1 論文式試験問題集[民事系科目]
2
3 1
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:200)
7 次の文章を読んで,
8 以下の問1と問2に答えよ。
9
10
11
12 T
13
14 ある日,
15 弁護士であるあなたのところに,
16 X2社の代表取締役であるX1がやってきて,
17 @死
18
19 亡した母Aの相続人として,
20 また,
21 AX2社の代表取締役として,
22 A及びX2社が被った損害の
23 賠償を求めたい旨の相談をした。
24
25
26 最初の相談において,
27 X1から聞いた事実関係は,
28 以下の事情聴取の結果要旨1にまとめてあ
29 る。
30
31
32 【事情聴取の結果要旨1】
33 1.X2社は,
34 著名な料理研究家のAが,
35 料理教室の運営と自社ブランドのキッチン用品の販売
36 を目的として平成元年に設立した株式会社であり,
37 代表取締役を務めたAの個人人気に支えら
38 れて,
39 好調な業績を上げていた。
40
41
42 2.Y銀行は,
43 大正14年に無尽業を目的として設立された後,
44 相互銀行への組織変更を経て,
45
46 平成元年に普通銀行となった株式会社である。
47
48
49 3.Y銀行は,
50 主として関東地方を営業基盤としていたが,
51 バブル経済の崩壊後,
52 主要な貸出先
53 の経営破たんが相次ぎ,
54 財務状態が悪化していた。
55
56
57 4.Aは,
58 X2社の設立に際し開業資金の融資を受けたことから,
59 個人財産の多くはY銀行の丸
60 の内支店に開設した口座に預金していた。
61
62 しかし,
63 取引上の付き合いから,
64 他の銀行や信用組
65 合などにも預金があり,
66 その額は数億円に上っていた。
67
68 Aは,
69 もともと貯蓄や投資には頓着が
70 なかったが,
71 平成17年4月にペイオフが完全解禁されることを知り,
72 預貯金の扱いや投資に
73 関心を持つようになっていた。
74
75
76 5.Bは,
77 某大手証券会社の営業職員であったが,
78 会社が破たんしたことから職を失い,
79 平成
80 15年にY銀行に再就職し,
81 丸の内支店に配属された。
82
83 Bは,
84 年齢が40代半ばで,
85 支店長代
86 理の肩書を与えられていたものの,
87 入社してから日が浅いこともあり,
88 取引先を回って預金と
89 して入金する資金を預かったり,
90 その他の金融商品の販売の勧誘を行う権限のみを持つ平社員
91 にすぎなかった。
92
93
94 6.平成15年の秋に,
95 北関東の地方銀行が破たんしたことから,
96 マスコミは一斉に,
97 この銀行
98 と貸出先が類似しているY銀行もまた,
99 早晩破たんするのではないかという憶測記事を書き始
100 めた。
101
102
103 7.その直後から,
104 預金の流出が激しさを増すのを目の当たりにして,
105 Bは,
106 つぶれる前に何と
107 か荒稼ぎをしようと,
108 いろいろな手口で多数の顧客から多額の資金を詐取したようである。
109
110
111 8.Aもまた被害者の一人で,
112 Bの口車に乗せられ,
113 平成16年の秋ごろ,
114 他の信用組合等に預
115 けていた個人財産5億円の預金を下ろして,
116 Bに渡した。
117
118 ただ,
119 X1が最初に相談に訪れた時
120 点では,
121 AがBと結んだ本件契約の契約書が見つからず,
122 Aが死亡しているため,
123 契約内容の
124 詳細は分からなかった。
125
126
127 9.今年になって,
128 Bが多数の顧客を相手に詐欺的行為を行っており,
129 その被害総額は50億円
130 を超えていることが明らかとなったが,
131 既にBは行方をくらましており,
132 警察による捜査が続
133 けられていた。
134
135
136 10.この事件でAが被害を受けたことを知ったマスコミは,
137 堅実なイメージでお茶の間に人気だ
138 ったAの思わぬアクシデントを,
139 連日のように面白おかしく取り上げた。
140
141 巨額の損害を被った
142 上に,
143 Aが軽率であったとする心ない論調が目立ったことから,
144 高齢であったAは,
145 心労の余
146 り病床に着いてしまった。
147
148 その結果,
149 X2社が運営する料理教室は閉校に追い込まれ,
150 X2社
151
152 2
153
154 ブランドのキッチン用品も売上げが激減し,
155 多額の損失を計上した。
156
157
158 11.しばらくして,
159 Bが自殺していることが判明したが,
160 Bがどのような手口で顧客から資金を
161 集めたか,
162 集められた資金がどこにどういう形で使われたのかは現在のところ不明で,
163 Bの遺
164 族にも損害を賠償する資力はなかった。
165
166
167 12.他方,
168 病床にあったAもまた,
169 料理教室を再開させることができないまま無念な思いで他界
170 し,
171 X2社は,
172 Aの唯一の相続人である娘のX1にゆだねられた。
173
174
175 (事情聴取の結果要旨1の内容は以上である。
176
177
178 相談を受けたあなたは,
179 X1に,
180 本件にかかわる契約書があればそれを探し出すことや事情を知
181 っている従業員にさらに詳細を尋ねるよう指示した。
182
183 その上で,
184 Bの詐欺に遭った被害者を探した
185 ところ,
186 同種被害を受けた者が作った「B詐欺事件被害者の会」の参加者の話から,
187 Bの手口には,
188
189 おおよそ次の三つの型があることが分かってきた。
190
191 なお,
192 X1やこれらの顧客の話は,
193 事実である
194 ことが確認できた。
195
196
197 (a)
198
199 顧客αの話の概要
200 私は,
201 ある高校の校長を務めておりましたが,
202 ある日,
203 父兄の一人から紹介されたというBが
204
205 放課後に校長室を訪ね,
206 退職後の生活にゆとりを持たせるには,
207 確実で安全な投資を専門家の助
208 言の下で行うのが良いとしきりに勧めました。
209
210 そして,
211 新聞記事を見せて,
212 間もなく銀行が証券
213 業に参入できるようになるので,
214 その時点で,
215 Y銀行に資産運用を任せてもらえないかと誘われ,
216
217 まずは普通預金口座を開設し,
218 そこにまとまった資金を預けてほしいと言われました。
219
220
221 そこで,
222 最初に,
223 Bに1万円と印鑑を預けて預金通帳を作ってもらいました。
224
225 その数日後,
226
227 に預けていた預貯金を解約したり,
228 退職金の前借りをしたりして,
229 3,
230 000万円をBに預けま
231 した。
232
233 その際,
234 いったん渡された預金通帳と届出印もBに預けました。
235
236 BからはY銀行の用紙に
237 Bの印が押された3,
238 000万円の預り証をその場で受け取りました。
239
240
241 約束した日にBが通帳や印鑑を持参しないので心配していましたところ,
242 事件が報道されたの
243 で,
244 すぐにY銀行に事情を聞きに行きました。
245
246 ところが,
247 Y銀行は,
248 確かに初回の1万円の預金
249 通帳は正規のものであるが,
250 3,
251 000万円の預り金はBが自分の懐に入れていてY銀行には入
252 金していないから,
253 Y銀行は一切関知しないと,
254 けんもほろろの対応で,
255 途方に暮れています。
256
257
258 それどころか,
259 対応した行員は,
260
261 「校長先生ともあろう人が,
262 いったいどんな投資話を聞いてそん
263 な大金を預けたのですか。
264
265 」とか,
266 「Bは普通のサラリーマンでは考えられないような派手な身な
267 りをしていたのだから,
268 立派な校長先生ならBが横領に手を染めていたことくらい察することが
269 できたはずだ。
270
271 」などと,
272 被害者の私をまるでBの片棒を担いだかのように言うので,
273 私も本当に
274 頭に来てしまいました。
275
276
277 (b)
278
279 顧客βの話の概要
280 私は,
281 小さな会社を経営しています。
282
283 業績は今一つパッとしないのですが,
284 財産家だった父の
285
286 残した不動産が遊んでいるので,
287 これを元手に大きな商売がしたくて,
288 良い投資先を探していま
289 した。
290
291 知人の紹介でBがやってきて,
292 パンフレットを示しながら,
293
294 「自分は,
295 富裕層の顧客だけを
296 相手に,
297 特別の外貨預金を勧誘している。
298
299 この外貨預金は,
300 まとまった金額の預託が必要で解約
301 手数料が高いとの欠点はあるが,
302 半年ごとに支払われる利息は年利6%以上であり,
303 しかも,
304
305 本についてはY銀行が支払を保証するので危険は少ない。
306
307 」と勧めました。
308
309 私は,
310 為替リスクを考
311 えても,
312 この低金利時代にひどく有利な提案だと考え,
313 不動産を売って,
314 Bに1億円の小切手を
315 渡しました。
316
317 契約書にはY銀行の正規の支店長印も押されています。
318
319 実際に,
320 最初の6か月後に
321 は,
322 300万円がY銀行の名義で私の指定口座に振り込まれていましたので,
323 すっかり信用して
324 おりました。
325
326
327 しかし,
328 事件後のY銀行の説明では,
329
330 「Y銀行はそのような外貨預金商品を扱っていない。
331
332 Bに
333
334 3
335
336 はそのような契約を勧誘したり締結したりする権限は全くなく,
337 契約書はBが勝手に偽造したも
338 のだろう。
339
340 支店長印もBがすきを見て持ち出して勝手に押なつしたものにちがいない。
341
342 」とのこと
343 でした。
344
345 確かに,
346 こんなパンフレットなんかはパソコンで簡単に作れると言われれば,
347 軽率に話
348 に乗ってしまった私が愚かだったと反省しています。
349
350 しかし,
351 逆に,
352 BがY銀行の経理システム
353 を悪用してY銀行名義で私の口座に振り込んだ300万円を返してほしい,
354 などと言われたのに
355 は,
356 納得ができません。
357
358
359 (c)
360
361 顧客γの話の概要
362 Bに金をだまし取られたのは,
363 私ではなく,
364 80歳になる私の母なんです。
365
366 母は,
367 以前からB
368
369 と顔見知りで,
370 Bの勧誘で何度か投資の契約をしていたようです。
371
372 また,
373 Bに預金通帳や印鑑を
374 預けて払戻しを頼んだこともあるほど,
375 母は,
376 Bを孫のようにかわいがって信頼していました。
377
378
379 何でも,
380 2か月ほど前に,
381 Bが母のところにやってきて,
382
383 「私は,
384 Y銀行の秘密のプロジェクトで
385 新しい投資商品の開発を行っているが,
386 そのための資金が500万円不足している。
387
388 このままで
389 は,
390 実験は失敗して銀行にいられなくなってしまう。
391
392 来月末まででいいから500万円を貸して
393 ほしい。
394
395 もちろん,
396 お預かりする資金はY銀行が返済を保証するし,
397 高い利息もお払いします。
398
399
400 と頼んできたそうです。
401
402 母は,
403 そんな大金は持ち合わせがないといったん断ったのですが,
404 Bが
405 何度も懇願するのに根負けして,
406 1週間ほど後に,
407 別の信用金庫の預金を下ろしてBに渡してし
408 まいました。
409
410 その1か月後に,
411 約束どおりBが利息と称する5万円をY銀行の封筒に入れて母の
412 ところに持参したものですから,
413 母は,
414 すっかりBを信用してしまっていました。
415
416
417 しかし,
418 事件後に私がY銀行に問い合わせたら,
419
420 「そんなプロジェクトの話はない。
421
422 Bが渡した
423 預り証は,
424 当行の所定の用紙ではなく,
425 Bが肩書付の署名をしてはいるがB個人の印を押したも
426 ので,
427 当行は無関係である。
428
429 」と言われました。
430
431 今でもBの犯罪を知らない母には,
432 本当の話をど
433 う伝えたら良いのか分かりません。
434
435
436 〈問1〉
437
438 あなたは,
439 AがBからどういう形で資金をだまし取られたかが分からないので,
440 本件事
441
442 案が(a)〜(c)のそれぞれの事実関係と類似していると仮定して考えてみることにした。
443
444
445 X1やX2社がY銀行に対して何らかの請求をすることができるかを,
446 それぞれの場合に即し
447 て法律構成を明らかにしつつ検討しなさい。
448
449 なお,
450 後述Uの事実は,
451 ここでは考慮してはならな
452 い。
453
454
455 なお,
456 答案の作成に当たっては,
457 「X2社」を単に「X2」と,
458 「Y銀行」を単に「Y」と記載
459 して差し支えない。
460
461
462
463 U
464
465 2か月後,
466 X1が,
467 この間に明らかとなった事実を説明に来た。
468
469 X1が,
470 「B詐欺事件被害者の
471 会」と協力して入手した情報と,
472 それを踏まえたX1の意向は,
473 以下の事情聴取の結果要旨2に
474
475 まとめてある。
476
477 また,
478 その後ろには,
479 あなたがY銀行の職員から聴取した供述の内容と,
480 本件に
481 関係する資料を添付してある。
482
483 なお,
484 以下の事情聴取の結果要旨2に記載された内容及び後述す
485 る職員の供述内容は,
486 いずれも事実であることが確認できた。
487
488
489 【事情聴取の結果要旨2】
490 1.BがAをだました手口は,
491 前記Tで検討された三つのパターンのうち顧客βのケースに近い
492 ことが判明した。
493
494
495 2.Y銀行は,
496 平成15年6月に開催された定時株主総会において,
497 他の銀行に先駆けて委員会
498 等設置会社に移行し,
499 経営の効率化を図ることで業務純益を増加させようと試みていた。
500
501 しか
502 し,
503 同年末ごろより経営状態が急激に悪化し,
504 このままでは破たんする可能性すらでてきた。
505
506
507 そこで,
508 X1は,
509 Y銀行に対する責任追及の可否を論じているだけでは心もとないと考え,
510
511 の起こした不祥事件について,
512 Y銀行の取締役及び執行役にも責任を追及したいと考えるよう
513
514 4
515
516 になった。
517
518
519 3.Y銀行には,
520 取締役兼代表執行役である頭取Cを筆頭に11名の取締役がおり,
521 そのうち5
522 名が社外取締役であった。
523
524 社内出身の6名の取締役は,
525 監査委員に任命された者を除き,
526 いず
527 れも執行役を兼務していたが,
528 Y銀行ではさらに10名の執行役が選任されていた。
529
530 取締役兼
531 執行役の中で,
532 内部監査の最高責任者とされていたのは,
533 副頭取Dである。
534
535
536 4.Y銀行丸の内支店の支店長Eは,
537 いわゆる使用人兼務の執行役であり,
538 同支店のコンプライ
539 アンス責任者でもあった。
540
541
542 5.Y銀行では,
543 数年前にも従業員による横領事件が起こったことから,
544 金融当局の指導もあり,
545
546 副頭取Dを委員長とするコンプライアンス委員会が設けられていた。
547
548 その社会的信頼性を高め
549 るために,
550 Y銀行は,
551 平成15年6月の定時株主総会で,
552 テレビの討論番組などにも出演する
553 ことの多い,
554 金融論の大家である大学教授Fを社外取締役に任命し,
555 同委員会のメンバーに加
556 えていた。
557
558 ちなみに,
559 Fは,
560 指名・報酬・監査の3委員会には属しておらず,
561 これらの委員会
562 のメンバーは,
563 残る4名の社外取締役のうち2名が指名及び報酬委員会のメンバーを兼務し,
564
565 残る2名が監査委員に就任する形を採っていた。
566
567
568 6.そのほかY銀行には,
569 副頭取Dを責任者とする内部告発の窓口が設けられていた。
570
571 X1は,
572
573 調査の過程で,
574 Y銀行丸の内支店の女性職員Pが,
575 平成16年1月,
576 この告発窓口にあてて,
577
578 Bの不可解な行動を告発していた事実をつかんだが,
579 副頭取Dは,
580 X1に対し,
581 そうした事実
582 は承知していないと言ったとのことである。
583
584
585 7. 「B詐欺事件被害者の会」が調べたところでは,
586 平成16年3月期の監査報告書を作成する
587 際,
588 社内出身の監査委員Gと,
589 残る2名の監査委員であった社外取締役H及びIとが,
590 内部監
591 査の在り方を巡って口論になったとのことである。
592
593 H及びIは,
594 内部監査部に,
595 丸の内支店に
596 対する内部監査を実施させてからでなければ監査報告書に署名できないと強く主張したようで
597 あるが,
598 結局は,
599 Gの説得により,
600 資料1のような監査報告書が作られた。
601
602 これが影響したの
603 かどうかは明らかではないが,
604 H及びIは,
605 指名委員会の作成した次期取締役候補者のリスト
606 から外され,
607 同年6月の定時株主総会では取締役に再任されなかった。
608
609
610 8.なお,
611 Y銀行が,
612 平成16年6月の定時株主総会に際して,
613 招集通知に添付した営業報告書
614 には,
615
616 「監査委員会の職務の遂行に関する取締役会決議の概要」として,
617 資料2のような記載が
618 なされていた。
619
620
621 9.以上の事情を踏まえ,
622 X1としては,
623 頭取C・副頭取D・丸の内支店長E・社外取締役F・
624 監査委員Gの責任を問いたいと考えている。
625
626
627 (事情聴取の結果要旨2の内容は以上である。
628
629
630 そこで,
631 あなたが,
632 Y銀行の何人かの職員に面談し,
633 事情を聴取したところ,
634 次のような供述を
635 得た。
636
637
638 (ア)
639
640 Y銀行丸の内支店の女性職員Pの供述
641 だれも驚いていないと思いますよ。
642
643 だって,
644 かれこれ1年半ぐらいの間,
645 Bの近くにいた職員
646
647 は,
648 Bの行動を不可解だと思っていましたからね。
649
650 契約書が交付されたらしい形跡があるのに,
651
652 その写しが保管されていなかったり,
653 支店長印が勝手に持ち出された疑いがあったり,
654 とにかく,
655
656 変な出来事が多かったんです。
657
658 特に奇妙だったのは,
659 Bが不在の時によくかかってきた意味不明
660 な電話です。
661
662 通帳がどうしたとか,
663 預り証がどうしたとか言われても,
664 他の職員では答えられな
665 いので,
666 後からかけ直してもらっていたんですが,
667 中には,
668 かなりの剣幕でまくし立てるお客さ
669 んもいて,
670 みんな困っていたんです。
671
672
673 そんな中で,
674 私がBの犯罪に確信を抱いたのは,
675 平成15年の年末に深夜まで残業していた時
676 のことです。
677
678 間もなく日付が変わろうとしていた時に,
679 Bが合い鍵のようなものを使って,
680 鍵の
681
682 5
683
684 かかっている支店長室にこっそり入り込んでいるのを見掛けたんです。
685
686 これは大変だと思い,
687
688 分と迷ったんですが,
689 銀行のためにという一心で,
690 年明け早々に,
691 副頭取Dに告発文を送りまし
692 た。
693
694 なのに,
695 本当に頭に来ちゃいますよ。
696
697 私の告発は,
698 副頭取本人に届く前に握りつぶされちゃ
699 ったわけですからね。
700
701 はっきりしたことは分かりませんが,
702 同期の者が本店の秘書課にいるので,
703
704 聞いてみたんです。
705
706 そうしたら,
707 副頭取Dが告発文を読んだことは,
708 これまで一度もなかったっ
709 て言うじゃないですか。
710
711 秘書課の職員に開封させた後,
712 中身は一切検討せずに,
713 ただファイルさ
714 せているだけらしいんです。
715
716 いったい何のための告発窓口なんでしょうか。
717
718
719 Bのことは,
720 支店長Eも薄々気付いていたと思いますよ。
721
722 平成15年の忘年会の時だったでし
723 ょうか。
724
725 しきりとBの様子を,
726 同じ係の私たちに聞いていましたからね。
727
728 でも,
729 支店長Eは,
730
731 来の頭取候補と言われているくらいですから,
732 自分から,
733 パンドラの箱を開けるようなことはし
734 ないんです。
735
736 願わくば,
737 自分の在任中に,
738 B自身の手で問題が解決されるのを期待していたんじ
739 ゃないですか。
740
741
742 (イ)
743
744 Y銀行内部監査部の部長Qの供述
745 驚かれるかもしれませんが,
746 ここ3年ほど,
747 私たち『内部監査部』の職員は丸の内支店を監査
748
749 していません。
750
751 だから今回の事件のことは,
752 全く発見できませんでした。
753
754 本当に,
755 お恥ずかしい
756 限りです。
757
758
759 今は,
760
761 『内部監査部』と言っていますが,
762 平成13年6月までは『検査部』って呼ばれていたん
763 です。
764
765 そのころに比べて,
766 スタッフの人数や顔ぶれは余り変わっていないのですが,
767 仕事の内容
768 は随分と変わりました。
769
770
771 『検査部』だったころは,
772 支店を順番に回って事務上の不備がないかどう
773 かを検査するのが仕事でしたので,
774 当時は丸の内支店も定期的に検査していました。
775
776
777 ところが,
778 その年の春に金融検査マニュアルが変更になったとかいうんで,
779 急に『内部監査部』
780 に組織替えされ,
781 監査の対象が広がったんです。
782
783 支店だけじゃなくて,
784 本店の人事部や経理部,
785
786 それにシステム部などにも監査に入るようになりました。
787
788 そのため,
789 マンパワーが足りなくなっ
790 たんですね。
791
792 スタッフの増員が認められなかったので,
793 どこかで手を抜かなければならなくなり,
794
795 リスクの低いところは,
796 できる限り内部監査を省略しようということになったんです。
797
798
799 ちょうど,
800 その翌年の平成14年春に,
801 丸の内支店の支店長としてEが着任したんです。
802
803 Eは,
804
805 将来の頭取候補と言われていて,
806 その手腕が買われていましたので,
807 いつの間にか,
808
809 『丸の内支店
810 はE支店長が管理しているから大丈夫だ』と言われるようになりました。
811
812 その結果,
813 丸の内支店
814 だけがまるで『聖域』のように扱われるようになり,
815 私たちが内部監査に行くこともなくなった
816 んです。
817
818 今思えば,
819 変な話ですよね。
820
821 Y銀行の中で最も取引量の多い丸の内支店こそ最もリスク
822 が高いはずなのに,
823 そこは何も監査せずに,
824 地方の小さな支店ばかりを監査していたんですから,
825
826 私たちの手落ちと言われても仕方がないと思います。
827
828
829 各年度における内部監査の実施計画は私ども現場の方で策定しますが,
830 もちろん担当役員であ
831 る副頭取Dの決裁を取っています。
832
833 取締役会には諮りません。
834
835 取締役会メンバーの中には,
836 執行
837 役を兼ねているために現場の支店長と強いパイプを持った方々も多くおられますので,
838 取締役会
839 に諮れば,
840 いつ監査に行くかが事前に漏れてしまいます。
841
842 だから,
843 実施計画については,
844 担当役
845 員であるDの責任で確定することが,
846 Y銀行の取締役会で定めた内部監査規程に書かれているん
847 です。
848
849
850 (ウ)
851
852 コンプライアンス委員会の事務を担当していた職員Rの供述
853 コンプライアンス委員会は,
854 特に緊急事態が生じない限り,
855 半年に1度ずつ開いています。
856
857
858
859 ども事務局の方から,
860 銀行内で生じたコンプライアンスにかかわる出来事を,
861 半年分まとめてご
862 紹介した上で,
863 フリーにディスカッションをしていただいております。
864
865 それなりに成果は上がっ
866 ていますよ。
867
868 例えば,
869 第1回目の会議で提案された内部告発制度などは,
870 すぐに実施に移されま
871 したからね。
872
873
874 ほとんどすべての委員が出席していますが,
875 社外取締役Fだけは,
876 残念ながら一度もご出席い
877
878 6
879
880 ただいておりません。
881
882 実は,
883 社外取締役Fは,
884 就任後間もなく海外の大学から客員教授として招
885 へいされてしまったんです。
886
887 1年のうちの大半を海外で過ごすようになりましたので,
888 Fは,
889
890 外取締役を辞任したい旨申し出られました。
891
892 ところが,
893 副頭取Dに『名前だけでも構わないから』
894 と強く慰留されたんです。
895
896 それで,
897 やむなくその地位にとどまったと聞いています。
898
899 だから,
900
901 は,
902 コンプライアンス委員会はもちろんのこと,
903 Y銀行の取締役会にも全く出席しておりません。
904
905
906 Fの報酬ですか。
907
908 このような経緯でしたので,
909 Fの申出により,
910 あえて無報酬にしていたよう
911 です。
912
913 だから,
914 Fとしては,
915 余り責任を感じておられなかったんじゃないでしょうか。
916
917
918 〈問2〉
919
920 X1に依頼された弁護士の立場に立って,
921 Bの行為によってAが被った損害につき,
922
923
924 員C・D・E・F・Gの責任を問えるかどうかを検討しなさい。
925
926
927
928 7
929
930 資料1
931
932 監査委員会の監査報告書
933
934
935
936
937
938
939
940
941
942
943
944 当監査委員会は,
945 平成15年4月1日から平成16年3月31日までの第137期営業
946 年度における取締役及び監査役の職務の執行について監査しました。
947
948 その結果につき以下
949 のとおり報告します。
950
951
952 1.監査の方法の概要
953 監査委員会は,
954 監査委員会が定めた監査の方針,
955 業務の分担等に従い,
956 各監査委員が
957 重要な会議に出席するほか,
958 会社の内部統制部門と適宜連携の上,
959 取締役及び執行役等
960 からその職務の執行に関する事項の報告を聴取し,
961 重要な決裁書類等を閲覧し,
962 本社及
963 び主要な営業所における業務及び財産の状況を調査し,
964 必要に応じて子会社からも営業
965 の報告を求めました。
966
967 また,
968 これらを通じ,
969 監査委員会の職務の遂行のために必要なも
970 のとして法務省令で定める事項についての取締役会の決議の内容及び運用について監視
971 し,
972 検証いたしました。
973
974 さらに,
975 会計監査人から報告及び説明を受け,
976 計算書類及び附
977 属明細書につき検討を加えました。
978
979
980 取締役又は執行役の競業取引,
981 取締役又は執行役と会社との間の利益相反取引,
982 会社
983 が行った無償の利益供与,
984 子会社又は株主との通例的でない取引並びに自己株式の取得
985 及び処分又は株式失効の手続に関しては,
986 前記の監査の方法のほか,
987 必要に応じて取締
988 役又は執行役等から報告を求め,
989 当該取引の状況を調査しました。
990
991
992 2.監査の結果
993 (1) 会計監査人S監査法人の監査の方法及び結果は相当であると認めます。
994
995
996 (2) 監査委員会の職務の遂行のために必要なものとして法務省令で定める事項について
997 の取締役会の議事の内容は相当であると認めます。
998
999
1000 (3) 営業報告書は,
1001 法令及び定款に従い,
1002 会社の状況を正しく示しているものと認めま
1003 す。
1004
1005
1006 (4) 損失処理に関する議案は,
1007 会社の財産の状況その他の事情に照らし,
1008 指摘すべき事
1009 項は認められません。
1010
1011
1012 (5) 附属明細書は,
1013 記載すべき事項を正しく示しており,
1014 指摘すべき事項は認められま
1015 せん。
1016
1017
1018 (6) 取締役又は執行役の職務遂行に関しては,
1019 子会社に関する職務を含め,
1020 不正の行為
1021 又は法令若しくは定款に違反する重大な事実は認められません。
1022
1023 なお,
1024 取締役又は執
1025 行役の競業取引,
1026 取締役又は執行役と会社との間の利益相反取引,
1027 会社が行った無償
1028 の利益供与,
1029 子会社又は株主との通例的でない取引並びに自己株式の取得及び処分又
1030 は株式失効の手続についても取締役又は執行役の義務違反は認められません。
1031
1032
1033 平成16年5月16日
1034 株式会社Y銀行
1035 監査委員
1036 監査委員
1037 監査委員
1038 (注)
1039
1040 監査委員会
1041
1042
1043
1044
1045
1046
1047
1048 監査委員H及びIは,
1049 株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律第
1050 21条の8第4項ただし書に規定する社外取締役であります。
1051
1052
1053
1054
1055 8
1056
1057
1058
1059 資料2
1060
1061 営業報告書(抜粋)
1062
1063 (9) 監査委員会の職務遂行のために必要な事項
1064 監査委員会の職務の遂行に関する取締役会決議の概要
1065 @
1066
1067 監査委員会の職務を補助すべき使用人に関する事項
1068 監査委員会の職務を補助する組織を内部監査部とし,
1069 その事務責任者として部長を
1070 置く。
1071
1072
1073
1074 A
1075
1076 前号の使用人の執行役からの独立性の確保に関する事項
1077 人事異動,
1078 組織変更等の最終決定は監査委員会の承認を得なければならないことと
1079 する。
1080
1081
1082
1083 B
1084
1085 執行役及び使用人が監査委員会に報告すべき事項その他監査委員会に対する報告に
1086 関する事項
1087 後記の事項を監査委員会に報告することとする。
1088
1089
1090
1091
1092 会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実
1093
1094
1095
1096 取締役・執行役の職務遂行に関して不正行為,
1097 法令・定款に違反する重大な事実
1098 が発生する可能性若しくは発生した場合は,
1099 その事実
1100
1101
1102
1103 役職員からの内部告発を受けた場合は,
1104 その事実
1105
1106
1107
1108 重要な月次報告
1109
1110
1111
1112 重要会議の開催予定
1113
1114 C
1115
1116 執行役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する事項
1117 重要情報の保存及び管理は規定に従って集中管理を行い,
1118 取締役は常時閲覧可能と
1119 する。
1120
1121
1122
1123 D
1124
1125 損失の危険の管理に関する規程その他の体制に関する事項
1126 信用リスク,
1127 市場リスク,
1128 流動性リスク,
1129 オペレーショナル・リスク,
1130 システム・
1131 リスクのそれぞれについて管理委員会を設けるとともに,
1132 全体を統括するために,
1133
1134 スク管理委員会を設置する。
1135
1136
1137
1138 E
1139
1140 執行役の職務の執行が法令及び定款に適合し,
1141 かつ効率的に行われることを確保す
1142 るための体制に関するその他の事項
1143 妥当な意思決定の確保と運用及びそれらの監視を行うシステムを構築する。
1144
1145 具体的
1146 には,
1147 後記の事項を行う。
1148
1149
1150
1151
1152 内部監査部による内部統制の有効性の検証
1153
1154
1155
1156 頭取の直轄する組織として,
1157 副頭取を委員長とするコンプライアンス委員会を設
1158 置し,
1159 コンプライアンス体制につき定期的なモニタリングを行う。
1160
1161
1162
1163
1164
1165 副頭取を窓口とする内部告発制度を設け,
1166 不祥事件の早期発見に努める。
1167
1168
1169
1170 9
1171
1172 〔第2問〕(配点:100)
1173 以下の○○地方裁判所平成17年(ワ)第○○○号求償金請求事件(以下「本件訴訟」という。
1174
1175 )に
1176 おける事案の概要並びに原告,
1177 被告及び補助参加申立人の各陳述書(いずれも書証として提出され
1178 ているものとする。
1179
1180 )の概要を読んだ上,
1181 以下の問1及び問2に答えなさい。
1182
1183
1184 【事案の概要】
1185 ○○地方裁判所平成17年(ワ)第○○○号求償金請求事件
1186 訴状,
1187 答弁書等の準備書面は,
1188 口頭弁論又は弁論準備手続期日において,
1189 いずれも陳述されてお
1190 り,
1191 請求の趣旨及び主張等の概要は,
1192 以下のとおりである。
1193
1194
1195 第1
1196
1197
1198 請求の趣旨
1199 被告は,
1200 原告に対し,
1201 549万2,
1202 951円及びこれに対する平成16年6月26日から年
1203 5%の割合による金員を支払え。
1204
1205
1206
1207
1208
1209 訴訟費用は被告の負担とする。
1210
1211
1212
1213
1214
1215 仮執行宣言
1216
1217 第2
1218
1219
1220 原告(X)の主張の概要
1221 Z株式会社(以下「Z社」という。
1222
1223 )は,
1224 平成15年9月25日,
1225 A株式会社(以下「A社」
1226 という。
1227
1228 )に対し,
1229 利息年10%,
1230 遅延損害金14.6%,
1231 弁済期を平成16年3月25日,
1232
1233 社が手形交換所の取引停止処分を受けた時は,
1234 A社は当然に期限の利益を失い,
1235 直ちに債務全
1236 額を返済するものとする旨を定めて,
1237 500万円を貸し付けた(以下「本件貸付け」という。
1238
1239 )。
1240
1241
1242
1243
1244
1245 原告と被告とは,
1246 同年8月27日,
1247 A社から,
1248 本件貸付けについてA社のために連帯保証す
1249 ることを依頼され,
1250 同年9月25日,
1251 それぞれZ社との間で,
1252 本件貸付けの返還債務について
1253 連帯保証契約を締結した。
1254
1255 また,
1256 その際,
1257 原告と被告とは,
1258 両者が連帯して保証債務を負担す
1259 る旨及び両者間では原告の負担部分はない旨を合意した。
1260
1261
1262
1263
1264
1265 A社が平成15年12月22日に取引停止処分を受けて事実上倒産し,
1266 本件貸付けの返済を
1267 しなかったので,
1268 Z社は,
1269 原告に対し,
1270 保証債務の履行を求め,
1271 原告は,
1272 平成16年6月25
1273 日,
1274 Z社に対し,
1275 保証債務の履行として,
1276 549万2,
1277 951円を支払った。
1278
1279
1280
1281
1282
1283 以上により,
1284 原告は,
1285 被告に対し,
1286 共同連帯保証人間の求償権を有するので,
1287 これに基づい
1288 て,
1289 549万2,
1290 951円及びこれに対する弁済の日の翌日である平成16年6月26日から
1291 年5%の割合による遅延損害金の支払を求める。
1292
1293
1294
1295 第3
1296
1297
1298 被告(Y)の主張の概要
1299 Z社がA社に対して本件貸付けをしたこと,
1300 被告が原告主張の連帯保証契約を締結したこと,
1301
1302 原告と被告とが連帯して保証債務を負担する旨及び原被告間では原告の負担部分がない旨を合
1303 意したこと,
1304 A社が平成15年12月22日に取引停止処分を受けて事実上倒産したことは認
1305 め,
1306 その余の事実は知らない。
1307
1308
1309
1310
1311
1312 本件貸付けにかかる債務は,
1313 平成16年1月31日,
1314 A社の代表取締役社長Pの妻の実父R
1315 が全額弁済したものであり,
1316 被告には,
1317 原告の求償に応じる義務はない。
1318
1319
1320
1321 第4
1322
1323
1324 Z社の補助参加の申出の概要
1325 参加の趣旨
1326 申立人は,
1327 原告・被告間の○○地方裁判所平成17年(ワ)第○○○号求償金請求事件につき,
1328
1329 原告を補助するため,
1330 当該訴訟に参加することを申し立てる。
1331
1332
1333
1334
1335
1336 参加の理由
1337 前記事件において原告が敗訴すれば,
1338 申立人は,
1339 原告から前記事件を前提とした訴訟を提起
1340 されるおそれがあるので,
1341 前記事件の結果について利害関係がある。
1342
1343
1344 (事案の概要は以上である。
1345
1346
1347
1348 10
1349
1350 【Xの陳述書の概要】
1351 1.私は,
1352 昭和46年3月に○○大学を卒業し,
1353 同年4月に○○県内で最大手の総合建設業を営
1354 むZ株式会社(以下「Z社」という。
1355
1356 )に入社し,
1357 平成11年に取締役になりました。
1358
1359 その後,
1360
1361 今回のことがあってZ社に居づらくなっていたところへ,
1362 株式会社B建設(以下「B社」とい
1363 う。
1364
1365 )から声をかけてもらい,
1366 平成16年の秋にB社の専務取締役に迎えられて,
1367 現在に至って
1368 います。
1369
1370
1371 2.A株式会社(以下「A社」という。
1372
1373 )は,
1374 鉄筋加工組立業を営む株式会社です。
1375
1376 20年くらい
1377 前から,
1378 Z社の下請として仕事をしてもらっています。
1379
1380 従業員もそれなりに雇っていますが,
1381
1382 実際上は,
1383 代表取締役社長のP(以下「P社長」という。
1384
1385 )が実質的に一人で経営している会社
1386 です。
1387
1388
1389 私とP社長とは,
1390 仕事上自然と付き合いができ,
1391 やがて,
1392 同じ高等学校の同窓生ということ
1393 が分かって,
1394 親しく交際するようになりました。
1395
1396
1397 Yは,
1398 型枠業者であり,
1399 P社長のいとこだと聞いています。
1400
1401 A社の紹介で,
1402 A社より2年く
1403 らい後から,
1404 Z社の下請をするようになりました。
1405
1406
1407 3.平成15年8月ころ,
1408 P社長は,
1409 私に対し,
1410 鉄筋を加工する機械の購入資金が必要になった
1411 が,
1412 銀行融資の手続が間に合わないので,
1413 Z社から融資を受けられるよう,
1414 口を利いてくれな
1415 いかと頼んできました。
1416
1417
1418 当時,
1419 A社は,
1420 Z社の鉄筋工事の半分近くを受注するという下請業者の主力であり,
1421 工期を
1422 守ってもらうために必要な機械だと思われましたので,
1423 私は,
1424 Z社の役員会に諮ることにした
1425 のです。
1426
1427
1428 同年9月9日に開かれた役員会では,
1429 ほかの下請業者が同じようなことを言い出すと困ると
1430 いう意見があり,
1431 また,
1432 A社の経営状態に対する疑問が指摘されました。
1433
1434 しかし,
1435 A社が主力
1436 の下請業者であり,
1437 その当時発注している鉄筋工事に遅れが出ては困るという意見が強く,
1438
1439 社代表者P社長個人とA社側の身元の確かな人とを連帯保証人とした上,
1440 この話を持ち込んだ
1441 私も連帯保証をすることを条件に,
1442 融資に応じることが決まりました。
1443
1444
1445 同月10日以降,
1446 Z社経理部の担当者からP社長に対して,
1447 前記役員会で決まった条件が伝
1448 えられ,
1449 P社長とYが連帯保証をすることになりました。
1450
1451 私は,
1452 その連絡を受けましたので,
1453
1454 経理部の担当者を通じて,
1455 私もP社長及びYと連帯してA社の連帯保証人になるが,
1456 万一私が
1457 保証債務を履行するようなことがあった場合には,
1458 A社側,
1459 すなわちA社かP社長又はYから,
1460
1461 私が保証債務の履行としてZ社に弁済した金額全額に法定利息を付けて返してもらいたい旨P
1462 社長とYとにそれぞれ伝え,
1463 P社長からもYからも了解が得られました。
1464
1465
1466 4.平成15年9月25日の昼前に,
1467 P社長とYとがZ社に来社しましたので,
1468 応接室で500
1469 万円の貸付けに関する書類を作成しました。
1470
1471
1472 私も,
1473 応接室に入り,
1474 P社長やYとあいさつをし,
1475 前記のとおり,
1476 経理部担当者からあらか
1477 じめ伝えておいた求償関係を確認したところ,
1478 P社長もYも,
1479 私には迷惑をかけるようなこと
1480 はしないと約束してくれました。
1481
1482
1483 P社長は,
1484 その日の午後,
1485 Z社の経理部で,
1486 500万円の小切手を受け取って帰ったはずで
1487 す。
1488
1489
1490 5.ところが,
1491 A社は,
1492 その年の暮れ(平成15年12月下旬)に,
1493 突然不渡りを出して取引停
1494 止処分を受け,
1495 事実上倒産し,
1496 P社長は所在をくらましてしまったのです。
1497
1498
1499 6.Z社は,
1500 しばらくP社長の行方を捜していましたが,
1501 発見に至らなかったことから,
1502 平成1
1503 6年2月に入ってから,
1504 Yに保証債務の履行を求めました。
1505
1506 しかし,
1507 Yが,
1508 約束に違反して,
1509
1510 支払義務はないと主張して,
1511 履行に応じなかったことから,
1512 Z社は,
1513 私に保証債務の履行を求
1514 めました。
1515
1516
1517 私は,
1518 Z社が貸した500万円を回収できなくなったこと,
1519 特に,
1520 500万円の融資の可否
1521
1522 11
1523
1524 の判断について,
1525 私が役員会で積極的な意見を述べたこと,
1526 その意見に私情が入り込んだため
1527 にZ社に迷惑を掛けたのではないかと思い,
1528 非常に責任を感じました。
1529
1530 ほかの役員も,
1531 私を非
1532 難するような雰囲気でした。
1533
1534
1535 そのような状態の中で,
1536 B社から移籍の勧誘を受けたこともあって,
1537 私は,
1538 A社への融資に
1539 対する責任を取って退職し,
1540 退職金で私の保証債務を履行することにしたのです。
1541
1542
1543 以上のような経緯で,
1544 私は,
1545 平成16年5月末日をもってZ社を退職し,
1546 同年6月25日,
1547
1548 同日支給された退職金の中からZ社のA社に対する500万円の貸金並びにこれに対する利息
1549 及び遅延損害金合計549万2,
1550 951円をZ社に弁済しました。
1551
1552
1553 7.平成16年7月上旬,
1554 私は,
1555 Yに対して,
1556 私が弁済した549万2,
1557 951円を払ってくれ
1558 るよう請求したところ,
1559 Yは,
1560 P社長の奥さんの実父Rが弁済したはずだと主張して,
1561 支払を
1562 拒否しました。
1563
1564
1565 8.今回の件では,
1566 Z社内で随分嫌な思いもしましたが,
1567 Z社には,
1568 私の父も定年まで働いてい
1569 ましたので,
1570 今もそれなりに愛着もあり,
1571 複雑な気持ちです。
1572
1573
1574 しかし,
1575 信じたくないことですが,
1576 万一,
1577 既にA社への貸金が返済されていたにもかかわら
1578 ず,
1579 Z社の債権管理のミスで私が支払わされたことが本当だとすれば,
1580 私が,
1581 嫌な思いをした
1582 り,
1583 責任を感じて退職することはなかったようにも思われます。
1584
1585
1586 ですから,
1587 今すぐにどうこうということではありませんが,
1588 万一Yの言い分が認められるよ
1589 うなことがあれば,
1590 私がZ社に貸している土地の賃貸借関係について考え直すことになるかも
1591 知れません。
1592
1593
1594 私が貸している土地というのは,
1595 私の父が,
1596 Z社に対し,
1597 重機や資材の置き場所として賃貸
1598 していた土地のことです。
1599
1600 私がその土地を相続し,
1601 現在は,
1602 私がZ社に対してその土地を賃貸
1603 しています。
1604
1605 この土地の賃貸借契約については,
1606 私がZ社の取締役に就任した時に,
1607 Z社の顧
1608 問弁護士に相談して所定の手続を採っており,
1609 何ら法律上の問題はありません。
1610
1611
1612 (Xの陳述書の概要は以上である。
1613
1614
1615 【Yの陳述書の概要】
1616 1.私は,
1617 型枠大工数名を使って,
1618 住所地で,
1619 型枠業を営んでます。
1620
1621 昭和62年ころから,
1622 Z株
1623 式会社(以下「Z社」という。
1624
1625 )の下請をしており,
1626 現在では,
1627 仕事の大半をZ社からもらって
1628 います。
1629
1630
1631 鉄筋加工組立業のA株式会社(以下「A社」という。
1632
1633 )の代表取締役社長のP(以下「P社長」
1634 という。
1635
1636 )は,
1637 私のいとこです。
1638
1639
1640 2.Xが主張しているZ社のA社に対する500万円の貸付けの契約内容やXY間の連帯及び負
1641 担部分に関する合意の事実は間違いありません。
1642
1643 しかし,
1644 A社がZ社に弁済しなかったため,
1645
1646 Z社から請求を受けてXが弁済したというXの主張は,
1647 何かの間違いだと思います。
1648
1649
1650 といいますのは,
1651 平成15年の年末にP社長の所在が不明になったので,
1652 私は,
1653 P社長の奥
1654 さんからいろいろ相談を受け,
1655 その機会に私がした保証のことも尋ねたことがありました。
1656
1657
1658 P社長の奥さんは,
1659 A社がZ社から借りていた500万円は,
1660 奥さんの実父Rが平成16年
1661 1月31日に払ってくれたので,
1662 私やXには迷惑は掛からないようになっているはずだ,
1663 と言
1664 っていたのです。
1665
1666
1667 ですから,
1668 Z社がA社に貸した500万円についてのXの保証債務も履行する必要はなくな
1669 ったはずなのです。
1670
1671
1672 3.Xは,
1673 会社を辞めて,
1674 払わなくてよいはずのA社の借金の後始末をさせられたということで,
1675
1676 気の毒ではあります。
1677
1678 しかし,
1679 それはZ社の債権管理のミスが原因で,
1680 Xは,
1681 Z社の役員だっ
1682 たのですから,
1683 その責任を負うべきであって,
1684 私に求償するのは筋違いだと思います。
1685
1686
1687 (Yの陳述書の概要は以上である。
1688
1689
1690
1691 12
1692
1693 【Z社代表取締役Qの陳述書の概要】
1694 1.当社とA株式会社(以下「A社」という。
1695
1696 )及びXとの関係は,
1697 Xの陳述書の概要1項から3
1698 項に記載されているとおりです。
1699
1700
1701 2.本件訴訟において,
1702 Yは,
1703 本件貸付けは,
1704 A社の代表取締役社長Pの奥さんの実父Rにより
1705 弁済されていると主張しています。
1706
1707
1708 しかし,
1709 当社は,
1710 県内最大手の総合建設業会社であり,
1711 これまでの当社の歴史において,
1712
1713 としてはもちろん,
1714 社員も,
1715 世間から後ろ指を指されるようなことをしたことはありません。
1716
1717
1718 もちろん債権管理等も厳重に行っており,
1719 二重に支払を受けるようなことは,
1720 当社のシステム
1721 上有り得ないのです。
1722
1723
1724 3.A社もYも,
1725 昭和の終わりころから,
1726 長年下請として仕事を発注してきた業者であり,
1727 共存
1728 共栄を願って,
1729 良好な提携関係にあったはずであるにもかかわらず,
1730 今回,
1731 当社が二重に債権
1732 の弁済を受けたと言われることは,
1733 非常に心外です。
1734
1735
1736 4.確かに,
1737 A社代表取締役社長Pの奥さんの実父Rから500万円の支払を受けたことはあり
1738 ます。
1739
1740 しかし,
1741 それは,
1742 今回問題になっている貸金の約半年前の平成15年3月ころ,
1743 当社が
1744 A社に貸した運転資金450万円の元金及び利息の弁済として,
1745 一部の利息を免除した上で受
1746 領したものなのです。
1747
1748 Yは,
1749 そのことを誤解しているものと思います。
1750
1751
1752 5.Yの言い分は,
1753 当社の名誉にもかかわることですし,
1754 また,
1755 Xから当社が借りている重機・
1756 資材置場が使用できなくなると困ります。
1757
1758 是非訴訟に参加することを認めていただきたいと思
1759 います。
1760
1761
1762 (Qの陳述書の概要は以上である。
1763
1764
1765 〈問1〉
1766
1767 Zの補助参加の申出に対し,
1768 受訴裁判所からZに対して,
1769 参加の理由の詳細を明らかに
1770
1771 するよう釈明があったとする。
1772
1773 Zの訴訟代理人弁護士(Z及びXから,
1774 前記事案及び陳述書の概
1775 要を聴取しているものとする。
1776
1777 )の立場に立って,
1778 Zが本件訴訟の結果とどのような利害関係を持
1779 つのかを分析し,
1780 補助参加の利益についての判断基準を示した上,
1781 補助参加の利益を基礎付ける
1782 理由を本件訴訟の事案に即して説明しなさい。
1783
1784
1785 〈問2〉
1786
1787 Zの補助参加の申出に対し,
1788 Yの訴訟代理人弁護士が異議を申し立てる場合,
1789 以下の裁
1790
1791 判例(抜粋)を論拠としてどのような主張が可能か,
1792 本件訴訟の事案に即して説明しなさい(説
1793 明に当たっては,
1794 以下の裁判例(抜粋)が補助参加の利益についてどのような判断基準を採って
1795 いるかを,
1796 裁判例の事案に即して検討すること。
1797
1798 )。
1799
1800
1801 【裁判例(抜粋)】
1802 本件訴訟は,
1803 本件土地について甲から丙,
1804 乙へと順次経由された各所有権移転登記を巡
1805 り甲が自己の所有権及び前記各登記の原因たる所有権移転行為の不存在若しくは無効を主
1806 張して,
1807 これらの者に対し前記各登記の抹消を訴求したものであるところ,
1808 当裁判所にお
1809 いて,
1810 甲と丙との間に,
1811 丙は,
1812 甲の本件土地所有権を認め,
1813 甲から丙への所有権移転登記
1814 の抹消登記手続をなすべき旨の内容の裁判上の和解が成立し,
1815 甲と乙との間にのみ訴訟が
1816 残存するに至ったものである。
1817
1818 したがって,
1819 現在の権利関係の公示を目的とする我が不動
1820 産登記法の下においては,
1821 現在の所有登記名義人である乙との間の本訴において甲が勝訴
1822 し,
1823 乙の所有権移転登記が抹消されない限り,
1824 これに先行する丙の所有権移転登記を抹消
1825 することができず前記和解契約により甲及び丙が所期した目的が達せられないことは丙の
1826 主張するとおりである。
1827
1828 しかし,
1829 前記和解契約により確定された甲の丙に対する所有権移
1830
1831 13
1832
1833 転登記の抹消登記請求権及びこれに対応する丙の抹消登記義務は,
1834 本件訴訟の訴訟物であ
1835 る甲の乙に対する所有権移転登記抹消登記請求権の存否により決せられるべき関係にある
1836 ものではない。
1837
1838 問題は,
1839 甲が本件訴訟に敗訴し乙に対する前記抹消登記請求権が否定され
1840 た場合,
1841 これに起因して丙が甲に対する関係において前記和解契約上何らかの不利益を受
1842 ける立場にあるかどうかである。
1843
1844 この点について丙は,
1845 もし甲が本訴で敗訴すれば,
1846 丙の
1847 抹消登記義務の履行が不能となり,
1848 甲から損害賠償の請求を受けるおそれがあると主張す
1849 るが,
1850 甲敗訴の結果,
1851 本件土地について乙の所有権移転登記の抹消ができず,
1852 ひいて丙の
1853 抹消登記が実現できないとしても,
1854 前記和解契約において乙の抹消登記の承諾を得ること
1855 につき丙の責任を定めた条項は存しないのであるから,
1856 これをもって丙の責に帰すべき履
1857 行不能として甲に対し損害賠償の責任を負うべきいわれはない。
1858
1859 また,
1860 前記和解契約にお
1861 いては,
1862 丙が甲に対し片務的に抹消登記をなすべき義務を定めたものであり,
1863 これと対価
1864 的関係に立つ権利の設定については何らの定めもないのであるから,
1865 丙の前記抹消登記義
1866 務の実現が妨げられることによって丙が本来得べかりし権利ないし利益を失うという関係
1867 も存しない。
1868
1869
1870 このようにみてくると,
1871 丙は甲と乙間の本件訴訟の結果につき法律上の利害関係を有す
1872 る第三者とは認め難く,
1873 補助参加の要件を具備しないものといわなければならない。
1874
1875
1876
1877 14
1878
1879