論文式試験問題集[民事系科目第1問] - 1 - [民事系科目] 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は, 40:25:35〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕, 〔設問2〕及び〔設問3〕に答えなさい。 なお, 解答に当たっては, 文中において特定されている日時にかかわらず, 試験時に施行され ている法令に基づいて答えなさい。 T 【事実】 1.Aは, 甲土地上に乙建物を所有して居住していたが, 令和2年5月20日, Bとの間で, 甲土地及び乙建物をBに売却する契約(以下「契約@」という。 )を締結した。 Bは乙建物内 でチェロの練習をする予定であったため, AB間において, 乙建物が特に優れた防音性能を 備えた物件であることが合意の内容とされ, 代金額が6000万円と定められた。 2.契約@において, Bは, 契約時に1000万円を支払い, 残額を甲土地及び乙建物の引渡 しがされた日から1か月以内に支払うこと, 残代金の完済後直ちに甲土地及び乙建物につき AからBへの所有権移転登記手続を行うこととされた。 3.Aは, 令和2年7月25日, 契約@に基づく残代金債権(5000万円)をCに代金45 00万円で売却し, Cへの債権譲渡を通知する旨の内容証明郵便が同月30日にBに到達し た。 4.令和2年9月25日, Bは甲土地及び乙建物の引渡しを受けた。 その後, Bは, 昼間に乙 建物内でチェロの練習をしていたところ, 近隣住民から, 音が漏れ聞こえてうるさいと苦情 を申し立てられ, その際, 以前Aとの間でも同様のトラブルがあったと言われた。 5.令和2年10月10日, Bが業者に点検させたところ, 乙建物が契約@において合意され た防音性能を備えていないことが判明した。 6.そこで, Bは, Aに対し, 契約@で定められた防音性能を乙建物に備えさせるための工事 に要する費用の見積書を提示し, 費用を負担するか, 工事を自ら手配するかを選択して履行 するよう求めたが, Aからの応答はない。 7.令和2年10月30日, Cは, Bに対して契約@の残代金5000万円の支払を求めた。 〔設問1〕 【事実】1から7までを前提として, 次の問いに答えなさい。 Bは, 乙建物に住み続けることを前提に, 上記【事実】5の防音性能の不備を理由としてCへ の支払額を少なくしたいと考えている。 このとき, 契約@に基づくBの主張として考えられるもの を複数挙げ, それぞれその主張が認められるかを検討しなさい。 U 【事実】1から7までに加え, 以下の【事実】8から12までの経緯があった。 なお, 本件にお ける土地の位置関係は別紙図面のとおりである。 【事実】 8.ところで, 甲土地は, 鉄道駅から徒歩圏内の住宅地にある。 甲土地は, かつて, その隣地 である丙土地と一筆の土地でありDが所有していたが, 分割されて袋地になり, DからAに 売却されていた。 9.Aから甲土地を購入したBは, 丙土地の端のa部分(幅1メートル)を公道に至るための 徒歩での通行路として利用していた。 その後, Bは, 自家用車の購入を計画したが, a部分 の道幅は車両の通行には十分でなかったため, 令和3年1月10日, Dとの間で, 丙土地の a部分及びこれに隣接するb部分(幅2メートル。 以下, a部分とb部分を合わせて「c部 - 2 - 分」という。 )につき, 通行を目的とする地役権を甲土地のために設定すること, Bは毎年1 月に2万円をDに支払うことに合意した(以下「契約A」という。 )。 Bは, 同日, Dに対し て2万円を支払い, 以後, c部分を徒歩及び自家用車で通行している。 10.令和4年以降, Bは, 毎年2万円の支払をしなくなった。 11.令和6年3月1日, Bが毎年2万円を支払わないのであればc部分を花壇として利用した いと考えたDは, Bに支払を催告し, 1週間以内に支払わなければ契約Aを解除する旨の意 思表示をしたが, 同月8日を経過しても, Bは支払に応じなかった。 12.Bは, 「c部分, 少なくともそのうちのa部分については, Bは, Dによる地役権の設定 がなくても通行する権利がある。 」, 「仮に, 地役権の設定がなければc部分を通行できないと しても, Dは契約Aを解除することはできない。 すなわち, 確かに, Bは毎年2万円を支払 っていないが, 地役権設定契約によって設定者が債務を負うことはなく, Dは契約Aによ って債務を負っていない以上, 解除をすることはできない。 」と述べている。 これに対して, Dは, Bが毎年2万円を支払わない以上, 契約AによってDが債務を負 っていなかったとしても, Dは契約Aを解除することができるはずであるし, また, そもそ も地役権設定契約によって設定者は債務を負い, したがって, 契約AによってDも債務を負 っていたと述べている。 〔設問2〕 【事実】8から12までを前提として, 以下の(1)及び(2)に答えなさい。 (1) 【事実】12の下線部のBの発言は, 正当であると認められるか。 a部分及びc部分のそれぞ れにつき, 検討しなさい。 (2) 【事実】12の下線部及びにつき, B及びDが地役権設定契約の性質をどう捉え, それを踏 まえて契約Aの債権債務関係をどのように分析し, また, 解除の制度趣旨についてどのような 理解を基礎としているのかをそれぞれ発言者ごとに明らかにした上で, Dが契約Aを解除する ことができるかを検討しなさい。 V 【事実】1から12までに加え, 以下の【事実】13から21までの経緯があった。 【事実】 13.Bは, 甲土地に隣接する丁土地を購入することで, 車の通行の問題を解決しようと考えた。 14.丁土地はEの所有地であり, その旨の登記がされていた。 15.Eは長期入院加療中であったため, Eの財産の管理は, Eから依頼があったわけではない が, 事実上, Eの妻FがEの姉Gに相談して行っていた。 Bから丁土地の売買の申入れを受 けたFは, 丁土地はEが相続により取得したが誰も利用しておらず, また, Eの医療費が今 後更に必要なことから, 前向きに考え, Gに相談した。 Gは, 売却に賛成し, もし売却する ならGの事業の資金のために売却金の一部を使わせてほしいと, Fに申し入れた。 16.Eには子がなく, Eの親族はFとGのみであり, EもFも日頃からGを頼りにしていた。 そこで, Fは, Eの医療費に充てるほか, 代金の一部をGの事業の資金に充てるために, 丁 土地を売却することにした。 17.令和6年7月10日, Bは, Eから丁土地を2000万円で購入する契約(以下「契約B」 という。 )を締結したが, この契約は, FがEの代理人として締結したものであり, その締結 の場にはFの求めに応じてGも同席した。 Fは, Eの委任状及び印鑑登録証明書をBに示し たが, 実は, FはEに対して丁土地の売却のことを知らせておらず, 丁土地に関してEから Fに代理権が授与されたことはなく, 委任状は自宅に保管されていたEの実印をFが勝手に 利用して作成したものであり, Eの印鑑登録証明書はFが取り寄せたものであった。 Fは, Bに対し, Eが入院加療中であって医療費が必要であること, 丁土地の売却にはEの親族の - 3 - 了解も得ていることを話し, Bは, 夫が入院加療中であるから妻が取引をするのは通常のこ とと考え, それ以上にEに確認するなどの措置は採らなかった。 18.契約Bにおいて, Bは契約時に400万円を支払うこと, 残代金の支払及び丁土地の所有 権移転登記手続は令和6年9月20日に行うこととされた。 Bは, これに従ってFに400 万円を交付し, Fは, このうち200万円をEの医療費に備えて取り置き, 残る200万円 をGの指定した銀行口座に振り込んだ。 19.令和6年7月24日, Eは, 容態が急変して契約Bについて知らずに死亡した。 最期まで Eの判断力に衰えは見られなかった。 その後, Fは相続を放棄し, Gは, 同年8月24日, E名義の預金口座を解約して全額の払戻しを受けて, Eの医療費を弁済した。 20.令和6年9月13日, Gは不動産業者から丁土地を2600万円で売ってほしい旨の打診 を受けた。 21.令和6年9月20日, Bは, Gに対し, 残代金を提供した上, 契約Bに基づき丁土地の所 有権移転登記手続を求めたが, Gはこれを拒絶した。 〔設問3〕 【事実】13から21までを前提として, 次の問いに答えなさい。 契約Bに基づくBのGに対する所有権移転登記手続請求は認められるか。 FがEの配偶者であ ることを踏まえて, 検討しなさい。 - 4 - (別紙図面) 私有地 私有地 甲土地 丁土地 丙土地 公道 b部分 a部分 c部分 私有地 公道 - 5 - 論文式試験問題集[民事系科目第2問] - 1 - [民事系科目] 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点の割合は, 60:40〕) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。 )は, 電子機器部品の製造及び販売等を目的とする会社法 上の公開会社でない会社であり, 取締役会, 監査役及び会計監査人を置いており, 一種類の株 式(以下「本件普通株式」という。 )のみを発行している。 甲社の資本金の額は10億円, 発行 可能株式総数は20万株, 発行済株式の総数は8万株であり, Aが5万1000株を, Bが2 万9000株を, それぞれ保有している。 甲社の取締役はA, C及びDの3人であり, Aが代 表取締役会長を, Cが代表取締役社長を, それぞれ務めている。 なお, Bは, 甲社の役員に就 任していない。 2.甲社は, 規模はそれほど大きくないが, 高い技術力を持っていた。 甲社の業績は, 約10年前 の設立以来, 堅調に推移してきたため, 2年前までは, 毎事業年度, 欠かさずに剰余金の配当 をしてきた。 しかし, 近時は, 支払が遅延する取引先が増えたため, 甲社は仕入資金の調達が 必要になったが, 金融機関が満足な融資をしてくれないため, 資金繰りに窮するようになった。 3.このような状況で, Aは, 令和元年12月頃, 甲社の資金繰りの改善を図ることが急務であり, 少なくとも2億円の資金調達が必須であると考えた。 甲社は, 銀行から借入れをすることが困 難であったため, Aは, 株式の発行が最善であると考えたが, 普通株式では引受人を見付ける ことができない可能性が高かったため, 議決権のある剰余金配当優先株式(以下「本件優先株 式」という。 )を新たに発行することによって2億円の資金調達をすることを計画した。 4.Aが本件優先株式を引き受けて出資してくれそうな者を探したところ, Aの叔父Pとその友人 Qがそれぞれ1億円ずつ出資してもよいという意向を示した。 そこで, Aが, 令和2年2月中 旬に, 中立的な専門機関に対し, 甲社の事業計画や財務状況を示す資料を提供して, 本件優先 株式について合理的な方法による評価額の算定を依頼したところ, 本件優先株式の評価額は1 株当たり4万円と算定された。 5.これを受けて, Aが, P及びQに対し, 1株当たりの払込金額を4万円として, 本件優先株式 をP及びQにそれぞれ2500株ずつ(合計5000株)発行することを打診したところ, P 及びQは, 少なくともそれぞれ甲社の発行済株式の総数の5%ずつを保有したいため, 1株当 たりの払込金額を2万円として, 本件優先株式をP及びQにそれぞれ5000株ずつ(合計1 万株)発行するように主張して譲らなかった。 6.そこで, AがC及びDに意見を聞いたところ, 2人とも2億円の資金調達を実現するためには, P及びQの主張を受け入れる以外に選択肢がないが, Bが反対して計画が挫折する可能性が小 さくないという意見であった。 7.Aは, 令和2年3月17日, 甲社の取締役会(以下「本件取締役会」という。 )を招集して, 役員の全員が出席の上で, 対応策を協議したところ, A, C及びDは, 2億円の資金調達を実 現するためには, 株主総会の場で何とかしてBの同意を取り付けるほかないという意見で一致 した。 その上で, 本件取締役会では, 同月25日に甲社の本社で定時株主総会(以下「本件定 時総会」という。 )を開催すること, 「計算書類の報告の件」及び「事業報告の報告の件」を会 議の目的事項とすること, 「定款変更の件」を会議の目的事項として, 本件優先株式の内容等の 所要の事項を定める定款変更を行う旨の議案(以下「本件議案1」という。 )を本件定時総会に 提出すること, 「新株式発行の件」を会議の目的事項として, 本件優先株式の発行(以下「本件 株式発行」という。 )を行う旨の議案(以下「本件議案2」という。 )を本件定時総会に提出す ることなどが決議された。 なお, 本件議案2は, @募集株式は本件優先株式1万株とすること, A1株当たりの払込金額は2万円(払込金額の合計は2億円)とすること, B払込期日は同年 - 2 - 4月10日とすること, C増加する資本金と資本準備金の額はいずれも1億円とすること, D 本件優先株式をP及びQにそれぞれ5000株ずつ割り当てることを内容とするものであった。 8.Cは, 令和2年3月17日, A及びBに対し, 本件定時総会の招集通知(以下「本件招集通知」 という。 )を書面で発した。 本件招集通知には, 本件定時総会の開催日時及び開催場所のほか, 会議の目的事項として「計算書類の報告の件」及び「事業報告の報告の件」が記載されており, 当該目的事項との関係で必要とされる書類も, 計算書類や事業報告を始め, 全て添付されてい た。 しかし, 本件招集通知には, 本件議案1及び本件議案2に関する記載がなく, また, 「定款 変更の件」という会議の目的事項及び「新株式発行の件」という会議の目的事項がいずれも記 載されていなかった。 9.令和2年3月25日に開催された本件定時総会には, 役員の全員が出席しており, また, 株主 であるA及びBのいずれもが出席した。 Cが「定款変更の件」について本件議案1を, 「新株式 発行の件」について本件議案2を, それぞれ本件定時総会に上程したところ, Bは, 本件議案 1及び本件議案2のことを初めて知って驚いた。 しかし, Bは, Cから, 2億円の資金調達が 急務であること, そのためには, 事実上, 本件株式発行以外に選択肢がないこと, 2万円とい う1株当たりの払込金額は中立的な専門機関が合理的な方法によって算定した評価額に相当す る額である旨を説明されて, そのような事情であれば本件株式発行によって自己の持株比率が 下がるのもやむを得ないと考えて, 渋々ながら賛成したため, 本件議案1及び本件議案2がい ずれも可決された(以下, 本件議案1に関する本件定時総会の決議を「本件決議1」といい, 本件議案2に関する本件定時総会の決議を「本件決議2」という。 )。 10.その後, Cが会社法所定の手続を行い, P及びQが払込期日である令和2年4月10日にそれ ぞれ1億円ずつを払い込んだことにより, P及びQに対する本件株式発行が行われた。 なお, 上記4の本件優先株式の客観的な評価額の算定後, 払込期日までの間に, 本件優先株式の価値 を著しく変動させるような事情はなかった。 〔設問1〕 Bは, 本件株式発行の効力の発生後になって初めて, 中立的な専門機関が合理的な方 法によって算定した本件優先株式の評価額が1株当たり4万円であったことを知った。 Bは, 本件決議1及び本件決議2には瑕疵があり, そのことが本件株式発行の効力に影響を及ぼすと 考えている。 Bは, 令和2年5月14日の時点で, どのような訴えを提起して, どのような主 張をすることが考えられるかを検討した上で, その主張の当否について, 論じなさい。 下記11及び12では, 上記8及び9とは異なり, 本件株式発行が適法に行われたことを前提として, 〔設問2〕に答えなさい。 11.本件株式発行によって甲社の資金繰りは改善した。 しかし, その後, 約2年が経過し, 甲社の 資金繰りは再び苦しくなってきた。 甲社は, P及びQの要望により, 毎事業年度, 本件優先株 式について剰余金の配当をしてきたが, 資金繰りが苦しい中, 甲社にとっては, 本件優先株式 に係る剰余金の配当が重荷になってきた。 なお, 本件優先株式は, その発行後, P及びQがそ れぞれ5000株ずつを保有し続けている。 また, 甲社の定款では, 本件優先株式の内容として, 発行可能種類株式総数のほか, @甲社 が剰余金の配当をするときは, 本件優先株式の株主に対し, 本件普通株式の株主に先立ち, 各 事業年度に, 本件優先株式1株につき1000円(以下「配当優先額」という。 )を配当するこ と, A本件優先株式について配当優先額の配当をした後に, 更に分配可能額がある場合には, 本件優先株式の株主は本件普通株式の株主と共に株式数に応じて配当を受けることができるこ と, Bある事業年度において本件優先株式の株主に対してする1株当たりの配当の額が配当優 先額に達しない場合には, 当該不足額は翌事業年度以降に累積すること, C本件優先株式の株 - 3 - 主は, 株主総会における決議事項の全部について議決権を行使することができること, D本件 優先株式の譲渡による取得には, 甲社の承認を要すること, E会社法第322条第2項に基づ き, 同条第1項の規定による種類株主総会の決議を要しないことが定められていた。 12.このような状況で, 甲社は, 本件優先株式についてのみ株式の併合をすること(以下「本件株 式併合」という。 )を計画し, 取締役会で, 役員の全員が出席の上で, 臨時株主総会(以下「本 件臨時総会」という。 )を開催すること, 「株式併合の件」を会議の目的事項として, @本件優 先株式のみを2株につき1株の割合で併合すること, A本件株式併合の効力発生日, B効力発 生日における発行可能株式総数について定める議案(以下「本件議案3」という。 )を本件臨時 総会に提出することなどを決議した。 甲社は, この取締役会の決議に従い, 招集手続を経て, 本件臨時総会を開催した。 本件臨時 総会では, Cが, 本件優先株式に係る甲社の剰余金の配当の負担を軽減するためには本件株式 併合が必要である旨を説明した上で, 本件議案3について審議したところ, P及びQが強く反 対したが, A及びBが賛成したため, 本件議案3が可決された(以下, 本件議案3に関する本 件臨時総会の決議を「本件決議3」という。 )。 なお, 甲社は, 本件臨時総会の開催に先立ち, 株主に対する会社法所定の通知をするとともに, 本件株式併合に関する事項を記載した会社法 所定の書面を本店に備え置いた。 また, Pは, 本件臨時総会に先立ち, 本件株式併合に反対す る旨を甲社に対し書面で通知した。 〔設問2〕 本件株式併合の効力の発生によって, Pには, どのような不利益が生じ, 又は生じるおそれ があると考えられるかについて, 説明しなさい。 Pは, 本件決議3に従い, 本件株式併合の効力が発生することによって, 自己に不利益が 生じ, 又は生じるおそれがあることに強い不満を感じている。 Pは, 本件株式併合の効力の 発生前の時点で, どのような会社法上の手段を採ることが考えられるかについて, 論じなさ い。 なお, 損害賠償を請求するという手段については, 論じなくてよい。 - 4 - 論文式試験問題集[民事系科目第3問] - 1 - [民事系科目] 〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は, 40:20:40]) 次の文章を読んで, 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 なお, 解答に当たっては, 文中において特定されている日時にかかわらず, 試験時に施行されて いる法令に基づいて答えなさい。 【事 例】 1.Xは, 旧友Aとの間で, Xが所有する賃貸用建物(以下「本件建物」という。 )について, 賃 料月額20万円, 期間の定めなしとの約定でAに賃貸するとの賃貸借契約(以下「本件契約」 という。 )を締結し, Aに対し, 本件契約に基づき, 本件建物を引き渡した。 2.Aは, 本件建物で書店を経営し, Aの子であるY1及びY2(以下「Yら」という。 )が書店 を手伝っていた。 3.Aは, 5月に死亡した。 Aの配偶者は, 既に死亡しており, Aの相続人は, Yらのみである。 Yらは, まだAの遺産についての遺産分割をしていない。 4.Xは, 7月末, Yらに対し, 「XとAは, 今年の4月1日, 本件契約について9月30日をも って終了するとの解約の合意をした。 Aは, その際, Xに対し, 9月30日までに本件建物を 明け渡すと言った。 」と述べた上で, 本件建物の明渡しの具体的な時期を問い合わせた。 5.Y1とY2は, 8月初め頃に話合いをした。 この話合いの場において, Y1は, 「Aから本件 契約の解約の合意をしたとは聞いていない。 Y1とY2は, 相続によってAから本件建物の賃 借権を承継し, 書店の経営も引き継いでいる。 Y1は, Xに対し, Aの死亡後, Y1が本件契 約に基づく賃料の請求先となったことを知らせたが, Xは, 本件契約が終了するとは言わずに, これを了承した。 また, 本件契約に基づく賃料は, 現在まで滞りなく支払ってきた。 」とし, 本 件建物を明け渡す必要はないと述べた。 これに対し, Y2は, 「本件建物を明け渡し, 敷金を返 還してもらった方がよい。 Y2は, Aの生前, Aから, Xに敷金を差し入れてあると聞いてい た。 実際に, 本件契約を締結した頃の日付で120万円を受領した旨のX名義の受領書がAの 遺品の中にあった。 この受領書が敷金の差し入れの証拠になる。 」と述べた。 6.Y2が8月中旬に, Xに対して敷金が全額返還されるか問い合わせたところ, Xは, Y2に 対し, 「8月分まで賃料の滞納はなく, 本件建物をきれいに使ってくれて修繕の必要もない。 し かし, Aから本件契約の締結時に受け取ったのは礼金であって, 返還の必要のある敷金ではな い。 」と述べた。 7.そこで, Y2は, その翌日, かねてより相談していた弁護士Lに, 上記1から6までの経緯 を説明した上で, Xから敷金を返還してもらうことができるかどうかを検討してもらうことと した。 以下は, 弁護士Lと司法修習生Pとの間の会話である。 L:Y2は本件建物を明け渡して敷金を返還してもらうことを希望しています。 Y1が本件契約の 解約の合意を争っているため, 本件建物の明渡しの見通しはついていませんが, Xに対し敷金返 還を請求する訴えを提起した場合に, 本件建物の明渡しをしないままの状態であっても, 本案判 決を得ることはできるでしょうか。 ここでは, 敷金返還請求権は, 賃貸借終了後, 不動産が明け 渡されたときに, 敷金によって担保されるそれまでに生じた一切の債務の額を控除した残額につ き発生するものと考えましょう。 P:そうすると, 本件建物の明渡し前には敷金返還請求権は発生しないので, 将来給付の訴えの適 法性を検討せよということですね。 敷金返還請求権が本件建物の明渡しを条件とする条件付請 求権ということであれば, 将来給付の訴えの適法性が認められるのではないでしょうか。 - 2 - L:条件付請求権であっても, 将来給付の訴えの適法性が認められるとは限りませんよ。 ここでは, Y2の法定相続分が2分の1であることを考慮し, 60万円のみの請求をすることとして, 「X は, Yらから本件建物の明渡しを受けたときは, Y2に対し, 60万円を支払え。 」との請求の 趣旨による将来給付の訴えの適法性につき検討してもらいましょう。 これを「課題1」としま す。 検討の際には, 本件の具体的状況を踏まえた上で, 敷金返還請求権の特質のほか, 当事者 間の衡平の観点から, 適法性が認められた場合の被告の負担を考慮する必要があります。 ただ し, 応訴の負担は考慮する必要がありません。 P:はい, 分かりました。 ところで, もし, 将来給付の訴えの適法性が認められないという結論に なるとすると, 敷金に関する確認の訴えを提起することになるのでしょうか。 L:良い機会ですから, 将来給付の訴えが不適法とされる場合に備え, 敷金に関する確認の訴えの 利益についても考えましょう。 Y2の立場から, どのような訴えであれば確認の利益が認めら れるかを検討してください。 その際には, 既判力により確定する必要性を考慮して, なぜその 訴えであれば確認の利益が認められるのかについて説明してください。 これを「課題2」とし ます。 〔設問1〕 あなたが司法修習生Pであるとして, Lから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。 【事 例(続き)】 8.Xは, Yらが9月30日を経過しても本件建物の明渡しをしないことから, Yらを被告とし て, 本件契約の終了に基づく本件建物の明渡しを求める訴えを提起した(以下, この訴えに係 る訴訟を「本件訴訟」という。 )。 Xは, 訴状において, Yらの被相続人であり, 本件契約の相 手方当事者であったAとの間で本件契約の解約の合意がされた旨主張している。 9.本件訴訟は, 裁判官Jが単独で審理及び裁判をすることとなった。 本件訴訟の第1回口頭弁 論期日において, Xは, 訴状を陳述した。 これに対し, Yらはいずれも, 請求を棄却するとの 判決を求め, 本件契約の解約の合意について, Y1は否認し, Y2は知らないとした。 10.その後に指定された和解期日において, 裁判官Jが他の当事者を退席させた上でX, Y1, Y2を順次個別に面接する方式により, 和解協議が実施された。 Y2は, その際, 裁判官Jに 対し, 「Xは, Aが差し入れた敷金を礼金であるとして返還しようとしないが, 敷金を返還して くれるのであれば, Y2は, Xに本件建物を明け渡してもよい。 Y2としては, 無理に書店の 経営を続けなくともよいのではないかと思っている。 今から思えば, Aも, 日頃から店の経営 不振に悩んでおり, Xに相談しているという話もしていた。 本件建物を明け渡して敷金が戻る ような和解が成立することを希望している。 」と述べた。 しかし, Y1が飽くまで本件契約の継 続を希望したため, 和解は成立しなかった。 以下は, 裁判官Jと司法修習生Qとの間の会話である。 J:今日は和解成立には至りませんでした。 和解手続における当事者の発言内容をその後の判決に 影響させることがないように, 注意する必要があります。 Q:それでは, 先ほどの和解期日におけるY2の発言から, XA間の解約の合意は存在したという 心証を得て, それに基づいて判決をすることはできないのですね。 J:もちろん許されません。 それを理解してもらうために, まず, 民事訴訟法においては, 裁判所 は何を心証形成の資料とすることができるとされているのかを示した上で, 和解期日における Y2の発言がそれに当たらないことを説明してください。 また, 和解手続における当事者の発 言内容を心証形成の資料とすることができるとすると, どのような問題が生ずるかについて, 理由を示して検討してください。 これらを「課題」とします。 - 3 - 〔設問2〕 あなたが司法修習生Qであるとして, Jから与えられた課題について答えなさい。 【事 例(続き)】 11.本件訴訟の第2回口頭弁論期日において, Xは, Aが生前にXとの間で本件契約の解約の合 意をしていたことを裏付けるため, 「Xは, 4月3日, 本件建物の内外を検分し, Aに対して, 『大変きれいに使ってくれていますね。 これなら修繕の必要はない。 』と述べるなど, Aとの間 で本件建物の明渡しの準備について話をした。 Y2は, 書店の手伝いをしていたことから, そ の際, XとAとの会話を聞いたはずである。 」と主張した。 これに対し, Y2は, 「4月3日に Xが主張するXとAの会話を聞いた記憶はない。 Aが作成していた業務日誌を見ても, Xとの 間で本件契約の解約や本件建物の明渡しを前提とした会話があったことは記載されていない。 」 と主張し, Xが主張するような会話がなかったことを立証するため, Aが作成した同日の業務 日誌(以下「本件日誌」という。 )を提出して書証の申出をした。 裁判所は, 同期日において, 本件日誌を取り調べた。 12.本件訴訟の第3回口頭弁論期日が指定された後, X, Y1及びY2は, 訴訟外で解決に向け た協議をした。 その結果, XとY1の間では協議が整わなかったが, XとY2の間では, 解決 に向けた合意がされ, XがY2に対する訴えを取り下げることとなった。 そこで, Xは, 裁判 所に対し, Y2に対する訴えの取下書を提出し, それを受け, Y2は, 裁判所に対し, Xの訴 えの取下げに同意する旨の書面を提出した。 以下は, 裁判官Jと司法修習生Rとの間の会話である。 J:XがY2に対する訴えの取下書を提出し, Y2もその同意書を提出しています。 XはY2に対 する訴えのみを取り下げることができるのでしょうか。 R:それを考えるに当たっては, まず, 本件訴訟が共同訴訟のどの類型に当たるのかを考慮する必 要があります。 J:そうですね。 それでは, その結果を踏まえて, XはY2に対する訴えのみを取り下げることが できるのかを検討してください。 これを「課題1」とします。 また, 仮にXがY2に対する訴えのみを取り下げることができるとして, 残されたXとY1 のみの訴訟において本案判決がされる場合に, 第2回口頭弁論期日にY2が提出した本件日誌 の取調べの結果を事実認定に用いてよいかを, 共同訴訟における証拠調べの効果及びそれが訴 えの取下げによって影響を受けるかどうかを踏まえて検討してください。 これを「課題2」と します。 〔設問3〕 あなたが司法修習生Rであるとして, Jから与えられた課題1及び課題2について答えなさい。 - 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