1 論文式試験問題集[刑事系科目]
2
3 1
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。
9
10 )。
11
12 ただし,
13
14 論述に当たっては,
15 後記の小問1及び2に対する解答を必ず含めること。
16
17
18
19
20 Aは,
21 自動車運転中に赤色信号を見落として交差点に進入したため,
22 青色信号に従って交差点
23 に進入したB運転の自動車と衝突事故を起こし,
24 Bに大腿骨骨折,
25 肋骨骨折,
26 胸部打撲及び頸椎
27 捻挫の傷害を負わせた。
28
29
30 Aの一方的な過失によって発生したこの交通事故により,
31 Bは,
32 入院治療費,
33 休業損害及び自
34 動車修理費として合計240万円の損害(内訳は,
35 入院治療費及び休業損害が合計180万円,
36
37 自動車修理費が60万円)を被り,
38 入院治療費及び休業損害のうち合計120万円については,
39
40 A運転の自動車に付されていた自動車損害賠償責任保険(いわゆる自賠責保険)の保険金によっ
41 て支払われた。
42
43 しかし,
44 被害者が傷害を負った場合の自賠責保険金の支払限度額が120万円に
45 とどまり,
46 Aが自賠責保険以外の任意保険に加入していなかったことや,
47 自賠責保険金は人身に
48 対する損害を補償するものであって,
49 自動車修理費の補償のためには支払われないことから,
50
51 院治療費及び休業損害の残額60万円と自動車修理費60万円の合計120万円について,
52 Bは
53 支払を受けることができなかった。
54
55 そこで,
56 Bは,
57 Aに対して120万円の損害賠償を求めたが,
58
59 Aは,
60 事故の全責任が自らにあり,
61 自らがBに対して合計120万円の損害賠償義務を負ってい
62 ることは認めながら,
63
64 「そのうち支払う。
65
66 」と述べるにとどまり,
67 損害金の支払には応じなかった。
68
69
70
71
72
73 甲は,
74 知人であるBからこの件について話を聞き,
75 自らがBに代わってAとの交渉に当たるこ
76 とで,
77 Bの損害金120万円に自らの取り分を上乗せした金額をAに要求して支払わせ,
78 上乗せ
79 分の利益を得ようと企て,
80 Bに対し,
81 その意図を伏せた上で,
82
83 「Aから損害金120万円を取って
84 やるから,
85 Aとの交渉をおれに任せてくれ。
86
87 」と言い,
88 Bの了承を得た。
89
90
91
92
93
94 甲は,
95 かつての不良仲間で先輩格であった乙に対して前記の事情を話し,
96
97 「Bの損害額の残りは
98 実際には120万円だけですが,
99 これに我々の取り分として80万円を上乗せした200万円が
100 残っているということにしてAに請求し,
101 うまく支払わせたらBに120万円を渡して,
102 取り分
103 の80万円を40万円ずつ山分けしましょう。
104
105 Aは支払を拒んでいるそうなので,
106 脅かしてでも
107 金を出させましょう。
108
109 」と告げて協力を求め,
110 乙の同意を得た。
111
112
113
114
115
116 その後,
117 甲乙両名はAと面談し,
118 甲が「Bは現在も仕事を休んで治療を続けており,
119 追加の治
120 療費と休業補償分を加えると,
121 未払分は120万円にとどまらず,
122 既に200万円になっている。
123
124
125 と嘘を言った上,
126 乙が「いつまで開き直っているつもりだ。
127
128 このまま支払わなければそのうちB
129 があきらめるとでも思っているのか。
130
131 」と言って,
132 200万円の支払を要求したが,
133 Aは,
134 支払を
135 拒否する態度を変えようとしなかった。
136
137
138 そこで,
139 甲は,
140 Aの態度を変えさせるためにはやはり脅す必要があると考え,
141 語気を強めなが
142 ら,
143
144 「あんたにも家族がいるだろう。
145
146 家族が事故に遭えば,
147 被害に遭った者の気持ちが分かるかも
148 しれんな。
149
150 家族が事故に遭ってから,
151 あの時200万円支払っておけば良かったと悔やんでも遅
152 いぞ。
153
154 」とAに申し向け,
155 200万円の支払を強く要求した。
156
157
158 Aは,
159 甲乙両名との面談の前までは,
160 Bに対して損害金を支払う意思は全くなかったが,
161 面談
162 の結果,
163 甲の言うとおり,
164 Bがいまだに仕事を休んで治療を続けており,
165 その損害額の残りが1
166 20万円にとどまらずに200万円に及んでいるものと誤信した上,
167 このまま損害金の支払を拒
168 否していると,
169 甲乙両名らによって自己の家族に危害を加えられるのではないかと畏怖したこと
170 から,
171 200万円を支払わなければならないと考えた。
172
173 しかし,
174 Aは,
175 手持ちの現金が20万円
176 しかなかったことから,
177 甲乙両名に対し,
178 「今はこれしかないので,
179 これで勘弁してくれ。
180
181 」と言
182 って,
183 とりあえず20万円を手渡した。
184
185
186
187 2
188
189
190
191 甲は,
192 Aから現金20万円を受け取った後,
193 残金180万円についても後日Aに支払わせて,
194
195 甲乙両名の取り分はこの残金180万円の中から入手しようと考え,
196 乙の了解を得て,
197 Aから受
198 け取った現金20万円全額をBに手渡した。
199
200
201
202
203
204 その後,
205 甲は,
206 乙に対し,
207 「残りはAに借金させて支払わせましょうか。
208
209 」と持ちかけたが,
210
211 は,
212 甲のAに対する脅し文句が予想以上に強かったことから,
213 これ以上執拗かつ強硬に支払を要
214 求すると警察沙汰になるのではないかと恐れ,
215 甲に対し,
216
217 「少しやりすぎたのではないか。
218
219 やはり
220 おれは手を引くから,
221 お前もこの辺りでやめておけ。
222
223 出させた20万円も返した方がいい。
224
225 」と強
226 い口調で告げた。
227
228
229 甲は,
230 乙からやめろと言われたため,
231 やむなく「仕方ない。
232
233 あきらめますか。
234
235 」と言って,
236 乙の
237 言葉に従う態度を示したが,
238 同時に,
239
240 「しかし,
241 Bには120万円取ってやると言ってしまったか
242 らなあ。
243
244 既に渡した20万円を返してくれとも言いにくいし。
245
246 」とも言い,
247 若干未練を抱いている
248 様子だった。
249
250
251 そこで,
252 乙は,
253 甲に対し,
254
255 「お前がAにしつこく要求して警察沙汰になったら,
256 おれが迷惑する
257 ことを忘れるな。
258
259 」と念押しし,
260 甲は,
261 渋々ながら,
262 「分かりました。
263
264 この話はなかったことにし
265 ます。
266
267 20万円もBから返してもらって,
268 Aに返しますよ。
269
270 」と返答したが,
271 内心ではあきらめき
272 れずにいた。
273
274
275
276
277
278 甲は,
279 その後間もなく,
280 せめてBの損害額120万円はAに支払わせてBに手渡してやらない
281 と,
282 Bに対するメンツが立たないと考えた。
283
284 そこで,
285 甲は,
286 残金100万円を支払わせるため単
287 独でAと面談し,
288 甲乙両名による前回の行為によって,
289 Aが自己の家族に危害を加えられるので
290 はないかとなおも畏怖し続けていることを知りながら,
291
292 「残りを受取に来た。
293
294 100万円払え。
295
296
297 がないなら借金してでも作ってもらおうか。
298
299 」と言って,
300 100万円の支払を要求した。
301
302
303 Aは,
304 前記のとおり畏怖し続けていたことから,
305 甲の要求どおり,
306 残金として100万円の支
307 払に応じることとし,
308 貸金業の登録を受けていない,
309 いわゆるヤミ金融業者から現金100万円
310 を高利で借り入れ,
311 これを甲に手渡した。
312
313
314
315
316
317 甲は,
318 このようにして手に入れた100万円全額をBに手渡すつもりだったが,
319 入手後に一部
320 を自己のものにしたいと考えるようになり,
321 Bに対しては「残り100万円のうち50万円しか
322 受け取れなかった。
323
324 」と嘘を言って現金50万円のみを手渡し,
325 残金50万円を自己のものとして
326 費消した。
327
328
329
330
331
332 その後,
333 Aは,
334 前記ヤミ金融業者に対し,
335 前記100万円の借入れに対する返済として元利合
336 計200万円を支払った。
337
338
339 なお,
340 乙は,
341 甲から何の連絡もなかったことから,
342 甲が乙の言葉に従って,
343 Aに対し現金20
344 万円を返還し,
345 Aに支払を約束させていた残金180万円の受取も断念したものと考えていた。
346
347
348
349 小問1
350
351 Aから2回にわたり現金合計120万円の交付を受けた事実について,
352 甲に詐欺罪及び恐喝
353
354 罪が成立するか否かを,
355 Aが現金を交付しようと考えるに至った理由に留意しつつ,
356 具体的事実を
357 示して論じなさい。
358
359
360 小問2
361
362 後記最高裁判所決定を踏まえ,
363 本事例において甲乙間の共犯関係の解消が認められるか否か
364
365 を,
366 具体的事実を示して論じなさい。
367
368
369
370 3
371
372 最高裁判所平成元年6月26日第一小法廷決定・最高裁判所刑事判例集43巻6号567頁(決定
373 理由抄)
374
375
376 傷害致死の点について,
377 原判決(原判決の是認する一審判決の一部を含む。
378
379 )が認定した事実の
380 要旨は次のとおりである。
381
382 (1)
383
384 被告人は,
385 一審相被告人の甲の舎弟分であるが,
386 両名は,
387 昭和6
388
389 1年1月23日深夜スナックで一緒に飲んでいた本件被害者の乙の酒癖が悪く,
390 再三たしなめた
391 のに,
392 逆に反抗的な態度を示したことに憤慨し,
393 同人に謝らせるべく,
394 車で甲方に連行した。
395
396
397 (2)
398
399 被告人は,
400 甲とともに,
401 1階8畳間において,
402 乙の態度などを難詰し,
403 謝ることを強く促し
404
405 たが,
406 同人が頑としてこれに応じないで反抗的な態度をとり続けたことに激昴し,
407 その身体に対
408 して暴行を加える意思を甲と相通じた上,
409 翌24日午前3時30分ころから約1時間ないし1時
410 間半にわたり,
411 竹刀や木刀でこもごも乙の顔面,
412 背部等を多数回殴打するなどの暴行を加えた。
413
414
415 (3)
416
417 被告人は,
418 同日午前5時過ぎころ,
419 甲方を立ち去ったが,
420 その際「おれ帰る」と言っただけ
421
422 で,
423 自分としては乙に対しこれ以上制裁を加えることを止めるという趣旨のことを告げず,
424 甲に
425 対しても,
426 以後は乙に暴行を加えることを止めるよう求めたり,
427 あるいは同人を寝かせてやって
428 欲しいとか,
429 病院に連れていってほしいなどと頼んだりせずに,
430 現場をそのままにして立ち去っ
431 た。
432
433 (4)
434
435 その後ほどなくして,
436 甲は,
437 乙の言動に再び激昴して,
438 「まだシメ足りないか」と怒鳴
439
440 って右8畳間においてその顔を木刀で突くなどの暴行を加えた。
441
442 (5)
443
444 乙は,
445 そのころから同日午
446
447 後1時ころまでの間に,
448 甲方において甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により窒息死した
449 が,
450 右の死の結果が被告人が帰る前に被告人と甲がこもごも加えた暴行によって生じたものか,
451
452 その後の甲による前記暴行により生じたものかは断定できない。
453
454
455
456
457 右事実関係に照らすと,
458 被告人が帰った時点では,
459 甲においてなお制裁を加えるおそれが消滅
460 していなかったのに,
461 被告人において格別これを防止する措置を講ずることなく,
462 成り行きに任
463 せて現場を去ったに過ぎないのであるから,
464 甲との間の当初の共犯関係が右の時点で解消したと
465 いうことはできず,
466 その後の甲の暴行も右の共謀に基づくものと認めるのが相当である。
467
468 そうす
469 ると,
470 原判決がこれと同旨の判断に立ち,
471 かりに乙の死の結果が被告人が帰った後に甲が加えた
472 暴行によって生じていたとしても,
473 被告人は傷害致死の責を負うとしたのは,
474 正当である。
475
476
477
478 4
479
480 〔第2問〕(配点:100)
481 次の【事例】を読んで,
482 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
483
484
485 【事
486
487
488 例】
489 A市B町は,
490 約1キロメートル四方に広がる住宅街であるが,
491 B町内では,
492 平成19年3月7
493
494 日午前1時10分ころ,
495 P駐車場において,
496 駐車車両1台から不審火が発生し,
497 続いて,
498 同年3
499 月16日午前3時45分ころ,
500 Q駐車場において,
501 駐車車両1台から不審火が発生した。
502
503 各不審
504 火は,
505 幸い早期に発見,
506 消火されたため,
507 出火元の車両各1台を焼損したにとどまり,
508 他の車両
509 や住宅等への延焼を免れた。
510
511
512 P及びQ駐車場は,
513 いずれもB町内の住宅密集地にあり,
514 多数の木造住宅が各駐車場に隣接し
515 ていた。
516
517 また,
518 いずれも,
519 管理人が常駐しておらず,
520 だれでも自由に出入りすることができる屋
521 根のない駐車場であり,
522 出火当時,
523 焼損した各車両に隣接する駐車区画を含め合計数台の車両が
524 駐車されていたが,
525 焼損した各車両はいずれもC社製高級外車であった。
526
527
528 また,
529 それら車両には,
530 いずれも,
531 そのドアに鋭利な金属様の物で付けたと認められる長さ数
532 十センチメートルの複数のひっかき傷があった上,
533 火元の前部バンパー付近からベンジンの成分
534 が検出された。
535
536 ベンジンは,
537 石油を蒸留して得られる,
538 揮発性が高く引火しやすい液体であり,
539
540 染み抜きの溶剤やカイロの燃料等に用いられている。
541
542 さらに,
543 出火した各車両及びその周辺には,
544
545 自然発火の原因となるようなものはなく,
546 出火前には,
547 ドアのひっかき傷も,
548 前部バンパー付近
549 にベンジンが付着するような事情もなかった。
550
551
552 警察は,
553 いずれの不審火も,
554 ベンジンを用いた放火であるとの疑いを強め,
555 捜査を行った結果,
556
557 Q駐車場付近の住人が,
558 同駐車場における出火前日の同年3月15日午前3時ころ,
559 B町内に居
560 住する甲が一人で同駐車場内をしばらく歩き回った上で立ち去るのを目撃していたこと,
561 甲は同
562 駐車場に駐車区画を賃借していないことが各判明した。
563
564
565 そこで,
566 甲について捜査したところ,
567 甲は,
568 B町のほぼ中心に位置する2階建てのDアパート
569 1階の1室に一人で居住している25歳の男性であり,
570 同年2月初めころから,
571 週に2,
572 3日,
573
574 昼間の数時間,
575 同町内のクリーニング店において,
576 洗濯作業補助のアルバイトをしていることが
577 判明したが,
578 それ以上には犯人の特定につながる証拠は得られなかった。
579
580
581
582
583 その後,
584 同年3月21日午前2時35分ころ,
585 B町内のR駐車場に駐車中のC社製高級外車が
586 焼損する不審火が発生した。
587
588
589 同駐車場も,
590 B町内の住宅密集地にあって,
591 多数の木造住宅がこれに隣接していた上,
592 管理人
593 が常駐しておらず,
594 だれでも自由に出入りすることができる屋根のない駐車場であった。
595
596 また,
597
598 同駐車場は,
599 出火当時,
600 十数台の駐車車両でほぼ満杯であった。
601
602 焼損した車両の右側ドアには,
603
604 出火前にはなかった長さ約30センチメートルないし50センチメートルの5か所のひっかき傷
605 が残っていた上,
606 火元の前部バンパー付近から出火前には付着するような事情がないベンジンの
607 成分が検出された。
608
609 出火した車両及びその周辺には,
610 自然発火の原因となるようなものはなかっ
611 た。
612
613
614
615
616
617 そこで,
618 警察がB町内及びその周辺の駐車場を調べたところ,
619 同年3月22日,
620 B町内のS,
621
622 T及びU駐車場並びにB町周辺の数箇所の駐車場に,
623 いずれもC社製高級外車が駐車されている
624 ことが判明した。
625
626
627 S,
628 T及びU駐車場は,
629 いずれも,
630 管理人が常駐していない屋根のない駐車場であり,
631 だれで
632 も自由に駐車場内に出入りすることが可能であった。
633
634 各駐車場は,
635 B町内の住宅密集地にあるた
636 め,
637 夜間の人通りが極めて少ない上,
638 出入口を除く三方を,
639 隣接する多数の木造住宅に囲まれて
640 いて,
641 出入口に面した各公道の幅員は5メートル程度であり,
642 犯人に気付かれることなく各駐車
643 場付近に警察官を張り込ませることは極めて困難であった。
644
645 また,
646 各駐車場には,
647 夜間,
648 空き区
649 画がないほどに車両が駐車されており,
650 それらの中にいずれもC社製高級外車各1台が含まれて
651 いた。
652
653
654
655 5
656
657 警察がR駐車場付近の聞き込み捜査等を継続したところ,
658 同年3月25日になって,
659 付近の住
660 人が,
661 同年3月21日の出火直後に,
662 R駐車場から約200メートル離れた路上で,
663 甲とよく似
664 た人物が,
665 右手にその容量が500ミリリットル程度の瓶を持ち,
666 R駐車場方向からその反対方
667 向に向かって走り去ったのを目撃していたこと,
668 甲がアルバイトしているクリーニング店では,
669
670 同年2月中旬以降,
671 染み抜き剤として用いているベンジン500ミリリットル入り瓶数本を紛失
672 していたこと及び甲が,
673 同年3月中旬,
674 友人Eに対し,
675
676 「確か,
677 R駐車場にはC社製の車があった
678 よね。
679
680 」などと話していたことが各判明した。
681
682
683 そこで,
684 警察が改めて甲方周辺の状況を確認したところ,
685 Dアパート1階にある甲方居室は公
686 道に面しており,
687 甲方玄関ドアから外に出るとすぐに公道であったが,
688 その公道の幅員は約5メ
689 ートルであって,
690 甲に気付かれることなく警察官が張り込んで甲方の人の出入りを監視するのは
691 極めて困難であった。
692
693 また,
694 Dアパートに隣接して木造2階建ての民家F方が建っており,
695 F方
696 2階のベランダからは,
697 甲方玄関ドアは見通せないものの,
698 甲方玄関ドアから公道上に出てきた
699 人物を見通すことができた。
700
701
702
703
704 警察は,
705 同年3月23日,
706 B町内のS,
707 T及びU駐車場付近の各電柱にビデオカメラを設置し
708 た。
709
710
711 警察は,
712 ビデオカメラ設置に当たっては,
713 各駐車場の管理人及び電柱を管理する電力会社の承
714 諾を得たが,
715 駐車場利用者の承諾は得ていなかったし,
716 ビデオ撮影・録画に関するいかなる令状
717 も取得していなかった。
718
719
720 S駐車場では,
721 付近の電柱にビデオカメラ2台を設置し,
722 うち1台のビデオカメラは,
723 公道か
724 ら見える同駐車場出入口を画面の中心にとらえており,
725 その撮影範囲には,
726 駐車車両や同出入口
727 前の公道は含まれていなかった。
728
729 また,
730 もう1台のビデオカメラは,
731 公道から見えるC社製高級
732 外車を画面の中心にとらえており,
733 その撮影範囲は,
734 同車両の車体全体を含んでいたほか,
735 その
736 左右に隣接する駐車車両の車体の一部を含んでいた。
737
738 各ビデオカメラは,
739 日没後も,
740 付近街灯の
741 明かりのため,
742 撮影範囲内の人物の顔,
743 服装の色・特徴等を鮮明に撮影することが可能であった。
744
745
746 T及びU駐車場付近に設置されたビデオカメラ各2台,
747 合計4台の設置場所,
748 設置状況,
749 撮影
750 範囲等は,
751 S駐車場のそれらと同様であった。
752
753
754 警察は,
755 同年3月24日以降,
756 毎日午前零時から午前5時までの間,
757 各ビデオカメラを作動さ
758 せ,
759 各駐車場の様子を撮影・録画した。
760
761
762
763
764
765 また,
766 警察は,
767 甲方玄関ドア前の公道上を撮影するため,
768 隣家のFの承諾を得て,
769 同年3月2
770 6日,
771 F方2階のベランダにビデオカメラ1台を設置した。
772
773
774 同ビデオカメラは,
775 画面の中心に,
776 甲方玄関ドアから出た直後又は同方に入る直前の人物の公
777 道上の姿をアップでとらえており,
778 その撮影範囲には,
779 甲方玄関ドア等は含まれておらず,
780 撮影
781 範囲の横幅は甲方前公道の幅員の約3分の1であったが,
782 その撮影範囲を歩行する通行人があれ
783 ば,
784 その姿も撮影・録画される状況になっていた。
785
786 同ビデオカメラは,
787 日没後も,
788 付近街灯の明
789 かりのため,
790 撮影範囲内の人物の顔,
791 服装の色・特徴等を鮮明に撮影することが可能であった。
792
793
794 そして,
795 警察は,
796 同年3月27日以降,
797 毎日午前零時から午前5時までの間,
798 同ビデオカメラ
799 を作動させ,
800 甲方玄関ドア前の公道上を撮影・録画した。
801
802 もちろん,
803 ビデオ撮影・録画について,
804
805 甲の承諾も,
806 Dアパートの他の住人や付近住人の承諾も得ていなかったし,
807 これに関するいかな
808 る令状も取得していなかった。
809
810
811
812
813
814 警察は,
815 撮影当日,
816 各駐車場や甲方前で撮影・録画したビデオテープを回収し,
817 警察署内で再
818 生して録画した映像を精査した。
819
820 また,
821 警察は,
822 これらのビデオ撮影・録画に当たっては,
823 録画
824 した映像の中に本件捜査上必要なものがなかった場合には,
825 事後に,
826 そのビデオテープを次の撮
827 影に使用して上書き録画することで,
828 不要な映像を消去することとしており,
829 現に,
830 不要な映像
831 は,
832 この方法で消去されていた。
833
834
835
836
837
838 同年3月28日午前3時30分ころ,
839 甲方から徒歩約20分の距離にあるS駐車場において,
840
841
842 6
843
844 C社製高級外車が炎上した。
845
846 火は幸い早期に発見,
847 消火されたため,
848 同車両を焼損したにとどま
849 り,
850 他の車両や住宅等への延焼は免れたが,
851 S駐車場には,
852 出火当時,
853 炎上した車両の左右の駐
854 車区画を含め合計10台の車両が駐車中であり,
855 炎上した車両と直近の木造住宅との距離は約2
856 メートルであった。
857
858 また,
859 同車両の前部バンパー付近からベンジンの成分が検出された。
860
861
862 警察が,
863 S駐車場の2台のビデオカメラで撮影・録画していたビデオテープを再生したところ,
864
865 同年3月28日午前3時30分ころ,
866 同駐車場に一人の男性が立ち入り,
867 C社製高級外車に近寄
868 ると,
869 折りたたみ式ナイフ様の物で同車両右側ドアに数回にわたってひっかき傷を付けた上,
870
871 参した瓶の中の液体を同車両の前部バンパー付近に振り掛け,
872 ライターでこれに点火して逃走し
873 た様子が録画されていた。
874
875 その放火犯人は,
876 帽子をかぶり,
877 黒色ジャンパーと紺色ズボンを着用
878 し,
879 口元に白色マスクを着け,
880 軍手様の物をはめた手に500ミリリットル程度の容量のある瓶
881 1本を持っていたが,
882 帽子やマスクのため,
883 その人相までは判別できなかった。
884
885
886 警察が,
887 甲方前の公道上を撮影・録画していたビデオテープを再生したところ,
888 同年3月28
889 日午前3時7分,
890 甲方方向から公道上に出てきた直後の甲の姿が,
891 同年3月28日午前3時55
892 分,
893 公道上を歩いてきて甲方方向に向かう甲の姿が,
894 それぞれ録画されていた。
895
896 その際,
897 甲はマ
898 スクをしていなかったので,
899 その顔が明確に判別できた上,
900 甲が着用していた帽子,
901 ジャンパー,
902
903 ズボン等の色・特徴や甲の体格は,
904 S駐車場の放火犯人のそれらと酷似していた。
905
906
907 そこで,
908 警察は,
909 甲方の捜索差押許可状を取得し,
910 同年4月2日,
911 甲の立会いの下,
912 甲方を捜
913 索し,
914 室内から,
915 帽子,
916 黒色ジャンパー,
917 紺色ズボン,
918 白色マスク,
919 500ミリリットルのベン
920 ジン空き瓶,
921 折りたたみ式ナイフ及びライター各1点を発見して押収し,
922 さらに,
923 同年4月2日,
924
925 S駐車場における建造物等以外放火の容疑で,
926 甲を通常逮捕した。
927
928
929
930
931 その後,
932 警察が捜査したところ,
933 甲は,
934 C社日本法人に就職しようとしたが不採用とされたこ
935 とを逆恨みして,
936 平成16年3月3日,
937 屋根のない駐車場において,
938 無関係の第三者が所有する
939 C社製高級外車のドアに折りたたみ式ナイフで複数のひっかき傷を付けた上,
940 同車両の前部バン
941 パー付近にベンジンを散布してこれに火をつけて,
942 同バンパー付近を焼損したが,
943 公共の危険の
944 発生はなかったという器物損壊事件により,
945 同年6月10日,
946 G地方裁判所において,
947 懲役1年
948 6月,
949 3年間執行猶予の有罪判決を受けたという前科を有していた。
950
951
952
953
954
955 甲は,
956 S駐車場における放火の犯人であることを否認したが,
957 検察官は,
958 甲の勾留中に所要の
959 捜査を遂げて,
960 平成19年4月20日,
961 甲をS駐車場における建造物等以外放火の事実で起訴し
962 た。
963
964
965 裁判所で開かれた第一回公判期日において,
966 甲は,
967 「自分は犯人ではない。
968
969 」旨述べて犯行を否
970 認し,
971 甲の弁護人も同趣旨の主張を行った。
972
973
974
975 〔設問1〕 この【事例】のビデオ撮影・録画の適法性について,
976
977 【事例】中の1から7までの記載
978 に表れた具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
979
980
981 〔設問2〕 甲を被告人とする建造物等以外放火被告事件の公判において,
982
983 【事例】中の8記載の事
984 実を,
985 同被告事件の犯人は甲であるとの認定に用いることが許されるか否かについて論じなさい。
986
987
988
989 7
990
991