令和元年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨 [憲 法] 次の文章を読んで, 後記の〔設問〕に答えなさい。 甲市は, 農業や農産品の加工を主産業とする小さな町である。 近年, 同市ではこれらの産業に 従事する外国人が急増しているが, そのほとんどはA国出身の者である。 甲市立乙中学校は, A国 民の集住地区を学区としており, 小規模校であることもあって生徒の4分の1がA国民となってい る。 A国民のほとんどはB教という宗教の信者である。 XはA国民の女性であり, 乙中学校を卒業し, 甲市内の農産品加工工場で働いている。 Xの親 もA国民であり, Xと同じ工場に勤務している。 この両名(以下「Xら」という。 )は熱心なB教 徒であり, その戒律を忠実に守り, 礼拝も欠かさない。 B教の戒律によれば, 女性は家庭内以外に おいては, 顔面や手など一部を除き, 肌や髪を露出し, あるいは体型がはっきり分かるような服装 をしてはならない。 これはB教における重要な戒律であるとされている。 ところで, Xが工場に勤務するようになった経緯として, 次のようなことがあった。 Xらは, Xの中学校入学当初より毎年, 保健体育科目のうち水泳については, 戒律との関係で水着(学校指 定のものはもちろん, 肌の露出を最小限にしたものも含む。 )を着用することができず参加できな いので, プールサイドでの見学及びレポートの提出という代替措置をとるように要望していた。 な お, Xは, 水泳以外の保健体育の授業及びその他の学校生活については, 服装に関して特例が認め られた上で他の生徒と同様に参加している。 しかし, 乙中学校の校長は, 検討の上, 水泳の授業については, 代替措置を一切とらないこと とした。 その理由として, まず, 信仰に配慮して代替措置をとることは教育の中立性に反するおそ れがあり, また, 代替措置の要望が真に信仰を理由とするものなのかどうかの判断が困難であると した。 さらに, 上記のように, 乙中学校の生徒にはB教徒も相当割合含まれているところ, 戒律と の関係で葛藤を抱きつつも水泳授業に参加している女子生徒もおり, 校長は, Xらの要望に応える ことはその意味でも公平性を欠くし, 仮にXらの要望に応えるとすると, 他のB教徒の女子生徒も 次々に同様の要望を行う可能性が高く, それにも応えるとすれば, 見学者が増える一方で水泳実技 への参加者が減少して水泳授業の実施や成績評価に支障が生じるおそれがあるとも述べた。 Xは, 3年間の中学校在籍中に行われた水泳の授業には参加しなかったが, 自主的に見学をして レポートを提出していた。 担当教員はこれを受領したものの, 成績評価の際には考慮しなかった。 調査書(一般に「内申書」と呼ばれるもの)における3年間の保健体育の評定はいずれも, 5段階 評価で低い方から2段階目の「2」であった。 Xは運動を比較的得意としているため, こうした低 評価には上記の不参加が影響していることは明らかであり, 学校側もそのような説明を行っている。 Xは近隣の県立高校への進学を希望していたが, 入学試験において調査書の低評価により合格最低 点に僅かに及ばず不合格となり, 経済的な事情もあって私立高校に進学することもできず, 冒頭に 述べたとおり就労の道を選んだ。 客観的に見て, 保健体育科目で上記の要望が受け入れられていれ ば, Xは志望の県立高校に合格することができたと考えられる。 Xは, 戒律に従っただけであるのに中学校からこのような評価を受けたことに不満を持っており, 法的措置をとろうと考えている。 〔設問〕 必要に応じて対立する見解にも触れつつ, この事例に含まれる憲法上の問題を論じなさい。 なお, Xらに永住資格はないが, 適法に滞在しているものとする。 また, 学習指導要領上, 水泳 実技は中学校の各学年につき必修とされているものとする。 (出題の趣旨) 本問では, 主として@信教の自由に基づく一般的な義務の免除の可否, A代替措 置を講じることの政教分離原則との関係など具体的な検討が問題となるほか,B教 育を受ける権利, C外国人の人権享有主体性や未成年者の人権等の論点が含まれる。 判例としては, 剣道受講拒否事件(最高裁判所第二小法廷平成8年3月8日判決, 民集50巻3号469頁)を意識することが求められる。 もっとも, 事案には異な るところが少なくないので, 直接参考になるとは限らず, 同事件との異同を意識し つつ, 事案に即した検討が必要である。 @については, 水泳実技への参加とB教の教義との関係, 代替措置が認められな いことによる結果の重大性などを事案に即して把握し, 信教の自由への影響の大き さを的確に把握して, 判断枠組みを設定することが求められる。 Aは, @で設定した判断枠組みに基づく具体的検討に当たるものである。 政教分 離原則との関係の点も含め, 代替措置をとらないことについて校長が示した理由が 詳しく述べられているので, それに即して分析を進めることが必要である。 以上が必ず論じてもらいたい内容であり, BCはそれに比較すると優先度は落ち るが, 詳しく検討するためには必要な点である。 特に, 本件は, 正面からその侵害 を問題とするかどうかはともかく, 社会権である教育を受ける権利が関わってくる 事案である。 社会権は外国人には保障されないという一般論が, 学習権を背景とす る教育を受ける権利との関係でも妥当するかという問題意識を感じてもらいたいと ころである。 [行政法] 屋外広告物法は, 都道府県が条例により「屋外広告物」(常時又は一定の期間継続して屋外で公 衆に表示されるものであって, 看板, 立看板, はり紙及びはり札並びに広告塔, 広告板, 建物その 他の工作物等に掲出され, 又は表示されたもの並びにこれらに類するもの)を規制することを認め ており, これを受けて, A県は, 屋外広告物(以下「広告物」という。 )を規制するため, A県屋 外広告物条例(以下「条例」という。 )を制定している。 条例は, 一定の地域, 区域又は場所につ いて, 広告物又は広告物を掲出する物件(以下「広告物等」という。 )の表示又は設置が禁止され ている禁止地域等としているが, それ以外の条例第6条第1項各号所定の地域, 区域又は場所(以 下「許可地域等」という。 )についても, 広告物等の表示又は設置には, 同項により, 知事の許可 を要するものとしている。 そして, 同項及び第9条の委任を受けて定められたA県屋外広告物条例 施行規則(以下「規則」という。 )第10条第1項及び別表第4は, 各広告物等に共通する許可基 準を定め, 規則第10条第2項及び別表第5二は, 建築物等から独立した広告物等の許可基準を定 めている。 広告事業者であるBは, A県内の土地を賃借し, 依頼主の広告を表示するため, 建築物等から 独立した広告物等である広告用電光掲示板(大型ディスプレイを使い, 店舗や商品のコマーシャル 映像を放映するもの。 以下「本件広告物」という。 )の設置を計画した。 そして, 当該土地が都市 計画区域内であり, 条例第6条第1項第1号所定の許可地域等に含まれているため, Bは, A県知 事に対し, 同項による許可の申請(以下「本件申請」という。 )をした。 本件広告物の設置が申請された地点(以下「本件申請地点」という。 )の付近には鉄道の線路が あり, その一部区間の線路と本件申請地点との距離は100メートル未満である。 もっとも, 当該 区間の線路は地下にあるため, 設置予定の本件広告物を電車内から見通すことはできない。 また, 本件申請地点は商業地域ではなく, 本件広告物は「自己の事務所等に自己の名称等を表示する広告 物等」には該当しない。 これらのことから, A県の担当課は, 本件申請について, 規則別表第5二 (ハ)の基準(以下「基準1」という。 )に適合しない旨の判断をした。 他方, 規則別表第4及び 第5のその他の基準については適合するとの判断がされたことから, 担当課は, Bに対し, 本件広 告物の設置場所の変更を指導したものの, Bは, これに納得せず, 設置場所の変更には応じていな い。 一方, 本件申請がされたことは, 本件申請地点の隣地に居住するCの知るところとなった。 そ して, Cは, 本件広告物について, 派手な色彩や動きの速い動画が表示されることにより, 落ちつ いた住宅地である周辺の景観を害し, また, 明るすぎる映像が深夜まで表示されることにより, 本 件広告物に面した寝室を用いるCの安眠を害するおそれがあり, 規則別表第4二の基準(以下「基 準2」という。 )に適合しないとして, これを許可しないよう, A県の担当課に強く申し入れてい る。 以上を前提として, 以下の設問に答えなさい。 なお, 条例及び規則の抜粋を【資料】として掲げるので, 適宜参照しなさい。 〔設問1〕 A県知事が本件申請に対して許可処分(以下「本件許可処分」という。 )をした場合, Cは, こ れが基準2に適合しないとして, 本件許可処分の取消訴訟(以下「本件取消訴訟1」という。 )の 提起を予定している。 Cは, 本件取消訴訟1における自己の原告適格について, どのような主張を すべきか。 想定されるA県の反論を踏まえながら, 検討しなさい。 〔設問2〕 A県知事が本件広告物の基準1への違反を理由として本件申請に対して不許可処分(以下「本 件不許可処分」という。 )をした場合, Bは, 本件不許可処分の取消訴訟(以下「本件取消訴訟2」 という。 )の提起を予定している。 Bは, 本件取消訴訟2において, 本件不許可処分の違法事由と して, 基準1が条例に反して無効である旨を主張したい。 この点につき, Bがすべき主張を検討し なさい。 【資料】 ○ A県屋外広告物条例(抜粋) (目的) 第1条 この条例は, 屋外広告物法に基づき, 屋外広告物(以下「広告物」という。 )及び屋外広告 業について必要な規制を行い, もって良好な景観を形成し, 及び風致を維持し, 並びに公衆に対 する危害を防止することを目的とする。 (広告物の在り方) 第2条 広告物又は広告物を掲出する物件(以下「広告物等」という。 )は, 良好な景観の形成を阻 害し, 及び風致を害し, 並びに公衆に対し危害を及ぼすおそれのないものでなければならない。 (許可地域等) 第6条 次の各号に掲げる地域, 区域又は場所(禁止地域等を除く。 以下「許可地域等」という。 ) において, 広告物等を表示し, 又は設置しようとする者は, 規則で定めるところにより, 知事の 許可を受けなければならない。 一 都市計画区域 二 道路及び鉄道等に接続し, かつ, 当該道路及び鉄道等から展望できる地域のうち, 知事が交 通の安全を妨げるおそれがあり, 又は自然の景観を害するおそれがあると認めて指定する区域 (第1号の区域を除く。 ) 三, 四 五 略 前各号に掲げるもののほか, 知事が良好な景観を形成し, 若しくは風致を維持し, 又は公衆 に対する危害を防止するため必要と認めて指定する地域又は場所 2 略 (許可の基準) 第9条 ○ 第6条第1項の規定による許可の基準は, 規則で定める。 A県屋外広告物条例施行規則(抜粋) (趣旨) 第1条 この規則は, A県屋外広告物条例(以下「条例」という。 )に基づき, 条例の施行に関し必 要な事項を定めるものとする。 (許可の基準) 第10条 条例第6条第1項の規定による許可の基準のうち, 各広告物等に共通する基準は, 別表第 4のとおりとする。 2 前項に規定するもののほか, 条例第6条第1項の規定による許可の基準は別表第5のとおりとす る。 別表第4(第10条第1項関係) 一 地色に黒色又は原色(赤, 青及び黄の色をいう。 )を使用したことにより, 良好な景観の形成を 阻害し, 若しくは風致を害し, 又は交通の安全を妨げるものでないこと。 二 蛍光塗料, 発光塗料又は反射の著しい材料等を使用したこと等により, 良好な景観の形成を阻害 し, 若しくは風致を害し, 又は交通の安全を妨げるものでないこと。 別表第5(第10条第2項関係) 一 略 二 建築物等から独立した広告物等 (イ) 一表示面積は, 30平方メートル以下であること。 (ロ) 上端の高さは, 15メートル以下であること。 (ハ) 自己の事務所等に自己の名称等を表示する広告物等以外の広告物等について, 鉄道等までの 距離は, 100メートル(商業地域にあっては, 20メートル)以上であること。 三〜九 略 (出題の趣旨) 設問1においては, A県屋外広告物条例(以下「条例」という。 )に基づく広告 物設置等の許可処分(以下「本件許可処分」という。 )について, それにより景観 や生活・健康が害されることを主張する隣地居住者の原告適格を, 当該原告の立場 から検討することが求められる。 まず, 行政事件訴訟法第9条第1項所定の「法律上の利益を有する者」に関する 最高裁判例で示されてきた判断基準について, 第三者の原告適格の判断に即して, 正しく説明されなければならない。 その上で, 原告が主張する景観と生活・健康(安眠)に関する利益について, そ れぞれ, 本件許可処分の根拠法規である条例やA県屋外広告物条例施行規則(以下 「規則」という。 )によって保護されているものであることが, 許可の要件や目的 などに即して, 具体的に説明されなければならない。 さらに, これらの利益について, それらが一般的な公益に解消しきれない個別的 利益といえることが, その利益の内容や範囲等の具体的な検討を通じて, 説明され なければならない。 設問2においては, 許可地域等において広告物等と鉄道等との距離を要件とする 規則所定の許可基準について, 条例がこれを委任した趣旨に適合し委任の範囲内に あるかを, その無効を主張する原告の立場から検討することが求められる。 まず, この規則が定める許可基準が条例の委任に基づいて定められた委任命令で あり, 条例の委任の趣旨に反すれば無効となることが明確にされなければならない。 つぎに, 条例の委任の趣旨, 言い換えれば条例が許可制度を設けた趣旨について, 目的規定, 許可地域等の定め方など, 条例の規定に照らして, 具体的に検討されな ければならない。 最後に, こうした目的に照らして, 鉄道から広告物等が見通せるか否かを問題に することなく, それとの距離を要件とする許可基準の定め方につき, これが条例の 委任の趣旨と矛盾することから, これを定める規則が無効であるとの結論が導かれ るべきこととなる。 [民 法] 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事実】 1.Aは早くに妻と死別したが, 成人した一人息子のBはAのもとから離れ, 音信がなくなってい た。 Aは, いとこのCに家業の手伝いをしてもらっていたが, 平成20年4月1日, 長年のCの 支援に対する感謝として, ほとんど利用していなかったA所有の更地(時価2000万円。 以下 「本件土地」という。 )をCに贈与した。 同日, 本件土地はAからCに引き渡されたが, 本件土 地の所有権の移転の登記はされなかった。 2.Cは, 平成20年8月21日までに本件土地上に居住用建物(以下「本件建物」という。 )を 建築して居住を開始し, 同月31日には, 本件建物についてCを所有者とする所有権の保存の 登記がされた。 3.平成28年3月15日, Aが遺言なしに死亡し, 唯一の相続人であるBがAを相続した。 Bは, Aの財産を調べたところ, Aが居住していた土地建物のほかに, A所有名義の本件土地がある こと, また, 本件土地上にはCが居住するC所有名義の本件建物があることを知った。 4.Bは, 多くの借金を抱えており, 更なる借入れのための担保を確保しなければならなかった。 そこで, Bは, 平成28年4月1日, 本件土地について相続を原因とするAからBへの所有権の 移転の登記をした。 さらに, 同年6月1日, Bは, 知人であるDとの間で, 1000万円を借り 受ける旨の金銭消費貸借契約を締結し, 1000万円を受領するとともに, これによってDに対 して負う債務(以下「本件債務」という。 )の担保のために本件土地に抵当権を設定する旨の抵 当権設定契約を締結し, 同日, Dを抵当権者とする抵当権の設定の登記がされた。 5.BD間で【事実】4の金銭消費貸借契約及び抵当権設定契約が締結された際, Bは, Dに対し, 本件建物を所有するCは本件土地を無償で借りているに過ぎないと説明した。 しかし, Dは, Cが本件土地の贈与を受けていたことは知らなかったものの, 念のため, 対抗力のある借地権 の負担があるものとして本件土地の担保価値を評価し, Bに対する貸付額を決定した。 〔設問1〕 Bが本件債務の履行を怠ったため, 平成29年3月1日, Dは, 本件土地について抵当権の実 行としての競売の申立てをした。 競売手続の結果, 本件土地は, D自らが950万円(本件債務の 残額とほぼ同額)で買い受けることとなり, 同年12月1日, 本件土地についてDへの所有権の移 転の登記がされた。 同月15日, Dが, Cに対し, 本件建物を収去して本件土地を明け渡すよう請 求する訴訟を提起したところ, Cは, Dの抵当権が設定される前に, Aから本件土地を贈与された のであるから, 自分こそが本件土地の所有者である, 仮に, Dが本件土地の所有者であるとしても, 自分には本件建物を存続させるための法律上の占有権原が認められるはずであると主張した。 この場合において, DのCに対する請求は認められるか。 なお, 民事執行法上の問題について は論じなくてよい。 【事実(続き)】( 〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。 ) 6.平成30年10月1日, Cは, 本件土地の所有権の移転の登記をしようと考え, 本件土地の登 記事項証明書を入手したところ, AからBへの所有権の移転の登記及びDを抵当権者とする抵 当権の設定の登記がされていることを知った。 〔設問2〕 平成30年11月1日, Cは, Bに対し, 本件土地の所有権移転登記手続を請求する訴訟を, Dに対し, 本件土地の抵当権設定登記の抹消登記手続を請求する訴訟を, それぞれ提起した。 このうち, CのDに対する請求は認められるか。 (出題の趣旨) 設問1は, 同一不動産をめぐって多重の取引がされた事案を題材として, 不動産 物権変動の優劣に関する基本的な知識・理解を問うとともに, 事案に即した分析能 力や法的思考力を試すものである。 解答に当たっては, 所有権に基づく物権的返還請求権の各要件を検討する必要が あり, 特に, 抵当権設定と贈与による所有権移転との対抗関係を丁寧に説明するこ とが求められる。 また, Cの占有権原の有無については, 法定地上権の成否が特に 問われるが, その制度趣旨や事案に現れている諸事情を踏まえて検討することが求 められる。 設問2は, 不動産が10年間以上占有された事案を題材として, 取得時効の要件 に関する基本的な知識・理解を問うとともに, 取得時効の効果等について, 事案に 即した分析能力を試すものである。 解答に当たっては, 所有権に基づく妨害排除請求権の各要件を検討する必要があ るが, 短期取得時効の各要件について当てはめを行った上で, 取得時効の効果は抵 当権の消滅を伴うものであるのか, 仮に消滅を伴う場合にはこれを主張するために 登記が必要となるのかなどについて論じることが求められる。 [商 法] 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。 )は, 加工食品の輸入販売業を営む取締役会設置会社であり, かつ, 監査役設置会社である。 甲社は, 種類株式発行会社ではなく, その定款には, 譲渡による甲 社株式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがあるが, 株主総会の定足数及び決 議要件について, 別段の定めはない。 2.甲社の発行済株式の総数は200株であり, 平成28年12月1日に創業者Aが急死するまでは, Aが100株を, Aの妻Bが全株式を有し代表取締役を務める乙株式会社(以下「乙社」という。 ) が40株を, Aの長男Cが30株を, Aの長女Dが20株を, Aの二女Eが10株を, それぞれ有 していた。 3.甲社の定款には, 取締役は3人以上, 監査役は1人以上とする旨の定めがあり, また, 取締役及 び監査役の任期をいずれも選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株 主総会の終結の時までとする旨の定めがある。 Aが死亡する直前では, A及びCが甲社の代表取締 役を, D及びEが取締役を, 甲社の従業員出身Fが監査役を, それぞれ務めていた。 甲社の役員構 成については, Aの死亡後も, Aが死亡により取締役を退任したこと以外に変更はない。 4.Aの死亡後, Aの全相続人であるB, C, D及びEが出席した遺産分割協議の場において, Cは, Aが有していた甲社株式100株を全てCが相続する案を提示した。 しかし, Dが強く反対したた め遺産分割協議が調わず, 当該株式については株主名簿の名義書換や共有株式についての権利を行 使すべき者の指定がされないままであった。 5.この頃から甲社の経営方針をめぐるCとDの対立が激しくなった。 Cは, 何かにつけてDを疎ん じ, 甲社の経営を独断で行うようになった。 Cは, 甲社の経営の多角化を積極的に進めるために, 知人の経営コンサルタントに多額の報酬を支払って雑貨の輸入販売業にも進出した。 しかし, その 業績は思うように伸びず, ついには多額の損失が生ずるようになった。 Dは, このままでは甲社の 経営が破綻するのではないかと恐れ, 平成31年3月頃, Cの経営手腕の未熟さについてBに訴え た。 Bは, CとDが協力して甲社を経営していくことを望んでいたが, 他方では, Cの経営手腕に 不安を抱いていたので, この際, DがCに代わって甲社の経営を担うのもやむを得ないとの考えに 至り, Dを支援することとした。 6.平成31年4月22日, 乙社は, Dが全株式を有し代表取締役を務める丙株式会社(以下「丙社」 という。 )との間で, 乙社を分割会社, 丙社を承継会社とする吸収分割(以下「本件会社分割」と いう。 )を行い, これにより, 乙社が有する甲社株式40株を全て丙社に承継させた。 丙社は甲社 に対して株主名簿の名義書換請求をしたが, Cは甲社を代表して本件会社分割による甲社株式の取 得が甲社の取締役会の承認を得ていないことを理由にこれを拒絶した。 このことがあってから, C は, Dを強く警戒するようになり, Dを甲社の経営から排除することを考え始めた。 7.令和元年5月9日にCの招集により開催された甲社の取締役会には, C, D, E及びFが出席し た。 定例の報告が終わった後, Cは, 決議事項として予定されていなかったDの取締役からの解任 を目的とする臨時株主総会の開催を提案した。 驚いたDは激しく抵抗したが, Cは決議について特 別の利害関係を有するという理由でDを議決に参加させることなく, C及びEの賛成をもって, D の取締役からの解任を目的とする臨時株主総会を同月20日午前10時に甲社本店会議室で開催す ることを決議した(以下「本件取締役会決議」という。 )。 〔設問1〕 上記1から7までを前提として, 本件取締役会決議の効力を争うためにDの立場において考えら れる主張及びその主張の当否について, 論じなさい。 8.Cは, 令和元年5月10日, 本件取締役会決議に基づき, 乙社, C, D及びEに対し, 臨時株主 総会の招集通知を発した。 同月20日午前10時に甲社本店会議室で開催された臨時株主総会(以 下「本件株主総会」という。 )には, C, D及びEが出席したが, 乙社を代表するBは病気と称し て出席しなかった。 本件株主総会では, 定款の定めに基づき, Cが議長となり, Dを取締役から解 任する旨の議案につき, C及びEは賛成し, Dは反対した。 Dは, 丙社を代表して丙社が本件会社 分割により取得した甲社株式40株についても議決権を行使して当該議案につき反対する旨主張し た。 しかし, 議長であるCは, これを認めず, 行使された議決権60個のうち40個の賛成があっ たとして, Dを取締役から解任する旨の決議の成立を宣言した(以下「本件株主総会決議」という。 )。 〔設問2〕 本件株主総会決議の効力を否定するためにDの立場において考えられる主張(〔設問1〕の本件 取締役会決議の効力に関する事項を除く。 )及びその主張の当否について, 論じなさい。 (出題の趣旨) 本問は, 取締役の解任を目的とする株主総会の招集を決定する取締役会決議の効 力(〔設問1〕)及び取締役を解任する株主総会決議の効力(〔設問2〕)を, それぞ れその効力を否定する立場からの主張とその当否という形で問うものである。 設問1では, Dは, まず, 本件取締役会決議が予定されていなかった事項に関す る決議であった点が違法であると主張することが考えられるが, 会社業務に関し臨 機応変に対応すべき取締役会では, 決議事項として予定されていなかった事項であ っても必要に応じ決議することができると解される。 次に, Dは, Dを特別利害関 係人(会社法第369条第2項)に当たるとして議決に参加させなかった点が違法 であると主張することが考えられる。 代表取締役を解職する取締役会決議について は, 当該決議の対象となる代表取締役は特別利害関係人に当たるとする判例(最判 昭和44年3月28日民集23巻3号645頁)があり, これとの距離感を踏まえ て検討することが求められる。 そして, Dが特別利害関係人に当たるとする場合に は, 本件取締役会決議が成立要件(同条第1項)を満たしているか, 当たらないと する場合には, 瑕疵のある取締役会決議の効力が問題となる。 設問2では, Dは, 株主総会決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項)を 提起するため, 取消事由として, まず, Aが保有していた甲社株式100株を定足 数要件の分母に算入すれば定足数(同法第341条)を満たさないため, 決議の方 法の法令違反に当たる(同法第831条第1項第1号)と主張することが考えられ る。 当該100株については, 遺産分割未了のまま相続人B, C, D及びEの共有 状態にあり, 権利行使者の指定・通知がないので, 甲社の同意がない限り議決権を 行使することができない(同法第106条)ため, 「議決権を行使することができ る株主の議決権」(定足数要件の分母。 同法第341条)には含まれないと文言上 は考えられるが, 他方, 共有株式は権利行使者の指定・通知があるまで暫定的に議 決権を行使できないだけで, 定足数要件の分母には含まれるという解釈があり, こ のような解釈も踏まえつつ検討することが求められる。 次に, Dは, 取消事由とし て, 本件会社分割による譲渡制限株式の承継は譲渡承認を要しない「一般承継」(同 法第134条第4号)に該当するから, 株主名簿の名義書換の不当拒絶があり, 丙 社は名義書換がなくとも自己が株主であることを甲社に対抗できるため, 丙社に招 集通知を発しなかった点は招集の手続の法令違反に, 丙社の議決権を認めなかった 点は決議の方法の法令違反に, それぞれ当たる(同法第831条第1項第1号)と 主張することが考えられる。 会社分割は, 合併と同じく組織再編の一形態とされて いるが, 他方, 合併と異なり分割会社は依然として存続し, 承継される権利義務の 範囲は当事会社の裁量に委ねられており, このような異同も踏まえつつ検討するこ とが求められる。 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は, 1:1) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例】 Y株式会社(以下「Y」という。 )は, 甲土地を所有していた。 X1は, 自宅兼店舗を建築する 予定で土地を探し, 甲土地が空き地となっていたことから, 購入を考えた。 X1は, 娘Aの夫で事 業を引き継がせようと考えていたX2に相談し, 共同で購入することとして, 甲土地の購入を決め た。 X1は, 甲土地の購入に当たり, Yの代表取締役Bと交渉し, X1とX2(以下「X1ら」と いう。 )は, Yとの間で甲土地の売買契約を締結した。 X1らは, 売買代金を支払ったが, Yの方 で登記手続を全く進めようとしない。 そこで, X1らは, Yを相手取って, 甲土地について, 売買 契約に基づく所有権移転登記手続を求める訴え(以下「本件訴え」という。 )を提起した。 〔設問1〕 X1は, 本件訴えの提起に際して, 体調が優れなかったこともあり, X2に訴訟への対応を任せ ることとした。 そのため, 専らX2がX1らの訴訟代理人である弁護士Lとの打合せを行って本件 訴えを提起したが, X1は, Yに訴状が送達される前に急死してしまった。 X1の唯一の相続人は Aであった。 X2は, X1から自分に訴訟対応を任されたという意識があったため, X1の死亡の事実をLに 伝えなかった。 訴訟の手続はそのまま進行したが, Yは, 争点整理手続終了近くになって, X1の 死亡の事実を知った。 Yは, X1の死亡の事実を知って, 「本件訴えは却下されるべきである。 」と主張した。 このYの主張に対し, X2側としてどのような対応をすべきであるかについて, 論じなさい。 【事例(続き)】( 〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。 ) 本件訴えに係る訴訟(以下「前訴」という。 )においては, 唯一の争点として甲土地の売買契約 の成否が争われた。 裁判所は, X1ら主張の売買契約の成立を認め, X1らの請求を全て認容する 判決(以下「前訴判決」という。 )を言い渡し, この判決は確定した。 しかし, Bは, 前訴の口頭弁論終結前に, 甲土地について処分禁止の仮処分がされていないこと を奇貨として, 強制執行を免れる目的で, Bの息子Zと通謀し, YからZに対する贈与を原因とす る所有権移転登記手続をした。 X1らは, 前訴判決の確定後にその事実を知った。 そこで, X1ら は, YとZとの間の贈与契約は虚偽表示によりされたものであると主張し, Zに対して甲土地の所 有権移転登記手続を求める訴え(以下, この訴えに係る訴訟を「後訴」という。 )を提起した。 Z は, 後訴においてX1らとYとの間の売買契約は成立していないと主張した。 〔設問2〕 X1らは, 上記のようなZの主張は前訴判決によって排斥されるべきであると考えている。 X1 らの立場から, Zの主張を排斥する理論構成を展開しなさい。 ただし, 「信義則違反」及び「争点 効」には触れなくてよい。 (出題の趣旨) 本問は, 当事者に生じた事情変更に関する諸問題についての理解を問うものであ る。 そして, 具体的な事実関係を的確に読み込み, 一方当事者側(本問では原告側) から問題を処理し得る理論構成ができるかを評価するものである。 設問1では, 訴え提起後訴訟係属前に共同原告の一人が死亡してしまった場合に, 残った原告側の対応が問題となっている。 具体的には, 判例の立場では固有必要的 共同訴訟とされる本件共同訴訟の性質を踏まえつつ, 原告側での死者名義訴訟の処 理について検討することが求められている。 設問2は, 前訴判決の既判力を第三者に拡張できるかを問うものである。 問題文 では, 原告らが売買を理由とする土地の移転登記手続を求めていた前訴の口頭弁論 終結前に登記が被告から第三者に移転しており, その移転を原告らが知り得ないま ま, 原告ら勝訴判決を得て, それが確定した。 その後, 原告らが当該第三者への登 記移転の事実を知り, 当該第三者に対して所有権移転登記請求訴訟を提起した場合 に, 前訴判決の既判力が当該第三者に及ぶとする(原告ら側からの)理論構成を問 うものである。 主に, 民事訴訟法第115条第1項第4号(目的物の所持者)の類 推適用可能性が問われている。 [刑 法] 以下の事例に基づき, 甲の罪責について論じなさい(Aに対する詐欺(未遂)罪及び特別法違反の点は除く。 ) 。 1 不動産業者甲は, 某月1日, 甲と私的な付き合いがあり, 海外に在住し日本国内に土地(以下「本件土地」 という。 時価3000万円)を所有する知人Vから, Vが登記名義人である本件土地に抵当権を設定してV のために1500万円を借りてほしいとの依頼を受けた。 甲は, 同日, それを承諾し, Vから同依頼に係る代理権を付与され, 本件土地の登記済証や委任事項欄の 記載がない白紙委任状等を預かった。 甲は, 銀行等から合計500万円の借金を負っており, その返済期限を徒過し, 返済を迫られている状況 にあったことから, 本件土地の登記済証等をVから預かっていることやVが海外に在住していることを奇 貨として, 本件土地をVに無断で売却し, その売却代金のうち1500万円を借入金と称してVに渡し, 残金を自己の借金の返済に充てようと考えた。 そこで, 甲は, 同月5日, 本件土地付近の土地を欲しがっていた知人Aに対し, 「知人のVが土地を売り たがっていて, 自分が代理人としてその土地の売却を頼まれているんです。 その土地は, Aさんが欲しが っていた付近の土地で, 2000万円という安い値段なので買いませんか。 」と言い, Aは, 甲の話を信用 して本件土地を購入することとした。 その際, 甲とAは, 同月16日にAが2000万円を甲に渡し, それと引き換えに, 甲が所有権移転登記 に必要な書類をAに交付し, 同日に本件土地の所有権をAに移転させる旨合意した。 甲は, 同月6日, A 方に行き, 同所で, 本件土地の売買契約書2部の売主欄にいずれも「V代理人甲」と署名してAに渡し, Aがそれらを確認していずれの買主欄にも署名し, このように完成させた本件土地の売買契約書 2部のうち1部を甲に戻した(甲のAとの間の行為について表見代理に関する規定の適用はない ものとする。 )。 2 その後, Vは, 同月13日, 所用により急遽帰国したが, 同日, Aから本件土地に関する問い合わせを受 けたことで甲の行動を知って激怒し, 同月14日, 甲を呼び付け, 甲に預けていた本件土地の登記済証や白 紙委任状等を回収した。 その際, Vは, 甲に対し, 「俺の土地を勝手に売りやがって。 今すぐAの所に行っ て売買契約書を回収してこい。 明後日までに回収できなければ, お前のことを警察に通報するからな。 」と 怒鳴った。 甲は, 同月14日, Aに会いに行き, 本件土地の売買契約書を回収させてほしいと伝えたが, Aからこ れを断られた。 3 甲は, 自己に対して怒鳴っていたVの様子から, 同売買契約書をAから回収できなかったことをVに伝 えれば, 間違いなくVから警察に通報され, 逮捕されることになるし, 不動産業(宅地建物取引業)の免許 を取り消されることになるなどと考え, それらを免れるには, Vを殺すしかないと考えた。 そこで, 甲は, Vを呼び出した上, Vの首を絞めて殺害し, その死体を海中に捨てることを計画し, 同 月15日午後10時頃, 電話でVに「話がある。 」と言って, 日本におけるVの居住地の近くにある公園に Vを呼び出し, その頃, 同所で, Vの首を背後から力いっぱいロープで絞めた。 それによりVは失神したが, 甲は, Vが死亡したものと軽信し, その状態のVを自車に載せた上, 同車 で前記公園から約1キロメートル離れた港に運び, 同日午後10時半頃, 同所で, Vを海に落とした。 そ の時点で, Vは, 失神していただけであったが, その状態で海に落とされたことにより間もなく溺死した。 (出題の趣旨) 本問は, 甲が, (1)Vから本件土地に対する抵当権設定の代理権しか付与されて いなかったのに, Aに本件土地を売る旨の売買契約書2部に「V代理人甲」と署名 した上, その内容をAに確認させるなどしたこと, (2)Vに無断で本件土地の売買 契約をAと締結したこと, (3)(2)に関して, 逮捕を免れるなどのために, Vを殺害 してその死体を海中に捨てることを計画し, 実際にVの首を絞めたが, それにより 失神したVが死亡したものと軽信し, その状態のVを海に落とし溺死させたことを 内容とする事例について, 甲の罪責に関する論述を求めるものである。 (1)については, 本件土地の売買契約書の作成権限が与えられていなかった甲に よる同契約書の作成が代理権限の逸脱に当たることを前提に, 有印私文書偽造罪・ 同行使罪の成否について, 文書の名義人に関する擬律判断を含め, その構成要件該 当性を検討する必要がある。 また, (2)については, 主に論ずべき点として, 横領罪と背任罪の関係を踏まえ て, 本件土地に関する(横領罪における)占有が甲に認められるか, それが認めら れるとした場合に甲の行為が「横領」と評価できるか(既遂時期), 仮に横領罪の 成立が否定された場合に背任罪の成否を検討すべきかについて, 本事例における事 実関係を基に検討する必要がある。 (3)については, 行為者が第1行為(Vの首を絞める行為)により死亡結果が発 生すると予見していたのに, 実際は結果が発生せず, 第2行為(失神したVを海に 落とした行為)により死亡結果が発生した場合(いわゆる遅すぎた構成要件の実現) の殺人既遂罪の成否に関し, 第1行為と死亡結果との因果関係の有無及び因果関係 の錯誤の処理, 並びに, 第2行為の擬律(抽象的事実の錯誤, 過失致死罪の成否) について, また, 第1行為と第2行為を1個の行為(一連の実行行為)と捉えた場 合は, 1個の行為と評価する根拠について, それぞれ検討する必要がある。 いずれについても, 各構成要件等の正確な知識, 基本的理解や, 本事例にある事 実を丁寧に拾って的確に分析した上, 当てはめを行う能力が求められる。 [刑事訴訟法] 次の【事例】を読んで, 後記〔設問〕に答えなさい。 【事例】 令和元年6月5日午後2時頃, H市L町内のV方において, 住居侵入, 窃盗事件(以下「本件 事件」という。 )が発生した。 外出先から帰宅したVは, 犯人がV方の机の引出しからV名義のク レジットカードを盗んでいるのを目撃し, 警察に通報したが, 犯人はV方から逃走した。 警察官PとQは, 同月6日午前2時30分頃, V方から8キロメートル離れたL町の隣町の路 上を徘徊する, 人相及び着衣が犯人と酷似する甲を認め, 本件事件の犯人ではないかと考え, 警 察官の応援要請をするとともに, 甲を呼び止め, 「ここで何をしているのか。 」などと尋ねたとこ ろ, 甲は, 「仕事も家もなく, 寝泊りする場所を探しているところだ。 」と答えた。 また, Pが甲 に, 「昨日の午後2時頃, 何をしていたか。 」と尋ねたのに対し, 甲は, 「覚えていない。 」旨曖昧 な答えに終始した。 Pは, 最寄りのH警察署で本件事件について甲の取調べをしようと考え, 同 月6日午前3時頃, 「事情聴取したいので, H警察署まで来てくれ。 」と甲に言ったが, 甲は, 黙 ったまま立ち去ろうとした。 その際, 甲のズボンのポケットから, V名義のクレジットカードが 路上に落ちたため, Pが, 「このカードはどうやって手に入れたのか。 」と甲に尋ねたところ, 甲 は, 「散歩中に拾った。 落とし物として届けるつもりだった。 」と述べて立ち去ろうとした。 そこ で, Pらは, 同日午前3時5分頃, 応援の警察官を含む4名の警察官で甲を取り囲んでパトカー に乗車させようとしたが, 甲が, 「俺は行かないぞ。 」と言い, パトカーの屋根を両手でつかんで 抵抗したので, Qが, 先にパトカーの後部座席に乗り込み, 甲の片腕を車内から引っ張り, Pが, 甲の背中を押し, 後部座席中央に甲を座らせ, その両側にPとQが甲を挟むようにして座った上, パトカーを出発させ, 同日午前3時20分頃, H警察署に到着した。 Pは, H警察署の取調室において, 本件事件の概要と黙秘権を告げて甲の取調べを開始した。 甲は, 取調室から退出できないものと諦めて取調べには応じたものの, 本件事件への関与を否認 し続けた。 Pは, 同日午前7時頃, H警察署に来てもらったVに, 取調室にいた甲を見せ, 甲が 本件事件の犯人に間違いない旨のVの供述を得た。 Pらは, 甲の発見時の状況やVの供述をまと めた捜査報告書等の疎明資料を直ちに準備し, 同日午前8時, H簡易裁判所に本件事件を被疑事 実として通常逮捕状の請求を行い, 同日午前9時, その発付を受け, 同日午前9時10分, 甲を 通常逮捕した。 甲は, 同月7日午前8時30分, H地方検察庁検察官に送致され, 送致を受けた検察官は, 同日 午後1時, H地方裁判所裁判官に甲の勾留を請求し, 同日, 甲は, 同被疑事実により, 勾留された。 〔設問〕 下線部の勾留の適法性について論じなさい。 ただし, 刑事訴訟法第60条第1項各号該当性及 び勾留の必要性については論じなくてよい。 (出題の趣旨) 本問は, 民家で発生した窃盗事件について, 翌日の未明に, 警察官PとQが, 路 上で, 人相及び着衣が犯人と酷似する甲を認め, 職務質問を開始したところ, 甲の ズボンのポケットからV名義のクレジットカードが路上に落ちたことから, 抵抗す る甲をパトカーに押し込んでH警察署に連れて行き, その後, 甲を通常逮捕して, 勾留したとの事例において, 甲の勾留の適法性の検討を通じ, 刑事訴訟法の基本的 な学識の有無及び具体的事案における応用力を試すものである。 刑事訴訟法上, 逮捕と勾留は別個の処分であるが, 先行する逮捕手続(さらに, 同行の過程)に違法がある場合, 引き続く勾留の適法性に影響を及ぼすことがある との理解が一般的であり, 甲の勾留の適法性を検討するに当たっては, 先行手続の 違法が問題となる。 もっとも, この点については, 勾留の理由や必要(刑事訴訟法 第207条第1項, 第60条第1項, 第87条)と異なり, 明文で要件とされてい るわけではなく, 逮捕手続の違法についても, 逮捕後の時間的制限の不遵守がある 場合に勾留請求を却下すべきとする(刑事訴訟法第206条第2項, 第207条第 5項)にとどまるため, なぜ先行手続の違法が勾留の適法性に影響を及ぼすのかに ついて, 具体的根拠を示して論ずることが求められる。 他方, 先行手続の違法が軽 微であっても直ちに勾留が違法となるとすれば, 被疑者の逃亡や罪証隠滅を防いだ 状態で捜査を続行することが困難となるのであって, 先行手続の違法が勾留の適法 性に影響を及ぼすと考えるとしても, いかなる場合に勾留が違法となるか, その判 断基準を明らかにすることも必要である。 本問では, 先行手続として, 警察官が甲をパトカーに押し込んでH警察署に連れ て行った行為について, 実質的な逮捕であり違法ではないかが問題となる。 ここで は, 任意同行と実質的な逮捕とを区別する基準を示した上で, 警察官の行為が実質 的逮捕であるか否かを判断することが求められる。 そして, 警察官の上記行為が実 質的な逮捕であり違法と評価される場合, その違法が勾留の適法性に影響するのか, 影響するのであれば, 勾留が違法となる場合に当たるかについて, 判断基準を示し て検討することが求められる。 また, この点について, 先行手続の違法の程度(重 大か否か)に着目するのであれば, 【事例】において侵害された法益の質・程度や 本来可能であった適法行為からの逸脱の程度(例えば, 実質的な逮捕がなされた時 点において緊急逮捕の要件を実質的に満たしていたか, 満たしていたとして, その 時点から起算して被疑者が検察官に送致され, また勾留を請求するまでの時間的制 限を超過していないか, また, 実質的な逮捕から約5時間後, 甲の取調べ等を挟ん で通常逮捕の手続が取られていることをどう評価するか)などに関わる具体的事情 を考慮した上で, 先行手続の違法の程度を吟味し, 勾留が違法と評価されるか否か について論述することが求められる。 [民 事] 司法試験予備試験用法文を適宜参照して, 以下の各設問に答えなさい。 〔設問1〕 弁護士Pは, Xから次のような相談を受けた。 【Xの相談内容】 「Aは, 知人のBに対し, 平成29年9月1日, 弁済期を平成30年6月15日, 無利息で 損害金を年10%として, 200万円を貸し渡しました。 AとBは, 平成29年9月1日, 上 記の内容があらかじめ記載されている「金銭借用証書」との題の書面に, それぞれ署名・押印 をしたとのことです(以下, この書面を「本件借用証書」という。 )。 加えて, 本件借用証書に は, 「Yが, BのAからの上記の借入れにつき, Aに対し, Bと連帯して保証する。 」旨の文言 が記載されていました。 AがBから聞いたところによれば, Yは, あらかじめ, 本件借用証書 の「連帯保証人」欄に署名・押印をして, Bに渡しており, 平成29年9月1日に上記の借入 れにつき, Bと連帯して保証したとのことです。 なお, YはBのいとこであると聞いています。 ところが, 弁済期である平成30年6月15日を過ぎても, BもYも, Aに何ら支払をしま せんでした。 私(X)は, Aから懇願されて, 平成31年1月9日, この200万円の貸金債権とこれに 関する遅延損害金債権を, 代金200万円で, Aから買い受けました。 Aは, Bに対し, 私に これらの債権を売ったことを記載した内容証明郵便(平成31年1月11日付け)を送り, 同 郵便は同月15日にBに届いたとのことです。 ところが, その後も, BもYも, 一向に支払をせず, Yは行方不明になってしまいました。 私は, まずは自分で, Bに対する訴訟を提起し, 既に勝訴判決を得ましたが, 全く回収するこ とができていません。 今般, Yの住所が分かりましたので, Yに対しても訴訟を提起して, 貸 金の元金だけでなく, その返済が遅れたことについての損害金全てにつき, Yから回収したい と考えています。 」 弁護士Pは, 【Xの相談内容】を前提に, Xの訴訟代理人として, Yに対し, Xの希望する金員 の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。 )を提起することを検討することとした。 以上を前提に, 以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Pが, 本件訴訟において, Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記 載しなさい。 (2) 弁護士Pが, 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。 )において記載すべき請求の趣旨(民 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。 なお, 付随的申立てについては, 考慮す る必要はない。 (3) 弁護士Pは, 本件訴状において, 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)とし て, 以下の各事実を主張した。 (あ) Aは, Bに対し, 平成29年9月1日, 弁済期を平成30年6月15日, 損害金の割合を年 10%として, 200万円を貸し付けた(以下「本件貸付」という。 )。 (い) Yは, Aとの間で, 平成29年9月1日, 〔@〕。 (う) (い)の〔A〕は, 〔B〕による。 (え) 平成30年6月15日は経過した。 (お) 平成31年1月〔C〕。 上記@からCまでに入る具体的事実を, それぞれ記載しなさい。 (4) 仮に, Xが, 本件訴訟において, その請求を全部認容する判決を得て, その判決は確定したが, Yは任意に支払わず, かつ, Yは甲土地を所有しているが, それ以外のめぼしい財産はないとす る。 Xの代理人である弁護士Pは, この確定判決を用いてYから回収するために, どのような手 続を経て, どのような申立てをすべきか, それぞれ簡潔に記載しなさい。 〔設問2〕 弁護士Qは, 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。 【Yの相談内容】 「(a) 私(Y)はBのいとこに当たります。 確かに, Bからは, Bが, Xの主張する時期に, Aから200万円を借りたことはあ ると聞いています。 また, Bは, Xの主張するような内容証明郵便を受け取ったと言っ ていました。 しかし, 私が, Bの債務を保証したことは決してありません。 私は, 本件 借用証書の「連帯保証人」欄に氏名を書いていませんし, 誰かに指示して書かせたこと もありません。 同欄に押されている印は, 私が持っている実印とよく似ていますが, 私 が押したり, また, 誰かに指示して押させたりしたこともありません。 (b) Bによれば, この200万円の借入れの際, AとBは, AのBに対する債権をAは他 の者には譲渡しないと約束し, Xも, 債権譲受時には, そのような約束があったことを 知っていたとのことです。 (c) また, 仮に, (b)のような約束がなかったとしても, Bは, 既に全ての責任を果たし ているはずです。 Bは, 乙絵画を所有していたのですが, 平成31年3月1日, 乙絵画をXの自宅に持 っていって, Xに譲り渡したとのことです。 Bは, 乙絵画をとても気に入っていたとこ ろ, 何の理由もなくこれを手放すことはあり得ないので, この200万円の借入れとそ の損害金の支払に代えて, 乙絵画を譲り渡したに違いありません。 」 以上を前提に, 以下の各問いに答えなさい。 (1) @弁護士Qは, 【Yの相談内容】(b)を踏まえて, Yの訴訟代理人として, 答弁書(以下「本件 答弁書」という。 )において, どのような抗弁を記載するか, 記載しなさい(当該抗弁を構成す る具体的事実を記載する必要はない。 )。 Aそれが抗弁となる理由を説明しなさい。 (2) 弁護士Qは, 【Yの相談内容】(c)を踏まえて, 本件答弁書において, 以下のとおり, 記載した。 (ア) Bは, Xとの間で, 平成31年3月1日, 本件貸付の貸金元金及びこれに対する同日までの 遅延損害金の弁済に代えて, 乙絵画の所有権を移転するとの合意をした。 (イ) (ア)の当時, 〔 上記〔 (3) 〕。 〕に入る事実を記載しなさい。 @弁護士Qは, 本件答弁書において, 【Yの相談内容】(c)に関する抗弁を主張するために, (2) の(ア)及び(イ)に加えて, Bが, Xに対し, 本件絵画を引き渡したことに係る事実を主張するこ とが必要か不要か, 記載しなさい。 Aその理由を簡潔に説明しなさい。 〔設問3〕 Yが, 下記のように述べているとする。 @弁護士Qは, 本件答弁書において, その言い分を抗弁 として主張すべきか否か, その結論を記載しなさい。 Aその結論を導いた理由を, その言い分が抗 弁を構成するかどうかに言及しながら, 説明しなさい。 記 Aが本件の貸金債権や損害金をXに譲渡したのだとしても, 私は, 譲渡を承諾していませんし, Aからそのような通知を受けたことはありません。 確かに, Bからは, 「Bは, Aから, AはXに 対して債権を売ったなどと記載された内容証明郵便を受け取った。 」旨を聞いていますが, 私に対 する通知がない以上, Xが債権者であると認めることはできません。 〔設問4〕 第1回口頭弁論期日において, 本件訴状と本件答弁書が陳述された。 同期日において, 弁護士P は, 本件借用証書を書証として提出し, それが取り調べられ, 弁護士Qは, 本件借用証書のY作成 部分につき, 成立の真正を否認し, 「Y名下の印影がYの印章によることは認めるが, Bが盗用し た。 」と主張した。 その後, 2回の弁論準備手続期日を経た後, 第2回口頭弁論期日において, 本人尋問が実施され, Y名義の保証につき, Yは, 下記【Yの供述内容】のとおり, Xは, 下記【Xの供述内容】のとお り, それぞれ供述した(なお, それ以外の者の尋問は実施されていない。 )。 【Yの供述内容】 「私とBは, 1歳違いのいとこです。 私とBは, 幼少時から近所に住んでおり, 家族のように 仲良くしていました。 Bは, よく私の自宅(今も私はその家に住んでいます。 )に遊びに来てい ました。 Bは, 大学進学と同時に, 他の県に引っ越し, 大学卒業後も, その県で就職したので, 行き 来は少なくなりましたが, 気が合うので, 近所に来た際には会うなどしていました。 平成29年8月中旬だったと思いますが, Bが急に私の自宅に泊まりに来て, 2日間, 滞在 していきました。 今から思えば, その際に, 本件借用証書をあらかじめ準備して, 連帯保証人 欄に私の印鑑を勝手に押したのだと思います。 私が小さい頃から, 私の自宅では, 印鑑を含む 大事なものを寝室にあるタンスの一番上の引き出しにしまっていましたし, 私の印鑑はフルネ ームのものなので, Bは, 私の印鑑を容易に見つけられたと思います。 この印鑑は, 印鑑登録 をしている実印です。 Bが滞在した2日間, 私が買物などで出かけて, B一人になったことが あったので, その際にBが私の印鑑を探し出したのだと思います。 私は, 出版関係の会社に正社員として勤務しています。 会社の業績は余り芳しくなく, 最近は ボーナスの額も減ってしまいました。 私には, さしたる貯蓄はなく, 保証をするはずもありませ ん。 私は, 平成29年当時, Bから, 保証の件につき相談を受けたことすらなく, また, Aから, 保証人となることでよいかなどの連絡を受けたこともありませんでした。 なお, 本件訴訟が提起されて少し経った頃から, Bと連絡が取れなくなってしまい, 今に至 っています。 」 【Xの供述内容】 「YとBがいとこ同士であるとは聞いています。 YとBとの付き合いの程度などは, 詳しく は知りません。 Bが, 平成29年8月中旬頃, Yの自宅に泊まりに来て, 2日間滞在したかは分かりません が, 仮に, 滞在したとしても, そんなに簡単に印鑑を見つけ出せるとは思いません。 なお, Aに確認しましたら, Aは, Yの保証意思を確認するため, 平成29年8月下旬, Yの 自宅に確認のための電話をしたところ, Y本人とは話をすることができませんでしたが, 電話に 出たYの母親に保証の件について説明したら, 『Yからそのような話を聞いている。 』と言われた とのことです。 」 以上を前提に, 以下の問いに答えなさい。 弁護士Pは, 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに, 準備書面を提出することを予定している。 その準備書面において, 弁護士Pは, 前記の提出された書証並びに前記【Yの供述内容】及び【X の供述内容】と同内容のY及びXの本人尋問における供述に基づいて, Yが保証契約を締結した事 実が認められることにつき, 主張を展開したいと考えている。 弁護士Pにおいて, 上記準備書面に 記載すべき内容を, 提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて, 答案 用紙1頁程度の分量で記載しなさい。 なお, 記載に際しては, 本件借用証書のY作成部分の成立の 真正に関する争いについても言及すること。 (出題の趣旨) 設問1は, 保証契約に基づく保証債務履行請求権が問題となる訴訟において, 原 告の求めに応じた訴訟物, 請求の趣旨及び請求原因事実の説明を求めるとともに, 確定判決に基づく民事執行手続の基本を問うものである。 保証契約や債権譲渡に関 する法律要件について, 正確な理解を確認するものである。 設問2は, 2つの抗弁主張に関し, 譲渡禁止特約(譲受人が悪意である場合), 代物弁済等についての民事実体法の要件・効果を踏まえ, 抗弁事実の内容やその理 由について, 自説の立場から丁寧に論ずることが求められる。 設問3は, 被告代理人の訴訟活動上の選択に関し, 債権譲渡における債務者対抗 要件や, 保証契約の性質を踏まえながら、 本件への当てはめを適切に検討すること が求められる。 設問4は, まず, 文書に作成名義人の印章により顕出された印影があることを踏 まえ, いわゆる二段の推定が働くことや相手方の主張の位置付けについて, 事案に 即して適切な説明を加える必要がある。 その上で, 認定根拠に言及しながら, 原告 に有利・不利な複数の事実を適切に分析・評価して, いわゆる二段の推定が働くこ ととの関係を意識しつつ, 原告代理人の立場から説得的に論述することが求められ る。 [刑 事] 次の【事例】を読んで, 後記〔設問〕に答えなさい。 【事例】 1 A(25歳, 男性)及びB(22歳, 男性)は, 平成31年2月28日, 「被疑者両名は, 共謀の上, 平成31年2月1日午前1時頃, H県I市J町1番地先路上において, V(当時3 5歳, 男性)に対し, 傘の先端でその腹部を2回突いた上, 足でその腹部及び脇腹等の上半身 を多数回蹴る暴行を加え, よって, 同人に, 全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週 間を要する腹部打撲傷の傷害を負わせた。 」旨の傷害罪の被疑事実(以下「本件被疑事実」と いう。 )で通常逮捕され, 同年3月1日, 検察官に送致された。 送致記録に編綴された主な証拠の概要は以下のとおりである(以下, 日付はいずれも平成3 1年である。 )。 @ Vの警察官面前の供述録取書 「2月1日午前1時頃, H県I市J町1番地先路上を歩いていたところ, 前から2人の男 たちが歩いてきた。 その男たちのうち, 1人は黒色のキャップを被り, 両腕にアルファベッ トが描かれた赤色のジャンパーを着ており, もう1人は, 茶髪で黒色のダウンジャケットを 着ていた。 その男たちとすれ違う際, 黒色キャップの男の持っていた鞄が私の体に当たった。 しかし, その男は謝ることなく通り過ぎたので, 私は, 『待てよ。 』と言いながら, 背後から 黒色キャップの男の肩に手を掛けた。 すると, その男たちは振り向いて私と向かい合った。 茶髪の男が, 『喧嘩売ってんのか。 』などと怒鳴ってきたので, 私が, 『鞄が当たった。 謝れ よ。 』と言うと, 黒色キャップの男が, 『うるせえ。 』などと怒鳴りながら, 持っていた傘の 先端で私の腹部を突いた。 私が後ずさりすると, その男は, 再度, 傘の先端で私の腹部を強 く突いたため, 私は, 痛くて両手で腹部を押さえながら前屈みになった。 すると, 茶髪の男 と黒色キャップの男が, 私の腹部や脇腹等の上半身を足でそれぞれ多数回蹴った。 私が, 路 上にうずくまると, 男たちは去って行った。 通行人が通報してくれて救急車で病院に搬送さ れた。 これらの暴行により, 私は, 全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週間を要 する腹部打撲傷を負った。 犯人の男たちについて, 黒色キャップの男は, 目深にキャップを被っていたのでその顔は よく見えなかった。 また, 私は, 黒色キャップの男の方を主に見ていたので, 茶髪の男の顔 はよく覚えていない。 」 A 診断書 2月1日に, Vについて, 全治約2か月間を要する肋骨骨折及び全治約3週間を要する腹 部打撲傷と診断した旨が記載されている。 B Wの警察官面前の供述録取書 「2月1日午前1時頃, H県I市J町1番地先路上を歩いていたところ, 怒鳴り声が聞こ えたので右後方を見ると, 道路の反対側で, 男が2人組の男たちと向かい合っていた。 2人 組の男たちのうち, 1人は, 黒色のキャップを被り, 両腕にアルファベットが描かれた赤色 のジャンパーを着ており, もう1人は, 茶髪で黒色のダウンジャケットを着ていた。 黒色キ ャップの男は, 持っていた傘の先端を相手の男に向けて突き出し, 相手の男の腹部を2回突 いた。 すると, 相手の男は両手で腹部を押さえながら前屈みになった。 さらに, 茶髪の男と 黒色キャップの男は, それぞれ足で相手の男の腹部や脇腹等の上半身を多数回蹴った。 相手 の男がその場にうずくまると, 2人組の男たちは, その場から立ち去って行った。 相手の男 がうずくまったまま動かなかったので心配になって駆け寄り, 救急車を呼んだ。 2人組の男たちについて, 黒色キャップの男の顔は, キャップのつばで陰になってよく見 えなかった。 茶髪の男の顔は, 近くにあった街灯の明かりでよく見えた。 今, 警察官から, この写真の中に犯人がいるかもしれないし, いないかもしれないという説明を受けた上, 2 0枚の男の写真を見せてもらったが, 2番の写真の男が, 『茶髪の男』に間違いない。 警察 官から, この男はBであると聞いたが, 知らない人である。 」 C W立会いの実況見分調書 犯行現場の写真及び図面が添付されており, また, Wが2人組の男たちの暴行を目撃した 位置から同人らがいた位置までの距離は約8メートルであり, その間に視界を遮るようなも のはなく, 付近に街灯が設置されていた旨が記載されている。 D A及びBが犯人として浮上した経緯に係る捜査報告書 犯行現場から約100メートル離れたコンビニエンスストアに設置された防犯カメラで撮 影された画像の写真が添付されており, 同写真には, 2月1日午前0時50分頃, 黒色のキ ャップを被り, 両腕にアルファベットが描かれた赤色のジャンパーを着た男と, 茶髪で黒色 のダウンジャケットを着た男の2人組が訪れた状況が撮影されている。 また, 同画像につい て, 警察官が同店の店員から聴取したところ, 同人は, 「以前, ここに映っている黒色キャ ップの男と茶髪の男が酔って来店し, 店内で騒いだので通報した。 その際, 臨場した警察官 が, 彼らの免許証などを確認していたので, その警察官なら彼らの名前などを知っていると 思う。 」と供述したため, その臨場した警察官に確認したところ, 黒色キャップの男がA, 茶髪の男がBであることが判明した旨が記載されている。 E A方及びB方の捜索差押調書 2月28日, A方及びB方の捜索を実施し, A方において, 傘, 黒色キャップ, 両腕にア ルファベットが描かれた赤色のジャンパー及びA所有のスマートフォンを発見し, B方にお いて, 黒色のダウンジャケット及びB所有のスマートフォンを発見し, これらを差し押さえ た旨がそれぞれ記載されている。 F 押収したスマートフォンに保存されたデータに関する捜査報告書 A所有及びB所有のスマートフォンのデータを精査した結果, 2月2日にAがB宛てに 送信した「昨日はカラオケ店にいたことにしよう。 」と記載されたメールや, 同メールにB が返信した「防犯カメラとかで嘘とばれるかも。 誰かに頼んで一緒にいたことにしてもら うのは?」と記載されたメールが発見された旨が記載されている。 G Aの警察官面前の弁解録取書 「本件被疑事実について, 私はやっていない。 昨年, 傷害罪で懲役刑に処せられ, 現在そ の刑の執行猶予中であるため, 二度と手は出さないと決めている。 Bは, 中学の後輩である。 2月1日午前1時頃は犯行場所とは別の場所にいたが, 詳しいことは言いたくない。 生活状 況について, 結婚はしておらず, 無職である。 約1年前に家を出てからは, 交際相手や友人 宅を転々としている。 」 H Aの前科調書 平成30年に傷害罪で懲役刑に処せられ, 3年間の執行猶予が付された旨が記載されて いる。 I Bの警察官面前の弁解録取書 「本件被疑事実については間違いない。 」 2 検察官は, A及びBの弁解録取手続を行い, 以下の弁解録取書を作成した。 J Aの検察官面前の弁解録取書 G記載の内容と同旨。 K Bの検察官面前の弁解録取書 「本件被疑事実については間違いない。 Vの態度に立腹し, Aが傘の先端でVの腹部を突 いた後, 私とAがVの腹部や脇腹等の上半身を足で蹴った。 犯行当時, 私は, 茶髪で黒色の ダウンジャケットを着ており, Aは, 黒色のキャップを被り, 両腕にアルファベットが描か れた赤色のジャンパーを着ていた。 Aは, 中学の先輩で, その頃からの付き合いである。 も し自分がこのように話したことが知られると, Aやその仲間の先輩たちなどから報復される かもしれない。 生活状況について, 結婚はしておらず, 無職である。 自宅で両親と住んでい る。 前科はない。 」 検察官は, 3月1日, 両名につき勾留請求と併せて接見等禁止の裁判を請求し, 同日, 裁判 官は, A及びBにつき本件被疑事実で勾留するとともに, Aにつき接見等を禁止する旨を決 定した。 なお, Aの勾留質問調書には, Aの供述として, 「本件被疑事実については検察官に述べた とおり。 」と記載され, Bの勾留質問調書には, Bの供述として, 「本件被疑事実については間 違いない。 」と記載されている。 3 3月2日, Aの弁護人は, 勾留状の謄本に記載された本件被疑事実を確認した上, Aと接見 したところ, Aは, 「実は, Vに暴力を振るって怪我をさせた。 Bと歩いていると, いきな り後ろから肩を手でつかまれた。 驚いて勢いよく振り返ったところ, 手に持っていた傘の先端 が, 偶然Vの腹部に1回当たり, 私の肩をつかんでいたVの手が外れた。 傘が当たったことに 腹を立てたVが, 拳骨で殴り掛かってきたので, 私は, 自分がやられないように, 足でVの腹 部を蹴った。 それでもVは, 『謝れよ。 』などと言いながら両手で私の両肩をつかんで離さなか ったため, 私は, Vから逃げたい一心で更にVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴った。 このとき, Bも, 私を助けようとして, Vの腹部や脇腹等の上半身を足で蹴った。 」旨話した。 4 その後, 検察官は, 所要の捜査を行い, 以下の供述録取書を作成した。 L Aの検察官面前の供述録取書 下線部記載の内容と同旨。 M Bの検察官面前の供述録取書 「自分が, Vの態度に立腹してVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴って怪我をさせ たことは間違いない。 このとき, Aも一緒にいたが, Aが何をしていたのかは見ていないの で分からない。 」 N Wの検察官面前の供述録取書 B記載の内容と同旨。 5 検察官は, 所要の捜査を遂げ, A及びBにつき, 本件被疑事実と同一の内容の公訴事実で 公訴を提起した(以下, 同公訴提起に係る傷害被告事件につき, 「本件被告事件」という。 )。 Aの弁護人は, 検察官から開示された関係証拠を閲覧した上, 再度Aと接見したところ, A は, 「本当は, Vの態度に腹が立って, VやWが言っているとおりの暴行を加えた。 しかし, 自分は同種前科による執行猶予中なので, もし認めたら実刑になるだろうし, 少しでも暴行を 加えたことを認めてしまうと, Vから損害賠償請求されるかもしれない。 検察官には供述録取 書記載のとおり話してしまったが, 裁判では, 犯行現場にはいたものの, 一切暴行を加えてい ないとして無罪を主張したい。 」旨話した。 6 第1回公判期日における冒頭手続において, 【事例】の5記載の接見内容を踏まえ, Aは「犯 行現場にはいたものの, 一切暴行を加えていない。 」旨述べ, Aの弁護人も無罪を主張した。 一方, B及びBの弁護人は, 公訴事実は争わないとした。 その後, 検察官が, @, A, CからF, H, JからL及びN記載の各証拠の取調べを請求 したところ, Aの弁護人は, @, C, JからL及びN記載の各証拠について「不同意」とし, その他の証拠については「同意」との意見を述べた。 また, Bの弁護人は, 検察官請求証拠 についてすべて「同意」との意見を述べた。 裁判所は, A及びBに対する本件被告事件を分離して審理する旨を決定し, 分離後のBに 対する本件被告事件の審理を先行して行った。 7 Bは, 自身の審理における被告人質問において, 「Aと歩いていたところ, いきなりVが『待 てよ。 』などと言ってきたので, 何か因縁を付けられたと思った私は, 『喧嘩売ってんのか。 』 などと言った。 すると, Vは, 『鞄が当たった。 謝れよ。 』などと言ってきたので, 私は, そ の横柄な態度に腹が立った。 Aが, 『うるせえ。 』などと怒鳴りながら, 持っていた傘の先端 でVの腹部を2回突き, 私は, 前屈みになったVの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴っ た。 Aも, Vの腹部や脇腹等の上半身を足で多数回蹴っていた。 このことは, 逮捕された当 初も話していたが, 途中からAに報復されるのが怖くなり, 検察官にきちんと話すことがで きなかった。 しかし, 今は, きちんと反省していることを分かってもらおうと思い, 本当の ことを話した。 」旨供述し, 後日, 結審した。 8 その後, 分離後のAに対する本件被告事件の審理において, V及びWの証人尋問など所要 の証拠調べが行われ, さらに, Bの証人尋問が行われた。 その際, Bは, 一貫して「本件 犯行時にAが一緒にいたことは間違いないが, Aが何をしていたのかは見ていないので分か らない。 」旨証言した。 後日, Aは, 被告人質問で, 自身が暴行を加えたことを否認した。 〔設問1〕 下線部に関し, 裁判官が, Aにつき, 刑事訴訟法第207条第1項の準用する同法第81 条の「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」と判断した思考過程を, その判断要 素を踏まえ, 具体的事実を指摘しつつ答えなさい。 〔設問2〕 検察官は, 勾留請求時, B記載のWの警察官面前の供述録取書は, 本件被疑事実記載の暴行 に及んだのがA及びBであることを立証する証拠となると考えた。 A及びBそれぞれについて, 同供述録取書は直接証拠に当たるか, 具体的理由を付して答えなさい。 また, 直接証拠に当た らない場合は, 同供述録取書から, 前記暴行に及んだのがAであること又は前記暴行に及んだ のがBであることが, どのように推認されるか, 検察官が考えた推認過程についても答えなさ い。 なお, 同供述録取書に記載された供述の信用性は認められることを前提とする。 〔設問3〕 Aの弁護人は, 3月2日の時点で, 下線部のAの話を踏まえ, 仮にAが公訴提起された場 合に冒頭手続でどのような主張をするか検討した。 本件被疑事実中, 「傘の先端でその腹部を 2回突いた」こと及び「足でその腹部及び脇腹等の上半身を多数回蹴る暴行を加え」たことに ついて, それぞれ考えられる主張を, 具体的理由を付して答えなさい。 〔設問4〕 下線部に関し, Aの弁護人が無罪を主張したことについて, 弁護士倫理上の問題はあるか, 司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して論じなさい。 〔設問5〕 下線部のBの証人尋問の結果を踏まえ, 検察官は, 新たな証拠の取調べを請求しようと考 えた。 この場合において, 検察官が取調べを請求しようと考えた証拠を答えなさい。 また, そ の証拠について, 弁護人が不同意とした場合に, 検察官は, どのような対応をすべきか, 根拠 条文及びその要件該当性について言及しつつ答えなさい。 (出題の趣旨) 本問は, 犯人性が争点となる傷害事件(共犯事件)を題材に, 接見等禁止におけ る罪証隠滅のおそれの判断要素(設問1), 犯人性を認定する証拠構造(設問2), 被疑者の弁解等を踏まえた事実認定上及び法律上の主張(設問3), 弁護士倫理上 の問題点(設問4), 刑事訴訟法第321条1項1号書面の証拠能力(設問5)に ついて, 【事実】に現れた証拠や事実, 手続の経過を適切に把握した上で, 法曹三 者それぞれの立場から, 主張・立証すべき事実, その対応についての思考過程や問 題点を解答することを求めており, 刑事事実認定の基本構造, 刑事手続についての 基本的知識の理解及び基礎的実務能力を試すものである。 [一般教養科目] 次の文章は, ハーバート・スペンサー著『政府の適正領域』のうち, 「第一の手紙」からの抜粋 である。 これを読んで, 後記の設問に答えなさい。 (省 略) 〔設問1〕 本文における著者の主張を, 10行程度でまとめなさい。 〔設問2〕 本文を著者が記したのは1840年代前半である。 当時, イギリスにおいては義務教育も国営 鉄道も存在せず, 教育や鉄道事業は政府以外の機関・団体によって行われていた。 本文における著者の主張は, 今日の社会においてどのように評価し得るか, 25行程度で論じ なさい。 なお, 論述に当たっては, 以下のテーマのうち一つを取り上げ, それに対する政府の関与の在 り方について, 自らの見解を提示すること。 @ 商業の規制 A 教育 B 道路・鉄道の建設 【出典】ハーバート・スペンサー 森村進編訳『ハーバート・スペンサー コレクション』 (出題の趣旨) 設問1は, 本文から読み取ることのできる著者の主張に関する正確な理解を問う ものである。 解答に当たっては, 政府の成立やその在り方に関する著者の考え方を 正確に理解した上で, 自分の言葉で的確に論述することが求められる。 設問2は, 上記著者の主張の評価について, 各自の見解を問うものである。 解答 に当たっては, 上記主張の根拠や時代的背景等を踏まえた上で, 上記主張を今日の 社会においてどのように評価し得るかにつき, 自身が選択したテーマを題材に自身 の立場を明確に示し, 説得的に論述することが求められる。 また, 本文が記された 時代からの社会情勢の変化等を意識しつつ, 人々の生活や民間の活動に政府が関与 することの肯定的側面及び否定的側面について的確に分析し, 両者を比較検討した 上で, 具体的かつ説得的な考察をすることが求められる。 いずれの設問においても, 全体として指定の分量で簡潔に記述する能力も求めら れる。