1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 1
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 次の文章(資料@からBまでを含む。
8
9 )を読んで,
10 後記の設問1及び設問2に答えよ。
11
12
13 1. 甲株式会社(以下「甲会社」という。
14
15 )は,
16 自動車の電子部品を製造する会社である。
17
18 甲会社は
19 兄弟であるA1とB1が中心となってその設立を行ったものであり,
20 その後も,
21 A1が代表取締
22 役社長,
23 B1が取締役副社長として,
24 甲会社の共同経営を行ってきた。
25
26
27 2. 甲会社は,
28 平成7年4月に,
29 多角化の一環として,
30 ゲームソフト開発部門を創設した。
31
32 その際,
33
34 B1と親交があったCがゲームソフト開発部門の責任者に就任した。
35
36 Cの入社を契機として,
37 甲
38 会社の業績は急速に向上した。
39
40 甲会社は,
41 平成15年4月には,
42 東京証券取引所(マザーズ)に
43 上場を果たした。
44
45 初値は1560円を記録し,
46 その後も,
47 甲会社の株価は1000円台で推移し
48 た。
49
50
51 3. 甲会社の取締役会は5名で構成され,
52 A1及びその妻A2,
53 B1及びその友人B2並びに取引
54 金融機関から出向しているDが取締役に就任していた。
55
56
57 4. 甲会社の業績は好調であったが,
58 平成17年の秋以降,
59 過酷な競争にさらされ,
60 その成長に陰
61 りが見え始めた。
62
63 これとともに,
64 その経営方針をめぐって,
65 A1とB1との間で争いが生ずるよ
66 うになり,
67 甲会社の株価も300円前後と低迷した。
68
69
70 5. このような状況下で,
71 自動車部品の総合メーカーである乙株式会社(以下「乙会社」という。
72
73 )
74 から,
75 甲会社に対し,
76 自動車部品の製造におけるシナジー(相乗)効果を期待して,
77 経営統合の
78 話が持ち込まれた。
79
80 A1は,
81 自動車部品製造の業界における自力での生き残りは難しいと判断し
82 て,
83 乙会社の提案に前向きの姿勢を見せた。
84
85 これに対し,
86 B1は,
87 あくまで自主経営を目指すべ
88 きであるとして,
89 B1を中心とする経営陣による甲会社株式に対する公開買付けの実施について
90 外資系ファンドとの交渉を始めた。
91
92 甲会社をめぐるこれらの動きが新聞で報道されたことを契機
93 として,
94 甲会社の株価は平成18年5月中旬には900円台に急騰した。
95
96
97 6. 平成18年6月7日,
98 甲会社は,
99 臨時取締役会を開催して,
100 乙会社に対する募集株式の第三者
101 割当てを決定した。
102
103 この件に関しては,
104 甲会社の株主総会は開催されていない。
105
106 かかる決定に際
107 しては,
108 B1らの反対が予想されたため,
109 A1は,
110 B1及びB2が海外出張に出かけた時期を見
111 計らって臨時取締役会を開催することとした。
112
113 甲会社の定款には,
114 取締役会の招集通知について
115 会日の2日前までに発するとする定めがあり,
116 当該取締役会の書面による招集通知はB1及びB
117 2が海外出張中である6月4日に発され,
118 また,
119 B1及びB2は,
120 同日に電子メールでも招集通
121 知と同内容の連絡を受けた。
122
123 しかし,
124 B1及びB2は,
125 結局6月7日の臨時取締役会までに帰国
126 することができず,
127 同取締役会では,
128 取締役5名中3名が出席し,
129 出席者全員の賛成で募集株式
130 の発行に係る議案が可決された。
131
132 資料@は,
133 この臨時取締役会の議事録である。
134
135
136 7. 乙会社においても,
137 同日,
138 甲会社株式を引き受ける件について,
139 取締役会で全員賛成の決議が
140 された。
141
142 株式を引き受けるに当たり,
143 乙会社では,
144 ○○法律事務所に依頼し,
145 意見書を受領して
146 いるが,
147 資料Aは,
148 この意見書の抜粋である。
149
150 また,
151 乙会社は,
152 甲会社の財務状況及び経営統合
153 の効果についての調査を△△監査法人に依頼し,
154 報告書を受領しているが,
155 資料Bは,
156 この報告
157 書の要旨である。
158
159 乙会社がこの募集株式に対して払い込んだ金額は,
160 平成17年12月7日から
161 平成18年6月6日までの6か月間の甲会社の株価の平均額に90パーセントを掛け合わせたも
162 のとして算定されている。
163
164
165 8. 海外出張から帰国したB1は,
166 かかる第三者割当ての決定に対して猛烈に反発した。
167
168 そこで,
169
170 A1は,
171 ゲームソフト開発部門の事業譲渡等によるB1の独立を提案してB1と交渉を開始した
172 ものの,
173 その途中に,
174 先の第三者割当てによる募集株式の発行を強行した。
175
176 結局,
177 B1の独立は
178 実現しなかった。
179
180 第三者割当ての実施によって,
181 乙会社は,
182 甲会社の議決権の55パーセントを
183
184 2
185
186 保有する株主となった。
187
188 なお,
189 第三者割当てによる募集株式発行については,
190 適法な公告が行わ
191 れたほか,
192 募集株式の割当て及び払込みについての手続に法令違反はなかった。
193
194
195 9. 乙会社の子会社となった甲会社では,
196 平成18年9月29日開催の定時株主総会において,
197 任
198 期満了となったB1及びB2を取締役として再任せず,
199 また,
200 A1及びA2に加えて,
201 新たに乙
202 会社関係者を取締役に選任した。
203
204
205 10. 第三者割当ての実施後,
206 甲会社の株価は600円台で推移した。
207
208 その後,
209 平成18年12月に,
210
211 甲会社のゲームソフト開発部門の中心であったCがゲームソフト会社の大手である丙株式会社に
212 好条件で引き抜かれ,
213 そのニュースが業界誌に掲載されたことにより,
214 甲会社の株価は急落した。
215
216
217 乙会社は,
218 平成18年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)の決算に当たり,
219
220 甲会社の株価が140円と,
221 取得価格の50パーセントを割り込んだことから,
222 監査法人の意見
223 に従い,
224 保有する甲会社株式の評価額について1株当たり300円から140円にする減損処理
225 を行った。
226
227
228 11. Xは,
229 平成17年9月1日に乙会社の株式を1単元購入し,
230 以後これを継続して保有している
231 株主である。
232
233 Xは,
234 平成19年5月に,
235 乙会社に対し,
236 甲会社から第三者割当てを受けた当時か
237 らの乙会社の代表取締役社長Y1及び担当取締役Y2は取締役としての善管注意義務に違反して
238 甲会社の株式を引き受け,
239 同株式の減損処理による損害を乙会社に与えたとして,
240 Y1及びY2
241 に対する損害賠償責任を追及する訴えを提起するように求めた。
242
243 なお,
244 Xは,
245 損害賠償額として,
246
247 甲会社1株当たり160円の減損処理額に乙会社の引き受けた株式数を乗じた金額を主張してい
248 る。
249
250
251 〔設問1〕
252 甲会社の乙会社に対する募集株式の発行が行われた後において,
253 B1はどのような法律上の措
254 置を執ることができるか,
255 あなたの意見を述べなさい。
256
257
258 〔設問2〕
259 Y1及びY2の乙会社に対する責任について,
260 あなたの意見を述べなさい。
261
262
263
264 3
265
266 資料@
267 臨時取締役会議事録
268 平成18年6月7日午後1時15分,
269 当本社会議室において,
270 取締役5名中2名欠席のもと取締役
271 会を開催した。
272
273 取締役社長A1が議長席につき次の議題を付議した。
274
275
276 (決議事項)
277 1. 募集株式の発行について
278 取締役社長A1から,
279 下記の条件で乙株式会社に対して募集株式の発行を行うことについて提案
280 があった。
281
282 質疑応答の後,
283 付議され,
284 出席者全員異議なくこれを決議した。
285
286
287 (1)
288
289 発行方法:第三者割当てによる
290
291 (2)
292
293 払込金額:1株当たり300円
294
295 (3)
296
297 発行株式数:550万株
298
299 (4)
300
301 株式の種類:普通株式
302
303 (5)
304
305 払込期日:平成18年6月26日
306
307 (6)
308
309 なお,
310 本件株式の発行後,
311 乙会社は当社の発行済株式総数の55パーセントの株式を保有する
312
313 株主となる。
314
315
316
317 以上をもって議題の審議を終了したため,
318 議長は午後2時15分閉会を宣した。
319
320
321 この議事の経過の要領及び結果を明確にするため,
322 本議事録を作成し,
323 出席取締役及び出席監査
324 役はこれに記名押印する。
325
326
327 平成18年6月7日
328 議長
329
330 4
331
332 取締役社長
333
334 A1
335
336 印
337
338 取締役
339
340 A2
341
342 印
343
344 取締役
345
346 D
347
348 印
349
350 常勤監査役
351
352 E1
353
354 印
355
356 社外監査役
357
358 E2
359
360 印
361
362 社外監査役
363
364 E3
365
366 印
367
368 資料A
369 ○○法律事務所の意見書の抜粋
370 (略)
371 V
372
373 ソフト開発部門関係
374 1
375
376 調査結果
377 @
378
379 本件事業部門の概要について
380 本件事業部門は,
381 売上こそ対象会社の全売上額の20パーセントにすぎないが,
382 経常利益の
383 段階では,
384 他の部門がいずれも赤字となっていることから,
385 全体の100パーセントを占めて
386 おり,
387 正に,
388 対象会社の収益のかなめである。
389
390
391 本件事業部門の製品(以下「本件製品」という。
392
393 )は,
394 いわゆる「次世代ゲーム機用ゲームソ
395 フト」と呼ばれるものであるが,
396 対象会社の本製品は,
397 過去において業界で高い評価を得てい
398 る。
399
400
401 対象会社がこの事業を行うようになったのは,
402 約11年前に,
403 Cが,
404 当時経営していたゲー
405 ムソフト開発会社が経営難となった際に,
406 大学時代の先輩である対象会社の現経営者の一員で
407 あるB1に援助を要請し,
408 対象会社の支援によって,
409 当該ゲームソフト会社の負債を整理し,
410
411 対象会社に新設されたゲームソフト開発部門の責任者として入社したことからである。
412
413
414 その後,
415 Cに対しては,
416 何回もヘッドハンティングの誘いがあったが,
417 Cは,
418 このような経
419 緯から,
420 B1に対する恩義を感じて,
421 これを断ってきたとのことである。
422
423
424 また,
425 これらの具体的な開発作業を行っているのは,
426 対象会社の従業員ではなく,
427 下請契約
428 を締結した個人のSE(システムエンジニア)であるが,
429 企業への帰属意識は低い。
430
431
432
433 A
434
435 基本契約の締結状況と内容
436 開発の発注元との間では,
437 必ず契約が締結してあり,
438 その管理態勢についても何ら問題とな
439 るべきところはなかった。
440
441
442 また,
443 SEとの下請契約についても,
444 全員との間で締結されており,
445 その内容も含めて特に
446 問題はないと考えられる。
447
448
449
450 B
451
452 契約内容における特殊な条項について
453 Cは,
454 ゲームソフト業界において,
455 カリスマゲームクリエイターと呼ばれるほどの人気を誇
456 っており,
457 過去,
458 数々のヒット商品を世に送り出している。
459
460
461 そのために,
462 取引先とのソフト開発基本契約においては,
463 Cの継続雇用が契約存続の条件と
464 なっているものが大半である。
465
466
467
468 2
469
470 結論
471 @
472
473 前記のような事情から考えて,
474 今後,
475 対象会社の経営陣が交代することとなった場合には,
476
477 Cが独立し,
478 又は競争会社へ転職する可能性が高い。
479
480 なお,
481 対象会社には,
482 割増退職金を受領
483 した者についての退職後1年間の競業禁止規定があるが,
484 その受領は退職者の選択に任されて
485 おり,
486 Cがこれを受領する可能性は極めて低い。
487
488
489 なお,
490 開発基本契約は,
491 前述のように,
492 Cの雇用継続を条件とするものが多いが,
493 開発完了
494 後については,
495 この適用はなく,
496 対象会社に対するプレミアムフィーの支払は,
497 Cが退職した
498 としても,
499 一定期間(2年が大半である)継続される。
500
501
502
503 A
504
505 さらに,
506 下請のSEの大半は,
507 Cのカリスマ性からこれを慕って集まっている者であり,
508 C
509 の退職後も対象会社との下請契約を締結することは考えにくい。
510
511
512
513 5
514
515 以上のような事情を考慮すれば,
516 対象会社において,
517 第三者割当増資を行って,
518 現経営陣,
519
520 特にB1を更迭することとなれば,
521 Cも退職するおそれが高く,
522 その場合には,
523 本件事業部門
524 において,
525 現状のような収益を今後も継続して上げていくことは非常に困難であると考えられ
526 る。
527
528
529 (略)
530
531 6
532
533 資料B
534 △△監査法人の報告書の要旨
535 経営統合に基づく経済的効果について
536 貴社は,
537 本件甲会社との経営統合の経済的効果として,
538 約24億円の相乗効果があるとの判断に基
539 づいて,
540 事業計画を立てている。
541
542 そこで,
543 その妥当性について,
544 以下検討する。
545
546
547 1
548
549 事業計画書の記載とその妥当性の検証
550
551 (1)
552
553 研究開発費の低減
554 事業計画書には,
555 貴社における研究開発費約200億円のうち,
556 15パーセントを占める電子
557
558 部品関連について,
559 これを半減し,
560 約15億円減額することができるとの記載がある。
561
562
563 貴社は,
564 最終商品に関する機密保持の問題もあり,
565 電子部品について独自に研究開発をしてい
566 る。
567
568 しかし,
569 そのうち多数のものについては,
570 単価や性能の問題から,
571 現在,
572 甲会社製品の供給
573 を受けている。
574
575 そこで,
576 貴社がその製造する商品に合わせた基本性能を示して,
577 電子部品を甲会
578 社に開発させ,
579 あるいは,
580 甲会社と共同して開発を行うことにより,
581 研究開発費の大幅な低減が
582 可能である。
583
584 そこで,
585 前記事業計画書記載の研究開発費の低減は,
586 その実現性について不合理な
587 ものとは考えられない。
588
589
590 (2)
591
592 開発期間の短縮
593 事業計画書には,
594 (1)記載のような研究開発部門の統合により,
595 新製品に使用する電子部品の開
596
597 発期間がおおむね半分の9か月ほどに短縮することができ,
598 これによって,
599 部品調達コストを2
600 パーセント低減することができるとの記載がある。
601
602
603 技術コンサルタントの試算によれば,
604 開発期間が,
605 平均でも現状の半分程度に短縮可能とされ
606 ている。
607
608 また,
609 今後,
610 甲会社との共同開発が可能な部品の調達額を前提とした場合には,
611 この開
612 発期間短縮による効果は,
613 人件費などを含めて総合すれば,
614 約6億円と試算されている。
615
616 これら
617 は,
618 高度な専門分野の問題であるが,
619 その判断過程などにおいて,
620 合理性を欠くと考えられる部
621 分はなく,
622 この判断を前提とした事業計画の内容については不合理なものとはいえない。
623
624
625 (3)
626
627 製造計画に応じた調達と流通コストの低減
628 事業計画書には,
629 貴社グループ工場の一角に甲会社工場を移転することにより,
630 貴社の生産計
631
632 画に応じて,
633 電子部品の供給を受けることが可能となり,
634 かつ,
635 これによって流通コストを低減
636 することができるとの記載がある。
637
638 その前提とされた技術コンサルタントの試算による,
639 @)貴
640 社の主力工場に隣接する現在利用されていない貴社第21工場を甲の工場として利用した場合の
641 移転費用の算出,
642 並びに,
643 A)これによる流通コスト削減に関する考え方に不合理なところは見
644 当たらず,
645 これを前提とした削減効果についても不合理なものとはいえない。
646
647
648 したがって,
649 これらの効果を約3億円としている事業計画書の記載には,
650 不合理な部分は見当
651 たらない。
652
653
654 (4)
655
656 人材交流の実施
657 事業計画書には,
658 研究者の人材交流を通じて,
659 貴社新製品の開発について,
660 部品開発も含めた
661
662 一貫した発想が生まれる可能性があるとの記載がある。
663
664
665 確かに,
666 人材交流の実施による効果に関する前記事業計画書の記載に不合理な点は認められな
667
668 7
669
670 いが,
671 具体的な効果の算定は不可能である。
672
673
674 2
675
676 結論
677 以上の検討により,
678 本件甲会社との経営統合に基づく貴社における経済的な相乗効果を約24億
679 円と考えることは,
680 不合理であるとはいえない。
681
682
683
684 8
685
686 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
687
688 1
689
690 [民事系科目]
691 〔第2問〕(配点:200〔設問1から設問3までの配点の割合は,
692 10:6:4〕)
693 次の文章を読んで,
694 以下の1から3までの設問に答えよ。
695
696
697 T
698
699 XとYの間には,
700 美術工芸品甲の売買契約をめぐって争いがある。
701
702 以下は,
703 この紛争について,
704
705 Xの側のJ弁護士とYの側のK弁護士が平成18年5月初めに確認した【弁護士間で確認された
706 事実】,
707 【Xの言い分】,
708 【Yの言い分】及びK弁護士と弁護実務修習中の司法修習生L(以下「L
709 修習生」という。
710
711 )が平成18年5月末に交わした【K弁護士とL修習生の会話】である。
712
713
714
715 【弁護士間で確認された事実】
716 1. 平成17年9月ころ,
717 美術品収集家のXは,
718 Yの勧めに応じて,
719 p国在住のAが制作した美
720 術工芸品を買うことにした。
721
722 Yは,
723 外国を歩き回って現地の美術工芸品を買い付け,
724 それを輸
725 入して売っている者であり,
726 Aから,
727 既に完成している作品甲の売却の内諾を得て,
728 買主を求
729 めていた。
730
731
732 2. Aの作品は,
733 p国の伝統的な祭祀具に独自の工夫を凝らしたものであり,
734 その大きさ・装飾
735 ・塗り等も一つ一つ異なっている。
736
737 そして,
738 作品の目立たない箇所には,
739 作者の銘・完成年月
740 日・作品番号などが刻印されている。
741
742 YはAが制作した甲の写真をXに見せて購入を勧めた。
743
744
745 3. 9月28日,
746 Yは,
747 Xと代金額・支払時期などについて協議したことを反映させたメモを作
748 成し,
749 Xに交付した。
750
751 そこには,
752 次のような趣旨が記載されていた。
753
754
755 @
756
757 甲の代金額
758
759 600万円
760
761 A
762
763 甲の納品日と場所
764
765 平成17年12月7日,
766 Xの自宅に届ける。
767
768
769
770 B
771
772 支払期日
773
774 内金200万円
775
776 申込み時
777
778 中間金200万円
779
780 平成17年12月7日
781
782 残代金200万円
783
784 平成18年1月10日
785
786 C
787
788 支払方法
789
790 中間金は甲の納品時に現金で支払う。
791
792 それ以外は,
793 ○○銀行×
794 ×支店Y名義の普通預金口座に振り込んで支払う。
795
796
797
798 D
799
800 所有権移転時期
801
802 甲の所有権は代金完済時にXに移転するものとする。
803
804
805
806 4. 9月28日,
807 Yはメモを交付する際,
808
809 「甲は,
810 私が費用を払って船便で日本に輸送するが,
811 p
812 国からの船便は月に2便程度で,
813 輸送には1か月前後を要する。
814
815 納品は,
816 メモのとおり12月
817 初旬を見込んでいるが,
818 船便の状況によっては,
819 1か月程度は遅れるかもしれない。
820
821 」と説明し
822 た。
823
824 これに対して,
825 Xは,
826
827 「それくらいの遅れなら構わないが,
828 どんなに遅くとも来年(平成1
829 8年)2月末日までに甲を納品して欲しい。
830
831 」と述べただけで,
832 Yの申込みに対して確定的な返
833 事をしなかった。
834
835
836 5. 10月1日,
837 Xは,
838 Yの指定する銀行口座に,
839 あらかじめ預かっていた振込用紙を用いて2
840 00万円を振り込んだ。
841
842
843 6. 10月6日,
844 Yは,
845 Aに国際電話で甲の売買契約の申込みをして,
846 Aの承諾を得た。
847
848 そして,
849
850 同日,
851 甲の代金の一部をAの銀行口座に送金した。
852
853
854 7. 10月28日,
855 Yは,
856 他の美術工芸品の買い付けを兼ねて再びp国に渡航した。
857
858 Yは,
859 Aに
860 代金の一部を支払って甲の引渡しを受け,
861 翌日,
862 B運送会社に船便で甲をp国から日本に向け
863 て送ることを依頼し,
864 これを引き渡した。
865
866 この時点では甲に傷はなかった。
867
868
869 8. 12月5日に日本でBから甲を受け取ったYは,
870 同月7日,
871 X宅に甲を持参し,
872 Xは,
873 準備
874 した中間金200万円をそろえて応対した。
875
876 しかし,
877 その場で梱包を解いて,
878 作者銘などの刻
879 印を調べようとしたところ,
880 甲の扉の可動部分の根元に亀裂と塗りの剥落があって開閉に支障
881 があり,
882 Xが扉を慎重に開けようとした際に,
883 支持部品が折れてしまった。
884
885 このため,
886 Xは,
887
888
889 2
890
891 甲の受領を拒み,
892 用意をしていた中間金200万円を支払わなかった。
893
894 Yは,
895 仕方なく甲を持
896 ち帰り,
897 運送品に傷が生じていたことをBに連絡し,
898 Bから事実関係を調査するとの回答を得
899 た。
900
901
902 9. 12月8日,
903 Yは,
904 同業者の友人に甲を鑑定してもらい,
905 甲の価格は,
906 傷があれば300万
907 円程度になってしまうだろうとの評価を聞いた。
908
909 Yは,
910 その事実は伏せて,
911 Xに,
912 急いでp国
913 に渡航して甲の修理が可能かどうかをAに尋ねてみるので待って欲しい旨を依頼し,
914 この点で
915 はXの同意を得た。
916
917 しかし,
918
919 「甲の残代金をAに支払う必要があるので中間金を直ちに支払って
920 欲しい。
921
922 」というYの懇請を,
923 Xは拒絶した。
924
925
926 10. 12月10日,
927 p国に渡航したYは,
928 自分が工面した金でAに甲の残代金を支払った。
929
930 Yが,
931
932 持参した甲の破損部分の写真をAに見せて尋ねたところ,
933 Aは,
934
935 「傷が分からなくなるような修
936 理は可能であるが,
937 甲をいったん分解し,
938 傷のない部品と取り替えて組み立て直し,
939 全体の塗
940 装もやり直す作業が必要なので,
941 修理には約2週間の期間と50万円の費用を要する。
942
943 仕事が
944 詰まっているため,
945 早くても修理に取り掛かれるのは1か月先になる。
946
947 」と答えた。
948
949
950 11. 12月12日,
951 帰国したYはX宅を訪れて修理に要する費用や期間について説明し,
952 修理品
953 の納品は早くても2月半ば以降になると述べた。
954
955 これに対して,
956 Xは,
957 傷のある甲は受け取れ
958 ないと述べた。
959
960 甲の修理をAに依頼するのかどうかについて話を詰める前に,
961 Yが,
962 中間金の
963 支払と甲の修理費用の前払を求めたところ,
964 Xは激怒し,
965
966 「どれだけ遅くても来年2月末までに,
967
968 傷を修理した甲を持ってこなければ,
969 支払済みの200万円は返してもらうし,
970 損害賠償も払
971 ってもらうから覚悟しておけ。
972
973 」と述べてYを追い返した。
974
975
976 12. 12月25日,
977 BからYに荷物の破損に関する相談があり,
978 Bは,
979 Yに対して,
980 鯨が輸送船
981 にぶつかるというこれまでに経験のない事故があったため甲が破損したと推測されると説明し
982 た上,
983 日本とp国の間の往復の船便の輸送料及び甲の修理代金50万円はBが支払う旨の約束
984 をした(なお,
985 BからYに上記支払約束を確認する旨の書面が平成18年1月末に届いている
986 が,
987 甲の破損の経緯は,
988 その後も不明である。
989
990 )。
991
992 そこで,
993 Yは,
994 Aに対して,
995 国際電話をかけ,
996
997 「甲を運送業者Cに頼んで航空便で送るので,
998 早急に修理して欲しい。
999
1000 修理を完了した甲は,
1001
1002 あなたのところに取りに行って船便で日本に送るようCに頼んであるので,
1003 修理の完了をCの
1004 p国現地事務所に連絡して欲しい。
1005
1006 修理代金は,
1007 修理済みの甲の受領確認と発送の連絡がCか
1008 らあり次第送金する。
1009
1010 」旨を述べた。
1011
1012 Yは,
1013 Aの承諾を得たので,
1014 翌日,
1015 甲をCに取りに来ても
1016 らって,
1017 A宛に航空便で送った。
1018
1019
1020 13. 平成18年1月25日,
1021 Yは,
1022 Cから,
1023
1024 「修理済みの甲をAより受け取り,
1025 直近の船便で送る。
1026
1027
1028 日本への到着予定は3月5日になる。
1029
1030 」との連絡を受けた。
1031
1032 Yは,
1033 修理代金50万円をAの銀行
1034 口座に送金した。
1035
1036 さらに,
1037 Yは,
1038 甲の修理が完了した旨をXに電話で連絡した。
1039
1040 Xが甲を航空
1041 便で送るよう求めたのに対して,
1042 Xが費用を負担してくれるなら手配すると返答したところ,
1043
1044 Xは「それなら結構だ。
1045
1046 」と言って電話を切った。
1047
1048 そこで,
1049 Yは,
1050 Cに運送方法の変更を指示せ
1051 ず,
1052 甲は船便で日本に輸送された。
1053
1054
1055 14. 3月5日,
1056 Yは,
1057 Cから甲を受け取り,
1058 梱包を解いて傷がないことを確認した。
1059
1060 同月7日,
1061
1062 Yは,
1063 甲をX宅に持参して,
1064 受領と引換えに残代金400万円の支払を求めたが,
1065 Xは,
1066 契約
1067 は既に解除したとして,
1068 甲の受領も残代金の支払も拒絶した。
1069
1070
1071 【Xの言い分】
1072 甲は,
1073 Dからの依頼を受けて平成18年5月に開催されるある美術展に出展するため,
1074 少し高
1075 いと思ったが,
1076 平成17年12月には納品できるということだったので買った。
1077
1078 Dの主催してい
1079 る美術展は有名で,
1080 今回,
1081 甲のような美術工芸品がテーマとなっていたことは,
1082 Yも知っていて
1083 当然だし,
1084 だからこそYは私に甲を売り込んできたに違いない。
1085
1086 甲が2月中に引き渡されなかっ
1087 たため,
1088 出品物の図録撮影に間に合わず,
1089 美術展への出展は不可能になった。
1090
1091 これでは,
1092 何のた
1093
1094 3
1095
1096 めに高い買物をしたのか分からない。
1097
1098
1099 Yが甲を持参したのは,
1100 約束した納品期日を3か月も過ぎている。
1101
1102 こんなに遅れたのは,
1103 甲に
1104 傷が付いたためだが,
1105 その原因はBの運送ミスにあり,
1106 そんな業者を選んだYに責任がある。
1107
1108 そ
1109 れなのに,
1110 傷物を持ってきた挙げ句,
1111 中間金の支払が遅れているとか,
1112 私に修理代の50万円を
1113 負担しろなどと言ってきたのだから論外である。
1114
1115 私は,
1116 甲の修理をAに依頼したり,
1117 修理品を船
1118 便で送ることには同意していない。
1119
1120 Aへの修理依頼や船便での運送はYが自らの判断でやったこ
1121 とである。
1122
1123 遅くとも2月末には納品してくれなければ困ることは,
1124 契約前に言っておいたし,
1125 1
1126 2月12日にも警告した。
1127
1128 さらに,
1129 1月25日にYが電話してきたときにも,
1130 私はYに甲をp国
1131 から航空便で送れと言った。
1132
1133 傷の修理に時間がかかったのに,
1134 こちらの正当な要求を無視して,
1135
1136 更に1か月もかけて船便で送るとは,
1137 人を馬鹿にしている。
1138
1139
1140 1月25日に,
1141 私は,
1142 船便で送るような態度をとるなら,
1143 もうこの契約は結構だ,
1144 と今一度警
1145 告した。
1146
1147 私は,
1148 2月末までは残代金400万円を支払う準備をしていたのだが,
1149 2月末に甲が届
1150 かなかったことでこの契約は終わっているから,
1151 支払っていた200万円を早く返して欲しい。
1152
1153
1154 また,
1155 私は,
1156 甲を自宅で保管するために,
1157 昨年(平成17年)の10月30日に20万円する特
1158 注のアクリルケースを専門業者Eに注文していた。
1159
1160 これが不要になったので,
1161 3月3日に,
1162 私は
1163 Eに8万円を支払って契約を合意解除せざるを得なかった。
1164
1165 美術品収集家としての私の評判は地
1166 に落ちた上,
1167 美術展が開催される20日間,
1168 甲をDに貸していたら得られたはずの10万円の賃
1169 料を得ることもできなくなった。
1170
1171 こうした損害は,
1172 Yにはきちんと賠償してもらいたい。
1173
1174
1175 【Yの言い分】
1176 5月にD主催の美術展があることは,
1177 もちろん知っているが,
1178 そこにXが甲を出展するなどと
1179 いう話は初耳である。
1180
1181
1182 そもそも,
1183 甲に傷が付いたことについて,
1184 私には責任がない。
1185
1186 甲の破損は不可抗力によるもの
1187 である。
1188
1189 仮にBに過失があったとしても,
1190 私は甲が壊れやすい高価品であることをBに示してき
1191 ちんとした梱包の依頼をしていたのだから,
1192 専門家のBを信頼して任せた私のどこに落ち度があ
1193 るというのか。
1194
1195 だからこそ,
1196 甲の破損についてBは,
1197 日本とp国の間の往復の船便の輸送料及び
1198 甲の修理代金50万円を支払うと言っている。
1199
1200 Bは大企業であって,
1201 事後処理についての交渉態
1202 度も誠実で,
1203 Xの言うようないい加減な業者ではない。
1204
1205
1206 私としては,
1207 本来なら甲をそのままでXに渡せば十分だったはずで,
1208 私が航空運賃や修理代金
1209 50万円を取りあえず立て替えてまでAに修理を依頼したのは,
1210 修理を求めるXの指示に従って
1211 それに誠実に応えたためである。
1212
1213 修理によってこの程度の納品の遅れが出ることは,
1214 Xにも伝え
1215 てあり,
1216 むしろXがそれを了解した上で,
1217 強く甲の修理を求めていたのである。
1218
1219
1220 その後も,
1221 私は,
1222 修理のために甲を航空便で送るなど,
1223 速やかな納品のためにできる限りのこ
1224 とをやった。
1225
1226 3月7日の納品は,
1227 むしろ最善の努力の結果である。
1228
1229 Xは,
1230 12月12日に会った
1231 ときにも,
1232 1月25日に電話連絡をした折にも,
1233 確かに2月中の納品を求めていた。
1234
1235 しかし,
1236 美
1237 術展に間に合わなくなるなどという事情については,
1238 Xは何も言っていなかった。
1239
1240 また,
1241 航空便
1242 は船便の何倍も費用が掛かる。
1243
1244 契約では船便で送ることになっているから,
1245 船便で送った甲が届
1246 くのが3月初めになったことには何の問題もない。
1247
1248 運送費用の増加分を負担もせずに航空便で送
1249 れなどと要求するのは身勝手であり,
1250 Xも最終的には船便で結構だと無茶な要求を引っ込めたで
1251 はないか。
1252
1253
1254 また,
1255 3月7日に至るまで,
1256 Xは,
1257 一度も契約を解除すると明言したことがない。
1258
1259 3月7日に
1260 なって唐突に解除を主張するのは,
1261 私が努力してきたことを無意味にしてしまうもので,
1262 全く理
1263 不尽である。
1264
1265
1266 逆に,
1267 私は,
1268 Aに甲の代金を支払うため,
1269 資金が必要だった。
1270
1271 こうした事情は,
1272 Xの要望を容
1273 れて代金を分割払にした経緯から,
1274 Xも十分承知していたはずである。
1275
1276 それにもかかわらず,
1277 X
1278
1279 4
1280
1281 が中間金を支払ってくれなかったので,
1282 私は自分で支払資金を別途工面しなければならず,
1283 非常
1284 に迷惑した。
1285
1286 本来文句を言えないはずの甲の傷を理由に,
1287 甲の受取を拒絶して中間金を支払わな
1288 かったXの態度こそ不当である。
1289
1290
1291 【K弁護士とL修習生の会話】
1292 K弁護士: 今月初めに,
1293 X側のJ弁護士との間で事実の確認をした上で,
1294 折り合いがつかないか
1295 と話し合ってみましたが,
1296 Xは,
1297 あくまでも裁判で決着をつけたいようです。
1298
1299 Yのため
1300 に,
1301 Xがどういう主張をしてくるかを予想した上で,
1302 それに対して,
1303 Yとしてはどう反
1304 論するかを考えておかなければなりません。
1305
1306 そこで,
1307 本件について検討し,
1308 その結果を
1309 私に報告して欲しいのです。
1310
1311
1312 L修習生: 先生,
1313 それでは,
1314 判例の考え方に沿って,
1315 まずは,
1316 Xが主張してくる法的構成を予測
1317 して,
1318 それへの対応を考えればよいのですか。
1319
1320
1321 K弁護士: 基本はそうですが,
1322 判例と異なっていても,
1323 通説や有力説があって,
1324 Xに有利となれ
1325 ば,
1326 X側は,
1327 それに沿って法的構成を工夫してくることも考えられます。
1328
1329
1330 L修習生: そうなると,
1331 判例と学説の対立があれば,
1332 それも整理しておく必要がありますね。
1333
1334
1335 K弁護士: 本件と関係ない点についてまで詳しく整理・検討したゼミの報告みたいなものを書い
1336 ていただく必要はありません。
1337
1338 あくまで確認された事実に照らして,
1339 お互いにどういう
1340 主張をすることになるのかを中心に,
1341 簡潔にまとめて欲しいのです。
1342
1343 また,
1344 こちらの言
1345 い分をきちんと主張するのは当然ですが,
1346 Xの言い分が仮に認められた場合についても,
1347
1348 さらに,
1349 こちらとしては対応を考える必要がありますね。
1350
1351
1352 L修習生: 例えば,
1353 私は,
1354 Yの言い分に沿ってYには帰責事由がないことを強く主張しようと考
1355 えていますが,
1356 裁判所に,
1357 帰責事由がないとはいえない,
1358 と判断される場合の対応も考
1359 える,
1360 ということでしょうか。
1361
1362
1363 K弁護士: それは一つのポイントですね。
1364
1365 その点は,
1366 契約解除の根拠の一つにも関係してきます
1367 ね。
1368
1369 それについて,
1370 私には,
1371 気になっている点があります。
1372
1373 近時,
1374 債務者の帰責事由を
1375 必要とせずに契約の解除ができるという考え方も,
1376 学説では有力に主張されているよう
1377 ですね。
1378
1379
1380 L修習生: はい,
1381 以前から,
1382 履行遅滞による解除に帰責事由は不要とする見解がありますし,
1383 近
1384 ごろは,
1385 債務不履行一般について重大な債務不履行があれば帰責事由がなくても解除が
1386 できるという見解もあります。
1387
1388 ただ,
1389 こうした見解を細部まで正確に理解して理論的な
1390 反論を準備するのは,
1391 私には少し荷が重いです。
1392
1393
1394 K弁護士: 分かりました。
1395
1396 ほかにも学説はあるようですから,
1397 そういう理論的な問題は,
1398 X側の
1399 具体的な主張を見た後で,
1400 一緒に検討しましょう。
1401
1402 場合によっては,
1403 友人の大学教授に
1404 話を聞いてみます。
1405
1406 君は,
1407 仮に債務不履行を理由とする解除には帰責事由を要しないと
1408 いう見解が採用されたとしても,
1409 確認された事実に即して考えた場合,
1410 Xは本件契約を
1411 解除できない,
1412 という主張が可能かどうかを考えてください。
1413
1414
1415 L修習生: はい。
1416
1417 ところで,
1418 先生,
1419 Yの側から未払代金等の支払を求める反訴を起こすことも検
1420 討しなければいけませんか。
1421
1422
1423 K弁護士: その点は私が検討しますから,
1424 書かなくてよいです。
1425
1426 いろいろ言いましたから,
1427 課題
1428 を整理しましょう。
1429
1430 まず,
1431 (a)支払済み代金200万円の返還と18万円の損害賠償を請
1432 求するためにXが主張してくると予想される様々な実体法上の法的構成を,
1433 確認された
1434 事実を前提として検討してみてください。
1435
1436 次に,
1437 (b)Yはこれに対して,
1438 どのように反論
1439 すればよいかを考えてみてください。
1440
1441 先ほど言いましたように,
1442 帰責事由がなくても債
1443 務不履行を理由とする解除ができるという解釈論の当否自体の検討はしなくてもよいで
1444 す。
1445
1446 以上の2点について報告書を書いてきてください。
1447
1448
1449
1450 5
1451
1452 〔設問1〕
1453
1454 あなたがL修習生であるとして,
1455 K弁護士が指示した課題(a)及び(b)についてどのよ
1456
1457 うな報告をすべきか,
1458 検討の結果を述べなさい。
1459
1460 なお,
1461 本件については,
1462 すべて日本法が適用さ
1463 れるものとする。
1464
1465 また,
1466 解答に当たっては,
1467 後記U以下の事実は考慮しないこと。
1468
1469
1470 U
1471
1472 前記TのXY間の売買契約に関して,
1473 平成18年6月15日,
1474 XがYに対して訴えを提起した
1475 ところ,
1476 その訴訟は,
1477 次のように推移した。
1478
1479
1480 1. Xは,
1481 Yに対して,
1482 甲の売買契約を解除したとして,
1483 原状回復として支払済みの売買代金相
1484 当額200万円及びこれに対する平成17年10月1日から支払済みまで年6分の割合による
1485 利息,
1486 並びに債務不履行に基づく損害賠償として250万円及びこれに対する訴状送達の日の
1487 翌日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求めて,
1488 訴えを提起した。
1489
1490 なお,
1491
1492 訴状は平成18年6月22日にYに送達されている。
1493
1494
1495 2. Xの訴状には次のような記載があり,
1496 Xは第1回口頭弁論期日において訴状の内容を陳述し,
1497
1498 また,
1499 同期日において甲4号証その他の書証を提出した。
1500
1501 なお,
1502 甲4号証にはF名義の署名が
1503 あるだけで,
1504 捺印はされていない。
1505
1506
1507
1508 【訴状】
1509 <前略>
1510 第1
1511 1
1512
1513 請求の趣旨
1514 Yは,
1515 Xに対し,
1516 200万円及びこれに対する平成17年10月1日から支払済みま
1517 で年6分の割合による金員を支払え
1518
1519 2
1520
1521 Yは,
1522 Xに対し,
1523 250万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで
1524 年6分の割合による金員を支払え
1525
1526 3
1527
1528 訴訟費用は被告の負担とする
1529
1530 との判決並びに仮執行の宣言を求める。
1531
1532
1533 第2
1534
1535 請求原因
1536
1537 <中略>
1538 5
1539
1540 平成17年12月12日,
1541 XはYに対して,
1542 「どれだけ遅くても来年2月末までに,
1543
1544 傷を修理した甲を持ってこなければ,
1545 支払済みの200万円は返してもらうし,
1546 損害賠
1547 償も払ってもらう。
1548
1549 」と述べて,
1550 修理済みの甲の引渡しを催告すると同時に,
1551 平成18
1552 年2月28日の経過をもって甲の売買契約を解除する旨の意思表示をした。
1553
1554
1555
1556 <中略>
1557 8
1558
1559 Xは,
1560 Xが甲を購入し美術展に出展する話を聞き付けた同好の美術品収集家Fから,
1561
1562 平成17年11月上旬ころから,
1563 美術展終了後に甲を譲り渡して欲しい旨の懇請を受け
1564 ていた。
1565
1566 そして,
1567 同年11月28日,
1568 Xは,
1569 Fとの間で,
1570 美術展終了後の平成18年6
1571 月10日を引渡し期日として,
1572 甲を850万円で転売する旨の契約を締結したが,
1573 Yが
1574 甲を適時に引き渡さなかったために,
1575 購入代金600万円と転売代金850万円の差額
1576 250万円を得ることができなかった。
1577
1578
1579
1580 <中略>
1581 第3
1582
1583 証拠
1584
1585 <中略>
1586 3
1587
1588 請求原因8の事実は,
1589 F名義の文書(甲4号証)で証明する。
1590
1591
1592
1593 <後略>
1594
1595 6
1596
1597 【F名義の文書(甲4号証)】
1598 平成17年11月22日
1599 X様
1600 本日はお目にかかることができず,
1601 残念でした。
1602
1603
1604 先日来お願いしておりますように,
1605 甲を是非ともお譲り下さい。
1606
1607 来年の6月8日までに8
1608 50万円を用意することができる予定ですので,
1609 同日以降に代金の決済と甲の引渡しを行う
1610 ということで,
1611 お願いできれば幸いです。
1612
1613 改めて御連絡いたしますので,
1614 御検討のほどよろ
1615 しくお願いいたします。
1616
1617
1618 F(署名)
1619
1620 3. Yは,
1621 第1回口頭弁論期日において,
1622 あらかじめ提出していた答弁書に従って,
1623
1624 「Xの請求を
1625 いずれも棄却するとの判決を求める」との請求の趣旨に対する答弁をした上で,
1626
1627 「旧知のFに甲
1628 の購入の事実を問い合わせたところ,
1629
1630 『覚えがない』とのことであったので,
1631 訴状記載の請求原
1632 因8の事実は否認する」と述べた。
1633
1634 そして,
1635
1636 (陳述@)
1637 「『覚えがない』と言っているFがこのよ
1638 うな文書を作成したとは考えられないので,
1639 甲4号証の成立も否認する。
1640
1641 」との陳述をした。
1642
1643
1644 4. また,
1645 Yは,
1646 第1回口頭弁論期日において,
1647 訴状の請求原因5の記載について「『どれだけ遅
1648 くても来年2月末までに,
1649 傷を修理した甲を持ってこなければ,
1650 支払済みの200万円は返し
1651 てもらうし,
1652 損害賠償も払ってもらう。
1653
1654 』とのXの発言があったことは認める。
1655
1656 」という陳述を
1657 した。
1658
1659 第1回口頭弁論期日の後,
1660 弁論準備手続が開始され,
1661 同手続は計3回の期日をもって終
1662 結した。
1663
1664
1665 その後,
1666 Fの証人尋問並びにX及びYの当事者本人尋問を行うために,
1667 第2回口頭弁論期日
1668 が開かれたが,
1669 この期日の冒頭の弁論準備手続の結果陳述に引き続いて,
1670 Yは(陳述A)
1671 「訴状
1672 の請求原因5記載のXの発言のうち,
1673
1674 『支払済みの200万円は返してもらう』旨の発言があっ
1675 たことは否認する。
1676
1677 」との陳述をした。
1678
1679 そして,
1680
1681 (陳述B)
1682 「仮に訴状の請求原因5記載のとおり
1683 のXの発言があったとしても,
1684 それが解除の意思表示に該当することは争う。
1685
1686 」との陳述もした。
1687
1688
1689 なお,
1690 受訴裁判所は,
1691 弁論準備手続における両当事者との協議の結果,
1692 この第2回口頭弁論
1693 期日をもって弁論を終結する予定にしている。
1694
1695
1696 〔設問2〕
1697
1698 下線部のYの陳述@からBまでに関する次の設問に答えなさい。
1699
1700 なお,
1701 設問はXが訴
1702
1703 状で採用した実体法上の法律構成の当否を問うものではない。
1704
1705
1706 (1)
1707
1708 陳述@の訴訟法上の効果を,
1709 Yが甲4号証の成立について認否をしなかった場合と比較し
1710
1711 て,
1712 論じなさい。
1713
1714
1715 (2)
1716 V
1717
1718 陳述AとBの訴訟法上の効果(攻撃防御方法としての許容性を含む。
1719
1720 )を論じなさい。
1721
1722
1723
1724 以下の問題は,
1725 前記Uの訴訟を前提としている。
1726
1727 ただし,
1728 第2回口頭弁論期日が開かれる前で
1729 あるものとして答えなさい。
1730
1731
1732 Yは,
1733 第3回弁論準備手続期日が終了した後に,
1734 このまま訴訟を続けると業界の噂になって,
1735
1736 他の顧客との取引に支障が出かねないと考え,
1737 ある程度の譲歩をしてもよいので,
1738 何とか訴訟を
1739
1740 7
1741
1742 終わらせてほしいと,
1743 K弁護士に相談した。
1744
1745 そこで,
1746 K弁護士は,
1747 X側のJ弁護士に協議を申し
1748 入れた。
1749
1750 K弁護士は,
1751 J弁護士から,
1752 Xが「以前から欲しいと思っていたY所有の仏像乙を手に
1753 入れることができるのであれば,
1754 訴訟にはこだわらない。
1755
1756 」と述べているという話を聞かされたの
1757 で,
1758 そのことをYに伝えたところ,
1759 Yは「乙であれば手放してもよい。
1760
1761 」とK弁護士に述べた。
1762
1763 こ
1764 のことをJ弁護士に伝えると,
1765 J弁護士から,
1766 次のような提案があった。
1767
1768
1769 「YがXの請求債権が存在することを認めた上で,
1770 乙を代物弁済としてXに譲渡するのであれ
1771 ば,
1772 訴訟については矛を収めることにする。
1773
1774 その方法だが,
1775
1776 (方法@)Yが1週間以内にXの自宅
1777 に乙を持参すれば,
1778 その場で訴えの取下げを合意する契約を結び,
1779 きちんとした契約書を作る。
1780
1781
1782 その方法が嫌であれば,
1783
1784 (方法A)次回の口頭弁論期日にYが乙を持参して,
1785 法廷でXに手渡して
1786 くれれば,
1787 請求債権はそれで消滅したということで,
1788 その期日に請求の放棄の手続をとる。
1789
1790 ある
1791 いは,
1792
1793 (方法B)同じく法廷で乙を授受することを前提として,
1794 YがXの請求債権を認め,
1795 これが
1796 代物弁済によって消滅したこと及びXとYの間に本件に関し一切の債権債務が存在しないことを
1797 相互に確認する旨の訴訟上の和解をするということでも結構だ。
1798
1799 」
1800 〔設問3〕
1801
1802 K弁護士の立場で,
1803 @からBまでのいずれの方法をXの側に求めるべきかにつき,
1804 訴
1805
1806 訟法上の観点から論じなさい。
1807
1808 ただし,
1809 訴訟費用の問題を論ずる必要はない。
1810
1811
1812
1813 8
1814
1815