1 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)
2 1
3
4 全体的印象
5
6 (1)
7
8 答案の中には,@出題趣旨に沿って問題点を正確にとらえ,的確に資料を分析し,法
9 論理的思考力を発揮しているもの,A岐阜県青少年保護育成条例事件判決伊藤補足意見
10 に示された判断枠組みを正確に理解した上で解答しているもの,B情報の受け手が自由
11 に当該情報を閲覧できない状況がA自身の表現の自由とどのようにかかわるかという基
12 本的な問題について問題意識を持ち,知る自由や違憲主張適格などの問題を意識的に論
13 じているもの,C積極的な表現行為に対する表現内容規制の合憲性という基本的な問題
14 について,資料を相応に分析し,反対説を踏まえながら,自らの見解をしっかり展開し,
15 多少荒削りなところもあるが,考え方の筋道に法的思考のセンスを感じさせるものもあ
16 った。そのような答案は,受験生が法科大学院での実務を見据えた理論教育において「学
17 び,そして問う」作業をしっかりと行ってきた成果と評価し得る。しかし,そのような
18 答案は,少数にとどまった。
19
20 (2)
21
22 憲法学という視点からは,基礎的理解が不十分で,設問の具体的事情を離れて表現の
23 自由に関する論証を記憶に従って並べただけの答案が多く,事案の内容に即した個別的
24 ・具体的検討の不十分さや応用力という点で課題を残すものであった。また,いわゆる
25 論点主義の解答に陥っている答案が多く見られた。それらは,残念ながら,憲法の基礎
26 理論を生きた知識として身に付けていない,また,法的思考力ないし論証力が十分に定
27 着していない,と評価せざるを得ないものであった。
28
29 (3)
30
31 第1回,第2回に比べると,受験生が新しい試験のスタイルに慣れてきていることが
32 う か が え た 。 し か し , 逆 に ,「 弁 護 人 の 主 張 」「 検 察 官 の 主 張 」 と し て , と に か く 対 立
33 する主張を書けばよいと考えているようなものが多く,設問の事案の問題点をそれぞれ
34 の角度から掘り下げていくという姿勢で書かれている答案は少なかった。
35
36 (4)
37
38 受験生にとっては論じやすい積極的「表現の自由」がテーマであったためか,逆に,
39 パターン化された答案が目につき,「型にはまった論述」が少なからず見られた。
40
41 (5)
42
43 関連する先例がきちんと挙げられて,検討されていない(本問では,岐阜県青少年保
44 護育成条例事件判決,第三者所有物没収事件判決等)。このこと は, それ ぞれ の領域の
45 重要判例を当該事案との関係でただ覚えているだけで,問題を本質的に理解していない
46 ことの現れであるように思われる。
47
48 (6)
49
50 前記のような答案の全般的状況からすると,法科大学における教育成果は,なお産み
51 の苦しみの段階にあるといえよう。
52 以下,今年度の答案に見られた具体的な問題点から,【注意してほしいこと】,【改めて
53
54 学んでほしいこと】という項目立てにより,今後に向けた建設的なメッセージを送るとい
55 う観点から,採点を担当した各委員から寄せられた採点感想をまとめることにしたい。
56 2
57
58 注意してほしいこと
59
60 (1)
61
62 論述の形式
63 ア
64
65 問題の形式に応じて答える必要がある。問われているのは,弁護人,それに対して
66 想定される検察官の主張と自説であり,まずは,弁護人の立場にたった論述が必要で
67 ある。設問2で,検察官の主張又は自説の一方しか書いていないのは不十分であり,
68 誰の見解を述べているのか判然としないものは不適切である。設問1で挙げた論点に
69 -1-
70
71 ついて設問2で全く触れていないものも,不適切である。
72 イ
73
74 訴訟の両当事者の主張を書かせている意味を理解することが必要である(立場の使
75 い分けができてほしい。)。また,弁護人の主張として,「Aの行為を規制することは
76 憲法○条に違反する。」,検察官の主張として,「制約のない人権はなく,事案では合
77 憲な 制約をして いる。」など と抽象的な記載をするにとどまる答案は,主張の根拠に
78 関する内容が乏しく,不十分である。
79
80 (2)
81
82 内容面
83 ア
84
85 内容にかかわる問題として指摘せざるを得ないのが,
86 「当てはめ」についてである。
87 本来,「当てはめ」とは,具 体的事例に合わせて抽象的な法理論を柔軟に具体化する
88 作業を指す。しかし,答案で「当てはめ」として書かれていることを見ると,暗記し
89 ている抽象的理論を絶対視していて,具体的事例にそのまま「当てはめ」れば自動的
90 に解答が出てくるかのように誤解しているのではないかと思われる。その結果,具体
91 的事例の個性が暗記してきた抽象的理論に収まらないときは,それ以上の思考を巡ら
92 せることなく,具体的事例の個性の方を切り捨ててしまうことになる。
93 新司法試験で測りたいと思っている重要な要素である個別的・具体的思考力は,そ
94 のような極めて形式的な「当てはめ」とは矛盾対立するものである。必要なのは,事
95 案の内容に即した個別的・具体的な検討である。基礎的理解の確立と具体的な問題へ
96 の対応の必要性について,受験生が再認識するよう求めたい。
97 事案の個別的・具体的分析は,新司法試験の眼目の一つであり,事案の分析の薄い,
98 紋切り型の答案を脱するために,事案の内容に即した個別的・具体的検討は必要不可
99 欠である。
100
101 イ
102
103 弁護人として裁判上どのような主張を行うのかが問われている。本来主張してしか
104 るべき点について十分な論述をしない一方で,その主張が判例及び主要な学説からし
105 て全く筋の通らない主張を展開する姿勢は,問題があるように思われる。やはり,弁
106 護人として,依頼者である被告人のために最も有効な主張をどのようにして組み立て
107 るのかという視点が必要不可欠である。
108
109 (3)
110
111 資料の活用
112 ア
113
114 与えられた資料を精読せず,具体的な事案に即したきめ細かい対応がなされていな
115 い。例えば,資料で示された本問に特有の具体的な事情について全く触れていない答
116 案が目立った。解答する上で,資料の活用は必須である。
117
118 イ
119
120 資料の活用とは,資料に書かれていることを「書き写す」ことではない。ただ漫然
121 と「書き写す」だけの答案は,不適切であり,不十分である。資料のどこの部分をど
122 のように評価したのか,あるいは評価しなかったのか,きちんと説明されていなけれ
123 ばならない。
124
125 3
126
127 改めて学んでほしいこと
128
129 (1)
130
131 法令違憲,適用(処分)違憲
132 ア
133
134 被告(当事者)としては法令違憲の主張をまず行い,それが認められない場合でも
135 本事件に関して適用違憲(処分違憲)が成り立つことを主張する方法が,まず検討さ
136 れるべきである。
137 今回の設問も,法令違憲と適用違憲(処分違憲)とを区別して論ずるべきであるが,
138 法令違憲と適用違憲(処分違憲)の違いを意識して論じている答案は少なかった。一
139 -2-
140
141 応区別しているが内容的に適切でないものなど,違憲判断の方法に関する学習が不十
142 分と思われるものが多かった。
143 イ
144
145 法令違憲では,ウェブサイト全体をフィルタリング対象にするという広汎さが明ら
146 かに問題になるのに,この点の検討を省いている答案がかなりあった。同様に,Aが
147 自己のサイトで注意喚起していることも適用審査において明らかに問題とすべきであ
148 るが,書いていない答案が目立った。
149
150 ウ
151
152 Aが注意を促す文章を掲げていたという点を,適用違憲(処分違憲)を念頭に置い
153 て適切に拾い上げて論述している答案は少なかった。触れていても,問題文でヒント
154 を出しているにもかかわらず,これを法令違憲の根拠として用いるものが多かった。
155
156 (2)
157
158 明確性の原則,そして内閣府令への委任
159 ア
160
161 明確性については,多くの答案が取り上げていたが,それらは,必ずしも十分では
162 なかった。本問の場合,明確性の要求は,表現の自由に関係すると同時に憲法第31
163 条にも関係する。この両者における明確性の原則の関係を認識し,論ずる必要がある。
164
165 イ
166
167 明確性の厳格度を巡る問題,すなわち,青少年保護を目的とする場合には厳格度が
168 緩和されるのか否か,という問題もある。
169
170 ウ
171
172 本問における明確性の問題については,内閣府令が法律の委任を受けて規定してい
173 る場合,法律だけでは明確とはいえないが,下位規範による「補完」を認めるか否か,
174 という問題もある。
175
176 エ
177
178 内閣府令への委任自体も問題になる。本問では,法律が残虐性の定義に関する本質
179 的事項(あるいは重要事項)を定めているか否かが問題となる。
180
181 (3)
182
183 青少年保護と内容規制
184 ア
185
186 「インターネット規制だから手段規制である」とする答案があった。もしそのよう
187 な考え方をすれば,印刷メディアにかかわる規制も手段規制になってしまう。そのよ
188 うな把握が誤りであることは,明らかである。伝達手段としてのインターネットの特
189 質と印刷や放送の特質との相違をどのように考えるか,という問題は別途あるが,残
190 虐性に着目した本問の規制は内容規制である。
191
192 イ
193
194 本問の中心的問題の一つは,青少年保護という見地からの表現内容の規制である。
195 したがって,青少年保護の問題自体について,その立法事実を巡る問題も含めて検討
196 する必要がある。
197
198 ウ
199
200 18歳未満の者の保護という立法目的によって,表現の自由の保障の程度や範囲が
201 成人の場合と異なってどの程度緩和されるのかという検討が必要である。単に表現の
202 自由 の保障の一 般論 を展 開す るだ けで は不十分であり,「有害情報」に関する憲法上
203 の 保 障 の 程 度 や ,「 知 る 自 由 」, さ ら に は 「 青 少 年 ( 1 8 歳 未 満 者 ) の 保 護 」 を 踏 ま
204 えた検討が必要である。
205
206 (4)
207
208 違憲を主張する適格性
209 ア
210
211 違憲主張をする場合,まず誰の人権が侵害されるのかを明らかにする必要があり,
212 主張者本人の人権侵害を主張するものでなく,A以外の知る権利など,第三者の人権
213 侵害を取り上げるのならば,なぜ第三者の人権侵害を主張できるのかを検討しなけれ
214 ばならない。
215
216 イ
217
218 本問では,第三者の権利主張の可否は一つの重要な論点である。しかし,これに触
219 れていない答案の方が多かった。
220
221 ウ
222
223 「Aの表現の自由」の制約の違憲性が,実際には,Aの発信情報を受ける者の知る
224 -3-
225
226 自由の制約であるという意識が明確化されないままに混同して記述しており,そこで
227 は第三者の人権侵害を主張する際の問題点が欠落している答案が多かった。触れてい
228 る答案でも,本来の訴訟要件の問題と混同して,訴えの利益を論ずるなど,的外れな
229 論述が少なからず見られた。
230 エ
231
232 法令違憲を論じているはずなのに,その理由として,Aの目的や注意書き添付とい
233 った個別的行為を理由に違憲の判断を導くものが圧倒的に多く,実際には適用違憲(処
234 分違憲)の論述をしていた。法令自体の問題点を論ずべき法令違憲(当該処分の違憲
235 性か ら過度の広 汎性 等の 理由 で法 令自 体の違憲性へと進むアプローチもある),当該
236 処分(適用)の問題点を論ずる適用違憲(処分違憲)の基本的相違を正確に理解する
237 必要がある。
238
239 (5)
240
241 審査基準について
242 ア
243
244 審査基準の内容を正確に理解することが,必要不可欠である。中間審査基準におけ
245 る目 的審査で「 正当 な目 的」 とす るの は誤りである。中間審査基準では,「重要な目
246 的」であることが求められる。合理性の基準で求められる「正当な目的」の意味・内
247 容を正確に理解してほしい。
248
249 イ
250
251 本問は,表現の自由の制約に関する一般的な審査基準を修正する必要があるのかど
252 うかを問うものである。一般的審査基準を明らかにすることなくアプリオリに修正が
253 必要であるとしていきなり修正基準を記述したり,修正の必要性に触れずに一般的審
254 査基準を既に修正基準の内容で記述しているものが相当数見られた。しかし,本件の
255 事案分析を踏まえてもなお,厳格審査の基準であるのか,それとも審査基準が緩和さ
256 れるのか等について,論ずる必要がある。
257
258 ウ
259
260 審査基準論を展開するが,なぜその審査基準を採用するのか,また,本件の事案に
261 適用した場合にどうなるのか,について丁寧に論ずる必要がある。
262
263 エ
264
265 「厳格な審査が求められる」と一般的な言い回しをしながら,直ちに「厳格審査の
266 基準」あるいは「中間審査の基準」と書くことには,問題がある。合理性の基準より
267 も審 査の厳格度 が高 めら れる もの には,「厳格審査の基準」と「中間審査の基準」と
268 があるので,なぜ,どちらの基準を選択するのかについて,説明が必要である。
269
270 オ
271
272 審査基準が定められたとしても,それで答えが決まるわけではない。必要不可欠の
273 (重要な,あるいは正当な)目的といえるのか,厳密に定められた手段といえるか,
274 目的と手段の実質的(あるいは合理的)関連性の有無,規制手段の相当性,規制手段
275 の実効性等はどうなのかについて,事案の内容に即して個別的・具体的に検討するこ
276 とが必要である。
277
278 -4-
279
280 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(行政法)
281 1
282
283 出題の趣旨等(公表版の補足)
284 ・
285
286 問題文,添付資料ともに,できるだけ簡潔にすることを心掛けた。これは,従来,時
287 間不足により中途半端な解答に終わっている答案が少なからず見られたことにも配慮し
288 たものである。
289
290 ・
291
292 単に「 考え られ る法 的手 段」 を解答させるにとどめず,「複数の法的手段を比較検討
293 した上で,最も適切と考える法的手段について自己の見解を明らかにする」ことを求め
294 ることにより,解答者の訴訟制度(仮の救済手段を含む。)に関する理解力と応用力を,
295 一歩踏み込んで探ろうとした。
296
297 2
298
299 採点方針
300 ・
301
302 救済手 段の 選択 につ いて は, 評論家風な解答ではなく,「自己の見解」が示されてい
303 るか否かを採点に当たって重視することとした。
304
305 ・
306
307 答案の構成が優れていたり,文章表現が優れ論理性の高い答案など,特に優れている
308 答案には,とりわけ高い評価を与えることとした。
309
310 ・
311 3
312
313 条文の引用が正確にされているか否かも採点に当たって考慮することとした。
314 採点実感
315 以下は,採点委員から寄せられた感想のうち主要なものをまとめたものである。
316
317 ○
318
319 基礎的知識はそれなりに身に付いてきていると感じた。
320
321 ○
322
323 飛び抜けて良い答案・悪い答案は少なく,全体としてまずまずの出来だった。
324
325 ●
326
327 処分性の定義が不正確なものが少なくなかった。
328
329 ●
330
331 処分性の定義の形式的当てはめに終始し,問題事案における行政活動の性質の分析と
332 必ずしもかみ合っていない答案が目に付いた。
333
334 ●
335
336 当事者訴訟に仮の救済なしとするもの,または,行政事件訴訟法第44条によって仮
337 処分が排除されているとするものが少なからず見られた。
338
339 ●
340
341 調査における強制・押収の違法について指摘する答案が極めて少なかった。
342
343 ●
344
345 調査の違法が勧告に及ぼす影響について,専ら「違法性の承継」の問題として解答を
346 している答案が少なくなかった。
347
348 ●
349
350 問題文・設問・資料で明記・誘導されているにもかかわらず,記述の及んでいない事
351 項(仮の救済・強制調査の問題点など)がある答案も少なからず見られた。問題文や設
352 問等を十分に読んでいないと思わざるを得ない。
353
354 ●
355
356 訴訟形式の選択について,比較の視点が希薄であり,実質的な検討が適切になされて
357 いる答案は多くなかった。
358
359 ●
360
361 差止め訴訟について,取消訴訟が可能であれば駄目とするなど,補充性の理解が不正
362 確であった。
363
364 ●
365
366 行政手続法と行政手続条例との適用区分について,正確な理解ができていない答案が
367 少なからずあった。
368
369 ●
370
371 勧告の違法について,安易に行政裁量の問題として論じているものが目立った。
372
373 ●
374
375 取消訴訟の訴訟要件について,処分性の問題のみにしか触れていないものが少なくな
376 かった。
377 -5-
378
379 4
380
381 今後の出題の在り方
382 これまでのような基本的・全体的知識を試す方向と,一定の重要論点について深く論じ
383 させたり,証拠の評価・事実認定をさせることによって,より高度な思考能力・文章表現
384 力を試す方向との両者の要請を満たすような問題を工夫・検討すべき,との意見があった。
385
386 5
387
388 法科大学院に求めるもの
389 ・
390
391 全体として見ると,行政法の理解度は着実に上がっており,法科大学院における教育
392 の成果と見ることができる。ただし,行政救済法と行政作用法(総論)とに分けた場合,
393 後者の分野での理解になお不足が感じられる。個別法・個別事案を素材として,行政活
394 動の適法・違法を具体的かつ的確に判断する力を養うことが求められ,その意味で,よ
395 り実践的・実務的教育が行われることが期待される。
396
397 ・
398
399 法令の条文を適切に理解して当てはめることができず,論点を見つけると憲法や行政
400 手続法(条例)を安易に援用して論ずる例が目立った。論点主義ではなく,基本的な法
401 制度の仕組みを条文と照らし合わせながら理解する地道な学習が求められる。
402
403 ・
404
405 結論のみを述べることに急な答案が目に付いた。結論を導く思考過程や論理過程を重
406 視して,これを適切に表現する能力を磨く訓練を行うことを一層重視すべきである。
407
408 -6-
409
410 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(民法)
411 1
412
413 出題の趣旨,ねらい等
414 本問は,不動産の売買・賃貸借・相続等に関し,財産法と家族法にわたる民法上の様々
415 な問題について,基本的な理解の有無を確認するものである。
416 設問1は,マンションの1戸の売買をしたが,買主の代金不払により売主が契約を解除
417 したところ,解除前に,買主が目的物を賃貸し,さらに賃借人が無断転貸をしていたとい
418 う事案で,売主が賃借人及び転借人に明渡しを求める場面の問題である。
419 小問(1)は,賃借人に対する所有権に基づく返還請求に対し,賃借人の反論(賃借
420 人は売買契約解除前の第三者である。)の当 否を 問う もの である。民法第545条ただし
421 書の趣旨及び「第三者」の意義,第三者の対抗要件の要否とその意味,賃借人の対抗要件
422 (借地借家法第31条第1項), 第三者 の善 意・ 悪意 など ,基本的な理解を確認する。な
423 お,「解除と第三者」に関しては, 第三 者は 目的 物の 譲受 人として論じられることが多い
424 が,ここでは目的物の賃借人であるという特色がある。
425 小問(2)は,賃借人に対する賃貸借契約終了に基づく返還請求について,賃借人の
426 2つの反論の成否を問うものである。第1の反論は,賃借人は買主から賃借したのだから,
427 売主が賃貸借契約を解除することはできないというものである。ここでは,売買契約の解
428 除に伴い賃貸人の地位が買主から売主に移転すること,それに伴い売主が賃貸人として賃
429 貸借契約を解除できるに至ったこと,その前提として売主に目的物の所有権の登記が求め
430 られることなど,基本的な理解を確認する。契約解除の場面における「賃貸人たる地位の
431 移転」についての考察や賃貸借契約解除原因の発生時期と賃貸人(売主)による解除権の
432 行使時期との関係についての考察があれば,それも評価する。第2の反論は,目的物は現
433 在,転借人が使用しており,賃借人は占有していないので,売主の請求には理由がないと
434 いうものである。ここでは,所有権に基づく返還請求ではなく,賃貸借契約終了に基づく
435 返還請求では,相手方の占有の有無は問題とならないという基本的理解を確認する。なお,
436 これは「不動産の間接占有者に対する引渡しないし明渡しの請求」という,より高度な問
437 題にも関わるが,そこまでの叙述を不可欠とするものではない。
438 小問(3)は,無断転貸を理由とする解除における「背信行為と認めるに足りない特
439 段の事情」となるべき具体的事実の指摘とその理由の説明を求めるものである。賃貸借と
440 転貸借との利用形態がほぼ同様で賃貸人の許諾した範囲内にあるといえること,両者の契
441 約内容が同じであること(特に転貸人に差額に よる 利益 を取 得す る意図がないこと),転
442 貸人の主観的悪性が低いことなどを示す事実を挙げ,整理して理由付けることが求められ
443 る。背信行為論の抽象的説明のみをするのではなく,具体的事実との関係で説得的な論述
444 ができるかどうかを問うている。
445 設問2は,マンションの1戸の賃貸人が死亡し,その9か月後に遺産分割がされた場
446 合について,相続開始時から遺産分割時までの間に支払われた賃料の帰属を問うものであ
447 る。関連する近時の最高裁判決の判旨を問題中で示した上,その評価も求めている。賃料
448 債権が相続財産(遺産)の範囲に含まれるかど うか (民 法第 89 6条),及び,遺産分割
449 の遡及効との関係(同第909条)を明確にした上,判例の見解に対する評価を述べ,自
450 らの見解に基づく具体的結論とその法的構成を示すことが求められる。本問の賃料の性質
451 (法定果実であること,相続開始後に発生した分であること,金銭債権であることなど)
452 のどこを重視するかなどにより,複数の考え方があり得るが,それぞれの問題点について
453 -7-
454
455 の基本的な説明と説得的な理由付けのほか,論述全体としての論理的整合性が求められる。
456 2
457
458 採点方針
459 今回の論文式試験においては,新司法試験開始以来,初めて民法の単独での出題とな
460 ったことから,受験者の能力を多面的に測ることを目指した。すなわち,第1に,民法上
461 の基本的な問題についての理解が着実にできているかどうかを確かめることにした。第2
462 に,単に知識の確認をするだけでなく,掘り下げた考察をしそれを明確に表現する能力,
463 論理的に一貫した叙述をする能力,及び,具体的事実について法的観点から評価し構成す
464 る能力を確めることにした。第3に,基本的な問題の奥に存在する,より高度な問題に気
465 が付いて,それに取り組む答案があれば,これを積極的に評価することにした。
466 採点の基本方針としては,新司法試験の制度理念が遺憾なく発揮されるようにすると
467 いう観点から,総花式に諸論点に浅く言及する答案よりも,ある論点についての考察の要
468 所において周到堅実や創意工夫に富む答案には高い評価を与えるようにする反面,論理的
469 に矛盾した構成やあり得ない法的解釈をするなど積極的な誤りが著しい答案には低い評価
470 を与えるようにし,しかも全体として適切な得点分布が実現されるようにした。
471
472 3
473
474 採点実感等
475 採点実感等については,各委員の感想を総合すると以下のとおりとなる。
476
477 (1)
478
479 概観
480 出題の意図に即した答案の存否及び多寡については,設問1については,出題の意図
481 に即した答案が比較的多かったが,設問2については,出題の意図に対応できていない
482 答案が相当数あった。
483 出題時に予定していた解答水準と実際の解答水準についても,設問1においては,
484 おおむね予想されたとおり,一応の水準に達するものが比較的多かったが,設問2に
485 おいては,ある程度は予想されたことではあるが,水準に達しない答案がかなりあっ
486 た。なお,答案の水準の絶対的評価については,特に設問1については,おおむね良
487 好な出来具合であったと評価するものが少なくなかったが,そのような評価をする委
488 員においても,下位の答案には非常に低い質のものがあることを指摘する意見もあり,
489 また,全体としての出来具合について,厳しい評価をする意見も相当数あった。
490
491 (2)
492
493 設問1について
494 設問1の小問(1)と小問(2)は,一応の水準に達している答案が多かったが,次
495 のような不適切な答案もあった。第1に,小問(1)では,「 解除と 第三 者」 という基
496 本的な問題について,理解ができていない答案が散見された。第2に,小問(2)の前
497 半で,題意を無視して債権者代位権の転用を持ち出すものが若干あり,
498 (2)の後半で,
499 賃貸借契約終了による返還請求であるにもかかわらず,賃借人には間接占有があるから
500 請求が認められないと答えるものが相当数あった。第3に,小問(1)で,問われてい
501 ることに答えず,要件事実論を長々と記述する答案が目に付いた。それらの答案は,概
502 して要件事実論としても不正確であり,しかも,要件事実的思考が発揮され得るはずの
503 小問(2)の後半で誤っているものが目立った。実体法の理解が不十分なまま,中途半
504 端な要件事実論を振り回そうとする答案であり,少数とはいえ,懸念される。第4に,
505 小問(1)と(2)とで,論理的一貫性を欠いている答案も,少数ではあるが,見られ
506 た。それは,いわゆる「論点」についての定型的な叙述をするものにおいて,特に目に
507 -8-
508
509 付いた。これらに対し,水準以上に優れた答案も一定数あった。もっとも,小問(1)
510 (2)には,それぞれ発展的な問題が含まれているところ,それに気付き,取り組んだ
511 答案は,ごく少数にとどまった。
512 設問2の小問(3)も,一応の水準に達している答案が多かったが,その割合は,小
513 問(1)(2)よりも幾分か少な目であった。本問では,具体的 事実 を拾 い出 し,それ
514 を整序して,「背信行為と認めるに足りない特段の事情」を構成 する もの とす るという
515 作業が求められるが,事実の評価が不適切なものが少なくなく,特に,「正当 事由」と
516 混同しているものが目立った。また,背信行為論ないし信頼関係破壊理論について,基
517 本的理解を欠くものも散見された。
518 (3)
519
520 設問2について
521 設問2は,設問1に比べると,余り出来が良くなかった。本問では,判例の見解を示
522 した上,検討すべき点をあらかじめ示しているので,それに対応すれば,おのずと問題
523 の所在が理解できるはずであり,それについての論理的一貫性のある論述がなされるこ
524 とが期待されている。具体的には,賃料債権を賃貸不動産の果実と考えた上,民法第8
525 96条・同第909条を単純に適用すると,示された判例の見解との間に齟齬が生じる
526 ように見えるが,それをどう考えるかである。この「齟齬」に気付かないもの,判例の
527 結論を正当化できないまま,しかしこれを支持するもの,論理的な整合性がとれていな
528 いもの,結論を示していないものなど,論理的一貫性の有無を判定する以前の段階にと
529 どまっている答案が少なくなかった。その原因として,相続法についての理解が不足し
530 ているために自信を持った論述ができないこと,判例の結論を所与のものとして絶対視
531 し,論理的一貫性や,問題点についての理由付けに顧慮することなく,ともかくも判例
532 の結論にたどり着こうとする傾向を持つ者がいることが挙げられよう。もっとも,上位
533 の答案には,よく考えた上,一貫した論述をするものも多くあった。なお,当然のこと
534 ながら,本問において,判例の見解に対する賛否それ自体によって答案の評価が左右さ
535 れるものではない。
536
537 (4)
538
539 全体を通じて
540 設問(1)と(2)の前半で,いわゆる「論点」についての画一的な解答をするに
541 とどまる答案の中に,論理的不整合に気付かないもの,その他の問題で実力が十分で
542 ないことを露呈したものが目に付いた。逆に,ある部分では独創的な考察をしつつも,
543 基本的な理解が不足していると見られる答案もあった。他方で,基本的な理解を基盤
544 として,自らの考察を展開している優れた答案も見られた。法律家として求められる
545 能力を多面的に測るという観点からは,今回の出題は,一定の成果があったように思
546 われる。
547
548 4
549
550 今後の出題について
551 民法としては,今回初めて,単独の大問方式の出題となったが,受験生の能力を多面的
552 に測るという面で,おおむね成果を挙げられたと考える。旧司法試験において指摘された
553 問題点を克服するという意味において,プレテスト以来の大大問方式の意義が大きいこと
554 は明らかであるが,民法については,そのことは大問方式であっても実現することが可能
555 であるように思われた。
556 民事系科目として,大大問という出題形式を今後も維持すべきであるかどうかについ
557 ては,委員の間でも多様な意見があるが,新司法試験の理念を実現し,旧司法試験におい
558 -9-
559
560 て指摘された問題を再現させないよう努めるべきであるという点では,一致している。
561 5
562
563 今後の法科大学院教育に求めるもの
564 前記「2
565
566 採点方針」に記載した諸点,すなわち,民法上の基本的な問題についての着
567
568 実な理解,掘り下げた考察をしそれを明確に表現する能力,論理的に一貫した叙述をする
569 能力,具体的事実について法的観点から評価し構成する能力,より高度な問題にも取り組
570 もうとする姿勢は,いずれも法律家になろうとする者に今後とも求められるものであると
571 考える。なお,前述のとおり,下位の答案に非常に質の低いものも見られるとの指摘など
572 もあったことから,とりわけそのような者については,まずは基本的な理解を着実に習得
573 することが必要とされよう。
574
575 - 10 -
576
577 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(商法)
578 1
579
580 出題の趣旨,ねらい等
581 既 に 「 平 成 2 0 年 新 司 法 試 験 論 文 式 試 験 問 題 出 題 趣 旨 」( 以 下 「 出 題 趣 旨 」 と い う 。)
582 において説明しているとおりであり,特に補足すべき点はない。
583
584 2
585
586 採点方針,採点実感等
587 民事系科目第2問の設問1及び設問2が商法からの出題であるが,これらは,いずれも,
588 長文の事実経過に関する文章を読み,そこに含まれる商法上の問題点について,各設問に
589 即して洗い出した上,当該事実関係への適用又は当てはめを行いつつ,論ずるということ
590 を求めるものである。
591 設問1については,設問自体に「保証債務履行請求の可否」及び「株式交換の問題点」
592 という受験生が検討すべき問題点に関するヒントが明示されていたため,問題点を丸ごと
593 外したという答案はほとんどなかった。もっと も,「保証 債務履行請求の可否」に関して
594 は,複数ある法的な問題点のうちの一つだけを 論じ てい ると いう ものが多く,また,「株
595 式交換の問題点」に関しても,複数の問題点を論じてはいるものの,当該問題点を論ずる
596 ことの意味や実益が何かということについては,何ら明らかにされておらず,単に設問自
597 体に検討の対象が明示されているからとにかく論じただけであると考えざるを得ないよう
598 な答案が多かった。
599 設問2については,設問1のようにヒントが設問自体には明示されていなかったため
600 か,出題趣旨で説明しているような複数の法的な問題点について幅広く論ずるという答案
601 は極めて少なく,単一の問題点についてだけ論じているという答案が多かった(取り分け,
602 最も気付きやすい取締役の第三者に対する責任 の問 題だ けを 論じ るものが多かった。)た
603 め,採点が難しいものとなった。
604 また,いずれの設問に対する答案においても,問題点を論ずるに当たって,判例があ
605 るような問題点であるにもかかわらず,判例に言及するものも少なく,丁寧さが十分とは
606 言い難いと感じた。さらに,記述が期待された法的な問題点の洗い出しとその当てはめの
607 論述に当たっても,掘り下げが十分であったかといえば,そうであったとはなかなか言い
608 難い単線的な答案が多かった。例えば,設問1に関しては,乙社の保証が間接取引に当た
609 るものとして利益相反取引の規制を受けるものかどうかという問題点について,間接取引
610 に該当するか否かの判断基準をどのように考えるのか,また,設問1及び設問2の双方に
611 関しては,利益相反取引に形式的に該当するとした場合であっても,すべての株主の同意
612 があるということになると,判例によれば取引は有効ということになりそうである(出題
613 趣旨参照)が,本件事案のように債権者の保護が問題となる局面においても,そのような
614 考えで本当によいのかといったような,実務家が事案の解決に当たる場合には当然に疑問
615 が湧いてくるであろう問題点について,気を回して悩むといったような答案が極めて少な
616 かった。法律の規定の解釈に関する学説や判例については,短答式のための勉強などでそ
617 れ自体は知識としては有しているのであろうが,さらに,それが実務上どのような意味を
618 有することになるのかという問題意識を持っているかどうかが,このような設問に遭遇し
619 た場合に問われることになる。
620 加えて,平成19年の試験までは,商法の採点後の感想として,事実関係への当てはめ
621 の力が弱いのではないかという意見が多くの委員から寄せられていたが,平成20年の試
622 - 11 -
623
624 験については,やはりそのような傾向が続いているという意見と,事実関係への当てはめ
625 について力を入れて論ずるよう努めている答案が増えているのではないかという意見があ
626 った。本年の採点結果として後者のような意見があった背景には,考査委員に対するヒア
627 リングの結果が公表され,受験生の側にもこの事実関係への当てはめが重要だという認識
628 が少しずつ持たれてきているということがあるのではないかとも考えられる。ただ,この
629 後者の意見においても,適切な論じ方がされているかといえば,まだまだそうではないと
630 いう印象であったようである。また,法的な問題点の適切な洗い出しは,この事案への当
631 てはめの前提として重要なのであって,両面での能力の涵養が重要であるということを改
632 めて強調しておきたい。
633 3
634
635 今後の出題
636 平成20年の試験について受験者に同情すべき事情があるとすれば,第2問全体の問題
637 文が長文となった結果,大大問で4時間の時間はあるものの,4つの設問について万遍な
638 く解答することは相当大きな負担であったとみられることであり,このことは,答案の最
639 後の方の設問に対する解答において力が尽きているようなものも少なからず見られたこと
640 に現れていたと考えられる。
641 また,前記2の「採点実感等」のとおり,我々が期待するような掘り下げをある設問
642 について深く行うことにより,他の設問の解答時間が不足してしまうというような傾向も
643 見られた。
644 これらのことは,大大問の出題の在り方について,なお検討の余地があることを示唆
645 するものかもしれない。しかし,普段から,判例について事実審の判決から読みこなすと
646 いう訓練をしておくことが重要であるということも改めて指摘しておきたい。
647
648 4
649
650 今後の法科大学院教育に求めるもの
651 前記2の「採点実感」でも明らかにされているように,受験者の水準については,依然
652 として,出題及び採点に当たった考査委員の期待するようなレベルの水準にあるとは言い
653 難い。短答式試験問題についても,商法は特に難解な問題を出題しているということはな
654 いものの,やはり出来が良いとはいえない。商法は,広範であり,かつ,基本法としては
655 技術的な側面を有する法分野であるが,基本が重要であるということは他の科目と何ら変
656 わらないのであり,基本的な知識の一層の充実とともに,複雑な事実関係から法律問題を
657 適切に見いだして適切な解決策を考える能力を高める教育の充実を商法の分野でも図って
658 いく必要がある。
659
660 - 12 -
661
662 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事訴訟法)
663 1
664
665 出題趣旨・ねらい等
666 基本的には,「出題趣旨」に記載したとおりである。
667 敷衍すると,今年の民訴法の問題は,持っている知識を事案に当てはめ,整理して記載
668 するということを求めるものではなく,受験生にとってはさほどなじみのない問題につい
669 て,これまでの学習で培った民訴法についての基礎的知識や理解をベースにして,試験時
670 間の中で考え,具体的事例に即して適切な結論に導くことをねらったものである。
671 例えば,よく知られた判旨を正面から事案に当てはめるのではなく,逆に具体的事案に
672 判旨が当てはまらない理由を検討させたり,必要的共同訴訟と文書提出命令不遵守の効果
673 等基本書に取り上げられていない問題について出題したのも,このようなねらいに基づい
674 ている。
675 なお,受験生が知っているべき事項の範囲については,出題に当たって十分配慮してい
676 る。例えば,文書提出命令不遵守の効果に関する四説の内容については,立証責任の転換,
677 真実擬制,自由心証といった基本的な用語の理解があれば分かるように誘導しており,こ
678 れらの説に関して,学説上論じられていることの詳細については知らないという前提に立
679 っている。
680
681 2
682 (1)
683
684 採点方針・採点実感等
685 虚心坦懐に問題文を読み,問われていることに真正面から向き合い,その場で思考し,
686 解決策を導こうとする姿勢が重要である。
687 既にこの姿勢の点で,不十分な答案が相当あった。未知の問題に出会った場合には,
688 基本的な概念に掘り下げてそこから考えていくほかないのであるが,問題が,自分の知
689 っている論点のうちのいずれかが問われているはずだという思い込みが強いせいか,問
690 題文の方を無理に一般化してしまったり,問題の趣旨に沿っていない答案(例えば,設
691 問3について,問題文に記載した時間の流れにまったく注目していない答案,設問4に
692 おいて,裁判官と修習生の会話の存在を無視して,どのような観点から検討するかとい
693 う誘導に従っていない答案)が散見された。
694 他方で,基本的な概念に掘り下げて検討するといっても,本問では,民事訴訟の基本
695 理念(自由心証主義や弁論主義)の説明そのものを求めているわけではないことは問題
696 文から明らかである。このような概念の定義や内容そのものを長々と論じている答案も
697 あったが,無用な記載であって,問われたことに答えたことにならない。
698
699 (2)
700
701 次に,考えるための前提となる基本的な事項をきちんと理解し,身に付いていること
702 が必要であるが,答案を見てみると,この点でも甚だ不十分と思われる答案が目立った。
703 例えば,固有必要的共同訴訟,類似必要的共同訴訟,通常共同訴訟,合一確定,真実擬
704 制,立証責任の転換というような概念が分かっていないと認められるもの,転換説の方
705 が,擬制説よりも,相手方の反論の余地が小さいとする答案などはその例である。
706
707 (3)
708
709 各設問で求められている内容を十分に理解する必要がある。例えば,設問4(1)で
710 は,「四つの説を比較検討した上」という指示があるため,それ ぞれ の長 所短 所を挙げ
711 て比較検討することが求められているのであり,他の3説の短所のみ記載し,消去法で
712 残る説を採用するような答案は,出題趣旨に合致しているとはいえない。
713 また,事例問題である場合には,事案に沿った検討が求められている。設問4(1)
714 - 13 -
715
716 において裁判官が「一般論としての報告」を求めているのを除き,今年の問題は,いず
717 れも事例問題である。
718 例えば,設問3についていえば,定時株主総会や役員Aの解任を求める訴えの提起の
719 日時,甲社を被告として加える旨の申立書が送達された日,甲社からの答弁書を原告J
720 が受領した日が問題文に記載されていることの意味を想起すべきである。言うまでもな
721 く,会社法第854条の提訴要件の関係や,問題とされている甲社を被告として加える
722 申立てが訴訟の極めて初期段階でされていることに着目してもらうための時系列の記載
723 であるが,それにもかかわらず,そのような時系列の記載があってもなくても答案が変
724 わらないようでは,問われたことに答えたことにならない。
725 さらに,設問3は,原告Jの代理人としての立場からの主張が求められているのであ
726 るから,認められやすい主張かどうかや一刀両断的な主張のみでよいかという観点も重
727 要である。このような視点から考えれば,訴状の副本がすでにAに送達されている本件
728 設問3の事案において,主観的追加的併合ではなく,訴状の補正(訂正)と解されるか
729 ら最高裁判決の射程外であるという主張のみに終始するとすれば,原告代理人Jの態度
730 として得策かどうか,想起されるべきである。
731 (4)
732
733 論理の一貫性(各質問にまたがる答案を通じた一貫性を含む。)も重要である。設問
734 3では固有必要的共同訴訟としながら,設問4(3)で民事訴訟法第224条第3項が
735 甲社に適用になっても,他方被告Bには適用にならないとしたまま疑問が示されていな
736 い答案,設問4(1)で,転換説の問題点として,相手方の反証の余地があることを挙
737 げながら,心証説を採用することにまったくちゅうちょのない答案が相当あったが,論
738 理の一貫性の観点から問題があろう。
739
740 3
741
742 法科大学院教育に求めるもの
743 基本的な概念の理解をきちんとすることの重要性が改めて認識されるべきであろう。今
744 回のように多少違った角度から問われると,理解できないことを露呈してしまうようでは,
745 心もとない。
746 設問4で民事訴訟法第224条第1項と第3項の要件の違い等に気付かない答案が多
747 く,条文を慎重に読む習慣が身に付いているか疑問に思われる。また,法科大学院では,
748 事例を使った授業が行われているものと承知しているが,当然事例を読む場合には,時系
749 列表を作って時間の流れを意識しなければならないはずである。しかし,設問3の答案を
750 見ると,丹念に時系列表を作って事案を理解するという基本的なトレーニングが不足して
751 いるように思われた。
752 また,設問3のように,判例が当該事例に当てはまらないことを主張させるという問題
753 に対しては,全く対応できない答案も散見された。判例は,無批判に受け入れ,要旨部分
754 を覚えればよいものと考えている受験生がいるのではないかとも疑われ,法科大学院での
755 判例の学び方にも問題があるのではないかと懸念された。
756 条文,学説,判例を,事例に即して考えながら検討し,かつ,使いこなしていく学習方
757 法を身に付けさせることが,肝要であろう。
758
759 4
760
761 その他
762 内容以前の問題であるが,答案を作成する際に,人に読んでもらうための文章であると
763 いう認識が欲しい。余りに小さい字や,極端なくせ字や略字等,読み手がいることを想定
764 - 14 -
765
766 できていないと思われる答案が少なからずあったことを指摘しておきたい。
767
768 - 15 -
769
770 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑法)
771 1
772
773 採点方針
774 本年の刑事系第1問(刑法)は,出題の趣旨において既に明らかにしたように,具体的
775 事例に基づいて,刑事実体法の理解,具体的事実に法規範を適用する能力,論理的思考力
776 を試すものである。採点に当たっては,こうした出題の趣旨に従い,甲乙の罪責に関する
777 結論部分だけではなく,その結論に至る思考過程の論述を重視するものとし,事例に基づ
778 いて,甲乙の共犯関係(共謀ないし共同実行の意思の有無・内容)を的確に把握すること
779 を前提に,甲乙の罪責について,成立し得る犯罪の構成要件要素の解釈を踏まえ,具体的
780 事実を示して当てはめ判断を行う論述が的確になされているかに留意した。
781
782 2
783
784 採点実感
785 以下,採点終了後に考査委員間で行った意見交換の結果を踏まえ,大論点ごとに,採点
786 実感の概要を示すこととしたい。
787 まず,甲乙の共犯関係については,ほぼすべての答案が共謀共同正犯の成否ないし共同
788 正犯と幇助犯の区別という視点に立って検討を行っていた。ただ,理論的な根拠や検討す
789 べき要素を具体的に示しつつ,必要かつ十分な事実を抽出して当てはめるという論述をバ
790 ランス良くかつ的確に行っている答案は必ずしも多くはなかった。例えば,法律論をほと
791 んど示すことなく,単に問題文に記載された事実を羅列しただけで,事実の持つ意味やそ
792 の 評 価 に 触 れ る こ と な く ,「 以 上 の 事 実 か ら す れ ば , 共 謀 共 同 正 犯 が 成 立 す る 。」 等 の 結
793 論を示す答案,逆に,法律論の論述のみに終始して,問題文に示された乙の関与に関する
794 具体的事実の検討が不十分な答案が散見され,こうした答案は高い評価をするには至らな
795 かった。その他,甲が現実にA方において強盗に及んでいる点をとらえて甲乙間には強盗
796 の 事前 共謀 があ ったと認定するなど,事実関係のとらえ方が強引な答案,(共謀)共同正
797 犯を認定する積極的な事情を多く取り上げて論述しながら,乙の分け前が少ない点のみを
798 論拠として乙は幇助犯にとどまるとの結論を導き出すなど,説得力を欠く論述の答案も見
799 られたが,こうした答案は低い評価とならざるを得なかった。
800 次に,甲の罪責については,成立する犯罪の構成要件要素への当てはめ以前の問題とし
801 て,甲の行為を余りに分断的で細切れにとらえ,刑法的評価の前提となる甲の行為を的確
802 に把握できていない答案が散見された。例えば,甲のA方内での行動について,甲がカッ
803 タ ーナ イフ の刃 をBの目の前に突き出した行為は脅迫罪,甲がBに「静かにしろ。」等と
804 言った行為は強要罪,甲がリビングボードに近づいた行為は,新たな別個の強盗(未遂)
805 罪のように,事実のとらえ方が不適切な答案が目に付いた。また,甲のBに対する強盗の
806 成否については,多くの答案が強盗罪の成立要件に問題文の事実関係を示して当てはめる
807 と いう 論述 を行 っていたが,ここでも問題文に記載された事実を書き写しただけで,「以
808 上 から すれ ば, 強盗罪が成立する。」等と結論を示し,構成要件要素の法的な説明や挙示
809 した事実の評価が抜け落ちているため,結論に至る筋道ないし思考過程が十分に読み取れ
810 ず ,高 い評 価を 与えられない答案が相当数あった。その一方,「 反抗を抑圧するに足りる
811 程度の暴行・脅迫」に関して,甲のBに対する犯行が行われた状況のうち,A方の屋内で
812 Bが容易に助けを求められる状況にないこと等にも触れるなど,幅広い事情について目配
813 りして結論を導いた答案があった。その他,屋外に逃げたBを乙が死亡させたことに関す
814 る甲の罪責については大半の答案が触れていたものの,甲乙間の共謀内容及び甲に成立す
815 - 16 -
816
817 る強盗罪の枠組み(強盗の機会性ないし因果関係等)の両方の観点で問題となり得ること
818 を論じたものは少数であった。この点については,甲乙の事前共謀の内容は窃盗であると
819 しても,結論的には,甲にも乙にも強盗罪ないし事後強盗罪が成立するのであるから,B
820 の死の責任を甲に負わせられないのは不当ではないかという問題意識を示しながら,甲乙
821 間には強盗の共謀がない以上,強盗罪の共犯として責任を負わせることはできず,また,
822 甲に成立する強盗罪との関係でも因果関係等を認定できない旨事実を示しつつ検討した秀
823 逸な答案があった。
824 さらに,乙の罪責については,まず,甲との共犯関係の内容を前提に,A方内での甲の
825 強 盗行 為に 関す る乙の罪責を論ずることになるが,大半の答案は,「乙に強盗(致傷)罪
826 は 成 立 し な い 。」 あ る い は 「 乙 に は 窃 盗 罪 の 限 度 で 共 同 正 犯 が 成 立 す る 。」 と 論 ず る の み
827 であった。前者のように,錯誤論を前提とした場合における乙の具体的な罪責を示さない
828 答 案が 不十 分で あることはもとより,後者のように,「窃盗罪の限度」と抽象的に示した
829 のみではこの事例における乙の罪責を的確に示したこととはならず,そこでいう「窃盗罪」
830 とは300万円の窃盗であり,2万円に関しては責任を負わないという趣旨なのか,それ
831 とも,302万円の窃盗の限度では責任を負うという趣旨なのかを明らかにしなければ乙
832 の罪責を正確に認定したとはいえない。この点については,多くの受験生が罪名を決めた
833 だけで安心してしまったものと思われた。また,乙に事後強盗(致死)罪が成立し得るこ
834 とについては多数の答案が指摘していたものの,反抗抑圧に足りる程度の暴行といえるか,
835 財物奪取と暴行との関連性は認められるかという点にまで目を行き渡らせて具体的に論じ
836 ている答案は多くはなかった。その他,乙のBに対する殺意を無理に認定していると思わ
837 れる答案が散見されたほか,乙の罪責を認定するに当たって,理解不十分なまま,承継的
838 共犯や片面的共犯等の概念を用いている答案もあったが,これらは的確な事実認定・法律
839 適用を誤ったものとして低い評価とならざるを得なかった。
840 3
841
842 法科大学院教育に求めるもの
843 新司法試験・刑法に関しては,本年はもとより過去の出題においても,比較的長文の事
844 例を前提として,法解釈,法の適用に必要な事実関係の抽出と当てはめを行って説得的な
845 論述を求める出題がなされているが,抽象的な法概念の理解にとどまらず,事実関係を踏
846 まえて考えることの重要性を十分に理解することが大切である。法科大学院教育において
847 も,これまでに引き続き,刑法の解釈論の正確な理解はもとより,具体的な事実関係を前
848 提とした法の適用能力の涵養に努めていただきたいと考えている。
849
850 - 17 -
851
852 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑事訴訟法)
853 1
854
855 採点方針等
856 本年の問題も,過去2回の試験と同様,比較的長文の事実関係を記載した事例を設定し,
857 そこに生起している刑事訴訟法上の問題点につき,問題解決に必要な法解釈をした上で,
858 法解釈・適用に必要不可欠な具体的事実を抽出・分析し,これに法解釈により導かれた規
859 範の当てはめを行い,一定の結論を筋道立てて説得的に論述することを求めており,法律
860 家になるための学識・法解釈適用能力・論理的思考力・論述能力等を試すものである。
861 出題に当たっては,刑事訴訟法の中でも重要であり,法律家になるために理解しておか
862 なければならない伝聞法則と犯罪捜査に関する基本的な問題を選定した上,設問において,
863 答案で論じてほしい事項を画定明示することにより,受験生が,一定の時間内に,法解釈
864 と事実の分析等の双方について,必要十分な論述を行うことができるように配慮した。
865 具体的な出題の趣旨については,公表されているとおり,設問1では,自己の体験した
866 事実や被告人との会話内容が記載されたノートにつき,要証事実との関係での証拠能力を
867 問うことにより,要証事実の分析を前提として,適用可能性のある伝聞例外規定に係る要
868 件等の法解釈を必要かつ十分に行った上,事例への法適用の部分では事実が持つ意味を的
869 確 に位 置付 けて 論じることを求めている。設問2では,被疑者宅の「捜索の適法性」,す
870 なわち,警察官が捜索差押許可状の呈示に先立って捜索場所に入室した際の措置の適否と
871 令状呈示の時期の適否について,関連規定の趣旨・目的を踏まえて,具体的事実を指摘し
872 つつ論じることを求めている。採点に当たっては,このような出題の趣旨に沿った論述が
873 的確になされているかに留意した。いずれの設問も,法科大学院で刑事訴訟法を真面目に
874 学習した者であれば,何を論じなければならないかは明白であり,その素材となる判例や
875 学説等も容易に思い浮かぶような事例である。
876
877 2
878
879 採点実感
880 次に,採点実感についてであるが,合格判定会議後に各考査委員から様々な意見を聞い
881 ているので,そのような意見をも踏まえた感想を述べる。全般的・総括的には,新司法試
882 験が志向している法解釈とこれに則して具体的な事実関係を分析した論述がなされている
883 答案が大半であった。これは法科大学院における刑事実務を意識した理論教育が定着の方
884 向にある成果と感じられる。設問1については,要証事実を的確に理解した上で,伝聞及
885 び再伝聞の法解釈等も的確になされている答案が少なからずあり,また,設問2について
886 は,「必要 な処 分」 等の 法解 釈を的確に論述し,事実関係を的確に分析・検討した上で当
887 てはめることができている答案が多数見受けられた。他方,不正確な抽象的法解釈を機械
888 的に暗記し,これを断片的に記述しているかのような答案も見受けられたほか,前回のヒ
889 アリングでも指摘したところであるが,関連条文から解釈論を論述・展開することなく,
890 問題文中の事実をただ書き写しているかのような解答もあり,法律試験の答案の体をなし
891 ていないものもあった。
892 以下,法科大学院における教育と学習の指針に資するため,あえて一部に理解が不十分
893 と思われた点を具体的に述べる。
894 設問1については,自己の知覚・記憶した事柄を記載したもので,その記載内容の真実
895 性がかかわる要証事実との関係で「伝聞証拠」以外の何物でもない本件ノートを「非伝聞」
896 とする不可解な答案があった。最も基本的な事項である伝聞法則の具体的理解の定着が望
897 - 18 -
898
899 ま れる とこ ろで ある。また,本件ノートが刑事訴訟法(以下「法」という。)第321条
900 第1項第3号の書面に該当するのか,それとも法第323条第3号の書面に該当するのか
901 に関する検討は比較的良くできていたものの,それぞれの要件要素である「特に信用すべ
902 き情況」に関する法解釈がなされていない答案が少なからずあり,法解釈の出来不出来に
903 差があるという印象を受けた。これもまた前回のヒアリングで指摘したところであるが,
904 何らかの誤解により法科大学院の教育で法解釈論の部分が軽視されているのではないかと
905 いう印象は,未だに今回の試験でも受けているところである。また,前記のとおり要証事
906 実との関係では「伝聞証拠」である本件ノートに記載された被告人の発言内容の真実性を
907 要 証事 実と する 場合には,「再伝聞」が問題になるので,そのような法律問題であること
908 を的確に記載する必要がある。しかし,検察官の立証趣旨を考慮することなく独自の要証
909 事実を前提にして論述をしたり,要証事実を前提にすることなく本件ノートについての伝
910 聞法則の適用の有無を検討している答案も散見された。
911 法適用に関しては,事例に含まれている供述に付随する外部的な情況にかかわる具体的
912 事実を抽出・分析することが肝要であり,相当数の答案が問題文にある必要かつ十分な具
913 体的事実を抽出できていた。これは法科大学院教育の良い成果と思われる。ただ,更に踏
914 み込んで個々の事実が持つ意味,例えば,その日にあった出来事をその都度記載している
915 とか本件ノートを他人に見せることを予定しておらずうそを記載する理由がないことなど
916 についても検討している答案は少数であり,学習に際しては,具体的事実の抽出能力に加
917 えて,その事実が持つ法的意味を意識して分析する能力の体得が望まれるところである。
918 なお,日記を「供述書」に当たらないとする答案や,明文規定があるにもかかわらずそ
919 の意味の理解が不十分であるために法第第321条第1項の「供述書」にも供述者の署名
920 押印が必要であるとする答案が散見された。基本的事項の正確・着実な理解が望まれると
921 ころである。
922 設問2については,前記のとおり,最高裁判所の判例法理等の理解を踏まえた的確な論
923 述ができている答案,事例への法適用の部分についても,必要かつ十分な事実を抽出した
924 上で,その意味を論じることができている答案が多数見受けられ,比較的良好な結果であ
925 った。
926 3
927
928 法科大学院教育に求めるもの
929 このような結果を踏まえて,今後の法科大学院教育においては,次のようなことが強く
930 要請されていると思われる。手続を構成する制度の趣旨・目的を基本から正確に理解し,
931 これを具体的事例について適用できる能力を身に付けること,筋道立った論理的文章を書
932 く能力を身に付けること,以上に尽きる。
933
934 - 19 -
935
936 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(倒産法)
937 1
938
939 出題の趣旨・ねらい等(出題の趣旨に補足して)
940 個別的な内容については,既に「出題の趣旨」として公表したとおりである。今年の問
941 題作成の際に意識したのは,典型的な問題と受験生がこれまで余り見たことがないと思わ
942 れる問題及び倒産実体法に関連する問題と倒産手続法に関連する問題をバランスよく配合
943 することであった。
944
945 2
946
947 採点方針
948 解答の際に言及すべき点については,既に「出題の趣旨」として公表したとおりである。
949 典型的な問題については,基礎的な事項が正確に書けているかどうかに重点を置いて採点
950 をした。
951 今年について特徴的であったのは,第2問の設問1及び設問2についての採点方針であ
952 る。いずれも,受験生はこれまで余り見たことがないと思われる問題であり,結論も分か
953 れ得る問題であったことから,どのような結論をとったかよりも,どうしてそのような結
954 論を導いたのかという理由付けの記述の丁寧さ及び一貫性に重点を置いて採点をした。
955
956 3
957 (1)
958
959 採点実感等
960 第1問
961 破産法第161条及び第162条という否認権の基本条文の趣旨や適用対象(守備範
962 囲)について,よく理解している答案と理解が不十分な答案とにはっきりと分かれた。
963 これらをよく理解している答案はかなりの高得点に達したが,そうでない答案はここで
964 得点が取れなかった。基本条文の内容を体系的に理解し,それを具体的事案で正確に適
965 用する能力を養うことの重要性を改めて感じた次第である。
966 支払不能の認定や相殺禁止については,多くの答案がよくできていたが,やはり,答
967 案によっては不十分な解答にとどまるものがあった。これらの点についての解答が不十
968 分で,かつ,前記の否認権についても十分な理解に基づかない記述をする答案は,かな
969 りの低得点にとどまらざるを得なかった。
970 また,設問2では,「どのような請求をすべきか」という問い 掛け に対 応し ていない
971 解答が散見された。
972 総じて言えば,第1問は,破産実体法上の基本的な事項を問うものであり,高得点者
973 も多く出た反面で理解の十分でない答案は点が取れなかった。その意味で「差のつく」
974 問題であった。
975
976 (2)
977
978 第2問
979 退職金債権がどの範囲で財団債権あるいは優先的破産債権として扱われるかの破産法
980 の規律(設問1の一部)については,ほとんどの答案がよく理解していた。各種債権の
981 破産手続上の処遇・優先順位については多くの受験者がよく勉強していることをうかが
982 わせた。これができていない答案は他の設問の出来もよくなく,そもそも倒産法の勉強
983 がほとんどできていないことをうかがわせるものであった。
984 財団債権あるいは優先的破産債権にもとづいて破産手続開始の申立てをすることがで
985 きるかは(設問1の残部),直接には教科書等でほとんど触れら れて いな い。 破産手続
986 開始の申立権の意義や各種債権の破産法上の処遇の趣旨に基づいて,一貫性のある理由
987 - 20 -
988
989 付けで結論に至ることを求める問題であり,きちんと対応できている答案も多かった反
990 面,問題の所在を把握できていない答案も有意な数あった。
991 また,債権の種類に応じた届出債権者の異議の効果(設問2)については,よく理解
992 している答案も多かったが,優先順位の違いが債権調査における異議の効力にどう影響
993 し得るかという問題の所在を十分把握していない答案も散見された。
994 設問3は,破産手続開始の申立てと再生手続開始の申立てとが競合した場合の各手続
995 の帰趨という手続上の基本的な規律を問うものであるが,全体に出来は余りよくなかっ
996 た。特に,民事再生法第25条第2号の要件について全く考慮していない答案が多かっ
997 たことや,再生手続から破産手続への移行の場面において,破産手続開始の申立てが既
998 にされている場合には,再生手続の開始により破産手続は中止していてもその申立ての
999 効力自体は当然にはなくならないことを意識している答案が少なかったことには問題が
1000 あると感じた。
1001 総じて言えば,受験者に対応可能な範囲で「答案作成現場での思考」をさせた設問1
1002 と設問2は出題者の予想よりもよくできていた。これに対して,設問3は意外にできて
1003 いないという印象であった。昨年度に続いて,手続法上の事項については十分に勉強で
1004 きていない受験者が多いことをうかがわせるものである。
1005 4
1006
1007 今後の出題について
1008 今後も,特定の傾向に偏することなく,基礎的な事項の理解を確認する問題と受験生の
1009 問題発見能力を試す問題,倒産実体法に関する問題と倒産手続法に関する問題,企業倒産
1010 に関する問題と個人倒産に関する問題等,幅広い出題を心掛けることが望ましいと考える。
1011
1012 5
1013
1014 今後の法科大学院教育に求めるもの
1015 基礎的な事項の十分な理解に重点を置くべきことは言うまでもないが,個々の規律をそ
1016 の趣旨や根拠に立ち帰って考えることにも配慮すべきである。新しい問題に対応するため
1017 には,関連する規律の趣旨や根拠にさかのぼることが必要となるからである。
1018
1019 - 21 -
1020
1021 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(租税法)
1022 1
1023
1024 出題の趣旨,ねらい等(出題の趣旨に補足して)及び採点方針
1025 出題の趣旨は既に公表済みであるが,昨年までと同様,法科大学院における租税法の基
1026 本的な事項に関する学習を前提として,具体的な事案について,租税法規の解釈論をどの
1027 ように展開することができるか,どのように事実関係を認定し租税法規に当てはめて判断
1028 することができるかを試すものである。
1029 第1問は,出題にかかわる所得税法の規定(第33条第3項,第37条第1項,第38
1030 条第1項及び第60条第1項第1号)及び関連判例(最判昭和47年12月26日民集2
1031 6巻10号2083頁,最判平成6年9月13日判時1513号97頁,最判平成17年
1032 2月1日訟月52巻3号1034頁等)の正確な理解並びに事実関係の正確な分析に基づ
1033 き,設問に係る事案の判断が適切に行われ,かつ,説得的に論述されているかどうかを重
1034 視して,採点を行うことにした。相続人がいわゆる代償分割により相続財産を単独取得し
1035 当該財産を後に譲渡した場合における所得税の課税関係については,判例と異なる法律構
1036 成を説く有力な学説があるが,この学説に基づく解答にも採点上相応の配慮を行うことに
1037 した。
1038 第2問設問1の出題の主たるねらいは,本件の債権放棄が貸倒損失として損金に算入で
1039 きるかにつき,貸倒れの要件をどのように考えるか,本問で示された事実を前提に貸倒れ
1040 と認められるかどうかであり,法人税の所得計算方法は,その前提として出題したもので
1041 ある。貸倒れの要件については,いわゆる興銀事件(最判平成16年12月24日民集5
1042 8巻9号2637頁)があるが,法人が任意の時期に債権放棄を行って課税所得の減算を
1043 図るという利益操作の可能性の防止,恣意性の防止という法人課税の基礎を踏まえて貸倒
1044 要件を検討することが重要である。当てはめにおいては,Bは倒産という事態にまでは立
1045 ち入っておらず,相当な技術力があるという点をも考慮に入れ,踏み込んだ論述が望まれ
1046 た。設問2(1)は,論述の順序として,まず,債務免除益が所得税法第36条第2項の
1047 経済的利益に当たることに触れた上で,その例外として,問題文にある場合にこれを非課
1048 税にする理由として考えられる根拠を示す必要がある。非課税の根拠としては,幾つかの
1049 考え方があり,それぞれに難点もあるので,こうした問題を踏まえ,説得的に自説を論じ
1050 ることが求められた。設問2(2)は,Bの所得税の課税関係を問うものであるが,Bの
1051 所得区分,資力を喪失して債務の弁済が著しく困難な状態にあるかの当てはめが問われて
1052 いる。設問2(1)と(2)では,(1)に比重を置いている。
1053
1054 2
1055
1056 採点実感等
1057 第1問は,所得税法上の基本的な制度の一つである譲渡所得課税制度の重要な要素であ
1058 る取得費に関する理解を問うものであり,また,設問において判断すべき事項を個別的に
1059 明示することによって出題の意図を推測することができるようにしていたので,出題の意
1060 図を大きく外した答案は少なく,出題時に予定していた解答水準を満たす答案がかなり多
1061 かったと思われる。もっとも,譲渡所得課税の趣旨については一般論としてはおおむねよ
1062 く理解できている答案が多かったものの,個々の支払金に係る取得費該当性の判断におい
1063 て 「必 要に 応じ て」(設問1 の問題文)その判断理由と結び付けて論及しようとする姿勢
1064 がみられる答案は必ずしも多くなかった。また,例えば,所得税法第60条第1項と同条
1065 第2項との関係等について基本的な知識や条文読解力の不足をうかがわせる答案,個々の
1066 - 22 -
1067
1068 支払金に係る取得費該当性の判断が相互に整合的でなく,事案を総合的に検討し論理一貫
1069 した判断を導き出す能力の不足をうかがわせる答案も散見された。基本的には,昨年の場
1070 合と同様であり,出題の意図が何かを把握しようとする注意力や出題にかかわる法令に関
1071 する基礎的な知識・理解力の不足にあると思われるが,その背景には,個々の条文や概念
1072 を他と関連付けて理解しようとするのではなく,いわば縦割り的に理解するにとどまって
1073 いるような学習姿勢があるのではないかと考えられる。
1074 第2問であるが,設問1では,まず,内国法人の課税所得の計算方法は,法人税法第2
1075 2条各項の規定に沿って論述してもらえば足りたわけであるが,貸倒損失が同法第22条
1076 第3項第3号にいう「損失」に該当するという前提を誤った答案が少なくない。このよう
1077 な答案は,入口部分で既につまずいてしまって,主要な論点である貸倒要件や本問での当
1078 てはめという論点にたどり着けないことになり,採点に大きな差が生じた。設問2(1)
1079 は,相当に難問だったように思われる。非課税の根拠については,結論のみを述べる淡泊
1080 な答案がほとんどで,いろいろな考え方を模索し,悩みながら一定の結論を導くというな
1081 答案はほとんどなかった。設問2(2)でも,その所得区分が事業所得か,一時所得かに
1082 ついて触れていない答案も少なくなく,基本的な部分の論述を欠くものが散見された。
1083 4
1084
1085 今後の出題について
1086 特に見直す点はないと考えられるが,今後も引き続き,具体的な事実関係の下で租税法
1087 の基本的な条文や概念の理解とその適用能力を試す問題を出題し,しかも出題形式として
1088 は,受験者が出題の意図に従って解答しやすくするよう小問を順次検討していく形式によ
1089 ることが望ましいと考えられる。
1090
1091 5
1092
1093 今後の法科大学院教育に求めるもの
1094 所得税法及びこれに関連する法人税法に関して,基本的な条文や概念を他と関連付けて
1095 多角的に検討し理解する学習を基礎にして,そこで習得した知識や能力を事例演習等によ
1096 って確認し,それらの応用力や総合的判断力を涵養していくというような教育が望まれる。
1097
1098 - 23 -
1099
1100 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(経済法)
1101 1
1102
1103 出題の趣旨について
1104 経済法の出題に当たっては,独占禁止法の基礎的知識を会得し,具体的な事例で適用で
1105 きるか,基本概念をよく理解し,応用することができるかという点を評価し得るような問
1106 題を目指した。
1107 出題した2問は,受験生にとっては目新しいものに思えたかもしれないが,独占禁止法
1108 の基本に基づいて検討すれば解答し得る問題であり,公表されている公正取引委員会の考
1109 え方やガイドラインに関する細かな知識を必要とするものではない。
1110
1111 2
1112
1113 採点方針
1114 いずれの問題においても,独占禁止法の基礎的知識・基本概念の正確な理解と応用能力
1115 の有無を見ようとしている。単純な正解にたどり着けたか否かではなく,解答を導く道筋
1116 や,独占禁止法の正確な理解に基づいた法的な立論の適否や事実関係の分析の深さにより,
1117 受験生の法的な能力を見ようとするものである。
1118 第1問の設問1においては,単に価格拘束の合意があれば違法で,なければ適法という
1119 ような単純な回答を是としたものではなく,本件協定が広い意味での共同行為といえるか
1120 否かを検討した上で,高速バスの共同運行の競争上の位置付け,その目的,効果,代替方
1121 法の有無等を総合的に検討しているか否かを重視した。設問2においては,新規参入の妨
1122 害行為に対して,問題文中の一部の用語に飛びついた法条の選択を行うことなく,各法条
1123 の差異を踏まえて適用法条を選択し,丁寧な要件の検討を行っているか否かを見た。
1124 第2問の設問1においては,不公正な取引方法の行為要件を理解し,適切な法条を指摘
1125 し得るか,公正競争阻害性の意義を正確に把握し,本問において適切な事実関係を適示し
1126 て検討することができるかを見ている。特に,フランチャイズ契約に基づく行為であるこ
1127 とを踏まえて,公正競争阻害性の検討を展開しているかを重視した。設問2においては,
1128 差止請求を含む救済手続の検討内容に着目した。
1129 なお,事実関係の分析能力には,問題文の中から,問題の検討に真に必要な事実を抽出
1130 する能力も含まれており,単なる問題文中の事実関係の羅列を行うだけでは法的な理解が
1131 あるとは判断し難い上,解答用紙又は時間の配分との関係でも適当な解答とはなり難い。
1132
1133 3
1134 (1)
1135
1136 採点実感等
1137 出題の意図に即した答案の存否,多寡について
1138 第1問のうち,設問1は,単独運行が困難な場合における高速バスの共同運行に関し
1139 て,運賃協定の独占禁止法上の問題点を検討させるものであるが,このような共同運行
1140 の特性をきちんと論じている答案は多くはなく,やや平板な記述に終始しているものが
1141 多かった。また,設問2は,共同運行を行う複数のバス会社による他の新規参入者を妨
1142 害するための協定の独禁法上の問題点を論じさせるものであるが,多数の答案がこれを
1143 論じているものの,複数の適用法条が考えられる中でその要件,効果の差異にまで目を
1144 配った答案はほとんどなかった。
1145 第2問の設問1は,フランチャイズシステムにおける営業方針を素材として独占禁止
1146 法違反の有無を検討させるものであり,論点自体は大部分の受験生が把握していたが,
1147 フランチャイズシステムという本問の具体的事例に即して解答した答案は半分程度であ
1148 - 24 -
1149
1150 った。設問2は本問に即した訴訟の提起(エンフォースメント)について問うものであ
1151 ったが,具体的に事例に即した検討まで行った答案は多くなかった。
1152 (2)
1153
1154 出題時に予定していた解答水準と実際の解答水準の差異について
1155 第1問の設問1は,やや高度な問題であり,本問の特殊性にまで配慮した答案は多く
1156 はないだろうと考えていたところ,やはりそのような答案はそれほど多くはなかった。
1157 さらに,価格の拘束があるか否かのみによって違法性の判断を行うというような,初歩
1158 的理解を超えていない答案がある程度の数において見られたことは予想外であった。設
1159 問2は,解答しやすい問題であって,多数の受験生が一応の水準の解答ができるであろ
1160 うと考えていたが,半数以上は想定した水準に達していたと考えられるが,他方で問題
1161 文の語句に引きずられて適切な適用法条を選定できない者が一定程度見受けられた。
1162 第2問の設問1は多くの答案がおおむね想定していた水準に達していたが,他方でフ
1163 ランチャイズの特殊性を踏まえることなく,紋切り型の平板な記述に終始する答案も目
1164 立ち,かかる答案は出題者の期待に十分に応えていたとは言い難い。また,設問2は時
1165 間が足りなかった等の理由もあるようであるが,適切な水準に達した答案は少なかった。
1166
1167 (3)
1168
1169 出題の意図と実際の解答に差異がある場合として考えられること
1170 経済法の履修に当てられる時間が不足しているのか,一面的,形式的な理解にとどま
1171 っている者が少なくないように思われ,それらの者は,基本概念,基礎的事項を深く理
1172 解し,それを具体的に使いこなすことができていないように思われる。
1173
1174 4
1175
1176 今後の出題について
1177 今後も,独占禁止法の基本概念,基礎的知識の正確な理解と応用能力を求めることは変
1178 わらないと考えられる。経済法の特性として事例を詳細に設定する必要がある反面,受験
1179 生に過度の負担を与えぬような配慮も必要であり,そのバランスを適切に取りつつ問題を
1180 出題する必要があると考えられる。
1181
1182 5
1183
1184 今後の法科大学院に求めるもの
1185 今回の出題により,法科大学院は,細かな知識が新司法試験において求められるという
1186 ように誤解することなく,出題の意図したところを正確に理解してほしい。
1187 その上で,受験生が経済法の基本をきちんと自分のものとして理解し,使いこなせるよ
1188 うになるという当たり前のことを徹底することが求められよう。
1189
1190 - 25 -
1191
1192 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(知的財産法)
1193 1
1194
1195 出題の趣旨・ねらいとこれに即した答案の多寡
1196 第1問,第2問ともに,典型的な論点を含む事例問題であって,出題者としては,両問
1197 を通じて,受験者が基本的事項について正確に理解しているかどうか,事実関係を丁寧に
1198 分析し,場合分けすべき事項をきちんと場合分けした上で法律を当てはめ,論理一貫した
1199 論述をすることができるかどうかを見ようとしたものである。そのような観点から本年の
1200 知的財産法の答案を採点した感想は,総じて,出題の趣旨を全く理解していないような答
1201 案は少なく,高く評価できる答案も少なく,おおむね平年並みというのが率直なところで
1202 ある。
1203
1204 (1)
1205
1206 第1問について
1207 設問1は ,特許権者が特 許 権 の 存 続 期 間 全 部 に 対 応 す る 実 施 料 全 額 の 一括 支払 を受 け
1208 て専用実施権を設定した場合における特許権者及び専用実施権者の差止請求権(特許法
1209 第100条第1項)及び損害賠償請求権に関する理解を問うものである。出題者の意図
1210 に沿い,重要判例である最判平成17年6月17日民集59巻5号1074頁について
1211 の理解をそれなりに示している答案は多く見られたが,その射程等を正確に理解し,
1212 「特
1213 許権の存続期間全部に対応する実施料全額が前払されている」という本問における事実
1214 関係を分析し,事案の違いに即した論述のできている答案は必ずしも多くなかった。設
1215 問2の1は,通常実施権者が特許無効審判の請求人適格を有するかどうかについて問う
1216 ものであり,請求人適格に限定がないこと(特許法第123条第2項本文)を前提とし
1217 た上で,通常実施権者が,信義則や禁反言の原則等から不争義務を負い,請求人適格を
1218 欠くといえるかなどを論ずることを期待したが,設問の趣旨を理解せず,丙発明の進歩
1219 性の有無等を延々と論じたり,あるいは特許法第123条第2項ただし書の「特許が前
1220 項第2号に該当すること(その特許が第38条の規定に違反してされたときに限る。)」
1221 との文言を誤読して丁についての利害関係の有無を論じている答案等が数多く見られ
1222 た。設問2の2は,特許を無効とする審決が確定した場合,特許権は初めから存在しな
1223 かったものとみなされること(特許法第125条)との関係で,小問(1)では,通常
1224 実施権者が,特許権者に対し,既払の実施料の返還を請求することができるかどうかに
1225 ついて,小問(2)では,特許権者が,通常実施権者に対し,当該審決の確定前の期間
1226 に対応する実施料の未払分の支払を請求することができるかどうかについて,それぞれ
1227 問うものであり,一般契約法理,不当利得法理等の民事法の基本に立ち返り,応用力を
1228 発揮して論理一貫した論述を行うことを期待したが,出題の意図に沿う答案は多くなか
1229 った。
1230
1231 (2)
1232
1233 第2問について
1234 設問1は,甲が執筆し,同人誌に掲載した計30編の小説の中から選んだ15編のも
1235 のを,一部変更を施した上で収録した乙書籍を作成し出版した乙に対する甲の請求を,
1236 また,設問2として,乙書籍に収録された甲の小説を収録した丙書籍を作成し出版した
1237 丙に対する甲の請求を問うものであり,甲の複製権,譲渡権,公表権,同一性保持権等
1238 の侵害の有無を検討することを期待した。しかし,公表権侵害の点については,論点に
1239 気付いていない答案や,事実関係を綿密に分析することなく,同人誌に掲載されたこと
1240 をもって直ちに公表されたものと決め付けて公表権侵害を簡単に否定している答案が極
1241 めて多かった。同一性保持権の侵害については,乙が甲の小説に施した変更が,意に反
1242 - 26 -
1243
1244 す る 改 変 と な る こ と を 示 し た 上 で ,「 や む を 得 な い と 認 め ら れ る 改 変 」( 著 作 権 法 第 2
1245 0条第2項第4号)に当たるかどうかを論述することを期待したが,おおむね出題の意
1246 図に沿う答案が多かった。しかし,乙による変更に関して,改変された甲の小説を複製
1247 し譲渡する丙の行為が,甲の同一性保持権を侵害するかどうかについては,十分に論じ
1248 られている答案が少なかった。設問3では,A市立図書館による貸与権侵害の成否につ
1249 き,目に触れる機会の少ない条文であると思われるものの,著作権法第38条第4項を
1250 摘示してその適用の有無を適切に論じている答案もあった。設問4は,編集著作物の概
1251 念を正確に理解し,乙書籍の編集著作物性を適切に論ずることを期待したものであるが,
1252 多くの受験生が,問題の所在や論述すべき事項に気付き,おおむね適切に論じていた。
1253 ただし,設問3及び設問4にも,設問1及び2と同様,同一性保持権等に関する論点が
1254 含まれていることに気付いている答案は少なかった。
1255 2
1256 (1)
1257
1258 採点実感等
1259 出題時に予定していた解答水準と実際の解答水準との差異
1260 両問とも基本的事項を問う問題であるが,解答水準は予定していたものに達している
1261 とは言い難い。
1262 まず,第1問においては,前記1で述べたとおり,出題の意図に即してきちんと書け
1263 ている答案は少なく,設問1で,乙に対する専用実施権の設定登録がなされていないも
1264 のと決め付けて論述している答案,延々と均等論を論じている答案,設問2の1で,特
1265 許無効審判の請求人適格についてではなく,丙発明の進歩性の有無等実体上の問題点ば
1266 かりを延々と論じている答案等出題の意図から大きく外れている答案が数多く見られ
1267 た。
1268 第2問においても,全体的に,論点に気付いていなかったり,気付いていても,事実
1269 関係の分析やこれに即した論述ができていない答案,論理一貫した論述ができていない
1270 答案等が多く見られ,中には,消尽論の適用範囲を理解していない答案も少なからず見
1271 受けられた。
1272
1273 (2)
1274
1275 出題の意図と実際の解答に差異がある場合の原因として考えられること
1276 前記(1)記載の差異は,基本的事項についての理解が十分でないことに起因するの
1277 ではないかと思われる。
1278 事例問題であるから,事案に沿った論述をすべきは当然であるところ,ある論点に力
1279 を入れて勉強しすぎたせいで何を見てもその論点に見えてしまうのか,これが典型論点
1280 ということで出題されると予想していたために,どの問題を見てもそのように感じてし
1281 まうのか,例えば,前記のとおり,第1問の設問1で均等論を延々と論じたり,設問2
1282 の1で通常実施権者丁について利害関係の有無を検討したり,第2問で著作権の消尽に
1283 ついて大幅に紙面を割いたりなど,事案から明らかに離れている論点を非常に重視して
1284 論述している答案が目立った。事案をよく見れば,そのような論点は関係ないと容易に
1285 分かるはずであるのに,いわば,強引に自分の知っている論点,書きたい論点に引き寄
1286 せて論述しているものであり,これらは,論点主義の弊害である可能性もあるが,結局
1287 は,基本的事項についての理解が不十分であることによるものと考えられる。さらに,
1288 このような事案から離れた論点についての記述を展開している受験生ほど,小問ごとに
1289 自己矛盾を起こしている傾向があるように思われる。おそらく,そのような受験生は,
1290 事案に関係する各論点についての体系的理解ができていないために,書くべき論点を見
1291 - 27 -
1292
1293 付けたつもりになって,場面場面で不整合を起こしながら論述を進めたのであろうと推
1294 察される。
1295 また,事実関係を丁寧に分析検討し,問題文からは存否どちらとも受け取れる重要な
1296 事実については必要かつ適切な場合分けをした上,法律をきちんと当てはめて正確に論
1297 述していくという能力がまだ十分身に付いていない者が多いと思われる。一般民事法等
1298 にも思いを致す幅広い思考力,問題点を自分なりに掘り下げて論じる能力も足りないの
1299 ではないかと考えられる。
1300 答案作成の要領や手順にも問題があると考えられる。答案の作成は,「問題 文をよく
1301 読み時系列で整理する。」,「すぐに書き出すことなく,答案の構成を考える(結論,理
1302 由付け,論述に費やす分量・全体のバランスを考える。)。」,「法的根拠(条文及びその
1303 解釈)を示し,問題文から読み取れる事実関係を分析し,当てはめ・評価しながら論述
1304 する。」,「その際,自己の見解を明確にする。」,「設問に対する結論を明確に示す。」と
1305 いう要領・手順で行われるものと期待していた。しかし,実際の答案には,いったん記
1306 述した箇所を大きく×印で削除したり,後から長々と挿入文を加えたり,既に記載した
1307 記述箇所を大きく移動する趣旨の矢印を記載するなどしているものが少なくなかった。
1308 答案構成を事前に十分検討することなく,いきなり書き出し,後から考えが変わり慌て
1309 て修正するなどした結果ではないかと考えられる。中には,その修正の分量が多いため,
1310 何を記述しているのか判読が困難な答案もみられた。このような答案作成の要領や手順
1311 の問題は,他人が読んで理解することのできる文章の作成それ自体にかかわるものであ
1312 るのみならず,事案を丁寧に分析し,問題点を把握し,論理一貫した論述を行うという
1313 本質的作業の在り方にもかかわるものと思われる。すなわち,この本質的作業が行われ
1314 ていないことを反映するものではないかと考えられる。また,時間配分を誤ったのか,
1315 最後まで論述できていない答案も数多く見られたが,限られた時間内で,事案に即して
1316 バランスよく論述できるセンスの良さを身に付けることも大切であると思われる。
1317 (3)
1318
1319 採点方針
1320 事実関係を丁寧に分析し,場合分けすべき事項をきちんと場合分けした上で法律を当
1321 てはめ,論理一貫した論述をしている答案に高い評価を与えた。他方で,事案を離れ,
1322 強引に自分の知っている論点,書きたい論点に引き寄せて論述している部分,単に問題
1323 文に記載されている事実関係を答案にそのまま書き写したにすぎない部分など,解答に
1324 無関係・無益な記載については,全く加点対象にしなかった。
1325
1326 3
1327
1328 今回の結果を受けて法科大学院に求めるもの
1329 昨年も指摘したことであるが,学生に対し,まずは基本的事項をしっかりと理解させ,
1330 身に付けさせるよう努めていただきたい。そして,具体的な事案において,これを丁寧に
1331 分析し当てはめるという訓練をしっかり積ませるようにする必要がある。その際,今回の
1332 答案の中に余りに読みにくいものがあったことを踏まえれば,文章表現力を身に付けさせ
1333 るような教育方法を工夫することも必要と思われる。
1334 知的財産法に特有な論点や知識の習得ばかりではなく,知的財産法の理解の当然の前提
1335 となる一般民事法等の基本知識の確認等にも配慮した教育及び学習が必要であろう。実務
1336 法曹としての法的応用能力の涵養という意味でも,法科大学院では,幅広い観点から物事
1337 を分析・検討する姿勢を身に付けさせるような指導をしていただきたい。
1338
1339 - 28 -
1340
1341 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(労働法)
1342 1
1343
1344 出題の趣旨,ねらい等
1345 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
1346 第1問,第2問とも,法令及び判例に関する正確な知識・理解を前提に,具体的事例
1347 から紛争解決に必要な論点を抽出し,法律要件の存否の判断に必要な具体的事実を取捨
1348 選択した上で,これを主張として構成し(第2問),あるいは,ルールに当てはめて適切
1349 な結論を導く(第1問)という,法律実務家として求められる基礎的な能力を試そうと
1350 するものである。いずれも,近時,頻繁に生じている紛争類型を事例化した出題であり,
1351 実務において,どのような事案が問題とされているのかに目を配っている受験生には,
1352 解答しやすいものであったと思われる。
1353
1354 2
1355
1356 採点方針
1357 出題の趣旨を把握した上,各論点について十分な論述ができているかどうか及び結論
1358 に至る道筋を論理的に示すことができているかどうかを基準として採点した。おおむね
1359 基礎的な論点の抽出が的確に行われ,これに関する論述が水準に達していると認められ
1360 る答案には,標準以上の得点を与え,それを上回る説得力のある答案構成,応用的な論
1361 点への言及等が見られる答案には,更に高得点を与えることを目安とした。
1362 なお,第1問の事例は,労働契約法施行日(平成20年3月1日)以前のものである
1363 ため同法は適用されないこととなるが,採点に当たっては,同法を適用して処理したも
1364 のについても,減点の対象とはしなかった。
1365
1366 3
1367 (1)
1368
1369 採点実感等
1370 第1問について
1371 一応の期待される水準に達していた答案が3分の1程度あった反面,解答の道筋や
1372 論じるべき論点の把握が不十分なものも相当数見受けられた。
1373 .
1374 本問は,小問1の結論(給与規程改訂前において請求できる割増賃金)と小問2の
1375 .
1376 結論(給与規程改訂後において請求できる割増賃金)とを比較することにより,小問
1377 3の解答に必要な改訂による不利益の有無・程度を把握するという構造になっている
1378 が,各小問における解答に誤りがあるものに加えて,そのような構造が的確に見通せ
1379 なかった答案が相当数あり,答案の構成や論点ごとのバランスの取り方に不満が残る
1380 一因となっていた。
1381 小問1では,「 エキスパート職 」に 超過 勤務手当を支給しない旨の給与規程の有効性
1382 に関し,Xの労働基準法(以下「労 基法 」と いう。)第41条第2号該当性(管理監督
1383 者性)について論じ,消極の結論を導いた上で,超過勤務手当の不支給を定めた給与
1384 規程が労基法第37条に反し無効であることを指摘することが必須であるが,この論
1385 点を看過していたものが半数に近か った 。ま た, この 給与規程の有効性と,「割増賃金
1386 を基本給に含めて支払う旨の合意の有効性」とをしゅん別できずに,論旨が不明確と
1387 なっている答案も散見された。一方,三六協定がない場合の時間外労働に対する割増
1388 賃金請求権の有無について詳細に論じた答案が相当数あったが,判例によれば,この
1389 点は結論に影響を与えないのであるから,必要以上に拘泥するのは適切ではない。ま
1390 た,労働契約の合理的解釈ばかりに力を注ぎ,強行法規である労基法第37条の意義
1391 - 29 -
1392
1393 を没却しているような答案も少なくなかった。
1394 小問2では,定額により支払われる超過勤務手当は労働時間数に照らして明らかに
1395 不足であり,差額分を労基法第37条に基づき請求できる旨を述べる必要があるが,
1396 請求不可とする答案や,反対に割増賃金を定額で支給する合意がそれ自体許されない
1397 とする答案が散見された。
1398 小問3では,就業規則の不利益変更の「合理性」の有無が中心論点となるところ,
1399 この点を論じるためには,Xが被る不利益の程度を正しく指摘し,変更の必要性と照
1400 らし合わせながら,事例に表れた事実関係を的確に判断することが求められる。特に,
1401 本問においては,時間外割増賃金の計算の基礎となる金額が引き下げられただけでは
1402 なく,実質が変わらないのに,超過勤務手当として月8万円が支払済みとされてしま
1403 うことになり,不利益は大きいと評価せざるを得ないが,その把握が不十分である答
1404 案が目立った。また,ほとんど過半数代表者が変更に同意したという事実だけから結
1405 論を導くような答案も見られ,「合理 性」 を判断するための根拠事実を的確に指摘し,
1406 説得的に論述することができた答案は,少数にとどまった。
1407 全体を通して,労基法に関するごく基本的な知識・理解が不十分である答案が多数
1408 あったことは,意外であった。管理監督者は労基法上の労働者に含まれない,あるい
1409 は,過半数代表者が就業規則変更に同意した書面が三六協定に当たるといった答案が
1410 少なからずあり,また,時間外及び深夜の割増率や,割増賃金の算定基礎から除外さ
1411 れる手当についても,初歩的な誤解をしているものが目に付いた。
1412 (2)
1413
1414 第2問について
1415 全体に,論述すべき論点の把握はできている答案が多かったものの,一般的・抽象
1416 的な論述にとどまり,説得的な論理展開や理由付けが不十分であったものが多く,期
1417 待される水準に達していた答案は比較的少数にとどまった。
1418 小問1では,どのような救済手続があり得るかについては多くの答案が指摘できて
1419 いたものの,具体的な救済方法や内容についてきちんと論述している者は少なかった。
1420 例えば,不当労働行為救済申立てを行う場合,個人の資格でできるのか,できるとす
1421 ればどのような根拠となるのか,使用者のどのような行為が不当労働行為を構成する
1422 のか,また,裁判手続を申し立てる場合,どのような使用者の行為を対象としてどの
1423 ような類型の訴訟を申し立てるのかなどについて,ほとんど言及されていなかった。
1424 さらに,なぜ懲戒処分が違法となるのかについて,懲戒処分の根拠となり得る個々
1425 の行為ごとに,具体的な論拠を示して行為の正当性をきちんと論述できている答案は
1426 多くなかった。懲戒処分の違法性について懲戒権の濫用を根拠とするのか,不当労働
1427 行為を根拠とするのかについてもきちんと区分せずに論じている答案が多かった。そ
1428 して,解答の中心となるべき不当労働行為の該当性について,労働組合法第7条第1
1429 号及び第3号に該当し得るとの結論を示すことはできているものの,その論拠につい
1430 ては十分に論述できていないものが少なくなかった。特に,少数派組合員の活動につ
1431 いては,組合の指示や承認がなくとも「労働組合の行為」に当たるかという点につい
1432 てまず論じ,積極の結論を導いた上で,更に「正当な」行為といえるか否かという二
1433 段階に分けて論ずる必要があるが,この両者をしゅん別せずに論じ,かつ,後者の点
1434 について論述が不十分である答案が散見された。さらに,同条第1号該当性を論ずる
1435 に当たり使用者側のどのような行為が不利益な取扱いに当たるのか,同条第3号該当
1436 性を論ずるに当たり使用者のどのような行為が支配介入に当たるのかを具体的に示し
1437 - 30 -
1438
1439 ていない答案も散見された。
1440 小問2では,懲戒処分をする場合の原則や留意点(就業規則に定められた懲戒事由
1441 への該当性,就業規則で定められた範囲で懲戒の種類を選択するべきこと,比例原則,
1442 過去の事例との比較,他の事例との比較,就業規則上の手続や一般的な適正手続)を
1443 理解していることが前提となるが,抽象的にはこれらの原則や留意点について論述さ
1444 れているものの,具体的論述にあってはこれらが本当に理解されているのか疑問と思
1445 われる答案が目立った。例えば,本件では,就業規則上,減給,出勤停止又は懲戒解
1446 雇の3種類の懲戒処分しか設けられていないにもかかわらず,労働者に有利であるか
1447 らという理由でけん責,戒告等就業規則にない懲戒処分を科することが適当であると
1448 するような答案も多く,また,懲戒処分を行うに当たっての手続を検討するについて,
1449 就業規則上は懲戒解雇の場合のみ賞罰委員会を開催し本人の弁明を聴くとなっている
1450 にもかかわらず,就業規則にのっとり賞罰委員会を開催しなければならないという答
1451 案も少なくなかった。一般論としての適正手続,例えば,弁明の在り方についても,
1452 具体的な論述はほとんどみられなかった。
1453 なお,懲戒処分の正当性に関する部分は小問1の違法性部分の裏返しであり,小問
1454 1とほぼ同様の状況であった。
1455 4
1456
1457 今後の出題について
1458 出題方針等について変更すべき点は,特にない。
1459 法令,判例,学説等に関する正確な基礎的知識があることを前提に,具体的事例に即し
1460 つつ,主張を組み立て,あるいは,ルールを適用する能力・素養を試す出題を継続するこ
1461 ととしたい。
1462
1463 5
1464
1465 今後の法科大学院教育に求めるもの
1466 具体的な事例の中から必要な事実を取捨選択して論点を抽出し,解答者なりの筋道を立
1467 てて結論に至るという,法律家としての基本的な能力の伸長が望まれる。基礎的な知識の
1468 習得はもちろん不可欠であるが,その適用に当たり,具体的な事実関係の下での主張及び
1469 証拠に即した思考方法を習慣付けるように指導をお願いしたい。また,どのような問題点
1470 についていかなる紛争解決方法が採り得るのかといった手続的知識や,最終的にどのよう
1471 な解決が見込めるのかという実務的感覚についても習得させる機会があることが望まし
1472 い。
1473
1474 - 31 -
1475
1476 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(環境法)
1477 【第1問】
1478 1
1479
1480 出題の趣旨及び採点実感
1481
1482 (1)
1483
1484 第 1 問 で は ,「 廃 棄 物 の 処 理 及 び 清 掃 に 関 す る 法 律 」( 廃 棄 物 処 理 法 ) の 下 で の 廃 棄
1485
1486 物該当性の判断基準の理解が正確にされているかどうかを問うとともに,具体的事例に
1487 対してその基準が適切に適用できるかどうかを問うた。
1488 廃棄物 性の 判断 基準 は,「不要物」という文言の解釈にかかわるが,この点について
1489 は,いわゆる「おから決定」といわれる最高裁決定がある。この決定は,判断要素とし
1490 て,問題となっているものの,@性状,A排出の状況,B通常の取扱形態,C取引価値
1491 の有無,D占有者の意思等を挙げた上で,これらを総合的に勘案すべきという「総合判
1492 断説」に立つものである。答案の多くは,総合判断説に言及し,判断要素もおおむね記
1493 されていた。しかし,これが最高裁の判断となっていることを知らないと思われる答案
1494 も散見された。
1495 (2)
1496
1497 設問は,公訴事実を前提として,これに対する弁護側の主張と検察官の反論を対比さ
1498 せる形での解答を期待した。この点については,多くの答案が,そうした構成をとって
1499 いた。
1500 弁護側は,まず廃棄物ではないことを主張することになる。肥料・飼料の原料として
1501 用いられているという点は,多くの答案が触れていたが,本件において,Aがおからを
1502 原料,すなわち,有価物として占有する意思がある点を論じていた答案はそれほど多く
1503 なかった。一方,この点に関する検察側の主張として,いわゆる「手元マイナス」の逆
1504 有償となっていることを指摘できた答案は多かった。これは,Dらの下では廃棄物とな
1505 っていることを意味する。
1506 弁護側 の主 張と して,「廃棄 物」の定義が不明確であることから構成要件の明確性に
1507 欠けること,たとえ廃棄物であるとしてもリサイクルされている以上は可罰的違法性に
1508 欠けること,といった刑事法的論点への論及も期待されたが,この点に踏み込んだ答案
1509 は少なかった。
1510 リサイクルとの関係に留意することが求められていたが,弁護側の主張において,リ
1511 サイクルを阻害するような解釈はすべきでないことを,循環型社会形成推進基本法の関
1512 係規定などを引用しつつ解答する答案は多くあった。
1513 廃棄物であるとしても,いわゆる専ら物であるとか再生利用認定制度の対象になると
1514 いう点を論点に挙げた答案も多くあった。おからは専ら物ではなく再生利用認定制度の
1515 対象にもならないが,検察側の反論として,その知識を踏まえた解答をした者はほとん
1516 どいなかった。
1517
1518 (3)
1519
1520 基本的論点に関する出題であったせいか,全体としてみれば,ほぼ予想していた解答
1521 水準であった。循環型社会形成推進基本法の枠組みのなかで廃棄物処理法を位置付ける
1522 という点についても,おおむね対応がされていた。
1523
1524 2
1525
1526 採点方針
1527 最高裁決 定で も採 用さ れて いる 総合判断説の諸要素の正確な記述,「手元マイナス」で
1528 あるがゆえに廃棄物と認定されることについて的確な記述ができているかどうかで評価が
1529 分かれた。専ら物制度や再生利用認定制度について論及しているかどうかでも,評価が分
1530 - 32 -
1531
1532 かれた。廃棄物性の判断は,一般的状況を参考にしつつも,基本的には個別事案ごとにさ
1533 れ るべ きも ので あるから,「肥料及び飼料の製造」について商取引としての実績があるか
1534 どうかによって廃棄物性の評価も異なるという点にまで論及できた答案は評価した。関係
1535 する廃棄物処理法の規定は多くあるが,それを単に平板に並べるだけの答案は,低く評価
1536 された。
1537 3
1538
1539 法科大学院教育に求めるものと今後の課題
1540 主要裁判例を学習するに当たっては,その結論のみを記憶するのではなく,原告被告双
1541 方のいかなる主張を踏まえて裁判所がそうした結論に至ったのかまでを深く理解する必要
1542 がある。基準となる事項についても,それのみを記憶するのではなく,具体的事例に的確
1543 に適用できるような能力の養成も求められる。また,本問が前提とした最高裁決定のよう
1544 に,その理由付けが簡単なものについては,原審にまでさかのぼって学習させることが必
1545 要になる。
1546
1547 【第2問】
1548 1
1549 (1)
1550
1551 出題の趣旨及び採点実感
1552 第2問設問1は,まず,石綿が大気汚染防止法の規制対象であることの理解を問うた。
1553 大半の答案は,石綿が同法の規制対象であることを指摘でき,A県知事が採り得る措置
1554 として,同法第18条の18の作業基準適合命令が考えられることを論ずることができ
1555 た。しかし,同法の条文を見れば本件に適用のないことが明らかな規定,例えば,同法
1556 第18条の11を指摘するものも散見された。
1557 EのDに対する訴訟上の請求としては,まず,公害防止協定に基づく債権的請求が考
1558 えられ,この点を指摘する答案は多かったが,結論のみを簡単に指摘するだけで,この
1559 ような公害防止協定にそもそも法的拘束力があるのかという基本的な問題について論じ
1560 た答案は少なかった。また,本件の公害防止協定は,BとDが交わしたのであることに
1561 気付き,それでも,Eが請求できるための法的構成(第三者のためにする契約等)まで
1562 指摘できた答案は極めて少なかった。設問1では,人格権に基づく差止請求を論ずるこ
1563 とも期待されており,この点について指摘し,受忍限度論といった違法性論を論じた答
1564 案は多かったが,どのような差止請求が許されるか,抽象的差止請求は許されるのかと
1565 いった点についてまで論じた答案は少なかった。
1566 また,本件では,法的措置を速やかに講ずる必要性があることを問題文から読み取る
1567 ことを期待しており,そのための手段として民事上の保全処分があることを指摘してほ
1568 しかったが,この点について触れた答案はほとんどなかった。
1569
1570 (2)
1571
1572 設問2は,Dに対しては,公害防止協定違反に基づく損害賠償請求,C及びDに対し
1573 ては,不法行為に基づく損害賠償請求の可否を問うものであり,いずれについても何が
1574 損害に当たるかについての突っ込んだ議論を期待した。単なる不安感だけでも損害賠償
1575 が認容されるのかについて,問題意識をもって論じた答案は少なかった。C及びDに対
1576 する不法行為に基づく損害賠償請求では,共同不法行為論を論ずる必要があったが,ど
1577 のような場合に共同不法行為の要件を満たすのかについて的確に論じた答案も少なかっ
1578 た。中には,CとDの行為には強い関連共同性が認められると論じたものもあったが,
1579 特別の事情がない限り,共同不法行為論を正しく理解しているとはいえないと感じられ
1580 た。
1581 - 33 -
1582
1583 (3)
1584
1585 以上のとおり,本件を検討する上で不可欠というべき基本的な問題点を丁寧に論じた
1586 答案は少なく,出題時に予定していた解答水準に達していないものが多かったといわざ
1587 るを得ない。
1588
1589 2
1590
1591 採点方針
1592 A県知事が採り得る大気汚染防止法上の規制措置等については,本件の事案に即して的
1593 確なものを指摘できたか否かによって評価が分かれた。事案を的確にとらえ,条文の意味
1594 を正しく理解している答案は評価した。
1595 差止請求や損害賠償請求については,実際に提訴する場合に当然検討しなければならな
1596 い問題点は何かを問題文から的確に読み取り,この点について,簡にして要を得た説得力
1597 のある記述をした答案を評価した。問題文に書かれた事実関係を書き並べるだけの答案は,
1598 当然,評価しなかった。
1599
1600 3
1601
1602 法科大学教育に求めるもの,今後の出題
1603 環境訴訟では必ず問題となり得る差止訴訟や不法行為訴訟についての理解をこれまで以
1604 上に深める必要がある。民事保全法の理解も重要である。昨年度も指摘したが,実務では,
1605 ある環境現象の解決のために様々な法制度が動員される。法科大学院には,具体的事例に
1606 即した問題点の検討が的確にできるよう御指導をお願いしたい。また,日ごろから基本と
1607 なる法律の条文に親しむように御指導いただきたい。
1608 今後の出題については,今回のような出題形式にこだわることなく,更に創意工夫を凝
1609 らし,新司法試験の理念に沿った適切な出題を探求していきたい。
1610
1611 - 34 -
1612
1613 平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(公法系))
1614 1
1615
1616 総評
1617 本年は比較的オーソドックスな出題であったために,受験生はきちんと問題を理解でき
1618 ていたが,他方,論点の発見や具体的な事例への適用(当てはめ)については不十分な答
1619 案が目立った。文章表現では,誤字脱字は比較的少なかった。
1620
1621 2
1622
1623 第1問
1624 外交関係という広く知られている分野を素材として,外交関係法,国家責任法,国際紛
1625 争処理法という国際法の基本を問う出題であったために,国際法について一定の理解と判
1626 断力を示し,問題の主題をきちんと理解し,上記事項についての基本的な知識を修得して
1627 いることを示す答案が多かった。採点においては,関係論点をきちんと発見できているか,
1628 ま た, 事例 への 「当てはめ」(適用)がきちんとできているかを重要な評価基準とした。
1629 他方,記憶した教科書の内容に引きずられているような答案(文章は適宜自分で構成し
1630 て 使う こと を望 みたい。)や,法規の「解釈」と事実に対する「適用」をきちんと区別で
1631 きていない答案が散見された。法学ではなく国際関係論の答案のようなものが一部にあっ
1632 たことを含めて,国際法を法学としてとらえる視点がやや弱い印象を持った。
1633
1634 3
1635
1636 第2問
1637 国家の裁判権免除という国際法の基本原則に関する出題であり,関連の有名な国内判例
1638 もあるため,多くの受験者が問題の主題に気付き,また,基本的な知識(裁判権免除の意
1639 義・根拠等)を修得していた。また,論理構成も,おおむね予測どおりであった。そのた
1640 め に, 採点 に際 しては,解答の「質」,とくに事例への当てはめが重要な基準になった。
1641 事例への当てはめ(飛行機の夜間離発着等への適用・二国間協定の意義等)については,
1642 著名な国内判決での検討を十分に理解していないものが多く,評価基準の特定も含めて具
1643 体的な事実に即した論述を行ったものは予想以上に少なかった。また,日本の判例の動向
1644 に触れる答案も少なかった。
1645 問 題 の 本 質 に 迫 り , 十 分 な 解 答 を 妨 げ る 効 果 し か 持 た な い ,「 画 一 的 な 」( 予 備 校 で の
1646 指 導な どが 原因 かとも思われる。)論理の運びや「余計な言い回し」をする答案が目立っ
1647 た。
1648
1649 - 35 -
1650
1651 平成20年度新司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(私法系))
1652 1
1653
1654 出題の趣旨,ねらい等
1655 国際関係 法( 私法 系) は, 狭義 の国際私法(準拠法決定ルール),国際民事訴訟法及び
1656
1657 国際取引法を出題範囲とする科目であることから,本年の出題においても,これらの法分
1658 野に関する理解を問うため,財産法と家族法の双方に関する準拠法決定ルールと,国際民
1659 事訴訟法,国際取引法の分野から問題を作成した。各問題の出題の趣旨の詳細は,既に法
1660 務省ホームページで公表済みであり,これを参照されたい。
1661 2
1662
1663 採点方針
1664 採点に当たっては,各問題の各設問につき,いかなる法律問題があるか,それについて
1665
1666 の論点を把握できているかどうか,把握した論点についての関係法規の理解がどの程度で
1667 きているか,当該論点についての関係法規の解釈を設問の事例に当てはめることがどの程
1668 度できているかについて,それぞれ評価を加えて,採点をすることとした。その際,一部
1669 の細目的な論点を見落としていても,他の論点について十分な理解を示す記述をしている
1670 答案については,論点を網羅的に拾い上げながらも平板な記述しかできていない答案より
1671 も高い評価を与えるようにした。
1672 なお,判例・学説が分かれている論点については,その結論がいずれであるかによって
1673 得点に差をつけることはせず,自説の論拠を展開する中で,当該論点についての理解がど
1674 の程度示されているかによって成績を判定した。もっとも,新司法試験が法律実務家とな
1675 るに足る能力を有するかどうかを判定する試験である以上,重要な判例については,これ
1676 に賛成しない場合であっても,これを踏まえた立論をすることが必要であり,このような
1677 判例を全く知らないと見られる答案については,当該分野についての基本的知識を欠くも
1678 のと評価した。
1679 また,採点及び成績評価等の実施方法・基準については,考査委員会議の申合せがされ
1680 ているので,得点の分布が当該申合せにできる限り合致するよう,各考査委員が相当数の
1681 答案を採点した後に再度打合せを行い,各評価項目についての当初定めた配点を見直した。
1682 その結果,特に第2問については,当初定めた採点基準によるよりも,得点がかなり高く
1683 なるようになったが,それでも,後記3のとおり,すべての設問について基本的知識自体
1684 を欠いている答案が相当数あったため,不良答案の比率が当該申合せに係る目安よりも多
1685 くなった。
1686 3
1687
1688 採点実感
1689 第1問については,不良な答案が予想よりも少なかった。これは,問題を,遺言能力,
1690
1691 遺言の方式,認知の有効性の3つの小問に分割して解答を求める形式としたため,論述す
1692 べき事項の基本的なものを落とした答案が少なかったことによるものと考えられる。もっ
1693 とも,答案の水準は,総体的に見て,あまり高いものとは言えなかった。すなわち,設問
1694 1については,遺言能力の準拠法を定める規定が,法の適用に関する通則法(以下「通則
1695 法」 とい う。)第4 条, 第5 条か ,第 37 条か とい う問 題提 起を し た答 案に おい ては ,十
1696 分な根拠を挙げずに第4条,第5条であるとするものが少なくなかった一方で,通説であ
1697 る第37条説に立つ答案の多くは,このような問題提起をせずに,当然のごとく第37条
1698 であるとし,その根拠をほとんど記述していなかった。また,設問2については,遺言の
1699 - 36 -
1700
1701 方式 の準 拠法 に関 する 法律 (以 下「 方式 法」 とい う。) 第2 条は ほ とん どの 答案 が挙 げて
1702 いたが,その各号の本件設例への丁寧な当てはめを行っている答案は少数であったし,遺
1703 言の際の証人の立会いや被後見人が遺言能力を回復している時に遺言がされたことの証明
1704 の方式が「遺言の方式」に含まれることを方式法第5条の規定を挙げて説明している答案
1705 や,証人を1名で足りるとしている甲国民法第T条第2項の規定の適用が方式法第8条の
1706 「明らかに公の秩序に反するとき」に該当するかどうかを検討している答案は,極めて少
1707 数であった。さらに,設問3については,認知の有効性を定める規定は通則法第29条で
1708 あるとした答案が圧倒的多数であったが,その理由の説明がないか,あっても薄弱な根拠
1709 しか記述していないものが大半であった(通則法第37条であるとした少数の答案も,そ
1710 の根 拠は 薄弱 であ った。) し,本 件設 例で Yが Aの 遺産 の分 割を X に対 して 求め てい るこ
1711 とは,Yが本件遺言を承諾していることを前提にした行動であることに気付いていない答
1712 案が大半であった。
1713 第2問については,比較的よくできている答案と全然できていない答案とに分かれ,法
1714 科大学院によって,当然教えるべき国際民事訴訟法や国際取引法の基礎知識を教えていな
1715 いところがあるのではないかとの危惧を抱いた。すなわち,設問1については,国際裁判
1716 管轄の合意に関する最判昭和50年11月28日民集29巻10号1554頁を知らず
1717 に,マレーシア航空事件の判例理論のみに依拠した解答をしていた答案が3分の1余りに
1718 も及び,その中には,そもそも専属的な国際裁判管轄の合意の問題であることすら把握し
1719 ていない答案もかなりあった。この昭和50年判決は,国際裁判管轄に関する数少ない最
1720 高裁判例の一つであり,かつ,国際裁判管轄の合意に関する唯一の最高裁判例であるにも
1721 かかわらず,これを全く知らない受験生もいるとみられることは遺憾である。また,設問
1722 2については,本件設例では日本の裁判所において日本法が準拠法とされることは多くの
1723 受験生が記述していたが,この設例の場合には船積港が本邦外にあるので商法ではなく国
1724 際海上物品運送法の規定が適用されることを述べた答案は少数であり,国際海上物品運送
1725 法という法律名が全く出て来ない答案が3分の1余りに及んだ。国際海上物品運送法は国
1726 際取引法に関する基本法令の一つであり,そのことさえ知っておれば,国際海上物品運送
1727 法の詳細な規定内容を理解していなくても,試験会場で司法試験用六法を繰ることによっ
1728 て解答に必要な条文を探し出し,それなりの答案を作成することが可能な問題であったの
1729 に,それすらできていない答案がこのように多数あったことは意外であり,遺憾である。
1730 なお,試験会場で国際海上物品運送法の条文を初めて見て解答を考えたのではないかとみ
1731 られる答案も多数あり,そのため,荷受人の損害賠償請求の前提となる同法第12条の検
1732 査の規定について触れることなく,また,同法第3条第1項を挙げながら,証明責任の転
1733 換を定める第4条第1項に触れていない答案や,同法第1条を読み間違って,同法は運送
1734 人の不法行為による損害賠償の責任にのみ適用され,契約責任については商法の規定によ
1735 るとした答案も相当数あった。国際運送法は国際取引法の重要な一分野であり,その中で,
1736 国際海上物品運送法は基本的かつ重要な法律であるから,法科大学院においては,同法の
1737 規定内容の詳細まで指導することはできなくとも,同法がどのような法律であるかという
1738 基本的部分だけでも教えられるべきであろう。
1739 4
1740
1741 今後の出題について
1742 今後も,基本的には本年と同様に,狭義の国際私法,国際民事訴訟法,国際取引法の各
1743
1744 分野の基本的事項を組み合わせた事例問題を出題することになると考えられる。もっとも,
1745 - 37 -
1746
1747 昨年の出題のように,これらの法分野の一部からは出題をしないということもあり得る。
1748 なお,司法試験は法律実務家となるための基本的な能力を判定するための試験であり,
1749 選択科目はその分野の専門家としての能力の検定ではないので,国際関係法(私法系)の
1750 問題はこの分野の基礎的知識と法律問題の把握能力を調べるための,平易な問題とするこ
1751 とに努めた。この方針は維持されることが望ましい。
1752 5
1753
1754 今後の法科大学院教育に求めるもの
1755 狭義の国際私法については,受験生の答案を見る限り,基本的知識の教育は相当程度行
1756
1757 われているものとみられるが,準拠法決定ルールの在り方に関する理解の深さや,法律実
1758 務家に不可欠な具体的事案への当てはめに不十分な点が見られる。授業時間の制約がある
1759 ことは承知しているが,更に工夫を凝らして,より深く,かつ,実務的な観点も加味した
1760 教育を進めることが望まれる。
1761 国際民事訴訟法と国際取引法については,法科大学院によって授業水準に大きなバラツ
1762 キがあるのではないかが危惧される。これらの法分野についても,基本的知識を幅広く学
1763 ばせるとともに,制度の趣旨にさかのぼった,しっかりした理解を学生に得させるような
1764 教育がすべての法科大学院において行われることを求める。
1765
1766 - 38 -
1767
1768