1 平成18年新司法試験論文式試験問題出題趣旨
2 【公法系科目】
3 〔第1問〕
4 本問は,
5 製造たばこの包装容器に警告文の表示を義務付ける立法措置が講じられたことによ
6 って特定販売業者に生じた損害について,
7 その回復のために考えられる二つの訴えを挙げさせ,
8
9 各訴えに関する憲法上の主張について,
10 原告側,
11 国側,
12 それぞれの立場から論じさせることに
13 より,
14 憲法上の争点を浮き彫りにさせた上で,
15 各争点についての解答者の見解と論拠を述べさ
16 せるものである。
17
18
19 本問の出題意図は,
20 法科大学院で行われている(行われるべき)授業に対応した設問という
21 点にある。
22
23 憲法理論について,
24 判例と学説の対立の中でそれぞれを正確に理解した上で,
25 自ら
26 の眼で事例を分析し,
27 問題点を発見し,
28 それを多面的・複眼的に検討し,
29 説得力のある理由を
30 付した一つの結論を導き出すことを求めている。
31
32 検討に当たっては,
33 理論的問題,
34 すなわち憲
35 法規範の意味の問題と,
36 事実の問題,
37 すなわち当該事案に関する事実や立法事実をどのように
38 とらえるかという問題があり,
39 両者を踏まえた考察が必要不可欠である。
40
41 もとより,
42 解答に当
43 たっては,
44 分析と検討の道筋や論拠を的確に述べる必要がある。
45
46
47 本問における核心的な問題は,
48 他者の意見を記載することを強制されること(消極的表現の
49 自由=強制からの自由),
50 及び,
51 商品回収や包装変更の点も含め,
52 その強制が自社の経費負担
53 の下で義務付けられること(憲法第29条第3項の損失補償における「特別の犠牲」の可能性)
54 に関わる憲法上の問題である。
55
56
57 設問1では,
58 まず,
59 損害を回復するための訴えとして,
60 国家賠償法に基づく国家賠償請求と,
61
62 憲法第29条第3項に基づく損失補償請求とを挙げることになる。
63
64 本問では損害を回復するた
65 めの訴えを尋ねており,
66 法律関係の確認訴訟は解答として不十分である。
67
68
69 次に,
70 原告訴訟代理人の主張として,
71 国家賠償請求に関しては,
72 本法律の違憲性,
73 具体的に
74 は,
75 消極的表現の自由,
76 営業の自由,
77 財産権等との関係を論ずることになろう。
78
79 また,
80 損失補
81 償請求に関しては,
82 憲法第29条第3項による直接請求の可否,
83 補償の要否等が問題となろう。
84
85
86 ここでいう消極的表現の自由とは,
87 他者の意見を記載することを「強制されない自由」であ
88 り,
89 本法律では警告文の「発信者」名が表示されず,
90 記載内容が特定販売業者の意見であると
91 思われる可能性があることから,
92 その制約の是非が問題となる。
93
94 消極的表現の自由が,
95 単なる
96 「言わない自由」や「沈黙の自由」ではないことを理解した上で論述することが期待される。
97
98
99 なお,
100 自己のスペースであるにもかかわらず,
101 包装のデザイン等を自分ですべて決めること
102 ができない点も,
103 表現の自由の制約として問題となろう。
104
105
106 また,
107 警告表示義務が実質上販売活動を制約するものであり,
108 また,
109 実際にたばこの販売に
110 マイナスの影響を与えていることから,
111 営業の自由の制約の是非が問題となる。
112
113 同様に,
114 本法
115 律による警告表示義務については,
116 財産権の制約の観点からもその制約の是非が問題となるし,
117
118 さらに,
119 経過措置の定めがない点も,
120 同様の観点から問題となる。
121
122
123 本法律による規制目的の正当性については原告も争っていないので,
124 本問においては,
125 規制
126 目的と手段の関連性や手段自体の相当性が主たる争点となる。
127
128 したがって,
129 原告側としては,
130 問題とする権利の根拠・内容や性格を明らかにし,
131 上記のような権利の制約が問題となること
132 を事実に基づいて的確に述べた上で,
133 国側からの予想される反論等をも念頭に置きつつ,
134 自己
135 の主張を説得的に述べることが期待されている。
136
137
138 他方,
139 損失補償請求に関しては,
140 他者の経費でたばこの包装に警告表示をさせること,
141 ある
142 いは,
143 経過措置を定めなかったことにより包装変更のため流通在庫の回収を余儀なくされたこ
144 とは,
145 憲法第29条第3項の「公共のために用ひる」に該当し,
146 正当な補償が与えられなけれ
147
148 -1-
149
150 ば同項に違反すると主張することになろう。
151
152
153 設問1と設問2の主張は,
154 規制を受ける私人と国は対抗的関係にあるから,
155 対応する主張が
156 なされるべきである。
157
158 その際,
159 憲法違反の主張においては,
160 あらゆる違反の可能性を主張する
161 というよりも,
162 違憲となる可能性の高い問題は何かを事例に照らして十分に検討した上で,
163
164 得的に主張することが期待される。
165
166
167 設問2の国側の主張においては,
168 原告側の主張に反論するための議論を行うことになるが,
169
170 その場合にも,
171 単なる理論的な反論だけではなく,
172 事例に依拠した主張が望まれる。
173
174 具体的に
175 は,
176 @健康の危害への警告は国家の任務に属すること,
177 A警告表示は喫煙者に喫煙による健康
178 被害を明確に認識させるため必要不可欠な措置であること,
179 B医学上の知識を伝えるものであ
180 り,
181 喫煙自体を禁止するものではないこと,
182 C他の措置(広告の禁止や税率の引上げ等)に比
183 べて,
184 警告表示義務はより緩やかな手段であること,
185 などを述べることが想定できよう。
186
187 なお,
188
189 このほか,
190 国家賠償法の下で請求を退けるための主張をすることも考えられる。
191
192
193 最後に,
194 設問3では,
195 以上を踏まえて,
196 解答者自身の見解を示すことが求められる。
197
198 そこで
199 は,
200 判例に基づく結論を示すことではなく,
201 多面的・複眼的な検討・考察の上で,
202 一つの筋の
203 通った帰結を導くことが必要である。
204
205 したがって,
206 設問3では,
207 設問1と設問2とは異なる「第
208 3の道」もあり得る。
209
210
211 〔第2問〕
212 本問は,
213 新司法試験の理念に基づき,
214 第一に,
215 時間内に問題文と資料から具体的事実関係及
216 び法令の趣旨を的確に読み取って把握する能力が備わっているか否かを試すことに主眼を置い
217 た。
218
219 そして,
220 第二に,
221 行政法総論及び行政訴訟に関する知識を踏まえ,
222 具体の事案に含まれた
223 法的問題の所在を把握した上で適切な訴訟方法を選択し,
224 及びそれと結び付いた本案の主張を
225 整合的に展開することができるか,
226 第三に,
227 国家賠償法上の基礎的な知識を踏まえ,
228 具体の事
229 案において的確な主張を組み立てる力があるか,
230 を試そうとしたものである。
231
232
233 設問1は,
234 判例の動向及び行政事件訴訟法の改正を踏まえて,
235 市長の規則制定行為と,
236 規則
237 を前提とした2項道路該当性とについて,
238 抗告訴訟及び当事者訴訟等の可能性を検討し,
239 また,
240
241 各訴訟形態にふさわしい本案の主張の可能性を検討して,
242 それぞれ解答することを求めたもの
243 である。
244
245
246 まず,
247 訴訟方法に関しては,
248 2項道路の一括指定について処分性は認められるが,
249 出訴期間
250 が経過していること(この点は資料に明示されている。
251
252 )を前提として,
253 いかなる形態の抗告訴
254 訟が考えられるか(一括指定の無効確認訴訟等),
255 及びセットバック義務不存在確認等の公法
256 上の当事者訴訟は可能か,
257 などを検討していることが求められる。
258
259
260 次に,
261 本案の主張に関しては,
262 @規則自体が,
263 財産権ないし既得の権利を侵害するものでな
264 いか,
265 建築基準法における2項道路制度の趣旨に照らし同法の委任の範囲を超えるものでない
266 か,
267 合併後の新規則制定に当たって旧市町それぞれの特殊事情につき公正な考慮が尽くされた
268 か等々の論点が考えられ,
269 資料の記載を用いながらそれらの違法性の主張を一定程度理由付け
270 ることができているか否かが問われる。
271
272 また,
273 A2項道路該当性に関する職員の回答の中で,
274
275 独立した二つの通路を一体ととらえて2項道路該当性を判断していること,
276 及び建築基準法に
277 規定された「立ち並んでいる」という要件を充足していると判断していることの適否が論点と
278 なることを,
279 資料から読み取ることができるかが問われる。
280
281
282 以上のほか,
283 2項道路該当性に関する職員の上記の判断が誤りであるとの本案の主張は,
284
285 括指定処分の無効確認訴訟においては失当であることに気付いていること,
286 行政事件訴訟法第
287 36条の原告適格要件を本件に当てはめることができていることなども含めて,
288 総合的に評価
289 される。
290
291
292 なお,
293 本問は,
294 問題文に引用された2項道路の処分性に関する最高裁判決そのものについて
295 -2-
296
297 詳しく知っていることを,
298 不可欠のものとして要求する趣旨ではない。
299
300
301 設問2は,
302 国家賠償法第1条の「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が,
303 その職務
304 を行うについて,
305 故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき」という諸要件の意義
306 を正確にとらえ,
307 それを本問の事案(市長の規則制定行為と,
308 2項道路該当性についての照会
309 に対する職員の回答)に具体的に当てはめることを求めたものであり,
310 上記諸要件の本件への
311 当てはめがどの程度できているかが,
312 採点の対象となる。
313
314 例えば,
315 職員による回答行為の「公
316 権力の行使」該当性,
317 故意過失・違法性等について,
318 資料の記載から一定程度具体的に理由付
319 けることができているかなどは,
320 評価に差が生ずるポイントとなる。
321
322
323 【民事系科目】
324 〔第1問〕
325 本問は,
326 株式会社(P社)が事業部門の一つを大株主(Q社)に譲渡する場合に,
327 当該譲渡
328 が株主総会の特別決議を要する事業譲渡に当たるかどうか,
329 及び事業譲渡となる場合において,
330
331 対価が不相当に少額であると見られるときに,
332 会社法上どのような問題が生じるかを問うもの
333 である。
334
335 具体的には,
336 主に次の各論点について,
337 制度の趣旨及び判例・学説の状況を理解した
338 上で整合的に論じることが求められる。
339
340
341 〔設問1〕では,
342 Q社がスポーツ施設の運営事業を承継するかどうか,
343 又はP社の競業避止
344 義務を特約で排除するかどうかがまだ明らかでない段階で,
345 P社における会社法上の手続の進
346 め方が問われている。
347
348 株主総会の特別決議を要する「事業譲渡」(会社法第467条第1項第
349 2号)の要素として,
350 一定の事業目的のために組織化され有機的一体として機能する財産の移
351 転が不可欠であることにほぼ争いはないが,
352 譲受人による事業活動の承継,
353 及び譲渡会社によ
354 る競業避止義務の負担を不可欠の要素と解すべきかについては,
355 判例・学説上争いがある。
356
357
358 業譲渡に株主総会決議が要求される趣旨に照らし,
359 丁寧に検討することが期待される。
360
361
362 本問の譲渡が総会決議を要する事業譲渡に当たる場合には,
363 更に事業の「重要な一部」(会
364 社法第467条第1項第2号)の譲渡に当たるかどうかの検討が必要となる。
365
366
367 なお,
368 P社がQ社にスポーツ事業部門を移転する方法としては,
369 吸収分割の方法も考えられ
370 るが,
371 この方法は株式買取請求権の行使を懸念するQ社の意向に沿わない。
372
373
374 〔設問2〕では,
375 総会決議を要する事業譲渡が既に行われた段階で(別紙契約書参照),
376
377 社法上の次のような問題を中心に検討することが求められる。
378
379 P社の事業譲渡の相手方である
380 Q社は,
381 同時にP社の議決権総数の40%を有する大株主であり(特別利害関係人),
382 P社の
383 株主総会において議決権を行使したと考えられる。
384
385 譲渡価額が,
386 Q社との関係の継続等を考え
387 合わせてもなお,
388 事業価値・資産価値に照らして著しくP社にとって不利であり,
389 P社の株主
390 総会決議に取消原因(会社法第831条第1項第3号)があることとなるか。
391
392 株主総会決議が
393 取り消されると決議は遡って無効となるが(会社法第839条・第834条第17号),
394 株主
395 総会決議を欠く事業譲渡契約の効力はどう解すべきか。
396
397 P社取締役は,
398 P社に対して損害賠償
399 責任(会社法第423条第1項)を負うか。
400
401
402 なお,
403 本問の事業譲渡は,
404 Q社取締役Aの利益相反取引となるが(会社法第356条第1項
405 第2号・第365条),
406 Q社取締役会の承認があり,
407 問題はない。
408
409
410 〔第2問〕
411 本問は,
412 債権譲渡を巡る多少複雑な事例について,
413 要件事実,
414 民法を中心とする民事実体法
415 上の処理の在り方及び民事訴訟法上の幾つかの論点についての事例に則した理解を問う融合問
416 題である。
417
418 事例分析力(法的問題点の発見能力),
419 論理的思考力,
420 法の解釈・適用能力,
421 文章
422 構成力や表現力等の基本的な能力が備わっているかを試したものであるが,
423 特に,
424 本問の事例
425 の特殊性を考慮しつつ,
426 当該事例に含まれる法的問題点を自分の頭で論理的かつ合理的に検討
427 -3-
428
429 し,
430 それを文章として的確に表現する能力が備わっているかに重点を置いて出題したものであ
431 る。
432
433
434 設問1は,
435 要件事実論についての理解の程度を試すものであり,
436 これまで議論があまりされ
437 ていない将来債権譲渡担保を巡る要件事実の問題をあえて取り上げることにより,
438 単なる知識
439 だけではなく,
440 証明責任の分配についての基本的理論と民事実体法の理論とを結合させつつ要
441 件事実を思考する能力を備えているかを試したものである。
442
443 したがって,
444 本問の事例における
445 将来債権譲渡担保の法的構成をどのように考えたか,
446 また,
447 @からCまでの各事実を請求原因
448 事実と解したか否かという結論よりも,
449 むしろ,
450 当該各結論を導いた理由を論理的に分かりや
451 すく精緻に展開しているかを重視している。
452
453
454 設問2の前半は,
455 共同訴訟人独立の原則と共同訴訟人間の証拠共通の原則について,
456 共同訴
457 訟の基本構造に遡って理解しているかを試す問題である。
458
459 また,
460 後半は,
461 弁論の併合によって
462 共同訴訟人間の証拠共通の原則が働くと,
463 Zが全く関与せずに実施された証拠調べで得られた
464 証拠資料が,
465 XZ間の不当利得返還請求訴訟においても使用されることになることから,
466 これ
467 によってZが被る不利益を,
468 その主張との関係において具体的に把握できるかを試すとともに,
469
470 民事訴訟法第152条第2項の趣旨及び共同訴訟における上記各原則を踏まえた上で,
471 弁論主
472 義及び手続保障という民事訴訟法の基本原則をも考慮しつつ,
473 上記Zの不利益を解消する方策
474 を具体的に説明することを求めたものである。
475
476
477 設問3は,
478 民法,
479 いわゆる動産・債権譲渡特例法及び商法の基本的知識を備えているかと,
480
481 本問の事例の特殊性を勘案しつつ,
482 論理的思考力を答案上で展開することができるかを試した
483 ものである。
484
485 本問の事例における将来債権譲渡担保が有効なものであること,
486 XZ間では債権
487 譲渡登記を先に備えたXが優先すること,
488 しかし,
489 XがBに対して登記事項証明書を交付して
490 する通知を行うことによって債務者対抗要件を具備する前にBがZに対してした弁済は有効な
491 ものであること,
492 Bが商品の瑕疵を理由に行った解除は有効であって,
493 BがZに対してした異
494 議をとどめない承諾をXが援用して解除の効果を否定することはできないことを正確に説明す
495 ることをまず求めている。
496
497 その上で,
498 Xが譲渡担保として取得する可能性のある第2回と第3
499 回の各売買契約に基づく代金債権の保証債務履行請求権の合計額が2700万円であって,
500
501 の被担保債権の残元本額2000万円を超えていることを踏まえて,
502 XA間,
503 XY間の関係を
504 どのように解釈すべきか,
505 また,
506 Xが被担保債権の満額を保証人Yに請求し得ることや,
507 Zが
508 500万円の債権を譲り受けるに当たって450万円の代金を支払っていることを踏まえて,
509
510 XがZに請求することができる不当利得返還請求の額をどのように解釈すべきか,
511 当該不当利
512 得返還請求権と当該保証債務履行請求権との関係をどのように解釈すべきかについて,
513 それぞ
514 れ自説を展開することを求めたものである。
515
516
517 設問4は,
518 判決の効力についての民事訴訟法の理解を試すものであって,
519 反射効肯定説と否
520 定説のそれぞれの見解の根拠と,
521 口頭弁論終結前に生じた解除事由に基づく口頭弁論終結後の
522 解除権の行使に関する既判力の時的限界を巡る議論についての各見解の根拠を正確に説明する
523 ことをまず求めている。
524
525 その上で,
526 後者の問題については,
527 XB間の訴訟におけるBの勝訴の
528 理由のうち,
529 売買契約の解除はXY間の訴訟の口頭弁論終結後にされたものであり,
530 当該解除
531 は買主であるBにしかすることができないものであることを踏まえ,
532 この場合における保証人
533 の地位についての民法上の解釈をも考慮しつつ,
534 Y側・X側,
535 それぞれの主張の根拠を展開す
536 ることを求めたものである。
537
538
539 【刑事系科目】
540 〔第1問〕
541 本問は,
542 捜査経過及び各被疑者ら事件関係者の供述内容等を素材として,
543 これらの証拠関係
544 から認定すべき具体的事実に基づき甲乙両名の罪責を問うことにより,
545 刑事実体法に関する正
546 -4-
547
548 確な知識と理解,
549 具体的事実への法適用能力及び論理的思考力を試すものである。
550
551
552 まず,
553 甲乙両名の罪責を検討する上で必要な刑事実体法上の問題点を的確に抽出した上,
554
555 問題点を解決するに当たって,
556 問題文に明記されているとおり,
557 具体的な事実を示して論じる
558 ことが要請される。
559
560 一例を挙げると,
561 甲が丁の左腕をバットで殴打した行為につき,
562 正当防衛
563 ないし過剰防衛の成否を論じる際には,
564 甲は,
565 自分が寮2階の自室から丙及び丁のいる寮の外
566 まで降りて行かない限り,
567 丙及び丁の方から押しかけて来ることはなく,
568 逆に,
569 自分が降りて
570 行けば丙及び丁とけんかになるに違いないと思っていながら,
571 丙及び丁の態度に怒りを抑える
572 ことができず,
573 あえて降りて行ったこと,
574 その際,
575 甲は,
576 丙及び丁が凶器になるような物を持
577 っている様子はないことを認識しながら,
578 素手では丙及び丁に負けてしまうと考え,
579 バット及
580 びカッターナイフを持ち出していること,
581 甲は,
582 かねてから丙と不仲であり,
583 丙の親友である
584 丁ともほとんど口をきかない間柄であった上,
585 事件直前にも丙とけんかをして顔面を殴られる
586 などしたため,
587 丙に対し強い憤りを覚えていたという経緯があること,
588 等の具体的事実を示し
589 た上で,
590 本件において甲が丙及び丁に対してどのような意思をもって対応したかを論じること
591 が必要である。
592
593
594 また,
595 甲乙両名の罪責を検討する上で解決が必要となる複数の問題点について,
596 相互の論理
597 的な関係を正確に把握し,
598 ある問題点について認定すべき事実関係に基づいて導かれる結論が,
599
600 別の問題点の検討の要否にどのように影響するかを意識した,
601 整合性のある論述が要請される。
602
603
604 一例を挙げると,
605 甲乙間に丙に対する暴行についての共謀の成立を認めた場合,
606 たとえ丙の死
607 亡が甲乙いずれのカッターナイフによる切り付け行為によって生じたか不明であっても,
608 甲に
609 ついては,
610 自己の行為か乙との共謀による乙の行為のいずれかによって丙を死亡させたと言う
611 ことができるのであるから,
612 刑法第207条の適用について検討するまでもなく丙の死亡につ
613 いて責任を負うことを,
614 明確に論じる必要がある。
615
616
617 このように,
618 本問は,
619 実務法曹を志す者として必要と考えられる,
620 具体的事実に基づく分析
621 と問題点相互の論理的構成について基本的な能力を試すことを中心としたものである。
622
623
624 〔第2問〕
625 本問は,
626 捜査・公判に関する具体的事例を素材として,
627 そこに生起する刑事手続上の問題点
628 を抽出・分析させ,
629 その解決に必要な法解釈と,
630 法適用にとって重要な具体的事実の分析・評
631 価や具体的帰結に至る過程を論述させることにより,
632 刑事訴訟法及び関係法令の解釈に関する
633 学識とその適用能力及び論理的思考力を試すものである。
634
635
636 設問1では,
637 いわゆる職務質問・所持品検査等の可否,
638 これに伴う有形力行使の限界,
639 逮捕
640 に伴う無令状捜索・差押えの可否などについて,
641 刑事訴訟法等が定める手続・制度の趣旨に関
642 する正確な理解を踏まえて,
643 その要件解釈と該当事実を検討する必要がある。
644
645
646 設問2では,
647 刑事証拠法上最も基本的な準則の一つである「伝聞法則」の正確な理解を踏ま
648 えた上で,
649 本件メモがどのような状況で作成され,
650 その記載にはどのような法的意味があるの
651 かに留意しつつ,
652 「共謀」を立証するために考えられる要証事実(立証事項)の選定及び要証
653 事実との関係における伝聞法則の適用の有無などについて検討する必要がある。
654
655 なお,
656 設問1
657 において本件メモの押収手続を違法と評価する場合には,
658 いわゆる「違法収集証拠排除法則」
659 適用の当否についても検討が必要である。
660
661
662 いずれの問題点についても,
663 法解釈論や要件の存否を抽象的に論じるにとどまることなく,
664
665 事例中に現れた具体的な事実関係を指摘しつつ,
666 それらの事実関係がどの要件の存否を基礎付
667 けているのかを的確に論じることが要請されている。
668
669
670 【選択科目】
671 [倒
672
673
674
675 法]
676 -5-
677
678 〔第1問〕
679 賃貸人につき破産手続が開始された場合の賃貸借契約の帰趨及び賃借人の敷金返還請求権の
680 回収方法並びに賃貸人につき再生手続が開始された場合の敷金返還請求権の保護の在り方につ
681 いて,
682 それぞれ問うものである。
683
684
685 1.は,
686 破産管財人の解除権(破産法第53条第1項)の破産法第56条第1項による制限
687 に言及すべきである。
688
689
690 2.は,
691 敷金返還請求権を有するBが,
692 賃借物件の明渡し前にA社の破産管財人に賃料債務
693 を弁済する際の弁済金の寄託請求の可能性(破産法第70条後段)に言及すべきであり,
694 その
695 際,
696 寄託についての法律関係と明渡し後のBの請求の具体的内容とについて明らかにする必要
697 がある。
698
699
700 3.は,
701 上記2.の寄託請求を通じて回収できない部分の敷金返還請求権の破産手続におけ
702 る行使方法を問うており,
703 いわゆる打切主義(破産法第198条第2項)を含めた停止条件付
704 債権である破産債権の行使方法を明らかにする必要がある。
705
706
707 4.は,
708 賃借人が,
709 再生手続の開始後に賃料債務を弁済した場合の敷金返還請求権の共益債
710 権化(民事再生法第92条第3項)及び共益債権の再生手続上の取扱い並びに共益債権化され
711 ない敷金返還請求権の再生債権としての行使方法について言及すべきである。
712
713
714 〔第2問〕
715 保証行為及び物上保証行為が無償否認の対象になるか否かを問うものである。
716
717
718 設問1では否認を肯定する立場から,
719 設問2では否認を否定する立場から,
720 それぞれ反対説
721 の論拠も踏まえて論理的かつ説得的な論述を展開する必要がある。
722
723 最判昭和62年7月3日民
724 集41巻5号1068頁(以下「昭和62年判決」という。
725
726 )の反対意見も含めた判旨及びそ
727 れを巡る議論の正確な理解が要求される。
728
729
730 設問1では,
731 一般的な場面における無償否認の成否が問題となる。
732
733 昭和62年判決における
734 多数意見のような立場に基づき論じることになるが,
735 それに対する相手方の反論として,
736 同判
737 決における島谷裁判官の反対意見のような議論を指摘し,
738 無償否認の趣旨・根拠に遡った形で
739 論旨を展開する必要がある。
740
741
742 設問2においては,
743 上記設問1とは異なり,
744 否認を否定する立場からの論述が求められる。
745
746
747 「CがA社の代表者であるという点を考慮に入れて」論じるものとされているため,
748 いわゆる
749 同族会社に関する特別の考慮が問題となる。
750
751 昭和62年判決の林裁判官の反対意見のような立
752 場に基づき論じることになるが,
753 それに対する反対論(同判決の多数意見のような見解等)を
754 も踏まえて,
755 議論を組み立てていく必要がある。
756
757
758 [租
759
760
761
762 法]
763
764 第1問,
765 第2問とも,
766 法科大学院における租税法の基本的知識の習得を前提として,
767 具体的
768 事案に即して,
769 その基礎的な理解を問い,
770 併せて,
771 事案を分析し,
772 主張を整理する力を試すも
773 のである。
774
775
776 〔第1問〕
777 本問は,
778 譲渡所得の理解を問うものである。
779
780 設問1については,
781 個人の居住の用に供される
782 不動産を取得するための借入金の利息が,
783 所得税法第38条第1項の取得費に当たるかどうか
784 の検討を通じて,
785 譲渡所得の課税の本質,
786 法が譲渡所得につき取得費等のみを控除項目として
787 いることの意味の理解を問うとともに,
788 借入金利息の性質から自説を論理一貫して論述するこ
789 とができるかどうかについて試している。
790
791 設問2については,
792 前段は,
793 租税法律主義の下にお
794 いて,
795 課税庁が,
796 私法上の契約を利用した租税回避行為について,
797 その実質を根拠とする否認
798 をどこまで行うことができるのか,
799 すなわち,
800 事実認定や法解釈として何が可能であるのかを
801 -6-
802
803 問うものである。
804
805 後段は,
806 売買と交換の場合の違いを通じて,
807 譲渡所得の算定における収入金
808 額の理解を問うとともに,
809 取得の際の時価について事実をどのように評価するのかを問うもの
810 である。
811
812
813 〔第2問〕
814 本問は,
815 役員賞与の認定について問うものである。
816
817 税務署長がいかなる法律構成によって本
818 件更正及び本件納税告知をしたかを分析し,
819 それに対応する形で主張を組み立てる能力を試し
820 ている。
821
822 すなわち,
823 役員賞与であると認定した場合には,
824 役員の給与所得(所得税法第28条)
825 として源泉徴収の対象となること(所得税法第183条),
826 法人側で損金不算入(法人税法第
827 35条)になり,
828 寄附金(法人税法第37条)にはならないことを理解した上で,
829 指示された
830 「本件寄付行為の主体がY社である」との主張を組み立てるために必要な間接事実をいかに事
831 案から抽出できるのか,
832 予想される税務署長の主張を念頭に置いて,
833 当該事実につきどれほど
834 多角的な見地から評価を加え,
835 どのように整合性のある立論ができるのかを問うている。
836
837
838 [経
839
840
841
842 法]
843
844 〔第1問〕
845 設問1は,
846 メーカーによる流通支配の典型的事例を基にして,
847 再販売価格維持,
848 取引拒絶な
849 どに関して独占禁止法の基本的な解釈を問うものである。
850
851 小問(1)では,
852 一般指定12項に
853 おける「拘束」の意義,
854 小問(2)では,
855 さらに,
856 再販売価格維持と一般指定2項の取引拒絶
857 の関係,
858 これらの公正競争阻害性について説くことが求められている。
859
860
861 設問2は,
862 供給停止を受けた事業者が採り得る民事裁判手続を問うもので,
863 経済法と民事法
864 の接点領域の問題である。
865
866 化粧品等についての過去の裁判例でも,
867 契約上の地位の確認訴訟,
868
869 商品引渡請求訴訟などがあった。
870
871 ここでは,
872 契約上の地位確認訴訟・商品引渡請求訴訟のほか,
873
874 損害賠償請求訴訟,
875 差止請求訴訟をも論ずることとなろう。
876
877 本問の事実関係を基にして,
878 これ
879 らの訴えを構成し得ること,
880 また,
881 請求の趣旨及び請求の原因となる事実について簡潔に摘示
882 することが求められており,
883 個々の詳しい法律論を展開することまでは要求されない。
884
885
886 〔第2問〕
887 設問1は,
888 事業者団体の主要な構成事業者が行った価格協定と生産設備制限に関連して,
889
890 3条後段等の主要な要件の基本的な理解を問うものである。
891
892 具体的には,
893 これらの行為が事業
894 者団体の行為として評価されるのか,
895 事業者の行為なのかという法3条後段と法8条の関係(本
896 問では事業者の行為と評価される。
897
898 ),
899 追随した事業者も独禁法違反とされるのか,
900 何が競争の
901 実質的制限に当たるのか,
902 当たらないのかなどについて論じることが求められる。
903
904
905 設問2は,
906 設問1と類似の行為が,
907 全事業者が参加した事業者団体の決議という形式によっ
908 て行われた場合において,
909 その行為が,
910 事業者団体の行為として法8条に違反するか,
911 事業者
912 間の競争制限行為として法3条後段に違反するか,
913 あるいは,
914 両方の違反が同時に問われるの
915 かなどについて,
916 法3条後段と法8条の要件と効果を踏まえて簡潔に答えることを求め,
917 法3
918 条後段と法8条についての基本的な理解を問うものである。
919
920
921 なお,
922 設問1,
923 設問2ともに,
924 種々の見解があり得るが,
925 それらの解答は互いに矛盾がない
926 ものであることが必要である。
927
928
929 [知的財産法]
930 〔第1問〕
931 1.は,
932 均等論(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁〔ボールスプライン事
933 件〕参照)及び間接侵害(特許法第101条第3号・第4号)に関する理解を問うものである。
934
935
936 -7-
937
938 X発明は注射液の調整方法に関する方法の発明であるが,
939 Y注射器を用いた注射液の調整方
940 法はX発明の構成要件のすべてを充足せず,
941 また,
942 方法の発明の「実施」の点から,
943 Y注射器
944 を製造販売するYの行為は直接侵害を構成するものではない。
945
946 そのため,
947 Yの行為がX特許権
948 の侵害となる場合として,
949 X発明と均等な方法の使用に用いる物の製造販売による間接侵害の
950 成否が問題となり,
951 本問の事実関係においてこの問題を論じることが求められる。
952
953
954 2.は,
955 補正と均等論の適用との関係に関する理解を問うものである。
956
957 前掲最高裁判決にお
958 ける均等論の第5要件(「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から
959 意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき」)が充足されるか否かにつき,
960
961 補正が拒絶理由を回避するためになされた場合とそうでない場合とで差異を生じるかどうかに
962 ついて論じることが求められる。
963
964
965 3.は,
966 間接侵害の成立に直接侵害の存在が前提とされるか否かという点を問題とするもの
967 である。
968
969 Y注射器を使用するのが専ら患者本人である場合には,
970 その使用は「業として」の実
971 施(特許法第68条)に当たらないため,
972 直接侵害が存在しないこととなるが,
973 この場合に間
974 接侵害が成立するかどうかについて論じることが求められる。
975
976
977 〔第2問〕
978 本問は,
979 美術雑誌に掲載された文楽人形αを撮影した写真βを一部削除した上でカレンダー
980 に掲載した丙に対する甲及び乙の著作権法上の法的主張を問うものであり,
981 以下の点について
982 論述した上で,
983 結論として,
984 甲及び乙が丙に対してどのような権利に基づいていかなる請求を
985 することが可能であるかを明示することが求められる。
986
987
988 まず,
989 甲及び乙が文楽人形α及び写真βについて著作権・著作者人格権を有するかどうかを
990 明らかにしなければならず,
991 そのために,
992 文楽人形α及び写真βのそれぞれについて,
993 著作物
994 性の有無,
995 著作物である場合の著作者・著作権者につき論じなければならない。
996
997 写真βに関し
998 ては,
999 特に,
1000 その著作物性を判断する際に考慮すべき要素との関連において写真被写体の作出
1001 に関与した乙の行為を検討することにより,
1002 甲の単独著作物であるか又は甲と乙の共同著作物
1003 であるかという点を論じることが求められる。
1004
1005
1006 次に,
1007 甲及び乙が有するどのような権利が,
1008 丙の行為によって侵害されるかを論じなければ
1009 ならない。
1010
1011 甲に関しては,
1012 写真βについての複製権,
1013 譲渡権,
1014 同一性保持権及び氏名表示権の
1015 侵害の有無につき論述することが求められる。
1016
1017 乙に関しては,
1018 文楽人形α及び写真βについて
1019 の複製権,
1020 譲渡権,
1021 同一性保持権及び氏名表示権の侵害の有無につき論述することが求められ
1022 る。
1023
1024
1025 [労
1026
1027
1028
1029 法]
1030
1031 〔第1問〕
1032 本問において,
1033 Xの代理人として請求するのは,
1034 平成18年3月分賃金27万円と退職金1
1035 18万円(退職金規程(規程)により算出される。
1036
1037 )の支払いであることは明らかであろう。
1038
1039
1040 これらの請求につき,
1041 Yの言い分から考えられる主な争点としては,
1042 @Xに対する懲戒解雇
1043 と規程第8条第2号該当性,
1044 A規程第9条第3号による退職金支給制限の効力と同号該当性,
1045
1046 B誓約書における退職金債権全額放棄約束の効力,
1047 CYによる賃金・退職金を受働債権とする
1048 相殺の可否が挙げられる。
1049
1050 これらの争点につき主として論ずべき事項としては,
1051 @については,
1052
1053 Xの辞職の意思表示の効力発生時期と懲戒解雇の意思表示の時期との先後関係からみた規程第
1054 8条第2号該当性,
1055 Aについては,
1056 退職金の賃金(労働基準法第11条)該当性及び法的性質,
1057
1058 退職金支給制限規定が同法第24条等に違反して無効となるか否か,
1059 退職後の競業行為を理由
1060 とする退職金支給制限の可否など,
1061 Bについては,
1062 規程第9条第3号との関係での同法第93
1063 条の適用,
1064 退職金債権放棄の可否など,
1065 Cについては,
1066 同法第24条第1項の全額払原則が使
1067 -8-
1068
1069 用者のなす相殺に及ぶかなどの点が挙げられ,
1070 それぞれにつき本問の事実関係を踏まえた検討
1071 が必要となる。
1072
1073
1074 〔第2問〕
1075 本問は,
1076 不当労働行為の成立要件及び法的救済手段に関する理解を問うものである。
1077
1078
1079 成立要件に関しては,
1080 Y社が団体交渉を拒否した行為,
1081 及び,
1082 Y社の総務課長であるCの発
1083 言が,
1084 それぞれ不当労働行為を成立させるか否かが問題となる。
1085
1086 この判断のためには,
1087 Y社が
1088 労働組合法第7条における「使用者」と言えるのか,
1089 要求された交渉事項のうちどの事項につ
1090 いて団交拒否の不当労働行為が成立するのか(労働組合法第7条第2号),
1091 総務課長であるC
1092 の発言がY社の不当労働行為と言えるのか,
1093 使用者側の発言がいかなる場合に不当労働行為を
1094 成立させるのか(労働組合法第7条第3号)等の問題を検討する必要がある。
1095
1096
1097 法的救済手段に関しては,
1098 労働委員会に対する不当労働行為救済申立て(労働組合法第27
1099 条第1項)と裁判所に対する訴えの提起等が考えられるが,
1100 労働組合が前者の申立てをするた
1101 めには,
1102 労働組合法に定められた要件を満たしている必要がある(労働組合法第5条第1項)。
1103
1104
1105 また,
1106 裁判所での手続については,
1107 団交拒否に対してどのような訴訟や仮処分が考えられるの
1108 かという点や,
1109 不当労働行為に関する損害賠償請求の可能性とそのための要件等を検討する必
1110 要がある。
1111
1112
1113 [環
1114
1115
1116
1117 法]
1118
1119 〔第1問〕
1120 設問1は,
1121 適法な処理委託を受けた産業廃棄物処理業者が不法投棄をした場合に,
1122 委託をし
1123 た排出事業者が廃棄物処理法上どのような責任を負うかについての新旧条文の違いを読み取る
1124 能力を試している。
1125
1126 措置命令に関しては,
1127 [資料]に示されている旧規定(第19条の4)し
1128 かなかった改正前法とは異なり,
1129 2000年改正では,
1130 適法な処理委託をした排出事業者も措
1131 置命令の対象となることを定めた現行法第19条の6が新設されたことを指摘できるか,
1132 同条
1133 の命令発動要件の具体的内容について,
1134 条文を引用しつつ,
1135 正確にまとめることができるかが,
1136
1137 問われている。
1138
1139
1140 設問2は,
1141 現行法第19条の6の背景にある法政策を,
1142 更に深く問うものである。
1143
1144 問題中に
1145 「排出事業者処理責任」と記されているが,
1146 これが,
1147 環境法の基本原則の一つである「汚染者
1148 負担原則」に基づいておりそれが排出事業者の責任規定にどのように反映されているかの理解
1149 が,
1150 問われている。
1151
1152 旧規定をその観点から評価した上で,
1153 排出事業者側が契約上優位に立って
1154 安価な料金設定を求めていたことが不法投棄の一因となっていたことなどを指摘し,
1155 現規定が
1156 それをどのように修正しているかを整理できるか,
1157 その修正をどのように評価すべきかが,
1158
1159 われている。
1160
1161
1162 法律条文の正確な理解はもちろん,
1163 それ以上に,
1164 個別規定の法政策及びその発展を,
1165 環境法
1166 の基本原則という大きな枠組みの中で把握することが,
1167 求められている。
1168
1169
1170 〔第2問〕
1171 設問1は,
1172 DらのAに対する訴訟について問うものであり,
1173 私権としての環境権・人格権に
1174 基づく訴訟についての裁判例の立場の理解と,
1175 それについての学説の議論の理解を確かめるも
1176 のである。
1177
1178 自然享有権や自然の権利について触れると,
1179 より望ましい。
1180
1181
1182 設問2は,
1183 環境紛争の未然防止のためにどのような法政策があるかを考える力を試している。
1184
1185
1186 ゾーニング,
1187 環境影響評価,
1188 その他のもの(種としての指定,
1189 協定,
1190 買上げ,
1191 環境管理計画,
1192
1193 団体訴訟・市民訴訟についての法律上の規定の導入,
1194 住民参加手続など)が挙げられる。
1195
1196 ゾー
1197 ニングと環境影響評価は,
1198 最も重要な法政策として,
1199 記述することが期待される。
1200
1201 また,
1202 環境
1203 -9-
1204
1205 法の理念としての「環境権」は,
1206 憲法第13条,
1207 第25条を根拠とする学説が有力であるが,
1208
1209 環境基本法第3条,
1210 第19条とも一定の関連をもっている。
1211
1212 この点に触れつつ,
1213 参加権の側面
1214 を含めた環境権の意義に触れ,
1215 上記の法政策はこれを実現するための方策であるとの理解を示
1216 して欲しい。
1217
1218
1219 このように,
1220 本問は,
1221 環境権を中心とし,
1222 環境法全体について総合的な理解をしていること
1223 を問うものである。
1224
1225
1226 [国際関係法(公法系)]
1227 〔第1問〕
1228 本問は,
1229 @国内規制の外国人財産の収用該当性,
1230 A署名後・効力発生前の条約の効力,
1231 B外
1232 国人財産収用に関する慣習国際法上の要件に関する理解を問うものである。
1233
1234
1235 @については,
1236 国家が外国人財産を直接に取り上げるのではなく,
1237 国家規制によって外国人
1238 投資家が事業を継続できない状態に陥り,
1239 その結果,
1240 投資財産が無価値になったことが外国人
1241 財産の「収用」に当たるかどうかを検討して欲しい。
1242
1243
1244 次に,
1245 国家の規制が財産「収用」に該当すると仮定して,
1246 A及びBの問題を検討する必要が
1247 ある。
1248
1249 まずAについては,
1250 条約法に関するウィーン条約第18条は,
1251 条約の批准等を条件とし
1252 て条約に署名した国は,
1253 署名時から条約の当事国とならない意図を明らかにする時までの間,
1254
1255 条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務を負うと規定
1256 する。
1257
1258 本問では,
1259 B国内で多額の投資を行っている唯一の企業を,
1260 署名のみを済ませたA・B
1261 両国間の投資保護協定第10条に反した形で「収用」すれば,
1262 投資保護条約について,
1263 条約法
1264 に関するウィーン条約第18条にいう条約の趣旨及び目的を失わせる行為を行ったことになる
1265 かどうかの検討が要求される。
1266
1267
1268 Aの検討と並んで,
1269 Bについては,
1270 慣習国際法上,
1271 国家が外国人財産を収用する際には,
1272
1273 (a)
1274 公共目的で実施する,
1275 (b)差別的に実施しない,
1276 (c)金銭補償を行うという義務を負うこと
1277 を示し,
1278 本問の事実関係においてこれらの要件が充足されているかどうか,
1279 特にどの程度の金
1280 銭補償が要求できるかを検討することが要求される。
1281
1282
1283 なお,
1284 本問では,
1285 Y社救済のためにA国外務省が乗り出すことは,
1286 通常「外交保護」と呼ば
1287 れるが,
1288 本文ではA国が外交保護権を行使できることが問題の中で前提として示されており,
1289
1290 特に問われていない。
1291
1292
1293 〔第2問〕
1294 本問は,
1295 国際法の法源(慣習国際法の成立要件)・国際法平面における国内法の援用禁止原
1296 則・主権国家に対する不干渉原則という,
1297 国際法の基本構造に関する三つの論点を柱としてお
1298 り,
1299 何よりもまずその正確で過不足のない理解を問う。
1300
1301 それに加えて,
1302 事例の中に現れている
1303 国際社会の「現代的な」特徴がその基本構造にどのような影響を与えるかについて,
1304 必ずしも
1305 一致してはいない学説や実践を踏まえながら,
1306 自己の見解を問うものである。
1307
1308
1309 論点は特定されており,
1310 各々につき,
1311 基本的事項や要素の過不足のない正確な記述が求めら
1312 れる。
1313
1314 さらに,
1315 事例に現れる国際社会の現代的特徴―国連総会決議及びそこでの諸国の主張が
1316 慣習国際法の成立に対して持ち得る効果・慣習国際法の実効性の担保(総会決議や総会での議
1317 論だけで慣習国際法の成立を認めてよいか)・一国のODA政策が国際的関心事足り得る状況
1318 (慣習国際法による当該事象への規律の成立や国連総会による討議や決議などの意義)・経済
1319 的圧力が強制的関与の効果を持ち得る状況(現代における経済関係の重みや国内法の改廃要請
1320 の影響)といった諸要因―を事例から注意深く読み取って,
1321 これらを国際法の基本構造にいか
1322 に反映させるかについて,
1323 自己の見解を論証することが求められている。
1324
1325
1326
1327 - 10 -
1328
1329 [国際関係法(私法系)]
1330 〔第1問〕
1331 本問は,
1332 渉外的な離婚に伴う夫婦間及び親子間の扶養義務並びに親権に関する国際私法上の
1333 諸問題について問うものである。
1334
1335
1336 設問1は,
1337 扶養料の支払いを命ずる外国判決について,
1338 我が国におけるその承認要件の一つ
1339 である間接裁判管轄の有無について問うものである。
1340
1341 我が国の国際民事訴訟法による間接裁判
1342 管轄の有無を判断する基準を示した上で,
1343 扶養料請求事件における扶養権利者の住所地に管轄
1344 を認めるべき事情等に配慮した論述が求められる。
1345
1346
1347 設問2は,
1348 我が国で承認される扶養料の支払いを命ずる外国判決がある場合の扶養料減額請
1349 求の準拠法を問うものである。
1350
1351 扶養義務の準拠法に関する法律第4条第1項の「離婚について
1352 適用された法律」についての正確な理解が求められる。
1353
1354
1355 設問3は,
1356 離婚に伴う子の親権に関する準拠法を問うものである。
1357
1358 この点は,
1359 子を基準とす
1360 る法例第21条の親子関係の準拠法によるとする見解が多数説であり,
1361 その論拠を示した上で,
1362
1363 二重国籍を有する子の本国法を同法第28条第1項ただし書によって特定し(日本法),
1364 同法
1365 第21条の同一本国法を決定する処理を行う必要がある。
1366
1367
1368 〔第2問〕
1369 本問は,
1370 企業間における国際的な動産売買の目的物(特定物であるワイン)に瑕疵があった
1371 場合の国際私法上の諸問題及び動産に関する物権の得喪の準拠法について問うものである。
1372
1373
1374 設問1は,
1375 瑕疵担保責任としての損害賠償請求の国際裁判管轄について問うものである。
1376
1377
1378 産関係事件の国際裁判管轄の有無の判断基準を示した上,
1379 我が国に義務履行地国(民事訴訟法
1380 第5条第1号)としての管轄が認められるか否かを検討する必要がある。
1381
1382 本件の契約準拠法で
1383 ある日本法によれば,
1384 金銭債務の履行地は債権者の住所地である日本ということになるが(民
1385 法第484条,
1386 商法第516条第1項),
1387 本来の債務であるワインの引渡しの履行地としては
1388 甲国が合意されており(FOB),
1389 国際民事訴訟法の観点から,
1390 本来の引渡債務が損害賠償債
1391 務に転化した場合の義務履行地をどのように解するかを示す必要がある。
1392
1393
1394 設問2は,
1395 買主がワインの瑕疵を陸揚げから1年後に発見した場合の処理を問うものである。
1396
1397
1398 契約準拠法である日本法を前提とし,
1399 瑕疵担保責任の除斥期間を定める商法第526条につ
1400 き,
1401 その要件該当性(当事者の商人性,
1402 同条第2項前段が適用されるのか,
1403 後段が適用される
1404 のかなど)を論ずる必要がある。
1405
1406
1407 設問3は,
1408 ワインの所有権の帰属(得喪)の準拠法及びその適用結果を問うものである。
1409
1410
1411 例第10条第1項及び第2項のそれぞれの適用範囲の理解を前提に単位法律関係を示し,
1412 同条
1413 第2項の「原因タル事実ノ完成シタル当時ニ於ケル目的物の所在地法」を特定(甲国法)して,
1414
1415 甲国法の本件への当てはめを丁寧に行う必要がある。
1416
1417
1418
1419 - 11 -
1420
1421