論文式試験問題集[公法系科目第1問] - 1 - [公法系科目] 〔第1問〕(配点:100) 20**年,A市では,性的な画像を含む書籍の販売等の在り方に対し,市民から様々な意見や 要望があることを踏まえ,新たな条例の制定が検討されることとなった。この条例の検討に関わっ ている市の担当者Xは,憲法上の問題についての意見を求めるため,条例案を持参して法律家甲の ところを訪れた。【別添資料】は,その条例案の抜粋である。法律家甲と担当者Xとの間でのやり 取りは以下のとおりであった。 甲:新しい条例が検討されているのはどのような理由からですか。 X:いわゆる「成人向け」「アダルトもの」と呼ばれる雑誌だけでなく,最近では一般の週刊誌と して販売される雑誌を含む様々な出版物等に,裸の女性の写真など性的な画像が掲載され,それ らがスーパーマーケットやコンビニエンスストアなど市民が食料品や生活用品を購入するために 日常的に利用する店舗で販売されています。近年,一部のコンビニエンスストアでは,そのよう な雑誌類の取扱いをやめる動きも出てきていますが,飽くまでも一部の店舗による自主的なもの にとどまっています。この状況に対して,市民からは,青少年の健全な育成に悪影響を及ぼす, 安心して子供と買い物に行けないという意見が寄せられているほか,特に女性を中心として,見 たくもないものが目に入って不快であるとか,思わぬところで性的なものに触れないようにして ほしいという意見が最近多く寄せられるようになりました。市内には,マンションや団地,住宅 地が多く,子供がいる世帯が多数居住していますが,そのような地区の自治会からも性的な画像 を掲載した出版物等の販売や貸与について規制を求める要望が出ています。 甲:すると,青少年の健全な育成を図ることだけが目的となるわけではないのですね。 X:そうです。青少年の健全な育成とともに,羞恥心や不快感を覚えるような卑わいな書籍等が, それらをおよそ買うつもりのない人たちの目に,むやみに触れることがないようにすることもね らいです。 甲:具体的にはどのようなものを規制の対象とするのですか。 X:規制の対象となる図書類は,この条例案の第7条に記載しています。日々発行される様々な出 版物等を適切に規制の対象とするため,市長等が規制の対象となる図書類を個別に指定すること とはせず,要件に該当する図書類が自動的に規制の対象となるようにしました。「性交」,「性交 類似行為」や「衣服の全部又は一部を着けない者の卑わいな姿態」を撮影した写真や動画などの 画像とこれらを描写した図画を対象とし,かつ,「殊更に性的感情を刺激する」ものであること が要件となります。このような画像や図画が含まれる書籍や雑誌などを「規制図書類」としまし た。 甲:刑法第175条で処罰の対象となっている「わいせつ」な文書等には当たらないものもこの条 例では規制の対象となるのですね。 X:そうです。刑法上の「わいせつ」な文書等に当たらないものも,もちろん対象になります。刑 法上の「わいせつ」な文書等に該当すれば,頒布や陳列自体が犯罪行為となるわけですから,む しろ,この条例では刑法で処罰対象とならないものを規制することに意味があると考えています。 甲:規制の対象には,写真や動画などの画像だけでなく,漫画やアニメなど絵による描写も含むの ですか。 X:含みます。絵による描写でも,殊更に性的感情を刺激する類のものがありますし,普通の漫画 と同じように書店などで陳列され,子供が普通の漫画だと思って手に取って見てしまうので困る という意見も寄せられています。 甲:いわゆる性的玩具類の販売や映画館での成人向け映画の上映などの規制はどうするのですか。 X:これらは専門の店舗で販売等されるのが通常で,既に別の法律や条例の規制対象になっている - 2 - ので,本条例の対象とは考えていません。 甲:規制の内容,方法はどのようなものですか。 X:第8条に4種類の規制を定めています。まず,通常のスーパーマーケットやコンビニエンスス トアなど,市民が食料品などの日用品を購入するために日常的に利用する店舗に規制図書類が置 かれていると,青少年の健全な育成にとっても,市民が性的なものに触れることなく安心して生 活できる環境の保持という点でも,望ましくありませんので,そのような店舗に規制図書類が並 ばないようにする必要があります。そのため,第8条第1項で,主に日用品等を販売する店舗に おける規制図書類の販売や貸与を禁止しています。次に,第8条第2項で,小学校,中学校,高 等学校などの敷地から200メートルの範囲を規制区域とし,事業者が,その区域内において規 制図書類の販売や貸与をすることを禁止します。規制区域では,事業者は,青少年に限らず,誰 に対しても,店舗で規制図書類の販売や貸与をすることができないこととなります。児童・生徒 らが頻繁に行き来する範囲にそのような店舗が存在することは望ましくないという市民の声に応 えるためです。これらの規制の下でも,第8条第1項に当たらない事業者の店舗,つまり,日用 品等の販売を主たる業務としていない事業者の店舗については,第8条第2項の規制区域の外で あれば,規制図書類の販売や貸与ができます。そこで,第8条第3項で,青少年に対する規制図 書類の販売や貸与を禁止し,さらに,第8条第4項で,規制図書類の販売や貸与をする店舗内で は,規制図書類を壁と扉で隔てた専用の区画に陳列することなどを義務付けます。 甲:第8条第1項各号には,書籍やDVDなど「図書類」が挙げられていませんが,書店やレンタ ルビデオ店は,第8条第1項で規制図書類の販売や貸与が禁止される店舗には当たらないという ことですか。 X:そのとおりです。確かに,書店やレンタルビデオ店にも青少年や規制図書類を購入等するつも りのない人が出入りするのですが,他方で,書店など図書類を専ら扱う店舗で規制図書類を全く 扱えないとなると,その営業に与える影響が大きく,これらの店舗に酷なことになります。また, 通常,書店やレンタルビデオ店に,規制図書類に当たるような書籍等が置かれていることは一般 の方も理解されているはずですので,そういった店舗では,第8条第4項に規定した規制図書類 を隔離して陳列するなどの義務を履行してもらえば足りるのではないかと考えています。 甲:この条例によって,これまで規制図書類の販売や貸与をしていた事業者には,どの程度の影響 が及ぶことになるのでしょうか。 X:市内には,小売店が約3000店舗あるのですが,そのうち,第8条第1項に該当する日用品 等の販売を主たる業務とする店舗は約2400店舗あります。この第8条第1項に該当する店舗 のうち,約600店舗が規制図書類を販売しています。もっとも,これらの店舗は,主に日用品 等を扱っていますから,規制図書類の売上げが売上げ全体に占める割合は微々たるものです。ま た,第8条第2項によって規制図書類の販売や貸与をする事業が禁止される規制区域が市全体の 面積に占める割合は20パーセント程度で,市内の商業地域に限っても,規制区域が占める割合 は30パーセント程度です。市内の規制区域にある店舗は約700店舗で,そのうち規制図書類 の販売や貸与をする店舗は約150店舗あります。しかし,その約150店舗のうち,規制図書 類の売上げが売上げ全体の20パーセントを超えるのは,僅か10店舗に過ぎません。 甲:この条例案による規制に反対する意見はないのですか。 X:規制対象が広過ぎるのではないかという意見があります。また,日用品等の販売を主たる業務 とする店舗の一部は,規制図書類の売上げが売上げ全体のごく一部であっても,これを販売して いること自体に集客力があると考えているようで,販売の全面的な禁止に反対しています。その ほか,第8条第2項の規制区域で規制図書類を販売してきた店舗の中からも,この条例案に反対 する意見が寄せられています。しかし,これまでどおりの営業ができなくなっても,正にそれを 市民が求めている以上は,やむを得ないのではないかと考えています。規制区域の店舗には,規 制図書類の販売と貸与さえやめてもらえればいいわけで,販売等を継続したいのであれば,市内 - 3 - にも店舗を移転できる場所はあるはずです。条例の施行までには6か月という期間を設けてもい ます。 甲:事業者の側からは,ほかにどのような意見があるのですか。 X:スーパーマーケットやコンビニエンスストアの事業者や業界団体の中には,既にいわゆる「成 人向け」の書籍等について自主規制を行っているところもあり,反対はそれほど多くありません。 しかし,例えば,書店やレンタルビデオ店など規制図書類とそれ以外の図書類とを取り扱ってい る店舗では,今後,第8条第4項に従って規制図書類を隔離して陳列しなければならないため, その要件を満たすための内装工事等が必要で,そこまでの必要があるのかと疑問視する声があり ます。 甲:規制図書類を購入する側である18歳以上の人,あるいは,青少年への影響についてはどのよ うに考えていますか。 X:18歳以上の人にとっては,これまで規制図書類を購入していた店舗で購入できなくなる場合 があるなど,不便になるということはあると思いますが,市内で規制図書類を一切買えなくなる わけではありません。青少年については,成長途上であり,規制図書類が全く購入できなくなっ ても,社会的に許容されると考えています。 甲:この条例に違反した場合の制裁はどうなっていますか。 X:第9条に規定しているとおり,第8条に違反した事業者に対し,市長が,改善命令又は業務停 止命令を発することができます。そして,第15条で,第8条第1項から第3項までに違反した 者や,市長の改善命令や業務停止命令に違反した者に対する刑事罰を定めており,その法定刑は, 6月以下の懲役又は50万円以下の罰金としています。 甲:条例案の内容は分かりました。 X:いろいろな意見がありますし,規制は必要な範囲にしたいと考えて検討しているのですが,条 例でこのような規制をすることは,憲法上,問題があるでしょうか。 甲:規制の対象となる図書類の範囲や,規制の手段,内容について,議論があり得ると思います。 図書類を購入する側と販売等をする店舗の双方の立場でそれぞれの権利を検討しておく必要があ りそうですね。図書類を購入する側としては,規制図書類の購入等ができない青少年と18歳以 上の人を想定しておく必要があります。また,販売等をする店舗としては,条例の規制による影 響が想定される3つのタイプの店舗,すなわち,第一に,これまで日用品と並んで規制図書類を 一部販売してきたスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの店舗,第二に,学校周辺の 規制区域となる場所で規制図書類を扱ってきた店舗,第三に,規制図書類とそれ以外の図書類を 扱っている書店やレンタルビデオ店を考えておく必要があるでしょう。 〔設問〕 あなたがこの相談を受けた法律家甲であるとした場合,本条例案の憲法上の問題点について, どのような意見を述べるか。本条例案のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題にな り得るのかを明確にした上で,参考とすべき判例や想定される反論を踏まえて論じなさい。 - 4 - 【別添資料】 善良かつ健全な市民生活を守るA市環境保持条例(案) (目的) 第1条 この条例は,性風俗に係る善良な市民の価値観を尊重するとともに青少年の健全な育成のた めに必要な環境の整備を図り,もって善良かつ健全な市民生活を守り,A市の健全で文化的な環境 を保持することを目的とする。 (定義) 第2条 この条例において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによ る。 青少年 18歳未満の者をいう。 図書類 書籍,雑誌,文書,絵画,写真,ビデオテープ,ビデオディスク,コンピュータ用の プログラム又はデータを記録した電磁的記録媒体並びに映写用の映画フィルム及びスライドフィ ルムをいう。 (略) (規制図書類) 第7条 次の各号に掲げるものを撮影した画像又は描写した図画(殊更に性的感情を刺激する画像又 は図画に限る。)を含む図書類を規制図書類とする。 性交又は性交類似行為 衣服の全部又は一部を着けない者の卑わいな姿態 (規制図書類の販売等の制限) 第8条 次の各号に掲げる物品(以下「日用品等」という。)の販売を主たる業務とする事業者は, その営業を行う店舗において規制図書類を販売し又は貸与してはならない。 飲食料品 衣料品・日用雑貨 医薬品・化粧品 文房具 スポーツ用品 玩具・娯楽用品 楽器 2 事業者は,学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校(幼稚園及び大学を除 く。)の敷地の周囲200メートル以内の区域(以下「規制区域」という。)の店舗において,規制 図書類を販売し又は貸与してはならない。 3 規制図書類を店舗において販売し又は貸与する事業者は,青少年に対して規制図書類を販売し又 は貸与してはならない。 4 規制図書類を店舗において販売し又は貸与する事業者は,規制図書類の陳列に当たり,次の各号 に掲げる措置を講じなければならない。 規制図書類を隔壁及び扉により他の商品の陳列場所と区分された場所に陳列すること。 規制図書類の陳列場所の出入口付近の見やすい場所に,規制図書類の陳列場所であることを掲 示すること。 (改善命令等) - 5 - 第9条 市長は,事業者が,前条各項の規定に違反して規制図書類の販売又は貸与を行っていると認 めるときは,当該事業者に対し,期限を定めて業務の方法の改善に関し必要な措置を採るべきこと を命ずることができる。 2 市長は,事業者が,前項の規定による命令に従わないときは,当該事業者に対し,3月以内の期 間を定めて,その業務の全部又は一部の停止を命ずることができる。 (罰則) 第15条 次の各号のいずれかに該当する者は,6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 第8条第1項,第2項又は第3項の規定に違反した者 第9条第1項又は第2項の規定による命令に違反した者 (両罰規定) 第16条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人,使用人その他の従業者が,その法人又は人の 業務に関し,前条の違反行為をしたときは,その行為者を罰するほか,その法人又は人に対して, 同条の罰金刑を科する。 附則(抄) 第1条 本条例は,公布の日から起算して6月を経過した日から施行する。 (参照条文)学校教育法(昭和22年法律第26号) 第1条 この法律で,学校とは,幼稚園,小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校, 特別支援学校,大学及び高等専門学校とする。 - 6 - 論文式試験問題集[公法系科目第2問] - 1 - [公法系科目] 〔第2問〕 (配点:100〔〔設問1〕, 〔設問1〕, 〔設問2〕の配点割合は,35:40:25〕) 宗教法人Aは,宗教法人法に規定された宗教法人で,同法の規定により登記された事務所を,約 10年前からB市の区域内に有している。Aは,以前から墓地用石材の販売等を扱う株式会社Cと 取引関係にあったが,Cから,B市内に適当な広さの土地(以下「本件土地」という。)を見付け たので,大規模な墓地の経営を始めないかとの提案を持ち掛けられた。Cがこのような提案をした のは,B市においては,「B市墓地等の経営の許可等に関する条例」(以下「本件条例」という。) 第3条の定めにより,株式会社であるCは墓地の経営許可を受けることができず,墓地経営のため に宗教法人であるAの協力が必要であったという事情による。Aは,大規模な墓地の経営に乗り出 すことは財政的に困難であると考えたが,Cから,用地買収や造成工事に必要な費用を全額無利息 で融資するとの申出を受けたため,Cの提案を受け入れ,本件土地において墓地(以下「本件墓地」 という。)の経営を行うことを承諾した。そこで,Aは,Cから融資を受けて,平成29年9月2 5日に本件土地を購入した(なお,本件土地に所有権以外の権利は設定されていない。)。さらに, Aは,「墓地,埋葬等に関する法律」(以下「法」という。)第10条第1項に基づき,本件墓地の 経営許可を得るため,本件条例に基づく必要な手続を開始した。なお,B市においては,法に基づ く墓地経営許可の権限は,法第2条第5項に基づき,B市長が有している。 Aは,平成29年11月17日,周辺住民らに対して,本件条例第6条に基づく説明会(以下「本 件説明会」という。)を開催した。本件説明会は,Aが主催したが,Cの従業員が数名出席し,住 民に対する説明は,Aの担当者だけではなくCの従業員も行った。本件土地の周囲100メートル 以内に住宅の敷地はなかったが,本件土地から100メートルを超える場所に位置する住宅に居住 する周辺住民らが,本件説明会に出席し,本件土地周辺の道路の幅員はそれほど広いものではない ため,墓参に来た者の自動車によって渋滞が引き起こされること,供物等の放置による悪臭の発生 並びにカラス,ネズミ及び蚊の発生又は増加のおそれがあることなど,生活環境及び衛生環境の悪 化への懸念を示した。しかし,Aは,その後も本件墓地の開設準備を進め,平成30年3月16日, B市長に対して本件墓地の経営許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。 他方,本件土地から約300メートル離れた位置にある土地には宗教法人Dの事務所が存在し, Dは,同所で約10年前から小規模な墓地を経営していた。Dは,本件説明会の開催後,本件土地 において大規模な墓地の経営が始まることを知り,自己が経営する墓地の経営悪化や廃業のおそれ があると考えた。Dの代表者は,その親族にB市内で障害福祉サービス事業を営む法人Eの代表者 がいたことから,これを利用して,本件申請に対するB市長の許可処分を阻止しようと考えた。D の代表者は,Eの代表者と相談し,本件土地から約80メートル離れた位置にあるDの所有する土 地(以下「D所有土地」という。)に,Eの障害福祉サービスの事業所を移転するよう求めた。E は,これを受けて,特に移転の必要性はなかったにもかかわらず,D所有土地を借り受けて事業所 (以下「本件事業所」という。)を設置し,平成30年3月23日,D所有土地に事業所を移転し た。本件事業所は,「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」に定められ た要件に適合する事業所で,短期入所用の入所施設を有しており,本件条例第13条第1項第2号 の「障害福祉サービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。)」に該当する。本件事業所は, 従来のEの施設の利用者を引き継いでいたことから,定員に近い利用者が日常的に利用し,また, 数日間連続して入所する利用者も見られた。 B市は,本件事業所の移転やDの代表者とEの代表者に親族関係があるという事情を把握してい なかったが,D及びEがB市長に対して平成30年4月16日,本件申請に対して許可をしないよ う求める旨の申入れを行ったことにより,上記事情を把握するに至った。D及びEの申入れの内容 は,@本件墓地が大規模であるため,B市内の墓地の供給が過剰となり,Dの墓地経営が悪化し, 廃業せざるを得ないこともあり得る,A本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあ - 2 - り,本件条例第13条第1項の距離制限規定に違反する,B本件墓地の経営が始まることにより, 本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の生活環境及び衛生環境の悪 化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念がある,C本件墓地の実質的経営者 は,AではなくCである,D仮にB市長が本件申請に対して許可をした場合には,D,E共に取消 訴訟の提起も辞さない,というものであった。 B市長は,本件墓地の設置に対する周辺住民の反対運動が激しくなったことも踏まえ,本件申請 に対して何らかの処分を行うこととし,平成30年5月16日,法務を担当する総務部長に対し, 法に関する許可等を所管する環境部長及びB市の顧問弁護士Fを集めて検討会議を行い,本件申請 に対して,許可処分(以下「本件許可処分」という。)を行うのか,あるいは不許可処分(以下「本 件不許可処分」という。)を行うのか,また,それぞれの場合にどのような法的な問題があるのか を検討するよう指示した。 以下に示された【検討会議の会議録】を読んだ上で,弁護士Fの立場に立って,設問に答えなさ い。ただし,検討に当たっては,本件条例は適法であるとの前提に立つものとする。 なお,関係法令の抜粋を【資料 関係法令】に掲げてあるので,適宜参照しなさい。 〔設問1〕 B市長が本件申請に対して本件許可処分を行い,D及びEが本件許可処分の取消しを求めて取消 訴訟を提起した場合について,以下の点を検討しなさい。 D及びEは,上記取消訴訟の原告適格があるとして,それぞれどのような主張を行うと考えら れるか。また,これらの主張は認められるか。B市が行う反論を踏まえて,検討しなさい。 仮に,Eが上記取消訴訟を適法に提起できるとした場合,Eは,本件許可処分が違法であると して,どのような主張を行うと考えられるか。また,これに対してB市はどのような反論をすべ きか,検討しなさい。 〔設問2〕 B市長が本件申請に対して本件不許可処分を行い,Aが本件不許可処分の取消しを求めて取消訴 訟を提起した場合,Aは,本件不許可処分が違法であるとして,どのような主張を行うと考えられ るか。また,これに対してB市はどのような反論をすべきか,検討しなさい。 - 3 - 【検討会議の会議録】 総務部長:市長からの指示は,本件申請に対して本件許可処分を行った場合と本件不許可処分を行っ た場合それぞれに生じる法的な問題について,考えられる訴訟への対応も含めて検討してほ しいというものです。法第10条第1項は,墓地経営許可の具体的な要件をほとんど定めて おらず,本件条例が墓地経営許可の要件や手続を具体的に定めているのですが,本件条例の 法的性質についてはどのように考えるべきでしょうか。 弁護士F:法第10条第1項の具体的な許可要件や手続を定める条例の法的性質については,様々な 見解があり,また,地方公共団体によっても扱いが異なるようです。本日の検討では,本件 条例は法第10条第1項の許可要件や手続につき,少なくとも最低限遵守しなければならな い事項を具体的に定めたものであるという前提で検討することにしましょう。 総務部長:分かりました。では,まず,本市が本件申請に対して本件許可処分を行った場合の法的問 題について検討しましょう。この場合,D及びEが原告となって本件許可処分の取消しを求 めて取消訴訟を提起することが考えられます。このような訴訟は,法的に可能なのでしょう か。 弁護士F:D及びEに取消訴訟を提起する原告適格が認められるかどうかが争点となります。取消訴 訟の他の訴訟要件については特に欠けるところはないと思います。D及びEは,本件許可処 分が行われた場合,それぞれどのような不利益を受けると考えて取消訴訟を提起しようとし ているのでしょうか。 環境部長:まず,Dについては,既にDの墓地は余り気味で,空き区画が出ているそうです。本件墓 地は規模が大きく,本件墓地の経営が始まると,Dは,自らの墓地経営が立ち行かなくなる のではないかと懸念しています。墓地経営には公益性と安定性が必要であり,墓地の経営者 の経営悪化によって,墓地の管理が不十分となることは,法の趣旨目的から適切ではないと 考えることもできるでしょうね。 弁護士F:ええ。そのことと本件条例が墓地の経営主体を制限していることとの関連も検討する必要 がありそうです。 環境部長:次に,Eについては,D所有土地に本件事業所を置いています。Eは,本件墓地の経営が 始まることにより,本件事業所周辺において,本件説明会で周辺住民が指摘したのと同様の 生活環境及び衛生環境の悪化が生じ,本件事業所の業務に無視できない影響を与える懸念が あると考えています。本件事業所の利用者は数日間滞在することもありますので,その限り では住宅の居住者と変わりがない実態があります。 総務部長:D及びEに原告適格が認められるかどうかについては,いろいろな考え方があると思いま す。本市としては,D及びEが,原告適格が認められるべきであるとしてどのような主張を 行うことが考えられるのか,そして,それに対して裁判所がどのような判断をすると考えら れるのかを検討する必要があると思います。これらの点について,F先生に検討をお願いし ます。 弁護士F:了解しました。 総務部長:次に,仮に原告適格が認められるとした場合,本件許可処分の違法事由としてどのような 主張がされるのかについて検討します。主張される違法事由については,DとEとで重複が 見られますので,本日は,Eの立場からの主張のみを検討したいと思います。 環境部長:Eは,まず,本件事業所がD所有土地に存在することで本件許可処分は本件条例第13条 第1項の規定に違反すると主張しています。そのような主張がされた場合,本市としてはど のように反論するのか考えておく必要がありますね。 弁護士F:そうですね。また,本件においては,仮に,本件墓地の経営許可を阻止するため,DとE が協力して本件事業所を意図的にD所有土地に設置したという事情があるならば,このよう な事情を距離制限規定との関係で法的にどのように評価すべきかについても,検討する必要 - 4 - がありそうです。 総務部長:F先生が今指摘された事情は,Eの原告適格に関しても問題になるのではないでしょうか。 弁護士F:原告適格の問題として整理する余地もあると思います。しかし,本日の検討では,原告適 格ではなく,本案の主張の問題として考えておきたいと思います。 環境部長:本件許可処分の他の違法事由として,Eは,本件墓地の実質的な経営者は,AではなくC であると主張しています。 総務部長:本件墓地の実質的な経営者が,AとCのいずれであるかは検討を要する問題ですね。仮に 実質的な経営者がCであるとした場合,法的に問題があるのでしょうか。 弁護士F:本件条例によると,墓地の経営者は,地方公共団体のほか,宗教法人,公益社団法人等に 限られています。仮に本件墓地の実質的な経営者がCであるとすれば,このような点も踏ま え,法や本件条例の関連諸規定に照らして違法となるのかについて,注意深く検討する必要 がありますね。 総務部長:では,この点についてもF先生に検討をお願いします。また,以上のような本件許可処分 の違法事由について,Eがこれら全てを取消訴訟において主張できるかについても,検討す る必要がありますね。 弁護士F:はい。Eが,自己の法律上の利益との関係で,いかなる違法事由を主張できるかにも注意 して検討すべきと考えています。 総務部長:次に,本件申請に対して,本件不許可処分を行った場合です。この場合にはAが本件不許 可処分の取消しを求めて取消訴訟を提起することが想定されます。本日は,この取消訴訟に おける本案の主張の検討をお願いします。 環境部長:環境部では本件不許可処分をする場合の処分理由として,次のことを考えています。(ア) 本件墓地周辺の生活環境及び衛生環境が悪化する懸念から,周辺住民の反対運動が激しくな ったこと,(イ)Dの墓地を含むB市内の墓地の供給が過剰となり,それらの経営に悪影響が 及ぶこと,(ウ)本件事業所が本件土地から約80メートル離れた位置にあること,の3点で す。 弁護士F:(ウ)については先ほど検討しましたので,本件不許可処分の問題としては,検討を省略し ましょう。まず,(ア)について補足される点はありますか。 環境部長:Aは,本件墓地の設置に当たっては,植栽を行うなど,周辺の生活環境と調和するよう十 分配慮しているとしていますが,住民の多くはそれでは十分ではないと考えています。 弁護士F:次に,(イ)についてですが,本件墓地の経営は,B市内の既存の墓地に対して大きな影響 を与えるのでしょうか。 環境部長:Dの墓地を含めて,B市内には複数の墓地がありますが,いずれも供給過剰気味で,空き 区画が目立つようになっています。本件墓地の経営が始まれば,Dの墓地のような小規模な 墓地は経営が破綻する可能性もあると思います。 総務部長:では,これらの(ア)及び(イ)の処分理由に対して想定されるAからの主張について,本市か らの反論を含めて,F先生に検討をお願いします。 弁護士F:了解しました。 - 5 - 【資料 ○ 関係法令】 墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号)(抜粋) 第1条 この法律は,墓地,納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が,国民の宗教的感情に適合し,且 つ公衆衛生その他公共の福祉の見地から,支障なく行われることを目的とする。 第2条 この法律で「埋葬」とは,死体(中略)を土中に葬ることをいう。 2,3 (略) 4 この法律で「墳墓」とは,死体を埋葬し,又は焼骨を埋蔵する施設をいう。 5 この法律で「墓地」とは,墳墓を設けるために,墓地として都道府県知事(市又は特別区にあつ ては,市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けた区域をいう。 6,7 (略) 第10条 墓地,納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければな らない。 2 (略) ○ B市墓地等の経営の許可等に関する条例(抜粋) (趣旨) 第1条 この条例は,墓地,埋葬等に関する法律(昭和23年法律第48号。以下「法」という。) 第10条の規定による経営の許可等に係る事前手続並びに墓地,納骨堂又は火葬場(以下「墓地等」 という。)の設置場所等,構造設備及び管理の基準その他必要な事項を定めるものとする。 (墓地等の経営主体) 第3条 墓地等を経営することができる者は,原則として地方公共団体とする。ただし,次の各号の いずれかに該当し,B市長(以下「市長」という。)が適当と認める場合は,この限りでない。 宗教法人法(中略)に規定する宗教法人で,同法の規定により登記された事務所を,B市(以 下「市」という。)の区域内に有するもの 墓地等の経営を目的とする公益社団法人又は公益財団法人で,登記された事務所を,市の区域 内に有するもの 2 前項に規定する事務所は,その所在地に設置されてから,3年を経過しているものでなければな らない。 (説明会の開催) 第6条 法第10条第1項の規定による経営の許可を受けて墓地等を経営しようとする者は,当該許 可の申請に先立って,規則で定めるところ〔注:規則の規定は省略〕により,墓地の設置等の計画 について周知させるための説明会を開催し,速やかにその説明会の内容等を市長に報告しなければ ならない。 (経営の許可の申請) 第9条 法第10条第1項の規定による経営の許可を受けようとする者は,次の各号に掲げる事項を 記載した申請書を市長に提出しなければならない。 〜 2 (略) 墓地又は火葬場の経営の許可を受けようとする者は,前項の申請書に次の各号に掲げる書類を添 付しなければならない。 法人(地方公共団体を除く。)にあっては,その登記事項証明書 墓地又は火葬場の構造設備を明らかにした図面 墓地にあっては,その区域を明らかにした図面 墓地又は火葬場の周囲100メートル以内の区域の状況を明らかにした図面 墓地又は火葬場の経営に係る資金計画書 - 6 - 3 (略) (略) (墓地等の設置場所等の基準) 第13条 墓地及び火葬場は,次の各号に定めるものの敷地から100メートル以上離れていなけれ ばならない。ただし,市長が市民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地 から支障がないと認めるときは,この限りでない。 住宅 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(中略)に規定する障害福祉サ ービスを行う施設(入所施設を有するものに限る。) 〜 (略) 2 墓地及び火葬場は,飲料水を汚染するおそれのない場所に設置しなければならない。 3 墓地等の土地については,当該墓地等の経営者(地方公共団体を除く。)が,当該墓地等の土地 を所有し,かつ,当該土地に所有権以外の権利が設定されていないものでなければならない。ただ し,市長が当該墓地等の経営に支障がないと認めるときは,この限りでない。 (墓地の構造設備の基準等) 第14条 墓地には,次の各号に掲げる構造設備を設けなければならない。ただし,市長が市民の宗 教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めるときは,この 限りでない。 外部から墳墓を見通すことができないようにするための障壁又は密植した垣根 雨水等が停滞しないようにするための排水路 墓地の規模に応じた管理事務所,便所,駐車場並びに給水及びごみ処理のための設備(墓地の 付近にあるこれらのものを含む。) 2 墓地の構造設備については,植栽を行う等周辺の生活環境と調和するように配慮しなければなら ない。 - 7 -