1 論文式試験問題集[刑事系科目]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲及び乙の罪責について,
9 具体的な事実を示して論じなさい(特別法違反
10 の点を除く。
11
12 )。
13
14
15 1
16
17 甲(男性・30歳)は,
18 勤務先会社が倒産して失職し,
19 新たな就職先も見付からず,
20 生活費に
21 窮していた。
22
23 甲は,
24 同じく失職中の友人の乙(男性・28歳)の家に遊びに行った時,
25 乙に対し,
26
27 「このままでは家賃も払えないし,
28 食べていけない。
29
30 何か金を作る方法はないだろうか。
31
32 泥棒で
33 もするしかないかな。
34
35 」などと話した。
36
37
38 乙は,
39 3か月前までAが経営する会社に勤務していたが,
40 Aがしばしば自宅で仕事をするため,
41
42 売上金を届けるなどの用件でAの自宅に何度も行ったことがあり,
43 Aが自宅の書斎にある机の引
44 き出しの中に現金300万円くらいを入れているのを知っていたことから,
45
46 「前に勤務していた会
47 社の社長Aは,
48 現金300万円くらいをいつも家に置いていた。
49
50 Aは資産家だから,
51 家にはほか
52 にも金目の物がたくさんあると思う。
53
54 」と言った。
55
56
57 甲は,
58 それを聞いて,
59 うまくA方に忍び込んで現金を盗むことができれば,
60 当分金に困ること
61 はないと思い,
62 A方に盗みに入ろうと考え,
63 乙に対し,
64 「一緒にその金を盗みに入らないか。
65
66 」と
67 言ったが,
68 乙は,
69
70 「俺はそんな危ないことはしたくない。
71
72 」と言った。
73
74 そこで,
75 甲は,
76 乙に対し,
77
78 「そ
79 れじゃあ,
80 俺が入るから,
81 Aの家の場所と現金の在りかを教えてくれ。
82
83 300万円手に入れるこ
84 とができたら,
85 お前に100万円やる。
86
87 」と言った。
88
89
90 乙は,
91 Aの会社に勤務していた時の待遇に不満を持っていた上,
92 乙自身も生活費に窮していた
93 ことから,
94 甲が首尾よく現金を盗むことができれば自分もまとまった金を手に入れることができ
95 ると思い,
96 「分かった。
97
98 明日Aの家を見に行こう。
99
100 家の間取り図も作っておくよ。
101
102 」と答え,
103 さら
104 に,
105
106 「Aは一人暮らしだ。
107
108 毎週月曜日には必ず会社に出勤するので,
109 月曜日の日中Aは家にいない。
110
111
112 Aは月曜日の午前8時半ころ家を出るが,
113 午前10時ころには通いの家政婦が来るので,
114 やるん
115 だったら月曜日の午前8時半から午前10時前までだ。
116
117 トイレの窓にはいつも鍵が掛かっていな
118 いから,
119 そこから家の中に入れると思う。
120
121 書斎の机の引き出しには300万円くらいは入ってい
122 るはずだし,
123 ほかの場所にも金目の物があるはずだ。
124
125 」と説明した。
126
127
128
129 2
130
131 同日夜,
132 乙は,
133 A方の間取り図面を作成し,
134 トイレの場所,
135 書斎の場所やAがいつも現金を入
136 れていた机の場所等を同図面に書き込んだ。
137
138
139 そして,
140 翌日の昼間,
141 乙は,
142 自分の自動車に甲を乗せてA方付近まで運転し,
143 Aの自宅を指さ
144 して,
145 甲に対し,
146 「あれがAの家だ。
147
148 」と教えるとともに,
149 前記図面を甲に手渡した。
150
151
152 甲は,
153 A方付近が閑静な住宅街で,
154 日中も人通りがほとんどなかったことから,
155 トイレの窓か
156 らA方に侵入してもだれにも見られないだろうと安心し,
157 乙に対し,
158
159 「今度の月曜日にやる。
160
161 Aが
162 家を出た後すぐに入るから,
163 午前8時過ぎにAの家の近くに着けるように今度の月曜日の朝迎え
164 に来てくれ。
165
166 」と言った。
167
168 乙は,
169 これに対して,
170 「分かった。
171
172 」と答えた。
173
174
175 甲は,
176 帰宅後,
177 乙から受け取った前記図面を再確認するとともに,
178 万一家に人がいた場合に備
179 え,
180 カッターナイフ(刃体の長さ8センチメートル)を準備した。
181
182
183
184 3
185
186 翌週の月曜日,
187 乙は,
188 前記自動車を運転して甲方に行き,
189 甲を同車に乗せて,
190 A方付近に向か
191 い,
192 午前8時過ぎころA方付近に到着した。
193
194
195 乙は,
196 甲がA方から出て来るまで付近道路に同車を停車させたまま待っていようと思い,
197 甲に
198 対し,
199 「ここで待っているよ。
200
201 」と言ったところ,
202 甲は,
203 乙が何度も同車でA方を訪れた旨聞いて
204 いたことから,
205 だれかに乙の自動車を見られるのは絶対に避けたいと考え,
206
207 「お前は先に帰ってい
208 てくれ。
209
210 車を見られたらまずい。
211
212 」と言った。
213
214 そこで,
215 乙は,
216 甲を同車から降ろした後,
217 すぐに同
218 車を運転してその場を去った。
219
220
221 - 2 -
222
223 4
224
225 甲は,
226 A方付近でA方玄関の様子をうかがっていたが,
227 午前8時半ころ,
228 Aが家を出たのを確
229 認した後,
230 A方に向かい,
231 前記図面に示されていたトイレの窓を探し,
232 無施錠の同窓を開けて屋
233 内に入った。
234
235 そして,
236 甲は,
237 書斎に行き,
238 机の引き出しを開けて現金300万円を見付け,
239 これ
240 を着ていたジャンパーのポケットに入れた。
241
242
243 甲は,
244 簡単に机の引き出し内の現金を手に入れることができ,
245 まだ時間に余裕があったことか
246 ら,
247 引き続き別の金品を探そうと考え,
248 居間に入った。
249
250
251 ところで,
252 A方には,
253 乙が出入りしなくなった後,
254 Aの父であるB(70歳)が同居していた
255 が,
256 乙はそのことを知らなかった。
257
258 甲が居間に入った時,
259 Bは同所にいたが,
260 甲が入って来たの
261 を見て,
262 その場に立ちすくんだ。
263
264
265 甲は,
266 Bの姿を見るや,
267 ジャンパーのポケットに入れていた前記カッターナイフを取り出して
268 その刃を約5センチメートル出し,
269 Bに歩み寄り,
270 「金を出せ。
271
272 」と言いながら,
273 カッターナイフ
274 の刃をBの目の前に突き出した。
275
276 Bが「助けてくれ。
277
278 」と大声を上げたので,
279 甲は,
280 Bの大声が近
281 所の人に聞こえてしまうと思い,
282 Bを黙らせるため,
283 Bの胸倉を左手でつかみ,
284 右手に持ったカ
285 ッターナイフの刃先をBの左頬に突き付けながら,
286
287 「静かにしろ。
288
289 騒ぐと殺すぞ。
290
291 」と申し向けた。
292
293
294 Bは恐怖の余り大声を出すのをやめ,
295 その場にしゃがみ込んだが,
296 甲は,
297 Bの胸倉をつかみなが
298 らカッターナイフの刃先をBの左頬に突き付けたままの体勢で自らもしゃがみ込み,
299 さらに,
300 B
301 に対し,
302 「金を出せ。
303
304 」と申し向けた。
305
306
307 同居間のテーブル上には,
308 Aが日常の支払用の現金を入れていた封筒があったので,
309 Bは,
310 や
311 むを得ず,
312 同封筒を甲に渡した。
313
314 甲は同封筒に入っていた現金2万円を取り出してジャンパーの
315 ポケットの中に入れ,
316 さらにBに対し,
317 カッターナイフの刃を突き付けながら,
318
319 「まだあるだろう。
320
321
322 どこにあるんだ。
323
324 」と申し向けたところ,
325 Bは甲の背後のリビングボードを指さして,
326 「多分あそ
327 こにあると思う。
328
329 」と言った。
330
331
332 そこで,
333 甲は,
334 同リビングボードの方に行き,
335 物色を始めたが,
336 そのすきにBは慌てて居間か
337 ら逃げ出した。
338
339 甲は,
340 Bが逃げ出したのに気付き,
341 すぐに「待て。
342
343 」と怒鳴りながら同人を追った。
344
345
346 甲が追って来たのを知ったBは,
347 甲に捕まったら本当に殺されるかもしれないと思い,
348 「どろぼ
349 う。
350
351 」と叫びながら,
352 必死で玄関から外に逃げようとした。
353
354
355 甲は,
356 Bが「どろぼう。
357
358 」と叫びながら玄関のドアを開けたのを見て,
359 このままではだれかにB
360 の声を聞きつけられ,
361 捕まってしまうと思い,
362 Bを追うのをあきらめて裏口から逃げることにし,
363
364 裏口を探した。
365
366
367 Bは,
368 玄関の外に出た直後,
369 足がもつれて転倒し,
370 その際加療約1か月を要する右手首骨折の
371 傷害を負った。
372
373
374
375 5
376
377 一方,
378 乙は,
379 甲と別れた後A方付近から離れ,
380 自宅に戻ろうとしていたが,
381 途中,
382 甲のことが
383 気掛かりになり,
384 再びA方付近に向かい,
385 A方付近路上に自動車を止めて,
386 車内からA方の様子
387 を見ていた。
388
389
390 すると,
391 Bが前記のように玄関から走り出て来て,
392 足がもつれて転倒した後すぐに起き上がり,
393
394
395 「どろぼう。
396
397 」と叫びながら,
398 A方前路上に走り出て来たので,
399 乙は,
400 甲が盗みを実行中に居合わ
401 せたBに見付かってしまったのだと思い,
402 このままでは,
403 近所の人がBの声を聞きつけて警察に
404 通報すると考え,
405 Bを黙らせるために,
406 すぐに同車から降りてBに駆け寄り,
407 背後から左腕をB
408 の首に回して右手でBの口を塞いだ。
409
410
411 Bは乙の右手に噛みついて抵抗したので,
412 乙は,
413 Bからとっさに手を離した上,
414 その顔面を拳
415 で力一杯殴打したところ,
416 Bはその衝撃で倒れ,
417 その際,
418 ブロック塀の角に後頭部を強打した。
419
420
421 Bはよろめきながら立ち上がって,
422 「だれか助けてくれ。
423
424 」と声を出しながら逃げ出そうとしたの
425 で,
426 乙は更にBの背部,
427 腹部を数回蹴ったところ,
428 Bはその場にうつ伏せに倒れ,
429 動かなくなっ
430 た。
431
432
433 甲は,
434 Bが玄関の外で足がもつれて転倒し右手首骨折の傷害を負ったことを知らず,
435 また,
436 乙
437 - 3 -
438
439 が戻って来てBに暴行を加えたことも知らずに裏口から外に出たが,
440 A方付近路上に乙の自動車
441 らしい車両を見付けたため,
442 同車の方に駆け寄った。
443
444 すると,
445 同車付近に乙がおり,
446 乙の近くに
447 Bがうつ伏せに倒れていたので,
448 驚いて,
449 乙に対し,
450
451 「何をやっているんだ。
452
453 車を見られたらまず
454 いって言っただろう。
455
456 」と言うと,
457 乙はすぐに同車に戻り,
458 甲も同車に乗り込んで,
459 両名は直ちに
460 同所から逃走した。
461
462
463 その後,
464 甲は,
465 乙に対し,
466 A方で取得した現金のうち100万円を分け前として渡した。
467
468
469 6
470
471 Bは,
472 甲及び乙がA方前路上から逃走した直後,
473 たまたま通り掛かった者に発見されて,
474 救急
475 車で病院に搬送されたが,
476 前記のとおりブロック塀の角に後頭部を強打した際に頭蓋骨を骨折し
477 ており,
478 これによる脳内出血によって,
479 同日午後5時ころ死亡した。
480
481
482
483 - 4 -
484
485 〔第2問〕(配点:100)
486 次の【事例】を読んで,
487 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
488
489
490 【事
491 1
492
493 例】
494 警察は,
495 暴力団X組による覚せい剤密売の情報を入手し,
496 捜査を行った。
497
498 その結果,
499 覚せい剤
500
501 取締法違反(譲渡罪)の前科1犯を有しているX組幹部の甲が,
502 覚せい剤を密売してX組の活動
503 資金を得るという営利の目的で,
504 平成20年1月上旬ころ,
505 Aマンション201号室の甲方にお
506 いて,
507 多量の覚せい剤を所持しているという嫌疑が濃厚となった。
508
509 そこで,
510 警察は,
511 前記覚せい
512 剤営利目的所持の犯罪事実で,
513 差し押さえるべき物を,
514 本件に関係する覚せい剤,
515 小分け道具,
516
517 手帳,
518 ノートとし,
519 捜索すべき場所を,
520 Aマンション201号室の甲方とする捜索差押許可状の
521 発付を受けた。
522
523
524 甲方は,
525 5階建てのAマンションの2階にあり,
526 その間取りは4LDKバストイレ付きであっ
527 て,
528 甲方の玄関ドアの右隣には,
529 共用部分の通路に面して,
530 ガラス窓が設置されており,
531 その窓
532 は,
533 アルミサッシ製で,
534 2枚のガラス(各ガラスの大きさは,
535 縦1.2メートル,
536 横0.9メー
537 トルである。
538
539 )が引き戸になっている。
540
541 ほかに同通路に面した窓はない。
542
543 甲方には,
544 常時,
545 X組の
546 組員2,
547 3名が起居している。
548
549
550 なお,
551 覚せい剤営利目的所持の罪とは,
552
553 「営利の目的」つまり,
554 犯人が自ら財産上の利益を得,
555
556 又は第三者に得させることを動機・目的として,
557 覚せい剤をみだりに所持した罪をいい,
558 その法
559 定刑は,
560 1年以上の有期懲役,
561 又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金で
562 ある。
563
564
565 2
566
567 平成20年1月15日午前8時ころ,
568 司法警察員警部補Pは,
569 前記捜索差押許可状を携帯して,
570
571 司法警察員巡査部長Qら5名の部下とともに甲方の捜索に赴き,
572 甲方玄関ドア前の通路に集まっ
573 た。
574
575 Qが甲方のドアチャイムを鳴らしたところ,
576 甲方内からドア付近まで近づいてくる足音が聞
577 こえ,
578 その直後,
579 「何ですか。
580
581 」という男の声がした。
582
583 そこで,
584 Qは,
585 ドア越しに「警察だ。
586
587 ドア
588 を開けろ。
589
590 」と告げたが,
591 ドアは開けられることなく,
592
593 「やばい。
594
595 」などという男の声がして,
596 ドア
597 付近から人が遠ざかる足音が聞こえ,
598 さらに,
599 室内から,
600 数人が慌ただしく動き回る足音が聞こ
601 えた。
602
603 Qは,
604 ドアノブを回してドアを開けようとしたが,
605 施錠されていたので,
606 ドアを手で激し
607 くたたき,
608 ドアチャイムを鳴らしながら,
609 「早く開けろ。
610
611 捜索令状が出ている。
612
613 」と数回にわたり
614 怒鳴ったが,
615 ドアが開けられる気配はなく,
616 また,
617 甲方内からの応答もなかった。
618
619 そこで,
620 Qは,
621
622 甲方の玄関ドアの右隣にあるガラス窓を開けようとしたが,
623 施錠されていたので,
624 所持していた
625 手錠を用いて向かって右側のガラス1枚を割って,
626 約20センチメートル四方の穴を開けた。
627
628 こ
629 の時点で,
630 最初に警察であることを告げてから約30秒が経過していた。
631
632 Qは,
633 その穴から手を
634 差し込んでガラス窓内側のクレセント錠を外した上,
635 同ガラス窓を開けてそこから甲方内に入っ
636 た。
637
638
639 Pら5名は,
640 Qに続いて,
641 順次,
642 そのガラス窓から甲方内に入り,
643 「置いてある物に触るな。
644
645 」
646 と言いながら甲方内の各部屋に散っていった。
647
648 Qらが,
649 甲方内に在室している人物を確認したと
650 ころ,
651 甲がリビングルームに,
652 2名の組員がそれぞれ別々の部屋にいて,
653 合計3名が甲方内に在
654 室していることが判明し,
655 Qらは,
656 これら3名の近くで,
657 その行動を注視できる位置についた。
658
659
660 そこで,
661 Pは,
662 甲に対し,
663 前記捜索差押許可状を示した。
664
665 この時点で,
666 Qが最初に甲方内に入っ
667 てから約3分が経過していた。
668
669 その後,
670 Pらは,
671 甲を立会人として,
672 覚せい剤等を探し始めた。
673
674
675 Qは,
676 リビングルームに置かれたサイドボードの引き出しの中から赤色ポーチを発見し,
677 これを
678 開けて見たところ,
679 同ポーチ内には,
680 ビニール袋入りの50グラムの白色粉末があった。
681
682
683
684 3
685
686 そこで,
687 Qが,
688 甲の承諾を得て,
689 その場で白色粉末の予試験を実施したところ,
690 これが覚せい
691 剤であることが確認できた。
692
693
694 Qは,
695
696 「被疑者甲は,
697 みだりに,
698 営利の目的で,
699 平成20年1月15日,
700 Aマンション201号
701 室の甲方において,
702 覚せい剤50グラムを所持した。
703
704 」という被疑事実で,
705 甲を現行犯人として逮
706 - 5 -
707
708 捕するとともに,
709 刑事訴訟法第220条第1項第2号により,
710 この覚せい剤を差し押さえた。
711
712
713 なお,
714 Qが割った甲方の窓ガラスは,
715 直ちに,
716 業者により修復され,
717 その費用は2万円であっ
718 た。
719
720
721 4
722
723 甲は,
724 逮捕,
725 勾留中の取調べにおいて,
726
727 「発見された覚せい剤は私のものではない。
728
729 覚せい剤に
730 ついては一切知らない。
731
732 」などと供述し,
733 一貫して否認した。
734
735
736 警察が捜査したところ,
737 甲がWという女性と交際していることが分かった。
738
739 Wは,
740 5年前から
741 会社員として働いているが,
742 以前,
743 会社員として働く傍ら,
744 クラブでホステスのアルバイトをし
745 ていたことがあり,
746 そのクラブに客として来ていた甲と知り合い,
747 約1年前から甲と交際するよ
748 うになった。
749
750 Wは,
751 その直後,
752 アルバイトを辞め,
753 週末に甲方に通って,
754 掃除をしたり洗濯をす
755 るなど,
756 甲の身の回りの世話をし,
757 甲も,
758 月に数回の割合で,
759 Wが住んでいたアパートの部屋に
760 泊まりに行くなどしていた。
761
762
763 以上の状況から,
764 W方に,
765 本件犯行に関する証拠物が存在する蓋然性が高まったので,
766 警察は,
767
768 W方の捜索差押許可状の発付を受け,
769 平成20年1月18日,
770 Wが不在であったため,
771 アパート
772 の管理人を立会人としてW方を捜索し,
773 鍵が掛けられていた机の引き出しの中からノート1冊(以
774 下「本件ノート」という。
775
776 )を発見して,
777 これを差し押さえた。
778
779
780
781 5
782
783 本件ノートは,
784 市販されている100枚綴りのものであり,
785 その表紙には,
786
787 「平成17年10月
788 13日〜」と記載されている。
789
790 各ページには,
791 日付とそれに続く数行の記載がある。
792
793 それらの日
794 付は,
795 平成17年10月13日で始まり,
796 1週間に3日ないし5日程度の割合で,
797 その経過順に
798 記載されていて,
799 平成20年1月15日で終わっている。
800
801 そして,
802 それぞれの日付の下には,
803 買
804 物に行ったこと,
805 食事をしたこと,
806 友人と会ったこと等の出来事やそれに関する感想が記載され
807 ている。
808
809 これらの記載部分は,
810 日によって,
811 万年筆で書かれたり,
812 ボールペンで書かれたりして
813 いるが,
814 空白の行やページは無い。
815
816
817 記載のある最終ページは,
818 【資料】(本問題集8ページ参照)のとおりであり,
819 同月6日,
820 9日
821 及び15日分の文字は万年筆で,
822 同月11日,
823 12日及び14日分のそれはボールペンで,
824 それ
825 ぞれ書かれている。
826
827
828 本件ノートに記載された文字の筆跡は,
829 すべてWのものである。
830
831
832
833 6
834
835 警察は,
836 本件ノートの記載内容についてWを取り調べようとしたが,
837 Wは,
838 交通事故に遭い,
839
840 平成20年1月20日に死亡していたため,
841 取り調べることができなかった。
842
843 なお,
844 事故の際,
845
846 Wは,
847 B社製の茶色ショルダーバッグを持っており,
848 そのバッグの中には,
849 W方の鍵と前記机の
850 引き出しの鍵が入っていた。
851
852
853 そして,
854 捜査の結果,
855 C百貨店が,
856 同月6日,
857 前記ショルダーバッグと同じ種類の物1個を,
858
859 9万8000円で売ったこと,
860 同月12日午前10時18分,
861 W方付近にある銀行に設置された
862 現金自動預払機において,
863 W名義の普通預金口座から現金3万円が払い戻されたこと,
864 Wが,
865 同
866 日,
867 D子と一緒にE市内にある映画館で映画を見てから,
868 ショッピング街でアクセサリーや洋服
869 を見て回ったことが明らかとなった。
870
871
872
873 7
874
875 その後,
876 検察官は,
877 所要の捜査を遂げて,
878
879 「被告人甲は,
880 みだりに,
881 営利の目的で,
882 平成20年
883 1月15日,
884 Aマンション201号室の甲方において,
885 覚せい剤50グラムを所持した。
886
887 」という
888 公訴事実で,
889 甲を起訴した。
890
891
892 甲は,
893 第一回公判期日において,
894 前記公訴事実につき,
895
896 「私のマンションで発見された覚せい剤
897 は私のものではありませんし,
898 これを所持したことはありません。
899
900 もちろん営利の目的もありま
901 せん。
902
903 」と陳述し,
904 弁護人も同趣旨の陳述をした。
905
906
907 検察官は,
908
909 「Wが平成20年1月14日に甲方で本件覚せい剤を発見して甲と会話した状況,
910 本
911 件覚せい剤を甲が乙から入手した状況及びX組が過去に覚せい剤を密売した際の売却価格」とい
912 う立証趣旨で,
913 証拠物たる書面として本件ノートの証拠調べを請求した。
914
915
916 これに対し,
917 甲の弁護人は,
918
919 「証拠物としての取調べに異議はないが,
920 書証としては不同意であ
921 - 6 -
922
923 る。
924
925 」との意見を述べた。
926
927
928 甲と本件覚せい剤を結び付ける証拠並びに本件覚せい剤の入手状況及び過去の覚せい剤の売却
929 価格に関する証拠は,
930 本件ノート及び甲方で押収された本件覚せい剤以外にはない。
931
932
933 〔設問1〕
934
935 本件ノートの証拠能力について,
936 その立証趣旨を踏まえ,
937 具体的事実を摘示しつつ論
938
939 じなさい。
940
941 ただし,
942 その捜索差押手続の適法性については論じる必要はない。
943
944
945 〔設問2〕
946
947 甲方の捜索の適法性について,
948 具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
949
950
951
952 - 7 -
953
954 【資
955
956 料】
957
958 W方で押収された本件ノートの最終ページ
959
960 平成20年
961 1月6日
962 正月休みも今日で終わり。
963
964 明日から仕事だ,
965 頑張ろう。
966
967 でも,
968 休みボケで,
969 仕事のこ
970 とを考えるとちょっとゆううつ。
971
972 週末が待ち遠しい。
973
974
975 おいしいと評判のイタリアンレストランへ甲に連れていってもらった。
976
977
978 確かにパスタがおいしかった。
979
980
981 食事の後,
982 C百貨店で前から欲しかったB社の茶色のショルダーバッグを甲におねだ
983 りして買ってもらった。
984
985 9万8000円もしたのに・・・。
986
987 甲は優しい。
988
989
990 1月9日
991 今日,
992 甲が来る予定だったのに来なかったので,
993 電話してみた。
994
995
996 体調が悪いらしく,
997 甲の電話の声に元気がなかった。
998
999
1000 ちょっと,
1001 心配。
1002
1003 週末には元気になっているといいな。
1004
1005
1006 もうすぐ午前零時だ。
1007
1008 明日の仕事にも差し支えるので,
1009 もう寝よう。
1010
1011
1012 1月11日
1013 明日から3連休だ。
1014
1015 明日はD子と映画に行く予定。
1016
1017 映画を見るのは久し振り。
1018
1019
1020 銀行に行くのを忘れた。
1021
1022 明日,
1023 ATMでお金を下ろさないと。
1024
1025
1026 3万円あれば,
1027 次のお給料日までは大丈夫かな。
1028
1029
1030 1月12日
1031 今日は,
1032 E市に出て,
1033 D子と一緒に映画を見た。
1034
1035 アクション物で面白かった。
1036
1037
1038 最近はDVDを借りて家で見ることが多いけど,
1039 やっぱり映画館の大きなスクリーン
1040 で見ると迫力が違う。
1041
1042 その後,
1043 ウインドウショッピングをして帰る。
1044
1045
1046 1月14日
1047 今日,
1048 甲のマンションに行った。
1049
1050 洗濯物もたまっていて,
1051 思ったより時間がかかった。
1052
1053
1054 掃除をしているとき,
1055 サイドボードの引き出しの中に,
1056 見慣れない赤色のポーチを見
1057 つけた。
1058
1059 女物のようだったので,
1060 私のほかに女でもと思って中を見ると,
1061 白い粉がビニ
1062 ール袋に入っていた。
1063
1064 急に,
1065 甲が,
1066 「それに触るな。
1067
1068 」と言って,
1069 私からそのポーチを取
1070 り上げた。
1071
1072 私は,
1073 びっくりして,
1074 「何なの,
1075 それ?」と聞くと,
1076 甲は,
1077 「おまえがいた店
1078 にも連れていったことのあるY組の乙から覚せい剤50グラムを250万円で譲っても
1079 らった。
1080
1081 うちの組では,
1082 これまで,
1083 0.1グラムを1万5000円で売ってきたんだ。
1084
1085
1086 だれにも言うなよ。
1087
1088 」と言った。
1089
1090
1091 覚せい剤なんて生まれて初めて見た。
1092
1093 何だか怖い。
1094
1095 甲が警察に捕まったりしないのか
1096 心配。
1097
1098 私もあんなものを見て何か罪にならないのか心配。
1099
1100 正直,
1101 あんなもの見なければ
1102 よかったと思う。
1103
1104
1105 不安で今晩は眠れそうもない。
1106
1107 でも,
1108 もう日が変わるので早く寝ないと・・・。
1109
1110
1111 1月15日
1112 今日からまた仕事が始まった。
1113
1114 頑張ろう。
1115
1116
1117 甲と連絡が取れない。
1118
1119 今日は,
1120 ずっと留守電になっている。
1121
1122
1123 どうしたんだろう。
1124
1125 何だか胸騒ぎがする。
1126
1127
1128
1129 - 8 -
1130
1131