出の効力,株式の共有者に対する会社からの通知,株 式が共有されている場合における株主権の行使方法,株主総会の決議の瑕疵を争う 訴え,合併の差止請求,合併無効の訴え等についての基本的な知識・理解等を問う ものである。 解答に際しては,設問1については,手形署名(記名捺印)の代行による手形行 為の有効性及び有効でないとした場合における被偽造者の手形債務の負担の有無を, 設問2については,株主総会の招集通知についての会社法第126条第4項の規定 の適用及び株式の共有者のうちの一人による議決権の行使につき会社が同意した場 合(会社法第106条ただし書)に当該議決権の行使が適法とされるための要件(最 高裁平成27年2月19日判決・民集69巻1号25頁参照)を前提に,吸収合併 の効力発生前においては株主総会の決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項 第1号)の可否及び合併の差止請求(会社法第784条の2)の可否等を,吸収合 併の効力発生後においては合併無効の訴え(会社法第828条第1項第7号)の可 否等を,それぞれ事案に即して整合的に論述することが求められる。 [民事訴訟法] ( 〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,3:2) 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例】 Xは,XからY,YからYへと経由された甲土地の各所有権移転登記について,甲土地の所有権 に基づき,Y及びY(以下「Yら」という。 )を被告として,各所有権移転登記の抹消登記手続を 求める訴えを提起した(以下,当該訴えに係る訴訟を「本件訴訟」という。)。本件訴訟におけるX 及びYらの主張は次のとおりであった。 X の 主 張:甲土地は,Xの所有であるところ,Yらは根拠なく所有権移転登記を経た。 Yらが主張するとおり,XはYに対して1000万円の貸金返還債務を負っていた ことがあったが,当該債務は,XがYから借り受けた1000万円の金員を支払うこと によって完済している。 仮に,Yらが主張するように,甲土地について代物弁済によるYへの所有権の移転 が認められるとしても,Xは,その際,Yとの間で,代金1000万円でYから甲土 地を買い戻す旨の合意をしており,その合意に基づき,上記の1000万円の金員をY に支払うことによって,Yから甲土地を買い戻した。 Yらの主張:甲土地は,かつてXの所有であったが,XがYに対して負担していた1000万円の 貸金返還債務の代物弁済により,XからYに所有権が移転した。これにより,Yは所 有権移転登記を経た。 その後,YがYに対して甲土地の買受けを申し出たので,Yは甲土地を代金100 0万円でYに売り渡したが,その際,Yは,Xとの間で,Xが所定の期間内にYに代 金1000万円を支払うことにより甲土地をXに売り渡す旨の合意をした。しかし,X は期間内に代金をYに対して支払わなかったため,Yは所有権移転登記を経た。 〔設問1〕 本件訴訟における証拠調べの結果,次のような事実が明らかになった。 「Yは,XがYに対して負担していた1000万円の貸金返還債務の代物弁済により甲土地の 所有権をXから取得した。その後,Xは,Yから借り受けた1000万円の金員をYに対して支 払うことによって甲土地をYから買い戻したが,その際,所定の期間内に借り受けた1000万円 をYに対して返済することで甲土地を取り戻し得るとの約定で甲土地をYのために譲渡担保に供 した。しかし,Xは,当該約定の期間内に1000万円を返済しなかったことから,甲土地の受戻 権を失い,他方で,Yが甲土地の所有権を確定的に取得した。 」 以下は,本件訴訟の口頭弁論終結前においてされた第一審裁判所の裁判官Aと司法修習生Bとの 間の会話である。 修習生B:証拠調べの結果明らかになった事実からすれば,本件訴訟ではXの各請求をいずれも 棄却する旨の判決をすることができると考えます。 裁判官A:しかし,それでは,@当事者の主張していない事実を基礎とする判決をすることにな り,弁論主義に違反することにはなりませんか。 修習生B:はい。弁論主義違反と考える立場もあります。しかし,本件訴訟では,判決の基礎と なるべき事実は弁論に現れており,それについての法律構成が当事者と裁判所との間で 異なっているに過ぎないと見ることができると思います。 裁判官A:なるほど。そうだとしても,それで訴訟関係が明瞭になっていると言えるでしょうか。 Aあなたが考えるように,本件訴訟において,弁論主義違反の問題は生じず,当事者と 裁判所との間で法律構成に差異が生じているに過ぎないと見たとして,直ちに本件訴訟 の口頭弁論を終結して判決をすることが適法であると言ってよいでしょうか。検討して みてください。 修習生B:分かりました。 (1) 下線部@に関し,証拠調べの結果明らかになった事実に基づきXの各請求をいずれも棄却す る旨の判決をすることは弁論主義違反であるとの立場から,その理由を事案に即して説明しな さい。 (2) 下線部Aに関し,裁判官Aから与えられた課題について,事案に即して検討しなさい。 〔設問2〕〔 ( 設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。 ) 第一審裁判所は,本件訴訟について審理した結果,Xの主張を全面的に認めてXの各請求をいず れも認容する旨の判決を言い渡し,当該判決は,控訴期間の満了により確定した。 このとき,本件訴訟の口頭弁論終結後に,Yが甲土地をZに売り渡し,Zが所有権移転登記を経 た場合,本件訴訟の確定判決の既判力はZに対して及ぶか,検討しなさい。 (出題の趣旨) 設問1は,本件訴訟において裁判所が当事者の主張していない所有権の取得経過 (X・Y間の譲渡担保に基づく所有権移転)を判決の基礎とすることの適否を問 う問題である。(1)では,弁論主義の適用範囲や事実の分類等に関する基本的な理 解を踏まえて,本件において問題となっている事実が弁論主義の適用を受ける事実 であることを的確に論じる必要がある。また,(2)では,当事者の弁論権の保障や 不意打ち防止の観点から,本件における釈明義務ないし法的観点指摘義務の有無に ついて,事案に即した考察が求められている。 設問2は,口頭弁論終結後の承継人に対する既判力の拡張に関する問題である。 本件におけるZは前訴の訴訟物たる権利義務自体の承継人ではないが,このような 第三者であっても民訴法第115条第1項第3号の「承継人」に該当するか否かが 問われている。承継人に既判力が拡張される根拠ないし趣旨を踏まえて,同号にい う「承継人」の範囲を明らかにした上で,Zの「承継人」該当性について論じるこ とが求められている。 [刑 法] 以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。 1 甲(40歳,男性)と乙(35歳,男性)は,数年来の遊び仲間で,働かずに遊んで暮らし ていた。甲は,住宅街にある甲所有の2階建て木造一軒家(以下「甲宅」という。)で一人で 暮らしており,乙も,甲がそのような甲宅に一人で住んでいることを承知していた。乙は,住 宅街にある乙所有の2階建て木造一軒家(以下「乙宅」という。)で内妻Aと二人で暮らして おり,甲も,乙がそのような乙宅にAと二人で住んでいることを承知していた。甲宅と乙宅は, 直線距離で約2キロメートル離れていた。 2 甲と乙は,某年8月下旬頃,働かずに遊びに使う金を手に入れたいと考え,その相談をした。 そして,甲と乙は,同年9月1日に更に話合いをし,設定した時間に発火し,その火を周囲の 物に燃え移らせる装置(以下「発火装置」という。)を製作し,これを使って甲宅と乙宅に放 火した後,正当な請求と見せ掛けて,甲宅と乙宅にそれぞれ掛けてある火災保険の保険金の支 払を請求して保険会社から保険金をだまし取り,これを折半することにした。その後,甲と乙 は,二人でその製作作業をして,同月5日,同じ性能の発火装置2台(以下,それぞれ「X発 火装置」,「Y発火装置」という。)を完成させた上,甲宅と乙宅に放火する日を,Aが旅行に 出掛けて乙宅を留守にしている同月8日の夜に決めた。 3 Aは,同日昼,旅行に出掛けて乙宅を留守にした。 4 甲と乙は,同日午後7時,二人で,甲宅内にX発火装置を運び込んで甲宅の1階の居間の木 製の床板上に置き,同日午後9時に発火するように設定した。その時,甲宅の2階の部屋には, 甲宅内に勝手に入り込んで寝ていた甲の知人Bがいたが,甲と乙は,Bが甲宅にいることには 気付かなかった。 その後,甲と乙は,同日午後7時30分,二人で,乙宅の敷地内にあって普段から物置とし て使用している乙所有の木造の小屋(以下「乙物置」という。)内にY発火装置を運び込んで, 乙物置内の床に置かれていた,洋服が入った段ボール箱(いずれも乙所有)上に置き,同日午 後9時30分に発火するように設定した。なお,乙物置は,乙宅とは屋根付きの長さ約3メー トルの木造の渡り廊下でつながっており,甲と乙は,そのような構造で乙宅と乙物置がつなが っていることや,乙物置及び渡り廊下がいずれも木造であることを承知していた。 その後,甲と乙は,乙宅の敷地内から出て別れた。 5 甲宅の2階の部屋で寝ていたBは,同日午後8時50分に目を覚まし,甲宅の1階の居間に 行ってテレビを見ていた。すると,X発火装置が,同日午後9時,設定したとおりに作動して 発火した。Bは,その様子を見て驚き,すぐに甲宅から逃げ出した。その後,X発火装置から 出た火は,同装置そばの木製の床板に燃え移り,同床板が燃え始めたものの,その燃え移った 火は,同床板の表面の約10センチメートル四方まで燃え広がったところで自然に消えた。な お,甲と乙は,終始,Bが甲宅にいたことに気付かなかった。 6 Y発火装置は,同日午後9時30分,設定したとおりに作動して発火した。乙は,その時, 乙宅の付近でうろついて様子をうかがっていたが,Y発火装置の発火時間となって,「このま まだと自分の家が燃えてしまうが,やはりAには迷惑を掛けたくない。それに,その火が隣の 家に燃え移ったら危ないし,近所にも迷惑を掛けたくない。こんなことはやめよう。」と考え, 火を消すために乙物置内に入った。すると,Y発火装置から出た火が同装置が置いてある前記 段ボール箱に燃え移っていたので,乙は,乙物置内にある消火器を使って消火活動をし,同日 午後9時35分,その火を消し止めた。乙物置内で燃えたものは,Y発火装置のほか,同段ボ ール箱の一部と同箱内の洋服の一部のみで,乙物置には,床,壁,天井等を含め火は燃え移ら ず,焦げた箇所もなかった。また,前記渡り廊下及び乙宅にも,火は燃え移らず,焦げた箇所 もなかった。 7 その後,甲と乙は,甲宅と乙宅にそれぞれ掛けてある火災保険の保険金を手に入れることを 諦め,保険会社に対する保険金の支払の請求をしなかった。 (出題の趣旨) 本問は,数年来の遊び仲間である甲と乙が共謀して,各々の自宅建物に掛けてあ る火災保険金をだまし取ろうと考え,甲が一人で暮らす甲宅内と,乙が内妻Aと二 人で暮らす乙宅(Aは旅行のため留守)と木造の渡り廊下で繋がっている物置内に それぞれ発火装置を設置したところ,甲宅内に設置した発火装置から出た火はその 床板を燃やしたところで消え(なお,同発火装置の設置及び発火の際,甲宅には甲 の知人Bがいたが,甲及び乙はBの存在に全く気付かなかった ),乙宅の物置内に 設置した発火装置から出た火は,本件を後悔して物置に戻ってきた乙によって消し 止められ,発火装置下の段ボール箱及び同箱内の衣服の一部を燃やしたにとどまっ たことから,甲と乙は火災保険金の請求を諦めたという事例を素材として,事実を 的確に分析する能力を問うとともに,放火罪,抽象的事実の錯誤,中止犯の成否及 びこれが成立する場合に共犯へ及ぼす影響等に関する基本的理解と事例への当ては めが論理的一貫性を保って行われているかを問うものである。 [刑事訴訟法] 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事 例】 平成28年3月1日,H県J市内のV方が放火される事件が発生した。その際,V方玄関内から 火の手が上がるのを見た通行人Wは,その直前に男が慌てた様子でV方玄関から出てきて走り去る のを目撃した。 V方の実況見分により,放火にはウィスキー瓶にガソリンを入れた手製の火炎瓶が使用されたこ と,V方居間にあった美術品の彫刻1点が盗まれていることが判明した。 捜査の過程で,平成21年1月に住宅に侵入して美術品の彫刻を盗みウィスキー瓶にガソリンを 入れた手製の火炎瓶を使用して同住宅に放火したとの事件により,同年4月に懲役6年の有罪判決 を受けた前科(以下「本件前科」という。)を有する甲が,平成27年4月に服役を終え,J市に 隣接するH県K市内に単身居住していることが判明した。そこで,警察官が,甲の写真を含む多数 の人物写真をWに示したところ,Wは,甲の写真を指し示し,「私が目撃したのはこの男に間違い ありません。」と述べた。 甲は,平成28年3月23日,V方に侵入して彫刻1点を盗みV方に放火した旨の被疑事実(以 下「本件被疑事実」という。)により逮捕され,同月25日から同年4月13日まで勾留されたが, この間,一貫して本件被疑事実を否認し,他に甲が本件被疑事実の犯人であることを示す証拠が発 見されなかったことから,同月13日,処分保留で釈放された。 警察官は,甲が釈放された後も捜査を続けていたところ,甲が,同年3月5日に,V方で盗まれ た彫刻1点を,H県から離れたL県内の古美術店に売却していたことが判明した。 @甲は,同年5月9日,本件被疑事実により逮捕され,同月11日から勾留された。間もなく甲 は,自白に転じ,V方に侵入して,居間にあった彫刻1点を盗み,ウィスキー瓶にガソリンを入れ た手製の火炎瓶を玄関ホールの床板にたたきつけてV方に放火した旨供述した。検察官は,同月2 0日,甲を本件被疑事実と同旨の公訴事実により公判請求した。 公判前整理手続において,甲及びその弁護人は,「V方に侵入したことも放火したこともない。 彫刻は,甲が盗んだものではなく,友人から依頼されて売却したものである。」旨主張した。 そこで,検察官は,甲が前記公訴事実の犯人であることを立証するため,A本件前科の内容が記 載された判決書謄本の証拠調べを請求した。 〔設問1〕 @の逮捕及び勾留の適法性について論じなさい。 〔設問2〕 Aの判決書謄本を甲が前記公訴事実の犯人であることを立証するために用いることが許される かについて論じなさい。 (出題の趣旨) 本問は,犯人がV方に侵入し,彫刻1点を窃取し,手製の火炎瓶を用いて同方へ の放火に及んだ事件について,上記被疑事実で逮捕・勾留されるも処分保留で釈放 された甲が,再逮捕・再勾留された後,同事実で公判請求され,検察官が同種前科 の内容が記載された判決書謄本の証拠調べ請求を行ったとの事例において,同一被 疑事実による再逮捕・再勾留の可否及び前科証拠による犯人性の立証の可否並びに これらが認められる場合の要件を検討させることにより(なお,前科証拠による犯 人性の立証の可否等に関し,最判平成24年9月7日刑集66巻9号907頁参 照。),被疑者に対する身柄拘束処分及び証拠の関連性に関する各問題点について, 基本的な学識の有無及び具体的事案における応用力を試すものである。 [法律実務基礎科目(民事)] 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。 〔設問1〕 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。 【Xの相談内容】 「私は,自宅を建築するために,平成27年6月1日,甲土地の所有者であったAから,売買 代金1000万円で甲土地を買い受け(以下「本件第1売買契約」という。),同月30日に売買 代金を支払い,売買代金の支払と引換えに私宛てに所有権移転登記をすることを合意しました。 私は,平成27年6月30日,売買代金1000万円を持参してAと会い,Aに対して甲土地 の所有権移転登記を求めましたが,Aから,登記識別情報通知書を紛失したので,もうしばらく 所有権移転登記を待ってほしい,事業資金が必要で,必ず登記をするので先にお金を払ってほし いと懇願されました。Aは,大学時代の先輩で,私の結婚に際し仲人をしてくれるなど,長年お 世話になっていたので,Aの言うことを信じ,登記識別情報通知書が見つかり次第,所有権移転 登記をすることを確約してもらい,代金を支払いました。しかし,その後,Aからの連絡はあり ませんでした。 ところが,平成27年8月上旬頃から,Yが私に無断で甲土地全体を占有し始め,現在も占有 しています。 私は,平成27年9月1日,Yが甲土地を占有していることを確認した上で,Yに対してすぐ に甲土地を明け渡すよう求めました。これに対して,Yは,Aが甲土地の所有者であったこと, 自分が甲土地を占有していることは認めましたが,Aから甲土地を買い受けて所有権移転登記を 経由したので,自分が甲土地の所有者であるとして,甲土地の明渡しを拒否し,私に対して甲土 地の買取りを求めてきました。 甲土地の所有者は私ですので,Yに対し,甲土地について,所有権移転登記と明渡しを求めた いと考えています。」 弁護士Pは,【Xの相談内容】を受けて甲土地の登記事項証明書を取り寄せたところ,平成27 年8月1日付け売買を原因とするAからYへの所有権移転登記(詳細省略)がされていることが判 明した。弁護士Pは,【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し,所有権に基 づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求権及び所有権に基づく返還請求権としての土地明 渡請求権を訴訟物として,甲土地について所有権移転登記及び甲土地の明渡しを求める訴訟(以下 「本件訴訟」という。)を提起することにした。 以上を前提に,以下の問いに答えなさい。 (1) 弁護士Pは,本件訴訟に先立って,Yに対し,甲土地の登記名義の変更,新たな権利の設定及 び甲土地の占有移転などの行為に備え,事前に講じておくべき法的手段を検討することとした。 弁護士Pが採るべき法的手段を2つ挙げ,そのように考えた理由について,それらの法的手段を 講じない場合に生じる問題にも言及しながら説明しなさい。 (2) 弁護士Pが,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。)において記載すべき請求の趣旨(民 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい(附帯請求及び付随的申立てを考慮する必要 はない。)。 (3) 弁護士Pは,本件訴状において,甲土地の明渡請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条 第1項)として,次の各事実を主張した。 ア Aは,平成27年6月1日当時,甲土地を所有していた。 イ 〔 〕 ウ 〔 〕 上記イ及びウに入る具体的事実を,それぞれ答えなさい。 〔設問2〕 弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。 【Yの相談内容】 「Aは,私の知人です。Aは,平成27年7月上旬頃,事業資金が必要なので甲土地を500 万円で買わないかと私に持ちかけてきました。私は,同年8月1日,Aから甲土地を代金500 万円で買い受け(以下「本件第2売買契約」という。),売買代金を支払って所有権移転登記を経 由し,甲土地を資材置場として使用しています。したがって,甲土地の所有者は私です。」 上記【Yの相談内容】を前提に,以下の問いに答えなさい。 弁護士Qは,本件訴訟における答弁書(以下「本件答弁書」という。)を作成するに当たり, 抗弁となり得る法的主張を検討した。弁護士QがYの訴訟代理人として主張すべき抗弁の内容(当 該抗弁を構成する具体的事実を記載する必要はない。)を述べるとともに,それが抗弁となる理 由について説明しなさい。 〔設問3〕 本件答弁書を受け取った弁護士Pは,Xに事実関係を確認した。Xの相談内容は以下のとおりで ある。 【Xの相談内容】 「Yは,既に甲土地について所有権移転登記を経由しており,自分が甲土地の所有者であると して,平成27年9月1日,甲土地を2000万円で買い取るよう求めてきました。Yは,事情 を知りながら,甲土地を私に高値で買い取らせる目的で,本件第2売買契約をして所有権移転登 記をしたことに間違いありません。このようなYが甲土地の所有権を取得したことを認めること はできません。」 上記【Xの相談内容】を前提に,弁護士Pは,再抗弁として,以下の事実を記載した準備書面を 作成して提出した。 エ 〔 〕 オ Yは,本件第2売買契約の際,Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していた。 以上を前提に,以下の問いに答えなさい。 上記エに入る具体的事実を答え,そのように考えた理由を説明しなさい。 〔設問4〕 第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述され,第1回弁論準備手続期日にお いて,弁護士P及び弁護士Qがそれぞれ作成した準備書面が提出され,弁護士Qは,〔設問3〕の エ及びオの各事実を否認し,弁護士Pは,以下の念書(斜体部分は全て手書きである。以下「本件 念書」という。)を提出し,証拠として取り調べられた。なお,弁護士Qは,本件念書の成立の真 正を認めた。 その後,2回の弁論準備手続期日を経た後,第2回口頭弁論期日において,本人尋問が実施され, Xは,下記【Xの供述内容】のとおり,Yは,下記【Yの供述内容】のとおり,それぞれ供述した (なお,Aの証人尋問は実施されていない。)。 念書 A殿 今般,貴殿より甲土地を買い受けましたが,売却して利益が生じた ときにはその3割を謝礼としてお渡しします。 平成27年8月1日 Y Y印 【Xの供述内容】 「Yは,建築業者で,今でも甲土地を占有し,資材置場として使用しているようですが,置か れている資材は大した分量ではなく,それ以外に運搬用のトラックが2台止まっているにすぎま せん。 不動産業者に確認したところ,平成27年7月当時の甲土地の時価は,1000万円程度との ことでした。 私は,平成27年9月1日,Y宅を訪れて,甲土地の明渡しを求めたところ,Yはこれを拒絶 して,逆に私に2000万円で甲土地を買い取るよう求めてきましたが,私は納得できませんで したので,その場でYの要求を拒絶しました。 その後,私は,Aに対し,Yとのやりとりを説明して,Aが本件第2売買契約をして,甲土地 をYに引き渡したことについて苦情を述べました。すると,Aは,私に対して謝罪し,『事業資 金が必要だったので,やむなくYに甲土地を売却してしまった。その際,既にXに甲土地を売却 していることをYに対して説明したが,Yはそれでも構わないと言っていた。Yから,代金50 0万円は安いが,甲土地を高く売却できたら謝礼をあげると言われたので,Yにその内容の書面 を作成してもらった。』と事情を説明して,私に本件念書を渡してくれました。ただ,それ以降, Aとは連絡が取れなくなりました。」 【Yの供述内容】 「私は,建築業者で,現在,甲土地を資材置場として使用しています。本件第2売買契約に際 して不動産業者に確認したところ,当時の甲土地の時価は,1000万円程度とのことでした。 私は,平成27年9月1日,Xが自宅を訪れた際,甲土地を2000万円で買い取るよう求め たことはありません。Xと話し合って,Xが希望する価格で買い取ってもらえればと思って話を しただけで,例えば2000万円くらいではどうかと話したことはありますが,最終的にXとの 間で折り合いがつきませんでした。 Aは,本件第2売買契約をした時,甲土地を高く転売できたときには謝礼がほしいと言うので, 本件念書を作成してAに渡しました。その際,AがXに甲土地を売却していたという話は聞いて いません。」 以上を前提に,以下の問いに答えなさい。 弁護士Pは,本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することを予定している。 その準備書面において,弁護士Pは,前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内容】と同内容のX Yの本人尋問における供述並びに本件念書に基づいて,〔設問3〕の再抗弁について,オの事実 (「Yは,本件第2売買契約の際,Xに対して甲土地を高値で買い取らせる目的を有していた。」) が認められること(Yに有利な事実に対する反論も含む。)を中心に,〔設問3〕の再抗弁につい ての主張を展開したいと考えている。弁護士Pにおいて,上記準備書面に記載すべき内容を答案 用紙1頁程度の分量で記載しなさい。 (出題の趣旨) 設問1は,不動産に係る登記請求及び明渡請求が問題となる訴訟において,原告 代理人があらかじめ講ずべき法的手段とともに,訴状における請求の趣旨及び請求 を理由付ける事実について説明を求めるものであり,民事保全の基本的理解に加え て,所有権に基づく物権的請求権の法律要件に留意して説明することが求められる。 設問2は,不動産の二重譲渡事案における実体法上の権利関係に留意しつつ,被 告本人の主張を適切に法律構成した上で,抗弁となる理由を説明することが求めら れる。 設問3は,再抗弁の事実について問うものである。判例で示された当該再抗弁に 係る要件事実に即して,原告の主張内容から必要な事実を選択し,他の主張事実と の関係にも留意することが求められる。 設問4は,上記の再抗弁の主張について,書証と人証の双方を検討し,必要な事 実を抽出した上で,どの事実がいかなる理由から再抗弁に係る評価を根拠付ける際 に重要であるかに留意して,準備書面に記載すべき事項を問うものである。 [法律実務基礎科目(刑事)] 次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。 【事 1 例】 A(男性,32歳,暴力団甲組組員)は,平成28年2月12日,V(男性,40歳,暴力 団乙組幹部組員)を被害者とする殺人未遂罪の被疑事実で逮捕され,同月14日から勾留され た後,同年3月4日にI地方裁判所に同罪で公判請求された。 上記公判請求に係る起訴状の公訴事実には「被告人は,平成27年11月1日午後2時頃, H県I市J町1丁目1番3号に所在する暴力団乙組事務所前路上において,同事務所玄関ドア 前に立っていたVに対し,殺意をもって,持っていた回転弾倉式拳銃で弾丸3発を発射したが, いずれも命中しなかったため,同人を殺害するに至らなかった。」旨記載されている。 2 公判請求までに収集された主な証拠とその概要は次のとおりであった。 証拠@ Vの検察官調書 「私は,平成27年11月1日午後2時頃,配下のWを連れて乙組事務所から出掛け ることとした。Wが先に玄関ドアから外に出たので,私が少し遅れて玄関ドアから外に 出て,歩き出そうとした瞬間,私の左側に立っていたWが私の上半身を両腕で抱え,W の方に引っ張ったので,私は,W共々左側に倒れ込んだ。倒れ込むと同時に,拳銃の発 射音が何発か聞こえた。玄関ドアの南側正面には道路に面した門扉があるが,私は,玄 関ドアから出て倒れるまで,門扉の方を見ていなかったし,倒れた後には,門扉の向こ う側には誰もいなかった。私の身長は180センチメートルである。」 証拠A W(男性,25歳,暴力団乙組組員)の検察官調書 「私は,平成27年11月1日午後2時頃,私が先に乙組事務所の玄関ドアから外に 出て,左手の隅によけ,Vが出てくるのを待っていた。しばらくしてVが玄関ドアから 出てきたが,ふと玄関ドアの南側正面にある門扉の方を見ると,門扉の向こう側の右側 からマスクをした男が走り出てきて,門扉の正面で止まり,拳銃を両手で持って,玄関 ドア前に立っていたVに銃口を向けて構えた。私は,Vが撃たれると思い,とっさにV の上半身に抱き付き,私の方に引き倒すように引っ張った。私とVが倒れるのと前後し て,『死ね。』という男の声と同時に,拳銃の発射音が複数回した。倒れてから門扉の方 を見たが,既に誰もいなかった。拳銃を撃った男が誰かは分からない。」 証拠B 実況見分調書(平成27年11月1日付け,立会人W) 「本件現場は,H県I市J町1丁目1番3号に所在する暴力団乙組事務所(以下「事 務所」という。)玄関ドア付近である。事務所は3階建てのビルであり,南側に玄関ド アがある。事務所の敷地の周囲には高さ約2.5メートルの塀があるが,南側には塀に 設置された門扉があり,門扉の高さは約1.3メートルである。事務所敷地南側は道路 に面しており,門扉の正面の路上に立つと,事務所玄関ドアが門扉越しに遮る物なく北 方向正面に見える。門扉と玄関ドアとの距離は,約3メートルである。玄関ドアは防弾 仕様であり,玄関ドアの中央(玄関ドア東端から西方へ約1メートルから約1.3メー トル,玄関ドア下端から上方へ約1.3メートルから約1.4メートルの範囲)に,弾 丸3個がめり込んでいた。Wは,『私がVに抱き付く前に,Vはこの位置に立ってお り,私はこの位置に立っていた。』と言って,玄関ドア前にV役の警察官Y(身長18 0センチメートル)を立たせ,自らは玄関ドア前の脇に立ったので,それぞれの位置を 計測したところ,V役Yの位置は,玄関ドアから南側に約50センチメートル,門扉か ら約2.5メートルの玄関ドア正面であり,門扉の南側路上から見ると,弾丸の玄関ド ア着弾位置はYの胸部の後方となった。Wの位置は,玄関ドア東端から東方へ約30セ ンチメートル,事務所建物壁から南方へ約1メートルの位置であった。Wは,『犯人 は,門扉の外の路上に立ち,拳銃を玄関ドア方向に向けて真っすぐ構えていた。』と言 ったので,Wが犯人と同じくらいの身長の者として選んだ犯人役の警察官Z(身長17 5センチメートル)を,Wの説明どおりに門扉の南側路上に立たせ,模擬拳銃を玄関ド ア方向に真っすぐ構えさせたところ,犯人役Zの立ち位置は,門扉の中央正面(門扉東 端から西方へ約1メートル,門扉から南方へ約1メートルの位置)であり,銃口は門扉 の上端から約10センチメートル上方であり,銃口から玄関ドアまでは約3メートルで あった。」 証拠C 弾丸3個 証拠D 捜査報告書 「暴力団乙組事務所玄関ドア東側付近に設置されていた防犯カメラの平成27年11 月1日午後2時頃の映像は,次のとおりである。午後1時57分頃,Wが事務所玄関ド アから出て,同ドアの東側脇に立つ。午後2時頃,Vが同ドアから出て,同ドア前に立 った後,WがVを抱えるようにして東側に倒れ込み,その直後,高速度で物体が玄関ド アに当たり,玄関ドア表面から煙かほこりのようなものが立ち上るとともに,映像が激 しく乱れた。なお,同カメラの映像は,玄関ドア周辺しか撮影されていない。」 証拠E B(男性,20歳,青果店手伝い)の検察官調書 「私は,平成27年11月1日当時,甲組の組員見習として同組組員であるAの運転 手をしていたが,同日,私は,Aの指示で,AをH県I市J町まで車で送った。私がA の指示どおりJ町の路上に車を止めると,Aは,『すぐ戻ってくるから。』と言って車か ら降り,どこかに行った。その時間は午後2時頃だった。5分ほど経過して,少し遠く で『パン,パン』という音が聞こえ,間もなく,マスクをしたAが車に走って戻ってき て,後部座席に乗り込んだ。その際,Aは,右手に拳銃を持っていた。その後,私は, Aの指示どおりAをA方に送った。翌2日,Aの指示で,AをH県K市内のレンタルボ ックス店まで車で送った。」 証拠F 捜査報告書 「Bの供述からH県K市内のレンタルボックス店を特定し,同店に照会した結果,平 成27年11月2日に,A名義で同店のレンタルボックスを借りた者がいることが判明 した。そこで,平成28年1月5日,捜索差押許可状に基づき,A名義で賃借中の上記 レンタルボックスを捜索したところ,封筒に入れられた回転弾倉式拳銃1丁が発見され た。」 証拠G 回転弾倉式拳銃1丁 証拠H 鑑定書 「証拠Cの弾丸3個は,口径9o△△型回転弾倉式拳銃用実包の弾丸であり,発射時 に刻まれた擦過痕が一致しているため,同一の拳銃で発射されたものと認められる。証 拠Gの回転弾倉式拳銃1丁は,口径9oの△△型回転弾倉式拳銃である。科学警察研究 所の技官が,証拠Gの拳銃で試射し,試射弾丸と証拠Cの弾丸を対照した結果,試射弾 丸と証拠Cの弾丸の発射時の擦過痕が一致した。よって,証拠Cの弾丸3個は,証拠G の拳銃から発射されたものと認められる。」 証拠I 捜索差押調書 「平成28年2月12日,捜索差押許可状に基づきA方の捜索を実施したところ,メ モ帳1冊が発見され,本件に関係すると思料される記載があったため,これを押収した。」 証拠J メモ帳1冊(2頁目に『11/1 J町1−1−3』という手書きの記載があり,そ の下に乙組事務所周辺に似た手書きの地図が記載されている。その他の頁は白紙である が,表紙の裏にAとCが一緒に写っている写真シールが貼付されている。) 証拠K C(女性,25歳,飲食店従業員)の警察官調書 「私は,平成27年2月頃からAと交際しており,Aが私の家に泊まっていくことも ある。Aといつ会ったかなど,いちいち覚えていない。」 証拠L Aの上申書(平成28年2月26日付け) (A4版のコピー用紙に証拠Jのメモ帳の2頁目を複写した書面の余白に以下の記載 がある。) 「これは私が書いた犯行計画のメモに間違いない。実行予定日と乙組事務所の住所と その周辺の地図を記載した。」 証拠M Aの検察官調書(平成28年3月1日付け) 「事件の1週間前,乙組の組員が甲組や私の悪口を言っていたという話を聞いたので, 私は頭に来て,拳銃を撃って乙組の連中を脅そうと思った。そこで,私は,知人から拳 銃を入手し,平成27年11月1日,Bに運転させて,乙組の事務所近くまで車で行き, 午後2時頃,私だけ車から降りて乙組事務所に向かった。私は,乙組事務所の門扉に近 づくと,ズボンのポケットに入れていた拳銃を取り出し,門扉前の路上から門扉の向こ う側正面にある乙組事務所玄関付近を狙って拳銃を3発撃った。目を閉じて撃ったため 人が事務所から出てきたことに気付かなかった。」 3 受訴裁判所は,平成28年3月7日,Aに対する殺人未遂被告事件を公判前整理手続に付す る決定をした。検察官は,同月18日,証明予定事実記載書を同裁判所及びAの弁護人に提出 ・送付するとともに,同裁判所に証拠@ないしH及びMの取調べを請求し,Aの弁護人に当 該証拠を開示し,Aの弁護人は,同月23日,同証拠の閲覧・謄写をした。Aの弁護人は,同 年4月6日,検察官に類型証拠の開示請求をし,検察官は,同月11日,同証拠を開示した。 Aの弁護人は,逮捕直後からAとの接見を繰り返していたが,当初からAが証拠Mと同旨の 供述をしていたため,同月20日の公判前整理手続期日において,「Aが拳銃を撃った犯人 であること(以下「犯人性」という。)は争わないが,殺意を争う。」旨の予定主張を裁判所及 び検察官に明示するとともに,検察官請求証拠に対する意見を述べた。 4 同月30日,Aの弁護人がAと接見したところ,Aは,これまでの供述を翻し,「本当は, 自分はやっていない。名前は言えないが世話になった人から頼まれて身代わりになった。押収 されたメモ帳もその人のもので,私はそのメモ帳には何も書いていない。自分にはアリバイが あり,犯行当日は,女友達のCと,C方にずっと一緒にいた。」旨述べた。Aの弁護人は,同 年5月1日,Cから事情を聞いたところ,Cは,「平成27年11月1日は,Aと自宅にずっ と一緒にいた。警察官から取調べを受け,その日のAの行動について尋ねられたが,覚えてい ないという話をしたかもしれない。」旨述べた。Aの弁護人は,Cの警察官調書の開示請求を しておらず,証拠Kを閲覧していなかったが,上記の経過を受けて,殺意は争わないが,犯 人性を争う方針を固めた。 5 平成28年5月20日の公判前整理手続期日において,検察官は,犯人性が争点となった ため,証拠I,J及びLの取調べを追加請求したが,Aの弁護人は証拠Iについては同意し, 証拠Jについては異議あり,証拠Lについては不同意である旨意見を述べた。 その後,数回の公判前整理手続期日を経て,同年6月15日に,裁判所は,証拠決定をし, 争点はAの犯人性であること及び証拠Eの採用を留保し,Bの証人尋問を実施すること等の証 拠の整理結果を確認して審理計画を策定し,公判前整理手続を終結した。公判期日は,同年7 月1日から同月6日までと定められた。 〔設問1〕 下線部に関し,Aの弁護人は,証拠Mと同旨のA供述を基に,Aの殺意について,どのような 事実上の主張をすべきか,殺意の概念に言及しつつ答えなさい。 〔設問2〕 下線部に関し,検察官は,証拠Bの実況見分調書を「犯行現場の状況等」という立証趣旨で証 拠請求したところ,Aの弁護人が下線部において,「下線部及びは立会人の現場供述である ため,証拠Bは不同意である。なお,作成の真正も争う。」旨の意見を述べた。これに対し,検察 官は,証拠Bの証拠請求を維持したいと考えた。 (1) 検察官は,裁判長から下線部及びが現場供述であるか否かについて意見を求められた場 合,どのような意見を述べるべきか,理由を付して答えなさい。 (2) Aの弁護人が,証拠Bの実況見分調書について不同意意見を維持した場合,検察官は,どの ような対応をとるべきか,答えなさい。 〔設問3〕 Aの弁護人は,下線部の弁護方針の下,それまでの犯人性についての主張を変更し,Aが犯人 ではない旨主張し,Cの証言により,Aが犯行当時C方にいた事実を立証したいと考えた。Aの弁 護人が,下線部以後の公判前整理手続において行うべき手続は何か。公判前整理手続に関する条 文上の根拠を挙げて,手続内容を簡潔に列挙しなさい。 〔設問4〕 (1) 下線部に関し,仮に証拠Lが存在しなかった場合,証拠I及びJから「Aが犯人である事 実」がどのように推認されるか。証拠@ないしHから何者かが公訴事実記載の犯行に及んだこ とが認められることを前提に,検察官の想定する推認過程について答えなさい。なお,証拠J の2頁の記載は,対照可能な特徴を有する文字が少ないため筆跡鑑定は実施できなかったもの とする。 (2) 証拠I及びJに加えて,証拠Lも併せて考慮することによって,小問(1)で答えた「Aが犯人 である事実」を推認する過程にどのような違いが生じるか答えなさい。 〔設問5〕 (1) 第1回公判期日において,Bの証人尋問が実施され,検察官が尋問の冒頭で以下の質問をし たところ,弁護人が誘導尋問である旨の異議を申し立てた。検察官は,異議には理由がないと 述べた場合,裁判所は,その申立てに対しどのような決定をすべきか,理由を付して答えなさ い。 検察官: 「それでは,証人が,平成27年11月1日に,被告人を乗せて車を運転したときのこ とについてお尋ねします。」 (2) 第2回公判期日において,Cの証人尋問が実施され,Cは,弁護人の主尋問において,「平成 27年11月1日,Aは,一日中,私の家で私と一緒におり,外出したこともなかった。」旨証 言し,検察官の反対尋問において,「Aが起訴される前に,私は警察官の取調べを受けたが,ど のような話をしたのか覚えていないし,その時,警察官が調書を作成したかどうかも覚えてい ない。」旨証言した。検察官は,更にCの記憶喚起に努めたが,その証言内容に変更がなかった ため,裁判長に許可を求めることなく,Cに証拠KのCの署名押印部分を示そうとした。 このような調書の一部を示す行為は,検察官の反対尋問において許されるか,条文上の根拠 に言及しつつ結論とその理由を答えなさい。 (出題の趣旨) 本問は,犯人性及び殺意の有無が争点となる殺人未遂被告事件を題材に,殺人罪 の構成要件,証拠法,公判前整理手続,刑事事実認定の基本構造,証人尋問を含む 公判手続についての基本的知識を活用して,殺意の有無に関する当事者の主張(設 問1 ),実況見分調書の立会人の指示説明部分の証拠能力及びその立証方法(設問 2 ),公判前整理手続において当事者が主張を変更する場合に採るべき具体的手続 (設問3),証拠から犯人性を推認する場合の証拠構造(設問4),証人尋問の方法 及び異議に対する裁判所の対応(設問5)について,問題に指定してある法曹三者 それぞれの立場から主張すべき事実や採るべき対応を検討して回答することを求め ており ,【事例】に現れた証拠や事実,手続の経過に応じた法曹三者の適切な対応 を具体的に検討させることにより,基本的知識の正確な理解及び基礎的実務能力を 試すものである。 [一般教養科目] 以下の[A][B]の文章を読んで,後記の各設問に答えなさい。 [A] インターネットの普及によって人々は,様々な情報に簡単にアクセスできるようになってき ている。その一方で,「知識」と「情報」を概念的に区分することに固有の関心=利害(inter est)を持つ人々も,いまだに存在する。例えば法律・医療・会計などの領域では,各種の専 門家が一定の条件下で知識を独占的に運用し続けている。個々の学問分野において研究者が果 たしている役割も,基本的にこれと同じである。すなわち研究者は,「斯界の権威」として学 問的知識の生産や流通にコミットし続けている。 〔設問1〕 一般に「学問的知識」が「学問的知識」であるためには,何が求められるであろうか。学問に おける専門家集団(いわゆる研究者のコミュニティー)の役割に触れつつ,15行程度で論述し なさい。 [B] インターネットの普及によって(地理的・空間的に)遠方にいる人々と,手軽にコミュニケ ーションを取ることが可能になってきている。その一方で,(地理的・空間的に)身近な人々 との関係が,より疎遠になる傾向が認められる。人々が中間的な集団から解放されることを「個 人化(individualization)」と呼ぶならば,グローバル化は個人化と軌を一にしている。グロ ーバル化=個人化は今日,社会の各所に多大な影響を及ぼしつつある。例えば家族や地域のコ ミュニティーは,その中で恒常的な解体圧力にさらされている。 〔設問2〕 グローバル化=個人化が進行する中で,「国家」はいかなる立場に置かれているであろうか。 具体的な事象を取り上げつつ,15行程度で論述しなさい。 (出題の趣旨) 設問1及び2は,共に,インターネットを始めとする情報技術の発展による今日 の社会の様相の変化を題材とするものである。 設問1は,情報技術の発展により専門的知識と情報一般の区別が曖昧になりつつあ る中,学問領域を例にとって,専門的知識と情報一般がどのように区分されるかに ついての一般的な理解を問うている。学問的知識の存立要件のみならず,それが専 門家集団によってどのように担保されているかについても的確に説明することが求 められる。 設問2では,グローバル社会においては,国家そのものが「中間的な集団」とし て位置付けられつつあることを前提に,グローバル化(個人化)が,国家的な結合 を弱める側面と再強化する側面を併せ持つことにつき,適切な具体例を挙げつつ説 明することが求められる。 いずれの設問においても,全体として指定の分量内で簡明に記述する能力も求め られる。