論文式試験問題集[倒 - 1 - 産 法] [倒 産 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の【事例】について,以下の設問に答えなさい。 なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されて いる法令に基づいて答えなさい。 【事 例】 A株式会社(以下「A社」という。)は,工作機械の部品の製造を業とする株式会社であり, B株式会社(以下「B社」という。)の完全子会社であって,α地方をその営業地域としてい た。 A社は,令和2年6月頃,α地方の製造業の業績悪化のあおりを受け,急激に財務状況が悪 化していた。 しかし,A社は,C銀行から,令和2年7月1日,6000万円の運転資金を借り受け,そ の営業を継続した。また,A社は,同月10日,自動車販売会社であるD株式会社(以下「D 社」という。)から,事業用車両1台(以下「本件事業用車両」という。)を代金1000万 円で月々50万円を各月15日に支払う旨の割賦払いの約定で所有権留保特約の下,購入した。 なお,本件事業用車両は,D社名義で登録されている。 一方,B社も業績が悪化し,運転資金が欠乏するに至り,B社は,E銀行から,令和2年7 月16日,5000万円の運転資金を借り受けた。 ところが,A社が部品を卸していた主たる取引先が令和2年8月14日,破産手続開始の決 定を受けた。この事態に至り,A社の代表取締役であるXは,同年9月1日,C銀行に対し, 運転資金の追加融資を依頼したが断られた。そのため,A社は,同月4日,全ての債権者に対 し,「当社は,資金繰りに行き詰まり,本日までにお支払いをすべき債務の支払ができなくな り,今後,支払ができる見込みもありません。そのため,関係各位には,ご迷惑をお掛けいた しますが,近々破産の申立てをする予定です。」と記載された通知書(以下「本件通知書」と いう。)を郵送した。 A社が本件通知書を発したことを知ったE銀行は,親会社であるB社の資金繰りにも不安を 抱き,B社に対し,E銀行に対する債務5000万円について担保の提供を求めた。そこで, B社の依頼を受けたA社は,令和2年9月10日,B社のE銀行に対する債務5000万円を 担保するため,A社の所有する甲土地に抵当権を設定し(以下「本件担保提供」という。), 同月14日,当該抵当権設定登記(以下「本件抵当権設定登記」という。)が経由された。な お,A社は,甲土地以外の不動産を所有しておらず,他にみるべき財産を有していない。 また,A社は,本件事業用車両の代金につき9月分以降の分割代金を支払うことができなか ったため,令和2年9月23日,本件事業用車両の残代金900万円の支払に代えて,D社に 対し,本件事業用車両を代物弁済に供した。その当時の本件事業用車両の評価額は,750万 円であった。 A社は,令和2年12月1日,α地方裁判所に破産手続開始の申立てを行い,同月2日午後 5時,破産手続開始の決定がされ,破産管財人Yが選任された。 〔設 問〕 以下の1から3については,それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.【事例】において,仮に,C銀行が令和2年11月2日,本件担保提供について,詐害行 為取消権に基づき,E銀行に対し,α地方裁判所に本件抵当権設定登記の抹消登記手続請求 訴訟(以下「本件訴訟1」という。)を提起し,同年12月2日現在,同裁判所に係属中で あったとする。本件訴訟1は,A社に対する破産手続開始の決定により,どのような取扱い を受けるか,論じなさい。 - 2 - 2.【事例】において,仮に,破産管財人Yが本件担保提供について,破産法第160条第1項 又は第162条第1項に基づき否認するとして,E銀行に対し,α地方裁判所に本件抵当権設 定登記の抹消登記手続請求訴訟(以下「本件訴訟2」という。)を提起したとする。本件訴訟 2における破産管財人Yの上記主張の当否について,本件担保提供がA社の債務を担保するた めではなく,A社の親会社であるB社の債務を担保するためのものであることに留意して論じ なさい。 3.【事例】において,仮に,破産管財人Yが令和2年9月23日にD社に対してされた本件 事業用車両による代物弁済について,破産法第162条第1項に基づき否認するとして,D 社に対し,α地方裁判所に本件事業用車両の引渡請求訴訟(以下「本件訴訟3」という。) を提起したとする。本件訴訟3における破産管財人Yの上記主張の当否について,論じなさ い。 - 3 - 〔第2問〕(配点:50) 次の【事例】について,以下の設問に答えなさい。 なお,解答に当たっては,文中において特定されている日時にかかわらず,試験時に施行されて いる法令に基づいて答えなさい。 【事 例】 A株式会社(以下「A社」という。)は,精密機械の製造を業とする会社であり,その所有 する土地上に精密機械を製造する工場(以下「本件工場」という。)を建築し所有している。 A社は,令和2年4月頃,それまでの過剰な設備投資に起因する借入金の増加が原因となって 苦境に陥っていた。A社の令和2年4月30日時点での資産の総額は10億円,債務の総額は 13億円である。 A社の代表取締役であるBは,自社の資金繰りが悪化し,新規の借入れも困難になったこと から,自力での再建を断念し,法的倒産手続により精密機械の製造に係る事業(以下「本件事 業」という。)を譲渡するための方法について相談するため,令和2年5月1日,C弁護士を 訪ねた。A社と親密な関係にあり,財務状態が良好な同業のD株式会社(以下「D社」とい う。)は,A社が法的倒産手続に入った場合には,本件事業を譲り受ける意向を表明しており, 債権者(後述のE銀行を除く。)は,D社がA社から本件事業を譲り受けることにつき,その 譲渡代金額を含め賛成している。 〔設 問〕 【事例】に加え,下記〔A社に関する事情〕が令和2年4月30日時点で存するとき,A社 の相談を受けたC弁護士は,本件事業を維持継続した上で社に譲渡するためには,破産手続 開始又は再生手続開始のいずれを申し立てるのが相当であるとBに助言すべきか。 解答に当たっては,@法的倒産手続の申立て後手続開始前に資金援助をするD社に対して優 先的に弁済をするための方策,A本件工場及び敷地に設定されたE銀行の抵当権について,そ の実行を阻止し又はこれを消滅させるための方策,BF社との取引関係を維持するための方策 について,【事例】及び〔A社に関する事情〕を踏まえ,破産手続による場合と再生手続によ る場合とを比較して論じなさい。 〔A社に関する事情〕 A社は,資金繰りが悪化し,本件事業を維持継続することが困難になっている。そこで,D 社は,A社が法的倒産手続の申立てをすれば,A社の資金繰りを支えるため,法的倒産手続の 開始前に最大で3000万円の資金援助を直ちに行う旨の意向を有しているが,そのような資 金援助を行った場合に優先的に弁済を受けることができるのか心配している。 A社は,E銀行から本件工場の建築資金3億円を借り入れる(以下「本件借入れ」という。) 際,本件借入れに係る債務を被担保債務として本件工場及び敷地に抵当権を設定していた。本 件借入れの残高は,令和2年4月30日時点で2億円であったところ,同時点での本件工場及 び敷地の価額については,A社が1億円であると主張する一方で,E銀行は,1億8000万 円であると主張し,早期の債権回収を図るため担保権実行の方針を明らかにしている。 A社は,本件事業に欠かせない部品の調達先であるF株式会社(以下「F社」という。)か ら,代金につき毎月末日締め翌月15日払いとの約定で部品を仕入れており,F社以外に当該 部品の調達先を確保するのが極めて困難な状況にある。F社は,A社に対し,その代金が期限 までに支払われなければ直ちにA社との取引を打ち切る旨を明らかにしている。A社は,F社 に対し,部品の代金としておおむね500万円前後を毎月支払っており,令和2年5月15日 支払予定の代金額は480万円である。 - 4 - 論文式試験問題集[租 - 5 - 税 法] [租 税 法] 〔第1問〕(配点:50) 競馬好きの個人Aは,不動産賃貸業を営む傍ら,インターネットを介して馬券を購入できるサ ービスを利用して馬券を購入している。Aの馬券購入方法は,競走馬や騎手等の情報を収集・分 析した上で,着順予想の確度と配当率の大小を組み合わせた購入パターンに従い,年間を通じて の収支(当たり馬券の払戻金の合計額と外れ馬券を含む全ての馬券の購入代金との差額)で利益 が得られるように工夫しながら,偶然性の影響を減殺するために年間を通じてほぼ全てのレース で馬券を購入するというものである。そして,平成21年から平成25年までの5年間に,年間 約3000レースのうちのほぼ全てのレースを対象として,1年当たり5000万円程度の馬券 を購入し,収支の上で毎年利益を得ていた。利益の額は,年によって大きく変動したものの,平 均すると1年当たり200万円程度であった。 Aは,自己のノウハウを基に競馬予想ソフトウェア(以下「ソフト」という。)を開発し,これ にユーザーが独自の条件設定を行うことができる機能を付けて売り出せばより多くの利益を得ら れるのではないかと考え,平成26年から,このソフトの小売販売事業を始めた。もっとも,こ れと並行して上記の方法による馬券の購入も継続し,従前と同程度の利益を上げながら,そこで 得られる新たな競馬予想ノウハウをソフトのバージョンアップに取り入れていた。平成28年に は,株式会社B(以下「B社」という。)を設立して同社の代表取締役に就任し,同社において, 株式会社C(以下「C社」という。)その他の小売業者にソフトの卸売を行うこととした。 Aは,個人で営む不動産賃貸業でも安定した収入を得ており,所有する建物の一つを,毎月の 賃料を当月末日に支払う約定でDに賃貸していた。平成28年10月1日に借地借家法第32条 に基づく賃料増額請求権を行使してDに対し賃料を月額20万円から25万円に増額するよう求 めたところ,Dがこれに応じず,民事調停も整わなかったため,AはE地方裁判所(以下「E地 裁」という。)に賃料増額請求の訴訟を提起した。その結果,E地裁は,Aの請求を一部認容して 賃料を月額23万円とする判決を言い渡し,この判決は平成29年12月28日に確定した。そ のため,Dは,平成30年1月4日にAに対し,月額23万円で計算した平成28年10月1日 以降の増額分の未払賃料及び遅延損害金(以下,両者を併せて「本件未払賃料等」という。)を全 額支払った。 他方で,B社の経営も順調であったが,ソフトの卸売先であるC社の資金繰りが悪化し,同社 から,同社の所有する甲土地をB社に売却するので,その売買代金を未払のソフト仕入代金と同 額にして相殺処理してほしいとの申出を受けた。B社は,C社への資金援助になると考えてこれ を承諾し,平成30年8月1日にC社との間で,時価3000万円相当の甲土地を代金4000 万円で買い受ける旨の売買契約を締結し,その売買代金債務とC社のB社に対する未払のソフト 仕入代金債務4000万円とを相殺して,同日にC社の費用負担で甲土地の所有権移転登記を受 けた。 Aは,令和2年5月1日にB社から甲土地を時価と同額の代金3300万円で買い取り,これ を不動産賃貸業の用に供した。 なお,B社もC社も,毎年1月1日から12月31日までの期間を事業年度としている。 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1 Aが平成25年に得た当たり馬券の払戻金に係る所得は,Aの同年分の所得税の計算上ど の所得に分類されるか,説明しなさい。 Aが平成26年に得た当たり馬券の払戻金に係る所得は,Aの同年分の所得税の計算上ど の所得に分類されるか,説明しなさい。 - 6 - 2 AがDから得た本件未払賃料等に係る収入は,Aの所得税の計算上いつの年分の不動産所得 に係る総収入金額に算入されるか,説明しなさい。 3 B社によるC社からの平成30年8月1日の甲土地の買受けに関して,B社の同日を含む 事業年度の法人税の計算上,損金の額への計上はどのようにすべきか,説明しなさい。 B社によるAへの令和2年5月1日の甲土地の売却に関して,B社の同日を含む事業年度 の法人税の計算上,益金の額及び損金の額への計上はどのようにすべきか,説明しなさい。 - 7 - 〔第2問〕(配点:50) 個人Aは,食品卸売業を目的とする株式会社B(以下「B社」という。)の創業者であるCの子 で,同社の使用人であった。平成23年にCが死亡し,遺産分割協議の結果,Aの姉のDがB社株 式の大半を相続して経営を引き継ぎ,Aは少数の同社株式を相続した上で,同社の取締役に就任し, 事業年度ごとに決められる毎月一定額の役員給与(以下「本件役員給与」という。)の支給を受け ることとされた。しかし,Dが経営を独占したため,毎月開催される取締役会に形式的に出席する ほかは,B社にはAの行うべき業務はなかった。そこでAは,B社勤務中の経験をいかし,B社の 取締役に就任したまま,平成24年中に,冷凍食品の小売販売店を個人で開業することとした。 この開業以来Aの店で働いていたEは,Eにとって唯一の親族である高齢の父親F(妻(Eの母 親)とは死別)と同居してその介護をしていたところ,平成26年中にFの症状が進んでEの手に 負えなくなったことから,Fを介護付有料老人ホームに入所させたいと考えるようになったが,E が適切と考える施設の入居一時金を支払うにはFの全財産である貯金を使っても300万円不足す るため,特に貯金のないEは同年半ばに,Aに300万円の借金を申し込んだ。この申込みを受け たAは,これまでのEの誠実な働きぶりを高く評価していたため,「Eさんの働きぶりにはいつも 感心しています。これからも長くこの店で働いてくださいね。」と言って,低利・無担保でこの借 金の申入れに応じて貸し付けることとした(以下,この貸付金を「本件貸付金」という。)。Eは平 成26年及び平成27年にはAに対して約定の元利支払を行ったが,平成27年末にFが亡くなっ た際の心労などから病気になり,平成28年中に病死した。Aに対するEの債務は元本が200万 円残っており,また,Eが病死するまでの期間に相当する平成28年分の利息1万円が未払のまま であったが,Fの介護にお金をつぎ込んでいたEには貯金はなく,自動車などのめぼしい財産もな かった。 Aは,開業以来事業の用に供していた冷凍庫付軽自動車甲を平成28年末に同業のGに譲渡して, その譲渡による利益を,平成29年3月14日に提出した平成28年分の所得税の確定申告書にお いて,所得に含めて申告した。平成29年3月中にGから,甲が契約した性能を満たしていないか ら契約を解除するとの連絡があったが,Aがこの主張を認めなかったため,AとGの間で民事訴訟 (以下「本件訴訟」という。)となり,平成30年6月15日にA敗訴の判決が確定した。同日, Aは代金等をGに払い戻し,甲の引渡しを受けた。 本件訴訟係属中の平成29年8月には,開業以来のAの所得についての税務調査が行われ,その 結果に基づいて平成25年分から平成28年分のAの事業所得につき,収入の計上漏れなどを理由 とする増額更正処分が,平成29年12月に行われた。Aはこの処分について不服申立てを行って いない。 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1 本件役員給与の課税関係について,以下の問いに答えなさい。 B社が本件役員給与を損金に算入し得る場合の根拠規定とその趣旨及び適用関係を,簡潔 に説明しなさい。 本件役員給与に不相当に高額な部分がある場合,B社の所轄税務署長Hが,法人税法第3 4条第2項(以下「本件規定」という。)に基づいて本件役員給与の一部の損金算入を否認す る処分を行うことは適法か。本件規定の括弧書に「前項……の適用があるものを除く。」と規 定されている点を考慮した上で,本件規定の適用関係に触れつつ,簡潔に説明しなさい。 - 8 - 2 本件貸付金に関する課税関係について,以下の問いに答えなさい。 AがEから受け取った本件貸付金の利息と未収受の利息は,Aの所得税の計算上どのよう に扱われるか,簡潔に説明しなさい。 平成28年にEが病死したという事情は,Aの所得税の計算上どのように扱われるか,説 明しなさい。 3 Aを敗訴させた本件訴訟の判決が平成30年6月15日に確定したことにより,Aのいつの年 分のどの所得分類に係る所得額がどのように変化するか。また,Aは,その変化をどのような 手続によって自分の所得税の計算に反映させることができるか。条文上の根拠を摘示しつつ説 明しなさい。 - 9 - - 10 - 論文式試験問題集[経 - 11 - 済 法] [経 済 法] 〔第1問〕(配点:50) X社は,電子部品である甲(以下「甲部品」という。)のメーカーである。Y社は,電子機器で ある乙(以下「乙機器」という。)のメーカーである。X社及びY社は,Y社がX社の全株式を取 得することを計画している(以下「本件計画」という。)。 甲部品は,乙機器の製造に不可欠な重要部品の一つである。乙機器の製造原価に占める甲部品の 仕入原価の割合は大きくない。乙機器は装置である丙(以下「丙装置」という。)に組み込まれた 後に,世界中の産業需要家に販売される。丙装置の製造原価に占める乙機器の仕入原価の割合はご く僅かである。甲部品には,乙機器メーカーを需要者とする組込品のほか,乙機器や丙装置の修理 のための交換品も存在するが,交換品の取引規模は小さい。また,甲部品が乙機器以外の製品の製 造に用いられることもあるが,それら製品の製造に係る甲部品の取引規模は僅少である。Y社が乙 機器以外のそれら製品を製造することはない。 X社やY社を含む甲部品及び乙機器の各メーカーは,複数の国に製造,配送の拠点を有している。 また,甲部品及び乙機器ともに,重量に比して価格が高いとの特徴から,輸送費が価格に占める割 合は低く,輸送費が取引上の障壁とはならない。そのため,甲部品及び乙機器について,日本を含 む世界中の需要者(甲部品については乙機器メーカー,乙機器については丙装置メーカー)は,供 給者の所在する国を問わず発注しており,供給者もそれに応じ得る状況にある。次に見る乙機器の 仕様の差異に基づく価格差を除けば,甲部品及び乙機器ともに,地域にかかわらず世界における販 売価格は実質的に同一である。 最終製品である丙装置は,メーカーの違いにより機能や性能に大きな差異はないが,メーカーご とに仕様が異なる。丙装置の仕様ごとに,乙機器の仕様も若干異なる。ただし,仕様が異なっても, 乙機器に係る基本的な製造設備や製造工程は同じであり,製造のために特別な技術を要することも ない。丙装置の仕様に応じた乙機器の製造設備の調整の費用は大きなものではないが,製造設備の 調整から商業的な乙機器の製造まで2か月から3か月を要する。それら調整は製造設備ごとに行わ れ,各製造拠点において,丙装置の仕様に対応した仕様の異なる乙機器の製造が可能である。丙装 置メーカーは,乙機器メーカーに対して取引上の立場が強い。甲部品は,メーカーの違いにより機 能や性能に差異はないほか,丙装置や乙機器とは異なり,いずれのメーカーの仕様も同じである。 全世界における甲部品の販売状況(販売額に基づく市場シェア)は,X社が約50パーセント, A社が約45パーセント,B社及びC社がそれぞれ約5パーセント未満である。これらメーカー間 では活発な競争が行われてきたところ,製造設備の更新期にあったA社は,工場を新設するなどし て製造設備を増強した。その結果,A社には十分な製造余力がある。また,B社にも若干の製造余 力がある。他方,X社及びC社に製造余力はない。甲部品の製造には高額な設備を要することから, 投下資本を回収するために製造設備の稼働率を高く維持することが,甲部品の各メーカーにとって, 経営上重要になっている。 次に,全世界における乙機器の販売状況(販売額に基づく市場シェア)は,D社が約40パーセ ント,Y社が約30パーセント,E社が約20パーセント,F社が約10パーセントである。D社 は甲部品のほとんどをA社から購入している。Y社は甲部品の多くをX社から購入しているが,安 定調達の観点から,A社,B社及びC社から購入する分もある。E社及びF社は,いずれも甲部品 のほとんどをX社から購入している。Y社及びF社に製造余力がない一方で,D社及びE社には若 干の製造余力がある。D社及びE社は,製造余力を活用すべく,甲部品を含む乙機器の製造に要す る部品について,入札手続の導入等によるより良い条件での調達を模索している。さらに,E社は, 必要となる甲部品の一部を自ら製造することを計画しており,今後2年以内に,少量ではあるがそ の商業的な製造が開始される見込みである。 なお,F社は,X社から,甲部品以外の製品を相当量購入している。X社におけるF社との取引 - 12 - の多くは,甲部品以外の製品に係る取引で占められており,X社にとってF社は,甲部品以外の製 品について極めて重要な顧客である。他方,それら甲部品以外の製品について,F社がX社以外の 取引先を確保することは容易である。 〔設 問〕 本件計画について,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」と いう。)上の問題点を検討しなさい。 - 13 - 〔第2問〕(配点:50) A県浄化槽協会(以下「協会」という。)は,トイレから発生するし尿や台所,風呂,洗濯機等 からの生活雑排水を微生物を利用して浄化した後,側溝等に放流する設備である浄化槽の普及を図 ることにより,生活環境の保全と公衆衛生の向上に寄与することを目的とする一般社団法人である。 協会は,A県内で浄化槽の製造,施工,保守点検又は清掃を行う事業者を主な会員(以下,協会に 所属する者を「会員」といい,所属しない者を「非会員」という。)とする県内唯一の団体であり, 会員数は約450名である。協会には,会員である各事業者がそれぞれ所属する製造,施工,保守 点検及び清掃の各部会があり,保守点検部会の会員は140名,清掃部会の会員は70名である。 協会は,社員総会及び理事会を置き,社員総会で各部会の入会基準を決定し,各部会において, それら入会基準に基づき,入会申請者の入会の可否を決定している。各部会への入会を認められた 者は,自動的に協会への入会が認められる。協会は,浄化槽に関する説明会や講習会を開催し,そ の際,住宅や事業所等に浄化槽の設置を希望する者に対して会員を優先して紹介し,会員に対して も公民館や学校等の浄化槽に係る大口の取引を優先的に斡旋するため,A県内で浄化槽の製造,施 工,清掃を行う各事業者は,全て会員である。保守点検を行う事業者については,140名の会員 のほか,非会員であるBら15名が存在する。A県の保守点検業者全体の契約件数及び売上高に占 める保守点検業者である会員の契約件数及び売上高の割合は,いずれも約9割である。 住宅や事業所等に浄化槽を設置した者は,法令上,年3回以上の保守点検(機器の調整点検,水 質検査,消毒剤の補充及び害虫駆除等を行うこと),年1回以上の清掃(汚泥を槽外に引き抜き, 浄化槽を洗浄すること),年1回の法定検査(A県においては,A県職員が浄化後の水質検査や機 器の適正作動の確認を行うこと)を受けなければならない。また,法令上,保守点検を行った者は, 保守点検の度に検査結果を記録票に記載しなければならず,浄化槽設置者は,これを3年間保管し, 年1回の法定検査の際,これを提示する必要がある。その結果,不良な保守点検を行う者が発見さ れた場合,都道府県知事は,その者に対し,必要な助言,指導,勧告又は改善命令を行うことがで きる。 A県内で保守点検業を行うためには,法令や条例上,A県知事の登録を受けなければならず,そ の登録の有効期間は3年である。また,条例上,その登録(更新を含む。以下同じ。)の申請を行 おうとする者は,自らが浄化槽の清掃業の許可を受けていない限り,業務を行おうとする区域にお いて現に清掃業の許可を受けている浄化槽清掃業者と提携していることを証明する書類を提出しな ければならない。浄化槽の清掃業の許可は,法令上,業務区域を管轄する市町村長により行われる ところ,A県下の市町村においては,清掃によって生じる汚泥等の一般廃棄物の処理業の許可を受 けていることを浄化槽の清掃業の許可基準の一つとしている。一般廃棄物の処理業については,処 理業務の総量を超える業者の参入を認める必要はなく,A県内では,処理業務の総量に見合った許 可が既にされているため,新規に許可がされる見込みはない。その結果,A県において浄化槽の保 守点検業の登録を受けようとする場合,その者が清掃業の許可を受けておらず,かつ,一般廃棄物 処理業の許可も受けていなければ,新たに清掃業の許可を受けられる見込みが乏しいため,A県内 の清掃業者と提携するほかない。 ところで,数年前から,A県内の河川は,その水質が全国で最も汚濁の著しいものの一つとして 報道されるようになった。A県では浄化槽の保守点検業者が相当数に上るにもかかわらず,新規に 浄化槽を設置する住宅や事業所等は減少している。こうした事情から,協会は,浄化槽の保守点検 をめぐる競争が激化して過度な低料金化が進むと,環境保全と公衆衛生に十分配慮した事業活動が できなくなるという理由で,保守点検業者である会員に対して,会員間で既存の取引先を尊重して 奪い合わないよう,協会からの除名を示唆しながら強く指導し続けている。また,協会は,平成2 8年4月の社員総会において,上記と同様の理由で,A県内で浄化槽の保守点検を行う他の事業者 の顧客を低料金を提示して奪おうとする者から申請があっても入会を認めないこと,清掃業の許可 を受けていない非会員が保守点検業を行うためA県知事に登録を申請する際,清掃業者である会員 - 14 - が,有償であると無償であるとを問わず,当該登録申請者と提携してはならないこと,ただし,そ の者が低料金を提示して会員の既存の顧客を奪わないと確約した場合には,有償で提携してよいこ とをそれぞれ決定した。さらに,協会は,平成28年4月以降,上記と同様の理由で,A県内の保 守点検業者が使用する水質検査薬や消毒剤のほとんど全てを供給するメーカーに対して,A県内で 非会員にそれらを供給しないよう働き掛け,これに同意させている。これらのメーカーは,非会員 に販売すると会員に対する販売を妨害されるおそれがあるため,それぞれ,協会の要求に同意する ことを余儀なくされている。非会員が別の販路や方法で浄化槽用の水質検査薬や消毒剤を入手する ことはできない。なお,平成28年4月以降も,A県内の浄化槽の保守点検をめぐる競争は激化し ているため,その料金は一貫して下落し続けている。 A県内の浄化槽保守点検業者である非会員のBら15名は,清掃業の許可も一般廃棄物処理業の 許可も受けていない者であるが,平成28年10月から平成30年10月までの間に3回ないし5 回の入会申込みをそれぞれ行ったところ,他の事業者の顧客を低料金を提示して奪おうとする者で あり,生活環境の保全と公衆衛生の向上に配慮した事業活動を行うことができないことを理由に, 保守点検部会において,Bらの入会申込みはいずれも否決された。Bらは,協会に入会することが できないため,水質検査薬や消毒剤の入手が困難となっているほか,登録期間の満了後には,保守 点検業の登録の申請に必要な浄化槽清掃業者との提携を受けられなくなるため,保守点検業を継続 して営むことはできなくなると見込まれる。なお,Bらが,これまでに不良な保守点検を行ったと してA県知事から行政指導及び行政処分を受けたことはない。 〔設 問〕 問題文において,独占禁止法に違反する行為は認められるか,認められるとすれば,誰のどの ような行為か,適用条文も含めて検討しなさい。 - 15 - - 16 - 論文式試験問題集[知的財産法] - 17 - [知的財産法] 〔第1問〕(配点:50) 医療機器メーカーX社は,カプセル内視鏡Lを開発した。カプセル内視鏡とは,小型カメラ,ラ イト,モーターなどを内蔵したカプセル状の内視鏡であり,患者が飲み込むと消化器官の内部を順 次撮影し,画像を体外に送信した後,肛門から自然排出されるものである。光ファイバーなどで体 外とつながれた従来の内視鏡(いわゆる胃カメラなど)よりも患者への負担が少なく,これまで経 口挿入が困難であった小腸も容易に撮影できるという利点がある。 以上の事実関係を前提として,以下の設問1ないし3に答えなさい。なお,設問1ないし3及び 設問1のとはそれぞれ独立したものであり,相互に関係はないものとする。 〔設 問〕 1. Xは,カプセル内視鏡Lの発明について,社内の職務発明規程に基づき特許を受ける権利を 原始取得した上で特許出願をし,さらに査定前に同権利をY社に有償で譲渡した。Yは,特許 を受ける権利を譲り受けてから,補正や出願の変更をしていない。 Yが査定を受ける前に,XからYへの上記譲渡契約は,Yによる代金の不払により,債務 不履行を理由に解除された。特許庁がまだ査定をしていない段階で,Xは,どのような手段 でYから特許出願人としての地位を回復することができるか。 Yに対して特許権が付与された後に,Yは更にZ社に特許権を譲渡した。その後,ZがL を製造販売して利益を得ていたところ,XからYへの特許を受ける権利の譲渡契約は,Yに よる代金の不払により,債務不履行を理由に解除された。ここで,Zは,Yから特許権を譲 り受ける時点で,YのXに対する債務不履行の事実について善意であった。Xは,Zに対し て,訴訟上どのような請求が可能か。異なる見解にも留意しつつ論じなさい。 2. Xは,さらに,カプセル内視鏡Lを用いて小腸の疾病αの発症の有無を診断する方法Mを開 発した。この診断方法Mを用いると,疾病αの発症を20%の確率で発見できるが,疾病αの 初期徴候は患者によって多様であるため,残る80%についてはなお発見できない。また,診 断方法Mを用いると,下痢などの副作用が必ず生じることも分かっている。 この診断方法Mは,特許法上,「発明」に当たるか。また,当該方法は,特許法上,「産業 上利用することができる」ものに当たるか。 3. Xは,カプセル内視鏡Lを製造販売しているところ,このLには,撮影した消化器官内部の 画像を効率よく逐次に体外へ送信する部品が内蔵されている。また,この部品には,通信機器 メーカーW社が特許権Pを有するデータ送信装置の発明が用いられている。 ここで,Lは,医療機器における通信システムQの普及を目的とした日本の民間標準化団体 Rが策定した通信規格Sに準拠した製品である。また,Wは,Rの会員として,Rの知的財産 権ポリシーに従い,Rに対して,特許権Pが通信規格Sの必須特許である旨を通知するととも に,Pについて「公正,合理的,かつ非差別的な条件」(本件条件)で取消不能なライセンス を誰にでも許諾する用意がある旨の宣言(本件宣言)をしていた。 Wは,Xに対して,特許権Pに基づき,Lの製造販売の差止めと損害賠償をそれぞれ請求す ることができるか。 - 18 - 〔第2問〕(配点:50) 作家甲は,少年αが主人公として登場し,ボーイスカウト活動に参加しつつ青春を謳歌するとい う内容の小説Pを執筆した。Pの出版後,漫画家乙は,甲の許諾を得て,Pに基づいて漫画Qを作 成した。Qには,αについて,その髪型や髪の色,瞳の色,顔の形,眉や目鼻立ち,ボーイスカウ トの制服,体型などの特徴(以下「本件特徴」という。)が,生き生きと描かれていた。他方,P には,本件特徴を含むαの絵画的側面の具体的,詳細な記載がされていなかった。 以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。なお,各設問はそれぞれ独立したもの であり,相互に関係はないものとする。また,著作者人格権について触れる必要はない。 〔設 問〕 1.Qを見た画家丙は,乙の許諾を得ただけで,甲の許諾を得ずに,本件特徴をよく捉えたαの 肖像画R1を作成した。丙は,R1の複製物を製造して販売しようとしている。 甲は,丙に対して,R1の複製物の販売行為につき,著作権侵害に基づく差止めを請求する ことができるか。異なる見解にも留意しつつ論じなさい。 2.乙は,本件特徴をよく捉えたαの肖像画R2を作成した。その後,乙はR2の原作品(縦4 0p×横20p)を譲渡したが,R2については贋作が出回った。そこで,R2の原作品を所 有するに至った美術商丁は,その真贋について,これを真作であると鑑定し,当該原作品を店 内で展示した上,今後当該原作品と所在を共にして流通させるべく,鑑定証書Sを1通作成し た。 丁は,鑑定対象である絵画を特定するため,R2の原作品を20%の面積に縮小し,縦16 p×横10pのサイズにしたカラーコピー(以下「本件コピー」という。)を作成して,Sに 貼り付けた。Sの大きさは,縦20p×横10pであり,その表面には,「鑑定証書」との表 題の下に,「下記の本肖像画については,丁による厳正な鑑定の結果,乙が描き下ろした真作 であると認められることを証明する。」との記載がされ,「記」と記載されたその下部に,本 件コピーが大きなスペースをとって貼り付けられ,最下部に,R2の著作者が乙である旨の記 載がされていたが,裏面には丁の屋号や連絡先の記載がされているのみであった。また,Sは, 表裏一体のものとしてラミネート加工がされていたが,本件コピーの部分は取り外しができる 構造となっていた。さらに,鑑定証書に鑑定対象である絵画のコピーを貼り付けることは,そ れまで丁の同業者の間でほとんど行われていなかった。 丁は,Sを,R2の原作品とともに譲渡しようとしていたため,乙は,丁に対し,Sの譲渡 行為につき著作権侵害に基づく差止めを請求する訴訟を提起した。これに対する丁の反論とし て,どのような主張が考えられるか。その妥当性についても論じなさい。 3.乙は,Qが匿名の第三者により無断でインターネット上の電子掲示板に投稿されたため,当 該掲示板の運営者戊に対し,そのことを伝えるとともに,Qの売上げが激減し乙が経済的打撃 を受けており,受領後3日以内にその送信の停止を要請するとの内容証明郵便を送付した。戊 は,掲示板運営者として当該掲示板に掲載された投稿の最終的な送信停止の権限を有しており, 実際にも必要があれば直ちに送信停止を行うことができた。 戊の運営する当該掲示板は,プロの小説家や漫画家を志す人からの投稿を募る掲示板として 始まり,公的機関からも表彰されるなど,良質の掲示板であるとして雑誌等にも紹介され,戊 も,当該掲示板に,著作権を侵害する投稿は厳禁とする旨の注意書きを掲載し,送信停止の要 請があった場合にも公正な調査を心掛けてその要否を決するなど丁寧に対応していた。しかし, 当該掲示板の人気が高まり,大量の投稿がされるようになるにつれて,戊には,日々数百件も の送信停止の要請が寄せられ,戊はその対応に追われるようになっていた。また,戊は,当該 掲示板について,広告収入を得ていたが,掲示板の運営費がかさみ,わずかの利益を得るにと どまっていた。このような中で,乙の上記内容証明郵便が送付され,戊は,これを受領し閲読 - 19 - したものの,特段の是正措置を採らずに,3週間,放置していた。 乙は,戊に対して,Qを送信する行為につき,著作権侵害に基づく差止めを請求することが できるか。戊が運営する掲示板は,著作権を侵害しない用途に使用され得るものであることに 留意しつつ論じなさい。 - 20 - 論文式試験問題集[労 - 21 - 働 法] [労 働 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。 【事 例】 情報技術を用いた情報処理を業とするY社は,平成29年5月1日,Xとの間で,基本給を月 額40万円とし,雇用期間を同30年10月31日までとする期間の定めのある雇用契約(以下 「本件雇用契約」という。)を締結した。Y社の就業規則は,労働時間を1日8時間,1週40時 間と,休日を土曜日・日曜日・国民の祝日などとそれぞれ定め,賃金の計算期間を毎月1日から末 日までとし,毎月10日に前月分の賃金を支払うことを定めていた。 本件雇用契約には,基本給を前記のとおりとした上で,1か月間の労働時間の合計(以下「月 間総労働時間」という。)が180時間を超えた場合には,その超えた時間数に対して1時間当た りの一定額(2500円)を乗じて得た額の賃金を,基本給に加えて支払うこととし,月間総労働 時間が140時間に満たない場合には,その満たない時間数に対して一定額(2500円)を乗じ て得た額を,当該月の基本給額から控除して支給する旨の約定(以下「本件約定」という。)が付 されていた。その趣旨は,本件約定が適用される者については,1月から12月までの月ごとの休 日を除く勤務すべき日数の多寡にかかわらず,標準の月間総労働時間を160時間とし,被用者の 月間総労働時間がこれに満たない場合であっても,140時間を下回らない限りは,基本給の額を 支給することとする一方で,標準の月間総労働時間を超えて勤務をしても,180時間を超えない 限りは,基本給に時間外勤務手当が上乗せされないというものであった。 Xは,本件約定の存在を認識し,その内容を理解した上で,前記の内容が明記された本件雇用 契約の契約書に,署名・押印をした。Xが署名・押印をしたのは,前記の基本給は比較的高額であ ると評価できたこと,本件約定による労働時間制は変則的ではあるものの,160時間を標準の月 間総労働時間として念頭に置きつつ,自分の勤務時間を適宜調節する柔軟性があるように思われた ことなどからであった。 Xは,平成29年5月1日から同30年10月31日までの間の各月において,いずれも1週間 当たり40時間を超える労働又は1日当たり8時間を超える労働を行った。同期間の各月の月間総 労働時間は,平成29年6月にあっては180時間を超えたが,それ以外の各月にあっては180 時間以内であり,140時間に満たない月はなかった。Y社は,Xに対し,平成29年6月分につ いては本件約定に基づき月間総労働時間数のうち180時間を超える時間数に2500円を乗じた 額の時間外勤務手当を基本給に加えて支給したが,それ以外の各月については基本給の額のみを支 払った。Xは,平成30年10月31日にY社を退職した。Y社では,Xの在職期間中,本件約定 のほかに,変形労働時間制やフレックスタイム制は採用していなかった。 なお,Xの在職期間中の各月について1日8時間の勤務をした場合のそれぞれの月間総労働時 間は,当該各月において休日を除く勤務すべき日数が異なることに伴い変動するものの,おおむね 140時間から180時間までの間であった。また,月間総労働時間が180時間を超えた場合に おいて支払われた前記の一定額は,通常の賃金の時間単価額の125%増しの額に対して,月間総 労働時間のうち180時間を超えた時間数を乗じた額を超える額であった。さらに,Xの時間外労 働時間( 「時間外労働」とは,法定労働時間を超える時間の労働をいう。以下同じ。)の合計が60 時間を超える月はなかった。 Xは,月間総労働時間が180時間を超えた月の労働時間のうち180時間を超えない部分にお ける時間外労働及び月間総労働時間が180時間を超えなかった月の労働時間における時間外労働 (以下「月間180時間以内の労働時間中の時間外労働」という。)に対する割増賃金が支払われ ていないとして,Y社に対して,当該割増賃金の支払いを請求した。 - 22 - 〔設 問〕 1.Xの主張に対して,Y社は,月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する割増 賃金は,本件約定により,基本給に組み入れられており,未払いの割増賃金はないと反論し た。このようなY社の反論を踏まえつつ,Xの請求の当否について論じなさい。 2.さらに,Y社は,仮に月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する割増賃金の 請求権がXに発生し得ると考えたとしても,Xは,本件約定を含む本件雇用契約を締結した ことにより,Y社に対して当該割増賃金を請求する債権を放棄したと反論した。このような Y社の反論を踏まえ,Xの請求の当否について論じなさい。 なお,1,2を通して,割増賃金債権の消滅時効については論じなくてよい。 - 23 - 〔第2問〕(配点:50) 次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。 【事 例】 家庭用電化製品の製造・販売等を業とするA社においては,その総従業員数の85%に当たる 従業員が組合員として加入するB労働組合(以下「B組合」という。)が組織されており,A社と B組合の間には,ユニオン・ショップ協定及びチェック・オフ協定を含む労働協約が締結されてい た。 Cは,大学卒業後,A社に入社し,22年の勤務を経て営業第二課長となった。その後,Cが, その部下であるDを,営業成績が一向に上がらないことについて強い口調で叱責し,これを気に病 んだDがA社を辞職するという事態に至った。この事態を問題視したA社は,B組合との労働協約 に基づいて設置され,A社の管理職員とB組合の執行役員によって構成される懲戒委員会に,この 件を付議した。懲戒委員会は,この件について事実調査を行い,CのDに対する叱責等の行為は減 給処分に相当するとの決定をした。この決定を受け,A社は,同社の就業規則の規定に基づき,C を減給処分とした。 この処分に不満を持ったCは,入社以来加入しているB組合に相談をしたが,B組合の執行部 から「この処分は,当組合の執行役員も参加した懲戒委員会の調査と決定に基づくものであり,既 に解決済みである。」と返答され,全く取り合ってもらえなかった。 このようなB組合の対応に対しても不満を持ったCは,B組合を脱退せず,同組合の組合員と しての地位を維持したまま,いわゆる地域合同労組であるE労働組合(以下「E組合」という。) に加入した。この際,Cと同様にA社の従業員であり,かつ,B組合の組合員であって,この件に ついてのA社とB組合の対応に不満を持ったF及びGの2名も,Cに共感し,Cと共にE組合に加 入した。 前記の減給処分についてCから相談を受けたE組合は,A社に対し,「当組合員Cの減給処分に 関する件」を交渉事項とする団体交渉申入書を送付した。この申入書には,E組合の名称,所在地 及び執行役員名と共に,「貴社が雇用する組合員」として,「貴社営業第二課長Cのほか貴社従業員 数名」との記載があった。また,同申入書には,E組合の組合規約も添付されていた。 これに対し,A社は,「弊社に労働組合として団体交渉を求めるのであれば,貴組合の組合員名 簿をご提出ください。少なくとも,貴組合の組合員のうち弊社の従業員である者の全ての氏名を明 らかにしていただかなければ,弊社としては,貴組合と責任を持って団体交渉を行うことができま せん。また,Cは,弊社内の労働組合であるB組合にも加入しており,二重交渉となる可能性があ る以上,Cに関する貴組合からの団体交渉の申入れには応じることができません。さらに,Cは, 弊社の管理職員(営業第二課長)であるため,貴組合は,適法な労働組合とは認められないものと 思料します。」との書面をE組合に送付した。 これを受けて,E組合は,A社に対し,「本団体交渉を行うに当たり,組合員名簿の提出は必要 ありません。確かにCはB組合にも加入していますが,B組合は本件について『既に解決済み』と の対応を採っています。Cが貴社の営業第二課長であることも,本団体交渉を拒否する理由にはな りません。」との書面を送付した。しかし,A社は,その後もE組合からの団体交渉の申入れに応 じていない。 なお,A社におけるCの営業第二課長としての勤務内容及び処遇は,@営業第二課の課員の人 事考課を行い,人事考課表を同社の人事課に提出する,A営業第二課の課員それぞれから,人事異 動についての希望を聴取し,聴取した事項を取りまとめて同社の人事課に提出する,B営業第二課 の営業方針と計画についての原案を作成し,営業統括部長に提出する,CA社の経営方針の決定機 関である経営会議と取締役会には,営業第二課に関わる案件がある場合にのみ出席し,必要な説明 を行うが,議事に参加する権限や議決権はない,D月額12万円の役職(課長)手当が支給される - 24 - 一方,時間外・休日労働に対する割増賃金は支給されない,E課員と同様に出社時及び退社時にタ イムカードの打刻をするが,出勤・退勤時間について拘束はなく,遅刻・早退に対する賃金カット はないというものであった。 〔設 問〕 1.E組合は,A社を相手方として,どのような機関に,どのような法的根拠で,どのような内容 の救済を求めることが考えられるか。救済の内容について検討すべき法律上の論点を挙げつつ, 論じなさい。 2.1で述べた救済は,認められるか。検討すべき法律上の論点を挙げて論じなさい。 - 25 - - 26 - 論文式試験問題集[環 - 27 - 境 法] [環 境 法] 〔第1問〕(配点:50) A社は,B県内に所有する自社の事業所の敷地に,製造プラント工場を数棟保有し稼働させて いたが,このうちにはトリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物を使用し,これらを含む排水を 排出する施設(水質汚濁防止法第2条第2項にいう特定施設に該当するものとする。)を伴う甲工 場があったところ,A社は,事業の見直しに伴って,この甲工場を廃止して解体・撤去した。しか し,この際に,A社は,何らの措置を採ることなく,甲工場の跡地の区画(公道で区切られること なく,かつ,事業所関係者以外の立入りはない。)をそのまま引き続き自社の将来の事業用地とし て保有し続けていた。 A社は数年後に,この甲工場跡地に新たに乙工場を建設することを計画し,そのため甲工場跡 地を,約1500平方メートルにわたって深さ数メートル程度掘り下げ,ここで発生した土壌を, 自社の従業員に運搬させ,乙工場建設現場から離れており,事業所敷地内ではあるが敷地境界近く にある自社用地で長年空き地のままに放置されていた広場に運んで積み上げ保管した。 ところで,この広場の敷地境界を挟んだ隣地には,C市によって児童公園が設置されており, 公園内の井戸の揚水機によってくみ上げた井戸水はB県の地域防災計画により災害時の用水として 利用されることとされていたほか,さらに,井戸水を利用した池も設置されていて,夏には近所に 住むDらの子を含む子どもたちがこの池で泳いだり,水遊びをしていた(なお,C市は,土壌汚染 対策法(以下「土対法」という。)第64条による権限の委任を受けていない。)。 〔設問1〕 土対法の下で,A社がこの甲工場を廃止し,解体・撤去をした後に,本来採るべきであっ た措置は何か。また,その措置が免除されるのは,どのような場合か。数年後に,乙工場の 設置準備のための工事を行った際,A社が本来採るべきであった措置は何か。それぞれにつき, 資料も参照の上で,説明せよ。 〔設問2〕 A社が広場に積み上げて保管していた土壌に含まれていたトリクロロエチレンなどの発がん 性のある揮発性有機化合物が,地下に浸透して地下水を汚染し,隣接する公園内の井戸水等を 経由して,公園内の池の水をも汚染していることが新聞で報じられたため,Dらは不安を感じ ている。この場合にDらから相談を受けたB県知事は,A社に対していかなる法的措置を採り 得るか,説明せよ。 〔設問3〕 Dらが,直接,A社に対して採ることが可能な法的請求があるか,論ぜよ。 - 28 - 【資 〇 料】 土壌汚染対策法施行令(平成14年11月13日政令第336号)(抜粋) (土壌汚染状況調査の対象となる土地の基準) 第3条 一 法第5条第1項の政令で定める基準は,次の各号のいずれにも該当することとする。 次のいずれかに該当すること。 イ 当該土地の土壌の特定有害物質(法第2条第1項に規定する特定有害物質をいう。以下同 じ。)による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないことが明らかであり,当該土壌の 特定有害物質による汚染に起因して現に環境省令で定める限度を超える地下水の水質の汚濁 が生じ,又は生ずることが確実であると認められ,かつ,当該土地又はその周辺の土地にあ る地下水の利用状況その他の状況が環境省令で定める要件に該当すること。 ロ 当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態がイの環境省令で定める基準に適合しない おそれがあり,当該土壌の特定有害物質による汚染に起因して現にイの環境省令で定める限 度を超える地下水の水質の汚濁が生じていると認められ,かつ,当該土地又はその周辺の土 地にある地下水の利用状況その他の状況がイの環境省令で定める要件に該当すること。 ハ 二 (略) 次のいずれにも該当しないこと。 イ 法第7条第4項に規定する技術的基準に適合する汚染の除去等の措置(法第6条第1項に 規定する汚染の除去等の措置をいう。以下同じ。)が講じられていること。 ロ 〇 (略) 土壌汚染対策法施行規則(平成14年12月26日環境省令第29号)(抜粋) (使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の調査) 第1条 土壌汚染対策法(平成14年法律第53号。以下「法」という。)第3条第1項本文の報告 は,次の各号に掲げる場合の区分に応じ,当該各号に定める日から起算して120日以内に行わな ければならない。ただし,当該期間内に当該報告を行うことができない特別の事情があると認めら れるときは,都道府県知事(土壌汚染対策法施行令(平成14年政令第336号。以下「令」とい う。)第10条に規定する市にあっては,市長。以下同じ。)は,当該土地の所有者等(法第3条第 1項本文に規定する所有者等をいう。以下同じ。)の申請により,その期限を延長することができ る。 一 当該土地の所有者等が当該有害物質使用特定施設(法第3条第1項に規定する有害物質使用特 定施設をいう。以下同じ。)を設置していた者である場合(同項ただし書の確認を受けた場合を 除く。) 二,三 2,3 当該有害物質使用特定施設の使用が廃止された日 (略) (略) (人の健康に係る被害が生ずるおそれがない旨の確認) 第16条 法第3条第1項ただし書の確認を受けようとする土地の所有者等は,次に掲げる事項を記 載した様式第三による申請書を提出しなければならない。 一〜五 (略) 2 (略) 3 都道府県知事は,第1項の申請に係る同項第4号の土地の場所が次のいずれかに該当することが 確実であると認められる場合に限り,当該土地の場所について,法第3条第1項ただし書の確認を するものとする。 一 工場又は事業場(当該有害物質使用特定施設を設置していたもの,当該工場又は事業場に係る 事業に従事する者その他の関係者以外の者が立ち入ることができないものに限る。)の敷地とし て利用されること。 - 29 - 二 当該有害物質使用特定施設を設置していた小規模な工場又は事業場において,事業の用に供さ れている建築物と当該工場又は事業場の設置者(その者が法人である場合にあっては,その代 表者)の居住の用に供されている建築物とが同一のものであり,又は近接して設置されており, かつ,当該居住の用に供されている建築物が引き続き当該設置者の居住の用に供される場合に おいて,当該居住の用に供されている建築物の敷地(これと一体として管理される土地を含む。) として利用されること。 三 (略) 4,5 (略) (法第4条第1項の土地の形質の変更の届出の対象となる土地の規模) 第22条 法第4条第1項の環境省令で定める規模は,3000平方メートルとする。ただし,現に 有害物質使用特定施設が設置されている工場若しくは事業場の敷地又は法第3条第1項本文に規定 する使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場若しくは事業場の敷地(同項本文の報告を した工場若しくは事業場の敷地又は同項ただし書の確認を受けた土地を除く。)の土地の形質の変 更にあっては,900平方メートルとする。 (法第4条第1項の土地の形質の変更の届出を要しない行為) 第25条 一 法第4条第1項第2号の環境省令で定める行為は,次に掲げる行為とする。 次のいずれにも該当しない行為 イ 土壌を当該土地の形質の変更の対象となる土地の区域外へ搬出すること。 ロ 土壌の飛散又は流出を伴う土地の形質の変更を行うこと。 ハ 土地の形質の変更に係る部分の深さが50センチメートル以上であること。 二〜五 (略) (土壌汚染状況調査の対象となる土地の土壌の特定有害物質による汚染状態に係る基準) 第28条 2 令第3条第1号イの環境省令で定める基準は,土壌溶出量基準とする。 令第3条第1号ハの環境省令で定める基準は,土壌含有量基準とする。 (地下水の水質の汚濁に係る限度) 第29条 令第3条第1号イの環境省令で定める限度は,地下水基準とする。 (地下水の利用状況等に係る要件) 第30条 令第3条第1号イの環境省令で定める要件は,地下水の流動の状況等からみて,地下水汚 染(地下水から検出された特定有害物質が地下水基準に適合しないものであることをいう。以下同 じ。)が生じているとすれば地下水汚染が拡大するおそれがあると認められる区域に,次の各号の いずれかの地点があることとする。 一 地下水を人の飲用に供するために用い,又は用いることが確実である井戸のストレーナー,揚 水機の取水口その他の地下水の取水口 二 (略) 三 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第40条第1項の都道府県地域防災計画等に基 づき,災害時において地下水を人の飲用に供するために用いるものとされている井戸のストレ ーナー,揚水機の取水口その他の地下水の取水口 四 〇 (略) 水質汚濁防止法施行令(昭和46年6月17日政令第188号)(抜粋) (カドミウム等の物質) 第2条 法第2条第2項第1号の政令で定める物質は,次に掲げる物質とする。 一〜八 九 (略) トリクロロエチレン(以下,略) - 30 - 〔第2問〕(配点:50) Aは,B市郊外の道路沿いに所有する土地にホテルCを所有し,経営している。ホテルCの周 辺一帯には広大な原野が広がっており,近隣には道路沿いの店舗等が点在する程度である。開業当 時は小規模な民宿であったが,次第に原野の優れた自然の風景が注目されるようになり,内外から の観光客が急増したため,Aは資金を投じて民宿を3階建(高さ13メートル)の建物に改築し, 観光客向けのホテルCを開業した。その後,周辺地域は国立公園の指定を受け,ホテルCの所在地 は第一種特別地域に含まれるに至った。ホテルCは屋根や壁面の色彩や形態が自然景観に調和して いると評価され,大いに繁盛した。 ところが,B市周辺を震源とする大規模な地震が発生し,ホテルCにも内壁や外壁にひび割れな どの被害が生じた。検査の結果,損壊は甚だしいものの,大規模な修繕をすれば元どおりの使用は 可能であるとされたが,Aとしては,建物の老朽化も進んでおり,建物の価値を超える修繕費用を 要することもあって,経営,安全の両面から,将来地域の復興が進んだ時点での営業再開を目指す こととし,ホテルCを解体した。 それから3年を経過し,地域の復興も進んだことから,AはホテルCの元の所在地と同一の位置 に,従前と全く同一の高さ,面積とデザインによる建物を建築する計画を立案した。 〔設問1〕 自然公園法は,国立公園の区域の陸域内における行為につき,特別地域と普通地域を区分し た上で,それぞれに応じた規制を定めている。その規制手法・内容の違い及びそのような違い を設けている趣旨を説明せよ。 〔設問2〕 Aの計画に関して自然公園法上どのような問題点があるか。問題文に現れた事情の限りで,資 料を参照しつつ検討せよ。 〔設問3〕 Aは,仮にホテルCの建築が認められない場合にどのような救済を求め得るか,検討せよ。 - 31 - 【資 〇 料】 自然公園法施行規則(昭和32年10月11日厚生省令第41号)(抜粋) 第2章 保護及び利用 (特別地域の区分) 第9条の2 国立公園又は国定公園に関する公園計画のうち,保護のための規制に関する計画を定め るに当たつては,特別地域(特別保護地区を除く。以下同じ。)を次の各号のいずれかに掲げる地 域に区分するものとする。 一 第一種特別地域(特別保護地区に準ずる景観を有し,特別地域のうちでは風致を維持する必 要性が最も高い地域であつて,現在の景観を極力保護することが必要な地域をいう。) 二 第二種特別地域(第一種特別地域及び第三種特別地域以外の地域であつて,特に農林漁業活 動についてはつとめて調整を図ることが必要な地域をいう。) 三 第三種特別地域(特別地域のうちでは風致を維持する必要性が比較的低い地域であつて,特 に通常の農林漁業活動については原則として風致の維持に影響を及ぼすおそれが少ない地域を いう。) (特別地域,特別保護地区及び海域公園地区内の行為の許可基準) 第11条 1〜5 6 (略) 法第20条第3項第1号,第21条第3項第1号及び第22条第3項第1号に掲げる行為(前各 項の規定の適用を受ける建築物の新築,改築又は増築以外の建築物の新築,改築又は増築に限る。) に係る許可基準は,第1項第2号から第5号まで並びに第4項第7号及び第9号から第11号まで の規定の例によるほか,次のとおりとする。ただし,第2項ただし書に規定する行為に該当するも のについては,この限りでない。 一,二 7〜36 (略) (略) 【注:Aの計画する建物は,上記の「前各項の規定の適用を受ける建築物」に該当しないものとする。】 37 法第20条第3項各号,第21条第3項各号及び第22条第3項各号に掲げる行為に係る許可 基準は,前各項に規定する基準のほか,次のとおりとする。 一 申請に係る地域の自然的,社会経済的条件から判断して,当該行為による風致又は景観の 維持上の支障を軽減するため必要な措置が講じられていると認められるものであること。 二 申請に係る場所又はその周辺の風致又は景観の維持に著しい支障を及ぼす特別な事由があ ると認められるものでないこと。 三 * (略) 本条6項が引用する本条各項の規定のうち,本問で検討すべきものを以下のとおり抜粋した。省略され た条項については検討を要しない。 ・ 第1項第2号 次に掲げる地域(以下「特別保護地区等」という。)内において行われるものでないこと。 イ 特別保護地区,第一種特別地域又は海域公園地区 ロ (略) ・ 第1項第3号及び第4号 ・ 第1項第5号 (略) 当該建築物の屋根及び壁面の色彩並びに形態がその周辺の風致又は景観と著しく不調和で ないこと。 ・ 第2項ただし書 ただし,既存建築物の改築等であつて,前項第5号に掲げる基準に適合するものについて は,この限りでない。 - 32 - 【注:「既存建築物の改築等」の定義は以下のとおり。 既存の建築物の改築,既存の建築物の建替え若しくは災害により滅失した建築物の復旧のための新築 (申請に係る建築物の規模が既存の建築物の規模を超えないもの又は既存の建築物が有していた機能を 維持するためやむを得ず必要最小限の規模の拡大を行うものに限る。)又は学術研究その他公益上必要で あり,かつ,申請に係る場所以外の場所においてはその目的を達成することができないと認められる建築物 の新築,改築若しくは増築】 ・ 第4項第7号及び第9号から第11号 (略) - 33 - - 34 - 論文式試験問題集[国際関係法(公法系)] - 35 - [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕(配点:50) A国の民間企業であるXは,B国との間で,B国政府に対してコンピュータを売り渡す旨の売買 契約を締結した。XとB国との間の売買契約書には,当事者間に紛争が生じた場合には,A国の法 律に基づき,A国の国内裁判所で裁判手続を行う旨の条項が挿入されていた。Xは,契約どおりに コンピュータを引き渡し,売主としての履行を完了した。ところが,Xが支払期日に支払を求めた ところ,B国は期日を過ぎてもXに対して売買代金を支払わなかったため,Xは,B国による売買 代金の支払を求めて,A国の国内裁判所に訴えを提起した。これに対してB国は,応訴の意思を示 さず,国家の裁判権免除を主張して訴えの却下を求めた。 A国とB国との間には,特定の事項又は特定の事件に関して相手国の裁判所による裁判権の行使 について同意する旨の国際的合意は存在しない。また,B国が,本件裁判手続における宣言や書面 による通知によって,A国の裁判所による裁判権の行使に同意した事実も存在しない。 原審は,絶対免除主義を適用して,B国に対して,A国の民事裁判権からの免除を認めた。この 判決を不服としたXは,本件に相対(制限)免除主義の適用を求めて控訴した。これに対して控訴 審は,Xの主張を認め,B国に対してA国の裁判権を行使できると判断し,B国に対してXに対す る売買代金の支払を命じた。 しかし,この控訴審判決にもかかわらず,B国が当該判決の履行を拒否したため,Xは裁判所に 対して判決の強制執行を求めた。なお,B国がA国内に保有する財産としては,B国の外交使節団 の名義で開設されている口座の銀行預金があるのみである。 ちなみに,A国とB国は,2004年に採択された「国及びその財産の裁判権からの免除に関す る国際連合条約」の締約国であるが,同条約は未発効である。 以上の事実を基に,以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.B国が主張した国家の裁判権免除について説明するとともに,絶対免除主義とはどのような 考え方であるかを説明しなさい。裁判権免除を認めるべきであるとの立場から,B国はどのよ うな主張が可能かを論じなさい。 2.相対(制限)免除主義とはどのような考え方であるかを説明しなさい。B国に対して裁判権 免除を認めるべきでないとの立場から,Xはどのような主張が可能かを論じなさい。また,本 件売買契約におけるA国の国内裁判所で裁判手続を行う旨の条項は,B国による国家の裁判権 免除の放棄と考えられるかについて論じなさい。 3.B国が履行を拒否している控訴審判決を強制執行するために,A国内にあるB国の外交使節 団名義で開設されている口座の銀行預金が差押えの対象となるかについて論じなさい。 - 36 - 〔第2問〕(配点:50) A国とB国は,隣接する国家である。地理的に,A国はB国の北に位置している。A国の領域内 のナーガ山脈を水源とするギリ川等のいくつかの川は,A国領域内のある地点で一つの川に合流す る。この合流点から下流の川がナーガ川であり,ギリ川は,ナーガ川となるいくつかの川の中で最 も主要な川である。ナーガ川は,上流国A国から下流国B国を貫流する国際河川である。 1975年,A国とB国は,「ナーガ川の利用と流域の環境の保護及び保全のための協力に関す る条約」(以下「1975年条約」という。)を締結した。1975年条約の主要な規定は,以下 のとおりである。第4条は,両当事国にナーガ川流域の環境の保護及び保全の義務を課している。 第5条は,両当事国にナーガ川の利用状況,水量及び水質等についての年次報告書を提出する義務 を課している。第10条は,両国の政府代表と専門家が委員となる「ナーガ川の利用と流域の環境 の保護及び保全のための委員会」(以下「ナーガ川委員会」という。)を設立する旨規定している。 第11条は,ナーガ川委員会の任務の一つとして,両当事国が提出する年次報告書の受理及び審査 を挙げている。また,第12条は,ナーガ川の利用に関する新たな計画の実施には,ナーガ川委員 会に特別報告書を提出し,同委員会の許可を得ることが必要であると規定している。なお,第13 条は,ナーガ川委員会の意思決定は全会一致によると定めている。さらに,第19条は,この条約 の解釈又は適用に関する紛争で両当事国間の交渉によって解決できないものは,いずれかの当事国 により国際司法裁判所に付託できると規定している。 A国には十分な発電施設がなく,自国の火力発電所は必要な電力の10%しか供給できない状態 であった。A国は,1980年にB国と「電力の安定供給に関する条約」を締結したほか,198 2年には,A国の東側に位置し,B国と国境を接していないC国とも同じ内容の条約を締結した。 これらの条約は,B国及びC国それぞれによる安定的な電力供給とA国による対価の支払の義務を 規定している。また,それぞれの条約には条約と一体となる附属書が付され,毎年9月の当事国間 の協議により,翌年の電力供給量を決定すると規定されている。この附属書により,例年A国は必 要な電力量の約50%をB国から,約40%をC国から輸入していた。 2012年9月,A国法人たる甲社が,ギリ川にダム及び水力発電所を建設し,発電事業を行う 計画についての認可をA国に申請した。甲社は,この事業によりA国に必要な電力量の20%を供 給できるとし,A国のエネルギー安全保障の観点からの重要性を強調した。2013年4月にこの 計画は認可され,2018年10月に発電所が稼働を開始した。 A国は,2013年1月にナーガ川委員会に提出した年次報告書で,ギリ川における甲社の計画 について簡潔に言及したものの,ナーガ川の利用に関する新たな計画に当たらないので,第12条 に基づく特別報告書を提出して,同委員会の許可を得る必要はないとの見解を示した。これに対し, B国は,この計画は下流のナーガ川に大きな影響をもたらす可能性があるため,ナーガ川委員会に 計画の詳細と環境影響評価の結果に関する特別報告書を提出して,同委員会の許可を得るべきであ ると主張した。この計画をめぐるA国とB国の意見の対立が原因となって,ナーガ川委員会は20 13年8月以降,実質的な活動ができなくなっている。なお,甲社がA国にこの計画の認可を申請 した時から,国際的に定評のある環境団体が,甲社は必要な環境影響評価を実施していないと批判 し,計画への反対運動を行ってきた。 2018年10月に甲社の発電所が稼働した後,ナーガ川の水量が40%減少した。またB国の 調査によれば,水質も著しく悪化し,ナーガ川の水を水道水として利用してきたB国は,ダムの稼 働後,新たな浄水施設を建設しなければならなくなった。このような状況を受けて,2019年3 月,B国は,A国との「電力の安定供給に関する条約」を一方的に廃棄し,A国に対する電力供給 を完全に停止した。 A国とB国は,国連加盟国であり,条約法に関するウィーン条約の当事国である。なお,両国は, 国際司法裁判所規程第36条第2項に基づく選択条項受諾宣言を行っていない。 以上の事実を基に,以下の設問に答えなさい。 - 37 - 〔設 問〕 1.甲社の計画にA国が認可を与えたことが国際法に違反するとの立場から,B国は慣習国際法 又は条約に基づきどのような主張をすることが可能かを論じなさい。 2.B国による「電力の安定供給に関する条約」の一方的廃棄と電力供給の完全な停止が国際法 に違反するとの立場から,A国はどのような主張をすることが可能かを論じなさい。 3.B国が,A国との紛争を国際司法裁判所に付託する場合,どのような管轄権の根拠で,いか なる申立てが可能かを論じなさい。また,それに対して,A国はどのような管轄権に関する抗 弁を主張できるかを論じなさい。 - 38 - 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)] - 39 - [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕(配点:50) X女とY男の夫婦は日本に居住していた。ところが,その後その離婚が問題となった。以上の事実を 基に,以下の設問に答えなさい。 〔設問1〕 XとYは共に甲国人であり,現在もなお,共に日本に常居所を有している。XとYは離婚すること に合意した。財産分与についても合意が成立している。甲国には協議離婚制度はなく,裁判離婚主義 が採られているので,XとYは,裁判所での手続によらなければならないと考え,また日本で生活し ているので日本の裁判所での手続により,その手続の中でも離婚訴訟ではなく調停手続により離婚を 成立させることを希望して調停を申し立てた。XとYについて調停離婚を認めることができるかどう か,調停離婚が認められないとした場合には,日本の裁判所においていかなる手続によることができ るかについて論じなさい。 なお,甲国民法には,下記のように,当事者間に離婚とその諸効果について合意が成立している場 合に,原則的に当事者の合意を尊重する裁判手続がある。 【甲国民法】 @ 夫婦は,離婚及びその諸効果について合意した場合には,離婚の諸効果を定める合意書について 裁判官の承認を得るべく,共同で離婚を請求することができる。 A 裁判官は,夫婦の合意が真意に基づくものであり,自由になされ,かつ思慮あるものであるとの 心証を得た場合には,その合意書を認可し,離婚を言い渡す。 B 裁判官は,その合意書が子又は夫婦の一方の利益を保持するには不十分であると認定する場合に は,認可を拒否し,離婚を言い渡さないことができる。 〔設問2〕 XとYは共に乙国人であり,共に日本に常居所・住所を有していたが,Yは日本で出会った乙国人 A女と不貞行為に及び,それがXに知られて,婚姻関係が破綻し,XとYは事実上別居し,YはAと 同居するに至った。YとAはその後,共に乙国に帰国してしまい,現在は乙国に住所を有している(X は乙国内でのYの住所を知っている。 ) 。他方,Xは現在も日本に住所を有している。 Xは,もはやYと離婚するほかないと考え,日本の裁判所に夫婦関係調整の調停を申し立てた が,Yはこれに応じなかった。そこで,Xは日本の裁判所にYを被告として,離婚,財産分与, 慰謝料を求めて訴訟を提起した。このうち,財産分与については,夫婦の財産の分配と清算につ いてのみ請求されている。また,慰謝料については,離婚せざるを得なくなったことについての 精神的苦痛とYの不貞行為についての精神的苦痛への賠償の両方を含むものとして請求されてい る。 〔小問1〕 本件訴訟における上記各請求について,日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどう かについて論じなさい(調停事件の国際裁判管轄権について論じる必要はない。)。 〔小問2〕 仮に上記各請求について日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるものとした場合,上記 各請求について判断するに当たり適用すべき準拠法の決定について論じなさい。 - 40 - 〔第2問〕(配点:50) Xは,建設資材の原材料などを販売する日本の株式会社であり,日本以外に営業所を有していな い。Yは,建設資材Mの製造・販売を目的とする甲国法人の会社であり,甲国以外に営業所を有し ていない。 商品Gは,通常,建設資材Mを製造するための原材料として使用されるものであり,多数の企業 が商品Gを販売している。各企業が販売している商品Gの強度には若干の相違があるが,いずれの 商品Gであっても,建設資材Mの製造を行うことができる。ただし,ごく一部の先端的な設備を有 する工場(Yの工場を含む。)では,品質の高い建設資材Mを製造しているため,一定以上の強度を 有する商品Gを使用しなければ建設資材Mの製造を行うことができない。 Yは,Xが販売する商品Gの価格が比較的低額であったことから,Xに対して商品Gのサンプル (=見本)を送付するよう求めた。Yの求めに応じて,Xは,Yに対して,商品Gのサンプルを送 付した。Yがサンプルを使用してYの工場で建設資材Mの試験製造を行ったところ,建設資材Mの 製造を行うことができた。そこで,Yは,Xとの間で,次のような内容の売買契約(以下「本件契 約」という。)を締結した。 Xは,Yに対して,200トンの商品Gを引き渡すものとする。 商品Gの引渡地は,甲国のK港とする。 Yは,Yが商品Gを甲国のK港で受領した日から7営業日以内に,Xが甲国に開設したX名 義の銀行口座に振り込む方法で,代金を支払う。 代金は,1億円(1トン当たり50万円)とする。 本件契約には国際裁判管轄権に関する条項や仲裁条項はなかった。 その後,Yは,甲国のK港で商品Gを受領した。Yが直ちに商品Gを検査したところ,その商品 Gは,サンプルと比べて強度が不足しており,Yの工場では建設資材Mの製造のための原材料とし て使用できないことが判明した。そこで,Yは,Xに対して,検査結果を示すとともに受領した商 品Gがサンプルと同等品質のものではなかった旨を通知し,他社から,サンプルと同じ強度の商品 Gを200トン,代金1億6000万円で購入した。Yは,この購入代金と本件契約代金との差額 である6000万円の損害を被ったとして,Xがその損害の賠償を行うべきであると主張し,本件 契約代金全額の支払を拒んでいる。 なお,甲国は, 「国際物品売買契約に関する国際連合条約」 (以下「ウィーン売買条約」という。) の締約国ではない。 以上の事実を前提として,以下の設問に答えなさい。なお,各問は独立した問いである。 〔設問1〕 Xは,Yを被告として,未払代金1億円の支払を求める訴えを日本の裁判所に提起した。この 訴えについて,日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさい。 なお,Yは,建設資材Mの製造方法に関連した発明について,甲国のほか日本でも特許権を有 している(そのうち日本で登録されたYの特許権の評価額は,5000万円である。)。 〔設問2〕 Yは,Xを被告として,Xの契約違反によって被った損害の賠償を求める訴えを日本の裁判所 に提起した。本件契約には,「 甲国法を準拠法とする。」との条項があったとする。 この訴訟において,X及びYのいずれも,Yによる損害賠償請求について,日本の民法の適用 があることを前提にそれぞれの主張を行った。裁判所は,この請求について,日本の民法を適用 して判断することができるかについて論じなさい(ウィーン売買条約の適用について論じる必要 はない。)。 - 41 - 〔設問3〕 Yは,Xを被告として,Xの契約違反によって被った損害の賠償を求める訴えを日本の裁判所 に提起した。本件契約には,準拠法が明示的にも黙示的にも定められていなかったとする。 〔小問1〕 この訴訟において,裁判所は,Yによる損害賠償請求について,ウィーン売買条約第1条の 規定に基づき,ウィーン売買条約を適用することとした。裁判所の判断の過程を説明しなさい (ウィーン売買条約第2条から第6条までの規定について論じる必要はない。)。 〔小問2〕 この訴訟において,裁判所は,Yによる損害賠償請求について,ウィーン売買条約を適用し た上で,Xが引き渡した商品Gが契約に適合しておらず,Xに契約上の義務の不履行があった ことを理由として,Yの上記請求を認めた。裁判所の判断の過程を説明しなさい(ウィーン売 買条約第38条から第40条までの規定及び第74条から第77条までの規定について論じる 必要はない。)。 なお,Yは,Xに対して,商品Gを先端的な設備を有するYの工場で使用することなどの特 定の目的を一切伝えていなかった。 - 42 -