1 論文式試験問題集[民事系科目]
2
3 1
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:200)
7 次の文章を読んで,以下の問1と問2に答えよ。
8
9 T
10
11 ある日,弁護士であるあなたのところに,X2社の代表取締役であるX1がやってきて,@死
12
13 亡した母Aの相続人として,また,AX2社の代表取締役として,A及びX2社が被った損害の
14 賠償を求めたい旨の相談をした。
15 最初の相談において,X1から聞いた事実関係は,以下の事情聴取の結果要旨1にまとめてあ
16 る。
17 【事情聴取の結果要旨1】
18 1.X2社は,著名な料理研究家のAが,料理教室の運営と自社ブランドのキッチン用品の販売
19 を目的として平成元年に設立した株式会社であり,代表取締役を務めたAの個人人気に支えら
20 れて,好調な業績を上げていた。
21 2.Y銀行は,大正14年に無尽業を目的として設立された後,相互銀行への組織変更を経て,
22 平成元年に普通銀行となった株式会社である。
23 3.Y銀行は,主として関東地方を営業基盤としていたが,バブル経済の崩壊後,主要な貸出先
24 の経営破たんが相次ぎ,財務状態が悪化していた。
25 4.Aは,X2社の設立に際し開業資金の融資を受けたことから,個人財産の多くはY銀行の丸
26 の内支店に開設した口座に預金していた。しかし,取引上の付き合いから,他の銀行や信用組
27 合などにも預金があり,その額は数億円に上っていた。Aは,もともと貯蓄や投資には頓着が
28 なかったが,平成17年4月にペイオフが完全解禁されることを知り,預貯金の扱いや投資に
29 関心を持つようになっていた。
30 5.Bは,某大手証券会社の営業職員であったが,会社が破たんしたことから職を失い,平成
31 15年にY銀行に再就職し,丸の内支店に配属された。Bは,年齢が40代半ばで,支店長代
32 理の肩書を与えられていたものの,入社してから日が浅いこともあり,取引先を回って預金と
33 して入金する資金を預かったり,その他の金融商品の販売の勧誘を行う権限のみを持つ平社員
34 にすぎなかった。
35 6.平成15年の秋に,北関東の地方銀行が破たんしたことから,マスコミは一斉に,この銀行
36 と貸出先が類似しているY銀行もまた,早晩破たんするのではないかという憶測記事を書き始
37 めた。
38 7.その直後から,預金の流出が激しさを増すのを目の当たりにして,Bは,つぶれる前に何と
39 か荒稼ぎをしようと,いろいろな手口で多数の顧客から多額の資金を詐取したようである。
40 8.Aもまた被害者の一人で,Bの口車に乗せられ,平成16年の秋ごろ,他の信用組合等に預
41 けていた個人財産5億円の預金を下ろして,Bに渡した。ただ,X1が最初に相談に訪れた時
42 点では,AがBと結んだ本件契約の契約書が見つからず,Aが死亡しているため,契約内容の
43 詳細は分からなかった。
44 9.今年になって,Bが多数の顧客を相手に詐欺的行為を行っており,その被害総額は50億円
45 を超えていることが明らかとなったが,既にBは行方をくらましており,警察による捜査が続
46 けられていた。
47 10.この事件でAが被害を受けたことを知ったマスコミは,堅実なイメージでお茶の間に人気だ
48 ったAの思わぬアクシデントを,連日のように面白おかしく取り上げた。巨額の損害を被った
49 上に,Aが軽率であったとする心ない論調が目立ったことから,高齢であったAは,心労の余
50 り病床に着いてしまった。その結果,X2社が運営する料理教室は閉校に追い込まれ,X2社
51
52 2
53
54 ブランドのキッチン用品も売上げが激減し,多額の損失を計上した。
55 11.しばらくして,Bが自殺していることが判明したが,Bがどのような手口で顧客から資金を
56 集めたか,集められた資金がどこにどういう形で使われたのかは現在のところ不明で,Bの遺
57 族にも損害を賠償する資力はなかった。
58 12.他方,病床にあったAもまた,料理教室を再開させることができないまま無念な思いで他界
59 し,X2社は,Aの唯一の相続人である娘のX1にゆだねられた。
60 (事情聴取の結果要旨1の内容は以上である。)
61 相談を受けたあなたは,X1に,本件にかかわる契約書があればそれを探し出すことや事情を知
62 っている従業員にさらに詳細を尋ねるよう指示した。その上で,Bの詐欺に遭った被害者を探した
63 ところ,同種被害を受けた者が作った「B詐欺事件被害者の会」の参加者の話から,Bの手口には,
64 おおよそ次の三つの型があることが分かってきた。なお,X1やこれらの顧客の話は,事実である
65 ことが確認できた。
66 (a)
67
68 顧客αの話の概要
69 私は,ある高校の校長を務めておりましたが,ある日,父兄の一人から紹介されたというBが
70
71 放課後に校長室を訪ね,退職後の生活にゆとりを持たせるには,確実で安全な投資を専門家の助
72 言の下で行うのが良いとしきりに勧めました。そして,新聞記事を見せて,間もなく銀行が証券
73 業に参入できるようになるので,その時点で,Y銀行に資産運用を任せてもらえないかと誘われ,
74 まずは普通預金口座を開設し,そこにまとまった資金を預けてほしいと言われました。
75 そこで,最初に,Bに1万円と印鑑を預けて預金通帳を作ってもらいました。その数日後,他
76 に預けていた預貯金を解約したり,退職金の前借りをしたりして,3,000万円をBに預けま
77 した。その際,いったん渡された預金通帳と届出印もBに預けました。BからはY銀行の用紙に
78 Bの印が押された3,000万円の預り証をその場で受け取りました。
79 約束した日にBが通帳や印鑑を持参しないので心配していましたところ,事件が報道されたの
80 で,すぐにY銀行に事情を聞きに行きました。ところが,Y銀行は,確かに初回の1万円の預金
81 通帳は正規のものであるが,3,000万円の預り金はBが自分の懐に入れていてY銀行には入
82 金していないから,Y銀行は一切関知しないと,けんもほろろの対応で,途方に暮れています。
83 それどころか,対応した行員は,
84 「校長先生ともあろう人が,いったいどんな投資話を聞いてそん
85 な大金を預けたのですか。」とか,「Bは普通のサラリーマンでは考えられないような派手な身な
86 りをしていたのだから,立派な校長先生ならBが横領に手を染めていたことくらい察することが
87 できたはずだ。」などと,被害者の私をまるでBの片棒を担いだかのように言うので,私も本当に
88 頭に来てしまいました。
89 (b)
90
91 顧客βの話の概要
92 私は,小さな会社を経営しています。業績は今一つパッとしないのですが,財産家だった父の
93
94 残した不動産が遊んでいるので,これを元手に大きな商売がしたくて,良い投資先を探していま
95 した。知人の紹介でBがやってきて,パンフレットを示しながら,
96 「自分は,富裕層の顧客だけを
97 相手に,特別の外貨預金を勧誘している。この外貨預金は,まとまった金額の預託が必要で解約
98 手数料が高いとの欠点はあるが,半年ごとに支払われる利息は年利6%以上であり,しかも,元
99 本についてはY銀行が支払を保証するので危険は少ない。」と勧めました。私は,為替リスクを考
100 えても,この低金利時代にひどく有利な提案だと考え,不動産を売って,Bに1億円の小切手を
101 渡しました。契約書にはY銀行の正規の支店長印も押されています。実際に,最初の6か月後に
102 は,300万円がY銀行の名義で私の指定口座に振り込まれていましたので,すっかり信用して
103 おりました。
104 しかし,事件後のY銀行の説明では,
105 「Y銀行はそのような外貨預金商品を扱っていない。Bに
106
107 3
108
109 はそのような契約を勧誘したり締結したりする権限は全くなく,契約書はBが勝手に偽造したも
110 のだろう。支店長印もBがすきを見て持ち出して勝手に押なつしたものにちがいない。」とのこと
111 でした。確かに,こんなパンフレットなんかはパソコンで簡単に作れると言われれば,軽率に話
112 に乗ってしまった私が愚かだったと反省しています。しかし,逆に,BがY銀行の経理システム
113 を悪用してY銀行名義で私の口座に振り込んだ300万円を返してほしい,などと言われたのに
114 は,納得ができません。
115 (c)
116
117 顧客γの話の概要
118 Bに金をだまし取られたのは,私ではなく,80歳になる私の母なんです。母は,以前からB
119
120 と顔見知りで,Bの勧誘で何度か投資の契約をしていたようです。また,Bに預金通帳や印鑑を
121 預けて払戻しを頼んだこともあるほど,母は,Bを孫のようにかわいがって信頼していました。
122 何でも,2か月ほど前に,Bが母のところにやってきて,
123 「私は,Y銀行の秘密のプロジェクトで
124 新しい投資商品の開発を行っているが,そのための資金が500万円不足している。このままで
125 は,実験は失敗して銀行にいられなくなってしまう。来月末まででいいから500万円を貸して
126 ほしい。もちろん,お預かりする資金はY銀行が返済を保証するし,高い利息もお払いします。」
127 と頼んできたそうです。母は,そんな大金は持ち合わせがないといったん断ったのですが,Bが
128 何度も懇願するのに根負けして,1週間ほど後に,別の信用金庫の預金を下ろしてBに渡してし
129 まいました。その1か月後に,約束どおりBが利息と称する5万円をY銀行の封筒に入れて母の
130 ところに持参したものですから,母は,すっかりBを信用してしまっていました。
131 しかし,事件後に私がY銀行に問い合わせたら,
132 「そんなプロジェクトの話はない。Bが渡した
133 預り証は,当行の所定の用紙ではなく,Bが肩書付の署名をしてはいるがB個人の印を押したも
134 ので,当行は無関係である。」と言われました。今でもBの犯罪を知らない母には,本当の話をど
135 う伝えたら良いのか分かりません。
136 〈問1〉
137
138 あなたは,AがBからどういう形で資金をだまし取られたかが分からないので,本件事
139
140 案が(a)〜(c)のそれぞれの事実関係と類似していると仮定して考えてみることにした。
141 X1やX2社がY銀行に対して何らかの請求をすることができるかを,それぞれの場合に即し
142 て法律構成を明らかにしつつ検討しなさい。なお,後述Uの事実は,ここでは考慮してはならな
143 い。
144 なお,答案の作成に当たっては,「X2社」を単に「X2」と,「Y銀行」を単に「Y」と記載
145 して差し支えない。
146
147 U
148
149 2か月後,X1が,この間に明らかとなった事実を説明に来た。X1が,「B詐欺事件被害者の
150 会」と協力して入手した情報と,それを踏まえたX1の意向は,以下の事情聴取の結果要旨2に
151
152 まとめてある。また,その後ろには,あなたがY銀行の職員から聴取した供述の内容と,本件に
153 関係する資料を添付してある。なお,以下の事情聴取の結果要旨2に記載された内容及び後述す
154 る職員の供述内容は,いずれも事実であることが確認できた。
155 【事情聴取の結果要旨2】
156 1.BがAをだました手口は,前記Tで検討された三つのパターンのうち顧客βのケースに近い
157 ことが判明した。
158 2.Y銀行は,平成15年6月に開催された定時株主総会において,他の銀行に先駆けて委員会
159 等設置会社に移行し,経営の効率化を図ることで業務純益を増加させようと試みていた。しか
160 し,同年末ごろより経営状態が急激に悪化し,このままでは破たんする可能性すらでてきた。
161 そこで,X1は,Y銀行に対する責任追及の可否を論じているだけでは心もとないと考え,B
162 の起こした不祥事件について,Y銀行の取締役及び執行役にも責任を追及したいと考えるよう
163
164 4
165
166 になった。
167 3.Y銀行には,取締役兼代表執行役である頭取Cを筆頭に11名の取締役がおり,そのうち5
168 名が社外取締役であった。社内出身の6名の取締役は,監査委員に任命された者を除き,いず
169 れも執行役を兼務していたが,Y銀行ではさらに10名の執行役が選任されていた。取締役兼
170 執行役の中で,内部監査の最高責任者とされていたのは,副頭取Dである。
171 4.Y銀行丸の内支店の支店長Eは,いわゆる使用人兼務の執行役であり,同支店のコンプライ
172 アンス責任者でもあった。
173 5.Y銀行では,数年前にも従業員による横領事件が起こったことから,金融当局の指導もあり,
174 副頭取Dを委員長とするコンプライアンス委員会が設けられていた。その社会的信頼性を高め
175 るために,Y銀行は,平成15年6月の定時株主総会で,テレビの討論番組などにも出演する
176 ことの多い,金融論の大家である大学教授Fを社外取締役に任命し,同委員会のメンバーに加
177 えていた。ちなみに,Fは,指名・報酬・監査の3委員会には属しておらず,これらの委員会
178 のメンバーは,残る4名の社外取締役のうち2名が指名及び報酬委員会のメンバーを兼務し,
179 残る2名が監査委員に就任する形を採っていた。
180 6.そのほかY銀行には,副頭取Dを責任者とする内部告発の窓口が設けられていた。X1は,
181 調査の過程で,Y銀行丸の内支店の女性職員Pが,平成16年1月,この告発窓口にあてて,
182 Bの不可解な行動を告発していた事実をつかんだが,副頭取Dは,X1に対し,そうした事実
183 は承知していないと言ったとのことである。
184 7. 「B詐欺事件被害者の会」が調べたところでは,平成16年3月期の監査報告書を作成する
185 際,社内出身の監査委員Gと,残る2名の監査委員であった社外取締役H及びIとが,内部監
186 査の在り方を巡って口論になったとのことである。H及びIは,内部監査部に,丸の内支店に
187 対する内部監査を実施させてからでなければ監査報告書に署名できないと強く主張したようで
188 あるが,結局は,Gの説得により,資料1のような監査報告書が作られた。これが影響したの
189 かどうかは明らかではないが,H及びIは,指名委員会の作成した次期取締役候補者のリスト
190 から外され,同年6月の定時株主総会では取締役に再任されなかった。
191 8.なお,Y銀行が,平成16年6月の定時株主総会に際して,招集通知に添付した営業報告書
192 には,
193 「監査委員会の職務の遂行に関する取締役会決議の概要」として,資料2のような記載が
194 なされていた。
195 9.以上の事情を踏まえ,X1としては,頭取C・副頭取D・丸の内支店長E・社外取締役F・
196 監査委員Gの責任を問いたいと考えている。
197 (事情聴取の結果要旨2の内容は以上である。)
198 そこで,あなたが,Y銀行の何人かの職員に面談し,事情を聴取したところ,次のような供述を
199 得た。
200 (ア)
201
202 Y銀行丸の内支店の女性職員Pの供述
203 だれも驚いていないと思いますよ。だって,かれこれ1年半ぐらいの間,Bの近くにいた職員
204
205 は,Bの行動を不可解だと思っていましたからね。契約書が交付されたらしい形跡があるのに,
206 その写しが保管されていなかったり,支店長印が勝手に持ち出された疑いがあったり,とにかく,
207 変な出来事が多かったんです。特に奇妙だったのは,Bが不在の時によくかかってきた意味不明
208 な電話です。通帳がどうしたとか,預り証がどうしたとか言われても,他の職員では答えられな
209 いので,後からかけ直してもらっていたんですが,中には,かなりの剣幕でまくし立てるお客さ
210 んもいて,みんな困っていたんです。
211 そんな中で,私がBの犯罪に確信を抱いたのは,平成15年の年末に深夜まで残業していた時
212 のことです。間もなく日付が変わろうとしていた時に,Bが合い鍵のようなものを使って,鍵の
213
214 5
215
216 かかっている支店長室にこっそり入り込んでいるのを見掛けたんです。これは大変だと思い,随
217 分と迷ったんですが,銀行のためにという一心で,年明け早々に,副頭取Dに告発文を送りまし
218 た。なのに,本当に頭に来ちゃいますよ。私の告発は,副頭取本人に届く前に握りつぶされちゃ
219 ったわけですからね。はっきりしたことは分かりませんが,同期の者が本店の秘書課にいるので,
220 聞いてみたんです。そうしたら,副頭取Dが告発文を読んだことは,これまで一度もなかったっ
221 て言うじゃないですか。秘書課の職員に開封させた後,中身は一切検討せずに,ただファイルさ
222 せているだけらしいんです。いったい何のための告発窓口なんでしょうか。
223 Bのことは,支店長Eも薄々気付いていたと思いますよ。平成15年の忘年会の時だったでし
224 ょうか。しきりとBの様子を,同じ係の私たちに聞いていましたからね。でも,支店長Eは,将
225 来の頭取候補と言われているくらいですから,自分から,パンドラの箱を開けるようなことはし
226 ないんです。願わくば,自分の在任中に,B自身の手で問題が解決されるのを期待していたんじ
227 ゃないですか。
228 (イ)
229
230 Y銀行内部監査部の部長Qの供述
231 驚かれるかもしれませんが,ここ3年ほど,私たち『内部監査部』の職員は丸の内支店を監査
232
233 していません。だから今回の事件のことは,全く発見できませんでした。本当に,お恥ずかしい
234 限りです。
235 今は,
236 『内部監査部』と言っていますが,平成13年6月までは『検査部』って呼ばれていたん
237 です。そのころに比べて,スタッフの人数や顔ぶれは余り変わっていないのですが,仕事の内容
238 は随分と変わりました。
239 『検査部』だったころは,支店を順番に回って事務上の不備がないかどう
240 かを検査するのが仕事でしたので,当時は丸の内支店も定期的に検査していました。
241 ところが,その年の春に金融検査マニュアルが変更になったとかいうんで,急に『内部監査部』
242 に組織替えされ,監査の対象が広がったんです。支店だけじゃなくて,本店の人事部や経理部,
243 それにシステム部などにも監査に入るようになりました。そのため,マンパワーが足りなくなっ
244 たんですね。スタッフの増員が認められなかったので,どこかで手を抜かなければならなくなり,
245 リスクの低いところは,できる限り内部監査を省略しようということになったんです。
246 ちょうど,その翌年の平成14年春に,丸の内支店の支店長としてEが着任したんです。Eは,
247 将来の頭取候補と言われていて,その手腕が買われていましたので,いつの間にか,
248 『丸の内支店
249 はE支店長が管理しているから大丈夫だ』と言われるようになりました。その結果,丸の内支店
250 だけがまるで『聖域』のように扱われるようになり,私たちが内部監査に行くこともなくなった
251 んです。今思えば,変な話ですよね。Y銀行の中で最も取引量の多い丸の内支店こそ最もリスク
252 が高いはずなのに,そこは何も監査せずに,地方の小さな支店ばかりを監査していたんですから,
253 私たちの手落ちと言われても仕方がないと思います。
254 各年度における内部監査の実施計画は私ども現場の方で策定しますが,もちろん担当役員であ
255 る副頭取Dの決裁を取っています。取締役会には諮りません。取締役会メンバーの中には,執行
256 役を兼ねているために現場の支店長と強いパイプを持った方々も多くおられますので,取締役会
257 に諮れば,いつ監査に行くかが事前に漏れてしまいます。だから,実施計画については,担当役
258 員であるDの責任で確定することが,Y銀行の取締役会で定めた内部監査規程に書かれているん
259 です。
260 (ウ)
261
262 コンプライアンス委員会の事務を担当していた職員Rの供述
263 コンプライアンス委員会は,特に緊急事態が生じない限り,半年に1度ずつ開いています。私
264
265 ども事務局の方から,銀行内で生じたコンプライアンスにかかわる出来事を,半年分まとめてご
266 紹介した上で,フリーにディスカッションをしていただいております。それなりに成果は上がっ
267 ていますよ。例えば,第1回目の会議で提案された内部告発制度などは,すぐに実施に移されま
268 したからね。
269 ほとんどすべての委員が出席していますが,社外取締役Fだけは,残念ながら一度もご出席い
270
271 6
272
273 ただいておりません。実は,社外取締役Fは,就任後間もなく海外の大学から客員教授として招
274 へいされてしまったんです。1年のうちの大半を海外で過ごすようになりましたので,Fは,社
275 外取締役を辞任したい旨申し出られました。ところが,副頭取Dに『名前だけでも構わないから』
276 と強く慰留されたんです。それで,やむなくその地位にとどまったと聞いています。だから,F
277 は,コンプライアンス委員会はもちろんのこと,Y銀行の取締役会にも全く出席しておりません。
278 Fの報酬ですか。このような経緯でしたので,Fの申出により,あえて無報酬にしていたよう
279 です。だから,Fとしては,余り責任を感じておられなかったんじゃないでしょうか。
280 〈問2〉
281
282 X1に依頼された弁護士の立場に立って,Bの行為によってAが被った損害につき,役
283
284 員C・D・E・F・Gの責任を問えるかどうかを検討しなさい。
285
286 7
287
288 資料1
289
290 監査委員会の監査報告書
291
292
293
294
295
296
297
298
299
300
301
302 当監査委員会は,平成15年4月1日から平成16年3月31日までの第137期営業
303 年度における取締役及び監査役の職務の執行について監査しました。その結果につき以下
304 のとおり報告します。
305 1.監査の方法の概要
306 監査委員会は,監査委員会が定めた監査の方針,業務の分担等に従い,各監査委員が
307 重要な会議に出席するほか,会社の内部統制部門と適宜連携の上,取締役及び執行役等
308 からその職務の執行に関する事項の報告を聴取し,重要な決裁書類等を閲覧し,本社及
309 び主要な営業所における業務及び財産の状況を調査し,必要に応じて子会社からも営業
310 の報告を求めました。また,これらを通じ,監査委員会の職務の遂行のために必要なも
311 のとして法務省令で定める事項についての取締役会の決議の内容及び運用について監視
312 し,検証いたしました。さらに,会計監査人から報告及び説明を受け,計算書類及び附
313 属明細書につき検討を加えました。
314 取締役又は執行役の競業取引,取締役又は執行役と会社との間の利益相反取引,会社
315 が行った無償の利益供与,子会社又は株主との通例的でない取引並びに自己株式の取得
316 及び処分又は株式失効の手続に関しては,前記の監査の方法のほか,必要に応じて取締
317 役又は執行役等から報告を求め,当該取引の状況を調査しました。
318 2.監査の結果
319 (1) 会計監査人S監査法人の監査の方法及び結果は相当であると認めます。
320 (2) 監査委員会の職務の遂行のために必要なものとして法務省令で定める事項について
321 の取締役会の議事の内容は相当であると認めます。
322 (3) 営業報告書は,法令及び定款に従い,会社の状況を正しく示しているものと認めま
323 す。
324 (4) 損失処理に関する議案は,会社の財産の状況その他の事情に照らし,指摘すべき事
325 項は認められません。
326 (5) 附属明細書は,記載すべき事項を正しく示しており,指摘すべき事項は認められま
327 せん。
328 (6) 取締役又は執行役の職務遂行に関しては,子会社に関する職務を含め,不正の行為
329 又は法令若しくは定款に違反する重大な事実は認められません。なお,取締役又は執
330 行役の競業取引,取締役又は執行役と会社との間の利益相反取引,会社が行った無償
331 の利益供与,子会社又は株主との通例的でない取引並びに自己株式の取得及び処分又
332 は株式失効の手続についても取締役又は執行役の義務違反は認められません。
333 平成16年5月16日
334 株式会社Y銀行
335 監査委員
336 監査委員
337 監査委員
338 (注)
339
340 監査委員会
341
342
343
344
345
346
347
348 監査委員H及びIは,株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律第
349 21条の8第4項ただし書に規定する社外取締役であります。
350
351
352 8
353
354
355
356 資料2
357
358 営業報告書(抜粋)
359
360 (9) 監査委員会の職務遂行のために必要な事項
361 監査委員会の職務の遂行に関する取締役会決議の概要
362 @
363
364 監査委員会の職務を補助すべき使用人に関する事項
365 監査委員会の職務を補助する組織を内部監査部とし,その事務責任者として部長を
366 置く。
367
368 A
369
370 前号の使用人の執行役からの独立性の確保に関する事項
371 人事異動,組織変更等の最終決定は監査委員会の承認を得なければならないことと
372 する。
373
374 B
375
376 執行役及び使用人が監査委員会に報告すべき事項その他監査委員会に対する報告に
377 関する事項
378 後記の事項を監査委員会に報告することとする。
379
380
381 会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実
382
383
384
385 取締役・執行役の職務遂行に関して不正行為,法令・定款に違反する重大な事実
386 が発生する可能性若しくは発生した場合は,その事実
387
388
389
390 役職員からの内部告発を受けた場合は,その事実
391
392
393
394 重要な月次報告
395
396
397
398 重要会議の開催予定
399
400 C
401
402 執行役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する事項
403 重要情報の保存及び管理は規定に従って集中管理を行い,取締役は常時閲覧可能と
404 する。
405
406 D
407
408 損失の危険の管理に関する規程その他の体制に関する事項
409 信用リスク,市場リスク,流動性リスク,オペレーショナル・リスク,システム・
410 リスクのそれぞれについて管理委員会を設けるとともに,全体を統括するために,リ
411 スク管理委員会を設置する。
412
413 E
414
415 執行役の職務の執行が法令及び定款に適合し,かつ効率的に行われることを確保す
416 るための体制に関するその他の事項
417 妥当な意思決定の確保と運用及びそれらの監視を行うシステムを構築する。具体的
418 には,後記の事項を行う。
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420
421 内部監査部による内部統制の有効性の検証
422
423
424
425 頭取の直轄する組織として,副頭取を委員長とするコンプライアンス委員会を設
426 置し,コンプライアンス体制につき定期的なモニタリングを行う。
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428
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430 副頭取を窓口とする内部告発制度を設け,不祥事件の早期発見に努める。
431
432 9
433
434 〔第2問〕(配点:100)
435 以下の○○地方裁判所平成17年(ワ)第○○○号求償金請求事件(以下「本件訴訟」という。)に
436 おける事案の概要並びに原告,被告及び補助参加申立人の各陳述書(いずれも書証として提出され
437 ているものとする。)の概要を読んだ上,以下の問1及び問2に答えなさい。
438 【事案の概要】
439 ○○地方裁判所平成17年(ワ)第○○○号求償金請求事件
440 訴状,答弁書等の準備書面は,口頭弁論又は弁論準備手続期日において,いずれも陳述されてお
441 り,請求の趣旨及び主張等の概要は,以下のとおりである。
442 第1
443
444
445 請求の趣旨
446 被告は,原告に対し,549万2,951円及びこれに対する平成16年6月26日から年
447 5%の割合による金員を支払え。
448
449
450
451 訴訟費用は被告の負担とする。
452
453
454
455 仮執行宣言
456
457 第2
458
459
460 原告(X)の主張の概要
461 Z株式会社(以下「Z社」という。)は,平成15年9月25日,A株式会社(以下「A社」
462 という。)に対し,利息年10%,遅延損害金14.6%,弁済期を平成16年3月25日,A
463 社が手形交換所の取引停止処分を受けた時は,A社は当然に期限の利益を失い,直ちに債務全
464 額を返済するものとする旨を定めて,500万円を貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)。
465
466
467
468 原告と被告とは,同年8月27日,A社から,本件貸付けについてA社のために連帯保証す
469 ることを依頼され,同年9月25日,それぞれZ社との間で,本件貸付けの返還債務について
470 連帯保証契約を締結した。また,その際,原告と被告とは,両者が連帯して保証債務を負担す
471 る旨及び両者間では原告の負担部分はない旨を合意した。
472
473
474
475 A社が平成15年12月22日に取引停止処分を受けて事実上倒産し,本件貸付けの返済を
476 しなかったので,Z社は,原告に対し,保証債務の履行を求め,原告は,平成16年6月25
477 日,Z社に対し,保証債務の履行として,549万2,951円を支払った。
478
479
480
481 以上により,原告は,被告に対し,共同連帯保証人間の求償権を有するので,これに基づい
482 て,549万2,951円及びこれに対する弁済の日の翌日である平成16年6月26日から
483 年5%の割合による遅延損害金の支払を求める。
484
485 第3
486
487
488 被告(Y)の主張の概要
489 Z社がA社に対して本件貸付けをしたこと,被告が原告主張の連帯保証契約を締結したこと,
490 原告と被告とが連帯して保証債務を負担する旨及び原被告間では原告の負担部分がない旨を合
491 意したこと,A社が平成15年12月22日に取引停止処分を受けて事実上倒産したことは認
492 め,その余の事実は知らない。
493
494
495
496 本件貸付けにかかる債務は,平成16年1月31日,A社の代表取締役社長Pの妻の実父R
497 が全額弁済したものであり,被告には,原告の求償に応じる義務はない。
498
499 第4
500
501
502 Z社の補助参加の申出の概要
503 参加の趣旨
504 申立人は,原告・被告間の○○地方裁判所平成17年(ワ)第○○○号求償金請求事件につき,
505 原告を補助するため,当該訴訟に参加することを申し立てる。
506
507
508
509 参加の理由
510 前記事件において原告が敗訴すれば,申立人は,原告から前記事件を前提とした訴訟を提起
511 されるおそれがあるので,前記事件の結果について利害関係がある。
512 (事案の概要は以上である。)
513
514 10
515
516 【Xの陳述書の概要】
517 1.私は,昭和46年3月に○○大学を卒業し,同年4月に○○県内で最大手の総合建設業を営
518 むZ株式会社(以下「Z社」という。)に入社し,平成11年に取締役になりました。その後,
519 今回のことがあってZ社に居づらくなっていたところへ,株式会社B建設(以下「B社」とい
520 う。)から声をかけてもらい,平成16年の秋にB社の専務取締役に迎えられて,現在に至って
521 います。
522 2.A株式会社(以下「A社」という。)は,鉄筋加工組立業を営む株式会社です。20年くらい
523 前から,Z社の下請として仕事をしてもらっています。従業員もそれなりに雇っていますが,
524 実際上は,代表取締役社長のP(以下「P社長」という。)が実質的に一人で経営している会社
525 です。
526 私とP社長とは,仕事上自然と付き合いができ,やがて,同じ高等学校の同窓生ということ
527 が分かって,親しく交際するようになりました。
528 Yは,型枠業者であり,P社長のいとこだと聞いています。A社の紹介で,A社より2年く
529 らい後から,Z社の下請をするようになりました。
530 3.平成15年8月ころ,P社長は,私に対し,鉄筋を加工する機械の購入資金が必要になった
531 が,銀行融資の手続が間に合わないので,Z社から融資を受けられるよう,口を利いてくれな
532 いかと頼んできました。
533 当時,A社は,Z社の鉄筋工事の半分近くを受注するという下請業者の主力であり,工期を
534 守ってもらうために必要な機械だと思われましたので,私は,Z社の役員会に諮ることにした
535 のです。
536 同年9月9日に開かれた役員会では,ほかの下請業者が同じようなことを言い出すと困ると
537 いう意見があり,また,A社の経営状態に対する疑問が指摘されました。しかし,A社が主力
538 の下請業者であり,その当時発注している鉄筋工事に遅れが出ては困るという意見が強く,A
539 社代表者P社長個人とA社側の身元の確かな人とを連帯保証人とした上,この話を持ち込んだ
540 私も連帯保証をすることを条件に,融資に応じることが決まりました。
541 同月10日以降,Z社経理部の担当者からP社長に対して,前記役員会で決まった条件が伝
542 えられ,P社長とYが連帯保証をすることになりました。私は,その連絡を受けましたので,
543 経理部の担当者を通じて,私もP社長及びYと連帯してA社の連帯保証人になるが,万一私が
544 保証債務を履行するようなことがあった場合には,A社側,すなわちA社かP社長又はYから,
545 私が保証債務の履行としてZ社に弁済した金額全額に法定利息を付けて返してもらいたい旨P
546 社長とYとにそれぞれ伝え,P社長からもYからも了解が得られました。
547 4.平成15年9月25日の昼前に,P社長とYとがZ社に来社しましたので,応接室で500
548 万円の貸付けに関する書類を作成しました。
549 私も,応接室に入り,P社長やYとあいさつをし,前記のとおり,経理部担当者からあらか
550 じめ伝えておいた求償関係を確認したところ,P社長もYも,私には迷惑をかけるようなこと
551 はしないと約束してくれました。
552 P社長は,その日の午後,Z社の経理部で,500万円の小切手を受け取って帰ったはずで
553 す。
554 5.ところが,A社は,その年の暮れ(平成15年12月下旬)に,突然不渡りを出して取引停
555 止処分を受け,事実上倒産し,P社長は所在をくらましてしまったのです。
556 6.Z社は,しばらくP社長の行方を捜していましたが,発見に至らなかったことから,平成1
557 6年2月に入ってから,Yに保証債務の履行を求めました。しかし,Yが,約束に違反して,
558 支払義務はないと主張して,履行に応じなかったことから,Z社は,私に保証債務の履行を求
559 めました。
560 私は,Z社が貸した500万円を回収できなくなったこと,特に,500万円の融資の可否
561
562 11
563
564 の判断について,私が役員会で積極的な意見を述べたこと,その意見に私情が入り込んだため
565 にZ社に迷惑を掛けたのではないかと思い,非常に責任を感じました。ほかの役員も,私を非
566 難するような雰囲気でした。
567 そのような状態の中で,B社から移籍の勧誘を受けたこともあって,私は,A社への融資に
568 対する責任を取って退職し,退職金で私の保証債務を履行することにしたのです。
569 以上のような経緯で,私は,平成16年5月末日をもってZ社を退職し,同年6月25日,
570 同日支給された退職金の中からZ社のA社に対する500万円の貸金並びにこれに対する利息
571 及び遅延損害金合計549万2,951円をZ社に弁済しました。
572 7.平成16年7月上旬,私は,Yに対して,私が弁済した549万2,951円を払ってくれ
573 るよう請求したところ,Yは,P社長の奥さんの実父Rが弁済したはずだと主張して,支払を
574 拒否しました。
575 8.今回の件では,Z社内で随分嫌な思いもしましたが,Z社には,私の父も定年まで働いてい
576 ましたので,今もそれなりに愛着もあり,複雑な気持ちです。
577 しかし,信じたくないことですが,万一,既にA社への貸金が返済されていたにもかかわら
578 ず,Z社の債権管理のミスで私が支払わされたことが本当だとすれば,私が,嫌な思いをした
579 り,責任を感じて退職することはなかったようにも思われます。
580 ですから,今すぐにどうこうということではありませんが,万一Yの言い分が認められるよ
581 うなことがあれば,私がZ社に貸している土地の賃貸借関係について考え直すことになるかも
582 知れません。
583 私が貸している土地というのは,私の父が,Z社に対し,重機や資材の置き場所として賃貸
584 していた土地のことです。私がその土地を相続し,現在は,私がZ社に対してその土地を賃貸
585 しています。この土地の賃貸借契約については,私がZ社の取締役に就任した時に,Z社の顧
586 問弁護士に相談して所定の手続を採っており,何ら法律上の問題はありません。
587 (Xの陳述書の概要は以上である。)
588 【Yの陳述書の概要】
589 1.私は,型枠大工数名を使って,住所地で,型枠業を営んでます。昭和62年ころから,Z株
590 式会社(以下「Z社」という。)の下請をしており,現在では,仕事の大半をZ社からもらって
591 います。
592 鉄筋加工組立業のA株式会社(以下「A社」という。)の代表取締役社長のP(以下「P社長」
593 という。)は,私のいとこです。
594 2.Xが主張しているZ社のA社に対する500万円の貸付けの契約内容やXY間の連帯及び負
595 担部分に関する合意の事実は間違いありません。しかし,A社がZ社に弁済しなかったため,
596 Z社から請求を受けてXが弁済したというXの主張は,何かの間違いだと思います。
597 といいますのは,平成15年の年末にP社長の所在が不明になったので,私は,P社長の奥
598 さんからいろいろ相談を受け,その機会に私がした保証のことも尋ねたことがありました。
599 P社長の奥さんは,A社がZ社から借りていた500万円は,奥さんの実父Rが平成16年
600 1月31日に払ってくれたので,私やXには迷惑は掛からないようになっているはずだ,と言
601 っていたのです。
602 ですから,Z社がA社に貸した500万円についてのXの保証債務も履行する必要はなくな
603 ったはずなのです。
604 3.Xは,会社を辞めて,払わなくてよいはずのA社の借金の後始末をさせられたということで,
605 気の毒ではあります。しかし,それはZ社の債権管理のミスが原因で,Xは,Z社の役員だっ
606 たのですから,その責任を負うべきであって,私に求償するのは筋違いだと思います。
607 (Yの陳述書の概要は以上である。)
608
609 12
610
611 【Z社代表取締役Qの陳述書の概要】
612 1.当社とA株式会社(以下「A社」という。)及びXとの関係は,Xの陳述書の概要1項から3
613 項に記載されているとおりです。
614 2.本件訴訟において,Yは,本件貸付けは,A社の代表取締役社長Pの奥さんの実父Rにより
615 弁済されていると主張しています。
616 しかし,当社は,県内最大手の総合建設業会社であり,これまでの当社の歴史において,社
617 としてはもちろん,社員も,世間から後ろ指を指されるようなことをしたことはありません。
618 もちろん債権管理等も厳重に行っており,二重に支払を受けるようなことは,当社のシステム
619 上有り得ないのです。
620 3.A社もYも,昭和の終わりころから,長年下請として仕事を発注してきた業者であり,共存
621 共栄を願って,良好な提携関係にあったはずであるにもかかわらず,今回,当社が二重に債権
622 の弁済を受けたと言われることは,非常に心外です。
623 4.確かに,A社代表取締役社長Pの奥さんの実父Rから500万円の支払を受けたことはあり
624 ます。しかし,それは,今回問題になっている貸金の約半年前の平成15年3月ころ,当社が
625 A社に貸した運転資金450万円の元金及び利息の弁済として,一部の利息を免除した上で受
626 領したものなのです。Yは,そのことを誤解しているものと思います。
627 5.Yの言い分は,当社の名誉にもかかわることですし,また,Xから当社が借りている重機・
628 資材置場が使用できなくなると困ります。是非訴訟に参加することを認めていただきたいと思
629 います。
630 (Qの陳述書の概要は以上である。)
631 〈問1〉
632
633 Zの補助参加の申出に対し,受訴裁判所からZに対して,参加の理由の詳細を明らかに
634
635 するよう釈明があったとする。Zの訴訟代理人弁護士(Z及びXから,前記事案及び陳述書の概
636 要を聴取しているものとする。)の立場に立って,Zが本件訴訟の結果とどのような利害関係を持
637 つのかを分析し,補助参加の利益についての判断基準を示した上,補助参加の利益を基礎付ける
638 理由を本件訴訟の事案に即して説明しなさい。
639 〈問2〉
640
641 Zの補助参加の申出に対し,Yの訴訟代理人弁護士が異議を申し立てる場合,以下の裁
642
643 判例(抜粋)を論拠としてどのような主張が可能か,本件訴訟の事案に即して説明しなさい(説
644 明に当たっては,以下の裁判例(抜粋)が補助参加の利益についてどのような判断基準を採って
645 いるかを,裁判例の事案に即して検討すること。)。
646 【裁判例(抜粋)】
647 本件訴訟は,本件土地について甲から丙,乙へと順次経由された各所有権移転登記を巡
648 り甲が自己の所有権及び前記各登記の原因たる所有権移転行為の不存在若しくは無効を主
649 張して,これらの者に対し前記各登記の抹消を訴求したものであるところ,当裁判所にお
650 いて,甲と丙との間に,丙は,甲の本件土地所有権を認め,甲から丙への所有権移転登記
651 の抹消登記手続をなすべき旨の内容の裁判上の和解が成立し,甲と乙との間にのみ訴訟が
652 残存するに至ったものである。したがって,現在の権利関係の公示を目的とする我が不動
653 産登記法の下においては,現在の所有登記名義人である乙との間の本訴において甲が勝訴
654 し,乙の所有権移転登記が抹消されない限り,これに先行する丙の所有権移転登記を抹消
655 することができず前記和解契約により甲及び丙が所期した目的が達せられないことは丙の
656 主張するとおりである。しかし,前記和解契約により確定された甲の丙に対する所有権移
657
658 13
659
660 転登記の抹消登記請求権及びこれに対応する丙の抹消登記義務は,本件訴訟の訴訟物であ
661 る甲の乙に対する所有権移転登記抹消登記請求権の存否により決せられるべき関係にある
662 ものではない。問題は,甲が本件訴訟に敗訴し乙に対する前記抹消登記請求権が否定され
663 た場合,これに起因して丙が甲に対する関係において前記和解契約上何らかの不利益を受
664 ける立場にあるかどうかである。この点について丙は,もし甲が本訴で敗訴すれば,丙の
665 抹消登記義務の履行が不能となり,甲から損害賠償の請求を受けるおそれがあると主張す
666 るが,甲敗訴の結果,本件土地について乙の所有権移転登記の抹消ができず,ひいて丙の
667 抹消登記が実現できないとしても,前記和解契約において乙の抹消登記の承諾を得ること
668 につき丙の責任を定めた条項は存しないのであるから,これをもって丙の責に帰すべき履
669 行不能として甲に対し損害賠償の責任を負うべきいわれはない。また,前記和解契約にお
670 いては,丙が甲に対し片務的に抹消登記をなすべき義務を定めたものであり,これと対価
671 的関係に立つ権利の設定については何らの定めもないのであるから,丙の前記抹消登記義
672 務の実現が妨げられることによって丙が本来得べかりし権利ないし利益を失うという関係
673 も存しない。
674 このようにみてくると,丙は甲と乙間の本件訴訟の結果につき法律上の利害関係を有す
675 る第三者とは認め難く,補助参加の要件を具備しないものといわなければならない。
676
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