論文式試験問題集[公法系科目第1問] - 1 - [公法系科目] 〔第1問〕(配点:100) 1.20××年, 各地の大規模なデモにおいて, いくつかの団体の構成員が, 覆面や仮面で顔を隠 して参加するようになった。 これらの団体は, それぞれ異なる政治的主張を掲げ, 組織的な活動 を行っていた。 これらの団体の構成員は, 集団行進(集団示威運動を含む。 )に際して, 顔を隠 すだけでなく, 団体の主張が書かれた大きな旗を振り回す, 抗議の対象となるものが書かれた紙 を燃やすなどの行動も行っていた。 また, これらの団体は, このような行動の動画や, 集団行進 への参加の呼び掛けを, ウェブサイトやソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下「SN S」という。 )を通じて配信していた。 上記各団体は, 顔を隠すこと自体に特定のメッセージを込めていなかったが, このような集団 行進のスタイルが大きな注目を集めた。 SNS等では, 「デモの報道で顔が映る心配がない。 」 「就職活動や職場のことを気にせずデモに参加できる。 」といった意見が多く見られ, 上記各団 体の構成員ではないデモ参加者の中にも, 顔を隠す者が多数現れるようになった。 2.前記の大規模なデモでは, 参加者の大部分は平穏に集団行進を行っていた。 しかし, その最中 に, 顔を隠した参加者の一部が, 商店のショーウィンドウを破壊する, ごみ箱に放火するなどの 暴力的な行為を行うようになった。 さらに, いくつかのデモでは, 顔を隠した参加者の一部が警 備に当たる警察官を負傷させ, それぞれ数十名が逮捕される事態となった。 逮捕者には, 前記各団体の構成員が相当数含まれていた。 しかし, 逮捕者の半数ほどはそれら の団体の構成員ではなく, 専ら暴力的な行為を目的として, その都度SNSで仲間を募り, デモ に参加していた者であった。 さらにそれ以外にも, その場の雰囲気に刺激された一般の参加者が, 暴力的な行為に加わり逮捕された例もあった。 集団行進の許可を求められた公安委員会は, 主催者側に適切な対応を求め, また所轄の警察署 も警備を強化していた。 しかし, 大規模なデモの最中に暴力的な行為が散発的に行われることか ら, 集団行進の主催者も警察も, そのような行為を行う者を事前に把握し対応することが困難で あった。 また, 顔を隠している被疑者の特定が難しいため, 逮捕者は暴力的な行為を行った者の 一部にとどまっていた。 3.このような状況に強い懸念を抱いた国会議員Xらは, 次のような規制を内容とする法律案を検 討している。 規制@ 顔を隠して集団行進に参加することを禁止する。 規制A 集団行進において公共の安全を害する行為を行った者が一定比率以上含まれる団体を観 察対象として指定し, 当該団体がその活動のために利用している機関紙, ウェブサイト, SNSのアカウント等について, 報告を義務付ける。 4.【別添資料】は, 規制@及びAの内容として検討されている法律案の骨子である。 Xらは, 法 律案の骨子について, 法律家甲に相談した。 その際の甲とXとのやり取りは, 以下のとおりであ った。 甲:まず規制@ですが, 暴力的な行為をしている者だけでなく, 平穏にデモを行っている多くの参 加者にまで, 一律に規制を及ぼすのは行き過ぎではないですか。 X:規制@の目的は, 集団行進において公共の安全を害する行為が行われるのを抑止することであ り, デモそれ自体を規制するつもりはありません。 覆面や仮面で顔を隠している人はそのことで 何かを伝えようとしているわけではないのですから, 顔を隠さなくても集団行進を通じてメッセ ージを届けることは, 十分に可能なはずです。 他方, 覆面や仮面で顔を隠すことによって, 誰が やっているか分からないという感覚が生じて, 普段はしないような行動に走る面があることは否 定できません。 同じようなことは, ウェブサイトやSNSでの表現一般をめぐっても, 問題にな - 2 - っています。 甲:顔を隠すことが許される「正当な理由」としては, どのようなものを想定していますか。 例え ば, マスクの着用についてはどうですか。 X:感染症対策や健康上の理由でマスクをする, 信仰上の理由から顔を隠すといったことは, もち ろん「正当な理由」があるものとして扱われます。 なお, この種の規制では, 文言の明確性も問題になりますが, この点は別途相談する予定です ので, 本日は検討いただく必要はありません。 甲:分かりました。 次に規制Aですが, 団体の規制に関する既存の立法と比べると, 対象となる団 体の危険性はさほど大きくないように思います。 どのようにお考えでしょう。 X:公共の安全を害する行為を実効的に抑止するためには, そのような行為を助長している団体の 活動を把握する必要があります。 これが規制Aの目的です。 規制Aを担当するのは, 公共の安全 の確保のために最近新たに設置されたA1委員会とA2庁です。 また, 観察処分を受けた団体が, そのことを意識して自覚ある行動をとることも期待していま す。 甲:団体の指定の要件に関してですが, そもそも構成員の範囲の画定が可能なのでしょうか。 X:団体の指定の要件は, 我々の間でも議論になり, これまで逮捕者が出た事案を調査しました。 構成員としては, 組織としての活動に継続的に参加している者を想定しており, A2庁である程 度の把握ができているとのことです。 SNS等をフォローして集団行進に参加しているだけの者 は, 構成員に含みません。 公共の安全を害する行為を助長している団体は, 現状では, 構成員がおおむね50人から10 0人程度の, 比較的規模の小さなものです。 これらの団体のいずれでも, 過去5年以内に, デモ において「法律案の骨子」の第2の2に掲げる行為のいずれかを行い, 処罰された構成員が全体 の10パーセント以上に上ります。 構成員の10パーセント以上という基準であれば, 当面は, 指定の対象を, 実際に問題を起こした団体だけに絞り込むことができるとみています。 基準につ いては, 今後の状況の変化も踏まえ, A1委員会で見直してもらいます。 また, 規制Aで報告が義務付けられるのは, 団体がその活動のために利用している媒体の名称 等のみです。 報告によって得られた情報は, A2庁による団体の活動の把握に用いますが, 必要 な場合には, A2庁が各都道府県の公安委員会に提供し, 公安条例や道路交通法等の運用を通じ, 公共の安全を害する行為の抑止に役立ててもらうこともあります。 甲:確認ですが, 報告義務の対象となるのは, 機関紙のほか, 団体が利用しているウェブサイト等, 誰もが見ることができるようなものですね。 SNSでも, そのサービスの利用者であれば自由に 閲覧できる投稿をしているアカウント等も, ここには含まれてきますね。 一方で, サービスの利 用に当たって用いている氏名, 住所, パスワード等の情報は含まれないという理解でよろしいで しょうか。 X:そのとおりです。 現在問題となっている団体は, 団体名を使っているウェブサイトやSNS等 に限らず, 様々なルートで公共の安全を害する行為を助長する可能性がありますが, その全てを 把握するのは困難です。 代表者や幹部に限らず, 構成員が, 個人名義のアカウントを使って団体 の主張を流布する場合も含めて, それらを網羅的に把握し, 団体の活動を継続的に観察する必要 があります。 なお, 規制Aの指定の要件に該当するかどうかの判断は難しい場合があり, 団体や構成員にも いろいろ言い分はあるでしょうから, 告知・聴聞の機会の保障など, 適正な手続の整備が必要に なります。 しかし, 手続保障については, 別途相談する予定ですので, 本日は検討いただく必要 はありません。 - 3 - 〔設問〕 あなたが検討を依頼された法律家甲であるとして, 規制@及びAの憲法適合性について論じな さい。 なお, その際には, 必要に応じて, 参考とすべき判例や自己の見解と異なる立場に言及す ること。 規定の文言の明確性, 手続の適正については, 論じる必要はない。 - 4 - 【別添資料】 ○ 公共の安全を害する行為の抑止及び公共の安全を害する行為を助長する団体の規制に関する法律 案の骨子 第1 目的 この法律は, 集団行進(集団示威運動を含む。 )における公共の安全を害する行為を抑止すると ともに, そのような行為を助長する団体の活動状況を明らかにするために必要な措置を定め, もっ て公共の安全の確保に寄与することを目的とする。 第2 1 定義 この法律において「顔面を覆う行為」とは, 手段のいかんを問わず顔面の全体又は一部を覆い, 容貌の確認を困難にする行為をいう。 2 この法律において「公共の安全を害する行為」とは, 次に掲げる行為をいう。 刑法第95条第1項〔公務執行妨害〕, 第106条〔騒乱〕, 第108条〔現住建造物等放 火〕, 第109条〔非現住建造物等放火〕, 第110条〔建造物等以外放火〕, 第199条 〔殺人〕, 第204条〔傷害〕, 第205条〔傷害致死〕, 第206条〔現場助勢〕, 第20 8条〔暴行〕, 第208条の2〔凶器準備集合及び結集〕, 第260条〔建造物等損壊及び同 致死傷〕, 第261条〔器物損壊等〕に規定する行為をなすこと。 3 この法律において「集団行進において公共の安全を害する行為を行っていると認められる団 体」とは, その構成員と認められる者のうち, 第4の1の処分に係る手続が開始された日から遡 って5年間に, 集団行進において公共の安全を害する行為を行い刑に処せられた者の比率が, A 1委員会規則で定める基準(当分の間, 100分の10を下回らない比率とする。 )を超える団 体をいう。 第3 顔面を覆う行為の禁止 1 何人も, 集団行進において, 正当な理由なく, 顔面を覆う行為をしてはならない。 2 第3の1の規定に違反した者は, 10万円以下の過料に処する。 第4 1 観察処分 A1委員会は, 集団行進において公共の安全を害する行為を行っていると認められる団体に対 して, 1年を超えない期間を定めて, A2庁長官の観察に付する処分(以下「観察処分」とい う。 )を行うことができる。 A1委員会は, さらに必要と認めるときは, その期間を更新するこ とができる。 2 観察処分を受けた団体の代表者は, 名義のいかんを問わず, 団体の活動として団体の主義, 主 張等を不特定又は多数の者に対して伝えるために利用している機関紙, ウェブサイト, SNSの アカウント等について, 1か月ごとにA2庁長官に対して報告しなければならない。 3 A2庁長官は, 必要と認めるときは, 観察処分を受けた団体の名称, 当該団体の活動等の情報 を各都道府県公安委員会に提供することができる。 4 観察処分を受けた団体の代表者が, 正当な理由なく, 第4の2の報告義務に違反した場合(虚 偽の報告を行った場合を含む。 )は, 50万円以下の過料に処する。 - 5 - 論文式試験問題集[公法系科目第2問] - 1 - [公法系科目] 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕, 〔設問1〕, 〔設問2〕の配点割合は, 35:20: 45〕) A市の市道上には多くの屋台が設けられ, 簡単な飲食物を提供する営業を行っており, 全国各地 でこの種の屋台が姿を消しつつある中で, A市の個性として貴重な観光資源となっているほか, 街 に賑わいや防犯効果をもたらしている。 その一方で, A市の屋台には通行の阻害, 道路の汚れや排 水の垂れ流し等の問題があり, とりわけ, 屋台の設置に必要な市道占用許可(道路法第32条第1 項第6号)を有する者から名義を借りた別の者が営業を行っている屋台があることから, 許可が事 実上売買の対象となったり, 営業者の頻繁な交代により屋台をめぐる諸問題の解決に向けた継続的 な話合いが難しくなったりするといった課題が指摘され, こうした課題はA市議会でも繰り返し取 り上げられてきたが, 長年にわたり手付かずのままになっていた。 そこで, A市が昨年制定したA市屋台基本条例(以下「本件条例」という。 )では, 屋台営業に 係る市道占用許可の基準及び手続を, 新規の許可に係るものと許可の更新に係るものに分けて規定 した上で, 屋台営業に係る名義貸しを禁止することにより, 名義貸し行為の一掃を目指すことにし た。 具体的には, 本件条例は, 新規に市道占用許可を受けることができる者を, 本件条例の施行の 日において市道占用許可を受けて屋台営業を営む者の配偶者又は直系血族に当たる者以外は, 本件 条例第25条所定の屋台営業候補者に限定している。 また, A市のウェブサイトに掲載されている 「A市屋台営業候補者募集要項」によると, 屋台営業候補者の公募に応募する者は営業希望場所 (1か所)を明記した応募申請書等をA市長(以下「市長」という。 )に提出し, これを受けて, 有識者で構成されるA市屋台専門委員会(以下「委員会」という。 )は, 市長によって策定された 屋台営業候補者選定指針(以下「本件指針」という。 )に従って審査を行い, 営業希望場所ごとに 総合成績が最も優れた者各1名を屋台営業候補者として適当と認める者として推薦し, その後, 市 長が屋台営業候補者を選定することとされている(なお, 屋台営業候補者が市道占用許可及びその 後の更新を受けられる期間は通算して原則3年までである。 )。 このように, 他人の名義を借りて 営業を行っている屋台にあっては, 本件条例の施行後も営業を続けようとすれば, 名義人本人が屋 台営業を行うか, 実際に屋台営業を行っている者が屋台営業候補者の公募に応募することが必要と なった。 A市の市道上で他人の名義を借りて屋台営業を行ってきたBは, 本件条例の施行後も同じ場所 (以下「本件区画」という。 )で屋台営業を続けることを希望し, 本件条例の施行後に実施された 屋台営業候補者の公募(合計20区画)に応募したところ, 市長は本件区画についてBを屋台営業 候補者に選定しない旨の決定(以下「本件不選定決定」という。 )を行う一方で, Cを屋台営業候 補者に選定する旨の決定(以下「本件候補者決定」という。 )を行った。 本件区画で屋台営業を行 ってきた実績から, 屋台営業候補者に選定されるはずであると考えていたBは, 本件不選定決定に 不服を持ち, 今後の対応を相談するため, 弁護士Dに相談した。 以下に示された【法律事務所の会 議録】を踏まえて, 弁護士Dの指示に応じる弁護士Eの立場に立って, 設問に答えなさい。 なお, 関係法令の抜粋を【資料 関係法令】に掲げてあるので, 適宜参照しなさい。 〔設問1〕 本件不選定決定は, 取消訴訟の対象となる処分に当たるか, 検討しなさい。 Bは本件不選定決定の取消しを求める訴えの利益を有するか, 検討しなさい。 なお, 解答に当 たっては, 本件不選定決定が処分に当たることを前提にしなさい。 〔設問2〕 本件不選定決定の取消訴訟において, Bはどのような違法事由の主張をすべきか。 想定されるA - 2 - 市の反論を踏まえて, 検討しなさい。 なお, 解答に当たっては, 当該訴訟が適法であることを前提 にしなさい。 - 3 - 【法律事務所の会議録】 弁護士D:Bさんの不服の内容からすると, まずは本件不選定決定の取消訴訟を提起することが考え られます。 市長は本件不選定決定が処分に当たると理解して, 屋台営業候補者不選定通知書 において審査請求や取消訴訟の教示をしていますが, この理解が正しいか検討しましょう。 弁護士E:Bさんは, 屋台営業候補者の公募に応募して, 本件不選定決定を受けたので, 本件条例及 び本件条例施行規則の仕組みに即して, 屋台営業候補者の選定が申請に対する処分に当たる か, したがって, 本件不選定決定が申請拒否処分に当たるかを検討すればいいでしょうか。 弁護士D:基本的な方針はそれでいいと思いますが, Bさんが屋台営業候補者の公募に応募したのは, 飽くまでも市道占用許可を受けるためなので, 市道占用許可との関係にも注意してください。 なお, A市は, 本件条例第9条を行政手続法上の審査基準として定めたようです。 本件条例 第9条の性格については, 我々もA市と同じ立場を取ることにしましょう。 弁護士E:本件不選定決定が処分に当たるとしても, 既に市長はCさんに対して本件候補者決定を行 っているため, 本件候補者決定が取り消されない限り, Bさんは本件区画について屋台営業 候補者への選定を受けることができないとも考えられ, 本件不選定決定の取消しを求める訴 えの利益は失われていることにならないでしょうか。 弁護士D:その問題については, 放送局の開設免許に関する判例(最高裁判所昭和43年12月24 日第三小法廷判決・民集22巻13号3254頁)がありますので, この判例を参考にして 検討してください。 弁護士E:承知しました。 弁護士D:次に本案で主張すべき違法事由ですが, Bさんは, 本件区画で10年以上も屋台営業を行 ってきて, A市との間でトラブルもなかったのに, 今後営業が続けられなくなると生活の基 盤が失われてしまうと述べています。 弁護士E:新しい条例を施行する場合には経過措置を設けるのが通例で, そうすることが法的に要請 される場合もありますが, 本件条例の施行に際して, Bさんのように従前から他人の名義を 借りて屋台営業を行っていた者(以下「他人名義営業者」という。 )の地位への配慮はなか ったのですか。 弁護士D:市長は, 本件条例可決後の記者会見において, A市での屋台営業に係る市道占用許可は6 か月ごとの更新のため, 本件条例の施行から6か月後には屋台営業候補者が営業を開始でき るよう速やかに公募を実施し, その間は他人名義営業の継続を暫定的に認めると述べました。 そうすると, 他人名義営業者の地位への配慮は市道占用許可の期間の範囲内にとどまること になりますが, 他人名義営業者が市道占用許可の更新を期待し得る地位を有しないのか疑問 です。 弁護士E:他人の名義を借りた屋台営業はそもそも道路法上無許可営業に当たり, 法的な保護に値し ないということでしょうか。 弁護士D:しかし, 本件条例制定に至るまでの経緯や関係法令の規定等に照らして, 屋台営業におい て他人の名義を借りることは, 営業の実績が全て法的な保護に値しなくなるほど悪質な行為 と評価できるのでしょうか。 本件条例が違法であるとまではいえないとしても, 本件不選定 決定の違法事由を検討する上で, まずは, Bさんの地位に対する配慮に欠けるところがなか ったか検討してください。 弁護士E:承知しました。 弁護士D:それから, Bさんへの屋台営業候補者不選定通知書には, Bさんの総合成績が本件区画で 第2位であった旨が記されていますが, 実は, 委員会は, Bさんを屋台営業候補者として適 当と認める者として推薦していたようです。 20区画の応募に対する屋台営業候補者選定決 定後の記者会見で, 市長が自ら発表したことですが, A市のウェブサイトで公開されている 本件指針は, 本件条例施行規則第19条第1号から第4号までの各号の審査に25点ずつ配 - 4 - 点するとともに各号の審査において考慮すべき要素を例示しているところ, 委員会では, 他 人名義営業者が本件条例の施行後6か月以内に新たな店舗や仕事を探すことは困難である上, 特にA市との間でトラブルのなかった他人名義営業者は, 今後A市の屋台政策への確実な貢 献が期待できるとして, 各号の審査では25点の配点の範囲内で営業実績を踏まえて5点を 与えるという本件指針の運用を申し合わせたのです。 弁護士E:そうすると, 委員会は, 他人名義営業者の地位への更なる配慮が必要であると考えていた といえますね。 弁護士D:ところが, 委員会の各委員がこの申合せどおりに審査を行った結果, ほとんどの区画につ いてBさんのような他人名義営業者が屋台営業候補者として適当と認める者として推薦され たため, 不審に思った市長が委員会の議事録を取り寄せて申合せの内容を知ったのです。 前 回市長選挙で屋台営業の刷新を公約に掲げて当選した市長としては, 屋台営業者の交代をよ り積極的に推進して公約を実現したいと考え, 委員会の審査結果から申合せに基づく点数を 差し引いた総合成績に基づいて屋台営業候補者を選定したと記者会見で発表しました。 その 結果, Bさんの総合成績が2位になったと考えられます。 弁護士E:事情がよく分かりました。 弁護士D:我々としては, 市長は委員会の推薦どおりにBさんを屋台営業候補者に選定すべきであっ たという立場ですので, 既に検討をお願いした他人名義営業者の地位への配慮の問題のほか に, 屋台営業の実績を考慮して審査を行うという委員会の申合せが合理的であったかという 問題を検討する必要があります。 委員会の申合せが不合理であれば, 市長がこれに基づく推 薦を覆すのは当然ということになりますから。 具体的には, 委員会の申合せが本件条例施行 規則第19条各号の選定基準に照らして是認することができるか, また, 新規に屋台営業を 始めようとして公募に応募した者の利益を不当に侵害することにならないか検討してくださ い。 なお, A市は, 平成7年からA市行政手続条例を施行しており, 同条例は行政手続法第 2章と同じ内容の規定を設けていますので, 必要に応じて参照してください。 弁護士E:承知しました。 弁護士D:そして, これらの検討を踏まえて, 本件不選定決定の取消訴訟における違法事由の主張と して, 市長の選定に係る判断の内容に瑕疵があったと主張することができないか検討してく ださい。 さらに, 市長が委員会の推薦を覆して選定したこと自体に瑕疵があったと主張する ことも考えられます。 その際には, 行政庁である当時の運輸大臣の処分と諮問機関である運 輸審議会の決定との関係について一般論を述べた判例(最高裁判所昭和50年5月29日第 一小法廷判決・民集29巻5号662頁)がありますので, この判例を参考に, 諮問機関の 機能等を踏まえて本件不選定決定が違法であると主張することができないか, 検討すること にしましょう。 弁護士E:承知しました。 - 5 - 【資料 ○ 関係法令】 道路法(昭和27年法律第180号)(抜粋) (道路の占用の許可) 第32条 道路に次の各号のいずれかに掲げる工作物, 物件又は施設を設け, 継続して道路を使用し ようとする場合においては, 道路管理者の許可を受けなければならない。 一〜五 (略) 六 露店, 商品置場その他これらに類する施設 七 (略) 2 前項の許可を受けようとする者は, 左の各号に掲げる事項を記載した申請書を道路管理者に提出 しなければならない。 一 道路の占用(道路に前項各号の一に掲げる工作物, 物件又は施設を設け, 継続して道路を使用 することをいう。 以下同じ。 )の目的 二 道路の占用の期間 三 道路の占用の場所 四 工作物, 物件又は施設の構造 五 工事実施の方法 六 工事の時期 七 道路の復旧方法 3〜5 (略) (道路の占用の許可基準) 第33条 道路管理者は, 道路の占用が前条第1項各号のいずれかに該当するものであつて道路の敷 地外に余地がないためにやむを得ないものであり, かつ, 同条第2項第2号から第7号までに掲げ る事項について政令で定める基準に適合する場合に限り, 同条第1項(中略)の許可を与えること ができる。 2〜6 ○ (略) A市屋台基本条例(抜粋) (定義) 第3条 この条例において, 次の各号に掲げる用語の意義は, それぞれ当該各号に定めるところによ る。 屋台 道路運送車両法(昭和26年法律第185号)第2条第4項に規定する軽車両に飲食店 営業(食品衛生法施行令(昭和28年政令第229号)第35条第1号に規定する飲食店営業を いう。 次号において同じ。 )のための設備を備え付けたものをいう。 屋台営業 屋台を一定の時間一定の場所に設置して行う飲食店営業をいう。 屋台営業者 屋台営業従事者 市道 屋台営業を営む者をいう。 屋台営業者以外の者であって屋台営業に従事するものをいう。 道路法(昭和27年法律第180号)第2条第1項に規定する道路であって市が管理す るものをいう。 市道占用許可 屋台営業を行うための道路法第32条第1項(中略)の規定による市道の占用 の許可をいう。 (市道占用許可の申請) 第8条 市道占用許可を受けようとする者(次条第1項(中略)において「申請者」という。 )は, 道路法第32条第2項に規定する申請書のほか規則で定める書類を市長に提出しなければならない。 (市道占用許可の基準等) - 6 - 第9条 市長は, 申請者(次条第1項に規定する更新申請者を除く。 以下この項において同じ。 )の 申請の内容が道路法第33条第1項に規定する場合に該当する場合であって, 次に掲げる基準のい ずれにも適合するときに限り, 市道占用許可を与えるものとする。 申請者が, 次のいずれにも該当しないこと。 ア A市暴力団排除条例(中略)に規定する暴力団員 イ A市暴力団排除条例(中略)に規定する暴力団又は暴力団員と密接な関係を有する者 申請者が, 次のいずれかであること。 ア この条例の施行の日において市道占用許可を受けている屋台営業者(以下「現営業者」とい う。 )の配偶者又は直系血族のうち, 同日及び申請の日(現営業者が死亡している場合にあっ ては, 現営業者が死亡した日。 )において, 主として現営業者が営む屋台営業による収入によ り生計を維持している屋台営業従事者(その者が2人以上である場合は, そのうちの1人に限 る。 ) イ 第25条第1項に規定する屋台営業候補者 市道占用許可を受けようとする場所が, 次のいずれにも適合すること。 ア〜ウ 2 (略) (略) (市道占用許可を受けた者による屋台営業等) 第13条 2 市道における屋台営業は, 市道占用許可を受けた者が, 自ら行わなければならない。 市道占用許可を受けた者は, 市道占用許可に係る権利を他人に譲渡し, 転貸し, 又は担保に供し てはならない。 (屋台営業候補者の公募) 第25条 市長は, 市道における屋台営業が, まちににぎわいや人々の交流の場を創出し, 観光資源 としての効用を発揮することができると認めるときは, 場所を指定して, 当該場所において市道占 用許可を受けることができる者(法人を除く。 以下「屋台営業候補者」という。 )の公募を行うこ とができる。 2〜3 4 (略) 前3項に定めるもののほか, 屋台営業候補者の公募に関し必要な事項は, 規則で定める。 (屋台営業候補者の選定等) 第26条 市長は, 前条第1項の規定による公募を行った場合は, A市屋台専門委員会に諮り, 屋台 営業候補者を選定するものとする。 2 A市屋台専門委員会は, 規則で定める基準に基づき, 当該公募に応募した者のうちから屋台営業 候補者として適当と認める者を推薦するものとする。 3 市長は, 第1項の規定による選定を行ったときは, その旨を当該屋台営業候補者に通知しなけれ ばならない。 (A市屋台専門委員会) 第28条 2〜5 ○ 市長の附属機関として, A市屋台専門委員会(以下「委員会」という。 )を置く。 (略) A市屋台基本条例施行規則(抜粋) 〔(注) 本規則中, 「条例」はA市屋台基本条例を指す。 〕 (公募書類) 第18条 条例第26条第1項の規定により屋台営業候補者の選定を受けようとする者(以下「公募 申請者」という。 )は, 市長が定める期間内に, 公募屋台営業候補者応募申請書(中略)に次の各 号に掲げる書類を添えて市長に提出しなければならない。 〜 (略) - 7 - (選定基準) 第19条 条例第26条に規定する規則で定める基準は, 次に掲げるとおりとする。 関係法令等を遵守し, 安全で快適な公共空間及び良好な公衆衛生を確保する具体的な取組が示 されていること。 市民, 地域住民及び観光客に親しまれ, 観光資源としてA市を広報することができる屋台を目 指し, 従来のA市らしい屋台文化を守るとともに, 新たな魅力を創出するための創意工夫が見ら れること。 地域の清掃活動に参加する等地域貢献に向けた具体的な取組が示されていること。 まちににぎわいや人々の交流の場を創出し, まちの魅力を高めようとする意欲が感じられるこ と。 (決定の通知) 第21条 条例第26条第3項の規定による通知は, 屋台営業候補者選定通知書(中略)により行う ものとする。 2 市長は, 屋台営業候補者として選定しないこととしたときは, 屋台営業候補者不選定通知書(中 略)により公募申請者に通知するものとする。 - 8 -