平成30年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨 ※ 行政法に関し, 誤記の訂正についての記載が追記されています。 [憲 法] 次の文章を読んで, 後記の〔設問〕に答えなさい。 A市教育委員会(以下「市教委」という。 )は, 同市立中学校で使用する社会科教科書の採択に ついて, B社が発行する教科書を採択することを決定した。 A市議会議員のXは, A市議会の文教 委員会の委員を務めていたところ, 市教委がB社の教科書を採択する過程で, ある市議会議員が関 与していた疑いがあるとの情報を, 旧知の新聞記者Cから入手した。 そこで, Xは, 市教委に対し て資料の提出や説明を求め, 関係者と面談するなどして, 独自の調査を行った。 Xの調査とCの取材活動により, 教科書採択の過程で, A市議会議員のDが, B社の発行する教 科書が採択されるよう, 市教委の委員に対して強く圧力を掛けていた疑いが強まった。 Cの所属す る新聞社は, このDに関する疑いを報道し, 他方で, Xは, A市議会で本格的にこの疑いを追及す べきであると考え, A市議会の文教委員会において, 「Dは, 市教委の教科書採択に関し, 特定の 教科書を採択させるため, 市教委の委員に不当に圧力を掛けた。 」との発言(以下「本件発言」と いう。 )をした。 これに対し, Dは, 自身が教科書採択の過程で市教委の委員に圧力を掛けた事実はなく, Xの本 件発言は, Dを侮辱するものであるとして, A市議会に対し, Xの処分を求めた(地方自治法第1 33条参照)。 その後, Dが教科書採択の過程で市教委の委員に圧力を掛けたという疑いが誤りであったことが 判明し, Cの所属する新聞社は訂正報道を行った。 A市議会においても, 所定の手続を経た上で, 本会議において, Xに対し, 「私は, Dについて, 事実に反する発言を行い, もってDを侮辱しま した。 ここに深く陳謝いたします。 」との内容の陳謝文を公開の議場において朗読させる陳謝の懲 罰(地方自治法第135条第1項第2号参照)を科すことを決定し, 議長がその懲罰の宣告をした (この陳謝の懲罰を以下「処分1」という。 )。 しかし, Xが陳謝文の朗読を拒否したため, D及びDが所属する会派のA市議会議員らは, Xが 処分1に従わないことは議会に対する重大な侮辱であるとの理由で, A市議会に対し, 懲罰の動議 を提出した。 A市議会は, 所定の手続を経た上で, 本会議において, Xに対し, 除名の懲罰(地方 自治法第135条第1項第4号参照)を科すことを決定し, 議長がその懲罰の宣告をした(この除 名の懲罰を以下「処分2」という。 )。 Xは, Dに関する疑いは誤りであったものの, 本件発言は, 文教委員会の委員の活動として, 当 時一定の調査による相応の根拠に基づいて行った正当なものであるから, @自己の意に反して陳謝 文を公開の議場で朗読させる処分1は, 憲法第19条で保障されるべき思想・良心の自由を侵害す るものであること, A議会における本件発言を理由に処分1を科し, それに従わないことを理由に 処分2の懲罰を科すことは, 憲法第21条で保障されるべき議員としての活動の自由を侵害するも のであることを理由として, 処分2の取消しを求める訴えを提起しようとしている。 〔設問〕 Xの提起しようとしている訴えの法律上の争訟性について言及した上で, Xの憲法上の主張とこ れに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ, あなた自身の見解を述べなさい。 【資料】地方自治法(昭和22年法律第67号)(抄録) 第133条 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会において, 侮辱を受けた議員は, これを議 会に訴えて処分を求めることができる。 第134条 普通地方公共団体の議会は, この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反 した議員に対し, 議決により懲罰を科することができる。 A (略) 第135条 懲罰は, 左の通りとする。 一 公開の議場における戒告 二 公開の議場における陳謝 三 一定期間の出席停止 四 除名 A・B(略) (出題の趣旨) 本問は, 地方議会の内部における紛争について, @その法律上の争訟性を論じた 上で, A陳謝の懲罰(処分1)を科すことがXの良心の自由を侵害し, 憲法第19 条に反しないか, B処分1に従わなかったことを理由とする除名の懲罰(処分2) を科すことが, Xの議員としての活動の自由を侵害し, 憲法第21条に反しないか を論ずることを求める問題である。 @については, 地方議会における除名処分が司 法審査の対象となることを示した最高裁判例(最高裁昭和35年10月19日大法 廷判決, 民集第14巻第12号2633頁等)を踏まえて検討することが求められ る。 Aは, 最高裁判例(謝罪広告事件・最高裁昭和31年7月4日大法廷判決, 民 集第10巻7号785頁)を参照しながら, 本問における事情の下で, Xの良心の 自由を侵害するものであるかを論ずる必要があろう。 Bは, 地方議会の議員として の活動の自由が憲法第21条で保障されるかを論じた上で, 議会における発言を理 由として科された処分1に従わなかったことを理由として, 議員としての身分を剥 奪する処分2が科されたことについて, その合憲性を検討することが求められる。 A・Bについては, いずれも, 地方議会に自律権として認められている懲罰権を意 識しながら論ずることが重要である。 [行政法] XはY県において浄水器の販売業を営む株式会社であるところ, Y県に対して「Xが消費者に対 して浄水器の購入の勧誘を執拗に繰り返している。 」との苦情が多数寄せられた。 Y県による実態 調査の結果, Xの従業員の一部が, 購入を断っている消費者に対して, (ア)「水道水に含まれる化学 物質は健康に有害ですよ。 」, (イ)「今月のノルマが達成できないと会社を首になるんです。 人助けだ と思って買ってください。 」と繰り返し述べて浄水器の購入を勧誘していたことが判明した。 そこでY県の知事(以下「知事」という。 )は, Xに対してY県消費生活条例(以下「条例」と いう。 )第48条に基づき勧告を行うこととし, 条例第49条に基づきXに意見陳述の機会を与え た。 Xは, この意見陳述において, @Xの従業員がした勧誘は不適正なものではなかったこと, A 仮にそれが不適正なものに当たるとしても, そのような勧誘をしたのは従業員の一部にすぎないこ と, B今後は適正な勧誘をするよう従業員に対する指導教育をしたことの3点を主張した。 しかし知事は, Xのこれらの主張を受け入れず, Xに対し, 条例第25条第4号に違反して不適 正な取引行為を行ったことを理由として, 条例第48条に基づく勧告(以下「本件勧告」という。 ) をした。 本件勧告の内容は, 「Xは浄水器の販売に際し, 条例第25条第4号の定める不適正な取 引行為をしないこと」であった。 本件勧告は対外的に周知されることはなかったものの, Xに対して多額の融資をしていた金融機 関Aは, Xの勧誘についてY県に多数の苦情が寄せられていることを知り, Xに対し, Xが法令違 反を理由に何らかの行政上の措置を受けて信用を失墜すれば, 融資を停止せざるを得ない旨を通告 した。 Xは, 融資が停止されると経営に深刻な影響が及ぶことになるため, Y県に対し, 本件勧告の取 消しを求めて取消訴訟を提起したが, さらに, 条例第50条に基づく公表(以下「本件公表」とい う。 )がされることも予想されたことから, 本件公表の差止めを求めて差止訴訟を提起した。 以上を前提として, 以下の設問に答えなさい。 なお, 条例の抜粋を【資料】として掲げるので, 適宜参照しなさい。 〔設問1〕 Xは, 本件勧告及び本件公表が抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当た る行為」に当たることについて, どのような主張をすべきか。 本件勧告及び本件公表のそれぞれに ついて, 想定されるY県の反論を踏まえて検討しなさい。 〔設問2〕 Xは, 本件勧告の取消訴訟において, 本件勧告が違法であることについてどのような主張をすべ きか。 想定されるY県の反論を踏まえて検討しなさい(本件勧告の取消訴訟が適法に係属している こと, また, 条例が適法なものであることを前提とすること)。 【資料】 ○ Y県消費生活条例 (不適正な取引行為の禁止) 第25条 事業者は, 事業者が消費者との間で行う取引(中略)に関して, 次のいずれかに該当する 不適正な取引行為をしてはならない。 一〜三 四 (略) 消費者を威迫して困惑させる方法で, 消費者に迷惑を覚えさせるような方法で, 又は消費者を 心理的に不安な状態若しくは正常な判断ができない状態に陥らせる方法で, 契約の締結を勧誘し, 又は契約を締結させること。 五〜九 (略) (指導及び勧告) 第48条 知事は, 事業者が第25条の規定に違反した場合において, 消費者の利益が害されるおそ れがあると認めるときは, 当該事業者に対し, 当該違反の是正をするよう指導し, 又は勧告するこ とができる。 (意見陳述の機会の付与) 第49条 知事は, 前条の規定による勧告をしようとするときは, 当該勧告に係る事業者に対し, 当 該事案について意見を述べ, 証拠を提示する機会を与えなければならない。 (公表) 第50条 知事は, 事業者が第48条の規定による勧告に従わないときは, その旨を公表するものと する。 (注)Y県消費生活条例においては, 資料として掲げた条文のほかに, 事業者が第48条の規定によ る勧告に従わなかった場合や第50条の規定による公表がされた後も不適正な取引行為を継続し た場合に, 当該事業者に罰則等の制裁を科する規定は存在しない。 (出題の趣旨) 設問1は, Y県消費生活条例(以下「条例」という)に基づく勧告と公表のそ れぞれについて, その処分性(行政事件訴訟法第3条第2項にいう「行政庁の処 分その他公権力の行使に当たる行為」への該当性)の有無の検討を求めるもので ある。 まず, 最高裁判所昭和39年10月29日判決(民集18巻8号1809頁。 大田区ゴミ焼却場事件)などで示された処分性の一般論を正しく説明し, 処分性 の有無を判定する際の考慮要素を挙げることが求められる。 また, 最高裁判所平 成20年9月10日判決(民集62巻8号2029頁。 土地区画整理事業計画事 件)などの近時の判例では, 実効的な権利救済を図るという観点を考慮する場合 もあるが, このような実効的な権利救済について指摘することは加点事由となる。 その上で, 勧告の処分性については , 「公表を受け得る地位に立たされる」とい う法効果が認められるか否か, 条例第49条(※当初掲載した出題の趣旨では条 例第48条と記載していましたが, 条例第49条の誤りでしたので訂正しました。 ) に基づく手続保障の存在が処分性を基礎付けるか否か, 勧告段階での実効的な救 済の必要が認められるか否か, の3点について当事者の主張を展開することが求 められる。 同様に, 公表の処分性についても, 公表のもたらす信用毀損等が法的な効果に 当たるか否か, 公表に制裁的機能が認められるか否か, 公表に対する差止訴訟を 認めることが実効的な権利救済の観点から必要か否か, の3点について当事者の 主張を展開することが求められる。 設問2は, 勧告に処分性が認められることを前提にした上で, 勧告の違法性につ いて検討を求めるものである。 まず, 条例の文言の抽象性, 侵害される権利利益の性質・重大性, 専門的判断の 必要性の3つを踏まえて, 行政庁の裁量権が認められるか否かについて, 当事者の 主張を展開することが求められる。 次に, Xがした勧誘行為が条例第25条に掲げる「不適正な取引行為」の類型に 当てはまるか否かの検討が必要となる。 具体的には, 同条第4号にいう「威迫して 困惑させること」, 「迷惑を覚えさせること」, 「心理的に不安な状態若しくは正常な 判断ができない状態にすること」の3つの要件の該当性を検討することが求められ る。 また, 条例第48条にいう「消費者の利益が害されるおそれ」の要件については, 将来において違反行為が繰り返される可能性を踏まえて, その有無を検討すること が求められる。 3つ目として, 仮に要件該当性が認められるとしても, その効果として, 勧告を 行うことが比例原則に反するか否か, あるいは裁量権の逸脱・濫用に当たるか否か の検討が求められる。 具体的には, 前者については, 比例原則に関する一般論を展 開した上で, Xの違反行為の態様やその後の対応, Xが受ける不利益の程度を考慮 に入れて当事者の主張を展開することが求められる。 また, 後者については, 裁量 権の逸脱・濫用に関する一般論を展開した上で, Xの違反行為の態様やその後の対 応, Xが受ける不利益の程度を考慮に入れて当事者の主張を展開することが求めら れる。 [民 法] 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事実】 1.Aは, 個人で建築業を営むBに雇用された従業員である。 同じく個人で建築業を営むCは, 3 階建の家屋(以下「本件家屋」という。 )の解体を請け負ったが, Bは, その作業の一部をCか ら請け負い, Cが雇用する従業員及びAと共に, 解体作業に従事していた。 Cは, A及びBに対 し, 建物解体用の重機, 器具等を提供し, Cの従業員に対するのと同様に, 作業の場所, 内容及 び具体的方法について指示を与えていた。 2.Cは, 平成26年2月1日, Aに対し, 本件家屋の3階ベランダ(地上7メートル)に設置さ れた柵を撤去するよう指示し, Bに対し, Aの撤去作業が終了したことを確認した上で上記ベ ランダの直下に位置する1階壁面を重機で破壊するよう指示した。 Aは, 同日, Cの指示に従って, 本件家屋の3階ベランダに設置された柵の撤去作業を開始し た。 ところが, Bは, Aの撤去作業が終了しないうちに, 本件家屋の1階壁面を重機で破壊し始 めた。 これにより強い振動が生じたため, Aは, バランスを崩して地上に転落し, 重傷を負った (以下「本件事故」という。 )。 なお, Cは, このような事故を防ぐための命綱や安全ネットを用 意していなかった。 3.Aは, 転落の際に頭を強く打ったため, 本件家屋の解体作業に従事していたことに関する記憶 を全て失った。 しかし, Aは, 平成26年10月1日, 仕事仲間のDから聞いて, 本件事故は 【事実】2の経緯によるものであることを知った。 4.その後, Bは, Aに対して本件事故についての損害を賠償することなく, 行方不明となった。 そこで, Aは, 平成29年5月1日, Cに対し, 損害賠償を求めたが, Cは, AもBもCの従業 員ではないのだから責任はないし, そもそも今頃になって責任を追及されてもCには応じる義務 がないとして拒絶した。 5.Aは, 平成29年6月1日, 弁護士Eに対し, 弁護士費用(事案の難易等に照らし, 妥当な額 であった。 )の支払を約して訴訟提起を委任した。 Eは, Aを代理して, 同月30日, Cに対し, @債務不履行又はA不法行為に基づき, 損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を請求 する訴訟を提起した。 〔設問1〕 AのCに対する請求の根拠はどのようなものか, 【事実】5に記した@とAのそれぞれについて, 具体的に説明せよ。 また, 【事実】5に記した@とAとで, Aにとっての有利・不利があるかどう かについて検討せよ。 なお, 労災保険給付による損害填補について考慮する必要はない。 【事実(続き)】 6.Cは, 本件事故の前から, 妻Fと共に, 自己所有の土地(以下「本件土地」という。 )の上に 建てられた自己所有の家屋(以下「本件建物」という。 )において, 円満に暮らしていた。 本件 土地はCがFとの婚姻前から所有していたものであり, 本件建物は, CがFと婚姻して約10 年後にFの協力の下に建築したものである。 7.Cは, Aからの損害賠償請求を受け, 平成29年7月10日, Fに対し, 【事実】1及び2を 説明するとともに, 「このままでは本件土地及び本件建物を差し押さえられてしまうので, 離婚 しよう。 本件建物は本来夫婦で平等に分けるべきものだが, Fに本件土地及び本件建物の全部 を財産分与し, 確定的にFのものとした上で, 引き続き本件建物で家族として生活したい。 」と 申し出たところ, Fは, これを承諾した。 8.Cは, 平成29年7月31日, Fと共に適式な離婚届を提出した上で, Fに対し, 財産分与を 原因として本件土地及び本件建物の所有権移転登記手続をした。 Cは, 上記離婚届提出時には, 本件土地及び本件建物の他にめぼしい財産を持っていなかった。 CとFとは, その後も, 本件建物において, 以前と同様の共同生活を続けている。 〔設問2〕 Eは, 平成30年5月1日, Aから, CとFとは実質的な婚姻生活を続けていて離婚が認めら れないから, CからFへの財産分与は無効ではないか, 仮に財産分与が有効であるとしても, 本 件土地及び本件建物の財産分与のいずれについても, Aが全部取り消すことができるのではないか, と質問された。 本件事故についてAがCに対して損害賠償請求権を有し, その額が本件土地及び本件建物の価 格の総額を上回っているとした場合, Eは, 弁護士として, とのそれぞれにつき, どのように 回答するのが適切かを説明せよ。 (出題の趣旨) 設問1は, 労働災害の事案を題材として, 安全配慮義務違反を理由とする債務不 履行責任や不法行為責任に関する基本的な知識・理解を問うとともに, 債務不履行 に基づく損害賠償と不法行為に基づく損害賠償とでどのような具体的規律の相違が あるかについて, 事案に応じた分析を行う能力を試すものである。 請求の根拠に関する解答に当たっては, 債務不履行については直接の契約関係に ない当事者間における安全配慮義務の成否等に関し, 不法行為については注文者・ 請負人間の使用者責任の成否等に関し, 自説を論理的に展開し, 事案に応じた当て はめを行うことが求められる。 また, 有利・不利に関する解答に当たっては, 消滅 時効, 帰責事由や過失の主張立証責任, 遅延損害金の起算点等につき, 事案に即し た評価を行うことが求められる。 設問2は, 仮装離婚及びこれに伴う財産分与による責任財産の隠匿について, 協 議離婚及び財産分与の有効性に関する基本的な知識・理解を問うとともに, 財産分 与の詐害行為該当性や取消しの範囲について, 事案に応じた分析を行う能力を試す ものである。 離婚及び財産分与の有効性に関する解答に当たっては, 離婚をする意思の意義・ 内容に関する解釈を展開した上で, 離婚の有効性と財産分与の有効性とを論ずるこ とが求められる。 また, 詐害行為に関する解答に当たっては, 財産分与制度の趣旨 を踏まえつつ, 最高裁昭和58年12月19日判決・民集37巻10号1532頁 も意識して, 事案に応じた当てはめを行うことが求められる。 [商 法] 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。 )は, トラックによる自動車運送事業を主たる目的とする会 社法上の公開会社であり, かつ, 監査等委員会設置会社である。 甲社は種類株式発行会社ではなく, 平成24年から平成29年5月31日までの間, その発行済株式の総数は100万株であった。 甲 社は, 近い将来その発行する株式を金融商品取引所に上場する準備を進めており, その発行する株 式について, 100株をもって1単元の株式とする旨を定款で定めている。 なお, 甲社には, 単元 未満株主は存在せず, また, 会社法第308条第1項括弧書き及び第2項の規定により議決権を有 しない株主は存在しない。 2.甲社の定款には, 監査等委員である取締役の員数は3名以上5名以内とすること, 事業年度は毎 年4月1日から翌年3月31日までの1年とすること及び毎年3月31日の最終の株主名簿に記載 された議決権を有する株主をもってその事業年度に関する定時株主総会において議決権を行使する ことができる株主とすることが定められている。 3.甲社の監査等委員である取締役は, 社内出身者A, 甲社の主要取引先の一つである乙株式会社の 前会長B及び弁護士Cであり, いずれも平成28年6月29日に開催された定時株主総会において 選任された。 なお, B及びCは, 社外取締役である。 4.Dは,平成24年から継続して甲社の株式1万株を有する株主として株主名簿に記載されている。 Dは, 甲社の株式の上場には財務及び会計に関する知見を有する社外取締役を選任することなどに よるコーポレート・ガバナンスの強化が必要であると考え, AからCまでに加えて, 新たに監査等 委員である取締役を選任するための株主提案をすることとした。 Dは, 平成29年4月10日に, 甲社の代表取締役Eに対し, 監査等委員である取締役の選任を同年6月末に開催される定時株主総 会の目的(以下「議題」という。 )とすること及び公認会計士Fを監査等委員である取締役に選任 する旨の議案の要領を定時株主総会の招集通知に記載することを請求した。 5.他方で, 甲社は, トラックによる運送需要の増加によって, その業績が好調な状況にあったこと から, 迅速かつ積極的に事業の拡大を図ることとし, これに必要となるトラックの購入や駐車場用 地の確保のための資金に充てる目的で, 平成29年5月8日に取締役会の決議を経た上, 募集株式 の数を20万株, 募集株式の払込金額を5000円, 募集株式の払込みの期日を同年6月1日, 甲 社の主要取引先の一つである丙株式会社(以下「丙社」という。 )を募集株式の総数の引受人とし て, 募集株式を発行した。 この募集株式の払込金額は丙社に特に有利な金額ではなく, また, その 発行手続に法令違反はなかった。 そして, 甲社は, 丙社からの要請もあり, この募集株式20万株 について, 丙社を同月29日に開催する定時株主総会における議決権を行使することができる者と 定めた。 6.甲社は, 平成29年6月29日に開催した定時株主総会(以下「本件株主総会」という。 )の招 集通知に上記4の議題及び議案の要領を記載しなかった。 〔設問1〕 株主Dから上記4の請求を受けた甲社が本件株主総会の招集通知に上記4の議題及び議案の要 領を記載しなかったことの当否について, 論じなさい。 なお, 甲社の定款には, 株主提案権の行 使要件に関する別段の定めはないものとする。 7.甲社の監査等委員である取締役としてのBの報酬等は, 1年間当たり金銭報酬として600万円 のみである。 また, Bは, 甲社の監査等委員である取締役に就任するに当たり, 定款の定めに基づ き, 会社法第423条第1項の責任について, Bが職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない ときは, 同法第425条第1項の最低責任限度額を限度とする旨の契約を甲社と締結した。 8.その後, 甲社には本店所在地近辺においてトラックの駐車場用地を確保する必要が生じたが, 甲 社は適当な土地を見付けることができない状況にあったところ, Bが全部の持分を有する丁合同会 社(以下「丁社」という。 )の保有する土地が, 場所及び広さ共に甲社が必要とする駐車場用地と して適当であったことから, 甲社は丁社からこの土地をトラックの駐車場として賃借することとし た。 甲社の代表取締役Eは, 甲社の事業の都合上, 本店所在地近辺における駐車場用地の確保が急 務であったことから, 賃料の決定に際して丁社の全部の持分を有するBの意向を尊重する姿勢をと っていた。 平成29年7月1日, Eが甲社を代表して, Bが代表する丁社との間で, この土地につ いて, 賃貸期間を同日から平成30年6月30日まで, 賃料を1か月300万円とする賃貸借契約 (以下「本件賃貸借契約」という。 )を締結した。 なお, 本件賃貸借契約の締結に当たり, 甲社は, 会社法上必要な手続を経ていた。 本件賃貸借契約の賃料は周辺の相場の2倍というかなり高額なも のであったが, 甲社は平成30年6月30日までの間に丁社に対して同月分までの賃料を支払った。 〔設問2〕 上記8の事実に関するBの甲社に対する会社法上の損害賠償責任の有無及びその額について, 論 じなさい。 (出題の趣旨) 本問は, 株主提案権の行使要件と新株発行による総議決権数の変動との関係及び 利益相反取引(直接取引)に基づく取締役の任務懈怠責任と責任限定契約との関係 を問うものである。 設問1は, 公開会社かつ取締役会設置会社であって単元株式制度を採用している 株式会社における株主提案権(議題提案権(会社法第303条)及び議案要領通知 請求権(同法第305条))の行使要件を指摘した上で, どの時点で議決権保有要 件を充足する必要があるかを検討しなければならない。 株主提案権行使時点では議 決権保有要件を充足するが, 株主提案権行使後の新株発行及び議決権付与(同法第 124条第4項本文)により株主総会の時点では議決権保有要件を充足しない場合 に, 当該議題及び議案の要領を招集通知に記載しなかった会社の取扱いの当否を検 討することになる。 会社法にはこのような場合を規律する直接明文の規定がないた め, 適切な規範を定立して事案に当てはめる必要がある。 設問2は, 監査等委員会設置会社における利益相反取引をした社外取締役の損害 賠償責任(会社法第423条第1項)の発生要件につき, 同条第3項及び第4項や 会社が被った損害額にも触れた上で, 損害賠償責任の有無を事案に即して検討する ことが求められる。 その検討に当たっては, 同法第428条第1項及び第2項の適 用があるかを判断するために, 本件賃貸借契約が同法第356条第1項第2号の直 接取引のうち「自己のため」又は「第三者のため」のいずれに該当するかを認定す る必要がある。 前者とする場合には, 帰責事由がないことをもって同法第423条 第1項の責任を免れることができず(同法第428条第1項), また, 同法第42 7条の責任限定契約による責任軽減が認められないことになる(同法第428条第 2項)。 他方, 後者とする場合には, 同契約による責任軽減の可否が問題となり, 同契約で限度として定めた最低責任限度額(同法第425条第1項第1号ハ)の算 定が必要となる。 ただし, 職務を行うにつき悪意又は重大な過失があるときは, 責 任軽減は認められない(同法第427条第1項)。 いずれの場合でも, 損害賠償責 任が発生するとしたときは, 具体的な賠償責任額を算定しなければならない。 [民事訴訟法](〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 2:2:1) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 【事例】 Xは, 弁護士L1に対し, 下記〔Xの言い分〕のとおりの相談を行った。 〔Xの言い分〕 私は, Yに対し, 所有する絵画(以下「本件絵画」という。 )を代金300万円で売り渡しまし た。 売買代金については, その一部として100万円が支払われましたが, 残代金200万円が 支払われませんでした。 そこで, 私は, Yに対し, 残代金200万円の支払を請求したのですが, Yは, 弁護士L2を 代理人として選任した上, 同代理人名義で, 売買契約の成立を否認する旨の通知書を送付してき ました。 その通知書には, 売買契約の成立を否認する理由として, 本件絵画はYが代表取締役をしてい る株式会社Zの応接間に掛けるために購入したものであり, そのことについてはXに説明してい たこと, Xに支払済みの代金は株式会社Zの資金によるものであり, かつ, 株式会社Z宛ての領 収書が発行されていること及びYがXに交付した名刺は株式会社Zの代表取締役としての名刺で あることから, Yは買主ではない旨が記載されていました(以下, これらの記載を「売買契約成 立の否認の理由」という。 )。 私としては, 残代金の支払を求めたいと思います。 〔設問1〕 Xから訴訟委任を受けた弁護士L1は, Xの訴訟代理人として, 【事例】における本件絵画に 係る売買契約に基づく代金の支払を求める訴えを提起することとしたが, その訴えの提起に当 たっては, 同一の訴状によってY及び株式会社Zを被告とすることを考えている。 このような訴えを提起するに当たり, Y及び株式会社Zに対する請求相互の関係を踏まえつ つ, 弁護士L1として考え得る手段を検討し, それぞれの手段につき, その可否を論じなさい。 なお, 設問の解答に当たっては, 遅延損害金については, 考慮しなくてよい(〔設問2〕及び 〔設問3〕についても同じ。 )。 【事例(続き)】( 〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。 ) 以下は, 【事例】において弁護士L1がXから相談を受けた際の, 弁護士L1と司法修習生P との会話である。 弁護士L1:本件で, 仮に, 訴え提起前に売買契約成立の否認の理由の通知を受けていなかっ たとすると, Yのみを被告として訴えることが考えられます。 これを前提として, もし, その訴訟の途中で, 売買契約成立の否認の理由が主張されたとすると, どの ような方法を採ることが考えられますか。 修習生P :第1の方法として, Yを被告とする訴訟において, 敗訴に備え, 株式会社Zに訴 訟告知をする方法が考えられます。 弁護士L1:ほかにどのような方法が考えられますか。 修習生P :第2の方法として, Yを被告とする訴訟が係属する裁判所に対し, Xは, 株式会 社Zを被告として, XZ間の売買契約に基づく代金の支払を求める別訴を提起し, Yを被告とする訴訟との弁論の併合を裁判所に求める方法が考えられます。 弁護士L1:それでは, それぞれの方法の適否を検討しましょう。 まず, 第1の方法を採った として, 仮に, Yを被告とする訴訟で, 株式会社Zが補助参加せず, かつ, 買主は 株式会社ZであってXY間の売買契約は成立していないという理由で請求を棄却す る判決が確定したとします。 この場合には, Xは, 株式会社Zを被告として, XZ 間の売買契約に基づく代金の支払を求める訴え(以下「後訴」という。 )を提起す ることになると思います。 では, @Xは, 後訴で, Yを被告とする訴訟の判決の効 力を用いることは可能ですか。 修習生P :はい。 検討します。 弁護士L1:また, 第2の方法を採ったところ, 弁論の併合がされたとします。 その後, 裁判 所が弁論を分離しようとした場合には, 私としては, 「その弁論の分離は, 裁判所 の裁量の範囲を逸脱して違法である」と主張したいと思います。 では, Aその主張 の根拠となり得る事情としては, どのようなものが考えられるでしょうか。 修習生P :はい。 検討します。 〔設問2〕 下線部@の課題について, 事案に即して結論と理由を論じなさい。 〔設問3〕 下線部Aの課題について, 事案に即して答えなさい。 (出題の趣旨) 本問は, 絵画の売買がされ残代金が未払であるところ, 買主が法人の代表者個人 か法人のどちらかであるかが問題となっている場合に, いわゆる両負けを避けるた めに原告として取るべき手段を問うものである。 設問1では, いずれをも被告とす る場合の手段の可否が問われている。 念頭に置かれているのは, 単純併合, 同時審 判申出共同訴訟及び主観的予備的併合である。 これに対し, 設問2では, 一方のみ を被告とした場合で訴訟告知をしたものの補助参加がされないとき, 後訴で前訴の 判決の効力を用いることができるかが問われている。 主として補助参加の利益及び 参加的効力の客観的範囲を論じることが必要である。 設問3では, 双方を個々に訴 えたのちに弁論が併合された後の弁論の分離について問われている。 いずれの設問 も, 事案に即して, かつ, 各設問における論述同士の整合性に注意を払いつつ論じ る必要がある。 [刑 法] 以下の事例に基づき, 甲及び乙の罪責について論じなさい(住居等侵入罪及び特別法違反の点を除 く。 )。 1 甲は, 新たに投資会社を立ち上げることを計画し, その設立に向けた具体的な準備を進めてい たところ, 同会社設立後の事業資金をあらかじめ募って確保しておこうと考え, 某年7月1日, 知人のVに対し, 同年10月頃の同会社設立後に予定している投資話を持ち掛け, その投資のた めの前渡金として, Vから現金500万円を預かった。 その際, 甲とVの間では, 前記500万 円について, 同会社による投資のみに充てることを確認するとともに, 実際にその投資に充てる までの間, 甲は前記500万円を甲名義の定期預金口座に預け入れた上, 同定期預金証書(原本) をVに渡し, 同定期預金証書はVにおいて保管しておくとの約定を取り交わした。 同日, 甲は, この約定に従い, Vから預かった前記500万円をA銀行B支店に開設した甲名義の定期預金口 座に預け入れた上, 同定期預金証書をVに渡した。 なお, 同定期預金預入れの際に使用した届出 印は, 甲において保管していた。 2 甲は, 約1年前に無登録貸金業者の乙から1000万円の借入れをしたまま, 全く返済をして いなかったところ, 同年7月31日, 乙から返済を迫られたため, Vに無断で前記定期預金を払 い戻して乙への返済に流用しようと考えた。 そこで, 同年8月1日, 甲は, A銀行B支店に行き, 同支店窓口係員のCに対し, 「定期預金を解約したい。 届出印は持っているものの, 肝心の証書 を紛失してしまった。 」などとうその話をして, 同定期預金の払戻しを申し入れた。 Cは, 甲の 話を信用し, 甲の申入れに応じて, A銀行の定期預金規定に従って甲の本人確認手続をした後, 定期預金証書の再発行手続を経て, 同定期預金の解約手続を行い, 甲に対し, 払戻金である現金 500万円を交付した。 甲は, その足で乙のところへ行き, 受け取った現金500万円を乙に直 接手渡して, 自らの借入金の返済に充てた。 なお, この時点で, 乙は, 甲が返済に充てた500 万円は甲の自己資金であると思っており, 甲がVから預かった現金500万円をVに無断で自ら への返済金に流用したという事情は全く知らないまま, その後数日のうちに甲から返済された5 00万円を自己の事業資金や生活費等に全額費消した。 3 同年9月1日, Vは, 事情が変わったため甲の投資話から手を引こうと考え, 甲に対し, 投資 のための前渡金として甲に預けた500万円を返してほしいと申し入れたところ, 甲は, Vに無 断で自らの借入金の返済に流用したことを打ち明けた。 これを聞いたVは, 激怒し, 甲に対し, 「直ちに500万円全額を返してくれ。 さもないと, 裁判を起こして出るところに出るぞ。 」と 言って500万円を返すよう強く迫った。 甲は, その場ではなんとかVをなだめたものの, Vか ら1週間以内に500万円を全額返すよう念押しされてVと別れた。 その後すぐに, 甲は, 乙と 連絡を取り, 甲がVから預かった現金500万円をVに無断で乙への返済金に流用したことを打 ち明けた。 その際, 乙が, 甲に対し, 甲と乙の2人でV方に押し掛け, Vを刃物で脅して, 「甲 とVの間には一切の債権債務関係はない」という内容の念書をVに無理矢理作成させて債権放棄 させることを提案したところ, 甲は, 「わかった。 ただし, あくまで脅すだけだ。 絶対に手は出 さないでくれ。 」と言って了承した。 4 同月5日, 甲と乙は, V方を訪れ, あらかじめ甲が用意したサバイバルナイフを各々手に持っ てVの目の前に示しながら, 甲が, Vに対し, 「投資話を反故にした違約金として500万円を 出してもらう。 流用した500万円はそれでちゃらだ。 今すぐここで念書を書け。 」と言ったが, Vは, 念書の作成を拒絶した。 乙は, Vの態度に立腹し, 念書に加え現金も取ろうと考え, Vに 対し, 「さっさと書け。 面倒かけやがって。 迷惑料として俺たちに10万円払え。 」と言って, V の胸倉をつかんでVの喉元にサバイバルナイフの刃先を突き付けた。 Vは, このまま甲らの要求 に応じなければ本当に刺し殺されてしまうのではないかとの恐怖を感じ, 甲らの要求どおり, 「甲 とVの間には一切の債権債務関係はない」という内容の念書を作成して, これを甲に手渡した。 そこで, 甲がV方から立ち去ろうとしたところ, 乙は, 甲に対し, 「ちょっと待て。 迷惑料の 10万円も払わせよう。 」と持ち掛けた。 甲は, 乙に対し, 「念書が取れたんだからいいだろ。 もうやめよう。 手は出さないでくれと言ったはずだ。 」と言って, 乙の手を引いてV方から外へ 連れ出した上, 乙から同ナイフを取り上げて立ち去った。 5 その直後, 乙は, 再びV方内に入り, 恐怖のあまり身動きできないでいるVの目の前で, その 場にあったV所有の財布から現金10万円を抜き取って立ち去った。 (出題の趣旨) 本問は, 甲が, Vから投資のための前渡金として預かった現金500万円を, Vとの約定により甲名義の定期預金口座に預け入れて保管していたところ, Vに無 断で前記定期預金を解約し, その払戻金を自らの借入金の返済に充てて流用したこ と, その後, Vから前記500万円の返還を迫られた甲が乙と共にV方を訪れ, 各々手に持ったサバイバルナイフをVの目の前に示したり, 乙がVの胸倉をつかん でVの喉元に同ナイフの刃先を突き付けたりして, 「甲とVの間には一切の債権債 務関係はない」という内容の念書をVに無理矢理作成させたこと, その際, 乙が Vに迷惑料として10万円の支払を要求したところ, 甲は, これを制止し, 乙をV 方から外へ連れ出した上, 同ナイフを取り上げて立ち去ったものの, その直後に乙 がV方内に戻り, Vの下から現金10万円を持ち去ったことを内容とする事例につ いて, 甲及び乙の罪責に関する論述を求めるものである。 については, 甲には銀行に対する正当な払戻権限があることを踏まえて, 甲に おける現金500万円に対する横領罪の成否について, 預金の占有に関する擬律判 断を含め, その構成要件該当性を検討し, 及びについては, 甲及び乙における 念書及び現金10万円に対する強盗罪の成否について, 各構成要件該当性のほか, 甲・乙間における共謀に基づく共同正犯の成立範囲や共犯関係の解消の有無を検討 する必要があるところ, 事実を的確に分析するとともに, 横領罪及び強盗罪の各構 成要件, 共犯者による過剰行為がなされた場合の共同正犯の成否等に関する基本的 理解と具体的事例への当てはめが論理的一貫性を保って行われていることが求めら れる。 [刑事訴訟法] 次の【事例】を読んで, 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例】 警察官PとQが, 平成30年5月10日午前3時頃, 凶器を使用した強盗等犯罪が多発してい るH県I市J町を警らしていたところ, 路地にたたずんでいた甲が, Pと目が合うや, 急に慌てた 様子で走り出した。 そこで, Pが, 甲に, 「ちょっと待ってください。 」と声をかけて停止を求めた ところ, 甲が同町1丁目2番3号先路上で停止したため, 同所において, 職務質問を開始した。 Pは, 甲のシャツのへそ付近が不自然に膨らんでいることに気付き, 甲に対し, 「服の下に何か 持っていませんか。 」と質問した。 これに対し, 甲は, 何も答えずにPらを押しのけて歩き出した ため, 甲の腹部がPの右手に一瞬当たった。 このとき, Pは, 右手に何か固い物が触れた感覚があ ったことから, 甲が服の下に凶器等の危険物を隠している可能性があると考え, 甲に対し, 「お腹 の辺りに何か持ってますね。 服の上から触らせてもらうよ。 」と言って, @そのまま立ち去ろうと した甲のシャツの上からへそ付近を右手で触ったところ, ペンケースくらいの大きさの物が入って いる感触があった。 Pは, その感触から, 凶器の可能性は低いと考えたが, 他方, 規制薬物等犯罪に関わる物を隠 し持っている可能性があると考え, 甲の前に立ち塞がり, 「服の下に隠している物を出しなさい。 」 と言った。 すると, 甲は, 「嫌だ。 」と言って, 腹部を両手で押さえたことから, AQが, 背後から 甲を羽交い締めにして甲の両腕を腹部から引き離すとともに, Pが, 甲のシャツの中に手を差し入 れて, ズボンのウエスト部分に挟まれていた物を取り出した。 Pが取り出した物は, 結晶様のものが入ったチャック付きポリ袋1袋と注射器1本在中のプラ スチックケースであり, 検査の結果, 結晶様のものは覚せい剤であることが判明した(以下「本件 覚せい剤」という。 )。 そこで, Pは, 甲を覚せい剤取締法違反(所持)の現行犯人として逮捕する とともに, 本件覚せい剤等を差し押さえた。 その後, 検察官は, 所要の捜査を遂げた上, 本件覚せい剤を所持したとの事実で, 甲を起訴し た。 第1回公判期日において, 甲及び弁護人は無罪を主張し, 検察官の本件覚せい剤の取調べ請求 に対し, 取調べに異議があるとの証拠意見を述べた。 〔設問1〕 下線部@及びAの各行為の適法性について論じなさい。 〔設問2〕 本件覚せい剤の証拠能力について論じなさい。 (参照条文) 覚せい剤取締法 第41条の2第1項 覚せい剤を, みだりに, 所持し, 譲り渡し, 又は譲り受けた者(略)は, 10年以下の懲役に処する。 (出題の趣旨) 本問は, 深夜, 強盗等犯罪の多発する地域を警ら中の警察官が, 甲に停止を求め て職務質問した際, @立ち去ろうとした甲のシャツの上からへそ付近に触れるとの 方法, 及びA背後から甲を羽交い締めにした上, 甲のシャツの中に手を差し入れ, ズボンのウエスト部分に挟まれていたプラスチックケースを取り出すとの方法によ り所持品検査を実施したところ, 同ケース中に覚せい剤を発見したことから, 甲を 覚せい剤取締法違反(所持)の現行犯人として逮捕するとともに, 上記覚せい剤を 差し押さえ, その後, 甲を同所持の事実により起訴したとの事例において, 上記各 所持品検査の適法性及び上記覚せい剤の証拠能力について検討させることにより, 基本的な学識の有無及び具体的事案における応用力を試すものである。 設問1においては, 最高裁判所の判例(最判昭和53年6月20日刑集32巻4 号670頁等)に留意しつつ, 対象者の承諾のない所持品検査が許容されることが あるか否かについて, その根拠も含めて検討した上, これが肯定されるとして, い かなる態様の行為がいかなる状況において許容されるのか, その基準を提示し, 本 問における各所持品検査の適法性について論述することが求められる。 設問2においては, 本件覚せい剤の発見をもたらした上記Aの方法による所持品 検査が違法であることを前提に, 最高裁判所の判例(最判昭和53年9月7日刑集 32巻6号1672頁等)に留意しつつ, 違法に収集された証拠物の証拠能力が否 定される場合があるか否か, 否定される場合があるとしていかなる基準により判断 されるべきかを提示した上, 本件覚せい剤の証拠能力について論述することが求め られる。 [民 事] 司法試験予備試験用法文を適宜参照して, 以下の各設問に答えなさい。 〔設問1〕 弁護士Pは, Xから次のような相談を受けた。 【Xの相談内容】 「私(X)とYは, かつて同じ大学に通っており, それ以来の知り合いです。 私は, 平成2 7年8月頃, Yから, 『配偶者が病気のため, 急に入院したりして, お金に困っている。 他に頼 める人もおらず, 悪いが100万円程度を貸してくれないか。 』と頼まれました。 私は, 会社勤 めで, さほど余裕があるわけでもないので, 迷いましたが, 困っているYの姿を見て放っておく わけにはいかず, 友人のよしみで, 1年後くらいには返してもらうという前提で, Yに100万 円を貸してもよいと考えました。 私とYは, 平成27年9月15日に会いましたが, その際, Y は, 『100万円借り受けました。 平成28年9月30日までに必ず返済します。 』と書いた借用 証書を準備しており, これを私に渡し, 私も, その内容を了解して, Yに現金100万円を渡し ました。 なお, 友人同士でもあり, 利息を支払ってもらう話は出ませんでした。 ところが, 返済期限が過ぎても, Yは, 一向に返済しません。 私は, 直ちに100万円を返し てほしいですし, 返済が遅れたことについての損害金も全て支払ってほしいです。 なお, Yは, 平成29年7月末頃までは会社勤めでしたが, 同年8月頃から現在まで, 個人 で自営業をしています。 Yは, 現在, 顧客であるAに対して80万円の売買代金債権を持ってい るものの, それ以外にめぼしい資産はないようです。 」 弁護士Pは, 【Xの相談内容】を前提に, Xの訴訟代理人として, Yに対し, Xの希望する金員 の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。 )を提起することを検討することとした。 以上を前提に, 以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Pは, 勝訴判決を得た場合の強制執行を確実に行うために, 本件訴訟に先立ってXが事 前に講じておくべき法的手段を検討した。 Xが採り得る法的手段を一つ挙げなさい。 また, その 手段を講じなかった場合に生じる問題について, その手段の有する効力に言及した上で説明しな さい。 (2) 弁護士Pが, 本件訴訟において, Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記 載しなさい。 (3) 弁護士Pが, 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。 )において記載すべき請求の趣旨(民 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。 なお, 付随的申立てについては, 考慮す る必要はない。 (4) 弁護士Pが, 本件訴状において, 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)とし て主張すると考えられる具体的事実を記載しなさい。 〔設問2〕 弁護士Qは, 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。 【Yの相談内容】 「確かに, 私(Y)は, Xが主張する時期に, 借用証書を作成した上で, Xから100万円 を借りたことはあります。 しかし, 私は, 返済期限の平成28年9月30日に, 全額をXに返済 しました。 平成29年に入って, 私とXは, 大学の同窓会の幹事を担当するようになったのですが, 同 年9月半ば頃に, 私の発言をきっかけにXが幹事を辞任しなければならなくなり, 関係が悪化し てしまったのです。 そのようなこともあって, Xは, 突然, 返したものを返していないなどと言 い出したのだと思います。 また, 今回, Xから請求を受けて思い返してみたのですが, 私とXが大学を卒業した直後で ある平成19年10月1日, 私は, Xから懇願されて, 気に入っていたカメラ(以下「本件カメ ラ」という。 )を8万円で売って, 同日, Xに本件カメラを渡したことがありました。 その後, 忙しくて, Xに催促しそびれて, お金を受け取らないまま現在に至っています。 100万円を返 す必要は全くないと考えていますが, 万一, その主張が認められなかったとしても, 少なくとも 前記8万円分を支払う必要はないと思います。 」 弁護士Qは, 【Yの相談内容】を前提に, Yの訴訟代理人として, 弁済の抗弁と相殺の抗弁を主 張することとし, これらが記載された本件訴訟における答弁書(以下「本件答弁書」という。 )を作 成した。 弁護士Qは, 本件答弁書の提出に先立ち, Xに対し, Xの請求を全面的に争うとともに, 8万円分の相殺の抗弁を主張する旨を詳しく記載した内容証明郵便を発送し, Xは, 平成30年2 月2日, 弁護士Pを経由して, 同内容証明郵便を受領した。 以上を前提に, 以下の各問いに答えなさい。 なお, 〔設問2〕以下においては, 遅延損害金の請 求やこれについての主張を考慮する必要はない。 (1) 弁護士Qは, 本件答弁書に記載した弁済の抗弁につき, 次の事実を主張した。 Yは, Xに対し, 〔@〕。 上記〔@〕に入る具体的事実を記載しなさい。 (2) 弁護士Qは, 本件答弁書に記載した相殺の抗弁につき, 次の各事実を主張することを検討した。 ア Yは, Xに対し, 平成19年10月1日, 本件カメラを代金8万円で売った。 イ Yは, Xに対し, 平成30年2月2日, 〔A〕。 (@) 上記〔A〕に入る具体的事実を記載しなさい。 (A) 弁護士Qとして, 上記ア及びイの各事実に加えて, 「Yは, Xに対し, 平成19年10月1 日, アの売買契約に基づき, 本件カメラを引き渡した。 」との事実を主張することが必要か否 か。 結論とその理由を述べなさい。 〔設問3〕 弁護士Pは, 相殺の抗弁に対して, 下記の主張をできないか検討したが, 下記の主張は認められ ない可能性が高いとして断念した。 弁護士Pが断念した理由を説明しなさい。 記 YのXに対する本件カメラの売買代金債権につき, 消滅時効が成立しているところ, Xは同時効 を援用する。 〔設問4〕 第1回口頭弁論期日において, 本件訴状と本件答弁書が陳述され, 弁護士Pは, 弁済の抗弁に係 る事実を否認した。 第1回弁論準備手続期日において, 弁護士Qは, 書証として下記@及びAを提 出し, いずれも取り調べられ, 弁護士Pはいずれも成立の真正を認めた。 記 @ 銀行預金口座(Y名義)から, 平成28年9月28日に現金50万円, 同月29日に現金50万 円がそれぞれ引き出された旨が記載された預金通帳(本件通帳) A 現在のYの住所につき, 「住所を定めた日 平成29年8月31日転入」との記載がある住民票 写し(本件住民票) その後, 2回の弁論準備手続期日を経た後, 第2回口頭弁論期日において, 本人尋問が実施され, Xは, 下記【Xの供述内容】のとおり, Yは, 下記【Yの供述内容】のとおり, それぞれ供述した。 【Xの供述内容】 「今回, Yから, Yの配偶者が急な病気のため入院して, お金に困っていると泣き付かれまし た。 私には小さい子供が2人おり, 家計のやりくりは楽ではないのですが, 困っているYを見 捨てるわけにもいかず, お金を貸しました。 Yから食事をおごられた記憶はあります。 Yのいうとおり, 平成28年9月30日だったかも しれません。 ただし, その際にお金を返してもらったということは絶対にありません。 私も色々と忙しかったので, 私が初めてYにお金の返済を求めたのは, 平成29年10月だ ったと思います。 確かに, 同年9月半ば頃, 私は, 同窓会の経理につき, 他の幹事たちの面前 で, Yから指摘を受けたことはありますが, 私が同窓会の幹事を辞任したのは, それとは無関 係の理由ですので, 私がYを恨みに思っているということはありません。 時期までは聞いていませんが, Yが引っ越しをしたことは聞いています。 でも, だからとい って, Yがいうように領収書を処分してしまうということは普通は考えられません。 そもそも, Yは私に返済していないのですから, Yのいうような領収書が存在するわけもないのです。 」 【Yの供述内容】 「私は, 配偶者が急に病気になり, 入院するなどしたため, 一時期, お金に困り, Xに相談 しました。 Xは快くお金を貸してくれて, 本当に助かりました。 幸い, 私の配偶者は, 一時期の入院を経て元気になり, 私たちは生活を立て直すことができ ました。 私は, 返済期限である平成28年9月30日に, Xと会って, レストランで食事をおごると ともに, 前々日と前日に銀行預金口座から引き出しておいた合計100万円をXに渡しました。 Xも私もあらかじめ書面は用意していなかったのですが, Xが, その場で自分の手帳から紙 を1枚切り取って, そこに, 『領収書 確かに100万円を受け取りました。 』との文言と, 日 付と, Xの氏名を記載して, 私に渡してくれました。 私は, 平成29年8月31日に現在の住 所に引っ越したのですが, 返済して1年近く経っていたこともあり, その引っ越しの際に, 他 の不要な書類とともに先ほど述べた領収書を処分してしまったので, 今回の訴訟にこの領収書 を証拠として提出していません。 平成29年に入って, 私とXは, 大学の同窓会の幹事を担当するようになったのですが, 同 年9月半ば頃, Xが同窓会費を使い込んでいたことが判明したため, 私が, 他の幹事たちの面 前で, その点をXに指摘し, それをきっかけにXが幹事を辞任したことがあったため, Xは, 私を恨みに思っているようでした。 そのようなこともあって, 同年10月に, 返したものを返 していないなどと言い出し, 請求し始めたのだと思います。 」 以上を前提に, 以下の問いに答えなさい。 弁護士Qは, 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに, 準備書面を提出することを予定している。 その準備書面において, 弁護士Qは, 前記の提出された各書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Y の供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて, 弁済の抗弁が認められるこ とにつき主張を展開したいと考えている。 弁護士Qにおいて, 上記準備書面に記載すべき内容を答 案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。 (出題の趣旨) 設問1は, 消費貸借契約に基づく貸金返還請求等が問題となる訴訟において, 原 告代理人があらかじめ講ずべき法的手段とともに, 原告の求める各請求に対応した 訴訟物や請求の趣旨, 請求を理由付ける事実について説明を求めるものである。 債 権を対象とする民事保全の効力について検討を行うほか, 消費貸借契約に基づく貸 金返還請求の法律要件につき, 附帯請求に係るものを含め, 正確な理解が問われる。 設問2は, 金銭請求に対する典型的な抗弁事実に関し, 民事実体法及び要件事実 の理解を問うものである。 相殺の抗弁については, 自働債権が双務契約に基づいて 発生したことを踏まえ, 本件の事案に即して, 自説を的確に論ずることが求められ る。 設問3は, 原告代理人の訴訟活動上の選択につき, 理由を説明するものである。 相殺と消滅時効に関する実体法上の規律を前提に, 本件の事案に適切に当てはめて 論ずることが求められる。 設問4は, 被告代理人の立場から, 弁済の抗弁について準備書面に記載すべき事 項を問うものである。 書証及び当事者尋問の結果を検討し, いかなる証拠によりい かなる事実を認定することができるかを示すとともに, 各認定事実に基づく推認の 過程を, 本件の具体的な事案に応じて, 説得的に論述することが求められる。 [刑 事] 次の【事例】を読んで, 後記〔設問〕に答えなさい。 【事例】 1 A(21歳, 男性)は, 平成30年5月30日, 「氏名不詳者と共謀の上, 平成30年4月 2日午前4時頃, H県I市J町2丁目3番K駐車場において, 同所に駐車されていたV所有 の普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。 )の運転席側窓ガラスを割るなどして, 同車 を損壊した上, 同車内にあったV所有の現金200万円在中の鞄1個及びカーナビゲーショ ンシステム1台(以下「本件カーナビ」という。 )を窃取した。 」旨の器物損壊・窃盗被告事 件(以下「本件被告事件」という。 )でH地方裁判所に公訴提起された。 Aの弁護人は, 同年5月30日, Aについて保釈の請求をしたところ, H地方裁判所裁判 官は, 刑事訴訟法第89条第4号に該当する事由があり, また, 同法第90条に基づく職権に よる保釈を許すべき事情も認められないとして, 同保釈請求を却下した。 2 その後, 本件被告事件は, 公判前整理手続に付することが決定され, 検察官は, 同年6月1 2日, 証明予定事実記載書面を裁判所に提出するとともにAの弁護人に送付し, 併せて, 証 拠の取調べを裁判所に請求し, 当該証拠を同弁護人に開示した。 検察官が取調べを請求した 証拠の概要は次のとおりである(以下, 日付はいずれも平成30年である。 )。 ・ Vの告訴状(甲1号証) 「本件自動車を壊して, 車内にあった現金200万円が入った鞄や本件カーナビを盗ん だ犯人として, Aが逮捕されたと聞いたが, 知らない人である。 盗難被害のほか, 本件自 動車の損壊についても, Aの厳しい処罰を求める。 」 ・ K駐車場の実況見分調書(甲2号証) Vを立会人として行われたK駐車場の実況見分の結果を記載したものであり, 同駐車場の 位置や広さなどのほか, 本件自動車の駐車状況及び被害後の状況を含めた被害現場の状況な どが記載されている。 ・ Vの警察官面前の供述録取書(甲3号証) 「4月1日午後8時頃, 本件自動車をK駐車場に駐車した。 本件自動車及び同車内在中の 鞄, 現金, 本件カーナビは, いずれも私が所有するものである。 主なもので, その日に銀行 から下ろした現金200万円及び本件カーナビ(時価5万円)の損害のほか, 本件自動車の 修理代金として, 約25万円の損害が発生しており, 犯人を早く捕まえてほしい。 」 ・ W1の警察官面前の供述録取書(甲4号証) 「私は, L県内で中古電化製品販売店を営んでおり, 中古電化製品の買取りも行っている。 4月2日午前11時頃, Aとして身分確認をした男性からカーナビゲーションシステム1台 を買い取った。 今刑事さんと一緒に買取台帳等を確認し, 製品番号などから, このとき買い 取ったカーナビゲーションシステムが, 本件カーナビであることが分かった。 本件カーナビ は未販売であり, 警察に提出する。 また, 当店では, 買取りに際し, 自動車運転免許証等で 身分確認をしており, 本件カーナビを売却した男性についても, 自動車運転免許証の提示を 求めた上, その写しを作成して保管しているので, その写しや買取台帳の写しも提出する。 」 ・ 警察官作成の捜査報告書(甲5号証) W1から提出されたカーナビゲーションシステムの写真が添付されており, 同カーナビゲ ーションシステムの製造番号が本件カーナビの製造番号と一致することなどが記載されてい る。 ・ A名義の自動車運転免許証の写し(甲6号証) W1から提出されたA名義の自動車運転免許証の写しであり, 乙2号証の身上調査照会回 答書記載のAの生年月日, 住所地等と合致する記載がある。 ・ W1から提出された買取台帳の写し(甲7号証) 「買取年月日 30年4月2日」, 「顧客名 型番, 製造番号)」, 「買取代金 ・ A」, 「商品 カーナビ1台(メーカー名, 3万3000円」等の記載がある。 W2(男性)の検察官面前の供述録取書(甲8号証) 「私は, 自宅近くのコンビニエンスストアで買い物をして帰宅する途中の4月2日午前4 時頃, K駐車場前の歩道を歩いていたところ, 駐車場内に駐車されていた本件自動車の車内 ランプが光っていることに気付き, 注視しながら同車に近づいた。 同車まで約5メートルの 距離まで近づいたところで, 黒い上下のウィンドブレーカーを着た身長175センチメート ルくらいの男が, 慌てた様子で, ティッシュペーパーの箱を2つ重ねたくらいの大きさの電 化製品に見えるものを持って同車の運転席側のドアから降りてきて, 1秒ほど私と目を合わ せた。 そして, その男が, 同車の横に停車していた自動車の助手席に乗り込むや否や, その 車は急発進し, 私のすぐ左側を通り過ぎ, K駐車場から出て, 左折して走り去った。 私は, 男たちの行動を不審に感じ, 本件自動車に近づいてその様子を見ると, 同車の運転席側の窓 ガラスが割れていたので, 先ほどの男たちが車上荒らしをしたのだと思い, 110番通報を した。 本件自動車から降りてきた男については, 1秒ほど目が合ったし, 自動車が通り過ぎ る際にも助手席側の窓ガラス越しに顔を見たので, その男の顔は覚えている。 検事から, 『こ れらの写真に写っている男の中に, あなたが見た男がいるかもしれないし, いないかもしれ ない。 』と説明を受けた上で, 30枚の男性の顔の写真が貼られたものを見せられたが, 1 2番の写真の男が, 顔の輪郭や目鼻立ち, 特につり上がった目の感じや左頬のあざなどから, 本件自動車から降りてきた男に間違いないと思う。 この12番の写真の男は, 知り合いでは なく, 4月2日に初めて見た男である。 また, 急発進した自動車の運転席には, 助手席に座 っていた男とは別の人物が座っていたが, この人物の性別などは分からない。 12番の写真 の男とは知り合いではないものの, 私はK駐車場の直ぐ隣の一軒家に住んでおり, 12番の 写真の男がその気になれば, 私のことを特定したり, 私の家を知り得ると思うので, 嫌がら せなどされないかが不安だ。 」(末尾に「12番」とされたAの写真が含まれた写真台帳が添 付されている)。 ・ Aの警察官面前の供述録取書(乙1号証) 「私は, 独身で, 3か月前から一人で住所地のマンションに住んでおり, 無職である。 た まに, 工事現場のガードマンとして短期間のアルバイトをして, 生活費を稼いでいる。 K駐 車場には一度も行ったことがない。 本件カーナビをW1が経営する中古電化製品販売店に売 ったことは間違いないが, それは, Bという友人から売却を頼まれて売ったのであり, 本件 カーナビや鞄などを盗んだのは私ではないし, 本件自動車を壊したのも私ではない。 本件カ ーナビが盗品であることは知らなかった。 刑事さんから, 犯行日時に, K駐車場で本件自動 車から出てくる私を見た人がいると聞いたが, 人違いではないかと思う。 」 ・ Aの身上調査照会回答書(乙2号証) Aの氏名, 生年月日, 住所地などが記載されている。 3 Aの弁護人は, 検察官請求証拠を閲覧・謄写した後, 検察官に対して類型証拠の開示の請 求をし, 類型証拠として開示された証拠も閲覧・謄写するなどした上, 「Aが, 公訴事実記載 の器物損壊や窃盗を行った事実はいずれもない。 Aは, 友人Bから本件カーナビの売却の依頼 を受けてこれを中古電化製品販売店に売却したが, 盗品であることは知らなかった。 Aは, 公 訴事実記載の日時頃, K駐車場にはいなかった。 」旨の予定主張事実記載書を裁判所に提出す るとともに検察官に送付し, 併せて, 検察官に対して主張関連証拠の開示の請求をした。 4 検察官は, 本件被告事件について, Aの公訴提起後も, Bなる人物の所在を捜査していたと ころ, Bの所在が判明し, 更に所要の捜査の結果, このBがAの共犯者であった疑いが濃厚と なった。 そうしたところ, 6月26日に, Aに係る本件被告事件の第1回公判前整理手続期日 が開かれたが, その後の7月5日, Bが, 「Aと共謀の上, 4月2日午前4時頃, H県I市J 町2丁目3番K駐車場において, 同所に駐車されていたV所有の本件自動車の運転席側窓ガラ スを割るなどして, 同車を損壊した上, 同車内にあったV所有の現金200万円在中の鞄1個 及び本件カーナビを窃取した。 」旨の器物損壊・窃盗被疑事件で逮捕され, 7月6日, H地方 検察庁検察官に送致された。 Bは, その後, 勾留中の取調べにおいて, 友人Aと相談の上で, 本件自動車を壊して本件カーナビなどを盗んだことを認め, さらに, 本件自動車から盗んだ鞄 内には, 現金200万円のほか, アイドルグループのCD1枚(以下「本件CD」という。 ) が在中し, 同CDを自宅に置いてある旨述べて, 自宅にあったCDを, 親族を通じて, 警察に 提出した。 検察官は, 所要の捜査を遂げ, 同月25日, Bについて, 被害品を「現金200万 円及び本件CD在中の鞄1個並びに本件カーナビ」と変更したほかは, 逮捕事実と同じ事実で, H地方裁判所に公訴提起した。 5 その後, 検察官は, Bに係る事件の捜査を踏まえて, 既に公訴を提起していたAに係る本件 被告事件について, AとBが共謀の上で行った事実である旨証明するに足りる証拠や本件CD も被害品である旨証明するに足りる証拠が収集できたものと判断し, 所要の手続を順次行っ た上, 本件被告事件について, 下記の甲9号証及び甲10号証の証拠を追加で取調べ請求し, それらの証拠をAの弁護人に開示した。 ・ Vの警察官面前の供述調書(甲9号証) 「Bの自宅にあったCDを刑事さんから見せてもらったが, 私宛てで, 私が一番好きなメ ンバーであるQのサインが書かれていることから, 盗まれた私の鞄の中に入っていたものに 間違いない。 見当たらなくなっていたので, もしかしたら盗まれた鞄に入っていたのかとも 思っていたものの, 確信が持てなかったので, 当初は被害品として届けていなかった。 」 ・ Bの検察官面前の供述調書(甲10号証) 「友人であるAと相談して, いわゆる車上荒らしをやることにし, 事前に役割分担を決め た。 具体的には, Aが, マイナスドライバーで, 自動車の窓ガラスを割ってドアのロックを 外し, 車中にある金目の物のほか, カーナビを外して盗み出す役, 私が, Aが助手席に乗る 自動車を運転して, 現場に行き, Aが金目の物やカーナビを盗む間に見張りをして, 盗み終 わった後も運転役をすることを決めた。 4月2日午前4時前頃, 私が運転する私の自動車で K駐車場に行き, 本件自動車の運転席側の隣に私の自動車を停めた。 その後, 助手席から降 りたAが, マイナスドライバーで, 本件自動車の運転席側の窓ガラスを割ってドアのロック を外し, 車中に入った。 私は, エンジンをかけた状態の私の自動車の運転席に座ったまま周 囲に注意を払っていた。 その後, Aは, 鞄1個のほか, 本件カーナビを持って, 車外に出て きたが, その際, 一人の男性が, 私の車の方に近づいてきたのが見えたため, 私は, Aが助 手席に飛び乗るや否や, 私の自動車を急発進させて, K駐車場から逃走した。 本件カーナビ は, Aが, L県内の中古電化製品販売店に3万円くらいで売った。 現金200万円及びAが 売却した本件カーナビの売却金については, Aと二等分した。 また, Aと盗んだ鞄の中には, 現金のほか, 本件CDが入っていたが, Aが要らないと言ったので, 私がもらって自宅に置 いていた。 本件CDについても, Aと一緒に盗んだものに間違いない。 」 6 8月21日に開かれたAに係る本件被告事件の第2回公判前整理手続期日において, 検察官 請求証拠に対し, 弁護人は, 甲8号証及び甲10号証につき, いずれも「不同意」とし, その ほかの証拠については, いずれも「同意」と意見を述べた。 7 同期日において, Aに係る本件被告事件に関し, 検察官は, 「共謀状況及び共同犯行状況等」 を立証趣旨としてBの証人尋問を, 「犯行目撃状況等」を立証趣旨としてW2の証人尋問を請 求した。 裁判所は, 争点を整理した上, 弁護人が同意した証拠についていずれも証拠調べをす る決定をし, 弁護人に対して, B及びW2の証人尋問請求に対する意見を聞いたところ, 弁護 人は, Bについては, 「しかるべく」とし, W2については, 「必要がない」旨の意見を述べた。 裁判長は, 検察官に対し, 「Bに加えてW2を尋問する必要性」について釈明を求め, 検察 官の釈明を聞いた上で, B及びW2につき, いずれも証人として尋問する旨の決定をするなど し, 公判前整理手続を終結した。 8 その後, Aに係る本件被告事件については, 9月12日に開かれた第1回公判期日において, B及びW2の証人尋問などが行われたところ, 同証人尋問において, B及びW2は, それぞれ, 甲8号証, 甲10号証のとおり証言した。 続いて, 同月26日, 第2回公判期日において, 被 告人質問等が行われ, 10月17日, 第3回公判期日において, 検察官及び弁護人がそれぞれ 意見を述べ, 被告人の最終陳述等が行われた上で結審した。 〔設問1〕 下線部に関し, 裁判官が刑事訴訟法第89条第4号の「被告人が罪証を隠滅すると疑うに 足りる相当な理由がある」と判断した思考過程を, その判断要素を踏まえ, 具体的事実を指摘 しつつ答えなさい。 〔設問2〕 下線部に関し, Aの弁護人は, 刑事訴訟法第316条の15第1項柱書き中の「特定の検 察官請求証拠」を甲8号証の「W2の検察官面前の供述録取書」とし, その「証明力を判断す るために重要であると認められるもの」に当たる証拠として @ 本件被告事件の犯行現場の実況見分調書(W2が説明する目撃時の人物等の位置関係, 現場の照度などについて明らかにしたもの) A W2の警察官面前の供述録取書 B 本件被告事件の犯行日時頃, 犯行現場付近に存在した者の供述録取書 の開示の請求をしようと考えた。 弁護人は, 同請求に当たって, 同条第3項第1号イ及びロに 定める事項(同号イの「開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項」は除く。 )につき, 具体的にどのようなことを明らかにすべきか, @からBの証拠についてそれぞれ答えなさい。 〔設問3〕 下線部に関し, 検察官が順次行った所要の手続について, 条文上の根拠に言及しつつ, 簡 潔に説明しなさい。 〔設問4〕 下線部に関し, 以下の各問いについて答えなさい。 検察官は, W2の供述によって「Aが公訴事実記載の器物損壊や窃取に及んだ」という事実 を立証しようと考えている。 この場合, W2の供述は, 直接証拠又は間接証拠のいずれに当た るか, 具体的理由を付して答えなさい。 裁判長が, 検察官に対し, 「Bに加えてW2を尋問する必要性」について釈明を求めたのは なぜか, 条文上の根拠を示しつつ答えなさい。 検察官は, W2を尋問する必要性について, どのように釈明すべきか答えなさい。 〔設問5〕 Aに係る本件被告事件の公判前整理手続終結後, 第1回公判期日前である8月28日, Bが Vに対して250万円を弁償し, 同日, 弁償金を受領した旨の領収証がVからBに交付された。 Aの弁護人は, 9月15日, 同領収証の写しを入手したため, これを第2回公判期日において, 取調べ請求したいと考えた。 この場合における, 刑事訴訟法上及び弁護士倫理上の問題につい てそれぞれ論じなさい。 (出題の趣旨) 本問は, 犯人性が争点となる器物損壊, 窃盗事件(共犯事件)を題材に, 保釈に おける罪証隠滅のおそれの判断要素(設問1), 類型証拠開示請求の要件(設問2), 訴因の変更の請求及び証明予定事実の追加・変更の手続(設問3), 器物損壊事実 及び窃取事実を認定する証拠構造, 証拠の厳選, 共犯者供述と第三者供述の信用性 の相違に着目した証人尋問の必要性(設問4), 公判前整理手続終了後の証拠調べ 請求の制限, 犯人性を否認している被告人の弁護において共犯者が行った弁償事実 に関する証拠を取調べ請求する際の弁護士倫理上の問題点(設問5)について, 【事 例】に現れた証拠や事実, 手続の経過を適切に把握した上で, 法曹三者それぞれの 立場から, 主張・立証すべき事実やその対応についての思考過程を解答することを 求めており, 刑事事実認定の基本構造, 証拠法及び公判手続等についての基本的知 識の理解並びに基礎的実務能力を試すものである。 [一般教養科目] 次の文章は, ナンシー・フレイザーとアクセル・ホネットとの論争の書である『再配分か承認 か?』のうち, ナンシー・フレイザーによって書かれた文章の一部である。 これを読んで, 後記の 設問に答えよ。 (省 略) 〔設問1〕 筆者は, 本文中で, 社会正義の実現のための手段として, 「再配分」と「承認」の2つを挙げて いる。 それぞれの特徴について, 具体例を挙げつつ, 15行程度で述べなさい。 〔設問2〕 筆者は, 社会正義の実現のためには「再配分」と「承認」の両方が必要であり, そのいずれか一 方だけでは十分ではないと主張している。 この見解の論拠について考察した上で, 筆者の主張に対するあなた自身の考えを20行程度で論 じなさい。 なお, 解答に当たっては, 筆者の主張に対する賛否を明らかにするとともに, あなたの 考えを裏付ける適切な具体例を踏まえること。 【出典】ナンシー・フレイザー/アクセル・ホネット 加藤泰史監訳『再配分か承認か? 政治・哲学論争』 (出題の趣旨) 設問1は, 社会正義の実現に関する記述を前提に, 社会正義実現のための手段と しての「再配分」と「承認」についての理解を問うものである。 回答に当たっては, 「再配分」及び「承認」の意義を正確に読み解いた上で, そ れぞれの特徴について, 適切な具体例を挙げつつ, 的確に説明することが求められ る。 設問2は, 「今日の正義は再配分と承認の両方を必要としている」という筆者の 主張に対する, 各自の見解を問うものである。 上記のような筆者の主張の論拠については本文中で明確にされていないことから, 回答に当たっては, 「再配分」と「承認」についての正確な理解を前提として, 両 者の関係について考察を深めることが求められる。 その上で, 上記のような主張に 対する賛否を明確にするとともに, 適切な具体例を挙げつつ, 自身の見解を的確に 論じることが求められる。 いずれの設問においても, 全体として指定の分量で簡潔に記述する能力も求めら れる。