【公法系科目】 〔第1問〕 1.本問は、 架空の「新遺族年金法案骨子」(新制度案)を素材に、 社会保障立法の憲法第2 5条、 第14条第1項適合性を、 訴訟をも念頭に置いて検討することを求めるものである。 設問1に対しては、 A省の任期付公務員(法曹資格者)であるXの立場から、 新制度案の憲 法適合性について、 判例だけでなく学説をも踏まえて批判的に論じる必要がある。 つまり、 Xとしては、 生存権を具体化する立法について広い立法裁量を認める判例の立場よりも立法 裁量を狭め、 より厳密な違憲審査をもたらすような主張をすることが期待されている。 ただ し、 必ずしも「憲法違反である」という結論に至らなければならないわけではない。 他方、 設問2では、 設問1で述べられた新制度案に対する批判的な見解について、 自己の立場から その適否を論じることが求められている。 設問1で述べられた見解とは異なり、 社会保障立 法の制定、 社会保障立法上の区別について広い立法裁量を認める立場から論じてもよいが、 その場合でも設問1で述べられた見解に対して十分な批判を加えた上で自説を論じることが 必要である。 本問は社会保障制度についての知識を問うものではなく、 甲とXとの会話文(以下「会話 文」という。 )の中で架空の新制度案の概要が説明され、 また、 関連する立法事実について も示されている。 さらに、 新制度案において憲法適合性を検討すべき部分も会話文の中で具 体的に挙げられている。 それゆえ、 会話文と「新遺族年金法案骨子」から適切に必要な事実 や情報、 論点を見いだし、 生存権に関する判例・学説の理解を基に考察を加えることができ るのかどうかが問われている。 会話文の中でXが指摘しているように、 新制度案において憲法適合性を検討すべき部分と しては、 @死亡した被保険者によって生計を維持してきた配偶者が一定の年齢以上でなけれ ば「遺族」として新遺族年金を受給できないとされていること、 A新遺族年金の受給資格が 認められる年齢について夫と妻との間で大きな開きがあること、 B現行の制度の下で遺族年 金の給付を受けている者が、 新遺族年金の受給資格要件を満たしていない場合、 受給資格を 喪失するとしていること、 が挙げられる。 2.まず、 新制度案が、 死亡した被保険者の配偶者に対して遺族年金の受給に年齢要件を課し ていることについては、 配偶者の生存権を侵害し、 憲法第25条に違反しないかが問題とな ろう。 しかし、 最高裁判所は、 堀木訴訟判決(最大判昭和57年7月7日民集36巻7号1 235頁)において、 「憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を 講ずるかの選択決定は、 立法府の広い裁量にゆだねられており、 それが著しく合理性を欠き 明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き、 裁判所が審査判断するのに 適しない事柄であるといわなければならない」として、 生存権具体化立法について非常に広 い立法裁量を認めている。 それに対して、 Xの立場から、 配偶者の年齢要件の憲法第25条 適合性についてより立ち入った違憲審査を導こうとするのであれば、 遺族年金は文字どおり 「健康で文化的な最低限度の生活」を営む権利を実現するためのものであって、 生存権の中 核的な部分と関わる、 といった説明が必要であろう。 さらに、 配偶者の年齢要件は一定の年齢に達した者と達していない者との間で年齢により 差別をするものであって、 憲法第14条第1項に違反すると論じることも考えられる。 確か に、 堀木訴訟判決も、 「憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において、 受給 者の範囲、 支給要件、 支給金額等につきなんら合理的理由のない不当な差別的取扱をした… …ときは、 別に……憲法14条……違反の問題を生じうることは否定しえない」、 としてい るところである。 しかし、 堀木訴訟判決や同判決に依拠した学生無年金訴訟判決(最判平成 19年9月28日民集61巻6号2345頁)からして、 生存権を実現するための法律にお ける区別が憲法第14条第1項違反として争われる場合にも広い立法裁量を認めるのが最高 - 1 - 裁判所の立場である。 果たして生存権具体化立法における区別が年齢差別であることを理由 に、 合理的な区別と言えるか否かについて裁判所による厳密な検討が必要であると説得的に 主張できるかどうかが、 問題となる。 3.それに対して、 新制度案で、 被保険者の妻が40歳以上であれば遺族年金を受給できるの に対して、 夫は55歳以上でなければ遺族年金を受給できないとされているのは、 性別によ る不合理な差別であり憲法第14条第1項に違反するのではないか、 という点も問題となる。 もっとも、 最高裁判所は、 地方公務員災害補償法が死亡した職員の夫について一定の年齢に 達していることを遺族補償年金受給の要件としていることが、 憲法第14条第1項に違反し ないとしている(最判平成29年3月21日判時2341号65頁)。 ただし、 そこでは、 妻以外の遺族と妻との区別の問題として扱っており、 性別による区別の問題として捉えられ てはいなかった。 そこで、 本問の新制度案のように性別による区別として理解される場合、 社会保障立法上の区別についての広い立法裁量を認める立場が妥当するかどうか検討する必 要があろう。 Xとしては、 憲法第14条第1項後段は歴史的な経験を踏まえて不当な差別事 由を掲げたものであるので、 性別といった憲法第14条第1項後段列挙事由による区別がな されている場合には、 厳格な違憲審査基準あるいは厳格な合理性の基準による違憲審査がな されるべきであるなどと主張することが考えられる。 あるいは、 「健康で文化的な最低限度 の生活」に関わるものである遺族年金受給について、 性別という憲法第14条第1項後段列 挙事由によって区別をするものであることを理由に違憲審査の厳格度を高める主張をするこ ともあり得る。 もっとも、 不当な性差別として念頭に置かれてきたのは女性を不利に扱う女性差別であっ たのに対して、 新制度案は男性を女性に比較して不利に扱うものであるという点をどう考え るかが問題となる。 会話文では、 男女の就労状況、 収入の実情に大きな格差があることがデ ータによって裏付けられており、 新制度案における夫と妻の年齢要件の相違はそうした格差 を踏まえてのものであるとされている。 そこで、 こうした女性の優遇が実質的平等実現のた めの区別であり、 厳密な違憲審査がなされる「性差別」には当たらないと解すべきなのか、 あるいは、 実質的平等を実現するという名目での女性優遇が、 男女の役割についてのステレ オ・タイプの発想に基づくものであり、 現状を固定化させてしまうものであると批判的に捉 えるべきなのか、 どちらの立場をとるのかが問われることになる。 4.これまで遺族年金の受給権が認められてきた者に対して、 新遺族年金の受給資格要件を遡 及的に適用し、 受給資格要件を満たさない場合には受給資格を喪失させることは、 憲法第2 5条に違反しないのかも問題となろう。 これについては、 Xとしては、 生存権を具体化する 法律が制定された後に、 当該法律を改廃して法律上の受給権をなくしたり、 縮減したりする 場合には、 法律を制定して受給権を生み出す場合よりも立法裁量が狭まり、 合理的な理由が 求められるという、 いわゆる「制度後退禁止原則」に依拠することが考えられる。 この場合 には、 法律によって抽象的な権利である生存権が具体的な権利とされているからであるとか、 生存権の自由権的な側面の侵害に当たるからであるとか、 制度後退禁止原則が認められる理 由が論じられていなければならない。 他方、 最高裁判所が、 生活保護基準における老齢加算 廃止について、 厚生労働大臣は「被保護者の……期待的利益についても可及的に配慮するた め、 その廃止の具体的な方法等について、 激変緩和措置の要否などを含め、 ……専門技術的 かつ政策的な見地からの裁量権を有しているものというべきである」、 としていることも参 考になろう(最判平成24年2月28日民集66巻3号1240頁)。 つまり、 この判示を 参考にして、 国会には新遺族年金制度の創設について立法裁量が認められるが、 これまで遺 族年金を受給してきた者の期待的利益を考慮に入れてその裁量を行使しなければならず、 裁 判所は、 国会が新遺族年金制度の創設に当たりそうした期待的利益に適切な考慮を払ったか 審査すべきである、 と論じることも考えられる。 - 2 - さらに、 新遺族年金の受給資格要件を満たさない遺族年金受給者の受給資格を喪失させる ことが憲法第25条に違反しないとしても、 せめて受給資格喪失者に対して経過措置をとる べきでないか、 また、 従前の年金の受給を認める期間が5年間でよいのか、 3年目から受給 額を半減させることは不当でないか、 問題となろう。 また、 上記老齢加算廃止についての判 決が「老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は、 ……老齢加算の廃止に際し激変緩和 等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当 であるとした同大臣の判断に、 被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量 権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に、 生活保護法3条、 8条2項の規定 に違反し、 違法となるものというべきである」、 としていることも参考になろう。 〔第2問〕 社会福祉法人が法令違反等の不適正な運営を行った場合、 都道府県知事等の所轄庁は、 当該 不適正な運営を是正するために社会福祉法(以下「法」という。 )第56条に基づく各種の監 督措置を執ることになる。 本問は、 所轄庁であるB県知事が社会福祉法人A(以下「A」とい う。 )に対して行った監査でAの理事Dに対する法第27条に違反する貸付け(以下「本件貸 付け」という。 )が発覚したことを受けて、 B県知事が、 法第56条に基づき、 Aに対して行 った改善勧告から解散命令に至るまでの一連の監督措置の中で、 B県とA等との間で生じる法 的問題について問うものである。 本問では、 Aの理事長であるCが一連の監督措置を争うために相談した弁護士Eと弁護士F による【法律事務所の会議録】及び【資料1 と【資料2 社会福祉法(昭和26年法律第45号) (抜粋)】 B県社会福祉法人指導監査実施要綱(抜粋)】を読んで、 法の規定する要件や効 果とその運用を踏まえて、 Aに対する理事長Cの役員解職勧告(以下「本件解職勧告」という。 ) の取消訴訟、 A及びDが原告となって提起することが想定されるAに対する解散命令(以下「本 件解散命令」という。 )の取消訴訟並びにAによる本件解散命令の執行停止の申立てに関する 各法的問題について、 弁護士Fの立場からの検討過程を論理的に示すことが求められる。 まず、 〔設問1〕では、 法第56条第7項に基づき行われた本件解職勧告が行政事件訴訟 法(以下「行訴法」という。 )第3条第2項の取消訴訟の対象となる処分に該当するか否かを、 想定される反対の見解の論拠も踏まえて検討することが求められる。 その際には、 医療法上の 勧告について処分性を認めた最判平成17年7月15日民集59巻6号1661頁(以下「平 成17年判決」という。 )が、 通常は行政指導として位置付けられる「勧告」について処分性 を肯定するに至った論拠等を押さえながら、 本件解職勧告と当該勧告の拒否に際して執られる 措置との連動関係及び当該措置が相手方に及ぼす影響等の観点から、 本件と平成17年判決と を比較検討することが求められる。 また、 法が本件解職勧告について予定している弁明手続と、 行政手続法上の意見聴取に関する手続の相違等にも着目し、 本件解職勧告が処分に当たるかど うかを検討することが求められる。 〔設問1〕は、 Aの理事Dが本件解散命令の取消訴訟を提起することを想定し、 Dの原告 適格の有無を問うものである。 本問では、 本件解散命令の相手方以外の第三者であるDの原告 適格の有無を、 形式的には処分の相手方以外の第三者を処分の相手方に準ずる者として不服申 立適格又は原告適格を認めた最判平成18年1月19日民集60巻1号65頁や最判平成25 年7月12日集民244号43頁を手掛かりにして、 所轄庁の解散命令により解散を命ぜられ た社会福祉法人の解散当時の役員は、 以後、 社会福祉法人の評議員及び役員に就任することが できない旨を定める法第40条第1項第5号及び法第44条第1項の規定を摘示するなどし て、 行訴法第9条第2項による検討を経ることなく、 本件解散命令の法効果からDについて当 該処分の取消しにより回復すべき「法律上の利益」(行訴法第9条第1項)が肯定されるか否 かを検討することが求められる。 - 3 - 次に、 〔設問2〕では、 Aが本件解散命令の取消訴訟を適法に提起したことを前提に、 A が行った執行停止の申立てに関する要件のうち、 行訴法第25条第2項の「重大な損害」につ いて、 Aはどのような主張を行うべきかを、 想定されるB県の反論も踏まえて、 検討すること が求められる。 「重大な損害」の有無の判断に関しては、 行訴法第25条第3項で考慮事項が 定められているところ、 同項の考慮事項を踏まえて執行停止を認容した最決平成19年12月 18日集民226号603頁(以下「平成19年決定」という。 )を参考にして、 その「重大 な損害」の有無を、 本件と平成19年決定との違いを意識しながら、 本件解散命令によりAが 被る損害や、 Aが提供する福祉サービスの利用者等に不利益が生じるという本件解散命令の性 質、 あるいは本件解散命令により保護される利益等を同項の定める考慮要素に当てはめて、 本 問における事実関係に即して検討することが求められる。 〔設問2〕は、 同じくAが本件解散命令の取消訴訟を適法に提起したことを前提に、 Aが 提起した本件解散命令の取消訴訟において、 Aはどのような本案に関する主張をすべきか、 想 定されるB県の反論を踏まえた検討を求めるものである。 本問は、 B県知事が本件解散命令を 監督措置として選択したことに関する違法性の有無を問うものであり、 特に、 法第56条第8 項の規定を踏まえてB県知事に裁量が認められるかどうかや、 B県知事に裁量が認められる場 合にはその裁量権の範囲を逸脱し又は裁量権を濫用したものとならないかの検討を求めるもの である。 そして、 その検討に当たっては、 法第24条、 第61条第1項第2号等が社会福祉法 人の自主性・自律性の尊重を定めていることや、 法が監督措置のうち最も過酷な措置である解 散命令については、 「他の方法により監督の目的を達することができないとき」と比例原則の 要請をあえて明文化した要件を定めていることなど、 法の趣旨を踏まえつつ、 本問における事 実関係や【法律事務所の会議録】で示された監督措置の実績等に照らした検討が求められる。 【民事系科目】 〔第1問〕 1 設問1について 設問1は、 建物の所有者の死亡により生じた遺産共有状態の下で、 被相続人の子であった 共有者の1人が、 被相続人の配偶者であった共有者が建物を無権限で使用しているとして建 物の明渡請求及び金銭の支払請求をした事案を基に、 物権及び相続の両分野にまたがる諸制 度の基本的知識と相互関係の理解を問うものである。 設問1では、 配偶者Dが被相続人Aの生前から建物に無償で居住していたことによる 無償での占有権原の成立を主張した場合の法律関係が問われている。 ア その前提として、 本問で問題となっている請求は、 建物を共同相続することによって 取得した共有持分権に基づく返還請求権としての建物明渡請求(請求1)と、 請求者B の共有持分権に対応する使用利益をDが不当に利得していることを理由とする不当利得 返還請求、 又は共有持分権に対応する使用収益権をDの故意又は過失により侵害された ことを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(請求2)であることを確認する必要 がある。 その際、 Bは、 Aの財産を共同相続しており、 遺産分割は未了であるから、 Bは甲建 物について共有持分権を有し(民法第898条第1項)、 その持分の割合はBの法定相 続分である4分の1であること(民法第898条第2項、 第887条第1項、 第890 条、 第900条第1号、 第4号)、 も指摘する必要がある。 イ その上で、 Dが主張する無償の占有権原の成否につき、 その法的構成を明らかにし、 本問での当てはめを展開する必要がある。 すなわち、 Dは、 被相続人の配偶者として、 被相続人の生前から被相続人所有の建物に無償で居住していたことに基づき、 配偶者短 期居住権(民法第1037条第1項第1号)の成立を主張しているものと考えられる。 - 4 - そのため、 Dがその法律要件を満たすことを丁寧に論ずることが求められる。 なお、 Dの主張は、 遺産に属する建物の相続開始後の使用について被相続人と相続人 との間に使用貸借契約が推認される場合に関する判例法理(最判平成8年12月17日 民集50巻10号2778頁)によるものと解することもできなくはない。 もっとも、 この判例は平成30年法律第72号により配偶者短期居住権制度が創設される前のもの であり、 現行法制の下では、 従前の判例法理と配偶者短期居住権との関係について適切 に論ずることが求められる。 ウ 次に、 Dが無断で居住用建物の改築及び店舗開業をしていることから、 配偶者短期居 住権の消滅が問題となる。 これらの行為は、 建物の従前の用法を変動させるものであっ て、 用法遵守の善管注意義務(民法第1038条第1項)に違反し、 配偶者短期居住権 の消滅請求事由となり得る(同条第3項)ところ、 Bの申入れ(事実3)により消滅請 求の意思表示がされたものと解することができるかについて、 事案を分析して法律要件 に適切に当てはめることが求められる。 なお、 目的不動産が共有される場合において、 配偶者短期居住権の消滅請求を各共有 者が単独でできるかどうかも問題となり、 この点について適切に論ずる答案は、 高く評 価される。 設問1では、 Dが、 建物の共有持分権を有していることを根拠に、 無償での占有権原 があると主張した場合の法律関係が問われている。 ア 請求1については、 まず、 Dが、 Aの配偶者として法定相続分2分の1の割合で共同 相続し、 甲建物について2分の1の共有持分権を有していることを確認する必要がある。 そして、 相続財産の共有(遺産共有)も民法第249条以下に規定する共有とその性質 を異にするものではなく(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)、 共有の 規定が適用されるが、 各共有者は共有物の全部についてその持分に応じた使用をする権 限を有するため(同条第1項)、 Dは甲建物につき正当な占有権原を有する。 そのため、 Bの明渡請求は直ちには認められず、 明渡しを求める理由があることを主 張立証する必要があること(最判昭和41年5月19日民集20巻5号947頁)につ いて、 判例法理を踏まえて適切に論ずることが求められる。 共有者間で誰が共有物を使 用するかを決めるのは共有物の管理に関する事項に当たること(民法第252条第1項 後段)を踏まえ、 Bの請求に理由があるかどうかにつき、 BがCの同意を得たとしても なお持分の過半数による決定を得ることができないことを指摘しつつ、 事案を分析して 自説を展開する必要がある。 イ 他方で、 請求2については、 Dが共有者として正当な占有権原を有しているとしても、 その持分は2分の1にすぎないことに着目する必要がある。 共有者は、 その持分割合を 超えた使用利益を享受することまでは正当化されないため(民法第249条第2項)、 Dが、 請求2(Bの持分割合に応じた使用利益相当額の支払請求)を拒むことができな いとの結論を導くことが求められる。 2 設問2について 設問2は、 物品(動物)の売買契約において売主が提供した目的物を買主が受領しない事 案を基に、 受領義務の成否、 その不履行による契約解除の成否及び契約解除の場合の損害賠 償の具体的内容について問うものである。 債権の分野に関する基本的な知識・理解を踏まえ つつ、 受領義務の不履行及び売主側の解除という事案の特殊性に即して論理を展開する能力 が問われている。 ア 設問2では、 下線部でのEの主張が、 Fに本件コイを受け取る債務(受領義務) があることを前提に、 その不履行による催告解除(民法第541条)を主張するもので あることから、 まず受領義務の成否を検討する必要がある。 - 5 - 債権者が履行を受領しない場合における債務者の不利益については、 受領遅滞制度や 供託制度による手当てがあり、 通常、 債務不履行の効果までは必要とされない。 そこで、 判例・通説は、 債権者の一般的な受領義務は否定しつつ、 一定の場合に限って受領義務 を認める立場をとる(最判昭和40年12月3日民集19巻9号2090頁、 最判昭和 46年12月16日民集25巻9号1472頁)。 受領義務の成否は特に物の売買契約 について問題となるが、 受領義務を認めるべき範囲をめぐっては、 この立場の中でも見 解が分かれる。 大別すれば、 個別の売買契約の事情に着目して、 信義則や契約解釈を通 じて個別に受領義務を認める見解(判例もこの見解とみられる。 )と、 売買契約一般に つき、 契約の趣旨から類型的に買主の受領義務を導く見解とがある。 いずれの見解をとるにせよ、 本問では、 受領義務が、 何を根拠に、 どのような範囲で 認められるかについての考え方を示した上で、 それを設例に当てはめる必要がある。 F が本件コイを受領しなければ、 Eは、 その管理のため毎日の世話が必要となり、 また、 その保管場所とするため乙池を塞がれて他の用途に利用できなくなることからすれば、 個別の契約の事情に着眼する前者の見解からも、 Fの受領義務が認められよう。 なお、 債権者が一般的に受領義務を負うとする答案も、 判例・通説の見解を踏まえて 自説を論じていれば、 同等に評価される。 また、 結論としてFの受領義務を否定する答 案も、 契約@の個別事情についての検討が説得的であれば、 同等に評価される。 イ Fに受領義務があるとしても、 民法第541条に基づく解除をするためには、 受領義 務の不履行がなければならない。 受領義務の不履行は、 履行の提供がされたにもかかわ らず、 債権者が目的物を受領しない場合に成立する。 引渡日におけるEの行為が本件コ イの引渡債務の現実の提供(民法第493条本文)に当たること、 及び、 Fがそれを受 領しないことが受領義務の不履行(履行遅滞)となることの指摘が求められる。 さらに、 催告と解除の意思表示も要件となる。 Eが、 相当の期間を定めた催告と同時 に、 停止条件付きの解除の意思表示をしていることについて指摘する必要がある。 ア 設問2では、 下線部の損害について具体的に検討するに先立ち、 Eの損害賠償請 求の根拠を確認しておく必要がある。 Eは、 受領義務の債務不履行に基づく損害賠償請 求(民法第415条第1項)をしているところ、 Fには民法第415条第1項ただし書 の事由がないため、 この請求は認められる。 Eは契約@を解除しているが、 このことは 債務不履行に基づく損害賠償請求を妨げず(民法第545条第4項)、 また、 Eの債務 不履行は履行遅滞であるが、 契約解除に伴い、 債務の履行に代わる損害賠償が認められ る(民法第415条第2項第3号)ことの指摘が求められる。 イ これを前提に、 本件コイの代金相当額100万円の損害賠償請求の当否を論ずること になるが、 Fが受領義務を履行しなかったために、 契約@の解除によりFの受領義務と ともにEの代金債権が消滅し、 Eは代金相当額の損害を受けている。 そのため、 消滅し た受領義務又は代金債権に代わる填補賠償として、 代金相当額100万円の損害賠償請 求が認められるとの結論を導くことが求められる。 ウ 次に、 釣堀の営業利益10万円の損害賠償請求の当否が問われる。 Fが受領義務を履 行しなかったために、 Eは釣堀の営業利益を失った。 この損害については、 民法第41 6条が定める損害賠償の範囲に含まれるかが問題となり、 特別損害として同条第2項の 規定が適用されることを、 乙池での釣堀営業の計画が特別事情に当たることを明示しつ つ指摘することが求められる。 同項が要件とする特別事情の予見可能性について、 判例は、 債務不履行時までに債務 者がその事情を予見すべきであったことと解する(大判大正7年8月27日民録24輯 1658頁、 大判昭和15年2月28日新聞4543号7頁)。 この解釈を、 その合理 性とともに、 明確に提示することが必要となる。 Fは、 Eから釣堀営業の計画を知らさ - 6 - れた後も、 受領義務の履行遅滞を継続して(Fが前記の計画を知った時以降の不履行を 指摘することが必要である。 )、 Eの営業利益を失わせたのであるから、 営業利益10万 円は損害賠償の範囲に含まれることになる。 なお、 民法第416条第2項は「予見すべき」という規範的基準をとっているため、 Eが催告時にFに計画を告げただけではFが計画を「予見すべき」とまではいえないと いう評価もあり得る。 また、 同項について、 前記の判例の解釈を説明した上で、 契約締 結時の予見を基準とする解釈をとって、 本問での予見を否定する答案も、 同等の評価を 受ける。 エ 最後に、 損害賠償の額に関して、 損益相殺の検討が求められる。 Eは、 契約@の解除 により本件コイの引渡債務を免れるから、 損益相殺として、 賠償額から本件コイの価値 が控除されることを指摘しなければならない。 その上で、 本件コイの価値をどの時点の市場価格によって算定すべきかが問題となる。 これについては、 市場価格が下落傾向にある中で売主が契約を解除するという事案の特 殊性に即した考察が求められる。 Eは、 解除までは契約に拘束されるため、 解除時点の 下落価格によってしか本件コイを他に売却処分することができない。 他方で、 解除後は、 本件コイの保管に伴う負担を免れるべく、 早期の処分を行うことが期待される。 このよ うに考えれば、 解除時点の下落価格70万円を損益相殺の額とすべきことになる。 解除 時以降の他の時点を基準とする考え方も、 その論拠の説得力に応じて同等に評価される。 3 設問3について 設問3は、 抵当権に基づく転貸賃料債権に対する物上代位の可否及び範囲につき、 担保物 権の諸規定と判例に関する基本的な知識・理解を踏まえ、 事案に即しつつ一貫した論理を展 開する能力を問うものである。 転貸賃料債権に対する物上代位について論ずる前提として、 Hは、 抵当権に基づく賃料 債権に対する物上代位権の行使をすることができるかどうかが問題となる。 ア 抵当権に基づく賃料債権に対する物上代位は可能と解されているが、 その根拠につい ては、 主に、 実体的根拠を民法第371条の規定に求めた上で、 物上代位による差押 えは、 民法第372条において準用する同法第304条第1項ただし書の規定によりこ れをすることができるとする見解(以下「説」という。 )と、 実体的根拠を民法第 372条において準用する同法第304条第1項の規定に求め、 同法第371条の規定 は、 担保不動産収益執行の実体的根拠となるとする見解(以下「説」という。 )とが ある。 そして、 抵当権の効力が賃料に及ぶ理由について、 説からは、 抵当権は、 被担保債 権について不履行があったときは、 天然果実・法定果実を問わず、 果実についてその効 力が及ぶことを民法第371条の規定に基づいて説明することが考えられる。 これに対 し、 説からは、 賃料については、 付加的物上代位として抵当権の効力が及ぶと説明す ることが考えられる。 いずれにせよ、 抵当権の効力が賃料に対して及ぶ理由の検討にお いて、 利害関係人の利益を考量したり、 抵当権の本質に遡ったりするものには、 高い評 価が与えられる。 イ その上で、 抵当権に基づく物上代位権の行使としての差押えは、 抵当権の実行方法の 一つであり、 抵当権の被担保債権について不履行が生じていることを要件とするため、 Hが有する抵当権の被担保債権であるα債権について不履行が生じていることを指摘す る必要がある。 ア 以上を前提に、 Hの転貸賃料債権に対する抵当権に基づく物上代位権の行使の可否を 論ずることが求められる。 その解答に当たっては、 最決平成12年4月14日民集54 巻4号1552頁(以下「平成12年決定」という。 )を正確に理解した上で、 解釈論 - 7 - として一貫した論述をする必要がある。 平成12年決定は、 抵当権に基づく転貸賃料債権に対する物上代位は、 原則として認 められないとした。 その理由は、 (@)抵当権に基づく物上代位は、 物的責任を負担する 者、 つまり抵当不動産の所有者が有する債権についてのみ可能であること、 (A)正常な 転貸借をした賃借人=転貸人の利益も考慮しなければならないこと、 (B)(平成15年 法律第134号による改正前の民法第371条の規定の下では、 抵当権に基づく転貸賃 料債権に対する物上代位は専ら民法第372条において準用する同法第304条の規定 が根拠となっていたことを前提として)同条第1項の文言に照らして、 抵当不動産の賃 借人=転貸人を「債務者」に含めることができないことである。 これを踏まえて、 本問でも、 抵当権に基づく転貸賃料債権に対する物上代位が原則と して認められないという定式を示した上で、 その理由を論ずる必要があるが、 平成15 年法律第134号による改正後の現行民法の下では、 説に立つ場合には、 平成12年 決定の(B)を理由として援用することができる一方で、 説に立つ場合には、 (B)を援 用すると論理が一貫しないこととなることに留意しなければならない。 イ その上で、 平成12年決定が示した、 「抵当不動産の賃借人を所有者と同視すること を相当とする場合」には抵当権に基づく転貸賃料債権に対する物上代位が例外的に認め られるという定式を示して、 事案に即した論述を行うことが求められる。 Lは、 Gの弟であり、 形式的にも実質的にも同一人であるとはいえないが、 抵当権の 行使を妨害する目的や不当な債権回収目的があるといった事情から、 Lを所有者と同視 することを相当とする場合に当たるといえるかどうかが問題となる。 抵当権の行使を妨害する目的に焦点を合わせる場合には、 @LがGの弟であること、 A賃貸借関係への割込みにより転貸借関係が作出されたこと、 B転貸借契約がされた時 期が資金繰りの悪化した後、 α債権の弁済期の直前であったこと、 C賃貸料の額と転貸 賃料の額との間の差が大きいこと、 D原賃貸料は、 実際には支払われないこととされて いたことを考慮すれば、 転貸借関係の作出は、 Hの賃料債権に対する物上代位権の行使 を妨害する目的でされたものといえよう。 債権を回収する目的に焦点を合わせる場合には、 債権回収そのものは何ら不当なもの ではないとしても、 抵当権設定登記がされた後、 一般債権者であるLが賃料債権から自 己のβ債権を回収するために上記のような形で賃貸借関係に割り込むことは、 不当な債 権行使目的でされたものと評価されよう(最判平成10年1月30日民集52巻1号1 頁、 最判平成10年3月26日民集52巻2号483頁等を参照)。 いずれにせよ、 本問では、 抵当不動産の賃借人Lを所有者と同視することを相当とす る場合に当たり、 Hは、 転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権の行使をする ことができるとの結論を導くことが求められる。 ア 5月分の転貸賃料債権は、 Hが有する抵当権の被担保債権であるα債権についての債 務不履行の前に生じたものである。 そこで、 5月分の転貸賃料債権に対しても、 抵当権 に基づく物上代位権の行使をすることができるかどうかが問題となる。 抵当権者が抵当権の被担保債権についての不履行前に生じた賃料から物上代位に基づ いて優先弁済を受けることができるかどうかについては、 肯定説と否定説とが対立して いる。 イ 肯定説からは、 @抵当権は、 抵当目的物件の換価代金の意味での交換価値のみではな く、 使用・収益価値も抵当権設定時から潜在的に把握しているとされるが、 否定説から は、 @´抵当権は、 非占有担保であることが強調される。 また、 説をとった上で肯定説をとるときは、 A民事執行法第188条において準用 する同法第93条第2項の規定は、 賃料債権の発生時期を問題としていないとされるの - 8 - に対し、 説をとった上で否定説をとるときは、 A´強制執行としての強制管理の対象 の範囲と担保執行としての担保不動産収益執行の対象の範囲とは異なってしかるべきで あるため、 前記の準用は、 根拠とならないとされるとともに、 B´民法第371条の「生 じた」という文言からは、 否定説が素直な解釈であるとされる。 他方で、 説をとった場合において、 担保不動産収益執行の対象の範囲と物上代位の 対象の範囲とは同じであるべきであるとの評価を提示するときは、 前記の説をとった 上での肯定説の論拠と否定説の論拠とを肯定説・否定説の各立場から援用することがで きる。 さらに、 説をとった上で肯定説をとるときは、 B抵当権に基づく賃料債権に対 する物上代位は、 民法第372条において準用する同法第304条第1項の規定によっ て認められるため、 民法第371条の文言は、 妨げとならないとされる。 ウ どの結論をとるにせよ、 論理を一貫させることが求められる。 例えば、 説をとるに もかかわらず、 Bの論拠を挙げて肯定説をとったり、 説をとるにもかかわらず、 単純 にB´の論拠を挙げて否定説をとったりするものは、 論理が一貫していないと評価され る。 〔第2問〕 1 本問は、 公開会社でない取締役会設置会社において、 @唯一の株主であり、 かつ、 代表取 締役でもある者が代表取締役として行った行為について、 その者の会社法第423条第1項 に基づく損害賠償責任及び会社法第429条第1項に基づく損害賠償責任の有無を検討する こと(設問1)、 A権利行使者の指定のない共有株式につき議決権が行使された株主総会決 議の効力を、 当該株式を共有する者が当該株主総会決議の取消しの訴えを提起することの適 法性(原告適格及び訴えの利益の有無)とともに検討すること(設問2)を求めるものであ る。 いずれについても、 会社法上の重要な制度や判例に関する基本的な理解を前提に、 問題 点を適切に分析した上で、 具体的な事実関係に応じて結論を導き出すことができるか否かを 問うものである。 2 設問1は、 甲社の唯一の株主であり、 かつ、 代表取締役であるAが、 甲社の代表取締役 として本件売買契約を締結したことについて、 その法的責任の有無を問うものである。 小 問1においては、 その後に株主となったGが会社法第423条第1項に基づく損害賠償を 請求する責任追及等の訴えを提起した場合、 小問2においては、 債権者である乙社が会社 法第429条第1項に基づく損害賠償を請求する訴えを提起した場合において、 Aの損害 賠償責任が認められるか否かを検討することが求められるものであるが、 特に任務懈怠の 有無については、 各小問を通じて整合的な検討をすることが望ましい。 小問1においては、 まず、 本問の事実関係の下で、 会社法第423条第1項の損害賠償 責任が認められるための要件に沿って検討することが求められる(なお、 問題文に「会社 法第423条第1項に基づく損害賠償を請求する責任追及等の訴えを適法に提起した」と 記載されていることから、 Gが責任追及等の訴えを提起するための訴訟要件について検討 する必要はない。 )。 その中でも特に問題となるのが、 任務懈怠の有無である。 小問1においては、 本件売買 契約を締結することは、 甲社の唯一の株主の意向に沿ったものであるから、 そのような場 合にも任務懈怠があるといってよいのかについて、 取締役が負う善管注意義務又は忠実義 務の本質に触れつつ、 検討することが求められる。 これらの義務の内容について、 株主の 経済的利益を最大化するという観点から考えるのであれば、 小問1においては任務懈怠を 否定する方向に傾くことになろうが、 これとは異なる考え方やこのような方向を修正すべ き要素があると考えるのであれば、 その点も含めて的確に論ずることが求められる。 さらに、 小問1においては、 Aの立場において考えられる反論及びその当否についての - 9 - 検討も求められる。 Aの立場からすると、 上記のように、 取締役が負う善管注意義務又は 忠実義務の内容について、 株主の経済的利益を最大化するという観点から考えるべきであ ることを前提に、 自らが唯一の株主であったことを理由に任務懈怠がなかったと主張する ことが考えられるため、 この点について的確に論ずることが求められる。 また、 それ以外 にも、 Aとしては、 自らが唯一の株主であったことから、 免除(会社法第424条)があ ったと主張することも考えられることから、 その点についても検討することが望ましい。 その場合には、 問題文からは免除に関する明示的な意思表示があったとはいえず、 また、 Gが責任追及等の訴えを提起していることに鑑み、 AがGに対して甲社の株式を譲渡する 前に免除に関する黙示の意思表示があったといえるか否かという観点から検討することが できると、 なお望ましい。 ところで、 小問1において、 利益相反取引である間接取引(会社法第356条第1項第 3号)の該当性を検討する場合であっても、 それが肯定されることによって任務懈怠が推 定されるにすぎないことから(会社法第423条第3項)、 Aの立場において考えられる 反論及びその当否として、 上記の各点について検討することが求められることになる(任 務懈怠責任の有無を検討するに当たって重要なのは上記の各点について検討することであ り、 間接取引の該当性を検討する場合であっても、 そのことを踏まえて論ずることが求め られる。 )。 なお、 問題文に「甲社においては、 本件売買契約の締結に先立ち、 取締役会の 決議等の会社法所定の手続が行われた」と記載されていることから、 手続的な規制につい て検討する必要はない。 次に、 小問2であるが、 小問2においても、 まず、 本問の事実関係の下で、 会社法第4 29条第1項の損害賠償責任が認められるための要件に沿って検討することが求められ る。 ここでも、 特に問題となる点は、 小問1と同様である。 会社法第429条第1項に基づ く損害賠償責任の性質については、 諸説があるが、 判例(最判昭和44年11月26日民 集23巻11号2150頁参照)によれば、 株式会社に対する任務懈怠についての悪意又 は重過失の有無が問われることとなる。 その上で、 小問2においては、 本件売買契約を締 結したことが甲社の唯一の株主の意向に沿ったものではあるものの、 それによって経営に 悪影響が生じ、 債務の弁済にも支障を来す程度に財務状態が悪化したことなどの小問1の 事実関係とは異なる点に留意して検討することになる。 小問1の事実関係とは異なる点を 重視すると、 任務懈怠を肯定する方向に傾くことになろうが、 その場合には、 取締役が負 う善管注意義務又は忠実義務の内容について株主の経済的利益を最大化するという観点か ら考えるべきであるという考え方によっているのであれば、 そのこととの整合性をどのよ うに考えるのかという点にも配慮しながら論ずるのが望ましい。 どのような考え方によるにせよ、 各小問を検討するに当たり、 整合性に意識しながら検 討することが望ましい。 例えば、 小問1において任務懈怠を否定し、 小問2において任務 懈怠を肯定するのであれば、 結論を異にする理由を意識しながら検討することが望ましい。 実務においては、 各小問のように、 一人会社においてその唯一の株主自身が取締役として 行った行為や唯一の株主の事実上の同意の下で行われた行為に係る任務懈怠の有無が問題 となることは多く、 参考となる下級審の裁判例も見られるところであり、 より実務的な観 点から、 事例解析能力、 論理的思考力、 会社法に関する基本的な理解並びに法令の解釈及 び適用の能力等を試そうとするものである。 3 設問2は、 共有株式につき、 権利行使者の指定もなく、 共有者間で何一つ合意がされて いない状況において、 共有者の一人によって株主総会で議決権が行使された結果、 取締役 を選任する旨の決議がされた場合に、 その決議の効力について、 他の共有者がその決議の 取消しの訴えを提起することの適法性とともに検討することを求めるものである。 具体的 - 10 - には、 問題文に指摘されているところに従い、 株主総会決議の取消しの訴えを提起するこ との適法性として原告適格及び訴えの利益の有無を検討するとともに、 株主総会決議の取 消しの訴えに係る請求が認められるか否かについて検討することになる。 まず、 原告適格(小問1)については、 権利行使者としての指定を受けてその旨を株式 会社に通知していないときは、 特段の事情がない限り、 原告適格を有しないという判例(最 判平成2年12月4日民集44巻9号1165頁参照)の考え方を踏まえつつ、 検討する ことが求められる。 判例のように、 原則として原告適格が認められないとした上で、 特段 の事情の有無を検討することも考えられるし、 判例とは異なる考え方に立って検討するこ とも考えられるが、 いずれにしても、 権利行使者の指定がないことによって原告適格の有 無が問題となることを理解していることが求められる。 次に、 訴えの利益(小問1及び小問2)についてであるが、 小問1と小問2を通じて、 株主総会決議につきいわゆる瑕疵の連鎖がある場合にどのように考えるのかという点につ いての理解を問うものである。 まず、 株主総会決議の取消しの訴えは、 形成の訴えであり、 原告適格が認められる者は訴えの利益を有するのが通常であるものの、 その後の事情の変 化によって訴えの利益を欠くことがあり得るところ、 取締役を選任する株主総会決議の取 消し訴えの係属中に、 その決議に基づいて選任された取締役が全て任期満了によって退任 し、 その後の株主総会決議によって新たな取締役が選任されたときは、 特段の事情のない 限り、 訴えの利益を欠くに至るという判例(最判昭和45年4月2日民集24巻4号22 3頁参照)の考え方を前提とすると、 本件決議1に基づいて選任された取締役は、 本件株 主総会2の終結時に任期満了によって退任することになるため、 本件訴えについては、 特 段の事情のない限り、 訴えの利益を欠くことになると考えられるところである。 これを踏まえ、 小問1及び小問2の事実関係を下に、 更に具体的に検討することが求め られる。 小問1においては、 本件決議1が取り消されると、 本件決議1に基づいて選任さ れた取締役によって構成される取締役会による代表取締役の選定も遡って無効になるた め、 本件株主総会2はその招集手続に瑕疵があることとなり、 本件決議1の瑕疵が連鎖す るものといえることから、 この点を適切に評価し、 訴えの利益を欠くことになるのか否か を検討することになろう(この点については、 最判令和2年9月3日民集74巻6号15 57頁を参考にすることが考えられる。 )。 これに対し、 小問2においては、 本件決議1が B、 C及びDを取締役に再任するものであったことからすると、 本件決議1が取り消され ても、 B、 C又はDは、 会社法第346条第1項又は第351条第1項の規定により取締 役又は代表取締役としての権利義務を有することになるなどの事情を適切に評価し(例え ば、 本件株主総会2の招集手続に瑕疵があることにはならず、 本件決議1の瑕疵が連鎖す るものとはいえないなど)、 訴えの利益を欠くことになるのか否かを検討することになろ う。 最後に、 株主総会決議取消しの訴えに係る請求が認められるか否か(小問1)であるが、 この点については、 共有株式について会社法第106条本文の規定に基づく権利行使者の 指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、 当該権利 の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、 株式会社が同条ただし書の 同意をしても、 当該権利の行使は、 適法となるものではないという判例(最判平成27年 2月19日民集69巻1号25頁参照)の考え方を踏まえつつ、 検討することが求められ る。 さらに、 同判例は、 共有株式についての議決権の行使は、 当該議決権の行使をもって 直ちに株式を処分し、 又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、 株式の管理に関する行為として、 各共有者の持分の価格に従い、 その過半数で決せられる としていることから、 判例と同様の考え方による場合には、 本件準共有株式につき、 Hと Iとの間で何一つ合意がされていない以上、 Hによる議決権の行使は適法ではなかったこ - 11 - とになるものと考えられる。 それ以外にも、 Hによる議決権の行使を保存行為とする考え 方や、 そもそも判例とは異なる考え方に立って検討することも考えられるが、 いずれにし ても、 会社法第106条本文及び同条ただし書の関係及び内容についての正しい理解と適 切な解釈論を示すことが求められる。 その上で、 決議取消事由(会社法第831条第1項 第1号)の該当性を検討することになる(定足数に満たないことになる、 又は議決権の取 扱いに違法があるなど)。 〔第3問〕 本問は、 XがYに対し、 貸金の返還を求める訴えを提起し(以下、 この訴えの訴訟物の内容 をなす貸金債権を「甲債権」といい、 この訴えに係る訴訟手続を「本件訴訟」という。 )、 これ に対し、 Yが請求原因事実を認めた上で、 主位的に弁済の抗弁を、 予備的にXに対する売買代 金債権(以下「乙債権」という。 )により相殺する旨の訴訟上の相殺の抗弁を主張したという 事案を素材としている。 この事案について、 @Yが不当な方法で収集した電子メールをプリン トアウトしたもの(以下「本件文書」という。 )の取調べを申し出た場合において、 民事訴訟 におけるいわゆる違法収集証拠の証拠能力についての検討(設問1)、 A本件訴訟において、 更にXが相続により取得したYに対する貸金債権(以下「丙債権」という。 )によって乙債権 を相殺したという訴訟外の相殺の再抗弁を主張し、 Xの請求を認容する判決に対してXのみが 控訴した場合において、 不利益変更禁止の原則を踏まえた控訴審の審理・判断についての検討 (設問2)、 B甲債権の保証人であるZが補助参加した本件訴訟についてXの請求を認容する 判決が確定した場合において、 その後に提起されたXのZに対する保証債務履行請求訴訟及び ZのYに対する求償請求訴訟における、 上記確定判決に基づく効力ないし参加的効力について の検討(設問3)をそれぞれ求めるものである。 設問1(a)は、 民事訴訟において違法収集証拠の証拠能力が制限される場合があり得ること を前提としつつ、 証拠能力を否定する際の法的根拠を挙げて、 証拠能力の有無をいかなる基準 により判断すべきかを問うものである。 民事訴訟法(以下「法」という。 )には、 違法収集証 拠の証拠能力を制限した規定はないが、 にもかかわらず違法収集証拠の証拠能力がなぜ無制限 には認められないかについては、 裁判所が当事者等による証拠の違法な作成・収集を助長する おそれ、 公正かつ適正な裁判に対する国民の信頼を損なうおそれ等への配慮があることの指摘 が期待される。 具体的な事例において違法収集証拠の証拠能力を制限する際の法的根拠及び判 断基準については、 最高裁判所の判例がいまだ存在せず、 様々な学説が提唱されている状況で あるから、 いかなる見解を採用したかによって評価に差を設けることはない。 例えば、 下級審 裁判例(東京高判昭和52年7月15日判時867号60頁参照)による場合には、 人格権の 保護を根拠としつつ、 当該証拠が著しく反社会的な手段を用いて取得されたものかどうかを基 準とすることが考えられる。 また、 訴訟上の信義則(法第2条)を根拠とし、 証拠収集の手段 や態様の違法性、 被侵害利益の重大性、 証拠の重要性、 真実発見の要請等を総合的に考慮して 証拠能力の有無を判断する有力説による場合には、 判断基準となり得る重要な要素を摘示しつ つ、 それらの総合考慮により判断すべきことを指摘する必要があろう。 設問1(b)は、 設問の事実関係の下で、 (a)において採用した判断基準に照らして本件文書の 証拠能力の有無を判断することを求めるものである。 証拠収集の手段や態様の違法性等の各要 素に該当する具体的な事実の検討は、 (a)において採用した判断基準と整合的でない限り、 評 価されない。 例えば、 前掲下級審裁判例によるときは、 人格権侵害ないし違法性との関係で、 証拠収集の手段・態様の違法性、 被侵害利益の重大性を検討し、 その結果、 人格権侵害ないし 違法性が肯定される場合でも、 他の要素(証拠の重要性、 真実発見の要請)に鑑み、 違法性が 阻却される余地があるかどうかを検討することが考えられる。 他方、 訴訟上の信義則を根拠と した総合考慮による場合には、 上記の各要素に該当する事実を設問の事実関係から抽出した上 - 12 - で、 個別にあてはめを行い、 総合考慮の結果として、 結論を導くことが期待される。 設問2は、 相殺の抗弁に対するいわゆる再相殺について、 訴訟上の相殺の再抗弁は不適法で あるが、 訴訟外の相殺の意思表示の主張は適法と解されること(最判平成10年4月30日民 集52巻3号930頁参照)を前提として、 第1審で訴訟外の再相殺の主張が認められて請求 認容判決がされた事案において、 Xのみが控訴した場合の控訴審の審理判断の在り方について、 具体的な事実関係を基に論じさせるものであり、 民事訴訟の基本的な理解を踏まえた論理的思 考力及び論述力を問うものである。 (ア)では、 控訴裁判所の心証に従えば、 原判決を取り消し、 請求を棄却する旨の判決をする ことが想定されるところ、 この判決が不利益変更禁止の原則(法第304条)に違反するかに ついて、 同原則の趣旨を踏まえ、 控訴裁判所の判決が確定した場合と原判決が確定した場合の 既判力の比較により検討することが求められる。 甲債権の弁済による消滅を理由とする請求棄 却判決は、 Xにとり不利益変更に当たると解されるから、 控訴裁判所は、 控訴を棄却する旨を 主文とする判決をするにとどめるべきことになろう。 (イ)においても、 控訴裁判所は、 原判決を取り消し、 請求を棄却する旨の判決をすることが 想定される。 ここでも不利益変更禁止原則の適用を検討する必要があるが、 具体的な事実関係 の下で、 相殺の判断に係る既判力(法第114条第2項)の検討を含めるべきことを論じた上 で、 請求棄却判決がXにとって不利益変更に当たることを指摘することが期待される。 (ウ)では、 控訴裁判所も請求認容判決をすることが想定されるものの、 乙債権の弁済による 消滅により、 訴訟外の相殺の主張につき判断が不要となる点を指摘し、 原判決の理由中でされ ていた丙債権による相殺に係る判断が控訴裁判所の判決ではなされないことの帰結について検 討することが求められる。 訴訟外の相殺の主張の判断に法第114条第2項の適用を認める通 説では、 丙債権に係る判断につき既判力の範囲に変更が生ずることから、 控訴裁判所は、 原判 決を取り消し、 Xの請求を認容する旨を主文とする判決をすべきことになろう。 設問3の課題1では、 甲債権を認めて、 XのYに対する請求を認容する旨の判決が確定した 後、 XがYの補助参加人であったZに対して甲債権に係る保証債務の履行を請求したという場 合において、 XY間の確定判決が、 XのZに対する保証債務履行請求訴訟において何らかの拘 束力を及ぼすかを問うものである。 確定判決の拘束力としては様々なものを想定し得ることか ら、 それらを広く取り上げた上で、 それぞれの拘束力について十分に検討をすることが期待さ れる。 一例を挙げるならば、 通説の立場から、 Zは、 法第115条により既判力の拡張を受け る者ではないこと、 法第46条の効力は、 参加人と被参加人との間の敗訴責任の共同分担とい う根拠から認められる特別な効力であって、 参加人と相手方との間に生ずることは想定されな いことを論じた上で、 さらに、 争点効又は法第2条に基づく信義則上の拘束力の作用を認め得 るか、 を論ずることが考えられる。 設問3の課題2は、 XのYに対する請求認容判決の確定後、 保証債務を履行したZがYに対 して求償請求訴訟を提起した場合に、 XのYに対する請求認容判決に係る法第46条の効力を Zが援用し得るか、 という点を問うものである。 補助参加人による被参加人に対する同条の効 力の援用が、 同条の根拠から正当化し得るか、 という点を、 同条自体は、 被参加人から補助参 加人に対して同条の効力を援用する場合を想定していることを踏まえて論ずることが期待され る。 例えば、 法第46条の根拠を敗訴責任の共同分担と捉える立場からは、 補助参加人から被 参加人に対して同条の効力を援用することは認められてしかるべきであると論ずることが考え られるが、 このように論ずる場合には、 同条が被参加人から補助参加人への援用を想定してい ることとの整合性をどうつけるかについても一定の説明が求められよう。 【刑事系科目】 〔第1問〕 - 13 - 1 設問1について 本設問は、 構成要件上、 「人を欺いて財物を交付させ」るとして手段・態様が限定される 詐欺罪について、 現金の交付を求める文言が述べられるより前に、 実行の着手を認めて詐欺 未遂罪が成立するとする場合の論拠(設問1)及び当該論拠に基づき具体的事実関係に即 して実行の着手が認められる時点を明らかにすること(設問1)を求めるものであり、 現 金を詐取する計画の下、 段階を踏みながら複数のうそを重ねて行われる詐欺の犯行について、 詐欺未遂罪の成立を認める立場から、 実行の着手を認める論拠を明示した上で、 具体的事実 に即して実行の着手時期を明らかにさせることによって、 未遂犯の解釈に関する基本的な知 識と理解を問うとともに、 規範との関係で事実を適切に評価して規範を適用し、 妥当な結論 を導く思考力を問うものである。 詐欺罪の実行行為としての欺罔行為は、 財物交付に向けられたものである必要があるとこ ろ、 詐欺において財物の交付を求める行為こそが、 人に財物を交付しなければならないとい う中核部分に錯誤を生じさせる行為であると解し、 それに至らない段階では財物交付に向け られた行為とは認められないと解した場合、 甲らは、 Aに対し、 「現金の交付を求める文言」 (すなわち、 「捜査のために必要なので現金を預けてほしい」旨のうそ)を述べる前の段階 にあるため、 未だ実行行為を行っていないことになる。 その上で、 詐欺罪は、 構成要件上、 欺罔行為を手段として限定している犯罪であるから、 「犯罪の実行に着手してこれを遂げな かった」(刑法第43条)として未遂犯処罰を認めるためには、 実行行為である欺罔行為に 着手する必要があると解し、 未遂犯処罰に構成要件的制約を認める立場に立つ場合、 甲に詐 欺未遂罪を認めることはできない。 そこで、 「現金の交付を求める文言を述べる」行為が実行行為としての欺罔行為であると しても、 その前の段階で詐欺未遂罪の成立を認める立場からの説明として、 a.構成要件上、 手段・態様を限定した詐欺罪においても、 構成要件による制約を認める必要はないとし、 実 行行為の開始前に未遂罪の成立が認められるとする論拠を論じることが考えられる。 その際 には、 どのような場合に未遂罪の成立を認めるべきかについて、 未遂罪の処罰が認められる 根拠から、 結果発生の客観的危険性や実行行為との密接関連性、 犯行計画を基礎とした行為 経過の自動性、 時間的場所的近接性等の考慮要素を挙げるなどして具体的な規範を定立しつ つ論じることが求められよう。 この点、 構成要件上、 手段・態様を限定した犯罪ではないが、 殺人罪に関し、 最決平成16年3月22日刑集58巻3号187頁が「実行犯3名の殺害計 画は、 …というものであって、 第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠 なものであったといえること、 第1行為に成功した場合、 それ以降の殺害計画を遂行する上 で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められることや、 第1行為と第2行為と の間の時間的場所的近接性などに照らすと、 第1行為は第2行為に密接な行為であり、 実行 犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるか ら、 その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。 」と判示 しているのが参考となろう。 一方、 b.実行行為としての欺罔行為に財物交付要求行為までは必要ないが、 詐欺未遂罪 の成立には欺罔行為の一部を開始している必要があると解する場合には、 詐欺罪の実行行為 としての欺罔行為の意義を明らかにする必要がある。 被害者から現金を詐取する計画の下、 被害者が現金を交付する判断の前提となる事項につながる重要なうそや、 現金交付を求める 行為に直接つながるうそを積み重ね、 段階を踏みながら進められる詐欺事犯の特徴を押さえ た上で、 被害者に財物を交付させる危険性の高まりを考慮し、 実行行為としての欺罔行為を 認めることが考えられる。 この立場に立つ場合、 甲らの行為が実行行為としての欺罔行為を 一部開始しているとして詐欺未遂罪の成立を説明することになろう。 また、 欺罔行為に財物 交付要求行為は必要ないとの立場に立った上で、 甲らの行為は実行行為としての欺罔行為に - 14 - 当たらないとした場合でもなお、 詐欺未遂罪の成立には欺罔行為の一部を開始している必要 はないと解する場合には、 上記a.の立場から詐欺未遂罪の成立を論じる余地はあろう。 い ずれの立場に立つ場合であっても、 欺罔行為の意義、 詐欺未遂罪の成立を認める論拠及び構 成要件的制約の要否の相関関係に留意する必要がある。 なお、 判例は、 詐欺未遂罪の成立に現金の交付を求める文言を述べることまでは必要とし ておらず、 最判平成30年3月22日刑集72巻1号82頁が【事例1】と類似の事案にお いて、 「本件嘘の内容は、 その犯行計画上、 被害者が現金を交付するか否かを判断する前提 となるよう予定された事項に係る重要なものであったと認められる。 そして、 このように段 階を踏んで嘘を重ねながら現金を交付させるための犯行計画の下において述べられた本件嘘 には、 預金口座から現金を下ろして被害者宅に移動させることを求める趣旨の文言や、 間も なく警察官が被害者宅を訪問することを予告する文言といった、 被害者に現金の交付を求め る行為に直接つながる嘘が含まれており、 …被害者に対し、 本件嘘を真実であると誤信させ ることは、 被害者において、 間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の求めに応じ て即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえる。 このような事実関係の 下においては、 本件嘘を一連のものとして被害者に対して述べた段階において、 被害者に現 金の交付を求める文言を述べていないとしても、 詐欺罪の実行の着手があったと認められ る。 」と判示していることも参考となろう(実行行為としての欺罔行為には財物交付を求め る行為が必要であるとしつつ、 上記a.の立場に立ち、 詐欺未遂罪の成立を認める山口厚裁 判官の補足意見が付いている。 )。 設問1は、 設問1において定立した規範を【事例1】に当てはめ、 具体的事実に即し て甲に実行の着手を認める時点を明らかにすることを求めるものである。 上記a.の立場に 立つ場合は、 設問1において定立した詐欺未遂罪成立のための規範を【事例1】の事実に 当てはめ、 @からEのどの時点で詐欺未遂罪成立とするのかを論じることになる。 上記b. の立場に立つ場合には、 先に明らかにした欺罔行為の意義から、 【事例1】の@からEのど の時点で実行行為を開始したと評価して実行の着手を認めるのかを論じる必要がある。 規範の当てはめにおいては、 先に定立した規範と整合する当てはめを行っていることはも とより、 具体的事実の持つ意味を規範との関係で評価することが求められる。 また、 本設問 では実行の着手を認める時点とそれより前の時点との実質的相違を明らかにしつつ論じるこ とが求められているから、 実行の着手を認める理由とそれより前の時点では実行の着手あり と認められない理由を、 定立した規範との関係で説得的に論じる必要がある。 【事例1】において、 甲は、 乙及び丙との詐欺の犯行計画の下、 @時点で対象者となるA を選び出したが、 Aに対する直接の働き掛けはない。 現金交付を求める前日のA時点で、 甲 は、 Aに警察官であることなどを伝え、 今後の虚言をAに信じさせるための前提となるうそ を言っているが、 現金交付につながるような虚言は何ら含まれていない。 現金交付を求める 当日午前10時のB時点で、 甲は、 Aの預金口座が不正に利用されている疑いがあり、 捜査 のために必要であるとして同口座から現金を引き出してA方に持ち帰らせるように仕向ける うそを言っており、 捜査のために必要であると信じさせることは、 Aが現金を乙らに引き渡 す際の判断の前提につながるものである上、 A方に現金を用意させることは、 現金の交付を 求める行為に直接つながるものであるから、 B時点のうそが現金交付要求行為につながる重 要なものであって、 Aが甲らに現金を交付する危険を高めるものとも言えよう。 ただし、 こ の段階でAの預金が引き出されるか否かは未だ不確定な要素があるとも言える。 C時点でA が現金を引き出してA方に持ち帰っているため、 甲らの求めに応じて現金を交付する危険性 が現実味を帯びてきたとも言えるが、 C時点で甲らが何らかの行為を行ったものではない。 同日正午のD時点で、 甲がAに警察官がA方に向かう旨告げ、 この後、 警察官を装った乙ら がAに現金の交付を求めることになっていたから、 この時点のうそは、 現金の交付要求行為 - 15 - に密接しているとも言えよう。 また、 来訪者が警察官であると信じさせることも、 Aが乙ら に現金を交付する危険性を高めるものとも言える。 その1時間後のE時点で、 警察官を装っ た乙らがA方を訪ねており、 Aが玄関ドアを開けさえすれば、 正に現金交付要求文言が告げ られようとする段階と言える。 こうした各事実の持つ意味を評価しながら、 定立した規範を 具体的事実に当てはめ、 事実に即して実行の着手時期を論じる必要がある。 2 設問2について 本設問は、 甲が乙及び丙との詐欺の計画に従い、 Bをだまして300万円を預金口座から 引き出させてB方に持ち帰らせ、 乙らに対し、 計画どおりBから現金をだまし取ってくるよ うに指示し、 乙らがこれを了承したが、 乙らがB方に向かう道中、 Bを縛って現金を奪うこ とを話し合い、 ロープ等を用意してB方に赴き、 インターホンを鳴らして玄関ドアを開けさ せた後、 B方に押し入り、 Bの手足を縛るなどしてBを床上に倒した後、 上記300万円を B方から持ち出し、 その後、 B方に残されたBが緊縛を解いた後、 立ち上がろうとして足の しびれから転倒して頭部打撲の傷害を負った事例を題材に、 甲らの罪責の検討を求めること によって、 刑事実体法の基本的な概念に関する正確な理解及び事実関係の的確な分析能力を 問うものである。 甲については、 共犯者乙及び丙が当初の詐欺の共謀に引き続き、 詐欺と異なる態様による 犯行を行って、 当初の目的どおりの財物を奪取し、 甲がこの分配を受けていることから、 共 犯者の行為について、 当初の共謀に基づくものとして罪責を負うか否かの検討が求められる。 従前、 乙及び丙が甲との間で詐欺を繰り返していたことから、 乙らが現金の強奪行為に出る ことを甲が全く予見できなかった点などを理由に、 乙及び丙の行為は甲との共謀に基づいて 行われたものではないとみる余地もあろうが、 甲及び乙らとの間の意思連絡の内容、 動機の 同一性・連続性、 侵害法益の同一性、 甲がBに300万円を用意させるなどした行為の影響、 関与の程度等の事情を考慮し、 甲が乙及び丙が行った行為についても共謀に基づくものとし て罪責を負うと解することが考えられる。 このように解した場合には、 甲には詐欺罪の故意 しかないことから、 異なる構成要件にまたがって実現された犯罪について故意既遂犯を認め ることができるのか(刑法第38条第2項)についても論じる必要があろう。 また、 甲の罪責を検討する前提として、 乙及び丙の罪責を検討する必要があり、 乙及び丙 がBを緊縛するなどして300万円を奪った行為が強盗罪の構成要件に該当することは明ら かであるが、 強盗の犯行後、 Bが転倒して負った傷害結果を乙及び丙に帰責できるか否かの 検討が求められる。 Bの傷害結果は、 乙らによる緊縛行為を原因とする足のしびれからくる転倒によって生じ ているところ、 強盗の手段たる暴行から傷害結果が生じたと認められる場合、 強盗の機会性 を検討するまでもなく、 強盗致傷罪が成立する。 他方で、 Bの転倒には、 BがCからそのま ま座っているように言われたにもかかわらず、 自ら立ち上がったという事情が介在している ため、 Bの行為が寄与して発生した傷害結果を乙及び丙の行為に帰責できるか否かについて、 緊縛行為と傷害結果との間の因果関係の有無を検討する必要があろう。 この場合、 傷害の原 因となる行為が強盗の手段である暴行であることの意味を的確に把握した上で問題の所在を 示し、 因果関係の有無を論述することが求められる。 3 設問3について 本設問は、 いずれも警察官の公務に対する丁による妨害行為でありながら、 一方について は業務妨害罪の成立を否定しつつ、 一方については業務妨害罪の成立を肯定するという結論 を導くために、 どのような説明があり得るかを検討させることによって、 業務妨害罪に関す る解釈論の知識と理解を問うとともに、 具体的な事実関係を分析し、 法規範を適用する能力 及び論理的思考力を問うものである。 まず、 結論を導くための前提として、 丁によって妨害の対象となった公務を特定して把握 - 16 - することが求められる。 その上で、 本設問の結論を導くためには、 一定の公務についてのみ 業務妨害罪の成立を認める必要があることから、 強制力を行使する権力的公務は、 妨害に対 する自力排除力を有するため業務妨害罪の「業務」に含まれず、 非権力的公務は「業務」と して同罪により保護されると解する見解に立つことが考えられる。 そうすると、 設問3の6の事実において、 丁の「威力」(刑法第234条)によって妨害 の対象とされた公務が警察官Dの乙を逮捕しようとする強制力を行使する権力的公務である のに対し、 設問3の7の事実において、 丁による虚偽通報という「偽計」 (刑法第233条) の手段によって妨害の対象とされた警察官5名の公務は、 乙を追跡し、 逮捕しようとする虚 偽通報がなければ遂行されていたはずの公務であることなどから、 未だ強制力を行使する段 階にないと説明することによって警察官5名の公務が業務妨害罪によって保護されるとの結 論を導くことができよう。 また、 偽計による妨害については、 これらの妨害に対する自力排除力がないことを理由に、 すべての公務が業務妨害罪の「業務」に含まれるとする見解に立つことによっても、 本設問 の結論を導くことができよう。 いずれの見解から説明する場合であっても、 妨害の対象となる公務を的確に把握した上で、 一定の公務のみが業務妨害罪によって保護されるとの結論を導く理由を説得的に論述するこ とが求められる。 〔第2問〕 本問は、 強盗殺人未遂事件を素材として、 捜査及び公判に関する具体的事例を示し、 各局面 で生じる刑事手続上の問題点、 その解決に必要な法解釈、 法適用に当たって重要な具体的事実 の分析及び評価並びに具体的結論に至る思考過程を論述させることにより、 刑事訴訟法に関す る基本的学識、 法適用能力及び論理的思考力を試すものである。 〔設問1〕は、 いずれも領置の適法性を問うものである。 すなわち、 【捜査@】は、 司法警 察員が、 強盗殺人未遂事件の犯人の可能性がある甲がその居住するアパートのごみ置場に投棄 したごみ袋を回収した行為、 【捜査A】は、 司法警察員が、 上記甲が公道上に投棄した使用済 みの容器を回収した行為であり、 それぞれの適法性を論じさせることにより、 刑事訴訟法第2 21条の定める「領置」の正確な理解と具体的事実への適用能力を試すものである。 同条は、 「被疑者その他の者が遺留した物」(遺留物)あるいは「所有者、 所持者若しくは保 管者が任意に提出した物」(任意提出物)を領置することを認めているが、 【捜査@】では、 本 問のごみ袋が任意提出物といえるか、 【捜査A】では、 本問の容器が遺留物といえるかが問題 となり、 いえるとして捜査機関は何ら制限なくこれらを領置することができるかが問題となる ため、 これらの問題に関する各自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論じる必要がある。 まず、 同条における「領置」が、 占有取得の過程に強制の要素が認められないからこそ令状 を要しないとされている趣旨に立ち返り、 「遺留物」とは、 遺失物より広い概念であり、 自己 の意思によらずに占有を喪失した場合に限られず、 自己の意思によって占有を放棄し、 離脱さ せた物も含むと定義する必要がある。 その上で、 【捜査@】では、 甲が自己の意思でごみ袋を 投棄しており「遺留物」に該当しそうなところ、 投棄場所がアパートのごみ置場であることか ら、 なお当該アパートの大家にその占有が残っているとして、 当該ごみ袋が「所有者、 所持者 若しくは保管者」たる大家からの「任意提出物」に該当するか否か、 【捜査A】では、 甲が自 己の意思で容器を公道に投棄しているとして、 当該容器が「遺留物」に該当するか否かを検討 する必要がある。 そして、 いずれの設問についても、 「領置」の要件を満たすとして、 排出者 がごみを排出する場合における「通常、 そのまま収集されて他人にその内容を見られることは ないという期待」や「DNA型を知られることはないという期待」がプライバシーの利益とし て法的に保護されるものか否かを検討し、 さらに、 それらが法的に保護される利益であるとし - 17 - ても、 本件事例においてなお要保護性が認められるか否かを論じるべきである。 こうした法解釈の枠組みの下で、 本件事例の具体的状況下におけるごみ袋や容器の領置の必 要性及び相当性を検討することになろうが、 いずれについても事例中に現れた具体的事実を的 確に抽出し、 分析しながら論じる必要がある。 その論じ方については、 個々の適法又は違法の 結論はともかく、 具体的事実を事例中からただ書き写して羅列すればよいというものではなく、 それぞれの事実が持つ意味を的確に分析して論じなければならない。 例えば、 【捜査@】では、 本件ごみ袋が約2時間後に回収されるという状況の下で、 強盗殺人未遂事件という重大犯罪の 犯人特定のために、 犯行現場に遺留された足跡や防犯カメラに記録された映像と対照させると いった捜査の必要性に加えて、 甲が投棄したごみ袋の特徴を確認した上で、 そのごみ袋1袋の みを領置したといったことを踏まえ、 相当性を検討するべきである。 また、 【捜査A】では、 甲が強盗殺人未遂事件の犯人である可能性がより高まったという状況の下で、 犯人のものであ る可能性が高いDNA型が判明したことや、 甲がアパートのごみ置場に投棄するごみの中から 甲のDNAだけを採取することが困難であったという捜査の必要性に加え、 捜査機関が領置の 過程に関与している点をどのように評価するか、 その際、 捜査機関が捜査目的を秘してボラン ティアの一員になり、 自ら甲に接触している一方で、 甲が自ら投棄した容器を回収しているに とどまり、 領置行為自体における捜査機関の関与の程度は高いものとは言えないことなどの事 情をどのように評価するかについて、 【捜査@】との違い(投棄された場所や保護されるべき プライバシーの利益の内容)を踏まえて、 相当性を検討する必要があろう。 〔設問2〕は、 いずれも実況見分調書の証拠能力を問うものである。 すなわち、 【実況見分 調書@】には、 被疑者甲が被害者V方と同種の錠前を解錠する状況が撮影された写真が貼付さ れ、 かつ、 解錠状況に関する甲の説明内容が記載され、 また【実況見分調書A】には、 Vが被 害状況を再現した写真が貼付され、 かつ、 被害状況に関するVの説明内容が記載されており、 検察官は、 各実況見分調書の立証趣旨について、 それぞれ「甲がV方の施錠された玄関ドアの 鍵を開けることが可能であったこと」、 「被害再現状況」としているところ、 こうした性質の異 なる内容を含む実況見分調書について、 それらの証拠能力を問うことにより、 伝聞法則の正確 な理解と具体的な事実への適用能力を試すものである。 【実況見分調書@】は、 司法警察員Qが行った実況見分の結果を記載したものであるから、 論述に当たっては、 まず捜査官が五官の作用によって事物の存在及び状態を観察して認識する 作用をもつ検証の結果を記載した書面に類似した書面として、 刑事訴訟法第321条第3項に より、 作成者Qが公判期日において証人として尋問を受け、 その真正に作成されたものである ことを証言すれば証拠能力が付与されるという本調書全体の性質を論ずる必要があろう。 その 上で、 本調書には、 公判期日外でなされた甲の供述が記載されていることから、 これらの部分 の証拠能力について、 更に伝聞法則の適用があるか否かを要証事実との関係で検討した上で、 その有無を論じる必要がある。 【実況見分調書A】についても、 検察官Rが作成した実況見分調書の中に、 公判期日外でな されたVの供述が記載されていることから、 まず刑事訴訟法第321条第3項の適用を論じた 上で、 Vの供述を記載した部分の証拠能力について、 最高裁判例(最決平成17年9月27日 刑集59巻7号753頁)を踏まえつつ、 伝聞法則の適用があるか否かを要証事実との関係で 検討した上で、 その有無を論じる必要がある。 いずれの実況見分調書についても、 正確な法的知識を当然の前提としながら、 法解釈論や要 件について抽象的に論じるだけでなく、 事例中に現れた具体的事実関係を前提に、 法的に意味 のある事実の適切な把握と要件のあてはめを行うことが求められる。 【選択科目】 [倒産法] - 18 - 〔第1問〕 本問は、 個人事業主が破産手続開始の決定を受けた場合の具体的事例を基に、 主に、 破産 財団に関する規律、 離婚に伴う財産分与請求権の破産手続における処遇についての基本的な 理解と事例処理能力を問うものである。 〔設問1〕は、 破産者が有する種々の財産が破産財団に属するか否か(小問)、 破産者が 加入する医療保険の解約返戻金を破産財団に組み入れようとする破産管財人に対して破産者 の代理人として採るべき手段(小問)について、 それぞれ具体的な検討を求めるものであ る。 まず、 小問については、 前提として、 破産法第2条第14項が定める破産財団の定義に 触れつつ、 同法第34条第1項が定める破産財団の範囲を示した上で、 @からCまでの各財 産についての個別的な検討を進めることが期待される。 @については、 同項括弧書きによれ ば、 財産が日本国内にあることを問わないこととされていることを指摘し、 破産財団に属す るとの結論を示すことが求められる。 Aについては、 破産手続開始の決定時における破産者 の財産であるにもかかわらず破産財団から除外されるもの(自由財産)があること、 その一 つとして、 同条第3項第1号において、 民事執行法上の差押禁止に係る金銭(同法第131 条第3号)の1.5倍相当額の金銭が定められていること及びその趣旨を指摘した上で、 9 0万円全額が自由財産とされ、 破産財団には属さないとの結論を示すことが求められる。 B については、 破産法第34条第1項が破産手続開始の決定を基準時として破産財団の範囲を 固定していることとの関係で、 それ以後に取得した財産は新得財産として破産財団から除外 されることを指摘し、 破産財団には属さないとの結論を示すことが求められる。 Cについて は、 同条第2項が「破産者が破産手続開始前に生じた原因に基づいて行うことがある将来の 請求権」は破産財団に属すると定めていることとの関係で、 破産者の有する保険金請求権が、 上記の「将来の請求権」に該当するか否かについての自説を論じた上で、 結論を示す必要が ある。 この点に関し、 最判平成28年4月28日民集70巻4号1099頁は、 死亡保険金 請求権は、 被保険者の死亡前であっても、 死亡保険金受取人において処分したり、 その一般 債権者において差押えをしたりすることが可能であると解され、 一定の財産的価値を有する ことは否定できないことなどから、 「将来の請求権」に該当するものとして、 破産財団に属す るとの結論を示している。 次に、 小問については、 一つ目の手段として、 破産法第34条第4項に基づく自由財産 の拡張の申立てについて論ずることが求められる。 解答に当たっては、 自由財産の拡張は、 裁判所が、 個々の事案において、 破産者等の状況に照らし、 具体的な必要性を考慮して裁量 的に判断するものであることを踏まえつつ、 同項に定める考慮要素を意識しながら、 問題文 から具体的事実を拾い上げ、 破産債権者との利益衡量を図ることが求められる。 本問におい ては、 破産者において持病があることや廃業により職を失ったことなどの事情が認められる ものの、 他方で、 遺産として600万円を相続したことや自由財産として現金90万円を有 していることなどに照らすと、 自由財産の拡張の申立ては認められない(可能性がある)と の方向で論ずることとなろう。 そこで、 二つ目の手段として、 破産者の代理人は、 破産管財 人に対し、 解約返戻金に相当する額につき破産者が有する財産から破産財団へ組み入れるこ とと引き換えに、 解約返戻金請求権について破産財団から放棄することを申し入れるという 手段について論ずることが期待される。 〔設問2〕は、 破産手続開始の決定前に、 離婚及びそれに伴う財産分与の協議が成立した 事例を通じて、 破産手続開始の決定時には履行されていない破産者に対する不動産の所有権 移転登記請求権につき取戻権を行使することができるか否か(小問)、 破産手続開始の決定 時において支払済みの分与金について否認権を行使することができる否か(小問)につい て、 それぞれ具体的な検討を求めるものである。 - 19 - まず、 小問については、 Dの主張が破産法第62条に定める取戻権の行使に当たること を指摘する必要がある。 その上で、 実体法上、 対抗要件を具備しなければ「第三者」(民法第 177条)に対して所有権を主張し得ない場合であることから、 破産管財人が「第三者」に 該当するか否か(破産管財人の第三者性)について論ずることになる。 そして、 破産管財人 には破産財団に所属する財産に対する差押債権者と類似の地位が認められることに異論はな いことから、 破産管財人は「第三者」に該当するとして、 対抗要件を具備していない以上、 取戻権を行使することはできないとの結論を示すことが求められる。 次に、 小問については、 問題文中に、 不動産の譲渡と分与金の支払は財産分与として相 当なものであるとするとの記載があることから、 破産管財人が行使しようとしている否認権 は、 破産法第162条第1項第1号の偏頗行為否認であることを指摘する必要がある。 その 上で、 要件該当性を順次検討することが求められるが、 Dからの反論については、 有害性又 は不当性との関係で論ずることとなろう。 有害性の阻却事由としては、 本件支払が取戻権に 該当する又は財団債権の弁済に該当するとの指摘が想定され、 不当性の阻却事由としては、 離婚に伴う財産分与は、 民法第768条第3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、 財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、 詐害行為とはならないと判示した最判昭和58年12月19日民集37巻10号1532頁 の考え方が偏頗行為否認についても及ぶとの指摘が想定される。 結論としては、 肯定、 否定 の両論が考えられるところであるが、 自らの考え方を説得的に論ずることが求められる。 〔第2問〕 本問は、 株式会社について再生手続が開始された場合の具体的事例を基に、 主に、 再生手続 における継続的給付に係る請求権の取扱い及び敷金返還請求権の取扱いについての基本的な理 解と事例処理能力を問うものである。 〔設問1〕は、 電気の供給契約という一定期間ごとに債権額を算定すべき継続的給付を目的 とする双務契約を題材に、 再生手続における継続的給付に係る請求権の取扱いについて、 当該 請求権の発生時期と、 再生手続開始の申立て又は再生手続開始との前後を踏まえ、 具体的な検 討を求めるものである。 解答に当たっては、 まず、 民事再生法第84条第1項を摘示して、 再生債権の定義及び要件 を明示しつつ、 @の期間の請求権が再生債権に当たることを示した上、 再生債権については、 再生手続開始後は、 再生計画の定めるところによらなければ弁済をすることができないことか ら(同法第85条第1項)、 支払期限までに支払うことはできないと回答すべきであるとの結 論を示すことが求められる。 Aの期間の請求権については、 同法第50条第1項及び第2項が 定める継続的給付に当たることを示しつつ、 同項括弧書きによれば、 その全額が共益債権に当 たることを示すことが求められる。 その上で、 共益債権は、 再生手続によらないで、 随時弁済 することができる(同法第121条第1項)ことから、 支払期限までに支払うことができると 回答すべきであるとの結論を示すことが求められる。 Bの期間の請求権については、 再生手続 開始前の分は同法第50条第2項により、 再生手続開始後の分は同法第119条第2号(又は 同法第49条第4項)により、 その全額が共益債権に当たることから、 上記Aと同様、 支払期 限までに支払うことができると回答すべきであるとの結論を示すことが求められる。 〔設問2〕は、 賃貸人について再生手続が開始されたとの具体的事例を通じて、 再生手続に おける敷金返還請求権の取扱いについて、 破産手続における取扱いとの違いに触れつつ、 関連 する条文等についての説明を求めるもの(小問)、 その説明を踏まえ、 敷金返還請求権に係 る債務の弁済額についての具体的な検討を求めるもの(小問)である。 小問については、 まず、 破産手続において、 敷金返還請求権は破産債権(破産法第2条第 5項)として扱われることを示した上で、 敷金返還請求権を有する者が破産者に対する賃料債 - 20 - 務を弁済する場合は、 その債権額の限度において弁済額の寄託を請求することができることと されている(同法第70条後段)ことから、 この点について説明する必要がある。 そして、 こ の場合は、 賃料債務の弁済は明渡しを解除条件とするものであることから、 明渡しによって賃 料の弁済は効力を失い、 その結果未払となった賃料債務と敷金返還請求権との間に充当関係が 生じること、 他方、 弁済していた賃料相当額は、 不当利得により破産財団に対して生じた請求 権として財団債権となる(同法第148条第1項第5号)ことを指摘することが期待される。 これに対し、 再生手続においては、 敷金返還請求権は、 下記の共益債権となる部分を除き、 再生債権(民事再生法第84条第1項)として扱われること、 再生債権となる部分は再生計画 の定めにより弁済されることを示した上で、 同法第92条第3項を摘示し、 その要件等につき 適宜説明を加えつつ、 これらの要件を満たした額については共益債権として扱われること、 共 益債権とされた部分は、 再生手続によらないで、 再生債権に先立って随時弁済されること(同 法第121条第1項及び第2項)を指摘することが求められる。 次に、 小問については、 事例に則して、 敷金返還請求権に係る債務の弁済額についての具 体的な検討を求めるものであるが、 その前提となる再生計画上の敷金返還請求権の取扱いにつ いては、 条件付権利として権利変更をした上で条件成就の際に未払賃料等を充当して敷金返還 請求権の額を確定するとの考え方(権利変更先行説)と、 未払賃料等を充当した後の敷金返還 請求権について権利変更をするとの考え方(当然充当先行説)とがあるところ、 問題文におい て後者の考え方に立つことが明示されていることに留意する必要がある。 解答に当たっては、 まず、 未払賃料及び原状回復費用を充当した敷金返還請求権の残額が400万円であることを 示した上、 再生手続開始後に弁済期が到来するものとして弁済した賃料債務の額と賃料の6か 月分に相当する額(民事再生法第92条第3項括弧書きによれば、 賃料の6か月分相当額から 同条第2項の相殺により免れる賃料債務の額が控除されることについても言及することが期待 される。 )とを比較し、 賃料債務と修理費用返還請求権との相殺が可能であること(同法第9 2条第2項)にも触れつつ、 共益債権となる額を算出することが求められる。 そして、 再生債 権となる部分については、 再生計画の定めに従って権利変更されること(同法第179条第1 項)を指摘した上で再生債権として弁済される額を算出し、 その額と上記の共益債権となる額 との合計が弁済額となるとの結論を示すことが求められる。 [租税法] 〔第1問〕 設問1は、 小問、 ともに、 新株予約権に関する所得の課税方法を踏まえた上で、 総所得 金額を具体的に考えさせる問題である。 所得分類を踏まえた上で、 各所得の所得金額及び総所 得金額がどのように算出されるのかについて、 総所得金額の意義や規定を正しく理解している ことが求められる。 給与所得控除の規定の存在やその趣旨については、 受験者によく理解され ていると思われるが、 本問では、 その規定がどのように適用されるかを具体的に理解している かどうかを問うている。 また、 新株予約権に関しては、 最判平成17年1月25日民集59巻 1号64頁を踏まえて、 新株予約権の権利行使益に係る課税タイミングと所得分類の検討、 特 に権利行使時と株式譲渡時の課税が整合的に理解されているかという点が重要である。 設問2では、 まず、 本問における解決金のような収入が、 非課税所得に該当するか否かが 問題となる。 ここでは、 設問の事実関係に基づき、 一定の損害賠償金等が非課税所得とされて いることの趣旨を踏まえ、 所得税法第9条第1項第18号、 同法施行令第30条第2号又は第 3号の規定に即して論じることが求められる。 仮に、 その収入が非課税所得に当たらないと考 える場合には、 その収入に対する課税方法、 特に所得分類が問題となる。 ここでも設問の事実 関係に基づき、 各種所得の規定に即して論じることが求められる。 設問2は、 更正の請求と通知処分の基本的な事項について問う問題である。 申告納税方式 - 21 - において、 納税義務者の側から当初申告の内容につき修正を求める場合の手続には、 更正の請 求と修正申告があるが、 その区別ができているかどうかを確認する。 国税通則法第23条に従 って解答すれば足りる平易な問題であるが、 受験者の中には上記の点を混同している者がいる かもしれないと考え出題することとしたものである。 〔第2問〕 第2問は、 法人税法を中心に、 事実関係を分析・処理する能力を問う出題である。 本問の個 々の論点は、 基本的なものが中心であるが、 それらが事実関係の中に組み込まれたときに適切 に把握して論述できるかがポイントとなる。 設問1は、 法人への遺贈について、 遺贈を受けた法人の受贈益課税(小問)、 無償により 譲り受けた資産の取得価額(小問)、 遺贈した個人のみなし譲渡所得課税(小問)を問う ものである。 いずれも基本的な論点であるが、 小問の処理には、 キャピタルゲインに対する 課税における取得費ないし取得価額の機能についての着実な理解が求められる。 法科大学院の 「租税法」において、 個々の条文の正確な理解はもとより、 それらの条文を支える理論的基礎 についても確実に学習がなされていることを期待した出題である。 設問2では、 第1に、 遺留分侵害額の請求に応じたことにより法人から財産が流出したこと を法人税法のどの条文で認識するのか(同法第22条第3項第3号の「損失」となる)、 それ がどの課税年度に帰属するか、 を論じることが求められる。 遺留分侵害については、 本問が平 成30年相続法改正(遺留分の金銭債権化)後の事案であることを踏まえた処理を期待してい る。 その上で、 第2の要素として、 無償で譲り受けた乙土地を譲渡したことが代物弁済に当た り、 債務の消滅を伴う有償による資産の譲渡に該当することを踏まえた処理ができるかを問う ている。 第1の要素と併せて、 法人税法が益金と損金それぞれを算定する構造となっているこ とを踏まえた解答が求められている。 設問3では、 まず、 法人税法第22条第2項により無償による役務の提供から益金が生じ るという典型論点を、 無償で不動産を利用させるという法律関係から読み取れるか、 というや や応用的な力を問うている。 その上で、 法人とその代表取締役の関係に着目して、 この無償利 用が法人税法上の役員給与に当たることを踏まえて、 その損金算入要件について条文に則して 論じればよい。 なお、 法人税法第34条は一定の要件を満たす役員給与を除いて「損金算入を 否定する」別段の定めであり、 役員給与の損金算入の根拠規定は同法第22条3項2号の「費 用」であることに注意されたい。 設問3は、 ある経済的利益が給与所得に該当する際の「給与等の支払」を行う者の所得税 の源泉徴収義務について、 基本的な知識を確認する問題である。 [経済法] 〔第1問〕 本問は、 業務用検査装置である甲装置とそれに組み込んで使用される乙機器を製造するX社 とY社が、 首位のZ社に対抗する上で甲装置や乙機器の製造コストの低減が重要であると考え て立案している業務提携及び企業結合の各計画について、 私的独占の禁止及び公正取引の確保 に関する法律(以下「独占禁止法」という。 )上の問題点を分析して検討し、 問題があると判 断される場合には当該問題を解消するために必要と考えられる措置(以下「問題解消措置」と いう。 )を具体的に提示することを求めるものである。 設問では、 X社とY社が甲装置のうち大型甲と小型甲のそれぞれの製造に特化して、 相互 に他方に供給するという製造受委託(OEM)契約を締結する計画について、 不当な取引制限 (独占禁止法第2条第6項、 第3条)の観点から検討することになる。 また、 設問では、 X 社とY社それぞれの乙機器の製造部門を共同新設分割により切り出して共同製造子会社S社を - 22 - 設立する計画について、 共同新設分割の方法による企業結合(独占禁止法第15条の2第1項 第1号)の観点から検討することになる。 本問はそれぞれの計画について独立して検討するも のであり、 このような出題形式は過去にもみられたが、 独占禁止法の実体規定全般にわたる体 系的な理解を確認しようとしている。 いずれの設問においても、 行為要件として検討すべき重 要な事項は少なく、 効果要件の分析・論述が大宗を占めることになる。 競争事業者間のOEM契約のような業務提携は、 同じ不当な取引制限の問題として検討され るものであっても、 いわゆるハードコアカルテルと評価される類型とは異なり、 それがもたら し得る効率性の改善等の競争促進効果と競争制限効果を比較衡量してその適法性が判断され る。 また、 競争事業者間の企業結合と業務提携には、 当該事業者にとっては選択肢として代替 的な面があり、 その市場競争に及ぼし得る効果についても類似する点が多く、 その分析方法は 相当程度共通している。 そして、 設問上明らかなとおり、 本問は計画を立案している段階(事前段階)で検討するも のであり、 効果要件は実質的に共通する。 すなわち、 「一定の取引分野」(市場)を画定し、 当 該市場ごとに「競争を実質的に制限する(こととなる)」か否かを検討することになる。 それ ぞれの意義や判断基準を示しつつ、 問題文に示された事実関係を丁寧に当てはめ、 それぞれの 計画の独占禁止法上の問題点の有無を検討するとともに、 必要に応じ問題解消措置を具体的に 提示することが求められる。 なお、 不当な取引制限として検討するに当たっては、 「公共の利益に反して」要件の取扱い が問題となり得るが、 競争の実質的制限要件の判断の一環として総合的に検討することで足り ると考えられる。 次に、 設問と設問に共通する「一定の取引分野」と「競争の実質的制限(の蓋然性)」 について説明する。 本問では、 甲装置とその中核となる乙機器という二つの商品が関わってお り、 各計画を検討する際に、 どの範囲の市場に着目するかを判断することが必要になる。 その 際には、 市場画定の要素(典型的には商品範囲及び地理的範囲)と市場画定の方法(代替性の 検討等)を論じた上で、 問題文に示された事実関係を丁寧に拾い上げ、 計画ごとに検討対象と なる市場を画定することになる。 特に、 甲装置には大型甲と小型甲があるところ、 両者間の需要面の代替性や供給面の代替性 に関わる事実が示されており、 これらを的確に当てはめて適切な市場を画定することが求めら れる。 また、 設問は、 乙機器に係る共同製造子会社を設立する計画であるが、 本計画が、 乙 機器の市場のみならず、 乙機器を組み込んで製造される甲装置の市場にも影響を及ぼすことに 留意する必要がある。 一つの企業結合について水平型及び垂直型の両面からの検討を求める点 で、 設問は応用的なものといえよう。 画定された「一定の取引分野」(市場)ごとに、 各計画が実施された場合に生じ得る競争制 限効果を分析し、 競争制限効果が生じ得る場合には更に競争促進効果を併せ総合的に考慮して、 競争の実質的制限がもたらされる蓋然性があるか否かを判断することになる。 その際には、 競 争の実質的制限(の蓋然性)についての解釈を示した上で、 その判断方法や考慮要素を示すこ とが求められる。 競争事業者間の業務提携又は企業結合の計画であり、 水平的な競争制限効果が考えられ、 単 独行動による効果、 協調的行動による効果の両面から検討することになる。 また、 設問では、 乙機器と甲装置という川上・川下の関係にある市場が関わっており、 垂直型企業結合として市 場の閉鎖性・排他性の観点からの問題も生じることが考えられる。 独占禁止法上の問題がある計画については、 問題解消措置を具体的に提示することが求めら れている。 問題解消措置は、 関係事業者ないし当事会社の事業活動を過度に制限・制約しない ようにしつつ、 当該計画が有する独占禁止法上の問題を解消するに足るものであることが必要 である。 論述に当たっては、 指摘した独占禁止法上の問題を解消する上で当該措置がなぜ必要 - 23 - になるのか、 あるいは有効であるのかを説得的に示すことが期待される。 問題解消措置について、 公正取引委員会の企業結合ガイドラインでは構造的措置が原則であ る旨明記されているが、 実務上は行動的措置が多用されており、 特に垂直型企業結合では行動 的措置が有効であることもある。 本問では、 両計画とも、 甲装置の販売活動をX社及びY社が それぞれ独立して行うことが前提であることから、 両社間の販売面の競争を維持するための情 報遮断措置が重要な意味を持つと考えられる。 次に、 設問ごとに、 出題の趣旨を具体的に説明する。 設問では、 X社とY社の間で大型甲と小型甲の相互OEM供給が計画されている。 契約ベ ースによる、 実質的な共同生産ともいえ、 独占禁止法上は不当な取引制限の問題となる。 X社 とY社の合意により計画・実施されるものであるから、 「他の事業者と共同して」「事業活動を …拘束する」合意となることは明らかであるが、 両社にとって制限内容が異なるともいえ(X 社は小型甲の製造をやめてY社から供給を受け、 逆に、 Y社は大型甲の製造をやめてX社から 供給を受けることとなる。 )、 不当な取引制限の行為要件との関係について論述することが適切 である。 甲装置のうち大型甲市場には3社のみが存在し、 特にX社とZ社の複占に近い市場であり、 Z社にはかなりの製造余力があるものの、 X社とY社の協調を前提とすれば合算して60パー セントのシェアを有することになる。 これに対し、 小型甲市場にはシェア首位で製造余力があ るZ社に加えて独自の技術を有するW社があり、 シェアの異なる4社が競争しており、 X社と Y社の協調を前提としても合算40パーセントのシェアを有することとなるにとどまる。 この ように、 大型甲市場と小型甲市場では競争状況がかなり異なることに留意する必要がある。 また、 大型甲と小型甲の需要者向け販売価格に占める供給価格(調達価格)の割合が8割程 度に達すると見込まれており、 販売コストの共通化の割合が高いことが重要である。 そして、 計画では、 それぞれ全量OEM供給を受けることとされているが、 全量供給でないと両社にと って意味がないというものでもないと考えられ(問題文にY社の大型甲の製造設備に関する情 報が示されている。 )、 独占禁止法上の問題がある場合には、 中間的な計画(部分的なOEM供 給)に修正することの可能性を検討することが考えられる。 また、 計画では、 X社とY社は引き続き甲装置の販売をそれぞれ独立して行うことが前提で あり、 その前提が損なわれることとならないか、 そのおそれがある場合にどのような措置が有 効ないしは必要であるかを検討することとなる。 設問では、 X社とY社が、 それぞれの乙機器製造部門を切り出して共同製造子会社S社を 設立する計画であり、 S社が製造販売することとなる乙機器の市場はもとより、 S社から乙機 器の供給を受けてX社及びY社が製造する甲装置の市場(実際には大型甲の市場と小型甲の市 場に分かれると考えられる。 )にも影響が生じることとなる。 X社及びY社としては、 Z社に比べて乙機器の製造コスト面で不利な状況にあることから、 共同製造子会社としてS社を設立するものであり、 甲装置の製造販売はそれぞれが独立して行 うものである。 乙機器や甲装置の市場における競争が制限されないようにしつつ、 乙機器の製 造コストの引下げが実現できるようにすることが望ましい。 本計画が実施されると、 乙機器についてはS社とZ社を供給者、 W社を需要者とする市場と なり、 S社が高いシェアを有することになると想定されるが、 S社やZ社には乙機器の製造余 力があり、 かつ、 乙機器の製造コストの節減を図る観点からW社に乙機器を供給する意欲もあ ると考えられる。 また、 W社は中期的には乙機器を自ら製造することが可能である。 他方、 甲装置については、 前述したように、 大型甲市場と小型甲市場では競争状況がかなり 異なっており、 本計画の水平的側面に関しては、 それぞれの市場の特徴(両社の合算シェア、 Z社の製造余力、 小型甲市場におけるW社の存在等)を踏まえつつ、 S社から製造コストベー スで乙機器の供給を受けることになるX社とY社がどのように競争することとなるかを具体的 - 24 - な事実関係を基に丁寧に分析することが求められる。 この分析では、 S社から供給を受ける乙 機器の調達コストが共通化することについても、 その割合を含めて評価することになる。 特に、 小型甲については本計画の垂直的側面が重要であり、 小型甲のみを製造するW社は、 S社からの乙機器の供給に大きく依存することとなり、 乙機器の供給制限や価格上昇のおそれ が出てくることから、 S社がこうした投入物閉鎖を行う能力やインセンティブを有するか、 Z 社が製造余力を有するかといった事情を考慮することになる。 この観点から問題があると判断 される場合には、 W社に対する乙機器の供給を確保するための措置を講じることが考えられる。 また、 S社からW社に対する乙機器の供給価格等に関する秘密情報をW社の競争者であるX社 及びY社が入手できる立場になり、 協調的行動につながるおそれがあることについても検討す る必要がある。 また、 X社とY社は引き続き甲装置の製造販売をそれぞれ独立して行うことが前提であり、 本計画のままではその前提が損なわれることとならないか、 そのおそれがある場合にどのよう な措置が有効ないしは必要であるかを検討することになる。 〔第2問〕 第2問は、 甲機械の有力なリース事業者4社(以下「リース4社」という。 )が、 リースを 希望する需要者に対して自ら直接リースを行うこと(以下「直接リース」という。 )を始めた 甲機械のメーカー2社に対して甲機械の供給を受けることを拒絶した行為(以下「本件行為」 という。 )について、 独占禁止法上の問題点を分析して検討することを求めるものである。 不 公正な取引方法のうちの取引拒絶に関する実体規定全体の体系的な理解を踏まえて、 本件行為 が、 どの規定の行為要件を満たすか、 また、 どこの市場(取引の場)にいかなる機序によりど のような競争阻害効果をもたらすか、 併せて、 当該競争阻害効果を打ち消し又は上回るような 正当化事由が認められるかについて、 当該規定の各要件のあるべき解釈を示した上で、 本問の 事実関係を的確に挙げて分析し、 検討することを要する。 取引拒絶の事例解析では、 行為主体が、 競争者間で共同して行っているかどうか、 直接に行 っているか間接的にさせているか、 検討対象行為が供給の拒絶なのか供給を受けることの拒絶 なのかを識別することが重要なポイントになる。 本件行為については、 リース4社間での合意 を明示合意と評価するか暗黙合意と評価するかは置くとして、 独占禁止法第2条第9項第6号 ・不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指定」という。 )第1項第1号の「共同・直接・ 供給を受けることの拒絶」として検討することが期待される。 また、 リース4社による「共同 ・間接・供給拒絶」(独占禁止法第2条第9項第1号ロ)や、 リース3社による明示若しくは 暗黙の合意に基づく一般指定第1項第1号該当行為とD社による一般指定第2項該当行為が一 体となったもの等としての検討もあり得ると考えられる。 例えば、 本件行為をリース4社によ る共同・間接・供給拒絶として検討する場合には、 リース4社がメーカー2社に、 需要者に対 して直接リースを今後行わないように申し入れたこと、 その実効確保のために直接リースを今 後も行うメーカーからは甲機械を購入しないことを併せて申し入れたことなど問題文に示され る諸事実を丁寧かつ的確に挙げて、 本件行為をリース4社がメーカー2社に直接リースの供給 を拒絶させるものであると明確に把握・識別して論じることが求められよう。 このように、 本 件行為に適用すべき規定として一般指定第1項第1号以外を選択した場合には、 それぞれの条 文に定める各要件に即して本問の事実関係を丁寧に挙げて、 その要件該当性について論じるこ とが求められる。 本件行為をリース4社による一般指定第1項第1号該当行為として検討する場合、 まず、 行 為要件に関しては、 競争関係にあるリース4社が「共同して」行っていると認定する必要があ る。 「共同して」に該当するためには、 行為主体の間に当該取引拒絶行為を行うことについて 意思の連絡が求められるところ、 事業者相互間で明示的に合意することまでは必要ではなく、 - 25 - 「他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれ と歩調をそろえる意思があれば足りる」(エイベックス・マーケティング鰍ルか3名審決取消 請求事件東京高判平成22年1月29日、 東芝ケミカル審決取消請求事件東京高判平成7年9 月25日)。 この点を明らかにした上で、 リース4社間での事前の情報交換、 その内容及び事 後行為の一致など本問の事実関係を挙げつつ、 本件行為の共同性要件への該当性を論じること が必要になる。 特にD社については、 問題文に示された具体的な事実関係に即して、 リース3 社とは別個に、 意思の連絡の存否(暗黙合意参加)を検討することがより適切である。 次に、 本件行為に「公正な競争を阻害するおそれ」(独占禁止法第2条第9項第6号柱書) という公正競争阻害性が認められるか否かを検討することが求められる。 公正競争阻害性とは 競争の実質的制限に至らない程度の競争阻害を意味すること、 一般指定第1項第1号に定める 「正当な理由がないのに」の文言が公正競争阻害性を意味し、 自由競争減殺の観点から価格維 持(競争回避)又は市場閉鎖(競争者排除)による競争阻害効果が必要であることを明らかに した上で、 前提となる市場の画定及び競争(市場)分析を行う必要がある。 具体的には、 まず、 自由競争減殺の観点から分析する前提として検討対象市場を画定する意義とその画定方法を簡 潔に明らかにした上で、 本問の事実関係に即して検討対象市場を「我が国における甲機械のリ ース取引市場」として画定することが考えられる。 その上で、 国内の甲機械購入数量において相当のシェアを有するリース4社が共同して、 直 接リースを行うメーカーからの甲機械の購入を一斉に拒絶するという取引上の圧力を掛けるこ とにより、 メーカー2社が上記の検討対象市場への参入を断念せざるを得ない状況になってい ること(参入阻止の意味での市場閉鎖効果の発生)など検討対象市場における競争の状況及び 本件行為が当該競争にもたらす影響を示す諸事実を挙げつつ、 本件行為が当該市場に、 どのよ うな機序に基づいて、 いかなる競争阻害効果を発生させ得るかについて分析・検討を行うこと が重要である。 なお、 行為の共同性に鑑みて本件行為のような共同の取引拒絶については、 原則違法の類型 に当たるとする立場もあり得ると考えられる。 しかし、 その場合も単に結論のみを記すのでは なく、 一般指定第1項第1号の「正当な理由がないのに」の文言の適切な解釈を示しつつ、 例 えば、 共同の取引拒絶が、 事業者間競争が成立する前提となる市場参入の自由を明白かつ著し く侵害するものであって、 また実際に、 被拒絶者が当該市場から排除されて、 市場の競争機能 への悪影響(自由競争減殺)が生じていることなど、 本件行為を原則違法として取り扱うべき 理由・根拠を的確に示し、 あるいは本問の事実関係に即してその当てはめ等を的確に論じてお くことが重要である。 さらに、 問題文に示されたリース4社の言い分が、 上記の競争阻害効果と並んで考慮される べき正当化事由として成り立ち得るかについても検討することが求められる。 そもそも客観的 データや資料等の裏付けのないリース4社の言い分のみから本件行為が正当化される余地は乏 しいとも考えられるが、 いずれにせよ、 正当化事由の存否は、 検討対象行為の目的の合理性及 び当該目的達成のための手段の相当性の観点から評価されることを明らかにした上で、 本問の 事実関係に即して具体的に論じることが求められる。 本件行為のような共同の取引拒絶については、 独占禁止法第19条で禁止される不公正な取 引方法として検討するほか、 事業者間での「通謀」に基づく排除型私的独占(独占禁止法第2 条第5項、 第3条前段)や「他の事業者と共同して」行う不当な取引制限(同法第2条第6項、 第3条後段)への該当性を予備的に検討することも考えられる。 しかし、 そのような場合には、 甲機械のリース取引におけるリース4社の合算シェアや、 問題文に示される「他のリース業者 も多数存在し、 競争は活発に行われている」(第3段落3行目以下)という上記の検討対象市 場における競争の状況を示す諸事実を丁寧に挙げて、 特に市場効果要件について的確に論じる ことが求められる。 - 26 - [知的財産法] 〔第1問〕 1 設問1は、 発明者の認定、 発明者名誉権に基づく補正手続請求、 設問1は、 職務発明 に係る相当利益請求権の消滅時効を問うものである。 設問2は、 取消判決の拘束力、 設問 2は、 用途発明における顕著な効果の判断を問うものである。 設問3は、 用途発明に係る 特許権の効力を問うものである。 2 設問1については、 まずBが本件発明の発明者といえるかを検討する必要がある。 その際 には、 本件発明が用途発明であって、 効果の検証が発明の重要な要素となることを踏まえ、 Bが本件発明の技術的思想の創作に関与したといえるか否かを論じることが求められる。 設問1については、 特許法に直接の規定はないものの、 発明者には人格権としての発明 者名誉権が認められることを指摘した上で、 Bが、 Xに対して、 願書の発明者名を訂正する 補正手続(特許法(以下「法」という。 )第17条第1項)請求を行うことができるか否か について検討することが求められる(大阪地判平成14年5月23日判時1825号116 頁【希土類の回収方法事件】参照)。 設問1については、 本件発明がXの職務発明(法第35条第1項)に該当すること、 職 務発明に係る相当利益請求権(同条第4項)が法定債権であり、 消滅時効期間が5年又は1 0年となること(民法第166条第1項)、 Xの職務発明規程にはXが特許権を取得した時 に一括して補償金を支払う旨の定めがあり、 当該支払時期が到来するまでBの権利行使につ き法律上の障害があるため、 当該支払時期が消滅時効の起算点となること(最判平成15年 4月22日民集57巻4号477頁【オリンパス事件】参照)を指摘した上で、 設問の事実 関係の下で、 Bの相当利益請求権について消滅時効期間が経過しているか否かを検討するこ とが求められる。 3 設問2については、 取消判決の拘束力(行政事件訴訟法第33条第1項)が「判決主文 が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断」に及ぶこと、 取消判決の拘束力に従って した審決はその限りで適法であり、 再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはで きないこと(最判平成4年4月28日民集46巻4号245頁【高速旋回式バレル研磨法事 件】参照)、 進歩性(法第29条第2項)の判断では、 構成の容易想到性に加えて、 予測し 得ない顕著な効果が考慮されることを指摘した上で、 設例の事実関係の下で、 第一次取消判 決の拘束力が本件発明に係る進歩性の判断全体に及ぶのか、 それとも、 用途(予防剤への適 用)の容易想到性の判断にのみ及び、 効果の顕著性の判断には及ばないと解すべきかを具体 的に論述することが求められる。 設問2については、 予測し得ない効果の顕著性は、 特許発明以外の発明との比較のみで 決するべきではなく、 特許発明の効果が奏するものとして予測される効果との比較により決 するべきと判示した最判令和元年8月27日判時2446号37頁【アレルギー性眼疾患用 処方物事件】を踏まえ、 X及びCの主張の当否について具体的に論述することが求められる。 4 設問3については、 本件発明が用途発明であり、 本件発明に係る特許権の効力がαを有効 成分とする予防剤の製造、 譲渡等にのみ及ぶこと(知財高判平成28年7月28日(平成2 8年(ネ)10023号)【メニエール病治療薬事件】参照)を指摘した上で、 D製剤の添 付文書に治療剤としての用途と予防剤としての用途が併記されていることを踏まえ、 D製剤 の販売が本件発明の実施(法第68条、 法第2条第3項第1号)に該当するか否か、 該当す るとした場合には、 D製剤の販売の差止め(法第100条第1項)及び廃棄(同条第2項) を認めるべきか否かについて具体的に検討することが求められる(東京地判平成4年10月 23日判時1469号139頁【アレルギー性喘息予防剤事件】参照)。 また、 差止請求の 検討においては、 D製剤が治療剤としても使用可能なものであることから、 D製剤の販売の - 27 - 差止めが過剰差止めとならないか否かが考慮されるべきであり、 廃棄請求の検討においては、 最判平成11年7月16日民集53巻6号957頁【生理活性物質測定法事件】を踏まえ、 D製剤の廃棄が、 「差止請求権の行使を実効あらしめるものであって差止請求権の実現のた めに必要な範囲内のものである」か否かを検討されるべきである。 〔第2問〕 1 設問1及び設問2は、 著作物性、 問題となる著作権法上の権利及びその侵害の成否、 並び に侵害が肯定された場合の適切な救済について、 それぞれ異なる観点から理解を問うもので ある。 設問3は、 著作物の享受を目的としない利用行為やそれに関連してなされる行為が著 作権法上どのように評価されるかについての理解を問うものである。 2 設問1については、 X映像1とX映像2のどの部分に創作性が認められ、 保護範囲にど のような差異が生ずるかについて検討し、 後者の方が設問の訴訟において著作物性(著作権 法(以下「法」という。 )第2条第1項第1号)及び類似性が認められる可能性が高いこと を示す必要がある。 3 設問1については、 Z図鑑1及びZ図鑑2の作成に関して複製権(法第21条)侵害が、 Z図鑑1の販売に関して譲渡権(法第26条の2第1項)侵害が、 Z図鑑2の販売に関して は、 譲渡権侵害に加え頒布権(法第26条第1項)侵害が問題となることを指摘した上で、 救済として、 差止請求(法第112条第1項)及び廃棄請求(同条第2項)の具体的な内容 について論述する必要がある。 このほか、 損害賠償請求(民法第709条)についても言及 する必要がある。 次に、 上記の請求の妥当性の問題として、 とりわけZ画像において、 X映像2の創作的表 現が維持されているかを検討する必要がある。 また、 権利侵害に係る部分の分離可能性等を 考慮して、 差止めや廃棄の適切な範囲についても論ずることが求められる。 4 設問2については、 Xが主張すべき著作者人格権として、 氏名表示権(法第19条第1 項)及び同一性保持権(法第20条第1項)を、 著作権として、 複製権(法第21条)及び 公衆送信権(法第23条第1項)を挙げる必要がある。 5 設問2については、 まずにおいて特定した権利との関係で可能な救済として、 差止請 求(法第112条第1項)、 廃棄請求(同条第2項)、 名誉回復等措置請求(法第115条) 及び損害賠償請求(民法第709条)について指摘する必要がある。 これらのうち、 損害賠 償請求を除く各請求については、 Yに求める作為や不作為の内容を具体的に論述することが 求められる。 次に、 Xの請求の妥当性を検討する際に、 同一の撮影方法を用いて撮影した素材から、 類 似の取捨選択方針に基づいて作成されたY映像において、 X映像2の創作的表現が維持され ているかについて具体的に論述する必要がある。 氏名表示権侵害については、 「協力者」と してXの氏名を表示することが著作者名の表示に当たらない点を指摘する必要がある。 さら に、 救済の妥当性について、 Y映像の将来の放送の差止め(法第112条第1項)の必要性 や、 Y映像を記録した媒体の廃棄(同条第2項)の必要性が認められるか等についても検討 する必要がある。 6 設問3については、 タブレットへの記録が複製(法第2条第1項第15号)に、 犬にタ ブレットで映像を再生して見せる行為が上映(同項第17号)にそれぞれ該当することを指 摘し、 これらに関係する支分権の侵害に当たらないとYが判断した根拠を挙げる必要がある。 より具体的には、 複製権(法第21条)との関係では法第30条の4を、 上映権(法第22 条の2)との関係では「公に」の要件を満たさないことを、 それぞれ指摘する必要がある。 7 設問3については、 の解答を踏まえ、 設問の事実関係の下で、 Yの各行為が複製権や 上映権を侵害するといえるかについて具体的に述べる必要がある。 上映権との関係では、 結 - 28 - 果的にX映像2のすべてを見た3名の飼い主がいたことをもって、 著作物を「公に上映」 (法 第22条の2)したといえるかにつき検討する必要がある。 その上で、 法第30条の4に該 当するか否かについて、 自らの見解を説得的に述べる必要がある。 複製権については、 複製 物の目的外使用(法第49条第1項第2号)の可能性についても検討することが望ましい。 [労働法] 〔第1問〕 本問は、 私傷病(業務に起因する傷病以外の傷病)を理由として就業規則に定められた休 職制度により休職命令を受けた労働者が、 同制度上の休職期間を経ても十分には回復しなか ったため、 直ちに原職に復職することは困難と判断した会社が復職命令をせず、 就業規則の 規定により当該労働者を自然退職したものとしたという事例を素材として、 これに関連する 法律上の論点を挙げて検討し、 見解を述べることを求めるものであり、 当該雇用関係の終了 に適用され得る規律及びそれに関連する判例・裁判例等の正確な理解と、 それらから導き出 される労働法規範に対し、 本件の具体的な事実から関係する事実を的確に拾い上げて当ては め、 評価する能力を問うものである。 本問は、 当該労働者の主治医及び会社の産業医のいずれもが症状の改善は不十分であり無 条件では原職の複雑な業務の遂行は困難とする一方で、 労働者本人は復職を望んでいるとい う設例を基礎として、 設問1及び2において、 会社(Y社)の対応及びXの意向の点で異な る事実関係をそれぞれ付加し、 それぞれの事例におけるXの請求の当否を問うものである。 このうち設問1は、 Xが原職での復職を強く希望し、 それ以外の形での復職を拒否したこ とから、 Y社が、 そうしたXの意思を踏まえ、 就業規則に基づき、 休職期間の満了をもって Xを自然退職したものとしたことの適否等を問うものである。 本問においては、 まず、 Y社が休職期間の満了をもってXを自然退職したものとすること ができる法的根拠を明らかにする必要があろう。 すなわち、 私傷病による就労不能は、 労働 契約上の債務の本旨に従った労務の提供ができない状態であり、 解雇理由となり得るところ、 就業規則により休職制度が設けられていることによって、 休職の間は解雇が猶予され、 その 後復職が可能となり復職命令がなされれば退職の効果は発生しないが、 猶予期間を経ても復 職ができないときは、 労働者は退職することとなる。 このような休職及び休職期間の経過に よる自然退職は、 法令には規定がなく、 前記のY社の就業規則の関連規定の内容が合理的で ありかつ労働者に周知されていた場合にY社とXとの間の労働契約の内容となるから(労働 契約法7条本文)、 まず、 これらの点を指摘し、 論ずることが、 最初の論述のポイントとなる。 次に、 就業規則第35条による自然退職がY社とXの間の労働契約の内容になっているこ とを前提に、 Xが同条の「復職することができないとき」に当たるかを検討することとなる が、 ここにいう「復職」できる状態は、 原則として、 当該労働者の従前の(休職前の)職務 を通常程度行える健康状態をいうものであることを指摘しておく必要があろう。 本問の事例 においては、 前記の主治医及び産業医の診断内容等によれば、 その状態にないことが認めら れるから、 その上でさらに、 従前の職務以外の職務での復帰の余地があるかどうかを論じる こととなる。 ここで、 判例(片山組事件・最判平成10年4月9日労判736号15頁)は、 労働契約上その職種や業務内容が限定されていたとはいえず、 従前の業務以外の労務の提供 は可能であり、 かつ、 労働者がその提供を申し出ていたときには、 当該労働者の能力、 経験、 地位、 会社の規模、 業種、 労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らし、 当該労働者が配 置される現実的可能性があると認められる業務が他にあったかどうかを検討した上でなけれ ば、 債務の本旨に従った労務の提供をしなかったものと断定することはできない旨の判断を 示している。 この判例は、 賃金請求権の存否が争われた事案であるが、 その後の裁判例にお いては、 その判断枠組みが自然退職の適法性が争われる事案にも広く用いられている(東海 - 29 - 旅客鉄道事件・大阪地判平成11年10月4日労判771号25頁等)ことから、 本問にお いても、 この判例の考え方が当てはまるかを検討した上で、 導き出される規範について、 本 問の事実関係を的確に当てはめ、 事例についての結論を導いていくこととなろう。 その際は、 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)において、 事業主が雇用 する障害者である労働者についてはその障害の特性に配慮した措置を講じなければならない 旨が規定されており、 同法の趣旨から使用者において労働者の復職の可否を判断するに当た って合理的な配慮をすることを求める裁判例もある(日本電気事件・東京地判平成27年7 月29日・労判1124号5頁)ことから、 当てはめではそれらの点を踏まえた検討も必要 となる。 設問2は、 Y社において、 Xが直ちに原職(本社システム開発課の課長補佐)に復職する ことは困難であることを前提として、 Xの意向も聴取しつつ、 休職期間を2か月延長し、 そ の期間中に、 正式な復職の可否の判断のため、 休職扱いのまま、 原職とは異なる定型的かつ 繁忙度の低い他の課の事務に、 週3日隔日・時間短縮で従事させ(以下「試験出社」という。 )、 同課課長に簡易な業務から担当させるように指示することさえしたが、 Xは試験出社開始2 週間ほどで体調不良となり、 欠勤を重ねるようになったという事例において、 Y社が、 前記 の就業規則に基づき、 延長後の休職期間満了を理由としてXを自然退職したものとしたこと の適否等を問うとともに、 Xが試験出社中の事務従事を根拠としてその間の賃金を請求する ことの当否を問うものである。 本問においても、 まず、 地位確認請求との関係で、 Y社が正式にXに復職を命じず自然退 職したものとした時点(延長後の休職期間満了時)において、 Xが従前の職務に復職可能な 状態であったか及び判例の考え方から導き出される規範の下で復職可能といえる状態にあっ たかを、 設問2の事実関係(Xが試験出社中に従事した事務の内容やその遂行状況等)に照 らして論ずることとなる。 特に、 試験出社を経た上でXは復職できないとY社が判断するに 至った事実経過に即して、 Xが配置される現実的可能性があると認められる業務がなお他に あったかどうかを具体的に論ずることが、 ポイントとなろう。 そこでは、 同法の趣旨や前記 のような裁判例等に鑑み、 Xの自然退職に至るまでの経過においてY社による合理的な配慮 があったと評価することができるか等を検討することも考えられよう。 次に、 試験出社中の事務従事に対応する賃金を請求することの可否との関係では、 試験出 社及びその間における事務への従事が、 Y社とXとの間の労働契約の債務の本旨に従った労 務の提供といえるか否かを論ずる必要があろう。 ここでは、 就業規則第32条において休職 中は賃金を支給されないものとしていることを前提に、 試験出社の趣旨やそれを提案したY 社及びこれに応じたXの間に成立した合意の内容を事実関係に照らして確定した上で、 賃金 請求権の成否を検討することが求められる。 その際は、 試験出社中の事務従事は債務の本旨 に従った労務の提供ということができないと考えられる場合であっても賃金請求権が発生す ることとなり得る法律構成の可否等についても検討し、 論述することが求められる。 〔第2問〕 本問は、 設問1において、 派遣労働者により組織された労働組合が派遣労働者の派遣先で ある旅客自動車運送等事業者に対してした団体交渉の申入れを同事業者が拒否した事例を素 材として、 労働組合法第7条にいう「使用者」の概念及び同条第2号に規定する団体交渉拒 否の不当労働行為の成否の要件等についての理解を問うとともに、 設問2において、 同労働 組合と労働者派遣事業者との間で締結された労働協約により、 12か月間の基本給の一部の 支払猶予が約定され、 さらに、 これに続く別の労働協約により、 当該支払猶予分の賃金債権 の放棄が約定されたという事例を素材として、 労働条件を労働者に不利益に変更することを 内容とする労働協約についていかなる場合に規範的効力が認められるか、 具体的に発生した - 30 - 賃金請求権を労働協約によって事後的に処分・変更することは可能かといった点についての 理解を問うものであり、 いずれも、 集団的労働関係法における基本的かつ主要な論点に関し、 関係する法令、 判例・裁判例等から導き出される規範についての正確な理解と、 当該規範へ の具体的事実の当てはめ(関係する事実の摘示と評価)の的確さを問うものである。 設問1では、 派遣元の事業者であるB社に雇用されている労働者(添乗員)を組織する労 働組合であるC組合が派遣先の事業者であるA社に対して行った同組合の組合員である添乗 員の労働時間管理の改善に向けた事項を議題とする団体交渉の申入れをA社が拒否したこと が、 労働組合法第7条第2号の団体交渉拒否の不当労働行為に当たるか(したがってC組合 は労働委員会において救済を受けることができるか)が問われている。 この問いに答えるに 当たっては、 @添乗員の雇用主ではないA社が、 派遣労働者たる添乗員との関係で、 不当労 働行為を禁止される「使用者」(労働組合法第7条)に当たるか、 AC組合がA社に対して団 体交渉を申し入れた上記事項がいわゆる義務的団体交渉事項に当たるか、 BA社による団体 交渉の申入れ拒否には同号所定の「正当な理由」があるかを、 論ずべきこととなる。 @については、 判例(朝日放送事件・最判平成7年2月28日民集49巻2号559頁) が示す判断枠組みを正確に理解し、 本件の具体的事実に的確に当てはめることが論述のポイ ントとなる。 また、 A社は労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関 する法律(昭和60年法律第88号)に基づき労働者派遣事業を営むB社から派遣労働者た る添乗員を受け入れている事業者であるところ、 そうした事業者が派遣労働者との関係で「使 用者」に当たるかどうかに関し、 上記の判例の趣旨を踏まえつつ、 特別な判断枠組みを提示 する労働委員会命令(ショーワ事件・中労委命令平成24年9月19日別中労時1436号 16頁)や裁判例(阪急交通社事件・東京地判平成25年12月5日労判1091号14頁) もあり、 そうした特別な判断枠組みによって判断すべきかについても検討がなされるべきで あろう。 その上で、 Aにおいて、 いわゆる義務的団体交渉事項の範囲についての一般的な理 解(例えば、 INAXメンテナンス事件・最判平成23年4月12日労判1026号27頁 参照)を正確に示しつつ、 本件においてC組合がA社に対してした申入れ事項がこれに該当 するかを的確に検討し、 Bにおいて、 A社が主張する理由が同号所定の「正当な理由」に該 当するか等を、 本件の具体的事実に照らして検討することが、 論述の重要なポイントとなる。 設問2では、 C組合とB社との間で、 まず、 C組合の組合員である添乗員の時間外労働に 係る未払の割増賃金を一括して支払う一方で、 12か月間の基本給の1割について支払を猶 予することなどを内容とする労働協約(令和3年協約)が締結され、 その後さらに、 当該支 払猶予分の賃金債権を放棄することなどを内容とする労働協約(令和5年協約)が締結され たという事例において、 C組合の組合員たるDがB社に対してした支払猶予分の賃金及びそ の遅延損害金の支払請求が認められるかが問われている。 この問いに答えるに当たっては、 @令和3年協約は労働者の賃金債権の一部の履行期を遅らせることをその内容の一つとする ものであり、 労働条件を労働者に不利益に変更するものであるところ、 そのような労働協約 に規範的効力が認められるかという点、 さらに、 A令和3年協約による同年12月分の賃金 の支払の猶予と、 令和3年協約により支払が猶予された賃金の令和5年協約による放棄は、 それぞれ労働者に具体的に発生した賃金請求権を処分・変更することとなるものであるとこ ろ、 労働協約によってそうした処分・変更をすることが許されるかという点を、 論ずべきこ ととなる。 @については、 労働協約によって労働条件を労働者に不利益に変更することそれ自体の可 否や、 それが可能であるとしてどのような場合であればそれが許容されるか等について論じ ることが重要なポイントとなり、 関係する判例(朝日火災海上保険(石堂)事件・最判平成 9年3月27日労判713号27頁)の考え方についての正確な理解を前提に、 これを踏ま えつつ、 事例の関連する事実を的確に拾い上げ、 令和3年協約による労働条件の不利益変更 - 31 - に規範的効力が認められるかを検討することが求められる。 そして、 Aについては、 具体的 に発生した賃金請求権を事後に締結された労働協約によって処分又は変更することは、 個々 の組合員による特別の授権がない限り許されない旨を述べる判例があること(平尾事件・最 判平成31年4月25日労判1208号5頁。 香港上海銀行事件・最判平成元年9月7日労 判546号6頁及び朝日火災海上保険(高田)事件・最判平成8年3月26日民集50巻4 号1008頁も参照)及びそこに示された考え方を正確に理解していることを前提に、 事例 の事実関係に照らしてその可否を論述することが、 重要なポイントとなる。 その上で、 Dに ついて上記の判例がいう特別の授権があったとは認め難い本件の事例においては、 具体的に 発生した賃金請求権の事後的な処分・変更は許されないと考えられ、 そうであるとすれば、 支払猶予分の賃金の請求は認められることとなり、 その遅延損害金の支払請求に関し、 その 起算点との関係で、 @についての検討が求められることとなる。 [環境法] 〔第1問〕 本問は、 国道の自動車騒音や基幹的な空港・自衛隊基地の航空機騒音が問題となるケースに おいて、 周辺住民が司法的救済を裁判所に求めようとする際に、 どのような法的問題を検討し なければならないのかを、 最高裁判所の判例を踏まえて解答することを受験者に求めている。 解答に際して踏まえるべき最高裁判所の判例は、 @大阪国際空港訴訟上告審判決・最大判昭和 56年12月16日民集35巻10号1369頁(以下「大阪空港訴訟最判」という。 )、 A厚 木基地第1次訴訟上告審判決・最判平成5年2月25日民集47巻2号643頁、 B国道43 号・阪神高速道路訴訟上告審判決・最判平成7年7月7日民集49巻7号1870頁(損害賠 償請求。 以下「国道43号訴訟最判(損害賠償)」という。 )、 C同上告審判決・最判同日民集 49巻7号2599頁(差止請求。 以下「国道43号訴訟最判(差止)」という。 )、 D厚木基 地第4次訴訟上告審判決・最判平成28年12月8日民集70巻8号1833頁(以下「厚木 基地訴訟平成28年最判」という。 )であり、 いずれも環境法のみならず、 民法、 民事訴訟法、 行政事件訴訟法に関する基本判例である。 〔設問1〕の小問は、 国道の道路騒音及び基幹的空港の騒音に係る民事差止訴訟の提起の 適法性に関する理解を問うものであり、 国道43号訴訟最判(差止)及び大阪空港訴訟最判に ついて、 両判決が異なる結論に至った理由を分析して明らかにする能力を試している。 【資料】 を参照しつつ、 各差止請求の内容と公権力の発動との関係を論じることが期待される。 また、 小問は、 民事差止請求の違法性の判断枠組みに関する理解を問うものであり、 まずは、 国道 43号訴訟最判(差止)が提示した民事差止請求の違法性及び同訴訟最判(損害賠償)が示し た損害賠償請求の違法性の各判断枠組みを説明し、 両者の相違を指摘することが求められる(さ らに、 両者の相違の理由について詳しい分析を加えていると、 なお望ましい。 )。 その上で、 損 害賠償請求の違法性における考慮要素のうち、 公共性に関する最高裁判決の判断枠組みの特色 を分析し、 これに対する学説からの評価(公共性の考慮の当否)を指摘すること、 両請求の違 法性の関係(要求される違法性の程度、 各請求における各考慮要素の重要性の相違)について 論じることが期待される。 〔設問2〕の小問においては、 厚木基地訴訟平成28年最判を前提とした上で、 差止訴訟 (法定抗告訴訟)及び民事差止訴訟を検討すべきであるが、 当事者訴訟、 法定外抗告訴訟とし ての差止訴訟や権力的妨害排除訴訟等も比較の検討対象となり得る。 差止訴訟(法定抗告訴訟) と民事差止訴訟との比較検討は必須であるものの、 当事者訴訟や権力的妨害排除訴訟を比較検 討する答案も評価される。 小問に関しては、 差止訴訟の本案勝訴要件を規定する行政事件訴 訟法第37条の4第5項に即した検討がされるべきである。 その際、 厚木基地訴訟平成28年 最判が、 防衛大臣の判断に幅広い裁量が認められること、 当該判断の司法審査の際には、 @自 - 32 - 衛隊機の運航目的等に照らした公共性や公益性、 A周辺住民の被害の性質と程度に加え、 B被 害軽減措置の有無や内容等が考慮される、 と判断した点に留意すべきである。 民事差止訴訟の みを検討する解答は厚木基地訴訟に関する二つの最高裁判決を踏まえたことにはならない。 小 問においては、 国道43号訴訟最判(差止)の判断枠組みと小問に示した判断枠組みとの 比較を行うことが求められる。 民事差止訴訟と行政事件訴訟法上の差止訴訟とにおいて、 差止 めの可否に関する判断枠組みは大きくは異ならないとの評価は一般的である。 また、 厚木基地 訴訟平成28年最判が、 防衛大臣の判断に幅広い裁量が認められ、 被害軽減措置の有無や内容 等も考慮されると述べた点を指摘する解答は、 同判決の精確な理解を示したものとして評価さ れる。 〔第2問〕 本問は、 いわゆる循環管理の分野における費用負担の問題を中心として、 特に、 容器包装に 関する循環管理法制を取り上げるものである。 具体的には、 容器包装に係る分別収集及び再商 品化の促進等に関する法律(以下「容器包装リサイクル法」という。 )の意義と仕組み、 費用 負担、 制裁手段、 同法の課題に関する理解、 さらに、 循環型社会形成推進基本法における拡大 生産者責任の考え方に関する理解を問うものである。 〔設問1〕の小問では、 まず、 容器包装リサイクル法における費用負担がいわゆる拡大生 産者責任に基づくことを、 その内容とともに説明することが求められる。 小問では、 拡大生 産者責任の考え方が、 容器包装リサイクル法の中でどのように規定されているかを具体的な条 文との関係で説明できるかが問われている。 具体的には、 対象事業者の再商品化義務の規定(同 法第11条〜第13条)及び(対象事業者が指定法人を通じて市町村に一定の資金を拠出する) 拠出金に関する規定(同法第10条の2)である(なお、 関連して、 指定法人(日本容器包装 リサイクル協会)との再商品化契約によって再商品化をしたものとみなされる規定(同法第1 4条)がある。 )。 拠出金に関する規定については、 同法第10条の2が、 実際に要した再商 品化費用の総額が想定額の総額を下回った場合に、 その差額の一部を市町村に拠出する規定と なっており、 実施から年を経るにつれ、 実際に要した費用が想定額に徐々に近づくため、 最終 的に拠出金がゼロになる仕組みとなっていることを指摘することが望まれる。 小問では、 循 環型社会形成推進基本法における拡大生産者責任の根拠規定(同法第11条、 第18条。 さら に、 第17条、 第20条も関連する)と、 同法の下での拡大生産者責任の内容及びそれに基づ く措置を実施するための要件に関する理解が問われている。 拡大生産者責任の内容としては、 同法第11条に定められている@廃棄物等となることの抑制措置、 A表示、 設計の工夫等、 B 引取り・リサイクルの措置、 C循環資源の利用ができる者による利用の4点、 国が引取り・リ サイクルの措置を実施するための要件としては、 1)国・地方公共団体・事業者及び国民の適 切な役割分担が必要であるもの、 2)設計・原材料の選択、 循環資源となったものの収集等の 観点から、 事業者が果たすべき役割が循環型社会形成推進の上で重要と認められるものである こと、 3)当該循環資源の処分の技術上の困難性、 4)循環的な利用の可能性の存在があげら れていること(同法第18条第3項)、 さらに、 製品・容器等に対する事業者の事前評価の促 進及び情報提供に関して、 国が必要な措置を講じるとされていること(同法第20条)がポイ ントとなる。 これらがコンパクトにまとめられるかにより、 条文の内容が理解されているかが 問われることになる。 〔設問2〕の小問では、 特定容器利用事業者に費用負担を課する理由として、 特定容器に 対する選択権(実質的な決定権)があることを解答することが求められる。 小問では、 対象 事業者について販売予定額を基礎として費用負担が定められていること(容器包装リサイクル 法第11条第2項第2号ロ)が、 特定容器利用事業者にとっては過重な負担と感じられる理由 となっている点を解答することが求められる。 この点は、 容器包装リサイクル法の費用負担に - 33 - 関する基本を問うものである。 小問では、 問題文で示した訴訟に関しては、 不合理な差別と はいい難く、 国の立法裁量を理由として憲法違反とはならないことは前提としつつも、 環境法 政策としては何が望ましいかを、 【資料】を読み解いて解答することを求めている。 拡大生産 者責任は生産者に環境負荷低減、 環境配慮設計のインセンティブを与えることを目的としたも のであることを踏まえつつ、 【資料】から、 OECDやフランスで、 製品・容器の環境負荷の 程度に応じて委託料を変える考え方が採用されていることに気が付いてほしい。 小問は、 X が委託料の支払留保という挙に出た場合の行政側の措置を問うものである。 まず、 特定容器利 用事業者は、 指定法人(容器包装リサイクル協会)に委託料を支払うことによって再商品化義 務を履行したものとみなされ(容器包装リサイクル法第14条)、 支払を留保しつつほかの二 つの再商品化手法(指定法人以外の者への委託による再商品化ルート及び自主回収ルート。 同 法第15条第1項括弧書き、 第18条)も用いないときは、 再商品化義務の不履行(同法第1 5条違反)となることを指摘することが求められる。 その上で、 行政側の措置としては、 指導 ・助言(同法第19条)、 勧告(同法第20条第1項)、 氏名の公表(同条第2項)があり、 そ の上で、 勧告に従わない場合に勧告措置の命令(同条第3項)がなされ、 さらに、 その命令違 反に対して罰金が科されること(同法第46条)を解答することが求められる。 [国際関係法(公法系) ] 〔第1問〕 本問は、 国際司法裁判所(以下「ICJ」という。 )の仮保全措置(暫定措置)の指示要件 という国際裁判の手続事項のほか、 排他的経済水域(以下「EEZ」という。 )及び大陸棚に 関する海洋境界画定方式、 直線基線と低潮高地との関係、 直線基線の内側の海域の法的地位、 及び領海における外国軍艦の無害通航権という国際法上の基本的な知識と理解を確認するこ とを目的とする。 設問1は、 ICJの仮保全措置の要件に関する基本的な問題である。 まず、 仮保全措置の 指示が認められるための要件を近時の判例から確認し、 A国の主張に即して設例の事実の当 てはめを行うことが求められる。 A・B両国とも国際連合(以下「国連」という。 )の原加盟 国であり、 そのため国際司法裁判所規程の当事国となっていることを確認した上で、 同規程 を適用し、 同規程第36条第2項の規定に基づきICJの裁判管轄権を受諾する宣言(以下 「選択条項受諾宣言」という。 )を行っていることにも留意する必要がある。 ICJが仮保全措置を指示する権限を行使するためには、 以下の要件を満たすことが近時 のICJの判例では確立している(訴追か引渡しかの義務に関する問題事件仮保全命令(2 009年)、 テロ資金供与防止条約及び人種差別撤廃条約適用事件仮保全命令(2017年)、 ジェノサイド条約適用事件(ガンビア対ミャンマー)仮保全命令(2020年)、 ジェノサイ ド条約におけるジェノサイドの主張事件仮保全命令(2022年)など)。 すなわち、 @一応 の(prima facie)裁判管轄権の存在、 A仮保全措置要請国が本案で主張する権利が少なくと ももっともらしい(at least plausible)ものであること、 B当該権利とこれを保全するた めに要請される措置との間に関連性が存在すること、 C回復不能な侵害を起こすような緊急 性の存在が確認されることを満たすことが必要である。 本件では、 A国からの議論としては、 以下のような主張が考えられる。 まず、 A・B両国 とも選択条項受諾宣言を行っており、 しかもいずれも裁判管轄権を制約する趣旨の留保は付 していないので、 一応の裁判管轄権の存在は認められる(@)。 A国が本案で主張する権利は EEZ及び大陸棚の境界線により画定されるそれぞれの海域・区域に対する権利であり、 A 国は問題の海域の沿岸国であることからこの権利の主張が可能であることは明らかである (A)。 また、 その大きさなどについてのγ島の法的地位は問題の海洋境界画定線の設定に影 響を及ぼし得るので、 A国の上記権利を保全するためにも島の現状に人工的な変更を加えな - 34 - い状態を維持することが求められることから、 埋立作業を行うB国の関係船舶及びそれを護 衛する軍艦をγ島から撤収させて埋立作業と軍事活動の停止を求め、 紛争を悪化させる行動 をB国に控えさせることは、 A国からみて正当と考えられる(B)。 最後に、 γ島をB国が人 工的に改変することで海洋境界画定に関するA国の権利に回復し難い侵害が生じる可能性が あることのほか、 現に武力衝突が継続しているために人命保護も追加的な理由として緊急性 も認められる(C)と主張することが可能である。 設問2は、 近時の国際判例がEEZと大陸棚に関する海洋境界画定についていわゆる「三 段階アプローチ」を採用していることから、 その内容を正確に理解しているかどうか、 そし てこれに依拠してB国の主張を展開できるかが問われている。 A・B両国とも1982年の海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」とい う。 )の締約国であることから、 EEZと大陸棚に関する海洋境界画定規則の出発点は、 それ ぞれ国連海洋法条約の第74条と第83条になる。 しかし、 これら規定は具体的な画定方式 を定めておらず、 その後の国際判例により実践的に具体的な画定方式が発展し、 現在では「三 段階アプローチ」方式が定着したといえる。 この「三段階アプローチ」方式は、 黒海海洋境界画定事件ICJ判決(2009年)で採 用され、 その後、 国際海洋法裁判所(以下「ITLОS」という。 )判決(ベンガル湾事件(バ ングラデシュ/ミャンマー)(2012年))、 ITLОS特別裁判部判決(ガーナ/コートジ ボワール海洋境界画定事件(2017年))及び仲裁裁判所判決(ベンガル湾事件(バングラ デシュ対インド)(2014年))でも採用されている境界画定方式である。 そこでは、 まず 暫定的に等距離線を引き、 次に関連事情を考慮して暫定等距離線を調整し、 最後に紛争当事 国に帰属する海域の面積の比と関連海岸線の長さの比の間に不均衡がないかについて検証を 行うというものである。 このアプローチの各段階の内容を正確に理解していることが求めら れる。 B国の立場からは、 第一段階として、 本件では、 領海の境界画定で等距離線が採用されて いることから、 EEZと大陸棚に関する海洋境界画定についても等距離線を引くことに不都 合はないと考えられる。 すなわちEEZと大陸棚に関する海洋境界画定について等距離線を 引くことができないような地形ではないことについてA・B両国とも合意していることにな るからである。 また暫定等距離線を修正する第二段階として、 γ島がB国領であることはA 国も認めており、 小さな無人島とはいえ、 境界画定の対象となるA国側の海域に存在するこ とにより、 この島を関連事情として考慮して暫定等距離線をA国側にやや移動させることも 正当化される。 そして修正された等距離線によって確定される海域が衡平な結果となるかを 検証する第三段階において、 そのように移動させた修正等距離線により分けられるA国とB 国の海域の面積は、 B国が主張する関連海岸線の長さの比とほぼ同じであることから、 EE Z及び大陸棚の面積と関連海岸線の長さの比に不均衡はないという主張が可能となる。 この ように、 「三段階アプローチ」方式の内容を正確に理解した上で、 同方式による海洋境界画定 からB国の主張が正当化されることを示さなければならない。 設問3は、 直線基線の内側にある海域の法的地位と領海における外国軍艦の無害通航権に ついての理解度を問う問題である。 直線基線の設定において、 国連海洋法条約第7条第4項は、 低潮高地との間に引いてはな らないと規定し、 例外として直線基線を引くことが可能なのは、 「恒久的に海面上にある灯台」 などが建設されている場合と問題の低潮高地に直線基線を引くことが「一般的な国際的承認 を受けている」場合に限られるとしている。 本件でB国が主張する直線基線は、 海岸に沿っ て至近距離に引かれており、 海岸の全般的な方向から著しく離れて引かれてはいないと考え られるものの(国連海洋法条約第7条第1項及び同第3項参照)、 低潮高地に引かれる例外に 該当するかどうかが問題となる。 C国からは、 この例外に該当しないので、 B国が主張する - 35 - 直線基線は国際法上合法ではないと主張できるのであり、 したがってB国の基線は直線基線 ではなく低潮線である通常基線であって、 航行中のX号をB国の沿岸警備隊が発見した海域 は、 B国の内水ではなく領海であると主張することができる。 領海において軍艦の無害通航権が認められるかについては国連海洋法条約に明文規定がな く国家実行も一致していない。 学説上は船舶の航行の態様で通航禁止ができるという態様別 規制説と船舶の種類を理由に通航禁止が許される船種別規制説が対立しているが、 B国は、 国内法令で自国領海内での外国軍艦の通航について事前の許可申請や事前の通告を求めては いないことから、 軍艦であるというだけで無害ではないとする船種別規制説に立った実行を 採用していない。 したがって、 C国は、 B国が自国領海内での外国軍艦の通航を許容してい ることを主張するとともに、 軍艦も領海内で無害通航権の行使を主張し得る態様別規制説の 立場から主張を行えばよい。 B国の直線基線の内側の海域は領海であることから、 X号は、 B国領海内を迅速かつ継続 的に通航しなければならない(国連海洋法条約第18条第2項)。 態様別規制説に立った場合、 X号の通航の態様は、 国連海洋法条約第19条第1項にいう「沿岸国の平和、 秩序又は安全 を害しない」ものであって無害であり、 また同条第2項に列挙されている無害でない通航に も該当しない。 さらに、 仮にB国が主張する直線基線が、 A国もその有効性を認めて領海の境界線に合意 していることから推測して、 一般的な国際的承認を受けて基線として有効であり、 したがっ て直線基線の内側の水域が内水となることが認められるとしても、 国連海洋法条約第8条第 2項によりこの直線基線の内側の海域には無害通航権が存続するので、 この場合でも上記の 同条約第19条にいう無害性の基準が適用可能であり、 やはりX号は無害通航を行ったと主 張することが可能である。 以上のように、 C国としては、 B国が設定した直線基線が国連海洋法条約の関連規定と合 致するかどうかを検討した上で、 当該直線基線が同条約上合法であれ違法であれ、 態様別規 制説に立って軍艦X号の無害通航権が許容されることを主張するように論ずることになる。 〔第2問〕 本問は、 条約法、 国家責任法、 国際組織法という国際法上の基本的分野における知識と理解、 その具体的な運用能力を問うものである。 設問1は、 条約の解釈に関する基本的問題である。 A国ほか登場する関係国は全て条約法に 関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。 )の当事国でありこれが適用されることと なるが、 解釈については、 特に条約法条約第31条、 第32条が関連条文となる。 本問ではA 国が新たに始めたβ川の利用である観光業、 生物資源関連事業、 軍事兵器・物資の輸送が、 P 協定における「産業」に該当するかが問題となるが、 「産業」の文言が必ずしも明確といえず、 またP協定が20世紀初頭という古い時期に締結されたことが特徴になっている。 ここでは条 約で用いられている語句が条約締結時ともはや同じ意味ではない可能性が問題になっており、 発展的解釈について論ずることが望まれる。 本設問と類似する通航権事件(コスタリカ対ニカ ラグア)ICJ判決(2009年)では、 当事国が締結した条約中の「通商」の語が問題にな っていたが、 ICJは、 条約中に用いた語句が総称的であって当事者が時の経過とともに語句 の意味が発展していくと当然に認識しており、 かつ、 条約が非常に長期にわたって効力を有し ている又は継続的性格を有している場合、 当事者は用語の意味が発展することを意図していた と推定されなければならないとした。 本問でも、 「産業」の語が総称的であることやP協定の 永続性に言及しつつ、 これらの観点からA国が始めた新しい3つの活動について論じていくこ とが求められる。 観光業と軍事兵器・物資の輸送に関しては、 通航権事件と同様に判断できる だろう。 - 36 - 設問2は、 国際組織の権限に関する基本的な問題である。 その前提として国際組織の法主体 性が問題になるが、 国際組織は本源的主体である国家と同様の仕方で法主体性をもち得るわけ ではない。 国際組織は条約によって設立されるが、 当該設立条約の当事国であればともかく、 非加盟国からすると自国と関係ないところで設立されたことになる。 非当事国との関係で当該 国際組織が新たな法人格をもち得るのかは容易には判断できない。 本設問で、 E国はQの非当 事国であり、 QがE国に対しても法人格を主張できるか、 そして法人格が認められるとしても、 損害賠償を請求する権利を有するかが問題になる。 この点に関する最も重要な法的見解は国連 損害賠償事件(ICJ勧告的意見(1949年))で示されている。 国連が国連憲章の目的を 達成するためには国際法人格を備えることが不可欠だとされ、 また憲章中に明文規定はないも のの、 黙示的権限論に従って、 また、 機能的保護に言及しつつ、 損害賠償を請求する権能を認 めている。 この判断に照らしつつ、 本問でもQの設立条約やその実行に言及しつつ、 論ずるこ とが求められるが、 上記の勧告的意見が参考になるだろう。 設問3は、 条約法及び国家責任法に関する基本的な問題である。 国内法を理由として条約を 遵守しないことについては、 条約法条約第27条が規定しており、 「条約の不履行を正当化す る根拠として自国の国内法を援用することができない」とされる。 国内法を理由として国際法 を遵守しないことについては現実にもしばしば見られることであるが、 第27条に示される規 則は「合意は守られなければならない(pacta sunt servanda)」(条約法条約第26条)と同 様に、 国際社会における基本的規範である。 本問はこの第27条を端的に適用すればよい。 ま た、 同様のことは条約の無効についても当てはまり、 条約法条約第46条第1項が「無効にす る根拠として援用することができない」としている。 ただし、 ここで「違反が明白でありかつ 基本的な重要性を有する国内法の規則に係るものである場合」は例外となるので、 γ川流域を 自然保護区とするC国国内法がこれに当たるかどうかを論ずることが求められる。 R協定の不履行によってC国に損害賠償を支払う義務があるかどうかは、 国家責任法の問題 である。 この点、 国家責任条文が最も関連する国際文書といえるが、 国家責任条文自体は条約 にはなっていないので、 適用する前提として国家責任条文の「緊急避難」に関する条項が慣習 国際法となっていることの確認が必要である。 ガブチコボ・ナジマロシュ計画事件(ハンガリ ー/スロヴァキア)ICJ判決(1997年)で、 ICJは、 緊急避難は慣習国際法によって 認められた基礎を有し、 厳格に定義された一定の要件の下に例外的に認められるとし、 当時国 際法委員会で起草中であった国家責任条文草案を参照しつつ、 「根本的利益」「重大かつ差し迫 った危険」「唯一の方法」「根本的利益の深刻な毀損」「緊急避難の発生への寄与」の諸条件が 慣習国際法を反映したものだとしている。 本問においても、 経済的苦境や環境保護がこれらの 緊急避難の要件を満たすかを一つ一つ当てはめつつ検討することが求められる。 [国際関係法(私法系) ] 〔第1問〕 本問の〔設問1〕は、 渉外性を有する相殺の事例を素材として、 〔小問1〕では、 自働債権 の発生原因である契約から生じる紛争について外国裁判所の専属的管轄合意が存在する場合 に、 日本の裁判所において相殺の抗弁を主張することの可否についての理解を、 〔小問2〕で は、 相殺の準拠法についての基本的理解を問うものである。 また、 本問の〔設問2〕は、 渉 外性を有する債権譲渡の事例を素材として、 〔小問1〕では、 債務者との関係における債権譲 渡の効力の準拠法についての理解を、 〔小問2〕では、 同一の債権をめぐり債権譲渡の譲受人 及び債権譲渡担保権者が存在する場合に、 その対抗関係の準拠法についての理解と応用力を 問うものである。 〔設問1〕の〔小問1〕は、 A社とB社の間に債権@及び債権Aの二つの対立する金銭債 権があり、 債権@についてA社が日本の裁判所に訴えを提起し、 被告B社が債権Aを自働債 - 37 - 権として相殺しようとしたところ、 債権Aの発生原因である売買契約Aについて、 外国裁判 所を専属的管轄裁判所とする旨の条項(以下「本件条項」という。 )が存在する場合に、 B社 は日本の裁判所において相殺の抗弁を主張することができるかを問うものである。 まず、 相殺の抗弁を主張する前提として、 自働債権である債権Aについて、 本案裁判所に 国際裁判管轄権が認められる必要があるのかを検討することが求められている。 管轄不要説、 管轄必要説のいずれに立つにせよ、 その根拠を示す必要がある。 管轄不要説に立つ場合には、 抗弁として債権Aを自働債権とする相殺の主張をすることは可能であり、 A社の主張は認め られないことになる。 管轄必要説に立つ場合には、 さらに、 本件条項に係る合意が民事訴訟 法第3条の7の規定の要件を満たしているかが問題となるが、 この点は満たしており、 合意 は効力を生じている。 そして、 本件条項に照らすと、 債権Aは専属的管轄合意の適用範囲に 含まれることから、 債権Aを自働債権とする相殺の抗弁は不適法却下され、 A社の主張は認 められることになろう。 〔設問1〕の〔小問2〕では、 相殺の準拠法についての理解が問われている。 法の適用に 関する通則法(以下「通則法」という。 )には、 相殺の準拠法について直接定めた規定は存在 しないため、 相殺の準拠法について検討し、 その根拠について説明することが求められてい る。 例えば、 自働債権準拠法と受働債権準拠法の累積的適用説、 受働債権準拠法説等の立場 が考えられよう。 その上で、 本問への当てはめを行い、 いずれの法が準拠法となるかを示す 必要がある。 〔設問2〕の〔小問1〕では、 債務者との関係における債権譲渡の効力の準拠法について の理解を問うている。 債権譲受人であるC社からの債務者であるB社に対する訴訟において、 債権譲渡人であるA社に対する債権@の弁済を理由とするB社の抗弁が認められるかについ ては、 債権の譲渡の債務者に対する効力の問題と性質決定することが考えられ、 その場合、 通則法第23条の規定によることとなり、 同条の「譲渡に係る債権について適用すべき法」 は、 債権@の発生原因となっているA社とB社との間の売買契約@の準拠法であり、 本件で は、 日本法になると考えられる。 〔設問2〕の〔小問2〕では、 同一の債権@をめぐり債権譲渡の譲受人及び債権譲渡担保 権者が存在する場合に、 その対抗関係の準拠法についての理解が問われている。 債権の譲渡 の第三者に対する効力の準拠法については通則法に明文の規定があるが、 債権譲渡担保の第 三者に対する効力の準拠法についての直接の明文規定は存在しない。 本問では、 債権譲渡の 譲受人であるC社と債権譲渡担保権者であるD社のいずれが債権@を取得したかについて、 いずれの国の法によって判断されるのかを検討し、 その根拠について説明することが求めら れている。 例えば、 本問における債権譲渡の第三者に対する効力については、 債権の譲渡の第三者に 対する効力の問題と性質決定し、 通則法第23条の規定により準拠法を指定し、 債権譲渡担 保の第三者に対する効力については、 債権質の第三者に対する効力の準拠法に関する従来の 多数説・判例の立場を参考とすることが考えられる。 その場合、 まず、 A社からC社への債 権譲渡の第三者に対する効力については、 通則法第23条の規定に従い、 同条の「譲渡に係 る債権について適用すべき法」によること、 譲渡対象債権の準拠法は、 債権@の発生原因と なっているA社とB社との間の売買契約@の準拠法であり、 本問では、 それが日本法である ことを示す必要がある。 そして、 実質法の本件事案への当てはめを行えば、 日本民法第46 7条第2項の確定日付のある証書による、 債務者B社への通知がされているため、 C社は日 本法の債権譲渡の第三者対抗要件を具備していることを説明しなければならない。 次に、 D 社がA社から設定を受けた債権譲渡担保の第三者に対する効力については、 債権質の第三者 に対する効力の準拠法に関する従来の多数説・判例を参考にするならば、 これは物権の問題 と性質決定されるが、 有体物を目的としない債権譲渡担保には目的物の所在地を観念できな - 38 - いため、 通則法第13条の規定によることはできず、 また、 債権譲渡担保は客体たる権利の 運命に直接影響を与えるものであるので、 債権譲渡担保の客体たる債権の準拠法によるべき であることを示す必要がある。 本問では、 債権譲渡担保の客体たる債権の準拠法は、 債権@ の発生原因である売買契約@の準拠法であり、 日本法である。 そして、 実質法の本件事案へ の当てはめを行えば、 A社はB社に対し、 債権譲渡担保の設定について何ら通知をしていな いため、 日本法上、 D社は債権譲渡担保の設定の第三者対抗要件を具備していない。 以上の とおり、 本問では、 債権譲渡の第三者に対する効力の準拠法と債権譲渡担保の第三者に対す る効力の準拠法は、 いずれも日本法となるが、 C社は日本法上の債権譲渡の第三者対抗要件 を具備しているのに対し、 D社は日本法上の債権譲渡担保の設定の第三者対抗要件を具備し ていないため、 C社が債権@を取得したことが示されねばならない。 また、 異なる見解として、 債権譲渡担保を一種の債権譲渡であるとし、 その第三者に対す る効力については、 通則法第23条の規定を適用又は準用する立場、 同一の債権をめぐり優 先権を争う可能性のある債権譲渡の譲受人、 債権譲渡担保権者などの権利の第三者に対する 効力については、 同一の準拠法によるべきであるとして、 明文規定のある通則法第23条と 同様、 譲渡対象債権の準拠法によるべきであるとする立場なども考えられる。 いずれの立場 でも、 通則法第23条の規定に従い、 譲渡対象債権の準拠法によることになるが、 本問では、 譲渡対象債権の準拠法は日本法であることを示す必要がある。 その上で、 実質法の本件事案 への当てはめを行い、 C社は日本法上の債権譲渡の第三者対抗要件を具備しているのに対し、 D社は日本法上の債権譲渡担保の設定の第三者対抗要件を具備していないため、 C社が債権 @を取得したことが示されねばならない。 〔第2問〕 本問は、 渉外性を有する身分関係に関する事例を素材として、 国際私法及び国際民事手続 法、 とりわけ、 親子関係の成立の準拠法及び身分関係に関する外国裁判の承認執行に関する 基礎的理解と応用力を問うものである。 〔設問1〕は、 非嫡出親子関係の成立の準拠法についての理解を問うものである。 〔設問1〕の〔小問1〕は、 認知の方式の準拠法についての基本的理解を問うものである。 認知の成立は通則法第29条の規定により規律されるので、 その方式は、 通則法第25条か ら第33条までに規定する親族関係についての法律行為の方式と性質決定されて通則法第3 4条の規定により準拠法が決定されること、 同条によると、 認知の実質的成立要件の準拠法 (第1項)と行為地法(第2項)が選択的適用され、 いずれかの法の方式を満たす場合には、 認知は方式上有効となることを示さなければならない。 本件認知は、 甲国法(行為地法であ るが、 認知の実質的成立要件の準拠法でもある。 後述〔小問2〕参照。 )の方式を満たしてい るため、 方式上有効である。 〔設問1〕の〔小問2〕は、 血縁の事実に反して行われた認知の無効が認められるかにつ いて問うことで、 認知の実質的成立要件の準拠法、 さらには、 非嫡出親子関係の成立一般に ついての準拠法に関する理解を確認するものである。 認知の実質的成立要件については、 子の出生の当時における父の本国法又は認知の当時に おける認知する者の本国法若しくは子の本国法が選択的適用される(通則法第29条第1項 前段、 第2項前段。 なお、 同条第1項後段及び第2項後段にいわゆるセーフガード条項の定 めもあるが、 本問ではこれに該当する事実はない。 )。 本問では日本法と甲国法が選択的適用 されるが、 いずれかの法の実質的成立要件を満たせば認知が有効に成立するということであ るから、 逆に、 認知が無効となるためには、 日本法でも甲国法でも認知が無効となる必要が あることを示さなければならない。 本問では、 日本法では認知の無効が認められるであろう が、 認知から提訴まで7年以上経過しているために甲国法の定める出訴期間制限にかかり、 - 39 - 甲国法では認知の無効は認められないため、 原則として、 認知の無効は認められないという 結論になろう。 これに対して、 提出された証拠により、 Yの血縁上の父がBであることが証明された場合 には、 Xにより認知された子であるYとBの親子関係が成立しているのではないかが問題と なるので、 その点を検討し、 その結論を踏まえて、 Xによる認知無効の請求が認められない という上記の結論を再検討することが求められている。 YとBの親子関係の成立は、 非嫡出 親子関係の成立と性質決定され、 通則法第29条第1項により、 子の出生当時のBの本国法 である乙国法が準拠法となり、 乙国法はいわゆる事実主義を採用しているため、 YとBの間 の血縁関係が証明されたときには、 YB間の非嫡出親子関係が成立していることを示す必要 があろう。 これを前提として、 Xによる認知無効の請求が認められないという結論を再検討 することになる。 認知の無効が認められないとすれば、 Yについて、 XY間の親子関係と、 BY間の親子関係のいずれもが成立していることになり、 このような状態をそのままにして よいかが問題となるが、 このような事態は、 単位法律関係ごとに準拠法を選択して、 それを 適用して得られた結論を持ち寄り事案全体の処理を行うという国際私法の基本的構造から生 じたという理解に基づいて、 具体的にどのような処理をするべきかについて、 自己の見解を 説得的に論じることが求められる。 〔設問2〕は、 外国裁判所において、 離婚判決の附帯処分としてなされた財産分与を命じ る裁判の承認執行の要件としての、 民事訴訟法第118条第1号のいわゆる間接管轄の判断 についての基礎的理解を問うものである。 まず、 間接管轄の有無は、 承認国である日本の立場から判断される。 次に、 間接管轄がどのような基準で判断されるかについては、 直接管轄の基準と同一でな ければならないとの同一説(いわゆる鏡像理論)と、 必ずしも直接管轄の基準と同一でなく てもよいとの非同一説の対立があるが、 いずれを採用するかについて自己の見解を理由付け して示した上で、 事案に当てはめて結論を導くことが求められる。 ただ、 同一説による場合 のほか、 非同一説によるとしても、 まずは、 日本の直接管轄の基準に準拠して間接管轄の有 無を判断することに変わりはない。 そこで、 離婚の訴えの際の附帯処分としての財産分与に ついては、 人事訴訟法第3条の4第2項により、 家事事件手続法第3条の12に照らして間 接管轄が認められるかを検討することになろう。 同条第1号から第3号までに照らすと間接 管轄は認められないことを示した上で、 同条第4号により間接管轄が認められないかを検討 すること、 あるいは、 非同一説に立つ場合には、 個々の事案における具体的事情に即して間 接管轄が認められるかを検討することが、 本問において間接管轄が認められるか否かの結論 を左右することになろう。 - 40 -