令和6年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨 [憲 法] 次の文章を読んで、 後記の〔設問〕に答えなさい。 山懐に抱かれたA集落(人口約170人、 世帯数約50戸)は、 B市の字(あざ)の一つであ り、 何百年にもわたって集落の氏神を祀(まつ)るC神社を中心に生活が営まれてきた。 A町内会 は、 A集落の住民が自治的に組織した任意団体であり、 地方自治法第260条の2の「認可地縁団 体」(資料参照)であって、 現在の加入率は100パーセントである。 A町内会規約はその目的に 「会員相互の親睦及び福祉の増進を図り、 地域課題の解決等に取り組むことにより、 地域的な共同 生活に資すること」を掲げ、 この目的を達成するための事業として、 @清掃、 美化等の環境整備に 関すること、 A防災、 防火に関すること、 B住民相互の連絡、 広報に関すること、 C集会所の管理 運営に関すること、 Dその他A町内会の目的を達成するために必要なこと、 を挙げている。 A集落では地域の共同事業を住民自ら担ってきた。 A町内会として、 例えば、 生活道路・下水道 の清掃、 ごみ収集所の管理、 B市の「市報」等の配布、 C神社の祭事挙行への協力などを行ってい る。 町内会費は1世帯当たり年額8000円であり、 町内会費からは、 街路灯費やごみ収集所管理 費などに加え、 C神社祭事挙行費を支出している。 祭事挙行費は1世帯当たり年額約1000円で ある。 C神社は宗教法人ではなく、 氏子名簿もない。 かつて火事で鳥居を除いて神社建物が失われたた め、 同所にA町内会が、 御神体を安置した集会所を建設した。 集会所入り口には「A町内会集会 所」「C神社」と並列して表示されている。 集会所は大きな一部屋から成る建物であり、 平素から 人々の交流や憩いの場となっている。 C神社には神職が常駐しておらず、 日々のお祀(まつ)りは 集会所の管理と併せて、 A町内会の役員が持ち回りで行っている。 年2回行われるC神社の祭事で は、 近隣から派遣された宮司が祝詞をあげるなど、 神道方式により神事が行われるほか、 集落に伝 えられてきた文化である伝統舞踊が、 神事の一環として披露される。 祭事の準備・執行・後始末な どを担当しているのは、 A町内会の会員である住民である。 住民の中にはC神社の氏子としての意 識が強い者もいれば弱い者もいるが、 住民のほとんどはC神社の祭事をA集落の重要な年中行事と 認識している。 D教の熱心な信者であるXは、 旅行中にA集落の風景が大変気に入り、 A集落内に定住すること とした。 Xは、 生活道路・下水道の清掃、 ごみ収集所の管理、 B市の「市報」等の配布について は、 日常生活に不可欠であり、 A集落に住む以上はA町内会に加入せざるを得ないと思っている。 しかしC神社の祭事挙行のために町内会費が使われることは、 金額の多寡にかかわらず、 D教徒で あるXとしては、 到底認められない。 そこで、 町内会に加入するに当たり「祭事挙行費を町内会 の予算から支出する慣行をなくしてほしい、 もしそれが無理なら、 祭事挙行費1世帯割合相当の 1000円を差し引いた年額7000円のみを会費として納めたい。 」とA町内会会長に相談を持 ち掛けた。 A町内会総会ではXの提案に対する否定的意見が多く示された。 会員Eは「A町内会は任意の私 的団体なのだから、 私たちが決めたやり方でいいはずだ。 」と言い、 会員Fは「祭事はA集落の重 要な年中行事だ。 集落を支えている町内会の会費から支出しなければ、 集落に伝えられてきた伝統 舞踊も続けられなくなる。 」と発言した。 また、 氏子意識の強い会員Gは「私のような氏子にとっ て、 祭事は信仰に基づく大切な宗教的活動だ。 祭事ができなくなると私の信教の自由はどうなるの か。 」と述べた。 さらに会員Hは「一括して一律に徴収するのが楽である。 一人一人が都合を言い 始めたら話が収まらない。 」と意見を言うなど、 種々様々であった。 そこでA町内会会長は、 知り 合いの法律家に、 憲法上の問題について意見を求めることにした。 〔設問〕 あなたが意見を求められた法律家であるとして、 以下の及びについて、 必要に応じて判例に 触れつつ、 あなた自身の見解を述べなさい。 祭事挙行費を町内会の予算から支出することの可否 祭事挙行費を予算から支出し得るとして、 町内会費8000円を一律に徴収することの可否 【資料】地方自治法(昭和22年法律第67号)(抄録) 第260条の2 町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形 成された団体(以下本条において「地縁による団体」という。 )は、 地域的な共同活動を円滑に行 うため市町村長の認可を受けたときは、 その規約に定める目的の範囲内において、 権利を有し、 義 務を負う。 ABCD E (略) 第一項の認可は、 当該認可を受けた地縁による団体を、 公共団体その他の行政組織の一部とする ことを意味するものと解釈してはならない。 (以下略) (出題の趣旨) 本問は、 団体と団体の構成員をめぐる憲法上の論点に関する問題である。 本問で、 C神社の祭事を、 宗教というよりA集落の伝統と位置付ける住民の存在 はあるが、 C神社は氏神を祀る神社であり、 神事を含めた祭事挙行に関わる宗教性 は否定しえない。 とはいえA町内会は私的団体であり、 政教分離原則(憲法第20 条、 第89条)は直接には関係せず、 私人と私人の間の問題である。 このことを踏 まえた上で、 議論枠組みを設定する必要がある。 その際、 判例としては三菱樹脂事 件(最高裁大法廷判決昭和48年12月12日民集27巻11号1536頁)を意 識することが求められる。 その上で、 A町内会やA町内会とほぼ同一の集団としての氏子集団の活動と、 構 成員である会員(会員となる者も含む。 )の信教の自由(憲法第20条)との問題 を調整することとなるが、 A町内会は実質的に公共的な事務を担っており、 また事 実上の強制加入団体であることにも注意を払う必要がある。 判断枠組みについて、 たとえば国労広島地本事件(最高裁第三小法廷判決昭和5 0年11月28日民集29巻10号1698頁)や、 南九州税理士会事件(最高裁 第三小法廷判決平成8年3月19日民集50巻3号615頁)等の判例を踏まえて 検討することが求められる。 具体的に、 設問で求められている@神社での祭事挙行費の町内会費からの支出、 A町内会会員の信教の自由と協力義務の限界、 を考えるに当たっては、 認可地縁団 体としての目的(地方自治法第260条の2第1項)の範囲内であるか否か、 範囲 内であるとして、 祭事挙行費相当も含む町内会費の一律徴収に応じる協力義務を課 しうるか否かを論ずることになる。 [行政法] Xは、 Y県A市の郊外において多数の農地がまとまって存在する地域(以下「本件地域」とい う。 )内にある土地を所有している(以下、 Xが所有する土地を「甲土地」という。 )。 本件地域 は、 北東から南西に向かって緩やかに下る地形をなしており、 多くは田として利用されている。 X は、 甲土地の北東部分に木造平屋建ての住宅(以下「本件住宅」という。 )を建築してそこで居住 するとともに、 甲土地のその他の部分を畑(以下「本件畑」という。 )として耕作し、 根菜類を栽 培している。 本件畑は、 農業用の用排水路に接続していないものの、 本件地域には、 高い位置にあ る田から低い位置にある田に向かって自然に水が浸透し流下するという性質があるため、 本件畑の 耕作条件は良好であった。 Xは、 本件畑で育てた野菜の販売により収入を得ることによって、 生活 を営んできた。 Bは、 本件地域内に複数の農地を所有しており、 それらの農地の中には、 甲土地の南側に接する 土地(以下「乙土地」という。 )及び西側に接する土地(以下「丙土地」という。 )がある。 B及 び土木建築会社Cは、 乙土地を宅地として売り出すことを計画し、 Cは、 令和5年10月下旬頃か ら乙土地の造成工事(以下「本件造成工事」という。 )に着手した。 本件造成工事は、 乙土地のう ち本件畑に接する部分の地下にコンクリートの基礎を築き、 その上にコンクリート製擁壁を設置し て、 同擁壁の上端まで造成土を入れるというものであった。 同年11月半ば頃には本件造成工事が 完成し、 乙土地の地表面は本件畑の地表面より40センチメートルほど高くなった。 B及びCは、 令和5年11月15日、 乙土地をCの資材置場にするという名目で、 農地法第5条 第1項に基づき、 同法にいう「都道府県知事等」に該当するY県知事に対して、 乙土地にCの賃借 権を設定することの許可を求める旨の申請(以下「本件申請」という。 )をした。 提出された許可 申請書には、 土地造成及び工事の着手時期が令和6年1月10日であることが記載されており、 付 近の土地等の被害を防除する施設については記載がなかった。 本件造成工事によって造成された土 地の面積は、 同申請書に記載された土地造成の所要面積に合致するものであった。 Xは、 令和5年11月20日、 Y県の担当部局に赴き、 本件造成工事によって本件畑の排水に支 障が生じると主張して復旧を求めた。 Y県の担当者Dは、 B及びCに対し、 本件畑の排水に支障を 生じさせないための措置を採ることを指導し、 Bは、 丙土地上に、 本件畑の南西角から西に向かう 水路を設けた。 この水路は、 排水に十分な断面が取られておらず、 勾配も十分なものではなかった が、 Dは、 目視による短時間の確認を行っただけで、 Bが指導に従って措置を採ったと判断した。 Dの報告を受けたY県知事は、 農地法第5条第2項第4号にいう「周辺の農地(中略)に係る営農 条件に支障を生ずるおそれがあると認められる場合」には当たらないと認定して、 令和6年1月9 日、 本件申請を許可する処分(以下「本件処分」という。 )をした。 令和6年5月頃、 本件畑は、 付近の田に入水がされた際に冠水するようになった。 特に本件畑の 南側部分の排水障害は著しく、 同部分では常に水がたまり、 根菜類の栽培ができない状態になって いる。 本件畑の排水を改善するために、 本件畑に盛土をしてかさ上げをする工事を行う場合、 その 費用(以下「本件費用」という。 )は120万円余と見込まれている。 同年6月の時点において、 本件住宅に関する損害は発生していないが、 Xは、 本件住宅の床下が浸水による被害を受けるおそ れもあると考えている。 Xは、 法的措置として、 令和6年6月中に本件処分の取消訴訟(以下「本件訴訟1」という。 ) を提起するとともに、 本件処分によって本件費用相当額の損害が発生したことを理由とする国家賠 償請求訴訟(以下「本件訴訟2」という。 )及びY県知事がCに対して農地法第51条第1項に基 づく原状回復の措置命令をすることを求める義務付け訴訟(以下「本件訴訟3」という。 )を提起 することを検討している。 以上を前提として、 以下の設問に答えなさい。 また、 農地法の抜粋を 【資料】 として掲げるの で、 適宜参照しなさい。 なお、 【資料】に掲げられていない同法の規定については、 考慮しなくて よい。 〔設問1〕 ]は、 本件訴訟1における原告適格についてどのような主張をすべきか、 検討しなさい。 〔設問2〕 Xが本件訴訟1における原告適格を有することを前提として、 以下の各小問に答えなさい。 Xは、 本件訴訟2において、 国家賠償法第1条第1項の「違法」及び「過失」についてど のような主張をすべきか、 検討しなさい。 Xは、 本件訴訟3において、 行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び農地法第51 条第1項の処分の要件が充足されることについてどのような主張をすべきか、 検討しなさ い。 【資料】 〇 農地法(昭和27年法律第229号)(抜粋) (農地又は採草放牧地の権利移動の制限) 第3条 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、 又は(中略)賃借権若しくはその他の使用及 び収益を目的とする権利を設定し、 若しくは移転する場合には、 政令で定めるところにより、 当 事者が農業委員会の許可を受けなければならない。 (以下略) 一〜十六 2〜6 (略) (略) (農地又は採草放牧地の転用のための権利移動の制限) 第5条 農地を農地以外のものにするため(中略)、 これらの土地について第3条第1項本文に掲げ る権利を設定し、 又は移転する場合には、 当事者が都道府県知事等の許可を受けなければならな い。 (以下略) 一〜七 2 (略) 前項の許可は、 次の各号のいずれかに該当する場合には、 することができない。 (以下略) 一〜三 四 (略) 申請に係る農地を農地以外のものにすること(中略)により、 土砂の流出又は崩壊その他の災 害を発生させるおそれがあると認められる場合、 農業用用排水施設の有する機能に支障を及ぼ すおそれがあると認められる場合その他の周辺の農地(中略)に係る営農条件に支障を生ずる おそれがあると認められる場合 五〜八 3〜5 (略) (略) (違反転用に対する処分) 第51条 都道府県知事等は、 (中略)次の各号のいずれかに該当する者(以下この条において「違 反転用者等」という。 )に対して、 土地の農業上の利用の確保及び他の公益並びに関係人の利益 を衡量して特に必要があると認めるときは、 その必要の限度において、 第4条若しくは第5条の 規定によつてした許可を取り消し、 その条件を変更し、 若しくは新たに条件を付し、 又は工事そ の他の行為の停止を命じ、 若しくは相当の期限を定めて原状回復その他違反を是正するため必要 な措置(中略)を講ずべきことを命ずることができる。 一 第4条第1項若しくは第5条第1項の規定に違反した者又はその一般承継人 二、 三 四 2〜5 (略) 偽りその他不正の手段により、 第4条第1項又は第5条第1項の許可を受けた者 (略) (出題の趣旨) 本問は、 農地法第5条第1項の許可がなされたことによって第三者である農家が 農業上の被害を受けたという事実に基づいて、 取消訴訟の原告適格及び義務付け訴 訟に特有の訴訟要件について基本的な理解を試すとともに、 国家賠償法第1条第1 項の違法及び過失並びに個別法の処分要件の充足性について事案に応じて論じるこ とができるかどうかを試す趣旨の問題である。 設問1は、 農地法第5条第1項の許可の取消訴訟における第三者の原告適格を問 うものである。 判例の採用する法律上保護された利益説の立場から、 当該許可に関 する農地法の規定が第三者の利益を個別的利益としても保護する趣旨を有すること を指摘した上で、 原告適格を肯定する論述が求められる。 設問2(1)は、 行政処分によって損害が発生した場合における、 国家賠償法第 1条第1項の違法及び過失に関する主張を問うものである。 本件処分が農地法の規 定に適合しないものであることを指摘し(なお、 職務行為基準説の立場に立って違 法性を認定する場合であっても、 「公権力の行使」である本件処分が法律要件に違 反して行われたということが前提となる。 )、 このことを踏まえた上で国家賠償法 第1条第1項の違法及び過失があるということについて、 自覚的に論じなければな らない。 本問及び設問2(2)では、 設問1における原告適格が認められること、 すなわち本件処分によって農地法上保護された原告の利益が侵害されることを前提 として論述することが求められる。 設問2(2)は、 行政事件訴訟法第37条の2第1項の要件及び農地法第51条 第1項の処分要件の充足を問うものである。 前者に関しては「重大な損害」要件及 び補充性の要件の充足を、 後者に関しては「違反転用者等」該当性及び「土地の農 業上の利用の確保及び他の公益並びに関係人の利益を衡量して特に必要があると認 めるとき」という要件の充足をそれぞれ論じることが求められる。 [民 法] 次の文章を読んで、 後記の〔設問1・〕及び〔設問2・〕に答えなさい。 解答に当たっては、 文中において特定されている日時にかかわらず、 令和6年1月1日現在にお いて施行されている法令に基づいて答えなさい。 なお、 民法以外の法令の適用について検討する必 要はない。 【事実T】 1.Aが機関長として搭乗するタンカー甲は、 令和3年4月1日、 太平洋上で消息を絶った。 令和 4年6月22日、 甲の船体の一部が洋上を漂流しているところを発見され、 調査の結果、 甲は、 令和3年4月1日未明に発生した船舶火災によって沈没したことが明らかになった。 同じ頃、 甲 の乗組員数名の遺体及び所持品の一部が発見されたが、 Aの遺体は含まれていなかった。 2.Aの推定相続人は、 子B及び子Cである。 Aは、 乙土地(時価2000万円相当)を所有して いるが、 そのほかに見るべき財産はない。 3.令和4年6月23日、 Bは、 Aについて管轄の家庭裁判所に失踪の宣告を請求し、 同年8月1 日、 失踪の宣告がされた。 【事実U】 前記【事実T】の1から3までに加えて、 以下の事実があった。 4.Aは、 平成30年4月1日、 以下の内容の自筆証書遺言に係る同日付遺言書(以下「本件遺言 書」という。 )を適法に作成し、 封筒に入れて厳封した上で、 自室の机の引出しに入れておい た。 乙土地をCに相続させる。 前項に記載以外の財産は、 各相続人の法定相続分に従って相続させる。 5.令和4年8月24日、 Bは、 遺産分割協議書等の必要な書類を偽造して、 乙土地について相続 を原因とする自己への所有権移転登記手続をした。 その上で、 Bは、 Dに対して、 同月25 日、 乙土地を代金2000万円で売り渡し、 その旨の登記がされた。 Dは、 現在も乙土地を占有 している。 6.令和4年8月30日、 CがAの部屋を片付けていたところ、 机の引出しから本件遺言書を発見 し、 これを管轄の家庭裁判所に提出して検認を請求し、 同年9月14日、 適法に検認が行われ た。 〔設問1〕 【事実T】及び【事実U】(1から6まで)を前提として、 Cは、 Dに対して、 所有権に基づ き、 乙土地の明渡しを請求した。 Dからの反論にも言及しつつ、 Cの請求が認められるかについて 論じなさい。 【事実V】 前記【事実T】の1から3までに加えて、 以下の事実があった(前記【事実U】の4から6まで は存在しなかったものとする。 )。 7.Aは甲の沈没後に外国漁船によって救出されていたが、 諸般の事情から帰国できないでいた。 Aは、 令和4年8月5日頃、 Bに電話をして無事を伝えたが、 Bは、 Aの滞在する地域の情勢等 から帰国は困難であると判断し、 友人Fに、 Aは生存しているものの帰国は困難であることを伝 え、 その財産の処分について相談したほかは、 この事実を誰にも話さずに秘匿していた。 Aの滞 在する地域は外国との通信が厳しく制限されており、 前記の電話のほかにAの生存を伝えるもの はなかった。 8.令和4年8月24日、 Cは、 適法に相続放棄の申述を行った。 同月25日、 乙土地について、 相続を原因とするAからBへの所有権移転登記がされた。 同年10月20日、 Bは、 Aの生存を 知らない不動産業者Eに対して、 代金2000万円で乙土地を売り渡し、 その旨の登記がされ た。 その際、 Bは、 Eに対して、 「ひょっとしたら1年後くらいに1割増しで買い戻すかもしれ ないので、 その間は他の人に処分しないでほしい。 」と申し向けていた。 9.令和5年6月19日、 Eは、 Fから「Bから乙土地の買戻しの話は聞いていると思うが、 今の ところ、 Bには十分な資金がない。 そこで、 Bと話し合った上で、 私が乙土地を購入することに なった。 」と聞き、 Bにも確認した上で、 Fに対して、 乙土地を代金2200万円で売り渡し、 その旨の登記がされた。 Fは、 現在も乙土地を占有している。 10.Aは、 令和5年6月24日、 住所地に帰来した。 その後、 Aの請求を受けた管轄の家庭裁判所 は、 Aの失踪の宣告を取り消した。 〔設問1〕 【事実T】及び【事実V】(1から3まで及び7から10まで)を前提として、 Aは、 Fに対し て、 所有権に基づき、 乙土地の明渡しを請求した。 Fの反論にも言及しつつ、 Aの請求が認められ るかについて論じなさい。 【事実W】 11.Gは、 令和6年3月1日、 取引関係にあるHに対する500万円の支払債務を弁済する目的 で、 取引銀行であるI銀行に、 500万円の振込依頼をしたが、 その際、 振込先として、 誤っ て、 K銀行のH名義ではなくJ名義の普通預金口座(以下「J名義口座」という。 )を指定して しまった。 K銀行は、 I銀行からの振込依頼を受け、 K銀行のJ名義口座に500万円の入金処 理を行った(以下「本件誤振込み」という。 )。 なお、 Jは、 G及びHとは何ら関係のない人物 である。 12.Gは、 令和6年3月7日、 Hから入金がない旨の連絡を受け、 本件誤振込みに気付いた。 Gは、 直ちにI銀行に連絡し、 J名義口座への振込依頼は誤りであり、 Jとの間に振込みの原 因となる関係はないので、 J名義口座に入金された500万円を戻してほしい旨申し出た。 I銀 行は、 直ちに、 K銀行に返還を求めた。 13.一般に、 銀行実務では、 振込先の口座を誤って振込依頼をした振込依頼人からの申出があれ ば、 受取人の預金口座への入金処理が完了している場合であっても、 受取人の承諾を得て振込依 頼前の状態に戻す、 組戻しという手続が執られている。 14.令和6年3月8日午前10時、 K銀行は、 Jに組戻しの承諾を得ることとし、 K銀行の担当者 がJに電話を架け、 応答したJに対し、 Gからの500万円の振込みについて、 Gは誤振込みで あるとして、 組戻しを求めている旨説明し、 その承諾を求めた。 これに対し、 Jは、 Gから50 0万円を振り込まれる理由は確かにすぐには思い当たらないが、 よく考えたい、 組戻しの承諾を するかどうかについては検討して後日連絡する旨述べた。 しかし、 その後、 Jは、 K銀行に連絡 をすることなく、 K銀行の担当者の問合せにも応じなくなった。 〔設問2〕 【事実W】(11から14まで)を前提として、 Gが、 Jに対して500万円の不当利得の返還を求 めた場合に、 その請求が認められるかについて論じなさい。 なお、 J名義口座からは、 本件誤振込 みの後、 出金は行われていないものとする。 【事実X】 前記【事実W】の11から14までに加えて、 次の事実があった。 15.令和6年3月8日夜、 Jは、 債権者の一人である知人Lに対して、 現金で500万円の弁済を していた。 Lによると、 Jは同日午後8時頃に、 突然Lの自宅を訪れ、 Lに対して負う債務の弁 済が遅れたことをわび、 弁済に充ててほしいと現金500万円を置いていった。 Lが弁済金の出 所を尋ねたところ、 Jは、 自分の銀行口座に誤って振り込まれた金銭である旨を説明した。 Lは 迷ったが、 結局これをJに対して有する債権の弁済として受け取った。 16.K銀行は、 【事実W】14のとおり、 令和6年3月8日午前10時にJに組戻しの承諾を得るべ く連絡をしていたが、 K銀行の担当者は、 J名義口座について取引を一時的に停止するなどの措 置を採ることをしていなかった。 同日午後1時、 Jは、 同口座から現金500万円の払戻しを受 けており、 それにより同口座の残高は0円となっていた。 同口座は、 ここ数年間残高は0円であ って、 本件振込み及びその払戻しを除き、 入出金は行われていなかった。 17.Gは、 Lに対して、 JがLに支払った現金500万円は本件誤振込みにより送金された500 万円を払い戻したものであるとして、 不当利得返還請求権に基づき、 500万円の返還を求め た。 これに対してLは、 @Lの利得はJの一般財産からの弁済であるから、 Gの損失との間には 因果関係がないこと、 ALの利得はJに対する債権の弁済の受領であり、 法律上の原因があるこ とを理由として、 Gの請求を拒絶した。 〔設問2〕 【事実W】及び【事実X】(11から17)までを前提として、 GのLに対する不当利得返還請求が 認められるかについて、 Lの反論@及びAに留意しつつ論じなさい。 (出題の趣旨) 設問1は、 船舶遭難者について失踪宣告がされた事案を題材として、 遺言に反す る相続財産の処分が行われた場合の権利関係、 失踪宣告後取消前に行われた取引行 為の効力について問う問題である。 設問1(1)では、 失踪宣告の法的効果、 「相 続させる」遺言の法的性格等についての理解を前提として、 法定相続分を超える部 分については登記がなければ第三者に対抗することができないとの規律(民法第8 99条の2第1項)に即して論述するとともに、 土地の共有者間における明渡請求 の可否について検討することが求められる。 設問1(2)では、 失踪宣告後取消前 に「善意でした行為」(同法第32条第1項後段)の効力について、 その解釈を示 した上で、 いわば「わら人形」として善意者が介在させられた可能性があることな どの事実に即して論述することが求められる。 設問2は、 銀行口座へ誤振込みがされた事案を題材として、 三当事者間における 不当利得の法律関係について問う問題である。 設問2(1)では、 振込依頼人から の受取人に対する不当利得返還請求の可否について、 誤振込みによっても預金債権 が成立すること、 受取人が預金債権を行使することができるか否かが問題となるこ となどを踏まえて論じることが求められる。 設問2(2)では、 誤振込金が振り込 まれた銀行口座から受取人が金銭を引き出し、 これをその債権者に対する弁済に充 てた場合において、 振込依頼人からの当該債権者に対する不当利得返還請求が認め られるかについて、 いわゆる騙取金による弁済に関する判例(最判昭和49年9月 26日民集28巻6号1243頁)の考え方を参照するなどして論じることが求め られる。 [商 法] 次の文章を読んで、 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 1.甲株式会社(以下「甲社」という。 )は、 住宅用インテリアの企画、 製造、 販売等を業とする大 会社でない取締役会設置会社であり、 会計監査人設置会社でない監査役設置会社である。 甲社の定 款には、 その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について取締役会の承認 を要すること、 定時株主総会の議決権の基準日は毎年12月31日とすること、 事業年度は毎年1 月1日から12月31日までの1年とすることが定められている。 甲社の発行済株式の総数は10 00株であり、 令和5年12月31日の株主名簿によれば、 創業者であるAが500株を、 BとC が150株ずつを、 Aの親族であるDとEが100株ずつを、 それぞれ保有していた。 甲社の創業 以来、 Aが代表取締役を、 BとCが取締役を、 Fが監査役を、 それぞれ務め、 DとEは甲社の日常 の経営に関わっていない。 2.Dは、 令和6年2月頃、 その保有する甲社の株式の全部(以下「本件株式」という。 )を売却し て家計の足しにしたいとAに相談した。 Aは、 甲社が同年3月31日に本件株式を1株当たり1 0万円(総額1000万円)で買い取ることとし、 同月開催予定の甲社の定時株主総会におい て、 そのことを取り上げるとDに約束した。 3.甲社は、 会社法上必要な手続を経て、 令和6年3月31日に、 Dから、 本件株式を総額1000 万円で買い取った。 その過程で、 Aは、 同月に開催された甲社の定時株主総会において、 「本総 会において適法に確定した計算書類に基づいて計算したところ、 令和6年3月31日における分 配可能額は1200万円以上あり、 甲社が本件株式を買い取ることに問題はない。 」と説明し、 甲社による本件株式の取得の承認を受けた。 4.ところが、 令和6年7月になって、 甲社の預金口座の記録を照会していたBが上記3の計算書類 の基礎となった令和5年中の会計帳簿に過誤があったことを偶然発見した。 当該過誤は、 甲社に おいて会計帳簿をほぼ単独で作成していた経理担当従業員Gが、 一部の取引について会計帳簿へ の記載を失念したために発生したものであった。 Fによる会計監査は、 例年、 会計帳簿が適正に 作成されたことを前提として計算書類と会計帳簿の内容の照合を行うのみであったため、 会計監 査では当該過誤が発見されず、 上記3の定時株主総会においても、 Fは疑義を述べなかった。 A は、 甲社の経理及び財務を担当しており、 計算書類の作成と分配可能額の計算も自分で行ってい たが、 その基礎となる会計帳簿の作成については直属の部下であるGに任せきりにして関与して おらず、 Gによる一部の取引についての会計帳簿への記載の失念に気付かなかった。 当該過誤を 修正したところ、 令和6年3月31日における分配可能額は800万円であった。 〔設問1〕 上記1から4までを前提として、 次の及びに答えなさい。 なお、 本件株式の取得価格は適正 な金額であったものとする。 甲社による本件株式の買取りは有効かについて、 論じなさい。 甲社による本件株式の買取りに関して、 A、 D及びFは、 甲社に対し、 会社法上どのような責 任を負うかについて、 論じなさい。 下記5以下においては、 上記2から4までの事実は存在しないことを前提として、 〔設問2〕に 答えなさい。 5.Aは、 令和6年5月頃、 とある同族企業の社長から、 親族である株主が死亡するたびに株式が多 数の相続人に分散したために会社の管理が厄介になったという話を聞いて心配になり、 全ての甲社 の株式を自分の手元で保有したいと考えるようになった。 AがB、 C、 D及びEに個別に相談した ところ、 B、 C及びDは対価次第で甲社の株式の売却に応じると回答したが、 Eは「長年にわたり 株主であった自分を、 さしたる理由もなく甲社から排除しようというのか。 」と不満を強く述べ、 売却を固く拒否した。 6.Aは、 旧知の税理士Hに甲社の株式の評価額の算定を依頼し、 「1株当たり6万円から10万円 までの範囲が甲社の株式の適正な評価額である。 」との意見を得た。 そこで、 Aは、 令和6年7月 31日までに、 甲社の取締役会の承認を受け、 B、 C及びDから、 その保有する甲社の株式を1株 当たり10万円で適法に取得し、 当該株式について、 株主名簿の名義書換が行われた。 他方、 A は、 同年8月以降、 Eに対し、 特別支配株主の株式等売渡請求(以下「本件売渡請求」という。 ) をすることとし、 甲社に対し、 その旨及び株式売渡対価を1株当たり6万円、 取得日を同年9月2 0日とすることなどの会社法所定の事項を通知し、 同年8月20日開催の甲社の取締役会におい て、 その承認を受けた。 甲社は、 同月27日に、 会社法所定の事項をEに通知し、 また、 本件売渡 請求に関する事項を記載した会社法所定の書面を甲社本店に備え置いた。 その通知を受けたEは、 Aの都合で一方的に甲社から排除されることに不満を強く抱き、 さらに、 B、 C及びDからの株式 の取得の事実を知り、 その取得価格が本件売渡請求における株式売渡対価の額と異なることに対し て不満を一層強めた。 〔設問2〕 令和6年9月2日時点において、 Eの立場において会社法上どのような手段を採ることが考えら れるかについて、 論じなさい。 (出題の趣旨) 設問1(1)は財源規制違反の自己株式取得の効力を問うものである。 有効説、 無効説のいずれも有力に主張されており、 いずれの考え方に立ってもよいが、 それ ぞれの考え方について論拠を示していることが求められる。 設問1(2)は財源規制違反が発生したことに対する責任を問うものである。 代 表取締役Aと株主Dについては会社法第462条第1項の責任を、 Aと監査役Fに ついては任務懈怠責任(同法第423条第1項)を検討することが望まれる。 同法 第462条第1項の責任に関しては、 Dについては「当該行為により金銭等の交付 を受けた者」として無過失責任を負うが、 Aについては「業務執行者」としてその 職務を怠ったものといえるか、 また、 AとFの任務懈怠責任に関しても、 財源規制 違反が発生するに至った会計帳簿及び計算書類の過誤、 その監査の不備等について 論じる必要がある。 なお、 大会社でない会社の会計限定監査役の任務懈怠に関する 最判令和3年7月19日集民266号157頁も参照されたい。 あわせて、 AとF の任務懈怠責任を検討する上では、 賠償する責任を負う損害の額をどのように考え るかについても言及していることが望ましい。 設問2は、 特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条以下)の手続の過 程において、 効力発生前の段階で、 売渡株主が採ることのできる救済手段を問うも のである。 売買価格決定の申立て(同法第179条の8)及び差止請求(同法第1 79条の7)について説明する必要がある。 差止めに関して、 価格の不当性や締出し目的(正当な事業目的がないこと)が差 止事由に該当するかを論じることになる。 価格に関しては、 Aが準備した第三者に よる適正な評価額の範囲内にある価格について「著しく不当」といえるかを認定す ることが求められる。 締出し目的での株式等売渡請求が差止事由に該当するかに関 しては、 その法律構成と実質的な評価を説得的に論じられるかが問われる。 なお、 東京地判平成22年9月6日判タ1334号117頁(全部取得条項付種類株 式)、 札幌地判令和3年6月11日金判1624号24頁(株式併合)を参照され たい。 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は、 1:1) 次の文章を読んで、 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例】 Xは、 伝統工芸品の製作を手掛けている芸術家である。 Yは、 Xの製作活動を支援しており、 Aを代 理人として、 Xの工芸品を頻繁に購入していた。 Xは、 新作の工芸品が完成した旨をAに伝えたところ、 Yが300万円で購入を希望しているとAか ら聞いた。 そこで、 Xは、 いつものようにAを通じて、 新作の工芸品を300万円でYに売り渡した (以下、 この契約を「本件契約」といい、 本件契約の売買代金を「本件代金」という。 )。 しかし、 本 件代金が支払われないので、 XがYに事情を直接聞いたところ、 Yは、 Xに対し、 Aから新作の工芸品 の話など聞いたことはなく、 Aにその購入を依頼した覚えもないことから、 本件代金を支払うつもりは ないと答えた。 また、 Yは、 Xに対し、 現在、 Aとは連絡が取れなくなっていることも伝えた。 その 後、 Xは、 弁護士L1を訴訟代理人として、 Yに対し、 本件代金300万円の支払を求める訴えを提起 した(以下「本件訴訟」という。 )。 これに対して、 Yは、 弁護士L2を訴訟代理人として本件訴訟に 応訴し、 XY間の本件契約の成立を争った。 弁論準備手続における争点整理の結果、 本件訴訟において は、 本件契約における代理権の授与の有無及び表見代理の成否が主要な争点となった。 〔設問1〕 弁論準備手続終結後の人証調べは、 前記の争点について行われた。 結審が予定されていたその後の口 頭弁論期日において、 L2は、 YがXに対して有する貸金債権300万円(弁済期は本件訴訟の提起前 に既に到来していた。 )を自働債権とし、 本件代金に係る債権を受働債権として、 対当額で相殺する旨 の相殺の抗弁を新たに主張した。 L1がL2に対して、 相殺の抗弁を弁論準備手続の終結前に主張する ことができなかった理由について説明を求めたところ、 L2は、 「相殺の抗弁は自己の債権を犠牲にす るものであるから、 初めから主張する必要はないと考えていた。 」と述べるとともに、 「相殺権の行使 時期には法律上特段の制約がなく、 判例によれば、 基準時後に相殺権を行使したことを請求異議の訴え の異議事由とすることも許容されている以上、 弁論準備手続の終結後に相殺の抗弁を主張することも許 容されるべきである。 」と述べた。 L1は、 本件訴訟の開始前から相殺適状になっており、 仮定的抗弁 として主張することができたにもかかわらず、 それをしなかった理由について更に説明を求めたが、 L 2からは前記の説明以上の具体的な説明はされなかった。 そこで、 L1は、 相殺の抗弁は時機に後れた 攻撃防御方法に当たるとして、 その却下を求めた。 この場合において、 裁判所は相殺の抗弁を却下すべきかについて、 検討しなさい。 〔設問2〕(〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。 ) 主要な争点が明らかになったため、 Xは、 Aに訴訟告知をした。 しかし、 Aは、 本件訴訟に参加しな かった。 その後、 本件訴訟では、 弁論準備手続が終結し、 人証調べが行われた。 その結果、 YはAに代 理権を授与しておらず、 また、 表見代理の成立は認められないことを理由として、 Xの請求を棄却する との判決がされた(以下「前訴判決」という。 )。 前訴判決の確定後、 Xは、 Aは無権代理人としての責任を負うとして、 Aに対して本件代金300万 円の支払を求める訴えを提起した(以下「後訴」という。 )。 これに対して、 Aは、 応訴し、 AはYか ら代理権を授与されていたと主張した。 Xは、 上記のようなAの主張は訴訟告知の効果によって排斥されるべきであると考えている。 Xの立 場から、 Aの主張を排斥する立論を、 判例を踏まえて、 展開しなさい。 なお、 解答に当たっては、 Aが 補助参加の利益を有していたことを前提として論じなさい。 (出題の趣旨) 〔設問1〕は、 民事訴訟法(以下「法」という。 )第157条第1項の「時機に 後れた攻撃防御方法の却下」についての問題である。 法第157条第1項の要件と その適用に関する理解を、 具体的な事例を通して問うものである。 〔設問1〕では、 法第157条第1項が定める@時機に後れた、 A故意又は重過 失、 B訴訟の完結の遅延の各要件についての基本的な理解と事例に即した分析及び 検討が求められている。 つまり、 条文の基本的な理解を基に、 事例において問題と なっている攻撃防御方法が相殺の抗弁であること、 また、 この相殺の抗弁が争点整 理手続(弁論準備手続)の終了後に提出されたものであり、 争点整理手続の終了前 に提出することができなかった理由の説明を求められている(法第174条、 第1 67条)ことなどを踏まえて、 これらが法第157条第1項のどの要件と関連して くるのかを検討し、 その適用の有無について論理的かつ説得的な結論を導くことが 期待されている。 〔設問2〕は、 訴訟告知の効果に関する問題である。 訴訟告知を受けたものの補 助参加をしなかった者に対するその効果についての理解を、 具体的な事例を通して 問うものである。 つまり、 〔設問2〕では、 まず、 法第53条第4項により法第46条の規定の適 用があることから、 法第46条に規定する補助参加人に対する裁判の効力が訴訟告 知によって被告知者に及ぶ要件の検討が求められる。 その検討の際には、 補助参加 人に対する裁判の効力について、 判例・通説は共同の訴訟追行を基礎とする参加的 効力と解するが、 これに基づく場合には、 その参加的効力の内容及び補助参加をし ていない被告知者に参加的効力を及ぼすことを正当化する根拠についても検討する ことが必要になろう。 その上で、 告知者と被告知者との関係性を踏まえて、 訴訟告知による参加的効力 が生ずるとする場合には、 参加的効力の及ぶ客観的範囲を具体的に明らかにした上 で、 後訴におけるAの主張が排斥されるかを論ずることが求められている。 その際 には、 判例(最判平成14年1月22日判時1776号67頁)の理解を踏まえ て、 事例に即した丁寧な論述をすることが期待されている。 なお、 補助参加人に対する裁判の効力につき判例・通説の立場をとらない場合 も、 その理由及び事例に関する論述が論理的か否かが評価される。 [刑 法] 以下の事例に基づき、 甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。 )。 1 甲(20歳、 男性)は、 自宅から道のり約1キロメートルにあるX駅構内の居酒屋において、 某年7月1日午後7時から友人乙(20歳、 男性)と飲食する約束をしていたため、 同日午後6 時40分頃、 自宅を出発した。 2 甲は、 X駅に向かって人通りの少ない路上を歩いていたところ、 同日午後6時45分頃、 甲の 約10メートル前を歩いていたA(30歳、 男性)がズボンの後ろポケットから携帯電話機を取 り出した際、 同ポケットに入れていたコインケース(縦横の長さがそれぞれ約10センチメート ルのもの。 以下「本件ケース」という。 )を路上(以下「第1現場」という。 )に落としたこと に気付いた。 Aは、 同日午後6時40分頃、 仕事を終え、 自己の携帯電話機及び本件ケースをズボンの後ろ ポケットに入れて勤務先を出発し、 X駅に向かっていたが、 急いでいたため本件ケースを落とし たことに気付かなかった。 甲は、 本件ケースが自己の好みのものであったため、 このままAが気付かなければ、 本件ケー スを自己のものにしようと考え、 第1現場にとどまってAの様子を注視していたところ、 Aが第 1現場の先にある交差点を右折し、 同交差点付近の建物によりAの姿が隠れて見えなくなったこ とを確認した。 そのため、 甲は、 本件ケースを拾い上げて自己のズボンのポケットに入れ、 再びX駅に向かっ た。 甲が本件ケースを拾い上げたのは、 Aが本件ケースを落としてから約1分後であった。 Aは、 甲が本件ケースを拾い上げた時点で、 第1現場から道のり約100メートルの地点にお り、 同地点と第1現場との間には建物があるため相互に見通すことができなかったが、 同地点か ら上記交差点方向に約20メートル戻れば第1現場を見通すことができた。 Aは、 同日午後6時55分頃、 第1現場から道のり約700メートルのX駅に到着し、 間もな く本件ケースを落としたことに気付き、 勤務先からX駅までの道中で落としたのではないかと考 えて、 本件ケースを探しながらX駅から第1現場を経由して勤務先まで戻ったが、 本件ケースが 見当たらなかったため、 本件ケースを紛失した旨を警察官に届け出た。 3 甲は、 上記居酒屋に徒歩で向かったところ、 X駅まで道のり約500メートルのコンビニエン スストア(以下「本件店舗」という。 )前の歩道(以下「第2現場」という。 )において、 ガー ドレールに沿って駐輪された3台の自転車のうちの1台(以下「本件自転車」という。 )が新品 に近い状態である上に無施錠であることに気付いた。 本件店舗には専用の自転車置場がなかったが、 第2現場は、 自転車が駐輪できる相当程度のス ペースがあり、 事実上、 本件店舗を含む付近店舗利用客の自転車置場として使用されていた。 本件自転車の所有者B(25歳、 男性)は、 本件店舗を利用してからX駅構内にある書店に立 ち寄って参考書を購入したいと考えていたものの、 X駅付近にある有料自転車置場の料金を支払 うことが惜しくなった。 そのため、 Bは、 第2現場に本件自転車を駐輪したまま徒歩で上記書店に行き、 同日午後8時 頃には本件自転車を取りに戻ろうと考え、 同日午後6時15分頃、 本件自転車を第2現場に駐輪 した。 その際、 Bは、 本件自転車の施錠を失念した。 Bは、 本件店舗に立ち寄った後、 同日午後 6時20分頃、 第2現場に本件自転車を駐輪したまま上記書店に向かった。 甲は、 本件自転車が本件店舗を含む付近店舗の利用客が駐輪したものであると考えたが、 上記 居酒屋まで歩くことが面倒になり、 本件自転車を足代わりにして乗り捨てようと考え、 同日午後 6時50分頃、 本件自転車を持ち去った。 Bは、 甲が本件自転車を持ち去った時点で上記書店におり、 同日午後8時頃、 第2現場に戻っ たが、 本件自転車が見当たらなかったため、 本件自転車が盗まれたと考え、 その旨を警察官に届 け出た。 4 甲は、 上記居酒屋に向かっていた際、 自己の携帯電話機を操作しながら本件自転車を運転して いたため、 甲の前方を歩いていたC(30歳、 男性)の存在に気付かず、 Cに接触しそうになっ た。 甲は、 Cから「気を付けろよ。 」と注意されたことで逆上し、 本件自転車から降り、 同日午 後6時55分頃、 Cの顔面を拳で数回殴った上、 Cの腹部を足で数回蹴った。 甲は、 ちょうどその場に乙が通り掛かったことから、 乙に対し、 「こいつが俺に説教してきた から痛め付けてやった。 お前も一緒に痛め付けてくれ。 」と言った。 乙は、 Cの顔面が腫れていた上、 Cがうなだれて意気消沈している様子であったことから、 甲 の言うとおり、 甲がCに暴行を加えたと認識した。 乙は、 勤務先から解雇されたばかりでストレスがたまっていた上、 Cが逃げたり抵抗したりす る様子がなかったことから、 この状況を積極的に利用してCに暴行を加え、 ストレスを解消した いと考え、 甲に対し、 「分かった。 やってやる。 」と言って、 同日午後7時頃、 Cの頭部を拳で 数回殴った上、 Cの腹部を足で数回蹴った。 甲は、 乙がCに暴行を加えている間、 その様子を間近で見ていたが、 乙と共にCに暴行を加え ることはなかった。 甲及び乙は、 気が済んだため、 その場にCを残し、 本件自転車を乗り捨てて上記居酒屋に徒 歩で向かった。 Cは、 甲から顔面を殴られたことにより全治約1週間を要する顔面打撲の傷害を負った。 Cは、 乙から頭部を殴られたことにより全治約2週間を要する頭部打撲の傷害を負った。 Cは、 全治約1か月間を要する肋骨骨折の傷害を負ったが、 同傷害は、 甲がCの腹部を蹴った 暴行から生じたのか、 乙がCの腹部を蹴った暴行から生じたのかは不明であったものの、 甲の同 暴行及び乙の同暴行は、 いずれも同傷害を生じさせ得る危険性があった。 (出題の趣旨) 本事例前段は、 甲が路上を歩いていた際、 前方を歩いていたAが落としたコイン ケースを拾い上げて領得した上、 コンビニエンスストア前の歩道にBが駐輪した自 転車を乗り去って領得した事例について、 甲の罪責に関する論述を求めるものであ る。 各領得行為の時点でA及びBそれぞれに各財物に対する占有が認められれば、 甲に窃盗罪が成立し得るため、 占有の有無に関する判断基準を示した上で、 事実関 係を的確に分析してA及びBそれぞれの占有の有無を検討する必要がある。 その上 で窃盗罪又は占有離脱物横領罪の成否を論じることになろう。 本事例後段は、 甲がCに暴行を加えたことによりCに顔面打撲の傷害を負わせ、 甲と暴行の共謀を遂げた乙がCに暴行を加えたことによりCに頭部打撲の傷害を負 わせ、 さらに、 同共謀前に甲が加えた暴行又は同共謀を遂げた乙が加えた暴行によ りCに肋骨骨折の傷害を負わせた事例について、 甲及び乙の罪責に関する論述を求 めるものである。 その際、 共謀の前後における甲及び乙それぞれの行為と各傷害結 果との関係について的確に分析した上で、 甲については各傷害結果が帰属されるこ とについて検討する必要がある。 乙については承継的共同正犯の成否を検討する必 要があり、 承継的共同正犯を否定した場合には中途共謀事案における刑法第207 条(同時傷害の特例)の適用の可否について検討する必要がある。 [刑事訴訟法] 次の【事例】を読んで、 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。 【事例】 1 令和6年2月2日午後10時頃、 A(30歳代、 女性)は、 H県I市J町内を歩いていたとこ ろ、 背後から黒色の軽自動車に衝突された。 Aが路上に転倒すると、 すぐに同車から男性が降りて きて、 「大丈夫ですか。 」と声を掛けながらAに歩み寄り、 立ち上がろうとしたAの顔面を拳で1 回殴り、 Aが手に持っていたハンドバッグを奪い取った上で、 直ちに同車に乗り込んでその場から 逃走した(以上の事件を、 以下【事件@】という。 )。 このとき、 Aは、 同車のナンバーを目視し た。 2 同日午後11時頃、 B(50歳代、 男性)は、 同市K町内を歩いていたところ、 背後から黒色の 軽自動車に衝突された。 Bが路上に転倒すると、 すぐに同車から男性が降りてきて、 「怪我はあり ませんか。 」と声を掛けながらBに歩み寄り、 倒れたままのBが手に持っていたセカンドバッグに 手を掛けたが、 付近にいた通行人Xと目が合うと同バッグから手を離し、 直ちに同車に乗り込んで その場から逃走した(以上の事件を、 以下【事件A】という。 )。 このとき、 B及びXは、 同車の ナンバーを目視することができなかった。 なお、 【事件@】と【事件A】の現場は、 約3キロメートル離れていたが、 いずれも、 一戸建て の民家が建ち並ぶ住宅街で、 夜間は交通量及び人通りが少ない場所であった。 3 同日以降、 【事件@】の犯行に使用された車のナンバーに合致する軽自動車の名義人であった甲 に対する捜査が開始され、 所要の捜査の結果、 甲は、 【事件@】については強盗罪、 【事件A】に ついては強盗未遂罪により起訴された。 4 公判において、 甲及び甲の弁護人は、 【事件@】については争わず、 金品を奪取する目的でAに 軽自動車を衝突させたことなどを認め、 裁判所は、 証拠調べの結果、 【事件@】について、 甲に強 盗罪が成立するとの心証を得た。 〔設問1〕 甲及び甲の弁護人は、 【事件A】について、 甲が犯人であることを否認したとする。 その場合、 甲 が【事件@】の犯人であることを、 【事件A】の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用 いることができるかについて論じなさい。 〔設問2〕 甲及び甲の弁護人は、 【事件A】について、 甲が軽自動車をBに衝突させたことは争わず、 金品奪 取の目的を否認したとする。 その場合、 【事件@】で甲が金品奪取の目的を有していたことを、 【事 件A】で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができるかについて論 じなさい。 (出題の趣旨) 本問は、 夜間の住宅街で発生した通行人を被害者とする強盗事件と、 その約1時 間後に同事件の現場から約3キロメートル離れた住宅街で発生した通行人を被害者 とする強盗未遂事件を通じて、 類似事実による犯人性立証の可否(設問1)や、 類似 事実による犯罪の主観的要素の立証の可否(設問2)といった刑事訴訟法の基本的 学識の有無や関連する裁判例の理解を問うとともに、 具体的事案に対する応用力を 問う問題である。 [民 事] 司法試験予備試験用法文を適宜参照して、 以下の各設問に答えなさい。 ただし、 XのYに対す る金銭債権に係る請求については検討する必要がない。 以下の設問中に「別紙」において定義した略語を用いることがある。 〔設問1〕 別紙1【Xの相談内容】は、 弁護士PがXから受けた相談内容を記載したものである。 弁護士 Pは、 令和6年7月5日、 別紙1【Xの相談内容】を前提に、 Xの訴訟代理人として、 Yに対し、 本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求める訴訟(以下「本件訴訟」という。 )を提起すること とし、 本件訴訟における訴状(以下「本件訴状」という。 )を作成し、 裁判所に提出した。 これに対し、 弁護士Qは、 本件訴状の送達を受けたY(代表取締役A)から別紙1【Y(代表 取締役A)の相談内容】のとおり相談を受け、 Yの訴訟代理人として本件訴訟を追行することにし た。 以上を前提に、 以下の各問いに答えなさい。 弁護士Pが、 本件訴訟において、 選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。 弁護士Pが、 本件訴状において記載すべき請求の趣旨(民事訴訟法第134条第2項第2号) を記載しなさい。 なお、 付随的申立てについては、 考慮する必要がない。 弁護士Pが、 本件訴状において記載すべき請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1 項。 以下同じ。 )を記載しなさい。 解答に当たっては、 本件訴訟において、 Yが、 別紙1【Y (代表取締役A)の相談内容】に沿って認否することを前提とすること。 なお、 いわゆるよっ て書き(請求原因の最後のまとめとして、 訴訟物を明示するとともに、 請求の趣旨と請求原因 の記載との結びつきを明らかにするもの)は記載しないこと。 弁護士Qは、 別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】(a)を前提に、 本件訴訟の答弁書 (以下「本件答弁書」という。 )を作成した。 弁護士Qが本件答弁書において抗弁として記載 すべき具体的事実を記載しなさい。 〔設問2〕 第1回口頭弁論期日において、 本件訴状及び本件答弁書が陳述され、 弁護士P及び弁護士Q は、 それぞれ、 次回期日である第1回弁論準備手続期日までに準備書面を作成することとなった。 弁護士Pは、 別紙1【Xの相談内容】の下線部の(@)及び(A)の各言い分について、 再抗 弁として主張すべきか否かを検討している。 弁護士Pが、 上記(@)及び(A)の各言い分に ついて、 それぞれ、 @再抗弁として主張すべきか否かの結論を記載するとともに、 A(a)再 抗弁として主張すべき場合には、 再抗弁を構成する具体的事実を記載し、 (b)再抗弁として 主張しない場合には、 その理由を説明しなさい。 弁護士Qは、 弁護士Pから再抗弁を記載した準備書面(以下「原告準備書面」という。 )が提 出されたことを受けて、 別紙1【Y(代表取締役A)の相談内容】(b)を前提に、 以下のよ うな再々抗弁を記載した準備書面(以下「被告準備書面」という。 )を作成した。 (ア) Aは、 Xに対し、 令和4年11月9日、 アンティーク腕時計(本件商品)を代金20 0万円で売った。 (イ) 〔 〕 (ウ) Aは、 Xに対し、 令和6年3月20日、 (ア)の代金債権をもって、 本件延滞賃料と 対当額で相殺する旨の意思表示をした。 @上記〔 〕に入る具体的事実を記載するとともに、 Aその事実を主張した理由を簡潔 に説明しなさい。 〔設問3〕 第1回弁論準備手続期日において、 原告準備書面及び被告準備書面が陳述され、 弁護士Pは、 次回期日である第2回弁論準備手続期日までに準備書面を作成することとなった。 その後、 弁護士Pは、 Xから更に別紙1【Xからの聴取内容】のとおりの事情を聴取した。 これを前提に、 以下の各問いに答えなさい。 弁護士Pは、 別紙1【Xからの聴取内容】を前提に、 被告準備書面の再々抗弁に対し、 再々々 抗弁として、 以下の各事実を主張することにした。 (あ) Xが、 Aに対し、 令和5年3月23日、 代金200万円とした本件商品の代金額につ き、 50万円とするよう申し入れ、 XとAとの間で上記代金額につき争いがあった。 (い) XとAは、 上記(あ)につき互いに譲歩し、 令和5年4月10日、 本件商品の売買代 金債権総額を100万円に減額する旨の和解をした。 (う) 〔 @上記〔 〕 〕に入る具体的事実を記載するとともに、 A上記(あ)及び(い)の事実に 加えて、 上記(う)の事実を主張すべきと考えた理由につき、 和解契約の法律効果について触 れた上で、 簡潔に説明しなさい。 第2回弁論準備手続期日において、 弁護士Pは、 上記のとおり再々々抗弁を記載した準備書 面を陳述し、 弁護士Qは、 再々々抗弁事実のうち上記(い)の事実(以下「本件事実」とい う。 )につき「否認する。 X主張の和解合意をした事実はない。 」と述べた。 同期日において、 弁護士Pは、 本件事実を立証するため、 別紙2の和解合意書(以下「本件 合意書」という。 )を提出し、 書証として取り調べられた。 これに対し、 弁護士Qは、 本件合 意書のうちA作成部分の成立の真正について「否認する」との陳述をした。 (@) 裁判所は、 本件合意書のA作成部分の成立の真正について判断するに当たり、 弁護士 Qにどのような事項を確認すべきか。 @結論を答えた上で、 Aその理由を簡潔に説明し なさい。 (A) 弁護士Pは、 本件事実を立証するに当たり、 今後どのような訴訟活動をすることが考 えられるか。 証拠構造や本証・反証の別を意識し、 上記(@)で裁判所が確認した事項 に対する弁護士Qの回答により場合分けした上で簡潔に説明しなさい。 〔設問4〕 仮に、 本件訴訟の口頭弁論が令和6年11月5日に終結し、 同年12月3日、 Xの請求を全部 認容する判決が言い渡され、 その後、 同判決が確定したとする(以下、 この確定した判決を「本件 確定判決」という。 )。 しかし、 Yが本件建物の収去及び本件土地の明渡しをしないため、 Xが、 本件確定判決に基づき、 強制執行の申立てをしようとしたところ、 本件建物の所有権が同年10月 14日にYからZに移転していたことが判明したとする。 この場合、 @Xが強制執行を申し立てるに当たって、 どのような不都合が生じるか、 Aその不 都合を防ぐために、 Xがあらかじめ採るべきであった法的手段は何か、 それぞれ簡潔に説明しなさ い。 (別紙1) 【Xの相談内容】 「私は、 令和2年7月1日、 Aに対し、 店舗用建物を所有する目的で、 私所有の土地(以下「本 件土地」という。 )を、 賃料月額10万円、 毎月末日に翌月分払い、 期間30年間の約束で賃貸し ました(以下「本件賃貸借契約」という。 )。 Aは、 令和2年8月中には、 本件土地上に店舗用建物(以下「本件建物」という。 )を建て て、 本件建物で高級腕時計の販売を始めました。 Aは、 令和5年3月17日、 本件建物の所有権を 現物出資し、 時計等の販売を目的とする株式会社Yを設立して自ら代表取締役に就任し、 同日、 Y に対し、 本件建物の所有権移転登記をしました。 そして、 Aは、 私が承諾していないにもかかわら ず、 同日、 Yに対し、 本件土地を賃貸しました(以下「本件転貸借契約」という。 )。 以後、 Yが 本件建物を店舗として利用しています。 私は、 Aに対し、 本件転貸借契約について抗議するつもり でしたが、 同年5月10日、 Aは脳梗塞で倒れて入院してしまい、 それ以降、 賃料が支払われなく なりました。 私は、 Aの体調が回復したことから、 Aに対し、 令和6年3月7日、 令和5年6月分から令和 6年3月分までの10か月分の延滞賃料100万円(以下「本件延滞賃料」という。 )の支払を2 週間以内にするように求めましたが、 Aは支払おうとしません。 私は、 本件延滞賃料に関するAとの話合いは諦め、 Aに対し、 令和6年3月31日到達の内容 証明郵便をもって、 (@)賃料不払を理由として本件賃貸借契約を解除するとともに、 (A)本件 土地の無断転貸を理由として本件賃貸借契約を解除しました。 Yは、 何ら正当な権原がなく本件建 物を所有して本件土地を占有していますので、 Yに対し、 本件建物の収去及び本件土地の明渡しを 求めたいと思います。 」 【Y(代表取締役A)の相談内容】 「(a)Xは、 令和2年7月1日、 私(A)に対し、 店舗用建物を所有する目的で、 本件土地を 賃料月額10万円、 毎月末日に翌月分払い、 期間30年間の約束で賃貸して(本件賃貸借契約)、 これに基づいて本件土地を引き渡しました。 その後、 私(A)は、 令和2年8月に本件土地上に本 件建物を建て、 同所で腕時計販売店を経営していましたが、 令和5年3月17日、 本件建物の所有 権を現物出資して、 時計等の販売を目的とする当社(Y)を設立するとともに、 同日、 当社(Y) に対し、 賃貸期間の定めなく、 賃料月額10万円で本件土地を賃貸し(本件転貸借契約)、 これに 基づいて本件土地を引き渡しました。 しかし、 Xは、 令和6年3月31日到達の内容証明郵便で本 件賃貸借契約を解除すると伝えてきました。 Xは、 本件賃貸借契約の解除の理由として、 私(A) から当社(Y)への本件土地の無断転貸を挙げていますが、 個人で腕時計販売店をしていた私 (A)が、 全額を出資し、 腕時計販売を目的とする当社(Y)を設立して、 自ら代表取締役に就任 したものであり、 当社(Y)には他の役員や従業員はおらず、 本件建物は引き続き腕時計販売店と して使用し、 私(A)一人で営業に当たっていたのですから、 Xには何も迷惑をかけていません。 Xが本件土地を所有していることや、 当社(Y)が本件建物を所有していることは事実ですが、 上 記の解除の主張は不当であり、 当社(Y)はXに本件土地を明け渡す義務はないと思います。 (b)また、 私(A)は、 Xに対し、 令和4年11月9日、 アンティーク腕時計(以下「本件商 品」という。 )を代金200万円とし、 うち100万円を契約日に支払い、 残りの100万円は令 和5年5月9日限り私(A)の口座に振り込んで支払う約束で売り、 契約日に本件商品を引き渡し ました。 しかし、 Xは契約日に100万円を支払ったものの、 残りの代金100万円の支払がなか ったため、 私(A)は、 Xに対し、 令和6年3月20日、 この未払代金100万円と本件延滞賃料 とを対当額で相殺する旨を電話で伝えました。 」 【Xからの聴取内容】 「Yが主張するとおり、 私は、 Aから、 令和4年11月9日、 本件商品を代金200万円で購入 し、 代金のうち100万円をその日に支払いました。 しかし、 私は、 本件商品を製造から50年以 上が経過したアンティーク商品だと思って200万円で購入したのですが、 令和5年3月20日 頃、 製造年代がAの説明とは異なっており、 実際には50万円程度の価値しかないことを知ったの です。 そのため、 私は、 Aにだまされたと思い、 同月23日、 Aに本件商品の代金額を50万円に するよう申し入れました。 これに対し、 Aは当初、 本件商品の代金額は200万円が相当だと言っ ていましたが、 その後、 話し合った結果、 同年4月10日、 Aとの間で、 「本件商品の売買代金債 権総額を100万円に減額する」との内容で和解しています(以下「本件和解」という。 )。 その 後、 Aは、 令和6年3月20日になって、 本件商品の未払代金が残っていることを前提に本件延滞 賃料と相殺する旨を伝えてきたのですが、 上記のとおり既に本件和解が成立している以上、 相殺に は理由がありません。 なお、 本件和解については、 私がAとの間で和解が成立した令和5年4月10日の当日に作成し た和解合意書(本件合意書)が存在します。 」 (別紙2) (注) 斜体部分は手書きである。 和解合意書 1 甲(A)が、 令和4年11月9日、 乙(X)に対して、 200万円で売却した アンティーク腕時計について、 その売買代金額に争いが生じたが、 甲と乙は、 互 いに譲歩した結果、 本日、 上記腕時計の売買代金債権総額を100万円とするこ とで合意した。 2 なお、 乙は、 甲に対し、 令和4年11月9日、 上記腕時計の代金として、 10 0万円を支払済みである。 (以下略) 令和5年4月10日 甲(売主) 乙(買主) A X X印 (出題の趣旨) 設問1は、 契約関係にない第三者に対する建物収去土地明渡請求が問題となる訴 訟において、 原告の希望に応じた訴訟物、 請求の趣旨、 請求を理由づける事実及び 抗弁事実の内容を問うものである。 前記訴訟物(物権的請求権)や、 請求原因及び 抗弁(転貸借契約に基づく占有権原)の要件事実につき、 正確な理解が求められ る。 設問2は、 原告の二つの主張(賃料不払及び無断転貸を理由とする解除)に関 し、 再抗弁該当性及び再抗弁となる場合の再抗弁事実の内容を問うとともに、 前記 再抗弁に対し、 相殺の再々抗弁として機能するために必要な要件事実及びその事実 が必要となる理由を問うものである。 特に、 無断転貸における賃貸人の承諾の意思 表示に代わる「背信行為と認めるに足りない特段の事情」につき、 その主張の位置 付けについて事案に即した正確な分析が求められる。 設問3(1)は、 前記再々抗弁に対し、 再々々抗弁として機能するために必要な 要件事実及びその事実が必要となる理由の説明を問うものであり、 和解契約の法律 効果(債権の一部消滅)に触れつつ、 合わせて弁済の主張が必要となる理由を説得 的に論述することが求められる。 設問3(2)は、 作成者名義の署名がある私文書の成立の真正が否認された場合 に関して、 民事訴訟法第228条第4項についての理解を問うとともに、 要証事実 を立証するための当事者の訴訟活動について問うものである。 設問4は、 前記訴訟において、 口頭弁論終結前に建物の所有権が第三者に移転し ていた場合につき、 強制執行の申立てに当たって生じる不都合を問うとともに、 こ れを防ぐために事前に採るべきであった法的手段(民事保全手続)を問うものであ る。 [刑 事] 次の【事例】を読んで、 後記〔設問〕に答えなさい。 【事例】 1 A(25歳)は、 甲県乙市内に住む友人X及び乙市の西約30キロメートルにある離島の丙島 に住む友人Yを訪ねようと考え、 令和6年2月1日、 X及びYに電話をかけ、 Yに対しては同 月3日、 Xに対しては同月5日に遊びに行く旨伝えた。 Aは、 同月3日午前10時頃、 丙島へ の唯一の交通手段である旅客車両用フェリー(以下「本件フェリー」という。 )で乙市を出発 して丙島に渡り、 同日午後1時頃、 Tレンタカー丙営業所において、 車種を指定して普通乗用 自動車1台(登録番号:N300わ7777。 以下「本件車両」という。 )を「返却期限は同 月4日午後5時、 返却場所は同営業所」の契約で借り受けた。 その際、 Aは、 同営業所従業員 Vから、 レンタカー料金3万円は前払いである旨告げられたが、 後払いにしてほしい旨懇願 し、 Vは渋々それを受け入れ、 契約書にその旨記載した。 Aは、 同月3日午後2時頃、 本件車両を運転してY方に赴き、 Yと丙島内を観光するなどし た後、 同月4日午後4時頃、 Yを同人方に送り届け、 Yと別れた。 Aは、 その後も本件車両を 使用し、 返却期限である同日午後5時を過ぎても本件車両を返却しなかった。 Vは、 返却期限 になってもAが本件車両を返却しに来ないので、 同日午後6時頃、 Aの携帯電話に電話をかけ た。 Aは、 その電話で「これから返しに行く。 」などと言ったが、 Vから現在地等を尋ねられ ても何も答えず、 一方的に電話を切った。 その後、 VはAに何度も電話をかけたが、 Aは電話 に出なかった。 Aは、 同日午後6時45分頃、 本件車両とともに乙市行きの本件フェリーに乗 り込み、 同フェリーは同日午後7時に出港した。 2 Aは、 同月5日午前10時頃、 本件車両を運転して乙市内のX方を訪ね、 一緒に観光しようと 誘った。 XがAに「この車どうしたんだ。 」と聞くと、 AはXに「丙島のレンタカー屋で借り た。 もう期限過ぎてるけどね。 」と言った。 XはAに「返さないとだめだよ。 そんな車で遊び になんか行けないよ。 」と言ってAの誘いを断ったため、 Aは、 一人で乙市内を観光するなど していた。 Vは、 同日午後1時頃、 Aに電話をかけ、 応答したAに居場所を尋ねたところ、 A は「今、 丙島にいる。 もう少しで営業所に着く。 」などと言って一方的に電話を切り、 乙市内 の観光を続けた。 Vは、 その後も繰り返しAに電話をかけたが、 Aが一切電話に出なかったた め、 同月7日、 本件車両をだまし取られたとして丙警察署に被害届を提出した。 丙警察署の司 法警察員は、 詐欺の被疑事実(その要旨は別紙のとおり)で丙簡易裁判所裁判官にAに対する 逮捕状を請求し、 同月9日、 同裁判官から同事実での逮捕状の発付を受けた。 Aは、 同月10日午後5時頃、 本件車両を運転中、 乙市内の公道上でガードレールに衝突す る事故を起こした。 その際、 Aは、 運転席側窓ガラスに頭をぶつけて負傷し、 本件車両を放置 してその場から逃げ去った。 当該事故の目撃者Wが警察に110番通報し、 司法警察員Kらが 臨場した。 Kらは、 当該事故車両のナンバーから、 詐欺の被害届が出されている本件車両であ ると把握し、 @令状の発付を受けずに、 本件車両が放置された現場の写真撮影及び本件車両内 の証拠品の押収等を行った。 その結果、 本件車両内から、 同月3日午前10時乙市発丙島行き 及び同月4日午後7時丙島発乙市行きの本件フェリーの乗客用チケットの各半券並びに同月4 日午後7時丙島発乙市行きの本件フェリーの車両用チケットの半券を押収したほか、 運転席側 窓ガラスに付着した血痕を採取した。 同時に、 Kらは、 目撃者Wから聴取した運転者の逃走方 向へ向かったところ、 頭部から出血しているAを現場付近で発見した。 Kらは、 人定事項を確 認の上、 同月10日、 Aを詐欺罪により通常逮捕した。 Aの逮捕時の所持金は5万円であっ た。 Aは、 逮捕後のKによる弁解録取手続において「レンタカーをだまし取っていない。 同月 4日にVから電話を受けた時、 1週間延長してくれと言って承諾してもらった。 」などと供述 した。 Kは、 本件車両内から採取した血痕のDNA型がAのものであるか否かを判別するた め、 Aに対し口腔内細胞の提出を求めたが、 Aがそれを拒んだことから、 A令状の発付を受け た上、 医師がAの腕に注射針を挿入して血液を採取した。 3 同月12日、 Aは、 詐欺の送致事実(その要旨は別紙に同じ)により甲地方検察庁検察官Pに 送致された。 Aは、 Pによる弁解録取手続においてもKによる弁解録取手続時と同様の供述を し、 所要の手続を経て、 同日中に勾留された。 B検察官Pは、 司法警察員Kに対し、 本件車両内で発見された本件フェリーのチケットの各 半券について、 購入日時・場所を解明するよう補充捜査の指示をした。 捜査の結果、 同月3日 午前10時乙市発丙島行き及び同月4日午後7時丙島発乙市行きの乗客用チケットは同月2日 午後3時頃Aがインターネットで予約購入し、 その後窓口で発券されていたのに対し、 同月4 日午後7時丙島発乙市行きの車両用チケットについては、 同月4日午後6時30分頃、 Aが丙 島フェリー乗り場の窓口で直接購入し発券されていたことが判明した。 また、 検察官Pは、 同月14日にXの事情聴取を行った。 Xは、 同月1日にAから遊びに行 くという電話があったことや同月5日にAがX方に来た際に前記2記載のやり取りがあったこ とを供述した。 Xは、 そのほか、 同月1日のAとの電話で、 同月5日に乙駅構内で待ち合わせ て遊びに行くと約束したこと、 同月5日にX方を訪れた際にAは「昔から欲しかった車種だっ た。 ナンバーも覚えやすいだろ。 」などと言っていたこと、 その車のナンバーがN300わ7 777という同じ数字が並んだものだったのでよく覚えていることなどを供述したため、 P は、 その旨の同月14日付け検察官面前調書を作成し、 Xはこれに署名押印した。 検察官Pは、 その他所要の捜査を遂げ、 詐欺の被疑事実で送致されたAについて、 同月21 日、 C単純横領の罪で公判請求した。 Pは、 単純横領罪の成立時期について、 D同月4日午 後5時頃、 同月4日午後6時頃、 同月4日午後6時45分頃をそれぞれ検討したが、 検討 の結果、 同月4日午後6時45分頃とすることにした。 4 Aは、 同年3月18日の第1回公判期日の冒頭手続において、 同年2月4日にVから電話を受 けた際、 本件車両の返却期限の延長を了承してもらったので、 横領していないと主張し、 Aの 弁護人Bも、 Aの無罪を主張した。 また、 検察官Pが同月5日にX方を訪れた際のAの言動等 を立証するために証拠請求したXの検察官面前調書をBが不同意としたため、 Pは、 Xの証人 尋問を請求し、 裁判官JはXを証人として採用した。 Xは、 同年4月15日の第2回公判期日 において「令和6年2月1日にAから電話があったかどうか、 同月5日にAが私の家に来たか どうか、 いずれももう何か月も前のことなので覚えていない。 Aは、 地元の中学校の同級生 で、 いつも怖い先輩たちとつるんでいた。 今日傍聴席にいる人たちも、 Aが昔からつるんでい た先輩たちだと思う。 」などと証言し、 現に法廷の傍聴席には、 Aと同年代の男性が約10名 おり、 Aと目配せをしたり、 Xの証言中に咳払いをしたりしていた。 Pは、 Xの記憶喚起を試 みたが、 Xの証言内容は変わらなかったため、 Xの同年2月14日付け検察官面前調書の証拠 採用を求め、 EJは同調書を証拠として採用した。 〔設問1〕 下線部@につき、 司法警察員Kらが、 本件車両が放置された現場の写真撮影、 本件車両内 の本件フェリーのチケットの各半券の押収を、 令状の発付を受けずに行うことができる理由 を答えなさい。 下線部Aにつき、 司法警察員Kが発付を受けた令状の種類及びその令状が必要であると考 えた理由を答えなさい。 〔設問2〕 検察官Pが下線部Bの指示をした理由を答えなさい。 下線部Cにつき、 検察官Pが送致事実である詐欺ではなく単純横領の罪でAを公判請求した理由 について、 詐欺罪の成立に積極的に働く事実、 消極的に働く事実の双方を挙げつつ答えなさい。 下線部Dにつき、 検察官Pが単純横領の成立時期について、 及びを検討した理由並びに 、 ではなくと結論付けた理由を答えなさい。 〔設問3〕 下線部Eにつき、 裁判官JがXの検察官面前調書の採否を決定するに当たって考慮した具体的事 実を、 条文上の根拠と併せて答えなさい。 〔設問4〕 弁護人Bが、 公判請求後にAと接見した際 「起訴された事実は間違いないが、 無罪主張をしてほしい。 」とAから言われ、 無罪を主 張すること 「Yに『AがVとの電話で、 返却期限の延長を了承してもらっているのをレンタカーの助 手席で聞いていた。 』といううその証言をさせてほしい。 」とAから言われ、 Yを証人請求 すること について、 それぞれ弁護士倫理上問題はあるか、 司法試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規 程を適宜参照し、 根拠条文と併せて答えなさい。 【別紙】 ※具体的な犯行場所や被害品時価等は省略 被疑事実の要旨 被疑者は、 車両借受け名目で車両をだまし取ろうと考え、 令和6年2月3日午後1時頃、 Tレン タカー丙営業所において、 同営業所従業員Vに対し、 真実は、 レンタカーとして借り受けた車両を返 却する意思がないのに、 これがあるように装って車両の借受けを申し込み、 同人をして借受期間経過 後直ちに同車両が返却されるものと誤信させ、 よって、 その頃、 同所において、 同人から同人管理に 係る普通乗用自動車1台(N300わ7777)の交付を受け、 もって人を欺いて財物を交付させた ものである。 (出題の趣旨) 本問は、 詐欺罪及び単純横領罪の成否が問題となる事件を題材に、 証拠物の押収 手続及び必要な令状等(設問1)、 詐欺罪及び横領罪の成否を判断する際の考慮要 素等(設問2)、 刑事訴訟法第321条第1項第2号書面の採否を判断する際の考 慮要素等(設問3)、 弁護士倫理上の問題点 (設問4)について、 【事例】に現 れた証拠や事実、 手続の経過を適切に把握した上で、 法曹三者それぞれの立場か ら、 その問題点及び結論に至る思考過程について解答することを求めており、 刑事 事実認定の基本構造、 刑事実体法及び刑事手続法についての基本的理解並びに基礎 的実務能力を確認するものである。 [倒 産 法] 次の【事例】について、 以下の設問に答えなさい。 なお、 解答に当たっては、 文中において特定されている日時にかかわらず、 令和6年1月1日現 在において施行されている法令に基づいて答えなさい。 【事例】 Aは、 個人事業として飲食店を経営し、 従業員Bを雇用しており、 Bの給料は月額30万円で、 毎月20日締め、 同月25日払いとしていた。 しかし、 Aは、 飲食店の経営が悪化したため、 令和 5年1月25日支払分以降のBの給料を月額20万円に減らして支払うようになり、 毎月の不足額 10万円分については、 おって支払う旨をBに伝えていた。 Aは、 飲食店の経営悪化による収入減を受けて、 投機性の高い金融商品取引に関心を寄せるよう になり、 自らが所有する高級自動車を売却して、 その売却代金を元手にFX取引(外国為替証拠金 取引)を始めようと考えた。 Aは、 令和5年8月、 当該自動車を500万円で売却し、 その売却代 金を元手にFX取引を始めたが、 徐々に損失が大きくなり、 その結果、 資産が大幅に減少した。 そ こで、 Aは、 複数の消費者金融から借入れをし、 その借入金をFX取引に投入したが、 損失は膨ら む一方となり、 借入金の返済が困難になった。 Aは、 令和5年9月20日、 同月25日支払分の給料として20万円と予告手当を支払ってBを 解雇し、 飲食店事業を停止した上、 破産手続開始の申立て及び免責許可の申立てを弁護士Cに依頼 した。 そこで、 Cは、 同年11月14日、 裁判所に対し、 Aの代理人として、 上記各申立てを行っ た。 これを受けて、 裁判所は、 同月21日、 Aについて破産手続開始の決定をし、 破産管財人とし てDを選任した。 その後、 Dによる調査の過程で、 Aの破産手続開始の申立て時の負債として、 裁判所に提出され た債権者一覧表(債権者名簿を兼ねている。 )に記載のもののほか、 Eからの借入金200万円の 存在が発覚した。 Eからの借入金が債権者一覧表に記載されていなかったのは、 Aが、 破産手続開 始の申立てをCに委任する際、 友人であるEとの関係が悪化することを恐れて、 Cに対し、 Eから の借入金があることを説明しなかったからである。 〔設 問〕以下の1から3については、 それぞれ独立したものとして解答しなさい。 1.Bは、 Dに対し、 令和5年1月25日支払分以降の給料の一部(毎月10万円)が支払われて おらず、 同年9月20日には解雇されて職を失ったため、 家族も含めて生活に困窮している旨を 訴えた。 Dは、 一定程度の破産財団を形成することができ、 Bへの未払給料を弁済しても他の優先的な 債権者を害することはないと判断し、 未払給料全額を配当手続によらずに弁済しようと考えてい る。 未払給料債権が破産手続においてどのように取り扱われるかについて説明した上で、 DがBに 対し配当手続によらずに上記弁済をすることが破産法上のいかなる根拠に基づくものであるかに ついて、 その趣旨にも言及しながら説明しなさい。 その際、 労務提供期間によって弁済の根拠が 異なる場合には、 場合分けをして説明しなさい。 なお、 未払賃金の立替払制度については言及し なくてよい。 2.Aの免責不許可事由の有無及びその内容について説明した上で、 裁判所はAにつき免責を許可 することができるかについて説明しなさい。 3.Aの破産手続は、 最後配当が行われて終結したが、 下記の@からBまでを含む届出破産債権に ついて、 配当によっても全額の満足を受けられなかった。 Aの免責手続については、 免責許可の 決定がされ、 確定した。 @ 飲食店において使用していた食材の未払の仕入代金 A 離婚した元配偶者との間で合意した子の養育費についての破産手続開始前に生じた未払金 B 令和5年10月20日にAが利用したレストランでの高額の飲食費についてのクレジット カード会社の立替金 Aについての免責許可決定の確定により上記@の債権はどのように取り扱われることとなる か、 免責許可決定の効力を踏まえつつ、 説明しなさい。 上記A及びBの各債権が非免責債権に該当するかについて説明しなさい。 (出題の趣旨) 設問1は、 破産手続における給料請求権の取扱いについての基礎的理解を問うも のである。 未払の給料債権が財団債権となるのは破産手続開始前3月間の部分であり(破産 法(以下「法」という。 )第149条第1項)、 本問では、 破産手続開始決定が令 和5年11月21日で、 Bは同年9月20日に解雇されていることから、 同年8月 21日から同年9月20日までに生じた給料債権の未払分10万円のみが財団債権 となる(解雇前3か月間の部分ではないことに注意を要する。 )。 このように、 財 団債権となる部分とそれ以外の部分とを適切に区別して論ずることがまずもって求 められる。 その上で、 給料債権が、 破産手続開始前3月間につき財団債権とされている趣旨 (労働債権の政策的保護)を指摘した上で、 財団債権は、 破産手続によらずに随 時、 かつ、 他の債権者に優先して弁済を受けられる旨を、 それぞれ条文(法第2条 第7号、 第151条)を摘示して説明することが求められる。 また、 Bが有する未払給料債権のうち財団債権とならない部分(令和4年12月 21日から令和5年8月20日までの期間の未払分合計80万円)については、 民 法上は一般の先取特権が認められており(民法第306条第2号、 同法第308 条)、 破産手続においては優先的破産債権として扱われることから(法第98条第 1項)、 配当手続において優先的に配当を受けることができること(法第194条 第1項)、 ただし、 その例外として、 給料債権については、 裁判所の許可により、 配当手続を待つことなく、 早期に個別の弁済を受けることができる弁済許可制度 (法第101条第1項)が存在する旨を指摘し、 同項の要件を満たすかについて本 問の事実関係を摘示して当てはめることが求められる。 設問2は、 免責不許可事由の基本的理解を問うものである。 Aが行った行為のうち、 法第252条第1項各号の中で問題となり得るのは、 @ FX取引とA虚偽の債権者一覧表(債権者名簿)の提出である。 @については同条 第1項第4号に該当するか否か、 Aについては同項第7号に該当するか否かに関 し、 それぞれ事実関係を摘示して当てはめる必要がある。 なお、 Aの虚偽の債権者 一覧表(債権者名簿)の提出については、 単に債権者一覧表不記載の事実では足り ず、 破産手続の遂行を妨害する、 又は債権者を害する目的があったことが必要であ ると解されていることも踏まえて論ずることが求められる。 さらに、 これらの免責 不許可事由に該当する場合においても、 裁判所による裁量免責(法第252条第2 項)が認められるかについても、 本問の事実関係を踏まえて論ずることが求められ る。 設問3は、 非免責債権に関する基本的理解を問うものである。 小問(1)は、 まず、 @の仕入代金債権は、 法第253条第1項ただし書各号の 債権には当たらず、 免責許可決定の確定により、 Aは「その責任を免れる」ことに なる(法第253条第1項本文)が、 その効果については、 債務が消滅するのか、 自然債務となるのかについて、 根拠を示して自説を展開することが求められる。 小問(2)は、 Aの債権及びBの債権について、 非免責債権の該当性が問題とな る条文を摘示し、 それぞれ、 その該当性について論ずることが求められる。 具体的 には、 Aの債権は、 子の監護に係る請求権(民法第766条第1項)であり、 法第 253条第1項第4号ハに当たり、 非免責債権に該当する旨の指摘が求められる。 また、 Bの債権に関しては、 「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請 求権」(同項第2号)が成立し得るかどうかについて、 その際、 「悪意」について は積極的害意を意味すると解釈されていることも踏まえた論述が求められる。 [租 税 法] 令和3年1月1日、 製薬会社A社(以下「A社」という。 )は、 著名な生化学者であるBを、 A社が社内に新たに立ち上げた新薬開発研究所(以下「C研究所」という。 )の所長に据えた。 A 社は、 同族会社ではなく、 暦年を事業年度とする。 A社とBの間で委任契約として締結された合意(以下「本契約」という。 )には、 以下の条件 が含まれていた。 @ Bは、 C研究所の所長として、 C研究所の運営について広範な裁量を与えられる。 A社の職制 上、 C研究所の所長は執行役員(会社法上の執行役ではない。 )として位置付けられ、 A社経営陣 の経営戦略上の指示に従って、 C研究所スタッフの研究活動を指揮する。 A 契約期間は令和3年1月1日から令和5年12月31日までの3年間(以下「本契約期間」とい う。 )とするが、 A社とBの合意により更に2年間の延長が可能である。 本契約期間におけるBの 年俸は1億2000万円であり、 A社はBに対して毎月末に1000万円を支払うものとする。 本 契約期間の満了前に、 Bの申出により、 随時、 本契約を解約することができるが、 解約日を含む月 の翌月以降、 上記の1000万円は支払われない。 B 本契約期間中、 BはA社の許可なくして講演・執筆及び副業をしてはならず、 本契約期間中のB の研究活動の成果物に係る権利は全てA社に帰属する。 C A社は、 本契約が解約されることなく本契約期間の満了までBが勤務を継続した場合、 Bに対し て報奨金として2億円(以下「本報奨金」という。 )を、 本契約期間の末日から1月以内に支払 う。 なお、 本契約が延長された場合にも、 本報奨金は上記期限内に支払われる。 Bは、 令和3年1月1日、 本契約に基づいてC研究所の所長としての勤務を開始し、 本契約期 間の末日である令和5年12月31日をもって勤務を終了した。 A社は、 Bの仕事ぶりを高く評価 していたため契約延長を申し入れたが、 Bは、 「しばらく仕事を離れて充電期間を持ちたい」とい う意向でこれを固辞した。 A社は、 契約条件Cに基づき、 令和6年1月25日、 本報奨金をBに支 払った。 以上の事案について、 以下の設問に答えなさい。 解答に当たっては、 理由を付し、 根拠条文が ある場合はそれを明記しなさい。 ただし、 租税特別措置法の適用は考慮しないものとし、 事案中の 年月日にかかわらず、 令和6年1月1日現在において施行されている法令に基づいて解答しなさ い。 〔設問〕 A社は、 令和3年から令和5年の各事業年度において、 Bに対し、 本契約に従って、 毎月末に10 00万円(1事業年度につき1億2000万円)を支払った。 このA社のBに対する年俸の支払は、 A社の各事業年度における所得の金額の計算上どのように扱われるかについて、 Bの「役員」該当性 に言及しつつ、 説明しなさい。 さらに、 この年俸の支払に伴って、 A社が負うことになる所得税法上 の義務について、 年俸の性質について検討を加えた上で、 説明しなさい。 Bが受け取った本報奨金につき、 所得税法上、 Bの退職所得として扱われるとする見解と、 それ以 外の所得として扱われるとする見解が考えられる。 そこで、 @退職所得に該当するための要件を挙 げ、 A退職所得以外の所得に該当するとすればどの所得分類となるかについて、 可能性のあるものを 挙げた上で、 B自説を論じなさい。 設問において、 仮に本報奨金が退職所得に該当すると判断された場合に、 @本報奨金の収入は、 Bのいつの年分の所得税の課税標準にどのように反映されるかについて説明しなさい。 解答に当たっ ては、 本契約期間は短期勤続年数(所得税法第30条第4項)に一致するものとし、 退職所得の金額 の具体的な計算は不要とする。 また、 A本報奨金の支払は、 A社のいつの事業年度の所得の金額にど のように反映されるかについて説明しなさい。 (参照条文)法人税法施行令 (役員の範囲) 第7条 法第2条第15号(役員の意義)に規定する政令で定める者は、 次に掲げる者とする。 1 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限る。 次号において同じ。 ) 以外の者でその法人の経営に従事しているもの 2 (略) (出題の趣旨) 本問では、 法人と高度専門職の個人の間で比較的短期間の委任契約が締結され、 当該委任契約に基づいて当該高度専門職が法人に対する役務の提供をしたという事 例を題材として、 法人税法及び所得税法の基本的な事項についての理解が問われて いる。 まず設問(1)は、 法人(A社)から高度専門職Bに対する委任契約に基づく年俸 の支払が法人税法上の所得の金額の計算上、 どのように取り扱われるか、 また、 こ れに伴ってA社が負う所得税法上の義務が問われている。 問題文において、 役員該 当性に言及することを求めていることから、 当然これに触れることが必要である が、 本問でなぜ役員該当性を検討する必要があるかを踏まえて答案を作成すること が求められている。 役員該当性に関し、 法人税法施行令第7条第1号を参照条文と して挙げたが、 委任元の法人税法第2条第15号を踏まえて、 本件の事実関係を当 てはめて、 Bの役員該当性を検討することを求めている。 また、 多くの受験者が法人税法第34条に気付くとは思われるが、 同条は同法第 22条第3項にいう「別段の定め」として設けられたものであり、 まずは、 本来的 には同項第2号にいう「費用」に当たること(なお、 同項第1号にいう「原価」に 該当するという考えもあり得よう。 )を踏まえた検討が求められる。 A社の所得税法上の義務を論じる上では、 その前提として、 本問の年俸の性質を 論じる必要がある。 源泉徴収義務に係る条項の正確な理解と当てはめが問われてい る。 設問(2)は、 BがA社から受け取った報奨金の所得分類が問われているが、 検討 すべき項目を問題文に示しており、 退職所得該当性を中心に論じてほしい。 もとよ り所得分類も租税法の解釈であるから、 所得税法第30条第1項の解釈として要件 を検討することが求められる。 また、 退職所得となる要件については確立した判例 があり(最判昭和58年9月9日民集37巻7号962頁、 最判昭和58年12月 6日集民140号589頁)、 これを踏まえた検討がされているか否かが問われて いる。 他の所得分類としては、 本件の事実関係を踏まえると、 少なくとも給与所得を挙 げるべきであり、 Bの退職の有無にかかわらず、 本報奨金は支払われることをどの ように評価するかという検討が必要である。 本報奨金は、 典型的な退職手当等とは 性質を異にする特殊な給付であるので、 結論は分かれ得るが、 他説を意識して、 自 説を説得的に論じることができるか否かが問われている。 設問(3)では、 本報奨金が退職所得に該当する前提で、 B及びA社のそれぞれの 立場で、 所得税法上又は法人税法上、 本報奨金の収入又は支出が、 それぞれどのよ うに取り扱われるかを問う問題であり、 所得税法上の収入金額の計上時期及び法人 税法上の費用の損金算入時期という所得税法及び法人税法の基本的な概念に関する 理解が問われている。 所得税法に関しては、 退職所得の金額の具体的な計算は不要 であるが、 「いつの年分の所得税の課税標準にどのように反映されるか」が問われ ており、 単にいつの年分に計上されるかだけではなく、 課税標準にどのように反映 されるかについて述べる必要がある。 具体的には、 短期退職手当等(所得税法第3 0条第4項)に該当することを前提に、 2分の1課税の例外として、 同法第30条 第2項第2号に従って退職所得の金額が算出され、 同法第22条第3項の退職所得 金額として所得税の課税標準に反映されるという退職所得特有の制度についての理 解も問われている。 法人税については、 費用として損金に算入するためには「債務 の確定」が要件となるところ、 その「債務の確定」の意義を述べた上で、 本件に当 てはめるという法の解釈適用を適切に行うことができるか否かが問われている。 [経 済 法] 【前提】 X社は、 体勢を保持するための福祉用具である甲製品(以下「甲製品」という。 )のメーカーで あり、 我が国の甲製品の販売分野において約35パーセントのシェア(甲製品の国内における総販 売額に占める各社の販売額の割合)を有し、 国内シェア第1位である。 X社製甲製品は消費者から 高い評価を得ており、 甲製品を販売する小売業者(以下「販売業者」という。 )にとってX社製甲 製品を取り扱うことは営業上不可欠になっている。 メーカーは、 販売業者を通じて甲製品を消費者に販売している。 販売業者は、 X社製甲製品だけ でなく他メーカー製甲製品も販売しており、 販売方法に特段の法規制はない。 販売業者の販売形態 には、 店舗での販売とインターネットを利用した販売がある(以下、 店舗での販売を行う販売業者 を「店舗販売業者」、 インターネットを利用した販売を行う販売業者を「ネット販売業者」とい う。 )。 その割合は、 店舗での販売が約8割、 インターネットを利用した販売が約2割となってお り、 インターネットを利用した販売の割合は漸増しつつある。 X社製甲製品の小売価格は、 それぞ れの販売業者が独自に決定しているが、 ネット販売業者の小売価格の平均は店舗販売業者の小売価 格の平均より約10パーセント低い。 店舗販売業者の中には、 その販売員がX社製甲製品の機能の特徴を説明して販売するもの(以 下、 このような販売方法を「説明販売」という。 )も少数存在するが、 ネット販売業者の中には説 明販売を行っているものは存在しない。 近年、 X社製甲製品の販売額は伸び悩んでいる。 その理由 を、 X社は、 店舗販売業者の販売員が適切な説明をできておらず、 X社製甲製品の機能の特徴を消 費者に十分訴求できていない点にあると見ている。 〔設 問〕 上記の【前提】に加え、 以下の事実がある場合に、 X社の令和6年6月1日以降の行為につい て、 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。 )上の問 題点を分析して検討しなさい。 令和6年6月1日以降、 X社は、 店舗販売業者に対してのみ、 X社が指示する方法・内容に 基づく販売員教育を実施して、 来店した消費者にX社製甲製品の適切な説明を行う場合に限 り、 説明販売を支援する協力金の提供を行うこととした。 ネット販売業者は説明販売を行って いないことから協力金の提供を受けていない。 この協力金の金額は、 店舗販売業者に対するX 社製甲製品の卸売価格の約5パーセントであり、 店舗販売業者が説明販売に要する費用とおお むね同等である。 なお、 X社は、 販売業者に対するX社製甲製品の卸売価格について、 店舗販売業者とネット 販売業者との間で差を設けていない。 上記の【前提】に加え、 以下の事実がある場合(上記記載の事実はない。 )に、 X社の令和 6年9月1日以降の行為について、 独占禁止法上の問題点を分析して検討しなさい。 令和6年6月1日、 X社は、 店舗販売業者に対し、 X社が指示する方法・内容に基づく販売 員教育を実施して、 来店した消費者にX社製甲製品の適切な説明を行うように要請した。 その 後、 この要請に従う費用(その金額は、 店舗販売業者に対するX社製甲製品の卸売価格の約5 パーセントである。 )を甲製品の小売価格に上乗せして販売した結果、 X社製甲製品の売上が 大幅に減少したため、 大半の店舗販売業者からX社に対し、 このままでは説明販売を維持でき ないとの苦情が強く寄せられた。 これに対応したX社による調査の結果、 売上の大幅な減少の 主な原因はネット販売業者への顧客流出であることが明らかとなった。 そこで、 X社は、 店舗販売業者に説明販売を継続してもらうため、 ネット販売業者への顧客 流出を阻止する必要があると考えて、 同年9月1日以降、 @店舗販売されるX社製甲製品の同 年6月1日以降の小売価格の平均を「小売定価」と定めて、 全ての販売業者に対して、 X社製 甲製品を「小売定価」で販売するよう求めることとし、 A販売業者が「小売定価」どおりに販 売しない場合、 当該販売業者に対するX社製甲製品の出荷を停止することとし、 その旨を全て の販売業者に通知した。 その結果、 全ての販売業者は、 出荷停止を恐れて、 X社製甲製品を 「小売定価」で販売するようになった。 なお、 X社は、 販売業者に対するX社製甲製品の卸売価格について、 店舗販売業者とネット 販売業者との間で差を設けていない。 (出題の趣旨) 本問では、 我が国での甲製品の販売分野において約35パーセントのシェア(第1 位)を持つX社が、 自社製甲製品の販売額の伸び悩みに対応して採用した〔設問〕 (1)と〔設問〕(2)の各行為(以下、 各々「本件行為@」と「本件行為A」とい う。 )が、 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」とい う。 )上の不公正な取引方法にそれぞれ該当し、 同法第19条に違反するかを論じるこ とが求められる。 〔設問〕(1)では、 X社による店舗販売業者に対する協力金(以下「本件協力 金」)の提供が取引条件等の差別取扱い(不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指 定」という。 )第4項)に該当しないかが問われている。 差別対価(一般指定第3項) とする場合には、 本件協力金をX社製甲製品の卸価格の一構成要素と見る点(卸価格の 実質的値引き)への言及が求められる。 行為要件では、 X社の「事業者(独占禁止法第 2条第1項)」性を前提に、 選択した条文の各要件に沿って問題文の事実をそれぞれ的 確に当てはめることが重要になる。 行為要件該当性を否定する立場も想定されるが、 そ の際も、 本件行為@は取引先の各販売業者の活動を制限する性質を持たず行為要件を満 たさないなど、 その理由を説得的に述べることが求められる。 公正競争阻害性要件につ いては、 本件での「不当」が自由競争減殺の観点からの、 競争の実質的制限に至らない 程度の市場閉鎖又は価格維持の効果である旨的確に述べた上で、 本件行為@は、 説明販 売に要するのとおおむね同等の費用支援を行うに過ぎず、 また、 ネット販売業者への卸 売価格を引き上げないことから、 店舗販売業者とネット販売業者の間でX社製甲製品供 給に係る費用条件を変えず、 したがって我が国における甲製品の販売市場において取引 先の各販売業者間で競争者排除や競争回避の効果を発生させない旨を論証することが重 要になる。 〔設問〕(2)では、 X社が、 自社製甲製品の「小売定価」販売を求め、 遵守しなけ れば出荷停止する旨を各販売業者に通知したことが、 直接購入者に対する再販売価格拘 束(独占禁止法第2条第9項第4号イ)に該当し、 同法第19条に違反するかが問われ ている。 行為要件では、 「拘束の条件」(同法第2条第9項第4号柱書)が、 経済上の 利益・不利益措置など何らかの人為的手段により実効性が確保されていることを意味す る旨的確に述べた上で、 問題文の事実を的確に当てはめて、 本件行為Aが行為要件を満 たすと論じることが重要である。 公正競争阻害性要件については、 自由競争減殺のおそ れが各取引先事業者間での価格競争の消滅・減少(価格維持効果)にある点を明確にし た上で、 本件行為Aは各取引先販売業者間で価格競争を実際に消滅・減少させており競 争阻害効果が大きく、 「正当な理由」が認められない限りこの要件を当然に満たすと説 得的に述べることが重要である。 この点、 これに代えて、 本件行為Aが、 取引先の各販 売業者間でブランド内価格競争を実際に消滅させており、 かつ、 ブランド間価格競争が それを牽制するに足りない点を論証するのでも良い。 併せて、 本件行為Aによっても、 @ブランド間競争促進の効果は生じず、 A需要が増大して消費者の利益の増進を図るこ ともなく、 B〔設問〕(1)のような、 より競争阻害的でない他の方法の採用可能性が あること等を挙げて、 本件行為Aに「正当な理由」が認められないことに言及すること も求められる。 [知的財産法] 小説家のAは、 ファンタジー小説シリーズαの第1巻から第9巻までを創作し、 これらはB社 から出版され、 好評を博していた。 αの各巻はそれぞれ独立した小説であるが、 基本的な設定は共 通しており、 何名かのキャラクターはシリーズを通じて登場している。 Aは、 αの第10巻の構想 を練っている途中で意欲をすっかり失い、 執筆をやめてしまった。 B社は、 Aが今後執筆を再開する見込みがないと判断し、 別の小説家にαの第10巻の執筆を 依頼することにした。 このため、 B社は、 Aから、 Aが第10巻のために作成していたメモ書き等 の資料(以下「本件資料」という。 )の提供を受け、 その資料を用いて第三者に第10巻を創作さ せること及びそれをB社が出版することについての許諾を得た。 B社は、 小説家のCに対して、 第 10巻となる小説を創作することを依頼し、 Cはこれを受けて小説を完成させ、 この小説はB社か ら出版された(以下、 この小説を「本件小説」といい、 αの第1巻から第9巻までを総じて「αの 過去作品」という。 )。 なお、 Cは本件小説の執筆に当たり、 B社から提供されたαの過去作品と 本件資料を参照したが、 Aとは一切連絡を取っていない。 本件小説の主人公やその他のキャラクター数名は、 αの過去作品に登場していたキャラクター であり、 本件小説の大まかなストーリーの構成は本件資料の記載にのっとったものである。 また、 本件小説にシリーズで初めて登場するキャラクターのうち、 特に重要な1名(以下「本件キャラク ター」という。 )の生い立ちや性格等の基本的な設定及びセリフの一部は本件資料に示されていた ものと同一である。 他方、 本件キャラクターの名称及び外観上の特徴はCが考え出したものであ る。 以上の事実関係を前提として、 以下の設問に答えなさい。 なお、 各設問はそれぞれ独立したも のであり、 相互に関係はないものとする。 〔設問1〕 Dは、 αを題材にしたポスターを多種類作成し、 これらを印刷して販売している。 これらのポス ターの1つ(以下「本件ポスター」という。 )には、 本件キャラクターをDが視覚的に表現した絵 画が用いられるとともに、 本件キャラクターの名称とセリフが記載されている。 このセリフは、 本 件資料にみられるセリフと同一のものである。 Cは、 Dに対し、 本件ポスターの印刷及び販売がCの有する著作権の侵害に当たると主張して いる。 Cの主張の妥当性について論じなさい。 〔設問2〕 本件小説が好評を博したため、 B社は、 本件小説の外伝として、 本件キャラクターを主人公とす る新たな小説の執筆をCに依頼し、 Cは、 これを受けて、 小説を完成させた(以下、 この小説を 「本件外伝」という。 )。 本件外伝においては、 本件小説の基本的な設定はそのままになってお り、 本件小説においてCが創作した表現が一部に用いられているが、 αの過去作品や本件資料にみ られる表現は用いられていない。 本件外伝はB社から出版された。 Aは、 B社に対し、 本件外伝の出版がAの有する著作権の侵害 に当たると主張している。 B社の反論を想定しつつ、 Aの主張の妥当性について論じなさい。 (出題の趣旨) 1 本問は、 著作権侵害の成否の検討において一般的に問題となる事項(著作物 性、 依拠性、 類似性及び法定利用行為該当性)についての理解に加え、 言語著作 物を原著作物とする二次的著作物の成立要件、 二次的著作物の著作権の及ぶ範 囲、 及び二次的著作物の原著作者の権利の及ぶ範囲についての理解を問うもので ある。 2 設問1について 設問1においては、 Cの主張として、 本件小説がCの著作物であること、 及び Dによるポスターの印刷や販売が著作権侵害の要件(依拠性、 類似性及び法定利 用行為該当性)を充足するものであることをまず指摘する必要がある。 その上 で、 当該主張の妥当性の問題として、 本件小説が本件資料との関係で二次的著作 物であり、 原著作物である本件資料と同一の記載部分についてはCの著作権が生 じない旨を、 最判平成9年7月17日民集51巻6号2714頁【ポパイネクタ イ事件】を踏まえ論述する必要がある。 また、 同じく妥当性の問題として、 本件 小説と本件ポスターの共通点である、 Cが考え出した本件キャラクターの名称や 外観上の特徴について、 これらが創作的表現といえるか(類似性又は表現上の本 質的特徴の直接感得性を肯定することができるか)について論述する必要があ る。 3 設問2について 設問2においては、 Aの主張として、 本件外伝が本件小説との関係で二次的著 作物に当たることを論じた上で、 Aが本件小説を二次的著作物とする原著作物 (本件資料)の著作者として著作権を有していること、 及びB社による本件外伝 の出版に著作権法第28条に基づきその著作権が及ぶことについて論じる必要が ある。 これに対するB社の反論として、 本件外伝において、 本件資料の創作的表 現が維持されていないため、 著作権侵害に該当しない旨の主張を挙げた上で、 A の主張の妥当性について検討する必要がある。 その検討に当たっては、 最判平成 13年10月25日判時1767号115頁【キャンディ・キャンディ事件】及 びそれを巡る学説等を踏まえて、 自説を説得的に展開する必要がある。 [労 働 法] 次の事例を読んで、 後記の設問に答えなさい。 【事例】 1 Y高等学校を運営する学校法人であるY学園は、 教職員がその職務外の活動により学校施設を 使用する場合、 「学校施設の目的外使用に関する規程」(以下「本件規程」という。 )に基づ き、 使用を希望する日の2週間前までに、 学校長宛てに書面による許可申請をし、 学校長からの 許可を得なければならないこととしていた。 しかし、 Y学園は、 教職員の約30%が加入する労 働組合であるX組合が校舎内にある会議室を使用する場合、 その直前に管理職である教頭に口頭 でその旨を告知すれば、 学校運営上の具体的な支障が生じない限り、 その使用を認める取扱いを 行ってきた。 なお、 上記の取扱いは、 労働協約に基づくものではなく、 事実上のものであった。 令和5年4月に新たに学校長に就任したAは、 同年10月下旬頃、 上記の取扱いによって、 X 組合だけが、 事実上、 自由に会議室を使用することができる状態となっていることは、 不公平で あり、 X組合に所属していない教職員の方が多いことを考慮すると、 一層問題であるとの認識を 持つに至った。 そこで、 Aは、 同月30日、 教頭であるBに対し、 X組合に所属していない教職 員に対する取扱いとの公平を図る観点から、 X組合についても、 会議室の使用につき本件規程に 従った取扱いをするように指示した。 X組合の委員長であり、 教諭であるZは、 同月31日、 Bに対し、 同年11月1日午後6時3 0分から1時間程度、 会議室を組合活動に使用したいと申し出たところ、 Bは、 Zに対し、 X組 合に所属していない教職員との公平を図る観点から従前の取扱いを改めることになったとして、 本件規程に基づいて学校長宛ての書面による許可申請をするよう求めた。 Zは、 X組合が、 当 時、 Y学園との間で、 部活動の顧問を担当する教諭の待遇改善を議題とする団体交渉を行ってお り、 Y学園と主張が激しく対立する状況にあったことや、 他に上記日時に会議室の使用を予定し ている者がいないことを確認していたこと等から、 「このタイミングでの取扱いの変更は、 Y学 園の方針に従わないX組合及びその組合員に対する嫌がらせとしか思えません。 我々が会議室を 使用することによって、 学校運営上の支障が生じない以上、 従来どおり、 会議室を使用させてい ただきます。 」と述べた。 しかし、 Bが、 Aに相談の上、 会議室の出入口を施錠したため、 X組 合は、 上記日時に会議室を使用することができなかった。 その後も、 X組合は、 Y学園に対し、 従来どおりの取扱いの継続を求め、 書面による許可申請を提出しなかったため、 Y学園は、 X組 合に対し、 会議室の使用を拒否する状態が継続した。 2 X組合は、 部活動の顧問を担当する教諭の待遇改善を議題とする団体交渉がこう着状態にあっ たことから、 X組合に所属していない教職員にも理解と協力を求めていく必要があるとして、 職 員室において、 上記の待遇改善の必要性を訴えるビラを配布することとした。 当該ビラは、 上記 の内容を片面に印刷したA4サイズの紙1枚であった。 Zは、 令和6年1月18日の昼休みの時 間帯(教職員の休憩時間)に、 職員室内において、 職員室を訪れている生徒等がいないことを確 認した上で、 在席している教職員に対しては、 「組合の活動報告のビラです。 よろしくお願いし ます。 」などと言いながら、 上記ビラを手渡し、 離席している教職員に対しては、 机上に上記ビ ラを裏返して置くという方法により、 上記ビラの配布を行った。 Zが上記ビラの配布に要した時 間は約10分間であり、 昼休みの終了までに配布が完了した。 Aは、 Zが職員室内でビラを配布したとの報告を受け、 Zに事実確認をしたところ、 Zは事実 関係を認めた。 Aは、 Zに対し、 許可なく学校施設内においてビラを配布することは認められて いないため、 Zの行為について、 処分を検討せざるを得ないと述べた。 Y学園は、 Zからの弁明の聴取等の就業規則所定の手続を経た上で、 令和6年3月15日、 Z に対し、 上記ビラ配布の行為について、 就業規則第39条第5号に規定された懲戒事由に該当す るとの理由から、 戒告とする懲戒処分をした。 【Y学園教職員就業規則(抜粋)】 第39条 教職員が次のいずれかに該当するときは、 情状に応じ、 戒告、 減給、 出勤停止、 降格、 諭 旨退職、 懲戒解雇に処する。 1〜4 5 (略) 許可なく学校の施設・設備を使用し、 又は学校施設内において、 集会を開き、 若しくは放送、 掲 示、 印刷物等の貼付、 配布等をしたとき。 6・7 8 (略) その他前各号に準ずる程度の行為があったとき。 第40条 前条の規定により懲戒を行うときは、 当該教職員に対し、 事前に弁明の機会を与える。 〔設問〕 1 X組合がY学園による会議室の使用拒否について労働委員会で争う場合、 どのような申立てを することができるか。 また、 その申立ては認められるか。 検討すべき法律上の論点を挙げて論 じなさい。 なお、 X組合は、 労働組合法第5条第1項が定める救済申立ての要件を満たしてい るものとする。 2 Zは、 戒告処分が無効であるとして裁判所に訴えを提起した。 この戒告処分の有効性につい て、 検討すべき法律上の論点を挙げて、 あなたの見解を述べなさい。 (出題の趣旨) 本問は、 Y高等学校を運営する学校法人であるY学園が、 X組合に対し、 「学校 施設の目的外使用に関する規程」(以下「本件規程」という。 )によらずに、 口頭 による告知があれば原則として校舎内の会議室の利用を認めていた従前の取扱いを 改め、 本件規程に基づいて書面による許可申請を求め、 同申請がないことを理由と して会議室の使用を拒否したほか、 X組合の委員長であり、 教諭であるZに対し、 同人が、 組合活動として、 職員室において、 就業規則により禁止されている無許可 のビラ配布行為をしたことを理由に戒告の懲戒処分(以下「本件戒告処分」とい う。 )をしたという事案を基に、 X組合が労働委員会に申し立てるべき具体的な内 容を問うほか、 使用者の施設管理権の行使と不当労働行為の成否をめぐる最高裁判 例や校内における組合活動としてのビラ配布行為を理由とする懲戒処分の効力をめ ぐる最高裁判例の正確な理解と、 これらを踏まえて導き出される規範に対する当て はめを問うものである。 設問1は、 Y学園がX組合による会議室の使用を拒否し続けていることについ て、 X組合が労働委員会で争う場合の具体的な申立ての内容のほか、 Y学園の行為 が労働組合法(以下「労組法」という。 )第7条第3号の不当労働行為(支配介 入)に該当するか否かについて検討することを求めるものである。 まず、 具体的な申立ての内容については、 X組合が、 Y学園による会議室の使用 拒否が労組法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に当たることを理由とし て、 労働委員会に救済命令の申立て(同法第27条第1項)をすることができる旨 を指摘する必要があろう。 そして、 具体的には、 X組合が、 労働委員会に対し、 Y 学園のX組合に対する支配介入行為の禁止を内容とする命令や、 Y学園がX組合に 対して今後同様の行為を行わない旨の文書を事業場内で掲示すること等(ポストノ ーティス)を内容とする命令等を求めることが考えられる旨を指摘する必要があろ う。 次に、 その申立てが認められるか否かについては、 Y学園による上記使用拒否が 労組法第7条第3号の不当労働行為(支配介入)に該当するか否かを最高裁判例 (国鉄札幌運転区事件・最三小判昭和54年10月30日民集33巻6号647 頁、 オリエンタルモーター事件・最二小判平成7年9月8日集民176号699 頁)を踏まえた上で検討する必要がある。 すなわち、 我が国の労働組合について は、 いわゆる企業内組合の割合が高いことから、 組合活動のために企業施設を利用 する必要性が大きいものの、 上記最高裁判例は、 労働組合による企業施設の利用に ついては、 本来、 使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものと した上で、 上記必要性から当然に労働組合による企業施設の利用権が保障されてい るということはできず、 利用を許諾するか否かは、 原則として使用者の自由な判断 に委ねられており、 使用者がその利用を受忍しなければならない義務を負うもので はないとし、 その利用を許諾しないことが当該企業施設につき使用者が有する権利 の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、 直ちに団結権 を侵害し、 不当労働行為を構成するということはできない旨判断している。 本設問 においては、 この判旨を踏まえ、 的確に規範を定立する必要があろう。 その上で、 使用者であるY学園が施設管理権に基づきX組合に対して会議室の利用を許諾しな いことについて、 X組合に対しても本件規程に基づく許可申請を求めることとした 目的、 当該許可申請において要求される手続の内容、 Y学園が従前の取扱いを変更 した時期、 X組合が会議室を使用することによる施設管理上の支障の有無及び程 度、 Y学園によるX組合に対する会議室の使用拒否が続いている理由等、 本設問の 具体的事実関係に照らし、 施設管理権の濫用となる特段の事情があるとして支配介 入に当たるか否か等を論じ、 X組合の申立てが認められるか否かについての結論を 導く必要があると考えられる。 設問2は、 Y学園がZに対して学校施設内における無許可のビラ配布行為を理由 として行った本件戒告処分の効力を問うものであり、 上記ビラ配布行為の職場規律 との実質的な抵触の有無という観点からの検討を行うことを求めるものである。 まず、 本設問においては、 使用者の労働者に対する懲戒権の根拠のほか、 懲戒処 分をするためには、 あらかじめ就業規則に懲戒の種別及び事由を規定する必要性が あること(フジ興産事件・最二小判平成15年10月10日集民211号1頁) や、 懲戒処分が客観的に合理的理由を欠き、 社会通念上相当であると認められない 場合は、 無効となること(労働契約法第15条)について指摘する必要があろう。 また、 懲戒処分が不当労働行為に該当する場合、 当該懲戒処分が私法上も無効とな ると解されること(医療法人新光会事件・最三小判昭和43年4月9日民集22巻 4号845頁)についても指摘する必要があろう。 そして、 就業規則により禁止された校内における無許可のビラ配布行為を理由と する懲戒処分については、 最高裁判例(倉田学園事件・最三小判平成6年12月2 0日民集48巻8号1496頁)を踏まえた上で、 その効力を検討する必要があ る。 すなわち、 上記最高裁判例は、 私立学校の校内において教職員が使用者の許可 を得ないまま組合活動としてビラの配布を行った事案において、 当該事案の具体的 事実関係の下において、 配布行為が学校内の職場規律を乱すおそれがなく、 生徒に 対する教育的配慮に欠けるおそれのない特別の事情が認められるものとして、 校内 において無許可のビラ配布を禁止する就業規則に違反しないとしたものである。 本 設問においては、 これを踏まえて規範を定立するとともに、 当てはめを行うことが 求められる。 また、 当てはめにおいては、 ビラの内容、 配布の態様等、 本設問の具 体的事実関係に照らし、 本設問におけるZの行為がY学園教職員就業規則に違反す るか否か等を論ずることが必要となろう。 さらに、 前記のとおり、 最高裁判例において、 法律行為が不当労働行為に該当す る場合、 当該法律行為が私法上無効となると解されていることを踏まえると、 本件 戒告処分が、 Zが労働組合の組合員であること等を理由にされたものとして労組法 第7条第1号の不当労働行為(不利益取扱い)に該当するか否かや、 X組合の委員 長であるZに対する懲戒処分をすることにより、 X組合を弱体化する目的でされた ものとして同条第3号の不当労働行為(支配介入)に該当するか否か等を検討した 上で、 本件戒告処分の効力を論ずることも必要となろう。 [環 境 法] 次の設例を読んで、 以下の小問に答えなさい。 なお、 小問はいずれも独立したものである。 【設例】 A県内のB国立公園にある特別保護地区内には、 国有林(ブナ林)があり、 甲遊歩道が設置され ている。 Xが甲遊歩道を散策していたところ、 甲遊歩道の入口から約500メートルの地点(以 下、 この地点を「本件現場」という。 )において、 突然付近の国有林にあったブナの木が甲遊歩道 上のXに向かって倒れてきたため(以下、 倒木したブナの木を「本件ブナの木」という。 )、 Xは これを避けようとしてその場で転倒し、 足を骨折する等全治3か月の怪我をした(以下「本件事 故」という。 )。 本件現場の周辺地域は、 国道に隣接して乙休憩所が設置され、 同休憩所からブナ林内を2キロメ ートルほど進んだ特別保護地区内に、 景観が良好なことで全国的にも知られている丙渓谷があっ た。 甲遊歩道は、 乙休憩所から丙渓谷までをつなぐ通路として設置されたものであって、 甲遊歩道 には、 約100メートルおきに休息のためのベンチが置かれていた。 また、 本件ブナの木の近くに もベンチが置かれており、 観光客が本件ブナの木周辺において散策ないし休息することが予定され ていた。 本件事故当時、 甲遊歩道を通って丙渓谷を訪れる観光客は、 年間約50万人程度であっ た。 甲遊歩道は、 国有地を借り受けたA県が設置したものであり、 A県が維持管理を行っていた。 本件ブナの木は国有地上の天然木であり、 本件事故前に、 国とA県が毎年定期的に合同で実施して いる安全点検の際に、 倒木のおそれがあるとは判定されていなかったが、 本件事故後の調査により 木の内部の腐食が進んでいたことが倒木の原因であると判明した。 【小問】 B国立公園内には「特別地域」のほかに「普通地域」がある。 自然公園法上、 普通地域内にお いて、 広告物を設置する行為につき、 事前にどのような手続をとる必要があるか。 特別地域に おける上記行為に対する事前の手続的義務と対比しながら、 根拠条文を挙げつつ、 その手続の 内容を説明しなさい。 併せて、 その手続的義務に違反して当該行為に着手した者に対して、 刑 事的な制裁を科すために環境大臣が採れる措置について説明しなさい。 丙渓谷を訪れる観光客が年々増加傾向にあり、 それに伴って良好な景観の維持が困難となり、 管理にも支障が生じてきている。 この場合に環境大臣が採り得る自然公園法上の措置を説明し なさい(ただし、 当該措置を採るための手続については論じる必要はない。 )。 Xは、 国及びA県に対し、 損害賠償請求を検討している。 どのような法的構成が考えられる か、 根拠条文や要件を挙げつつ説明しなさい(ただし、 甲遊歩道の設置管理に係る費用を負担 している観点からの責任については問わない。 )。 現時点において、 環境大臣は、 A県内に新たに国立公園を指定し、 かつ、 その区域内に特別地 域を指定しようとしている。 当該特別地域予定区域内に民有地が存在する場合、 その指定に当 たって、 所有者の同意が必要となるか。 なお、 国立公園の指定の前段階となる候補地の選定に 際しては、 法規の性質を有しない要領が参考にされている。 【資料1】は以前に用いられてい たものであり、 【資料2】 は現在用いられているものである。 これらを踏まえつつ、 土地所有 者の同意の要否について、 そのように考える理由とともに説明しなさい。 【資料1】 自然公園選定要領(昭和27年9月)(抜粋) 自然公園は傑出した自然の風景地中、 下の要件を具備するものにつき選定するものとする。 (略) 第2要件 土地 (略) 社寺有地、 私有地を包含する場合にあっては、 土地の所有その他の関係者が特別地域の設定 に協力的であること。 (以下略) 【資料2】 国立公園及び国定公園の候補地の選定及び指定要領(平成25年5月)(抜粋) 1 国立公園及び国定公園の候補地の選定 国立公園及び国定公園の候補地は、 全国的な観点から検討を行い、 以下の要件を満たす地域を選 定する。 (略) 第5要件 地域社会との共存 候補地について、 国立公園又は国定公園として保護及び利用することについて地域社会の理解 が得られること。 (以下略) (出題の趣旨) 本問は、 自然公園法上の国立公園における特別地域及び普通地域の規制や利用調 整地区についての基本的理解を問うとともに、 国立公園内において発生した事故に 関する国や県の民事上の責任についての理解を問うものである。 あわせて、 国立公 園及び特別地域の指定に関して民有地の土地所有者の同意の要否という論点につい て、 資料を基にした論理的な説明を問うものである。 小問(1)の前段では、 特別地域における広告物を設置する行為についての規制 が自然公園法第20条第3項第7号に基づき許可制であることを指摘した上で、 普 通地域における広告物を設置する行為についての規制が自然公園法第33条第1項 第3号により届出制であることを指摘しつつ、 着手制限の規定(自然公園法第33 条第5項)の説明をしながら両者の違いを論じることが求められている。 また、 小 問(1)の後段では、 届出の手続的義務に違反した場合に、 環境大臣が採り得る措 置として、 罰則規定(自然公園法第86条第4号)を前提とした告発(刑事訴訟法 第239条第2項)が挙げられることを説明することが求められている。 小問(2)では、 観光客が年々増加傾向にあり、 それに伴って良好な景観の維持 が困難となり管理にも支障が生じている場合において、 いわゆるオーバーユース対 策として利用調整地区の指定ができること(自然公園法23条1項)を指摘しつ つ、 その内容を説明することが求められている。 小問(3)では、 【設例】の事実関係を的確に把握して、 国及びA県に対する損 害賠償請求に関し、 国家賠償法第2条第1項に基づく営造物責任や民法第717条 第2項に基づく工作物責任といった考えられる法的構成を検討し、 各要件を説明し た上で【設例】の事実関係に丁寧に当てはめることが求められている。 なお、 国に 対する損害賠償請求については、 いずれの法的構成が妥当であるかまでを問うもの ではない。 小問(4)では、 国立公園やその区域内にある特別地域の指定に関し、 候補地と なる民有地の土地所有者の同意を要するかについて、 資料を基に論理的な説明を問 うものである。 単に自然公園法上の条文の有無に関する指摘を求めるものではな く、 解答者が考える同意の要否の結論を明らかにしつつ、 国立公園の指定の前段階 となる候補地の選定に際して法規の性質を有しない過去及び現在の要領の記載内容 を踏まえて、 自説の理由について論理的一貫性をもった説明をすることが期待され ている。 [国際関係法(公法系)] A国とB国は、 海を挟んで向かい合っている。 A国とB国との間の海には、 無人島であるP島 があり、 同島はA国の領土であることが古くから国際的に広く認められていた。 A国政府は、 長年にわたる経済政策の失敗の結果、 極端な財政難に陥り、 国家財政の再建のため にP島をB国の利用に供して対価を得る方策を検討することになった。 A国政府とB国政府は、 P 島に関する条約を締結するための外交交渉を開始した。 その結果、 A国とB国は、 「P島の租借に 関するA国とB国の間の条約」(以下「租借条約」という。 )に署名し、 同条約はその後A国及び B国の議会の承認を得て発効した。 租借条約は、 「B国は、 P島をA国から本条約発効後50年間 にわたり租借し、 その間B国はP島を自由に利用することができる。 」(第1条)、 「B国は、 P 島を利用する対価として、 A国に対して毎年1億米ドルの支払を行う。 」(第2条)と規定してい た。 なお、 A国とB国は、 共に国際連合加盟国であり、 条約法に関するウィーン条約及び海洋法に 関する国際連合条約の当事国である。 以上の事実関係を前提として、 以下の各設問に答えなさい。 なお、 各設問はそれぞれ独立したものであり、 相互に関係はないものとする。 〔設問1〕 租借条約の規定に従って、 B国がA国に対して最初の1億米ドルの支払を行うとともにP島の 利用を開始してから1か月後に、 突如として巨大地震が発生してP島全体が低潮時においても水中 に没することとなった。 この場合、 B国はA国に対してどのような主張を行うことができるか。 国 際法上の根拠を挙げながら論じなさい。 〔設問2〕 租借条約の締結に関するAB両国政府間の外交交渉の過程で、 A国政府はB国政府に対して、 P島には未開発の貴重な鉱物資源が埋蔵されている旨を公式に通告し、 B国は、 この情報に基づい て租借条約を締結した。 租借条約の発効後、 B国はA国に対して毎年1億米ドルの支払を行い、 別 途P島において多額の費用を掛けて鉱物資源の探査を行ったが、 貴重な鉱物資源は全く発見されな かった。 租借条約発効から3年が経過した時点で、 A国政府がB国政府に通告したような鉱物資源 はP島には埋蔵されていなかったことが明らかとなった。 この場合、 B国はA国に対してどのよう な主張を行うことができるか。 国際法上の根拠を挙げながら論じなさい。 〔設問3〕 租借条約発効の5年後、 A国政府の財政状況が更に悪化したため、 A国はB国と再度外交交渉を 行って租借条約を両国の合意に基づき終了させた上で、 新たに「P島の主権移譲に関するA国とB 国の間の条約」(以下「主権移譲条約」という。 )を締結し、 同条約はその後A国及びB国の議会 の承認を得て発効した。 主権移譲条約は、 P島に関する主権をA国からB国に完全に移譲する対価 として、 B国がA国に100億米ドルを支払うことを規定していた。 B国がA国に100億米ドル の支払を行いP島に関する主権がA国からB国に完全に移譲された後、 B国はP島を起点とする2 00海里の排他的経済水域及び大陸棚を設定する国内法を制定した。 これに対して、 B国と国境を 接し海に面しているC国は、 「P島は無人島であるため、 P島を起点としてB国の排他的経済水域 及び大陸棚を設定することは国際法に違反しており認められない。 」と主張して、 B国に抗議し た。 C国のこのような主張に対して、 B国はどのように反論できるか。 国際法上の根拠を挙げなが ら論じなさい。 なお、 C国も国際連合加盟国であり、 条約法に関するウィーン条約及び海洋法に関 する国際連合条約の当事国である。 (出題の趣旨) 【設問1】 本問は、 条約の終了に関する基本的論点についての理解を問うものである。 条約 法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。 )は、 条約の終了原因の1 つとして後発的履行不能を規定している(第61条)。 条約法条約第61条第1項 は、 「条約の実施に不可欠である対象が永久的に消滅し又は破壊された結果条約が 履行不能となつた場合」には、 条約当事国は当該履行不能を条約の終了の根拠とし て援用することができると規定する。 本問の租借条約は、 P島の利用を50年間に わたりB国に認める対価としてB国がA国に金銭を支払うことを義務付ける条約で あり、 租借条約が規定する利用の対象であるP島が地震の結果として低潮時におい ても水中に没することとなったことは、 「条約の実施に不可欠である対象」が「永 久的に消滅し又は破壊された結果条約が履行不能となつた場合」に該当するものと 解することができる。 したがって、 B国は条約法条約第61条を根拠として、 租借 条約の終了を主張することができる。 租借条約の終了が認められた場合、 P島の利用をB国に対して認めるというA国 が負っていた義務が終了すると同時に、 P島の利用の対価としてA国に対して毎年 1億米ドルの支払を行うというB国の義務も終了することになる(条約法条約第7 0条第1項(a))。 ただし、 条約法条約第70条第1項(b)は、 条約の終了により 「条約の終了前に条約の実施によつて生じていた当事国の権利、 義務及び法的状態 は、 影響を受けない。 」と規定しており、 P島の租借の対価としてB国がA国に対 して既に支払った1億米ドルの返還をB国がA国に対して要求することは、 法的に 難しいとも考えられる。 その場合には、 B国がA国に対して支払済みの1億米ドル のうち、 履行不能となった後の11か月分の租借料について返還請求を正当化する ためには、 例えば国際法上の「法の一般原則」の1つとして国際法上の不当利得返 還義務が確立していると主張するなど、 当該請求の国際法上の根拠を明確に示すこ とが必要とされよう。 【設問2】 本問は、 条約の無効に関する基本的理解を問うものである。 条約法条約は、 条約 の無効原因として第46条から第53条まで8つの規定を設けているが、 条約の有 効性の否認は条約法条約の適用によってのみ可能であると条約法条約第42条は明 記しているため、 ある条約が無効であることを主張するためには、 条約法条約が規 定するこれら8つの無効原因のいずれかに該当することを主張する必要がある。 租借条約の締結に向けたAB両国間の外交交渉の過程で、 A国はP島には未開発 の貴重な鉱物資源が埋蔵されている旨をB国に公式に通告しており、 B国はこの情 報が事実であるという前提で租借条約をA国との間で締結した。 租借条約の発効 後、 B国はA国に対して毎年1億米ドルの支払を行って租借条約の義務を誠実に履 行したが、 P島ではB国が租借条約締結の前提と考えていた貴重な鉱物資源は全く 発見されなかった。 租借条約の締結に向けたAB両国政府間の交渉の過程で、 A国 政府がP島には実際には鉱物資源は埋蔵されていないと知りながら、 埋蔵されてい るとの虚偽の情報をB国政府に公式に通告した結果としてB国が租借条約を締結し た場合、 B国はA国の詐欺行為により租借条約を締結したことになる。 条約法条約 第49条は、 「他の交渉国の詐欺行為によつて条約を締結することとなつた場合」 には、 条約当事国は「当該詐欺を条約に拘束されることについての自国の同意を無 効にする根拠として援用することができる。 」と規定する。 したがってB国は、 A 国の詐欺行為を租借条約に対するB国の同意を無効にする根拠として主張すること ができる。 また、 条約法条約第48条第1項は、 「条約についての錯誤が、 条約の締結の時 に存在すると自国が考えていた事実又は事態であつて条約に拘束されることについ ての自国の同意の不可欠の基礎を成していた事実又は事態に係る錯誤である場合」 には、 条約当事国は「当該錯誤を条約に拘束されることについての自国の同意を無 効にする根拠として援用することができる。 」と規定する。 したがって、 租借条約 の締結に向けたAB両国間の外交交渉の過程でA国政府がB国政府に行った公式の 通告に基づき、 P島には実際に貴重な鉱物資源が存在しているとB国が租借条約の 締結時に考えており、 かつ、 その事実を不可欠の基礎としてB国が租借条約を締結 した場合には、 B国はこのような錯誤を租借条約に対するB国の同意を無効にする 根拠として援用することができる。 ただし、 条約法条約第48条第2項に該当する 場合には、 B国は錯誤による同意の無効を主張できない。 A国の詐欺行為又はB国の錯誤のいずれかによる自国の同意の無効というB国の 主張が認められた場合、 条約法条約第69条第1項は「無効な条約は、 法的効力を 有しない。 」と規定しており、 租借条約は遡及的に無効になるものと解されるの で、 B国はこれまでに租借条約に基づきP島の租借の対価としてA国に支払った金 額3億米ドルの返還を請求することができる。 また、 B国はこれに加えて、 これま でにA国に対して支払った金額の利息分を請求することや、 A国による虚偽の通告 のためにB国がP島で行った鉱物資源の探査に要した費用の返還請求等を行うこと も考えられるであろう(条約法条約第69条第2項参照)。 【設問3】 本問は、 領土移転条約の第三国に対する効力、 そして海洋法に関する基本的理解 を問うものである。 B国は、 主権移譲条約に基づきP島に関する領域主権をA国か ら国際法上正当に取得しており、 このような領域主権の移譲を定めた二国間条約は 条約の第三国に対してもいわば物権的効果を有するため、 P島がA国領からB国領 になったことを主権移譲条約の第三国であるC国にも対抗できることを、 C国に主 張すべきである。 海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。 )は、 第8部 「島の制度」の第121条に島に関する規定を設けており、 B国とC国はいずれも 国連海洋法条約の当事国であるため、 両国は同条約の規定に従う法的義務を負う。 同条第1項によれば、 「島」とは、 「自然に形成された陸地であって、 水に囲ま れ、 高潮時においても水面上にあるものをいう。 」と定義されている。 また、 同条 第2項は、 「島の領海、 接続水域、 排他的経済水域及び大陸棚は、 他の領土に適用 されるこの条約の規定に従って決定される。 」と規定している。 同条第1項の 「島」の定義では、 人が居住していること(「無人島」でないこと)は「島」の要 件としては規定されておらず、 B国は、 同項の定義に従えばP島は国連海洋法条約 が規定する「島」に該当すると主張することができる。 そして、 このような「島」 を起点とする排他的経済水域及び大陸棚の設定に関しては、 同条第2項に従えば、 「他の領土に適用されるこの条約の規定」、 すなわち排他的経済水域の設定に関し ては国連海洋法条約第5部(第55条〜第75条)の規定、 大陸棚の設定に関して は国連海洋法条約第6部(第76条〜第85条)の規定が、 それぞれ適用される。 このうち、 排他的経済水域の設定に関しては第57条、 大陸棚の設定に関しては第 76条第1項が、 それぞれ「領海の幅を測定するための基線」から200海里まで 排他的経済水域と大陸棚を設定できることを定めている。 B国としては、 以上を根 拠としてP島を起点として200海里の排他的経済水域及び大陸棚をB国が国内法 によって設定することは国際法上違法ではない、 と主張することができよう。 他方で、 国連海洋法条約第121条第3項は、 「人間の居住又は独自の経済的生 活を維持することのできない岩は、 排他的経済水域又は大陸棚を有しない。 」と規 定している。 しかし、 B国としては、 P島が現在無人島であることはP島が「人間 の居住」ができないことを意味するものではなく、 またP島が「独自の経済的生活 を維持することができない」ことを意味するものでもないため、 P島は同項が規定 する「岩」であるとは解釈できず、 P島を起点とする200海里の排他的経済水域 及び大陸棚の設定は国際法上違法ではないと主張することができよう。 争いはある ものの、 現実の国際社会においても、 無人島を起点として排他的経済水域と大陸棚 を設定する国家実行は数多く存在しており(例えば、 日本が沖ノ鳥島を起点として 排他的経済水域及び大陸棚を設定している例など)、 B国としてはこのような国家 実行の例を具体的に挙げることにより、 C国の主張に反論することが考えられる。 [国際関係法(私法系)] 甲国人A男と日本人B女は、 Bがワーキング・ホリデー制度を利用して甲国に滞在していたときに同 じ職場で知り合い、 その後、 甲国で適法に婚姻した。 AとBは、 婚姻後5年ほど甲国で共同生活を送 り、 その間、 二人の間に子C(甲国及び日本の重国籍)が生まれた。 その後、 Aが日本の会社に転職す ることになり、 A、 B及びCは一緒に日本に移り住み、 それ以降、 日本に居住している。 AとBは、 乙国のリゾート地を気に入って長期の休暇の度に利用していたところ、 Aは、 日本に移り 住んでから1年後に、 不動産業者Y(乙国法人。 乙国に本店を有し、 乙国以外には営業所や財産を一切 有しておらず、 乙国以外で事業等を行っていない。 )との間で、 乙国のリゾート地の不動産αを購入す る契約を締結した。 以上の事実を前提として、 以下の設問に答えなさい。 なお、 各問は独立した問いである。 〔設問1〕 Aは、 不動産αを購入したものの、 その後AとBが共に仕事で忙しくなり、 乙国で長期の休暇を過ご すことが難しくなった。 そのため、 Aは、 不動産αを購入してから5年後、 Yに対して不動産αの転売 を相談したところ、 Yから、 転売ではなく期限付きの会員制施設利用権購入契約(1年のうち決められ た期間だけ対象施設の独占的利用権が付与される契約)の対象とすることを勧められ、 Yに不動産αの 運用を委託した。 Yは、 乙国への旅行客向けに、 乙国内の滞在型宿泊施設の会員制施設利用権の購入を 勧めるセミナーを乙国内で定期的に開催していた。 乙国を初めて旅行で訪れた日本人X(日本に常居所 ・住所を有する。 )は、 宿泊していたホテルのロビーに貼ってあったYの当該セミナーのポスターに目 を留めた。 Xは、 それまでYの名前を聞いたこともなくYという会社を知らなかったが、 セミナー会場 がホテルのすぐ近くであることや参加者には無料のアフタヌーンティーが提供されるとの宣伝文句に興 味をひかれ、 セミナーに行ってみることにした。 Xは、 セミナーの内容を聞き終わり、 アフタヌーンテ ィーも満喫したため、 Yの社員に「もう帰りたい。 」と告げた。 しかし、 Xは、 それまで愛想の良かっ たYの社員複数名から取り囲まれ、 「契約を締結しないと帰さない。 」と言われたため困惑し、 その場 で、 不動産αを毎年10月の1か月間独占的に利用することのできる会員制施設利用権購入契約(以下 「本件契約」という。 )をYとの間で締結し、 インターネットバンキングを利用して頭金100万円を 乙国所在のY名義の銀行口座に振り込んで支払った。 なお、 本件契約の契約書においては、 紛争解決条 項として、 「P条:本契約は、 乙国法に準拠し、 乙国法に従って解釈されるものとする。 Q条:本契約 に関する一切の紛争は、 乙国裁判所を専属的合意管轄裁判所とする。 」と明記されていた。 Xは、 日本に帰ってから本件契約を締結したことを後悔し、 契約締結後1か月が経った頃、 本件契約 に係る意思表示を取り消したいと思うようになった。 そこで、 Xは、 Yに対して、 日本の消費者契約法 第4条第3項第2号の適用及び同号に基づく本件契約に係る意思表示の取消しを主張した上で、 支払済 みの金銭の全額の返還を求める訴え(以下「本件訴え」という。 )を日本の裁判所に提起した。 〔小問1〕 本件訴えについて、 Yは、 「本件契約の契約書中のQ条に基づき乙国裁判所に専属的管轄合意 がされているため、 本件訴えは却下されるべきである。 」と主張している。 Yのこの主張は認めら れるかについて論じなさい。 Yのの主張が認められないとした場合に、 本件訴えについて、 日本の裁判所の国際裁判管轄 権が認められるかについて論じなさい。 〔小問2〕 Yは、 本件訴えについて日本の裁判所の国際裁判管轄権を争うことなく応訴した。 この場合におい て、 Xの日本法に基づく主張が認められるかについて、 準拠法の決定過程を示しながら論じなさい。 〔設問2〕 Aは、 日本に移り住んでから15年後に死亡した。 Aは、 遺言を作成しておらず、 Aの遺産として残 された財産は、 乙国所在の不動産α、 日本所在の動産及び日本の銀行に対する預金債権のみであったと ころ、 BとCとの間でAの遺産をどのように分割するかについて争いが生じた。 Cは、 日本の家庭裁判 所に対し、 Bを相手方として、 遺産分割の調停を申し立てたが、 調停事件は不成立により終了し、 遺産 分割の審判の申立てがあったものとみなされて、 審判に移行した。 裁判所は、 この遺産分割において、 動産及び銀行預金についてはB及びCの持分をそれぞれ2分の1ずつ、 不動産αについてはBの持分を 3分の1、 Cの持分を3分の2とすることを前提として審判をした。 裁判所が前提とした持分の判断に ついて、 準拠法の決定過程を示しながら説明しなさい。 なお、 甲国法には本問に関する範囲で、 以下の規定があるものとする。 【甲国法】 @ 被相続人の直系卑属は以下の規定に従って相続人となる。 第1号 親等が異なる者の間では、 その近い者を先にする。 第2号 親等が同じである者は、 同順位で相続人となる。 A 被相続人の配偶者は常に相続人となる。 この場合において、 @の規定によって相続人となるべき者 があるときは、 その者と同順位とする。 B 同順位の相続人が数人あるときは、 その相続分は以下の規定に従う。 第1号 直系卑属及び配偶者が相続人であるときは、 直系卑属の相続分は3分の2とし、 配偶者の相 続分は3分の1とする。 (第2号以下略) C 相続については、 被相続人の死亡時の常居所地法を適用する。 ただし、 不動産の相続については、 不動産の所在地法を適用する。 (出題の趣旨) 本問は、 国際的な消費者契約から生じる紛争事例を素材として国際裁判管轄権及 び準拠法に関する基本的な理解を問うとともに、 国際的な相続事例を素材として準 拠法に関する基礎的な理解を問うものである。 〔設問1〕は、 日本に常居所・住所を有する消費者が、 外国において当該国の事 業者との間で締結した契約(以下「本件契約」という。 )に関して、 消費者である Xが事業者であるYに対して提起した、 金銭の返還を求める訴え(以下「本件訴 え」という。 )について、 〔小問1〕(1)では、 XY間の国際裁判管轄の合意は 効力を有するか、 〔小問1〕(2)では、 国際裁判管轄合意の効力が認められない として、 日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められるかを問うものである。 〔小問1〕(1)は、 XY間に国際裁判管轄の合意が存在していることを前提 に、 本件契約が消費者契約であることを確認した上で、 民事訴訟法(以下「民訴 法」という。 )第3条の7第5項に定める諸要件に照らして、 当該管轄合意が効力 を有するとされるかについて論ずることが求められている。 〔小問1〕(2)は、 本件契約が消費者契約であることを踏まえ、 民訴法第3条 の4第1項の「訴えの提起の時又は消費者契約の締結の時における消費者の住所が 日本国内にあるとき」に該当するかの検討を行い、 同項に基づいて本件訴えについ て日本の裁判所の国際裁判管轄権が認められる場合には、 民訴法第3条の9による 訴えの却下が認められるか否かを丁寧に検討することが求められる。 〔設問1〕の〔小問2〕は、 消費者契約の準拠法についての理解を問うものであ る。 まず、 本件契約では、 XY間で準拠法が乙国法と合意されていることから、 消 費者契約においても準拠法を乙国法とする合意は法の適用に関する通則法(以下 「通則法」という。 )第7条に基づき有効とされる。 しかしながら、 通則法第11 条第1項によれば契約準拠法ではない消費者の常居所地法中の強行規定の適用の意 思表示をすることが可能であること、 ただし、 同条第6項に該当する事由があれば 同条第1項に基づく消費者の常居所地法中の強行規定の適用の意思表示に効果が認 められないことなどに照らして、 本件契約がどのように評価されるか検討する必要 がある。 特に、 本問では、 消費者たるXが、 自らの常居所地ではない国に赴いて、 同国に事業所のある事業者Yと、 同国で契約を締結しており、 この事実が通則法第 11条第6項第1号に照らしてどのように評価されるか、 また、 同号ただし書の適 用はあるかについて、 丁寧な検討が必要である。 〔設問2〕は、 遺産分割について裁判所の判断の前提となった相続分に関する準 拠法についての理解を問うものである。 相続分については相続の問題と法性決定さ れ、 通則法第36条により被相続人Aの本国法である甲国法が準拠法となるとこ ろ、 甲国法Cの準拠法規則が、 被相続人の死亡時の常居所地法として、 本問では日 本法を指定していることから、 通則法第41条の反致の成否が問題となる。 特に、 甲国法Cに従えば、 一般財産については被相続人の死亡時の常居所地法を指定しな がら、 不動産については不動産の所在地法を指定しているところ、 本問では不動産 が全て乙国に所在するため不動産については反致が成立し得ないことを、 裁判所が どのように評価して判断したかを正しく理解し、 説明することが求められている。