【公法系科目】 〔第1問〕 今年度は, いわゆる外国人非熟練労働者の入国・在留を認める架空立法を素材に, 外国人の 人権保障に関するいくつかの問題を問うこととした。 基本判例や学説に関する適切な理解や初 見の条文の正確な読解を前提に, 具体的な事案に即して的確な憲法論を展開することができる かどうかが問われる。 本問での主な論点は, 問題文にもヒントがあるように, @妊娠・出産(以下「妊娠等」とい う。 )を滞在の際の禁止事項とし, 違反があった場合には強制出国させることが, 自己決定権 (憲法第13条)の侵害ではないか, A令状等なくして収容を認めることが人身の自由や適正 な手続的処遇を受ける権利(根拠条文は立場によるが, 憲法第13条, 第31条, 第33条等。 ) を侵害するのではないか, ということである。 @の自己決定権の侵害については, まず, 自己決定権が憲法上保障されるか, そして, その 自己決定権に妊娠等の自由が含まれるかということが問題となる。 さらに, 妊娠等の自由が自 己決定権に含まれるとしても, 本問のBが外国人であることから, 別途の考慮が必要となる。 この点については, マクリーン事件判決(最大判昭和53年10月4日民集32巻7号122 3頁)及びそこで示された権利性質説が直ちに想起されることだろう。 そして, 権利性質説か らすれば, 妊娠等に関わる自己決定権は外国人にも保障されるということになろう。 しかし, 注意すべきは, 同判決が, 外国人に対する人権保障は「外国人在留制度のわく内で与えられて いるにすぎない」として, 人権として保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情 として考慮されることはあり得るとしていることである。 外国人の出入国及び在留に関わる問 題に関しては, 単純な権利性質説に基づく議論では不十分である。 B代理人甲としては, マクリーン事件判決のこのような判断を踏まえつつ, 本件のような場 合には立法裁量が限定されるべきという主張を組み立てる必要がある。 様々な立論があり得る だろうが, 飽くまで一例ということで示すとすれば, まず, 妊娠等が本人の人生にとって極め て重要な選択であり, また, 人生においても妊娠等ができる期間には限りがあり(なお, 新制 度はそのような年代の者を専ら対象としている(特労法第4条第1項第1号)。 ), 自己決定権 の中でも特に尊重されなければならないこと, また, 本件が, 再入国と同視される在留期間の 更新拒否ではなく, 強制出国の事例であってマクリーン事件とは事案が異なることなどを指摘 して, 立法裁量には限界があるとして中間審査基準(目的の重要性, 手段の実質的関連性)に よるべきだという主張をすることなどが考えられる。 その上で, 例えば, 規制目的は定住を促 す生活状況を生じさせることを防止することによって定住を認めないという新制度の趣旨を徹 底することであり, これは, 滞在期間を限定し, 永住や帰化を認めないという直接的な措置と 比べて周辺的であり, 重要な立法目的とまでは言えないこと, 仮に目的が重要だとしても, 妊 娠等が全て定住につながるとは限らず, 合理性に欠けることなどを指摘することが考えられる。 本問では, 違憲の主張をする場合, その瑕疵は特労法そのものに求められるべきであり, 問 題文にも, 「Bの収容及び強制出国の根拠となった特労法の規定が憲法違反であるとして, 国 家賠償請求訴訟を提起しようと考えた。 」とされているのであるから, 法令違憲を検討すべき である。 仮に適用違憲に言及するとしても簡潔なものにとどめるべきであろう。 これに対して国の主張としては, 妊娠等の自由が憲法上保障されるとしても, 出入国や国内 での滞在は国家主権に属する事項であって, 妊娠等を理由に強制出国処分とすることについて は極めて広範な裁量が認められること, 子供が日本で生まれ育つことにより, 日本の社会保障 制度や保育・教育及び医療サービス等の負担となる可能性があり, また, 親である外国人も含 め, 定住の希望を持つようになる蓋然性があること, 新制度は労働力確保のためであり, 妊娠 等によって相当期間に渡って就労が不可能になるから禁止事項として合理性があること(特労 法第15条第6号が1月以上就労しないことを禁止事項としていることも参照。 ), 妊娠等禁止 - 1 - の条件は事前に周知され, 誓約(同意)もあることから基本権への制約がなく合憲であるとい った点を指摘することが考えられよう。 Aの収容に関しては, 人身の自由という実体的な権利の問題と, 収容が令状等なくして行わ れることなどに関わる手続的な権利の問題とがある。 前者については, 特労法第18条第1項 によれば違反行為に該当すると疑うに足りる相当な理由があることが収容の要件となっている ところ, 例えば刑事訴訟法の逮捕に関する要件(刑事訴訟法第199条)についての議論を参 照し, 収容の必要性も要件とすべきであるという主張が考えられる。 これに対して, 収容は違 反行為該当性の調査のためだけではなく, その後の迅速な強制出国処分に備えて身柄を確保す る必要性にも基づいているのであるから, 嫌疑さえあれば常に必要性はあるといえるといった 反論が想定できる。 手続的な権利については, 憲法第33条の逮捕令状主義との関係が問題となるが, 本問の収 容手続は行政手続であるから, これらの規定の直接適用はできず, 準用・類推適用あるいは他 の規定(憲法第13条, 第31条)の適用によって憲法的な保障が及ぶかどうかの検討が求め られる。 行政手続としての身体の拘束の際の手続的保障について判断した判例は見当たらない ため, 憲法第35条と行政手続との関係が問題となった川崎民商事件判決(最大判昭和47年 11月22日刑集26巻9号554頁)や, 憲法第31条と行政手続との関係について判断し た成田新法事件判決(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)を参考に, 判断枠組 みを設定することが必要となる。 このほか, 憲法第34条の抑留拘禁要件との関係で, 特労法 第18条ないし第19条所定の手続の性質を検討する視点もあり得よう。 甲の主張としては, 例えば, 人身の自由に対する重大な制約である身柄の拘束については原 則として, 裁判官による令状, あるいは少なくとも, 行政官であっても第三者的な立場の者に よる事前審査が必要であるが審査官はそうした立場の者ではないとした上で, 例外を認める特 段の事由のないことを指摘することとなる。 甲の立場からは, 例えば, 令状等を要することが 原則だとしても緊急逮捕(刑事訴訟法第210条)のように事後に直ちに令状等を求める制度 もあり得るから迅速性の要請は充足できること, 禁止事項該当性が明らかであることと手続的 保障の必要性とは別問題であること, 事後的に収容理由が告知されたり弁解が聴取されても, それと事前手続の必要性とは別問題であること, さらに, 同じく事後的に裁判所の審査が受け られるといっても, 短期間に出国させられてしまう以上実効性に欠けること, などを指摘する ことが考えられる。 これに対して, 国は, 出入国や滞在については国家主権に属する事項であって外国人の権利 保障の程度が下がること, 刑事責任追及に結び付くものではないこと, 手続の迅速性(緩やか な要件で入国を認める以上, 受け入れた外国人に問題がある場合には迅速に出国させることに より我が国の秩序を守り国民の安心を得る必要があること)の要請があること, 退去強制事由 該当性が明らかであること, 収容後直ちに収容理由の告知・弁解の聴取がなされ, 警備官とは 別の立場である審査官による審査もあること, 更に裁判所への出訴も可能であること, などを 主張することができるだろう。 出入国管理及び難民認定法による現実の外国人出入国管理制度においては, 主任審査官が発 付する収容令書によって退去強制事由に該当する容疑のある者を収容することができるとされ ている(同法第39条)。 これと本問の新制度とは別個のものであり, 解答に当たって現実の 制度への言及やそれとの比較を行うことは求められていないが, 必要な範囲でそれに言及する ことがあったとしてももちろん構わない。 なお, 本問では国家賠償請求訴訟が提起されているが, 憲法上の主張の検討が求められてい るのであるから, 国家賠償法上の違法性の判断枠組みやそれを前提にした具体的検討を中心に 据えるのは適当ではないだろう。 - 2 - 〔第2問〕 本問は, 道路法第8条により市町村道としての認定を受けていた道路(以下「本件市道」と いう。 )に, 本件市道に隣接する保育園(以下「本件保育園」という。 )を経営する社会福祉法 人Aが簡易フェンス(以下「本件フェンス」という。 )を設置し, さらに, 本件市道を管理す るY市が同法第10条第1項に基づき本件市道の路線を廃止してAに売り渡すことを検討して いるという事案における法的問題について論じさせるものである。 論じさせる問題は, 本件市 道の路線がまだ廃止されていない状態における本件フェンスを撤去させるための抗告訴訟(〔設 問1〕)及びY市長が本件市道を廃止した場合を想定した取消訴訟(〔設問2〕)である。 問題 文と資料から基本的な事実関係を把握し, 同法の関係規定の趣旨を読み解いた上で, 非申請型 義務付け訴訟における訴訟要件及び一定の処分がされないことの違法事由並びに取消訴訟にお ける処分性及び本案の違法事由について論じることを求めるものである。 〔設問1〕は非申請型義務付け訴訟の訴訟要件に関する基本的な理解を問うものである。 行政事件訴訟法第3条第6項第1号及び第37条の2の規定に従って, 本件フェンスを撤去さ せるために道路管理者Y市長が道路法第71条第1項の規定に基づき行うべき処分を「一定の 処分」として具体的に特定した上で, 当該処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそ れがあるか, また, その損害を避けるため他に適当な方法がないか, そして原告適格の有無に ついて論じなければならない。 重大な損害を生ずるおそれの検討に当たっては, 損害の回復の困難の程度を考慮し, 損害の 性質及び程度並びに処分の内容及び性質を勘案した上で, 本件市道を, X2が小学校への通学 路として利用できないこと及びXらが災害時の避難路として利用ができないこと(以下「本件 被侵害利益」という。 )がそれぞれ「重大な損害」に当たるかどうかについて論じることが求 められる。 損害を避けるための他に適当な方法の検討に当たっては, 参考判例に示されているように「通 行の自由権」を主張して民事訴訟によるAに対する妨害排除請求の可能性があることを指摘し, それが「他に適当な方法」に当たるかどうかを検討することが求められる。 原告適格の検討に当たっては, 行政事件訴訟法第37条の2第4項で準用されている同法第 9条第2項の規定に基づき, 道路法第71条第1項及び第43条第2号の規定の趣旨・目的を 踏まえ, 本件被侵害利益がこれらの規定によって考慮されているか, また本件被侵害利益の内 容・性質及びそれが害される態様・程度を勘案しなければならない。 〔設問1〕は, 道路管理者による「一定の処分」がなされないことが違法であるかどうか を論じさせるものである。 道路法第71条第1項第1号は「この法律(中略)に違反している 者」に対して監督処分が可能としているため, まず, Aによる本件フェンスの設置行為が同法 第43条第2号に違反しているかどうかを, 道路管理者の要件裁量の有無も含めて検討しなけ ればならない。 その上で, Aの行為が同法第43条第2号に違反していると評価された場合で も, 同法第71条第1項第1号は, 監督処分を行うかどうか, いかなる監督処分を行うかにつ いて道路管理者の効果裁量を認めていることを指摘した上で, 一方ではXらが受ける本件被侵 害利益, 他方でY市側が主張するような諸事情が, 裁量権を行使するに当たって考慮すべき事 項に当たるか, 考慮に当たってどの程度重視されるべきかについて検討することが求められる。 〔設問2〕は, 取消訴訟の訴訟要件である処分性に関する理解を問う問題である。 Y市長 が道路法第10条第1項に基づき行うことが想定される本件市道の路線の廃止が, 行政事件訴 訟法第3条第2項に定める「行政庁の処分その他公権力の行使」に当たるかどうかを検討する ことが求められている。 設問に示されているD弁護士の指示に従って道路法の規定を分析して, 道路の区域決定・供 用開始が敷地所有者及び道路通行者に対してそれぞれどのような法効果を及ぼすかを検討し, 道路法第10条第1項に基づくY市長による本件市道の路線の廃止が, それらの法効果を一方 - 3 - 的に消滅させるものであることについて論じること, 道路通行者については, 当該市道を生活 上不可欠な道路として利用していた通行者の生活に著しい支障が生ずる場合があることを踏ま えた上で論じることが求められる。 〔設問2〕は, Y市長が道路法第10条第1項に基づき行うことが想定される本件市道の 路線の廃止の違法性の有無について論じさせるものである。 本件市道の路線の廃止は, 同法第 10条第1項「一般交通の用に供する必要がなくなつた」ことを要件にしていることを指摘し た上で, まず, 現に通行者による利用が存在して道路としての機能が喪失していない以上は同 条の要件を満たさないといえるのか, それとも, 現に利用が存在しても, 通行者による利用の 程度の乏しさ, 代替的な交通路の存在などに鑑みて一般交通の用に供するに適さない状況があ れば「必要がなくなつた」として廃止できるのかを検討し, 更に上記の要件該当性の判断につ いて行政庁に裁量権が認められるのかを検討しなければならない。 また, 同法第10条第1項 が「廃止することができる」という文言を用いていること, 廃止するかどうかの判断に当たっ て考慮される事項などの性質に着目して, 要件が充足されている場合において廃止するかどう かの判断についても行政庁に裁量権が認められるのかを検討することが期待される。 その上で, 要件裁量又は効果裁量が認められる場合は, 裁量権の範囲の逸脱濫用の有無を検 討しなければならない。 Y市による調査が通行の実態を適切に調査できていないのではないか, Xらが主張する本件被侵害利益が適切に考慮されていないのではないかなどの点について検討 することが求められる。 また, Y市は道路法第10条第1項の路線廃止について, 隣接土地所有者の同意を必要とす る内部基準を定め, これをウェブサイトで公表しているが, 本件において, 当該内部基準の法 的性質及び, 本件において隣接土地所有者であるX1の同意が得られていないことが, 裁量権 の範囲の逸脱濫用の有無とどのように関係するかを検討することが求められる。 【民事系科目】 〔第1問〕 本問は, Aが隣接するB所有の甲土地の一部(甲1部分・甲2部分)を自己所有の乙土地 (以下では, 甲1部分, 甲2部分と合わせて「本件土地」という。 )とともにCに賃貸し, C が乙土地及び甲1部分の上に丙建物を建築し, 診療所を営んでいたため, Bが, Cに対し, 所 有権に基づき甲1部分の明渡しを求めた事例(設問1), その後に, AがB所有の甲土地の 一部(甲1部分・甲2部分)を買い受け, 甲土地を甲1部分, 甲2部分等に分筆してその旨の 登記がされたが, CがDとの間で丙建物について賃貸借契約を締結したことから, Aが, Cに 対し, の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした事例(設問2), さらに, AC間の紛 争について和解が成立したが, Aが本件土地をEに売却したため, EがCに対して丙建物の収 去及び本件土地の明渡しを求めた事例(設問3)を素材として, 民法上の問題についての基礎 的な理解とともに, その応用力を問う問題である。 当事者の利害関係を法的な観点から分析し 構成する能力, その前提として, 様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解 し, それに即して論旨を展開する能力などが試される。 設問1は, 賃借権の取得時効の要件とその成否に対する理解を問うことにより, 民法の基本 的知識及びそれに基づく論理構成力を問うものである。 設問1で問われているのは, まず, Bの所有権に基づく土地明渡訴訟に対し, Cはどのよう な反論をすることができるかである。 この場面では, いわばCの弁護士の立場に立ってBの請 求を争う根拠を提示することが求められている。 丙建物を所有することによって甲1部分を占 有しているCが, 甲1部分のB所有を認めた上でBの請求を争う方法としては, 占有権原の抗 弁を主張することが考えられる。 Cは, Aから甲1部分を賃借しているが, Aには甲1部分の 所有権その他の賃貸権原がないから, この賃借権をもって所有者Bに対抗することはできない。 - 4 - そこで, Cは, 甲1部分の賃借権の時効取得を主張することが考えられる。 用益期間の関係か ら問題となるのは, 起算点をCの占有開始時(平成16年10月1日)とする10年の時効取 得である。 次に, 反論が認められるために必要な要件, すなわち賃借権の取得時効の要件を説明するこ とが求められている。 ここでは, 実体法上の要件について説明をすることが求められており, その対象はCが主張・証明責任を負う抗弁の要件事実に限られない。 民法第163条・第162条第2項によると, 賃借権の10年の取得時効の要件は, 「10 年間」 「賃借権を」 「自己のためにする意思をもって」 「平穏に」かつ「公然と」 「行使すること」, 賃借権の行使の開始の時に「善意であり」かつ「過失がなかったこと」である。 そして, 「賃 借権を行使すること」は民法第601条によると「物の使用及び収益」である。 また, 「自己 のためにする意思」は, 賃借権の取得時効については「賃借意思」として具体化される(物の 用益と賃借意思が相まって賃借権の行使の意味内容を示すという理解もある)。 賃借意思は, 使用借権や地上権の取得時効と区別するために必要である。 なお, 賃借意思の有無は, 民法第 162条の「所有の意思」の判断と同じく, 占有取得の原因たる事実(権原の性質)によって 客観的に定められる。 判例(最判昭和43年10月8日民集22巻10号2154頁)も, 不 動産賃借権の取得時効の要件として, 不動産の継続的な用益という外形的事実と, 賃借意思の 客観的表現を挙げている。 また, 民法第145条により, 時効の利益を受けるには時効の援用 が必要である。 最後に, Cの反論の当否について検討することが求められており, この場面では, いわば裁 判官の立場に立ってBの請求の当否を検討することが求められている。 まず, 判例(最判昭和62年6月5日集民151号135頁)は, 本問と同じく他人物が賃 貸された事案において賃借権の時効取得を認めているが, かかる事案については賃借権の時効 取得を認めない説もあり, また賃借権の時効取得を一般的に否定する説もあるので, 賃借権の 時効取得を一般的に認める場合にもそうでない場合にも, その理由を挙げて検討することが望 ましい。 他人物が賃貸された事案において賃借権の時効取得を認める場合には, 次に, その要件が充 足されるか否かが問題となる。 特に問題となるのは, Cが用益を開始した時点である。 Cが甲1部分の占有を開始したのは 平成16年10月1日であるが, 実際にその利用を開始したのは本件工事が始まった平成17 年6月1日である。 前者が時効の起算点だとすると10年の時効が完成していることになるが, 後者が起算点だとすると10年の時効は完成していないことになる。 そのため, Bによる時効 中断の可能性と関連付けるなどして, いずれの時点が時効の起算点となるかを検討する必要が ある。 また, 賃借意思の客観的表現とCの無過失という要件については, その要件に当てはまる具 体的事実を【事実】から拾い上げることが求められる。 設問2は, 建物所有を目的とする土地賃貸借契約がされた場合において, 賃借人がその土地 の上に有する建物を賃貸人の知らないうちに第三者に賃貸したときに, 賃借人はその上に建物 がある土地部分を無断転貸したこととなり, 賃貸人は土地賃貸借契約を民法第612条により 解除することができるか(下線部@), 土地賃貸借契約の目的物たる土地に含まれるがその上 に建物がない部分についてはどうか(下線部A)を問うものである。 この点に関しては, 土地賃借人がその所有する地上建物を第三者に賃貸しても, その建物の 「敷地」を転貸したことにならないとする判例がある(大判昭和8年12月11日判決全集1 輯3号41頁)。 学説においても, 同様に解するのが通説である。 もっとも, 本問の賃貸人A による解除が認められるかどうかについて, この判例・通説に従うだけで一義的に答えが出る わけではない。 判例・通説と同じ立場を採る場合であっても, そこにいう「敷地」とは賃貸借 - 5 - の目的とされた土地のうちどの土地部分を指すのかといった点の理解により, Aの解除が認め られるかどうか, 又はその結論となる理由が異なる可能性がある。 そこで, 本問に答えるため には, 「敷地」はどの範囲に及ぶか, その範囲となるのはなぜかを考える必要があり, これを 考えるためには, 建物の賃貸によりその「敷地」について転貸がされたこととならないのはな ぜかを明らかにすることが必要になる。 これに対し, 建物を利用するためにはその「敷地」の利用が必要となることから, 建物の賃 貸はその「敷地」の利用権の設定を当然に伴うとして, 「敷地」についても転貸がされたと認 めること(以下「反対説」という。 )も, 論理的にはあり得る。 この反対説を採る場合には, 判例・通説の基礎を踏まえつつ, そのように解すべき理由を明らかにすることが求められる。 設問2においてAによる解除の可否を論ずるためには, 解除の原因を明らかにしなければな らない。 本問における事実関係の下では, Cの無断転貸を理由とする民法第612条による解 除が考えられる。 民法第612条による解除に関して, 下線部@では, 賃借人Cが借地上に所有する建物を第 三者Dに賃貸した場合, Cはそれにより民法第612条に違反したことになるかが問題となる。 判例・通説は, 上述のとおり, 土地賃借人による地上所有建物の第三者への賃貸は「敷地」の 転貸に当たらないとしている。 これによると, 下線部@の事実のみでは, Aによる解除は認め られないことになる。 ところが, 下線部Aの事実は, Dが, CD間の丙賃貸借契約によって, 本件土地のうちその 上に建物がない土地部分(甲2土地)も使用することを認められ, 現に使用していることを示 している。 甲2土地が判例・通説のいう建物の「敷地」に含まれるのであれば, Aによる解除 は認められない。 甲2土地が「敷地」に含まれないのであれば, Aによる解除が認められる可 能性がある。 そこで, 甲2土地が「敷地」に含まれるのかどうかを, そのように解する理由を 付して明らかにすることが求められることになる。 これを考えるためには, そもそも借地上建物の賃貸によりその建物の「敷地」が転貸された ことにならない理由を明らかにする必要がある。 建物の使用は必然的にその敷地の使用を伴う とみて, 建物の賃貸による敷地の転貸を肯定することも論理的には可能である。 そうであれば, 建物の賃貸による敷地の転貸の否定は何らかの規範的判断の結果であることになり, その規範 的判断が敷地の範囲を画する規準(の1つ)になるはずだからである。 次に, 甲2土地についてCからDへの転貸が認められるとする場合には, Aによる承諾の有 無が問題になる。 Aがこの転貸につき個別の承諾をしたことを示す事実はない。 もっとも, A は, 本件土地を一団のものとして賃貸借契約の目的物とし, その一団の土地につきCの建物所 有を契約目的とする本件土地賃貸借契約を締結したことから, 包括的に, Cが敷地以外の土地 部分につき建物の使用とそれに付随する使用を建物賃借人にさせることを承諾していたとする ことも, 論理的には成り立ち得る。 ただし, その場合には, 甲2土地を敷地から除外したこと との論理的整合性が問題になる。 さらに, 甲2土地の転貸につきAの承諾がないとしても, 更に不動産賃貸借契約について確 立した法理である信頼関係破壊の法理に照らしてAの解除が認められるかどうかを検討する必 要がある。 この検討に際しては, まず, Aは, 無断転貸により信頼関係が破壊されたと認められる場合 に解除することができるのか, 無断転貸があれば原則として解除することができるが, 信頼関 係が破壊されたと認められない特段の事情がある場合には別であるとされるのか(判例(最判 昭和28年9月25日民集7巻9号979頁ほか)・通説はこの立場である。 )を, 理由を付し て明らかにすることが望ましい。 その上で, 信頼関係の破壊に係る判断に際して考慮すべき事 実を拾い出し, それらの事情を総合的に考慮した上で結論を出すことになる。 なお, 下線部@の事実により既にCはDに本件土地を転貸したことになるとする反対説を採 - 6 - る場合には, 下線部Aの事実は, 転貸範囲の拡大及び転借人による目的物の直接利用のために, 賃貸人Aに不利益を生じさせる危険が増大する, という意味を持つことになる。 このことを踏 まえて, Aによる解除の可否を論ずる必要がある。 以上のとおり, 本問においては, 下線部@及びAが有する法律上の意義について種々の考え 方ないし立場があり得るところであり, Aによる解除の可否の判断も異なり得る。 それらの考 え方ないし立場のうちいずれを採るか, あるいは解除の可否につきいずれと考えるかそれ自体 によって, 評価の上で優劣がつけられることはない。 評価に際しては, どの考え方ないし立場 を採る場合であっても, あるいは解除の可否につきいずれの結論とする場合であっても, その 理由が説得的に述べられているかどうか, その考え方ないし立場から本問の事実を踏まえて論 理的にも実質的にも適切な結論が導かれているかどうかが重視される。 設問3は, 複数筆の土地が建物所有を目的とする1個の賃貸借の目的物とされたが, それら の土地のうちの一部の上にのみ建物があり, その建物につき土地賃借人の所有名義の登記がさ れている場合に, その登記による賃借権の土地取得者に対する効力は, その上に建物のない別 筆の土地にも及ぶかどうか, 仮に及ばないときには, 土地取得者は所有権に基づいてその建物 のない筆の土地の返還を求めることができるかどうかを問うものである。 設問2と設問3は, いずれも, 1個の賃借権の目的物となっている(複数筆の)土地のうち一部の上に建物がある 場合に, その建物のあることが建物のない土地(部分)にどのような影響を及ぼすかを問題と するものであるが, 設問2は, 当該賃貸借関係の当事者間においてこれを問題とするものであ るのに対し, 設問3は, 賃借人と当該土地の取得者との間でこれを問題とするものである。 Cは, Eの請求に対し, まず, 占有権原(賃借権)があることをもって反論することが考え られる。 本件土地賃貸借契約は, 建物所有を目的とするもので借地借家法の適用があるため, この反論は, 甲1土地及び乙土地については, Cが, Eの本件土地の所有権取得の登記に先立 って, 甲1土地及び乙土地上に所有する丙建物につき自己名義の保存登記を備えたことにより (借地借家法第10条第1項), 認められることになる。 これに対し, 甲2土地は, Eが現れた時点では, 【事実】12に記載の事情により甲1土地及 び乙土地とは別筆の土地となっており, 甲2土地につき賃借権の登記(民法第605条)がさ れたことを示す事実はなく(この点は, 甲1土地及び乙土地についても同じである。 ), また, その上に建物が存在しないため借地借家法第10条第1項が適用されることもない。 したがっ て, Cは, 本来, 賃借権をもってEに反論することができないものと考えられる。 もっとも, 本件土地賃貸借契約は, もともと甲1土地及び乙土地のほか甲2土地を含む一筆 の土地を目的として締結されたものである。 また, 本件土地の周りには公道に面する南側を除 いて柵が張り巡らされているから, 甲2土地は, 外形上も, 甲1土地及び乙土地と一団の土地 を成している。 さらに, 甲2土地は丙建物を利用するために不可欠とはいえないが, 甲2土地 を利用することができなければ丙建物の経済的効用が減じられ, Dの診療所の患者も不便を強 いられる可能性もある。 こういった事情に鑑みれば, 甲2土地についても, Eの請求に対して Cに何らかの反論が認められないかを検討する必要がある。 仮にCの反論が認められる場合には, Cは特別の保護を受ける一方で, Eはその所有権の行 使を例外的に制限されることになる。 そのため, Cの反論が認められるのは, Eにおいてその ような制限を受けても仕方がないと認められる事情があるときに限られる。 このようにEの主観的事情を考慮してCが保護されるかどうかを判断する構成としては, @ Eの請求が権利濫用に当たるかどうかを判断するもの(以下「権利濫用構成」という。 )と, ACE間の争いをEがCの賃借権の対抗要件の不存在を主張するものと見て, Eがその主観的 事情において対抗要件の不存在を主張する正当な利益を有しない者(民法第177条の「第三 者」から除外される者に相当するもの)に当たるかどうかを判断するもの(以下「対抗関係構 成」という。 )があり得る。 - 7 - 対抗関係構成は, Cの権利がEに対しても効力を有することが前提となっており, ただ, 対 抗要件が備わっていないためにEに対してその効力を主張することができない, と法律構成す るものである。 しかし, Cの権利は賃借権であり, 賃借権は, それが不動産に関するものであ っても債権であるとするのが民法の前提である。 そうであれば, 対抗関係構成を採用する場合 には, この民法の前提をどのように考えるかをまず説明することが望まれる。 他方, 判例は, 本問のような場合に, 別筆の隣地上にある丙建物の登記により甲2土地についても賃借権の土 地取得者に対する効力が認められることはないとした上で(最判昭和40年6月29日民集1 9巻4号1027頁, 最判昭和44年10月28日民集23巻10号1854頁, 最判平成9 年7月1日民集51巻6号2251頁), 権利濫用構成を採用している(前掲最判平成9年7 月1日)。 もっとも, 別の構成(対抗関係構成)も成り立ち得ると考えられる場合に権利濫用 構成を採るのであれば, その理由を示すことが望ましい。 例えば, 「Cの賃借権は, 土地を目 的とするものであっても債権であり, 賃借権の登記又は借地上に所有する建物に自己所有名義 の登記を備えることによって初めて土地取得者であるEに対する効力が認められる。 そのため, Cが上記の登記を備えていない場合には, そもそもEとの間で対抗関係は生じない。 したがっ て, この場合には, Eは, 所有権に基づいて甲2土地の明渡しを請求することができることに なるが, この請求は権利行使の一種であるから, 例外的に権利濫用を基礎付ける事情がある場 合にはその権利行使が否定され得る。 」というように実質的な理由を示すことが望まれる。 Eの主張の権利濫用該当性を検討する場合には, 権利濫用の判断枠組みを述べ, その枠組み の下で本問の諸事情に照らして結論を述べることが求められる。 権利濫用の一般的な判断枠組 みについては, 権利の行使と認められることにより権利者が得る利益(又は権利濫用とされる ことにより権利者が受ける不利益)の程度とその権利の行使により他の者又は社会が受ける不 利益の程度を比較衡量し, さらに, 権利者の主観的態様も併せて総合的に判断する, という考 え方が判例・学説上定着している。 これ以外の枠組みを採ることが否定されるものではないが, 別の枠組みを採るのであれば, 定着した考え方をあえて否定する理由を示す必要がある。 これに対し, Eの請求の可否を対抗関係構成により判断する場合には, まず, 対抗要件制度 の趣旨に照らし, その主観的態様のため対抗要件の不存在を主張することができない第三者に つき一般的な立場を示した上で, 本問の諸事情の下でどのように解すべきかを検討する必要が ある。 対抗関係構成の下でEがその主観的態様により例外的に第三者性を否定されることがな いかどうかを検討するのは, Cの賃借権を特別に保護すべき場合に当たるかどうかを判断する ためである。 そのため, Eの主観的態様による上記検討に関して, 不動産賃借権の特別の保護 とそのための要件設定の趣旨がどのような意味を持つかを考慮することが望ましい。 以上の考え方とは異なり, 借地借家法第10条第1項の趣旨の理解次第で, C名義の丙建物 の登記により甲2土地についてもCがその賃借権をEに主張することが認められる(本問でい えば, 丙建物の登記による甲2土地への賃借権の効力の拡張を認める)とすることも考えられ る。 もっとも, これは本則に対する例外を認めようとするものであるから, そのような論理を 展開するのであれば, 例外を正当化するに足る十分な根拠を挙げ, かつ, その根拠に照らして 例外が認められるべき範囲を明らかにした上で, 甲2土地についてのCの賃借権の主張がその 例外に該当することを述べる必要がある。 〔第2問〕 本問は, @発起人が取引の相手方に対し設立費用について未払額を残した状態で会社が成立 した場合において設立費用の総額が定款に記載した金額を超えていたときの設立費用の負担 (設問1), A定款に記載がない財産引受けの効力及び当該財産引受けの追認の許否等(設 問1), B買収者が対象会社の少数株主を会社から退出させる(締め出す)目的で行われた 株式の併合に係る株主総会の決議の取消事由及び無効事由(設問2), C株式の併合により株 - 8 - 式の数に1株に満たない端数が生ずるときの当該端数の処理の手続や反対株主の株式買取請求 (設問3)に関する理解等を問うものである。 設問1においては, 判例は, 設立費用の全部又は一部が未払の状態で会社が成立した場合 には, 債務は, 定款に記載した金額(会社法第28条第4号)の範囲で, 成立後の会社に帰属 し, その金額の範囲では, 取引の相手方は, 成立後の会社に対し, 弁済等を請求することがで き, 発起人に対しては, 弁済等を請求することができないという立場を採っていること(大判 昭和2年7月4日民集6巻428頁, 大判昭和8年3月27日法学2巻1356頁)を明らか にするとともに, 判例に賛成し, 又は反対するいずれかの立場から, その当否を検討すること が求められる。 判例に賛成する見解としては, 設立費用の総額が定款に記載した金額を超えていた場合にお いては, 債務は, @契約を締結した順序により, 契約を締結した順序が明らかでないときは, 債務の額に応じた按分の方法により, 定款に記載した金額の範囲で, 成立後の会社に帰属する というものや, A契約を締結した順序にかかわらず, 債務の額に応じた按分の方法により, 定 款に記載した金額の範囲で, 成立後の会社に帰属するというものなどが考えられる。 他方で, 判例に反対する見解としては, 債務は, @定款に記載した金額の範囲であっても, 成立後の会 社に帰属せず, 取引の相手方は, 発起人に対し, 弁済等を請求することができるにとどまり, 弁済等をした発起人が, 定款に記載した金額の範囲で, 成立後の会社に対し, 求償をすること ができるにすぎないというものや, A定款に記載した金額にかかわらず, 全て成立後の会社に 帰属し, 取引の相手方は, 成立後の会社に対し, 弁済等を請求することができ, 定款に記載し た金額を超えている部分については, 会社が, 発起人に対し, 求償をすることができるという もの, B取引の相手方は, 会社及び発起人のいずれに対しても, 弁済等を請求することができ るというものなどがある。 判例に賛成し, 又は反対するいずれの立場を採る場合であっても, これらの見解といわゆる設立中の会社の概念や発起人の権限の範囲との関係を意識し, 甲社が Dから求められた賃料60万円の支払及びEから求められた報酬40万円の支払を拒否するこ とができるかどうかについて, 事案に即して説得的に論ずることが望まれる。 設問1においては, 甲社の代表取締役Cから相談を受けた弁護士の立場に立って, 判例が, 定款に記載がない財産引受けは, 無効であり, 譲渡人も無効を主張することができ, 会社成立 後, 株主総会の特別決議をもってこれを承認しても, 有効とならず, 成立後の会社が追認して も, 有効とならないとしていること(最判昭和28年12月3日民集7巻12号1299頁, 最判昭和42年9月26日民集21巻7号1870頁, 最判昭和61年9月11日裁判集民1 48号445頁)を意識しながら, 本件購入契約に関する会社法上の問題点として, 定款に記 載がない財産引受けの効力及び当該財産引受けの追認の許否について, 説得的に論ずることが 求められる。 その上で, 甲社が本件機械の引渡しを受けるために採ることができる方法及びこ れに必要となる会社法上の手続について, 判例に賛成する見解からは, 甲社がFから本件機械 を購入する契約を改めて締結しなければならず(この場合には, Fの増額要求をある程度受け 入れるのもやむを得ないであろう。 ), そのために, 本問においては, 本件機械の価額及び甲社 の純資産額等に照らし, 本件機械の取得が事後設立に当たり, 株主総会の特別決議によって, 当該契約の承認を受けなければならないこと(会社法第467条第1項第5号, 第309条第 2項第11号)に言及しながら, 事案に即して検討することが望まれる。 他方で, 判例に反対 し, 定款に記載がない財産引受けの追認を認める見解からは, 本件購入契約を追認することが 考えられるが, そのために, 本問においては, 本件機械の価額及び甲社の純資産額等に照らし, 株主総会の特別決議によって, 当該契約の承認を受けなければならないと考えられること(同 法第467条第1項第5号類推, 第309条第2項第11号類推)などに言及しながら, 事案 に即して検討することが望まれる。 設問2においては, 乙社の創業者の一族である株主Gが, 平成28年7月11日を効力発生 - 9 - 日とする株式の併合により株主の地位を失ったとしても, 本件決議の取消しにより株主の地位 を回復するので, 本件決議の取消しの訴えについて原告適格を有すること(会社法第831条 第1項柱書き後段)を前提として, Gの立場から, 買収者である甲社が対象会社である乙社の 少数株主を会社から退出させる(締め出す)目的で行われた株式の併合に係る本件決議の取消 事由について論ずるとともに, その無効事由についても, 事案に即して説得的に論ずることが 求められる。 本件決議の取消事由として, 第1に, 本件持株会の会員であるKが, 株主名簿に記載されて いる株主でないにもかかわらず, 本件持株会理事長Hの代理人として議決権を行使したことが, 株主総会の決議の方法の定款違反(会社法第831条第1項第1号)に当たるか否かについて, 株主は, 代理人によってその議決権を行使することができる(同法第310条第1項)が, 乙 社の定款第16条は, 議決権を行使する株主の代理人の資格を当該会社の株主に制限している ところ, 判例が, そのような定款の規定は, 株主総会が, 株主以外の第三者によって攪乱され ることを防止し, 会社の利益を保護する趣旨に出たものと認められ, 合理的な理由による相当 程度の制限ということができるから, 有効であるとしていること(最判昭和43年11月1日 民集22巻12号2402頁)を前提として, そのような趣旨も踏まえて, 検討することが求 められる。 例えば, Kは, 株主名簿上の株主ではないが, 実質的に乙社の株主であることをど のように評価するかが検討対象となろう。 第2に, 乙社の代表取締役Jは本件株主総会において株式の併合をすることを必要とする理 由を説明している(会社法第180条第4項)が, Jの説明の内容に照らし, その説明が株主 総会の決議の方法の法令違反(同法第831条第1項第1号)に当たるか否かについて, 事案 に即して検討することが求められる。 第3に, Iの相続人である株主Lに議決権を行使させなかったことが, 株主総会の決議の方 法の法令違反(会社法第831条第1項第1号)に当たるか否かなどについて, 株式の譲渡の 対抗要件に関する同法第130条第1項が株式の相続にも適用されるか否かに言及しながら, 事案に即して検討することが求められる。 第4に, 買収者である甲社の代表取締役Cが甲社を代表して議決権を行使しているところ, 本件決議が, 株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによ る著しく不当な決議(会社法第831条第1項第3号)に当たるか否かについて, 事案に即し て検討することが求められる。 本件決議の無効事由としては, 買収者である甲社が対象会社である乙社の少数株主を会社か ら退出させる(締め出す)目的で行われた株式の併合が, 株主平等原則(会社法第109条第 1項)に違反するか否かについて, 論ずることが求められる。 設問3においては, 平成28年7月11日を効力発生日とする株式の併合により乙社の株式 を失うこととなる株主Lの経済的利益が会社法上どのように保護されるかについて, 説明及び 検討することが求められる。 まず, 株式の併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずるときの当該端数の処理の手 続(会社法第235条, 第234条第2項から第5項まで)について説明する必要がある。 次に, 反対株主の株式買取請求(会社法第182条の4)についても説明することが求めら れる。 その際には, 株主Lは, 本件株主総会に先立って株式の併合に反対する旨を乙社に対し 通知したが, 本件株主総会の会場への入場を認められなかったため, 本件株主総会において株 式の併合に反対していないこと(同法第182条の4第2項第1号参照)から, 株主Lが乙社 に対し株式買取請求をすることができるかどうかについて, 同法第130条第1項が株式の相 続にも適用されるか否かについての設問2における検討と整合的かつ説得的に論ずることが求 められる。 例えば, 株式の相続は「株式の譲渡」(会社法第130条第1項)に当たらないとの立場を - 10 - 採ると, 相続人は名義書換えをすることなく, 株式の取得を会社に対抗することができ, した がって, Lは本件株主総会において議決権を行使することができた株主となる。 この場合には, 前述のとおり, 形式的には, Lは同法第182条の4第2項第1号に規定する株主の要件を満 たしていないものの, その原因が, Lが本件株主総会の会場への入場を求めたにもかかわらず, これを乙社の受付担当者が代表取締役Jの指示に基づき不当に拒否したことにあるから, 乙社 は同号の規定によるLからの株式買取請求を信義則上拒否することができないと解し, 又はL は同項第2号に規定する株主(「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」) に当たり, Lは乙社に対し株式買取請求をすることができると解することが考えられよう。 他方で, 株式の相続は「株式の譲渡」(会社法第130条第1項)に含まれるとの立場を採 ると, 相続人は株主総会に係る議決権行使の基準日までに名義書換えをしなければ, 株式の取 得を会社に対抗することができず, したがって, Lは本件株主総会において議決権を行使する ことができなかった株主となる。 この場合には, Lが乙社に対し株式買取請求をすることがで きるかどうかについて, 同法第182条の4第2項第2号に規定する株主(「当該株主総会に おいて議決権を行使することができない株主」)に, 株主総会の基準日以前に議決権を有する 株式を取得しながら名義書換えを怠った者(株主総会の基準日後に株主名簿の名義書換えをし た株主)が含まれるか否かに言及しながら, 検討することが期待される(なお, この点に関す る裁判例として, 例えば, 東京地決平成21年10月19日金判1329号30頁, 東京地決 平成25年9月17日金判1427号54頁参照)。 〔第3問〕 本問は, Xが贈与契約に基づき本件絵画の引渡しを求めたのに対し, Yがその取引は時価相 当額を代金額とする売買契約であってその額は300万円であると主張したという紛争を基本 的な題材として, @当事者が代理人による契約締結の事実を主張していない中で, 証拠上その 事実の心証が得られた場合において, その事実を判決の基礎にすることができるか(設問1), A裁判所として200万円と引換えに本件絵画の引渡しを命ずる判決をするためには, 当事者 からどのような申立てや主張がされる必要があるか(設問2), また, そのような申立てや 主張がされたという前提の下で, 220万円又は180万円との引換給付判決をすることがで きるか(設問2), B引換給付判決のうち反対給付に係る部分の裁判所の判断が後訴に対し て何らかの拘束力を有するか(設問3)に関して, 検討することを求めるものである。 まず, 設問1では, 民事訴訟において, 裁判の基礎となる資料の収集を当事者の責任とする 原則(いわゆる弁論主義)が妥当し, その一環として, 裁判所は当事者が主張しない事実を判 決の基礎にしてはならないとの原則(いわゆる主張原則)が妥当すること, 一般的に, 主張原 則の対象となる事実は少なくとも主要事実を含むと解されていることを前提に, 代理の主要事 実は何かを明らかにした上で, 代理人による契約締結の事実を認定することの可否を検討する ことが求められる。 また, この点については, 判例(最判昭和33年7月8日民集12巻11 号1740頁)もあるところ, 本件において, Aの証人尋問がされ, AがYの代理人として契 約を締結した旨を述べたにもかかわらず, 当事者はこれを問題にしなかったという事情の下で, 主張原則との関係をどのように評価するかの検討も必要である。 設問1は, 弁論主義に関する ごく基礎的な理解を問う問題である。 設問2では, 裁判所として200万円と引換えに本件絵画の引渡しを命ずる判決をするた めに当事者からどのような申立てや主張がされる必要があるかを検討する前提として, 裁判所 は当事者が申し立てていない事項について判決をすることができないという申立拘束原則(民 事訴訟法第246条)を指摘した上で, 問題文に記載されたとおり, 本件の訴訟物の捉え方を 示すことが求められる。 そこでは, @いわゆる旧訴訟物理論に立ち, 売買に基づく引渡請求権 と贈与に基づく引渡請求権とは訴訟物が異なるとする立場, A同じく旧訴訟物理論に立ちつつ - 11 - も, 債権的請求である以上両者は訴訟物として同一であるとする立場, Bいわゆる新訴訟物理 論に立ち, 売買と贈与とで原因が異なっても同一の目的物の給付を求めるのであるから, 訴訟 物は同一であるとする立場など, 種々の立場が考えられるが, どのような立場でも, 論理的に 筋が通った答案が展開されていれば同様に評価した。 本件において, Xは, 「仮にこの取引が売買であり, 本件絵画の時価相当額が代金額である としても, その額は200万円にすぎない。 」と主張しており, その法的な意味合いを明確に すべきところ, 旧訴訟物理論のうち, 債権的契約につき契約ごとに異なる訴訟物を構成すると の立場からは, 裁判所が上記の引換給付判決をするためには, Xから, 予備的請求として, 売 買契約に基づく本件絵画の引渡請求を追加的に併合する訴えの変更(民事訴訟法第143条) の申立てがされることが必要となる。 その際, 同時履行の抗弁はYから主張することを要する 権利抗弁であるため, Xの予備的請求として「200万円の支払を受けるのと引換えに本件絵 画の引渡しを求める」旨の限定を付す必要はなく, 単純に, 売買契約に基づき本件絵画の引渡 しを求めることとなることに留意すべきである。 他方, 新訴訟物理論の立場, あるいは旧訴訟 物理論のうち, 贈与によっても売買によっても債権的請求として訴訟物は変わらないとする立 場からは, Xの申立てとしては, 訴状における本件絵画の引渡請求で十分であり, 贈与又は売 買の主張は攻撃方法の位置付けとなるため, この申立てに対して, 売買を理由に200万円と 引換えに本件絵画の引渡しを命ずる判決をすることは, 申立拘束原則には抵触しないものと考 えられる。 次に, Yは, 「本件絵画をXに時価相当額で売却し, その額は300万円である。 」と主張し ているところ, その主張の位置付けについては, 訴訟物の捉え方によって多少説明は異なるこ とになるが, @主位的な請求原因又は主張(贈与)とA予備的な請求原因又は主張(売買)を 構成する各事実との関係で, それぞれ否認か自白かを整理するとともに, 裁判所が上記の引換 給付判決をするためには, 上記Aに対して, Yから権利抗弁である同時履行の抗弁権の主張が 明確にされる必要があることを指摘することが求められる。 設問2では, 設問2で必要とされた各当事者の申立てや主張がされたという前提の下で, 220万円又は180万円との引換給付判決をすることの可否が問われているが, 220万円 はXが主張する時価相当額(200万円)とYが主張する時価相当額(300万円)との間に あるのに対し, 180万円はその間にはない(Xの主張額より更にXに有利である。 )という 違いに着目しつつ, 申立拘束原則と弁論主義の双方の観点から検討することが求められる。 申 立拘束原則は, 原告の意思の尊重と権利主張の権限及び責任のほか, 被告の敗訴リスクの上限 を画するという意義を有するところ, 本件では, 請求の趣旨としては単純に本件絵画の引渡し を求めるものであり, 上記の引換給付判決も基本的にはXの合理的意思に反しないものと考え られるが, 他方, Yの敗訴リスクの関係では, 時価相当額が220万円又は180万円のいず れと判断されるかにより評価が分かれる可能性があることなどを踏まえ, 事案に即して論ずる 必要がある。 また, 弁論主義に関しては, 220万円や180万円という金額自体は両当事者 とも主張していないが, 本件では本件絵画の時価相当額を代金額とすることにつき主張が一致 しており, 時価相当額の評価が分かれているにすぎないことや, 220万円や180万円とい う金額は, Xの主張額(200万円)とかけ離れた額ともいい難いこと等を踏まえて論ずるこ とが期待される。 設問3では, 確定判決は主文に包含するものに限り既判力を有すること(民事訴訟法第11 4条第1項)を指摘した上で, 同項所定の「主文に包含するもの」とは一般的に訴訟物と理解 されていることや, 設問2における前訴の訴訟物の捉え方を前提にして, 後訴の訴訟物(旧 訴訟物理論では, 本件絵画の売買契約に基づくYのXに対する200万円の代金請求権)との 関係で前訴判決の既判力が及ぶか否かを論ずることが求められる。 この点について, 引換給付の旨は前訴判決の主文に掲げられてはいるが, その趣旨は, 双務 - 12 - 契約における牽連性を強制執行との関係においても保障するため, 債権者が反対給付又はその 提供をしたことを証明したときに限り強制執行を開始することができること(民事執行法第3 1条第1項)を主文において明らかにする点にあり, 主文に掲げられていることからストレー トに既判力又はこれに準ずる効力等の拘束力が導かれるというわけではないことに留意する必 要がある。 また, 本問では, 既判力などの制度的効力を否定する場合には, 既判力以外の理由, 例えば 信義則などにより, Xが本件絵画の売買契約の成否及びその代金額を後訴で争えなくなるか否 かについて検討することも求められる。 具体的には, 前訴においてXは予備的に売買契約の成 立を主張していること, 前訴で認定された200万円という代金額は, 予備的ではあるものの X自身の主張額であること, 売買契約の存否及びその代金額は引換給付判決をするために不可 欠の判断対象であること, 他方で, Yとしては, 自らがXに対して200万円の売買代金請求 権を有することにつき既判力のある判断を得たければ, 前訴において反訴を提起することがで きたことなどの事情をどのように評価するかが一つのポイントとなろう。 また, 信義則の適用 に際しては, 前訴が本人訴訟であり第一審で判決が確定していることや, 後訴に至った事情な どを評価する必要の有無も, 検討対象となろう。 【刑事系科目】 〔第1問〕 本問は, 甲が, Aから, B信販会社が発行したA名義のクレジットカード(以下「本件ク レジットカード」という。 )について, 腕時計Xを購入するためだけに利用することを条件と して借りたところ, その条件に反することを認識しつつ, 時計店店主Cに対し, 腕時計Xと腕 時計Yの購入を申し込み, 本件クレジットカードを手渡した上, 売上票用紙にAの名前を記入 して手渡し, 腕時計Xと腕時計Yを購入したこと, 甲と乙が, Aが甲の顔面を殴ろうとして きたのを防ぐため, 正面からAに体当たりし, 路上に仰向けに倒れているAを押さえ付けるな どし, 更に乙が右手に持った石でAの顔面を1発殴り, Aに全治約1か月間を要する鼻骨骨折 の傷害を負わせたこと, 甲と乙が, 失神したAの様子を見てAが死亡したと思い, Aが強盗 に襲われて死んだように見せ掛けようと考え, Aのズボンのポケットから財布1個を持ち去っ たことなどを内容とする事例について, 甲及び乙の罪責を検討させることにより, 刑事実体法 及びその解釈論の知識と理解を問うとともに, 具体的な事実関係を分析し, その事実に法規範 を適用する能力並びに論理的な思考力及び論述力を試すものである。 以下では, 甲が本件クレジットカードを利用して腕時計を購入した行為について, 甲の罪 責を述べ, 甲と乙がAに暴行を加えて傷害を負わせた行為及び甲と乙がAのズボンのポケ ットから財布を持ち去った行為について, 甲及び乙の罪責を述べることとする。 甲が本件クレジットカードを利用して腕時計を購入した行為について 会社員甲は, 自宅近くのショッピングモール内にある時計店で, 腕時計X(販売価格10 万円)を見付け, 勤務先会社の同僚Aから金を借りて腕時計Xを購入しようと考え, Aに電 話をかけ, 10万円を貸してほしいと頼んだが, Aから断られた。 そこで, 甲は, Aに対し て, クレジットカードを貸してほしいと頼んだところ, Aは, 甲に対して, 本件クレジット カードを腕時計Xを購入するためだけに利用することを条件として貸すことにした。 甲は, Aから本件クレジットカードを受け取り, 同時計店に戻ったが, 新たに見付けた腕時計Y(販 売価格50万円)を, 交際相手へプレゼントするために購入したいと考えた。 甲は, 本件ク レジットカードを腕時計Xを購入するためだけに利用するというAとの約束に反すること, 今後, Aに合計60万円を支払うことができる確実な見込みがないことをそれぞれ認識しつ つ, 時計店店主Cに対し, 腕時計Xと腕時計Yの購入を申し込み, A本人であると装って本 件クレジットカードを手渡した上, Cの求めに応じて, B信販会社の規約に従い利用代金を - 13 - 支払う旨の記載がある売上票用紙の「ご署名(自署)」欄にAの名前を記入して手渡した。 Cは, その署名を確認し, 甲がA本人であって, 本件クレジットカードの正当な利用権限を 有すると信じ, 甲に対して, 腕時計Xと腕時計Yを合計60万円で売却した。 なお, 本件ク レジットカードは, B信販会社が所有するものであり, B信販会社の規約には, 会員である 名義人のみが利用でき, 他人への譲渡, 貸与等が禁じられていることや, 加盟店は, 利用者 が会員本人であることを善良な管理者の注意義務をもって確認することが定められている。 甲が本件クレジットカードを利用して腕時計を購入した行為については, @詐欺罪(刑法 第246条)の成否, A有印私文書偽造罪及び同行使罪(同法第159条第1項, 同法第1 61条第1項)の成否, B背任罪(同法第247条)又は横領罪(同法第252条第1項) の成否が問題となる。 まず, 甲は, 本件クレジットカードを利用して腕時計Xと腕時計Yを購入したが, その際, 腕時計Xの購入についてはAから承諾を得ていたことから, 名義人の承諾を得たにもかかわ らず, その承諾を超えて他人名義のクレジットカードを利用した行為について, 詐欺罪の成 否が問題となる。 そして, 詐欺罪の成否を論じるに際しては, 1項詐欺と2項詐欺のいずれ が成立するのかを理由付けを含めて簡潔に述べた上, 欺罔行為の内容, その他の構成要件要 素について, 事実を指摘して具体的に論じる必要がある。 次に, 甲は, 腕時計購入の際, Cの求めに応じ, B信販会社の規約に従い利用代金を支払 う旨の記載がある売上票用紙の「ご署名(自署)」欄にAの名前を記入し, これをCに手渡 しているところ, 前記のとおり, 甲は, Aから, 腕時計Xの購入について本件クレジットカ ードを利用することの承諾を得ており, その利用時には売上票用紙にAの名前を記入するこ との承諾も得ていたと考えられることから, 名義人の承諾がある場合の有印私文書偽造罪の 成否が問題となる。 そして, 名義人Aの承諾の有無が関係する「偽造」の要件, その他の偽 造罪の要件, 行使罪の「行使」の要件について, それぞれ事実を指摘して具体的に論じる必 要がある。 これらの詐欺罪, 有印私文書偽造罪及び同行使罪については, 甲は, 名義人Aの承諾を得 て借りた本件クレジットカードを用いて犯行に及んでいることから, 甲の罪責として, Aと の共同正犯の成否についても簡潔に論じることが望ましい。 さらに, Aとの約束に反して本件クレジットカードを利用した行為について, Aとの関係 で犯罪が成立しないかが問題となる。 甲はAから許された本件クレジットカードを利用でき る地位・資格を濫用したと捉えて, 背任罪が成立すると構成する見解, あるいは甲の地位・ 資格を化体した本件クレジットカード自体を横領したと捉えて, 横領罪が成立すると構成す る見解が考えられるところ, いずれの見解でも, 構成要件該当性について, 事実を指摘して 具体的に論じ, 更に背任罪と横領罪の関係, 不法な目的による委託信任関係の要保護性, 既 遂時期等について的確に論じる必要がある。 甲と乙がAに暴行を加えて傷害を負わせた行為について 甲と乙は, 飲食店で偶然会ったAから嫌みを言われたことから, Aに気付かれないように 同店を出て人気のない暗い路上を歩いていたところ, 甲が同店から出たことに気付いたAに 追い付かれた。 甲らの行為に怒ったAは, 甲の顔面を殴ろうとして, 右手の拳骨を甲の顔面 に向けて突き出したが, これに気付いた甲は, Aの右手の拳骨をかわしながら, Aから殴ら れるのを防ぐため, 乙に対して, 「一緒にAを止めよう。 」と言い, 乙は, 甲がAから殴られ るのを防ごうと考え, 「分かった。 」と答えた。 そこで, 甲と乙が正面からAに体当たりした ところ, Aは路上に尻餅を付いた。 しかし, Aがすぐに立ち上がり, 再び右手の拳骨で甲の 顔面に殴りかかろうとした。 甲と乙は, 甲がAから殴られるのを防ごうと考え, 再び正面か らAに体当たりしたところ, Aが路上に仰向けに倒れた。 甲は, Aが再び立ち上がろうとす る様子を見て, Aから殴られないようにするため, 乙に対して, 「一緒にAを押さえよう。 」 - 14 - と言い, 乙は, 甲がAから殴られるのを防ごうと考え, 甲に対して, 「分かった。 俺は上半 身を押さえるから, 下半身を押さえてくれ。 」と答えた。 そこで, 甲は, 仰向けに倒れてい るAの両膝辺りにAの足先の方向を向いてまたがり, Aの両足首を, 真上から両手で力を込 めて押さえ付け, 乙は, 仰向けに倒れているAの腰辺りにAの頭の方向を向いてまたがり, Aの両上腕部を, 真上から両手で力を込めて押さえ付けた。 しかし, Aは, 身体をよじらせ ながら, 「離せ。 甲, お前をぶん殴ってやる。 絶対に許さない。 覚悟しろ。 」と甲を大声で罵 り, 更に力を込めて体をよじらせた。 Aのその様子を見た乙は, 甲がAから殴られるのを防 ぐため, Aの腰辺りにまたがってAの右上腕部を真上から左手で力を込めて押さえ付けたま ま, Aの左上腕部に右膝を力を込めて押し当てた上, 傍らに落ちていた石(直径10センチ メートルの丸形, 重さ800グラム)を右手で拾い, 右手に持ったその石で, Aの顔面を力 を込めて1発殴った。 Aは, 乙に石で顔面を殴られたことから, 全治約1か月間を要する鼻 骨骨折の傷害を負った。 なお, 甲は, 乙が石を拾ったことや乙が右手に持った石でAの顔面 を殴り付けたことを全く認識していなかった。 甲と乙がAに暴行を加えて傷害を負わせた行為について, 甲及び乙の罪責を検討するに当 たっては, @傷害罪(刑法第204条)の構成要件該当性及び共同正犯の成否, A正当防衛 ないし過剰防衛の成否(同法第36条)について検討する必要がある。 甲と乙は, 甲が乙に「一緒にAを止めよう。 」と言い, 乙が「分かった。 」と答えた後, A に体当たりするなどしていることから, 現場で共謀を遂げた上, 共同してAに暴行を加え始 めたと認められる。 その後も両者の暴行は継続し, その過程で乙が右手に持った石でAの顔 面を1発殴打してAに全治約1か月を要する鼻骨骨折の傷害を負わせたところ, 甲が乙の傷 害行為を認識していないものの, 特に共謀が終了したと見るべき事情が存在しないと考えら れる場合, 甲と乙は全体について共同正犯としての責任を負うかが問題になる。 そして, 乙 の殴打とAの傷害結果との間に因果関係を認めることができるので, 乙の行為は傷害罪の構 成要件に該当する。 さらに, 自ら傷害の結果を惹起していない甲についても, 結果的加重犯 の共同正犯を肯定する立場では, 傷害罪の構成要件該当性が肯定され, 甲と乙は傷害罪の共 同正犯と解されることになる。 以上について, 共謀が終了したと見るべき事情が存在しないかどうかを含め, 事実を指摘 して具体的に論じなければならない。 なお, 乙の傷害行為は共謀に基づかないものと考えた 場合, 共謀を否定する理由を的確に論じた上で, 甲については暴行罪の正当防衛の成否を, 乙については甲との共同正犯となる暴行罪の正当防衛の成否と合わせて, 傷害罪の正当防衛 ないし過剰防衛の成否を検討することになる。 次に, 正当防衛ないし過剰防衛の成否を検討するに当たっては, まず, 「急迫不正の侵害」, 「防衛の意思」について, 簡潔に指摘する必要がある。 急迫不正の侵害については, Aが甲 の顔面を殴ろうとして, 右手の拳骨を甲の顔面に向けて突き出し, 甲と乙に体当たりされて 尻餅を付いた後も, すぐに立ち上がり再び右手の拳骨で甲の顔面に殴りかかろうとしたこと や, 仰向けに倒されて押さえ付けられている間も, 身体をよじらせながら, 「離せ。 甲, お 前をぶん殴ってやる。 絶対に許さない。 覚悟しろ。 」と甲を大声で罵り, 更に力を込めて体 をよじらせていたことを指摘した上で, 乙がAの顔面を殴打した時点でも甲に対する急迫不 正の侵害が継続していたことを述べる必要がある。 防衛の意思についても, 甲と乙が, 終始, 甲がAから殴られるのを防ぐためにAに暴行を加えていたことを指摘して, 甲と乙の行為は, いずれも同一の防衛の意思に基づくことを述べる必要がある。 甲と乙の行為が「やむを得ずにした行為」と認められるか否かをめぐっては, 「やむを得 ずにした行為」の意義(防衛行為の必要性・相当性)を明らかにした上で, 共同正犯におけ る防衛行為の相当性について, 共同正犯者全員の行為を対象として判断するか, 共同正犯者 ごとに個別に判断するかを論じる必要がある。 また, 乙がAの顔面を殴打した時点でも甲に - 15 - 対する急迫不正の侵害が継続し, 甲と乙の行為は, 終始, 同一の防衛の意思に基づく行為と 認められることは上記のとおりであり, 相当性の判断は、 甲と乙の一連の行為を一体として 行われるべきこと, いわゆる量的過剰は問題となっていないことを指摘しておく必要がある。 その上で, 甲と乙の行為が防衛行為として相当と認められるか否かは, 甲と乙の一連の行 為(体当たり, 押さえ付け, 顔面殴打)に関する事実を指摘して具体的に検討することが求 められる。 例えば, 乙がAの顔面を殴った行為は, 既にAが仰向けに倒れた状態で甲と乙に 押さえ付けられており, Aによる攻撃が当初より弱まっていたことや, Aが素手で甲に殴り かかろうとしたのに対し, 乙が右手に持った石でAの顔面を殴ったことなどの各事実を踏ま え, 防衛行為として相当性の範囲を逸脱したか否かが論じられるべきである。 防衛行為の相当性について, 共同正犯者全員の行為を対象として判断し, 甲と乙の一連の 行為が防衛行為の相当性の範囲を逸脱したと認めた場合には, 甲と乙のいずれについても, 客観的には過剰防衛と評価されることになり, 乙には過剰防衛が成立する。 甲については, 乙が石を拾ったことや乙が右手に持った石でAの顔面を殴り付けたことを全く認識しておら ず, 過剰性を基礎付ける事実を認識していなかったため, 違法性阻却事由の錯誤が問題とな る。 違法性阻却事由の錯誤に関する自らの立場を明らかにした上で結論を導き出すことが求 められる。 例えば, 事実の錯誤説に基づき, 甲は乙の過剰行為を認識していなかったことか ら, 傷害罪の故意を阻却することが考えられる。 そこでは, 更に過失傷害罪(刑法第209 条第1項)の成否が問題となり, 甲が乙の過剰行為を認識していなかった点について, 過失 の有無を検討する必要がある。 過失傷害罪の成立を認める場合には, 過剰防衛の任意的減免 (同法第36条第2項)の準用の可否も問われることになる。 以上と異なり, 防衛行為の相当性を共同正犯者ごとに個別に判断し, 甲の行為は防衛行為 として相当であるが, 乙の行為は防衛行為として相当性の範囲を逸脱したと認めた場合には, 甲には正当防衛が成立し, 乙には過剰防衛が成立することになる。 甲と乙がAのズボンのポケットから財布を持ち去った行為について 甲と乙は, 失神したAを見てAが死亡したと思い, 乙が甲に対して, 「Aが強盗に襲われ て死んだように見せ掛けよう。 Aの財布を探して捨ててしまおう。 」と言ったところ, 甲が 乙に対して, 「そうしよう。 」と答えた。 もっとも, 甲は, 「財布は捨ててもいいが, もった いないから中の現金はもらい, 借金の返済に使おう。 」と考えていたが, 乙にその考えを話 さなかった。 甲と乙は, 財布を探し, 甲がAのズボンのポケット内に財布1個があるのを見 付け, 同ポケットから同財布を取り, 同財布を甲の上着ポケットにしまった。 乙は, 甲が現 金入りのまま同財布を捨ててくれると思っていた。 甲と乙は, そのまま甲宅へ向かい, 甲は, 乙が帰宅した後, 甲宅において, 上着ポケットにしまったままの現金入りの同財布を取り出 して現金4万円を抜き取って自分のものとし, 同財布を甲宅の押し入れ内に隠した。 甲と乙がAのズボンのポケットから財布を持ち去った行為について, 甲及び乙の罪責を検 討するに当たっては, @窃盗罪(刑法第235条)の客観的構成要件該当性, A死者の占有, B不法領得の意思, C共同正犯の成否(同法第60条)を検討する必要がある。 まず, 窃盗罪の客観的構成要件該当性については, 甲と乙がAのズボンのポケットから財 布を奪った時点でAは生きており, 財布に対するAの占有が認められるので, 甲がAのズボ ンのポケットから財布を取って, 同財布を甲の上着ポケットにしまった行為が, 客観的には 窃盗罪の窃取に該当することを簡潔に指摘しておくべきである。 次に, 甲と乙がAから財布を奪った時点で, 甲と乙はAが死亡したものと認識していたた め, 窃盗罪の故意に関してAの占有を侵害する認識が認められるかが問題となる。 死者の占 有について, 判例の立場(最判昭和41年4月8日刑集20巻4号207頁等)による場合 には, 「被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して財物を奪取した」と 認められるかを検討しなければならない。 そして, Aの占有を侵害する認識を肯定する場合, - 16 - 客観的に窃盗罪の構成要件に該当するのみならず, 窃盗罪の故意が認められる。 Aの占有を 侵害する認識を否定する場合は, Aの財布を占有離脱物と認識していたことになり, 客観的 には窃盗罪の構成要件に当たるとしても, 主観的には占有離脱物横領罪の認識を有している にすぎないこととなるので, 抽象的事実の錯誤であることを指摘し, 「構成要件の重なり合 い」の有無を論じる必要がある。 さらに, 甲は「財布の中の現金はもらい, 借金の返済に使おう。 」と考え, 乙は「財布を 捨ててしまおう。 」と考え, Aから財布を奪っていることから, 窃盗罪又は占有離脱物横領 罪の不法領得の意思が問題となるところ, 不法領得の意思の要否及び内容を明らかにした上, 事実を具体的に指摘してその存否を認定する必要がある。 不法領得の意思について, 権利者排除意思と利用処分意思のいずれも必要とする判例の立 場で, 乙に利用処分意思が認められないと考えれば, 乙は器物損壊罪の構成要件に該当する ことになる。 この立場では, 甲がAから取った財布を甲の上着ポケットにしまったまま甲宅 に向かい, 同財布を甲宅の押し入れ内に隠した行為が器物損壊の「損壊」に該当することの 説明が簡潔になされることを要する。 乙は, 甲に対して, 「Aが強盗に襲われて死んだよう に見せ掛けよう。 」と言っているので, 犯跡隠滅目的にも利用処分意思が認められると考え れば, 乙も窃盗罪又は占有離脱物横領罪の構成要件に該当することになるが, その場合は, 犯跡隠滅目的に利用処分意思を認める理由が的確に説明されなければならない。 他方, 不法 領得の意思について, 不要説又は権利者排除意思のみで足りるとする立場によれば, 乙も窃 盗罪又は占有離脱物横領罪の構成要件に該当することになるが, その場合は, 判例と異なる 立場に立つ理由を的確に示す必要がある。 最後に, 共同正犯の成否が取り上げられる。 甲が窃盗罪又は占有離脱物横領罪, 乙が器物 損壊罪の各構成要件に該当すると考えた場合には, 異なる構成要件間における共同正犯の成 否が問題となるところ, 共同正犯における共同実行の意義(行為共同説と犯罪共同説の対立) について簡潔に説明した上, 結論を導き出さねばならない。 最後に, 甲及び乙について, 罪数を論じる必要がある。 〔第2問〕 本問は, 覚せい剤取締法違反事件の捜査及び公判に関する事例を素材に, そこに生起する刑 事手続法上の問題点, その解決に必要な法解釈, 法適用に当たって重要な具体的事実の分析及 び評価並びに結論に至る思考過程を論述させることにより, 刑事訴訟法に関する基本的学識, 法適用能力及び論理的思考力を試すものである。 〔設問1〕は, 甲に対する覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡)の被疑事実で甲方の捜索差 押許可状の発付を受けた司法警察員が, 甲方の捜索差押えを実施する際, 甲方ベランダの柵を 乗り越え, 掃き出し窓のガラスを割って解錠して甲方に入ったこと(下線部@), 甲方にいた 甲と同居する内妻の乙が携帯していたハンドバッグ内を捜索したこと(下線部A), 甲方にい た丙のズボンのポケット内を捜索したこと(下線部B)につき, それぞれ, その適法性を論じ させることにより, 捜索差押許可状に基づく捜索についての正確な理解と具体的事実への適用 能力を試すものである。 下線部@は, 捜索に伴う付随的措置である「必要な処分」(刑事訴訟法第222条第1項, 第111条第1項)として許容される法的根拠及びその限界を問うとともに, 甲方ベランダの 掃き出し窓を割って解錠して甲方に入った措置が令状の呈示前に行われていることの適否を問 うものである。 この点に関し, 被疑者に対する覚せい剤取締法違反事件につき, 被疑者が宿泊しているホテ ル客室に対する捜索差押許可状の執行に当たり, 捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らが, 捜索差押許可状執行の動きを察知されれば, 覚せい剤事犯の前科もある被疑者において, 直ち - 17 - に覚せい剤を洗面所に流すなど短時間のうちに差押対象物件を破棄隠匿するおそれがあったた め, ホテル支配人からマスターキーを借りた上, 来意を告げることなく, 施錠された被疑者の 客室ドアを開けて室内に入り, その後直ちに被疑者に捜索差押許可状を呈示したという事案に おいて, 「以上のような事実関係の下においては, 捜索差押許可状の呈示に先立って警察官ら がホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は, 捜索差押えの実効性を確保する ために必要であり, 社会通念上相当な態様で行われていると認められるから, 刑訴法222条 1項, 111条1項に基づく処分として許容される。 また, 同法222条1項, 110条によ る捜索差押許可状の呈示は, 手続の公正を担保するとともに, 処分を受ける者の人権に配慮す る趣旨に出たものであるから, 令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきであるが, 前記 事情の下においては, 警察官らが令状の執行に着手して入室した上その直後に呈示を行うこと は, 法意にもとるものではなく, 捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないところで あって, 適法というべきである。 」と判示した判例(最決平成14年10月4日刑集56巻8 号507頁)があり, 同判例に留意しつつ, 「必要な処分」として許容される限界及び令状呈 示時期に関する判断枠組みを明らかにした上で, 本設問の事例に現れた具体的事実が, その判 断枠組みにおいてどのような意味を持つのかを意識しながら, 下線部@の行為の適法性を検討 する必要がある。 本設問の事例においては, 甲方を拠点にした組織性が疑われる覚せい剤の密売事案であるこ と, 水に流すなどして短時間に隠滅することが容易な覚せい剤が差押対象物件となっているこ と, 覚せい剤は立証上重要な証拠であること, 甲は覚せい剤取締法違反の前科3犯を有する者 であり, 初犯者と比較して警察捜査に関する知識経験を有していると考えられること, 事前の 捜査によって甲方には甲のほか乙, 丙が出入りしており, 捜索時に複数人が在室している可能 性があったこと, 甲が玄関ドアチェーンをつけたままで配達員に応対していたことなどから, 捜査員が甲方室内に入るまでに時間を要する可能性が高い状況であるとともに, 甲の協力が得 られる可能性が低い状況にあると認められたこと, 司法警察員Pが甲方玄関先の呼び鈴を鳴ら したところ, 甲がドアチェーンを掛けたままドアを開けたことを具体的に指摘し, 司法警察員 Qらがベランダの窓ガラスを割って解錠して室内に入った措置について, 捜索差押えの実効性 を確保するために必要性があるのか, その態様は社会通念上相当な範囲内にあるのかといった 観点から評価することが求められる。 また, 手続の公正担保及び処分を受ける者の利益保護という令状呈示の趣旨から, 令状呈示 は, 執行着手前に行われることが原則であることを論じ, 事前呈示の要請と現場保存の必要性 等に係る上記事情等を指摘・考量した上で, 本件措置が令状呈示前に行われたことの適否を論 じることが求められる。 下線部Aは, 刑事訴訟法が, 捜索の対象を「身体」, 「物」, 「住居その他の場所」に分類し(刑 事訴訟法第222条第1項, 第102条), これに従って捜索令状に処分の対象を特定して記 載することを要求している(同法第219条第1項)ところ, 特定の「場所」に対する捜索差 押許可状の効力が, 令状には明示的に記載のない「物」に及ぶことはあるのか, それはいかな る場合であって, どのような理由に基づいて認められるのかを問うものである。 この点に関し, 「警察官は, 被告人の内妻であった甲に対する覚せい剤取締法違反被疑事件 につき, 同女及び被告人が居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付 を受け・・・・・・, 右許可状に基づき右居室の捜索を実施したが, その際, 同室に居た被告人が携 帯するボストンバッグの中を捜索したというのであって, 右のような事実関係の下においては, 前記捜索差押許可状に基づき被告人が携帯する右ボストンバッグについても捜索できるものと 解するのが相当である」と判示した判例(最決平成6年9月8日刑集48巻6号263頁)が あるが, 同判例は捜索が適法との結論を導くに当たり, 飽くまで「右のような事実関係の下に おいては・・・・・・捜索できるものと解するのが相当である」と説示するにとどまり, 特にその理 - 18 - 由を明示していないため, 同判例に留意しつつ, 場所に対する令状によって, その場所に居住 する人がその場で携帯する物に対する捜索ができるかについての自説を各自が展開することが 求められる。 基本的な考え方としては, 場所に対する捜索差押許可状の効力は, 当該場所の管理権者と当 該場所にある物の管理権者が同一である場合には, 場所に付属するものとして当該物にも及ぶ 一方で, 第三者の管理下にある物については, 当該令状によって制約されることとなる管理権 に服するものでない以上, その効力は及ばないという考え方が一般的であると思われるところ, 本設問の事例においては, 乙は甲と同居する内妻であること, 乙は, 司法警察員Qらが入室し た時点で右手にハンドバッグを所持し, その後も継続して所持していることを具体的に指摘し た上で, 同バッグに甲の管理権が及んでいるかどうかを検討し, 同バッグの捜索の適法性を論 じることが求められる。 また, 同バッグは乙の管理権が及ぶものであるとした上で, 甲方を捜 索場所とする令状によって乙の管理権も制約されることになるかといった観点から, 捜索の適 法性を論じることも可能である。 下線部Bは, 前記のとおり, 刑事訴訟法は, 捜索の対象として「場所」と「身体」とを区別 しているところ(同法第219条第1項), 「場所」に対する捜索差押許可状によって「身体」 に対する捜索を行うことが許されることはあるかを問うものである。 場所に対する捜索差押許可状の効力は, 人の身体には及ばない以上, 捜索すべき場所に居合 わせた者の身体について捜索を実施することは当然には許されないものの, 例外的にそれが許 される場合があるか否か, 許される場合があるとしていかなる場合にどのような理由で許され ると解すべきかについての自説を各自が展開し, 本設問に現れた具体的事実を的確に指摘, 評 価して, 本件捜索の適法性を論じることが求められる。 その際, 具体的事実を本設問の事例中 からただ書き写して羅列すればよいというものではなく, それぞれの事実が持つ意味を的確に 分析して論じる必要がある。 本設問の事例では, 差押対象物件は, 覚せい剤, ビニール袋, 注射器, 手帳, メモなどの比 較的小さい物が含まれていること, 事前捜査により甲は甲方を拠点に覚せい剤を密売して いる疑いがあったこと, 丙は甲方に頻繁に出入りしていたこと, 司法警察員Qらが甲方 に入室した時点で丙が右手をポケットに入れていたこと, 丙が右手を抜いた後もポケッ トが膨らんだ状態であったこと, 丙が時折ポケットを触るなど気にする素振り等を示し ていたこと, 丙は司法警察員Qからポケットの中身を尋ねられても答えなかったこと, 丙が再びポケットに手を入れてトイレに向かって歩き出したこと, 丙は司法警察員Qの 制止を無視して黙ったままトイレに入ろうとしたことを具体的に指摘し, それぞれの事 実が持つ意味を的確に分析, 評価して, 自説への具体的な当てはめを行う必要がある。 また, 捜索を行うこと自体を適法とした場合には, 司法警察員Qが丙の右腕を引っ張っ てポケットから引き抜き更にポケット内に手を差し入れた行為が, 刑事訴訟法第222 条第1項, 第111条第1項の「必要な処分」として又は(「必要な処分」として考える までもなく)本来行うべき捜索そのものとして許容されるか否かを論じる必要がある。 [設問2]は, 甲証言をめぐる弁護人と検察官の証拠の取調べ請求のやり取りを素材 として, 刑事訴訟法第328条で許容される証拠の範囲を問うものである。 具体的には, 証拠1(甲を取り調べた司法警察員P作成に係る甲の供述要旨を記載した捜査報告書), 証拠2(司法警察員P作成に係る甲の供述録取書)及び証拠4(司法警察員Q作成に係 る乙の供述録取書)は, 甲証言と矛盾する内容であり, 証拠3(検察官R作成に係る甲 の供述録取書)は, 甲証言と一致する内容であるところ, 設問2−1は, 同条により許 容される証拠は自己矛盾供述に限られるか否か(証拠2, 証拠4), 供述者の署名押印を 欠くものも含まれるか(証拠1)を問うものである。 設問2−2は, 仮に設問2−1で - 19 - 甲証言の証明力を争うための証拠として取り調べた証拠があったとして, 証拠3が「甲 証言の証明力を回復するため」の証拠として許容されるのか, すなわち, 同条の「証明 力を争うため」の証拠には, 一旦減殺された証明力を回復させるための証拠も含まれる のかを問うものであるが, この点に関する最高裁判所の判例はなく, 基本書等にはあま り記載がない分野であり, 受験生の応用力を試すことを狙いとした設問である。 設問2−1は, 「刑訴法328条は, 公判準備又は公判期日における被告人, 証人その 他の者の供述が, 別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に, 矛盾する供述をした こと自体の立証を許すことにより, 公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用 性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであり, 別の機会に矛盾する供述をしたとい う事実の立証については, 刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが 相当である。 そうすると, 刑訴法328条により許容される証拠は, 信用性を争う供述 をした者のそれと矛盾する内容の供述が, 同人の供述書, 供述を録取した書面(刑訴法 が定める要件を満たすものに限る。 ), 同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又 はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られるというべきである。 」と判示 した判例(最判平成18年11月7日刑集60巻9号561頁)があり, 同判例に留意 しつつ, 伝聞法則や刑事訴訟法第328条の趣旨を踏まえた論述が求められる。 同判例 の立場に立てば, 証拠1は甲の署名押印を欠くため, 証拠4は乙の供述録取書であって 甲の自己矛盾供述ではないため, いずれも, 同条により証拠として許容されず, 裁判所 は証拠として取り調べる旨の決定はできないこととなり, 証拠2は, 同条により証拠と して許容され, 裁判所は証拠として取り調べる旨の決定ができることとなる。 一方, 同 判決の立場に依拠しない場合には, それぞれの結論がどのような道筋で導き出されるの かについて相応の説得を持って説明することが求められよう。 設問2−2は, いわゆる回復証拠が同条により許容されるのかについて, 同条の「証 明力を争う」という文言の解釈を示した上で, それのみを肯定あるいは否定の根拠とす るのは十分でなく, 結論がもたらされる実質的な理由を示す必要がある。 本設問の事例 では, 甲証言の証明力が証拠2によって減殺されたときに, 甲証言の内容と一致する内 容の証拠3が, いかなる理由で証明力の回復証拠となるのか, あるいは, ならないのか まで論じた上で, 結論を導くことが求められる。 【選択科目】 [倒産法] 〔第1問〕 本問は, 個人破産の具体的事例を通じて, 支払不能と支払停止の概念, 代理人弁護士による 債務整理開始通知の支払停止該当性, 支払不能状態の認定, 免責不許可事由該当性の検討及び 裁量免責の可否と考慮要素の検討等についての理解と事例処理能力を問うものである。 設問1は, 最高裁判所平成24年10月19日判決集民241号199頁(以下「平成24 年最判」という。 )を念頭に, 平成24年最判の事案では, 債務者が給与所得者であったこと と対比し, 本問のAは個人事業者であるとの相違点があることを意識して, 代理人弁護士Yが 各債権者宛てに送付した本件通知が「支払の停止」に該当するかについて触れつつ, 平成29 年3月17日の時点でAに「支払不能」が認められるかについて論じることが求められている。 なお, 破産管財人Xは, AのHに対する50万円の弁済を否認することができるか否かを調査 検討しているものではあるが, 本問では, この弁済行為が否認できるか否かを問うものではな いことに留意する必要がある。 解答に当たっては, まず, 「支払の停止」を検討する意義, すなわち「支払の停止」と「支 - 20 - 払不能」の関係について述べることが求められる。 具体的には, AのHに対する弁済は, 特定 の債権者に対する担保の供与等の否認(破産法第162条第1項)に該当する可能性が考えら れるところ, 弁済時の「支払不能」 (同法第2条第11項)は, その要件の一つとされており(同 法第162条第1項第1号柱書き本文), 「支払の停止」があった後は「支払不能」であったも のと推定される(同条第3項)という関係にあることを指摘することが求められる。 次に, 本件通知が「支払の停止」に該当するかどうか, すなわち「債務者が, 支払能力を欠 くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて, その旨を明示的又は 黙示的に外部に表示する行為」(平成24年最判)あるいは「支払不能状態であることを外部 に表示する債務者の行為」(通説的定義)と言えるかについて, 本件通知の記載内容を基に検討 することとなる。 ここでは, 平成24年最判の判示するように, 「支払の停止」とは外部に表 示する行為であることから, 専ら本件通知にはどのような記載がされているか, 少なくとも黙 示的に支払不能状態であることが表示されていると見ることができるかを検討することが求め られる。 なお, 平成24年最判の事案は債務者が給与所得者であったのに対して, 本問のAは 個人事業者であるという相違点がある。 平成24年最判の補足意見においても, 一定規模以上 の事業者の場合には, 債務整理開始通知であっても「支払の停止」を肯定するには慎重になる べきとの見解が述べられており, これを意識して当てはめができれば, より深い検討が可能と なろう。 本件通知では, 債務整理を法律の専門家であるYに委任した旨の記載があること, Y が債権者一般に宛ててAへの連絡及び取立ての中止を求めていることは平成24年最判の事案 と同様であること, Aは個人事業者ではあるものの事業規模が大きいとは言えず, 本件通知に も「慎重に検討する」等として債務整理の方針が示されてはいないものの, 実現可能性のある 再建計画が示されているものではないことなどからすると, 基本的には支払停止該当性は肯定 的な方向となろう。 その上で, 平成29年3月17日時点でAに「支払不能」が認められるかを検討することと なるが, これは本件通知の支払停止該当性を肯定したか否かで判断枠組みが異なるものとなる。 肯定した場合には, 「支払の停止」以降は「支払不能」が推定されるから, 支払不能該当性は この法律上の推定を覆す特段の事情が認められるか, という枠組みでの検討が必要となるのに 対し, 否定した場合には, こういった枠組みなしにAの支払能力の欠乏をその3要素すなわち 財産, 労務及び信用の各点から, 問題文の事情を的確に当てはめ, 一般的・継続的な支払能力 の欠乏が認められるかを検討することとなる。 なお, F銀行からの借入金の分割金の弁済期が 同年3月末である点を「支払不能」の定義との関係で問題とすることも考えられるが, 通常金 融機関は契約条項や取引約款において「支払の停止」を期限の利益喪失事由としており, 「弁 済期にある債務がない」ことをもって支払不能該当性を否定するためには, F銀行以外の債務 も含めて全て, 弁済期にあるものがないことに言及する必要があろう。 設問2は, 本件で判明しているAの行為から, 免責不許可事由(破産法第252条第1項) に該当する行為を検討し(小問), Aを裁量免責すべきかについて, 設問の具体的事情の中 から, 肯定的に考慮すべき事情, 否定的に考慮すべき事情をそれぞれ的確に抽出して, 検討す ることが求められる。 小問では, 免責不許可事由が認められるか否かを論ずることが求められる。 具体的には, @Hへの平成29年3月26日の弁済が非義務的偏頗行為(破産法第252条第1項第3号) に該当するか, AGからの同年3月18日の借入時のAの言動が詐術(同項第5号)に該当す るかが問題となる。 @については, Hという特定の債権者への弁済行為であることを挙げつつ, 明確な弁済期が 定められていないと思われることから, 時期が義務に属していないと言えるか, またHに特別 の利益を与える目的があると言えるかについて検討することが求められる。 前者については, 「立て直しに成功したら返してくれればよい」とのHの言について, 不確定期限と理解するほ - 21 - か, 期限の定めなき債務との理解も考えられよう。 後者については, Aとしては義理の親に対 する弁済という点でHを特別扱いしているものであろうが, ここに破産法のいう「特別の目的」 とは他の債権者が存在しつつ, これらには同等の弁済ができないにもかかわらず, Hにのみ利 益を与えることを言うことに留意が必要である(それゆえ, 設問1の「支払不能」の認定でA の資力を十分などと判断していた場合, ここで特別の目的を認めると矛盾抵触が生じ得る)。 Aについては, Gからの借入れという信用取引であることを踏まえて, 借入時期が申立前1 年以内であること, Aが破産原因を認識していたか等を検討しつつ, 「詐術」に該当するかを 検討する必要がある。 AのGに対する言動は幾つかあるが, Aの支払能力に関連すること, か つ連絡が途絶えて現実的には回収不能と見られるという点で客観的事実と反し得ること等か ら, Cからの入金があれば必ず返せると述べた点を取り上げる必要がある。 なお, 破産法第2 52条第1項第5号該当性については, 破産原因の存在(それゆえ破産原因があることは前提 となっている)についてのAの認識が要件の一つであることから, 設問1で平成29年3月1 7日時点での支払不能を否定する結論を取った場合, その翌日である3月18日時点での支払 不能を認定することは困難と思われるため, 同号該当性を肯定することはできないと思われる ことに留意が必要である。 小問は, Aに免責不許可事由が何かしら認められることを前提に(自身の答案では認めら れないとの結論を取ったとしても, 仮にあるとして), Aに裁量免責を認めるべきか, 破産裁 判所の立場で検討することが求められる。 まず, 裁量免責の根拠規定である破産法第252条第2項を挙げて, その趣旨や考慮すべき 要素を挙げつつ, 検討することが求められる。 分類について, 一つの一般的な分類としては, @免責不許可事由自体に関する事情(悪質性の有無や程度), A破産に至った経緯, B開始決 定後の事情, C免責許可による経済的再建の必要性等, D債権者の意見などが考えられる。 答案においては, これらに属する各要素(各事実)について, それがどのような理由で裁量 免責について肯定的あるいは否定的な事情となるかを述べつつ, 各要素についての検討・評価 を加えた上で, 裁量免責を許可するか否かについての結論を出すことが求められる。 @であれば, 破産法第252条第1項第3号及び第5号に該当する事実, 非義務的偏頗行為 や詐術を用いての借入れが破産法の趣旨に反する悪質な行為であることは否定的な事情となろ うし, Aであれば, C, D, E等に関するAの資金繰り悪化の理由がAに帰責性のない(ある いは弱い)ものであること, A自身は真面目に仕事に精を出してきたこと, Bであれば, Aが 期日に出頭し, Xの事情聴取にも素直に応じ, GやHの件も自ら説明する等, 自身の破産法上 の義務を果たしてXの管財業務に協力するという行為にAの誠実性が見て取れることは, 肯定 的に捉えるべき事情である。 本問では, 否定的に捉えるべき要素は主として@の免責不許可事由として評価されるべき事 情であるのに対し, 肯定的に捉えるべき要素が多いことに鑑みると, 基本的には裁量免責を許 可することに肯定的となろう。 〔第2問〕 本問は, 法人再生の具体的事例を通じて, 再生債権の弁済に関する原則とその例外, 再生債 務者の第三者性についての理解と事務処理能力を問うものであり, 手続法と実体法の双方の観 点から, 民事再生法の目的に結び付く一貫した理解という視点が求められている。 設問1では, まず, 再生債権の弁済に関する原則について, 民事再生法第85条第1項を摘 示し, 再生手続開始決定による弁済禁止効, すなわち再生手続によるのでなければ再生債務者 財産から満足を受けることができず, 再生計画の定めに従った権利内容の変更を経て, 再生計 画に基づいて弁済されることが原則である旨を指摘する必要がある。 例外的に, 再生計画によらず弁済を許可する制度として, @中小企業者の再生債権に対する - 22 - もの(民事再生法第85条第2項)と, A少額の再生債権に対するもの(同条第5項)とがあ るが, 本問は後者についての出題である。 小問は, 再生手続を円滑に進行するための少額債権の弁済許可(民事再生法第85条第5 項前段)についての理解を問うものである。 その制度趣旨は, 少額の再生債権者であっても手 続に参加する以上は, 債権届出, 調査, 議決権行使が行われることになり, そのための通知等 に要する時間と費用を考えるとき, むしろ早期に弁済して再生債権者の数を減少させる方が, 円滑な手続進行に資する上, 少額であれば, 他の再生債権との間の実質的平等にも反しないこ とにある。 解答に当たっては, まず, 弁済を求めている再生債権者の債権額が, その要件である「少額」 に該当するかにつき, 事例に当てはめて検討する必要がある。 単に「3万円」が総負債額3億 円と比較して少額というにとどまらず, 開始前の保全処分においては, 5万円以下の債務が弁 済禁止の対象外とされていたこと等の事情を適切に指摘することが求められる。 次に, 弁済を求めている3社と債権届出書を作成中である9社の取扱いについては, 「円滑 な手続進行」の趣旨から検討することが求められる。 手続をスリム化して再生手続の円滑進行 を図ることを根拠とする制度であるから, 少額の再生債権それぞれの個性(発生原因, 属性, 計画案に対する賛否態度など)に着目するものではなく, 手続に参加させること自体がコスト であると捉えることが制度趣旨に合致する。 そこで, 一定の金額以下については一律に全額を 弁済して手続から外すべきであり, 12社全てを弁済許可の対象とすることが円滑進行に資す るとの結論が導かれ, 債権者間の平等(民事再生法第155条第1項本文)にも合致すると言 えよう。 弁済時期について, 民事再生法には破産法第103条第3項に対応する現在化の定め がないので, 約定に定める弁済期到来後に支払うことになる。 なお, 9社についてそのまま届出させる場合には, 計画案において少額の債権を全額弁済す る定め(全債権者について3万円までの部分の100%を弁済する)を設けることになろう(民 事再生法第155条第1項ただし書)。 小問は, 再生債務者の事業の継続に著しい支障が生じることを避けるための少額債権の弁 済許可(民事再生法第85条第5項後段)についての理解を問うものである。 その制度趣旨は, 再生債権の弁済禁止がかえって再生債務者の事業の継続に著しい支障を来し, 事業価値を毀損 する事態を避けるため, 「少額」という範囲内で例外的に弁済を許可することにある。 「事業継続の著しい支障」については, 具体的な事情(製品αが戦略商品であり乙社から安 定出荷の要請があること, パーツβの生産を全てD社に発注していたこと, その納品がない限 り製品αを生産できないこと等)を丁寧に拾い上げ, 不可欠性, 非代替性を検討することが求 められる。 債権額100万円が「少額」と言えるかについては, 単に総負債額との比較にとどまらず, 制度趣旨を踏まえた検討が求められる。 弁済によって再生債務者財産が目減りする一方, 取引 への協力を得て事業継続を維持し, 事業価値の増大が期待できる。 これにより再生債権者全体 が利益を得ることができ, ひいて再生手続の目的達成に資するという構造を示すことができれ ば, より深い考察が可能となり, 一定の幅を持って相対的に「少額」と評価することが許容さ れ, 「少額」の内容が小問において異なること等の指摘に至ることができよう。 各小問とも「C弁護士の立場」から「方策」を示すべきことを明記しているので, 弁済可否 にとどまらず手続に留意する必要がある。 「再生債務者(代理人)が」「裁判所に対し」「弁済 の許可を申立て」「許可を得て弁済する」という手続の流れを正確に記載することが求められ ている。 設問2は, 再生債務者の第三者性についての理解を問うものであり, 管理命令が発せられて 管財人が選任された場合と比較して論じなければならない。 「比較して論じる」という出題形 式は, 単に各結論の併記を指示するものではない。 共通点と相違点を確認し, その異同を踏ま - 23 - えて, 結論や結論に至る過程を検討し, 論点について深く理解していることを示す論述が求め られる。 管財人と, 管財人が選任されない場合の再生債務者との相違は, 何よりも後者は自ら 当事者であり, 再生手続開始前と人格的同一性を有することである。 開始前は自己の利益を図 る活動を行っていた者が, 再生手続開始原因を有するに至り, 債務の本旨に従った履行をなし 得なくなって再生手続が開始されたのに, なお業務執行権, 財産管理処分権を有し(民事再生 法第38条第1項), いわゆるDIP(占有を継続する債務者)になる。 他方, 管財人は, 一 面では再生債務者の従前の法的地位を受け継ぐ立場に立つが, 人格的同一性を有するものでは なく, 裁判所に選任されて初めて登場することが決定的に異なる。 この対比を意識することに より, より深い論述が可能となろう。 小問は, 実体法上, 対抗要件を具備しなければ第三者に対して所有権を主張し得ない場合 に, 再生債務者等が第三者に該当するか, 対抗問題における第三者性を問うものである。 解答に当たっては, まず, 売買契約が成立し, 代金が支払われ, 実体法上は開始決定前に所 有権が移転している(双方未履行ではない)ことを指摘すべきである。 次いで売主に再生手続 開始決定があったことから, 民法第177条の対抗問題であることを指摘する必要がある。 な お, 本問は, 開始後に登記を具備した事例ではなく, 民事再生法第45条の直接適用場面では ない。 また, 対抗問題だけで決着するので, 否認が問題となるケースでもない。 管理命令が発令されて管財人が選任された場合に, 管財人に差押債権者と類似の地位を認め ることに異論はなかろう。 これに対し, 監督委員が選任され, 再生債務者が業務執行権, 財産 管理処分権を維持している場合については, 第三者性を肯定した裁判例(大阪地判平成20年 10月31日判時2039号51頁)があるが, 単にその結論の知識を示すのみではなく, 管 財人の場合と全く同様に結論を導いてよいのか, 両者の相違を示す視点が必要である。 再生債 務者は, 開始前の債務者と同一人であり, 売買契約の当事者そのものであることを指摘し, そ の上で, 第三者性を肯定する結論を説得的に導く論述が求められる。 公平誠実義務を負うこと (民事再生法第38条第2項), 再生手続の機関であること, 個別執行が禁止されること, 開 始後の登記具備が認められないこと(同法第45条), 双方未履行契約の選択権(同法第49 条), 担保権消滅許可の申立権(同法第148条)などが根拠となろう。 小問は, 実体法に第三者保護規定がある場合の第三者該当性を問うものである。 解答に当たっては, まず, 民法第94条第2項の善意の第三者として保護を受け得るかの問 題であることを指摘すべきである。 再生債務者等が第三者に該当することについての検討は, 小問と同様である。 主観的要件については, 再生債務者等が第三者に該当する根拠と結び付けて論じることによ り, 再生手続開始決定時の再生債権者を基準として, その中に一人でも善意の者があれば再生 債務者等が善意を主張できるとの通説的見解が導かれよう。 管理命令が発令されない場合の再 生債務者の主観的要件については, 通謀虚偽表示の当事者そのものであることを指摘した上, それでもなお, 再生債権者の主観を基準とし, 再生債務者を保護することを説得的に説明する 論述が求められる。 通謀虚偽表示の当事者売主F社代表取締役Gが架空売上の計上を図ったこ と等の事情を適示し, 事例における要保護性にも目配りすると論述に深みが出よう。 [租税法] 〔第1問〕 本問では, 祭りの開催を企画した実行委員会に対して, 物品又は協賛金の贈与が行われた事 案を基に, 個人X及び株式会社A(以下「A社」という。 )について, それぞれ所得税法及び 法人税法上の扱いを問うている。 まず, 個人Xが実行委員会に対して行った事務用品の贈与が, 所得税法上どのように総収入金額に算入されるかを問う(設問1)。 当該事務用品は, Xの事 業(小売業)にとってたな卸資産に該当するため, 自家消費と並んで, 総収入金額の計算に関 - 24 - する別段の定めが設けられていることに注意が必要である。 次に, 法人税法の問題として, A 社が支出した協賛金につき, 法人税の課税上の扱いを問う(設問3)。 さらに, こうした設問 と併せて, A社の代表取締役であったYが, 代表権のない非常勤取締役への地位変更に伴って 退職手当の支給を受けた事実を基にして, 退職所得の意義を明確にして, その所得の種類を検 討することを求めている(設問2)。 設問1においては, 総収入金額の「別段の定め」として, 所得税法第40条の存在を摘示す る必要がある。 帰属所得に課税する同条の位置付けを含め, 所得金額の計算の仕組みについて 理解していることを示す必要がある。 設問2においては, Yが受けた退職手当の所得分類を判断するため, 所得税法第30条にい う「退職により一時に受ける給与」の意義(最判昭和58年9月9日民集37巻7号962頁) を明確にすることが求められている。 その際は, 問題文で明記したとおり, 退職所得という所 得分類が, 給与所得のほかに特別に設けられている趣旨・目的を明らかにする必要がある。 な お, 本問では, 役員の分掌変更に伴う退職手当の支給の扱いが問題とされ, 退職ないし勤務関 係の終了という要件を形式的には満たさないため, 「これらの性質を有する給与」に該当する か否かを判断することになる。 いずれの結論を導くとしても, 本問の具体的な事実関係に基づ き, Yの地位又は職務の内容が激変し, Yが実質的にA社を退職したのと同様の事情にあると 認めることができるかどうかを丁寧に検討し, 解答することを求めたものである。 設問3においては, A社の支出した協賛金の寄附金該当性が問題になる。 法人税法が第22 条第3項において費用・損失の損金算入を広く認める一方で, その「別段の定め」として第3 7条によって寄附金の損金算入を制限している趣旨を明らかにする必要がある。 その上で, との事情の違いに応じて, その取扱いの検討及び両者の異同に関する説明を期待したもので ある。 具体的には, 設問3においては, 「甲隠れ里祭り」の宣伝に際して, 協賛金等を拠出した 者の名前等は全く明らかにされなかったというのだから, A社による協賛金の支出は, 対価性 のない支出として法人税法第37条第7項にいう寄附金に該当し, 同条第1項により損金算入 に一定の制限を受けることになる。 これに対して, 設問3においては, A社の社名が, 協賛 企業として祭りの専用ホームページ及びパンフレットに表示されていた。 この点を考慮した上 で, 「広告宣伝……の費用」(同条第7項括弧書き。 いわゆる広告宣伝費)に該当するか否かを 検討する必要がある。 との異同を踏まえるに当たっては, 寄附金を広範に捉え, 損金算入を 制限する一方で, 括弧書きにおいて, 費用性が客観的に明白な支出を除外する条文構造となっ ていることなどを指摘することになろう。 〔第2問〕 本問は, 日本料理店を経営するとともに複数の区分建物(本件各賃貸物件)を賃貸して賃料 を得ていたAが, B銀行から, 上記日本料理店の事業資金, 本件各賃貸物件の購入資金及び自 宅の購入資金として約3億円の借入れをしていたところ, 景気の悪化や火災により上記日本料 理店の経営状態が悪化し, 本件各賃貸物件の賃貸による収入も減少したことから, その返済が 滞ったため, 交渉の末, B銀行のAに対する貸付金残額2億円(本件債権)のうち1億円を弁 済し, 残りの1億円の債務を免除する旨の和解契約(本件和解契約)が成立したという事案に おいて, Aに関し, 本件和解契約に係る債務免除益及び上記火災により焼失した器具と備品に 係る損失の所得税法上の取扱いを問うとともに(設問1及び2), B銀行に関し, 本件債権の 処理として採り得る措置につき, 法人税法上の取扱いの異同を問うものである(設問3)。 設問1においては, まず, Aは本件和解契約により債務免除益という経済的利益を得ている ものであり, 原則として所得税法第36条第1項により総収入金額に算入すべきものとなるが, これを総収入金額に算入しない場合である同法第44条の2第1項の「その他資力を喪失して - 25 - 債務を弁済することが著しく困難である場合」に該当するか否かにつき, 同項の趣旨や解釈を 示した上, 具体的な事実から, 事業の状況, 弁済の状況, 物的・人的担保の状況, Aの資力等 に係る有意な事情を抽出し, これらを総合的に評価して当てはめることを求めるものである。 そして, 総合的に評価した結果上記の場合に当たるとすれば, 更に所得税法第44条の2第 2項の適用が問題となり, 同項各号の定めに従って同条第1項が適用されない額を明らかにし た上, 所得分類を検討した後, 各種所得の総収入金額に算入する額を検討することが必要とな る。 条文の丁寧な検討, 当てはめが期待される。 一方, 上記の場合に当たらないとすれば, 上 記債務免除益は全額総収入金額に算入すべきこととなり, 所得分類を検討した後, 各種所得の 総収入金額に算入する額を検討することが必要となる。 設問2においては, 火災により焼失した器具と備品に係る損失の金額を, 事業所得の金額の 計算上, 必要経費に算入することができるかにつき, 事業所得の算定に当たり所得税法第37 条第1項に規定する必要経費の額を控除する理論的な根拠に触れ, その趣旨が同項の別段の定 めに当たる同法第51条第1項の資産の損失にも及ぶことを明らかにしつつ, 同項の当てはめ を行うことを求めるものである。 設問3においては, B銀行が本件債権の処理として採り得る措置について, 問題文本文の本 件和解契約に基づく債務免除以外の方法として, 本件債権の回収可能性を踏まえた金額による @債権回収会社への債権譲渡とA評価換えを想定し, それぞれの場合における法人税法上の取 扱いについて, その異同を問うものである。 @の場合には, 債権譲渡による収益1億円が益金 の額に算入され(法人税法第22条第2項), 他方, 本件債権の原価2億円が損金の額に算入 され(同条第3項第1号), Aの場合には, 同法第33条第1項により, 評価換えによる評価 損は, 損金の額に算入されないと解されるが, 法人税法上, 損失の計上につき実現主義が採ら れていることから異なる取扱いがされることを踏まえ, その異同を比較することを求めるもの である。 [経済法] 〔第1問〕 本問は, 化学物質の検査機器甲の製造業者A社が, 自社の製造した甲を, 機器利用者である 日本国内の検査機関に販売するに際して, 問題文記載の約定を付そうとする本件計画が, 私的 独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。 )第3条又は同法 第19条に違反するか否かを問うものである。 より具体的には, 問題文記載の事実が, 同法第 2条第5項(私的独占)又は不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指定」という。 )第1 0項(抱き合わせ販売等)の諸要件を満たすか否かの検討が求められる。 選択した条項ごとに, 本件計画で示された内容やその他の事実関係に照らして, 各条項の行為要件, 競争への効果, 正当化の可否について検討することを要する。 一般指定第10項の該当性を検討する場合, まず本件行為が抱き合わせであることを示すた めに, 抱き合わす商品役務(以下「主たる商品」という。 )と抱き合わされる商品役務(以下 「従たる商品」という。 )が別個の商品役務であること(いわゆる2商品性)を示す必要があ る。 その際には, 別個の商品役務であることの意味と基準について説明するとともに, 本問に おける主たる商品と従たる商品を特定しなければならない。 本件計画では, A社のみが供給で きるA社製甲向け定期点検サービスを所定の条件で受けるために, 検査キット乙を事実上A社 からのみ購入せざるを得ないことが問題であるため, 主たる商品をA社製甲向け定期点検サー ビス, 従たる商品をA社製甲向け検査キット乙と認定することが想定されるが, 主たる商品を A社製甲と認定することも可能であろう。 そして, 検査キット乙が, 甲とは別売りされていて, 内容・機能面で甲と統合されているわけではなく, A社製のもの以外にD社製及びE社製の競 合品が存在していることなどを踏まえて, 2商品性を肯定することが考えられる。 その上で, - 26 - 抱き合わせ行為における取引の強制の要件について, その意味と基準を説明し, 本件計画が当 該要件を満たすか否かを検討する必要がある。 その検討に際しては, 甲の使用には当該甲の供 給メーカーによる年一回の定期点検又はオーバーホールが不可欠であり, 他社による点検で代 替することはできないこと, 甲は高価であり頻繁に買い換えることが困難であること, A社製 以外の検査キット乙を購入して使用した場合には追加費用が生ずることなどを指摘し, 評価す ることが重要である。 次に, 一般指定第10項の「不当に」の該当性, すなわち, 公正競争阻害性の有無を検討す る必要がある。 抱き合わせ行為の公正競争阻害性としては, 自由競争減殺と競争手段の不公正 さが考えられるが, 本問の事実関係の下では, 主に自由競争減殺について検討することが求め られる。 その検討に際しては, 主たる商品及び従たる商品についての商品市場及び地理的市場 を画定し, それを前提として競争への悪影響を検討する必要がある。 市場画定については, 画 定の必要性と基準を示した上, 本問の事実関係に即して認定することになるところ, 本問では, 主たる商品であるA社製甲向け定期点検サービス(又はA社製甲)と従たる商品であるA社製 甲向け検査キット乙について, それぞれ需要の代替性及び供給の代替性の有無を分析する必要 がある。 自由競争減殺の有無を分析する市場として, 従たる商品であるA社製甲向け検査キッ ト乙の市場を取り上げることが適切であるが, その分析に当たっては, 画定された両市場にお ける競争の特徴を示す諸事実(主たる商品の市場におけるA社のシェアや地位等, 従たる商品 の市場におけるA社や競争者のシェアや地位等)を適切に指摘・評価して, D社製及びE社製 のA社製甲向け検査キット乙が排除されるおそれがあるかどうかを論じることが求められる。 なお, 競争手段の不公正さについて検討する場合も同様であり, A社製甲向け検査キット乙 の市場における良質廉価な商品選択による競争が歪められる効果の有無や程度が, 各市場にお ける競争の特徴を示す諸事実に即して分析される必要がある。 さらに, 本件計画の実施について, 甲の使用におけるトラブル防止のための検査精度の確保 が理由として挙げられていることから, かかる理由による正当化の可否についても検討するこ とが求められる。 正当化が認められる余地は小さいと思われるが, その検討に際しては, 本件 計画の目的や目的に照らした手段の合理性などの観点から分析を行い, 本問の事実関係に即し て, 正当化の可能性があるか否かを説明する必要がある。 その際には, 甲の検査精度の確保は 目的として合理的であることを踏まえた上で, そのための手段としてオーバーホールの追加費 用負担を求めることなどの合理性をどのように評価するかが重要である。 本件計画については, 一般指定第10項に関する検討がより望ましいと考えられるが, 一般 指定第14項(競争者に対する取引妨害)の適用を検討する余地もある。 取引妨害行為である ことについては, 本件計画の実施が, A社製甲の購入者による検査キット乙の購入に際して, 当該購入者とD社及びE社との取引を妨害することを示す必要がある。 一般指定第14項の「不 当に」の検討については一般指定第10項の場合と同様である。 次に, 独占禁止法第3条の私的独占の禁止規定の適用を論じる場合には, 同法第2条第5項 の該当性を検討する必要がある。 私的独占といえるためには, 排除行為又は支配行為のいずれかの行為が行われていなければ ならないが, 本件計画によって, A社製甲の購入者が, 検査キット乙の購入に際してD社製及 びE社製の乙の購入を妨げられることになるため, 本件計画については, 排除に該当するか否 かの観点から検討する必要がある。 その際, 排除の定義について, JASRAC事件(最判平 成27年4月28日民集69巻3号518頁)などを踏まえて適切に示した上で, 本問の事実 関係への当てはめを行う必要がある。 本問では, 検査機器甲・点検サービス・検査キット乙の 各市場におけるA社のシェアや地位等の評価が重要となる。 排除行為の類型として, 抱き合わ せと構成することが期待されるが, その場合に検討すべき内容は一般指定第10項の場合と同 様である。 - 27 - 私的独占による反競争効果は, 「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」で あるが, ここでも基本的な検討の枠組みは一般指定第10項の場合と同様である。 まず, 「一定の取引分野」に関して市場画定を行う必要がある。 一定の取引分野の意味と画 定の基準を示し, 本問の事実関係に即して市場を認定することが必要である点は, 一般指定第 10項に関して述べたとおりである。 次に, 競争の実質的制限については, その定義を示した上で, その認定に関わる事実を問題 文の中から適切に拾い上げて総合的体系的に説明することが必要である。 抱き合わせ行為を排 除行為とした場合には, いずれの市場での競争の実質的制限を問題としているのかを明確に指 摘する必要があるが, 本問の場合には, 従たる商品であるA社製甲向け検査キット乙の市場で の効果を分析することが適切であろう。 その場合にも, 一般指定第10項の自由競争減殺の分 析と同様に, 各市場における競争の特徴を示す諸事実を示しながら, 競争の実質的制限の有無 を論じる必要がある。 「公共の利益に反して」については, その解釈論(例えば, 石油価格協定事件・最判昭和5 9年2月24日刑集38巻4号1287頁)を提示し, 「公共の利益」の意味や, これに基づ いて行為を正当化する際の考え方を説明する必要はあるが, 実質的には, 一般指定第10項に 関する説明の中の正当化の部分で述べた内容と同じ議論が当てはまる。 なお, 解答に際して, 私的独占又は不公正な取引方法のいずれか一方を主たる検討対象とし て選択した場合に, 他方の違反類型についても検討して論述することが期待される。 〔第2問〕 本問では, 既に競争事業者の多くが事業から撤退する中で, かろうじて残存しているものの, 業績不振に陥っていて, 事業の継続が危ぶまれている競争事業者間で, 生き残りをかけて企業 結合や業務提携を目指す場合に生じる, 企業の論理と独占禁止法のあつれきを問題にしている。 小問では, 競争事業者間での事業統合を, では, 競争事業者間でのOEM契約及び物流業 務の提携という, 新聞等で頻繁に取り上げられている事例を取り扱うこととした。 本問全体を通して, 独占禁止法の個々の条文よりも, 同法全体の体系をどれだけ理解してい るかを問うことにした。 競争事業者間での企業結合と業務提携は水平的な競争制限効果が発生 する行為という意味では, 紙一重の関係にある(これは垂直関係にある事業者間での企業結合 や提携の場合にも当てはまる。 )。 両社の事業を企業として一体とすれば企業結合の問題になる し(の事業統合, 同法第15条の2第1項第1号), 契約関係で処理をするのであれば不当 な取引制限の問題になる(の業務提携, 同法第2条第6項・第3条)。 こうした競争事業者 間での業務提携は, ハードコアカルテルと評価されるものではなく, それがもたらす効率性の 改善を始めとする競争促進効果と競争制限効果を比較衡量してその適法性が評価されるべきこ とが正確に理解されている必要がある。 また, 独占禁止法の適用場面において, 企業の事業活動に関する一般的な理解を有している ことも問われることになる。 本問では, 「需要家である日本企業の工場の海外移転による内需 の減退や輸入品の増加により採算性が悪化した」という事業環境にあって競争事業者2社が既 に事業から撤退したが, それにもかかわらず, 残存企業は余剰生産能力を抱えており, 稼働率 が「50パーセント」「40パーセント」でしかなく, 「過去3年にわたって営業赤字が継続し ており, 事業存続性が問題と」なっている。 これが極めて異常な事態であることに気付く必要 がある。 このような状況であれば, 普通の企業であれば, 競争事業者等との企業結合又は業務 提携を考えるし, それができない場合には事業撤退を真剣に検討する必要に迫られるであろう。 その意味では, 「破綻企業(事業)」(failing company)の理論の適用が問題 となる状況に至っている。 本問では, 問題文で提示されている検討案(事業統合案及び業務提携案)だけでは, 違法と - 28 - も適法とも判断しにくい事実関係を設定している。 そのような中で, どのような要素を重視し て違法性・適法性の判断をするのかに着目することとした(結論としては, 独占禁止法に違反 するとするのでも, 違反しないとするのでも構わない。 )。 また, 本問は, 既に実行された行為についての法的評価をただす問題ではなく, 事業統合や 業務提携の「検討」段階(では公正取引委員会に対する届出を必要とする取引であることを 明示している。 )での事前の法的リスクの評価(事業統合については公正取引委員会が行うで あろう企業結合審査結果の想定)を問うものであり, その評価の過程で見いだした問題点に対 する解決策の提示も期待している。 したがって, 問題文で提示されている検討案をそのまま実 施した場合に独占禁止法上の問題を惹起する可能性があるというだけでは, 不十分である。 事 業統合の場合であれば, 仮に企業結合審査の過程で問題が指摘された場合, 直ちに公正取引委 員会から排除措置命令を受けるわけではなく, 何らかの問題解消措置を採ることで事業統合が 認められる余地がないかを検討するのが一般的である。 そこで, 問題文で提示されている検討 案の問題点や違法性を指摘する場合に, かかる指摘にとどまるのではなく, 独占禁止法の原則 に整合的な解決策の提案を行えるのかにも着目することとした。 以下, 小問ごとに, 出題の意図を説明する。 上記のとおり, 国内需要の減少に伴い, 競争事業者は2社にまで減じている中で, その2社 が生き残りを図るために採れる手段は必ずしも多くはない。 取り分け, 過去3年間営業赤字と なっており, 生産設備の稼働率も50パーセント又は40パーセントと低下しているので, こ れ以上のコストの引下げ余地はない。 しかも, X製品は化学製品であって, 輸入品と品質差は ないということであるから差別化もしにくい商品であり, より安価な輸入品に物流サービスの 質でしか対抗できていない。 需要家は品質差がない輸入品の価格を承知しており, 当該価格に 物流サービスに伴う付加価値を加えた程度の価格(輸入品の調達に切り替えた場合に必要な追 加コストを輸入品の価格に加えた価格)でしか購入しないと想定される。 こうした場合, 事業者とすれば, 国内の残存競争事業者との間で, 販売面まで含めた事業統 合を図るか, 製造や物流部分の共通化を目指すのはむしろ当然である。 いずれの場合も, 生産 設備の稼働率を向上させ, 単位当たりの生産コストを引き下げるという効率性の改善が強く期 待できる。 しかし, の事業統合をする場合には, 販売面での統合を伴うため, 販売市場でのシェアが 90パーセントと高くなる(国産品と輸入品の間で品質差がない製品のため, シェアを100 パーセントとするのは誤りである。 )。 この場合, 輸入品の牽制力や需要家の競争圧力がどこま で効くのかが市場への影響を判断する上で焦点になるだろうし, 評価が分かれるところであろ う。 結局のところ, 海外市況の影響も受けるであろうし, 海外供給者の供給余力の問題や輸入 者の物流サービスの改善努力にも関わるところであるが, こうした競争圧力には一定の限界が あると見ることができるだろう。 他方で, 当事会社は事業存続性が問題になるような経営状況 であり, 検討されている事業統合により稼働率の大幅な向上など効率性の改善も期待できる。 このような事業統合は競争を実質的に制限することとなるとしてこれを認めないとする考え も, 当事会社の経営状況の深刻さや効率性の改善を評価してこれを認める考えも十分成立し得 る。 なお, 上記のとおり, 問題文で提示されている事業統合案のままでは競争を実質的に制限 することとなると考えた場合には, 問題解消措置等の提案がなされることが期待される。 次に, の業務提携はOEM契約といわれるものであり, 一種の共同生産であって, 高い頻 度で利用されている競争事業者間での業務提携の一種である。 併せて, 物流業務の提携も目指 されているが, 当該提携については, 我が国において, 寡占市場で非常に高い市場シェアを有 する同業者間でも物流コスト削減のために行われていることから分かるように, まず独占禁止 法上問題視されることが少ない業務提携の一種である。 OEM契約では, @原材料の調達市場でのシェア, A当該製品の市場シェア, Bコストの共 - 29 - 通化の程度等で, その適法性が判断される。 取り分け, Bについては, 生産を委託する事業者 が原材料を別途調達して受託者に提供する事案と, 原材料の調達まで委託する事案とでは判断 が異なることが多い。 本件では, B社がA社に生産委託するに際して, Xの生産に必要な主要 原料(Xの製造原価の60パーセント程度)を, こうした委託生産に必要な量だけ「提供」 (「販 売」ではない。 )するのであって, 製造原価の60パーセントも占める主要原料についてはコ ストが共通化しない。 また, 主要原料は「提供」されるのであって販売されるわけではないの で, 実際の主要原料のコスト情報はA社と共有されない。 生産委託費用として支払われるのは, 主要原料以外の製造原価(例えば, 副原料費・動力費・工場人件費・固定費等)の実費の10 3パーセントであって, マークアップ分は僅かであり, ほぼ実費ベースでの生産の受委託であ ると評価できる(なお, こうした費用も, 稼働率が上がれば, 単位当たりの固定費は低下する ため, 引下げが期待できる。 )。 すなわち, 両社間で共通化する製造原価は主要原料を除く僅か に40パーセントでしかない。 その意味では, A社とB社の間では十分に競争の余地が残るし, 物流費用以外の販売管理費でも競争する余地がある。 これまで, こうしたOEM契約の場合には, それがもたらす競争制限効果と競争促進効果(特 に, 本件では2社が競争単位として存続すること)を評価して, 業務提携の適法性を肯定する 例がほとんどである。 ただし, 本件では, 物流業務の提携に伴って, 顧客及び出荷先に関する 情報を競争事業者に提供するという設定にしている。 そもそも物流業務の提携を行う以上, 当 該情報を委託者が受託者に提供することは前提であるし, 不可欠な要素であろう。 しかし, こ うした情報は, 営業機微情報とも解される余地があり, かかる情報を交換することが競争の実 質的制限につながる可能性も皆無ではない。 この点, の業務提携はいまだ計画段階であるた め, かかる情報提供行為が問題であれば, その問題を除去することで, 提携そのものは実施で きる可能性が高まる。 例えば, 顧客及び出荷先に関する情報は, 相手先の物流部門にのみ提供 し, 営業部門には提供せず, 営業部門と物流部門の間で情報遮断をする措置を採ることなどが 考えられる。 [知的財産法] 〔第1問〕 1 設問1は, 専用実施権が設定されている場合の特許権者による差止請求の可否及び先使用 権の成否等を問う問題であり, 設問2は, 間接侵害の成否等を問う問題であり, 設問3は独 占的通常実施権者に固有の差止請求権や損害賠償請求権が認められるか, それらが認められ る場合, 特許法(以下「法」という。 )第102条第2項の類推適用が認められるか否か等 を問う問題である。 2 設問1については, 第1に, X1はX2に対し範囲を全部とする専用実施権を設定してい ることから, 法第68条ただし書により, もはや特許権者であるX1はYに対し差止請求権 を行使することはできないのではないかが問題となる。 この点に関しては, 特許権者は, そ の特許権について専用実施権を設定したときであっても, 当該特許権に基づく差止請求権を 行使することができる旨判示した最高裁判所平成17年6月17日判決民集59巻5号10 74頁【リガンド分子安定複合体事件】を念頭に置きつつ, 自説を説得的に論述することが 求められる。 第2に, 仮にX1に差止請求権が認められるとしても, Yは, Y製品1につき, 本件特許の出願前に既に発明を完成し, 生産ラインの設計・製造を外部に発注していること から, Yが先使用権(法第79条)を有すると主張することが考えられる。 この点に関して は, まず, 「事業の準備」の意義が問題となるが, 「事業の準備」とは, その発明につき, い まだ事業の実施の段階には至らないものの, 即時実施の意図を有しており, かつ, その即時 実施の意図が客観的に認識される態様, 程度において表明されていることを意味すると判示 した最高裁判所昭和61年10月3日判決民集40巻6号1068頁【ウォーキングビーム - 30 - 事件】を念頭に置きつつ, 当該事案に適切に当てはめることが求められる。 次に, 仮にY製 品1について先使用権が認められても, Y製品2についてまで先使用権が及ぶか, すなわち, Y製品2が「準備をしている発明の範囲」に含まれるかが問題となる。 この点に関しては, 前掲【ウォーキングビーム事件】最高裁判決が, 先使用権の効力は, 特許出願の際に先使用 権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく, これに具現された発明と同一性を 失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶ旨判示していることを念頭に置きつつ, 本件事案に当てはめることが求められる。 3 設問2については, 第1に, 本件特許発明は物の発明であるところ, Z製品は本件特許発 明の一部を構成するにすぎないから, 間接侵害(法第101条第2号)の成否が問題となる。 まず, 薬剤αと薬剤βを併用して服用することが「その物の生産」と言えるかが問題となり 得るが, この点に関しては, これを否定した裁判例(大阪地判平成24年9月27日判時2 188号108頁【ピオグリタゾン事件】)もあることから, 自説を展開して論述すること が求められる。 また, 薬剤αは医師の処方せんがなければ入手できない薬剤であることから, 非汎用品要件を充足するか否かが問題となるが, この点に関しては, 「日本国内において広 く一般に流通しているもの」とは, 典型的には, ねじ, 釘, 電球, トランジスター等のよう な, 日本国内において広く普及している一般的な製品, すなわち, 特注品ではなく, 他の用 途にも用いることができ, 市場において一般に入手可能な状態にある規格品, 普及品を意味 すると判示した知的財産高等裁判所平成17年9月30日判決判タ1188号191頁【一 太郎事件】を念頭に置きつつ, 本件事案に当てはめることが求められる。 さらに, 「発明に よる課題の解決に不可欠なもの」と言えるかが問題となるが, この点に関する判断基準とし ては, 東京地方裁判所平成16年4月23日判決判タ1196号235頁【プリント基板用 治具に用いるクリップ事件】や東京地方裁判所平成25年2月28日判決裁判所ホームペー ジ【ピオグリタゾン事件】があり, 他方で, 前掲【一太郎事件】もあることから, これらを 念頭に置きつつ, 薬剤αが公知の薬剤であることを考慮して自説を展開して当てはめること が求められる。 第2に, 直接侵害が成立しない場合の間接侵害の成否が問題となる。 この点 に関しては, 直接の実施行為者は医師, 薬剤師か, それとも患者かによって構成が異なり得 る。 これを医師又は薬剤師と解するときは, 法第69条第3項の適用の可否, すなわち, 医 師の処方せんに基づき薬剤師が同時に服用するように指示する行為が, 同項の「混合」, 「調 剤」に当たるかが問われ, 当たらないにしても, 同項の趣旨から, 「混合」, 「調剤」に類似 する行為として特許権の効力が及ばないとの構成が考えられる。 また, 直接の実施行為者を 患者と解するときは, 併用して服用する行為は, 家庭内実施行為であって法第68条の「業 として」に当たらないと考えることも可能であろう。 いずれにしても, このような場合に間 接侵害が成立するのか否かについて自説を展開することが求められる。 第3に, 仮に間接侵 害が成立しないとしても, Zは情を知らない医師, 薬剤師及び患者を支配・管理し, 言わば 手足として利用することによって, 直接特許権を侵害する主体であるとの構成も考えられ得 る。 この点について言及すれば, 更に積極的な評価が与えられよう。 4 設問3については, 第1に, 独占的通常実施権者であるX3に固有の差止請求権があるか 否かが問題となり, 仮に固有の差止請求権を認めない場合でも, 専用実施権者であるX2の 差止請求権を代位行使することができるか否かが問題となる。 仮に代位行使を肯定する場合 は, X2が有する差止請求権の代位行使であるという性質上, X2から実施許諾を受けてい るCに対しても差止請求権を代位行使することができるか否かが問題となることから, これ らの点につき, 自説を展開し, 論述することが求められる。 第2に, まず, X3に固有の損 害賠償請求権が認められるかが問題となる。 仮に固有の損害賠償請求が可能であるとしても, 本設問の場合, 市場はBとCとで2分された状態であってX3が独占しているわけではない ことから, 独占的通常実施権者が損害賠償を請求するためには, 単に独占的通常実施許諾の - 31 - 合意があっただけでは足りず現実にも市場の独占状態が実現されていることを要するか否か が問題となる。 次に, 仮にX3について損害賠償請求権を認める場合, 法第102条第2項 の類推適用の可否が問題となる。 さらに, 同項の類推適用を認める場合, X3は自ら本件特 許発明を実施していないことから, このような場合でも, 同項の類推適用が認められるかが 問題となる。 この点に関しては, 特許権者が当該特許発明を実施していることは同項を適用 するための要件とは言えず, 特許権者に, 侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利 益が得られたであろうという事情が存在する限り同項の適用が認められる旨判示した知的財 産高等裁判所平成25年2月1日判決判時2179号36頁【ごみ貯蔵機器事件】を念頭に 置いて, 自説を展開することが求められる。 なお, その場合, X3はそもそも再実施許諾権 を有しないから, このような場合でも上記事情が存在すると言えるか否かも問題となろう。 〔第2問〕 1 設問1は, コンサートでの歌唱に対して演奏権侵害が成立するかについて, 演奏権侵害の 要件(著作権法〔以下「法」という。 〕第22条), 演奏の主体, 非営利の演奏に対する著作 権の制限(法第38条第1項)に関する理解を問う問題であり, 設問2は, 時事の事件の報 道(法第41条)及び引用(法第32条第1項)に関する理解を問う問題である。 設問3は, 編集著作物の成立と編集著作権の侵害(法第12条第1項)の成否, 氏名表示権(法第19 条)及び同一性保持権(法第20条第1項)の侵害の成否を問う問題であり, 設問4は, 著 作者の名誉・声望を害する方法による著作物の利用としての著作者人格権みなし侵害(法第 113条第6項)の成否について問う問題である。 2 設問1では, まず, 演奏権侵害について, 本件コンサートにおける市職員50名に対する 歌唱が, 法第22条の「公衆に」聞かせるという要件を満たすかが問題となる(法第2条第 5項参照)。 次に, 演奏行為をしたのはAであり, 歌の選曲もAがなしたことから, 丙が演 奏権侵害の主体であるかが問題となるところ, この点については, 最高裁判所昭和63年3 月15日判決民集42巻3号199頁【クラブ・キャッツアイ事件】, 最高裁判所平成23 年1月20日判決民集65巻1号399頁【ロクラクU事件】の判示を念頭に置いて述べる ことが求められる。 最後に, 本件コンサートが, 非営利団体である社会福祉法人のチャリテ ィー目的であり, 寄附金を募っていたという点が, 法第38条第1項に該当するかが問題と なる。 同項の要件は, @営利を目的とせず, A聴衆等から料金を受けず, B実演家等に対し 報酬が支払われない, の3つであるところ, 非営利団体のチャリティー目的であることなど の設問の事実関係を踏まえ, 取り分け, 寄附金をどのように評価するかについて, 理由を明 らかにして, 各要件につき論じることが求められる。 なお, コンサート全体の差止めの請求 は過剰であることについて言及があれば, 積極的な評価が与えられよう。 3 設問2では, 本件動画へのMの録音行為に対する複製権(法第21条)侵害, インターネ ット配信に対する公衆送信権(法第23条第1項)侵害について, 時事の事件の報道(法第 41条)及び引用(法第32条第1項)に関する著作権の制限規定の適用の可否が問題とな る。 まず, 法第41条に該当するかについては, 本件動画の配信の態様が, 「報道の目的上 正当な範囲内」と言えるか, 本件コンサートの開催から1年以上経過してなお配信され続け ていても, 「時事の事件」と言えるかについて論じることが求められる。 次に, 法第32条 第1項については, 最高裁判所昭和55年3月28日判決民集34巻3号244頁【パロデ ィモンタージュ事件】のみならず, 近時の知的財産高等裁判所平成22年10月13日判決 判時2092号135頁【鑑定証書コピー事件】等の判示をも念頭に置きつつ, 検討するこ とが求められる。 4 設問3では, 本件詩集において, 甲が詩を厳選したこととテーマごとの章に分けて構成し たことという設問の事実関係を踏まえ, 素材の選択・配列について, 創作性が認められ, 甲 - 32 - が編集著作権(法第12条第1項)を有するか否かを述べることが求められる。 そして, 編 集著作権の侵害は, 素材の選択又は配列の創作的表現の再製が要件となるところ, 本件CD において, 甲の60編の詩の選択のうちの一部が利用され, 収録した曲の順序が変更されて いることについて検討しつつ, 自説を論じることが求められる。 また, 本件CDにおいては, 甲への言及がないことから氏名表示権(法第19条)について, Q章の詩の順序が変更され ていることから同一性保持権(法第20条第1項)について, それぞれ述べることが求めら れる。 5 設問4では, 名誉・声望を害する方法による著作物の利用としての著作者人格権みなし侵 害(法第113条第6項)の成否が問題となるところ, 同項にいう名誉・声望とは, 社会的 名誉・声望を指し, 主観的な評価である名誉感情は含まれないとされていることを踏まえつ つ, 戊の本件再生行為によって, 乙が社会から受ける客観的な評価の低下を来し社会的名誉 ・声望が毀損されると言えるかについて, 理由と共に論じることが求められる。 [労働法] 〔第1問〕 本問は, 会社分割に際して分割先会社へ承継される従業員を対象とする説明会が実施され, 会社分割後, 分割先会社において, 給与規程, 退職金規程の改訂が行われた事例について, 会 社分割の際に法律上要求されている手続の意義と法的効力, 就業規則変更の法的効力を問うも のである。 労働条件変更をめぐる紛争は, 裁判例においても数多く見られるところであり, 関 係条文・判例が定立している規範を正確に理解した上で, 具体的事案に的確に適用すること(当 てはめ)ができるかが問われている。 設問1では, 労働契約承継法(以下「承継法」という。 )第3条によりY社からZ社へ労働 契約が承継されるX1が, 商法改正法附則上の「労働者との協議」手続(以下「5条協議」と いう。 )の一環として行われたと考えられる説明会におけるY社の対応に納得できず, 不満が あるとされているので, 5条協議の意義, 5条協議の履行と労働契約承継の効力との関係が問 題となる。 この点について, 判例(日本アイ・ビー・エム事件最判平成22年7月12日民集 64巻5号1333頁)が, 5条協議の意義を踏まえて, 5条協議不履行等の場合には, 労働 契約承継の効力を争うことができるとしている。 したがって, この判例を参照しながら検討す ることになろう。 また, 承継法第7条は, 分割会社に労働者の過半数代表者との協議等により, 「労働者の理 解と協力を得るよう努めるものとする」(以下「7条措置」という。 )と定めているので, この 7条措置と労働契約承継の効力との関係について検討する必要がある。 7条措置の意義と効力 についても, 前掲判例で取り上げられている。 したがって, この点に留意しながら, Y社がC 組合からの本件分割についての協議申入れに応じなかったことが, 7条措置との関係でどのよ うに評価されるのか検討すべきであろう。 設問2では, まず, X2が, 給与, 退職金等を改訂する就業規則の変更についてのZ社の説 明会の後に, これに同意する旨の書面(以下「同意書」という。 )を提出しているので, この 同意書をどのように評価すべきかが問題となる。 判例(山梨県民信用組合事件・最判平成28 年2月19日民集70巻2号123頁)は, 労働者が就業規則による労働条件の不利益変更に 同意した場合, 労働契約法(以下「労契法」という。 )第8条, 第9条本文を参照しつつ, そ の同意に法的拘束力を認めるが, 同意の有無についての判断は慎重になされるべきであるとし て, その判断に際して考慮すべき諸事情を挙げている。 したがって, この判例を参照しながら, 同意書提出に関する諸事情に即して, X2の同意を認定できるのか検討することになろう。 次に, X2の請求の可否を検討するに当たっては, 本件就業規則の不利益変更の法的効力が 問題となる。 この点については, 就業規則による労働条件の不利益変更に関する判例法理を明 - 33 - 文化した労契法第10条の解釈, 適用の問題となるので, 本件就業規則変更に関する諸事情に 即して, 本件変更に係る諸手続の履践の有無と変更内容等についての合理性の有無を検討すべ きことになる。 〔第2問〕 本問は, 使用者との間でユニオン・ショップ協定(以下「ユ・シ協定」という。 )を締結し ている労働組合(以下「組合」という。 )から脱退した労働者がユ・シ協定によって解雇され, 脱退した労働者の一部が新たに結成した組合が使用者に対して団体交渉を求めた事例につい て, ユ・シ協定による解雇の効力, 複数の組合が併存している場合の団体交渉申入れに対する 使用者の対応の適否を問うものである。 ユ・シ協定の法的効力, 団交拒否の適否をめぐる紛争 について, 関係条文・判例が定立している規範を正確に理解した上で, 具体的事案を明確に整 理, 識別して, 的確に適用すること(当てはめ)ができるかが問われている。 設問1については, X1, X2及びX11は, ユ・シ協定に基づきY社から解雇されている ので, ユ・シ協定の意義と効力をどのように理解すべきかが問題となる。 この点について, 判 例は, 肯定的な立場(日本食塩製造事件・最判昭和50年4月25日民集29巻4号456頁) であるが, ユ・シ協定締結組合とは別の組合に加入している者, 新たに組合を結成した者につ いては, ユ・シ協定の解雇義務を定める部分は民法第90条に違反して無効とする(三井倉庫 港運事件・最判平成元年12月14日民集43巻12号2051号)。 したがって, 判例によ れば, 解雇の効力の有無については, A組合から脱退した後, B組合に加入したか否かが重要 な意味を有することになるが, X1の解雇はB組合結成前であるので, この点をどのように評 価すべきかが問題となる。 この3者それぞれの事実関係を明確に整理, 区別して, 解雇の効力 を検討する必要があろう。 また, A組合から脱退した者の中で, この3者だけが解雇されてい ることも問題となろう。 設問2については, B組合の要求に対するY社の対応が, 正当な理由のない団体交渉拒否(労 働組合法第7条第2号の不当労働行為)に当たるのか否かが問題となる。 まず, B組合が団体 交渉を要求する事項が義務的団交事項であるのか否かについて検討すべきであろう。 その上で, Y社の〜の対応それぞれについて, それが団交に応じない正当な理由と評価できるのか否 かを検討することになろう。 判例(日産自動車事件・最判昭和60年4月23日民集39巻3 号730頁)は, 複数組合が併存する場合には, 全ての場面で, 使用者には各組合に対し中立 的態度を保持し, その団結権を平等に承認, 尊重すべきものであるとした上で, 各組合の組織 力, 交渉力に応じた合理的, 合目的的な対応をすることはこの義務に反しないとしているが, この判例を参照しつつ検討する必要がある。 また, 団交要求に対する文書回答の適否について も問題となろう。 [環境法] 〔第1問〕 第1問は, 実務上, 提起され得る土壌汚染対策法の解釈・運用について分野横断的な視点か ら問うものである。 土壌汚染対策の費用負担に関する適切な制度設計及び解釈・運用は, 関係 当事者間の正義・衡平と土壌汚染の迅速・効果的な対策を促進することになる。 〔設問1〕は, 売買契約の解釈を通して, 土壌汚染対策法上, 自然由来の土壌汚染がどのよ うに位置付けられているかを尋ねている。 これにより, 本設問における土壌汚染対策の費用負 担者が異なることになる。 自然由来の土壌汚染につき, 【資料】通知によれば, 平成21年改正前土壌汚染対策法は, その対象としていなかったが, 平成21年改正後土壌汚染対策法は, これを対象とすることと なった(行政解釈の変更)。 これについて, 法律の解釈に関する終局的な判断は, 裁判所に委 - 34 - ねられているが, 設問の場合, 「環境省の指定基準に適合しない土壌汚染」(甲売買契約第10 条第2項)との契約上の文言の解釈が問題となっている。 そして, 契約文言の意義は、 契約当 事者の意思表示の合理的解釈によって決まるから, その合理的解釈の中で, 自然由来の土壌汚 染が, 甲売買契約の上記条項における「土壌汚染」に含まれるかを論じることになる。 本設問では, この点について, 【資料】通知を参考にして, 理由を付したAの主張とBの反 論を記述した上で, それぞれの評価を行うことが求められている。 想定できるAの主張は, Bによる対策費用負担を求める理由として, (人の健康被害の未然 防止という)土壌汚染対策法の趣旨目的から, 改正法前後にかかわらず, 自然由来物質は, 同 法令の規制対象物質である限り, そもそも同法の規制対象に含まれており, 甲売買契約第10 条第2項にいう「土壌汚染」に当たるというものなどであろう。 それに対して, 想定できるB の反論は, Bによる対策費用負担は求められない理由として, 【資料】通知記載のとおり, 環 境基本法との整合性などを考慮すると自然由来物質による汚染は, 改正前は含まれていなかっ たため, 甲売買契約第10条第2項にいう「土壌汚染」には当たらないというものなどであろ う。 AのBに対する甲土地の汚染対策費用の支払請求が認められるかについては, AとBの各主 張を評価することになる。 まず, 甲売買契約における合理的意思解釈には, 土壌汚染対策法の解釈が必要であることを 指摘する。 次に, 甲売買契約時と請求時において, 同法の自然由来物質による汚染に関する行 政解釈について変化があることを指摘する。 さらに, A, Bの主張の妥当性について, @環境 基本法との関係, A土壌汚染対策法の趣旨目的, B自然由来物質による土壌汚染を対象とした 場合には, Bに過大な負担を課す可能性があるがその妥当性(比例原則), C(行政解釈の変 更を行った)【資料】通知の法的性質, 行政解釈変更の適否及び変更が許されると解する場合 の範囲(変更は, 汚染土壌搬出規制のみにとどめるか)などの観点から論じることになる。 なお, 周知のとおり, 現在では, 自然由来物質による土壌汚染の場合, 対策義務者の負担を 限定する対応がされている(平成23年改正土壌汚染対策法施行規則第53条2号ただし書イ、 同規則第58条第4項第9号など)。 さらに, 土壌汚染対策法の一部を改正する法律案が, 第 193回通常国会において可決, 平成29年5月19日に公布されており(平成29年法律第 33号。 施行期日は, 附則第1条参照。 ), 同改正法は, 自然由来の土壌汚染を対象とすること を前提とした定めを置いている。 〔設問2〕は, 土壌汚染対策法に基づく対策が適切に行われない場合を想定して, 同法の簡 易代執行に関する仕組みと同法以外の法制度との関係について尋ねている。 これにより, 本設 問における土壌汚染対策の費用負担者が異なることになる。 なお, 出題文中, Xは, 当時の乙 土地の所有者Aのほか, 駐車場管理会社である場合などが想定できる。 小問については, 以下の手続によることとなる。 まず, S県知事は, 土壌汚染対策法第6 条に基づき, 要措置区域の指定を行うことになる。 次に, 土壌汚染を「放置することが著しく 公益に反すると認められるとき」, S県知事は, 同法第7条第5項に基づいて指示措置を自ら 行う(簡易代執行)。 なぜなら, 乙土地の所有権に争いがあるため, 「過失がなくて当該指示を 受けるべき者を確知することができず」(同法第7条第5項), 同条第1項に基づいて, 所有者 等や原因者に汚染の除去等の措置を講ずべきことを指示することができないからである。 小問については, Cの主張の当否を判断するに当たり, 場合分けを行った上で, 土壌汚染 対策法と廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下, 「廃棄物処理法」という。 )の適用関係を 論じ, 次に, 費用負担に関する土壌汚染対策法の解釈を論じることが求められている。 すなわち, 当該廃棄物がQによる土壌汚染の原因となっているかどうかで場合分けし, 原因 となっていない場合, その限度で, 原因者の不明にかかわらず, Cの主張は認められる。 なぜ なら, この場合, 汚染対策費用は, 廃棄物処理法が定める原因者負担の原則によることとなる - 35 - からである。 また, 原因となっている場合, 第三者(原因者)が不明であれば, Cの主張は認められない。 なぜなら, この場合, Cは, 土地の所有者として, 土壌汚染対策法に基づく対策義務があるか らである(後に原因者が判明した場合, Cは, 民法または土壌汚染対策法第8条〔類推適用〕 に基づいて原因者に求償することができる。 )。 一方, 第三者(原因者)が明らかである場合, Cの主張の当否は, 同法第7条第5項にいう「その者の負担において」の解釈によるが, 土地 所有者等の責任を重視して「その者」が所有者等のみを意味すると解釈した場合(結論におい て行政解釈と同旨), Cの主張は, 認められない。 これに対し, 簡易代執行の費用負担におい ても原因者負担を貫徹するため, 「その者」が同法第7条第1項ただし書にいう原因者を含む と解釈する場合, 廃棄物を原因とする汚染の限度で, Cの主張が認められる余地がある。 ただ し, その場合でも, 同項ただし書の要件を満たす場合に限られる。 なお, 同法第7条は, 上記平成29年改正法により, 一部改正されていることに注意された い。 〔第2問〕 第2問は, 環境法の中で講学上循環管理法と称される分野における基本原則等と, その中で も特に重要な位置を占める廃棄物処理に関わる基本的な事項につき基礎的な理解を問う問題で ある。 現代において環境への負荷の少ない循環型社会を有効に形成していく上で, 第3次産業 において適正な対応をしていくことは欠かせないと考えられ, 工業生産等により直接有害物質 を排出し得るような企業でないからといって環境法上の問題と無縁ではいられない。 第3次産 業に属する会社の取締役会に社外取締役弁護士として関与するという状況として問題設定した のも, 法律家となった暁には, いついかなる場面で環境法上の問題への対応を迫られることに なるか分からないことを認識してもらいたいとの思いを込めている。 〔設問1〕では, 甲店, 乙店及び丙店からの各応募内容が, 循環型社会形成推進基本法(以 下「循環基本法」という。 )上の基本原則の観点からどのような内容のものとして位置付けら れるかが問われている。 循環基本法上の基本原則とは, 同法第3条から第7条までに定める循 環型社会の形成についての基本原則をいう(同法第9条)が, 各応募内容がどのような点にお いて優れていると言えるかを解答することが求められているから, まず, 廃棄物等となること ができるだけ抑制されなければならないこと(同法第5条), 廃棄物等となる場合でも, その うち有用なものである循環資源(同法第2条第3項)については, 処分に優先して, できる限 り循環的な利用が行われなければならないこと(同法第6条第1項, 第7条第4号), 循環的 な利用の中では, 原則的には, 再使用, 再生利用, 熱回収の順に優先すべきものとされている こと(同条第1号ないし第3号)を踏まえて, 各店の応募内容の位置付けを理解する必要があ る。 循環基本法の以上の基本的な成り立ちが理解できていれば, 甲店案は, 最も優先されるべ き基本原則である排出抑制に当たる点で優れていることは自明である。 次に, 乙店案は, 循環 資源である廃棄食品を堆肥の原材料として利用するものであるから, 再生利用(同法第2条第 6項)に当たるが, 廃棄食品は, 製品としてそのまま使用することや製品の一部として, 再使 用(同条第5項)することが, その性質上困難なものであるから, その循環資源としての特質 に鑑みれば, 実質的には最も優れた循環的な利用の方法に当たることを指摘することになろう。 最後に, 丙店実例は, 燃焼の用に供することのできる厨芥物をバイオガスとして熱(エネルギ ー)を得ることに利用する熱回収(同条第7項)であり, 同法第7条各号の循環的な利用の方 法の原則的な順位としては再生利用に劣るが, 全体として焼却処分量が減ることにより温室効 果ガスの発生が抑制されることなど, 別の側面からの環境への負荷の低減にとって有効である と認められる点で優れていること(同条柱書き後段参照)を指摘する。 〔設問2〕は, 本来廃棄物として処理していた物を有用なものとして取引することが, 循環 - 36 - 管理法上どのような問題性を有するかを問う設問である。 近時に社会問題化した賞味期限切れ 食品の弁当製造業者への横流し事件などに着想している。 日頃から社会問題には幅広く関心を 持ってほしい。 そのような視点で眺めれば, 本設問が, 平成20年の第1問でも出題された不 要物の判断基準に関わる重要判例であるいわゆるおから事件決定(最決平成11年3月10日 刑集53巻3号339頁)を念頭に置いて解答を求めるものであることは明らかであろう。 た だ, 本問では飲食店事業を営む者が排出する食品残さが不要物(廃棄物処理法第2条第1項) に当たるかが問題となっており, これは同条第4項第1号を受けた同法施行令第2条各号のい ずれにも同法第2条第4項第2号の輸入された廃棄物にも当たらないから, 不要物に当たると しても, 産業廃棄物ではなく(事業系)一般廃棄物(同条第2項)である点には留意する必要 がある。 解答では, まず, 廃棄物処理法上の「不要物」に当たれば, 有用なものとして取引さ れていたとしても「廃棄物」に当たるため, 同法の仕組みに沿った処理が必要となることを指 摘し(なお, 「廃棄物」と「有用なもの」とが相互排斥的な概念でないことは, 循環基本法第 2条第3項からも明らかである。 ), 「不要物」に当たるかの判断基準をおから事件決定に準じ て立てた上で, 本件の食品残さに当てはめて論述することになろう。 その際, Bから生鮮野菜 の割引の申入れがあることが, 食品残さの取引価値を示唆し得る事実であることにも気付いて ほしいが, この事実からその取引価値があるものと見るか否かにかかわらず, 食品残さの性状, 排出の状況, 通常の取扱い形態等のその他の検討要素とを総合的に勘案すれば, 客観的にはこ れが廃棄物に当たるとされることは避け難いと考えられる。 したがって, 食品残さの契約農家 への提供を推進しようとする取締役Cの意見は, 一般廃棄物の収集若しくは運搬業(廃棄物処 理法第7条第1項)又は処分業(同条第6項)の許可制度に反する蓋然性が高いという問題点 があり, Bや他店の契約農家等にこれらの許可を得てもらうとか, 再生利用の特例認定(同法 第9条の8第1項)を受ける(同条第4項参照)とかしない限り, その問題点は解消されない ことを指摘すべきである。 〔設問3〕の枠組み合意は, 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法 律第116号。 いわゆる食品リサイクル法)第19条に規定する再生利用事業計画に相当する ものであり, 同法第21条には廃棄物処理法の特例も設けられていて, 実際にいくつか類似の 再生利用事業計画認定の実例がある。 もっとも, 本設問は, そういった知識の有無にかかわら ず, 基本的な条文との対応関係が読み解けるかという応用能力を審査しようとするものであり, (事業者の責務)と見出しのある循環基本法第11条に則して, 乙店, B及びD社がどのよう な責務を果たしていることになるかを記述すれば足りる。 廃棄食品が循環資源に当たり, これ を原材料として精製された堆肥が再生品に当たることが理解できていれば, 本設問の枠組み合 意により, 乙店は, 廃棄食品を循環資源として適正に循環的な利用が行われるために必要な措 置としてこれをD社に提供することで同条第1項の責務を果たし, D社は再生利用が可能な廃 棄食品を原材料として再生利用することで適正に循環的な利用を行う同条第4項の責務を果た し, Bは再生品である堆肥を使用することにより, 乙店は再生品に準じた生鮮野菜を仕入れる ことにより, それぞれ循環型社会の形成に努める同条第5項の責務を果たしていると考えられ ることなどを論述する。 [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕 本問は, 国家の一部が分離独立した場合の国家承認に関する国際法の諸規則, 並びに, 国境 画定条約の承継及び河川を利用した国境線画定に関する国際法の基本的な知識と理解を問う問 題である。 設問1は, A国内のX州がA国政府の反対を押し切って一方的に独立を宣言し各国に対して 国家承認の要請を行った際に, それぞれ異なる対応をした国について, 国際法上正式に国家承 - 37 - 認を行ったと見ることができるかどうかを問う問題である。 その場合, まず基本的に押さえなければならないことは, 国家承認の方式には明示の承認と 黙示の承認があるということである。 明示の承認は, 新国家に対して書簡, 宣言等により承認の意思を通告することによって行わ れる。 X国の要請に対して国家承認の通告を行ったB国は明示の承認をしたことになるが, こ の通告をしなかったC国とD国は, 明示の承認をしてはいないことになる。 しかしその後, C 国はX国の国連加盟に関する総会決議の採択において賛成票を投じた。 またD国はX国の国連 加盟総会決議採択の際には反対票を投じたが, その後X国と通商航海条約を締結した。 こうし たC国, D国の行動が国際法上の黙示の承認(すなわち相手国が国際法上の国家でなければお よそ行わないような行為, 例えば外交使節を派遣・接受する行為や領土画定条約のような国家 間の重要な関係を定める二国間条約を締結する行為)に当たり, X国の国家としての存在を間 接的に認めたと言えるかどうかが問われる。 国連加盟に関する総会決議において賛成票を投ずる行為が黙示の承認に当たるかどうかは意 見が分かれるが, 国連加盟に賛成することと国家承認行為とは, 国際法上目的を異にする全く 別個の法的行為と一般には解され, 国連加盟決議に賛成することは加盟申請国を黙示に承認し たことにはならないとするのが, 初期の頃からの国連の慣行でもあった。 これを前提とすると, C国の総会における賛成票を投じた行為も, またD国の反対票を投じた行為も, それぞれの国 のX国に対する国家承認とは直接結びつかない行為と見るのが一般的である。 他方D国がX国との間に通商航海条約を締結したことは, 国家でなければ結ぶことができな い重要な二国間条約を結んだことになると考えられるので, その行為によってD国はX国を黙 示に承認したと見ることができる。 設問2は, X国の独立を認めないA国の立場としては, X州は自国の一自治州, 言い換える と自国の領域の一部, であるから, A国軍部隊をX州の了解なしに同州領内に派遣しても, そ れは他の国家への侵略行為には当たらず, 単にA国領域内のA国軍部隊の移動であって, 国際 法上何の問題も生じないと主張することになるだろう。 そこで本設問では, 果たしてこのA国 の主張が国際法上正当化できるかどうかを論ずる必要がある。 その場合まず注目すべきなのは, X国が正式に国連加盟国となっていることであり, A国は, 国連の加盟国として, 同じ国連加盟国であるX国の国連憲章上の地位や権利を尊重しなければ ならない義務を負っているということである。 言い換えると, 国連憲章の枠内においては, A 国は, 国連加盟国であるX国との関係においては, 憲章第2条第1項の下で対等・平等な関係 に立ち, 同条第3項の紛争の平和的解決義務や同条第4項の武力行使禁止の規定を遵守しなけ ればならない。 したがって, X国(A国から見ればX州)領内へのA国軍部隊のX国(州)の 了解がないままの進駐は, 国連憲章に違反する行為と言わなければならない。 設問3は, 条約の承継及び航行可能な河川を用いた国境線の画定並びに国家承認の撤回に関 する国際法の理解を問う問題である。 条約の承継に関しては, 伝統的には, 法的安定性や条約関係の継続性を重視して, 先行国が 締結した二国間条約で本問のように分離独立した承継国に関係する事項を扱っているものにつ いては, 承継国が承継するとする考え方が比較的有力であった。 しかし, 1960年代の植民 地独立の動きの中でこの考え方は修正され, 先行国(とくに植民地の宗主国)が結んだ条約は, 原則として新独立国によって引き継がれないとする白紙(クリーン・スレート)の原則が国際 社会で広く受け入れられたと見られている。 したがって, 今日においては, 新独立国は先行国 が締結した条約には拘束されないとするのが原則であるが, 国境画定条約などにより確立され た国境線については, 依然として法的安定性等の観点から新独立国も尊重しなければならない とされている。 以上のことに照らせば, X国は, A, B両国間の国境画定条約で確立されたB 国との国境線(条約締結時においてはA, B両国間の国境線)を, 尊重しなければならない。 - 38 - ところで, X国が主張するように, 航行可能な河川を国境線とするときは「航行可能な水流 の最深線を国境線とする原則」(タールベークの原則)が適用されることが多いことは確かで あるが, それは絶対的な基準ではなく, 特別な取決めがない場合の補足的原則と考えられてい る。 本問においては, A国とB国の間には国境画定条約があり, それによって既にB国とX国 の間の国境線が(画定されたときはA国とB国の間の国境線として)確立されているから, タ ールベークの原則が適用される余地はないと見るべきである。 なお, 後段のB国によるX国の国家承認撤回の法的評価については, 法的安定性及び禁反言 (エストッペル)の原則などの法の一般原則を尊重する立場から, 国家承認は一旦行われたら 撤回できないとする原則が慣習法上確立している。 ただし, 国家承認の要件である住民(人民), 領土(領域), 実効的支配を確立している政府, 政府の外交能力などの国家承認の要件が必ず しも十分に満たされていない段階で, 外交的配慮から事実上の国家承認を行うことがあり, こ の場合には後に承認を撤回することができる。 本問の場合, B国が事実上の承認をしたという 設問にはなっていないので, B国によるX国に対する承認の撤回は認められないと見るべきで ある。 〔第2問〕 本問は, 海洋法の分野を素材として, 排他的経済水域(以下「EEZ」という。 )における 外国漁船に対する沿岸国の権限, 追跡権の行使, 国際海洋法裁判所による紛争解決手続, 条約 違反の国内法と国家責任などに関する国際法の基本的知識とその適用について問うものであ る。 司法試験用法文に登載されている海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」 という。 )の関係条文を設問に照らして抽出して適切に解釈し, 国際法上の国家責任の基礎的 な理解に従って論述を展開すれば, 十分に解答が可能な設問となっている。 設問1は, EEZ内における沿岸国による外国漁船の取締りと追跡権の行使に関する基本的 知識を問う問題である。 本件事例では, A国のEEZ内において外国人がタコを漁獲すること はA国の国内法令によって禁止されている。 また, A国の国内法である外国漁船取締法は, A 国のEEZ内で違法に漁業を行った外国人に対して刑罰を科すことを定めている。 国連海洋法 条約第73条第1項は, 「沿岸国は, 排他的経済水域において生物資源を探査し, 開発し, 保 存し及び管理するための主権的権利を行使するに当たり, この条約に従って制定する法令の遵 守を確保するために必要な措置(乗船, 検査, 拿捕及び司法上の手続を含む。 )をとることが できる。 」と定めており, A国の巡視艇甲は, A国の基線から約180海里のA国のEEZ内 で違法な漁業を行っていた外国漁船乙に対して, 同条に基づいて乗船, 検査を行い, 必要に応 じて拿捕等を行うことができる。 次に, 巡視艇甲が漁船乙を追跡して拿捕した行為が国連海洋法条約第111条に規定する追 跡権の正当な行使に当たるかを検討する必要がある。 同条によれば, 追跡権の行使は, 「沿岸 国の権限のある当局」が「外国船舶が自国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由があ るとき」に開始することができる(同条第1項)。 追跡権は, 「軍艦, 軍用航空機その他政府の 公務に使用されていることが明らかに表示されておりかつ識別されることのできる船舶又は航 空機でそのための権限を与えられているものによってのみ行使することができる」(同条第5 項)が, 巡視艇甲はA国の巡視艇であり, この要件を満たす公的船舶である。 また, 巡視艇甲 の沿岸警備官は, 外国漁船による漁獲が禁止されているタコの漁獲を漁船乙が行っている現場 を視認しており, 乙が「A国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由がある」と考えら れる。 さらに, 追跡権の行使は, 外国船舶が追跡国の内水, 群島水域, 領海又は接続水域にあ る時に開始しなければならない(同条第1項)が, 沿岸国のEEZにおいても国連海洋法条約 に従いEEZに適用される沿岸国の法令の違反がある場合に準用される(同条第2項)。 本件 事例は, A国のEEZに適用されるA国の法令の違反があったと信ずるに足る十分な理由があ - 39 - る場合であると考えられ, 同条第2項に基づいてA国のEEZを起点とする巡視艇甲による外 国漁船乙に対する追跡権の行使が認められる。 なお, 追跡権は, 被追跡船舶がその旗国又は第 三国の領海に入ると同時に消滅する(同条第3項)が, 巡視艇甲が外国漁船乙を停船させたの は公海上であり, 追跡権の行使の結果として公海上において外国漁船乙を停船させ, 同条約第 73条に基づき乗船, 検査等を行ったことは国際法上正当な行為と認められる。 設問2は, 国連海洋法条約第73条に基づく「速やかな釈放」の義務とこれに関する紛争解 決手続に関する理解を問う問題である。 同条第1項によれば, 沿岸国は国連海洋法条約に従っ て制定する法令の遵守を確保するために必要な措置, 具体的には乗船, 検査, 拿捕及び司法上 の手続を執ることができる。 他方で, 同条第2項は, 「拿捕された船舶及びその乗組員は, 合 理的な保証金の支払又は合理的な他の保証の提供の後に速やかに釈放される。 」と規定する。 したがって, 漁船乙の所有者であるY社がA国当局に対して「合理的な保証金の支払又は合理 的な他の保証の提供」を行った場合には, A国当局は拿捕した漁船乙及びその船長Xを「速や かに釈放」する義務を負い, B国は同条第2項に基づいて船長Xと漁船乙の「速やかな釈放」 をA国に対して要求できる。 B国による以上の要求にA国が従わない場合には, A国とB国が 別段の合意をしない限り, B国は, 船長X及び漁船乙の「速やかな釈放」を求めて, A国が同 条約第287条の規定によって受け入れている裁判所又は国際海洋法裁判所に提訴することが できる(同条約第292条)。 本件では, A国が同条約第287条の規定によって受け入れて いる裁判所がないとすれば, B国はX及び乙の「速やかな釈放」の問題を国際海洋法裁判所に 提訴することができる。 設問3は, 国連海洋法条約の違反に関する国際法上の救済手続等に関する問題である。 同条 約第73条第3項は, 沿岸国が同条第1項に基づいてEEZ内における漁業に関する法令の違 反について刑罰を科す場合, 「関係国の別段の合意がない限り拘禁を含めてはならず, また, その他のいかなる形態の身体刑も含めてはならない。 」と明記している。 本件事例でA国は, 国連海洋法条約の当事国であり, かつ「関係国の別段の合意がない」にもかかわらず, A国の 外国漁船取締法は, 同国EEZ内において違法に漁業を行った外国人に対して1年以下の懲役 という身体刑を科すことを定めており, これは同条第3項に反するものである。 A国裁判所に よるXに対する身体刑を内容とする判決の確定は, 同条第3項に違反するものであり, このよ うなA国による同条約違反の行為により, B国の国民であるXが国際法上違法な損害を被った ものと理解できる。 国際法上の国家責任に関する一般原則に従えば, 国際違法行為を行ったA 国はそれにより生じた損害に対して, 「原状回復」, 「金銭賠償」, 「(精神的)満足」を単独で又 は組み合わせて行わなければならない。 また, 国際違法行為が継続している場合には, 加害国 は当該行為を「中止」する義務を負い, 事情がそれを必要とする場合には, 適当な「再発防止 の保証」を与えなければならない。 本件において, A国によるXに対する違法な判決が確定し ているので, B国はまず刑の執行の「中止」とXの釈放をA国に対して要求することができる。 また, B国がA国に対して要求する「原状回復」の内容を「Xが身体刑を科される前の状態に 戻すこと」と捉えた場合, これは不可能であるため, B国は, Xが被った物理的及び精神的損 害に関する「金銭賠償」をA国に対して要求するとともに, 金銭賠償によっては十分に回復さ れない損害に関して, 違反の自認, 遺憾の意の表明, 公式の陳謝等の「(精神的)満足」をA 国に対して要求することができる。 さらに, 「再発防止の保証」として, 同条第3項の規定に 違反するA国の外国漁船取締法の身体刑に関する規定の削除を要求することも考えられる。 [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕 本問は, 外国籍を有する当事者らの身分関係に関わる事案を素材として, 国際私法, 特に国 際家族法における基礎的理解とその応用力を問う出題である。 - 40 - 〔設問1〕は, 外国で外国法に基づき行われた認知について, 日本においてもこれが成立し ていると判断し得るかを問うものであり, 認知の成立の準拠法に関する基礎的理解を確認する 問題である。 具体的には, 根拠条文を示し, 事案に当てはめながら, 認知の実質的成立要件及 び方式の準拠法をそれぞれ導き出し, その準拠法上定められる要件を満たしているかを検討し なければならない。 まず, 認知の実質的成立要件については, いわゆる認知保護の観点から, 親子関係の成立を 容易にできるように選択的適用主義が採用されている。 すなわち, 子の出生当時(法の適用に 関する通則法(以下「通則法」という。 )第29条第1項前段)若しくは認知当時の認知する 者の本国法又は認知当時の子の本国法(同条第2項前段)のいずれか一つの法の実質的成立要 件を満たせばよい。 これを理解した上で事案に当てはめることを要するが, その際には, 同条 第1項後段及び同条第2項後段に定める, いわゆる「セーフガード条項」として適用される子 の本国法が累積的に適用される場合であるかの見極めも必要となる。 次に, 認知の方式については, 通則法第34条により, 法律行為の実質的成立要件の準拠法 に加えて, 法律行為の成立を容易にし, 当事者の便宜を図るため, 行為地法も方式の準拠法と する選択的適用主義が採用されている。 本問においては乙国において乙国民法に定める方式で 認知が行われていることから, 乙国法が同条に定める法であるかを検討することを要する。 以上の検討を踏まえて, 結論として, 本件認知が日本において有効に成立しているかを判断 することが求められる。 〔設問2〕は, 血縁関係の不存在を理由とする認知無効の主張権者に関する準拠法の決定と 適用を問うものであり, 設問1と比較すると, やや応用的な出題である。 本問では, 認知の方 式に関しては通則法が定める準拠法上の要件を満たすものと問題文で設定されていることか ら, 認知の実質的成立要件を欠くことによる認知の無効が問題となる。 このような認知の無効 は, その主張権者の範囲も含めて, 認知の成立自体に関わる問題であり, 同法第29条に定め る認知の準拠法によると考えられている。 前述のとおり, 認知の準拠法については選択的適用主義が採られているが, 本問のように, 準拠法とされる複数の法が認知無効の主張権者について異なる定めをする場合, いずれの法に よるべきかが問題となる。 この点に関し, 通則法第29条が基礎としている認知保護の趣旨や 選択的適用主義を敷衍して, 認知を否定する局面である無効についてどのように法適用するか を述べた上で, 結論を導くことが求められる。 〔設問3〕は, 親族間の扶養義務の準拠法の決定と適用に関する基礎的理解を問うものであ る。 まず, 扶養義務の準拠法に関する法律(以下「扶養義務法」という。 )第1条から, 本問 での傍系血族間の扶養義務の問題が扶養義務法の適用範囲となることは明らかであり, 通則法 ではなく, 扶養義務法が適用されることを示すことを要する。 通則法第43条第1項において その点を明確にするための規定が設けられている。 続いて, 扶養義務法第2条の当てはめを丁寧に行い, どの国の法が準拠法となるかを適切に 導き出すことが求められる。 同条第1項本文では, 扶養権利者の常居所地法を第1順位の準拠 法として定めている。 問題文から得られる常居所認定に関する間接事実には日本と乙国の双方 を示唆するものが含まれているが, いずれの結論であっても, 常居所をどのように理解し, ど のような判断基準に基づいて決定するかについて一定の私見を示し, 問題文から得られる間接 事実を当てはめて本問における扶養権利者の常居所地法を導き出すことが求められる。 当該常居所地法によって扶養権利者が扶養義務者から扶養を受けることができない場合に は, 扶養権利者の保護を図るため, 扶養義務法第2条第1項ただし書により, 当事者の共通本 国法が適用される。 本問で扶養を求めているDと求められているEとは, 4親等の傍系親族関 係にある。 日本法及び乙国法上, 4親等内の傍系親族間での扶養義務は認められていないため, 本問においても当事者の共通本国法が準拠法となるかを更に検討しなければならない(なお, - 41 - 共通本国法によって扶養権利者が扶養義務者から扶養を受けることができないときは, 更に同 条第2項により日本法が準拠法となる。 )。 この点に関しては, 本問における扶養権利者が二重 国籍者であることから, 共通本国法がどのように決定されるかを理解することができているか も評価ポイントとなる。 通則法第38条第1項のような重国籍者の本国法を一つに絞る規定は, 扶養義務法にはなく(扶養義務への通則法第38条の適用は, 同法第43条により排除されて いる。 ), また, 扶養権利者の保護を厚くするという立法趣旨にも合致するように, 当事者双方 が共通に国籍を有する国があればその国の法を共通本国法とすると理解されている。 この点を 理解した上で, 共通本国法として甲国法を導くことを要する。 以上のように, 問題文に設定された条件に基づき丁寧に準拠法を決定するための当てはめを 行い, 4親等内の傍系親族間の扶養義務が甲国法上認められることから, 甲国法が準拠法とな ることを結論として述べることを要する。 〔第2問〕 本問は, 国際貨物運送契約及びこれに付随する国際保険契約をめぐる事案を素材として, 国 際私法, 国際取引法及び国際民事訴訟法に関わる基礎的理解とその応用力を問う出題である。 「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」(いわゆる「モントリオール条約」 であり, 以下「本件条約」という。 )は, 渉外実務上重要であるところから司法試験用法文に 収録されているものの, これまで出題されていなかった。 〔設問1〕は, 統一私法である条約の適用プロセスと国際民事訴訟法上の典型的な論点を問 う出題である。 〔小問1〕では, 乙国裁判所を専属管轄裁判所とする旨の航空運送契約中の合意が有効か否 かに関する判断が求められている。 解答に当たっては, 統一私法である条約を法廷地国が批准 している場合, 当該条約が直接に適用されるのか, 「手続は法廷地法による」という法原則に 基づいて国際私法を介して適用されるのか, という法適用のプロセスに関する説明が求められ ている。 統一私法である条約の直接適用可能性の有無は, 当該条約の趣旨, 目的, 内容等から 導かれることを示した上で, 本件条約の直接適用の有無について論を示さなければならない。 その過程では, 少なくとも本件条約第49条の規定に触れることとなろう。 本件条約が直接適 用されるとした場合, 管轄に関する本件合意の有効性判断に当たっては, 本件条約第1条, 第 33条及び第49条の解釈及び当てはめが行われなければならない。 この統一私法と国際私法 の関係は, 複数の基本的体系書において説明されている基本的事項であり, 参照条文として引 用されている本件条約の条文を適切に理解して丁寧に当てはめを行えば, 解答に達することが できると思われる。 〔小問2〕では, 外国裁判所に債務不存在確認訴訟が係属している場合において, わが国の 裁判所に損害賠償請求訴訟が提起されたとき, 後訴をどのように取り扱うべきであるかという, 国際民事訴訟法上の典型的な論点が取り上げられている。 前提として, 本件条約第33条に基 づいて, 甲国裁判所がYの訴えにつき国際裁判管轄権を有するとともに, 日本の裁判所が訴訟 物を同一とするXの訴えにつき国際裁判管轄権を有することの確認を通じて, 日本における後 訴が二重訴訟となっていることに言及されなければならない。 そして, 国際的な二重訴訟につ いて, 本件条約及び法の適用に関する通則法等には規定がなく, 解釈に委ねられていることを 踏まえて, 私見を述べることが求められている。 結論としては, 本件条約第33条により後訴 の国際裁判管轄権をそのまま認めた上で, 執行段階で二重の執行を拒否すれば足りるという処 理もあり得るであろうし, 近時, 二重訴訟の問題性が指摘されることが多いことを踏まえて, 二重訴訟を禁止すべきであるとする立場から訴えの却下や, 訴訟の中止などの処理があり得る。 いずれの立場においても, 関連する条文を踏まえつつ, その結論に至る合理的な理由を明らか にしなければならないし, 二重訴訟を禁止すべきであるとする立場であれば, 承認予測説, プ - 42 - ロパー・フォーラム説(便宜法廷地説)など, しかるべき法律構成が示されなければならない。 民事訴訟法第3条の9の適用可能性に触れる場合, 同条が登場する道筋も明らかにされなけれ ばならない。 その上で, 問題文から読み取ることのできる事実を丁寧に当てはめる必要がある。 〔設問2〕では, 本件貨物の毀損を受けて, Xに対し保険契約に基づいて保険金を支払った Zが, 法律上の代位によりXから本件債権を取得したと主張し, Yに対して損害賠償金の支払 を求める訴えを日本の裁判所に提起した場合において, Zの主張の当否の準拠法いかんが問わ れている。 XのYに対する債権は本件条約第18条第1項に基づくものであると考えられる。 そして, 本件のような, 保険契約に基づき保険金を支払ったことを理由として損害賠償請求権を取得す る, いわゆる法定代位については, 本件条約及び通則法のいずれにおいても, 明文規定はない。 この点については, 本件条約の規律対象になるかどうかを検討した上, 条約の規律対象ではな いとする立場から, 別途国内法(通則法)に基づいて準拠法を決定する過程が必要だと考える かという視点と, 法定代位について, 債権譲渡と同様に, 対象債権の準拠法によると考えるか, 債権の移転原因となった事実(保険契約)の準拠法によると考えるかという視点からの複合的 な検討が求められている。 さらに, 「保険契約の準拠法(甲国法)による」との構成を採用す る場合, 債務者Yについて, 自己の関知しない法によって債務者が不測の不利益を被るべきで はないという債務者保護の観点から, 代位の対象となる債権の準拠法を累積的に適用する必要 があるのではないかという派生的論点も考えられる。 また, 対象債権の準拠法によると考える 場合には, 対象債権が本件条約第18条第1項に直接根拠を持つ債権であることから, 本件条 約に規律されていない事項(例えば, 債権の移転可能性等)については, どのように属性を決 定するのかという論点もある。 上記のように, 本年度の出題も, 基礎的知識をいかに運用できるかを問うものとなっている。 どの論点についても, いかなる根拠に基づいていずれの主張を優先するか, それぞれの判断過 程を丁寧に説明することが期待される。 - 43 -