論文式試験問題集 [法律実務基礎科目(民事・刑事)] - 1 - 42 - [民 事] 司法試験予備試験用法文を適宜参照して、 以下の各設問に答えなさい。 〔設問1〕 弁護士Pは、 Xから次のような相談を受けた。 【Xの相談内容】 「私は、 建物のリフォームを仕事としています。 私は、 Yとは十年来の付き合いで、 Yが経営 する飲食店の常連客でもありました。 私は、 令和3年の年末頃、 Yから、 M市所在の建物(以下 「本件建物」という。 )を飲食店に改修するための外壁・内装等のリフォーム工事(以下「本件工 事」という。 )について相談を受け、 令和4年2月8日、 本件工事を報酬1000万円で請け負い ました。 令和4年5月28日、 私は、 本件工事を完成させ、 本件建物をYに引き渡し、 本件工事の報酬 として、 1000万円の支払を求めましたが、 Yは、 700万円しか支払わず、 残金300万円 を支払いませんでした。 私は、 本件工事の報酬の残金300万円と支払が遅れたことの損害金全 てをYに支払ってほしいと思います。 」 弁護士Pは、 令和4年8月1日、 【Xの相談内容】を前提に、 Xの訴訟代理人として、 Yに対し、 Xの希望する金員の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。 )を提起することとした。 以上を前提に、 以下の各問いに答えなさい。 弁護士Pが、 本件訴訟において、 Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記 載しなさい。 弁護士Pが、 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。 )において記載すべき請求の趣旨(民 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。 なお、 付随的申立てについては、 考慮する 必要はない。 弁護士Pが、 本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1 項)を記載しなさい。 なお、 いわゆるよって書き(請求原因の最後のまとめとして、 訴訟物を明 示するとともに、 請求の趣旨と請求原因の記載との結びつきを明らかにするもの)は記載しない こと。 弁護士Pが、 本件訴状において請求を理由づける事実として、 上記のとおり記載した理由を 判例を踏まえて簡潔に説明しなさい。 なお、 訴訟物が複数ある場合は、 訴訟物ごとに記載するこ と。 〔設問2〕 以下、 XがYとの間で、 令和4年2月8日に締結した報酬を1000万円とする本件工事の請負 契約を「本件契約」という。 弁護士Qは、 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。 【Yの相談内容】 「(a) Xは、 令和4年5月28日、 本件工事を完成させ、 私は、 同日、 本件建物の引渡しを受 け、 Xに700万円を支払いました。 しかし、 私がXとの間で締結したのは、 報酬を70 0万円とする本件工事の請負契約であり、 本件契約ではありません。 - 2 - 53 - 私は、 本件建物で飲食店を営業したいと考え、 令和3年の年末頃、 Xに本件建物のリ フォーム工事について相談をしました。 Xが本件建物を見た上で、 本件工事は700万 円程度でできると述べたので、 私は、 令和4年2月8日、 Xとの間で、 報酬を700万 円とする本件工事の請負契約を締結しました。 したがって、 私が本件工事の報酬として Xに支払うべき金額は、 1000万円ではなく700万円であり、 未払はありません。 仮に、 Xと私との間で、 本件契約が締結されたというのであれば、 Xは、 令和4年5 月28日、 次のようなやり取りを経て、 私に本件工事の報酬残金300万円の支払を免 除しましたので、 私はそれを主張したいと思います。 私は、 令和4年5月28日、 本件建物の引渡しを受ける際、 本件建物の外壁に亀裂が あるのを発見しました。 私がその場で、 Xに対し、 外壁の修補を求めたところ、 Xは、 この程度の亀裂は自然に発生するもので修補の必要はないと言い、 本件工事の報酬10 00万円を支払うよう求めてきました。 私は、 本件工事の報酬は700万円だと思って いましたので、 それを強く言うと、 Xは、 そのようなことはないなどと言っていました が、 最終的には、 『700万円でいい。 残りの300万円の支払はしなくてよい。 』と言 いましたので、 私は、 700万円を支払って、 本件建物の引渡しを受けました。 (b) 本件建物の外壁の亀裂は、 その後、 とんでもないことになりました。 令和4年6月初旬、 雨が降り続いた際、 本件建物の外壁の亀裂が原因で雨漏りが生じ ました。 私は、 このままでは安心して本件建物で営業ができないと思い、 同月10日、 Xに対し、 本件建物の外壁の亀裂から雨漏りが生じたことを伝え、 外壁の修補を求めま したが、 Xから断られましたので、 損害賠償を請求する旨を伝えました。 そして、 私は、 本件建物の外壁の補修工事を別の業者に依頼し、 その報酬として350万円を支出しま した。 」 弁護士Qは、 【Yの相談内容】を前提に、 Yの訴訟代理人として、 本件訴訟の答弁書(以下「本 件答弁書」という。 )を作成した。 以上を前提に、 以下の各問いに答えなさい。 弁護士Qは、 【Yの相談内容】(a)を踏まえて、 抗弁を主張することとした。 その検討に当た り、 本件訴訟において、 抗弁として機能するためには、 以下の(ア)及び(イ)の事実が必要 であると考えた。 (ア) 〔 (イ) 〕 Xは、 Yに対し、 令和4年5月28日、 本件契約に基づく報酬債務のうち300万円の支 払を免除するとの意思表示をした。 (@) (ア)に入る具体的事実を記載しなさい。 (A) 弁護士Qが、 (ア)の事実が必要であると考えた理由を簡潔に説明しなさい。 弁護士Qは、 【Yの相談内容】(b)から、 YはXに対し、 契約不適合を理由とする債務不履行に 基づく350万円の損害賠償債権を有すると考えた。 弁護士Qがこの350万円の回収方法とし て、 本件訴訟手続を利用して選択できる訴訟行為を判例を踏まえて挙げなさい。 〔設問3〕 本件訴訟の第1回口頭弁論期日において、 本件訴状及び本件答弁書等は陳述された。 弁護士Pは、 その口頭弁論期日において、 本件工事の報酬の見積金額が1000万円と記載された令和4年2月 2日付けのX作成の見積書(以下「本件見積書@」という。 )を書証として提出し、 これが取り調 べられたところ、 弁護士Qは、 本件見積書@の成立を認める旨を陳述した。 - 3 - 64 - これに対し、 弁護士Qは、 本件訴訟の第1回弁論準備手続期日において、 本件工事の報酬の見積 金額が700万円と記載された令和4年2月2日付けのX作成の見積書(以下「本件見積書A」と いう。 )を書証として提出し、 これが取り調べられたところ、 弁護士Pは、 本件見積書Aの成立を 認める旨を陳述した。 本件訴訟の第2回弁論準備手続期日を経た後、 第2回口頭弁論期日において、 本人尋問が実施さ れ、 本件契約の締結に関し、 Xは、 次の【Xの供述内容】のとおり、 Yは、 次の【Yの供述内容】 のとおり、 それぞれ供述した(なお、 それ以外の者の尋問は実施されていない。 )。 【Xの供述内容】 「私は、 令和3年の年末頃に、 Yから本件建物を飲食店にリフォームをしてもらえないかと頼 まれ、 本件建物を見に行きました。 Yは、 リフォームの費用は銀行から融資を受けるつもりなの で、 できるだけ安く済ませたいと言っていました。 私は、 Yの要望のとおりのリフォームをする のであれば1000万円を下回る報酬額で請け負うのは難しいと話し、 本件工事の報酬金額を1 000万円と見積もった本件見積書@を作成して、 令和4年2月2日、 Yに交付しました。 Yが 同月8日、 本件工事を報酬1000万円で発注すると言いましたので、 私は、 同日、 本件工事を 報酬1000万円で請け負いました。 見積金額が700万円と記載された本件見積書Aは、 Yか ら、 本件建物は賃借している物件なので、 賃貸人に本件工事を承諾してもらわなければならない が、 大掛かりなリフォームと見えないようにするため、 外壁工事の項目を除いた見積書を作って ほしいと頼まれて作成したものです。 実際、 私は、 本件工事として本件建物の外壁工事を実施し ており、 本件見積書Aは実体と合っていません。 私は、 Yは本件見積書@を銀行に提出し、 同年 5月初旬に銀行から700万円の融資を受けたと聞いていますが、 本件見積書Aを賃貸人に見せ たかどうかは聞いていません。 私は、 契約書を作成しておかなかったことを後悔していますが、 私とYは十年来の仲でしたので、 作らなくても大丈夫だと思っていました。 以上のとおり、 私は、 Yとの間で、 令和4年2月8日、 本件契約を締結しました。 」 【Yの供述内容】 「私は令和4年2月8日、 Xに本件工事を発注しましたが、 報酬は1000万円ではなく、 7 00万円でした。 Xが私に対し、 1000万円を下回る報酬額で請け負うのは難しいと言ったこ とはなく、 令和3年の年末頃に本件建物を見た際、 700万円程度でできると言い、 令和4年2 月2日、 本件工事の報酬金額を700万円と見積もった本件見積書Aを私に交付しました。 そこ で、 私は、 同月8日、 Xに対し、 本件工事を報酬700万円で発注したいと伝え、 Xとの間で、 本件工事の請負契約を締結したのです。 私から外壁工事の項目を除いた見積書を作ってほしいと は言っていません。 確かに、 本件見積書Aには、 本件工事としてXが施工した外壁工事に関する 部分の記載がありませんが、 私は、 本件見積書Aの交付を受けた当時、 Xから、 外壁工事分はサ ービスすると言われていました。 本件見積書@は、 私が運転資金として300万円を上乗せして 銀行から融資を受けたいと考え、 Xにお願いして、 銀行提出用に作成してもらったものです。 私 は、 本件見積書@を銀行に提出しましたが、 結局、 融資を受けられたのは700万円でした。 本 件見積書Aは、 本件工事の承諾を得る際、 賃貸人に見せています。 」 以上を前提に、 以下の問いに答えなさい。 弁護士Pは、 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに、 準備書面を提出することを予定している。 その準備書面において、 弁護士Pは、 前記の提出された書証並びに前記【Xの供述内容】及び 【Yの供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて、 XとYが本件契約を締 結した事実が認められることにつき、 主張を展開したいと考えている。 弁護士Pにおいて、 上記 準備書面に記載すべき内容を、 提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏 - 4 - 75 - まえて、 答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。 なお、 記載に際しては、 冒頭に、 XとYが本 件契約を締結した事実を直接証明する証拠の有無について言及すること。 〔設問4〕 仮に、 弁護士Qにおいて、 〔設問2〕の本件訴訟手続を利用して選択できる訴訟行為を行わない まま、 本件訴訟の口頭弁論は終結し、 その後、 Xの請求を全部認容する判決が言い渡され、 同判決 は確定したものとする(以下、 この確定した判決を「本件確定判決」という。 )。 Xは、 Yが支払わ ないので、 本件確定判決を債務名義として、 YのA銀行に対する預金債権を差押債権とする債権差 押命令の申立てをしたところ、 これに基づく差押命令が発令されて、 同命令がA銀行及びYに送達 された。 弁護士Qは、 Yの代理人として、 〔設問2〕の【Yの相談内容】(b)を踏まえ、 本件確定判決に係 る請求権の存在又は内容について異議を主張して、 本件確定判決による強制執行の不許を求めるこ とができるか、 結論を答えた上で、 その理由を民事執行法の関係する条文に言及しつつ、 判例を踏 まえて簡潔に説明しなさい。 - 5 - 86 - [刑 事] 次の【事例】を読んで、 後記〔設問〕に答えなさい。 【事例】 1 A(23歳、 男性)は、 令和3年3月31日、 「被告人は、 金品を強取しようと考え、 Bと 共謀の上、 令和3年3月9日午後1時頃、 H県I市J町1丁目2番3号V方に、 宅配業者を装 って玄関から侵入し、 その頃から同日午後1時10分頃までの間、 同所において、 V(当時7 5歳)に対し、 持っていたサバイバルナイフを突き付け、 『金とキャッシュカードを出せ。 』な どと申し向け、 持っていたロープでVの両手首及び両足首を縛るなどの暴行脅迫を加え、 Vの 反抗を抑圧した上、 V所有又は管理の現金500万円及びキャッシュカード1枚を強取し、 そ の際、 Vに加療約10日間を要する両手関節部擦過傷の傷害を負わせた。 」旨の住居侵入、 強盗 致傷被告事件(以下「本件被告事件」という。 )でH地方裁判所に公判請求された。 B(21歳、 男性)は、 Aが公判請求される前日に、 前記住居侵入、 強盗致傷の事実で同裁判所に公判請求 されていた。 2 Aが公判請求されるまでに収集された主な証拠の概要は次のとおりである(以下、 特に年を 明示していない日付は全て令和3年である。 )。 なお、 Aは、 取調べに対し、 一貫して黙秘して いた。 Vの警察官面前の供述録取書(証拠@) 「私は、 自宅に1人で住んでいる。 3月9日午後1時頃、 玄関のチャイムが鳴り、 インター ホンに応対したところ、 男が宅配業者を名乗ったため、 玄関のドアを開けた。 すると、 茶色 の作業着上下と帽子を着用した男が玄関内に入ってきてドアを閉め、 ポケットから取り出し たナイフを私ののど元に突き付け、 『金とキャッシュカードを出せ。 』と言ってきた。 男の言 うとおりにしないと刺されると思い、 寝室のたんすの中に現金やキャッシュカードがあるこ とを伝えた。 男は、 私にナイフを突き付けたまま、 私を連れて寝室に移動し、 再び、 現金と キャッシュカードを出すように言ってきた。 私は、 たんすの引き出しを開け、 中にあった現 金500万円とR銀行の私名義のキャッシュカード1枚を男に示した。 男は、 その現金とキ ャッシュカードを奪って作業着上衣のポケットに入れると、 私を床にうつ伏せに押さえ付け、 私の両手首と両足首をロープで縛った。 そして、 男が『キャッシュカードの暗証番号を教え ろ。 』と言ってきたので、 私は、 4桁の暗証番号を教えた。 すると、 男はその場から立ち去っ た。 私は、 両手両足を必死に動かし、 ロープを緩めて手足を抜いたが、 その際、 両手首を怪 我してしまった。 その後、 110番通報した上で、 R銀行に電話をかけ、 キャッシュカード の利用を停止した。 犯人の男が家にいた時間は約10分間だった。 」 ロープに関する捜査報告書(証拠A) 「Vの110番通報を受け、 3月9日午後1時40分頃にV方に臨場した警察官らは、 Vの 両手首及び両足首を縛っていたものとして、 Vから水色のロープ2本の提出を受けたことか ら、 これを領置した。 」 I市立病院医師作成の診断書(証拠B) 「Vが3月9日、 同病院を受診し、 同日から約10日間の加療を要する両手関節部擦過傷と 診断された。 」 Qマンション防犯カメラ画像の精査に関する捜査報告書(証拠C) 「警察官らがV方付近の防犯カメラを検索したところ、 V方から北方約50メートルに位置 するQマンション入口に防犯カメラが設置されていることが判明した。 同防犯カメラ画像を 精査した結果、 3月9日午後0時56分、 同マンション前路上に、 車両番号『あ - 6 - 97 - 8910』 の黒色ワンボックスカーが止まり、 同日午後0時58分、 同車両助手席から男(茶色の作業 着上下、 帽子を着用)が降り、 南方に歩いていく状況と、 同日午後1時11分、 南方から同 男と思われる男が走ってきて同車両助手席に乗り込み、 同車両が発進する状況が記録されて いた。 」 車両検索に関する捜査報告書(証拠D) 「車両番号『あ 8910』について検索をかけたところ、 同車両番号での黒色ワンボック スカーの該当は1台のみであることが確認され、 その使用者はBであることが判明した。 」 V名義のキャッシュカード利用状況に関する捜査関係事項照会回答書(証拠E) 「R銀行S支店に開設されたV名義の普通預金口座(口座番号1234567)に係るキャ ッシュカードについては、 3月9日午後1時35分頃、 Vの申入れにより利用停止の手続が 執られた。 同日午後1時40分、 UコンビニエンスストアT店に設置されたATMに同キャ ッシュカードが挿入され、 出金の操作が行われたが、 未遂に終わっている。 」 UコンビニエンスストアT店防犯カメラ画像の精査に関する捜査報告書(証拠F) 「UコンビニエンスストアT店の駐車場及び店内に設置された防犯カメラ画像を精査した結 果、 3月9日午後1時38分、 黒色ワンボックスカーが駐車場に止まり、 運転席から、 黒色 の上衣、 青色のズボンを着用した男(以下『甲』という。 )、 助手席から、 茶色の作業着上下 を着用した男(以下『乙』という。 )がそれぞれ降り、 入店する様子が記録されていた。 また、 入店後、 甲が、 同日午後1時39分から同日午後1時41分までの間、 ATM前に立ってい る様子、 乙が、 清涼飲料水コーナーでペットボトル1本を手に取り、 同日午後1時41分、 店員にカードを手渡して購入手続を行う様子が、 記録されていた。 」 商品購入状況に関する捜査報告書(証拠G) 「UコンビニエンスストアT店店長からの聴取により、 3月9日午後1時41分、 同店にお いて、 清涼飲料水1本が購入されたこと、 その購入に際しては、 交通系ICカードが用いら れたことが判明し、 同カードの名義人を照会した結果、 Bであることが確認された。 」 B方及びB使用車両の捜索差押調書(証拠H) 「3月10日午前7時から同日午前7時45分までの間、 B方及びB使用車両の捜索を実施 し、 B方において、 現金200万円、 茶色の作業着上下1着、 茶色の帽子1個、 水色物干し ロープ1巻及び携帯電話機1台を発見したので、 これらを差し押さえた。 」 Bの警察官面前の供述録取書(3月12日付け)(証拠I) 「3月1日の夜、 Aから電話で、 『家に金をためているばあさんがいるらしい。 一緒にその 金を奪わないか。 』と誘われ、 金に困っていたので承諾した。 それから何回か、 Aと共に私の 車でV方付近に行き、 V方の様子を観察したところ、 Vが1人暮らしで、 昼前後はV方にい ることが分かったので、 昼過ぎ頃にV方に押し入ることにした。 その後、 Aと話し合い、 私 が宅配業者を装ってV方に入り、 刃物でVを脅して現金とキャッシュカードを奪うこと、 そ の際にVから暗証番号を聞き出すこと、 発覚を遅らせるためにVを縛ること、 その間Aが見 張りをすることを決めた。 Aから、 宅配業者のような服とVを縛る道具を用意するように言 われたので、 茶色の作業着上下と帽子を購入した。 Vを縛るためには、 家にあった物干しロ ープを使うことにした。 3月9日午後0時過ぎ頃、 購入した作業着を着て、 私の車でA方に 行き、 その後、 Aに運転を替わってV方に向かった。 Aは、 V方付近のマンション前に車を 止めると、 『親父のだから、 落としたりするなよ。 』と言いながら、 私にナイフを渡してきた。 そのナイフを受け取って作業着上衣のポケットに入れ、 帽子をかぶり、 軍手をはめて車から 降りた。 その後は計画どおりに実行し、 V方のたんすの引き出し内にあった現金の束とキャ ッシュカード1枚を奪い、 暗証番号を聞き出した。 V方を出た後は、 Aが待つ車の助手席に 乗り込み、 Aが車を発進させた。 Aは、 しばらくの間車を走らせていたが、 30分ほど経っ た頃、 Uコンビニエンスストアの駐車場に車を止め、 『カードで金を下ろしてくる。 』と言っ - 7 -- 10 8 -- てきた。 そこで、 私は、 Vから奪ったキャッシュカード1枚をAに渡して暗証番号を伝え、 Aにナイフを返した。 Aが車から降り、 私も飲み物でも買おうと思って車から降りた。 店内 では、 私名義の交通系ICカードを使ってスポーツドリンク1本を買った。 それから、 Aと 2人で車に戻ったが、 この時Aが不機嫌そうに、 『もう使えなかった。 』と言っていたので、 キャッシュカードが利用停止になっており、 出金できなかったことが分かった。 その後、 A 方に行き、 Vから奪った現金500万円を2人で分けた。 取り分は、 Aが300万円で私が 200万円だった。 実行したのは私だったので分け前に少し不満はあったが、 地元の先輩で あるAには昔から面倒を見てもらっていて、 私が学校でいじめられていたときに助けてもら ったり、 金に困っていたときに金を貸してもらったりしていたので仕方ないと思った。 」 B使用の携帯電話機の精査に関する捜査報告書(証拠J) 「B使用の携帯電話機を精査したところ、 メッセージアプリがインストールされ、 同アプリ に『A』なる者が登録されていること、 『A』とBとの間で通話やメッセージが頻繁に交わさ れており、 3月1日午後8時32分にも『A』からの着信があり、 約14分間の通話があっ たことが判明した。 」 A方の捜索差押調書(証拠K) 「3月10日午後3時から同日午後3時45分までの間、 A方の捜索を実施し、 Aが使用 する部屋において、 R銀行発行に係るV名義のキャッシュカード1枚(口座番号12345 67)及びサバイバルナイフ1本を発見したので、 これらを差し押さえた。 」 A父の警察官面前の供述録取書(証拠L) 「私は、 妻、 息子のAと3人で自宅に住んでいる。 警察官から、 サバイバルナイフを所持 しているかと尋ねられたが、 1本持っている。 特注品であり、 柄には私の名前が入っている。 本日、 Aの部屋から発見されたというサバイバルナイフ1本を見せてもらったが、 柄に入っ た名前などから私のものに間違いない。 3月7日にもそのナイフを持って釣りに行った。 B のことは知っているが、 ここ数年は会ったことがなく、 そのナイフを貸したこともない。 」 指紋対照結果に関する捜査報告書(証拠M) 「証拠K記載のサバイバルナイフ1本から採取した指紋のうち、 柄から採取した指紋2個 が、 それぞれBの右手拇指及び右手中指の指紋と一致した。 」 Qマンション防犯カメラ画像の精査に関する捜査報告書(証拠N) 「3月1日以降の防犯カメラ画像を新たに入手して精査した結果、 同月3日から同月5日ま での各日午前8時頃から午後6時頃までの間、 車両番号『あ 8910』の黒色ワンボック スカーがQマンション前路上に止められ、 同車両を男2名が出入りする様子が記録されてい た。 」 Aの債務に関する捜査報告書(証拠O) 「消費者金融各社に対する照会の結果、 本件犯行日である3月9日時点で、 Aが消費者金融 Y社に対して105万円、 消費者金融Z社に対して220万円の債務を負っていたこと、 Y 社に対する債務につき、 3月10日午前9時32分に100万円が返済され、 Z社に対する 債務につき、 同日午前9時34分に200万円が返済されていることがそれぞれ判明した。 」 Bの検察官面前の供述録取書(3月26日付け)(証拠P) 証拠Iと同旨の供述に加え、 「事件の翌朝、 警察官が家に来たとき、 初めはしらを切ろうか と思ったが、 嘘を言っても通用しないだろうと思い、 最初から全部本当のことを話すことに した。 Vに怖い思いをさせて申し訳ない。 」旨の供述が録取されている。 なお、 Bは、 取調べ に対し、 一貫して本件犯行を認め、 証拠Iと同旨の供述をしていた。 3 受訴裁判所は、 4月2日、 本件被告事件を公判前整理手続に付する決定をした。 - 8 -- 11 9 -- 検察官は、 同月14日、 本件被告事件について、 犯行に至る経緯、 犯行状況等をB供述に沿 って時系列で記載した証明予定事実記載書を裁判所に提出するとともに、 証拠の取調べを裁判所 に請求し、 当該証拠を弁護人に開示した。 その後、 所定の手続を経て、 弁護人は、 「AがBと共謀した事実はなく、 Aは無罪である。 」 旨の予定主張記載書を裁判所に提出し、 検察官請求証拠に対する意見を述べた。 これを受け、 裁判所は、 検察官に対し、 どのような事実と証拠に基づいてAB間の共謀を立証するのか、 その主張と証拠の構造が分かるような証明予定事実記載書を追加で提出するように求めた。 その後、 検察官による追加の証明予定事実記載書の提出、 Bの証人尋問請求等の所定の手続 が行われ、 9月21日、 裁判所は、 争点を整理し、 検察官が請求したBを証人として尋問する 旨の決定をするなどした上、 審理計画を策定し、 公判前整理手続を終了した。 裁判所が策定し た審理計画は、 第1回公判期日に冒頭手続、 検察官請求証拠のうち証拠書類等の取調べ、 第2 回公判期日にBの証人尋問、 第3回公判期日に被告人質問、 第4回公判期日に論告、 弁論等を 行い、 第5回公判期日に判決を言い渡すというものであった。 4 検察官は、 Aについて、 起訴後の接見等禁止決定がなされていたものの、 その終期が公判前整 理手続の終了する日までとされていたことから、 同日、 接見等禁止の請求をし、 裁判官は、 そ の終期を第1回公判期日が終了する日までとして接見等禁止決定をした。 第1回公判期日において、 冒頭手続、 検察官請求証拠のうち証拠書類等の取調べが行われた。 検察官は、 同期日終了後、 裁判所に対し、 接見等禁止の請求をし、 裁判所は、 その終期を第2回 公判期日が終了する日までとして接見等禁止決定をした。 その後、 第2回公判期日において、 Bの証人尋問が行われ、 Bは、 証拠Pと同旨の証言をし た。 検察官は、 同期日終了後、 接見等禁止の請求をしなかった。 〔設問1〕 下線部に関し、 検察官は、 Aが本件被告事件に関与した状況についてのB供述の信用性が認め られ、 同供述の内容等を踏まえればAに共謀共同正犯が成立すると判断したものであるところ、 以下の各問いに答えなさい。 なお、 証拠@からH及び証拠JからOに記載された内容については、 信用性が認められることを前提とする。 B供述のうち本件被告事件に関与したのはAであるとする供述部分の信用性が認められると判断 した検察官の思考過程について、 具体的事実を指摘しつつ答えなさい。 Aに共謀共同正犯が成立すると判断した検察官の思考過程について、 具体的事実を指摘しつつ答 えなさい。 〔設問2〕 下線部に関し、 裁判所が検察官に対し、 追加の証明予定事実記載書の提出を求めた理由を、 公 判前整理手続の制度趣旨に言及しつつ答えなさい。 〔設問3〕 下線部及びに関し、 検察官は、 下線部では接見等禁止の請求をしたのに、 下線部ではこ れをしていないが、 検察官がこのように異なる対応を採った理由を、 具体的事実を指摘しつつ答 えなさい。 〔設問4〕 仮に、 第2回公判期日に実施されたBの証人尋問の主尋問において、 Bが「今回の事件は、 全て Aに言われたとおりにやった。 当日私が着ていた作業着やロープもAが用意したものだ。 」旨証言 した後、 反対尋問において、 弁護人がその点に関し捜査段階でどのような供述をしていたのかに - 9 - 12 10 - ついて尋問を尽くしても、 「覚えていない。 」旨の証言に終始したとする。 この場合において、 弁 護人は、 Bの証人尋問終了後、 「やむを得ない事由」(刑事訴訟法第316条の32第1項)があ り、 かつ、 証拠能力も認められるとして、 証拠Iの取調べを請求した。 これに対し、 検察官は、 「やむを得ない事由」があることは争わないとした上で、 証拠意見として「異議なし」と述べた。 弁護人が証拠Iの取調べを請求した思考過程について、 「やむを得ない事由」があり、 かつ、 証 拠能力も認められると考えた理由にも言及しつつ答えなさい。 検察官が証拠意見として「同意」ではなく「異議なし」と述べた理由を答えなさい。 - 10 - 13 11 -