論文式試験問題集[刑事系科目第1問] - 1 - [刑事系科目] 〔第1問〕(配点:100) 以下の【事例1】及び【事例2】を読んで、後記〔設問1〕及び〔設問2〕について、答えなさ い。 【事例1】 1 Aは、某月1日、立ち寄ったホームセンターの駐車場において、エンジンキーが付いたままの 状態で駐車されていたB所有の普通自動二輪車(以下「本件バイク」という。)を発見し、これ を自由に乗り回したいと考え、Bに無断で本件バイクを発進させて走り去った。 2 Aは、本件バイクに偽造ナンバープレートを装着しようと思い、これを手に入れるまでの間、 本件バイクを人目に付かない場所に隠しておこうと考えた。 そこで、Aは、友人甲の自宅にシャッター付きのガレージがあることを思い出し、当分の間、 甲に頼んで同ガレージに本件バイクを保管させようと考えた。Aは、同日、本件バイクを運転し て甲宅に行き、甲に「これは俺のバイクなんだが、今まで使っていた駐車場が使えなくなってし まったので、しばらく預かってくれないか。」と頼んだところ、甲はこれを承諾し、本件バイク を上記ガレージに入れた。 3 甲は、本件バイクの保管を続けていたが、同月5日夜、Aと電話で話をした際、ささいなこと から激しい口論となった。甲は、Aと仲違いしたまま電話を切ったが、怒りが収まらなかったこ とから、Aを困らせるため、Aに無断で本件バイクを別の場所に移動させて隠そうと考えた。 甲は、自宅から約5キロメートル離れた場所にある甲の実家の物置内に本件バイクを移動させ ればAに見付からないだろうと考え、同月6日未明、自己が所有する軽トラックの荷台に本件バ イクを積み込むと、同トラックを運転して実家まで行き、同物置内に本件バイクを隠して帰宅し た。なお、甲は、怒りにまかせて本件バイクを上記物置内に移動させて隠したが、本件バイクを その後どうするかは考えていなかった。 〔設問1〕 【事例1】の甲に横領罪(刑法第252条第1項)の成立を認める立場から後記及 びの各主張がなされたとする。各主張の当否について、それぞれ簡潔に論じなさい。 甲は、Aに頼まれて本件バイクを保管している以上、これを「横領」(同項)すれば横領罪が 成立する。 甲が実家の物置内に本件バイクを移動させて隠した行為は、「横領した」(同項)に当たる。 【事例2】(【事例1】の事実に続けて、以下の事実があったものとする。) 4 Aは、偽造ナンバープレートを手に入れたことから、本件バイクを回収しようと考え、同月1 0日午後8時頃、甲に電話を掛け、「今日これからバイクを取りに行く。」と言った。これに対 し、甲は、笑いながら、「あのバイクはここにはないよ。ざまあみろ。俺を怒らせたお前が悪い んだぞ。」と言った。Aは、甲の発言を聞いて激怒し、甲に殴る蹴るなどの制裁を加えようと考 え、強い口調で甲に、「いい度胸をしているじゃないか。8時半にC公園に来い。覚悟しておけ よ。」と言った。これに対し、甲も、「おう、行ってやるよ。」と怒鳴って電話を切った。 甲は、高校時代にAと同じ不良グループに所属しており、Aが短気で粗暴な性格で、過去にも 怒りにまかせて他人に暴力を振るったことが数回あったことを知っていたため、Aの前に姿を現 せば、Aから殴る蹴るなどの暴力を振るわれる可能性が極めて高いだろうと思ったが、甲も頭に 血が上っていたことから、自宅にあった包丁(刃体の長さ15センチメートル。以下「本件包丁」 という。)をズボンのベルトに差して準備した上で、C公園に出向き、Aを待ち構えていた。 Aは、同日午後8時30分頃、C公園に到着し、甲の姿を見るなり、「お前、ふざけんなよ。 - 2 - ボコボコにしてやるからな。」と怒鳴り声を上げた。これに対し、甲は、「できるものならやっ てみろ。この野郎。」と大声で言い返した。 5 Aは、甲の態度に逆上し、甲に至近距離まで接近すると、右手の拳を突き出して甲の顔面を殴 打しようとした。甲は、Aの拳をかわしながら、本件包丁をベルトから抜いて、Aに向けて突き 出した。Aは、これをかわし、ひるむことなく更に甲の顔面を殴打しようと拳を振り上げた。 6 ちょうどその頃、甲の勤務先の後輩乙は、偶然にC公園に来て、前記5のとおり、Aが甲を殴 打しようとしているのを目撃し、とっさに甲を助けようと考えた。 乙は、護身用に携帯していたサバイバルナイフ(刃体の長さ18センチメートル。以下「本件 ナイフ」という。)を取り出して、直ちにAの背後に回り、同日午後8時31分頃、何の警告も せずにAの右上腕部を狙って本件ナイフを同部に強く突き刺し、Aに加療約3週間を要する右上 腕部刺創の傷害を負わせた。 このとき、乙は、前記1から4までの各事実を知らず、また、甲が本件包丁を持っていること も認識しておらず、Aが甲に対して一方的に攻撃を加えようとしていると思い込んでいた。 7 Aは、すぐに後方を振り向き、乙に刺されたことを認識した。Aは、「誰だ、お前。何をしや がる。」と怒鳴りながら、乙を蹴り付け、ひるんだ乙は本件ナイフをその場に落とした。乙は、 Aから更に殴る蹴るなどの暴力を振るわれてしまうと思って怖くなり、走って逃げ出した。これ を見たAは、乙を捕まえて痛め付けようと考え、「待て。この野郎。」と叫びながら、走って乙 を追い掛けた。 乙は、逃げながらAが背後から追跡してきているのを見て、このままではすぐに追い付かれて 暴力を振るわれてしまうと思っていたところ、進路前方の道路脇に、飲食物の宅配業務に従事し ていたDがエンジンを掛けたままで一時的に停めていたD所有の原動機付自転車(以下「本件原 付」という。)を見付けた。このとき、Dは、配達のために付近のマンション内に立ち入ってい たことからその場にいなかった。 Aは乙よりも足が速く、乙がAの追跡を振り切るためには、本件原付を運転して逃げることが 唯一採り得る手段であったところ、乙は、本件原付を使ってAの追跡を振り切り、安全な場所ま で移動したら本件原付をその場に放置して立ち去ろうと考えた。乙は、同日午後8時33分頃、 Dに無断で本件原付を発進させ、Aの追跡を振り切った。 8 甲、乙及びAは、いずれも20歳代の男性であり、各人の体格に大差はなかった。 〔設問2〕 【事例2】における乙の罪責について、論じなさい(特別法違反の点は除く。)。 - 3 - 論文式試験問題集[刑事系科目第2問] - 1 - [刑事系科目] 〔第2問〕(配点:100) 次の各【事例】を読んで、後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例1】 1 H県警察I警察署の司法警察員らは、過去の大麻事件の捜査過程から大掛かりな大麻密売の 疑いのある者として氏名不詳者(以下「甲」という。)の存在を把握した。甲は、契約名義の 異なる携帯電話を順次使用しており、身元や所在地は関係者の供述からも不明であった。 2 ところが、令和3年11月2日、I警察署の司法警察員Pは、大麻所持の罪で1年間服役し た後出所した暴力団X組の組員Aから、「以前は話せなかったが、私が逮捕された際に所持し ていた大麻は、甲から入手したものである。当時、甲は大麻を栽培し、紹介を受けた者に対し て密売していた。先日、甲から出所祝いの電話があった。また私に大麻を売ろうとしているの ではないかと思った。私は暴力団や大麻とは縁を切りたいので、情報を提供して警察に協力す ることにした。」旨言われた。 Pらは、甲がAにかけてきた電話番号の契約名義人を捜査したが、実在しないことが判明し た。そこで、Pらは、Aを介してPを大麻の買い手として甲に紹介させた上、まずは少量の大 麻をサンプルとして持参させて、甲との信頼関係を構築するとともに、甲に大麻密売の意思が あることを確認することとした。そして、その際には甲を逮捕せず、その後甲が多量の大麻を 持参したときに現行犯人として逮捕し、甲による大掛かりな大麻密売の全容解明につなげるこ ととした。 3 同月20日、Aは、Pの依頼を受けて甲に電話をし、甲が今でも大麻を密売していることを 確認した上で、大麻の買い手としてPを紹介し、Pから聞いた電話番号を甲に伝えるとともに、 甲の使用する携帯電話の番号をPに伝えることの承諾を得た。同日、Aから連絡を受けたPは、 甲に電話をかけ、「大麻を5キロ欲しいが、まずは100グラムをサンプルとして手に入れて、 その質を確認したい。」旨述べた。これに対し、甲は、「Aの紹介でもあるし、サンプルの件 は分かった。しかし、安全に取引できる場所があるのか不安なので、気が進まない。この間、 知り合いの密売人も捕まった。」旨述べた。そこで、Pは、甲に対し、「K県J市内に私がオ ーナーを務める宿泊施設がある。そこなら安全だ。」旨述べたところ、甲は、これに応じたが、 「危険を感じたら行かない。」旨述べた。その後、Pは、K県J市内にある宿泊施設を手配し た。 4 同月23日、Pは、前記施設の一室でAを伴って甲と会い、甲から、乾燥大麻100グラム を譲り受けた。そして、2日後に同じ場所で残りの大麻と代金の授受を行うことになった。そ の場で、甲からは「10キロ程度なら扱うこともある。」旨の話が出ていた。Pが甲と別れた 後、I警察署の司法警察員らは甲を尾行したが、途中で見失った。 5 同月24日、甲からPに電話があり、「明日の取引は取りやめたい。」旨告げてきた。Pが 繰り返しその理由を尋ねると、甲は、「密売人の摘発が続いているようで、嫌な予感がする。」 旨述べた。これに対し、Pは、「自分は長年X組と交遊があり、X組との取引も続けてきたの で不安に感じる必要はない。サンプルの質が良かったので、約束した代金の1.5倍の代金を 払う。」旨述べた。それでも甲が渋る態度を示したことから、Pは、「この前、10キロ程度 の大麻なら扱うこともあると言っていたが、同じ単価で10キロをまとめて買ってもよい。現 金はすぐに用意できるので心配ない。取引の場で先に金を見せてもよい。」旨述べ、具体的な 金額を提示した。 すると、甲は、また連絡すると言って電話を切った。Pは、直ちにAに電話をかけ、甲との やり取りを伝え、甲から電話があった際の対応について指示した。その後、甲がAに電話をか け、X組とPとの関係を尋ねたのに対し、Aは、Pの指示に従い、Pは古くからX組と交遊し、 - 2 - 取引もある信用できる人物である旨告げた。これを聞いた甲は、Pに再び電話をして、「よく 分かった。大麻を10キロ売ることにするが、必ず先に金を見せてほしい。」旨述べた。 6 同月25日、Pは、前記施設の一室で甲に対し、見せ金として用意していた現金を見せた。 すると、甲は、一旦退室した後、大型トランクに入れた10キログラムの乾燥大麻を持って部 屋に戻ってきた。そこで、Pは、隣室で待機していた同署の司法警察員らと共に、その場で甲 を大麻の営利目的所持の現行犯人として逮捕し、逮捕に伴い前記乾燥大麻を差し押さえた。 〔設問1〕 【事例1】記載のおとり捜査の適法性について、具体的事実を摘示しつつ論じなさい。 【事例2】(【事例1】の事実に続けて、以下の事実があったものとする。) 7 甲を逮捕した翌日の令和3年11月26日、H県I市内の家屋(以下「本件家屋」という。) が柱や床を残して全焼した。捜査の結果、甲がB所有の空き家である本件家屋を大麻栽培拠点 としており、それが放火された疑いが濃厚となった。そして、その実行犯として乙が浮上し、 I警察署の司法警察員らは、同年12月2日、乙を非現住建造物等放火事件の被疑者として同 署に任意同行した。 乙は、同日、取調べにおいて、本件家屋1階12畳間の全面に灯油を散布した上、点火した 石油ストーブを蹴り倒して着火させ、本件家屋に放火したこと、その際、本件家屋内には自分 しかいなかったことを供述し、その旨録取した供述調書1通が作成され、同日中に通常逮捕さ れた。その後、乙は、黙秘に転じた。 本件家屋について実施された検証等の捜査の結果、本件家屋1階12畳間の床下から焼け落 ちた床部分と石油ストーブが発見されるとともに、焼け残った同室の床部分から広範囲にわた り灯油が検出され、また、同ストーブには転倒時の自動消火装置がなく、乙が供述していた方 法で灯油に着火できることが判明した。 検察官は、同月23日、乙を本件家屋に対する非現住建造物等放火の罪で起訴した(公訴事 実は【資料1】のとおり。)。 8 乙は、第1回公判期日の冒頭手続において、「放火はしていない。その日、部屋にいて、煙 臭いと感じ、石油ストーブを見ると、傍らの乾燥大麻が燃えていた。布をかぶせても火が消え なかったので、そのまま逃走した。灯油をまいてもいない。」旨弁解し、弁護人も同旨の主張 をした。 公判において、火災科学の専門家の証人尋問が実施され、検察官及び弁護人の尋問を通じて、 「焼け残った床面の広い範囲から灯油が検出されたことからすると、人為的に灯油がまかれた と考えるのが自然である。」「今回の火災については、被告人が捜査段階で話していたように、 室内に灯油を散布した上で、点火した石油ストーブを倒して灯油に着火させたと考えて矛盾は ない。」旨証言した。これに対し、裁判所が、補充尋問において、石油ストーブを倒す方法以 外での着火の可能性について質問すると、同証人は、「例えば、可燃物に火をつけて散布され た灯油に着火させることも可能と考えられる。」旨証言した。同証人尋問の終了後、裁判所は、 検察官及び弁護人に対し、放火の態様に関して追加の主張、立証の予定があるかを確認したが、 いずれもその予定はない旨回答した。 裁判所は、証拠調べが終わった時点で、乙が室内に灯油を散布し、その灯油に何らかの方法 により着火させたことは認定できるが、乙が石油ストーブを倒して着火させたとまでは認定で きないとの心証を得た。その後、論告、弁論においても、検察官及び弁護人は当初の主張を維 持し、被告人も従前と同旨の陳述をして、裁判所は結審した。 - 3 - 〔設問2〕 1 裁判所が、前記の心証に至った理由を説示した上で、【資料1】の公訴事実に対して【資料 2】の罪となるべき事実を認定し、判決をすることが許されるかについて論じなさい。 なお、罪となるべき事実の記載が判示として十分かについて論じる必要はない。 2 【事例2】につき、仮に、乙が捜査段階において、「令和3年11月1日に、本件家屋内で、 甲が逮捕されたときには同家屋に放火するように甲から指示されていたので、その指示に従っ て同家屋の室内に灯油をまいた上、点火した石油ストーブを蹴り倒して放火した。」旨述べ、 これを踏まえ、検察官が甲を本件家屋に対する非現住建造物等放火の罪で起訴したとする(公 訴事実は【資料3】のとおり。)。 甲は、捜査段階から一貫して乙との共謀を否認し、弁護人も、第1回公判期日の冒頭手続に おいて同旨の主張をした。検察官は、裁判長からの求釈明に応じて、冒頭陳述で、共謀が成立 した日にちを令和3年11月1日、共謀が成立した場所を本件家屋内であるとそれぞれ明らか にした。これに対し、弁護人は、冒頭陳述で、「検察官が乙との共謀が成立したと主張する日 は、甲は、一日中、K県L市内にある自宅にいて、本件家屋には行っていない。」旨述べてア リバイを主張した。証人尋問において、乙は、「同月1日、甲から放火の指示を受けた。」旨 証言し、これに対し、弁護人は、その証言の信用性を弾劾する反対尋問をした。裁判所も、ア リバイの主張を念頭に、その日の甲及び乙の行動について補充尋問をした。甲は、被告人質問 においても同日のアリバイを述べ、検察官及び裁判所も、同日中の行動について甲に質問した。 裁判所は、その後の証拠調べの結果をも踏まえ、甲から乙に対して前記のような指示があっ たことに疑いはないが、その日にちについては、同月1日ではなく同月2日であり、乙はそれ を取り違えて供述しているとの心証を得た。その後、論告、弁論において、検察官及び弁護人 は、従前と同様の主張をし、被告人も従前と同旨の陳述をして、裁判所は結審した。 この場合、裁判所が、前記の心証に従い、事実認定の理由として、共謀が成立したのは同月 2日である旨説示した上で、【資料3】のとおりの事実を罪となるべき事実として認定し、判 決をすることが許されるかについて論じなさい。 なお、罪となるべき事実の記載が判示として十分かについて論じる必要はない。 (参照条文) 第24条の2 大麻取締法 大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、5年以下の懲役に 処する。 2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、7年以下の懲役に処し、又は情状により7年以下の懲 役及び200万円以下の罰金に処する。 3 (略) - 4 - 【資料1】公訴事実 被告人は、令和3年11月26日午後2時頃、H県I市〇町△丁目×番地所在の現に人が住居に 使用せず、かつ、現に人がいないBが所有する家屋(木造スレート葺2階建て、床面積合計約98. 6平方メートル)内において、同家屋1階12畳間に灯油をまいた上、点火した石油ストーブを倒 して火を放ち、その火を同家屋の壁、天井等に燃え移らせ、よって、同家屋を全焼させて焼損した ものである。 【資料2】罪となるべき事実 被告人は、令和3年11月26日午後2時頃、H県I市〇町△丁目×番地所在の現に人が住居に 使用せず、かつ、現に人がいないBが所有する家屋(木造スレート葺2階建て、床面積合計約98. 6平方メートル)内において、同家屋1階12畳間に灯油をまいた上、何らかの方法で火を放ち、 その火を同家屋の壁、天井等に燃え移らせ、よって、同家屋を全焼させて焼損したものである。 【資料3】公訴事実 被告人は、乙と共謀の上、令和3年11月26日午後2時頃、H県I市〇町△丁目×番地所在の 現に人が住居に使用せず、かつ、現に人がいないBが所有する家屋(木造スレート葺2階建て、床 面積合計約98.6平方メートル)内において、同家屋1階12畳間に灯油をまいた上、点火した 石油ストーブを倒して火を放ち、その火を同家屋の壁、天井等に燃え移らせ、よって、同家屋を全 焼させて焼損したものである。 - 5 -