論文式試験問題集[倒 - 1 - 産 法] [倒 産 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の【事例】について, 以下の設問に答えなさい。 なお, 解答に当たっては, 文中において特定されている日時にかかわらず, 試験時に施行されて いる法令に基づいて答えなさい。 【事 例】 A株式会社(以下「A社」という。 )は, 家具の卸売を業とする株式会社である。 A社は, 平 成元年の設立以来, 地元の地方銀行であるB銀行を主要な取引銀行として, 当座預金口座を開設 するとともに, しばしば運転資金の融資や手形の割引等に応じてもらってきた。 また, A社は, B銀行のほか, C信用金庫及びD銀行にもそれぞれ普通預金口座を開設し, 取引先に送付する請 求書にこれらの口座を記載して, 取引先の選択により, これらのいずれかの口座に振込送金させ る方法により決済を行っていた。 A社の業績は, 創業以来順調に発展してきたが, 平成20年頃になると, 製造業者から直接仕 入れをする小売業者が増加し, 卸売業の役割が相対的に低下するとともに, 家具の製造から販売 まで一手に行う大規模家具小売業者の進出等もあり, 次第にA社の業績は悪化し, 平成25年以 降は赤字決算となる年度もあった。 A社は製造業者から仕入れた家具を保管するための自社倉庫(以下「本件倉庫」という。 )を 所有していたが, 令和元年9月に台風の影響により屋根が大きく破損し, 仕入れた家具の多くに 水濡れの被害が生じた。 本件倉庫については, 屋根の破損のみならず, 建物全体が大きな損傷を 受けたため, 抜本的な補修ないし建て替えが必要な状況であった。 そこで, A社は, 本件倉庫を 建て替えることとし, 同年10月10日, E建設との間で, 倉庫建設請負契約(以下「本件請負 契約」という。 )を締結した。 本件請負契約においては, 請負代金は1億5000万円とされ, A社がE建設に対して, 契約成立時に5000万円を支払い, 残代金は完成した倉庫の引渡しと 引換えに支払うこと, E建設は, 令和2年6月30日までに倉庫を完成させてA社に引渡しをす ることを合意した。 A社は, 本件請負契約の前払金を支払うため, B銀行から5000万円の融 資を受けて, E建設に支払った。 E建設による倉庫の建設は順調に進み, 同年5月31日までに は倉庫は完成したが, A社への引渡しはまだされていない。 また, 台風被害により水濡れしてしまった在庫商品について, 比較的損害の程度が軽かったも のは, 以前から取引があった小売業者に割引価格で売却するなどにより処分することができたが, 程度の悪いものについては買取り先が見つからないまま, 令和2年の春を迎えることとなった。 この時点でA社の資金繰りはかなり苦しくなってきているとともに, 商品の保管場所の問題もあ り, 同業者からの紹介により, 中古家具販売業者であるF商店に残りの水濡れした在庫商品一式 (以下「本件商品」という。 )を300万円で一括売却することとした。 この売買契約(以下 「本件売買契約」という。 )は同年4月15日に締結され, 本件売買契約によれば, 同年5月末 日までにF商店の負担により本件商品を引き取り, 商品の引取り後10日以内に, B銀行, C信 用金庫又はD銀行に開設したA社のいずれかの口座に代金300万円を振り込む方法で支払うこ ととされた。 在庫商品の水濡れによる損失に加え, 本件倉庫の建て替え工事の間, 商品を保管するために借 り上げた倉庫の賃料の支払等の支出が重なったこともあり, 令和2年4月頃には, A社の資金繰 りはかなり苦しい状況に陥っていた。 そこで, A社は当面の事業資金3000万円の融資をB銀 行に申し込んだが, 既に本件請負契約の前払金5000万円について融資を受けていたため, B 銀行からは追加の融資を受けることができなかった。 そのため, A社は, C信用金庫及びD銀行 にも緊急の融資を求めたが, 主要な取引銀行であるB銀行が融資を見送っていることもあり, 両 - 2 - 金融機関とも融資については二の足を踏み, 結局融資を受けることができないまま, 仕入先であ るG木工への買掛代金の支払期日である同年5月31日を徒過してしまった。 翌6月1日, 買掛 代金の振込みがないことを知ったG木工からの問合せを受け, A社の経理担当者は, 事務手続上 のミスで支払が遅れているが, 数日のうちには必ず振り込むとの返答をしたものの, 実際にはG 木工への支払はもとより, 他の仕入先に対する買掛代金の調達のみならず, 取引金融機関からの 借入金の弁済のめども立たない状況であった。 そこで, A社の経営陣は, 顧問弁護士のHに連絡をし, 令和2年6月3日にA社の会議室にお いて今後の方針について協議を行った結果, 主な取引先や取引金融機関に対して, A社は近日中 にH弁護士を申立代理人として破産手続開始の申立てを行う予定であり, 債務の支払についても それまでの間停止する旨の通知(以下「本件通知」という。 )を, 翌週の同月8日に発送するこ とを決めた。 ただし, この方針については, 混乱を避けるため, 本件通知の発送までは, H弁護 士と協議に参加した経営陣限りにとどめておくこととした。 本件通知は, 予定どおり, 令和2年6月8日に, H弁護士名義で発送され, 翌9日に, B銀行 を始めとする取引金融機関及び主な取引先に到達した。 その後, A社は, H弁護士の下で破産手 続開始の申立ての準備を進め, 同月15日にI地方裁判所に破産手続開始の申立てをし, 同月2 5日にA社について破産手続開始の決定がされ, 破産管財人Xが選任された。 〔設 問〕 以下の1から3については, それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.破産管財人Xは, 破産財団にとって建て替えられた倉庫は不要であると考え, E建設に対し, 本件請負契約を解除する旨の通知をした。 仮に, この解除が認められるとした場合, A社の破 産手続において, 支払済み及び未払の請負代金がどのように扱われることになるか, 説明しな さい。 2.F商店は, 本件売買契約に従い, 令和2年5月28日までに本件商品を引き取り, 同年6月 5日に, B銀行に開設されたA社の当座預金口座に代金300万円を振り込んだとする。 破産 手続の開始後に破産管財人XがB銀行に対してF商店から振り込まれた300万円の引き出し を求めた場合において, B銀行は, 本件請負契約の前払金として融資した5000万円と対当 額について相殺するとして, 300万円の支払請求を拒絶することができるか, 論じなさい。 3.前記2において, F商店がB銀行に開設されたA社の当座預金口座に代金300万円を振り 込んだのが令和2年6月16日であり, その時点では, B銀行は, 前日の同月15日にA社に ついて破産手続開始の申立てがされていたことを知らなかった場合, B銀行は, 本件請負契約 の前払金として融資した5000万円と対当額について相殺するとして, 300万円の支払請 求を拒絶することができるか, 論じなさい。 - 3 - 〔第2問〕(配点:50) 次の【事例】について, 以下の設問に答えなさい。 なお, 解答に当たっては, 文中において特定されている日時にかかわらず, 試験時に施行されて いる法令に基づいて答えなさい。 【事 例】 A株式会社(以下「A社」という。 )は, リゾートホテルの運営と別荘の販売を業とする株式 会社であり, 平成10年の創業以来, 積極的に事業を展開してきたが, 借入金により大規模な投 資をした直後, 新型の感染症の影響を受けて売上げが激減し, 借入金の元利金支払に窮するよう になった。 そこで, A社は, 令和3年5月6日, B地方裁判所に再生手続の開始を申し立てたと ころ, 同日, Cを監督委員とする監督命令が発せられた。 裁判所は, 令和3年5月31日, A社について再生手続開始の決定をした。 再生債権の届出を すべき期間は同年6月30日まで, 再生債権の調査をするための期間は同年8月2日から同月9 日まで, 再生計画案の提出期限は同月31日とされた。 〔設 問〕 以下の1から3については, それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.Dは, 令和3年4月1日, A社が運営するリゾートホテルで同年12月4日にEとの結婚披 露宴を開くこととし, 割安な全額前払プランを選択してA社と契約を締結した。 Dは, 同年4 月16日に料金の全額110万円を一括して支払った。 Dは, A社の再生手続において, 自らの債権をどのように届け出るべきか, 説明しなさい。 なお, 解答に当たっては, @Dが有する権利がなぜ再生債権となるか, AA社について開始さ れたのが破産手続であり, その開始決定までに全ての事業を廃止していた場合との届出内容の 相違についても, 言及しなさい。 2.A社は, 令和3年8月30日に再生計画案を提出し, 同計画案は, 同年10月27日の債権 者集会において可決され, 同年11月29日には裁判所による再生計画の認可決定が確定した。 ところが, 令和4年2月1日になって, A社の株主で代表取締役でもあるFが, 民事再生法 第172条の3第1項第1号所定の再生計画案の可決要件を確実に満たすことを目的として, A社従業員であるGら10名に命じ, A社に対する債権を有していないにもかかわらず債権を 有しているものとして再生債権届出書を提出させ, 債権調査においてA社がこれらの債権を認 めていたことが判明した。 そこで, 監督委員Cが調査した結果, Gら10名を除いても, A社 の再生計画案に同意した議決権者は, 議決権者の半数を一人だけ上回っており, 可決要件を満 たしていたことが明らかになった。 ただし, 同意した議決権者の中には, Fが虚偽の債権の届 出を従業員に命じたことを債権者集会の際に知っていれば再生計画案に同意しなかったと回答 する者が2名いた。 上記の調査結果を記載したCの報告書は, 令和4年4月1日, 再生債権者 に送付された。 再生債権者であるHは, Cの上記調査報告書により事情を初めて知り, 令和4年4月30日, 再生計画の取消しを申し立てた。 A社の再生計画には, 法定の取消事由があると認められるか, 論じなさい。 また, 仮にこれが認められる場合に, 裁判所はどのように判断すべきか, 論じな さい。 なお, Hによる前記の申立てまでの間, 再生計画はA社により滞りなく履行されており, 今 後も, その履行を継続することが可能な状況である。 3.A社の再生計画に対する認可決定が確定した後, A社からの報告により, A社の収支が改善 せず, 逆に大きな損失を出してしまい, もはや再生計画に基づく弁済を継続していくことがで きなくなったことが判明した。 この場合, 裁判所はどのように対応すべきか, 説明しなさい。 - 4 - 論文式試験問題集[租 - 5 - 税 法] [租 税 法] 〔第1問〕(配点:50) Aは, 平成元年1月からBと婚姻し同居していた。 婚姻中は, Aが専ら収入を得ており, Bは家 事に従事していた。 Aは, 平成12年12月31日付けの契約で, 不動産業者である株式会社P社から, 土地(以下 「本件土地」という。 )を4000万円の対価により取得した。 この金額は, この時の本件土地の 時価と等しいものであった。 Aは, この金額を, 婚姻中に蓄積した貯蓄から支払った。 平成18年3月1日, AとBは離婚することになった。 同日, 財産分与として, Aは本件土地を Bに引き渡した。 この時点において, AとBとが婚姻中に形成した資産の時価相当額は約1億円で あり, 本件土地の時価は5000万円であった。 平成20年3月1日, Bは, 本件土地を個人Cに5500万円の対価により譲渡した。 Cは, 本件土地の取得後直ちに, その上に居住用の部屋10室から成る建物(以下「本件建物」 という。 )を建築した。 そして, 平成22年1月から, 本件建物の各部屋を賃貸する不動産賃貸業 を個人で営み始めた。 本件建物の賃借人は, C名義の銀行口座への振込みによりその賃料を支払っ ていた。 本件建物に係る賃貸借契約や管理業務には, Cはほとんど関わっておらず, Cの子である Dが事実上行っていた。 Dは, 本件建物の部屋の一室に居住しているが, Cに対して賃料の支払は していない。 さらに, Cは, 平成23年1月から, 本件建物の一室を使って, 個人でQ鍼灸院という屋号の鍼 灸院の事業を開始した。 鍼灸の施術サービスを行うには, はり師及びきゅう師の国家資格が必要で あったが, 鍼灸院の経営自体は, 経営者がはり師及びきゅう師の国家資格を持っていなくても, は り師及びきゅう師の国家資格を持つ者を別に雇用することで営業することが可能であった。 Cは, 個人経営者としてQ鍼灸院の事業運営を取り仕切り, また, はり師及びきゅう師の国家資格を持つ Fを雇用した。 Fが来院客に鍼灸の施術サービスを提供するとともに, C自らは, 施術サービスを 行うのに国家資格の不要なリラクゼーションセラピストとして, 来院客にリラクゼーションの施術 サービスを提供し, Q鍼灸院は鍼灸及びリラクゼーションの各施術サービスによる収入を得ていた。 Cは, 本件建物の居住用の部屋の賃貸収入と, Q鍼灸院の収入により生計を立てていた。 他方, Cは, 平成26年1月から, かねて趣味にしようと考えていた生花の専門学校に半年間通 い, その腕を磨き, かなりの腕前を持つに至った。 そこで, Cは, 同年10月に, Q鍼灸院の待合 室に自作の生花を飾ったところ, 来院客からも好評で, 待合室の雰囲気が良くなったためか, 生花 を飾って以降毎月の売上げが1割上昇した。 さらに, Cは, 将来は自らも鍼灸の施術サービスを提供し, より多くの来院客に施術サービスを 提供できるようにし, Q鍼灸院の事業の拡大を図ろうと考え, 平成27年1月から, はり師及びき ゅう師の国家資格取得のための専門学校に通い始め, はり師及びきゅう師の国家資格取得を目指し た。 令和元年10月にCが死亡し, Cの子であるD及びEの2名のみが共同相続人となったが, 現在 に至るまで遺産分割協議は成立していない。 なお, Cは遺言をしていない。 また, C死亡後, 速や かにQ鍼灸院は廃業した。 本件建物の居住用の部屋の賃料については, DとEとの合意により, 遺産分割協議が成立するま ではD名義の銀行口座への振込みにより受領することとし, その旨を賃借人に通知した。 実際に, 令和2年1月からは, 本件建物の賃借人は, D名義の銀行口座への振込みにより賃料を支払ってい る。 この賃料収入は, 現在に至るまでD名義の銀行口座から引き出されていない。 以上の事案について, 以下の設問に答えなさい。 - 6 - 〔設 問〕 1 平成18年3月1日に, Aが本件土地をBに引き渡したことは, 財産分与の額として適正なも のであったとする。 このとき, 上記の財産分与に関して, Aの所得税の課税関係はどうなるか。 平成20年3月1日に, Bが本件土地をCに譲渡したことに関して, Bの所得税の課税関係 はどうなるか。 2 Cの平成26年分の所得税の計算上, Cが生花の専門学校に支払った学費は, CのQ鍼灸院に 係る事業所得における必要経費に該当するか。 また, Cの平成27年分の所得税の計算上, 同年 中にCがはり師及びきゅう師の国家資格取得のための専門学校に支払った学費は, CのQ鍼灸院 に係る事業所得における必要経費に該当するか。 3 所得税法上は, 令和2年分の本件建物の居住用の部屋の賃料収入は, 誰に帰属するか。 - 7 - 〔第2問〕(配点:50) 株式会社A(以下「A社」という。 )及び株式会社P(以下「P社」という。 )は, 株主及び役 員の一部を同じくする関連会社である。 A社は, 昭和50年に甲県乙市郊外の土地(以下「本件土 地」という。 )を3000万円で購入し, A社の保養施設の敷地として利用していた。 平成29年 に本件土地上の保養施設は取り壊され, 本件土地は更地となっていた。 令和元年9月, A社代表取 締役のQは, 知り合いのRから, 本件土地を時価相当額である9000万円で売却してほしいとの 電話連絡を受けた。 Qは, A社が直接Rに本件土地を売却するのではなく, A社からP社へ, そし てP社からRへ, 順次売却することを計画した。 その目的は, A社及びP社がそれぞれ譲渡益を得 て, A社及びP社の繰越欠損金を消滅させることにより, 2社合計の法人税額を, A社が直接Rに 本件土地を売却した場合と比して低くすることであった。 Qは, 課税上問題視されないようにするため, A社とP社との間に株式会社B(以下「B社」と いう。 )を挟むことを考えた。 Qの大学時代の同じサークルの後輩で今でも交流を続けているCが, 乙市内で不動産販売会社たるB社を立ち上げ, B社の代表取締役を務めていることを思い出したた めである。 QはCに, B社がA社から本件土地を購入する取引を提案した。 ただし, B社がA社か ら7000万円で本件土地を買い受けた後, 2か月以内にこれをP社に7500万円で売却するこ と(以下「本件特約」という。 )を条件とするものであった。 Qとしては, A社及びP社とは何ら 関係性のないB社を間に介在させることで, 本件土地の適正な時価が7000万円であると見せ掛 けることを企図していた。 Cとしては, 古くから世話になっている先輩からの依頼であり無下に断 ることもできず, 立ち上げたばかりのB社の売上げが少しでも上がるのであればと思い, 承諾した。 なお, 本件特約は, Qの希望により本件土地の売買契約書とは別の覚書(以下「本件覚書」とい う。 )という形でA社, B社間で締結された。 また, Qは, 本件土地の売却時期が令和2年2月頃 になることをあらかじめRに連絡し, Rの了解を得ていた。 以上に基づき, B社は, 令和元年11月15日にA社から本件土地を7000万円で買い受け (以下, この取引を「本件AB取引」という。 ), 令和2年1月10日に本件土地をP社に750 0万円で売却した(以下, この取引を「本件BP取引」という。 )。 同月20日, QはRに対し, 本件土地は, 現在, 関連会社であるP社が保有しているので, P社に買付証明書を提出してほしい と連絡し, Rは, 同月23日付け買付証明書をP社に郵送した。 P社は, 同年2月25日にRに対 し, 本件土地を9000万円で売却した(以下, この取引を「本件PR取引」という。 また, 「本 件AB取引」, 「本件BP取引」, 「本件PR取引」をまとめて, 以下「本件各取引」という。 )。 P社は, 同月29日にCに対し, 協力金として100万円(以下「本件リベート」という。 )を支 払った。 A社, B社及びP社は, 毎年1月1日から12月31日までの期間を事業年度としている。 A社は, 本件土地の時価が7000万円であるという前提で, 令和元年12月期の法人税の申告 (以下「本件A申告」という。 )をした。 令和2年9月, 税務署によるA社に対する法人税の実地 調査がなされた。 本件土地が転々譲渡されていることにつき調査官から尋ねられたQは, 本件土地 を, 交渉の末, B社に7000万円で売却したところ, その後, 本件土地を9000万円で購入し たいとRから連絡を受けたが, 既にB社に売却してしまっており, 当時, A社にて買い戻すだけの 資金的余裕もなかったことから関連会社のP社が本件土地をB社から7500万円で購入した上で, Rに売却することになった旨を説明した。 その際, Qは, 本件各取引の売買契約書(以下「本件各 売買契約書」という。 )について調査官に示したものの, 本件覚書については開示しなかった。 な お, 本件各売買契約書には架空の名義の利用はない。 調査後, QはすぐにCに連絡し, B社について調査官から事情を聴かれた際には, 本件覚書の存 在やQとCとの関係については一切触れずに, 交渉の末に, 購入価額が7000万円となったと説 明するよう要請した。 また, Qは, Rに対してもQが調査官に説明した内容での口裏合わせを行っ た。 しかし, B社に反面調査がなされた際, 本件覚書の存在が発覚し, 本件各取引の全貌が明らか - 8 - となった。 以上の事案について, 以下の設問に答えなさい。 ただし, 第2問において, グループ法人税制及 び同族会社行為計算否認規定の適用は考えなくてよい。 〔設 問〕 1 仮にA社が令和元年11月15日に直接Rに本件土地を9000万円で譲渡していた場合, 当該譲渡に関して, 同年12月期のA社の法人税の計算上, 益金の額及び損金の額への計上 に係る根拠規定及び適用関係を説明しなさい。 本件AB取引に関して, 令和元年12月期のA社の法人税の計算上, 益金の額及び損金の 額への計上に係る根拠規定及び適用関係を説明しなさい。 国税通則法第68条第1項の「隠蔽」, 「仮装」につき, 最高裁判所平成7年4月28日 第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁は「架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な 行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく, 納税者が, 当初から所得を過 少に申告することを意図し, その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上, その 意図に基づく過少申告をしたような場合には, 重加算税の右賦課要件が満たされる」と判示 した。 益金を2000万円少なくした本件A申告そのものが同項の「隠蔽」, 「仮装」に当 たるか, 説明しなさい。 本件A申告そのもの以外に, 国税通則法第68条第1項の「隠蔽」, 「仮装」に当たる事 実があるかについて, 本件各取引の法律行為の内容が本件各売買契約書に偽りなく記載され ており, 架空名義の利用はないことに留意しつつ, 上記最高裁判所の判決の判示を踏まえて 説明しなさい。 2 本件AB取引及び本件BP取引に関して, B社の令和元年12月期及び令和2年12月期の 法人税の計算上, 益金の額及び損金の額への計上に係る根拠規定及び適用関係を説明しなさい。 3 本件リベートは, Cの令和2年分の所得税の計算上, 事業所得, 一時所得, 雑所得のいずれ の所得に分類されるか, 説明しなさい。 - 9 - - 10 - 論文式試験問題集[経 - 11 - 済 法] [経 済 法] 〔第1問〕(配点:50) Y1ないしY15は, いずれも土木工事の施工等を業とする株式会社である。 X県は, 大雨により崩壊した県道の復旧工事20件(以下「本件各工事」という。 )を条件付一 般競争入札の方法(入札公告により, 特定の入札参加資格を付して入札の参加希望者を募り, 当該 参加資格を満たしていると認められた者を当該入札の参加者とする方法)により発注することとし, 落札方式については, 入札価格を80点満点で評価する「価格評価点」と技術力を20点満点で客 観的に評価する「技術評価点」を合算した点数の最も高い者を落札者とする総合評価落札方式を採 用することとした。 本件各工事は, いずれも同じ日に入札公告がなされ, その後, いずれも同じ日 に入札がなされる。 X県が本件各工事の入札公告に先立ってその発注見通しを公表したことを受け, X県に所在する 技術力の高いY1ないしY13は, 受注価格の低落防止及び受注機会の均等化を図るため, それぞ れの担当者による会合(以下「本件会合」という。 )を開き, 次のないしのとおり合意した (以下「本件合意」という。 )。 本件合意の参加者は, 本件各工事の入札に先立ち, Y1に対し, 受注を希望する工事を知ら せるとともに, 当該工事について技術評価点に係る自社の予測値を提供すること Y1は, 受注希望者の中から受注予定者を決めるとともに, それ以外の入札参加者も決め, 受注予定者が確実に受注できるようにするため, 提供を受けた技術評価点の予測値に基づいて, 受注予定者及びそれ以外の入札参加者が入札すべき価格を算出し, これらをそれぞれに伝える こと 受注予定者はY1から伝えられた価格で入札すること, それ以外の入札参加者はY1から伝 えられた価格で入札し, 受注予定者が受注できるよう協力すること また, 本件会合において, 本件各工事の性質上, X県の隣接県に所在するY14及びY15が本 件各工事の入札に参加することが予想されるとのY1の担当者の発言を受けて, Y1ないしY13 は, Y1を調整役として, Y14及びY15に本件合意への参加を呼び掛けることにした。 Y1の担当者とY14又はY15の担当者との面談状況は, それぞれ以下のとおりであった。 まず, Y1の担当者は, 面談したY14の担当者に対して, 本件合意の内容を説明した上で, 本 件合意の参加者を特定することなく, X県所在の有力な業者の多くが本件合意に参加する意思を表 明していると伝え, 本件合意への参加を呼び掛けた。 その際, Y14の担当者は, 本件合意の参加 者の正確な範囲を認識しておらず, それを確認することもせず, また, 本件合意に参加した場合の 見返りに関する質問もしなかった。 Y14の担当者は, Y1の担当者に対し, 会社としてY1の呼 び掛けに応じる意思を表明したが, その理由は, 本件各工事を受注する希望はないものの, X県に よる追加工事の発注があり得ると考えた上で, それらについて受注を希望することがあれば, Y1 を通じてX県所在の業者から協力を得ることができるかもしれないと期待したからであった。 次に, Y1の担当者は, 面談したY15の担当者に対して, 本件合意の内容を説明した上で, 本 件合意の参加者がY1ないしY14であることを伝え, 本件合意への参加を呼び掛けた。 その際, Y1の担当者が, Y15において本件各工事の受注を希望することがあれば, Y15を受注予定者 とすることもあるなどと述べたことから, Y15の担当者は, Y1の担当者に対し, 会社としてY 1の呼び掛けに応じる意思を表明した。 上記の各面談後, Y1の担当者は, Y2ないしY13の各担当者に対し, Y14及びY15が本 件合意に参加することになったと伝えた。 しかし, 本件各工事の入札公告に先立ち, Y15は, コ ンプライアンス上の理由から本件合意への参加には応じられないこととなった。 このため, Y15 の担当者は, Y1の担当者に対し, 会社として, 上記面談時に伝えた本件合意に参加する意思を撤 回する旨の連絡を行い, Y1の担当者からの再度の呼び掛けに対してもこれを拒否する姿勢を明確 - 12 - に示した。 Y1の担当者は, Y15の技術力や確保できる作業員数の見込みなどに照らして, Y1 5が本件合意への大きな脅威になることはないと判断した上で静観することとし, Y15の翻意を Y2ないしY13の各担当者に伝えず, また, Y14の担当者にも伝えなかった。 その後, 本件各工事の入札公告がなされ, 本件合意に従って受注予定者の決定等がなされた。 2 0件の本件各工事のうち19件は, 本件合意に基づく調整の結果どおり, Y1ないしY13が落札 した。 残る1件は, Y1に対して本件合意への参加の意思を撤回したY15が, 独自の積算で入札 して落札した。 Y14は, 本件各工事の受注希望を表明することはなかったが, 特にY1より依頼 のあった1件の工事について, 技術評価点の予測値をY1に提供するとともに, Y1から伝えられ た価格で入札した。 なお, 本件合意への参加を呼び掛けることのなかったY1ないしY15以外の 技術力が高くない数社が本件各工事の入札に参加したが, 落札した工事はなかった。 〔設 問〕 Y1ないしY13, Y14及びY15の行為について, 私的独占の禁止及び公正取引の確保に 関する法律(以下「独占禁止法」という。 )上の問題点を検討しなさい。 解答に当たっては, Y 14及びY15による以下の主張の当否を踏まえること。 なお, 課徴金の賦課及び犯則事件につ いて論じる必要はない。 Y14の主張:「本件合意の参加者の正確な範囲を知らない。 また, そもそも本件各工事に受 注希望はなかったし, 実際, 落札した工事もない。 」 Y15の主張:「当初, Y1の呼び掛けに応じたが, その後, 少なくともY1に対しては入札 公告前に, 本件合意に参加しないことを明確に伝えた。 」 - 13 - 〔第2問〕(配点:50) 甲製品は, 主要な家庭用電動器具の一つであり, 特有の機能・効用を有し, 代替品は存在しない。 甲製品には, その安全性に関する公的規格が設定されている。 甲製品の国内メーカーとして, 従来からX社, A社及びB社の3社があり, 令和元年における甲 製品の国内販売台数のシェアは, X社が45パーセント, A社が25パーセント, B社が15パー セントであった。 また, 近年, Y社が参入し, その甲製品のシェアは毎年漸増しており, 令和元年 において15パーセントであった。 先発の3社及びY社以外には, 上記の公的規格による甲製品を 製造・販売するものはいない。 甲製品は, 各種の家庭用電動器具を専門に取り扱う販売店のほか, ホームセンター等の販売店で 販売されており, これらの販売店では2社以上の甲製品を取り扱う併売が一般的であるが, 後発の Y社の甲製品を取り扱っている販売店は限定的である。 甲製品の販売店にとっては, メーカーによ る販売促進や技術面の支援が重要な意味を持っている。 また, 甲製品のユーザーは, 販売店の助言 や推奨によってメーカーを選定する傾向が強い。 X社は, 家庭用電動器具の総合メーカーとしてブランド力が強く, また, 国内における甲製品の 最先発のメーカーとしてユーザーからの知名度も高く, 販売店にとってはX社の甲製品を取り扱う ことが不可欠である。 X社は, その取引先販売店のうち, 家庭用電動器具全体を対象にその販売力 や技術力等を評価して選定したものをX社の「特約店」として認定し, 家庭用電動器具の販売促進 や技術面での支援策を総合的に提供する特約店制度を実施しており, X社の甲製品を取り扱う取引 先販売店の約60パーセントが特約店となっている(なお, 特約店にあっても併売が一般的であ る。 )。 こうした事情から, X社は, 甲製品について大きなシェアを確保してきたが, 近年参入し てきたY社の伸長により, そのシェアをやや低下させてきていた。 また, A社及びB社は, いずれ も甲製品を主体とするメーカーであり, X社に比べればブランド力は強くないが, 一定のシェアを 維持してきた。 他方, Y社の甲製品は, 先発の3社の甲製品と比較して相対的に低価格であり, Y 社は, そのことを強調した販売戦略により, 甲製品の販売台数を増加させてきていた。 こうした状況において, Y社では, その甲製品の更なる販売拡大を目指すこととし, 令和2年1 月以降, 従来Y社の甲製品を取り扱っていない販売店に対して新規の取引を申し入れる取組を強化 し始めた。 その結果, 販売店の中には, Y社の甲製品の取扱いを新たに始めるものが出てきた。 こ れに対し, 従来から甲製品のシェアがやや低下してきていたX社は, その原因がY社の甲製品の伸 長にあり, 特にY社の甲製品をユーザーに積極的に推奨する販売店が存在していること, Y社が新 たな取引先販売店の開拓に乗り出したこと, これまで甲製品の価格競争は限定的であったにもかか わらず, 相対的に廉価なY社の甲製品の伸長が甲製品全体の価格水準に影響しかねないことに危機 感を抱き, 次の二つの措置を講じることとした。 まず, X社は, 直ちに実施できる措置として, 令和2年4月から, Y社の甲製品も取り扱う取引 先販売店のうち, Y社の甲製品を積極的にユーザーに推奨しているものに対して個別に, このまま Y社の甲製品の積極的な推奨を続けると, X社の家庭用電動器具の販売促進や技術面の支援におい て不利な扱いをする旨示唆している(以下「措置1」という。 )。 そして, 実際にX社から不利な 扱いを受けた販売店も出てきており, また, X社の取引先販売店の間では, X社から不利な扱いを 受けた販売店があるとの情報が流布している。 このため, 販売店の中には, X社との取引上不利に なることを恐れて, ユーザーに対するY社の甲製品の積極的な推奨を取りやめるものが出てきてお り, Y社の甲製品の取扱いを検討していたX社の取引先販売店の中には, Y社の甲製品の取扱いを 断念したものもある。 次に, X社は, 措置1と並行して, 特約店制度を利用した措置を採ることとし, 令和2年10月 から, X社の甲製品を取り扱う特約店に対し, ユーザーに対して専らX社の甲製品を推奨すること を約束する場合には, X社の甲製品の販売台数の増加率に応じて家庭用電動器具全体の仕入額を計 算基礎とする累進的なリベートを供与する旨提案し, これを実施し始めた。 そして, X社は, 特約 - 14 - 店における上記の約束の履行状況を確認するために, 自社の従業員又は第三者による特約店のモニ タリングを実施し, 必要に応じ, 上記の約束を履行していない特約店に対する指導を行っており, 改善されない場合には, リベートを供与しないだけでなく, 特約店に対する販売促進や技術面での 支援策を削減する旨通告している(以上の措置を以下「措置2」という。 )。 令和2年12月末時 点では, X社の甲製品を取り扱う特約店の約半数が上記の約束をしており, 措置2により, Y社に よる新たな取引先販売店の獲得に懸念が生じている。 〔設問1〕 X社による措置1及び措置2のそれぞれについて, 独占禁止法に違反するか検討しなさい。 〔設問2〕 問題文に加えて, 令和3年5月時点で以下の事情が認められる場合に, X社による措置1及び 措置2の全体について, 独占禁止法に違反するか検討しなさい。 X社の甲製品を取り扱う特約店のうち, 専らX社の甲製品の推奨を約束しているものは, 約7 0パーセントに達している。 また, Y社, A社及びB社の甲製品の販売台数にかなりの影響が出 ており, その結果, X社の甲製品のシェアは, 令和3年第1四半期(令和3年1月から同年3月 まで)において60パーセントに達した。 さらに, Y社の甲製品を積極的に推奨する販売店が少 なくなり, また, Y社の甲製品を取り扱う販売店が増えていないことから, 甲製品の価格水準は, 従来どおり安定した状態にある。 - 15 - - 16 - 論文式試験問題集[知的財産法] - 17 - [知的財産法] 〔第1問〕(配点:50) Xは, 腹壁と胃壁を縫合糸で固定する施術(胃壁固定術)に用いられる「医療用器具」(以下 「X発明」という。 )について特許権(以下「X特許権」という。 )を有している。 X発明は, 腹 壁と胃壁の縫合を短時間に迅速かつ確実に行うという課題を解決するために, 縫合糸を挿入するた めの針と, これとほぼ平行に設けられた縫合糸を保持するための針とを固定部材により固定する構 成(以下「構成要件α」という。 )を採用し, 2本の針を一体化させ, 同時穿刺(注)可能な構造 としたことを技術的特徴の一つとする。 Xは, X発明の実施品である医療用器具(以下「X製品」という。 )を製造し, 販売している。 以上の事実関係を前提として, 以下の設問に答えなさい。 なお, 各設問はそれぞれ独立したもの であり, 相互に関係はないものとする。 (注)「穿刺」とは, 体外から体腔内, 血管内, 臓器内に針を刺し入れることをいう。 〔設 問〕 1.Xは, X発明の特許出願時に, その特許請求の範囲において, 構成要件αの針を金属製の針 と記載していたが, 当該特許出願の願書に添付した明細書には, 針の材質に関して, その他の 硬い針を用いてもよいことが記載されていた。 X特許権については, 特許出願から設定登録ま での間に補正がされていない。 Aは, 樹脂製の針を使用した医療用器具(以下「A製品」という。 )を製造し, 販売してい る。 A製品は, 樹脂製の針を用いている点を除き, X発明の構成要件を全て充足する。 X発明 の特許出願時において, 樹脂製の針が硬い針であることは, X発明の属する技術の分野におけ る通常の知識を有する者にとって自明であり, また, 金属製の針に替えて樹脂製の針を用いて もX発明の作用効果を奏することは, それらの者が容易に想到することができたとする。 この 場合, Aの行為は, X特許権を侵害するかについて論じなさい。 2.Bは, 医療機関からX製品の使用済み品を入手し, X製品を分解し, 各部品を洗浄し, 再組 立てを行い, 滅菌処理を施した上で, 医療機関に販売している。 Bによるこれらの作業の過程 では, 部品交換は行われていない。 一方で, X製品の添付文書には, 「再使用禁止」と明記さ れている。 この場合, Bの行為は, X特許権を侵害するかについて論じなさい。 3.Cは, 胃壁固定術に用いられる医療用器具(以下「C製品」という。 )を製造し, 販売して いる。 C製品は, 縫合糸を挿入するための針と縫合糸を保持するための針より構成されており, 2本の針が固定部材によって一体化されていない点を除いて, X発明の構成要件を全て充足す る。 しかし, C製品は, 使用後, 2本の針をまとめて容易かつ安全に廃棄するために, 2本の 針を一体化して係止する機構(以下「一体化機構」という。 )を備えている。 C製品の一体化 機構は, 2本の針をまとめて廃棄するための仮止めにすぎないから, 2本の針を一体化機構に より係止した状態のC製品を一体化同時穿刺に使用すると, 穿刺する力が2本の針に均等に伝 わらず, 針先が曲がり, 臓器を損傷する危険性がある。 ゆえに, C製品の添付文書においても, 使用上の注意として, 「一体化させた状態で2本の針を同時に穿刺しないこと。 臓器の損傷, 誤穿刺や出血の危険性がある。 」との記載がなされている。 もっとも, C製品の2本の針を一 体化機構により係止し, さらに汎用クリップで留めると, 係合力が増し, 一体化同時穿刺を安 全に実施することが可能となる。 Xは, 第三者機関に依頼して, C製品の使用状況に関する調査を実施したところ, C製品の 使用経験がある医療機関におけるC製品の全使用症例数の3割の症例で汎用クリップを用いた 一体化同時穿刺が行われていることが判明した。 そこで, Xは, Cに対し, 上記調査の結果を - 18 - 摘示した上で, 一体化機構により係止し, 汎用クリップで留めた状態にあるC製品は, X発明 の技術的範囲に属するものであり, その製造, 販売はX特許権を侵害するものであるから, そ れらの行為を止めるように警告した。 しかし, CがC製品の製造, 販売を継続したため, Xは, Cに対し, 差止め及び損害賠償を求める訴訟を提起した。 Xは, C製品の製造及び販売の差止めを請求することができるかについて論じなさい。 Xは, Cがこれまでに販売したC製品の全数量を対象として特許法第102条第2項を用 いて損害額を算定し, 損害賠償を請求している。 仮にCの行為がX特許権を侵害するとした 場合, Xの請求に対するCの反論としてどのような主張が考えられるかについて論じなさい。 - 19 - 〔第2問〕(配点:50) 著名なタレントである甲は, 各種エンターテインメント事業を行う会社Aに所属している。 Aは, 甲をイラスト化した主人公が迷宮を脱出する内容のコンピュータ用ゲームソフト(以下「α」とい う。 )の制作を企画し, そのBGMに, 甲が歌唱する代表的な歌曲の楽曲部分(以下「β」とい う。 )を使用することにした。 βは, 作曲家である乙がかつてAに依頼されて作曲したものであり, 乙の著作の名義の下に公表 されたものである。 Aは, αの制作に先立ち, 乙との間で, βに係る著作権を全部譲り受ける旨の 契約を締結した。 当該契約においては, 著作権法第27条及び第28条に定める著作権も譲渡対象 として特掲されている。 その後, Aの従業員がαを完成させ, αはAの著作の名義の下に公表された。 Aは, αの複製物 の販売を開始した。 以上の事実関係を前提として, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.αの制作過程においては, 甲を簡略なイラストで表現する作業の参考に資するために, Aの 内部で甲の写真撮影が行われた。 撮影は, 当時Aの従業員であった丙が担当し, 丙は, デジタ ルカメラを用いて, 写真の構図, 採光, 露光, シャッタースピード等を調節して, 甲を撮影し た。 Aは, 当該写真とそのデータをαの開発部署の外に持ち出すことを禁じ, また, αの完成 後は, 直ちにそれらを廃棄することを命じていたが, Aを退職した丙は, その所有するUSB メモリーを用いて当該データを密かに自宅に持ち帰り, 不特定多数の者が閲覧できる丙のホー ムページ上で, 当該データを保有している旨及び当該写真を印刷したものの売却に応じる旨を 告知した。 Aは, 丙に対して, 著作権に基づいて, 当該写真の印刷及び譲渡の差止め並びに当 該データの廃棄を請求することができるかについて論じなさい。 2.Bは, 中古ゲームソフトの販売を行う会社であり, Aが販売したαの複製物を含む中古ゲー ムソフトを, 自社の店舗内で販売している。 Aは, Bに対して, αの複製物の販売の差止めを請求することができるかについて論じな さい。 Bは, 中古ゲームソフトの通常の販売に係るサービスと並行して, それとは異なるサービ スを「割賦販売サービス」と称して提供しているものとする。 当該サービスにおいては, B の商品である中古ゲームソフトの販売価格の一部に相当する金銭が「頭金」と呼ばれ, 客は 「頭金」を支払うことで, 直ちに商品の引渡しを受けることができ, 残額分は引渡しから1 週間後に支払えばよいとされていた。 また, 引渡しから6日以内であれば, 客は, 「頭金」 の払戻しを受けることはできないが, 商品を自由に返品することができ, 残額分の支払を免 れることもできた。 Aは, Bに対して, αの複製物について当該サービスを提供することの 差止めを請求することができるかについて論じなさい。 3.数年後, Aは, αの続編に当たるコンピュータ用ゲームソフトの制作を決定し, βを編曲し たものを, そのBGMとして使用することにした。 Aは, 作曲家である丁にβの編曲を依頼し, 丁は, もともと落ち着いた曲調であったβをビートの効いたテンポの速い曲調に編曲したβ’ を作成した。 当該編曲の事実を知った乙は, 丁に対して, 乙の同一性保持権の侵害を理由とす る損害賠償を請求している。 乙の請求に対する丁の反論として, どのような主張が考えられる かについて論じなさい。 - 20 - 論文式試験問題集[労 - 21 - 働 法] [労 働 法] 〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで, 後記の設問に答えなさい。 【事 例】 有料職業紹介事業を営むY社は, 本社と事業所が一体となった事業場1か所のみで, 労働者6人 を使用して事業を行っていた。 Y社と無期労働契約を締結して雇用されているX1は, 時間外・休日労働の時間数が1か月当た り60時間を超える状態が続く中で, Y社社長のAから, 午後8時以降は会社内で勤務しないよう にとの通告を受けた。 そこでX1は, やむを得ず, 求職者の個人情報等の機密情報が記録された記 憶媒体(以下「媒体」という。 )を, Y社の許可を得ることなく自宅に持ち帰り, 自宅で深夜まで 残務処理を行うようになった。 そのような状況が続いたある日, X1は, 会社から帰宅する電車の 中でうたた寝をしてしまい, 媒体の入った鞄を紛失した。 X1は, 翌朝出勤してすぐに, Aに媒体 を紛失した経緯を説明した。 AとX1は, 媒体に個人情報が記録されていた求職者160人と連絡 を取り, 媒体紛失の経緯を説明して謝罪した。 Y社は, これらの求職者160人に対し, お詫びの 品として金券3000円相当をそれぞれ送付した。 Y社は, 就業規則を作成していなかったが, 各労働者との間で労働契約を締結する際に, 後記の 労働契約書を手交し, 各労働者の署名・押印を得ていた。 Y社は, X1の前記の媒体紛失行為が労 働契約書第18条第3号, 第4号及び第10号記載の懲戒事由に該当するとして, X1に弁明の機 会を与えることなく, 同第19条に基づき, X1を7日間の出勤停止処分とした。 また, Y社は, 前記の媒体紛失行為によるY社の損害額を48万円とし, X1に対して48万円の損害を賠償する よう請求した。 その後Y社は, 他の大手企業に顧客の多くを奪われていく中で, 売上げが3年連続で低下し, 労 働者6人を雇用し続けることが難しい状況となった。 そこでAは, 「会社の経営方針を正しく理解 し, 経営改革に柔軟に対応してくれる人材」の雇用を継続し, これに該当しない者2人を解雇する との方針を立てて, Y社の労働者全員が出席する朝礼の場で, この方針を説明した。 このAからの 説明に対し, 労働者からは特段意見や質問は出なかった。 そこでAは, この方針に基づいて被解雇 者を決定することとし, 全労働者6人の中から, これまでの勤務態度に照らし, 会社への協調性や 柔軟性に欠ける傾向にあると評価したX2及びX3の2人を選定した(会社の経営方針に協力的で あると評価していたX1は, 被解雇者に選定しなかった)。 Aは, X2及びX3に対し, 被解雇者 に選定されたことを説明し, 30日の予告期間を置いて, 両名を解雇した。 なお, Y社と各労働者 との間で締結された労働契約書には, 解雇に関する定めはない。 【労働契約書(抜粋)】 第18条 1, 2 従業員が次の各号の一に該当する場合は, 第19条の定めるところに従い, 懲戒を行う。 (略) 3 会社の許可なく, 会社の物品や機密情報を持ち出したとき。 4 不正な行為により, 会社の名誉・信用を毀損し, 又は, 会社に損害を与えたとき。 5〜9 10 (略) 前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき。 第19条 懲戒は, けん責, 減給, 出勤停止(14日間を限度とし, 無給とする), 諭旨退職, 懲戒 解雇の5種類とし, 会社は情状に応じて処分を決定する。 - 22 - 〔設 問〕 1.Y社がX1に対して行った出勤停止処分は有効か。 検討すべき法律上の論点を挙げて, あなた の見解を述べなさい。 2.Y社からX1への損害賠償請求は認められるか。 検討すべき法律上の論点を挙げて, あなたの 見解を述べなさい。 3.Y社がX2及びX3に対して行った解雇は有効か。 検討すべき法律上の論点を挙げて, あなた の見解を述べなさい。 - 23 - 〔第2問〕(配点:50) 次の事例を読んで, 後記の設問に答えなさい。 【事 1 例】 合板等の製造等を業とするY社は, 本社工場と3つの支工場を有し, その従業員の約8割がA 労働組合に加入していた。 同組合には, 本社工場に事務局を置く組合本部とは別に支工場ごとに 組合支部が置かれていたが, 各支部は, 同組合の下部機構であって, 各支工場に特有の問題につ いては工場協議会を開催して工場側と折衝して処理するなどしていたものの, 組合本部とは独立 してY社と団体交渉をしたり, 労働協約を締結したりする権限はなかった。 Xは, Y社F支工場 従業員であり, A労働組合F支部長である。 2 令和2年1月20日, Y社T支工場において原料木粉の粉塵爆発と思われる事故が発生し, 従 業員1人が死亡したほか複数の者が負傷した。 労働基準監督官等の調査によっても事故原因の特 定には至らなかったが, 爆発の中心地点にあったM社製機械が着火源になった可能性が調査の過 程で指摘され, そのことがM社製の同型同年式の機械を使用していたF支工場従業員を著しく動 揺させた。 その結果, 生命の危険があるなどとして同機械による作業を拒否する者が現れ, 一部 の従業員が繁忙期を乗り越えるためにやむなく集中的にこの作業を受け持つという状況が生じた。 同年2月3日, F支工場製造部長であるBは, この状況を解消すべく, F支工場の工場長であ るWに対し, 「安心して働ける環境の回復のため, M社製機械を全て廃棄し, L社製の同等品を 導入すべきである」旨, 意見を具申した。 Bは, かつて組合員であったが, 創業者である代表取 締役Zに管理能力を買われて現職に昇進し, 人事権を有する管理職となるに伴い, 非組合員とな っていた。 Wは, Zの三男であって長く経理部門の要職を務め, 工場勤務の経験はないものの, 製造部門 の経費率が特に高いF支工場の経営見直しのため, Zの判断で工場長に任命されていた。 Wは, M社製機械を事故の原因とする科学的根拠が乏しい中で「安心」のために設備更新をするという コスト意識を欠く提案をするBに憤りを覚え, Bに「お前らは, ありもしない亡霊を仕立てて, 金がかかることばかり考える。 機械にケチをつける暇があったら危険予測活動を徹底しろ。 親父 はかわいがっていたようだが, お前はもうだめだな。 」と言って罵倒した。 かねてWの工場運営方針に不満を覚えていたBは, 激高してWの胸ぐらにつかみかかり, 周囲 にいた製造部の従業員に制止されながらもなおWに罵声を浴びせた。 Wは, 暴行についての謝罪 と機械の更新をしない方針に従うことをBに指示したが, Bは返事をしなかった。 Wから事態の 報告を受けたY社は, Bには後記の就業規則第59条第5号及び第6号の懲戒事由があり, その 情状は極めて重いとし, Bに同規則所定の弁明の機会を与えた上で, 同年3月2日, Bに対して 同年4月2日付けで懲戒解雇する旨を予告し, 同日, 同人を懲戒解雇した。 3 Xは, Bの懲戒解雇は, 人命を軽視するWの策動による不当なものであるというにとどまらず, 組合員がどれだけ会社の発展に身を捧げ, 管理職に栄進したとしても, 創業家の一存で解雇され 得ることを示すものであり, 放置すれば組合員の将来に希望はないと考えた。 そこでXは, F支 部の幹部数人と協議の上, Bの懲戒解雇の撤回を本社に上申するようWに要求し, これが拒否さ れた場合にはF支部組合員15人(製造ライン従業員の約8割)が示威的に一斉に早退し, 罷業 に入るという計画を立てた。 Xは, この計画を組合本部のP書記長に電話で伝達したが, Pは, Bの懲戒解雇に対しては厳 重に抗議すべきであるとしつつ, 要求が拒否された場合に組合員が一斉に早退して罷業する行動 にまで及ぶのは時期尚早であり, 相当ではないと返答した。 しかしながら, Xは, 交渉が長期化 すれば不当な前例が既成事実化しかねないことを懸念し, 組合本部の了承を得ないまま, F支部 組合員にはそのことを秘して, 計画を実行に移すこととした。 4 同年4月13日午前10時頃, Xは, F支部組合員10人を引き連れて工場長室前に赴き, 同 - 24 - 室の扉を激しくノックして「工場長!B部長の解雇の件でお願いしたいことがある。 」と叫んだ。 Wは, 管理職であったBの懲戒解雇について組合と話すことはないと考え, 返事もせずに無視し た。 Xは, さらに激しくノックしながら, 「工場長!組合としてB部長の懲戒解雇の撤回を要求 する。 聞こえないのか。 現場を分かっているのはあんたじゃない。 B部長だ。 そのB部長をクビ にして俺たちを爆弾のそばで働かせ, 浮いた経費で飲む洋酒はそんなにうまいか!」と大声で言 い放った。 Xは, Wがなおも返事をしないことから, 同行した組合員に「この野郎は俺たちが大 人しく作業をしているうちは動く気はない。 こんなところでワイワイ言っても無駄だ。 聞く気が ないなら俺たちも作業を放棄せざるを得ない。 B部長が戻り, 怯えて働かずに済むようになるま で, 組合は断固戦う。 」などと言ってあおり, 工場長室前を立ち去った。 F支部組合員は, 支部 長の指揮によるものである以上本部が了解した方針であるものと誤信しつつも, Y社の対応やW の態度に憤りを覚え, Xに賛同し, 同日午前11時30分頃, 全員がXと共に早退届を提出して F支工場から立ち去った。 同日から始まった同盟罷業は, 組合本部の仲介により要求事項の実現を見ないまま同月21日 に終了したが, その間, F支工場の製造部門の操業が完全に停止したため, Y社は, 生産予定で あった全製品について納期を守ることができず, その後取引先から債務不履行責任を問われるな どの事態となった。 また, Xは, 罷業期間中, 世論を味方に付けるため, F支部名義の情報宣伝活動用アカウント でインターネット上に「創業家の横暴・人命を無視した搾取の実態」などと題したY社経営陣を 批判する投稿をしたり, Y社製品の不買を呼び掛ける投稿をしたりした。 これらの投稿の大部分 は, 事実を誇張してY社を攻撃・中傷する過激なものであり, それがインターネット上で注目を 集めた結果, これに呼応してY社を批判する匿名の投稿が爆発的に増加するとともに, これらの 投稿の内容や騒動の経過が全国放送のテレビ番組で取り上げられ, それが更に反響を拡大させ, 本社に抗議の電話が殺到するなどした。 5 Y社は, X自身が罷業期間中一切出勤せず, 組合本部の了解も得ずにF支部組合員を扇動し, 罷業させた行為は就業規則第59条第1号, 第4号及び第6号から第8号までの懲戒事由に, ま た, Y社を誹謗中傷する, 事実に基づかない内容の投稿を拡散させ, 本社への抗議の電話を殺到 させた行為は同条第4号及び第6号から第8号までの懲戒事由に, それぞれ該当し, いずれも情 状は極めて重いとし, Xに同規則所定の弁明の機会を与えた上で, 同年6月1日, Xに対して同 年7月3日付けで懲戒解雇する旨を予告し, 同日, 同人を懲戒解雇した。 【Y社就業規則(抜粋)】 第59条 従業員が次のいずれかに該当するときは, 情状に応じ, 訓戒, けん責, 減給, 出勤停止, 降格, 諭旨退職, 懲戒解雇に処する。 1 正当な理由なく, 無断で3日以上欠勤し, 出勤の督促に応じなかったとき。 2, 3 (略) 4 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。 5 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い, その犯罪事実が明らかとな ったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。 )。 6 勤務怠慢, 素行不良又は会社の秩序又は風紀を乱したとき。 7 他の従業員の業務を妨害したとき。 8 私生活上の非違行為や会社に対する誹謗中傷等によって会社の名誉・信用を傷つけ, 業務に重大 な悪影響を及ぼすような行為があったとき。 9 その他前各号に準ずる程度の行為があったとき。 第60条 前条の規定により懲戒を行うときは, 当該従業員に対し, 事前に弁明の機会を与える。 - 25 - 〔設 問〕 Y社がXに対して行った懲戒解雇は有効か。 検討すべき法律上の論点を挙げて, あなたの見解を 述べなさい。 - 26 - 論文式試験問題集[環 - 27 - 境 法] [環 境 法] 〔第1問〕(配点:50) A県は, 輸送量の増加に伴う渋滞緩和のため, A県内に6車線の一般国道(以下「本件国道」と いう。 )の新設を計画している。 本件国道の新設事業は, 環境影響評価法の第一種事業に該当する ものであったため, A県は, 同法に基づく環境影響評価を実施し, 国土交通大臣に対し, 法令上必 要とされる道路法第74条に基づく認可(以下「本件認可」という。 )を申請中である。 A県は, 計画段階環境配慮書において, 道路の位置について, 費用対効果が高いという理由でP ルートを設定した。 Pルート上のB地区には, A県の固有種で, 絶滅危惧種の植物Qの稀少な群生 地が存在していたが, 道路の新設中止や別ルート設定の検討はなされなかった。 計画段階環境配慮書に対し, B地区に居住し, 長年Qの研究・保護活動をしているC, 及びA県 に拠点を置く自然保護団体である特定非営利活動法人Dは, 「輸送量の増加は僅かであるため, 国 道の新設自体が不要で財政上の無駄である。 」, 「Qを保護するため, 少なくとも別ルートの検討 をすべきである。 」との意見書をA県に提出した。 しかし, A県は, 環境影響評価準備書において Qの一部を別の場所に移植する旨を記載するにとどまった。 これに対し, C及びDは, 「Qの移植 が成功した例はなく, 環境保全措置が不十分である。 」との意見書を提出したが, 環境影響評価書 にはこの点に関するA県の見解は記載されていなかった。 環境影響評価書作成後に, A県がQの移 植実験を行ったところ, 全株が消滅した。 また, Pルート上には密集市街地のE地区も含まれており, E地区の住民Fらは, 計画段階環境 配慮書, 環境影響評価方法書及び環境影響評価準備書について, 「E地区の近くにはG社の石炭火 力発電所があり, 同発電所による環境負荷との複合影響を検討すべきである。 本件国道の供用によ り, 環境基準を超える浮遊粒子状物質(SPM)及び騒音による健康被害や生活環境被害が生じる 蓋然性が高く, 少なくともE地区についてはトンネル化し, 換気所にSPM除去装置を設置すべき である。 」との意見書をA県に提出した。 環境影響評価準備書及び環境影響評価書には「本件事業 により環境基準を超えるSPMや騒音が発生するおそれはない。 」と記載されていたが, A県に対 するFらの情報公開請求により, SPMに関する予測データの一部が改ざんされていたことが明ら かになった。 〔設問1〕 C, D及びFらは, 前記の環境影響評価手続には瑕疵があり, また, 環境影響評価法及び 【資料】に照らし, 国土交通大臣が本件認可をすることは違法であると考えている。 本件認可 が違法であることの論拠としては, どのようなことが考えられるか, 説明しなさい。 C及びDは, 本件国道の新設を阻止するために, どのような行政訴訟を提起することが考え られるか。 の検討も踏まえて論じなさい。 〔設問2〕 環境大臣は, 環境影響評価法の下で, 2015年以来, 複数の石炭火力発電所の設置に関して 意見表明をした。 その内容は, 事業者の対応は国の地球温暖化対策の2030年度目標と整合し ないため「現段階で是認できない。 」とするものであった。 このことを重要な契機として, 20 16年にエネルギー関連の法律の仕組みが, 温暖化対策に資するように改正された。 この改正経 緯には, 環境影響評価法の2011年改正が相当程度影響したといわれる。 環境影響評価法のど の点の改正か, 同法の規定を挙げた上で, 改正の趣旨と効果を述べなさい。 〔設問3〕 C, D及びFらは, 生物多様性への影響や複数の汚染源による複合影響について適正な環境配 - 28 - 慮を行うためには, 現在の計画段階環境配慮書制度のみでは限界があり, 環境基本法第19条を 具体化するために新たな制度の導入が必要であると感じている。 ここでいう現行制度の限界及び 新たに導入すべき制度として, 具体的にどのようなことが考えられるか, 説明しなさい。 〔設問4〕 本件国道が設置された後, E地区における大気中のSPMの濃度は環境基準を超え, その後F らは呼吸器系疾患に悩まされるようになった。 これについては, 本件国道に起因するSPMとG 社の石炭火力発電所から排出されてきたSPMその他の大気汚染物質との競合の可能性も指摘さ れている。 Fらは, @誰に対して, いかなる規定に基づいて損害賠償請求ができるか。 また, A 請求する場合, いかなる点を主張立証しなければならないか, 説明しなさい。 なお, 本件国道の道路管理者は, A県とする。 また, 国に対する請求は考慮しなくてよい。 - 29 - 【資 ○ 料】 環境影響評価法施行令(平成9年政令第346号)(抜粋) (第一種事業) 第1条 環境影響評価法(以下「法」という。 )第2条第2項の政令で定める事業は, 別表第一の第 一欄に掲げる事業の種類ごとにそれぞれ同表の第二欄に掲げる要件に該当する一の事業とする。 (以下, 略) (免許等に係る法律の規定) 第3条 法第2条第2項第2号イの法律の規定であって政令で定めるものは, 別表第一の第一欄に掲 げる事業の種類(第二欄及び第三欄に掲げる事業の種類の細分を含む。 )ごとにそれぞれ同表の第 四欄に掲げるとおりとする。 (環境の保全の配慮についての審査等に係る法律の規定) 第19条 法第33条第2項各号の法律の規定であって政令で定めるものは, 別表第四に掲げるとお りとする。 別表第一(第1条, 第3条, 第7条関係)(抜粋) 第一欄 1 事業の種類 法第2条第2項第1号イに掲げる事業の種類 第二欄 ホ 第一種事業の要件 道路法(昭和27年法律第180号)第5条第1項に規定する道路(首都高速道路等である ものを除く。 以下「一般国道」という。 )の新設の事業(車線の数が4以上であり, かつ, 長 さが10キロメートル以上である道路を設けるものに限る。 ) 第四欄 法律の規定 事業主体が国土交通大臣以外の者である場合につき, 道路法第74条(以下, 略) 別表第四(第19条関係)(抜粋) 三 法第33条第2項第3号の法律の規定であって政令で定めるもの 道路法第74条(前後, 略) ○ 道路事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査, 予測及び評価を合理的に行うた めの手法を選定するための指針, 環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令(平成10 年建設省令第10号)(抜粋) (位置等に関する複数案の設定) 第3条 第一種道路事業を実施しようとする者は, 第一種道路事業に係る計画段階配慮事項について の検討に当たっては, 第一種道路事業が実施されるべき区域の位置又は第一種道路事業の規模に関 する複数の案(以下「位置等に関する複数案」という。 )を適切に設定するものとし, 当該複数の 案を設定しない場合は, その理由を明らかにするものとする。 2 第一種道路事業を実施しようとする者は, 前項の規定による位置等に関する複数案の設定に当た っては, 既存の道路を活用する場合その他第一種道路事業を実施しないこととする案を含めた検討 を行うことが合理的であると認められる場合には, 当該案を含めるよう努めるものとする。 ○ 道路法(昭和27年法律第180号)(抜粋) (国土交通大臣の認可) 第74条 指定区間外の国道の道路管理者は, 当該国道を新設し, 又は改築しようとする場合におい ては, 国土交通省令で定めるところにより, 国土交通大臣の認可を受けなければならない。 (以下, 略) - 30 - ○ 道路法施行規則(昭和27年建設省令第25号)(抜粋) (指定区間外の国道の新設又は改築の認可) 第7条 指定区間外の国道の道路管理者は, 法第74条の規定により国道の新設又は改築について認 可を受けようとする場合においては, 別記様式第九の申請書を地方整備局長又は北海道開発局長に 提出しなければならない。 2 前項の申請書には, 次に掲げる書類を添付しなければならない。 一 工事計画書 二 工事費及び財源調書 三 平面図, 縦断図, 横断定規図その他必要な図面 - 31 - 〔第2問〕(配点:50) 建設業を営み, P県知事から, 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。 ) に基づく産業廃棄物の収集運搬業及び処分業の許可を受けているA社は, 総合建設業を営むB社か ら, B社が元請業者(同法第21条の3第1項にいう「元請業者」である。 )となる甲病院新築工 事のうち, 下請負人として, 基礎工事の施工を受注した。 A社は, 同工事において地下を掘削した ところ, 予定地に従前建っていた建物の地中梁が残っていることを発見した。 A社は, B社との間 で, 別途, 地中梁を破砕して解体する処理について, 書面による委託契約を締結し, その際, B社 は, この処理によって発生するコンクリート破片の標準的な処理費用の3分の1を負担することと された。 A社は, 上記により発生したコンクリート破片の処理を, P県知事から, 廃掃法に基づく産業廃 棄物の収集運搬業及び処分業の許可を受けているC社に対し, 書面により再委託し, その費用を支 払った(この再委託は, 同法第14条第16項ただし書の適用により, 同項本文が規定する再委託 の禁止に抵触しないものとする。 )。 C社は, 上記コンクリート破片を, 甲病院新築工事現場から 搬出し, 乙地区の住宅地に接するC社所有の山林に運搬して, 何らの囲いをせず, 産業廃棄物処理 基準に違反する状態で野積みした。 その結果, 野積みされた上記コンクリート破片が乙地区の住宅 地へ崩れる危険が発生した。 その後, C社の経営状況は悪化した。 なお, 上記の経緯において, 産業廃棄物管理票は, 適法に作成・交付されていたこととする。 本件設例に表れた事実関係及び【資料】に基づき, 以下の設問に答えなさい。 なお, 設問はいず れも独立したものである。 〔設問1〕 本件設例において, P県知事は, C社に対する産業廃棄物の収集運搬業及び処分業の許可の 取消しをしない場合, 廃掃法上, @B社及びC社に対し, どのような理由で, どのような措置 を講ずることができるか, A上記@の措置を講ずる前に, 乙地区の住宅地へ前記コンクリート 破片の小規模な崩落が生じ始め, その拡大の兆候が現れていた場合に, どのような措置が考え られるか, それぞれ説明しなさい。 なお, 上記@及びAの検討に当たっては, 廃掃法第21条の3第1項によりB社のみを「事 業者」とすればよく, 同条第2項ないし第4項の適用については, 検討を要しない。 本件設例において, P県知事は, C社に対する産業廃棄物の収集運搬業及び処分業の許可の 取消しをした場合, その後, 廃掃法上, C社に対し, どのような理由で, どのような措置を講 ずることができるか, 説明しなさい。 〔設問2〕 乙地区に土地建物を所有し, そこに以前から居住するDは, C社及びP県に対して, どのよう な法的請求が可能か, 論じなさい。 - 32 - 【資 ○ 料】 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号)(抜粋) (産業廃棄物) 第2条 法第2条第4項第1号の政令で定める廃棄物は, 次のとおりとする。 一〜八 九 (略) 工作物の新築, 改築又は除去に伴つて生じたコンクリートの破片その他これに類する不要物 (以下, 略) - 33 - - 34 - 論文式試験問題集[国際関係法(公法系)] - 35 - [国際関係法(公法系)] 〔第1問〕(配点:50) A国とB国は, 南米大陸に所在して隣り合う2つの国である。 A国の一部を構成し, B国との国 境に接して位置するP県では, A国全体の人口の約8割を占めるα民族とは異なるβ民族がP県人 口の約9割を占めていることから, β民族が中心となって自治政府を形成しP県の統治を約50年 にわたり行っていた。 その間, P県ではA国にとって主要な輸出品である石油及び天然ガスが産出 されてきたが, その生産量, 石油製品の卸価格及び天然ガスの卸価格等はP県自治政府ではなくA 国政府が決定している。 β民族の多くは, これら天然資源の産出によるA国財政への貢献にもかか わらず, P県自治政府に配分される予算については人口一人当たりの額がA国内の他の県と比較す ると半分に満たないことに不満を持ち, A国政府にP県内の資源が搾取されていると考えた住民の 一部は「P国独立運動」を立ち上げ, 「P国」の独立に向けて武装闘争を行っていた。 こうした不 満を背景に, P県自治政府は, 予算配分の不平等が民族差別に起因するとして, A国政府に再三再 四是正を求めてきた。 さらにP県自治政府は, A国全体の人口の約2割を占めるβ民族の意思を国 政レベルに反映させるため, A国の議会においてβ民族が恒常的にかつ公正に代表されるべきこと も主張してきた。 また, P県自治政府は, A国の議会選挙ではこれまで少数派のβ民族の議員が当 選することがほとんどなかった現状を改め, 具体的な改革案として, 同議会の議員定員の2割に当 たる20名をβ民族の議員枠として確保するようA国政府に申し入れてきたのである。 しかし, こうした要求や申入れは, 民族差別の存在自体を否定するA国政府に聴き入れられるこ とはなく, 状況が改善されることもなかった。 さらにA国政府が「P国独立運動」の指導者を逮捕 する行動に出たところ, P県の主要都市はA国政府を批判する群衆で騒乱状態となったため, A国 政府は, P県一帯に非常事態宣言を発してP県の自治を終了させるとともに, 治安部隊によりデモ に参加する民衆を徹底的に取り締まった。 このA国政府の弾圧は1年以上続き, P県ではβ民族を 中心に200名以上の死傷者が生じたほか, 身柄を拘束された者の数は数千名以上に上った。 こう した状況を前にして, P県自治政府は, A国からの独立か, それともA国に残るか, そのいずれを 選択するかについて住民投票を行うことに決め, 2015年3月にこれを実施した。 その結果, 約 9割のP県住民がA国からの独立に賛成したことから, 投票結果が発表されて約1か月後の201 5年5月1日に, P県自治政府は「P国」としてA国からの独立を宣言した。 A国政府はP県による独立宣言に対して嫌悪感を示し, 「P国」を国家として承認することなく, 「P県は依然としてA国の領域の一部である。 」との声明を公表した。 他方, B国は, 「P国」が 独立を宣言すると, その2週間後に, 「P国」との間で互いの首都に大使館を設置し外交使節を派 遣した。 これに対して, A国は, 「今回のB国による行為はA国への内政干渉である。 」としてB 国を非難した。 「P国」の独立宣言でA国内が騒然とする中, A国籍の甲がA国警察の追及を避けるために在A 国のB国大使館に逃げ込んだ。 甲は, 「P国独立運動」の指導者の一人で, A国内においてA国政 府の施設やA国政府を支援する企業の建物を爆破しA国政府要人を暗殺するなどの武装闘争に従事 していた。 A国は, 甲につきA国刑法上の殺人罪等の容疑で指名手配をしており, 甲が在A国のB 国大使館に逃げ込んだ情報をつかんで, B国に甲の引渡しを正式に請求した。 ところがB国はこの 請求に何ら応答せず, また甲をB国大使館から強制的に退去させることもなかった。 このため, A 国は, B国大使館の周囲でそれまで行っていた警備活動を放棄するとともに, A国の民間警備会社 乙に対して, その職員5名をB国大使館に差し向けるよう指示した。 これら職員は, 在A国のB国 大使の許可なくB国大使館内に侵入して甲の身柄を確保することを試みたが, その試みはB国大使 館の警備職員によって阻止された。 その後, B国は, この事件がA国の行為に起因するものである としてA国に対して外交上の抗議を行ったが, A国は問題のB国大使館への侵入行為がA国による 行為であることを否定した。 - 36 - 南米諸国であるA国及びB国は, 外交関係に関するウィーン条約について, いずれもその効力発 生日(1964年4月24日)から当事国となっているが, 犯罪人引渡条約は締結していない。 以上の事実を基に, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.B国の行為は内政干渉だとして非難するA国に対して, これに反論するB国の立場とその国 際法上の根拠について論じなさい。 2.B国は, 甲を在A国のB国大使館に滞在させたままにしておくことについて国際法上の義務 に違反せず, またA国に甲を引き渡す国際法上の義務を負わないという立場から, これらの主 張を正当化するためにいかなる議論が可能かについて論じなさい。 3.民間警備会社乙の職員による在A国のB国大使館への侵入行為について, B国はA国の国家 責任を追及するためにいかなる主張が可能かについて論じなさい。 - 37 - 〔第2問〕(配点:50) A国とB国は, 隣接する国家である。 両国は共に太平洋に面した海岸線を有しており, 両国の国 境を成すサール川が太平洋に注いでいる。 植民地統治時代, A国は「A行政区」, B国は「B行政 区」として, C国により統治されていた。 A国は1967年, B国は1978年に独立を達成した。 植民地統治時代のC国植民地法令によれば, 「A行政区」と「B行政区」の境界はサール川の航 行可能な水路の中間線であるとされていた。 もっとも, サール川には多くの中洲があり, 2つの行 政区の境界は明確ではなかった。 特にサール川が太平洋に注ぐ地点に位置する, 約3.5平方キロ メートルの広さのサールーガ島周辺は, 植民地統治時代には, 「A行政区」側と「B行政区」側の 両方の水路が航行可能であり, 両行政区の境界がサールーガ島のどちらの側にあるのかは明確では なく, C国植民地法令にも明文の規定がなかった。 また, 同法令には, サールーガ島の帰属につい ても, 明確な規定が置かれていなかった。 ただし, 現在のB国に当たる河岸の住民は, 伝統的にサ ールーガ島を放牧と農業に利用しており, この住民たちのサールーガ島での活動に対する課税権は, 植民地統治時代, 「B行政区」の当局が管轄し, B国の独立後は, B国がこれを行使するようにな った。 A国が独立した際, A国と「B行政区」の境界は, A国とC国の間で決定されたが, サールーガ 島の帰属とその周辺の国境については, 「B行政区」が国家として独立を達成した後に, 当該国家 とA国との間で決定されることになった。 1980年, A国とB国は, サールーガ島の帰属と周辺 の国境の画定のための交渉を開始したが, 交渉は難航した。 なお, 両国がこの交渉を開始した時点 では, サールーガ島のA国側の水路が浅くなり, 航行に適さなくなっていた。 1980年代半ば以降, A国でサール川及びサールーガ島の希少な動植物の生態系を中心とする 環境の保護への関心が高まった。 1987年, A国は軍隊と警察を派遣し, サールーガ島への人の 立入りを厳格に制限するようになり, B国の国民はここでの放牧や農業ができなくなった。 1970年代に, 国際的な科学者の団体がA国と「B行政区」の沖合の大陸棚の調査を行い, こ の海域の海底は, 地質的に1つの大陸棚を構成しており, この大陸棚に石油・天然ガス資源が賦存 している可能性が高いとの報告書を提出した。 1982年の海洋法に関する国際連合条約(以下 「国連海洋法条約」という。 )の採択後, A国は1992年, B国は1993年に, それぞれ同条 約を締結し, 領海, 排他的経済水域, 及び大陸棚に関する国内法を制定した。 A国法は, サール川 のB国側の水路の中間点から沖合に向かって, これらの海域を設定しているのに対し, B国法は, サール川のA国側の水路の中間点から沖合に向かって, これらの海域を設定している。 2005年12月, A国とB国は, サールーガ島の帰属と同島周辺の国境の画定に関する紛争を 国際司法裁判所に付託することについて合意し, 特別合意の締結のための交渉を開始した。 また, サールーガ島の帰属と同島周辺の国境に関する紛争の最終的な解決まで, 国連海洋法条約第74条 第3項及び第83条第3項に基づき, サール川の沖合の海域の石油・天然ガス資源の探査及び開発 を推進するための暫定的な取極を締結することに, 原則として合意した。 しかし, 特別合意の締結 のための両国間の交渉は難航し, 締結には至っていない。 また, 暫定的取極の具体的な内容と実施 に関する交渉も進展していない。 2010年5月, B国は, サールーガ島沖合の係争海域を含む, B国が自国の大陸棚であると主 張する海域の石油・天然ガス資源の探査を開始した。 その結果, A国が主張する境界線よりも更に 1キロメートルB国側に入った海域で石油・天然ガス資源が発見され, 2016年8月にB国の国 有企業が開発を開始した。 A国は, B国による探査及び開発の活動について, 暫定的取極の趣旨に 反すると外交上の抗議を行った。 2017年9月, A国は, サールーガ島沖合の係争海域を含む, A国が自国の大陸棚であると主 張している海域における石油・天然ガス資源の探査及び開発に関する認可を甲社に与え, 同社が海 洋調査船X号(A国船籍)による探査を開始した。 2018年9月, サールーガ島沖合のA国とB 国との間の係争海域において探査を実施していたX号に対し, B国の沿岸警備隊が, B国の大陸棚 - 38 - の資源の探査活動を即時に停止し, 当該海域から立ち去るよう命令した。 X号は, 資源探査に関し てA国から認可を受けていると返信し, 探査を続けたところ, B国の沿岸警備隊の船舶から発砲を 受けた。 そのうちの2発がX号に当たり, 負傷者が出たことから, X号はこの発砲の後, A国の港 湾に避難した。 B国は, この発砲は威嚇射撃であったとの声明を出した。 A国はB国に対し, この 発砲事件について外交上の抗議を行った。 また, A国は紛争の解決のための交渉を速やかに開始し, 交渉により紛争が解決できない場合, 第三者機関にこれを付託すべきであるとしたが, B国は協議 に応じていない。 これを受けて, A国は国連海洋法条約第15部に基づき, 附属書Zによって組織 される仲裁裁判所に, この紛争を付託する旨の通告をB国に送付した。 なお, A国とB国は, 国連海洋法条約第287条第1項の下での紛争解決のための手段を選択す る宣言, 及び第298条第1項に基づく宣言(第二節の規定の適用からの選択的除外に関する宣 言)を行っていない。 以上の事実を基に, 以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.B国がA国に対し, サールーガ島からの軍隊と警察の撤退を請求するために, 国際法上どの ような主張が可能かを論じなさい。 2.B国が, 2010年5月からの石油・天然ガス資源の探査, 及び2016年8月からの開発 を正当化するために, 国際法上どのような主張が可能かを論じなさい。 3.A国が, 国連海洋法条約附属書Zによって組織される仲裁裁判所にB国の沿岸警備隊による 発砲事件に関する紛争を付託することが可能か, 及び, これが可能な場合, 沿岸警備隊の発砲 の違法性について, 国際法上どのような主張が可能かを論じなさい。 - 39 - - 40 - 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)] - 41 - [国際関係法(私法系)] 〔第1問〕(配点:50) 甲国籍のA男は甲国において甲国籍のB女と適法に婚姻し, 甲国で婚姻生活を営んでいたが, や がてABは別居し, 婚姻は事実上破綻状態にあった。 AはBを甲国に残したまま10年前(201 1年)に仕事のため単身で来日し, 以後現在まで日本に居住している。 Aは, 6年前(2015 年)に, 出生以来, 日本に居住する日本及び甲国の重国籍者であるC女と日本で知り合った。 以上の事実を前提として, 以下の設問に答えなさい。 なお, 各問は独立した問いであり, 全ての 問いにおいて, 反致については検討を要しない。 〔設問1〕 AとC(現時点まで, Cは国籍法第14条の国籍の選択をしていないものとする。 )は, 5年 前(2016年), 日本の戸籍管掌者に婚姻の届出をした。 その際, Aは, 独身であるかのよう に装うため, 婚姻届に添付する書類として, 甲国に妻のいることの記載がない偽造の甲国官憲作 成名義の書類を使用した。 婚姻届が受理された後, AとCは現在までずっと日本で婚姻生活を営 んでおり, 2017年には子D(日本及び甲国の重国籍)が生まれた。 なお, 日本の国際私法の 観点からみて, AB間の婚姻は現在でも有効に成立していることを前提とする。 〔小問1〕 AC間の婚姻の事実を知ったBが2021年にAC間の婚姻無効の訴えを日本の裁判所に提 起した。 この訴えについて, 日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論 じなさい。 〔小問2〕 仮にBによる婚姻無効の訴えについて日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるものとし た場合に, Bによる婚姻無効の請求は認められるか。 甲国民法が以下に記すような規定を定め ていることに加え, 甲国民法の規定は配偶者のある甲国人が重ねて婚姻することを禁じている のみならず, 配偶者のいない甲国人が既婚者と婚姻することをも禁じているものとして, 準拠 法の決定過程を明らかにしつつ, 論じなさい。 【甲国民法】 @ 配偶者のある者は, 重ねて婚姻することができない。 A 配偶者のある者が重ねてした婚姻は無効とする。 〔小問3〕 Dの出生に伴って, AとCは日本の戸籍管掌者に嫡出である子としての出生の届出をし, そ の出生届は受理された。 仮にBによる婚姻無効の請求を認める判決が確定した場合に, AC間 の婚姻が無効となったことによって, Dは嫡出である子として扱われるか論じなさい。 なお, 甲国民法は以下に記すような規定を定めている。 【甲国民法】 B 父母の婚姻について, その無効の判決が確定する前に出生した子は, 嫡出である子とみなす。 〔設問2〕 2015年2月にAとBは甲国で適法に離婚した。 AB間の離婚から1年が経過した2016 年2月に, AとCは, 甲国民法の規定に従って, 日本に駐在する甲国の領事の面前で婚姻を挙行 した(この時点において, Cは国籍法第14条の規定に基づいて, 日本の国籍を選択していたも のとする。 )。 この婚姻は日本において有効に成立するか論じなさい。 なお, 日本の国際私法の 観点からみて, AB間の離婚は有効に成立していること, また, AC間の婚姻の実質的成立要件 は満たされていることを前提とする。 - 42 - 〔第2問〕(配点:50) A社は, システムの開発及び販売を業とする甲国の株式会社である。 A社は, 日本の株式会社J 社と甲国の株式会社K社が10年前に共同で設立したものであり, 甲国以外に資産や営業所を有し ていない。 Bは, J社の従業員であったが, A社の設立に際し, J社を退職してA社の取締役に就任した。 Bは, A社の取締役に就任する際に日本から甲国に住所を移した。 Bは, 甲国以外に資産を有して いない。 G庁は, 乙国の政府機関である。 乙国は, 丙国を挟んで甲国と地続きの関係にある。 G庁は, A 社の大口取引先であり, A社におけるG庁の担当者はBである。 Bは, 頻繁にG庁を訪問している が, その際には, A社が保有する自動車(以下「本件自動車」という。 )を自ら運転し, 甲国から 丙国を通過して乙国に至る国際高速道路を利用するのが通常であった。 Xは, Bの大学時代の友人であり, 出生以来, 日本に住んでいる。 Xは, かねてより乙国に関心 があり, その観光についてBに相談したところ, Bは, その翌月にA社製の最新型システム管理用 機械(以下「本件機械」という。 )をG庁に納入することになっていたことから, 本件機械をG庁 に納入する際に本件自動車に同乗してはどうかとXに提案した。 この提案を受け, Xは, 甲国に渡 航し, Bが運転する本件自動車に同乗し, B宅から乙国に向けて出発した。 ところが, Bが運転す る本件自動車は, 国際高速道路を進行中, 丙国の領域内に入った地点でカーブを曲がり切れずに道 路側壁に衝突した(以下「本件事故」という。 )。 本件事故により, Bは軽傷で済んだものの, X は重傷を負い, 本件自動車に積載していた本件機械も完全に損壊してしまった。 Xは, 丙国内の救 急病院で緊急手術を受けた後, 医療環境の整った日本での治療を希望したため, 日本に帰国して病 院での入院治療を継続した。 Bは, Xに対し, 丙国内での緊急手術の費用等については, その支払を任意で行ったが, 日本の 病院での入院治療費については, Xが自ら日本での入院治療を選択したことを理由に, その支払を 拒んでいる。 以上の事実を前提として, 以下の設問に答えなさい。 なお, 各問は独立した問いである。 〔設問1〕 Xは, 本件事故の原因がBの過失によるものであると主張し, Bに対し, 本件事故に基づく損 害賠償として, 日本の病院での入院や治療に要した費用の支払を求める訴え(以下, 本設問にお いて「本件訴え」という。 )を日本の裁判所に提起した。 〔小問1〕 本件訴えについて, 日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかどうかについて論じなさ い。 ただし, 応訴による国際裁判管轄権について論じる必要はない。 〔小問2〕 Bは, 本件訴えに対して応訴し, 日本の裁判所において, 本件事故はBの過失によるもので はないと主張して争っている。 本件訴えにおいて, XのBに対する損害賠償請求が認められる か否かについて, 日本の裁判所は, いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。 なお, 日本の裁判所の国際裁判管轄権について論じる必要はない。 〔設問2〕 本件自動車は, 日本国内に本店を有する日本法人C社が日本国内の工場で製造したものであっ た。 A社は, 本件事故の原因が本件自動車の欠陥にあったと主張し, C社に対し, 本件事故に基づ く損害賠償として, G庁への本件機械の売却代金に相当する金額の支払を求める訴えを日本の裁 判所に提起した。 - 43 - 〔小問1〕及び〔小問2〕のそれぞれの場合において, A社のC社に対する損害賠償請求が認 められるか否かについて, 日本の裁判所は, いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさい。 なお, 日本の裁判所の国際裁判管轄権について論じる必要はない。 〔小問1〕 A社は, 甲国の自動車販売会社D社から本件自動車を購入し, 甲国内でその引渡しを受けて いた。 C社は, 自社の自動車を甲国内で販売するための契約をD社との間で締結しており, 本 件自動車は, この契約に基づき, C社からD社に対して甲国内で引き渡されたものであった。 〔小問2〕 甲国は, 甲国内で新車として販売される自動車が満たすべき排気ガス等の環境基準について, 周辺国よりも厳しい基準を設定していたところ, C社は, 甲国の環境基準を満たす自動車を製 造しておらず, 甲国市場には販路を有していなかった。 C社は, 乙国の環境基準を満たす自動車を製造しており, 自社の自動車を乙国内で販売する ための契約を乙国の自動車販売会社E社との間で締結していたところ, 本件自動車は, この契 約に基づき, C社からE社に対して乙国内で引き渡され, これをE社が新車として乙国居住者 Fに販売したものであった。 Fは, その後, 本件自動車と共に甲国に転居し, 計3年ほど甲国 内で本件自動車を使用した後, 本件自動車を中古車として甲国の自動車販売会社D社に売却し, 甲国内で本件自動車をD社に引き渡していた。 その後, A社は, D社から本件自動車を購入し, 甲国内でその引渡しを受けていた。 - 44 -