令和3年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨 [憲 法] A県B市の中心部には,江戸時代に宿場町として栄え現在もその趣を濃厚に残しているC地区 があり,B市の住民DらはC地区の歴史的な環境を維持し向上させるための運動を続けてきた。そ の結果,C地区の看板等の7割程度が街並み全体に違和感なく溶け込んだ江戸時代風のものとなっ ているが,Dらはそれでもまだ不十分だと考えている。他方,C地区の整備が進み多くの観光客が 訪れるようになると,観光客を目当てにして,C地区の歴史・伝統とは無関係の各種のビラが路上 で頻繁に配布されるようになり,Dらは,C地区の歴史的な環境が損なわれることを心配するよう になった。そこで,DらはC地区の歴史的な環境を維持し向上させるための条例の制定をB市に要 望した。この要望を受けて,B市は「B市歴史的環境保護条例」案をまとめた。 条例案では,市長は,学識経験者からなるB市歴史的環境保護審議会の意見を聴いた上で,歴 史的な環境を維持し向上させていくために特に規制が必要な地区を「特別規制区域」に指定する ことができる(C地区を特別規制区域に指定することが想定されている。)。そして,特別規制区 域については,当該地区の歴史的な環境を維持し向上させていくという目的で,建造物の建築又 は改築,営業活動及び表現活動などが制限されることになる。このうち表現活動に関わるものと しては,広告物掲示の原則禁止と路上での印刷物配布の原則禁止とがある。 まず第一に,特別規制区域に指定された日以降に,特別規制区域内で広告物(看板,立看板, ポスター等。表札など居住者の氏名を示すもので,規則で定める基準に適合するものを除く。)を 新たに掲示することは禁止される(違反者は罰金刑に処せられる。)。しかし,市長が「特別規制 区域の歴史的な環境を向上させるものと認められる」として許可を与える場合には,広告物を掲 示することができる。 条例案の取りまとめに携わったB市の担当者Eによれば,この広告物規制の趣旨は,江戸時代 に宿場町として栄えたC地区の歴史的な環境を維持し向上させていくためには,屋外広告物は原 則として認めるべきではない,ということにある。また,Eは,「特別規制区域の歴史的な環境 を向上させるものと認められる」かどうかは,当該広告物が伝えようとしているテーマ,当該広 告物の形状や色などを踏まえて総合的に判断されるが,単に歴史的な環境を維持するにとどまる 広告物は「向上させるもの」と認められない,と説明している。 第二に,特別規制区域内の路上での印刷物(ビラ,チラシ等)の配布は禁止される(違反者は 罰金刑に処せられる。)。しかし,特別規制区域内の店舗の関係者が自己の営業を宣伝する印刷物 を路上で配布することは禁止されない。これは,担当者Eの説明によれば,そのような印刷物は C地区の歴史・伝統に何らかの関わりのあるものであって,C地区の歴史的な環境を損なうとは 言えないからである。 「B市歴史的環境保護条例」案のうち,表現活動を規制する部分の憲法適合性について論じな さい。なお,同条例案と屋外広告物法・屋外広告物条例,道路交通法などの他の法令との関係に ついては論じなくてよい。 (出題の趣旨) 本問は,地域の歴史的な環境を維持し向上させていくためになされる表現活動 の規制について,憲法第21条等との関連で検討することを求めるものである。 本問の条例案は,歴史的な環境を維持し向上させていくために特に規制が必要な 地区である「特別規制区域」について広告物掲示と印刷物配布の規制をするとし ている。 街の美観風致の維持のための屋外広告物法・条例について,大阪市屋外広告物条 例事件判決(最大判昭和43年12月18日)は「公共の福祉」論により簡単に 合憲であるとしたが,「特別規制区域」における広告物規制は原則的に広告物掲示 を禁止するものであるから,屋外広告物法・条例よりも強力な規制である。表現の 自由が民主主義国家の基盤をなし,国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要な ものであるということも踏まえれば,より緻密な合憲性の判断が必要であろう。 まず,表現内容規制・内容中立的規制二分論を採る場合,この広告物掲示の原 則禁止が表現内容規制か表現内容中立的規制かを検討する必要がある。その際, 例外的に掲示が許される「特別規制区域の歴史的な環境を向上させるものと認め られる」場合に当たるかどうかは,市長によって当該広告物が伝えようとしてい るテーマ等を踏まえて総合的に判断されるということをどう評価するかが問題と なろう。また,市長が広告物のテーマ等を審査した上で広告物の掲示の許可につ いて判断することが,表現活動に対する事前抑制ではないかも論点となる。その 上で,「歴史的な環境を維持し向上させていく」という目的の実現にとって,広告 物掲示の原則禁止まで必要なのかが問われる。特別規制区域の歴史的な環境を維 持するにとどまらず,「向上させるもの」でなければ広告物掲示が認められない点 について着目した検討が望まれる。 さらに,「特別規制区域の歴史的な環境を向上させるものと認められる」という 許可基準が,表現の自由を規制する法令の定めとして,あるいは,刑罰法規の構 成要件の一部を定めるものとして,不明確に過ぎないかも検討しなければならな い。この点は,徳島市公安条例事件判決(最大判昭和50年9月10日)の基準を 参考にすべきであろう。また,合憲限定解釈を試みるのであれば,表現の自由を規 制する法律の合憲限定解釈についての税関検査事件判決(最大判昭和59年12月 12日)の判示が参考になろう。 印刷物配布の規制についても,まず合憲性判断の枠組み又は基準を設定する必 要があるが,その際,道路が本来的に表現活動に開かれている場所であることが 踏まえられなければならない。さらに,表現内容規制か表現内容中立的規制かに ついては広告物規制の場合とはまた別の考察が必要である。その際,特別規制区 域内の店舗の関係者が自己の営業を宣伝する印刷物を配布する場合以外は全て路 上での印刷物配布が禁止されていることをどう評価するかが問題となる。印刷物 配布の原則禁止の合憲性を判断する枠組み又は基準を設定した上で,この規制が 「歴史的な環境を維持し向上させていく」という目的の実現のためにどれほど必要 かが問われることになる。その際,果たして店舗の関係者が通行人に対して自己 の営業を宣伝するために配布する印刷物が地域の歴史的な環境を損なわないと言 えるのか,店舗の関係者以外の者が配布する印刷物であっても店舗の関係者によ る印刷物以上に地域の歴史的な環境の維持,向上に資するものもあるのではない かといった点を考慮することになろう。 [行政法] Aは,B県知事から,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「法」という。)第14条の4 第1項に基づき,特別管理産業廃棄物に該当するポリ塩化ビフェニル廃棄物(以下「PCB廃棄物」 という。)について収集運搬業(積替え・保管を除く。)の許可を受けている特別管理産業廃棄物収 集運搬業者(以下「収集運搬業者」という。)である。PCB廃棄物の収集運搬業においては,積 替え・保管が認められると,事業者から収集したPCB廃棄物が収納された容器を運搬車から一度 下ろし,一時的に積替え・保管施設内で保管し,それを集積した後,まとめて別の大型運搬車で処 理施設まで運搬することができるので効率的な輸送が可能となる。しかし,Aは,積替え・保管が できないため,事業者から排出されたPCB廃棄物の収集量が少なく運搬車の積載量に空きがあっ ても,遠隔地にある処理施設までそのまま運搬しなければならず,輸送効率がかなり悪かった。そ こで,Aは,自らが積替え・保管施設を建設してPCB廃棄物の積替え・保管を含めた収集運搬業 を行うことで輸送効率を上げようと考えた。同時に,Aは,Aが建設する積替え・保管施設におい ては,他の収集運搬業者によるPCB廃棄物の搬入・搬出(以下「他者搬入・搬出」という。)も 行えるようにすることで事業をより効率化しようと考えた。Aは,B県担当者に対し,前記積替え ・保管施設の建設に関し,他者搬入・搬出も目的としていることを明確に伝えた上でB県の関係す る要綱等に従って複数回にわたり事前協議を行い,B県内のAの所有地に高額な費用を投じ,各種 規制に適合する相当規模の積替え・保管施設を設置した。B県知事は,以上の事前協議事項につい てB県担当課による審査を経て,Aに対し,適当と認める旨の協議終了通知を送付した。その後, Aは,令和3年3月1日,PCB廃棄物の積替え・保管を含めた収集運搬業を行うことができるよ うに,法第14条の5第1項による事業範囲の変更許可の申請(以下「本件申請」という。)をし た。なお,本件申請に係る書類には,他者搬入・搬出に関する記載は必要とされていなかった。 B県知事は,令和3年6月21日,本件申請に係る変更許可(以下「本件許可」という。)をし たが,「積替え・保管施設への搬入は,自ら行うこと。また,当該施設からの搬出も,自ら行うこ と。」という条件(以下「本件条件」という。)を付した。このような内容の条件を付した背景には, 他者搬入・搬出をしていた別の収集運搬業者の積替え・保管施設において,保管量の増加と保管期 間の長期化によりPCB廃棄物等の飛散,流出,異物混入などの不適正事例が発覚し,社会問題化 していたことがあった。そこで,B県知事は,特別管理産業廃棄物の性状等を踏まえ,他者搬入・ 搬出によって収集・運搬に関する責任の所在が不明確となること,廃棄物の飛散,流出,異物混入 などのおそれがあること等を考慮して,本件申請直前に従来の運用を変更することとし,本件許可 に当たり,B県で初めて本件条件を付することになった。 本件条件は法第14条の5第2項及び第14条の4第11項に基づくものであった。しかし, Aは,近隣の県では本件条件のような内容の条件は付されていないのに,B県においてのみ本件条 件が付された結果,当初予定していた事業の効率化が著しく阻害されると考えている。また,Aは, 本件条件が付されることについて,事前連絡を受けておらず,事前協議が無に帰してしまい裏切ら れたとの思いから,強い不満を持っている。 以上を前提として,以下の設問に答えなさい。 なお,法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(以下「法施行規則」という。)の抜 粋を【資料】として掲げるので,適宜参照しなさい。 〔設問1〕 本件条件に不満を持つAは,どのような訴訟を提起すべきか。まず,本件条件の法的性質を明 らかにし,次に,行政事件訴訟法第3条第2項に定める取消訴訟について,考えられる取消しの対 象を2つ挙げ,それぞれの取消判決の効力を踏まえて検討しなさい。なお,解答に当たっては,本 件許可が処分に当たることを前提にしなさい。また,取消訴訟以外の訴訟及び仮の救済について検 討する必要はない。 〔設問2〕 Aは,取消訴訟において,本件条件の違法性についてどのような主張をすべきか。想定される B県の反論を踏まえて検討しなさい。なお,本件申請の内容は,法施行規則第10条の13等の各 種基準に適合していることを前提にしなさい。また,行政手続法上の問題について検討する必要は ない。 【資料】 〇 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(抜粋) (目的) 第1条 この法律は,廃棄物の排出を抑制し,及び廃棄物の適正な分別,保管,収集,運搬,再生, 処分等の処理をし,並びに生活環境を清潔にすることにより,生活環境の保全及び公衆衛生の向 上を図ることを目的とする。 (定義) 第2条 5 1〜4 (略) この法律において「特別管理産業廃棄物」とは,産業廃棄物のうち,爆発性,毒性,感染性その 他の人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがある性状を有するもの(中略)をいう。 6 (略) (国及び地方公共団体の責務) 第4条 2 (略) 都道府県は,(中略)当該都道府県の区域内における産業廃棄物の状況をはあくし,産業廃棄物 の適正な処理が行なわれるように必要な措置を講ずることに努めなければならない。 3〜4 (略) (特別管理産業廃棄物処理業) 第14条の4 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を業として行おうとする者は,当該業を行おうと する区域(運搬のみを業として行う場合にあつては,特別管理産業廃棄物の積卸しを行う区域に 限る。)を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。(以下略) 2〜4 5 (略) 都道府県知事は,第1項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,同項 の許可をしてはならない。 一 その事業の用に供する施設及び申請者の能力がその事業を的確に,かつ,継続して行うに足 りるものとして環境省令で定める基準に適合するものであること。 二 (略) 6〜10 11 (略) 第1項(中略)の許可には,生活環境の保全上必要な条件を付することができる。 12〜14 15 (略) 特別管理産業廃棄物収集運搬業者(中略)以外の者は,特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を (中略)受託してはならない。 16〜18 (略) (変更の許可等) 第14条の5 特別管理産業廃棄物収集運搬業者(中略)は,その特別管理産業廃棄物の収集若しく は運搬又は処分の事業の範囲を変更しようとするときは,都道府県知事の許可を受けなければな らない。(以下略) 2 前条第5項及び第11項の規定は,収集又は運搬の事業の範囲の変更に係る前項の許可について (中略)準用する。 3〜5 (略) 〇 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和46年厚生省令第35号)(抜粋) (特別管理産業廃棄物収集運搬業の許可の基準) 第10条の13 法第14条の4第5項第1号(法第14条の5第2項において準用する場合を含 む。)の規定による環境省令で定める基準は,次のとおりとする。 一 施設に係る基準 イ 特別管理産業廃棄物が,飛散し,及び流出し,並びに悪臭が漏れるおそれのない運搬車, 運搬船,運搬容器その他の運搬施設を有すること。 ロ〜ホ ヘ (略) 積替施設を有する場合には,特別管理産業廃棄物が飛散し,流出し,及び地下に浸透し, 並びに悪臭が発散しないよう必要な措置を講じ,かつ,特別管理産業廃棄物に他の物が混入 するおそれのないように仕切り等が設けられている施設であること。 二 申請者の能力に係る基準 イ 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を的確に行うに足りる知識及び技能を有すること。 ロ (略) ハ 特別管理産業廃棄物の収集又は運搬を的確に,かつ,継続して行うに足りる経理的基礎を 有すること。 (出題の趣旨) 本問は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づき特別管理産業廃棄物収集運 搬業の許可を受けている収集運搬業者が,その事業範囲の変更許可を申請したのに 対し,行政庁が一定の条件(以下「本件条件」という。)を付した上で変更許可(以 下「本件許可」という。)をしたという事実を基にして,行政処分の附款に関わる 訴訟方法及びその実体法上の制約について,基本的な知識・理解を試す趣旨の問題 である。 設問1は,本件条件に不満がある場合において,いかなる訴訟を提起すべきかを 問うものである。本件条件は本件許可の附款という性質を有することから,本件許 可の取消訴訟において本件条件の違法性を争うことができるか,本件条件の取消訴 訟を提起すべきかが主に問題となる。その際,本件許可と本件条件が不可分一体の 関係にあるか否か,それぞれの取消訴訟における取消判決の形成力,拘束力(行政 事件訴訟法第33条)について,本件の事実関係及び法令の諸規定を基に論ずるこ とが求められる。 設問2は,取消訴訟における本件条件の違法性に関する主張を問うものである。 とりわけ,本件条件が付されたことに関して主に比例原則と信頼保護について,本 件事実関係及び法令の諸規定とその趣旨を指摘し,また,信頼保護に関する裁判例 (最高裁判所昭和62年10月30日第三小法廷判決など)を踏まえ,本件条件の 違法性を論ずることが求められる。 [民 法] 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事実】 1.Aは,酒類及び食品類の卸売を主たる業務とする株式会社である。令和3年4月頃,Aは,冷 蔵保存を要する高級ワインの取扱いを新しく開始することを計画し,海外から酒類を輸入販売 することを主たる業務とする株式会社Bと協議を重ねた上で,同年6月1日,Bとの間で,以 下の内容の売買契約を締結した(以下「本件ワイン売買契約」という。)。 当事者 買主A,売主B 目的物 冷蔵倉庫甲に保管中の乙農園の生産に係るワイン1万本(以下「本件ワイン」という。) 代 5000万円 金 引渡日 令和3年9月1日 また,Aは,Bとの交渉の際に,本件ワインの引渡日までに高級ワインの保存に適した冷蔵倉 庫を購入し又は賃借することを予定しており,本件ワインの販売が順調であれば,将来的には取 り扱う高級ワインの種類や数量も増やしていく予定であることを伝えていた。なお,本件ワイン と同種同等のワインは他に存在しない。 2.ところが,令和3年7月末になっても,Aの事業計画に適した冷蔵倉庫は見つからず,購入や 賃借の見込みは全く立たなかった。そこで,Aは,Bに対して,適切な規模の冷蔵倉庫が見つ かるまでの当面の保管場所として同人の所有する冷蔵倉庫甲を借りたいと伝えて,交渉し,B の了承を得て,同年8月27日,冷蔵倉庫甲を,賃料を月20万円とし,賃借期間を同年9月 1日から1年間の約定で賃借する旨の契約を締結した(以下「本件賃貸借契約」という。)。B は,翌28日,冷蔵倉庫甲から本件ワイン以外の酒類を全て搬出し,本件賃貸借契約の開始に 備えた。 3.令和3年8月30日未明,冷蔵倉庫甲に隣接する家屋において落雷を原因とする火災が発生し, 高熱によって冷蔵倉庫甲の配電設備が故障した。同日夕方頃に同火災は鎮火したが,火災によ る高熱に加え,配電設備の故障によって空調機能を喪失していたことから,冷蔵倉庫甲の内部 は異常な高温となり,これによって本件ワインは飲用に適さない程度に劣化してしまった。な お,同日深夜までに配電設備の修理は完了し,冷蔵倉庫甲の空調機能は復旧し,その使用には 何らの支障がなくなっている。 4.令和3年9月1日,Bは,Aに対して,本件ワイン及び冷蔵倉庫甲の引渡しをしようとしたが, Aはこれを拒絶した。 〔設問1〕 Aは,本件ワイン売買契約及び本件賃貸借契約を解除したいと考えている。Bからの反論にも言 及しつつ,Aの主張が認められるかどうかを検討しなさい。 【事実(続き)】 5.Aは,レストラン等に飲料及び食料品等を販売しており,そのため大量の飲料及び食料品等を 貯蔵できる保管用倉庫丙を別に所有していた。倉庫丙は,冷蔵設備を備えた独立した建物であ り,内部には保管のための多くの棚が設置されていた。Aは,複数の製造業者や流通業者から 購入した飲料及び食料品を一旦倉庫丙に貯蔵し,レストラン等からの注文があると,注文の品 を取り出してレストラン等に配送していた。 6.Aは,令和3年10月,一時的に資金不足に陥ったため,日頃から取引のあるCから5000 万円の融資を受けることになり,AとCは,同月1日,金銭消費貸借契約を締結した(以下「本 件金銭消費貸借契約」という。)。本件金銭消費貸借契約を締結するに当たり,AとCは,以下 のような合意をした(以下「本件譲渡担保契約」という。)。 @ Aは,AのCに対する本件金銭消費貸借契約に係る貸金債務を担保するために,倉庫丙内 にある全ての酒類(アルコール分1パーセント以上の飲料をいう。以下同じ。)を目的物と して,Cに対してその所有権を譲渡し,占有改定の方法によって引き渡す。 A Aは,通常の営業の範囲の目的のために倉庫丙内の酒類を第三者に相当な価額で譲渡する ことができる。 B Aは,Aにより倉庫丙内の酒類を第三者に譲渡した場合には,遅滞なく同種同品質の酒類 を倉庫丙内に補充する。補充された酒類は,倉庫丙に搬入された時点で,当然に@の譲渡 担保の目的となる。 7.令和3年10月15日,Aは,ウイスキーの流通業者Dから,国産ウイスキー100ダース(以 下「本件ウイスキー」という。)を1200万円で購入した(以下「本件ウイスキー売買契約」 という。)。AとDが締結した本件ウイスキー売買契約には,以下のような条項が含まれていた。 @ 本件ウイスキーの引渡しは,同月20日とし,代金の支払は引渡しの翌11月10日とす る。 A 本件ウイスキーの所有権は,代金の完済をもって,DからAに移転する。 B DはAに対して,本件ウイスキーの引渡日以降,本件ウイスキーの全部又は一部を転売す ることを承諾する。 8.令和3年10月20日,Dは,本件ウイスキー売買契約に従って,本件ウイスキーを倉庫丙に 搬入した。本件ウイスキーは倉庫丙内の他の酒類とともに棚に保管されたが,どのウイスキー が本件ウイスキーかは判別できる状態にあった。 9.令和3年11月10日,Aは,本件ウイスキーの代金1200万円をDに支払わなかった。こ のためDが,本件ウイスキーの引渡しをAに対して求めたところ,Aは,Cから,@倉庫丙内 の酒類は,本件譲渡担保契約により担保の目的でCに所有権が譲渡され,対抗要件も具備され ていると主張されているとして,本件ウイスキーの引渡しを渋っている。これに対してDは, A本件譲渡担保契約は何が目的物かもはっきりせず無効であること,B仮に本件譲渡担保契約 が有効であるとしても,本件ウイスキーには,本件譲渡担保契約の効力が及ばないことなどを 主張している。 〔設問2〕 (1) Cは,本件譲渡担保契約の有効性について,第三者に対して主張することができるか, 【事実】 9の@の主張とAの主張に留意しつつ論じなさい。 (2) Dは,Cに対して,本件ウイスキーの所有権を主張することができるか,【事実】9のBの主 張に留意しつつ論じなさい。 (出題の趣旨) 設問1は,制限種類債権の全部が履行不能になったと評価できる事例を題材とし て,その目的が相互に密接に関連付けられている2個の契約の一方の債務不履行を 理由として他方を解除することができるかを問う問題である。どのような場合に履 行不能と評価されるかという問題を通して,債権法の基本的な理解を問うとともに, 複合的契約の債務不履行と解除という応用的な事例について,論理的な思考力及び 事案に応じた当てはめを行うことを求めるものである。 設問2は,集合動産譲渡担保と所有権留保の優劣が問題になり得る事例を題材と して,集合動産譲渡担保及び所有権留保という非典型担保の効力について,事案を 分析して,法的に論述する能力を試す問題である。非典型担保に関する判例法理に ついての基本的な理解を問うだけでなく,非典型担保の法的構成や物権変動論への 理解を組み合わせて,事案に応じた分析及び法的思考に基づく結論を説得的に論述 することが求められる。 [商 法] 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。 )は,医療用検査機器等の製造販売を業とする取締役会設置会社 であり,監査役設置会社である。甲社は種類株式発行会社ではなく,その定款には譲渡による甲社株 式の取得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがある。甲社の発行済株式の総数は100 0株であり,昨年までは創業者であるAがその全てを保有していた。Aは創業以来甲社の代表取締役 でもあったが,昨年高齢を理由に経営の第一線から退いた。Aの後任を選定する取締役会においては, 以前Aが他社から甲社の取締役として引き抜いてきたBが代表取締役に選定された。また,Aは,退 任に際し,Bと,Aの子であるCに,それぞれ100株を適法に譲渡した。その結果,甲社株主は8 00株を保有するAのほか,100株ずつ保有するBとCの3名となった。創業以来,甲社において 株主総会が現実に開かれたことはなく,役員等の選任は,3年前の改選時も含め,Aによる指名をも って株主総会決議に代えていた。また役員報酬や退職慰労金は,役職や勤続年数に応じた算定方法を 定めた内規(以下「本件内規」という。 )を基に,Aの指示によって支払われてきた。そしてAの退任 時も本件内規に従った退職慰労金が支払われた。 2.甲社の定款では,取締役の任期については「選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のも のに関する定時株主総会の終結の時まで」と規定されている。また「代表取締役は取締役会決議によ って定めるものとするが,必要に応じ株主総会の決議によって定めることができる」旨の定めがある。 役員の報酬については定款に定められていない。甲社の取締役は,代表取締役社長であるBのほか, 代表権のない取締役であるC,D及びEの計4名であった。 3.従来,甲社の事業は,医療用検査機器の製造販売が中心であったが,次代の社長を自負するCは, 家庭用検査機器の製造販売を拡充すべきであると主張し,度々Bと経営戦略について対立するように なった。またAも,いずれはCに甲社を継がせたいと考えており,少なくともBと同等の権限をCに も与えるべきであると考えるようになっていた。 4.Aの意向を知ったCは,Bら他の取締役の承諾を得ることなく,自ら「代表取締役副社長」と名乗 って取引先と交渉するようになった。さらに,Cは,Aと相談して了承を得た上で,Cを代表取締役 に選定する臨時株主総会決議があったものとして株主総会議事録を作成し,Cを代表取締役に追加す る旨の登記申請をし,その旨登記された。これらCの一連の行動を,Bら他の取締役が察知すること はなかった。 5.そのような中,Cは,家庭用検査機器の製造販売を拡充するべく部品の調達先を確保しようと考え, 新たに乙株式会社(以下「乙社」という。 )と取引基本契約を締結することとした。Cは,甲社の代表 者印が常に経理担当従業員Fに預けられていることを知っており,契約書に「代表取締役副社長C」 と記名してFに指示して代表者印を押印させた。乙社の代表取締役は,甲社の代表取締役副社長とし て振る舞うCを信頼して取引に応じ,この契約書に記名押印した。その後,乙社が甲社に対して供給 した部品の代金2000万円(以下「本件代金」という。 )の支払を請求したところ,Cによる一連の 行動はBら他の取締役の知るところとなり,BとCとの関係が更に悪化した。Bは,Cは適法な会社 代表者ではなく,甲社は乙社と契約など締結していないとして,本件代金の請求に応じない意向を示 している。 〔設問1〕 甲社に対して本件代金を請求するために,乙社の立場において考えられる主張及びその当否につい て,論じなさい。 6.BとCとの対立は,その後も激化の一途をたどり,ついにCはBを代表取締役から解職することを 決意した。Cは,D及びEの協力を取り付けた上で適法な招集手続を経て取締役会を招集し,Bの解 職と改めてCを代表取締役に選定する旨の決議が成立した。 7.Bは,もはや甲社に自分の居場所はないと考え,取締役を辞任することを決意した。Aは強く翻意 を促したが,Bは聞き入れず,直後に開催された取締役会で取締役を辞任することを申し入れ,了承 された。Bに申し訳ないことをしたと感じていたAは,Bを引き抜いた際,取締役退任時には本件内 規に基づいて退職慰労金が支給されると説明したことを思い出し,Fに対して,本件内規に基づく退 職慰労金をBに支給することの検討を依頼した。Fは,この依頼に応じ,本件内規に基づいて算定さ れた金額である1800万円の退職慰労金(以下「本件慰労金」という。 )をBに支払った。 8.本件慰労金が支給されてから程なくしてAが死亡した。Aが保有していた甲社株式800株は全て Cが相続によって取得した。Aの死後,Cは,Fから報告を受けた際,Bに本件慰労金が支給された ことを知った。そこで,Cは,甲社として,Bに対して本件慰労金の返還を請求することとした。 〔設問2〕 甲社のBに対する本件慰労金の返還請求の根拠及び内容について説明した上で,これを拒むために, Bの立場において考えられる主張及びその当否について,論じなさい。 (出題の趣旨) 設問1では,Cと乙社との取引が甲社に効果帰属するための主張及びその当否を 指摘することが求められている。具体的には,@Cは甲社の代表取締役として適法 に選定された者といえるかにつき,取締役会設置会社における株主総会による代表 取締役選定に関する定款規定の有効性に関する議論(最判平成29年2月21日参 照)を前提に,Aの承諾をもって株主総会決議としてよいか,さらにCが甲社の代 表取締役であるとは認められない場合であっても,ACが登記簿上は代表取締役で あることから,会社法第908条第2項に基づき,甲社は乙社にCが代表取締役で はないと主張することができないと解する余地があるか,あるいはBCが表見代表 取締役(同法第354条)に該当するために,甲社はCの行為についての責任を負 うと解する余地があるかについて,検討することが期待されている。上記A及びB を検討するに当たっては,大株主であるAの関与や代表者印の管理不備の問題をど のように評価するかがポイントとなる。 設問2では,本件慰労金の返還請求の根拠・内容として,本件慰労金が取締役の 報酬等(会社法第361条第1項)に当たることを前提に,本件慰労金の支給につ いて定款の定めも株主総会決議もないことから,Bは本件慰労金相当額の具体的請 求権を有しているとはいえず,本件慰労金は不当利得となることを指摘することが 求められる。本件慰労金の返還を拒むために,Bの立場からは,本件慰労金を不確 定額の報酬(同項第2号)と捉えて,AがBをスカウトした際にその支給を約束し, かつその当時は甲社の全株式を有していたAがその支給について同意したと主張す ることが考えられる。また,甲社における取締役報酬支給の慣行,AがBをスカウ トした際の説明,及び本件慰労金の返還請求に至った経緯等を前提とすると,甲社 による本件慰労金の返還請求は信義則に反し,権利濫用に当たると主張することが 考えられる(最判平成21年12月18日参照)。 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,7:3) 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例】 Xは,Yに対して貸付債権を有していた(以下「本件貸付債権」という。 )が,Xの本件貸付債権の 回収に資すると思われるのは,Yがその母親から相続によって取得したと思われる一筆の土地(以下 「本件不動産」という。 )のみであった。不動産登記記録上,本件不動産は,相続を登記原因とし,Y とその兄であるZの,法定相続分である2分の1ずつの共有とされていたが,Xは,YとZが遺産分 割協議を行い,本件不動産をYの単独所有とすることに合意したとの情報を得ていた。 そこで,Xは,本件不動産のZの持分となっている部分について,その所有者はZではなくYであ ると主張し,本件貸付債権を保全するため,Yに代位して,Zを被告として,本件不動産のZの持分 2分の1について,ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続をすることを求める 訴えを提起した(以下「本件訴訟」という。 ) 。 〔設問1〕 ((1)と(2)は,独立した問題である。 ) (1) Yとしては,Xの主張する本件貸付債権は既に弁済しており,XY間には債権債務関係はないと 考えている。他方,本件不動産のZの持分の登記については,遺産分割協議に基づいて,自己に登 記名義を移転してほしいと考えている。 この場合に,Yが本件訴訟に共同訴訟参加をすることはできるか,訴訟上考え得る問題点を挙げ て,検討しなさい。 (2) Xの得ていた情報とは異なり,YZ間の遺産分割協議は途中で頓挫していた。そのため,Yとし ては,Zに対して登記名義の移転を求めるつもりはない。他方,YがXY間には債権債務関係はな いと考えている点は,(1)と同様である。 この場合に,Yが本件訴訟に独立当事者参加をすることはできるか,訴訟上考え得る問題点を挙 げて,検討しなさい。 〔設問2〕 〔設問1〕の場合と異なり,本件訴訟係属中に,XからYに対して訴訟告知がされたものの,Yが 本件訴訟に参加することはなく,XとZのみを当事者として訴訟手続が進行し,その審理の結果,X の請求を棄却する旨の判決がされ(以下「本件判決」という。 ) ,同判決は確定した。 本件判決の確定後,Yの債権者であるAは,その債権の回収を図ろうとし,Yの唯一の資産と思わ れる本件不動産の調査を行う過程で,既にXから本件訴訟が提起され,Xの請求を棄却する本件判決 が確定している事実を初めて知った。 Aとしては,本件不動産についてYの単独所有と考えており,Yに代位して,Zを被告として,本 件不動産のZの持分2分の1について,ZからYに対して遺産分割を原因とする所有権移転登記手続 を求める訴えを提起することを検討しているが,確定した本件判決の効力がAに及ぶのではないか, という疑問を持った。 本件判決の効力はAに及ぶか,本件判決の既判力がYに及ぶか否かの検討を踏まえて答えなさい。 (出題の趣旨) 本問は,債権者代位訴訟に関する訴訟法上の論点について,民法改正も踏まえた基本的 理解を問うものであり,いずれの設問も,条文上の根拠を明確にし,いかなる要件や効果 との関係で問題となるのか,問題の所在を適切に指摘することがまずは求められる。 〔設問1〕では,債務者が本問の事実状況において,当事者として債権者代位訴訟へど のような形で関与し得るかが問われており,その形態として,共同訴訟参加と独立当事者 参加の検討を求めている。設問1(1)は,まずYがXに共同訴訟参加する場合の一般的要件 として,当事者適格の存在や合一確定の必要を論じた上で,次に本問の事実状況からはY の主張によればXとYが共同訴訟人としての協力関係にないことがうかがわれるため,そ の点を踏まえてなお共同訴訟参加を認めることが適当か,合一確定の要請等も踏まえ,分 析する論述が求められる。設問1(2)では,債権者代位訴訟における債権者の被保全債権の 存否を争っているため,独立当事者参加として片面的な権利主張参加の可否が問題となる。 Yの主張するところをXに対する本件貸付債権に係る債務の不存在確認請求と法律構成し た上で,権利主張参加の可否に関し,例えば,請求の非両立性といった規範を定立し,X とYの各請求内容やそれを基礎付ける主張事実を比較した場合はどうかにつき,Yにとっ て本件訴訟を牽制する必要性が高いという実質的観点も踏まえ,本件事案に即して具体的 に検討されているかが問われている。 〔設問2〕は,債権者代位訴訟の判決効に関する問題である。まず債権者代位訴訟にお ける既判力が債務者(Y)に及ぶかについて,改正後の民法下での理論構成を論じること が求められる。その上で,本件訴訟の判決効を代位債権者以外の債権者(A)に拡張する ことが肯定されるかを,第三債務者(Z)の保護等の観点も勘案しつつ,その理論構成と 合わせて検討されているかを問うものである。 [刑 法] 以下の事例に基づき,甲及び乙の罪責について論じなさい(住居等侵入罪及び特別法違反の点を除く。 ) 。 1 甲(50歳)は,実父X(80歳)と共同して事業を営んでいたが,数年前にXが寝たきり状態にな った後は単独で事業を行うようになり,その頃から売上高の過少申告等による脱税を続けていた。甲は, 某月1日,税務署から,同月15日に税務調査を行うとの通知を受け,甲が真実の売上高をひそかに記 録していた甲所有の帳簿(以下「本件帳簿」という。 )を発見されないようにするため,同月2日,事情 を知らない知人のYに対して, 「事務所が手狭になったので,今月16日まで書類を預かってほしい。 」 と言い,本件帳簿を入れた段ボール箱(以下「本件段ボール箱」という。 )を預けた。 Yは,本件段ボール箱を自宅に保管していたが,同月14日,甲の事業の従業員から,本件帳簿が甲 の脱税の証拠であると聞かされた。甲は,税務調査が終了した後の同月16日,Yに電話をかけ,本件 段ボール箱を回収したい旨を告げたが,Yから, 「あの帳簿を税務署に持っていったら困るんじゃないの か。返してほしければ100万円を持ってこい。 」と言われた。 甲は,得意先との取引に本件帳簿が必要であったこともあり,これを取り返そうと考え,同日夜,Y 宅に忍び込み,Yが保管していた本件段ボール箱をY宅から持ち出し,自宅に帰った。 2 甲は,帰宅直後,Yから電話で, 「帳簿を持っていったな。すぐに警察に通報するからな。 」と言われた。 甲は,すぐに警察が来るのではないかと不安になり,やむなく,本件帳簿を廃棄しようと考えた。甲は, 自宅近くの漁港に,沖合に突き出した立入禁止の防波堤が設けられており,そこに空の小型ドラム缶が 置かれていることを思い出し,そのドラム缶に火をつけた本件帳簿を投入すれば,確実に本件帳簿を焼 却できると考えた。そこで,甲は,同日深夜,本件段ボール箱を持って上記防波堤に行き,本件帳簿に ライターで火をつけて上記ドラム缶の中に投入し,その場を立ち去った。 その直後,火のついた多数の紙片が炎と風にあおられて上記ドラム缶の中から舞い上がり,周囲に飛 散した。上記防波堤には,油が付着した無主物の漁網が山積みにされていたところ,上記紙片が接触し たことにより同漁網が燃え上がり,たまたま近くで夜釣りをしていた5名の釣り人が発生した煙に包ま れ,その1人が同防波堤に駐車していた原動機付自転車に延焼するおそれも生じた。なお,上記防波堤 は,釣り人に人気の場所であり,普段から釣り人が立ち入ることがあったが,甲は,そのことを知らず, 本件帳簿に火をつけたときも,周囲が暗かったため,上記漁網,上記原動機付自転車及び上記釣り人5 名の存在をいずれも認識していなかった。 3 甲は,妻乙(45歳)と2人で生活していたところ,乙と相談の上,入院していたXを退院させ,自 宅で数か月間,その介護を行っていたが,自力で移動できず回復の見込みもないXは,同月25日から, 甲及び乙に対して,しばしば「死にたい。もう殺してくれ。 」と言うようになった。甲は,Xが本心から 死を望んでいると思い,その都度Xをなだめていた。しかし,Xは本心では死を望んでおらず,乙もX の普段の態度から,Xの真意を認識していた。 乙は,同月30日,甲の外出中,Xの介護に疲れ果てたことから,Xを殺害しようと決意し,Xの居 室に行き, 「もう限界です。 」と言ってXの首に両手を掛けた。これに対し,Xは,乙に「あれはうそだ。 やめてくれ。 」と言ったが,乙は,それに構わず,殺意をもって,両手でXの首を強く絞め付け,Xは失 神した。乙は,その後も,Xの首を絞め続け,その結果,Xは窒息死した。 甲は,Xが失神した直後に帰宅し,乙がXの首を絞めているのを目撃したが,それまでのXの言動か ら,Xが乙に自己の殺害を頼み,乙がこれに応じてXを殺害することにしたのだと思った。甲は,Xが 望んでいるのであれば,そのまま死なせてやろうと考え,乙を制止せずにその場から立ち去った。乙は, その間,甲が帰宅したことに気付いていなかった。 仮に,甲が目撃した時点で,直ちに乙の犯行を止めてXの救命治療を要請していれば,Xを救命でき たことは確実であった。また,甲が乙に声を掛けたり,乙の両手をXの首から引き離そうとしたりする など,甲にとって容易に採り得る措置を講じた場合には,乙の犯行を直ちに止めることができた可能性 は高かったが,確実とまではいえなかった。 (出題の趣旨) 本問は,甲が,脱税の証拠である甲所有の帳簿(以下「本件帳簿」という。 )をYに 預けていたところ,情を知ったYからその返還と引き替えに100万円の支払を求められ たため,Y宅に忍び込み,Yが保管していた本件帳簿が入った段ボール箱をY宅から 持ち出したこと,その後,の犯行を知ったYから警察に通報する旨を告げられた甲 が,本件帳簿を廃棄するため,自宅近くの防波堤で,これに火をつけて燃やしたところ, 火のついた紙片が同防波堤にあった漁網に接触してこれを燃焼させ,その煙が釣り人を 包み,釣り人の原動機付自転車にも延焼するおそれを生じさせたこと,甲の妻乙が, 自宅において,甲の実父Xの首を絞めて窒息死させたところ,甲は,その状況を目 撃しながら,Xが死を望んでいるものと考えてこれを放置してXを死亡させたことを 内容とする事例について,甲及び乙の罪責に関する論述を求めるものである。 については,本件帳簿が甲の所有物であることを踏まえて,これが刑法第242条に いう「他人が占有」する財物に当たるかを検討しつつ,自救行為としての違法性阻却の可 能性も含めて,甲に窃盗罪が成立するか否かに関して,本事例における事実関係を基に検 討する必要がある。 については,本件帳簿が自己所有建造物等以外放火罪の客体に当たることを前提に, 本事例において,同罪における「公共の危険」が発生したといえるか否かを検討するとと もに,これを肯定したときには,同罪の成立に「公共の危険の認識」が必要かどうかを踏 まえた成立罪名を検討する必要がある。 については,乙に殺人罪が成立するところ,甲の不作為による関与の可罰性を検討す るに当たり,作為義務の有無,結果回避可能性の要否,関与類型,抽象的事実の錯誤の処 理等に関する基本的理解を踏まえつつ,本事例における事実関係を適切に当てはめて,甲 の罪責について具体的に検討する必要がある。 いずれについても,各構成要件等の正確な知識,基本的理解や,本事例にある事実を丁 寧に拾って的確に分析した上で当てはめを具体的に行う能力が求められる。 [刑事訴訟法] 次の【事例】を読んで,後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例】 令和2年10月2日午後2時頃,H県I市所在のマンション内にあるV方に2名の男が侵入し,金品を物 色中,帰宅したVと鉢合わせとなり,同男らのうち1名がナイフでVの腕を切り付けた上,もう1名がV の持っていたバッグを奪うという住居侵入,強盗傷人事件が発生した。Vは,犯人らが立ち去った後,直 ちに110番通報し,同日午後2時20分頃,制服を着用したI署の司法警察員PとQがV方に到着した。 Pらは,Vから,犯人らの特徴と奪われたバッグの特徴を聞き出した上,管理人に依頼して同マンション の出入口の防犯カメラ画像を確認した。その結果,同日午後2時1分頃に犯人らと特徴の一致する2名の 男が走り去っていく様子が映っており,そのうち1名は被害品と特徴の一致するバッグを所持していた。 その後,Pらは,同男らの行方を捜した。 同日午後4時頃,Pらは,V方から直線距離で約5キロメートル離れた同市内の路上で,犯人らと特徴の 一致する甲及びもう1名の男を発見した。その際,甲は,被害品と特徴の一致するバッグを持っていた。 そこで,Pは,甲らに対し, 「I署の者ですが,話を聞きたいので,ちょっといいですか。 」と声をかけた。 すると,甲らがいきなり逃げ出し,途中で二手に分かれたことから,Pらは,前記バッグを持っていた甲 を追跡した。甲は,同バッグを投棄して逃走を続けたが,Pらは300メートルくらい走ったところで甲 に追い付き,同日午後4時3分頃,@Pが甲を刑事訴訟法第212条第2項に基づき本件住居侵入,強盗 傷人の被疑事実で逮捕した。もう1名の男は,発見には至らなかった。 甲は,同日午後4時30分頃からI署で開始された弁解録取手続において,本件の主任捜査官である司法 警察員Rに対し, 「私がV方で強盗をしてバッグを奪ったことは間違いない。ナイフでVを切り付けたのは, もう1人の男である。そのナイフは,警察に声をかけられる前に捨てた。捨てた場所は,地図で説明する ことはできないが,近くに行けば案内できると思う。もう1人の男の名前などは言いたくない。 」旨述べた。 同日午後4時50分頃,弁解録取手続が終了し,Rは,直ちに甲にナイフの投棄場所を案内させて,ナイ フの発見,押収及び甲を立会人としたその場所の実況見分を実施しようと考え,捜査員や車両の手配をし た。 同日午後5時頃,出発しようとしたRに対し,甲の父親から甲の弁護人になるように依頼を受けたS弁護 士から電話があり,同日午後5時30分から30分間甲と接見したい旨の申出があった。Rは,S弁護士 が到着し,接見を終えてから出発したのでは,現場に到着する頃には辺りが暗くなることが見込まれてい たことから,S弁護士に対し,今から甲に案内させた上で実況見分を実施する予定があるため接見は午後 8時以降にしてほしい旨述べた。これに対し,S弁護士は,本日中だと前記30分間以外には接見の時間 が取れず,翌日だと午前9時から接見の時間が取れるが,何とか本日中に接見したい旨述べた。Rは,引 き続きS弁護士と協議を行うも,両者の意見は折り合わなかった。そのため,ARは,S弁護士に対し, 接見は翌日の午前9時以降にしてほしい旨伝えて通話を終えた上,予定どおり甲を連れて実況見分に向か った。それまでの間,甲は,弁護人及び弁護人となろうとする者のいずれとも接見していなかった。 〔設問1〕 @の逮捕の適法性について論じなさい。 〔設問2〕 Aの措置の適法性について論じなさい。ただし,@の逮捕の適否が与える影響については論じなくてよい。 (出題の趣旨) 本問は,共犯者2名による住居侵入,強盗傷人事件において,設問1では,事前 に被害者から犯人や被害品の特徴を聴取し,防犯カメラの画像でもこれを確認して いた警察官が,犯行の約2時間後,犯行現場から約5キロメートル離れた路上で, 犯人の特徴と一致する2名の男を発見し,そのうち1名が被害品の特徴と一致する バッグを所持していたことから,その男に声をかけたところ,両名が逃走したため, これを追跡し,途中で上記バッグを投棄した1名を刑事訴訟法第212条第2項に 基づき逮捕(準現行犯逮捕)した事例において,この逮捕が,準現行犯逮捕の要件 を充足するかどうかを検討させることを通じて,準現行犯逮捕が令状主義の例外と して認められる趣旨や,準現行犯逮捕の条文構造を踏まえた具体的事案における適 用のあり方を示すことを求めるものである。設問2では,逮捕された被疑者につい て,間近い時期に被疑者を未発見の凶器の投棄現場に案内させ,その立会の下で同 所の実況見分を実施する確実な予定がある中で,弁護人となろうとする者から,被 疑者との初回の接見を30分後から30分間行いたい旨の申出があったのに対し, 接見の日時を翌日と指定した事例において,接見指定の要件である「捜査のため必 要があるとき」(刑事訴訟法第39条第3項本文)の意義や,初回接見についての 指定内容と同項ただし書の「指定は,被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限 するようなものであってはならない。」との関係についての理解を踏まえて,当該 指定の適否を検討させるものである。その検討においては,最高裁判所の判例(最 高裁平成11年3月24日大法廷判決,最高裁平成12年6月13日第三小法廷判 決等)を意識して自説を展開する必要がある。 設問1及び2のいずれも刑事訴訟法の基本的な学識の有無及び具体的事案におけ る応用力を問う問題である。 [民 事] 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,以下の各設問に答えなさい。 〔設問1〕 弁護士Pは,Xから次のような相談を受けた。 【Xの相談内容】 「私(X)は,娘の夫であるYから,会社員を辞めて骨董品店を開業したいので甲建物を貸してほ しいと頼まれ,Yの意志が固かったことから,これに応ずることにしました。私は,Yとの間で,令 和2年6月15日,私が所有する甲建物について,賃貸期間を同年7月1日から3年間,賃料を月額 10万円として毎月末日限り当月分を支払う,敷金30万円との約定で賃貸借契約(以下「本件賃貸 借契約」という。 )を締結し,Yから敷金30万円の交付を受け,同年7月1日,Yに甲建物を引き渡 しました。私は,契約締結の当日,市販の賃貸借契約書の用紙に,賃貸期間,賃料額,賃料の支払日 及び敷金額を記入し,賃貸人欄に私の氏名を,賃借人欄にYの氏名をそれぞれ記入して,Yの自宅を 訪れ,私とYのそれぞれが自分の氏名の横に押印をし,賃貸借契約書(以下「本件契約書」という。 ) を完成させました。 Yは,間もなく,甲建物で骨董品店を開業しましたが,その経営はなかなか軌道に乗らず,令和2 年7月30日に同月分の賃料の一部として5万円を支払ったものの,それ以降は,賃料が支払われる ことは全くありませんでした。 そこで,私は,Yに対し,令和2年7月分から同年12月分までの賃料合計60万円から弁済済み の5万円を控除した残額である55万円の支払を請求したいと思います。私は,支払が遅れたことに ついての損害金の支払までは求めませんし,私自身が甲建物を利用する予定はありませんので,甲建 物の明渡しも求めません。 なお,Yは,現在,友人であるAに対して,令和2年12月2日に壺を売った50万円の売掛債権 を有しているものの,それ以外には,めぼしい財産を有していないようです。Yは,これまでのとこ ろ,この売掛債権の回収に着手しておらず,督促をするつもりもないようですが,Aがこの代金を支 払ってしまうと,私の未払賃料債権を回収する手段がなくなってしまうので心配しています。 」 弁護士Pは,令和3年1月12日, 【Xの相談内容】を前提に,Xの訴訟代理人として,Yに対し, Xの希望する金員の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を提起することにした。 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Pが,本件訴訟において,Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記載し なさい。 (2) 弁護士Pが,本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。 )において記載すべき請求の趣旨(民事訴 訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。なお,付随的申立てについては,考慮する必要はな い。 (3) 弁護士Pが,本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項) を記載しなさい。 (4) 弁護士Pは,本件訴状において, 「Yは,Xに対し,令和2年7月30日,本件賃貸借契約に基づく 同月分の賃料債務につき,5万円を弁済した。 」との事実を主張した。 (@) 裁判所は,上記事実の主張をもって,本件訴訟における抗弁として扱うべきか否かについて,結 論と理由を述べなさい。 (A) (@)のほかに,上記主張は本件訴訟においてどのような意味を有するか。簡潔に説明しなさい。 〔設問2〕 弁護士Pは,Yから未払賃料を確実に回収するために,Aに対する売掛債権を仮に差し押さえた上で 本件訴訟を提起する方法と,Yに代位してAに対して50万円の売買代金の支払を求める訴えを提起す る方法とを検討したが, 【Xの相談内容】の下線部の事情を踏まえ,後者の方法ではなく,前者の方法を 採ることとした。その理由について説明しなさい。 〔設問3〕 弁護士Qは,本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。 【Yの相談内容】 「(a) 私(Y)は,Xの娘の夫に当たります。 私は,令和2年7月1日から甲建物で骨董品店を営業していますが,Xから甲建物を賃借し たのではなく,無償で甲建物を使用させてもらっています。したがって,私が甲建物の賃料を 支払っていないのは当然のことです。私は,本件契約書の賃借人欄に氏名を書いていませんし, 誰かに指示して書かせたこともありません。私の氏名の横の印影は,私の印鑑によるものです が,私が押したり,また,誰かに指示して押させたりしたこともありません。 (b) ところで,令和3年1月8日,Xの知人を名乗るBが私を訪れました。話を聞くと,令和2 年8月1日,Xに,弁済期を同年10月15日として,50万円を貸したが,一向に返しても らえないので,督促を続けていたところ,令和3年1月5日,Xから,その50万円の返還債 務の支払に代えて,私(Y)に対する令和2年7月分から同年12月分までの合計60万円の 賃料債権を譲り受けたので,賃料を支払ってほしいとのことでした。もちろん,私は,Xから 甲建物を賃借したことなどありませんので,Bの求めには応じませんでした。もっとも,Bの 話が真実であれば,仮にXの言い分のとおり本件賃貸借契約締結の事実が認められたとしても, 私が賃料を支払うべき相手はBであってXではないので,Xからの請求は拒むことができるの ではないでしょうか。ただし,私はXからこの債権譲渡の通知を受けておらず,私がこの債権 譲渡を承諾したこともありません。この場合でも,私はXからの請求を拒めるのか教えてくだ さい。 (c) また,Xの言い分が認められるのであれば,私はXに対して敷金30万円を差し入れている ことになるはずです。したがって,Xの言い分が認められる場合には,上記敷金返還請求権を もって相殺したいと考えています。 」 弁護士Qは, 【Yの相談内容】を前提に,Yの訴訟代理人として,本件訴訟の答弁書(以下「本件答弁 書」という。 )を作成した。 以上を前提に,以下の各問いに答えなさい。 (1) 弁護士Qは, 【Yの相談内容】(b)を踏まえて,本件答弁書において,抗弁を主張した。 (@) 弁護士Qが,本件答弁書において, 【Yの相談内容】(b)に関する抗弁を主張するために主張すべ き要件事実(主要事実)を全て記載しなさい。 (A) 弁護士Qは, 【Yの相談内容】(b)の下線部の質問に対して, 「Xからの請求を拒むことができる」 と回答した。その理由を簡潔に説明しなさい。 (2) 弁護士Qは, 【Yの相談内容】(c)を踏まえて,本件答弁書において抗弁を主張できないか検討した が,その主張は主張自体失当であると考えて断念した。弁護士Qが主張自体失当と考えた理由を簡潔 に説明しなさい。 〔設問4〕 第1回口頭弁論期日において,本件訴状と本件答弁書が陳述された。同期日において,弁護士Pは, 本件契約書を書証として提出し,それが取り調べられ,弁護士Qは,本件契約書のY作成部分につき, 成立の真正を否認し, 「Y名下の印影がYの印章によることは認めるが,Xが盗用した。 」と主張した。 その後,2回の弁論準備手続期日を経た後,第2回口頭弁論期日において,本人尋問が実施され,本 件賃貸借契約の締結につき,Xは,次の【Xの供述内容】のとおり,Yは,次の【Yの供述内容】のと おり,それぞれ供述した(なお,それ以外の者の尋問は実施されていない。 ) 。 【Xの供述内容】 「Yは,私の娘の夫です。私は,令和2年6月頃,Yから, 『この度,会社員を辞めて,小さい頃か らの夢であった骨董品店を経営しようと思います。ついては,空き家になっている甲建物を賃貸して いただけないでしょうか。 』との依頼を受けました。Yの言うとおり,甲建物は長年空き家になってお り,時々様子を見に行くのも面倒でしたので,ちょうどよいと思い,Yに賃貸することにしました。 その後,私とYは賃料額の交渉を行い,私は近隣の相場を参考にして,月額15万円を提案したので すが,Yからは,採算がとれるか不安なので月額10万円にしてくださいと懇願されたため,これに 応ずることにしました。 私は,令和2年6月15日,Yとの間で,私の所有する甲建物について,賃貸期間を同年7月1日 から3年間,賃料を月額10万円として毎月末日限り当月分を支払う,敷金30万円との約定で賃貸 借契約(本件賃貸借契約)を締結しました。私は,契約締結の当日,市販の賃貸借契約書の用紙に, 賃貸期間,賃料額,賃料の支払日及び敷金額を記入し,賃貸人欄に私の氏名を,賃借人欄にYの氏名 をそれぞれ記入して準備をして,Yの自宅を訪れ,私とYのそれぞれが自分の氏名の横に押印をして, 本件契約書を完成させました。また,私は,その際,Yから現金で敷金30万円の交付を受けていま す。本来であれば,Yの方が私の自宅に来るべき筋合いでしたが,私は孫への会いたさから,週に2 日はYの自宅を訪れていましたので,そのついでに契約書を作成することにしたのです。ちなみに, Yは,この時,いわゆる三文判で押印しておりましたが,契約書を作成するのに礼儀知らずだなと思 った記憶があります。 私は,令和2年7月1日,Yに対し,甲建物を引き渡し,Yは甲建物で骨董品店を開業しました。 ところが,Yの骨董品店の経営はなかなか軌道に乗らず,同月30日には,同月分の賃料の一部とし て5万円の支払を受けましたが,それ以降は,賃料が支払われることは全くありませんでした。もっ とも,Yは私の娘の夫ですし,開業当初は何かと大変だろうと考え,その年の年末までは賃料の請求 をするのを差し控えてきましたが,一言の謝罪すらないまま令和3年になりましたので,本件訴訟を 提起することにしました。 なお,最近,私の妻が体調を崩したため,娘はしばしば私の家に泊まって看病をするようにな りましたが,Yと私の娘が別居したという事実はありません。」 【Yの供述内容】 「私は,令和2年6月15日,妻の父であるXから甲建物を借り,同年7月1日から骨董品店の店 舗として使用しています。しかし,甲建物は,Xから無償で借りたものであって,賃借しているもの ではありません。賃貸借契約を締結したのであれば,契約書を作成し,敷金を差し入れるのが通常で すが,私とXとの間では甲建物の使用についての契約書は作成されていませんし,私が敷金を差し入 れたこともありません。Xが書証として提出した本件契約書の賃借人欄の氏名は,明らかにXの筆跡 です。私の氏名の横の印影は,確かに私の印鑑によるものですが,これはいわゆる三文判で,Xが勝 手に押したものだと思います。 令和2年12月中旬だったと思いますが,私と妻が買物に行っている間,Xに私の自宅で子どもの 面倒を見てもらっていたことがあります。恐らく,Xは,その際に,あらかじめ準備しておいた賃貸 借契約書の賃借人欄に私の印鑑を勝手に押したのだと思います。この印鑑は,居間の引き出しの中に 保管していたのですが,Xは週に2日は孫に会いに私の自宅に来ていましたので,その在りかを知っ ていたはずです。 確かに,私は,令和2年7月30日,Xに対し,5万円を支払っていますが,これは,甲建物の賃 料として支払ったものではありません。その年の6月頃にXと私の家族で買物をした際,私が財布を 忘れたため,急きょXから5万円を借りたことがあったのですが,その5万円を返済したのです。 私が骨董品店を開業してからも,令和2年の年末までは,Xから甲建物の賃料の支払を求められた ことはありませんでした。ところが令和3年に入り,私と妻が不仲となり別居したのと時期を同じく して,突然Xが賃料を支払うよう求めてきて困惑しています。私の骨董品店も,次第に馴染みの客が 増えており,経営が苦しいなどということはありません。 」 以上を前提に,以下の問いに答えなさい。 弁護士Qは,本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,準備書面を提出することを予定している。その 準備書面において,弁護士Qは,前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Yの供述内 容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて,XとYが本件賃貸借契約を締結した事実 が認められないことにつき,主張を展開したいと考えている。弁護士Qにおいて,上記準備書面に記載 すべき内容を,提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,答案用紙1頁 程度の分量で記載しなさい。なお,記載に際しては,本件契約書のY作成部分の成立の真正に関する争 いについても言及すること。 (出題の趣旨) 設問1は,賃貸借契約に基づく賃料支払請求権が問題となる訴訟において,原告 の希望に応じた訴訟物,請求の趣旨,請求を理由づける事実及び一部弁済の主張の 訴訟上の位置付けについて説明を求めるものである。賃貸借契約に関する法律要件 や一部請求と一部弁済との関係について正確な理解が問われている。 設問2は,債権回収の手段について原告代理人としての選択を問うものである。 債権者代位権の行使及び仮差押えの効果についての正確な理解が求められる。 設問3は,被告の二つの主張に関し,各主張の位置付けや抗弁となる場合の抗弁 事実の内容を問うものである。実体法及び判例の理解を踏まえながら,本件への当 てはめを適切に検討することが求められる。 設問4は,被告代理人の立場から,本件賃貸借契約を締結した事実が認められな いことに関し準備書面に記載すべき事項を問うものである。文書に作成名義人の印 章により顕出された印影があることを踏まえ,いわゆる二段の推定が働くことを前 提として,自らの主張の位置付けを明らかにすることが求められる。その上で,い かなる証拠によりいかなる事実を認定することができるかを示すとともに,各認定 事実に基づく推認の過程を,本件の具体的な事案に即して,説得的に論述すること が求められる。 [刑 事] 次の【事例】を読んで,後記〔設問〕に答えなさい。 【事例】 1 A(35歳,男性)は,令和2年1月18日,「被疑者は,令和2年1月9日午前1時頃,H 県I市J町1番地K駐車場において,同所に駐輪中のV所有の大型自動二輪車1台の座席シー ト上にガソリンをかけ,マッチを使用してこれに火を放ち,その火を同車に燃え移らせてこれを 全焼させ,そのまま放置すれば隣接する住宅に延焼するおそれのある危険な状態を発生させ,も って公共の危険を生じさせた。」旨の建造物等以外放火の被疑事実(以下「本件被疑事実」とい う。 )で通常逮捕され,同月20日,I地方検察庁の検察官に送致された。 送致記録にある主な証拠の概要は以下のとおりである(以下,特に年を明示していない日付は 全て令和2年である。 ) 。 @ 1月9日付け捜査報告書 目撃者W(27歳,女性)から1月9日午前1時3分に119番通報が寄せられた旨が記載 されている。 A 1月9日付けWの警察官面前の供述録取書 「この日,仕事が遅く終わった私は,会社を出て少し歩き,通勤に使っている車を止めて いるK駐車場の中に入った。すると,駐輪スペースに止めてある3台のバイクのうち,真ん 中のバイクの脇に男が1人立っているのに気付いた。何をしているのだろうと思い,立ち止 まってその男を見ていると,男は,左肘に提げていた白いレジ袋からペットボトルを取り出し, 中に入った液体をそのバイクの座席シート上に振りかけ,そのペットボトルを再びレジ袋に仕 舞った。そして,男は,そのレジ袋からマッチ箱を取り出し,その中に入っていたマッチ1本 を擦って火をつけ,これを座席シート上に放り投げた。その火は瞬く間に座席シート全体に広 がった。男は,火が燃え上がる様子を少しの間見ていたが,私に見られているのに気付くと, 慌てて走り出し,そのまま私とすれ違い,K駐車場を西側出入口から出て南の方向へ逃げてい った。私が119番通報をしたのはその直後である。私が見ていた場所は,男が火をつけて いた場所から約7メートル離れていたが,付近に街灯があり,駐車場の敷地内にも照明があ ったので明るく,視界を遮るものもなかった。男は,胸元に白色で『L』と書かれた黒っぽ い色のパーカーを着て,黒っぽい色のスラックスを履いていた。私が男の顔を見たのは,まず, 男がバイクに火を放った直後に,男がその火を見ていた時である。ただ,この時の男はうつむ き加減だったので,その顔がはっきりと見えたわけではない。しかし,私が見ているのに男が 気付いた時,男がその顔を上げ,男と視線が合ったので,私は,この時点ではっきりと男の顔 を見ることができた。私は,放火犯人の顔をよく見ておかなければならないと思ったし,すれ 違い様には男の顔を間近で見ることができたので,男の顔の特徴はしっかりと覚えている。男 は,30歳代くらいの小太りで,私より身長が高く,170センチメートルくらいあった。顔 の特徴は,短めの黒髪で,眉毛が太く,垂れ目だった。なお,当時,犯人も私も顔にマスクは 着けておらず,眼鏡も掛けていなかった。 」 B 1月9日付けV(40歳,男性)の警察官面前の供述録取書 「放火されたバイクは私が半年前に200万円で購入し,通勤に使用しているものである。 私は,自宅アパートから徒歩5分の所にあるK駐車場にこのバイクを駐輪していた。本日午 前1時30分頃,K駐車場の管理者から電話がかかってきて,私のバイクが放火されたことを 知り,急いで現場に駆けつけた。私には放火されるような心当たりは全くない。 」 C 1月9日付け実況見分調書 同日午前2時30分から同日午前3時30分までの間に実施されたV及びW立会に係る実況 見分の内容が記載され,別紙見取図が添付されている。 現場であるK駐車場は,月ぎめ駐車場兼駐輪場であり,同敷地及びその周辺の状況は別紙見 取図のとおりである。K駐車場西側市道の駐車場出入口付近に街灯が1本設置され,同駐車場 敷地内に照明が4本設置されている。被害車両の両隣にはそれぞれ大型自動二輪車が1台ずつ 駐輪されており,被害車両の火が消し止められなかった場合には,その両隣の車両に燃え移る 危険があり,風向きによっては,現場に止められた他の普通乗用自動車4台や隣接する一戸 建て家屋にも延焼するおそれがあった。被害車両は大型自動二輪車で,車体全体が焼損してお り,特に車両中央部の座席シートの焼損が激しい。 また,Wが犯行を目撃した地点(別紙見取図の)と,犯人が火をつけていた地点(同) との距離は6.8メートルであり,地点と地点の間に視界を遮る物は存在せず,地点に 立ったWが,地点に立たせた身長170センチメートルの警察官の顔を識別することができ た。 D 1月9日付け捜査報告書 K駐車場があるH県I市J町の同日午前0時から同日午前4時までの天候は晴れであった旨 の捜査結果が記載されている。 E 1月14日付け鑑定書 被害車両の焼け焦げた座席シートの燃え残りからガソリン成分が検出された旨の鑑定結果が 記載されている。 F 1月15日付け捜査報告書 「現場から南側に約100メートル離れた場所付近の防犯カメラに録画された映像を解析し た結果,1月9日午前0時55分頃,現場方向から進行してきた普通乗用自動車が道路脇に停 止し,運転席から,白いレジ袋を左手に持ち,胸元に『L』の白い文字が入った黒っぽい色の パーカーを着て,黒っぽい色のスラックスを履いた人物が降り,現場方向に歩いていく様子 が確認され,同日午前1時3分頃,同一人物が,白いレジ袋を左手に持ちながら,現場方向か ら走って戻ってきて,同車に乗り込んで発進させ,現場と反対方向に走り去る様子が確認され た。また,同車のナンバーから,その所有者及び使用者がAであることが判明した。」旨が記 載されている。 G 1月16日付け写真台帳 短めの黒髪で眼鏡を掛けていない30歳代の男性20名の顔写真が貼付されている。写真番 号13番がAであり,その容貌は眉毛が太く,垂れ目である。 H 1月16日付けWの警察官面前の供述録取書 (警察官が,Wに対し,「この中に見覚えがある人がいるかもしれないし,いないかもしれ ない。 」旨告知し,Gの写真台帳を見せたところ) 「写真番号13番の男性が,私が目撃した犯 人の男に間違いない。眉毛が太くて垂れ目なところがそっくりである。私は,この男と面識は ない。 」 I 1月17日付けVの警察官面前の供述録取書 「刑事からAの顔写真を見せられたが,昨年11月までうちの会社にいた元部下である。彼 に恨まれるような心当たりはない。 」 J 1月18日付けA方の捜索差押調書 同日,A立会いの下,A方を捜索したところ,胸元に白色で「L」と書かれた黒地のパーカ ー1着,紺色のスラックス1着及び携帯電話機1台が発見されたので,これらを差し押さえて 押収した旨が記載されている。 K 1月18日付けAの警察官面前の弁解録取書 「被疑事実は,全く身に覚えがない。1月9日午前1時頃は1人で自宅にいた。 」 L 1月19日付けAの警察官面前の供述録取書 「私は,自宅で一人暮らしをしている。酒気帯び運転の罰金前科が1犯ある。婚姻歴はない。 昨年11月まではバイク販売の営業の仕事をしていたが,勤務先での人間関係が嫌になったの で退社し,昨年12月から今の会社で自動車販売の営業の仕事をしている。平日は午前9時か ら午後5時まで,会社で事務仕事をしたり,営業先を回ったりしている。自宅から車で10分 の所に両親が住む実家がある。父は70歳,母は65歳であり,二人とも無職で,毎日実家に いる。私は貯金がほとんどなく,両親も収入は年金だけであるため,生活は楽ではない。私の 身長は169センチメートル,体重は80キログラムである。私も両親も,これまで健康を害 したことはない。 」 2 検察官は,Aの弁解録取手続を行い,以下の弁解録取書を作成した。 M 1月20日付けAの検察官面前の弁解録取書 K記載の内容と同旨。 3 同日,検察官がAにつき本件被疑事実で勾留請求をしたところ,Aは,勾留質問において, 「本 件被疑事実について身に覚えがない。 」と供述した。 同日,裁判官は,刑事訴訟法第207条第1項本文,第60条第1項第2号及び第3号に当た るとして,本件被疑事実でAを勾留した。 同日,Aに国選弁護人(以下,単に「弁護人」という。 )が選任された。 4 弁護人は,同日中に,勾留されているAと接見した。その際,Aは,弁護人に対し,L記載の 内容と同旨のことに加え,逮捕当日にA方が捜索されて,パーカー,スラックス及び携帯電話機 が押収されたことを告げたほか, 「自分は放火などしていない。1月9日午前1時頃は家にいた。 不当な勾留だ。両親や勤務先の上司に,自分が無実の罪で捕まっていると伝えてほしい。」と述 べた。 弁護人は,1月22日,Aの勾留を不服として裁判所に準抗告を申し立て,その申立書に以 下の疎明資料及びを添付した。 Aの両親の誓約書 「Aを私たちの自宅で生活させ,私たちが責任をもってAを監督します。また,Aに事件関 係者と一切接触させないことを誓約します。 」 Aの勤務先上司の陳述書(同人の名刺が添付されているもの) 「Aは当社の業務の遂行に不可欠な人材です。Aがいないと,Aが取ってきた商談が潰れて しまいます。Aには早く職場に復帰してもらい,継続的に働いてもらいたいです。 」 これに対し,裁判所は,同日,弁護人の準抗告を棄却した。 5 その後,検察官は所要の捜査を行い,以下の証拠等を収集した。なお,Aは黙秘に転じたため, Aの供述録取書は一切作成されなかった。 N 2月3日付け捜査報告書 1月14日実施のWの健康診断結果記載書の写しが添付されており,同記載書には,Wの視 力は左右とも裸眼で1.2であり,色覚異常も認められない旨が記載されている。 O 2月3日付けWの検察官面前の供述録取書 A及びH記載の内容と同旨。 6 検察官は,V所有の大型自動二輪車に放火したのはAである旨のW供述は信用できると判断 し,勾留期限までに,Aについて,I地方裁判所に本件被疑事実と同一内容の公訴事実で公訴を 提起した。 7 第1回公判期日において,A及び弁護人は,Aは犯人ではなく無罪である旨主張した。 弁護人は,検察官が犯行目撃状況を立証するために取調べを請求したC及びOの証拠について, 「Cについては,別紙見取図を含め,Wによる現場指示説明部分を不同意とし,その余の部分は 同意する。Oは全部不同意とする。」との意見を述べ,裁判所は,Cに関し,弁護人の同意があ った部分を取り調べた。引き続き,検察官はWの証人尋問を請求し,同証人尋問が第2回公判期 日に実施されることになった。 8 検察官は,第2回公判期日前,Wと打合せを行った。その際,Wは,検察官から各種の証人保 護制度について教示を受けた後, 「Aは人のバイクに放火するような人間なので,復しゅうが怖 い。Aに見られていたら証言できない。それに,私は人前で話すのも余り得意ではないので,傍 聴人にも見られたくない。I地方裁判所に出頭して証言すること自体は構わないが,ビデオリン ク方式にした上で,遮へい措置を採ってもらいたい。 」と申し出た。検察官は,その申出を踏 まえ,AとWとの間の遮へい措置のみを採るのが相当である旨考え,Wと協議した上で,裁判所 に対してその旨の申立てをし,裁判所は,AとWとの間の遮へい措置を採る決定をした。 9 第2回公判期日におけるWの証人尋問の主尋問において,WがAの犯行を目撃した際のAとW の位置関係を供述した後,検察官が,その位置関係の供述を明確にするため,裁判長に対し,C の実況見分調書添付の別紙見取図の写しをWに示して尋問することの許可を求めたところ,裁 判長は,検察官に対し,「見取図から,立会人の現場指示に基づいて記入された記号などは消さ れていますか。 」と尋ね,釈明を求めた。これに対し,検察官が「消してあります。 」と釈明した ため,裁判長は,前記写し(ただし,及びの各記号を消したもの)をWに示して尋問するこ とを許可した。 〔設問1〕 1 下線部に関し,準抗告申立書に疎明資料及びを添付すべきと判断した弁護人の思考 過程について,具体的事実を指摘しつつ答えなさい。 2 下線部に関し,弁護人の準抗告を棄却すべきと判断した裁判所の思考過程について,具体 的事実を指摘しつつ答えなさい。ただし,罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由の有無に ついては言及する必要はない。 〔設問2〕 下線部に関し,W供述の信用性が認められると判断した検察官の思考過程について,具体的 事実を指摘しつつ答えなさい。なお,証拠@,BからG(ただし,Cのうち,Wによる現場指示 説明部分を除く。 ) ,I,J,L及びNに記載された内容については,信用性が認められることを 前提とする。 〔設問3〕 下線部に関し,AとWとの間の遮へい措置のみを採るのが相当と判断した検察官の思考過 程について,刑事訴訟法の条文上の根拠に言及しつつ答えなさい。 〔設問4〕 裁判長が検察官に下線部の釈明を求めた理由について,証人尋問に関する規制及びその趣旨 に言及しつつ答えなさい。 別紙 見取図 北 一戸建て家屋 照 照 明 明 被害車両 街 灯 市 一戸建て家屋 道 照 照 明 明 一戸建て家屋 (出題の趣旨) 本問は,犯人性が争点となる建造物等以外放火事件を題材に,刑事手続の基本的 知識,刑事事実認定の基本構造及び基礎的刑事実務能力を試すものである。 設問1は,弁護人が準抗告申立書に誓約書等の疎明資料を添付すべきと考えた思 考過程と,裁判所が弁護人の準抗告を棄却すべきと判断した思考過程を,それぞれ 具体的な事実関係を踏まえて検討することを通じて,捜査段階における弁護人の活 動と勾留要件の正確な理解を示すことが求められる。 設問2は,犯人識別供述について具体的な事実関係を踏まえて検討することを通 じて,事案を分析する能力と供述の信用性判断に関する基本的理解を示すことが求 められる。 設問3は,証人尋問に難色を示す証人からの申出を受けて検察官が採った措置に 係る思考過程を,刑事訴訟法の条文に規定された要件に沿って具体的に検討するこ とを通じて,現行法における証人保護制度,取り分け,証人尋問における遮へい措 置及びビデオリンク方式に対する基本的理解を示すことが求められる。 設問4は,実務において証人尋問の主尋問の際に記号等を消した図面が用いられ るのが,主尋問で誘導尋問が原則禁止されることに由来していること,及びその趣 旨を正確に示すことが求められる。 [一般教養科目] 次の文章は,ともに作家である辻邦生と水村美苗の新聞紙上での往復書簡を収録した著作中の, 水村の書簡からの抜粋である(なお,出題の都合上,原文の一部を適宜省略してある。)。 これを読んで,後記の各設問に答えなさい。 (省 略) 〔設問1〕 本文における筆者の主張を,15行程度で要約しなさい。 〔設問2〕 本文における筆者の主張に対する賛否を明らかにした上で,現代における「文学を読むこと」 の意味についてのあなた自身の主張及びその理由を,適切な具体的事象(文学以外の事象でもよい。) を挙げつつ,20行程度で論じなさい。 【出典】辻邦生・水村美苗『手紙,栞を添えて』朝日新聞社,1998年 (出題の趣旨) 設問1は,「文学を読むこと」についての筆者の見解に関する理解を問うもので ある。解答に当たっては,「文学とは誰もが読むべきものである」,「文学とは誰に でも読めるものである」という2つの前提に対する筆者の見解やその根拠に触れつ つ,筆者が,「文学を読むこと」をどのように意味付けているかについて,的確に 要約することが求められる。 設問2は,現代における「文学を読むこと」の意味について,各自の考えを問う ものである。解答に当たっては,筆者の見解に対する自身の賛否を明示するととも に,昨今の社会情勢などを踏まえつつ,現代における「文学を読むこと」の意味に ついて自身の考えを明らかにし,その根拠について適切な具体的事象に触れながら, 説得力をもって論じることが期待される。 なお,当然ながら,いずれの設問においても,指定の分量で,簡潔に記述する能 力が求められる。