1 論文式試験問題集[刑事系科目]
2
3 1
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の【捜査の端緒及び経過】,
8 【逮捕後の甲の供述要旨】,
9 【逮捕後の乙の供述要旨】及び【丁の
10 供述要旨】に基づき,
11 甲及び乙の罪責について,
12 具体的な事実を示して論じなさい(ただし,
13 特別
14 法違反を除く。
15
16 )。
17
18 なお,
19 各供述要旨の内容は信用できるものとする。
20
21
22 【捜査の端緒及び経過】
23 1
24
25 捜査の端緒
26 平成18年2月6日午後9時5分,
27 110番通報を受けたJ県警察本部通信司令室から管内
28 M警察署に,
29
30 「M町の中央公園東側路上で男性三人のけんか。
31
32 そのうち一人が負傷した模様。
33
34 現
35 場に急行せよ。
36
37 」との指令があった。
38
39
40
41 2
42
43 捜査の経過及び結果
44
45 (1)
46 ア
47
48 捜査の経過
49 同日午後9時10分ごろ,
50 M警察署の警察官らがM町内の中央公園に臨場したところ,
51
52 男性丙が頸部付近から大量の血を流して公園東側路上に倒れており,
53 丙のそばに二人の男
54 性(甲及び乙)が立っていた。
55
56 付近の路上に,
57 刃に真新しい血痕が付着したカッターナイ
58 フ(柄の長さ15.2センチメートル,
59 刃の長さ8.5センチメートル)が落ちていた。
60
61
62 カッターナイフの刃は柄の部分から約3センチメートル出ていた。
63
64
65
66 イ
67
68 警察官の事情聴取に対し,
69 甲は「会社の寮の前で丙,
70 丁とけんかになりました。
71
72 丙に暴
73 力を振るわれたので公園まで逃げてきましたが,
74 丙が追い掛けてきたので持っていたカッ
75 ターナイフで丙を切り付けました。
76
77 また,
78 乙さんも同じカッターナイフで丙を切り付けま
79 した。
80
81 」と述べた。
82
83 また,
84 乙は「寮の前で甲が丙,
85 丁とけんかをしていたので仲裁をしまし
86 た。
87
88 いったんは収まったのですが,
89 再びけんかを始めた上,
90 丙が言うことを聞かなかった
91 ので,
92 頭に来て甲のカッターナイフで丙を切り付けました。
93
94 」と述べた。
95
96
97
98 ウ
99
100 警察官は,
101 甲と乙が前記のような供述をした上,
102 両名の衣服に真新しい血痕の付着を認
103 めたので,
104 午後9時40分,
105 両名を傷害の現行犯人として逮捕し,
106 現場に落ちていた前記
107 カッターナイフを差し押さえた。
108
109
110
111 (2)
112 ア
113
114 丙の死因
115 丙は28歳の男性で,
116 健康状態に全く異常はなかった。
117
118 同日午後9時15分ごろ,
119 救急
120 車が現場に到着し,
121 丙をM町内の病院に搬送したが,
122 同日午後11時55分ごろ,
123 丙は同
124 病院内で死亡した。
125
126
127
128 イ
129
130 司法解剖等の結果,
131 丙には,
132 左頸部に長さ約7センチメートルの切創があり,
133 頸動脈を
134 損傷していること,
135 左上腕部に長さ約4センチメートルの切創があること,
136 丙の死因は前
137 記頸動脈損傷による失血死であること等の事実が判明した。
138
139
140
141 (3)
142 ア
143
144 捜査の結果
145 捜査を継続したところ,
146 丁の供述から,
147 同人が甲に左腕をバットで殴られた事実が判明
148 するとともに,
149 甲らが居住する独身寮玄関前の路上に落ちていた軟式野球用木製バット(長
150 さ約85センチメートル,
151 重さ約800グラム)を発見し,
152 領置した。
153
154 また,
155 丁から「加
156 療約2週間を要する左上腕部打撲」との内容の診断書の提出を受けた。
157
158 なお,
159 甲も左上腕
160 部に軽度の打撲傷を負っていた。
161
162
163
164 イ
165
166 甲及び乙の逮捕後,
167 甲,
168 乙及び丁から供述を録取するなどして捜査を遂げたが,
169 丙の左
170 頸部及び左上腕部の各切創については,
171 @各切創とも,
172 甲,
173 乙いずれの切り付け行為によ
174 って生じたものか,
175 その特定はできず,
176 A各切創の位置関係からみて,
177 1回の切り付け行
178 為によっては生じ得ないことが判明した。
179
180
181
182 2
183
184 【逮捕後の甲の供述要旨】
185 1
186
187 私は現在30歳で独身である。
188
189 平成15年4月にT株式会社に就職し,
190 配送課所属のトラッ
191 ク運転手として働いており,
192 会社の独身寮2階に住んでいる。
193
194 丙は同時期に入社した同僚で,
195
196 同じ寮の1階に住んでいる。
197
198 丙は私より2歳年下である。
199
200 私と丙は日ごろから仲が悪かった。
201
202
203 平成17年6月ごろ,
204 私が丙の仕事ぶりに苦情を言ったところ,
205 丙が怒り出してつかみ合いの
206 大げんかになったが,
207 身長165センチメートルの私に比べ,
208 丙は身長180センチメートル
209 くらいあり,
210 体力的に私より勝っていた上に,
211 柔道の経験があったため,
212 私は丙に組み伏せら
213 れた。
214
215 これ以外にも,
216 何度かけんかをしたことがある。
217
218
219 丁も同じ寮の1階に住む仕事仲間で,
220 私より2歳年下である。
221
222 丁は丙の親友であり,
223 丙が私
224 と仲が悪かったため,
225 丁も私とほとんど口をきかなかった。
226
227 なお,
228 丁の身長は約170センチ
229 メートルで,
230 体力的に私より勝っていたと思う。
231
232
233
234 2
235
236 平成18年2月6日午後6時ごろから,
237 M町内の飲食店で,
238 配送課の懇親会があった。
239
240 懇親
241 会が終わりかけたとき,
242 ほろ酔い加減になった丙が私に因縁を付けてきた。
243
244 私が言い返したら
245 けんかになり,
246 私は丙に顔面をこぶしで殴られ,
247 畳の上に身体を押さえ付けられた。
248
249 この場は,
250
251 配送課長の乙さんが仲裁に入ってくれたので,
252 何とか収まった。
253
254 私は乙さんに「ひと足先に帰
255 宅した方がよい。
256
257 」と言われたので,
258 懇親会が終わる前に一人で帰った。
259
260
261
262 3
263
264 私は午後8時ごろタクシーで帰宅し,
265 その後,
266 寮2階の自分の部屋でテレビを見ていたとこ
267 ろ,
268 午後9時前ごろになって,
269 丙と丁が談笑する声が寮の前の路上から聞こえてきた。
270
271 私は丙
272 らの笑い声を耳にして怒りが込み上げ,
273 自室のベランダに飛び出して,
274 路上にいた丙らに対し
275
276 「さっきは何で殴ったんだ。
277
278 謝れ。
279
280 」と怒鳴りつけた。
281
282 すると,
283 丙は「ふざけるな。
284
285 謝ってほし
286 ければ下に降りて来い。
287
288 」と怒鳴り返してきた。
289
290 また,
291 丙と一緒にいた丁も「さっさと降りて来
292 い。
293
294 」と大声で言い返してきた。
295
296 私は謝るどころか逆に私をばかにしたような丙と丁の態度を見
297 て,
298 怒りを押さえきれなくなり,
299 寮1階まで降りて行き,
300 玄関前の路上に出た。
301
302 このとき,
303 私
304 は,
305 丙らは路上で騒いでいるだけで,
306 丙らの方から寮2階の私の部屋に押し掛けてくることは
307 ないが,
308 私が降りて行けば,
309 丙らとけんかになるに違いないと思っていた。
310
311 しかし,
312 私は頭に
313 血が上っていたので,
314 自分を押さえることができなかった。
315
316 そして,
317 丙らは凶器になるような
318 物を持っている様子はなかったが,
319 いずれも私より体力的に勝っていた上,
320 複数いたので,
321 け
322 んかになれば素手ではやられてしまうと思い,
323 部屋に置いてあった長さ約85センチメートル
324 の木製バットを持ち,
325 さらに,
326 柄の長さ約15センチメートルのカッターナイフをズボンのポ
327 ケットに入れて,
328 部屋を出た。
329
330
331 4
332
333 私は寮の玄関前の路上に降りて行ったが,
334 案の定,
335 丙は「でかい顔するな。
336
337 」と罵声を浴びせ
338 ながら,
339 私の胸ぐらをつかんだ。
340
341 私がバットを左手に持ったまま,
342 右手で丙の胸ぐらをつかみ
343 返したところ,
344 丁は「この野郎。
345
346 」と言いながら,
347 横から私の肩をつかんできた。
348
349 私は丁の方に
350 身体を向けたが,
351 背後から丙に羽交い締めにされ,
352 丁に顔面をこぶしで1回殴られた。
353
354 私は丙
355 の腕を振り払ったが,
356 丙に加勢した丁に対し非常に腹が立ったので,
357 右手にバットを持ち換え
358 て,
359 目の前にいた丁の肩付近を目掛けて思い切り振り回した。
360
361 すると,
362 バットが丁の左腕に当
363 たり,
364 丁は「痛い。
365
366 」と言いながらその場にうずくまった。
367
368 丙は「何するんだ。
369
370 」と大声を上げ
371 て私の胸ぐらをつかみ,
372 私も丙の胸ぐらをつかみ返した。
373
374 そのとき,
375 乙さんが現れ,
376
377 「何やって
378 るんだ。
379
380 きちんと話し合え。
381
382 」と大声で私たちをしかりつけた。
383
384 私は乙さんにしかられたことで
385 冷静になろうという気持ちになり,
386 丙と話し合うつもりで丙から手を離し,
387 バットを路上に置
388 いた。
389
390 丙も「分かったよ。
391
392 」と言って私から手を離した。
393
394 この様子を見て,
395 私は,
396 丙も乙さんの
397 説得に従ってけんかをするつもりがなくなったのだと思った。
398
399
400
401 5
402
403 その後,
404 丁は腕を押さえながら先に寮に戻った。
405
406 私は寮内で丙と話し合うつもりで,
407 乙さん
408 を先頭に,
409 丙,
410 私の順番で寮の玄関に向かって歩き出した。
411
412 すると,
413 丙が,
414 突然,
415 私が路上に
416
417 3
418
419 置いたバットを拾い,
420 「この野郎。
421
422 」と怒鳴りながら私の頭部付近を殴り付けてきた。
423
424 とっさに
425 よけたが,
426 バットが私の左腕に当たった。
427
428 私がその場から走って逃げたところ,
429 丙はバットを
430 その場に放り投げ,
431 私の後を走って追い掛けてきた。
432
433 私は必死で逃げたが,
434 寮の前から約50
435 メートル離れた中央公園東側路上で丙に追い付かれそうになった。
436
437 私は,
438 このとき,
439 カッター
440 ナイフをズボンのポケットに入れていたことを思い出し,
441 このままでは丙にやられてしまうと
442 いう気持ちと,
443 いったん乙さんの仲裁でけんかをやめたのに更にしつこく暴力を振るう丙に対
444 する腹立たしさから丙を切り付けようと考え,
445 カッターナイフを取り出して右手で柄を持ち,
446
447 刃を出した。
448
449 そのとき,
450 丙が私に追い付き,
451 大声で怒鳴りながら背後から私の肩をつかんだの
452 で,
453 私は丙の方を振り向き,
454 丙の肩付近を目掛け,
455 カッターナイフで1回切り付けた。
456
457 実際に
458 カッターナイフが丙の身体のどの部分に当たったのかは分からなかったが,
459 丙の動きが止まっ
460 た。
461
462
463 6
464
465 私がカッターナイフを手に持って身構えながら丙の様子を見ていたところ,
466 丙も私をにらみ
467 返してきた。
468
469 そのとき,
470 私たちを追い掛けてきた乙さんが「ちゃんと言うことを聞け。
471
472 分かっ
473 たか。
474
475 」と丙を怒鳴りつけた。
476
477 すると,
478 丙は「偉そうに上司面するんじゃねえよ。
479
480 」と言い返し
481 た。
482
483 乙さんは丙のこの言葉に冷静さを失った感じで,
484 「何だと。
485
486 」と怒鳴りながら丙の胸ぐらを
487 両手でつかんだ。
488
489 私は,
490 乙さんが加勢してくれたと思って心強く感じ,
491 丙の顔面をこぶしで1
492 回殴り付けた。
493
494 丙は私と乙さんに「ばか野郎。
495
496 二人とも死んじまえ。
497
498 」と怒鳴り返してきた。
499
500 す
501 ると,
502 乙さんは「俺によこせ。
503
504 」と言って私が持っていたカッターナイフを自ら手に取り,
505 丙を
506 切り付けた。
507
508 私はカッターナイフが丙の身体のどの部分に当たったのかは分からなかった。
509
510 そ
511 の後,
512 丙は私や乙さんともみ合っていたが,
513 しばらくすると,
514 路上に倒れて動かなくなった。
515
516
517 そして,
518 気が付くと丙の首付近から大量の血が流れ出していた。
519
520
521
522 7
523
524 その後,
525 私は現場に到着した警察官に傷害の現行犯人として逮捕された。
526
527
528
529 【逮捕後の乙の供述要旨】
530 1
531
532 私は現在40歳である。
533
534 平成5年4月にT株式会社に就職し,
535 配送課長として約20人のト
536 ラック運転手のまとめ役をしている。
537
538 甲,
539 丙及び丁は配送課の部下である。
540
541 私は会社から徒歩
542 約15分の所にあるマンションで,
543 妻及び子供二人と暮らしている。
544
545
546
547 2
548
549 甲は少し気は短いが,
550 まじめで仕事熱心な部下である。
551
552 他方,
553 丙は無断欠勤が多い上,
554 自分
555 勝手な行動が多く,
556 配送課の運転手仲間から好かれていなかった。
557
558 甲と丙は日ごろから仲が悪
559 く,
560 いつも口げんかをしていたし,
561 殴り合いのけんかをしたこともあった。
562
563 丁は丙と仲が良く,
564
565 丙と一緒に行動していた。
566
567
568
569 3
570
571 平成18年2月6日午後6時ごろから,
572 M町内の飲食店で,
573 配送課の懇親会があったが,
574 そ
575 の途中で,
576 甲と丙が口論を始めた。
577
578 そのうち,
579 甲が丙に殴られ,
580 畳の上に押さえ付けられたの
581 で,
582 私は二人を引き離し,
583 甲を先に帰宅させた。
584
585 その後,
586 丙は普通に飲んでいる様子だった。
587
588
589
590 4
591
592 懇親会が終了した後,
593 私はいったん自宅に帰りかけたが,
594 甲と丙のことが気になったので,
595
596 甲らが住んでいる独身寮を訪ねることにした。
597
598 午後9時前ごろ,
599 タクシーで寮の前に着くと,
600
601 路上で怒鳴り合う声がした。
602
603 驚いてタクシーから降りると,
604 寮玄関前の路上で,
605 甲が丙,
606 丁と
607 けんかをしており,
608 甲が丁を木製のバットで殴り付けたり,
609 甲と丙がつかみ合いをするなどし
610 ていた。
611
612 私は慌てて三人に駆け寄り,
613 「何やってるんだ。
614
615 きちんと話し合え。
616
617 」と大声でしかり
618 つけた。
619
620 すると,
621 甲は手に持っていたバットを路上に置いておとなしくなり,
622 丙も「分かった
623 よ。
624
625 」と言いながら甲から手を離したので,
626 私は,
627 甲と丙がけんかをやめて話し合う気持ちにな
628 ったのだと思い,
629 安心した。
630
631
632
633 5
634
635 丁は甲にバットで殴られたためか,
636 すぐに寮の部屋に戻った。
637
638 私は寮内で話合いをさせよう
639 と思い,
640 甲と丙を寮に行くよう促した。
641
642 私が先頭に立って歩きかけたところ,
643 丙は,
644 甲が路上
645 に置いたバットを拾い,
646 「この野郎。
647
648 」と怒鳴りながら甲を1回殴り付けた。
649
650 バットが甲の左腕
651
652 4
653
654 に当たったらしく,
655 甲は左腕を押さえながら逃げ出したが,
656 丙はバットを放り投げて甲の後を
657 追い掛けて行った。
658
659 私は,
660 話し合うと言ったのに再び暴力を振るった丙に対する怒りを覚えな
661 がら,
662 甲と丙の後を追い掛け,
663 寮から約50メートル離れた中央公園付近まで行った。
664
665 甲と丙
666 は公園東側の路上でもみ合っており,
667 次の瞬間,
668 甲は手にしていたカッターナイフで丙を切り
669 付けた。
670
671 すると,
672 丙の動きが止まった。
673
674
675 6
676
677 私は,
678 わざわざ寮まで行って仲裁してやったのに,
679 私の言うことを全く聞き入れなかった丙
680 の態度に腹が立つとともに,
681 このような丙に対して腹を立てる甲の気持ちももっともだと思っ
682 た。
683
684 そこで,
685 丙に対し「ちゃんと言うことを聞け。
686
687 分かったか。
688
689 」と怒鳴りつけたところ,
690 丙は
691 「偉そうに上司面するんじゃねえよ。
692
693 」と言い返してきた。
694
695 私は丙のこの言葉に頭に来て,
696 「何
697 だと。
698
699 」と怒鳴りながら丙の胸ぐらを両手でつかんだ。
700
701 すると,
702 甲は丙の顔面をこぶしで1回殴
703 り付けた。
704
705 しかし,
706 丙はおとなしくなるどころか,
707 私と甲に「ばか野郎。
708
709 二人とも死んじまえ。
710
711 」
712 と更に罵声を浴びせてきた。
713
714 私は完全に頭に血が上ってしまい,
715 「俺によこせ。
716
717 」と言って甲が
718 持っていたカッターナイフを手に取り,
719 目の前にいた丙の肩付近を目掛けて1回切り付けた。
720
721
722 実際に丙の身体のどの部分にカッターナイフが当たったのかは分からなかった。
723
724 その後,
725 丙は
726 私や甲ともみ合っていたが,
727 しばらくすると路上に倒れ,
728 首付近から大量の血を流して動かな
729 くなった。
730
731
732
733 7
734
735 私は,
736 間もなく現場に到着した警察官に傷害の現行犯人として逮捕された。
737
738
739
740 【丁の供述要旨】
741 1
742
743 私は現在28歳で独身である。
744
745 平成16年4月にT株式会社に就職し,
746 配送課所属のトラッ
747 ク運転手として働いている。
748
749 甲と丙は同僚であり,
750 乙さんは私たちの上司である。
751
752 今回の事件
753 で亡くなった丙とは高校時代からの親友だった。
754
755 甲は職場の先輩だが,
756 ふだん付き合いはない。
757
758
759
760 2
761
762 平成18年2月6日午後6時ごろから,
763 M町内の飲食店で,
764 配送課の懇親会があったが,
765 宴
766 会の途中で甲と丙がけんかをした。
767
768 けんかの原因は分からなかったが,
769 乙さんが仲裁に入って
770 その場は収まり,
771 甲は早く帰った。
772
773
774
775 3
776
777 懇親会が終了した後,
778 私と丙はタクシーで帰宅した。
779
780 会社の独身寮の前でタクシーを降りた
781 ところ,
782 寮2階のベランダから甲が顔を出し,
783 丙に対し「さっきは何で殴ったんだ。
784
785 謝れ。
786
787 」と
788 大声で文句を言ってきた。
789
790 これに対し,
791 丙は大声で「ふざけるな。
792
793 謝ってほしければ下に降り
794 て来い。
795
796 」と怒鳴り返し,
797 私も「さっさと降りて来い。
798
799 」と言い返した。
800
801 甲と丙は相当興奮して
802 いたので,
803 甲が下に降りてくれば私たちとの間でけんかになると思ったが,
804 私たちは複数いた
805 ので,
806 甲は降りては来ないと思っていた。
807
808 なお,
809 私は,
810 甲が降りて来ないのに,
811 こちらの方か
812 ら甲の部屋まで押し掛けるつもりはなかった。
813
814 また,
815 丙も自分の方から甲の部屋に押し掛ける
816 ことまでは考えていなかったと思う。
817
818
819
820 4
821
822 ところが,
823 間もなく,
824 甲は木製のバットを持って下に降りて来た。
825
826 そして,
827 路上に出て来る
828 や否や,
829 丙との間でつかみ合いになった。
830
831 私は,
832 丙に加勢するために,
833 「この野郎。
834
835 」と言いな
836 がら横から甲の肩をつかんだ。
837
838 すると,
839 甲は私の方に身体を向けた。
840
841 その甲を丙が背後から羽
842 交い締めにしたので,
843 私は甲の顔面をこぶしで1回殴り付けた。
844
845 これに対し,
846 甲は丙の腕を振
847 り払い,
848 持っていたバットで私の左腕を1回殴り付けた。
849
850 私は痛みでその場にうずくまった。
851
852
853
854 5
855
856 そのとき,
857 その場に来た乙さんがけんかの仲裁に入ってくれた。
858
859 甲はバットを路上に置き,
860
861 丙も「分かったよ。
862
863 」と言いながら甲から手を放したので,
864 私はけんかが終わったと思った。
865
866 甲
867 にバットで殴られた左腕が痛かったので,
868 私は一足早く自分の部屋に戻ってそのまま休んでい
869 た。
870
871
872
873 6
874
875 その後,
876 甲と丙がどのような経緯で再びけんかを始めたのかは知らない。
877
878 私は翌日病院に行
879 き,
880 加療約2週間を要する左上腕部打撲との診断を受けた。
881
882
883
884 5
885
886 〔第2問〕(配点:100)
887 以下の事例を読んで,
888 後記の設問1及び2に答えなさい。
889
890 なお,
891 各供述の内容は,
892 信用できるも
893 のとする。
894
895
896 【事
897
898 例】
899
900 1(1)
901
902 H県I市内を管轄するI警察署は,
903 平成18年1月24日午後3時,
904 同市内にあるA銀行
905
906 B支店支店長Wからの110番通報を受け,
907 直ちに警察官を現場に臨場させた結果,
908 次の同
909 店従業員Vの供述により,
910 強盗致傷事件の被害状況が判明した。
911
912
913 (2)
914
915 A銀行B支店従業員Vの供述要旨
916 私が店内で業務をしていた午後2時55分ごろ,
917 突然,
918 刺身包丁を右手に持ち,
919 目出し帽
920
921 をかぶり両手に白い軍手をはめた男が支店に入ってきました。
922
923 その男は,
924 カウンター前にい
925 たお客様のCさんに刺身包丁を突き付け,
926 「動くな。
927
928 動くと殺すぞ。
929
930 」と叫びました。
931
932 店内に
933 はほかのお客様や支店長以下の私たち職員がいましたが,
934 犯人は,
935 私たちに向かって,
936
937 「警察
938 に通報したやつは殺す。
939
940 早く金を出せ。
941
942 札束を用意しろ。
943
944 」と大声で怒鳴りました。
945
946
947 私は,
948 日ごろW支店長から,
949 「強盗に入られたら人命第一に考え,
950 金を渡しなさい。
951
952 」と言
953 われており,
954 W支店長を見ると,
955 「早く金を渡してやれ。
956
957 」というように私にうなずいていた
958 ので,
959 とっさに,
960 自分の机の上にあった一万円札100枚の札束18束をカウンター越しに
961 犯人に向かって投げました。
962
963 すると,
964 犯人は,
965 それを拾って,
966 持っていた茶色のボストンバ
967 ッグに入れ,
968 すぐに入口の方へ向かって逃げていきました。
969
970 そこで私は,
971 カウンターを飛び
972 越え,
973 犯人を追い掛けて取り押さえようとしたのですが,
974 途中で犯人に刺身包丁で左腕を刺
975 され,
976 ひるんだすきに逃げられてしまいました。
977
978 その後,
979 私は,
980 入口から出た犯人を追った
981 のですが,
982 入口のすぐ前の路上に,
983 上が白・下がシルバーのツートンカラーの普通乗用自動
984 車がエンジンをかけっ放しで止まっており,
985 犯人は,
986 その運転席に乗り込むとすぐ発車して,
987
988 銀行前の南北に走る県道を南方向に向かって全速力で逃走しました。
989
990 なお,
991 車のナンバーは,
992
993 0703でした。
994
995
996 犯人は,
997 車に乗り込む直前に携帯電話で話をしていました。
998
999 全部は聞き取れませんでした
1000 が,
1001 「成功したぞ。
1002
1003 例の場所で待っててくれ。
1004
1005 」と言っているのは,
1006 はっきりと聞き取れまし
1007 た。
1008
1009
1010 犯人は,
1011 目出し帽をかぶっていたので,
1012 人相も年齢も分かりませんでした。
1013
1014 身長はCさん
1015 とちょうど同じくらいだったので,
1016 170センチメートルくらいで,
1017 体格は中肉中背です。
1018
1019
1020 また,
1021 上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色のジャージ上下を着ていました。
1022
1023
1024 2
1025
1026 同日午後3時20分ごろ,
1027 I警察署地域課のX巡査及びY警部補は,
1028 制服を着用し,
1029 パトカ
1030 ーに乗車してI市内J公園前の道路において警ら中,
1031 本署から無線により前記強盗致傷事件の
1032 犯人を発見せよとの指令を受け,
1033 その際,
1034 前記1の捜査結果の連絡を受けた。
1035
1036
1037 X巡査及びY警部補は,
1038 J公園内で犯人を捜していた同日午後3時25分ごろ,
1039 A銀行B支
1040 店から南西方向に直線距離で約5キロメートル離れた同公園内に停車中の,
1041 上が白・下がシル
1042 バーのツートンカラーで,
1043
1044 「I520ち0703」のナンバープレートを付けた普通乗用自動車
1045 を発見した。
1046
1047 同車運転席には,
1048 上着の両袖側面に3本の白線の入った紺色ジャージ上下を着用
1049 した30歳くらいのスポーツ刈りの男甲が乗車していた。
1050
1051
1052 X巡査及びY警部補が同車に近づくと,
1053 甲が運転席側窓を開けたので,
1054 X巡査は,
1055 甲に対し,
1056
1057 運転免許証の提示を求めたところ,
1058 甲は,
1059 「免許証は家に忘れてきた。
1060
1061 」と言った。
1062
1063 そこで,
1064 X
1065 巡査が,
1066 「あなたの住所と氏名は。
1067
1068 」と聞いたが,
1069 甲は何も答えなかった。
1070
1071 さらに,
1072 X巡査が,
1073
1074 窓越しに車内を見ると,
1075 助手席上に茶色ボストンバッグが置いてあるのが見えたことから,
1076
1077 「そ
1078 の助手席のバッグはあなたのものですか。
1079
1080 」と質問したところ,
1081 甲は,
1082 とたんに落ち着きをなく
1083 し,
1084 そわそわしながら,
1085
1086 「そうですよ。
1087
1088 」と言った。
1089
1090 X巡査が,
1091
1092 「では,
1093 ちょっと中を拝見させて
1094 もらえませんか。
1095
1096 」と言ったところ,
1097 甲は,
1098
1099 「何で見せる必要なんかあるんだ。
1100
1101 関係ないだろう。
1102
1103 」
1104
1105 6
1106
1107 と怒ったような口調で答え,
1108 その後もX巡査が,
1109 再三,
1110 バッグの中を見せてくださいと要求し
1111 たが,
1112 言を左右にしてこれに応じず,
1113 また,
1114 なぜこのようなところに車を止めていたのかとの
1115 質問にも答えなかった。
1116
1117 なお,
1118 この間,
1119 Y警部補がI警察署に応援を求めた結果,
1120 同日午後3
1121 時40分ごろまでに同署から更に6名の警察官がその場に応援に駆けつけた。
1122
1123
1124 3
1125
1126 同日午後4時10分ごろ,
1127 甲は,
1128 突然,
1129 助手席上にあったボストンバッグを左腕に抱えて持
1130 ち,
1131 運転席ドアを開けて降車した。
1132
1133 そのため,
1134 X巡査及びY警部補ら警察官合計4名が甲の前
1135 に立ちはだかり,
1136
1137 「一体どこへ行くんですか。
1138
1139 」と聞いたところ,
1140 甲は,
1141
1142 「おまわりに何でそんな
1143 こと言う必要がある。
1144
1145 」,
1146 「どけ。
1147
1148 この野郎。
1149
1150 」などと怒鳴り始めた。
1151
1152 この間,
1153 Y警部補は,
1154 甲の
1155 横に立ち,
1156 甲の身長が170センチメートル程度であること,
1157 体格が中肉中背であることを確
1158 認した。
1159
1160 また,
1161 Y警部補は,
1162 甲に対して,
1163
1164 「ちょっとこのバッグを触らせてもらっていいですか。
1165
1166 」
1167 と聞いたが,
1168 それについて甲が何も答えなかったので,
1169 甲が持っていたボストンバッグを外側
1170 から触れてみたところ,
1171 札束と考えても矛盾しない形状の物が多数入っている感触を得た。
1172
1173 そ
1174 のため,
1175 Y警部補は,
1176 甲がA銀行B支店における強盗致傷事件の犯人ではないかと考え,
1177 甲に
1178 対して,
1179
1180 「実は,
1181 さっきこの近くで銀行強盗があったんですよ。
1182
1183 あなたはその件について何かご
1184 存じですね。
1185
1186 ちょっと,
1187 署までご同行願えませんか。
1188
1189 」と聞いたところ,
1190 甲は何も答えなかった
1191 が,
1192 X巡査は,
1193 このとき,
1194 甲の顔色が変わると同時にその耳が赤くなったのを確認した。
1195
1196 その
1197 直後,
1198 甲は,
1199 X巡査とY警部補の間をすり抜けるようにして逃げようとしたので,
1200 X巡査が,
1201
1202 甲の左腕を右手でつかんだところ,
1203 甲は,
1204 これを振り払うや,
1205 X巡査の顔面を右手のこぶしで
1206 1発強く殴った。
1207
1208 そこでY警部補は,
1209 同日午後4時20分,
1210 甲に対し,
1211
1212 「お前を公務執行妨害で
1213 逮捕する。
1214
1215 」と言って甲を制圧しようとしたが,
1216 甲は,
1217 左腕でボストンバッグを抱え込むように
1218 しながら,
1219 右腕を振り回すなどして激しく抵抗したため,
1220 さらに,
1221 X巡査及び警察官3名も応
1222 援して,
1223 警察官合計5名で暴れる甲の体を押さえ付けて制圧し,
1224 甲を逮捕するとともに,
1225 左腕
1226 からボストンバッグを引き離した。
1227
1228
1229 X巡査が,
1230 甲が持っていたボストンバッグをみると,
1231 施錠はされておらず,
1232 ファスナーを開
1233 けると,
1234 中から一万円札100枚の札束18束が発見された。
1235
1236 さらに,
1237 札束の下からは,
1238 刃の
1239 部分に真新しい血痕が付着した刺身包丁1本,
1240 携帯電話1台が発見されたほか,
1241 レポート用紙
1242 に書かれたメモ1枚が発見された。
1243
1244 このほか,
1245 甲が乗っていた普通乗用自動車内を捜索したと
1246 ころ,
1247 助手席の下から,
1248 目出し帽1個,
1249 白色軍手1双も発見された。
1250
1251 そこで,
1252 X巡査は,
1253 同日
1254 午後4時30分,
1255 前記のとおり発見された一万円札100枚の札束18束,
1256 刺身包丁1本,
1257 携
1258 帯電話1台,
1259 メモ1枚及びこれらが入っていたボストンバッグ1個並びに目出し帽1個及び白
1260 色軍手1双を,
1261 逮捕に伴って差し押さえた。
1262
1263
1264 X巡査は,
1265 甲をI警察署に連行して,
1266 同日午後4時50分,
1267 甲をI警察署刑事課長Z警部に
1268 引致した。
1269
1270 引致後弁解の機会を与えたところ,
1271 甲は,
1272 公務執行妨害の事実について認めた。
1273
1274 ま
1275 た,
1276 同日午後8時ごろ,
1277 甲は,
1278 公務執行妨害の事実についてZ警部の取調べを受けた際,
1279 A銀
1280 行B支店における強盗致傷事件についても自ら進んで供述を始め,
1281 銀行強盗は自分の単独犯行
1282 である旨の上申書をI警察署長あてに提出した。
1283
1284
1285
1286 4
1287
1288 同月26日午前10時,
1289 甲は,
1290 公務執行妨害の事実でK地方検察庁に送致され,
1291 送致を受け
1292 たK地方検察庁の担当検察官Pは,
1293 同日,
1294 甲を勾留請求したところ,
1295 勾留状が発付され,
1296 執行
1297 された。
1298
1299 P検察官は,
1300 1月31日,
1301 甲をK地方裁判所に公務執行妨害の事実により起訴した。
1302
1303
1304
1305 〔設問1〕
1306
1307 この事例の2及び3記載の捜査の適法性について,
1308 問題点を挙げ,
1309 事実を摘示して論
1310
1311 じなさい。
1312
1313
1314 【事例(続き)】
1315 5
1316
1317 I警察署刑事課警察官らは,
1318 1月31日までの間,
1319 A銀行B支店における強盗致傷事件につ
1320
1321 7
1322
1323 いて捜査したところ,
1324 次の結果を得た。
1325
1326
1327 (1)
1328
1329 メモの記載内容
1330 甲から押収した前記メモの上半分には,
1331 手書きの地図の記載がある。
1332
1333 地図上のJ公園東出
1334
1335 口付近に「×」印の記載があり,
1336 その下に手書きで「乙、
1337 車の中で待ってる」の記載がある。
1338
1339
1340 地図については,
1341 捜査の結果,
1342 A銀行B支店からJ公園までの経路を示したものと判明した。
1343
1344
1345 メモの下半分には,
1346 手書きで「決行は、
1347 24日閉店まぎわ」,
1348 「名前がわかる物は持って行
1349 かない」,
1350 「車は盗んだのを使う」,
1351 「取った金は半分ずつ分ける」の記載がある。
1352
1353
1354 これらの手書き文字について筆跡鑑定を行ったところ,
1355 甲の筆跡と同一人の筆跡であるこ
1356 とが判明した。
1357
1358
1359 (2)
1360
1361 その他の捜査結果
1362 甲から押収した前記携帯電話について,
1363 その発信履歴を捜査した結果,
1364 1月24日午後3
1365
1366 時1分に,
1367 I市内M町居住の乙(女性)方に電話をしていることが判明し,
1368 乙について捜査
1369 したところ,
1370 平成8年から約9年間,
1371 A銀行B支店に勤務していたが,
1372 平成17年2月に退
1373 職したこと,
1374 甲とは小学校の同級生であることが判明した。
1375
1376
1377 1月24日午後3時20分ごろ,
1378 J公園東出口付近で,
1379 白の軽乗用自動車が停止している
1380 のが目撃されているが,
1381 本件当時,
1382 乙は,
1383 白の軽乗用自動車を所有していたことが判明した。
1384
1385
1386 このほか,
1387 甲から押収した前記刺身包丁付着の血痕を鑑定した結果,
1388 Vの血液型と一致し
1389 た。
1390
1391
1392 6
1393
1394 I警察署刑事課長Z警部は,
1395 2月1日,
1396 K地方裁判所裁判官に対して,
1397 甲に対する強盗致傷
1398 被疑事件について逮捕状を請求し,
1399 同日,
1400 その発付を受けた。
1401
1402 甲は,
1403 I警察署内において,
1404 同
1405 日午後4時30分,
1406 前記逮捕状により逮捕された。
1407
1408 逮捕後,
1409 弁解の機会を与えたところ,
1410 甲は,
1411
1412 強盗致傷の被疑事実について認めたほか,
1413 乙との共謀についても認める供述をした。
1414
1415 同月3日
1416 午前10時,
1417 甲は,
1418 乙との共謀によるA銀行B支店における強盗致傷の事実でK地方検察庁に
1419 送致され,
1420 同日から10日間の勾留,
1421 更に10日間の勾留延長を経て,
1422 同月22日,
1423 同事実に
1424 より起訴された。
1425
1426
1427
1428 7
1429
1430 I警察署刑事課長Z警部は,
1431 その後,
1432 甲の供述に基づき,
1433 強盗致傷被疑事件について,
1434 乙に
1435 対する逮捕状及び乙方に対する捜索差押許可状を得た。
1436
1437 I警察署警察官は,
1438 これに基づき,
1439 乙
1440 を逮捕し,
1441 乙方を捜索した。
1442
1443 その結果,
1444 乙方から,
1445 前記メモの記載どおりの筆圧痕の残るレポ
1446 ート用紙1冊が発見されたので,
1447 I警察署警察官はこれを差し押さえた。
1448
1449 その後,
1450 乙は,
1451 勾留
1452 を経て,
1453 甲との共謀によるA銀行B支店における強盗致傷の事実により起訴されたが,
1454 この間,
1455
1456 一切の供述を拒んだままであった。
1457
1458
1459
1460 8
1461
1462 甲は,
1463 公判においては公訴事実をすべて認め,
1464 有罪判決を受けた。
1465
1466
1467
1468 9
1469
1470 その後,
1471 乙は,
1472 第1回公判期日において,
1473 公訴事実について,
1474 甲との共謀を否認した。
1475
1476 第2
1477 回公判期日において,
1478 証人として出廷した甲は,
1479 次のとおりの供述をした。
1480
1481
1482
1483 (1)
1484
1485 乙との関係
1486 1月24日に私がA銀行B支店で行った強盗致傷は,
1487 乙と相談してやりました。
1488
1489
1490 乙と私は,
1491 小学校時代の同級生で幼なじみです。
1492
1493 乙が昨年2月にA銀行B支店を辞めたと
1494
1495 き,
1496 乙から,
1497 W支店長に嫌われ,
1498 いじめにあって辞めさせられたと聞きました。
1499
1500
1501 (2)
1502
1503 乙との相談について
1504 乙は,
1505 ひどくWを恨んでいて,
1506 「何か仕返しをしてやりたい。
1507
1508 」と言っており,
1509 昨年12月
1510
1511 ごろには,
1512
1513 「B支店に強盗に入ってちょうだい。
1514
1515 Wは意気地なしだから,
1516 包丁か何かで脅せば,
1517
1518 すぐに金を出すはずよ。
1519
1520 」と言うので,
1521 私もだんだんその気になってきました。
1522
1523
1524 昨年12月24日,
1525 私が乙の家に遊びに行ったとき,
1526 また,
1527 強盗の話になりました。
1528
1529 乙は,
1530
1531 「会社の給料日の多い25日の前日には,
1532 翌日の払戻しに備えて多額の現金を準備している
1533 はずだから,
1534 24日の閉店間際に入るといいと思う。
1535
1536 」と言ったので,
1537 そのとき,
1538 私は,
1539 「絶
1540
1541 8
1542
1543 対にばれないなら,
1544 やってもいいよ。
1545
1546 」と答えました。
1547
1548
1549 (3)
1550
1551 メモについて
1552 私が公務執行妨害で逮捕されたとき,
1553 持っていたボストンバッグの中から出てきたメモは,
1554
1555
1556 昨年12月24日に,
1557 乙の家で作成したものです。
1558
1559
1560 乙方にあったレポート用紙に,
1561 最初に乙がB支店からJ公園東出口付近までの地図を書き,
1562
1563 乙は,
1564
1565 「この地図のとおりに逃げて,
1566 J公園の茂みのところで車を乗り捨てて,
1567 金だけ持って,
1568
1569 公園の東出口まで来てちょうだい。
1570
1571 そこで,
1572 私が車の中で待ってるから。
1573
1574 」と言い,
1575 公園の東
1576 出口付近に「×」印を付けました。
1577
1578 その後,
1579 私は,
1580 乙の目の前で,
1581
1582 「×」印のすぐ下に「乙、
1583
1584 車の中で待ってる」と書き入れました。
1585
1586 地図の下に「決行は、
1587 24日閉店まぎわ」,
1588 「名前が
1589 わかる物は持って行かない」,
1590 「車は盗んだのを使う」,
1591 「取った金は半分ずつ分ける」と書い
1592 たのも,
1593 私です。
1594
1595 乙から,
1596 先ほども言ったように,
1597
1598 「24日の閉店間際に入るといいと思う。
1599
1600 」
1601 とか,
1602
1603 「あんたの名前が分かってしまうと,
1604 すぐ私も疑われるから,
1605 自分の名前が分かるよう
1606 なものは絶対に持っていっちゃだめよ。
1607
1608 」とか,
1609 「だから,
1610 車も自分のを使わないで,
1611 盗んだ
1612 車を使ってね。
1613
1614 」とか言われたので,
1615 私が書き留めたのです。
1616
1617 「取った金は半分ずつ分ける」
1618 というのは,
1619 この日,
1620 乙が,
1621 「取った金は半分ずつ分けるってことでどうかしら。
1622
1623 」と言った
1624 ので,
1625 私も,
1626 「それでいいよ。
1627
1628 」と答えたのですが,
1629 乙は金に汚いところがあるので,
1630 後で乙
1631 が変なことを言わないように私が乙の目の前で書き留めておいたのです。
1632
1633
1634 (4)
1635
1636 犯行状況
1637 今年1月に入ってから,
1638 私は,
1639 目出し帽,
1640 白色軍手,
1641 刺身包丁を買い,
1642 インターネットで
1643
1644 他人名義の携帯電話も買いました。
1645
1646 そして,
1647 私は,
1648 1月24日昼ごろ,
1649 I市N町で白とシル
1650 バーのツートンカラーの普通乗用自動車を盗み,
1651 その車でA銀行B支店に乗り付け,
1652 同日午
1653 後3時ごろ,
1654 同店に押し入りました。
1655
1656 そして,
1657 私は,
1658 店内にいた客に刺身包丁を突き付け,
1659
1660 「動
1661 くな。
1662
1663 動くと殺すぞ。
1664
1665 」と言って脅し,
1666 カウンター内にいた支店長らに,
1667 「早く金を出せ。
1668
1669 札
1670 束を用意しろ。
1671
1672 」と大声で怒鳴って,
1673 現金1800万円を奪い取り,
1674 逃げる際に私を捕まえよ
1675 うとした従業員Vの左腕を刺身包丁で刺してけがをさせました。
1676
1677
1678 その後,
1679 私は,
1680 乙がメモに書いた地図のとおり,
1681 J公園まで逃げて来て,
1682 車を乗り捨て乙
1683 の待つ東出口付近まで逃げようとしていたところを警察官に見つかってしまったのです。
1684
1685
1686 〔設問2〕
1687
1688 乙に対する強盗致傷被告事件の公判において,
1689 前記メモが,
1690 共謀を立証するための証
1691
1692 拠として証拠調べ請求された場合,
1693 その証拠能力について,
1694 問題点を挙げ,
1695 事実を摘示して論じ
1696 なさい。
1697
1698
1699
1700 9
1701
1702