論文式試験問題集 [法律実務基礎科目(民事・刑事)] - 1 - [民 事] 司法試験予備試験用法文を適宜参照して, 以下の各設問に答えなさい。 〔設問1〕 弁護士Pは, Xから次のような相談を受けた。 【Xの相談内容】 「私(X)は, 娘の夫であるYから, 会社員を辞めて骨董品店を開業したいので甲建物を貸してほ しいと頼まれ, Yの意志が固かったことから, これに応ずることにしました。 私は, Yとの間で, 令 和2年6月15日, 私が所有する甲建物について, 賃貸期間を同年7月1日から3年間, 賃料を月額 10万円として毎月末日限り当月分を支払う, 敷金30万円との約定で賃貸借契約(以下「本件賃貸 借契約」という。 )を締結し, Yから敷金30万円の交付を受け, 同年7月1日, Yに甲建物を引き渡 しました。 私は, 契約締結の当日, 市販の賃貸借契約書の用紙に, 賃貸期間, 賃料額, 賃料の支払日 及び敷金額を記入し, 賃貸人欄に私の氏名を, 賃借人欄にYの氏名をそれぞれ記入して, Yの自宅を 訪れ, 私とYのそれぞれが自分の氏名の横に押印をし, 賃貸借契約書(以下「本件契約書」という。 ) を完成させました。 Yは, 間もなく, 甲建物で骨董品店を開業しましたが, その経営はなかなか軌道に乗らず, 令和2 年7月30日に同月分の賃料の一部として5万円を支払ったものの, それ以降は, 賃料が支払われる ことは全くありませんでした。 そこで, 私は, Yに対し, 令和2年7月分から同年12月分までの賃料合計60万円から弁済済み の5万円を控除した残額である55万円の支払を請求したいと思います。 私は, 支払が遅れたことに ついての損害金の支払までは求めませんし, 私自身が甲建物を利用する予定はありませんので, 甲建 物の明渡しも求めません。 なお, Yは, 現在, 友人であるAに対して, 令和2年12月2日に壺を売った50万円の売掛債権 を有しているものの, それ以外には, めぼしい財産を有していないようです。 Yは, これまでのとこ ろ, この売掛債権の回収に着手しておらず, 督促をするつもりもないようですが, Aがこの代金を支 払ってしまうと, 私の未払賃料債権を回収する手段がなくなってしまうので心配しています。 」 弁護士Pは, 令和3年1月12日, 【Xの相談内容】を前提に, Xの訴訟代理人として, Yに対し, Xの希望する金員の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。 )を提起することにした。 以上を前提に, 以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Pが, 本件訴訟において, Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記載し なさい。 (2) 弁護士Pが, 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。 )において記載すべき請求の趣旨(民事訴 訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。 なお, 付随的申立てについては, 考慮する必要はな い。 (3) 弁護士Pが, 本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項) を記載しなさい。 (4) 弁護士Pは, 本件訴状において, 「Yは, Xに対し, 令和2年7月30日, 本件賃貸借契約に基づく 同月分の賃料債務につき, 5万円を弁済した。 」との事実を主張した。 (@) 裁判所は, 上記事実の主張をもって, 本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて, 結 論と理由を述べなさい。 - 2 - (A) (@)のほかに, 上記主張は本件訴訟においてどのような意味を有するか。 簡潔に説明しなさい。 〔設問2〕 弁護士Pは, Yから未払賃料を確実に回収するために, Aに対する売掛債権を仮に差し押さえた上で 本件訴訟を提起する方法と, Yに代位してAに対して50万円の売買代金の支払を求める訴えを提起す る方法とを検討したが, 【Xの相談内容】の下線部の事情を踏まえ, 後者の方法ではなく, 前者の方法を 採ることとした。 その理由について説明しなさい。 〔設問3〕 弁護士Qは, 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。 【Yの相談内容】 「(a) 私(Y)は, Xの娘の夫に当たります。 私は, 令和2年7月1日から甲建物で骨董品店を営業していますが, Xから甲建物を賃借し たのではなく, 無償で甲建物を使用させてもらっています。 したがって, 私が甲建物の賃料を 支払っていないのは当然のことです。 私は, 本件契約書の賃借人欄に氏名を書いていませんし, 誰かに指示して書かせたこともありません。 私の氏名の横の印影は, 私の印鑑によるものです が, 私が押したり, また, 誰かに指示して押させたりしたこともありません。 (b) ところで, 令和3年1月8日, Xの知人を名乗るBが私を訪れました。 話を聞くと, 令和2 年8月1日, Xに, 弁済期を同年10月15日として, 50万円を貸したが, 一向に返しても らえないので, 督促を続けていたところ, 令和3年1月5日, Xから, その50万円の返還債 務の支払に代えて, 私(Y)に対する令和2年7月分から同年12月分までの合計60万円の 賃料債権を譲り受けたので, 賃料を支払ってほしいとのことでした。 もちろん, 私は, Xから 甲建物を賃借したことなどありませんので, Bの求めには応じませんでした。 もっとも, Bの 話が真実であれば, 仮にXの言い分のとおり本件賃貸借契約締結の事実が認められたとしても, 私が賃料を支払うべき相手はBであってXではないので, Xからの請求は拒むことができるの ではないでしょうか。 ただし, 私はXからこの債権譲渡の通知を受けておらず, 私がこの債権 譲渡を承諾したこともありません。 この場合でも, 私はXからの請求を拒めるのか教えてくだ さい。 (c) また, Xの言い分が認められるのであれば, 私はXに対して敷金30万円を差し入れている ことになるはずです。 したがって, Xの言い分が認められる場合には, 上記敷金返還請求権を もって相殺したいと考えています。 」 弁護士Qは, 【Yの相談内容】を前提に, Yの訴訟代理人として, 本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁 書」という。 )を作成した。 以上を前提に, 以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Qは, 【Yの相談内容】(b)を踏まえて, 本件答弁書において, 抗弁を主張した。 (@) 弁護士Qが, 本件答弁書において, 【Yの相談内容】(b)に関する抗弁を主張するために主張すべ き要件事実(主要事実)を全て記載しなさい。 (A) 弁護士Qは, 【Yの相談内容】(b)の下線部の質問に対して, 「Xからの請求を拒むことができる」 と回答した。 その理由を簡潔に説明しなさい。 (2) 弁護士Qは, 【Yの相談内容】(c)を踏まえて, 本件答弁書において抗弁を主張できないか検討した が, その主張は主張自体失当であると考えて断念した。 弁護士Qが主張自体失当と考えた理由を簡潔 - 3 - に説明しなさい。 〔設問4〕 第1回口頭弁論期日において, 本件訴状と本件答弁書が陳述された。 同期日において, 弁護士Pは, 本件契約書を書証として提出し, それが取り調べられ, 弁護士Qは, 本件契約書のY作成部分につき, 成立の真正を否認し, 「Y名下の印影がYの印章によることは認めるが, Xが盗用した。 」と主張した。 その後, 2回の弁論準備手続期日を経た後, 第2回口頭弁論期日において, 本人尋問が実施され, 本 件賃貸借契約の締結につき, Xは, 次の【Xの供述内容】のとおり, Yは, 次の【Yの供述内容】のと おり, それぞれ供述した(なお, それ以外の者の尋問は実施されていない。 ) 。 【Xの供述内容】 「Yは, 私の娘の夫です。 私は, 令和2年6月頃, Yから, 『この度, 会社員を辞めて, 小さい頃か らの夢であった骨董品店を経営しようと思います。 ついては, 空き家になっている甲建物を賃貸して いただけないでしょうか。 』との依頼を受けました。 Yの言うとおり, 甲建物は長年空き家になってお り, 時々様子を見に行くのも面倒でしたので, ちょうどよいと思い, Yに賃貸することにしました。 その後, 私とYは賃料額の交渉を行い, 私は近隣の相場を参考にして, 月額15万円を提案したので すが, Yからは, 採算がとれるか不安なので月額10万円にしてくださいと懇願されたため, これに 応ずることにしました。 私は, 令和2年6月15日, Yとの間で, 私の所有する甲建物について, 賃貸期間を同年7月1日 から3年間, 賃料を月額10万円として毎月末日限り当月分を支払う, 敷金30万円との約定で賃貸 借契約(本件賃貸借契約)を締結しました。 私は, 契約締結の当日, 市販の賃貸借契約書の用紙に, 賃貸期間, 賃料額, 賃料の支払日及び敷金額を記入し, 賃貸人欄に私の氏名を, 賃借人欄にYの氏名 をそれぞれ記入して準備をして, Yの自宅を訪れ, 私とYのそれぞれが自分の氏名の横に押印をして, 本件契約書を完成させました。 また, 私は, その際, Yから現金で敷金30万円の交付を受けていま す。 本来であれば, Yの方が私の自宅に来るべき筋合いでしたが, 私は孫への会いたさから, 週に2 日はYの自宅を訪れていましたので, そのついでに契約書を作成することにしたのです。 ちなみに, Yは, この時, いわゆる三文判で押印しておりましたが, 契約書を作成するのに礼儀知らずだなと思 った記憶があります。 私は, 令和2年7月1日, Yに対し, 甲建物を引き渡し, Yは甲建物で骨董品店を開業しました。 ところが, Yの骨董品店の経営はなかなか軌道に乗らず, 同月30日には, 同月分の賃料の一部とし て5万円の支払を受けましたが, それ以降は, 賃料が支払われることは全くありませんでした。 もっ とも, Yは私の娘の夫ですし, 開業当初は何かと大変だろうと考え, その年の年末までは賃料の請求 をするのを差し控えてきましたが, 一言の謝罪すらないまま令和3年になりましたので, 本件訴訟を 提起することにしました。 なお, 最近, 私の妻が体調を崩したため, 娘はしばしば私の家に泊まって看病をするようにな りましたが, Yと私の娘が別居したという事実はありません。 」 【Yの供述内容】 「私は, 令和2年6月15日, 妻の父であるXから甲建物を借り, 同年7月1日から骨董品店の店 舗として使用しています。 しかし, 甲建物は, Xから無償で借りたものであって, 賃借しているもの ではありません。 賃貸借契約を締結したのであれば, 契約書を作成し, 敷金を差し入れるのが通常で すが, 私とXとの間では甲建物の使用についての契約書は作成されていませんし, 私が敷金を差し入 れたこともありません。 Xが書証として提出した本件契約書の賃借人欄の氏名は, 明らかにXの筆跡 です。 私の氏名の横の印影は, 確かに私の印鑑によるものですが, これはいわゆる三文判で, Xが勝 - 4 - 手に押したものだと思います。 令和2年12月中旬だったと思いますが, 私と妻が買物に行っている間, Xに私の自宅で子どもの 面倒を見てもらっていたことがあります。 恐らく, Xは, その際に, あらかじめ準備しておいた賃貸 借契約書の賃借人欄に私の印鑑を勝手に押したのだと思います。 この印鑑は, 居間の引き出しの中に 保管していたのですが, Xは週に2日は孫に会いに私の自宅に来ていましたので, その在りかを知っ ていたはずです。 確かに, 私は, 令和2年7月30日, Xに対し, 5万円を支払っていますが, これは, 甲建物の賃 料として支払ったものではありません。 その年の6月頃にXと私の家族で買物をした際, 私が財布を 忘れたため, 急きょXから5万円を借りたことがあったのですが, その5万円を返済したのです。 私が骨董品店を開業してからも, 令和2年の年末までは, Xから甲建物の賃料の支払を求められた ことはありませんでした。 ところが令和3年に入り, 私と妻が不仲となり別居したのと時期を同じく して, 突然Xが賃料を支払うよう求めてきて困惑しています。 私の骨董品店も, 次第に馴染みの客が 増えており, 経営が苦しいなどということはありません。 」 以上を前提に, 以下の問いに答えなさい。 弁護士Qは, 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに, 準備書面を提出することを予定している。 その 準備書面において, 弁護士Qは, 前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内 容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて, XとYが本件賃貸借契約を締結した事実 が認められないことにつき, 主張を展開したいと考えている。 弁護士Qにおいて, 上記準備書面に記載 すべき内容を, 提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて, 答案用紙1頁 程度の分量で記載しなさい。 なお, 記載に際しては, 本件契約書のY作成部分の成立の真正に関する争 いについても言及すること。 - 5 - [刑 事] 次の【事例】を読んで, 後記〔設問〕に答えなさい。 【事例】 1 A(35歳, 男性)は, 令和2年1月18日, 「被疑者は, 令和2年1月9日午前1時頃, H 県I市J町1番地K駐車場において, 同所に駐輪中のV所有の大型自動二輪車1台の座席シー ト上にガソリンをかけ, マッチを使用してこれに火を放ち, その火を同車に燃え移らせてこれを 全焼させ, そのまま放置すれば隣接する住宅に延焼するおそれのある危険な状態を発生させ, も って公共の危険を生じさせた。 」旨の建造物等以外放火の被疑事実(以下「本件被疑事実」とい う。 )で通常逮捕され, 同月20日, I地方検察庁の検察官に送致された。 送致記録にある主な証拠の概要は以下のとおりである(以下, 特に年を明示していない日付は 全て令和2年である。 ) 。 @ 1月9日付け捜査報告書 目撃者W(27歳, 女性)から1月9日午前1時3分に119番通報が寄せられた旨が記載 されている。 A 1月9日付けWの警察官面前の供述録取書 「この日, 仕事が遅く終わった私は, 会社を出て少し歩き, 通勤に使っている車を止めて いるK駐車場の中に入った。 すると, 駐輪スペースに止めてある3台のバイクのうち, 真ん 中のバイクの脇に男が1人立っているのに気付いた。 何をしているのだろうと思い, 立ち止 まってその男を見ていると, 男は, 左肘に提げていた白いレジ袋からペットボトルを取り出し, 中に入った液体をそのバイクの座席シート上に振りかけ, そのペットボトルを再びレジ袋に仕 舞った。 そして, 男は, そのレジ袋からマッチ箱を取り出し, その中に入っていたマッチ1本 を擦って火をつけ, これを座席シート上に放り投げた。 その火は瞬く間に座席シート全体に広 がった。 男は, 火が燃え上がる様子を少しの間見ていたが, 私に見られているのに気付くと, 慌てて走り出し, そのまま私とすれ違い, K駐車場を西側出入口から出て南の方向へ逃げてい った。 私が119番通報をしたのはその直後である。 私が見ていた場所は, 男が火をつけて いた場所から約7メートル離れていたが, 付近に街灯があり, 駐車場の敷地内にも照明があ ったので明るく, 視界を遮るものもなかった。 男は, 胸元に白色で『L』と書かれた黒っぽ い色のパーカーを着て, 黒っぽい色のスラックスを履いていた。 私が男の顔を見たのは, まず, 男がバイクに火を放った直後に, 男がその火を見ていた時である。 ただ, この時の男はうつむ き加減だったので, その顔がはっきりと見えたわけではない。 しかし, 私が見ているのに男が 気付いた時, 男がその顔を上げ, 男と視線が合ったので, 私は, この時点ではっきりと男の顔 を見ることができた。 私は, 放火犯人の顔をよく見ておかなければならないと思ったし, すれ 違い様には男の顔を間近で見ることができたので, 男の顔の特徴はしっかりと覚えている。 男 は, 30歳代くらいの小太りで, 私より身長が高く, 170センチメートルくらいあった。 顔 の特徴は, 短めの黒髪で, 眉毛が太く, 垂れ目だった。 なお, 当時, 犯人も私も顔にマスクは 着けておらず, 眼鏡も掛けていなかった。 」 B 1月9日付けV(40歳, 男性)の警察官面前の供述録取書 「放火されたバイクは私が半年前に200万円で購入し, 通勤に使用しているものである。 私は, 自宅アパートから徒歩5分の所にあるK駐車場にこのバイクを駐輪していた。 本日午 前1時30分頃, K駐車場の管理者から電話がかかってきて, 私のバイクが放火されたことを 知り, 急いで現場に駆けつけた。 私には放火されるような心当たりは全くない。 」 - 6 - C 1月9日付け実況見分調書 同日午前2時30分から同日午前3時30分までの間に実施されたV及びW立会に係る実況 見分の内容が記載され, 別紙見取図が添付されている。 現場であるK駐車場は, 月ぎめ駐車場兼駐輪場であり, 同敷地及びその周辺の状況は別紙見 取図のとおりである。 K駐車場西側市道の駐車場出入口付近に街灯が1本設置され, 同駐車場 敷地内に照明が4本設置されている。 被害車両の両隣にはそれぞれ大型自動二輪車が1台ずつ 駐輪されており, 被害車両の火が消し止められなかった場合には, その両隣の車両に燃え移る 危険があり, 風向きによっては, 現場に止められた他の普通乗用自動車4台や隣接する一戸 建て家屋にも延焼するおそれがあった。 被害車両は大型自動二輪車で, 車体全体が焼損してお り, 特に車両中央部の座席シートの焼損が激しい。 また, Wが犯行を目撃した地点(別紙見取図の)と, 犯人が火をつけていた地点(同) との距離は6.8メートルであり, 地点と地点の間に視界を遮る物は存在せず, 地点に 立ったWが, 地点に立たせた身長170センチメートルの警察官の顔を識別することができ た。 D 1月9日付け捜査報告書 K駐車場があるH県I市J町の同日午前0時から同日午前4時までの天候は晴れであった旨 の捜査結果が記載されている。 E 1月14日付け鑑定書 被害車両の焼け焦げた座席シートの燃え残りからガソリン成分が検出された旨の鑑定結果が 記載されている。 F 1月15日付け捜査報告書 「現場から南側に約100メートル離れた場所付近の防犯カメラに録画された映像を解析し た結果, 1月9日午前0時55分頃, 現場方向から進行してきた普通乗用自動車が道路脇に停 止し, 運転席から, 白いレジ袋を左手に持ち, 胸元に『L』の白い文字が入った黒っぽい色の パーカーを着て, 黒っぽい色のスラックスを履いた人物が降り, 現場方向に歩いていく様子 が確認され, 同日午前1時3分頃, 同一人物が, 白いレジ袋を左手に持ちながら, 現場方向か ら走って戻ってきて, 同車に乗り込んで発進させ, 現場と反対方向に走り去る様子が確認され た。 また, 同車のナンバーから, その所有者及び使用者がAであることが判明した。 」旨が記 載されている。 G 1月16日付け写真台帳 短めの黒髪で眼鏡を掛けていない30歳代の男性20名の顔写真が貼付されている。 写真番 号13番がAであり, その容貌は眉毛が太く, 垂れ目である。 H 1月16日付けWの警察官面前の供述録取書 (警察官が, Wに対し, 「この中に見覚えがある人がいるかもしれないし, いないかもしれ ない。 」旨告知し, Gの写真台帳を見せたところ) 「写真番号13番の男性が, 私が目撃した犯 人の男に間違いない。 眉毛が太くて垂れ目なところがそっくりである。 私は, この男と面識は ない。 」 I 1月17日付けVの警察官面前の供述録取書 「刑事からAの顔写真を見せられたが, 昨年11月までうちの会社にいた元部下である。 彼 に恨まれるような心当たりはない。 」 J 1月18日付けA方の捜索差押調書 同日, A立会いの下, A方を捜索したところ, 胸元に白色で「L」と書かれた黒地のパーカ ー1着, 紺色のスラックス1着及び携帯電話機1台が発見されたので, これらを差し押さえて 押収した旨が記載されている。 K 1月18日付けAの警察官面前の弁解録取書 - 7 - 「被疑事実は, 全く身に覚えがない。 1月9日午前1時頃は1人で自宅にいた。 」 L 1月19日付けAの警察官面前の供述録取書 「私は, 自宅で一人暮らしをしている。 酒気帯び運転の罰金前科が1犯ある。 婚姻歴はない。 昨年11月まではバイク販売の営業の仕事をしていたが, 勤務先での人間関係が嫌になったの で退社し, 昨年12月から今の会社で自動車販売の営業の仕事をしている。 平日は午前9時か ら午後5時まで, 会社で事務仕事をしたり, 営業先を回ったりしている。 自宅から車で10分 の所に両親が住む実家がある。 父は70歳, 母は65歳であり, 二人とも無職で, 毎日実家に いる。 私は貯金がほとんどなく, 両親も収入は年金だけであるため, 生活は楽ではない。 私の 身長は169センチメートル, 体重は80キログラムである。 私も両親も, これまで健康を害 したことはない。 」 2 検察官は, Aの弁解録取手続を行い, 以下の弁解録取書を作成した。 M 1月20日付けAの検察官面前の弁解録取書 K記載の内容と同旨。 3 同日, 検察官がAにつき本件被疑事実で勾留請求をしたところ, Aは, 勾留質問において, 「本 件被疑事実について身に覚えがない。 」と供述した。 同日, 裁判官は, 刑事訴訟法第207条第1項本文, 第60条第1項第2号及び第3号に当た るとして, 本件被疑事実でAを勾留した。 同日, Aに国選弁護人(以下, 単に「弁護人」という。 )が選任された。 4 弁護人は, 同日中に, 勾留されているAと接見した。 その際, Aは, 弁護人に対し, L記載の 内容と同旨のことに加え, 逮捕当日にA方が捜索されて, パーカー, スラックス及び携帯電話機 が押収されたことを告げたほか, 「自分は放火などしていない。 1月9日午前1時頃は家にいた。 不当な勾留だ。 両親や勤務先の上司に, 自分が無実の罪で捕まっていると伝えてほしい。 」と述 べた。 弁護人は, 1月22日, Aの勾留を不服として裁判所に準抗告を申し立て, その申立書に以 下の疎明資料及びを添付した。 Aの両親の誓約書 「Aを私たちの自宅で生活させ, 私たちが責任をもってAを監督します。 また, Aに事件関 係者と一切接触させないことを誓約します。 」 Aの勤務先上司の陳述書(同人の名刺が添付されているもの) 「Aは当社の業務の遂行に不可欠な人材です。 Aがいないと, Aが取ってきた商談が潰れて しまいます。 Aには早く職場に復帰してもらい, 継続的に働いてもらいたいです。 」 これに対し, 裁判所は, 同日, 弁護人の準抗告を棄却した。 5 その後, 検察官は所要の捜査を行い, 以下の証拠等を収集した。 なお, Aは黙秘に転じたため, Aの供述録取書は一切作成されなかった。 N 2月3日付け捜査報告書 1月14日実施のWの健康診断結果記載書の写しが添付されており, 同記載書には, Wの視 力は左右とも裸眼で1.2であり, 色覚異常も認められない旨が記載されている。 O 2月3日付けWの検察官面前の供述録取書 A及びH記載の内容と同旨。 6 検察官は, V所有の大型自動二輪車に放火したのはAである旨のW供述は信用できると判断 し, 勾留期限までに, Aについて, I地方裁判所に本件被疑事実と同一内容の公訴事実で公訴を 提起した。 7 第1回公判期日において, A及び弁護人は, Aは犯人ではなく無罪である旨主張した。 弁護人は, 検察官が犯行目撃状況を立証するために取調べを請求したC及びOの証拠について, 「Cについては, 別紙見取図を含め, Wによる現場指示説明部分を不同意とし, その余の部分は - 8 - 同意する。 Oは全部不同意とする。 」との意見を述べ, 裁判所は, Cに関し, 弁護人の同意があ った部分を取り調べた。 引き続き, 検察官はWの証人尋問を請求し, 同証人尋問が第2回公判期 日に実施されることになった。 8 検察官は, 第2回公判期日前, Wと打合せを行った。 その際, Wは, 検察官から各種の証人保 護制度について教示を受けた後, 「Aは人のバイクに放火するような人間なので, 復しゅうが怖 い。 Aに見られていたら証言できない。 それに, 私は人前で話すのも余り得意ではないので, 傍 聴人にも見られたくない。 I地方裁判所に出頭して証言すること自体は構わないが, ビデオリン ク方式にした上で, 遮へい措置を採ってもらいたい。 」と申し出た。 検察官は, その申出を踏 まえ, AとWとの間の遮へい措置のみを採るのが相当である旨考え, Wと協議した上で, 裁判所 に対してその旨の申立てをし, 裁判所は, AとWとの間の遮へい措置を採る決定をした。 9 第2回公判期日におけるWの証人尋問の主尋問において, WがAの犯行を目撃した際のAとW の位置関係を供述した後, 検察官が, その位置関係の供述を明確にするため, 裁判長に対し, C の実況見分調書添付の別紙見取図の写しをWに示して尋問することの許可を求めたところ, 裁 判長は, 検察官に対し, 「見取図から, 立会人の現場指示に基づいて記入された記号などは消さ れていますか。 」と尋ね, 釈明を求めた。 これに対し, 検察官が「消してあります。 」と釈明した ため, 裁判長は, 前記写し(ただし, 及びの各記号を消したもの)をWに示して尋問するこ とを許可した。 〔設問1〕 1 下線部に関し, 準抗告申立書に疎明資料及びを添付すべきと判断した弁護人の思考 過程について, 具体的事実を指摘しつつ答えなさい。 2 下線部に関し, 弁護人の準抗告を棄却すべきと判断した裁判所の思考過程について, 具体 的事実を指摘しつつ答えなさい。 ただし, 罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由の有無に ついては言及する必要はない。 〔設問2〕 下線部に関し, W供述の信用性が認められると判断した検察官の思考過程について, 具体的 事実を指摘しつつ答えなさい。 なお, 証拠@, BからG(ただし, Cのうち, Wによる現場指示 説明部分を除く。 ) , I, J, L及びNに記載された内容については, 信用性が認められることを 前提とする。 〔設問3〕 下線部に関し, AとWとの間の遮へい措置のみを採るのが相当と判断した検察官の思考過 程について, 刑事訴訟法の条文上の根拠に言及しつつ答えなさい。 〔設問4〕 裁判長が検察官に下線部の釈明を求めた理由について, 証人尋問に関する規制及びその趣旨 に言及しつつ答えなさい。 - 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