論文式試験問題集[倒 - 1 - 産 法] [倒 産 法] 次の文章を読んで、後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例】 A株式会社(以下「A社」という。)は、自動車部品の製造及び販売を業とする株式会社である。 A社は、順調な業績を維持していたが、令和2年度に初めて赤字決算となったことから、自己所有 の甲土地をB株式会社(以下「B社」という。)に売却することとし、令和3年9月15日、B社と の間で、売買代金を取引相当額である5000万円とする売買契約を締結した。A社は、同日、B 社から売買代金の支払を受けるのと引換えに、B社に対し、甲土地を引き渡すとともに、所有権移 転登記手続の申請に必要な書類を交付したが、その際、甲土地を買い戻す意思があり、近く買戻資 金の手当ができる見込みなので、所有権移転の登記申請の実行を半年程度待ってほしいと要請した。 B社はこの要請に応じたが、実際は、A社において買戻資金を調達する予定はなく、むしろ、他の 取引先から信用供与を得る可能性を残すために、甲土地の所有名義をA社のままにしておくことが 目的であった。 しかしながら、令和3年10月以降、A社の売上げの半分以上を占めていたC株式会社(以下「C 社」という。)からの売掛金の支払が滞るようになり、同年12月5日にC社が破産手続開始の申立 てをしてC社からの売掛金の支払が完全に途絶えたため、A社は、資金繰りに窮することとなった。 そこで、A社は、メインバンクを含む金融機関に緊急の融資を求めたものの、十分な額の融資を受 けることができなかったことから、令和4年1月25日を支払期限とするD株式会社に対する買掛 金の支払を遅滞するに至ったほか、同月31日を支払期限とするメインバンクに対する借入金の分 割弁済もできなかった。 その後、A社は、令和4年2月20日、代理人弁護士Eの名義で、取引先や取引金融機関に対し、 A社は近日中にEを申立代理人として破産手続開始の申立てを行う予定であり、債務の支払につい てもそれまでの間停止する旨の通知(以下「本件通知」という。)を発した。さらに、A社は、同 年3月6日、F地方裁判所に対し、破産手続開始の申立てを行ったところ、F地方裁判所は、翌7 日、破産手続開始決定を発し、併せて弁護士Gを破産管財人に選任した。 〔設問1〕(とは、独立した問題である。) B社は、令和4年2月21日に本件通知を受け取ったため、登記手続に必要な印鑑証明書を改 めてA社から取得して、同年3月1日、甲土地についてB社への所有権移転登記手続を行った。 この登記手続を申請する行為につき、破産管財人GのB社に対する否認権の行使が認められるか、 論じなさい。 B社は、令和4年2月3日、A社において取引先に対する買掛金の支払やメインバンクに対す る借入金の返済が滞っているとの情報に接したことから、登記手続に必要な印鑑証明書を改めて A社から取得して、同月12日、甲土地についてB社への所有権移転登記手続を行った。この登 記手続を申請する行為につき、破産管財人GのB社に対する否認権の行使が認められるか、反対 の結論を採る立場にも言及しつつ、論じなさい。 〔設問2〕 仮に、 〔設問1〕において、甲土地の所有権移転登記手続を申請する行為が否認された場合、B 社と破産管財人Gとの間の法律関係はどのようになるか、論じなさい。また、甲土地の売買契約に 係る代金額が1000万円であり、廉価売却であるとして甲土地の売買契約自体が否認された場合 のB社と破産管財人Gとの間の法律関係についても、説明しなさい。 - 2 - 論文式試験問題集[租 - 3 - 税 法] [租 税 法] Aは、宅地建物取引士の資格を持ち、宅地建物取引業の免許を得て、平成10年4月から同30 年12月まで、個人で不動産業を営んでいた。Aは、その就業規則に基づいて、不動産の販売業務 に従事する使用人(以下「営業社員」という。)に対して、通常の給与とは別に、営業社員がA所有 の不動産を顧客に販売した場合に、その契約高に比例した金額の金員を「契約報奨金」という名目 で支給していた。営業社員が営業活動のために交通費や交際費を支出した場合、Aがその金額を補 填していた。しかし、補填には年ごとに上限額があり、営業社員がその上限額を超えた支出をして 差額を自己負担することも珍しくなかった。 Aの営業社員の一人であるBは、宅地建物取引士の資格を持っている。Bは、平成25年、通常 の給与として800万円、契約報奨金として1000万円をAから受け取った。同年にBが営業活 動のために支出した交通費及び交際費の合計額は70万円であり、そのうちAから補填を受けた金 額は60万円であった。 Aは、宅地建物取引士としての知識や、不動産業を営んできた経験に基づいて、平成26年3月 に、不動産取引に関する書籍を株式会社Cから出版した。Aは、同年9月に、同書に係る印税収入 として30万円を得た。 Aは、販売用に所有していた甲土地の譲渡に関して、平成28年4月から個人Dと交渉を始めた。 平成29年11月30日に、Aが甲土地を5000万円の対価によりDに譲渡する旨の契約が締結 され、同日、売買契約を原因とするDへの移転登記を経由した。しかし、当時Dの資力に一時的に 制限があったため、実際にDのAへの5000万円の代金支払が完了したのは、平成30年1月1 0日であった。 Aは、平成25年から同30年まで、E証券会社にA名義の口座を設けて、外国為替証拠金取引 (外国通貨の売買を、一定の証拠金を担保にして、その証拠金の何十倍もの金額で行う取引。以下 「FX取引」という。)を行っていた。Aは、この期間中に、年200回から300回のFX取引を 行い、平成25年には50万円余の利益を得たが、平成26年から同30年までは年100万円か ら300万円の損失を生じていた。Aは、FX取引を、主に不動産業の事務所のパソコンを用いて インターネット経由で行っており、他にFX取引のための設備等はなかった。また、Aは、FX取 引のための知識を、主にインターネットや雑誌により得ていた。 Aは、平成31年1月に、Aの不動産業を法人化して株式会社F(以下「F社」という。)を設立 し、その代表取締役となった。 F社は、令和元年6月から令和3年2月までの間に、人気上昇中の避暑地にある土地8区画を購 入し、同年4月、別荘用地として売り出した。売出しに当たり、F社は、分譲地内に水道施設を完 備する旨を広告用サイトに記載し、購入希望者を現地に案内した際にも営業担当者が同様の説明を 行っていた。F社は、土地の販売活動と並行して、地元の建設工事会社G(以下「G社」という。) に対し、水源の確保と水道工事の見積もりを依頼した。令和3年5月、G社は、8区画分の水道工 事代金を合計7550万円と見積もり(以下、当該金額を「本件工事見積額」という。)、F社にそ の旨連絡したが、水源の地主らとの折衝は難航していた。F社はG社に対し、地主との折衝を急ぐ よう求めるとともに、水源が確保できた区画から順次、G社の見積額で水道工事を発注すると伝え た。上記土地の売れ行きは順調で、F社は、令和3年11月までに8区画の全てを販売し、令和3 年12月までに各購入者への所有権移転登記を済ませ、売買代金全額を受領した。しかし、令和3 年末までにF社がG社に水道工事を発注したのは2区画にとどまり、残り6区画は水源確保に至ら ず、工事の着工見込みは立っていなかった。なお、F社は、各購入者との間で、水道工事の完成時 期について具体的な取決めはしていなかった。 その後、G社は、地元有力者の助力を得て、残り6区画についても水源を確保するに至り、F社 - 4 - は、令和4年3月、G社に上記6区画の水道工事を発注した。同年4月から9月にかけて8区画の 水道工事が順次完成し、F社は、同年5月から10月までの間に、完成した区画の工事代金を順次 支払った。F社が支払った工事代金の合計は、本件工事見積額と同額であった。 以上の事案について、以下の設問に答えなさい。ただし、租税特別措置法の適用は考えなくてよ い。なお、F社及びG社は、毎年1月1日から12月31日までの期間を事業年度としている。 〔設問〕 1 Bが平成25年にAから受け取った契約報奨金に係る所得は、所得税法上、いずれの所得に分類 されるか、説明しなさい。 2 Aが平成26年に得た印税収入に係る所得は、所得税法上、いずれの所得に分類されるか、説明 しなさい。 3 Aが甲土地の譲渡の対価としてDから受け取った金員に係る所得は、Aの所得税の金額の計算上 いつの年分の所得となるか、また、いずれの所得に分類されるか、説明しなさい。 4 FX取引により平成26年から同30年までにAに生じた損失は、Aの所得税の金額の計算上ど のように扱われるか、説明しなさい。 5 本件工事見積額は、F社の令和3年12月期の所得の金額の計算上、損金の額に算入することが できるか。根拠規定とその趣旨に触れつつ説明しなさい。 (参照条文) 所得税法施行令 (事業の範囲) 第63条 法第27条第1項(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付 業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。 一 農業 二 林業及び狩猟業 三 漁業及び水産養殖業 四 鉱業(土石採取業を含む。) 五 建設業 六 製造業 七 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。) 八 金融業及び保険業 九 不動産業 十 運輸通信業(倉庫業を含む。) 十一 医療保健業、著述業その他のサービス業 十二 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業 - 5 - 論文式試験問題集[経 - 6 - 済 法] [経 済 法] X社とY社は、電子部品である甲(以下「甲」という。)を製造販売する日本の会社である。X社 は、Y社から甲の製造販売事業の全てを譲り受けることを計画している(以下「本件計画」という。)。 甲は電子機器である乙(以下「乙」という。)の部品であり、乙は日本を含む世界中で販売されて いる。乙の部品として甲に代わるものはなく、また、乙の部品として用いる以外に甲の用途はない。 乙には、据付け型(以下「据付け型乙」という。)とモバイル型(以下「モバイル型乙」という。) がある。甲には、据付け型乙向けの大型のもの(以下「大型甲」という。)と、モバイル型乙向けの 小型のもの(以下「小型甲」という。)がある。 大型甲の代わりに小型甲を用いることはできないし、小型甲の代わりに大型甲を用いることもでき ない。また、大型甲の製造設備を小型甲の製造設備に変更することはできないし、小型甲の製造設備 を大型甲の製造設備に変更することもできない。なお、甲の製造販売事業を新たに開始することは困 難である。 X社及びY社を含む甲の製造販売業者は世界中に向けて甲を販売できる体制を整えており、日本に 所在するものを含む乙の製造販売業者は、必要な大型甲及び小型甲を、それぞれ世界中の甲の製造販 売業者から購入している。販売価格に占める輸送費や関税の割合は小さく、大型甲及び小型甲のいず れの取引においても、国ごとの価格差はない。 全世界における大型甲の販売状況(販売額に基づく市場シェア)は、X社が50パーセント、Y社 が40パーセント、A社が10パーセントである。近年、据付け型乙の需要は減少傾向にあり、それ に伴い大型甲に対する需要も減少傾向にある。大型甲の需要減少がY社の想定以上であることなどか ら、Y社の大型甲の製造販売部門は大幅な赤字が続いている。今後、本件計画が実現しなければ、近 い将来においてY社が大型甲の製造販売事業から撤退する蓋然性は高い。 大型甲の需要減少に伴い、X社及びY社は、大型甲について十分な製造余力を有する。これに対し て、A社は、大型甲の製造設備を縮小してきており、大型甲について製造余力を有しない。なお、A 社は、本件計画に先立ちY社からなされた、大型甲を含む甲の製造販売事業の全ての譲渡に関する申 出を断ったという経緯がある。 全世界における小型甲の販売状況(販売額に基づく市場シェア)は、A社が30パーセント、X社、 B社及びC社が各20パーセント、Y社が10パーセントである。据付け型乙とは対照的に、近年、 モバイル型乙の需要は増加傾向にあり、それに伴い小型甲に対する需要も増加傾向にある。モバイル 型乙及び小型甲をめぐっては技術開発を含む活発な競争が行われており、小型甲の製品サイクルは短 い。 X社及びY社が小型甲について十分な製造余力を有しないのに対して、A社、B社及びC社は小型 甲について十分な製造余力を有する。モバイル型乙の製造販売業者は、小型甲の製造販売業者に対し て取引交渉上の地位が強く、さらに、低価格調達のために発注方法を工夫している。 〔設問〕 本件計画に基づいてX社がY社から甲の製造販売事業の全てを譲り受けることは、私的独占の禁 止及び公正取引の確保に関する法律第16条第1項に違反するか検討しなさい。 なお、Y社の当該事業は同社の事業の「重要部分」(同項第1号)に該当するものとする。 - 7 - 論文式試験問題集[知的財産法] - 8 - [知的財産法] Xは、建売住宅の販売業用システムに係るデータベース(以下「Xデータベース」という。)を 開発し、販売していた。Xデータベースは、開発費用として3億円、開発期間として2年間を掛け、 Xの多くの従業員が関与し多大な労苦を重ねて建売住宅の情報を収集し、その社運を賭けて制作し たものであった。また、Xデータベースにおいては、そのデータ対象(建売住宅)として、人気エ リアであるA県内に実在する全ての2階建ての建売住宅約3万件が選択され、そのデータ項目とし て、販売開始年月日、坪単価、床面積、間取り、販売状況、住みやすさという各項目が選択され、 これらの各項目がその順序で端末の画面上に表示されるように構成されていた。このうち、「住み やすさ」という項目は、駅からの距離、治安の良さ、公共施設の存在、買い物のしやすさなどを基 に、実際に情報収集に当たったXのベテラン従業員のセンスと感覚により、社内での検討を経て、 居住した場合の主観的な満足度の予想を5段階にランク付けしたものであった。また、Xデータベ ースは、これらの建売住宅が画面上に販売開始年月日の新しい順に表示されるように構成されたも のであった。以上のような特徴を有する建売住宅のデータベースは、他府県のものも含め、これま で存在していなかった。 他方、Yは、Xデータベースを基にして、A県内の建売住宅の販売業用システムに係るデータベ ース(以下「Yデータベース」という。)を制作した。Yデータベースには、Xデータベースの建 売住宅約3万件のデータから、販売開始年月日の新しい順に取り出した 1 万件分の建売住宅のデー タが格納されており、そのデータ項目及びその画面表示上の順序は、Xデータベースにおけるそれ と完全に一致していた。Yデータベースには、Xデータベースにはない最新の販売分として建売住 宅500件のデータも格納されていたが、その500件のデータに係る「住みやすさ」の項目は、 空欄になっていた。 Yは、Yデータベースを、Xデータベースが販売されていたA県及びその近郊の地域で、大々的 に広告宣伝し、その販売活動を開始した。 以上の事実関係を前提として、以下の設問に答えなさい。なお、各設問はそれぞれ独立したもの であり、相互に関係はないものとする。 〔設問1〕 Xは、「Xデータベースは、建売住宅についてこれまで存在していなかったものを、Xの従業員 が多大な労苦を重ねて建売住宅の情報を収集して制作したものであり、建売住宅の選択、住みやす さ等の独自のデータ項目の選択及びそれらの画面表示上の順序に独自の工夫が凝らされているも のであって、著作物性を有する。」と主張している。 Xの上記主張の妥当性について論ぜよ。 〔設問2〕 仮に、Xデータベースに著作物性があり、Xがその著作権を有するとした場合、YがYデータベ ースを制作する行為は、Xの著作権を侵害するものであるといえるか。 〔設問3〕 Xは、「仮にXデータベースに著作物性がなく、YがYデータベースを制作し販売した行為が、 Xの著作権を侵害するものであるとはいえないとしても、このようなYの行為は、不法行為に当た る。」と主張している。 Xの上記主張の妥当性について論ぜよ。 - 9 - 〔設問4〕 Xは、Xデータベースの販売をPに任せることとし、Pに対して、Xデータベースの複製品を独 占的に作成し販売することにつき許諾を与えた。その後、Pは、QがXデータベースの複製品(以 下「Q製品」という。)を無断で作成し販売していることを発見し、Qに対し、Q製品の販売の差 止め及びこれまでの販売分に係る損害賠償を請求した。これに対し、Qは、「そもそも利用権者に すぎないPは、Q製品の販売差止め及び損害賠償を請求することはできない。」と主張している。 仮に、Xデータベースに著作物性があり、Xがその著作権を有するとした場合、Qの上記主張の 妥当性について論ぜよ。 - 10 - 論文式試験問題集[労 - 11 - 働 法] [労 働 法] 次の事例を読んで、後記の設問に答えなさい。 【事例】 Y社は、全国の百貨店内のテナント店舗のほかに多数の路面店を展開して女性服の小売業を営む 会社であり、Xは、平成29年4月1日からY社の路面店A店で販売担当従業員として勤務する有 期労働契約社員である。 Xは、販売担当従業員として勤務を始めた当初の1年半は平均的な成績であったが、接客の才能 を徐々に開花させ、その後は常に売上成績においてA店のトップであった。その一方で、Xの同僚 との関係は良好なものではなく、業務の進め方や店内での従業員間のコミュニケーションの取り方 に問題があった。例えば、A店においては、販売担当従業員が接客をしたことにより来店客が商品 の購入を決めた場合には、当該販売担当従業員が当該商品の配送の手配や代金受領の手続等をする こととされていたにもかかわらず、Xは、これを同僚に押し付けることを繰り返していた。そのた め、同僚らは、Xの接客技術については一目置いていたものの、その勤務態度に大いに不満を持っ ていた。また、Xは、同僚に対し商品の在庫確認を依頼する際に誤った説明をしておきながら、在 庫不足が問題となった際には、上司に対し同僚のミスであるなどと報告して責任を転嫁したり、他 の従業員への必要な声掛けや引継ぎをしないまま勝手に休憩に入ってしまったりすることを繰り 返していた。 Y社の有期労働契約社員の契約期間は1年であり、Y社は、契約更新の際、有期労働契約社員に 対し、新たに労働契約書に署名・押印をさせるだけでなく、その機会に、売上成績や勤務態度、能 力評価などを考慮して更新後の年俸額を決定していた。Xについては、令和2年4月及び令和3年 4月の契約更新の際、勤務態度を改善すべきことが指摘されたものの、売上成績がA店において群 を抜いていたことから、契約不更新の可能性が指摘されることはなかった。その間、A店の店長B は、同店の売上げを支えるXが前記のような勤務態度を改めることを期待してXに対して指導を行 うこともあったが、同僚とのトラブルはなくならず、多くの場合、他の販売担当従業員に対して「多 少は大目に見てやってくれ。」などと言って我慢をさせ、Xとの衝突が激しくなったときには、他の 販売担当従業員を他店へ異動させることも数回あった。 令和3年4月の契約更新後も、Xの売上成績は依然として他の販売担当従業員を引き離してA店 のトップであったが、Xの前記のような勤務態度が根本的に改まることはなく、また、他の販売担 当従業員に我慢を強いてきた結果、A店全体の職場環境は、相当悪化した状態にあった。店長Bは、 新人販売担当従業員2名が、そうした職場環境の悪さやXとの不仲を理由に立て続けに退職したこ とを契機として、これ以上Xを立て続けるのは困難であると感じ、契約の更新の繰り返しにより通 算契約期間が5年を超える前にXの有期労働契約を更新しないこととすることを決断した。Y社は、 契約期間満了日の3か月前よりも更に前の令和3年12月中に、Xに対して、契約を更新しない旨 を通知した。 Xは、Y社が労働契約を更新しなかったことは不当であり、Y社との労働契約は令和4年4月1 日以降も存続していると主張している。 〔設問〕 Xが訴訟で令和4年4月1日以降も労働契約が存続していることを主張する場合、裁判所に対し てどのような請求をすることが考えられるか。また、その請求は認められるか。問題となる法令上 の条文と考えられる論点を指摘しつつ検討し、あなたの見解を述べなさい。 - 12 - 論文式試験問題集[環 - 13 - 境 法] [環 境 法] 景観及び眺望に関する以下の設問において、AがB社に対して訴訟を提起する場合、当該訴訟に おいてどのような主張をすることが考えられるか。なお、仮処分については解答しなくてよい。 〔設問1〕 P市Q駅南口から直線状に延びる公道のうち同駅南口から1.2キロメートルの道路は、 「R通り」 と称され、幅員が44メートルと広く、道路の中心から左右両端に向かって車道、自転車レーン、 緑地及び歩道が配置され、緑地部分には100本を超える桜や銀杏等が植樹され、並木道が整備さ れ、良好な景観が形成されている。従来、R通り沿道地域の建築物は高さ20メートル未満とする ことを基本にしてきたが、B社はR通り南端に位置する土地を購入し、地上14階建て・高さ44 メートルのマンション(以下「本件マンション」という。)を建築することとし、完成した。なお、 本件マンションは建築規制に関する行政法規には違反していない。また、P市では、本件マンショ ンの建設当時、上記の景観を保護する法令上の独自の方策を講じていなかった。 R通りに面し、かつ、本件マンションの近隣に位置する土地の地権者であるAは、本件マンショ ンは景観を侵害するものとして、B社に対する法的手段を検討している。なお、本設問の解答に当 たっては、差止め及び原状回復については問わない。 〔設問2〕 S湾に面したT町は、緑豊かな自然が多く残る風光明媚な地域であり、T町は、良好な景観の保 持のために積極的な施策を続けてきた。AがT町のこのような地域に所有する居宅からは、S湾の 美しい眺望を一望できる。Aは、このような景観及び眺望の享受を主な目的として居宅を構えたも のである。 B社は、Aの居宅に近接する土地において、大規模な太陽光発電設備(以下「本件設備」という。) を設置して太陽光発電事業(以下「本件事業」という。)を営む計画を立てている。本件事業は、相 当数の世帯を賄えるだけの電力を地域に供給し、非常時に携帯電話等を充電できる設備も地域住民 に供用する計画である。また、B社は、太陽光発電設備の設置に係るT町の条例に従い、地域住民 に対して本件事業に関する説明会を実施したほか、関係法令を遵守している。しかし、本件設備が 完成すれば、地域の景観の相当部分に本件設備が広がるとともに、Aの居宅からのS湾の眺望のか なりの部分を遮ることにもなる。 Aは、B社に対する法的手段を検討している。本設問の解答に当たっては、予想されるB社の反 論を踏まえつつ、論じなさい。なお、損害賠償請求については問わない。また、問題文中に挙げた もの以外に、条例の内容は考慮しなくてよい。 - 14 - 論文式試験問題集[国際関係法(公法系)] - 15 - [国際関係法(公法系)] アフリカ中央部に位置するA海外州及びB海外州は、ヨーロッパのC国の植民地として19世紀 初頭から統治されていた。互いに隣接するA・B両海外州の間には山脈があり、その分水嶺は、C 国の国内法で同国の行政区画線の一部としてこれら2つの海外州間の境界線を構成していた。20 世紀に入ると、1930年代からC国内が革命により内乱状態となり、A・B両海外州もその影響 を受けたが、A海外州はその混乱に乗じて、B海外州との間の山脈を越えたところにあるB海外州 内のα地域に税務事務所を設置して、同地域における徴税に係る活動を開始した。これに対してB 海外州は、A海外州に抗議して、A海外州がα地域に設置した税務事務所の撤去を求めるとともに、 当該税務事務所の撤去をA海外州に命ずるようC国に上申したが、A海外州もC国も、こうしたB 海外州の求めに対していかなる対応も行わなかった。 その後、脱植民地化の過程において、A海外州もB海外州も、1960年にそれぞれA国及びB 国としてC国からの独立を果たし、A・B両国は、その独立直後から両国間の国境画定条約を締結 するための交渉を行ってきた。ところが、A国は、α地域を自国領と主張し、その独立直後から同 地域に自国軍隊を駐留させたため、B国は、こうしたA国の行動に対して定期的に抗議を行ってき た。しかし、A国は、更に警察や住民登録のための行政機関等を現地に常駐させるなど、α地域に 対する実効的な支配を強化していったことから、α地域に関係する国境線だけはA国とB国との間 で合意に至らず、常に紛争の火種となっていた。そこで、B国は、1990年に、A国を相手に、 α地域における国境線の画定問題を国際司法裁判所(以下「ICJ」という。)に一方的に付託した ところ、A国は、ICJに出廷する意思を示さず、この問題についてICJが判断を下すことはで きない旨の書簡をICJに送付した。 他方で、A国とB国は、自国の安全保障の観点から、C国及びC国に隣接するD国とともに、1 995年に軍備管理に関するP条約を批准した。この条約によると、当事国は、核兵器を開発も保 有もしないこと(2条)、正規軍の兵員数の上限を2万人とすること(3条)とされていた。なお、 D国は、P条約第2条について、 「この規定は、いかなる状況においても、D国には適用されない。」 という留保を付した上でP条約を批准したところ、C国のみがD国の批准の3か月後にD国の留保 に異議を申し立てた。なお、P条約には留保に関する規定が置かれていなかった。 B国は、A国との国境画定交渉が停滞していることを不満として、2000年頃からα地域を武 力で奪還すべく正規軍の規模を3万人に増やし、その半数の兵力をα地域の近くに配置した。これ に対してA国は、P条約第3条の運用を停止すると宣言し、正規軍の兵員数を4万人まで増員して、 そのおよそ半数の兵員をα地域に駐留させることを決定した。また、A国は、その当時B国内で生 じていた反政府デモを利用し、このデモを指導していた政治団体Sに対して、資金のほか武器・弾 薬等も供与してB国内の状況を更に混乱させようとしたため、この動きを察知したB国は、個別的 自衛権の行使を主張してα地域に自国軍隊を進め、B国軍隊は、α地域に駐留していたA国軍隊と の間で交戦状態に入った。 A国、B国、C国及びD国は、いずれも国際連合(以下「国連」という。)の加盟国である。また、 これら4国は、いずれも1969年の条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。) についていかなる留保も付さずに1980年から当事国となっている。また、P条約については、 A国、B国、C国及びD国のいずれにおいても、それぞれの国内手続が行われて批准がなされ、1 996年に効力が発生している。さらに、A国及びB国は、独立した年に国連に加盟するとともに、 ICJ規程第36条第2項に基づき、裁判所の管轄権を受諾する宣言を行ったが、B国は、 「B国が 本質上自国の国内管轄内にあると判断する紛争」には、この選択条項受諾宣言が適用されない旨を 国連事務総長に通告している。 以上の事実を基に、以下の設問に答えなさい。 - 16 - 〔設問〕 1.B国は、α地域が自国領であると主張する観点から、国際法上いかなる議論が可能かについて 論じなさい。 2.A国は、α地域におけるB国との国境線の画定問題についてICJが判断を下すことはできな いと主張するために、国際法上いかなる議論が可能かについて論じなさい。 3.C国は、条約法条約の適用上、P条約との関連でD国といかなる条約関係を主張することが可 能かについて論じなさい。 4.A国は、自国正規軍の増員をP条約違反に問われないために、国際法上いかなる議論が可能か について論じなさい。 5.A国は、α地域におけるB国の軍事行動が国際違法行為であることを主張するために、国際法 上いかなる議論が可能かについて論じなさい。 - 17 - 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)] - 18 - [国際関係法(私法系)] 甲国籍のA女は、1987年に甲国P州で生まれ、その後も2009年まで同州にのみ居住して いた。Aの親族は、現在まで同州に居住している。甲国籍のB男は、1987年に甲国Q州で生ま れ、その後も2011年まで同州にのみ居住していた。Bの親族は、現在まで同州に居住している。 A及びBは、2009年に甲国Q州において、いずれも22歳で婚姻して、Aは同州に転居した。 婚姻から約1年後の2010年に同州において、AB間に子C(甲国籍)が生まれた。Cの出生か ら更に1年間、A、B及びCは同州に居住していた。Bは2009年に同州の大学の日本語学科を 卒業後、同州内の地元企業に就職したが、2011年に日本企業に転職し、就業場所が東京となっ たことから、A、B及びCは同年に来日し、現在まで日本で生活を営んでいる。Aは、日本の大学 に甲国語の語学教師として常勤しており、Cは、日本の公立学校に通学している。Cが6歳になる 2016年頃から、Bは、A及びCに対して日常的に暴力を振るうようになり、これによりAB間 の婚姻関係は実質的に破綻し、AとBは翌2017年から別居して、それ以降はAがCを監護して いる。A及びBは、それぞれ今後も日本での生活を継続する予定であり、甲国に帰国する意思はな い。 別居から約5年後の2022年に、Aは、Bとの離婚等を求めて、日本の家庭裁判所に調停を申 し立てた。その後、調停は不成立となり、Aは、Bの暴行等により婚姻関係が破綻したと主張して、 Bを被告として、離婚及びCの親権者をAと定めること、並びに離婚せざるを得なくなったことに ついての精神的苦痛に対する慰謝料200万円及びBの暴行についての精神的苦痛に対する慰謝 料100万円の合計300万円の支払を求める訴えを提起した。 なお、甲国は、P州、Q州を含む複数の州から成る地域的不統一法国であり、州ごとに民法の内 容が異なる。甲国P州民法は、@年齢18歳をもって成年とすること、A離婚をするときは、未成 年の子の親権は父母が共同して行う旨の規定を有している。甲国Q州民法は、@年齢20歳をもっ て成年とすること、A離婚をするときは、未成年の子の親権は父のみが行う旨の規定を有している。 また、甲国には、甲国人が甲国内のいずれの州に属するかを示すような属人法の決定基準として用 いられる統一的な準国際私法の規則は存在しない。 以上の事実に加え、本件において日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められること及び日本の国 際私法の観点からみてAB間の婚姻が有効に成立していることを前提として、以下の設問に答えな さい。 〔設問1〕 本件においてAB間の離婚が認められるか否かについて、日本の裁判所は、いずれの国の法を適 用して判断すべきか論じなさい。 〔設問2〕 本件においてAB間の離婚が認められるものとする。その場合において、以下の小問に答えなさ い。 〔小問1〕 日本の裁判所は、Cの親権者をAと定めることができるか。準拠法の決定過程を示しつつ、論 じなさい。 〔小問2〕 Aの慰謝料請求について、日本の裁判所は、いずれの国の法を適用して判断すべきか論じなさ い。 - 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