1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔設問1と設問2の配点の割合は,
7 5.8:4.2〕)
8 次の文章を読んで,
9 以下の1と2の設問に答えよ。
10
11
12 T
13
14 Xは,
15 Aに対し,
16 Xが所有していたマンション1戸(以下「甲不動産」という。
17
18 )を1000万
19 円で売った(甲不動産については,
20 専有部分と分離して処分することができない敷地利用権であ
21 ることが登記されており,
22 分離処分については考慮しなくてよい。
23
24 )。
25
26 代金は,
27 契約締結時に60
28 0万円,
29 その2か月後に400万円をそれぞれ支払うという約定であった。
30
31 契約締結時に,
32 Aは
33 Xに600万円を支払い,
34 甲不動産につきAを名義人とする所有権移転登記がされ,
35 また,
36 Aに
37 対して引渡しがされた。
38
39
40 Aは,
41 Xとの前記売買契約締結の2週間後に,
42 知人のY1に対し,
43 甲不動産を賃貸して引き渡
44 した。
45
46 賃料は月額8万円,
47 賃貸期間は2年間,
48 目的は居住目的と定められた。
49
50 Y1は,
51 賃貸借契
52 約を締結する際,
53 Aに対し,
54 権利金として16万円,
55 敷金として20万円を,
56 それぞれ交付した。
57
58
59 Aは,
60 Y1と前記の賃貸借契約を締結するに当たり,
61 Y1に対し,
62 転貸することとペットを飼う
63 ことを禁ずる旨口頭で説明し(なお,
64 これらの事項は賃貸借契約書にも不動文字で印刷されてい
65 た。
66
67 ),
68 Y1は,
69 Aに対し,
70 それらの点については十分了解した旨伝えた。
71
72 一方,
73 Y1はAに対し,
74
75 場合によってはY1の扶養家族(配偶者と小学生の子一人)を呼び寄せて同居する可能性がある
76 ことを伝え,
77 Aはこれを了解していた。
78
79 Y1の扶養家族は,
80 Y1の配偶者の親の看病の必要から
81 Y1と別居していた。
82
83
84 Y1は,
85 単身で賃貸アパートに居住していたが,
86 交通の便が悪いことから転居することを考え
87 ており,
88 Aから甲不動産の話を聞いた際,
89 甲不動産は自分独りで住むには広過ぎるとも考えたが,
90
91 交通の便が良いことと,
92 賃料がそれほど高くないことから,
93 甲不動産を賃借することとし,
94 前記
95 の賃貸借契約締結に至ったものであった。
96
97 Y1は,
98 賃貸借契約締結の時点でXA間の売買の代金
99 のうち400万円が未払であることは認識していた。
100
101
102 Y1の叔父であるY2は,
103 配偶者及び子二人(子はいずれも小学生)とともに,
104 甲不動産近くの
105 賃貸住宅で生活していたが,
106 かねてから同住宅の賃料の支払が家計を圧迫しており,
107 賃料が低廉
108 な物件を探していた。
109
110 そのようなときに,
111 甥のY1が甲不動産を借りたことを聞きつけ,
112 Y1に対
113 し,
114 甲不動産を貸してくれるよう求めた。
115
116 Y1は,
117 当初は,
118 自分自身が甲不動産で生活したいこ
119 とと,
120 Aが転貸を嫌がっていたことから,
121 Y2の申出を拒んでいたが,
122 Y2から執ように求められ,
123
124 結局,
125 これに応ずることとし,
126 自分は従前の賃貸アパートに住み続けることとした。
127
128
129 以上のような経緯で,
130 Y1は,
131 Aから甲不動産の引渡しを受けた3週間後に,
132 Aに無断でY2に
133 甲不動産を賃貸して引き渡し,
134 Y2はその家族とともに甲不動産での生活を始めた。
135
136 賃料は月額
137 8万円,
138 賃貸期間は2年間,
139 目的は居住目的,
140 権利金は16万円,
141 敷金は20万円と定められ,
142
143 Y2は,
144 権利金16万円及び敷金20万円をY1に交付した。
145
146
147 Y1は,
148 Y2と賃貸借契約を結ぶ際に,
149 Y2に対し,
150 甲不動産をAに無断で貸すことは,
151 Aから
152 禁じられていることを説明し,
153 あわせて,
154 Aに無断で貸したことが原因でY2が甲不動産から出
155 て行かざるを得なくなったとしても,
156 Y1としては一切責任を負わない旨説明した。
157
158 Y2は,
159 これ
160 らの点について承諾したという趣旨の「承諾書」と題する書面を作成し,
161 署名押印の上,
162 Y1に
163 これを差し入れた。
164
165 なお,
166 Y1はY2に対し,
167 甲不動産の購入代金のうち400万円をAがいまだ
168 Xに支払っていない事実を告げていなかった。
169
170
171 その後,
172 Aは,
173 残代金400万円を約定の期日に支払うことができなかった。
174
175 Xは,
176 Aが残代
177 金を支払う可能性はないと考え,
178 甲不動産を取り戻すことを弁護士Lに依頼し,
179 これを受任した
180 Lは,
181 Xの代理人として,
182 Aに対し,
183 残代金の支払を催告し,
184 その後も残代金の支払がなかった
185 ことから甲不動産の売買契約を解除する旨の意思表示をした。
186
187
188 - 2 -
189
190 Aは,
191 残代金を支払えなかった以上は,
192 Xから売買契約を解除されたことはやむを得ないと考
193 え,
194 登記に関する必要書類一式をLに交付し,
195 甲不動産のA名義の所有権移転登記については,
196
197 前記の売買契約の解除を原因として抹消登記がされた。
198
199
200 その後,
201 Lは,
202 Xの代理人として,
203 Y1に対し,
204 仮にXがY1との間の甲不動産の賃貸借契約に
205 おける賃貸人になるのであれば,
206 同契約を無断転貸を理由に解除する旨の意思表示をした。
207
208 Lは,
209
210 Y1とY2に対し,
211 甲不動産の明渡しを求めたが,
212 Y1とY2はこれに応じようとしない。
213
214
215 〔設問1〕
216
217
218 以下の設問からに答えなさい。
219
220
221
222 Xは,
223 甲不動産の明渡しを得るために,
224 Y1に対し,
225 所有権に基づく返還請求をした。
226
227 これ
228 に対し,
229 Y1は次の反論をした。
230
231 この反論が認められるかどうかを論述しなさい。
232
233 ただし,
234 Y1
235 に対する賃貸借契約の解除については,
236 論じなくてよい。
237
238
239 (反論@)「Y1は,
240 民法第545条第1項ただし書の第三者に該当し,
241 甲不動産の賃借権に
242 つき対抗要件を備えているから,
243 Xの請求には理由がない。
244
245 」
246
247
248
249 Xは,
250 甲不動産の明渡しを得るために,
251 Y1に対し,
252 賃貸借契約終了に基づく返還請求をし
253 た。
254
255 これに対し,
256 Y1は次の反論をした。
257
258 この反論が認められるかどうかを論述しなさい。
259
260
261 (反論A)「Y1は,
262 甲不動産をAから賃借したのであり,
263 XがAY1間の賃貸借契約を解除
264 することはできないから,
265 Xの請求には理由がない。
266
267 」
268 (反論B)「甲不動産は,
269 Y2が使用しているものであり,
270 Y1は甲不動産を占有していない
271 のであるから,
272 Xの請求には理由がない。
273
274 」
275
276
277
278 Xが,
279 甲不動産の明渡しを得るために,
280 Y2に対し,
281 所有権に基づく返還請求をしたところ,
282
283 Y2は,
284 反論として,
285 「Y2は甲不動産の賃借人であるY1から賃借しているのであり,
286 Y1Y2間
287 の甲不動産の賃貸借は,
288 Y1に対する賃貸人との関係で背信行為と認めるに足りない特段の事
289 情が存在する。
290
291 」と主張した。
292
293 この主張のうち,
294 「背信行為と認めるに足りない特段の事情」と
295 して,
296 Y2が主張立証すべき具体的事実を指摘し,
297 その理由を簡潔に説明しなさい。
298
299
300
301 U
302
303 前記Tの甲不動産については,
304 その後,
305 次のような事実経過があった。
306
307
308 甲不動産の明渡しを求められたY2は,
309 Xと交渉し,
310 何とか甲不動産の使用を続けたいと懇請
311 した。
312
313 Y1も交えて相談した結果,
314 Y2がY1に支払う賃料及びY1がXに支払う賃料をいずれも月
315 10万円とし,
316 Y2がY1名義で直接Xに支払うことにして,
317 Xは,
318 Y2への転貸を了解すること
319 とした。
320
321 もっとも,
322 X自身及びその配偶者であるBは,
323 このころから加齢のため気力や体力の衰
324 えを感ずるようになり,
325 甲不動産をめぐる事務の処理を億劫に感ずるようになってきた。
326
327 そこで,
328
329 このように賃料を改訂してY2への転貸をXが了解したことを機に甲不動産の管理は,
330 事実上,
331
332 Xの唯一の子であるCが担うようになってきた。
333
334 Cは,
335 Xとその前の配偶者との間の子である。
336
337
338 そうするうちにXが死亡したが,
339 しばらくの間遺産分割はなされず,
340 また,
341 Y1及びY2がXの
342 死亡を知る機会がないまま,
343 賃料は,
344 Y2がCに支払っていた。
345
346 BとCの遺産分割協議が成立し
347 たのは,
348 Xが死亡してから9か月後のことである。
349
350 この遺産分割協議において,
351 甲不動産をBが
352 単独で取得するものとすることが定められたことから,
353 Bは,
354 Cに対し,
355 Xの死亡後にY2から
356 収受していた甲不動産の賃料相当額である90万円の支払を求めた。
357
358 これに対し,
359 Cは,
360 甲不動
361 産自体をBが取得することは遺産分割協議で定めたとおりであるが,
362 遺産分割協議成立までの間
363 に生じた賃料の扱いは別であると主張し,
364 これに応じていない。
365
366
367
368 〔設問2〕
369 BがCに対して前記90万円を支払うよう求めることができるかどうかを検討し,
370 その結論及
371 び理由を示しなさい。
372
373
374 この点に関しては,
375 相続財産(遺産)を構成する賃貸不動産について,
376 相続開始から遺産分割
377 - 3 -
378
379 までの間にそれを使用管理した結果として生ずる賃料債権は,
380 「各共同相続人がその相続分に応
381 じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である」とする見解(最高裁判
382 所平成17年9月8日第一小法廷判決・最高裁判所民事判例集59巻7号1931頁)がある。
383
384
385 本問の検討に当たっては,
386 どのように相続財産の範囲を考えるかという問題や,
387 遺産分割の効力
388 との関係などの問題に言及するとともに,
389 上記の見解に対する評価も示しなさい。
390
391
392
393 - 4 -
394
395 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
396
397 - 1 -
398
399 [民事系科目]
400 〔第2問〕(配点:200〔設問1から設問4までの配点の割合は,
401 5:5:3.5:6.5〕)
402 次の文章を読んで,
403 以下の1から4までの設問に答えよ。
404
405
406 T
407
408 山野弁護士は大手の丙銀行株式会社(以下「丙銀行」という。
409
410 )の顧問弁護士を,
411 川野弁護士は
412 丁株式会社(以下「丁社」という。
413
414 )の顧問弁護士をそれぞれ務めていたが,
415 平成20年5月中旬
416 ころ,
417 それぞれ,
418 各社の法務担当者から相談を受けることとなった。
419
420 各社からの相談は,
421 いずれ
422 も以下の1から16までの事実経過を前提としたものであり,
423 丙銀行からは17の経緯で,
424 丁社
425 からは18の経緯でそれぞれされたものとする。
426
427
428 1. 甲株式会社(以下「甲社」という。
429
430 )は,
431 工作機械の部品の製造及び販売を業とする株式会社
432 である。
433
434 同社は,
435 工作機械の製造及び販売を業とする乙株式会社(以下「乙社」という。
436
437 )の子
438 会社であり,
439 乙社が汎用性のある部品の開発に成功したことをきっかけとして設立されたもの
440 である。
441
442
443 2. 乙社は,
444 理工学系の大学院で機械工学を学んだAが友人であるBとともに設立した会社であ
445 り,
446 その株主は,
447 A及びBの2人だけである。
448
449 また,
450 同社の取締役には,
451 A及びBのほか,
452 A
453 の妻であるCが就任し,
454 代表取締役には,
455 A及びBが選定されていた。
456
457 同社は,
458 その製品に関
459 して多数の特許を取得し,
460 順調に事業を展開していたことから,
461 会社法上の公開会社でない株
462 式会社でありながら,
463 大きな信用力を保持していた。
464
465
466 3. 甲社は,
467 国内外の工作機械製造会社から注文が殺到したために急成長し,
468 平成15年には,
469
470 東京証券取引所(マザーズ)への上場を果たした。
471
472 同社の株式は,
473 乙社が30%を,
474 A及びB
475 が各10%を保有していたほか,
476 経理及び財務に明るい人物が必要だということで,
477 Aの友人
478 である税理士資格を有するDにも5%を保有してもらっていた。
479
480
481 4. 甲社の取締役には,
482 A,
483 B及びDが就任していた。
484
485 同社の技術力はA個人の能力に負うとこ
486 ろが大きかったことから,
487 Aが代表取締役に選定され,
488 他方で,
489 Bは,
490 父親が日本有数の自動
491 車製造会社の取締役であることから,
492 その広い人脈を駆使して営業活動の指導に当たることと
493 し,
494 Dは,
495 予定どおり甲社の経理及び財務を担当することとなった。
496
497 Dは,
498 就任後間もなく,
499
500 取引銀行との付き合いを広げる必要があると考え,
501 丙銀行を甲社の主たる取引銀行とすること
502 とした。
503
504
505 5. 平成18年になり,
506 Aの開発した部品が特許の取得に成功し,
507 その結果,
508 甲社は,
509 莫大な利
510 益を上げることとなったため,
511 同社においては,
512 その利益の運用が重要な課題となった。
513
514 しか
515 し,
516 このころから,
517 開発の成功を背景として,
518 社内におけるAの発言力が増大し,
519 その横柄な
520 態度を不愉快に感じたDとAとの間で,
521 軋轢が生じるようになっていった。
522
523 このようなことか
524 ら,
525 Aは,
526 これまで資金の運用を一手に引き受けていたDを無視して,
527 Bを通じて知り合った
528 金融ブローカーであるEに甲社の資金50億円の運用を一任することを計画した。
529
530 Dは,
531 取締
532 役会において,
533 Eへの資金の運用の一任に強く反対したが,
534 A及びBが賛成したため,
535 この計
536 画は,
537 実行に移されることとなった。
538
539
540 6. Eは,
541 平成18年10月,
542 Aに対し,
543 投資リスクを分散するため,
544 差し当たり甲社の資金
545 50億円をリスクの小さな金融商品に投資し,
546 他方で,
547 なるべく多くの資金を銀行から借り入
548 れ,
549 その借入資金を金融先物取引などのハイリスク・ハイリターン型の投資に振り向けたいと
550 伝えた。
551
552 その際,
553 Aは,
554 Eから,
555 この投資に協力してくれる銀行が必要である旨を言われたた
556 め,
557 投資のことはよく分からなかったものの,
558 Dに相談することなく,
559 丙銀行と付き合いがあ
560 る旨を伝え,
561 さらに,
562 融資を受けるには乙社の保証が必要である旨を言われたため,
563 これを了
564 解した。
565
566
567 - 2 -
568
569 7. これを受け,
570 Eは,
571 早速,
572 丙銀行の融資担当者であるFと接触し,
573 甲社と乙社が共同で海外
574 に新しく工場を建設することになったとの架空の話をねつ造して,
575 甲社を主たる債務者,
576 乙社
577 を保証人として融資を受けたい旨の申入れを行った。
578
579 その際,
580 Eは,
581 この架空の話の信ぴょう
582 性を高めるため,
583 知人に依頼して工場の簡単な設計図を作ってもらうとともに,
584 虚偽の資金計
585 画書を自ら作成して,
586 これらをFに手渡した。
587
588 Fは,
589 海外における工場建設の話であったため,
590
591 直ちに現地に赴くことも困難であり,
592 また,
593 これまで取引のなかった乙社との間に密接な関係
594 を築きたいとの思惑もあったことから,
595 これらの書類を鵜呑みにした上で,
596 積極的に動き始め
597 た。
598
599
600 8. 平成18年12月になり,
601 Aは,
602 Eから,
603 丙銀行から30億円の融資を受けることができる
604 ことになったので甲社と乙社の取締役会において承認を受けてほしい旨を言われた。
605
606 しかし,
607
608 このことがDに知れると甲社に内紛が起こりかねないし,
609 また,
610 乙社の取締役会もこれまで全
611 くといっていいほど開かれていなかったため,
612 Aは,
613 Eに対し,
614 適当に対処してほしい旨を伝
615 えた。
616
617 そこで,
618 Eは,
619 Fに対し,
620 甲社及び乙社ともに取締役会の議事録を用意することはでき
621 ない旨を伝えたところ,
622 Fは,
623 甲社及び乙社の役員に対して自ら確認することはしないで,
624 E
625 に対し,
626 取締役会の議事録に代わるものを提出するように求めた。
627
628 Eは,
629 このFの求めに応じ,
630
631 甲社及び乙社の双方について,
632 各取締役会で前記の融資及び保証について承認があった旨の確
633 認書を作成した上,
634 Aに署名捺印させ,
635 これをFに手渡した。
636
637 しかし,
638 Fは,
639 この確認書だけ
640 では丙銀行内部の決裁が得られないと考え,
641
642 「甲社及び乙社の役員全員に面談し,
643 各取締役会の
644 承認を受けていることを確認した上で,
645 両社の代表取締役であるAから確認書を取得した。
646
647 」旨
648 を記載した稟議書を作成し,
649 これにより,
650 上記の融資案件をまとめるに至った。
651
652
653 9. 平成19年1月,
654 Aが甲社を代表して丙銀行との間で30億円の融資契約(金銭消費貸借契
655 約)を締結するとともに,
656 Bが乙社を代表して丙銀行との間でこの甲社の債務についての保証
657 契約を締結し,
658 丙銀行の甲社の口座に30億円が入金された。
659
660 これにより,
661 Eは,
662 甲社の自己
663 資金50億円と合わせて合計80億円の運用を任されることになった。
664
665
666 10. しかし,
667 Eは,
668 当初の話とは異なり,
669 80億円のすべてをハイリスク・ハイリターン型の投
670 資に振り向けてしまい,
671 その投資に失敗した結果,
672 巨額の損失を出すこととなり,
673 このままで
674 は甲社の期末の決算では,
675 資本の欠損が生ずることは明らかとなった。
676
677
678 11. そこで,
679 Aは,
680 甲社の先行きに不安を感じたため,
681 Bと結託し,
682 同社の下請企業等の取引先
683 に頼んで架空の取引を循環させ,
684 不適切な会計処理を行った。
685
686 ところが,
687 平成19年3月にな
688 り,
689 Aから不適切な会計処理を行うよう強要されたとして,
690 甲社の経理部の従業員が東京証券
691 取引所に通報したことから,
692 同社の株式は監理ポスト(監理銘柄)に指定されることになった。
693
694
695 このため,
696 市場では,
697 上場廃止になるだろうとの観測が広がり,
698 甲社の株価は,
699 1株6000
700 円程度で安定していた不祥事発覚前の株価と比べて大きく下落し,
701 1株1000円程度で下げ
702 止まった。
703
704
705 12. Dは,
706 東京証券取引所の前記11の措置に伴い,
707 巨額損失の発生を初めて知ることとなり,
708 甲
709 社の取締役会において,
710 Aを代表取締役から解職するよう提案したが,
711 定時株主総会において
712 株主に事情を説明し,
713 その判断を仰ぐべきではないかというBの意見に従い,
714 決議するには至
715 らなかった。
716
717 Dは,
718 Aだけでなく,
719 Aに同調するBも解任すべきであると考え,
720 株主提案権を
721 行使し,
722 A及びBの解任を定時株主総会の目的とするよう請求した。
723
724 そして,
725 平成19年6月
726 28日,
727 甲社の定時株主総会が開催され,
728 同総会において,
729 A及びBを取締役から解任する旨
730 の議案が決議の対象とされたが,
731 株主であるA,
732 B及び乙社の反対により,
733 当該議案はいずれ
734 も否決される結果となった。
735
736
737 13. その後,
738 A及びBは,
739 甲社の上場廃止は避けられないと判断し,
740 同社の一般株主の不満を解
741 消するため,
742 乙社との間で金銭を対価とする株式交換を行うことを計画した。
743
744 Aは,
745 この計画
746 を実行すべく,
747 株式交換に際して甲社の株主に対して交付すべき対価の額について証券会社に
748 - 3 -
749
750 助言を求めたところ,
751 株式交換の決議を行う株主総会の基準日の時価によるべき旨の回答を得
752 るところとなった。
753
754 しかし,
755 Aは,
756 これでは一般株主からの責任追及は免れ難いと判断し,
757 知
758 り合いのM&Aアドバイザーに頼んで,
759 不祥事発覚前の株価である6000円程度を基準にし
760 て対価を交付することが適切である旨の意見書を書いてもらい,
761 これを盾にして証券会社を説
762 得し,
763 株式交換を実施することとした。
764
765
766 14. 乙社は,
767 株式交換の手続として必要な法定の事項を官報に掲載する方法により公告したもの
768 の,
769 知れている債権者に対する各別の催告はしなかった。
770
771 そこで,
772 丙銀行は,
773 乙社に対し,
774 前
775 記9の保証債権の存在を前提として,
776 甲社との間の株式交換は株主に対して交付する対価の算
777 定に問題があり,
778 乙社の現金を不当に流出させて債務の弁済に支障を来すものであると主張し,
779
780 異議を述べた。
781
782 しかし,
783 乙社は,
784 丙銀行に対し,
785 保証契約の効力は認められないと主張し,
786 何
787 ら,
788 弁済,
789 相当の担保の提供又は財産の信託をすることはなかった。
790
791
792 15. 平成20年1月17日,
793 甲社及び乙社の双方において,
794 臨時株主総会が実施され,
795 株式交換
796 契約の承認決議が成立し,
797 その後,
798 株式交換の効力発生日が経過した。
799
800
801 16. A及びBは,
802 取引を装って甲社の財産を乙社に移転させ,
803 甲社を倒産させることを画策し,
804
805 甲社をAが,
806 乙社をBがそれぞれ代表して,
807 両社の取締役会の承認を受けることなく,
808 平成
809 20年4月中旬から同月下旬までの間に,
810 価格の不自然な取引を繰り返した。
811
812 そのため,
813 甲社
814 の資金繰りは悪化し,
815 同年5月上旬からは,
816 丙銀行に対する利払いが継続して滞る事態に陥っ
817 た。
818
819 他方で,
820 乙社は,
821 甲社より財産の移転を受けたものの,
822 株式交換の対価として巨額の現金
823 を流出させたことによる財務状態の悪化は解消しなかった。
824
825
826 17. そこで,
827 丙銀行は,
828 前記9の30億円の融資について,
829 甲社に支払を求める訴えを提起した
830 いと考えたが,
831 同社の弁済能力には不安があったので,
832 併せて,
833 乙社に対して前記9の保証債
834 務の履行を求めることができるかどうか,
835 さらに,
836 甲社と乙社の間で行われた株式交換に法的
837 な問題がないかどうかを,
838 山野弁護士に相談した。
839
840
841 18. 一方,
842 丁社は,
843 甲社と乙社の間で行われた株式交換の効力発生日の直後に甲社から手形の振
844 出しを受けたものの,
845 当該手形がその後に不渡りとなったことから,
846 債権の回収について社内
847 で検討を行い,
848 当該手形の取得後に行われた甲社と乙社との間の価格の不自然な取引に疑問を
849 持つに至った。
850
851 そこで,
852 丁社は,
853 甲社に対する破産手続開始の申立てを検討するとともに,
854 仮
855 にこれを行わない場合に自らの債権の回収に役立つ法律論が展開できないかどうかを,
856 川野弁
857 護士に相談した。
858
859
860 〔設問1〕
861
862 丙銀行から相談を受けた山野弁護士は,
863 乙社に対する保証債務履行請求の可否及び甲
864
865 社と乙社の間の株式交換の問題点についてどのように回答すべきか,
866 あなたの考えを述べなさい。
867
868
869 〔設問2〕
870
871 丁社から相談を受けた川野弁護士は,
872 債権の回収に役立つ法律論についてどのように
873
874 回答すべきか,
875 あなたの考えを述べなさい(詐害行為取消権や債権侵害の不法行為の成否につい
876 ては,
877 検討することを要しない。
878
879 )。
880
881
882 U
883
884 以下の1から4までの文章は,
885 前記Tの甲社に関するものである。
886
887
888 1. 甲社の個人株主であるJは,
889 平成19年6月28日に行われた甲社の定時株主総会に出席し,
890
891 Aの解任議案に賛成票を投じていた。
892
893 総会でのDの説明を聞いて,
894 Aの行動に憤りを覚えたJ
895 は,
896 法学部出身でもあり,
897 役員の解任の訴えの制度を知っていたので,
898 この際,
899 訴えを提起し
900 てAを解任しようと考えた(Jは,
901 会社法第854条第1項に規定する議決権又は株式の保有
902 の要件を満たしている。
903
904 )。
905
906 そこで,
907 Jは,
908 弁護士を訴訟代理人に選任することなく,
909 訴状を自
910 ら作成し,
911 同年7月9日,
912 甲社の本店所在地を管轄するP地方裁判所に,
913 Aだけを被告として
914 - 4 -
915
916 取締役の解任の訴えを提起した。
917
918 P地方裁判所は,
919 直ちにこの訴状の副本をAに送達し,
920 Aは
921 同月13日にこれを受領した。
922
923
924 2. 会社法の解説書を読み直していたJは,
925 会社法第855条を見落としていたことに気付いた
926 ので,
927 同月17日,
928 P地方裁判所に,
929 被告として甲社を追加する旨の申立書を提出した。
930
931 P地
932 方裁判所は,
933 直ちに,
934 訴状と申立書の双方の副本を甲社に,
935 申立書の副本をAに,
936 それぞれ送
937 達し,
938 甲社もAも同月20日にこれを受領した。
939
940
941 3. 同月30日,
942
943 「原告Jの平成19年7月17日付けの申立ては主観的追加的併合の申立てに該
944 当するところ,
945 主観的追加的併合についてはこれを否定する最高裁判例があるから,
946 甲社を被
947 告として追加する原告Jの申立ては許されない。
948
949 」との記載のある甲社の答弁書がJのもとに送
950 られてきた。
951
952
953 (甲社が答弁書で引用した最高裁判所の判決)
954 「甲が,
955 乙を被告として提起した訴訟(以下「旧訴訟」という。
956
957 )の係属後に丙を被告とす
958 る請求を旧訴訟に追加して1個の判決を得ようとする場合は,
959 甲は,
960 丙に対する別訴(以下
961 「新訴」という。
962
963 )を提起したうえで,
964 法132条の規定による口頭弁論の併合を裁判所に促
965 し,
966 併合につき裁判所の判断を受けるべきであり,
967 仮に新旧両訴訟の目的たる権利又は義務
968 につき法59条所定の共同訴訟の要件が具備する場合であつても,
969 新訴が法132条の適用
970 をまたずに当然に旧訴訟に併合されるとの効果を認めることはできないというべきである。
971
972
973 けだし,
974 かかる併合を認める明文の規定がないのみでなく,
975 これを認めた場合でも,
976 新訴に
977 つき旧訴訟の訴訟状態を当然に利用することができるかどうかについては問題があり,
978 必ず
979 しも訴訟経済に適うものでもなく,
980 かえつて訴訟を複雑化させるという弊害も予想され,
981 ま
982 た,
983 軽率な提訴ないし濫訴が増えるおそれもあり,
984 新訴の提起の時期いかんによつては訴訟
985 の遅延を招きやすいことなどを勘案すれば,
986 所論のいう追加的併合を認めるのは相当ではな
987 いからである。
988
989 」(最高裁判所昭和62年7月17日第三小法廷判決・最高裁判所民事判例集
990 第41巻第5号1402頁)
991 ※
992
993 引用文中の「法132条」,
994 「法59条」は,
995 それぞれ,
996 現行民事訴訟法第152条,
997 第
998 38条に相当する旧民事訴訟法の規定である。
999
1000
1001
1002 4. この甲社の答弁書を読んで驚いたJは,
1003 知人から紹介を受けた海野弁護士に相談をし,
1004 海野
1005 弁護士はJから訴訟委任を受けた。
1006
1007
1008 〔設問3〕
1009
1010 海野弁護士は,
1011 Jの訴訟代理人として,
1012 甲社の主張に対して,
1013 どのように反論すべき
1014
1015 か,
1016 論じなさい。
1017
1018
1019 V
1020
1021 以下の1から7までの文章は,
1022 前記Tの甲社に関するものである。
1023
1024
1025 1. 前記Uの個人株主Jによる解任の訴えとは別に,
1026 甲社の個人株主であるKは,
1027 訴訟代理人に
1028 依頼し,
1029 平成19年7月17日,
1030 甲社と取締役Bの双方を被告として,
1031 P地方裁判所に,
1032 取締
1033 役Bの解任の訴えを提起した(Kは,
1034 会社法第854条第1項に規定する議決権又は株式の保
1035 有の要件を満たしている。
1036
1037 )。
1038
1039
1040 同年8月24日に行われた第1回口頭弁論期日において,
1041 Kは,
1042
1043 「取締役である被告Bは,
1044 銀
1045 行から借り入れた30億円のほか,
1046 自己資金50億円を合わせた80億円全額が,
1047 約束に反し
1048 てハイリスク・ハイリターン型の商品に投資されており,
1049 しかも,
1050 この投資取引により平成
1051 19年1月末ころには,
1052 多額の損失が生じていることを知った。
1053
1054 ところが,
1055 被告Bは,
1056 この段
1057 階でこのような投資取引を中止すれば,
1058 更なる損失を防止することができたのに,
1059 代表取締役
1060 Aに取引を中止させるための措置を執らなかった。
1061
1062 そのため,
1063 この投資取引による損失は拡大
1064 し,
1065 同年2月中旬にAの指示により投資取引を終了した時点では,
1066 損失額が合計78億円にま
1067 - 5 -
1068
1069 で及んでしまった。
1070
1071 したがって,
1072 被告Bには,
1073 法令又は定款に違反する重大な事実があり,
1074 解
1075 任事由がある。
1076
1077 」と主張した。
1078
1079
1080 これに対し,
1081 被告らは,
1082 Kの主張を争い,
1083
1084 「被告Bは,
1085 この投資取引が終了した後,
1086 平成19
1087 年2月下旬になって初めて,
1088 Aからの報告で,
1089 この投資取引の具体的内容やこの投資取引によ
1090 り78億円の損失が生じたことを知らされたのであり,
1091 それ以前には,
1092 何も聞かされていなか
1093 った。
1094
1095 」などと主張した。
1096
1097
1098 裁判所は,
1099 争点及び証拠の整理をするため,
1100 本件を弁論準備手続に付した。
1101
1102
1103 2. Kの訴訟代理人は,
1104 Kから訴訟委任を受けた後,
1105 本件について事実関係を調査していたが,
1106
1107 その結果,
1108 Eが,
1109 平成19年1月末ころ,
1110 甲社にファクシミリを送信したこと,
1111 そのファクシ
1112 ミリ送信文は甲社代表取締役Aあてで,
1113 Eが投資した商品の銘柄,
1114 買付金額,
1115 時価等が一覧表
1116 の形で記載されていたこと,
1117 その末尾には損失合計額として巨額の金額が記載されていたこと
1118 などの情報を得た。
1119
1120
1121 また,
1122 Kの訴訟代理人は,
1123 この投資取引による損失が同年1月末ころには40億円程度にな
1124 っていたことなどを,
1125 別の資料からつかんでいた。
1126
1127
1128 3. 平成19年9月14日に開かれた第1回弁論準備手続期日において,
1129 Kの訴訟代理人は,
1130 こ
1131 の投資取引による損失の額が同年1月末ころ40億円程度になっていたことなどを示す投資取
1132 引関係等の書証を提出した。
1133
1134
1135 裁判所は,
1136
1137 「本日の争点整理の結果,
1138 証拠関係からみると,
1139 平成19年1月末ころの時点で投
1140 資取引による被告甲社の損失が40億円程度に達していたこと,
1141 これ以降も投資取引を継続す
1142 れば損失が更に拡大することがこの時点で予測可能であったこと,
1143 平成19年2月中旬に投資
1144 取引が終了したが,
1145 その段階では78億円まで損失が拡大していたこと,
1146 投資取引が終了する
1147 までの間に,
1148 被告Bは,
1149 代表取締役Aに対し,
1150 投資取引を中止させるための措置を執らなかっ
1151 たことは,
1152 明らかにされたと思います。
1153
1154 そうすると,
1155 被告Bが,
1156 平成19年1月末ころ,
1157 この
1158 投資取引により被告甲社に40億円程度の損失が生じていたことを知っていたかどうかが実質
1159 的な争点になりますね。
1160
1161 」と述べた。
1162
1163
1164 これを聞いて,
1165 Kの訴訟代理人は,
1166 甲社がEから受信し,
1167 Eが甲社のために投資した商品の
1168 銘柄,
1169 買付金額,
1170 時価等が一覧表の形で記載され,
1171 その末尾に損失合計額として巨額の金額が
1172 記載されていたファクシミリ文書(以下「本件文書」という。
1173
1174 )が存在することを指摘し,
1175 「甲
1176 社は本件文書を書証として提出すべきである。
1177
1178 」と述べ,
1179 本件文書の提出に関し議論が交わされ
1180 たが,
1181 甲社の訴訟代理人は,
1182 「本件文書を任意に提出するつもりはない。
1183
1184 」と述べた。
1185
1186
1187 4. そこで,
1188 Kの訴訟代理人は,
1189 本件文書は,
1190 Bの解任事由に関して重要な事実を裏付けるもの
1191 になり得ると考え,
1192 第1回弁論準備手続期日終了後直ちに,
1193 本件文書について,
1194 次の内容を記
1195 載した申立書を裁判所に提出して,
1196 文書提出命令を申し立てた。
1197
1198
1199 (1)
1200
1201 文書の表示及び文書の趣旨
1202 受信日として平成19年1月末ころの日付が印字されたE作成の甲社代表取締役Aあて
1203
1204 ファクシミリ文書であって,
1205 Eが甲社のために購入した投資商品の銘柄並びに買付金額,
1206
1207 時価及び利益・損失等が一覧表の形で記載され,
1208 かつ,
1209 末尾に損失合計額として40億円
1210 程度の金額の記載があるもの
1211 (2)
1212
1213 文書の所持者
1214
1215 被告甲社
1216
1217 (3)
1218
1219 証明すべき事実
1220
1221 Eの投資取引の失敗により,
1222 平成19年1月末ころ,
1223 甲社に40億円
1224
1225 程度の損失が発生していたところ,
1226
1227 ア
1228
1229 Aは,
1230 平成19年1月末ころ,
1231 この投資取引により,
1232 甲社に40億円程度の損失が発
1233 生している事実を知ったこと。
1234
1235
1236
1237 イ
1238
1239 被告Bも,
1240 Aを介するなどして,
1241 そのころその事実を知ったこと。
1242
1243
1244 - 6 -
1245
1246 ウ
1247 (4)
1248
1249 被告Bには,
1250 法令又は定款に違反する重大な事実があったこと。
1251
1252
1253 文書の提出義務の原因
1254
1255 民事訴訟法220条3号又は4号
1256
1257 5. 平成19年10月5日に開かれた第2回弁論準備手続期日において,
1258 甲社の訴訟代理人は,
1259
1260 「本件文書は存在するが,
1261 民事訴訟法第220条第3号には当たらないし,
1262 同条第4号ハ又は
1263 ニに当たる文書であるので提出義務はない。
1264
1265 また,
1266 任意に提出するつもりもない。
1267
1268 」と述べた。
1269
1270
1271 6. 平成19年10月12日,
1272 裁判所は,
1273 甲社に対し,
1274 文書提出命令を発し,
1275 この決定は,
1276 間も
1277 なく確定した。
1278
1279
1280 7. 平成19年11月16日に開かれた第3回弁論準備手続期日において,
1281 甲社の訴訟代理人は,
1282
1283 「甲社は本件文書を所持しているが,
1284 提出するつもりはない。
1285
1286 」と述べた。
1287
1288 これに対し,
1289 Kの訴
1290 訟代理人は,
1291
1292 「甲社が文書提出命令に応じないのであれば,
1293 裁判所は,
1294 その制裁として,
1295 民事訴
1296 訟法第224条を適用すべきである。
1297
1298 」と主張した。
1299
1300
1301 〔設問4〕
1302
1303 以下は,
1304 第3回弁論準備手続期日が終了した後の,
1305 裁判長と傍聴を許された司法修習
1306
1307 生との会話である。
1308
1309
1310
1311 裁判長: 今日の弁論準備手続で,
1312 甲社は文書提出命令に従わないと陳述しましたね。
1313
1314
1315 修習生: ええ,
1316 甲社はその理由について余り明確には述べませんでした。
1317
1318
1319 裁判長: そうですね。
1320
1321 これに対して,
1322 Kは,
1323 224条の適用を主張していましたね。
1324
1325 そこで,
1326
1327 せっかくの機会ですから,
1328 224条について勉強してみましょうか。
1329
1330 どのように訴訟
1331 指揮をし,
1332 争点整理をしていくかを考える前提にもなりますね。
1333
1334
1335 修習生: 本件では,
1336 224条1項と3項の適用が問題になると思いますが,
1337 これらの要件を
1338 満たすかどうかの判断は,
1339 なかなか難しい問題だと思います。
1340
1341
1342 裁判長: そうですね。
1343
1344 要件の問題も重要ですが,
1345 今日は224条3項が適用される場合の効
1346 果に限って検討してみましょう。
1347
1348 条文には「その事実に関する相手方の主張を真実と
1349 認めることができる。
1350
1351 」とありますね。
1352
1353 これはどのような趣旨の規定だと思いますか。
1354
1355
1356 修習生: 証明妨害の典型的な例を明文化したものであるということを読んだことがあります。
1357
1358
1359 裁判長: そうですか。
1360
1361 効果を考えるに当たっては,
1362 どのような点に着目したらよいでしょう
1363 か。
1364
1365 まず,
1366 当事者が文書提出命令に従わないことで,
1367 申立人,
1368 相手方,
1369 裁判所にとっ
1370 て,
1371 どういう影響があるかを考えてみてはどうでしょう。
1372
1373 それによって,
1374 証明妨害の
1375 効果として主張されている考え方がここにも当てはまることが理解できると思います。
1376
1377
1378 修習生: これまで,
1379 224条3項の効果との関係で考えたことはなかったのですが,
1380 証明妨
1381 害の法理を勉強したときに,
1382 証明妨害の効果として主張されている考え方としては,
1383
1384 証明責任が転換されるという考え方(転換説),
1385 証明度が軽減されるという考え方
1386 (軽減説),
1387 真実が擬制されるという考え方(擬制説),
1388 裁判所の自由心証にゆだねら
1389 れるという考え方(心証説)などがあったと記憶しています。
1390
1391
1392 裁判長: そうですね。
1393
1394 あなたが指摘するとおり,
1395 224条3項は証明妨害の典型的な例とい
1396 われていますので,
1397 その効果についても,
1398 これらの考え方が成り立ち得るでしょうね。
1399
1400
1401 証明妨害については,
1402 ほかにもいろいろな考え方がありますが,
1403 224条3項の効果
1404 として,
1405 少なくともあなたの整理した四つの代表的な考え方の妥当性について検討し
1406 ておく必要がありそうですね。
1407
1408 それでは,
1409 これらの考え方の中では,
1410 どの考え方がよ
1411 り妥当だと考えますか。
1412
1413 それぞれの考え方の違いは,
1414 命令に従わなかったことによっ
1415 て生じる不都合を解消するための方法の違いという位置付けもできそうですね。
1416
1417 そう
1418 すると,
1419 その方法が問題の解消手段として適切かという点も,
1420 どの考え方が妥当かを
1421 - 7 -
1422
1423 考える上で重要ですね。
1424
1425 いろいろ指摘しましたが,
1426 以上のような観点から224条3
1427 項の効果について報告してください。
1428
1429
1430 これは,
1431 一般論としての報告で結構です。
1432
1433 これが一つ目の課題です。
1434
1435
1436 修習生: 分かりました。
1437
1438 御指摘の観点から検討してみます。
1439
1440
1441 裁判長: 更に別のことを尋ねますが,
1442 本件で,
1443 仮に,
1444 224条3項が適用されたとすると,
1445
1446 本件文書の不提出により「真実と認めることができる」相手方の主張は何でしょうか。
1447
1448
1449 文書提出命令の申立書に「証明すべき事実」として記載された主張すべてに及ぶので
1450 しょうか。
1451
1452
1453 まずは,
1454 共同被告Bがいることは差し当たり度外視して,
1455 専ら甲社との関係だけを
1456 念頭において,
1457 本件事例に即して具体的に検討してください。
1458
1459 これが二つ目の課題で
1460 す。
1461
1462
1463 次に,
1464 本件では,
1465 文書提出命令に従わなかったのは甲社ですが,
1466 共同被告Bがいま
1467 すね。
1468
1469 甲社については224条3項を適用すべき場合であったとして,
1470 共同被告Bと
1471 の関係を含めて考えると,
1472 本件訴訟において,
1473 本件文書の不提出によりどのような効
1474 果が認められるでしょうか。
1475
1476 これが三つ目の課題です。
1477
1478
1479 以上の課題について,
1480 報告してください。
1481
1482 次回の弁論準備手続期日までさほど間が
1483 ありませんので,
1484 速やかにお願いします。
1485
1486
1487 修習生: 分かりました。
1488
1489 後半で指摘された点は,
1490 考えたことがありませんでしたが,
1491 頑張っ
1492 て検討してみます。
1493
1494
1495
1496 あなたが上記の修習生であり,
1497 早速,
1498 裁判長から提示された三つの課題について報告をするも
1499 のとして,
1500 以下の各問いに答えなさい。
1501
1502
1503 なお,
1504 取締役の解任の訴えにおける解任事由の存在については,
1505 解任を求める原告側に主張立
1506 証責任があるものとして答えなさい。
1507
1508
1509
1510
1511 当事者が文書提出命令に従わないときの民事訴訟法第224条第3項の効果をどのように
1512 考えるべきか,
1513 上記の会話中に言及されている四つの説を比較検討した上で,
1514 論じなさい。
1515
1516
1517 なお,
1518 解答に当たっては,
1519 各説を「転換説」,
1520 「軽減説」,
1521 「擬制説」,
1522 「心証説」と略記して
1523 差し支えない。
1524
1525
1526
1527
1528
1529 本件文書の不提出について,
1530 民事訴訟法第224条第3項の適用があると仮定した場合,
1531
1532 甲社との関係で「真実と認めることができる」Kの主張は何か,
1533 で採用した考え方を前提
1534 に論じなさい。
1535
1536
1537
1538
1539
1540 甲社について民事訴訟法第224条第3項を適用すべき場合であると仮定する。
1541
1542 甲社とB
1543 が共同被告であることを考慮すると,
1544 本件訴訟において,
1545 甲社の本件文書の不提出について,
1546
1547 どのような効果が認められるべきか,
1548 論じなさい。
1549
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1552 - 8 -
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