論文式試験問題集[民事系科目第1問] - 1 - [民事系科目] 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕, 〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は, 40:35:25〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕, 〔設問2〕及び〔設問3〕に答えなさい。 T 【事実】 1.Aは, トラック1台(以下「甲トラック」という。 )を使って, 青果物を生産者から買い受 け, 小売業者や飲食店に販売する事業を個人で営んでいた。 2.平成29年9月10日, Aは, Bとの間で, 松茸(まつたけ)5キログラムを代金50万円 でBから購入する契約(以下「本件売買契約」という。 )を締結した。 本件売買契約において は, 松茸の引渡しは, 同月21日の夜に, Bのりんご農園のそばにあるB所有の乙倉庫におい て, 代金の支払と引換えですることが定められた。 3.同月21日午前11時頃から午後2時頃にかけて, Bは, 本件売買契約の目的物とするため の松茸を秋の収穫期に毎年雇っているCと共に収穫し, これを乙倉庫に運び入れ, 同日午後4 時頃には, 本件売買契約の約定に合う松茸5キログラムの箱詰めを終えた。 そこで, Bは, 直 ちに, 引渡準備が整った旨をAに電話で連絡したところ, Aは同日午後8時頃に乙倉庫で引き 取る旨を述べ, Bはこれを了承した。 4.同日午後6時頃, Aが松茸を引き取るため甲トラックで出掛けようとしたところ, 自宅前に 駐車していた甲トラックがなくなっていた。 Aがすぐに電話で事情と共に松茸の引取りが遅れる旨をBに伝えたところ, Bからは, しば らく待機している旨の返答があった。 Aは, 自宅周辺で甲トラックを探したが見付からなかっ た。 そこで, Aは, 同日午後8時頃, 今日は引取りには行けないが, 具体的なことは翌朝に改 めて連絡する旨を電話でBに伝えた。 5.Bは, Aからのこの電話を受けて, 引渡しに備えて乙倉庫で待機させていたCに引き上げて よい旨を伝えた。 その際, Bは, 近隣で農作物の盗難が相次いでおり警察からの注意喚起もあ ったことから, Cに対し, 客に引き渡す高価な松茸を入れているので乙倉庫を離れるときには 普段よりもしっかり施錠するよう指示した。 乙倉庫は普段簡易な錠で施錠されているだけであ ったが, Cは, Bの指示に従って, 強力な倉庫錠も利用し, 二重に施錠して帰宅した。 6.同月22日午前7時頃, Aは, Bに, 車を調達することができたので同日午前10時頃に松 茸を乙倉庫で引き取りたい旨を電話で伝えた。 Bは朝の作業をCに任せて自宅にいたため, A が車でまずBの自宅に寄り, Bを同乗させて乙倉庫に行くことになった。 7.Aは, 代金としてBに支払う50万円を持参して, 同日午前10時過ぎに, Bと共に乙倉庫 に到着した。 ところが, 乙倉庫は, 扉が開け放しになっており, 収穫した農作物はなくなって いた。 8.警察の捜査により, 収穫作業道具を取り出すため乙倉庫に入ったCが, 同日午前7時頃, 同 月21日の夜にBから受けた指示(【事実】5参照)をうっかり忘れて, りんご農園での作業 のため普段どおり簡易な錠のみで施錠して乙倉庫を離れたこと, その時から同月22日の午前 10時過ぎにAとBが乙倉庫に到着するまでの間に何者かがその錠を壊し, 乙倉庫内の松茸, りんごなどの農作物を全部盗み去ったことが判明した。 9.その後, Bは, Aに対し, 本件売買契約の代金50万円の支払を求めたが, Aは, Bが松茸 5キログラムを引き渡すまで代金は支払わないと述べた。 これに対し, Bは, 一度きちんと松 茸を用意したのだから応じられないと反論した。 - 2 - 〔設問1〕 【事実】1から9までを前提として, 【事実】9のBの本件売買契約に基づく代金支払請求は認 められるか, 理由を付して解答しなさい。 U 【事実】1から9までに加え, 以下の【事実】10から14までの経緯があった。 【事実】 10.甲トラックは, Aが次の経緯でDから入手したものであった。 平成27年11月9日, AとDは, Dが所有する中古トラックである甲トラック(道路運送 車両法第5条第1項(関連条文後掲)が適用される自動車である。 )を目的物とし, 代金額を 300万円とする売買契約を締結した。 この売買契約においては, 次のことが定められていた。 @Aは, 代金の支払として, 甲トラックの引渡しと引換えにDに対し内金60万円を現金で支 払い, 以後60か月の間, 毎月4万円をDの指定する銀行口座に振り込んで支払う。 A甲トラ ックの所有権は, Aが@の代金債務を完済するまでその担保としてDに留保されることとし, その自動車登録名義は, Aが代金債務を完済したときにDからAへと移転させる。 BAは, @ の振込みを1回でも怠ったときは代金残債務について当然に期限の利益を喪失し, Dは, 直ち に甲トラックの返還を求めることができる。 CAは, Dから甲トラックの引渡しを受けた後, 甲トラックを占有し利用することができるが, 代金債務の完済まで, 甲トラックを善良な管理 者の注意をもって管理し, 甲トラックの改造をしない。 DDがBによりAから甲トラックの返 還を受けたときは, これを中古自動車販売業者に売却し, その売却額をもってAの代金債務の 弁済に充当する。 EDは, Dの充当後に売却額に残額があるときは, これをAに支払う。 同日, AはDに対し内金60万円を支払い, DはAに対し甲トラックを引き渡した。 11.Aは, 同年12月以降毎月, 遅滞することなく, Dが指定した銀行口座に4万円を振り込ん で代金を支払っている。 12.Aは, 甲トラックの消失後(【事実】4参照), レンタカーを借りて事業を続けていたが, 廃 業して帰郷することにし, 平成29年12月22日, 居住していた借家を引き払った。 Aは, Bら取引先等に廃業の通知を出したものの, 転居先を知らせることはしなかった。 13.平成30年2月20日, Eは, その所有する丙土地(山林)の上に, 甲トラックが投棄され ているのを見付けた。 その後, Eは, 甲トラックがD名義で自動車登録されていることを知っ た。 14.同年3月10日, Eは, Dに, 甲トラックが丙土地上に放置されている事実を伝え, 甲トラ ックの撤去を求めた。 ところが, Dは, 「Aとの間で所有権留保売買契約をしたので, 私は 甲トラックを撤去すべき立場にない。 その立場にあるのは, Aである。 」, 「登録名義はまだ 私にあるが, そうであるからといって, 私が甲トラックの撤去を求められることにはならない。 」 と述べ, 応じなかった。 EがDにAの所在を尋ねたところ, Dは, Aの所在は知らないと述べ た。 また, Dによれば, 甲トラックの盗難の事実と警察に盗難を届け出た旨の知らせが平成2 9年9月22日にAからあったが, 銀行口座にはAから毎月4万円の振込みが滞りなくされて いたこともあり, Aとの間で互いに連絡をすることがなかったとのことであった。 その後も, Eは, Aの所在を把握することができないままでいる。 〔設問2〕 【事実】1から14までを前提として, 以下の及びに答えなさい。 Eの【事実】14の撤去の請求に関し, 【事実】14の下線を付したのDの発言は正当であると 認められるか, 理由を付して解答しなさい。 仮にのDの発言が正当であると認められるものとした場合, Eの請求は認められるか, 【事 実】14の下線を付したのDの発言を踏まえつつ, 理由を付して解答しなさい。 - 3 - (参照条文)道路運送車両法(昭和26年法律第185号) 第5条 登録を受けた自動車の所有権の得喪は, 登録を受けなければ, 第三者に対抗することができ ない。 2 (略) V 【事実】1から14までに加え, 以下の【事実】15から20までの経緯があった。 【事実】 15.数年前に妻に先立たれたCは, 持病が悪化して, 平成30年1月20日, 死亡した。 16.Cは, 積極財産として, それぞれの金額が1200万円, 600万円及び200万円の定期 預金を残した。 Cには, 3人の子F, G及びHがいたが, Hについては, Cが家庭裁判所に廃 除の申立てをしており, それを認める審判が平成27年に確定していた。 17.平成30年1月21日, Cの通夜の席で, CがBに対し同月31日を期限とする300万円 の借入金債務を負っていたことが判明した。 18.Fは, Cが負っていた借入金債務全額の返済をBから強く求められたため, 同月31日, B に対し300万円を支払った。 19.同年3月1日, 同年1月1日付けのCの適式な自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。 ) があることが判明し, 同年5月7日, 検認の手続がされた。 20.本件遺言の証書には, 「@私が残す財産は, 1200万円, 600万円及び200万円の定 期預金である。 A遠方に住みながらいつも気にかけてくれたFには, Gよりも多く, 1200 万円の定期預金を相続させる。 BGには600万円の定期預金を相続させる。 CHは, まだ反 省が足りないので, 廃除の意思を変えるものではないが, 最近結婚をしたことから, 200万 円の定期預金のみを与える。 」と記されていた。 〔設問3〕 【事実】1から20までを前提として, 次の問いに答えなさい。 Fは, CがBに対して負っていた借入金債務300万円を全額支払ったことを根拠に, Gに対し, 幾らの金額の支払を請求することができるか。 本件遺言について, 遺言の解釈をした上で, 理由を 付して解答しなさい。 なお, 利息及び遅延損害金を考慮する必要はない。 - 4 - 論文式試験問題集[民事系科目第2問] - 1 - [民事系科目] 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 25:50:25〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 1.Aは, 関東地方のP県において, 個人でハンバーガーショップを営んでいた。 Aが作るハンバ ーガーは, Aが独自に調合した調味料による味わいにより, 地域で評判であった。 2.Aは, P県内に複数の店舗を出店しようと考え, Aの子B, 弟C及び叔父Dの出資を得て甲株 式会社(以下「甲社」という。 )を設立した。 甲社の発行済株式の総数は1000株であり, A が300株を, Bが250株を, Cが250株を, Dが200株を, それぞれ有している。 甲社は, 取締役会及び監査役を置いている。 甲社では, Aが代表取締役を, B, C及び甲社の 使用人でもあるEが取締役を, それぞれ務めている。 甲社は, 会社法上の公開会社ではなく, か つ, 種類株式発行会社でもない。 甲社の定款には, 取締役を解任する株主総会の決議は, 議決権 を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し, 出席した当該株主の議決 権の3分の2以上に当たる多数をもって行う旨の定めがある。 3.甲社は, P県内に十数店舗を出店した。 この間, Dの子Fが, 甲社が出店する予定がない近畿 地方のQ県において, ハンバーガーショップを営む乙株式会社(以下「乙社」という。 )の代表 取締役として, 乙社を経営するようになった。 乙社の発行済株式はDが全て有しているが, Dは 乙社の経営に関与していない。 4.甲社は, 当初, 順調に売上げを伸ばしたが, その後, 3期連続で売上げが減少した。 そのよう な中, AとCとの間で, 甲社の経営方針をめぐる対立が生じた。 5.Cは, Dと面会し, Dに対し, Aが仕入先からリベートを受け取っていると述べ, 次の甲社の 定時株主総会において, Aを取締役から解任する旨の議案を提出するつもりであるから, これに 賛成してもらいたいと求めた。 Dは, 甲社に見切りを付けており, 自己の有する甲社株式200 株(以下「D保有株式」という。 )を売却することを考えていたため, Cの求めに対して回答を 保留した上で, CがD保有株式を買い取ることを求めた。 Cは, 資金が十分ではなかったので, Dの求めに対して回答を保留した。 6.その後, Dは, 甲社において営業時間内にAと面会し, D保有株式をAが買い取ることを求め た。 Aがこれを拒否したところ, DはAが仕入先からリベートを受け取っている疑いがあるため, Aの取締役としての損害賠償責任の有無を検討するために必要であるとして, 直近3期分の総勘 定元帳及びその補助簿のうち, 仕入取引に関する部分の閲覧の請求をした。 これに対し, Aが, どうすればこの請求を撤回してもらえるかと尋ねたところ, Dは, 自分は甲社に対して興味を失 っており, Aがリベートを受け取っているかどうかなどは本当はどうでもよいと述べた上で, A がD保有株式を買い取ることを重ねて求めた。 〔設問1〕 上記1から6までを前提として, 上記6の閲覧の請求を拒むために甲社の立場におい て考えられる主張及びその主張の当否について, 論じなさい。 7.後日, Dは, Aに対し, AとCとの間の対立は知っているが, 仮に, 甲社の株主総会において, Cを取締役から解任する旨の議案が提出された場合には, これに反対するつもりであると述べた。 Aは, 次の甲社の定時株主総会において, Cを取締役から解任する旨の議案を提出することを 計画していたため, 当該議案について, Dが反対し, 否決されることを恐れ, D保有株式を買い 取りたいと考えたが, Aには甲社株式のほかに見るべき資産がなかった。 8.そこで, Aは友人Gに対してD保有株式の買取りを持ち掛けたところ, Gはこれに前向きであ った。 D保有株式の適正な売買価格は2400万円であったが, Gは, D保有株式の買取資金と - 2 - して1600万円しか用意することができなかったため, 丙銀行株式会社(以下「丙銀行」とい う。 )から当該買取資金として800万円を借り入れることとした。 そして, D, G及び甲社は, 平成27年2月2日, 下記契約(以下「本件契約」という。 )を締結した。 本件契約 Dは, 平成27年4月1日, Gに対し, 売買代金2400万円の支払を受けるのと引換えに D保有株式を譲渡し, その株券を引き渡す。 甲社は, Gが丙銀行からD保有株式の買取資金として800万円を借り入れることができる ように, Gの丙銀行に対する借入金債務を連帯保証する。 甲社は, Gに対し, 保証料の支払を 求めない。 Dは, 平成27年3月25日に開催される甲社の定時株主総会においては, 自らは出席せず, Aを代理人として議決権の行使に関する一切の事項を委任する。 9.平成27年3月10日, 丙銀行及びGは, D保有株式の買取資金800万円について融資契約 を締結し, 甲社は, 適法な取締役会の決議を経て, 丙銀行との間で, Gの丙銀行に対する当該融 資契約に基づく借入金債務について連帯保証契約を締結した。 甲社は, Gから, 保証料の支払を 受けていない。 なお, 仮に, 甲社が保証料の支払を受けてこのような保証をする場合には, 保証 料は60万円を下回らないものであった。 10.甲社は, 適法な取締役会の決議に基づき, 平成27年3月25日を定時株主総会(以下「本件 株主総会」という。 )の日として, 招集通知を発した。 本件株主総会においては, 会社提案とし てCを取締役から解任する旨の議案が, Cの株主提案としてAを取締役から解任する旨の議案が, それぞれ提出されることとなった。 11.本件株主総会には, A, B及びCが出席した。 Dは, 本件株主総会における議決権の行使に関 する一切の事項をAに委任する旨の委任状をAに交付し, 本件株主総会には, 自らは出席しなか った。 本件株主総会において, Cを取締役から解任する旨の議案は, Cが反対したが, A, B及びD の代理人Aが賛成したことにより, 可決された(以下「本件決議1」という。 )。 続いて, Aを取締役から解任する旨の議案について, Cが提案の理由としてAの不正なリベー トの受取について説明しようとした。 これに対し, 議長であるAは, そのような説明は議案と関 連がないとして, これを制止し, 直ちに採決に移り, 当該議案は, Cが賛成したのみで, 否決さ れた(以下「本件決議2」という。 )。 12.平成27年4月1日, 丙銀行はGに対して800万円の融資を実行し, Gは, Dに対して売買 代金2400万円を支払い, D保有株式を譲り受け, その株券の引渡しを受けた。 13.本件契約の内容並びに上記9及び12の事実を知ったCは, 平成27年4月15日, 本件決議1 及び2について, 株主総会の決議の取消しの訴えを提起した。 14.Gが丙銀行に対する借入金債務を弁済することができなかったため, 甲社は, 平成27年12 月1日, 丙銀行に対し, 800万円の保証債務を弁済した。 甲社はGに対して800万円を求償 しているが, Gはこれに応じなかった。 〔設問2〕 上記13の本件決議1及び2についての各決議の取消しの訴えに関して, Cの立場において考 えられる主張及びその主張の当否について, 論じなさい。 なお, 本件株主総会の招集の手続は, 適法であったものとする。 上記14の事実を知ったCが甲社の株主としてA及びGに対し会社法に基づき責任追及等の訴 えを提起する場合に, A及びGの責任に関し, Cの立場において考えられる主張及びその主張 - 3 - の当否について, 論じなさい。 15.Bは, 甲社の内紛が継続することにより, 取引銀行の信用を失うことを危惧し, 親族会議を開 催し, AとCとの間を取り持つこととした。 A及びCは, Bの提案に従い, 下記のとおり合意し た。 Bが経営者として十分な経験を積んできたことから, Aが取締役を退任した後は, Cも取締 役を退任し, Bが代表取締役社長を務めることとする。 ただし, 内紛が解決したことをアピー ルするため, 当面の間は, Aが代表取締役会長を, Cが代表取締役社長を, Bが取締役専務を, それぞれ務め, 甲社を共同で経営する。 甲社が丙銀行に対して弁済した800万円の求償については, A及びCが, 資金を用意し, GからGの有する甲社株式200株を買い取り, Gがその売買代金をもって当該求償に係る支 払に充てる。 16.Gからの甲社株式の買取りの結果, 甲社の発行済株式については, Aが450株を, Bが25 0株を, Cが300株を, それぞれ有することとなった。 また, 甲社では, Aが代表取締役会長 を, Cが代表取締役社長を, Bが取締役専務を, Eが取締役を, それぞれ務めることとなった。 17.平成29年5月, Aが交通事故により死亡したことから, Bは, 他の役員に対し, 上記15の 合意に従い, 代表取締役社長に就任し, 甲社を経営していく意思を伝えた上で, Cに対し, 取締 役を退任して相談役として支援してほしいと依頼した。 Aの唯一の相続人であるBは, Aが有し ていた甲社株式450株について, 単独で相続し, 株主名簿の名義書換を終えた。 18.甲社の定款には, 設立当初から, 会社法第174条に基づく下記定めがあった。 Cは, 上記15 の合意に反し, 自らが代表取締役社長の地位にとどまりたいと考えた。 そこで, 分配可能額と の関係では, Bが相続した甲社株式450株全てについて, 定款の下記定めに基づき, 甲社がB に対して売渡しの請求をすることもできたが, Cが甲社の総株主の議決権の過半数を確保するた めに最低限必要な401株についてのみ, 甲社がBに対して売渡しの請求をすることとした。 甲株式会社定款(抜粋) (相続人等に対する売渡しの請求) 第9条 当会社は, 相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し, 当該株式を 当会社に売り渡すことを請求することができる。 19.Cは, 甲社の取締役会を招集し, 取締役会において, 適法な手続に基づき, 上記18の請求に関 する議案を決議するための甲社の臨時株主総会の招集が決議された。 20.甲社は, 上記19の取締役会の決議に基づき, 平成29年7月3日, 臨時株主総会を開催した。 当該臨時株主総会において, 上記18の請求に関する議案は, 議長であるCがその決議からBを除 いた上で, Cのみが議決権を行使して賛成したことにより, 可決された。 甲社は, 当該臨時株主 総会の終結後, 直ちにBに対して上記18の請求をした(以下「本件請求」という。 )。 〔設問3〕 会社法第174条の趣旨を踏まえつつ, 本件請求の効力を否定するためにBの立場に おいて考えられる主張及びその主張の当否について, 論じなさい。 - 4 - 論文式試験問題集[民事系科目第3問] - 1 - [民事系科目] 〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 40:30:30]) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 なお, 損害賠償債務の履行遅滞による損害金(いわゆる遅延損害金)の請求については問題にし ないものとする。 また, 本問に現れる場所のうち, 甲市は甲地方裁判所(以下「甲地裁」という。 )の管轄区域内 に, 乙市は乙地方裁判所(以下「乙地裁」という。 )の管轄区域内にそれぞれ所在している。 解答 に当たっては, 甲地裁及び乙地裁のいずれもが本問に現れる訴えの土地管轄及び事物管轄を有する ことを前提にすること。 【事 例】 A, B及びCはいずれも自然人であり, AとCは甲市内に住所を有し, Bは個人タクシー事業 者で, 乙市内に住所兼営業所を有する。 Aは, 乙市内でBが運転するタクシーに乗客として乗車していたところ, BのタクシーとCが 運転する自動車とが衝突する事故(以下「本件事故」という。 )が起こり, これによって負傷し た。 Aは, 本件事故後直ちに乙市内で応急措置を受けた後, D法人が甲市内に開設する病院に入院 して治療を受け, 退院後もこの病院に通院して治療を受けた(以下, この病院を「D病院」とい い, D法人を「D」という。 )。 以上の事実については, A, B及びCの相互間に争いがない。 Aの負傷について症状が固定した後, Aは, 弁護士L1を代理人として, B及びCと損害賠償 について話合いをした。 その中で, Bは「BとCの過失によって本件事故が発生した」との認識 を示したが, Cは「本件事故は専らBの過失によって発生したものであり, Cには過失がないの でCは損害賠償責任を負わない」と主張した。 また, 損害の額について, Aは, 400万円を下 回らないと主張したが, BとCはいずれも, 「AがDに支払ったと主張する治療費が負傷との関 係で高額過ぎるし, 本件事故によってAが主張するような後遺症が生ずるはずがないので, 損害 額はせいぜい150万円である」と主張したため, 話合いがつかない状況であった。 そこで, Bは, 訴訟で解決するしかないと考え, 弁護士L2に債務不存在確認訴訟を委任する ことにした。 これを受けたL2は, Bの訴訟代理人として, Bを原告, Aを被告として次のよう な内容の訴状を乙地裁に提出して訴えを提起した(以下「Bの訴え」という。 )。 @請求の趣旨:「本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務は150万円 を超えないことを確認する」との判決を求める。 A請求の原因の要旨:本件事故はBとCによるAに対する共同不法行為に当たるが, 本件事故 によって発生したAの損害の金額は, 高く見積もっても150万円である。 ところが, Aは 損害額が400万円を下回らないと主張して譲歩しようとしない。 よって, Bは, Aとの間 で, 本件事故に係る不法行為に基づく損害賠償債務が150万円を超えないことの確認を求 める。 Aは, この訴状の副本等の送達を受けたため, L1に, Bの訴えに対応するとともに, Aを原 告として, B及びCに対して400万円の損害賠償を請求する訴えを提起することを委任した。 以下は, Aの委任を受けた弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。 L1:BはBの過失を争っていませんが, CはCの過失を争っています。 Aの損害額については, 入院及び通院中の治療費その他の費用, これらの期間の逸失利益, 後遺症による逸失利益及び - 2 - 慰謝料等が考えられます。 治療費等の領収証, 後遺症についての医師の診断書, Aの年収の資 料等もありますので, 損害額については, 400万円を主張することができると考えています。 P:そうすると, Bの主張する150万円の損害というのは低すぎますので, AからBに対して 400万円の支払を求めていくことになりそうですし, Cは自ら賠償をする気が全くないよう ですから, Cに対してもBと連帯して400万円を支払うよう求めていくのがよいですね。 A が起こす訴えの訴訟物は, 不法行為に基づく損害賠償請求権でよいでしょうか。 L1:訴訟物に関しては, AB間では債務不履行に基づく損害賠償請求権も想定できますが, B とCの共同不法行為を前提に, 不法行為に基づく損害賠償請求権のみを主張することにしまし ょう。 訴えを起こす裁判所としては, 甲地裁と乙地裁が考えられます。 また, AはCをも被告 として訴えを提起することになりますので, BとCを共同被告として訴えを提起することを検 討すべきです。 P:Bの訴えが既に提起されて訴状がAに送達されたこととの関係で, Aが提起する訴えの適法 性については検討を要するのではないでしょうか。 L1:そのとおりです。 では, まず, AがBを被告として乙地裁に訴えを提起する場合に, 訴え が適法といえるか, また, その場合に, Aは, CをもBと共同被告とすることができるか。 い ずれも適法であるとの方向で立論を工夫してください。 これらを「課題」とします。 P:分かりました。 L1:しかし, AとCは甲市に住んでいて私の事務所も甲市にあるので, 費用や時間の点から, 甲地裁に訴えを提起して訴訟追行ができるかも考えておきたいところです。 AがBとCを共同 被告とする訴えを甲地裁に提起する場合に, この訴えが適法といえるか。 これも, この訴えが 適法であるという方向で, 説得力のある立論をしてください。 これを「課題」とします。 P:分かりました。 L1:これらの課題に答えるためには, まず, Bの訴えの訴訟物を明示して, それが, Aが起こ そうとしている訴えの適法性にどのように関わってくるのかを考える必要があります。 〔設問1〕 あなたが司法修習生Pであるとして, L1から与えられた課題及び課題に答えなさい。 【事 例(続き)】 弁護士L1は, Aと相談した上, 原告Aの訴訟代理人として, B及びCを被告とし, 本件事故 がBとCの共同不法行為であると主張して, 不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき400万 円の支払を求める訴え(以下「Aの訴え」という。 )を甲地裁に提起し, その訴状の副本等はB 及びCに送達された。 その後に乙地裁で開かれたBの訴えについての第1回口頭弁論期日において, Bの訴訟代理人 L2は, Bの訴えを取り下げる旨を陳述し, Aの訴訟代理人として同期日に出頭したL1は, こ の訴え取下げに同意する旨陳述した。 そこで, その後, 本件事故については, 甲地裁において, Aの訴えのみが審理の対象となった。 Aの訴えについての審理の過程で, Bは, 「Bの過失によって本件事故が発生したことを争わ ないが, Cにも過失がある。 また, Aに生じた損害額は150万円以下である」と主張し, Cは 「本件事故は専らBの過失によって生じたものであって, Cに過失はない。 仮にCが責任を負う としても, Aに生じた損害額は150万円以下である」と主張した。 Aの訴訟代理人L1は, B及びCとの間で争いのある損害額を証明するため, D病院での治療 費等の領収証, Aの後遺症に関するD病院の医師作成の診断書及びD病院での診療記録の写しを 書証として提出した。 - 3 - 以下は, Bの訴訟代理人L2と司法修習生Qとの間の会話である。 L2:私の経験からすると, Aの負傷の程度に照らして, 400万円という損害額は不当に多額 であると感じられるのです。 Aが, 既にあった症状の治療を本件事故の機会に乗じて受けてい るのではないか, また, 診断書にある後遺症も本件事故とは無関係な症状ではないかとの疑い があります。 Q:不法行為と因果関係がある損害の額の証明責任はAにあるのですから, Bとしてはそれを真 偽不明に追い込めば足りるのではないですか。 L2:本件の場合は, Aは, 主張に見合った領収証や診断書を提出しています。 また, 一定の診 療記録もD病院で謄写して提出しており, それらによって証明が十分であるとの姿勢を見せて います。 しかし, 私は, まだ, D病院でのAの診療記録の全部が提出されたわけではないと考 えています。 Bとしては, D病院での診療記録全体に基づいて, 本件事故と治療及び後遺症と の因果関係を争いたいところです。 Dに診療記録の提出を求めていく方法はどのようなものが 考えられますか。 Q:文書送付嘱託の申立てをすることが考えられます。 L2:実務的にはそのとおりです。 そのほかには, どのような方法が考えられますか。 Q:文書提出命令の申立ても一つの方法だと考えられます。 L2:そうですね。 では, 文書提出命令の申立てについても考えてみましょう。 私がBの訴訟代 理人としてAの診療記録について所持者をDとして文書提出命令を申し立てるとして, 予想さ れるDからの反論を念頭に置きながら, Dに文書提出義務があるとする説得力のある立論をし てください。 これを課題とします。 文書提出義務の存否に関する民事訴訟法の条文に即して具 体的に考えてください。 診療記録には患者Aに関する情報が記載されていますので, そのこと をどう考えるべきか, よく検討する必要があります。 〔設問2〕 あなたが司法修習生Qであるとして, L2から与えられた課題に答えなさい。 【事 例(続き)】 Aの訴えについて審理した結果, 裁判所は, 本件事故はBの過失によって発生したもので, C の過失を認めることはできず, また, Aに発生した損害額は250万円であると判断し, 「Bは, Aに対し, 250万円を支払え。 AのBに対するその余の請求及びAのCに対する請求を棄却す る。 」という主文の判決をした(訴訟費用の負担及び仮執行宣言に関する部分は問題としない。 )。 Bは, AのBに対する請求が250万円の限度で認容されたことには納得ができたので, これ に対して不服を申し立てるつもりはなかったが, AのCに対する請求が全部棄却されたことには 不満を抱いた。 しかし, Aは, Bに対してもCに対しても控訴を提起するつもりはないとのこと であった。 そこで, L2は, Bの訴訟代理人として, BがAを補助するために参加する旨の申出をすると ともに, Aを控訴人, Cを被控訴人として, 「AのCに対する請求を棄却する判決を取り消し, AのCに対する請求のうち250万円が認容されるべきである」と主張して, 控訴期間内に控訴 を提起した。 控訴裁判所である丙高等裁判所(以下「丙高裁」という。 )は, L2の補助参加申出書と控訴 状を含む訴訟記録について甲地裁から送付を受け, Cに控訴状の副本等を送達した。 Cは, Bによる補助参加に異議を述べ, この控訴は不適法であると主張した。 Cは, 控訴を不 適法であるとする理由として, (ア)第一審で補助参加をしていなかったBがAのために控訴をす ることはできないこと, 及び, (イ)Bにはこの訴訟への補助参加が許されないので控訴をするこ ともできないことという二つの理由を挙げ, そのいずれにしても控訴は不適法であると主張して - 4 - いる。 〔設問3〕 Cの主張(ア)及び(イ)のそれぞれの当否を検討し, 丙高裁の受訴裁判所がこの控訴の適法性につ いてどのように判断すべきかを論じなさい。 - 5 -