1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔設問1と設問2の配点の割合は,
7 4:6〕)
8 次の文章を読んで,
9 以下の1と2の設問に答えよ(なお,
10 本問における賃貸借契約については借
11 地法(大正10年法律第49号)の規定が適用されることを前提とする。
12
13 )。
14
15
16
17
18 Xは,
19 父Aの唯一の子であったが,
20 Aが平成19年2月に他界したため,
21 Aの所有する土地(以
22 下「本件土地」という。
23
24 )を単独で相続した。
25
26 本件土地上にはAの知り合いであるYの所有する建
27 物(以下「本件建物」という。
28
29 )が存在しているが,
30 Yは,
31 現在,
32 家族とともに他県に居住してお
33 り,
34 2か月に一度程度,
35 維持管理のため,
36 本件建物を訪れている。
37
38 Xは,
39 以前,
40 Aから,
41 Yが不
42 法に本件土地を占拠していると聞いたことがあったため,
43 Aの他界後,
44 Yに対し,
45 本件建物を取
46 り壊し,
47 本件土地を明け渡すように求めた。
48
49 すると,
50 Yは,
51 Aの相続人が明らかになったことか
52 ら地代を支払いたいとして,
53 30万円をX方に持参したが,
54 Xは,
55 本件土地をYに貸した覚えは
56 ないとして,
57 Yの持参した金銭の受領を拒絶した。
58
59
60 Yが本件土地の明渡しに応じなかったことから,
61 Xは,
62 同年12月25日,
63 Yを被告として,
64
65 T地方裁判所に建物収去土地明渡しを求める訴え(以下「第1訴訟」という。
66
67 )を提起した。
68
69 平成
70 20年1月29日に開かれた第1回口頭弁論の期日において,
71 Xは訴状を陳述し,
72 Xが本件土地
73 を現在所有していること,
74 Yが本件土地上に本件建物を所有して本件土地を占有していることを
75 主張し,
76 本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めた。
77
78 これに対し,
79 Yは,
80 同期日において,
81
82 答弁書を陳述し,
83 Xの主張する事実はいずれも認めるが,
84 Yは,
85 昭和53年3月8日,
86 Aとの間
87 において,
88 本件土地につき,
89 賃料を年額30万円,
90 存続期間を30年とし,
91 建物の所有を目的と
92 する賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。
93
94 )を締結しており,
95 本件賃貸借契約の効力はな
96 お継続しているから,
97 Xの請求には理由がないと反論した。
98
99
100 第1回口頭弁論の期日において,
101 裁判所は,
102 当事者の意見を聴いて,
103 事件を弁論準備手続に付
104 した。
105
106 平成20年2月26日に開かれた第1回弁論準備手続の期日において,
107 Xは,
108 YからAに
109 対し賃料の支払がされた形跡はなく,
110 AがYとの間に本件賃貸借契約を締結したことはないと反
111 論した。
112
113 これに対し,
114 Yは,
115 本件賃貸借契約の成立や賃料の支払に関する書証を提出し,
116 その取
117 調べが行われた。
118
119
120 第1回弁論準備手続の期日の結果を踏まえ,
121 Xは,
122 本件賃貸借契約の成立を前提とする訴訟活
123 動を行うことも必要であると考えるに至り,
124 同年3月28日に開かれた第2回弁論準備手続の期
125 日において,
126 Yが主張する本件賃貸借契約の内容に基づき,
127 仮に本件賃貸借契約の成立の事実が
128 認められる場合であっても,
129 その契約は訴え提起後に30年の存続期間(昭和53年3月8日か
130 ら平成20年3月7日まで)が満了したので終了したと主張した。
131
132 また,
133 Xは,
134 同期日において,
135
136 平成20年3月1日にYから本件賃貸借契約の更新を請求されたが,
137 その翌日,
138 その更新を拒絶
139 したと主張した。
140
141
142 同年4月25日に開かれた第3回弁論準備手続の期日において,
143 Xは,
144 本件賃貸借契約の更新
145 を拒絶する正当事由として,
146 Yは他県に自宅を構えて家族とともに居住しており,
147 今後,
148 本件土
149 地を使用する必要性に乏しいこと,
150 他方,
151 Xは,
152 現在,
153 築45年の木造賃貸アパートに居住して
154 いるが,
155 老朽化に伴う危険性から建て替え工事が必要であり,
156 家主からも強く立ち退きを求めら
157 れていることから,
158 本件土地を使用する必要性が高いことなどを主張したが,
159 Yは,
160 正当事由の
161 存在を争った。
162
163
164 その後,
165 同年5月28日に開かれた第4回弁論準備手続の期日において,
166 Xは,
167 以下の事実を
168 主張した。
169
170
171 「第3回弁論準備手続の期日の2日後である平成20年4月27日,
172 Yから突然電話があり,
173
174 本件訴訟の件で話合いをしたいと言われたので,
175 Xの自宅近くの喫茶店でYと会った。
176
177 Yは,
178
179 - 2 -
180
181 えを提起されている以上,
182 Xの主張に対しては必要な反論をせざるを得ないが,
183 Aの長男である
184 Xと長期間にわたり訴訟で争うことは必ずしも自らの本意ではないと述べて,
185 本件建物をその時
186 価である500万円で買い取ってほしいと依頼してきた。
187
188 自分としては,
189 弁護士から,
190 建物買取
191 請求権という制度があるとの説明を受けたことがあり,
192 知り合いの不動産鑑定士から,
193 本件建物
194 の時価は500万円程度ではないかと聞いていたことから,
195 本来は,
196 Yの費用で本件建物を収去
197 してほしいところではあるが,
198 Yが本件建物から早期に退去してくれるのであれば,
199 500万円
200 で本件建物を買い取ることもやむを得ないと考えた。
201
202 そこで,
203 Yに対し,
204 本件賃貸借契約が存続
205 期間の満了により終了したことを認めた上で,
206 本件建物を500万円で買い取ることを請求する
207 のですかと確認したところ,
208 Yは,
209 そのとおりであると回答した。
210
211 このようにして,
212 Yは,
213 本件
214 建物の買取請求権の行使の意思表示を行った。
215
216
217 以下は,
218 第4回弁論準備手続の期日が終了した直後に,
219 裁判長と傍聴を許された司法修習生と
220 の間で交わされた会話である。
221
222
223 裁判長:本期日におけるXの主張についてはどのように理解すればよいでしょうか。
224
225
226 修習生:Xの主張は,
227 Yが,
228 Xに対し,
229 平成20年4月27日,
230 本件建物の買取請求権を行使
231 する旨意思表示をしたという主張であると理解できます。
232
233
234 裁判長:そうですね。
235
236 この主張は,
237 本件訴訟の主張立証責任との関係ではどのような意味を有
238 するのでしょうか。
239
240
241 修習生:本件訴訟において,
242 Xは,
243 所有権に基づく建物収去土地明渡しを請求しています。
244
245
246 れに対し,
247 Yは,
248 本件土地の占有権原に関する主張として,
249 建物の所有を目的とする本
250 件賃貸借契約をYとの間で締結し,
251 それに基づき本件土地の引渡しを受けたと主張して
252 いますが,
253 Xは,
254 更に本件賃貸借契約が存続期間の満了により終了し,
255 その更新拒絶に
256 ついて正当事由があると主張しています。
257
258 Yによる建物買取請求権の行使は,
259 本件賃貸
260 借契約の存続期間が満了し,
261 契約の更新がないことを前提として,
262 借地権者であるYが,
263
264 借地権設定者であるXに対し,
265 本件建物を時価である500万円で買い取ることを請求
266 するものです。
267
268
269 裁判長:建物買取請求権の行使は,
270 本件訴訟のように建物収去土地明渡請求がされている場合
271 には,
272 いずれの当事者が主張すべきものですか。
273
274
275 修習生:建物買取請求権の行使の事実を主張するのは,
276 本来,
277 借地権者であるYのはずです・
278 ・・。
279
280 しかし,
281 本件訴訟ではXが主張しています。
282
283
284 裁判長:Xとしては,
285 本件賃貸借契約が認められるのであれば,
286 とにかくYに建物から早期に
287 退去してもらい,
288 土地を明け渡してほしいと望むことも考えられますが,
289 Yによる建物
290 買取請求権の行使の事実が認められると,
291 本件建物の所有権は建物買取請求権の行使と
292 同時にXに移転することになりますから,
293 少なくとも,
294 XはYに対し建物収去を求める
295 ことはできなくなりますね。
296
297 ところで,
298 仮に,
299 裁判所が,
300 Yに対し,
301 本件建物の買取請
302 求権の行使について釈明を求めた場合,
303 Yとしては,
304 どのような対応をすることが考え
305 られるでしょうか。
306
307
308 修習生:Yの対応としては,
309 @Yが本件建物の買取請求権を行使したというXの主張する事実
310 を争う場合,
311 AXの主張する事実を自ら援用する場合,
312 B裁判所が釈明を求めたにもか
313 かわらず,
314 Xの主張する事実を争うことを明らかにしない場合,
315 の3通りが考えられる
316 のではないでしょうか。
317
318
319 裁判長:そうですね。
320
321 本件賃貸借契約の終了が認められる場合において,
322 Yが本件建物の買取
323 請求権を行使したというXの主張する事実を,
324 証拠調べをすることなく,
325 判決の基礎と
326 することはできますか。
327
328 あなたが考えた3通りの各場合について検討してください。
329
330
331 修習生:はい。
332
333 わかりました。
334
335
336 - 3 -
337
338 〔設問1〕
339 前記会話を踏まえた上で,
340 本件賃貸借契約の終了が認められる場合において,
341
342 「YはXに対して
343 本件建物を時価である500万円で買い取るべきことを請求した」というXの主張する事実を,
344
345 (i)Yが否認したとき,
346 (ii)Yが援用したとき,
347 (iii)Yが争うことを明らかにしなかったときに
348 ついて,
349 それぞれ,
350 証拠調べをすることなく,
351 判決の基礎とすることができるかどうかについて
352 論じなさい。
353
354
355
356
357 第1訴訟のその後の審理において,
358 Yは,
359 Xの主張する建物買取請求権の行使の事実を援用す
360 るとともに,
361 本件建物の時価相当額である500万円の支払があるまでは本件建物の引渡しを拒
362 むと申し立てたことから,
363 裁判所は,
364 結局,
365 Yに対し,
366 本件建物の代金500万円の支払を受け
367 るのと引換えに本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命ずる旨の判決を言い渡し,
368 その判
369 決は平成20年11月21日の経過により確定した。
370
371
372 Xは,
373 平成21年1月ころ,
374 親戚の集う新年会の席上,
375 親戚Bから,
376
377 「数年前にAと会った際,
378
379 本件土地をめぐってYとトラブルになっており,
380 その件で,
381 今は亡き兄Cと相談していると言っ
382 ていた。
383
384 」と聞いた。
385
386 そこで,
387 Xは,
388 すぐにAの亡兄Cの家族を訪ねて事情を聞いたところ,
389 確か
390 に,
391 数年前にAが書類を封筒に入れて持参し,
392 Cと2人で相談していたことがあったとのことで
393 あり,
394 AがC方に持参した書類は,
395 封筒に入れたまま保管しているとのことであった。
396
397 そこで,
398
399 Xは,
400 Cの家族からその封筒を受け取って自宅に戻り,
401 封筒内の書類を整理したところ,
402 Aから
403 Yにあてた平成18年4月3日付け内容証明郵便が見付かった。
404
405 同内容証明郵便には,
406 Aが,
407
408 に賃料支払の催告を行い,
409 2週間以内に未払賃料の支払がないときは本件賃貸借契約を解除する
410 との意思表示を行った旨の記載があり,
411 Yが同内容証明郵便を同月6日に受領したことを示す郵
412 便物配達証明書も同封されていた。
413
414
415 そこで,
416 Xは,
417 Yを被告として,
418 平成21年4月13日,
419 別紙の訴状をT地方裁判所に提出し
420 て,
421 新たな訴え(以下「第2訴訟」という。
422
423 )を提起した。
424
425 これに対し,
426 Yは,
427 弁護士に委任して
428 答弁書を裁判所に提出し,
429 Xの提起した訴えは,
430 訴えの利益が認められないので却下されるべき
431 であると主張するとともに,
432 第2訴訟におけるXの請求には,
433 第1訴訟の確定判決の効力が及ぶ
434 ので,
435 第2訴訟の請求は,
436 少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきであると
437 主張した。
438
439 この答弁書の送達を受けたXは不安になり,
440 自分も弁護士に相談した方がよいと考え,
441
442 第2訴訟の第1回口頭弁論の期日の前に,
443 D弁護士を訪れた。
444
445
446 以下は,
447 Xから相談を受けたD弁護士と同弁護士の下で修習中の司法修習生との会話である。
448
449
450 弁護士:Xは,
451 第1訴訟の判決確定後に新たな事実が判明したとの理由から,
452 Yに対して第2
453 の訴えを提起したのですね。
454
455
456 修習生:はい。
457
458 第2訴訟は,
459 賃料不払による賃貸借契約の解除の場合には建物買取請求権の行
460 使ができないことを前提とする訴訟です。
461
462 建物買取請求権は,
463 誠実な借地人の保護のた
464 めの規定ですので,
465 借地人の債務不履行による賃貸借契約の解除の場合には,
466 借地人に
467 は建物買取請求権は認められないとする最高裁判所の判例があります。
468
469
470 弁護士:よく勉強していますね。
471
472 次に,
473 第2訴訟の訴訟物について考えてみましょう。
474
475 第2訴
476 訟において,
477 Xは,
478 Yに対し,
479 本件土地の所有権に基づき,
480 本件建物の収去と本件土地
481 の明渡しを求めていますが,
482 土地所有者が,
483 土地上に建物を所有してその土地を占有す
484 る者に対して,
485 所有権に基づき建物収去土地明渡しを請求する場合の訴訟物については,
486
487 どのように考えられますか。
488
489
490 修習生:はい。
491
492 この場合の訴訟物については,
493 考え方が分かれていますが,
494 一般的な考え方に
495 よれば,
496 この場合の訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権1個で
497 - 4 -
498
499 あり,
500 判決主文に建物収去が加えられるのは,
501 土地明渡しの債務名義だけでは別個の不
502 動産である地上建物の収去執行ができないという執行法上の制約から,
503 執行方法を明示
504 するためであるにすぎないとされています。
505
506 したがって,
507 建物収去は,
508 土地明渡しの手
509 段ないし履行態様であって,
510 土地明渡しと別個の実体法上の請求権の発現ではないとい
511 うことになります。
512
513
514 弁護士:その考え方に立つと,
515 第2訴訟の訴訟物と第1訴訟の訴訟物とが同一かどうかについ
516 ては,
517 どのように考えるべきでしょうか。
518
519
520 修習生:第1訴訟の判決は,
521 Yに対し,
522 本件建物の代金500万円の支払を受けるのと引換え
523 に,
524 本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命ずるものです。
525
526 建物収去土地明渡訴
527 訟の訴訟物について先ほどお話しした一般的な考え方に立つとすれば,
528 建物退去土地明
529 渡訴訟についても,
530 訴訟物は所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権であり,
531
532 「建物退去」の点については「建物収去」の点と同様に,
533 土地明渡しの手段ないし履行
534 態様にすぎないと考えることができますので,
535 その訴訟物は同一であるといえるかと思
536 います。
537
538
539 弁護士:そうですね。
540
541 ここでは,
542 第1訴訟と第2訴訟の訴訟物は同一であるという考え方を前
543 提として考えてみましょう。
544
545 ところで,
546 Yは,
547 第2訴訟において,
548 どのような主張をし
549 ていますか。
550
551
552 修習生:Xの提起した訴えは,
553 訴えの利益が認められないので却下されるべきであると主張す
554 るとともに,
555 第2訴訟におけるXの請求には,
556 Yに対し,
557 本件建物の代金500万円の
558 支払を受けるのと引換えに本件建物を退去して本件土地を明け渡すよう命じた第1訴訟
559 の確定判決の効力が及ぶので,
560 第2訴訟の請求は,
561 少なくとも建物収去を求める部分に
562 ついては棄却されるべきであると主張しています。
563
564
565 弁護士:Yの主張を理解するには,
566 建物収去土地明渡請求と,
567 建物代金の支払を受けるのと引
568 換えに建物退去土地明渡しを命ずる判決との関係をどのように考えるかが問題となりそ
569 うですね。
570
571 まず,
572 Yのそれぞれの主張について,
573 その論拠をまとめてみた方がよいかも
574 しれません。
575
576 その上で,
577 それぞれの主張について,
578 どのような反論をすべきか,
579 検討し
580 てください。
581
582
583 修習生:はい。
584
585 わかりました。
586
587
588 〔設問2〕
589
590
591 前記会話を踏まえた上で,
592 Xには第2訴訟について訴えの利益が認められないので,
593 その訴
594 えは却下されるべきであるとするYの主張につき,
595 その考えられる論拠を説明しなさい。
596
597
598
599
600
601 前記会話を踏まえた上で,
602 第2訴訟におけるXの請求には第1訴訟の確定判決の効力が及ぶ
603 ので,
604 第2訴訟の請求は,
605 少なくとも建物収去を求める部分については棄却されるべきである
606 とのYの主張につき,
607 その考えられる論拠を説明しなさい。
608
609
610
611
612
613 上記及びの論拠を踏まえた上で,
614 第2訴訟におけるYの主張に対し,
615 Xとしてはいかな
616 る反論をすべきかについて論じなさい。
617
618
619
620 - 5 -
621
622 【別
623
624 紙】
625
626
627
628
629 平成21年4月13日
630
631 T地方裁判所
632
633 当事者の表示
634
635
636
637
638
639
640
641 (省略)
642
643 建物収去土地明渡請求事件
644 訴訟物の価額
645
646 (省略)
647
648 貼用印紙額
649
650 (省略)
651
652 第1
653
654
655 請求の趣旨
656 被告は,
657 原告に対し,
658 別紙物件目録1(省略)記載の建物を収去して同目録2(省略)記載
659 の土地を明け渡せ
660
661
662
663 訴訟費用は被告の負担とする
664
665 との判決を求める。
666
667
668 第2
669
670
671 請求の原因
672 別紙物件目録2記載の土地(以下「本件土地」という。
673
674 )は,
675 もと原告の父である訴外亡A(以
676 下「亡A」という。
677
678 )が所有していたところ,
679 平成19年2月3日,
680 亡Aが死亡した。
681
682 原告は,
683
684 亡Aの唯一の相続人であったことから,
685 本件土地を相続した。
686
687
688
689
690
691 被告は,
692 昭和53年8月10日から本件土地上に別紙物件目録1記載の建物(以下「本件建
693 物」という。
694
695 )を所有して,
696 本件土地を占有し続けている。
697
698
699
700
701
702 よって,
703 原告は,
704 被告に対し,
705 本件土地の所有権に基づき,
706 本件建物の収去及び本件土地の
707 明渡しを求める。
708
709
710
711 第3
712
713
714 事情
715 原告は,
716 被告に対し,
717 かつて本件土地につき建物収去土地明渡しを求める訴えを提起したが
718
719 (T地方裁判所(ワ)第○○号事件),
720 裁判所は,
721 亡Aと被告間の昭和53年3月8日付け土地
722 賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。
723
724 )の存在と被告の建物買取請求権の行使を前提に,
725
726 建物代金500万円の支払を受けるのと引換えに,
727 建物退去土地明渡しを命ずる旨の判決を言
728 い渡し,
729 この判決は確定した。
730
731
732
733
734 しかし,
735 もともと被告は,
736 平成16年分及び平成17年分の賃料の支払を怠り,
737 平成18年
738 4月6日配達の内容証明郵便によって,
739 亡Aから賃料不払を理由とする解除の意思表示を受け
740 ていた。
741
742 したがって,
743 被告が建物買取請求権を行使した時点で,
744 本件賃貸借契約は消滅してい
745 たのであって,
746 本件賃貸借契約の存続を前提にYが行った建物買取請求権の行使は無効な行為
747 というほかない。
748
749 被告は,
750 原告に対し,
751 本件建物を収去して本件土地を明け渡すべきである。
752
753
754
755
756
757
758
759
760
761
762
763 (省略)
764
765
766
767
768
769
770
771
772
773 (省略)
774
775 - 6 -
776
777 【資
778
779
780 料】
781 借地法(大正10年法律第49号)
782
783 第2条
784
785 借地権ノ存続期間ハ石造,
786 土造,
787 @瓦造又ハ之ニ類スル堅固ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモ
788
789 ノニ付テハ60年,
790 其ノ他ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノニ付テハ30年トス但シ建物カ此ノ期
791 間満了前朽廃シタルトキハ借地権ハ之ニ因リテ消滅ス
792
793
794 契約ヲ以テ堅固ノ建物ニ付30年以上,
795 其ノ他ノ建物ニ付20年以上ノ存続期間ヲ定メタルト
796 キハ借地権ハ前項ノ規定ニ拘ラス其ノ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス
797
798 第3条
799
800 契約ヲ以テ借地権ヲ設定スル場合ニ於テ建物ノ種類及構造ヲ定メサルトキハ借地権ハ堅固
801
802 ノ建物以外ノ建物ノ所有ヲ目的トスルモノト看做ス
803 第4条
804
805 借地権消滅ノ場合ニ於テ借地権者カ契約ノ更新ヲ請求シタルトキハ建物アル場合ニ限リ前
806
807 契約ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ借地権ヲ設定シタルモノト看做ス但シ土地所有者カ自ラ土地ヲ使用
808 スルコトヲ必要トスル場合其ノ他正当ノ事由アル場合ニ於テ遅滞ナク異議ヲ述ヘタルトキハ此ノ
809 限ニ在ラス
810
811
812 借地権者ハ契約ノ更新ナキ場合ニ於テハ時価ヲ以テ建物其ノ他借地権者カ権原ニ因リテ土地ニ
813 附属セシメタル物ヲ買取ルヘキコトヲ請求スルコトヲ得
814
815
816
817 第5条第1項ノ規定ハ第1項ノ場合ニ之ヲ準用ス
818
819 第5条
820
821 当事者カ契約ヲ更新スル場合ニ於テハ借地権ノ存続期間ハ更新ノ時ヨリ起算シ堅固ノ建物
822
823 ニ付テハ30年,
824 其ノ他ノ建物ニ付テハ20年トス此ノ場合ニ於テハ第2条第1項但書ノ規定ヲ
825 準用ス
826
827
828 当事者カ前項ニ規定スル期間ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ其ノ定ニ従フ
829
830 - 7 -
831
832 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
833
834 - 1 -
835
836 [民事系科目]
837 〔第2問〕(配点:200〔〔設問1〕から〔設問6〕までの配点の割合は,
838 1.4:4.8:3.8:3:4:
839 3〕)
840 以下の【事実】1から9までを読んで〔設問1〕から〔設問3〕までに,
841
842 【事実】10から14までを
843 読んで〔設問4〕に,
844
845 【事実】15から20までを読んで〔設問5〕及び〔設問6〕にそれぞれ答えよ。
846
847
848 【事実】
849 1.X株式会社(以下「X社」という。
850
851 )は,
852 機械を製造して販売する事業を営む会社である。
853
854
855 社が製造する機械のうち,
856 金属加工機械は,
857 25の機種があり,
858 それぞれの機種に1つの型番
859 が付されていて,
860 その型番はPS101からPS125までである。
861
862
863 Y株式会社(以下「Y社」という。
864
865 )は,
866 ナイフやフォークなど金属製の食器を製造する事業
867 を営む会社である。
868
869 Y社が製造する商品の中でも,
870 合金を素材とするコップは,
871 特徴的なデザ
872 インと独特の触感が好評を得ていて,
873 人気の商品である。
874
875
876 A株式会社(以下「A社」という。
877
878 )は,
879 物品を販売する事業を営む会社である。
880
881 A社は,
882
883 来,
884 Y社に物品を納入してきた実績がある。
885
886
887 2.Y社は,
888 数年ぶりに,
889 主力商品のコップを製造するために使用する金属加工機械を更新する
890 ことを決定し,
891 これをA社から調達する方針を固め,
892 Y社の役員であるBが,
893 その実行に携わ
894 ることとなった。
895
896 Bは,
897 これまでA社との折衝に当たってきた従業員のCに対し,
898 A社との交
899 渉においては,
900 Y社の主力商品の製造に使用する高額の機械の調達であるから,
901 諸事について
902 慎重を期するよう指示した。
903
904
905 3.Cは,
906 A社の担当者と相談したところ,
907 X社製の型番PS112という番号で特定される機
908 種の金属加工機械を調達することが適切であると考えるに至った。
909
910 Cの意向を知ったA社の担
911 当者は,
912 X社に問い合わせをし,
913 型番PS112の機械の在庫があることを確認した。
914
915
916 4.このようにして,
917 YAの両社間で交渉が進められた結果,
918 Y社は,
919 平成20年2月1日,
920
921 社との間で,
922 X社製の型番PS112の金属加工機械1台(新品)を代金1050万円(消費
923 税相当額を含む。
924
925 )で買い受ける旨の契約を締結した。
926
927 売買代金は,
928 まず,
929 そのうち200万円
930 を契約締結時に,
931 また,
932 残金の850万円は目的物の引渡しを受ける際に,
933 それぞれ支払うこ
934 ととされた。
935
936 そして,
937 Y社は,
938 同日,
939 A社に代金の一部として200万円を支払った。
940
941
942 なお,
943 A社は,
944 前記の売買契約を締結する際,
945 型番PS112の機械をX社から近日中に売
946 買により調達することをY社に伝えていた。
947
948
949 5.A社の担当者は,
950 Y社との売買契約が締結された平成20年2月1日の夕刻,
951 改めてX社の
952 担当者に電話をし,
953 Y社に転売する予定であることを告げた上,
954 X社から同社製の型番PS
955 112の金属加工機械1台(新品)を購入するに当たっての契約条件を協議した。
956
957 この契約条
958 件の中には,
959 AX間の売買代金額(消費税相当額を含む。
960
961 )を840万円とすること,
962 内金100
963 万円は銀行振込みとし,
964 残金740万円についてはA社が支払のために約束手形1通を振り出
965 して交付すること,
966 引渡しの時期及び場所のほか,
967 次に示す注文書の備考欄@Aの内容の条件
968 が含まれていた。
969
970 契約条件の協議が整った後,
971 A社の担当者はX社の担当者に対し,
972 「後ほど発
973 注権限のある上司の決裁を得て,
974 正式に注文書をお送りしますのでよろしくお願いします。
975
976 」と
977 述べた。
978
979 A社の担当者は,
980 発注権限のある上司に対し,
981 Y社に売り渡す型番PS112の機械
982 をX社から調達するための協議が整ったことの報告をし,
983 その上司の決裁を得た上,
984 次の注文
985 書を作成し,
986 これをX社の担当者に送付した。
987
988 この注文書の記載は,
989 担当者間の前記の協議内
990 容を反映するものであるが,
991 品名欄には,
992 型番の誤記があった。
993
994
995
996 - 2 -
997
998 No.0751
999 平成20年2月4日
1000
1001
1002
1003
1004
1005
1006 X株式会社 御中
1007 ○県○市○区○町3−5−1
1008 A株式会社
1009 代表取締役
1010
1011 ○○○○
1012
1013
1014
1015 下記のとおりご注文いたします。
1016
1017
1018 (1)
1019
1020
1021
1022
1023
1024 貴社製の金属加工機械(型番PS122)
1025
1026 (2)
1027
1028
1029
1030
1031
1032 1台
1033
1034 (3)
1035
1036
1037
1038
1039
1040 840万円(消費税を含む)
1041
1042 (4)
1043
1044 支払方法
1045
1046 内金100万円は平成20年2月12日に貴社銀行預金口座に振込み。
1047
1048
1049 残金は,
1050 引渡完了の際に,
1051 弊社振出の約束手形1通を交付(額面額74
1052 0万円,
1053 支払期日平成20年4月30日)。
1054
1055
1056
1057 (5)
1058
1059 引渡時期
1060
1061 平成20年2月15日
1062
1063 (6)
1064
1065 引渡場所
1066
1067 Y株式会社工場(○県○市○町1−4−12)に貴社から直接納品。
1068
1069
1070
1071 〔備考〕
1072 @
1073
1074 本件機械の所有権は,
1075 弊社が上記(4)記載の代金を完済するまで貴社が留保し,
1076
1077 金完済時に移転するものとします。
1078
1079
1080
1081 A
1082
1083 弊社が上記(4)記載の代金の一部でも支払わない場合,
1084 貴社は,
1085 催告をすることな
1086 く直ちに契約を解除することができるものとします。
1087
1088
1089
1090 6.この注文書を受け取ったX社の担当者は,
1091 受注を決定する権限のある上司に対し,
1092 A社の担
1093 当者と協議した契約条件で型番PS112の機械の販売を受注したいと説明し,
1094 その決裁を得
1095 た上,
1096 平成20年2月7日,
1097
1098 【事実】5記載の注文書と同一内容である注文請書をA社に送付し
1099 た。
1100
1101 なお,
1102 この注文請書においても,
1103
1104 「(1) 品
1105
1106
1107
1108 弊社製の金属加工機械(型番PS122)」
1109
1110 と記載されていた。
1111
1112 同月8日,
1113 これを受け取ったA社の担当者は,
1114 確かに注文請書を受け取っ
1115 た旨をX社に連絡した(以下このXA間の売買契約を「本件売買契約」という。
1116
1117 )。
1118
1119 そして,
1120
1121 社は,
1122 X社に対し,
1123 同月12日,
1124 代金の一部として100万円をX社の銀行預金口座に振り込
1125 んだ。
1126
1127
1128 7.X社の納品作業を担当する従業員は,
1129 注文請書の写しを参照しながら納品の準備を進め,
1130
1131 成20年2月15日の午前に,
1132 A社との約定により直接にY社の工場に,
1133 型番PS122の機
1134 械1台を搬入しようとした。
1135
1136 しかし,
1137 Y社の側から,
1138 調達しようとしたのは型番PS112の
1139 機械であることが指摘されたため,
1140 X社の前記従業員は,
1141 X社の受注事務担当者と連絡を取っ
1142 たところ,
1143 Y社の指摘のとおりであることが確認された。
1144
1145 そこで,
1146 いったん搬入を取りやめ,
1147
1148 改めて同日午後に型番PS112の機械1台をY社の工場に運んだ(以下この1台の機械を「動
1149 産甲」という。
1150
1151 )。
1152
1153 Y社の担当者が,
1154 間違いなく動産甲が型番PS112の機械であることを確
1155 認し,
1156 動産甲は,
1157 滞りなく同日中にY社の工場に搬入された。
1158
1159
1160 そこで,
1161 同日,
1162 Y社は,
1163 A社に対し,
1164 両社間の売買の残代金850万円を支払った。
1165
1166 また,
1167
1168 - 3 -
1169
1170 A社は,
1171 X社に対し,
1172 支払期日を平成20年4月30日とするA社振出しの額面額740万円
1173 の約束手形を交付した。
1174
1175
1176 8.動産甲の取引を担当したA社の担当者は,
1177 平成20年2月20日,
1178 Y社を訪ね,
1179 搬入の過程
1180 で機種の取り違いがあった不手際を詫び,
1181 それにもかかわらず一連の取引が無事に終了したこ
1182 とへの謝辞を述べた。
1183
1184 応接に当たったCは,
1185 取引を慎重に進めるように求めた【事実】2記載
1186 のBの指示を踏まえ,
1187 XAの両社間の代金決済について特にトラブルが起きていないか,
1188 とい
1189 うことを質した。
1190
1191 これに対し,
1192 A社の担当者は,
1193 代金の一部が既に支払われていること,
1194 及び
1195 残代金の支払のため平成20年4月30日を支払期日とするA社振出しの約束手形を交付した
1196 ことを説明したが,
1197 代金が完済されるまでX社が動産甲の所有権を留保していることは告げな
1198 かった。
1199
1200 Cは,
1201 この説明を受けたことで一応納得し,
1202 直接にX社に対し取引経過を照会するこ
1203 とはしなかった。
1204
1205
1206 9.その後,
1207 A社は,
1208 平成20年4月30日に前記約束手形に係る手形金の支払をせず,
1209 そのこ
1210 ろに事実上倒産した。
1211
1212 そこで,
1213 X社は,
1214 A社に対し,
1215
1216 【事実】5記載の注文書の備考欄Aの特約
1217 に基づき,
1218 同年5月2日到達の書面により,
1219 本件売買契約を解除する旨の意思表示をし,
1220 また,
1221
1222 Y社に対し,
1223 同年5月7日到達の書面により,
1224 動産甲の返還を請求した。
1225
1226 しかし,
1227 Y社がこれ
1228 に応じないので,
1229 X社は,
1230 Y社に対し,
1231 所有権に基づき動産甲の返還を請求する訴訟を提起し
1232 た(以下この訴訟を「本件訴訟」という。
1233
1234 )。
1235
1236
1237 〔設問1〕
1238
1239 本件売買契約は,
1240 何を目的物として成立したものであると考えられるか,
1241 理由を付し
1242
1243 て結論を述べなさい。
1244
1245 その際,
1246
1247 【事実】5記載の注文書及び【事実】6記載の注文請書にあった型
1248 番誤記が本件売買契約の効力に影響を与えるか,
1249 錯誤の成否にも言及しつつ述べなさい。
1250
1251
1252 〔設問2〕
1253
1254
1255 X社のY社に対する本件訴訟において,
1256 Y社が,
1257 自己の即時取得によりX社が動産甲の所有
1258 権を喪失したことを主張しようとするときに,
1259
1260 「A社が,
1261 平成20年2月1日,
1262 Y社との間で,
1263
1264 【事実】4記載の売買契約を締結したこと」のほか,
1265 次に掲げる事実@及び事実Aを主張立証
1266 する必要があると考えられるか。
1267
1268 それぞれ理由を付して説明しなさい。
1269
1270
1271 @
1272
1273 A社が,
1274 Y社に対し,
1275 平成20年2月15日,
1276
1277 【事実】4記載の売買契約に基づき動産甲を
1278 引き渡したこと。
1279
1280
1281
1282 A
1283
1284 Y社が,
1285 @の引渡しを受ける際,
1286 A社がX社に対し代金全額を弁済していない事実を知ら
1287 なかったこと。
1288
1289
1290
1291
1292
1293 本件訴訟においてY社のする即時取得の主張に対し,
1294 X社から,
1295 それへの反論として「Y社
1296 は,
1297 A社に動産甲の所有権があると信じたことについて過失がある。
1298
1299 」との主張がされた場合に
1300 おいて,
1301 Y社の過失の有無を認定判断する上で,
1302 次に掲げる事実B及び事実Cは,
1303 どのように
1304 評価されるか。
1305
1306 それぞれ理由を付して説明しなさい。
1307
1308
1309 B
1310
1311 【事実】4記載のとおり,
1312 Y社が,
1313 A社がX社との売買により目的物を調達することを知
1314 っていたこと。
1315
1316
1317
1318 C
1319
1320 【事実】8記載のとおり,
1321 Y社が,
1322 本件売買契約の残代金が平成20年4月30日を支払
1323 期日とする約束手形で支払われることを知っていたこと。
1324
1325
1326
1327 〔設問3〕
1328
1329 X社は,
1330 本件訴訟において,
1331 Y社に対し,
1332 動産甲の使用料相当額の支払も併せて請求
1333
1334 したいと考えた。
1335
1336 X社は,
1337 どのような法的根拠に基づいて,
1338 いつからの使用料相当額の請求をす
1339 ることができるか,
1340 考えられる法的根拠を一つ示し,
1341 その法的根拠が成り立つ理由及びいつから
1342 の請求をすることができるかの理由を付して説明しなさい。
1343
1344
1345
1346 - 4 -
1347
1348 【事実】
1349
1350 以下の10から14までは,
1351 【事実】1から9までのX社に関するものである。
1352
1353
1354
1355 10.X社は,
1356 監査役会設置会社であり,
1357 発行済株式総数(普通株式のみ)10万株,
1358 株主数50
1359 00人の上場企業である(単元株制度は採用していない。
1360
1361 )。
1362
1363 X社は,
1364 財務状況が悪化したため,
1365
1366 同じ機械メーカーであり,
1367 X社の発行済株式の5%を長年保有して友好関係にあるZ株式会社
1368 (以下「Z社」という。
1369
1370 )に対し,
1371 事業の柱の一つである精密機械製造事業を譲渡するとともに,
1372
1373 同社との間に研究,
1374 開発,
1375 販売等の面における協同関係を築くことにより,
1376 この苦境を乗り切
1377 ろうと考えた。
1378
1379 そして,
1380 X社は,
1381 平成20年6月2日,
1382 Z社との間で,
1383 事業の譲渡及び協同関
1384 係の構築に向けた交渉を始めるための基本合意を締結した(以下この合意を「本件基本合意」
1385 という。
1386
1387 )。
1388
1389
1390 11.ところが,
1391 本件基本合意の締結後,
1392 X社は,
1393 財務状況の悪化が急速に進み,
1394 キャッシュフロ
1395 ーの確保も難しくなったため,
1396 本件基本合意に基づくZ社への事業の譲渡によって得ることが
1397 できる対価による収入や,
1398 同社との協同関係の構築だけでは,
1399 企業としての存続が危うくなっ
1400 てきた。
1401
1402
1403 12.そのような折,
1404 Z社のライバル企業である機械メーカーのD株式会社(以下「D社」とい
1405 う。
1406
1407 )がX社に対して合併を申し入れてきた。
1408
1409 合併の条件は,
1410 X社の普通株式4株にD社の普通
1411 株式1株を交付するという合併比率によって,
1412 D社を吸収合併存続株式会社とし,
1413 X社を吸収
1414 合併消滅株式会社とする吸収合併を行うというものであり,
1415 D社は,
1416 X社の精密機械製造事業
1417 に魅力を感じ,
1418 同事業を含めてX社の事業全部を吸収合併により取得することを申し入れてき
1419 たものであった。
1420
1421
1422 13.X社の取締役会は,
1423 Z社よりも企業体力に優るD社に吸収合併されれば,
1424 X社は独立した企
1425 業ではなくなるものの,
1426 同社の財務状況の悪化やキャッシュフロー不足の問題が解決され,
1427
1428 業全体の存続や従業員の雇用の確保につながると考え,
1429 平成20年10月8日,
1430 Z社との本件
1431 基本合意を白紙撤回した上,
1432 D社から申入れのあったとおりの合併条件により,
1433 X社がD社に
1434 吸収合併されることを受け入れることを決めた。
1435
1436
1437 14.これに対し,
1438 Z社は,
1439 X社の精密機械製造事業を何としても手に入れたいと考え,
1440 X社に対
1441 し,
1442 本件基本合意に基づく事業の譲渡及び協同関係の構築の実現を迫り,
1443 D社との合併に反対
1444 した。
1445
1446 Z社は,
1447 本件基本合意に基づき,
1448 X社を債務者として,
1449 D社との合併の交渉の差止めの
1450 仮処分命令の申立てを行ったが,
1451 当該申立てが却下されたため,
1452 X社に対する本件基本合意違
1453 反を理由とする損害賠償請求の訴えの提起を準備している。
1454
1455 また,
1456 Z社は,
1457 X社とD社の合併
1458 は,
1459 両社の企業規模や1株当たり純資産の比較,
1460 X社の培ってきた取引関係や評判等からすれ
1461 ば,
1462 その合併比率がX社の株主にとって不当に不利益なものとなっており,
1463 また,
1464 私的独占の
1465 禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。
1466
1467 )第15条第1項第1号に規定
1468 する「当該合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に
1469 当たり,
1470 同法に違反するものであると主張し(独禁法違反の点は,
1471 実際に認定され得るもので
1472 あった。
1473
1474 ),
1475 合併に反対している。
1476
1477
1478 〔設問4〕
1479
1480 Z社は,
1481 X社の株主としての権利を行使し,
1482 合併契約の締結や当該合併契約の承認を
1483
1484 目的とする株主総会の招集を阻止したいと考えている。
1485
1486 Z社は,
1487 X社の株主として,
1488 どのような
1489 会社法上の手段を採ることができるか。
1490
1491 理由を付して説明しなさい。
1492
1493
1494 【事実】 【事実】10から14までのX社については,
1495 その後,
1496 以下の15から20までの経過があった。
1497
1498
1499 15.X社は,
1500 Z社の反対にもかかわらず,
1501 D社との間で合併契約を平成20年10月15日に締
1502 結し,
1503 X社取締役会は,
1504 当該合併契約の承認を目的とする臨時株主総会を同年12月1日に開
1505 催することを決定したことから,
1506 同社取締役は,
1507 その招集通知を発するとともに,
1508 株主総会参
1509 考書類及び次の議決権行使書面を株主に交付した。
1510
1511
1512 - 5 -
1513
1514
1515
1516
1517
1518
1519
1520
1521
1522 使
1523
1524
1525
1526 株主番号
1527
1528 議決権行使個数
1529
1530 X株式会社 御中
1531 私は,
1532 平成20年12月1日開催の
1533 貴社臨時株主総会(継続会又は延会を
1534 含む。
1535
1536 )における議案につき,
1537 右記の
1538 とおり(賛否を○印で表示)議決権を
1539 行使します。
1540
1541
1542 平成20年
1543
1544
1545 議案につき賛否の表示
1546 をされない場合は,
1547 賛成
1548 の表示があったものとし
1549 て取り扱います。
1550
1551
1552 X株式会社
1553
1554 議案
1555
1556
1557
1558 第1号議案
1559 (略)
1560
1561
1562
1563
1564
1565
1566
1567 株主
1568
1569
1570
1571
1572
1573 住所
1574 氏名
1575 届出印
1576
1577 16.これに対し,
1578 Z社は,
1579 合併条件がX社の株主にとって不利益であるとして,
1580 X社の株主に対
1581 し,
1582 合併契約の承認に反対する内容の委任状勧誘を行った。
1583
1584 このZ社による委任状勧誘は,
1585
1586 の委任状用紙に基づいて行われており,
1587 金融商品取引法に従って行われたものであった。
1588
1589
1590
1591 私は,
1592
1593
1594
1595
1596
1597
1598
1599 を代理人と定め,
1600 下記の権限を委任します。
1601
1602
1603
1604 平成20年12月1日開催予定のX株式会社臨時株主総会並びにその延会及び継続総
1605 会に出席し,
1606 下記議案につき,
1607 私の指示(○印で表示)に従って議決権を行使すること。
1608
1609
1610 ただし,
1611 賛否を明示しない場合,
1612 代理人名を記載しない場合及び原案に対し修正案が提
1613 出された場合は,
1614 いずれも白紙委任します。
1615
1616
1617
1618
1619
1620 復代理人の選任の件
1621
1622
1623 X株式会社とD株式会
1624 社が平成20年10月
1625 15日に締結した合併
1626 契約の承認についての
1627 議案
1628 平成20年
1629
1630
1631
1632 原案に対し
1633
1634
1635
1636
1637
1638
1639 議決権行使個数
1640 株主
1641
1642
1643
1644 住所
1645 氏名
1646 届出印
1647
1648 17.X社に議決権行使書面を提出して行使された議決権の数は,
1649 合計3万6000個であった。
1650
1651
1652 そのうち,
1653 合併契約の承認議案に賛成と記載されていた数は5000個で,
1654 同議案に反対と記
1655 載されていた数は2000個,
1656 さらに,
1657 同議案に対する賛否の記載がされていない数は2万
1658 9000個であった。
1659
1660 これに対し,
1661 Z社に委任状を交付した株主の議決権の数は,
1662 合計1万
1663 2050個であった。
1664
1665 そのうち,
1666 会社提案の合併契約の承認議案に反対と記載されている委任
1667
1668 - 6 -
1669
1670 状の議決権の数は2000個で,
1671 同議案に賛成と記載されている委任状の議決権の数は50個,
1672
1673 さらに,
1674 同議案に対する賛否の記載がされていない委任状の議決権の数は1万個であった。
1675
1676
1677 18.平成20年12月1日,
1678 X社の臨時株主総会が開催された。
1679
1680 この臨時株主総会において議決
1681 権を行使することができる者を定める基準日現在において,
1682 X社は自己株式を保有しておらず,
1683
1684 また,
1685 相互保有株式も存在しなかった。
1686
1687
1688 19.Z社は,
1689 X社の臨時株主総会の議場に1万2050株分のすべての委任状を持参し,
1690 自ら保
1691 有する5000株分と合わせて,
1692 特に留保なしに,
1693 合併契約の承認議案につき,
1694 議決権を行使
1695 して反対の意思表示を行った。
1696
1697 当該臨時株主総会におけるZ社以外のX社株主による議決権行
1698 使(議決権行使書面によるものを除く。
1699
1700 )は,
1701 合併契約の承認議案への賛成が6000個で,
1702
1703 対が1000個であった。
1704
1705 議場においては,
1706 X社とZ社が議案の当否及び投票内容の賛否への
1707 算入方法をめぐって激しく対立し,
1708 混乱したが,
1709 定款の定めにより議長とされているX社の代
1710 表取締役社長Eは,
1711 Z社の提出した議長不信任動議や,
1712 投票数の算入方法に対する抗議を無視
1713 し,
1714 合併契約の承認決議の成立を宣言した。
1715
1716
1717 20.その後,
1718 X社は,
1719 平成21年4月1日を合併の効力発生日とする合併の登記を行うこととし
1720 ている。
1721
1722
1723 〔設問5〕
1724
1725 X社の臨時株主総会において,
1726 合併契約の承認議案に対し,
1727 賛否それぞれどれだけの
1728
1729 数の議決権の行使があったと考えるべきか。
1730
1731 次の@及びAの場合に分け,
1732 それぞれ理由を付して
1733 説明しなさい。
1734
1735
1736 @
1737
1738 X社株主には,
1739 X社に議決権行使書面を提出しつつ,
1740 Z社に委任状を交付した者はいなかっ
1741 た場合
1742
1743 A
1744
1745 X社株主には,
1746 X社に議決権行使書面を提出するとともに,
1747 Z社に委任状も交付し,
1748 いずれ
1749 においても合併契約の承認議案に対する賛否の欄に賛否を記載しなかったFがおり,
1750 同人の有
1751 する議決権が100個含まれていた場合
1752
1753 〔設問6〕
1754
1755 X社の臨時株主総会の終了後,
1756 Z社が合併の実現を阻止するためには,
1757 会社法に基づ
1758
1759 き,
1760 どのような手段を採ることができるか(〔設問4〕で解答した手段を除く。
1761
1762 )。
1763
1764 合併の効力が発
1765 生する前と後とで分け,
1766 それぞれ理由を付して説明しなさい。
1767
1768
1769
1770 - 7 -
1771
1772