1 平成21年新司法試験論文式試験問題出題趣旨
2 【公法系科目】
3 〔第1問〕
4 今年度も,
5 「憲法」論文式問題は,判例及び学説に関する知識を単に「書き連ね」たような,
6 観念的,定型的,
7 「自動販売機」型の答案を求めるものではなく,
8 「考える」ことを求めている。
9 すなわち,判例及び学説に関する正確な理解と検討に基づいて問題を解くための精緻な判断枠
10 組みを構築し,そして事案の内容に即した個別的・具体的な検討を求めている。
11 今年の論文問題では,設問1及び設問2の構成が従来と異なっている。
12 第1に,相異なる理由で行われた2つの処分にかかわる憲法問題を,設問1と設問2とでそ
13 れぞれ問う構成になっている。答える「量」が増えたことを考慮して,資料を含めた分量を減
14 らした。そして,問題文の中で,それぞれ何が問題になるのかについて明確なヒントを書き込
15 み,また議論が不必要に拡散しないように注を付したり,文中で(例えば,「定められた手続
16 に従い慎重に審査した」)限定したりしている。第2に,X側の主張に対する大学側の主張を
17 「想定して」検討することを求めている。まず,X側の主張は,理にかない,筋の通った主張
18 を十分に行う必要がある。そして,その主張に対応する大学側の「反論」は,「見解」を展開
19 する中でそれと一体としての議論に組み込んで示すべきものであり,「反論」では詳論する必
20 要はなく,ポイントだけを述べればよい(例えば,指針と「規則」の違いを正当化する理由と
21 して大学の自治,あるいは研究を承認した大学としてより高度の倫理と責任を持つべきとする
22 等の主張)。「反論」を組み込んだ「あなた自身の見解」は,詳細に検討した上で(例えば,大
23 学の自治の憲法上の位置付け,意味内容等を論じ,研究の自由を制約する根拠としての大学の
24 自治の主張について論じる。),説得力のある理由を述べて結論を導き出す必要がある。
25 今年度の問題では,大学の「規則」自体の違憲性の問題と処分違憲が問題となる。
26 設問1における「規則」違憲では,指針と「規則」の違い(それは,法律と条例の関係の問
27 題でも,命令への委任の問題でもない。),そして憲法第23条で保障される研究の自由の制約
28 の合憲性が問題となる。本問で問題となる研究は実験を伴うものであり,思索中心の研究の自
29 由とは異なる側面を有している。また,本問での制約は,研究中止措置に向けられたものであ
30 って,何ら言論活動を禁止するものではない。したがって,本問での制約は,表現内容に基づ
31 く制約と同じものではない。
32 設問2における「規則」違憲では,被験者の遺伝子情報を知る権利の制約が問題となる。
33 知る権利は,憲法上明文では規定されていないので,憲法上の位置付けが問題となる。知る
34 権利は,表現の自由との関係で位置付けられているが,本件の場合には,送り手の自由と受け
35 ての自由という関係でのものではない。むしろ,本問での知る権利は,憲法第13条の幸福追
36 求権に位置付けられている自己情報コントロール権に基づく情報開示請求権といえる。
37 停職処分を受けたX自身は,実質的に研究の自由を制約されることになる。ただし,本件処
38 分の違憲性を争う場合には,Xは,直接的には,Cの情報開示請求権侵害を主張することにな
39 るので,特定の第三者の権利侵害を理由として違憲主張をできるかが問題となる。違憲主張適
40 格に関しては,判例の判断枠組みを正確に挙げた上で,それがこの問題に関する唯一の判断枠
41 組みといえるか等も検証した上で,本件のような問題の場合の判断枠組み,そして個別的・具
42 体的検討が必要である。
43 知る権利の制約の違憲性に関しては,2つの異なる問題が存在する。それは,被験者自身の
44 情報の本人への開示の問題と,被験者以外の人の情報の被験者への不開示の問題である。前者
45 では,すべての遺伝子に係る情報を開示することが本人に与えるマイナスの影響への考慮とい
46 う理由は,いわゆるパターナリスティックな理由であり,制約を正当化する理にかなった理由
47
48 -1-
49
50 といえるか否かについて検討する必要がある。後者では,その開示によって生じるかもしれな
51 い様々な問題とは何かを具体的に想定した上で,第三者への情報提供を一切認めない規定の合
52 憲性を,取り分け被験者の疾病の性質との関係で検討する必要がある。
53 設問1及び設問2の処分違憲に共通する大学側の主張として部分社会論を想定した場合に
54 は,「あなた自身の見解」において,部分社会論を展開した判例の判断枠組みを本件にそのま
55 ま使用することの適切性,部分社会論自体の問題性等を論じる必要がある。また,設問2にお
56 ける処分違憲に関しては,取り分け,XがCに対して,Cの要望とは異なる「規則」の内容に
57 ついて説明していないことも,問題となる。
58 〔第2問〕
59 本問は,建築主事がマンションの建築確認を行ったのに対し,当該マンションの建築に反対
60 する周辺住民Fらが採るべき救済手段について論じさせるものである。問題文と資料から基本
61 的な事実関係を把握し,建築基準法や関連条例の趣旨を読み解いた上で,採るべき救済手段の
62 訴訟要件等を検討するとともに,本案における違法事由を論じる力を試すものである。
63 設問1は,建築確認に基づく建築を阻止するために考えられる法的手段(訴訟とそれに伴う
64 仮の救済措置)に関して,基本的な理解を問う問題である。資料1において,措置命令や検査
65 済証交付をめぐる行政訴訟は検討の対象から除外されているので,本件確認の取消訴訟を論じ
66 ることが考えられる。さらに,資料1では,本件確認の処分性,審査請求前置,出訴期間には
67 問題がないとされているので,主として原告適格と狭義の訴えの利益を検討すべきことになる。
68 原告適格については,行政事件訴訟法の条文と判例を踏まえ,いかなる判断枠組みにより,
69 いかなる点に着目して判断すべきかを明らかにした上で,建築基準法及び関連条例の趣旨目的
70 や,本件においてFらが主張する利益の内容性質に即して,原告適格の有無を論じることが必
71 要である。取り分け,本件では,Fが本件土地から至近距離にあるマンションに居住し,Gが
72 当該マンションを所有し,Hが本件児童室に毎週通っており,Iがその父親であるなど,それ
73 ぞれ法的地位が異なっていることから,個別具体的に検討を加えることが求められる。
74 狭義の訴えの利益については,資料1の指示に従い,建築物が完成した場合の問題点を検討
75 することが要求されている。判例を踏まえた上で,説得力のある立論を行うことが期待される。
76 仮の救済措置としては,本件確認の執行停止が考えられる。行政事件訴訟法に定める要件の
77 該当性について,本件事案でFらが主張し得る利益に即し,「重大な損害」の要件を中心に,
78 具体的に論じることが必要である。
79 設問2は,上記法的手段の本案で主張すべき本件確認の適法性を検討させる問題であり,実
80 体上及び手続上の違法事由が考えられる。
81 実体上の違法事由として,まず,接道義務違反が問題となる。建築基準法及び本件建築安全
82 条例から,本件建築物についていかなる内容の接道義務が課せられているかを読み取った上で,
83 本件道路がこの要件を満たしているかを検討しなければならない。特に,本件道路に遮断ゲー
84 トが設置されている点について,接道義務が設けられている趣旨に照らし,適切な解釈を行う
85 ことが求められる。
86 次に,本件建築物の地下駐車場と本件児童室の出入口間の距離が問題となる。本件建築安全
87 条例によっていかなる規制がなされているかを指摘した上で,その趣旨に照らし,本件児童室
88 が規制対象に当たるかを論じなければならない。
89 手続面では,本件紛争防止条例に定める説明会の開催と,行政手続法に定める公聴会の開催
90 が問題となる。それぞれの根拠規定の趣旨を明らかにした上で,本件において義務違反がある
91 と認められるか,認められるとして,それが本件確認にいかなる意味を持つかを検討すること
92 が必要である。
93 最後に,本問では,Fが以上の違法事由をすべて主張できるか検討することも求められてい
94 -2-
95
96 る。行政事件訴訟法の条文を踏まえ,違法事由ごとに検討を加える必要がある。
97 【民事系科目】
98 〔第1問〕
99 設問1は,一方当事者が主張責任を負う主要事実を,その当事者が主張せず,かえって相手
100 方当事者が主張した場合において,その主張を判決の基礎とすることができるかどうか,当事
101 者の証明を経ないで判決の基礎とすることができるかどうかを,小問(1)ないし(3)の各
102 場合に分けて,論じさせるものである。本問は,いわゆる「相手方の援用しない自己に不利益
103 な事実の陳述」という周知の論点に関するものであるが,建物収去土地明渡請求訴訟において
104 建物買取請求権の行使が問題となる設例に基づき,証拠調べの要否という観点から検討させる
105 ことにより,弁論主義,事実の要証性などについて,基本的な理解とともに,その応用力を問
106 うことを意図している。被告が主張責任を負う事実である建物買取請求権の行使の事実を原告
107 が主張しているという本問の問題状況を理解し,建物買取請求権の行使の訴訟法的な意義,弁
108 論主義(いわゆる第1テーゼ及び主張共通の原則)との関係,当事者間に争いのある事実の要
109 証性,自白された事実について証明を要しないとする民事訴訟法第179条の趣旨などについ
110 て,自己の理解を明らかにした上で,自説の立場から,小問(1)から(3)までの場合につ
111 いて,証拠調べの要否を論じることになる。
112 小問(1)は,原告が被告による建物買取請求権行使の事実を主張し,被告がこれを否認す
113 る場合であり,小問(2)は,被告がその事実を自ら援用した場合である。自白の不要証効に
114 照準を合わせつつ,自白の意義,自白(先行自白も含む。)の成否等について検討することに
115 なろう。小問(3)は,裁判所が釈明を求めたにもかかわらず,被告が原告の主張する事実を
116 争うことを明らかにしない場合であり,擬制自白の成否が問題となるが,民事訴訟法第159
117 条第1項は,主張責任を負う相手方の主張する事実について争うかどうかを明らかにしない場
118 合を想定した規定であることから,主張責任を負う当事者が相手方の主張する事実について争
119 うことを明らかにしない場合にそのまま適用できないことを理解する必要がある。同項の趣旨
120 等も踏まえ,証拠調べを要するかどうかを論じることが求められる。
121 設問2は,訴訟物,訴えの利益,既判力等の民事訴訟法に関する基本的な概念についての理
122 解を前提として,各当事者の立場から,複眼的な思考・検討を求めるものである。
123 小問(1)においては,訴えの利益が訴訟要件の一つであること,給付訴訟においては原則
124 として訴えの利益が認められること,同一訴訟物について債務名義が存在する場合には訴えの
125 利益が否定されることなどを前提に,設例に即した論述をすることが求められる。
126 小問(2)は,第1訴訟と第2訴訟の訴訟物が同一であることを前提としながら,少なくと
127 も建物収去を求める部分については棄却されるべきであるとの被告の主張の論拠について考え
128 させる問題である。受験生は,既判力の意義や積極的・消極的作用についての基本的な理解を
129 踏まえ,一部認容判決の敗訴部分の既判力や留保付判決の留保部分に生じる効力など,被告の
130 上記主張の論拠について考えることが求められる。
131 小問(3)は,小問(1)及び(2)の被告の主張に対し,原告の立場からいかなる反論を
132 することが可能かを考えさせるものである。小問(1)の主張に対しては,第1訴訟の確定判
133 決で認容された部分と第2訴訟の請求を対比しつつ,新たに債務名義を得る利益があるという
134 立場から議論をすることが必要となる。また,小問(2)の主張に対しては,既判力の時的限
135 界についての基本的な理解を踏まえ,設例の具体的事実を的確に摘示しつつ,既判力の基準時
136 前の事由を前訴において主張することが期待し得たかなどの観点から論じることが求められ
137 る。
138 〔第2問〕
139 -3-
140
141 本問は,機械の製造販売事業を営む株式会社の取引及び合併をめぐる事例に関し,様々な角
142 度から,民法上及び会社法上の問題点等についての基礎的な理解の有無を問う総合問題である。
143 単に知識の有無の確認をするだけではなく,具体的な事実関係に即して基本的問題を掘り下げ
144 て考察する能力,具体的事実を法的観点から評価し構成する能力,法律上の権利を具体的場面
145 で活用する能力,論理的に一貫した論述をする能力の有無などを試すものである。
146 設問1から設問3までは,会社間の売買契約に関する問題である。X社がA社に金属加工機
147 械1台を所有権留保特約付きで売却し,A社がこれをY社に転売し,X社からY社に直接納品
148 されたが,A社のX社に対する代金債務が履行されなかったため,X社がA社との売買契約を
149 解除した上,Y社に対し目的物の返還を求めて提訴したという事案について,多面的な検討を
150 求めることにより,種々の能力の程度を測るものである。
151 設問1は,X社とA社との間の売買契約について,注文書及び注文請書に誤記があり,両当
152 事者が一致して意図していた目的物の型番とは異なる型番がこれらの書面に記載されたという
153 場合において,売買契約の目的物,誤記が契約の効力に与える影響,錯誤の成否について問う
154 ものである。契約当事者の真意は合致しているものの,物理的な表示がそれとは異なっている
155 場合の処理という基礎的な問題ではあるが,結論に至る理由付けを具体的事案に即して述べる
156 ためには,理論的考察と事実の評価との両面にわたる能力が求められる。なお,本件では,種
157 類物売買であるという特徴もある。
158 設問2は,Y社による上記機械の即時取得の要件に関する問題である。(1)@は,「A社と
159 Y社との間の売買契約に基づく引渡しがされたこと」という事実をY社が主張立証する必要が
160 あるかどうかを問う。取引行為に基づく占有取得の要件について,その意義(占有取得の意義,
161 それが取引行為に「基づく」ものであることの意味)を問うものである。なお,この事実は,
162 種類物の特定にもかかわるものである。(1)Aは,「Y社が引渡しを受ける際,A社がX社に
163 代金全額を弁済していない事実を知らなかったこと」という事実をY社が主張立証する必要が
164 あるかどうかを問う。ここでは,即時取得の要件である「善意」又は「無過失」に関する一般
165 的な論述よりも,上記事実が即時取得の要件である「善意」とは異なるものであることを正確
166 に指摘した上,その評価をすることが求められる。(2)B及びCは,即時取得における過失
167 の評価に関する問題であるが,それぞれの性格は異なる。(2)Bは,具体的事実が過失の認
168 定判断に働くかどうか,その理由は何かの説明を求めるものであり,事実の分析及び評価に係
169 るものである。他方,(2)Cは,過失の有無の判断が占有取得時にされるべきであるという
170 理論的性格を持つものである。以上のように,設問2は,要件事実の基本的知識を確認するだ
171 けではなく,実体法上の理論的問題の検討及び具体的事実の慎重な分析と評価を求めるという,
172 多面的な性格を持つ問題である。
173 設問3は,X社がY社に対し,引き渡された機械の返還とともに,その使用料相当額をも請
174 求しようとする場合について,その法的根拠を 1 つ示した上,いつから請求することができる
175 かの説明を求めるものである。法的根拠(不当利得返還請求権,悪意占有者の果実返還義務,
176 不法行為に基づく損害賠償請求権が考えられる。)といつから請求することができるか(引渡
177 時,解除時,返還請求時,返還請求訴訟提起時が考えられる。)との組合せと理由付けが整合
178 的なものとして示されていること,その前提として所有権留保売買の法的構成及びそこでの買
179 主又は転得者の使用権限に関する分析がされていることが求められる。この問題は,他人の物
180 を権原なく使用する場合の清算関係及び所有権留保売買における売主と転得者との関係という
181 民法上の重要問題に関する基本的理解と,具体的事実を法的観点から評価し構成する能力を問
182 うものである。
183 設問4から設問6までは,株式会社の合併に関する問題である。X社がZ社との間の事業の
184 譲渡等に関する基本合意を白紙撤回した上,D社からの吸収合併の申入れを受け入れ,合併契
185 約承認の株主総会を開催し,決議をしたという事案について,合併に関する一連の手続の進行
186 -4-
187
188 の過程に応じて,それに係る法的諸問題につき多面的な検討を求めることにより,種々の能力
189 の程度を測ろうとするものである。
190 設問4は,合併契約の締結や当該合併契約の承認を目的とする株主総会の招集を阻止するた
191 めの手段となる会社法上の株主の権利について問うものである。その最も有効な権利として考
192 えられるものは,株主による取締役の行為の差止め(会社法第360条)であるが,その要件
193 の充足の検討に当たり,様々な法的論点の分析が求められる。第1に問題となるのは,同条第
194 1項に規定する「法令」の意義であり,善管注意義務や忠実義務(同法第330条,民法第6
195 44条,会社法第355条),さらに,独禁法などの公益を守るための法令も含まれるのかが
196 問題となり,善管注意義務ないし忠実義務については,基本合意違反による損害賠償債務の発
197 生と合併によってもたらされるX社の利益との比較や,合併比率の不公正という問題がX社自
198 身にどのような損害をもたらし得るのか等の分析を行うことが期待される。第2に問題となる
199 のは,会社法第360条第3項に規定する「回復することのできない損害」がX社に生ずるお
200 それの有無であり,本問の事案に即して,丁寧に具体的な当てはめをする必要がある。
201 設問5は,株主総会における議決権行使書面による議決権行使や委任状に基づく議決権の代
202 理行使をめぐる法律問題をきちんと理解することができているかどうかについて試すものであ
203 る。議決権行使書面による議決権行使の場合,書面に記載されたとおりの議決権行使がされた
204 ものとして取り扱われるが(会社法第311条第1項,第2項),委任状に基づく議決権の代
205 理行使は,代理人による投票をもって議決権行使として取り扱われるのであり,このような両
206 制度の趣旨・意義,法的構造の違い等についての基本認識が問われている。@において問題と
207 なるのは,まず,賛否の記載のない議決権行使書面について各議案につき賛成又は反対とみな
208 す旨を記載することであるが,これは会社法施行規則第66条第1項第2号により認められて
209 おり,その有効性を肯定した下級審裁判例も存在する。これに対し,委任状については,そも
210 そも白紙委任が認められるのか,また,代理人が委任状の指示に反したときに代理人による議
211 決権行使の効果はそのまま認められるのかが問われる。これらは下級審裁判例・学説で議論さ
212 れた問題ではあるものの,本問の事例は,かつての多くの例とは異なり,会社経営陣に反対す
213 る株主側が委任状を勧誘したという最近の事例を踏まえたものとなっており,従来の議論をど
214 こまで応用できるかという柔軟な法的推論を行う能力も試されている。Aにおいて問題となる
215 のは,議決権行使書面と委任状により矛盾する内容の権利の行使を株主が行った場合の効力を
216 どのように考えるかという論点であり,従来,余り論じられていないものである。考え方とし
217 ては,議決権行使書面の送付と委任状の交付の時点を比較して後のものを優先する考え方,代
218 理人による議決権行使を本人による議決権行使と同視して優先する考え方,矛盾した議決権行
219 使としていずれも無効とする考え方等があり得るが,いずれにしても,自分なりの法律構成を
220 行った上で結論を導く応用能力が必要とされている。
221 設問6は,合併承認総会の後の段階において,合併の効力が発生する前と後とに分けた上,
222 合併の実現を阻止するための手段としての会社法上の権利(設問4で解答した手段を除く。)
223 について問うものである。合併の効力発生の前においては,合併を承認した株主総会の決議に
224 ついて,取消しの訴えや無効確認の訴えを提起するとともに,それらを本案とする仮処分命令
225 の申立てを行うことにより,合併の実現を阻止することが考えられるが,そのような決議の効
226 力を争う根拠として,設問5における自らの解答を前提として特別決議が成立しているかどう
227 か,議長不信任動議や投票数の算入方法に関する抗議を議長が無視して決議の成立を宣言した
228 ことが決議の方法の法令違反等となるかどうか,当該合併が独禁法第15条第1項第1号に違
229 反するとした場合にそれが決議の無効事由となるかどうか等が,検討される必要がある。合併
230 の効力発生の後においては,合併無効の訴えによらなければ,合併の無効は主張できなくなる
231 が,合併条件の不公正,独禁法違反等が合併無効事由になるかが,前記の会社法上の効力等の
232 問題を踏まえて論じられる必要がある。
233 -5-
234
235 【刑事系科目】
236 〔第1問〕
237 本問は,具体的事例に基づいて甲乙の罪責を問うことによって,刑事実体法及びその解釈論
238 の理解,具体的事実に法規範を適用する能力並びに論理的思考力を試すものである。
239 問題文前半は,刑法所定の財産犯に関する理解及び間接正犯ないし共犯に関する理解を問う
240 ものである。
241 まず,Aに生じた合計200万円の財産的損害について,甲乙にいかなる財産犯が成立し得
242 るかが問題となる。この検討に当たっては,刑法所定の財産犯の構成要件に関する正確な理解
243 が必要不可欠である。その上で,本件の具体的事実関係においていかなる犯罪が成立するかを
244 検討することになるが,その際,第1に,いわゆる「預金の占有」の趣旨・根拠についての的
245 確な理解を前提に,Aの口座についての「預金の占有」が対銀行との関係での払戻権限を踏ま
246 えて甲乙各人にそれぞれ認められるか否かによって,成立し得る財産犯が異なることに留意す
247 る必要がある。例えば,「預金の占有」を有する者には横領罪が成立し得るものの窃盗罪や電
248 子計算機使用詐欺罪は成立しないと解されることなどに関する正確な理解が必要となろう。第
249 2に,本問の具体的事実関係において甲乙にAの口座の払戻権限が認められるか否かなどにつ
250 いて的確に事実を評価した上で,これに法的な当てはめを行い,甲乙に成立し得る財産犯を確
251 定することが必要である。第3に,以上の検討を前提に,次に述べる甲乙の法的な関係の理解
252 に従って,本問の事実関係に即して甲乙に成立すると考えられる財産犯の各構成要件要素の充
253 足を検討し,最終的に甲乙の罪責を確定する必要がある。その際,単に,問題文に表れた事実
254 を漫然と羅列するのではなく,いかなる事実がいかなる構成要件要素の該当性判断に関係があ
255 ると考えているのか分かるように論述しなければ,「事実を摘示しつつ」との出題意図に答え
256 たことにはならない。例えば,問題文に記載された各事実関係のうち,どの事実が甲乙の「預
257 金の占有」の有無を基礎付ける事実で,どの事実が甲乙の「(占有の)業務性」の有無を基礎
258 付ける事実であると考えているのかが分かるように「事実を摘示しつつ」犯罪構成要件要素が
259 充足されるか否かの結論を導くことが求められている。
260 次に,甲乙の法的な関係が問題となる。本問では,実際に合計200万円の預金払戻等に及
261 んだのが乙である上,甲が当初認識していた事実と実際に生じた事実との間にそごが生じてい
262 ることから,乙の行為について甲が刑事責任を負うか否かに関し,いかなる理論構成によるべ
263 きか,間接正犯や共犯の各成立要件を踏まえて検討することが必要である。その際,正犯がだ
264 れであるかが問題となり,甲を教唆犯,乙を正犯とする考え方のほか,甲を間接正犯,乙を故
265 意ある幇助道具とする考え方などがあり得るところ,後者の考え方によるには乙が甲の意図を
266 認識している点や乙に正犯性を認め得るのではないかとの点が障害となり得ることに留意しつ
267 つ,本問の具体的事実関係に即して論理的に考察することが求められている。さらに,乙によ
268 る120万円の払戻行為に関する甲の刑事責任について,前記そごを理由に因果関係や故意を
269 否定し得るのかどうかの検討も重要である。
270 また,甲乙の罪責に関する構成によっては,共犯と身分に関する処理が必要となろう。
271 問題文後半は,甲乙のいわゆる狂言行為についていかなる犯罪が成立するか,主として財産犯以
272 外の刑法各論の基礎的な知識と当てはめの能力を問うものである。
273 具体的には,監禁罪,偽計業務妨害罪,その他の国家的法益に対する罪等の成否が問題となり得
274 る幾つかの事実関係の中から,問題文において詳細に事実が提示されている甲乙の行為で,理論上
275 重要な問題点を含む事項について犯罪の成否を論述することが求められている。取り分け,甲が乙
276 を自動車のトランクに閉じ込めた行為について,乙がこれを承諾していることが監禁罪の成否に与
277 える影響に関する理論的な対立に留意しつつも,本問の具体的事実関係において当該理論がどのよ
278
279 -6-
280
281 うに適用されるべきかを注意深く検討することが必要であろう。
282 最後に,甲乙に成立する犯罪相互の関係に留意して罪数判断を示すことも必要である。
283 論述においては,刑法解釈上の論点に関する学説等の立場・見解の相違によって結論が異なり得
284 る個々の問題点については,自らの採る結論のみならず,それが正当であるとする論拠を説得的に
285 論述することが必要である。ただし,その場合,飽くまでも本問の事実関係を前提に,結論を導く
286 のに必要な点を中心に論ずるべきであって,本問の事実関係からかけ離れた一般論や結論を左右し
287 ない論点に関する理論的対立の検討に力を注ぐのは,出題意図にかなうものとは言えないであろう。
288 また,既知の判例や典型事例等の結論を,それが前提とする事実関係や本問の事実関係との相違
289 を十分検討せずに本問に当てはめたり,逆に,自ら是とする見解に適合しやすいよう恣意的に事実
290 をわい曲して評価したりすることも不適当と言わざるを得ない。
291 本問においては,事例を丁寧に分析・評価し,基本的な刑法解釈論を踏まえて粘り強く論理的な
292 思考を重ね,それを説得的に論述することこそが求められている。
293 〔第2問〕
294 本問は,捜査・公判に関する具体的事例を示して,そこに生起する刑事手続上の問題点の解
295 決に必要な法解釈,法適用にとって重要な具体的事実の分析・評価及び具体的帰結に至る過程
296 を論述させることにより,刑事訴訟法等の解釈に関する学識と適用能力及び論理的思考力を試
297 すものである。
298 設問1は,殺人及び死体遺棄事件を素材として,被疑者甲の共犯者乙が経営するT化粧品販
299 売株式会社を適法に発付された捜索差押許可状に基づいて捜索した際に行われた様々な写真撮
300 影について,その適法性を論じさせることにより,捜索差押えという強制処分の過程における
301 写真撮影の法的性質についての考え方,ひいては令状主義及び刑事訴訟法第218条第1項の
302 定める捜索,差押え及び検証についての正確な理解と具体的事実への適用能力を試すものであ
303 る。
304 捜索差押時に行われる写真撮影の適法性については,当該写真撮影が捜索差押えに付随する
305 処分として許される場合があるとの見解や捜索差押えの意義・内容からその本来的効力として
306 写真撮影が許されるとする見解などがあり得るが,いずれにせよ,まず,令状主義の意義と趣
307 旨に立ち帰ってこの問題に関する各自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論ずる必要が
308 ある。その上で,例えば,捜索差押えに付随する処分として許されるとする見解からは,証拠
309 物の証拠価値を保存するため,あるいは手続の適法性の担保のため写真撮影が許されるとの規
310 範を定立することになろう。
311 事例への法適用の部分では,具体的事例の写真@からCのいずれについても,写真撮影の対
312 象が本件捜索差押許可状の差押対象物,すなわち令状の本来的効力の対象である「本件に関連
313 する保険証書,借用証書,預金通帳,金銭出納帳,手帳,メモ,ノート」に該当するか否かを
314 まず検討し,その上で,当該写真撮影が証拠物の証拠価値を保存するためなどに必要であるか
315 否かを検討してその適法性を論ずることになろうが,いずれも事例中に現れた具体的事実を的
316 確に抽出,分析しながら論証すべきである。個々の適法又は違法の結論はともかく,具体的事
317 実を事例中からただ書き写して羅列すればよいというものではなく,それぞれの事実が持つ法
318 的な意味を的確に分析して論じなければならない。例えば,写真@については,白壁に書かれ
319 た記載の意味について甲の供述調書の記載から,本件との関連性を認定し,差押対象物である
320 「本件に関連するメモ」として,白壁の一部を破壊し取り外して差し押さえるよりも写真撮影
321 にとどめる方が処分を受ける者にとって不利益がより小さいため適法であるなどとの分析が可
322 能であるし,写真A及びBについては,通帳はいずれもA名義であるが,乙名義のパスポート
323 やA名義の印鑑などと同じ引き出し内に入っていたことから乙が実質的に管理・使用していた
324
325 -7-
326
327 通帳であることを論じたり,X銀行の通帳にある「→T.K」との鉛筆での書き込みの意味を
328 検討し,通帳が発見された時点からその書き込みがあったことを明らかにする必要性を論じる
329 ことなどが求められよう。また,写真Cについては,撮影されたパスポート,名刺等は令状記
330 載の差押対象物ではないが,乙による通帳の管理・使用すなわち,引き出し内にあった預金通
331 帳が本件に関連する通帳に該当する点を明らかにするため,同じ引き出し内にあったパスポー
332 ト等の乙の名義部分だけを写真撮影するという行為が,差押手続の適法性担保の観点から許さ
333 れないか等を論じる必要があろう。
334 設問2は,被疑者甲による犯行再現実験の結果を記録した実況見分調書について,その要証
335 事実との関係での証拠能力を問うことにより,伝聞法則の正確な理解と具体的な事実への適用
336 能力を試すものである。
337 本問では,検察官は「被告人が本件車両を海中に沈めることができたこと」という立証趣旨
338 を設定したが,弁護人は,その立証趣旨を「被告人が本件車両を海中に沈めて死体遺棄したこ
339 と」であると考え,本件実況見分調書の証拠調べ請求に対し,不同意の意見を述べている。犯
340 行再現行為が問題となった判例によれば,弁護人が考えるように犯罪事実の存在が要証事実に
341 なると見るべき場合には,刑事訴訟法第321条第3項所定の要件を満たす必要があるだけで
342 はなく,再現者が被告人である場合には同法第322条第1項所定の要件をも満たす必要があ
343 るとされていることから,果たして本件における要証事実をどのようにとらえるべきか,事例
344 中に現れた具体的事実関係を前提にして,的確な分析が求められる。
345 事案に則した前記判例の正確な理解を踏まえつつ,本件の具体的事実関係を的確に把握すれ
346 ば,本件は,判例の見解が前提としていた事案とは異なり,検察官が設定した立証趣旨をその
347 まま前提にするとおよそ証拠としては無意味になるような例外的な場合などではなく,甲が供
348 述しているような犯行態様が現場の客観的な環境との関係で物理的に可能であるか否かが正に
349 問題になる事案であるとの理解が可能である。
350 いずれの設問についても,法解釈論や要件について抽象的に論じるにとどまったり,判例の
351 見解をそのまま書き写すのではなく,事例中に現れた具体的事実関係を前提に,法的に意味の
352 ある事実の的確な把握と要件への当てはめを行うことが要請されている。
353 【選択科目】
354 [倒
355
356
357
358 法]
359
360 〔第1問〕
361 本問は,具体的な事例を通じて再生手続における事業譲渡に関する制度及び双方未履行の双
362 務契約関係の処理等についての理解を問うものである。
363 設問1(1)については,まず,Q社の意向を踏まえた上で選択すべき事業承継の方策とし
364 て,再生手続開始後の早い段階での事業譲渡が考えられることを指摘し,それに必要な手続(具
365 体的には民事再生法第42条及び第43条の裁判所の許可の申立て)について,本件事案の下
366 でそれらの要件を充足するか否かを具体的に検討し,論じる必要がある。
367 (2)については,B銀行の態度,他の債権者への弁済の必要性等本件の事情に照らして,
368 別除権協定の可能性を含め,担保権実行手続中止命令及び担保権消滅許可の申立てといった再
369 生債務者として採るべき手続を明らかにすることが求められる。さらに,それらの申立てが認
370 められる要件について具体的事案に即して論じる必要がある。
371 (3)については,再生債権の弁済に関する原則的な取扱いに触れた上で,本件において少
372 額の再生債権を弁済することを可能とする条文上の根拠として考えられるもの,具体的には民
373 事再生法第85条第5項(「少額の再生債権を早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続
374 に著しい支障を来すとき」に関する部分)を正確に指摘するとともに,具体的事案に即して,
375 その要件の充足の有無を論じる必要がある。
376 -8-
377
378 設問2については,民事再生法第49条による処理の原則を指摘した上で,A社が履行を選
379 択し,又はD社の催告に確答しなかった場合と,A社が解除を選択した場合とに分けて,A社
380 及びD社間の法律関係に関し,D社の有する債権及び債務が再生手続上どのように取り扱われ
381 るかという点や,A社による解除が履行済みの部分に与える効果等について具体的に論じる必
382 要がある。
383 〔第2問〕
384 本問は,具体的な事例を通じて,離婚をめぐって生ずる各種の法律関係と破産手続との関係
385 等についての理解を問うものである。
386 設問1(1)については,詐害行為取消訴訟が破産手続開始とともに中断すること,破産管
387 財人においてこれを受継することができること及び破産管財人が受継した場合には同訴訟が否
388 認訴訟に変更されることを前提とした上で,本件における財産分与の否認の可否を踏まえて,
389 破産管財人の受継の要否等を論じる必要がある。そして,財産分与の否認の可否については,
390 否認類型を意識しつつ,マンションの購入代金の提供者等本件における具体的な事情を踏まえ
391 て論じることが求められる。
392 (2)については,養育費の支払義務に係る債権が非免責債権となることを明らかにすると
393 ともに,同義務に係る債務名義による強制執行の可否を免責許可決定の確定前と確定後に分け
394 て論じる必要がある。そして,同決定の確定前については,民事再生法第249条第1項が非
395 免責債権についても適用されることを示した上で,その理由についても論じることが求められ
396 る。
397 設問2については,破産財団に関する訴訟が破産手続開始決定とともに中断するとの原則を
398 明らかにした上で,本件の慰謝料請求権に係る訴訟が上記原則の適用を受けるか否かについて,
399 本件慰謝料請求権の性質をどうとらえるか(行使上の一身専属的なものととらえられるかどう
400 か),その性質が訴えの提起や判決の確定という事情によって変化を来すのかどうかという点
401 に検討を加え,理由を明確にして自説を論じる必要がある。
402 [租
403
404
405
406 法]
407
408 租税法の出題に関しては,これまで,所得税法を中心とし,これに関連する範囲で法人税法
409 及び国税通則法を含み,いずれも基本的な理解を問うものを出題することとしてきた。
410 〔第1問〕
411 本問は,いわゆる不法利得に対する課税の在り方を通じて,所得税法の基礎的な理解と応用
412 力を試すものである。
413 まず,設問1前段の課税が許される根拠については,包括的所得概念・純資産増加説といっ
414 た所得概念を踏まえる必要はあるが,所得税法の条文上,不法な利得を所得から除外したり非
415 課税とする規定がないことなど,飽くまでも法解釈論としての根拠を示す必要があろう。設問
416 1後段は,所得区分を問題にしているが,ここでは,主に事業所得か雑所得かの区分が問題と
417 なる。
418 設問2(1)は,不法利得の収入金額の年度帰属の問題であり,権利確定主義,管理支配基
419 準がキーワードになる。利息制限法による制限超過の未収利息についての管理支配基準を適用
420 した最高裁判所の判決(最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁)が参考になる
421 が,いずれにせよ,Cに対する請求権の行使が法律上可能かどうかを踏まえて,権利確定があ
422 ったかどうかを検討すれば一定の結論を導くことができる。
423 設問2(2)は,必要経費に係る問題である。@は,そもそも賭博での負金の支出が,所得
424 税法第37条第1項にいう「必要経費」に当たるかどうか(賭博の負金のような法的支払義務
425 のない支出は,任意の家事的支出で,消費ととらえる考え方もあろう。),原価なのか販売費等
426 -9-
427
428 なのかの問題があり,更に債務が確定しているかどうかが検討されなければならない。必要経
429 費性については完璧な解答までを求めているわけではなく,本問では,主にコインの精算が法
430 的に義務付けられるものかどうかなどに着目して,これに整合的な結論を導けるかどうかを試
431 している。Aは,暴力団員に対する指導料名目の支出についてであるが,必要経費の要件であ
432 る事業関連性,客観的必要性があるかどうかにつき,当該支出の実質を踏まえて,どう評価す
433 るかが問題となる。また,公序に反するような支出について必要経費控除が認められるかどう
434 かという,いわゆる違法経費控除の可否についても検討されなければならない。Bは,違法な
435 事業に供されている機械についての減価償却費の控除の可否を問うもので,Aと同様に違法経
436 費の観点から,控除の可否が問題となる。設問2は,イレギュラーな所得稼得形態の収入金額
437 と必要経費性を問題としているだけに,問題解決に必要な基礎知識と,問題点抽出力,応用力,
438 自説を説得的で整合的に論述する能力が試されている。
439 〔第2問〕
440 本問は,役員退職慰労金の支給に関する課税上の問題について,所得税法及び法人税法のそ
441 れぞれの観点から検討することを求めるものであり,1つの事案を多角的・包括的に分析する
442 能力及び条文を正確に読解し事実を要件に適切に当てはめる能力を試している。
443 設問1は,役員の分掌変更に伴って支給される退職慰労金の所得税法上の取扱いについて,
444 @給与所得と退職所得との区別,取り分け所得税法における退職所得課税の趣旨及び同法第3
445 0条に規定する「退職」の意義の理解,A現物所得の取扱いに関する所得税法第36条第1項
446 括弧書及び同条第2項の理解を踏まえ,本文の事案に即して検討することを求めるものである。
447 @については,取り分け勤務関係の終了の意義に関する最高裁判所の判決(最判昭和58年9
448 月9日民集37巻7号962頁等)の立場を踏まえた論述が求められる。
449 設問2は,役員退職慰労金の支給,特に現物支給を,法人税法に従ってどのように処理すべ
450 きかを問うものである。法人税法上の所得算定の基本構造に照らし,役員退職慰労金の現物支
451 給については,1個の取引であるが,益金及び損金の両面において処理しなければならないこ
452 とを理解した上で,益人及び損金の両面において当該役員退職慰労金の支給を関連規定の要件
453 に当てはめることを求めている。その当てはめの検討においては,法人税法上の所得算定の基
454 本構造及び本問の事案に関連する条文を正確に理解しているかどうかが問われており,取り分
455 け法人税法第22条第2項,同条第3項及び第34条の規定並びにそれらの規定の相互関係に
456 関する正確な理解が重要である。
457 [経
458
459
460
461 法]
462
463 〔第1問〕
464 本問は,コスト削減を一つの契機とする機械メーカーによる部品の共同購入及び共同物流会
465 社の設立等の計画に関する独占禁止法上の問題点を検討させることをその趣旨としている。
466 このような業務提携は,必然的に競争事業者間の共同行為という性格を有することから,不
467 当な取引制限の構成要件である「行為の共同性」,
468 「事業活動の相互拘束」,
469 「一定の取引分野」,
470 「競争の実質的制限」等についての理解を問うものである。
471 部品の共同購入については,これが部品の購入市場のみならず製品販売市場における競争に
472 も影響を及ぼすおそれがあることを踏まえ,それぞれの市場における不当な取引制限の成否を
473 検討する必要がある。
474 まず,部品購入市場においては,共同購入カルテルの成否について,当該市場を一定の取引
475 分野として画定することの可否,本件共同購入計画の具体的な内容に基づく事業活動の相互拘
476 束性の判断,当該市場における競争の実質的制限の有無をいかなる事実によって認定すべきか
477 等についての検討が求められよう。
478 - 10 -
479
480 製品販売市場においては,部品の共同購入が行われることによるコストの共通化が川下市場
481 における製品の販売価格に影響を及ぼす可能性に着眼し,価格カルテルの成否について,部品
482 の調達予定金額の目安を検討する前提資料として製品価格の上限を協議して決定することを含
483 め,行為の共同性や事業活動の相互拘束あるいは競争の実質的制限をどのように認定するかに
484 ついて検討する必要があろう。
485 また,共同物流会社の設立については,同社が実際に行うこととなる事業活動の態様からす
486 ると,競争事業者である共同出資会社間において,競争手段にかかわる情報を共有することに
487 より,一定の共通認識を生ずるおそれがないかという観点から,製品の販売市場における不当
488 な取引制限の成否について検討することになる。
489 その場合は,当該会社の人的構成,あるいは配送の具体的な方法,製品の販売価格に占める
490 物流コストの比率などの事実関係を踏まえ,当該情報の共有が競争に与える影響をどのように
491 判断するか,行為の共同性や事業活動の相互拘束をいかに理解するか等がポイントとなろう。
492 いずれにしても,本問では,論点主義的な記述ではなく,不当な取引制限の構成要件の意義
493 を正確に理解した上で,当該行為の市場における競争への影響を念頭に置き,事実関係を丹念
494 に検討した上でその当てはめを行うことが求められる。
495 〔第2問〕
496 本問は,Aが中部地方で計画しているパソコンの販売及び東日本地域で計画している液晶テ
497 レビの販売について独占禁止法に違反しないかどうかを問うことによって,同法上の不当廉売
498 規制に関して基本的な理解ができているかを確認するものである。いずれも一般指定6項の要
499 件を検討することになり,6項前段については,「正当な理由」,「供給に要する費用を著しく
500 下回る」,「継続して」,「他の事業者の事業活動を困難にするおそれ」の要件を,6項後段につ
501 いては,「不当に」,「低い対価」,「他の事業者の事業活動を困難にするおそれ」の要件を検討
502 することになる。
503 Aが中部地方で計画しているパソコンの販売については,「継続して」の要件,「他の事業者
504 の事業活動を困難にするおそれ」の要件,「正当な理由」の要件を正確に理解し,問題文に示
505 された仕入価格,新規開店セール,キャンペーン期間,旧型製品などから適切に事実を抽出し
506 てその当てはめができるかを確認している。本件は,「継続して」の要件をみたすかどうか判
507 断が分かれ,いずれの立場によるかによって6項前段,後段のいずれを適用するかが変わって
508 くる。また,独占禁止法に違反しないとするものが多いと思われる。しかし,それらが唯一の
509 答えであるとする趣旨ではなく,要件を正確に理解した上で,事実関係を検討し正確に当ては
510 められるか,それらは論理的であるかを確認する趣旨である。
511 東日本地域で計画している液晶テレビの販売については,継続性の要件を満たすと考えられ
512 るが,37インチテレビの販売価格は仕入価格を下回り,40インチテレビの販売価格は仕入
513 価格を上回るが総販売原価を下回る事実関係となっていることから,6項前段,後段の適用関
514 係が問題になり得る。さらに,他の事業者の事業活動を困難にするおそれ及び正当な理由又は
515 不当性(公正競争阻害性)があるか否かも問題文に示された事実から検討することになろう。
516 具体的には,価格については,37インチテレビは6項前段,40インチテレビは6項後段を
517 適用するもの,一括して6項前段又は後段を適用するものなどがあり得るし,他の事業者の事
518 業活動を困難にするおそれはAの市場における地位,アンケート調査での当該商品の人気及び
519 家電専門店への影響等からこれを肯定する答案が考えられるが,ここでも一つの答えしかない
520 とする趣旨ではない。
521 いずれにせよ,本問においても,要件の意義を正確に理解した上で,当該行為の市場におけ
522 る競争への影響を念頭に置き,事実関係を丹念に検討した上でその当てはめを行うことが求め
523 られる。
524 - 11 -
525
526 [知的財産法]
527 〔第1問〕
528 特許を受ける権利は発明者に原始的に帰属するが,当該発明が職務発明(特許法第35条第
529 1項)に当たる場合には,あらかじめ契約,勤務規則その他の定めにより特許を受ける権利を
530 発明者の使用者等に承継させることを定めることができる。
531 特許出願後の特許を受ける権利の承継は,相続その他の一般承継の場合を除き,特許庁長官
532 への届出が効力要件とされ(特許法第34条第4項),また,特許権の移転は,相続その他の
533 一般承継の場合を除き,登録が効力要件とされる(特許法第98条第1項第1号)。なお,特
534 許を受ける権利の承継の届出(出願人名義変更届)は,譲受人が権利の承継を証明する書面を
535 添付することにより,単独で行うことができ,また,特許権の移転登録手続は,譲渡人と譲受
536 人との共同申請によることを原則とするが,移転登録手続を命じる判決によるときは譲受人が
537 単独で行うことができる。
538 そして,特許を受ける権利又は特許権が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者の同意
539 を得なければ,その持分を譲渡することができない(特許法第33条第3項,第73条第1項)。
540 以上を前提に,本問は,共同発明が職務発明である場合の法律関係を問うものである。
541 設問1の1では,α試薬の発明は,甲及び乙の共同発明であるとともに,甲とA社との関係,
542 乙とB社との関係ではそれぞれ職務発明となることを把握した上で,A社及びB社がα試薬の
543 発明の特許を受ける権利を承継するかどうか,承継するとした場合あるいは承継しないとした
544 場合に,A社及びB社は,甲及び乙にいかなる請求をすることができるかについて,本問の事
545 実関係に即して論じる必要がある。A社及びB社が特許を受ける権利を承継するとした場合に
546 は,後記の最高裁判所の判決を踏まえた論述が求められる。
547 設問1の2では,甲のB社に対するα試薬の製造販売の差止請求及び損害賠償請求の可否を
548 論じるに当たり,B社は,職務発明に基づく通常実施権を有するか等について検討する必要が
549 ある。
550 設問2は,共同発明について冒認出願がされた場合における真の権利者の救済手続について
551 の理解を問うものである。特許出願をした特許を受ける権利の共有者の一人の承継人であると
552 称して特許権の設定登録を受けた無権利者に対する当該特許権の持分の移転登録手続請求を認
553 めた最高裁判所の判決(最判平成13年6月12日民集55巻4号793頁・生ゴミ処理装置
554 事件)を踏まえた論述が求められる。
555 論述を展開するに当たっては,発明者でない丙が無断で特許出願をした場合と共同発明者の
556 一人である甲が無断で単独出願をした場合との対比が必要となる。なお,設問では甲,乙,A
557 社又はB社の丙に対する請求について問われているので,設問1の1で検討したように,A社
558 及びB社がα試薬の発明の特許を受ける権利を承継するか否かが論述の前提となる。
559 〔第2問〕
560 設問1は,甲が作成した絵画Aの贈与を受けて,これを知り合い十数名に見せ,そのうちの
561 丙に売却した乙に対する甲の請求を,また,絵画Aに描かれたキャラクターの彫刻Bを作成し,
562 これを自らが経営する玩具店の店内に置き,丁市に譲渡した丙に対する甲の請求を問うもので
563 あり,甲が乙及び丙に対していかなる権利の侵害に基づいてどのような請求をすることが可能
564 であるかを論述させるものである。乙の行為により侵害される権利としては,公表権,譲渡権
565 等が問題となる。公表権に関しては,乙の行為が「著作物でまだ公表されていないもの・・・
566 を公衆に提供し,又は提示する」(著作権法第18条第1項)ものに当たるかどうかや,甲と
567 乙との間の他人に見せない旨の合意と著作権法第18条第2項第2号との関係を論じる必要が
568 ある。譲渡権に関しては,乙の行為が著作物の「原作品又は複製物・・・の譲渡により公衆に
569 - 12 -
570
571 提供する」(著作権法第26条の2第1項)ものに当たるかどうか,著作権法第26条の2第
572 2項第3号に該当するものの譲渡に当たるかどうか,甲と乙との間の他人に譲渡しない旨の合
573 意が同号の適用に影響を与えるかどうかを論じる必要がある。丙の行為により侵害される権利
574 としては,翻案権,展示権,譲渡権,同一性保持権,公表権等が問題となる。翻案権に関して
575 は,彫刻Bの作成が翻案に当たる場合について論述することが求められる。彫刻Bの作成が翻
576 案に当たるとした場合,彫刻Bが絵画Aの二次的著作物となることから,展示権,譲渡権につ
577 いては,同法第28条,公表権については,同法第18条第1項後段に言及することとなろう。
578 そして,乙及び丙に対する請求として,差止請求や損害賠償請求が可能であるかどうかについ
579 て論じる必要がある。
580 設問2は,甲と,ラストシーンの10秒程度に彫刻Bが写っている映画CのDVDを販売し
581 ている戊との間の法律関係を問うものである。まず,著作権の侵害を理由とする甲の戊に対す
582 る差止請求の主張に関しては,頒布権(著作権法第26条第2項)の侵害等を論述することが
583 求められる。次に,甲の主張に対する戊の反論及び戊の反論に対する甲の再反論に関しては,
584 戊の行為と著作権法第46条との関係(二次的著作物が「屋外の場所に恒常的に設置されてい
585 る」場合における原著作物についての著作権に対する同条の適用や同条第4号の該当性),映
586 画Cに彫刻Bが写っていることが著作物の複製に当たるかどうか等について検討する必要があ
587 る。
588 [労
589
590
591
592 法]
593
594 〔第1問〕
595 本問は,配転命令を契機として無断欠勤を理由とする普通解雇が行われた事例について,法
596 的問題点を抽出し,具体的な事例に適用することを通じて,配置転換及び解雇をめぐる問題の
597 理解を問うものである。いずれも労働法における基本的な論点といえるが,そのまま適用する
598 かどうかは別として,これらに関する判例の知識が前提となり,それを正確に示した上で自ら
599 の考えを述べることが期待される。
600 まず,本問の事例では,配転命令が普通解雇の前提となっていることから,Xに対する配転
601 命令の効力について論じる必要がある。XとY社との合意内容や就業規則の規定に照らしなが
602 ら,Y社がXに対して配転命令を出す権限を有していたかを記述し,さらに配転命令が権利濫
603 用に当たらないか否かを,判例による判断枠組みを踏まえながら,本件の具体的な事実関係に
604 即して分析することが求められる。
605 次に,それを前提に,本件解雇が有効かどうかを検討することになる。本件解雇が就業規則
606 の規定に基づいて行われていることを指摘した上で,Xが本社に出社しなかったことが就業規
607 則に定める解雇事由に該当するか否か,あるいは解雇権の濫用(労働契約法第16条)に当た
608 らないかどうかを吟味すべきである。また,必要があれば,労働基準法第20条の解雇予告の
609 問題にも触れることになろう。
610 最後に,以上を踏まえつつ,XとY社との法的地位,権利関係について整理する必要がある。
611 配転命令や普通解雇が無効である場合,Xが出社しなくなった2月1日から解雇が行われた時
612 点までと,その後5月31日までのそれぞれについて,賃金の支払を求めることができるかを
613 民法第536条第2項を用いて説明することが必要となる。さらに,Xのアルバイト収入が控
614 除されるかどうか,控除されるとするとその金額は幾らか(労働基準法第26条や同法第24
615 条との関係),支払済みの解雇予告手当はどのように扱うべきかを述べることが求められる。
616 〔第2問〕
617 本問は,期間従業員の労働契約の打切りと,それを契機に行われた労働組合のストライキの
618 事例を素材として,有期労働契約の終了,争議行為の正当性,ストライキ時における賃金カッ
619 - 13 -
620
621 ト,懲戒処分の根拠・効力といった問題に関する理解を問うものである。事実関係はやや複雑
622 であるが,論点はオーソドックスであり,労働法に関する基本的な理解を求めるものである。
623 設問1では,Y社がX1らに対して行った雇用打切りの法的性質は何か,これが有期労働契
624 約の更新拒絶(雇止め)であるとすれば,雇用打切りについて解雇権濫用規定(労働契約法第
625 16条)は類推適用されるか,類推適用を認めた場合,本件雇止めは法的にどのように評価さ
626 れるか,本件雇止めが不当と解される場合の効果はいかなるものかが論点となり,事実関係を
627 踏まえた検討が求められる。また,Y社は,平成20年9月30日付けで従来の労働契約をい
628 ったん合意解約するとともに,平成21年3月31日をもって退職することを内容とする新契
629 約を締結しており,この事実が解雇権濫用規定の類推適用の当否や,雇止めの当否にどのよう
630 に影響するのかについても検討する必要がある。
631 設問2では,まず,Y社がN組合の役員であるRとSに対して行った懲戒処分の根拠と効力
632 が問題となる。懲戒処分の根拠については,本問の事実関係(Y社就業規則の懲戒事由規定の
633 存在)に留意する必要がある。懲戒処分の効力については労働契約法第15条に沿って検討す
634 ることになるが,本件懲戒処分は,N組合のストライキの計画・指導を理由に行われているの
635 で,本件ストライキの正当性が重要な論点となる。特に,X1ら期間従業員問題の打開を図る
636 目的で実施されたという目的面と,本件ストライキが部分ストという形で実施されたという態
637 様面で,それぞれどのように評価されるかがポイントとなろう。また,懲戒処分の効力に関す
638 る法律構成としては,労働契約法第15条だけで構成するか,憲法第28条や民法の公序規定
639 (民法第90条)を用いるか,あるいは不当労働行為禁止規定(労働組合法第7条)を活用す
640 るかが問題となる。さらに,懲戒権の濫用に関しては,RとSに対する処分の相当性及び懲戒
641 手続の当否についても検討する必要がある。
642 [環
643
644
645
646 法]
647
648 〔第1問〕
649 本問は,環境負荷物質の種類に応じてどのような対応や手法が必要となるかを,論理的に説
650 明できる能力を問う問題である。環境法政策の根本的部分を扱ったものである。
651 設問1では,ばい煙及び有害大気汚染物質へのそれぞれの対応について条文を挙げつつ説明
652 し,ばい煙については,いわゆる規制的手法が用いられていること,有害大気汚染物質対策に
653 関しては,事業者の責務とされ,罰則もなく,自主的取組手法が中心であることを示し,対応
654 の仕方に相違がある理由については,科学的知見が確実であるか否かによることを説明するこ
655 とが求められている。
656 設問2の小問1は,二酸化炭素の特質について,@排出者は特定の者ではなく,程度の差は
657 大きいが国民全体がかかわっていること,A二酸化炭素については世界全体での削減が問題と
658 なり,国全体での総量削減が必要であり,地域的な排出量の偏在は問題とならないこと,B二
659 酸化炭素は現在のところ人為的活動に伴って不可避的に生ずるものであり,その削減にははく
660 だいなコストが掛かるため,いかに社会的コストを少なくして削減するかが重要となること,
661 C前記Bと同様の理由から継続的削減が重要であり,削減のために現在の技術では十分でなく,
662 技術革新・技術普及が必要であることなどを指摘することが求められている。そして,経済的
663 手法が重要であることについて,その理由を,上記の特質と対応させて指摘することが求めら
664 れる。
665 設問2の小問2は,経済的手法の中でどういう措置があるかを挙げ,長所短所を問う問題で
666 あり,税・賦課金,排出枠取引(排出量取引,排出権取引),補助金の長短を説明することが
667 求められる。
668 〔第2問〕
669 - 14 -
670
671 本問は,自然環境保全に関し,自然公園法の全体的理解及び自然破壊という具体的事例にお
672 ける同法規定の適用のされ方の理解並びに環境民事訴訟における環境保護団体の訴訟法上の論
673 点及び環境権等の実体法上の論点についての理解を問うものである。
674 設問1の@の段階では,廃タイヤの集積という行為に対し,行政上の措置に関する法の規定
675 がどのように適用されるかを正しく示し,検討することが求められる。自然公園法(以下「法」
676 という。)第14条第1項の特別保護地区内では,同条第3項が適用され,その違反に対して
677 県知事は法第27条の中止命令・原状回復命令を発することができる。また,法第13条第1
678 項の特別地域内では,同条第3項の要件に該当する場合に法第27条の適用がある。解答に当
679 たっては,これらの規定がいずれも優れた自然の風景地の保護を目的とすることを考慮するこ
680 とが期待される。なお,法第27条については,県知事の措置として行政代執行について言及
681 することが求められる。
682 設問1のAの段階では,さらに,公園事業として設置された施設を焼失させた原因者に対し
683 ては,法第47条に基づき費用負担を求め得ることにも言及することが求められる。なお,本
684 問は行政上の措置を求めているので,民事訴訟の提起は対象とはしていない。
685 設問2では,本件団体の主張として,まず当事者能力について,権利能力なき社団(民事訴
686 訟法第29条)に該当するとの主張が求められる。次に,団体固有の請求権に基づいて請求す
687 るのでなければ,当事者適格について,環境保護団体として原告適格があるとの主張が求めら
688 れる。この点について予想される法的主張としては,選定当事者(同法第30条),任意的訴
689 訟担当として許されるとの主張のほか,環境利益をめぐる提訴前に重要な解決行動を行った紛
690 争管理権者として当事者適格を有する(紛争管理権説)との主張や,訴訟提起前の紛争解決過
691 程への関与等を任意的訴訟担当の要件として再構築するという主張も挙げられよう。
692 次に実体権として撤去請求を根拠付けるものとしては,人格権,環境権の主張が予想される。
693 いずれの場合でも,本問の原告が団体であることを考慮した主張を検討することが必要である。
694 これらに対する乙の反論としては,権利能力なき社団に該当しないとの反論,選定当事者,
695 任意的訴訟担当が認められる要件を満たさないとの反論のほか,紛争管理権説に対しては,最
696 高裁で否定されている(最判昭和60年12月20日裁判集民事146号336頁・豊前火力
697 発電所事件)との反論が考えられる。
698 また,環境権に対しては,環境権そのものが認められないことのほか,団体としての環境権
699 に対する反論が考えられる。
700 [国際関係法(公法系)]
701 〔第1問〕
702 本問は,国際紛争が発生したときに,国際法上,紛争当事国や紛争の局外にある第三国がそ
703 れに対していかなる対応をすることが可能かを問うている。
704 設問(1)では,Y国がX国民に対して行った預金凍結措置がそれ自体だけからの判断だと
705 国際法上許されないことを前提にして,それが対抗措置として正当化できるかどうか,具体的
706 には「先行違法行為の存在」等の実体要件や「義務履行要請」等の手続要件がいかなるもので,
707 上記Y国の措置がこれらの要件を満たすか否かを問うている。
708 設問(2)は,Y国の武力行使が,XY両国が加入する地域機関のA連合平和安全保障理事
709 会の決議によって許されるか否かを問うものである。武力行使は一般的には禁止されているが,
710 自衛の要件を満たすものは例外であり,国連安全保障理事会の決定によるものも許されると通
711 説的には解されている。本問では,A連合平和安全保障理事会の決議が武力行使を正当化し得
712 るかどうか,特に国連憲章第8章「地域的取極」との関係でどのように位置付けられるかが最
713 大のポイントである。
714 設問(3)は,XY国間の国際紛争に対して,国連が何をできるかを前提にして,紛争の局
715 - 15 -
716
717 外にある国連加盟国が国連に対して何を要請できるかを問うものである。国連では,武力行使
718 が現実に起こった状況では,国連安全保障理事会が第一次的な責任を持ち,総会の責任が安全
719 保障理事会の責任を補完するものにすぎないこと,また総会は加盟国に対して勧告を行うにと
720 どまるが,国連安全保障理事会は国際紛争を解決するための勧告にとどまらず(国連憲章第6
721 章),「平和に対する脅威」等を認定して強制措置を実施することができる。これらの点を踏ま
722 えて,解答を作成することが期待される。
723 設問(4)では,そもそも国際司法裁判所が本件について管轄権を持ち得るか,国際司法裁
724 判所の管轄権があればX国はY国に何を請求すればよいか,また本案判決前に「暫定措置(又
725 は仮保全措置)」(国際司法裁判所規程第41条)を求めることはできるか,暫定措置の有用性
726 はどうかを問うている。
727 国際関係法(公法系)の場合も,法規の解釈と対象状況への当てはめ(適用)は,きちんと
728 分けて考えることが期待される。
729 〔第2問〕
730 <日本の法曹が直面する事象としての現実性>
731 本問の事例は,現在進行形で,日本が国際法上の対応が求められている問題を素材としてい
732 る。数年にわたり,鯨類資源の利用と保存という問題に係る国際法上の方針として,日本は調
733 査捕鯨を実施している。この調査捕鯨を実施する日本の船舶は,毎年,公海上で外国船舶及び
734 その乗員から妨害行為を受けているが,これらの妨害行為に対して国際法上で日本がいかなる
735 措置を採り得るかの判断は,日本にとって喫緊の課題である。さらに,状況によっては,公海
736 上で妨害行為を行う船舶の船長や実行行為者について,日本の国内裁判所でこれらの個人が訴
737 えられる可能性もある。
738 設問1 <管轄権の種類と国際法上の根拠>
739 第一に,管轄権の国際法上の根拠を問うている。管轄権の根拠は属地主義,属人主義及びそ
740 れらの亜種,保護主義,普遍主義など,複数存在し,国際社会での承認の程度はそれぞれで相
741 違している。本問でA国の国内法が規定する管轄権の根拠は何か,その根拠が国際法上でどの
742 程度承認されているかを説明した上で,同国内法規定が本問の事実に適用される態様(事例へ
743 の当てはめ)を明らかにしなければならない。
744 第二に,管轄権には,立法・執行・裁判という種類ないし機能がある。本問の事例で,A国
745 内水にB国を旗国とする船舶が任意で入港したという事実に着目して,同船舶の船長に対して
746 A国の執行・裁判管轄権が行使されること,その前提としては,A国の国内法の適用が公海上
747 の外国人による妨害行為に及んでいること,すなわち,立法管轄権が及んでいることを説明し
748 なければならない。立法管轄権の行使は,他の種類の管轄権に比較して,国際法による許容性
749 が高いことや,ローチュス号事件が本問における事件と類似性を持つ先例として存在すること
750 なども,関連する論点として考えることができる。
751 設問2 <公海制度の基本原則とそれに照らした公海上の措置の法的評価>
752 第一に,公海の基本原則である公海自由の原則,公海秩序維持のための旗国主義が問われて
753 いる。国連海洋法条約(新司法試験用法文搭載法令)の規定群を反復するだけでなく,公海自
754 由の原則と旗国主義につき,その趣旨目的も含めて,
755 「簡にして要を得た」説明が求められる。
756 第二に,本問の事例で,公海上で旗国以外の国が船舶に対して執行措置を採ることが許され
757 るかを決定するに際しては,妨害行為の性質判断が前提となる。海賊とみなすならば,関連規
758 定群の解釈とともに,本問の事実に即して規定を適用(事例への当てはめ)して結論を導くこ
759 とが求められる。あるいは,海賊とはみなさずに,妨害行為を衝突とみなすことの適否を論じ
760 たり,国連海洋法条約に規定する例外からは離れて,非旗国が公海上の船舶に対して執行措置
761 を採ることを法的に正当化する可能性を導けないか,そのための根拠となる規定が国連海洋法
762 - 16 -
763
764 条約にあるか(例えば,旗国の義務規定)などの検討を行うことも考えられる。
765 [国際関係法(私法系)]
766 〔第1問〕
767 本問は,外国離婚判決の承認要件である国際裁判管轄の基準を問うと同時に,婚姻の実質的
768 ・形式的成立要件に適用される準拠法いかんを問う問題である。いずれの設問においても丁寧
769 な当てはめの作業が示されなければならない。
770 設問1は,離婚事件の国際裁判管轄(間接管轄)の基準を問うものである。まず,間接管轄
771 と直接管轄の関係に触れ,その上で,最高裁判所の判決(最判昭和39年3月25日民集18
772 巻3号486頁及び最判平成8年6月24日民集50巻7号1451頁)を意識した基準の定
773 立及び設問の事案への当てはめが求められている。
774 設問2は,法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)第24条第1項の問題であ
775 ることの認識及び配分的適用と呼ばれる準拠法の適用方法の理解を問うものである。いわゆる
776 一方的要件と双方的要件を抵触法又は実質法のいずれの平面の問題としてとらえるにせよ,再
777 婚禁止期間(小問1)と重婚禁止(小問2)に関する要件の処理方法に言及することが求めら
778 れている。また,当事者の本国法による婚姻の実質的成立要件が共に充足されない場合の法律
779 効果の処理についても検討しなければならない(小問2)。
780 設問3は,婚姻の形式的成立要件に適用される準拠法及びいわゆる領事婚に関する民法第7
781 41条の理解を問うものである。@とAの方法を婚姻の方式の問題として性質決定することを
782 前提として,@の方法は,通則法第24条第2項又は第3項により指定される甲国法による婚
783 姻の形式的成立要件を満たすものであるが,Aの方法は,同条第3項に基づき指定される日本
784 民法第741条の要件を欠くことが示されなければならない。
785 〔第2問〕
786 本問は,国際的な取引の事案を基に,関係する問題の準拠法の決定方法及び専属的裁判管
787 轄合意をめぐる当事者の利益状況を問う問題である。いずれの設問においても丁寧な当ては
788 めの作業が示されなければならない。
789 設問1は,法人の機関の代表権の準拠法を問う問題である。法人の機関の代表権を法人のい
790 わゆる従属法の問題として性質決定することを前提とし,設立準拠法主義と本拠地法主義のい
791 ずれが従属法として採られるべきかという点を中心にした論述を求めるものである。
792 設問2の小問1は,専属裁判管轄の合意が当事者のいかなる法的利益に影響するかを問うも
793 のである。
794 設問2の小問2は,当事者が契約準拠法を定めなかった場合おける準拠法決定のプロセスを
795 問うものである。通則法第7条の規定の適用がないことを確認した後に,いわゆる特徴的給付
796 について言及しながら,同法第8条第1項の「最も密接に関係がある地の法」と同条第2項の
797 「推定」の関係を説明することが求められている。
798 設問3は,債権譲渡の債務者に対する効力の準拠法を問うものである。通則法第23条の規
799 定の立法の趣旨,特に譲渡債権の準拠法によらない場合の不都合等に言及しながら,債務者と
800 の関係における債権譲渡の効力の問題として性質決定すべきことを論述し,当該規定を適用す
801 ることが求められている。
802
803 - 17 -
804
805