論文式試験問題集[公法系科目第1問] - 1 - [公法系科目] 〔第1問〕(配点:100) 1.いわゆるバス事業は, 主に乗合バス事業と貸切バス事業とに分けられる。 ここでは, 乗合バス 事業とは, 道路運送法上の一般旅客自動車運送事業の許可を受け, 有償で, 乗車定員11人以上 の自動車を使用して乗合旅客を運送する事業をいい, 貸切バス事業とは, 同許可を受け, 有償で, 一個の契約により乗車定員11人以上の自動車を貸し切って旅客を運送する事業をいうものとす る。 乗合バス事業者が路線を定めて定期に運行するバス(以下「路線バス」という。 )のうち, 高 速道路を利用し, 長距離の路線を定めて定期に運行するバスを, ここでは, 高速路線バスと呼ぶ こととする。 また, 高速路線バス以外の路線バスについては, 地域住民の日常的な移動手段とし て利用されることが多く, ここでは, 生活路線バスと呼ぶこととする。 現在, 高速路線バスを運 行する乗合バス事業者には, 生活路線バスとともに高速路線バスを運行する事業者と, 高速路線 バスのみを運行する事業者とがある。 高速路線バスの事業主体は乗合バス事業者に限定されているが, 国土交通大臣の許可を受けれ ば, その運行を貸切バス事業者に委託することができる。 2.地方の深刻な人口減少が続く中, 生活路線バス事業の大半が赤字であり, 三大都市圏以外では, その傾向はより顕著となっている。 その結果, 全国の生活路線バスでは, 近年, 路線の廃止や減 便が続いている。 このことは, 地域の生活路線バスに依存する高齢者や高校生等にとって, 不可 欠な移動手段を奪い, 日常生活に極めて大きな支障をもたらすものである。 さらに, 公共交通の 衰退の結果, 高齢者にとって自家用車が唯一の移動手段となっていることが, 高齢者の運転ミス による人身事故の発生が続いている状況にもかかわらず, 免許返納が進まない一因であるとの指 摘もなされている。 3.そのような中, 202X年, 超党派の国会議員は, 地域における住民の移動手段の確保を目的 として, 「持続可能な地域交通システム法(仮称)」の制定を目指す議員連盟(以下「議連」と いう。 )を発足させた。 議連では, この観点から, 公共交通の維持・拡充の方策とともに, 交通 渋滞による通行障害の除去を目的とする規制についても検討している。 これは, 大都市の一部区 域や一部の観光地における交通渋滞が, 地域住民の自家用車やバスでの移動の妨げとなるほか, 道幅の狭いところでは住民の歩行や緊急車両の通行を困難にするなど, 住民生活に著しい支障を 来す程度に達しており, 住民の安全・安心な生活を脅かしていると考えられるためである。 4.議連で検討されているのは, 次のような規制である。 規制@ 高速路線バスの運行は, 生活路線バスを運行する乗合バス事業者にのみ認めるものとす る。 生活路線バスへの新規参入は, 既存の生活路線バスを運行する乗合バス事業者の経営 の安定を害さない場合に限り, 認めるものとする。 規制A 都道府県知事が定める特定の渋滞区域について, 特定の時間帯における域外からの自家 用車の乗り入れを原則として禁止するものとする。 5.【別添資料】は, 規制@及びAの内容として議連で検討されている法律案の骨子である。 議連 の担当者Xは, 同法律案について, 法律家甲に相談した。 その際の甲とXとのやり取りは, 以下 のとおりであった。 甲:規制@が検討された背景には, 生活路線バスを運行する事業者の経営が悪化する中で, 地方の 高齢者や高校生等の移動手段をどう確保するかという問題があったということですね。 X:そうです。 地方のバス事業者は, 生活路線バスの慢性的赤字を, 高速路線バスの収益と自治体 からの補助金とで補填することにより, 経営を維持している場合が少なくありません。 過疎化が 進み, 地方のバス事業者の経営環境が著しく悪化している現在, 新たな規制によるてこ入れが必 - 2 - 要だと考えています。 そこで, 地域の移動手段である生活路線バスを運行する事業者の収益を改善して, これ以上の 路線廃止や減便が起こらないようにし, 可能であれば, 増便を促すなどして利便性が向上すれば と思っております。 甲:つまり, 生活路線バスを運行する乗合バス事業者の収益を改善するために, 高速専業の乗合バ ス事業者を認めない, ということですね。 X:はい。 また, 規制@では, それまで高速専業だった乗合バス事業者も, 生活路線バスに参入す れば, 高速路線バスを運行できるようになります。 これにより, 生活路線バスへの新規参入を促 す効果があると考えています。 甲:その点について確認ですが, 多くの利用者が見込まれる高収益の路線, 例えば県庁所在地の中 心駅と繁華街を結ぶ生活路線バスに参入すれば, その事業者は, 高速路線バスを運行することが できるようになるということですか。 X:いいえ。 法律案では, 既存の事業者の経営の安定を害さないことを参入要件として定め, 既存 の生活路線バスが運行していない路線に限り新規参入を認めることにより, 高収益の路線のみへ の参入を排除したいと考えております。 甲:地域の移動手段に責任を持つ事業者に限る, ということですね。 これも確認なのですが, 生活 路線バスに参入しなかった, あるいは, 参入できなかった事業者は, どうなるのでしょうか。 X:高速路線バスを自ら運行することはできなくなりますが, 貸切バス事業に転業すれば, 生活路 線バスを運行する乗合バス事業者から高速路線バスの運行を受託することはできます。 甲:ところで, 法律案では, 規制Aとして, 都市部や観光地の交通規制も考えていますね。 X:はい。 住民の日常生活に関わる地域交通の課題を洗い出してみたところ, 渋滞によって住民の 自家用車やバスによる移動が著しく困難になるという事例が各地から報告されました。 歴史的な 街並みが保存されている地区や住宅密集地では, 道路の拡幅もできず, 歩くのも危ないし緊急車 両の通行もままならないということで, 住民の不安も高まっています。 曜日と時間帯を限ってと いうことになりますが, 規制Aは, 域外からの自家用車の乗り入れを禁止することによって, 深 刻な交通渋滞を解消するものです。 甲:どれくらいの広さ・時間の規制を考えているのですか。 X:広さは規制の対象となる区域によって様々でしょうが, 最大でも混雑がひどい数平方キロメー トルでしょうか。 時間帯は, 例えば観光地では週末や休日の午前9時から午後5時くらいを, 住 宅密集地では通勤・通学の時間帯を想定しています。 甲:例えば, 規制の対象となる区域の住民が, 域外に居住する人の運転する自家用車に乗せてもら って当該区域に入ろうとする場合にも, 規制の対象となるのですか。 X:いいえ。 当該区域の住民が乗車している場合には, 規制の対象とはなりません。 甲:法律案の概要は分かりました。 この法律案について, 関係者の間で反対する意見はありません でしたか。 X:ありました。 まず, 規制@ですが, これまで高速専業だった乗合バス事業者からは, 生活路線 バスに参入しないと高速路線バスの運行ができなくなることから, 死活問題だという意見も寄せ られています。 また, 生活路線バス用の車両の購入や, 営業所の設置・維持, 運転手の再教育に 多くの費用が掛かることへの懸念に加え, そもそも既存の生活路線バスを運行する乗合バス事業 者の経営を脅かさずに参入できる地域があるのか, という疑問も寄せられています。 規制Aについては, 候補地の住民からはおおむね好意的な意見が寄せられています。 他府県ナ ンバーの自家用車の運転手にも意見を聞いたのですが, やむを得ないという声がある一方, 自家 用車での移動が規制されることには批判の声もあります。 また, ある観光地の住民からは, 渋滞 の原因は観光バス等にもあるから, 自家用車のみを規制してもあまり意味がないといった声も聞 かれます。 - 3 - 甲:そうですか。 憲法上の問題点については検討しましたか。 X:いくつか憲法上の問題点があるとは認識していますが, 具体的な検討はこれからです。 そこで 先生に, 主要な論点を整理して検討をお願いしたいと考えております。 〔設問〕 あなたが検討を依頼された法律家甲であるとして, 規制@及びAの憲法適合性について論じな さい。 なお, その際には, 必要に応じて, 参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及す ること。 - 4 - 【別添資料】 持続可能な地域交通システム法(仮称)の骨子 第1 目的 この法律は, 公共交通の維持・拡充や交通渋滞の緩和を図ることにより, 地域における住民の移 動手段を確保することを目的とするものとする。 第2 定義 1 「乗合バス事業」とは, 道路運送法上の一般旅客自動車運送事業の許可を受け, 有償で, 乗車 定員11人以上の自動車を使用して乗合旅客を運送する事業をいい, 「乗合バス事業者」とは, 乗合バス事業を経営する者をいうものとする。 2 「貸切バス事業」とは, 道路運送法上の一般旅客自動車運送事業の許可を受け, 有償で, 一個 の契約により乗車定員11人以上の自動車を貸し切って旅客を運送する事業をいい, 「貸切バス 事業者」とは, 貸切バス事業を経営する者をいうものとする。 3 「高速路線バス」とは, 乗合バス事業者が路線を定めて定期に運行するバスのうち, 高速道路 を利用し, 50キロメートル以上の路線を定めて定期に運行するバスをいうものとする。 4 「生活路線バス」とは, 乗合バス事業者が路線を定めて定期に運行するバスのうち, 高速路線 バス以外のものをいうものとする。 5 「特定区域」とは, 域外からの自動車の乗り入れによって, 地域住民の日常生活に著しい支障 を来す程度の交通渋滞が生じている区域をいうものとする。 第3 1 高速路線バス 高速路線バスは, 生活路線バスを運行する乗合バス事業者のみが, 国土交通大臣の許可を受け た上で運行することができるものとする。 2 生活路線バスを運行する乗合バス事業者は, 国土交通大臣の許可を受けた上で, 高速路線バス の運行を, 貸切バス事業者に委託することができるものとする。 第4 生活路線バス 国土交通大臣は, 既に当該地域で生活路線バスを運行している乗合バス事業者の経営の安定を害 することがないと認められる場合に限り, 既存の生活路線バスが運行していない路線において, 新 たに生活路線バスの運行を許可することができるものとする。 第5 1 特定区域 都道府県知事は, 特定区域について, 時間帯を定めて, 当該区域の住民以外の者が乗車する自 家用乗用自動車(当該区域の住民又は身体障害者が乗車する場合その他やむを得ない事由がある と認められる場合を除く。 )の通行を禁止することができるものとする。 2 前項の禁止に違反した者は, 5000円以下の過料に処するものとする。 - 5 - 論文式試験問題集[公法系科目第2問] - 1 - [公法系科目] 〔第2問〕(配点:100〔 〔設問1〕,〔設問1〕,〔設問2〕の配点割合は45:30:25〕) Xは, A県B市内の自宅脇に所有する農地において農業を営んでいたが, 地域に医療施設が存在 せず, その設置を望む声が近隣の農家に強いことから, 医師である長男に医院を開設させることと し, 所有する農地の一部(以下「本件農地」という。 )を転用して, そこに長男のための医院を建築 することを計画した。 このため, 農地法第4条第1項に基づく農地の転用許可の取得が必要となり, XがB市の担当課に相談したところ, 農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。 ) 第8条第1項に基づきB市が定めた農業振興地域整備計画の一環としての農用地利用計画(以下「本 件計画」という。 )により, 本件農地が同条第2項第1号所定の農用地区域内の農地に指定されてい る旨を指摘された。 そして, そのままでは同法第17条及び農地法第4条第6項第1号イにより転 用は認められず, A県への転用許可申請の前提として, B市に対して, 農振法第13条第1項に基 づく本件計画の変更により本件農地を農用地区域から除外することを申し出なければならない旨を 伝えられた。 Xの相談を受けて, B市の担当課が精査したところ, 本件農地を含む区域においては, 平成13 年4月頃からA県により国の補助を受けて土地改良法に基づく土地改良事業として農業用の用排水 施設の改修事業(以下「本件事業」という。 )が実施されていたことが判明した。 すなわち, 本件事 業は, 従来の用排水施設の老朽化に伴い, 大雨時の周辺農地の冠水や施設の維持管理労力の増加等 の弊害が顕在化したために, 施設の補修・改修を行うもので, 本件農地を直接の受益地とする上流 部分については, 平成20年末頃には工事が終了していたものの, その後の計画変更による工事の 中断もあって, 全体としては, 平成30年12月に完了している。 そのため, 同課においては, 本 件事業は, 農振法第10条第3項第2号及び農業振興地域の整備に関する法律施行規則第4条の3 第1号イの事業に該当し, 農業振興地域の整備に関する法律施行令(以下「農振法施行令」という。 ) 第9条により, 当該工事の完了した平成30年度の翌年度の初日から起算して8年を経過するまで は, 本件農地は農振法第13条第2項第5号の要件を満たさないとの判断がなされた。 そして, 同 課職員は, Xに対し, この期間が経過するまでは, 本件農地についての本件計画の変更の申出は受 け付けられない旨を回答した。 しかし, Xは, これに納得せず, B市長が定めた「農業振興地域整備計画の管理に関する運用指 針」(以下「本件運用指針」という。 )第4条第1項により, 令和元年5月8日, B市長に対する本 件計画の変更申出書(以下「本件申出書」という。 )を所定の窓口に提出しようとしたものの, その 受け取りを拒否されたため, 即日, 本件申出書を担当課に郵送した。 本件申出書は, 同月10日, 同課に到達したが, 同課は, これをXに返送した。 これについてXが同課に電話で問い合わせたと ころ, 同課職員は, 所定の期間が経過するまでは, 本件農地についての申出を受け付けることはで きない旨を答えた。 これに対して, Xは, 申出をやめる意思がない旨を職員に伝えたものの, その 後, 翌令和2年5月中旬になっても, B市から本件計画の変更又はその拒絶についての本件運用指 針第4条第4項による通知は受けていない。 Xは, 本件計画の変更を実現するため, 訴訟を提起すべく, 同月13日, 弁護士Cに相談した。 以下に示された【法律事務所の会議録】を読んだ上で, 弁護士Cの指示に沿って, 弁護士Dの立場 に立って, B市の反論を想定しながら設問に答えなさい。 なお, 関係法令の抜粋を【資料1 関係法令】に, 本件運用指針の抜粋を【資料2 B市農業振 興地域整備計画の管理に関する運用指針(抜粋)】に, それぞれ掲げてあるので, 適宜参照しなさい。 〔設問1〕 Xは, B市を被告として, 抗告訴訟を提起することを考えている。 本件計画の変更及びその申出の 拒絶は, 抗告訴訟の対象となる処分に該当するかを検討しなさい。 - 2 - 本件計画の変更及びその申出の拒絶が処分であることを前提として, 本件申出書を返送されたXが 提起すべき抗告訴訟について, その訴訟要件の充足性と本案においてすべき主張をそれぞれ検討しな さい。 ただし, Xの申出に対する拒否処分はされていないものとし, 義務付けの訴えについては検討 を要しない。 〔設問2〕 仮に, 今後, B市によって, 本件計画の変更の申出前にB市担当課職員がした回答どおりの理由 により, 同申出を拒絶する通知がなされ, Xがそれに対する取消訴訟を提起する場合, 本案におい て, どのような違法事由を主張することが考えられるかを検討しなさい。 ただし, 当該訴訟が適法 であることを前提とする。 - 3 - 【法律事務所の会議録】 弁護士C:それでは, Xさんの案件について, 検討しましょう。 本件農地について, 農用地区域から 除外するための本件計画の変更の申出をB市が認めないことに関する争いですから, 本件計 画の変更, 更にその申出の拒絶の処分性から検討しましょう。 弁護士D:農用地区域から除外するための計画変更については, その処分性を否定するB市による主 張が予想されます。 しかし, こうした計画変更やその申出の拒絶の処分性については, 下級 審の判断も分かれており, まだ, 決着はついていないようですので, なお, 検討の余地はあ りそうです。 弁護士C:そうですね。 では, まず, 農用地区域を定める計画自体の法的性格を検討してみてくださ い。 本件計画の設定が区域内の農地所有者の権利義務に及ぼす影響を整理した上, 都市計画 法上の用途地域指定についての判例(最高裁判所昭和57年4月22日第一小法廷判決, 民 集36巻4号705頁)も参考にして, 計画としての性質や規制の程度などの違いも考えな がら, 本件計画の法的性格を考えてみましょう。 さらに, それを踏まえて, 本件農地のよう な個別の農地を農用地区域から除外するための計画変更の処分性を検討してください。 弁護士D:承知しました。 弁護士C:もっとも, 本件計画の変更に処分性を認めることができたとしても, 当然に, それについ ての申出の拒絶に処分性が認められることにはなりません。 農振法上は, 本件計画の設定と 同様に市町村等の職権による計画変更が前提とされているように思えますが。 弁護士D:本件のような個別の農地についての計画変更を判断するためには, 実務上, 農地所有者等 からの申出が不可欠で, こうした計画変更は, 多くの市町村で広く行われています。 特にB 市においては, 市長の策定した本件運用指針第4条によって計画変更の申出とそれに対する 可否の通知の手続が定められています。 弁護士C:それでは本件運用指針の存在なども考慮に入れながら, その申出の性格と併せて, 本件計 画の変更及びその申出の拒絶の処分性を検討してください。 ただし, Xさんは, 本件農地に ついての別の処分を申請して, その拒否処分に対して取消訴訟を提起することもできるわけ ですので, 本件計画の変更の段階での抗告訴訟による救済の必要性も, 検討してください。 弁護士D:承知しました。 弁護士C:つぎに, Xさんは, 本件計画の変更の申出をしたわけですが, 本件計画の変更及びその申 出の拒絶が処分であるとすれば, その申出に対する可否の通知をしないB市の担当課による 処理については, 行政手続法上も問題がありそうですね。 弁護士D:B市は, 農用地区域からの除外に1年程度を要する旨を公表しており, Xさんと同時期に B市にその申出をした他の農地所有者らに対しては, 既に先月中に通知がなされています。 弁護士C:それでは, 本件計画の変更及びその申出の拒絶が処分であること, Xさんの申出への拒否 処分がされていないことを前提として, その置かれている状態やB市による対応の法的な意 味を検討した上で, どのような抗告訴訟を提起すべきかを検討してください。 その訴訟要件 の充足性に加えて, 本案においてすべき主張についても検討をお願いします。 義務付けの訴 えの提起も考えられますが, これについては, 今回の検討からは除外しておきます。 弁護士D:承知しました。 弁護士C:最後に, 今後, B市により, 本件計画の変更の申出前にB市担当課職員がした回答どおり の理由により, 本件計画の変更の申出を拒絶する通知がなされる可能性もありますので, こ れに対してXさんが取消訴訟を提起する場合, 当該訴訟が適法であることを前提として, 本 案においてどのような違法事由の主張が考えられるかも, 検討しておいてください。 今回は, 手続上の違法は, 検討から除外しておきましょう。 弁護士D:B市は, 土地改良事業である本件事業との関係から, 農振法第13条第2項第5号を満た さないとしていますが, Xさんは, 本件農地については, この要件を充足していると考えて - 4 - います。 Xさんによると, 本件事業は, 農地の冠水の防止を主たる目的とするもので, これ によって関係する農地の生産性が向上するとは考えにくいそうです。 とりわけ, 本件農地は, 高台にあるため, ほとんど本件事業の恩恵は受けないと言っています。 弁護士C:それでは, まず, その点にどのような違法が考えられるかについて, 本件計画の目的も踏 まえて, 検討してください。 弁護士D:さらに, 本件事業全体の完了は平成30年でしたが, 本件農地と関連する部分の工事につ いては, その10年も前に完了していたそうで, 農振法施行令第9条の規定する8年という 期間制限を一律に適用されることにも, Xさんは不満を感じています。 弁護士C:この政令自体が無効であるとまではいえず, その定める8年という期間も不適切とまでは いえないとしても, 例外を認めずに, この政令の定める期間制限を機械的に適用しているこ とに問題がありそうですね。 土地改良事業との関係で農用地区域からの除外を制限している 農振法の趣旨目的を踏まえて, 本件農地について, これに基づく政令所定の期間制限に例外 を認める解釈を検討してください。 弁護士D:承知しました。 - 5 - 【資料1 〇 関係法令】 農地法(昭和27年法律第229号)(抜粋) (農地の転用の制限) 第4条 農地を農地以外のものにする者は, 都道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。 (以 下略) 一〜九 2〜5 6 (略) (略) 第1項の許可は, 次の各号のいずれかに該当する場合には, することができない。 (以下略) 一 次に掲げる農地を農地以外のものにしようとする場合 イ 農用地区域(中略)内にある農地 ロ (略) 二〜六 (略) 7〜11 (略) 〇 農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)(抜粋) (農業振興地域の整備の原則) 第2条 この法律に基づく農業振興地域の指定及び農業振興地域整備計画の策定は, 農業の健全な発 展を図るため, 土地の自然的条件, 土地利用の動向, 地域の人口及び産業の将来の見通し等を考慮 し, かつ, 国土資源の合理的な利用の見地からする土地の農業上の利用と他の利用との調整に留意 して, 農業の近代化のための必要な条件をそなえた農業地域を保全し及び形成すること並びに当該 農業地域について農業に関する公共投資その他農業振興に関する施策を計画的に推進することを旨 として行なうものとする。 (市町村の定める農業振興地域整備計画) 第8条 都道府県知事の指定した一の農業振興地域の区域の全部又は一部がその区域内にある市町村 は(中略)その区域内にある農業振興地域について農業振興地域整備計画を定めなければならない。 2 農業振興地域整備計画においては, 次に掲げる事項を定めるものとする。 一 農用地等として利用すべき土地の区域(以下「農用地区域」という。 )及びその区域内にある土 地の農業上の用途区分 二〜六 (略) 3 (略) 4 市町村は, 第1項の規定により農業振興地域整備計画を定めようとするときは(中略)当該農業 振興地域整備計画のうち第2項第1号に掲げる事項に係るもの(以下「農用地利用計画」という。 ) について, 都道府県知事に協議し, その同意を得なければならない。 (農業振興地域整備計画の基準) 第10条 (略) 2 (略) 3 市町村の定める農業振興地域整備計画のうち農用地利用計画は, 当該農業振興地域内にある農用 地等及び農用地等とすることが適当な土地であつて, 次に掲げるものにつき, 当該農業振興地域に おける農業生産の基盤の保全, 整備及び開発の見地から必要な限度において農林水産省令で定める 基準に従い区分する農業上の用途を指定して, 定めるものでなければならない。 一 二 (略) 土地改良法(中略)に規定する土地改良事業又はこれに準ずる事業で, 農業用用排水施設の新 設又は変更, 区画整理, 農用地の造成その他の農林水産省令で定めるものの施行に係る区域内に ある土地 - 6 - 三〜五 4, 5 (略) (略) (農業振興地域整備計画の変更) 第13条 都道府県又は市町村は, 農業振興地域整備基本方針の変更若しくは農業振興地域の区域の 変更により(中略)又は経済事情の変動その他情勢の推移により必要が生じたときは(中略)遅滞 なく, 農業振興地域整備計画を変更しなければならない。 (以下略) 2 前項の規定による農業振興地域整備計画の変更のうち, 農用地等以外の用途に供することを目的 として農用地区域内の土地を農用地区域から除外するために行う農用地区域の変更は, 次に掲げる 要件のすべてを満たす場合に限り, することができる。 一〜四 五 (略) 当該変更に係る土地が第10条第3項第2号に掲げる土地に該当する場合にあつては, 当該土 地が, 農業に関する公共投資により得られる効用の確保を図る観点から政令で定める基準に適合 していること。 3, 4 (略) (土地利用についての勧告) 第14条 市町村長は, 農用地区域内にある土地が農用地利用計画において指定した用途に供されて いない場合において, 農業振興地域整備計画の達成のため必要があるときは, その土地の所有者又 はその土地について所有権以外の権原に基づき使用及び収益をする者に対し, その土地を当該農用 地利用計画において指定した用途に供すべき旨を勧告することができる。 2 市町村長は, 前項の規定による勧告をした場合において, その勧告を受けた者がこれに従わない とき, 又は従う見込みがないと認めるときは, その者に対し, その土地を農用地利用計画において 指定した用途に供するためその土地について所有権又は使用及び収益を目的とする権利を取得しよ うとする者で市町村長の指定を受けたものとその土地についての所有権の移転又は使用及び収益を 目的とする権利の設定若しくは移転に関し協議すべき旨を勧告することができる。 (都道府県知事の調停) 第15条 市町村長が前条第2項の規定による勧告をした場合において, その勧告に係る協議が調わ ず, 又は協議をすることができないときは, 同項の指定を受けた者は, その勧告があつた日から起 算して2箇月以内に(中略)都道府県知事に対し, その協議に係る所有権の移転又は使用及び収益 を目的とする権利の設定若しくは移転につき必要な調停をなすべき旨を当該市町村長を経由して申 請することができる。 2 都道府県知事は, 前項の規定による申請があつたときは, すみやかに調停を行なうものとする。 3, 4 (略) (農用地区域内における開発行為の制限) 第15条の2 農用地区域内において開発行為(中略)をしようとする者は, あらかじめ(中略)都 道府県知事(中略)の許可を受けなければならない。 (以下略) 一〜十二 (略) 2〜10 (略) (農地等の転用の制限) 第17条 都道府県知事(中略)は, 農用地区域内にある(中略)農地及び採草放牧地についての同 法〔(注)農地法〕第4条第1項(中略)の許可に関する処分を行うに当たつては, これらの土地が 農用地利用計画において指定された用途以外の用途に供されないようにしなければならない。 〇 農業振興地域の整備に関する法律施行令(昭和44年政令第254号)(抜粋) 〔 (注) 本政令中, 「法」は農業振興地域の整備に関する法律を指す。 〕 (農用地区域の変更に係る基準) - 7 - 第9条 法第13条第2項第5号の政令で定める基準は, 当該変更に係る土地が法第10条第3項第 2号に規定する事業の工事が完了した年度の翌年度の初日から起算して8年を経過した土地である こととする。 〇 農業振興地域の整備に関する法律施行規則(昭和44年農林省令第45号)(抜粋) 〔 (注) 本規則中, 「法」は農業振興地域の整備に関する法律を指す。 〕 (土地改良事業等) 第4条の3 法第10条第3項第2号の農林水産省令で定める事業は, 次に掲げる要件を満たしてい るものとする。 一 次のいずれかに該当する事業(主として農用地の災害を防止することを目的とするものその他 の農業の生産性を向上することを直接の目的としないものを除く。 )であること。 イ 農業用用排水施設の新設又は変更(当該事業の施行により農業の生産性の向上が相当程度図 られると見込まれない土地にあつては, 当該事業を除く。 ) ロ〜ホ 二 (略) 次のいずれかに該当する事業であること。 イ 国が行う事業 ロ 国が直接又は間接に経費の全部又は一部につき補助を行う事業 【資料2 B市農業振興地域整備計画の管理に関する運用指針(抜粋)】 (目的) 第1条 農用地区域は, 今後おおむね10年以上にわたり農業上の利用を確保すべき土地について設 定するものであり, 農用地利用計画の変更については, 十分慎重を期す必要があるため, その場合 における運用基準を定めるものである。 (変更手続き) 第4条 農用地利用計画の変更を必要とする者(以下「申出人」という。 )は, 別に定める申出書と必 要な関係書類を添えて, 正副2部作成し, 農業振興課窓口に提出しなければならない。 2 農用地利用計画の変更の申出が計画を変更すべき事由に該当する場合は, B市農業振興審議会に 付議し, 意見を求めるものとする。 3 農用地利用計画の変更をするときは, 県(国)と事前に協議を行うこととする。 4 申出書による農用地利用計画の変更の可否については, 申出人に通知するものとする。 - 8 -