1 論文式試験問題集[刑事系科目]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲及び乙の罪責について,
9 具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法
10 違反の点を除く。
11
12 )。
13
14
15 1
16
17 甲は,
18
19 「Aクレジット」名で高利の貸金業を営むAに雇われて,
20 同貸金業務に従事していた。
21
22 甲
23 は,
24
25 「Aクレジット」の開業時からの従業員であり,
26 Aの信頼が厚かったため,
27 同貸金業の営業に
28 ついて,
29 新規貸付けの可否,
30 貸付金額・貸付条件等を判断し,
31 その判断に従って顧客との間で金
32 銭消費貸借契約を締結し,
33 貸付けを実行する事務を行っていたほか,
34 同貸金業の資金管理につい
35 て,
36 現金出納,
37 取引先に対する支払や「Aクレジット」名義の銀行預金口座(以下「Aの口座」
38 という。
39
40 )の預金の出し入れ,
41 帳簿等経理関係の書類作成・保管等の事務を行っていた。
42
43
44 「Aクレジット」では,
45 Aの口座の通帳(以下「Aの通帳」という。
46
47 )及びその届出印,
48 同口座
49 のキャッシュカード(以下「Aのカード」という。
50
51 )を事務所内の金庫に入れて保管し,
52 同金庫の
53 鍵は,
54 甲が所持していた。
55
56 甲は,
57 Aの口座の預金の出し入れをする場合には,
58 自ら金庫の鍵を開
59 けてAのカード及びAの通帳を取り出し,
60 これを甲の部下である経理担当の事務員に手渡した上,
61
62 金額や出金先等を指示して預金の出し入れに関する事務を行わせていた。
63
64 なお,
65
66 「Aクレジット」
67 では,
68 取引先に対する経費の支払は,
69 Aの口座から取引先の銀行口座に直接振り込むことによっ
70 て行っていたが,
71 顧客に対する貸付けは,
72 その要望に応じて,
73 銀行口座への振込みによるほか,
74
75 現金を直接顧客に手渡して行うこともあった。
76
77
78 また,
79 甲は,
80 自ら金銭消費貸借契約書,
81 請求書,
82 領収証等を確認して帳簿の記載を行い,
83 同帳
84 簿を自己の机の引き出しに入れて保管していた。
85
86
87 一方,
88 Aは,
89 ほぼ毎日事務所に顔を出すものの,
90 甲が作成・保管する帳簿及びAの通帳に目を
91 通して収入・支出の状況を確認するだけであり,
92 帳簿と金銭消費貸借契約書,
93 請求書,
94 領収証等
95 とを突き合わせることはなかった。
96
97
98 乙は,
99 甲の部下として営業を担当する事務員であり,
100 顧客との契約交渉,
101 貸付金の回収等を行
102 っていたが,
103 経理事務は担当しておらず,
104 Aのカードの暗証番号を知らなかった。
105
106
107
108 2
109
110 甲は,
111 愛人との遊興のため浪費が続き,
112 次第に金銭に窮するようになっていたところ,
113 Aが帳
114 簿及び通帳に目を通すだけであったことから,
115 通帳の記載に合う架空の出金事由を帳簿に記載し
116 ておけば,
117 Aのカードを使って金銭を手に入れてもAに発覚することはないと考えた。
118
119
120 そこで,
121 甲は,
122 当面の遊興費として200万円を,
123 Aの口座から,
124 甲自身が代表者となってお
125 り,
126 自ら通帳,
127 届出印及びキャッシュカードを保管しているB社名義の銀行口座(以下「B社の
128 口座」という。
129
130 )に振り込むこととする一方,
131 帳簿に広告宣伝費としてB社に200万円を支払っ
132 た旨記載することとした。
133
134
135 ただ,
136 経理担当の事務員は「Aクレジット」の取引先にB社がないことを知っていたため,
137 同
138 事務員にB社の口座への振込手続を行わせると不審に思われるおそれがあった。
139
140 そこで,
141 甲は,
142
143 営業担当の事務員である乙であれば,
144 経費の支払先のことを詳しくは知らないはずなので,
145 自分
146 の不正に気付かれることはないと考え,
147 経理担当の事務員がいない時を見計らって,
148 乙に振込手
149 続を行わせることとした。
150
151
152
153 3
154
155 某日,
156 経理担当の事務員が休暇を取って不在であったため,
157 甲は,
158 前記計画を実行することと
159 し,
160 自ら金庫を開けてAのカード及びAの通帳を取り出し,
161 事務所にいた乙に「今日は経理担当
162 者がいないから代わりに銀行に行ってくれ。
163
164 B社から支払請求が来ているからB社の口座に200
165 万円を振り込んでくれ。
166
167 忘れずに記帳してきてくれ。
168
169 」と指示してAのカード及びAの通帳を手渡
170 すとともに,
171 Aのカードの暗証番号,
172 B社の口座番号等を伝えた。
173
174
175
176 4
177
178 他方,
179 この指示を受けた乙は,
180 かつて甲の机の中にB社名義の通帳があるのを見たことがあっ
181 - 2 -
182
183 た上,
184 他の営業担当の事務員から,
185 B社は甲がAに内緒で代表者となっている実体のない会社で,
186
187 「Aクレジット」との取引関係が生ずることはあり得ない会社であると聞いたことがあったので,
188
189 甲がB社の口座に振り込むことにより不正に200万円を手に入れようとしていることに気付い
190 た。
191
192
193 しかし,
194 乙は,
195 甲が上司であったことから,
196 とりあえずその指示に従うこととし,
197 甲から受け
198 取ったAのカード及びAの通帳を持って銀行に向かった。
199
200 ところが,
201 自己の借金の返済資金に窮
202 していた乙は,
203 銀行に行く途中で,
204 経理事務の責任者である甲が200万円を不正に手に入れよ
205 うとしているのだから,
206 甲はその範囲内ならば経理関係の書類をごまかせるはずだと考え,
207 この
208 機会に便乗して自分も金銭を手に入れることとした。
209
210 そして,
211 乙は,
212 すぐにも120万円の借金
213 の返済が必要だったことから,
214 Aの口座から120万円を引き下ろして自己の借金の返済に充て,
215
216 甲から指示された金額との差額の80万円は,
217 甲の指示どおりAの口座からB社の口座に振り込
218 むこととした。
219
220
221 5
222
223 銀行に着いた乙は,
224 Aのカードを現金自動預払機(以下「ATM」という。
225
226 )に挿入し,
227 まず
228 80万円をAの口座からB社の口座に口座間で直接振り込む操作を行ってB社の口座に入金した
229 後,
230 すぐに同じATMにAのカードを再び挿入し,
231 Aの口座から現金合計120万円を引き下ろ
232 してこれを自己のポケットに入れた。
233
234 そして,
235 乙は,
236 Aの通帳にB社に対する80万円の振込み
237 と120万円の現金出金の取引を記帳した後,
238 直ちに同銀行の窓口に行き,
239 自己の借金の返済の
240 ため前記現金120万円をサラ金業者の銀行口座に振り込む手続を行った。
241
242
243 その後,
244 乙は,
245 銀行を出て「Aクレジット」の事務所に戻り,
246 Aのカード及びAの通帳を甲に
247 渡した。
248
249
250
251 6
252
253 乙からAの通帳等を受け取った甲は,
254 Aの通帳の記帳内容を見て,
255 B社に80万円しか振り込
256 まれていない上,
257 120万円の現金出金がなされていたことから,
258 乙に問いただしたところ,
259 乙
260 は,
261 甲に「120万円は私の方で借金の返済に使ってしまいました。
262
263 あなたも同じようなことを
264 やっているじゃないですか。
265
266 私の分も何とかしてくださいよ。
267
268 」と言った。
269
270
271 甲は,
272 それまで,
273 乙が甲の不正を知っているとは思っておらず,
274 また,
275 乙がそのような不正を
276 するとは予想もしていなかった。
277
278
279 甲は,
280 乙が指示に従わずに120万円を引き下ろしたことに腹が立ったが,
281 このことがAに発
282 覚すれば,
283 自己の不正も発覚し,
284 暴力団と関係があり粗暴なAにどんなひどい目に遭わされるか
285 分からないため,
286 そのような事態は何としても避けなければならないと考えた。
287
288 そこで,
289 甲は,
290
291 乙に「分かった。
292
293 お前の下ろした120万円は今回は何とかしてやるが,
294 もう二度とこんなこと
295 はするな。
296
297 」と言った。
298
299
300
301 7
302
303 「Aクレジット」では,
304 前記のとおり取引先に対する経費の支払は,
305 Aの口座から取引先の口
306 座に直接振り込むことによって行っていたことから,
307 甲は,
308 Aの口座からB社の口座に振り込ま
309 れた80万円については,
310 当初の計画どおり帳簿に架空の広告宣伝費を計上しておけばAに発覚
311 せずに済むが,
312 120万円については,
313 現金出金であるため,
314 架空経費の計上を装ってごまかす
315 ことは難しいと考えた。
316
317
318 そこで,
319
320 「Aクレジット」では,
321 前記のとおり顧客に対する貸付けは,
322 現金で行うこともあった
323 ので,
324 甲は,
325 120万円の現金出金日に,
326 甲の友人でAと面識のない丙に対して返済期日を10
327 日後とする現金120万円の貸付けを行ったことにした上で,
328 その返済期日に集金した現金を強
329 盗に奪われたように装うこととした。
330
331
332
333 8
334
335 その数日後,
336 甲は,
337 乙に「お前が下ろした120万円は,
338 出金日の10日後を返済期日として
339 丙に貸し付けたことにしてある。
340
341 お前が丙の住んでいるCマンションで丙から集金して帰る途中,
342
343 その地下駐車場で強盗に襲われて集金した金を奪われたことにしたい。
344
345 お前は自動車のトランク
346 に入ってくれ。
347
348 俺がガムテープでお前の手足を縛り,
349 口を塞いでやる。
350
351 そうすれば,
352 強盗に襲わ
353 れたように見える。
354
355 30分くらいしたら俺が警察に通報してやるから大丈夫だ。
356
357 警察にはけん銃
358 - 3 -
359
360 を持った強盗に襲われたと言ってくれ。
361
362 」と持ちかけた。
363
364 乙は,
365 自己の借金の返済に充てた金銭の
366 後始末であることやAが粗暴な人間であることを考えると,
367 甲の言うとおりにするのが最も良い
368 と思い,
369 これを承諾した。
370
371
372 なお,
373 甲は,
374 警察に事情を聴かれた場合に備えて,
375 丙に対し,
376 前記事情を一切告げずに,
377 「『A
378 クレジット』から120万円を借りて10日後に返済したことにしてくれ。
379
380 迷惑はかけない。
381
382 」と
383 依頼した。
384
385
386 9
387
388 前記120万円の返済期日とした日,
389 甲と乙は,
390 Cマンションの地下駐車場で落ち合った。
391
392 乙
393 は,
394 集金の際に平素から使用している営業用の自動車に乗ってきており,
395 これを同地下駐車場に
396 駐車していた。
397
398 甲は,
399 その自動車のトランク内に横たわった乙の両手首と両足首をガムテープで
400 縛り,
401 乙の口を更にガムテープで塞ぎ,
402 乙が鼻で呼吸できることを確認した後,
403 トランクを閉め
404 てその場を立ち去った。
405
406
407
408 10
409
410 その約30分後,
411 甲は,
412 匿名で警察に電話をかけて,
413
414 「Cマンションの地下駐車場に駐車中の車
415 のトランクの中からゴトゴトと不審な音がするから調べてほしい。
416
417 」と通報した。
418
419 この通報を受け
420 て間もなく同駐車場に駆けつけた警察官により,
421 乙は発見された。
422
423 乙は,
424 警察官に「けん銃を持
425 った強盗に襲われて丙から集金した現金120万円とその利息を奪われ,
426 自動車のトランクに閉
427 じ込められた。
428
429 」と説明した。
430
431
432
433 - 4 -
434
435 〔第2問〕(配点:100)
436 次の【事例】を読んで,
437 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
438
439 なお,
440
441 【資料1】の供述内
442 容は信用できるものとし,
443 【資料2】の捜索差押許可状は適法に発付されたものとする。
444
445
446 【事
447 1
448
449 例】
450 警察は,
451 平成21年1月17日,
452 軽自動車(以下「本件車両」という。
453
454 )がM埠頭の海中に沈ん
455
456 でいるとの通報を受け,
457 海中から本件車両を引き上げたところ,
458 その運転席からシートベルトを
459 した状態のVの死体が発見された。
460
461 司法解剖の結果,
462 Vの死因は溺死ではなく,
463 頸部圧迫による
464 窒息死であると判明した。
465
466 警察が捜査すると,
467 埠頭付近に設置された防犯カメラに本件車両を運
468 転している甲野太郎(以下「甲」という。
469
470 )と助手席にいるVの姿が写っており,
471 その日時が同年
472 1月13日午前3時5分であった。
473
474 同年1月19日,
475 警察が甲を取り調べると,
476 甲は,
477 Vの頸部
478 をロープで絞めて殺害し,
479 死体を海中に捨てた旨供述したことから,
480 警察は,
481 同日,
482 甲を殺人罪
483 及び死体遺棄罪で逮捕した。
484
485 勾留後の取調べで,
486 甲は,
487 Vの別居中の妻である乙野花子(以下「乙」
488 という。
489
490 )から依頼されてVを殺害したなどと供述したため,
491 司法警察員警部補Pは,
492 その供述を
493 調書に録取し,
494 【資料1】の供述調書(本問題集8ページ参照)を作成した。
495
496
497 2
498
499 警察は,
500 前記供述調書等を疎明資料として,
501 殺人,
502 死体遺棄の犯罪事実で,
503 捜索すべき場所を
504 T化粧品販売株式会社(以下「T社」という。
505
506 )事務所とする捜索差押許可状の発付を請求し,
507 裁
508 判官から【資料2】の捜索差押許可状(本問題集9ページ参照)の発付を受けた。
509
510 なお,
511 同事務
512 所では,
513 T社の代表取締役である乙のほか,
514 A及びBら7名が従業員として働いている。
515
516
517 Pは,
518 5名の部下とともに,
519 同年1月26日午前9時,
520 同事務所に赴き,
521 同事務所にいたBと
522 応対した。
523
524 乙及びAらは不在であり,
525 Pは,
526 Bを介して乙に連絡を取ろうとしたが,
527 連絡を取る
528 ことができなかったため,
529 同日午前9時15分,
530 Bに前記捜索差押許可状を示して捜索を開始し
531 た。
532
533 Pらが同事務所内を捜索したところ,
534 電話台の上の壁にあるフックにカレンダーが掛けられ
535 ており,
536 そのカレンダーを外すと,
537 そのコンクリートの壁にボールペンで書かれた文字を消した
538 跡があった。
539
540 Pらがその跡をよく見ると,
541 「1/12△フトウ」となっており,
542 「1/12」と「フトウ」
543 という文字までは読み取ることができたが,
544
545 「△」の一文字分については読み取ることができなか
546 った。
547
548 そこで,
549 Pらは,
550 壁から約30センチメートル離れた位置から,
551 その記載部分を写真撮影
552 した[写真@]。
553
554
555
556 3
557
558 同事務所内には,
559 事務机等のほかに引き出し部分が5段あるレターケースがあり,
560 Pらがその
561 レターケースを捜索すると,
562 その3段目の引き出し内に預金通帳2冊,
563 パスポート1通,
564 名刺
565 10枚,
566 印鑑2個,
567 はがき3枚が入っていた。
568
569 Pが,
570 Bに対し,
571 その引き出しの使用者を尋ねた
572 ところ,
573 Bは,
574 「だれが使っているのか分かりません。
575
576 」と答えた。
577
578 そこで,
579 Pらがその預金通帳
580 2冊を取り出して確認すると,
581 1冊目はX銀行の普通預金の通帳で,
582 その名義人はAとなってい
583 て,
584 取引期間が平成20年6月6日からであり,
585 現在も使われているものであった。
586
587 2冊目はY
588 銀行の普通預金の通帳で,
589 その名義人はAとなっていて,
590 取引期間が平成20年10月10日か
591 らであり,
592 現在も使われているものであった。
593
594 X銀行の預金口座には,
595 不定期の入出金が多数回
596 あり,
597 その通帳の平成21年1月14日の取引日欄に,
598 カードによる現金30万円の出金が印字
599 されていて,
600 その部分の右横に「→T.K」と鉛筆で書き込まれていたが,
601 そのほかのページには
602 書き込みがなかった。
603
604 また,
605 Y銀行の預金口座には,
606 T社からの入金が定期的にあり,
607 電気代や
608 水道代などが定期的に出金されているほか,
609 カードによる不定期の現金出金が多数回あった。
610
611 そ
612 の通帳には書き込みはなかった。
613
614 次に,
615 Pらがその引き出し内にあるパスポートなどを取り出し,
616
617 それらの内容を確認すると,
618 パスポートの名義が「乙野花子」で,
619 名刺10枚は「乙野花子」と
620 印刷されており,
621 はがき3枚のあて名は「乙野花子」となっていた。
622
623 印鑑2個は,
624 いずれも「A」
625 と刻印されていて,
626 X銀行及びY銀行への届出印と似ていた。
627
628 Pらは,
629 その引き出し内にあった
630 ものをいずれも元の位置に戻した上,
631 その引き出し内を写真撮影した。
632
633
634
635 4
636
637 引き続き,
638 Pらは,
639 X銀行の預金通帳を事務机の上に置き,
640 それを写真撮影しようとすると,
641
642 - 5 -
643
644 Bは,
645 「それはAさんの通帳なので写真を撮らないでください。
646
647 」と述べ,
648 その写真撮影に抗議し
649 た。
650
651 しかし,
652 Pらは,
653 「捜査に必要である。
654
655 」と答え,
656 その場で,
657 その表紙及び印字されているす
658 べてのページを写真撮影した[写真A]。
659
660 さらに,
661 Pらは,
662 Y銀行の預金通帳を事務机の上に置き,
663
664 同様に,
665 その表紙及び印字されているすべてのページを写真撮影した[写真B]。
666
667 なお,
668 Pらは,
669
670 X銀行の預金通帳を差し押さえたが,
671 Y銀行の預金通帳は差し押さえなかった。
672
673
674 5
675
676 次に,
677 Pらは,
678 パスポート,
679 名刺,
680 はがき及び印鑑を事務机の上に置き,
681 パスポートの名義の
682 記載があるページを開いた上,
683 そのページ,
684 名刺10枚,
685 はがき3枚のあて名部分及び印鑑2個
686 の刻印部分を順次写真撮影した[写真C]。
687
688 なお,
689 Pらは,
690 そのパスポート,
691 名刺,
692 はがき及び印
693 鑑をいずれも差し押さえず,
694 捜索差押えを終了した。
695
696
697
698 6
699
700 その後,
701 捜査を継続していたPらは,
702 平成21年2月3日,
703 甲の立会いの下,
704 M埠頭において,
705
706 海中に転落した本件車両と同一型式の実験車両及びVと同じ重量の人形を用い,
707 本件車両を海中
708 に転落させた状況を再現する実験を行った。
709
710 なお,
711 実験車両は,
712 本件車両と同じオートマチック
713 仕様の軽自動車であり,
714 現場は,
715 岸壁に向かって約1度から2度の下り勾配になっていた。
716
717
718 Pらは,
719 甲に対し,
720 犯行当時と同じ方法で実験車両を海中に転落させるよう求めると,
721 甲は,
722
723 本件車両を岸壁から約5メートル離れた地点に停車させたと説明してから,
724 その地点に停車した
725 実験車両の助手席にある人形を両手で抱えて車外に持ち出した。
726
727 甲は,
728 その人形を運転席側ドア
729 まで移動させてから車内の運転席に押し込み,
730 その人形にシートベルトを締めた。
731
732 そして,
733 甲は,
734
735 運転席側ドアから車内に上半身を入れ,
736 サイドブレーキを解除した上,
737 セレクトレバーをドライ
738 ブレンジにして運転席側ドアを閉めた。
739
740 すると,
741 同車両は,
742 岸壁に向けて徐々に動き出し,
743 前輪
744 が岸壁から落ちたものの,
745 車底部が岸壁にぶつかったため,
746 その上で止まり,
747 海中に転落しなか
748 った。
749
750 甲は,
751 同車両の後方に移動し,
752 後部バンパーを両手で持ち上げ,
753 前方に重心を移動させる
754 と,
755 同車両が海中に転落して沈んでいった。
756
757 その後,
758 Pらが海中から同車両を引き上げ,
759 その車
760 底部を確認したところ,
761 車底部の損傷箇所が同年1月17日に発見された本件車両と同じ位置に
762 あった。
763
764
765
766 7
767
768 Pは,
769 この実験結果につき,
770 実況見分調書を作成した。
771
772 同調書には,
773 作成名義人であるPの署
774 名押印があるほか,
775 実況見分の日時,
776 場所及び立会人についての記載があり,
777 実況見分の目的と
778 して「死体遺棄の手段方法を明らかにして,
779 証拠を保全するため」との記載がある。
780
781 加えて,
782 実
783 況見分の経過として,
784 写真が添付され,
785 その写真の下に甲の説明が記載されている。
786
787
788 具体的には,
789 岸壁から約5メートル離れた地点に停止している実験車両を甲が指さしている場
790 面の写真,
791 甲が両手で抱えた人形を運転席に向けて引きずっている場面の写真,
792 甲が運転席に上
793 半身を入れて,
794 サイドブレーキを解除し,
795 セレクトレバーをドライブレンジにした場面の写真,
796
797 同車両の前輪が岸壁から落ちたものの車底部が岸壁にぶつかってその上で同車両が止まっている
798 場面の写真,
799 甲が同車両の後部バンパーを両手で持ち上げている場面の写真,
800 同車両が岸壁から
801 海中に転落した場面の写真,
802 同車両底部の損傷箇所の位置が分かる写真が添付されている。
803
804 そし
805 て,
806 各写真の下に「私は,
807 車をこのように停止させました。
808
809 」,
810
811 「私は,
812 助手席の被害者をこのよう
813 に運転席に移動させました。
814
815 」,
816
817 「私は,
818 このようにサイドブレーキを解除してセレクトレバーをド
819 ライブレンジにしました。
820
821 」,
822 「車は,
823 このように岸壁の上で止まりました。
824
825 」,
826 「私は,
827 このように
828 車の後部バンパーを持ち上げました。
829
830 」,
831 「車は,
832 このように海に転落しました。
833
834 」,
835 「車の底には傷
836 が付いています。
837
838 」との記載がある。
839
840
841
842 8
843
844 その後,
845 同年2月9日,
846 検察官は,
847 被告人甲が乙と共謀の上,
848 Vを殺害してその死体を遺棄し
849 た旨の公訴事実で,
850 甲を殺人罪及び死体遺棄罪により起訴した。
851
852 被告人甲は,
853 第一回公判期日に
854 おいて,
855
856 「自分は,
857 殺人,
858 死体遺棄の犯人ではない。
859
860 」旨述べた。
861
862 その後の証拠調べ手続において,
863
864 検察官が,
865 前記実況見分調書につき,
866
867 「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」とい
868 う立証趣旨で証拠調べ請求したところ,
869 弁護人は,
870 その立証趣旨を「被告人が本件車両を海中に
871 沈めて死体遺棄したこと」であると考え,
872 証拠とすることに不同意の意見を述べた。
873
874
875 - 6 -
876
877 〔設問1〕
878
879 [写真@]から[写真C]の写真撮影の適法性について,
880 具体的事実を摘示しつつ論
881
882 じなさい。
883
884
885 〔設問2〕
886
887 【事例】中の実況見分調書の証拠能力について論じなさい。
888
889
890
891 - 7 -
892
893 【資料1】
894
895 供
896
897 述
898
899 調
900
901 書
902
903 本籍,
904 住居,
905 職業,
906 生年月日省略
907 甲
908 野
909 太
910 郎
911 上記の者に対する殺人,
912 死体遺棄被疑事件につき,
913 平成21年1月24日○○県□□警察署におい
914 て,
915 本職は,
916 あらかじめ被疑者に対し,
917 自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げて取り調
918 べたところ,
919 任意次のとおり供述した。
920
921
922 1 私は,
923 平成21年1月13日午前2時ころ,
924 V方前の道で,
925 Vの首をロープで絞めて殺し,
926 その
927 死体を海に捨てましたが,
928 私がそのようなことをしたのは,
929 乙からVを殺すように頼まれたからで
930 した。
931
932
933 2 私は,
934 約2年前に,
935 クリーニング店で働いており,
936 その取引先に乙が経営していたT化粧品販売
937 という会社があったため,
938 乙と知り合いました。
939
940 私は,
941 次第に乙に惹かれるようになり,
942 平成19
943 年12月ころから,
944 乙と付き合うようになりました。
945
946 乙の話では,
947 乙にはVという夫がいるものの,
948
949 別居しているということでした。
950
951
952 3 平成20年11月中旬ころ,
953 私は,
954 乙から「Vに3000万円の生命保険を掛けている。
955
956 Vが死
957 ねば約2000万円ある借金を返すことができる。
958
959 報酬として300万円をあげるからVを殺し
960 て。
961
962 」と言われました。
963
964 私は,
965 最初,
966 乙の冗談であると思いましたが,
967 その後,
968 乙と話をするたびに
969 何回も同じ話をされたので,
970 乙が本気であることが分かりました。
971
972 そのころ,
973 私にも約300万円
974 の借金があったため,
975 報酬の金が手に入ればその借金を返すことができると思い,
976 Vを殺すことに
977 決めました。
978
979 そこで,
980 平成21年1月11日午後9時ころ,
981 乙から私に電話があったとき,
982 私は,
983
984 乙に「明日の夜,
985 M埠頭で車の転落事故を装ってVを殺す。
986
987 」と言うと,
988 乙から「お願い。
989
990 」と言わ
991 れました。
992
993
994 4 1月12日の夜,
995 私がV方前の道でVを待ち伏せしていると,
996 翌日の午前2時ころ,
997 酔っ払った
998 様子のVが歩いて帰ってきました。
999
1000 私は,
1001 Vを殺すため,
1002 その後ろから首にロープを巻き付け,
1003 思
1004 い切りそのロープの端を両手で引っ張りました。
1005
1006 Vは,
1007 手足をばたつかせましたが,
1008 しばらくする
1009 と,
1010 動かなくなりました。
1011
1012 私が手をVの口に当てると,
1013 Vは,
1014 息をしていませんでした。
1015
1016
1017 5 私は,
1018 Vの服のポケットから車の鍵を取り出し,
1019 その鍵でV方にあった軽自動車のドアを開け,
1020
1021 Vの死体を助手席に乗せました。
1022
1023 そして,
1024 私は,
1025 Vが運転中に誤って岸壁から転落したという事故
1026 を装うため,
1027 その車を運転してM埠頭に向かいました。
1028
1029 私は,
1030 午前3時過ぎころ,
1031 M埠頭の岸壁か
1032 ら少し離れたところに車を止め,
1033 助手席の死体を両手で抱えて車外に持ち出し,
1034 運転席側ドアまで
1035 移動して,
1036 その死体を運転席に押し込み,
1037 その上半身にシートベルトを締めました。
1038
1039 そして,
1040 私は,
1041
1042 運転席側ドアから車内に上半身を入れ,
1043 サイドブレーキを解除し,
1044 セレクトレバーをドライブレン
1045 ジにしてからそのドアを閉めました。
1046
1047 すると,
1048 その車は,
1049 岸壁に向けて少しずつ動き出し,
1050 前輪が
1051 岸壁から落ちたものの,
1052 車の底が岸壁にぶつかってしまい,
1053 車がその上で止まってしまいました。
1054
1055
1056 そこで,
1057 私は,
1058 車の後ろに移動し,
1059 思い切り力を入れて後ろのバンパーを両手で持ち上げ,
1060 前方に
1061 重心を移動させると,
1062 軽自動車であったため,
1063 車が少し動き,
1064 そのままザッブーンという大きな音
1065 を立てて海の中に落ちました。
1066
1067 私は,
1068 だれかに見られていないかとドキドキしながらすぐに走って
1069 逃げました。
1070
1071
1072 6 その後,
1073 私は,
1074 乙にVを殺したことを告げ,
1075 1月15日の夕方,
1076 乙と待ち合わせた喫茶店で,
1077 乙
1078 から報酬の一部として現金30万円を受け取り,
1079 その翌日の夕方,
1080 同じ喫茶店で,
1081 乙から報酬の一
1082 部として現金20万円を受け取りました。
1083
1084
1085 甲
1086 野
1087 太
1088 郎
1089 指印
1090 以上のとおり録取して読み聞かせた上,
1091 閲覧させたところ,
1092 誤りのないことを申し立て,
1093 欄外に指印
1094 した上,
1095 末尾に署名指印した。
1096
1097 (欄外の指印省略)
1098 前 同 日
1099 ○○県□□警察署
1100 i
1101 司法警察員
1102 警部補
1103 P
1104
1105 - 8 -
1106
1107 【資料2】
1108
1109 捜
1110 被
1111 及
1112
1113 疑
1114
1115 者
1116
1117 の
1118
1119 び
1120
1121 氏
1122
1123 年
1124
1125 索
1126 名
1127
1128 差
1129 甲
1130
1131 齢
1132
1133 押
1134 野
1135
1136 許
1137
1138 太
1139
1140 名
1141
1142 殺
1143
1144 捜 索 す べ き 場 所 ,
1145
1146 身
1147
1148 体
1149
1150 又
1151
1152 は
1153
1154 32
1155
1156 年
1157
1158 9
1159
1160 月
1161
1162 29
1163
1164 日生
1165
1166 人,
1167 死体遺棄
1168
1169 ○○県□□市桜が岡6丁目24番4号日本橋ビル1階
1170
1171 物
1172
1173 差し押さえるべき物
1174
1175 状
1176
1177 郎
1178
1179 昭和
1180 罪
1181
1182 可
1183
1184 T化粧品販売株式会社事務所
1185
1186 本件に関連する保険証書,
1187 借用証書,
1188 預金通帳,
1189 金銭出納帳,
1190 手
1191 帳,
1192 メモ,
1193 ノート
1194
1195 請求者の官公職氏名
1196
1197 司法警察員警部補
1198
1199 有
1200
1201 平成
1202
1203 効
1204
1205 期
1206
1207 間
1208
1209 21
1210
1211 年
1212
1213 P
1214 2
1215
1216 月
1217
1218 1
1219
1220 日まで
1221
1222 有効期間経過後は,
1223 この令状により捜索又は差押えに着手することができない。
1224
1225 この場合に
1226 は,
1227 これを当裁判所に返還しなければならない。
1228
1229
1230 有効期間内であっても,
1231 捜索又は差押えの必要がなくなったときは,
1232 直ちにこれを当裁判所
1233 に返還しなければならない。
1234
1235
1236 被疑者に対する上記被疑事件について,
1237 上記のとおり捜索及び差押えをする
1238 ことを許可する。
1239
1240
1241 平成
1242 □
1243
1244 21
1245
1246 年
1247
1248 1
1249
1250 月
1251
1252 25
1253
1254 日
1255
1256 □
1257
1258 簡
1259
1260 易
1261
1262 裁
1263
1264 判
1265
1266 所
1267
1268 裁
1269
1270 判
1271
1272 官
1273
1274 - 9 -
1275
1276 印
1277 某
1278
1279 i
1280
1281